STI−571に対する耐性に関連するBCR−ABLチロシンキナーゼの変異

【課題】CMLおよび関連する癌におけるSTI-571を投与した患者で観察されるSTI-571耐性に関連する機構、ならびに診断法および治療法の提供。
【解決手段】STI-571に対する耐性に関連する変異体(Mutants Associated with Resistance to STI-571)(例えばT315I Bcr-Abl)と呼ばれる新規の遺伝子、および、これにコードされるタンパク質、また診断法および治療法、ならびにMARSを発現するさまざまな癌の管理に有用な組成物。MARSに結合、および/またはその機能活性を調節する分子を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府による支援に関する記述
本発明は、USPHS National Research Service Award GM07185 (M.E.G.)により、米国政府の支援で作製された。米国政府は、本発明の一定の利益を有する。
【0002】
関連出願
本出願は、第119(e)項の下で、個々の内容が参照として本明細書に組み入れられる、2001年6月14日に出願された米国特許出願第60/298,728号、および2001年11月20日に出願された米国特許出願第60/331,709号の優先権を主張する。
【0003】
発明の分野
本明細書に記載された発明は、新規の遺伝子、およびこれにコードされるタンパク質に関し、また診断法および治療法、ならびに、これらを発現する癌の管理に有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
癌は、冠動脈疾患に次ぐヒトの死因の第2位である。世界規模では、数百万人の人々が毎年癌によって死亡している。米国だけで癌は、年間50万人を超える人々を死に追いやっており、毎年約1.4百万の新症例が診断されている。心疾患による死亡は大きく減少しているが、癌による死亡は一般に増加傾向にあり、先進国における死因の首位になると推定されている。
【0005】
癌は、進行段階の疾患の表現型に集合的に寄与する、複数の発癌過程を特徴とする。特定の分子異常を標的とする新薬が出現していることから、初期の発癌過程が、腫瘍の進行の後期段階で、また化学療法耐性の出現による再発時に機能的役割を果たし続けるか否かを知ることは重要である。この疑問は、トランスジェニックマウスでを用いて初期癌遺伝子の発現を調節することによって説明されている。さまざまな組織におけるさまざまな癌遺伝子を検討する3つのモデルでは、初期癌遺伝子が、数多くの他の癌遺伝子および腫瘍抑制因子の変異が存在するにもかかわらず、腫瘍の表現型を維持するために必要とされた(例えばL. Chinら、Nature 400, 468(1999)(非特許文献1);D.W. Felsherら、Mol.Cell 4, 199(1999)(非特許文献2);およびC.S. Huettnerら、Nature Genet. 24, 575(2000)(非特許文献3)を参照)。慢性骨髄性白血病(CML)に対する、アベルソン(Abelson)チロシンキナーゼ(Abl)の阻害剤STI-571に関する最近の臨床試験によって、上記の疑問は、ヒトの癌で直接説明されている(例えばB.J. Drukerら、N.Engl.J.Med. 344, 1038(2001)(非特許文献4);およびB.J. Drukerら、N.Engl.J.Med. 344, 1031(2001)(非特許文献5)を参照)。
【0006】
CMLは、フィラデルフィア(Ph)染色体転座を特徴とする、多能性の造血幹細胞の疾患である(例えばC.L. Sawyers, N.Engl.J.Med. 340, 1330(1999)(非特許文献6);およびS. Faderlら、N.Engl.J.Med. 341, 164(1999)(非特許文献7)を参照)。結果として得られるBCR-ABL融合遺伝子は、構成的なチロシンキナーゼ活性をもつ細胞質タンパク質をコードする(例えばJ.B. Konopkaら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 82, 1810(1985)(非特許文献8)およびNCBIアクセッション番号NP_067585(非特許文献9)を参照)。