説明

SREBP1抑制剤

【課題】脂漏性脱毛症等の皮脂脂質異常を伴う頭皮トラブルの予防又は改善のための医薬品又は食品等として有用なSREBP1抑制剤の提供。
【解決手段】リン脂質を有効成分とするSREBP1抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SREBP1(Sterol regulatory element-biding protein 1)抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
SREBPは、コレステロールや脂肪酸の合成を調節する転写因子として知られており、不活性な前駆体型として小胞体膜に結合している。ステロールの枯渇などの特定の条件下になると、SREBPは特異的なプロテアーゼによって切断され、活性な核移行ドメインが遊離されてSRE(Sterol responsive element)に結合することができ、標的遺伝子の発現を活性化する(非特許文献1)。
【0003】
SREBPには、SREBP1及びSREBP2と呼ばれる2種のアイソフォームが同定されている。このうちSREBP1は、SREBP1a及びSREBP1cという2種のアイソフォームからなる。SREBP1a及びSREBP1cは、異なった転写開始点によるスプライシングバリアントであり、これらは同一の遺伝子(Srebf1)からなる(非特許文献2)。これら3つのアイソフォームは、それぞれ違った生体機能を有しており、SREBP1a、SREBP2は特にコレステロール生合成を活性化するのに対し、SREBP1cは主に脂肪酸生合成に必要な遺伝子の転写を高めることが知られている(非特許文献3)。このうちSREBP1cはヒト頭皮における皮脂腺細胞(sebaceous cell)に発現していることが明らかにされ(非特許文献4)、頭皮皮脂腺の分化や脂質合成において重要な役割を担っていることが明らかとなった。
【0004】
また、最近の研究では、男性ホルモンによる皮脂腺細胞の活性化は、SREBP1の発現亢進や、SREBP1に依存的な脂肪酸及びコレステロール合成に関わる酵素の発現亢進を起こすので、それにより過剰に分泌された皮脂が髪の成長の妨げや炎症を引き起こすことも示されている(非特許文献5)。
これらのことから、SREBP1の抑制は、男性ホルモンによる皮脂腺の過剰な脂質産生の抑制を介して、脂漏性脱毛症などの頭皮トラブルの予防あるいは改善に有効であると考えられる。
【0005】
ところで、魚油などの高度不飽和脂肪酸を含有する油脂についてSREBP1発現抑制作用が報告されているものの(非特許文献6)、これらは酸化されやすく、酸化による異臭の発生や風味の悪化などの問題が生じ易い。
一方、リン脂質は、血中コレステロールの低下作用(特許文献1)、抗アレルギー作用(特許文献2)等があることが報告されている。
しかしながら、リン脂質とSREBP1の発現との関係については全く知られてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−18591号公報
【特許文献2】特開2004−285006号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hua, X., J Biol Chem., 271; 10379-84 (1996)
【非特許文献2】Shimomura, I., J Clin Invest., 99; 838-45 (1997)
【非特許文献3】Horton, J. D., J Clin Invest., 109; 1125-31 (2002)
【非特許文献4】Harrison, W. J., J Invest Dermal.,127;1309-17 (2007)
【非特許文献5】Rosignoli, C., Exp Dermatol., 12; 480-489 (2003)
【非特許文献6】Sekiya, M., Hepatology., 38; 1529-39 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性に優れ、脂漏性脱毛症等の皮脂脂質異常を伴う頭皮トラブルの予防又は改善のための医薬品又は食品等の有効成分として有用なSREBP1抑制剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々の物質について検討した結果、天然成分に含まれるリン脂質にSREBP1の発現を抑制する効果があることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)に係るものである。
(1) リン脂質を有効成分とするSREBP1抑制剤。
(2) リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルイノシトールから選ばれる1種以上である上記記載のSREBP1抑制剤。
(3) リン脂質を有効成分とする脂漏性脱毛症の予防又は改善剤。