BCR-ABLが癌遺伝子であってマウスでCML様の疾患を十分発現させる、数多くの実験モデルが作られている(例えばG.Q. Daleyら、Science 247, 824(1990)(非特許文献10);およびN. Heisterkampら、Nature 344, 251(1990)(非特許文献11)を参照)。CMLは、明瞭な臨床段階を経て進行する。慢性期と呼ばれる最も初期の段階は、最終分化した好中球の増殖を特徴とする。数年をかけて、同疾患は、過剰な数の未分化の骨髄性またはリンパ性の前駆細胞を伴う成熟停止を特徴とする急性転化(blast crisis)と呼ばれる急性期に進行する。BCR-ABL癌遺伝子は、全ての段階で発現されるが、急性転化は、複数の別の遺伝的変化および分子的変化を特徴とする。
【0007】
2-フェニルアミノピリミジンクラスの薬理作用団(pharmacophore)に基づく一連の阻害剤が、Ablに例外的に高い親和性および特異性をもつものとして同定されている(例えばZimmermanら、Bloorg、Med.Chem.Lett. 7, 187(1997)(非特許文献12)を参照)。これらの中でも最も成功した化合物STI-571(過去にノバルティス社の被験化合物CGP 57148と呼ばれており、グリーベック(Gleevec)およびイマチニブ(imatinib)としても知られる化合物)は、CMLの治療的薬剤の臨床試験で良好な成績を修めている。STI-571は、ABLのキナーゼドメインのATP結合部位を標的とする2-フェニルアミノピリミジンである(例えばB.J. Drukerら、Nature Med. 2, 561(1996)(非特許文献13)を参照)。第I相臨床試験では、STI-571は、慢性期および急性転化の患者で緩解を誘導した(例えばB.J. Drukerら、N.Engl.J.Med. 344, 1038(2001)(非特許文献4);およびB.J. Drukerら、N.Engl.J.Med. 344, 1031(2001)(非特許文献5)を参照)。慢性期における反応は耐久性があったが、急性転化の患者にみられた緩解は、薬剤療法の継続にもかかわらず通常2〜6か月間しか持続しなかった(例えばB.J. Drukerら、N.Engl.J.Med. 344, 1038(2001)(非特許文献4)を参照)。
【0008】
STI-571を投与した患者で観察された再発に関しては、CMLおよび関連する癌におけるSTI-571耐性に関連する機構、ならびに診断法および治療法、ならびにこの現象を説明する面の組成物を理解する必要がある。本明細書に記載された発明は、このニーズを満たす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】L. Chinら、Nature 400, 468(1999)
【非特許文献2】D.W. Felsherら、Mol.Cell 4, 199(1999)
【非特許文献3】C.S. Huettnerら、Nature Genet. 24, 575(2000)
【非特許文献4】B.J. Drukerら、N.Engl.J.Med. 344, 1038(2001)
【非特許文献5】B.J. Drukerら、N.Engl.J.Med. 344, 1031(2001)
【非特許文献6】C.L. Sawyers, N.Engl.J.Med. 340, 1330(1999)
【非特許文献7】S. Faderlら、N.Engl.J.Med. 341, 164(1999)
【非特許文献8】J.B. Konopkaら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 82, 1810(1985)
【非特許文献9】NCBIアクセッション番号NP_067585
【非特許文献10】G.Q. Daleyら、Science 247, 824(1990)
【非特許文献11】N. Heisterkampら、Nature 344, 251(1990)
【非特許文献12】Zimmermanら、Bloorg、Med.Chem.Lett. 7, 187(1997)
【非特許文献13】B.J. Drukerら、Nature Med. 2, 561(1996)
【発明の概要】
【0010】
慢性骨髄性白血病(CML)を対象としたAblチロシンキナーゼ阻害剤STI-571を用いた臨床試験から、進行段階の多くの患者が、当初反応するが後に再発することがわかった。一方、このような患者に由来する臨床材料の生化学的解析および分子生物学的解析では、薬剤耐性が、Bcr-Ablシグナル伝達の再活性化に関連することはわかっているが、この耐性に関連する特定の過程は、よくわかっていない。
【0011】
本明細書で提供する開示は、このような薬剤耐性に関連する特定のイベントの特徴を、アミノ酸の変異が、キナーゼ阻害剤に対する耐性をもたらすように存在し、しかも同キナーゼが、その生物学的活性を保持することが可能なようにタンパク質キナーゼ内の特定のドメインを同定することによって明らかにする。本明細書で提供する開示はさらに、タンパク質キナーゼのファミリー内に高度に保存されることがわかっているドメインとしてのこれらの領域を同定する(例えばc-Ablチロシンキナーゼ活性化ループ)。したがって開示は、薬剤耐性を調べるさまざまな診断プロトコルの解析対象となる、タンパク質キナーゼ内のこのような特定領域を明らかにする。
【0012】
本明細書に記載された発明はさらに、STI-571に対する耐性に関連する、癌細胞で発現される、新規の遺伝子、およびこれにコードされるタンパク質を含む。典型的には、これらのSTI-571耐性遺伝子、およびこれにコードされるタンパク質は、慢性骨髄性白血病で発現される癌遺伝子Bcr-Ablの変異体である。本明細書に記載された発明は、STI-571に対する耐性に関連するBcr-Abl変異体(Bcr-Abl Mutants Associated with Resistance to STI-571)(以下、このような変異体を集合的に頭文字「MARS」を用いて表記する)をいくつか、ならびに診断法および治療法、また、このような変異体を発現する癌の管理に有用な組成物を開示する。
【0013】
MARSの典型的な例は、Ablキナーゼの315位のThr残基に1アミノ酸の置換を有するBcr-Abl変異体である(T315I Bcr-Ablと表記)。臨床試験では、患者は、同薬剤と重要な水素結合を形成することがわかっているAblキナーゼドメイン内の残基である315位における、この変異に関連するSTI-571耐性を示した。この変異体の生化学的解析で、Thr→Ileの変化が、再構成実験でSTI-571耐性を十分もたらすことがわかっている。他のMARSを表1に示す。本明細書で提供する開示は、遺伝的に複雑な癌が、初期発癌過程に対する依存性を維持することの証拠を提示し、また、STI-571耐性の阻害剤を同定する方法を提供する。本明細書で提供する開示はさらに、慢性骨髄性白血病などの癌の特性を調べるための、さまざまな診断法を提供する。
【0014】
Bcr-Ablチロシンキナーゼに関する、全ての予備的知識は、15年間以上にわたって公開されている配列に基づく。本発明は、まもなくCMLの標準的な治療法となる、薬剤STI-571に対する耐性を生じる患者に高い割合でみられる、慢性骨髄性白血病(CML)の原因となるBcr-Ablチロシンキナーゼ融合タンパク質をコードするDNAの新規の配列を提供する。本明細書に記載されているように、MARSのポリペプチドおよびポリヌクレオチドの状態を評価する方法を、癌の評価に、例えば早期再発を検出するために使用することができる。また、MARSのポリペプチドおよびポリヌクレオチドを用いて、このような変異型タンパク質の生物学的活性を阻害する薬剤を同定するためのアッセイ法を構築することができる。
【0015】
T315I Bcr-Ablは、本明細書に開示されたMARSによって提供された、本発明の代表例である。本明細書に記載されたT315I Bcr-Abl変異体は、Bcr-Ablのキナーゼドメインに、Bcr-Ablに対するSTI-571の結合を阻害するアミノ酸変化を含む。本発明のT315I Bcr-Ablの態様は、いくつかの患者試料を対象に検討されており、配列レベルで確認されている。この変異体Bcr-Ablタンパク質は細胞で発現され、またSTI-571に対して耐性を示すことが報告されている。したがって患者は、そのキナーゼ活性をもはや阻害できないために、同薬剤に耐性を生じる。
【0016】