(4) リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルイノシトールから選ばれる1種以上である上記記載の脂漏性脱毛症の予防又は改善剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のSREBP1抑制剤は、優れたSREBP1抑制作用を有し、かつ安全性も高いので、脂漏性脱毛症等の皮脂脂質異常を伴う頭皮トラブルの予防又は改善するための医薬品又は食品等の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】リン脂質摂取によるSREBP1遺伝子の発現変化を示すグラフ。
【図2】各リン脂質成分摂取によるSREBP1遺伝子の発現変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリン脂質としては、グリセロリン脂質及び当該リン脂質のリゾ体が好ましい。
前記グリセロリン脂質は、グリセリン骨格のC−1、2位に脂肪酸がエステル結合しているものが好ましく、また、リゾグリセロリン脂質は、このC2位の脂肪酸が外れたものを云う。
【0014】
前記グリセロリン脂質としては、例えば、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール及びホスファチジン酸等が挙げられ、これらは天然成分に多く存在するので安全性も高い。このうち、SREBP1抑制作用の点から、ホスファチジルエタノールアミン及び/又はホスファチジルイノシトール;並びにこれらとホスファチジルコリン、ホスファチジン酸等の他のグリセロリン脂質との混合物を用いるのが好ましく、ホスファチジルエタノールアミン及び/又はホスファチジルイノシトールがより好ましい。
【0015】
本発明においては、前記リン脂質の単体を単独で、又はこれを2種以上混合し、混合リン脂質として使用することができるが、混合リン脂質としては、当該リン脂質を含む動植物、例えば、大豆、米、とうもろこし、菜種、綿実、小麦、落花生、ひまし、ヒマワリ、大麦、エンバク、紅花、ゴマ等の植物;卵黄、乳、魚介類等の動物の組織を原料(由来)としてこれから得られる抽出レシチンを用いることができ、当該抽出レシチンは天然成分由来なので安全性も高い。好適には、大豆油を製造する工程で発生する粗レシチンを、アセトン、エタノール等で処理した不溶画分を抽出レシチンとして用いることができる。また、粗レシチン又は抽出レシチンから精製した精製レシチンを使用することもできる。また、抽出レシチンとして、SLP−ホワイト(大豆由来リン脂質;辻製油)等の市販品を用いることもできる。
ここで、「レシチン」とは、広義の意味であり、動植物由来のリン脂質を含む脂質製品を云う。なお、レシチン中の全リン脂質の含有量は、レシチン全量中、20質量%以上、より50質量%以上であるのが好ましい。
【0016】
尚、前記グリセリン骨格にエステル結合する脂肪酸としては、特に限定されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸の何れでもよいが、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、α−リノレン酸、及びドコサヘキサエン酸等の単一脂肪酸のなかから選ばれる1種又は2種のもの、又は大豆油脂肪酸、菜種油脂肪酸、とうもろこし油脂肪酸等の動植物由来の混合脂肪酸が挙げられる。具体的には、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、α−リノレン酸及び大豆油脂肪酸が好ましい。
また、本発明のリン脂質中の脂肪酸組成は、パルミチン酸5〜30質量%:オレイン酸5〜30質量%:リノール酸20〜80質量%が好ましい。
【0017】
前記リン脂質を単体で用いる場合は、上述の如き動植物等の組織からの抽出・単離、又は化学合成により得ることが可能である。例えば、ホスファジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン又はホスファジルイノシトールは、大豆より得られる粗大豆レシチンから定法に従って抽出・精製することにより得ることができる。例えば、大豆油の製造の際に生成する粗大豆レシチンを溶媒分画(固液抽出法)、イオン交換クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等により分離精製することによって得ることができる。また、ホスファチジルエタノールアミン又はホスファジルイノシトールは、酵素を用いた塩基交換法によってホスファチジルコリンから合成して得ることもできる。
【0018】
また、本発明のリゾリン脂質としては、上述のリン脂質からホスホリパーゼA2等の酵素処理により生産したものを用いることができ、又はSLP−ホワイトリゾ(大豆由来リゾリン脂質;辻製油)等の市販品を用いることもできる。
【0019】
後記実施例に示すように、本発明のリン脂質は、SREBP1遺伝子の発現抑制作用を有することから、SREBP1の転写因子の産生又は活性を抑制できるSREBP1抑制剤として使用することができ、また、SREBP1抑制剤を製造するために使用することができる。このとき、当該SREBP1抑制剤では、当該リン脂質を単独で、又はこれ以外に、必要に応じて適宜選択した担体等の、配合すべき後述の対象物において許容されるものを使用してもよい。なお、当該製剤は配合すべき対象物に応じて常法により製造することができる。