変異体の配列に関する知見は、いくつかの方法に直ちに使用できる。特に現在、薬剤耐性のCMLを検出したり治療したりする方法はない。したがって本明細書で提供する発明は、CMLの早期再発のための、ならびに、チロシンキナーゼ阻害剤分野における薬剤開発のための診断検査法を提供する。例えば、本明細書で提供する開示によって、CML患者を対象に、例えばPCRをベースとしたアッセイ法で、再発前に薬剤耐性細胞の有無を検出することが可能となる。本発明の代表的な態様は、患者の血液試料中の耐性細胞の検出に使用されるPCRおよび類似のアッセイ法を含む。
【0017】
本発明は、変異型チロシンキナーゼに結合および/または阻害する分子を同定するためのツールとして実施することもできる。本発明のこの局面の典型的な態様は、変異体に被験化合物を、結合に好ましい条件で接触させた後に、被験化合物が変異体に結合するか否かを判定することで、変異体に結合する化合物を同定する、表1に示されたBcr-Abl変異体などの変異型タンパク質キナーゼに特異的に結合する化合物を同定する方法である。このような方法で、ケミカルライブラリーの構造ベースの薬剤設計、および/または高スループットのスクリーニングを行い、変異型チロシンキナーゼの阻害剤を同定することができる。このような阻害剤は、臨床的意義をすぐにもつようになる。
【0018】
本発明は、MARSタンパク質およびこの断片をコードするポリヌクレオチド、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、および関連分子、MARSの遺伝子もしくはmRNAの配列、またはこの一部に相補的なポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、ならびにMARSの遺伝子、mRNA、またはMARSをコードするポリヌクレオチドとハイブリッドを形成するポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含む、MARSの遺伝子、mRNA、および/またはコード配列の全体もしくは一部に対応するか、または相補的なポリヌクレオチドを、好ましくは単離された状態で提供する。MARSをコードするcDNAおよび遺伝子を単離する手段も提供する。MARSポリヌクレオチドを含む組換えDNA分子、このような分子で形質転換した、または形質導入した細胞、ならびにMARS遺伝子産物を発現させるための宿主-ベクター系も提供する。本発明はさらに、MARSタンパク質およびこのポリペプチド断片を提供する。本発明はさらに、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、マウスおよび他の哺乳類の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、および完全ヒト抗体、ならびに検出マーカーで標識した抗体を含む、MARSタンパク質およびこのポリペプチド断片に結合する抗体を提供する。
【0019】
本発明はさらに、さまざまな生物試料中のMARSのポリヌクレオチドおよびタンパク質の有無および状態を検出する方法、ならびにMARSを発現する細胞を同定する方法を提供する。本発明の典型的な態様は、ある種の調節不全(癌など)を有するか、有することが疑われる組織試料中のMARS遺伝子産物をモニタリングする方法を提供する。
【0020】
本発明の1つの好ましい態様は、細胞で発現されるアベルソンチロシンキナーゼの触媒ドメインの一部のヌクレオチド配列を決定した後に、このように決定されたヌクレオチド配列を、アベルソンタンパク質チロシンキナーゼの触媒ドメインの野生型配列と比較することで、触媒ドメイン内における変異の有無を判定することによって、細胞で発現される変異型アベルソンチロシンキナーゼを同定する方法である(このように同定された変異は、アベルソンタンパク質チロシンキナーゼのポリペプチド配列内に、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性に対する阻害に対する耐性に関連する配列番号:1に示されたBcr-Ablキナーゼ中のアミノ酸の位置と相同性を有するアミノ酸残基において位置するアミノ酸残基が存在するという特徴を有する(アベルソンタンパク質チロシンキナーゼのポリペプチド配列内に位置するアミノ酸残基と、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性に関連する配列番号:1に示されたBcr-Ablキナーゼのアミノ酸残基の相同性はBLAST解析で明らかにすることができる)。
【0021】
本発明の別の態様は、配列番号:1のBcr-Ablの配列とは異なり、

からなる群より選択される配列番号:1の残基の位置(または複数の位置)に1か所または複数のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、単離されたBcr-Ablポリペプチドである。本発明の関連する態様は、Bcr-Ablポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸である。本発明の他の態様は、この核酸配列を含むベクター、このようなベクターを含む宿主細胞(例えば大腸菌)、ならびに以下の段階を含むBcr-Ablポリペプチドのバリアントポリペプチドを作製する方法である:(a)このようなベクターを含む宿主細胞を提供する段階;(b)培地を提供する段階;(c)Bcr-Ablポリペプチドのバリアントポリペプチドが十分発現する条件で宿主細胞を培地中で培養する段階;(d)宿主細胞または培地からBcr-Ablポリペプチドのバリアントポリペプチドを回収する段階;ならびに(e)Bcr-Ablポリペプチドのバリアントポリペプチドを精製する段階。本発明のさらに別の態様は、化学的に修飾されたり、マトリックスもしくは異種タンパク質に結合または連結されたりする、Bcr-Ablポリペプチドのバリアントポリペプチドである。
【0022】
本発明はさらに、さまざまな治療的組成物、およびさまざまなMARSの生物学的活性(例えばキナーゼ活性)を阻害する分子(例えばSTI-571類似体)を同定する方法を含む、MARSを発現する癌を治療する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】STI-571を投与した患者の臨床的再発は、持続的なBcr-Ablキナーゼ活性と関連する。(A)さまざまな濃度のSTI-571とインビトロにおける2時間のインキュベーション後の、あるCML患者の骨髄細胞のイムノブロット解析。全細胞溶解液をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロースにトランスファーし、プローブとしてCrkl(上のパネル)、ホスホチロシン(中央のパネル)、およびAbl(下のパネル)の各抗体を反応させた。
【図1B】STI-571を投与した患者の臨床的再発は、持続的なBcr-Ablキナーゼ活性と関連する。(B)STI-571投与前にCML患者(左)、およびSTI-571で血液学的緩解(<5% 急性転化)を達成したが、100%がBCR-ABL陽性で代わらなかったPh陽性の急性転化の患者(右)に由来する全細胞溶解液を対象としたCrklのイムノブロット。
【図1C】STI-571を投与した患者の臨床的再発は、持続的なBcr-Ablキナーゼ活性と関連する。(C)最初にSTI-571療法に反応した後に再発した、リンパ性急性転化またはPh陽性の急性リンパ性白血病の患者(上のパネル)、および骨髄性急性転化の患者(中央のパネル)に由来する全細胞溶解液を対象としたCrklのイムノブロット。再発時の患者の細胞溶解液のホスホチロシンのイムノブロット(下のパネル)。Ph陽性細胞系列K562を、自己リン酸化されたBcr-Ablの陽性対照として使用した。
【図1D】STI-571を投与した患者の臨床的再発は、持続的なBcr-Ablキナーゼ活性と関連する。(D)STI-571投与前(投与前)に、または一連のSTI-571投与中(Txおよび再発)に、再発患者に由来する細胞溶解液のCrklのイムノブロット。Crklのイムノブロットの濃度測定解析(全Crklタンパク質に対する、リン酸化されたCrklの占めるパーセンテージで表す)の棒グラフ。