更に、SREBP1遺伝子の発現が抑制できれば、男性ホルモンによるSREBP1遺伝子の発現誘導を介した頭皮皮脂腺からの過剰な脂質産生を抑制できると考えられ、従って、SREBP1抑制剤は、脂漏性脱毛症等の皮脂脂質異常を伴う頭皮トラブルの予防又は改善のための、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品又は食品等の有効成分として配合して使用可能である。
ここで、「皮脂脂質異常を伴う頭皮トラブル」とは皮脂細胞における脂質の過剰産生による髪の成長の妨げや炎症を引き起こすことを云い、症状としては、例えば、脂漏性脱毛症、ふけの発生、カユミ等が挙げられる。
また、SREBP1抑制剤は、脂漏性脱毛症等の皮脂脂質異常を伴う頭皮トラブルの予防、改善又は治療をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品若しくは特定保健用食品等の機能性食品の有効成分として使用することができる。
【0020】
本発明のSREBP1抑制剤を医薬品の有効成分として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、腸溶剤、トローチ剤、ドリンク剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。
また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、本発明のリン脂質を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤(ソルビトール、グルコース、乳糖、デキストリン、澱粉等の糖類、炭酸カルシウム等の無機物、結晶セルロース、蒸留水、ゴマ油、とうもろこし油、オリーブ油、菜種油等)、結合剤、滑沢剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口投与用製剤の有効成分として用いる場合の該製剤中の本発明のリン脂質の含有量は、一般的に0.01〜95質量%とするのが好ましく、10〜80質量%とするのがより好ましい。
【0021】
本発明のSREBP1抑制剤を食品の有効成分として用いる場合の形態としては、例えば、パン、麺類等に代表される小麦粉加工食品、お粥、炊き込みご飯等の米加工食品、ビスケット、ケーキ、ゼリー、チョコレート、せんべい、アイスクリーム等の菓子類、豆腐、その加工食品等の大豆加工食品、清涼飲料、果汁飲料、乳飲料、炭酸飲料等の飲料類、ヨーグルト、チーズ、バター、牛乳等の乳製品、醤油、ソース、味噌、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、ハム、ベーコン、ソーセージ等の蓄肉、蓄肉加工食品、はんぺん、ちくわ、魚の缶詰等の水産加工食品、調理油ならびにフライ用油等が挙げられる。また、この他、当該製剤を配合して、カプセル等の錠剤食、濃厚流動食、自然流動食、半消化態栄養食、成分栄養食、ドリンク栄養食等の経口経腸栄養食品、機能性食品等の形態とすることもできる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明のリン脂質を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中の本発明のリン脂質の含有量は、一般的に0.01〜20質量%とするのが好ましく、0.1〜10質量%とするのがより好ましい。
【0022】
本発明のSREBP1抑制剤を医薬品又は食品の有効成分として使用する場合、成人(60kg)1人当たりの1日の投与又は摂取量は、本発明のリン脂質として、例えば50〜5000mgとするのが好ましく、更に100〜3000mg、特に500〜2000mgとするのが好ましい。また、当該製剤は、1日1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0023】
本発明のSREBP1抑制剤を外用医薬品又は医薬部外品の有効成分として使用する場合には、これらを皮膚外用剤、洗浄剤、入浴剤等とすることができ、使用方法に応じて、美容液、化粧水、マッサージ剤、ローション、乳液、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末剤、パック、パップ剤、顆粒剤、シャンプー、コンディショナー、ヘアトニック、錠剤、カプセル、吸収性物品、シート状製品等の種々の剤型で提供することができる。このような種々の剤型の外用医薬品又は医薬部外品は、本発明のSREBP1抑制剤を、単独で、又は外用医薬品、医薬部外品若しくは皮膚外用剤に配合される、油又は油状物質(油脂類、ロウ類、高級脂肪酸類、精油類、シリコーン油類等)、保湿剤(グリセロール、ソルビトール、ゼラチン、ポリエチレングリコール等)、粉体(チョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム等)、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬効成分、香料、樹脂、防菌防黴剤、他の植物抽出物(生薬、漢方薬、ハーブ類)、アルコール類、多価アルコール類、無機酸(重炭酸塩、炭酸塩、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等)、有機酸(コハク酸、グルタル酸、フマル酸、グルタミン酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸等)、ビタミン類(ビタミンA類、ビタミンE類、ビタミンB類、ビタミンC、葉酸等)、水溶性高分子、アニオン性界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等)、カチオン性界面活性剤(アルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等)、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等)、両性界面活性剤(アルキル基を有するイミダゾリン系、カルボベタイン系等)等を組み合わせることにより調製することができる。