【図2】STI-571に対する再発患者細胞の感受性の変化。(A)STI-571投与前(○)および再発時(●)に急性転化の患者に由来する細胞におけるCrklのリン酸化のSTI-571の用量反応曲線(LB3およびLB2)。両時点で採取した細胞をSTI-571に濃度を上昇させながら曝露し、回収し、Crklのイムノブロットおよび濃度測定法で解析した。(B)未投与CML患者と再発CML患者から単離した細胞をSTI-571に濃度を上昇させながら曝露し、次にCrklのイムノブロットおよび濃度測定解析によって決定した、Crklのリン酸化の阻害のIC50値。1人の再発患者の試料(LB2)のCrklのリン酸化は、高濃度のSTI-571で阻害できなかった(IC50=CRKLのリン酸化を50%減少させるために必要なSTI-571濃度)。
【図3】STI-571に対する初期反応後に再発した患者のBCR-ABLの増幅。(A)急性転化の患者M13から、STI-571投与前および投与中に採取した間期の核を対象としたBCR-ABLのFISH解析。核はDAPI染色して可視化し(青)、ABLプローブはスペクトルオレンジ(Spectrum Orange)(赤のシグナル)で標識し、BCRプローブはスペクトルグリーン(Spectrum Green)(緑色のシグナル)で標識してある。黄色のシグナルで示されるBCR-ABL遺伝子融合体は、STI-571耐性疾患の進行中にBCR-ABL遺伝子増幅の上昇を示している(バー=10 μ)。(B)急性転化の患者M14から、STI-571投与からの除去の前、中、後に採取した間期の核を対象としたBCR-ABLのFISH解析(STI-571投与からの除去時のBCR-ABL増幅表現型、および非増幅表現型への復帰(バー=10 μ)。(C)患者LB1に由来する試料のギムザ染色像(左のパネル;バー=5 μ)、および二色FISH像(中央および右のパネル;バー=3 μ)(倍加した逆転Ph染色体が認められる)。矢印はBCR-ABL遺伝子融合体を示す。(D)BCR-ABL増幅患者(MB13、MB14、LB1)、および1人の非増幅患者LB3(対照)に由来するゲノムDNAを対象とした定量的PCR解析(全3人の患者でABL遺伝子コピー数の増加が確認された)。
【図4A】AblキナーゼドメインのATP結合ポケットにおける点突然変異は再発患者にSTI-571耐性をもたらす。(A)患者試料のキナーゼドメインのATP結合ポケットおよび活性化ループに対応する、BCR-ABLの578塩基対の領域の配列を決定するPCR法の概略。解析対象のAblの領域のアミノ酸配列を黒色で示す。結晶構造データに基づいて、STI-571と水素結合を形成すると推定される残基を太字で示し、c-Abl(GenBankアクセッション番号:M14752、表2に示す)(配列番号:1)の先頭のアミノ酸から数字をつけた。対応するヌクレオチド配列(赤色で示す)を、9人の患者のcDNAから得られた配列とアライメントさせた。ABLヌクレオチド944位におけるC→T変異(6人の患者で再発時に検出され、投与前の試料では検出されなかった)を青色で示す。野生型ABL(GenBankアクセッション番号:NT008338.2)の第3エキソンの配列を、投与前、および再発時の患者のゲノムDNAに由来する配列と整列させた。野生型BCR-ABL(左)、およびC→T点突然変異を含むBCR-ABL(右)に由来する一次配列データの例(クロマトグラフで示す)。
【図4B】AblキナーゼドメインのATP結合ポケットにおける点突然変異は再発患者にSTI-571耐性をもたらす。(B)STI-571との複合体中の野生型AblのSTI-571結合ポケットのモデル(左のパネル)、およびSTI-571との複合体中のT315I変異型AblのSTI-571結合ポケットの推定構造(右のパネル)。STI-571とAblの315位を示す分子構造では、窒素原子を青色で、酸素原子を赤色で示す。STI-571のファンデルワールス相互作用を灰色で示し(両方のパネル)、野生型Ablの残基Thr315を青色で示し(左のパネル)、変異型Ablの残基Ile315を赤色で示す(右のパネル)。Ablキナーゼドメインのポリペプチドバックボーンを緑色で示す。
【図4C】AblキナーゼドメインのATP結合ポケットにおける点突然変異は再発患者にSTI-571耐性をもたらす。(C)さまざまな濃度のSTI-571との2時間のインキュベーション後にトランスフェクトした293T細胞から単離した全細胞溶解液のイムノブロット(左のパネルは野生型のp210 BCR-ABL、右のパネルはT315I変異体)。ブロットに、ホスホチロシン抗体(上のパネル)、およびAbl抗体(下のパネル)抗体を反応させた。
【図5】複数の患者の変異を示すグラフ。
【図6】2人またはそれ以上の患者における全ての変異を示す棒グラフ。
【図7】ゲルダナマイシンおよび17-AAGは、野生型BCR-ABLタンパク質およびSTI-571耐性変異型BCR-ABLタンパク質の分解を誘導し、BCR-ABLシグナル伝達を阻害する。(A)野生型BCR-ABL、T315I BCR-ABL、またはE255K BCR-ABLを発現するBa/F3細胞を、ゲルダナマイシン(GA)濃度を上昇させながら24時間インキュベートした。細胞溶解液のイムノブロッティングを、抗ABL(Ab3、Oncogene)(上のパネル)、抗RAF-1(Santa Cruz)(中央のパネル)、およびタンパク質量の対照として抗アクチン(ac-15、Sigma)(下のパネル)を用いて行った。(B)野生型BCR-ABL、T315I BCR-ABL、またはE255K BCR-ABLを発現するBa/F3細胞を、17-AAG濃度を上昇させながら24時間インキュベートした。これらの可溶化液の免疫ブロッティングを、抗ABL(上のパネル)、およびタンパク質量の対照として抗アクチン(下のパネル)を用いて行った。(C)(B)と同じ可溶化液の免疫ブロッティングを、抗CRKL(Santa Cruz)を用いて行った。CRKLは、チロシン残基がリン酸化されると、SDS-PAGE上を緩やかに移動し、リン酸化CRKL(P-CRKL)を示す上方のバンド、およびリン酸化されていないCRKLを示す下方のバンドが結果として得られる。(D)(C)に示すCRKLのイムノブロットを対象とした、イメージクォントソフトウェア(Molecular Dynamics)を用いた濃度測定解析。定量後のCRKLのリン酸化を、全CRKLタンパク質に対するリン酸化されたCRKLの占めるパーセンテージ(% P-CRKL)で表す。(E)STI-571の濃度を上昇させながら24時間インキュベートした同じBa/F3細胞系列に由来する可溶化液を用いたCRKL免疫ブロッティングの濃度測定解析。
【図8】Bcr-Ablキナーゼドメインの配列決定法を示す図。Bcr-AblのcDNAについては、Bcr配列を点状で示し、Abl配列を黒色で示す。水平方向の矢印はPCRプライマーを意味する。最初のPCRで、1.3 kbのBcr-Ablサブ断片が増幅される。キナーゼドメインの2回目のPCRのテンプレートとなるこの増幅断片をサブクローニングする。患者1人1回あたり10個の独立したクローンの配列を決定した。10個中少なくとも2個に認められた野生型Bcr-Ablからの配列の変化を変異とみなした。
【図9】Bcr-Ablキナーゼドメインの変異体は、STI-571に対してさまざまな程度の生化学的耐性および生物学的耐性を示す。IL-3の非存在下でインキュベートして成長させた、Bcr-Ablのイソ型を発現する、レトロウイルスを感染させたBa/F3集団から調製した可溶化液の抗ホスホチロシン抗体(4G10)を用いたウエスタンブロットを、さまざまな濃度のSTI-571に2時間曝露させた結果を示す。各変異の生化学的IC50を示す。生物学的IC50は、STI-571曝露の48時間後に生細胞の数によって決定した。
【図10】イマチニブ耐性変異は、Bcr-Ablキナーゼドメインに広範囲に存在する。野生型Bcr-Ablのキナーゼドメインのアミノ酸配列を示す。星印は、Pループ内に存在するGly-X-Gly-X-X-Gly-X-Valコンセンサス配列の保存されたアミノ酸を示す。STI-571耐性患者にみられるアミノ酸の置換を野生型配列の下方に示す。
【図11】STI-571耐性Bcr-Ablキナーゼドメインの変異の概要。各文字は、対応する変異が検出された患者を示す。慢性期の患者は「C」で示す。再発した骨髄性急性転化の患者は「M」で示す。再発したリンパ性急性転化の患者は、文字「L」で示す。「R」は、治療に不応性であった骨髄性急性転化の患者のSTI-571投与前の変異を意味する。キナーゼドメインが所定の縮尺で作図されたものではない点に注意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