当該外用医薬品、医薬部外品の全量中の、本発明のリン脂質は、乾燥物換算で、通常0.01〜95質量%であり、0.1〜90質量%が好ましく、1〜80質量%がより好ましい。
【0024】
また、本発明のSREBP1抑制剤を、飼料の有効成分として使用する場合には、例えば牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
尚、飼料を製造する場合には、本発明のSREBP1抑制剤を単独で、又はその他に、牛、豚、羊等の肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類等一般に用いられる飼料原料、更に一般的に飼料に使用されるゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等を組み合わせて用いることができる。
また、飼料中の、本発明のリン脂質の含有量は、その使用形態により異なるが、乾燥物換算で、通常0.01〜95質量%であり、0.1〜90質量%が好ましく、1〜80質量%がより好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例及び試験例を挙げるが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
製造例1
実施例1に使用した大豆由来リン脂質は、辻製油より購入した「SLP−ホワイト」を使用した。
実施例1に用いた「SLP−ホワイト」は、TLC分析法に基づき、リン脂質組成として、ホスファチジルコリン 21.2%、ホスファチジルエタノールアミン 16.4%、ホスファチジルイノシトール 11.5%、ホスファチジン酸 2.7%、その他 48.2%を含有しており、脂肪酸組成として、C16:0(パルミチン酸) 19.1%、C18:1(オレイン酸) 10.4%、C18:2(リノール酸) 58.5%を含有していた。
また、実施例2に使用したホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルイノシトールはSIGMAより購入した大豆由来精製リン脂質を使用した。
【0027】
実施例1 大豆由来リン脂質のSREBP1発現抑制作用
実験動物は、日本SLCより購入した雄性Wistarラット(6週齢)を市販固形飼料で1週間予備飼育した後、平均体重が等しくなるように、2群(1群当り6匹)に分け実験に用いた。
【0028】
対照群には、100gあたり、5gコーン油、60gフルクトース、20gカゼイン、7.5gセルロールパウダー、3.5gミネラル混合、1gビタミン混合、3gポテトスターチを含有する餌を与えて飼育した。試験群には、上記の餌から、3gのポテトスターチを大豆由来リン脂質に置き換えた餌を与え、2ヶ月間飼育した。
尚、コーン油の脂肪酸組成は、リノール酸54%、オレイン酸32%、パルミチン酸12%であった。
試験期間中の試験食及び水は自由摂取させた。試験期間中の試験食、水の摂取量に群間差は認められなかった。
【0029】
2ヶ月の飼育後、ラットをエーテル麻酔下で開腹し、腹部大静脈から採血した後、肝臓を摘出した。摘出した肝臓の一部よりRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを抽出した。抽出したtotal RNA125ngを用いて、定法に従い、逆転写反応を行った。合成されたcDNAの一部(total RNA 6.25ng相当)に対しABI PRISM7500 Seaquence Detectoin System(アプライドバイオジャパン)を用いて、SYBR Green リアルタイムPCR解析法により、SREBP1の遺伝子発現の評価に用いた。また、遺伝子発現量はハウスキーピング遺伝子の一つであるAcidic ribosomal phosphoprotein P0(Arbp)の発現量を基準として補正を行い比較した。
各遺伝子のPCR増幅のために用いたプライマーは以下の通りである。
【0030】
【表1】

【0031】
図1に示すように、リン脂質の摂取により肝臓SREBP1の遺伝子発現が有意に減少した。このことから、リン脂質はSREBP1発現抑制に有効であることが分る。
【0032】
実施例2 各リン脂質成分のSREBP1発現抑制作用
ヒト肝癌由来細胞株Hep−G2を6ウェルプレートに播き、10% fetal bovine serum(FBS、ICN Biomedicals)および100units/mL penicillin、100ug/mL streptomycine(Invitrogen)を含むDulbecco’s Modified Eagle’s medium(DMEM、SIGMA)中で1日培養した。培養開始から1日目に培地を10mg/mLのフルクトースを含むDMEM(Cont)、10mg/mLのフルクトースと0.1mg/mLのホスファチジルコリンを含むDMEM(PC)、10mg/mLのフルクトースと0.1mg/mLのホスファチジルエタノールアミンを含むDMEM(PE)、10mg/mLのフルクトースと0.1mg/mLのホスファチジルイノシトールを含むDMEM(PI)に交換した。培養開始2日後に細胞からRNA抽出試薬を用いてtotal RNAを抽出した。実施例1と同様にして、リアルタイムPCR解析法により、SREBP1の発現量を測定した。
SREBP1のPCR増幅のために用いたプライマーは以下の通りである。
【0033】
【表2】

【0034】
SREBP1発現変化をリアルタイムPCRにより解析した結果、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール添加によりSREBP1遺伝子発現を抑制した(図2)。特に、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールの添加により強くSREBP1遺伝子発現が減少した(図2)。
図2に示すように、リン脂質の各種成分の単独処理がSREBP1の発現抑制に有効であり、特に、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールが有効であることが分る。
【0035】
実施例4
「SLP−ホワイト」(辻製油)をゼラチンカプセルに充填し、1錠300mgの軟カプセル剤を得た。
【0036】
実施例5
「SLP−ホワイト」(辻製油) 200mg、精製ホスファチジルエタノールアミン 100mgをゼラチンカプセルに充填し、1錠300mgの軟カプセル剤を得た。
【0037】
実施例6
下記成分を用い、定法に従って1錠300mgの錠剤を製造した。
組成(mg);「SLP−ホワイト」(辻製油) 100、ヒドロキシプロピルセルロース 60、軽質無水ケイ酸 10、乳糖 35、結晶セルロース 35、タルク 30、トリアシルグリセロール 30
【0038】
実施例7
下記成分を用い、定法に従って1錠300mgの錠剤を製造した。
組成(mg);大豆由来の精製ホスファチジルイノシトール 100、デンプン 150、ステアリン酸マグネシウム 10、乳糖 40
【0039】
実施例8
下記成分を用い、定法に従って1錠300mgの錠剤を製造した。
組成(mg);大豆由来の精製ホスファチジルエタノールアミン 50、精製ホスファチジルイノシトール 50、デンプン 150、ステアリン酸マグネシウム 10、乳糖 40
【0040】
実施例9
市販の100gのブラックチョコレートを60℃で1時間保持して溶解した。これに、大豆由来の精製ホスファチジルエタノールアミンを2重量%添加してテンパリングすることによりリン脂質配合チョコレートを得た。
【0041】
実施例10
下記成分を混捏した後、原料を発酵後、ねかし、整形、焙炉の工程を経てリン脂質配合パンを得た。
組成(g);「SLP−ホワイトリゾ」(辻製油) 1.0、強力粉 100、イースト 2、食塩 2、砂糖 3、ショートニング 3、イーストフード 0.15、水 60
【0042】
実施例11
下記成分を混合した原料を80℃に加熱し、均質機を用いて60kg/cm2 で均質し、5℃の冷蔵庫で12時間保持した。5℃で12時間保持した後、ホイップ用攪拌機を用いて400rpmで4分間ホイップし、リン脂質含有ホイップクリームを得た。
組成(g);「SLP−ホワイト」(辻製油) 0.5、水 44.35、融点30℃の植物油脂 30、脱脂乳 25、ショ糖脂肪酸エステル 0.4、モノグリセライド 0.1、リン酸三カリウム 0.15
【0043】
実施例12
下記成分を混合した原料を80℃に加温し、均質機を用いて150kg/cm2 で均質し、250ml容のステンレス製缶に250ml充填した後、巻き締め機で蓋をした。これをレトルト釜で120℃、10分間の殺菌を行い、その後10℃に冷却し、リン脂質含有コーヒーを得た。
組成(g);「SLP−ホワイト」(辻製油) 0.2、水 40、牛乳 8、砂糖 10、インスタントコーヒー粉末 2、モノグリセライド 0.1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質を有効成分とするSREBP1抑制剤。
【請求項2】
リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールから選ばれる1種以上である請求項1記載のSREBP1抑制剤。
【請求項3】
リン脂質を有効成分とする脂漏性脱毛症の予防又は改善剤。
【請求項4】
リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールから選ばれる1種以上である請求項3項記載の脂漏性脱毛症の予防又は改善剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−184347(P2011−184347A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50522(P2010−50522)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】