特に明記しない限り、本明細書で使用される技術用語、記号、および他の科学用語は、本発明が関与する当業者によって一般に理解される意味をもつことが意図される。場合によっては、一般に理解される意味をもつ用語は、明確さを求めて、また参照目的で本明細書で定義され、また本明細書におけるこのような定義は、必ずしも、当技術分野で一般に理解される定義に大して実質的な差を示すと解釈されない。本明細書に記載された、または本明細書で参照された手法および手順は、当業者によって一般に十分理解され、例えばSambrookら、1989、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、およびAusubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、Wiley Interscience Publishers、(1995)に記載されている、広く用いられている分子生物学の方法などの従来の方法で一般に使用される。適切であれば、市販のキットおよび試薬を用いる手順を、特に明記しない限り、製造業者が定義するプロトコル、および/またはパラメータにしたがって一般に実施する。
【0025】
本明細書で用いる「ポリヌクレオチド」という用語は、少なくとも約10塩基または塩基対の長さの、リボヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチドのいずれか、または修飾型のいずれかの種類のヌクレオチドの重合体状のヌクレオチドを意味し、また1本鎖状および2本鎖状のDNAを含むことを意味する。
【0026】
本明細書で用いる「ポリペプチド」という用語は、少なくとも約6アミノ酸の重合体を意味する。本明細書を通じて当業者、標準的な3文字表示、または1文字表示のアミノ酸を用いる。
【0027】
本明細書で用いるように、例えばMARS遺伝子以外の遺伝子に対応する、または相補的な、混入ポリヌクレオチド、またはMARS遺伝子産物もしくはこの断片以外のポリペプチドをコードする混入ポリヌクレオチドから実質的に解離している場合に、ポリヌクレオチドは「単離されている」と表現される。本明細書で用いるように、MARSポリペプチドもしくはこの断片以外のポリペプチドに対応する混入ポリペプチドから実質的に解離している場合に、ポリペプチドは「単離されている」と表現される。当業者は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの単離法を容易に用いて、単離されたポリヌクレオチドおよびポリペプチドを入手することができる。
【0028】
本明細書で用いるように、ポリヌクレオチドに関して使用される「ハイブリッドを形成する」や「ハイブリッドを形成している」などの表現は、好ましくは、50% ホルムアミド/6×SSC/0.1% SDS/100 μg/ml ssDNA中におけるハイブリダイゼーション(ハイブリダイゼーション温度は37℃より高温)、および0.1×SSC/0.1% SDS中における洗浄(洗浄温度は55℃より高温)などの従来のハイブリダイゼーション条件、また最も好ましくは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を意味する。
【0029】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は当業者によって容易に決定され、一般にプローブ長、洗浄温度、および塩濃度に依存する、実験で得られた計算値である。一般に、長いプローブほど適切なアニーリングに高温を必要とし、一方、短いプローブほど低温を必要とする。ハイブリダイゼーションは一般に、相補鎖が存在して、環境中に溶解温度以下で存在する場合に、変性DNAの再アニーリング能力に依存する。プローブとハイブリッドを形成可能な配列間の所望の相同性の程度が高いほど、使用可能な相対温度は高くなる。結果として、高い相対温度ほど、よりストリンジェントな反応条件となりやすくなる一方で、低温ほどストリンジェンシーが低くなる傾向があると言える。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーの他の詳細および説明についてはAusubelら、「Current Protocol in Molecular Biology」、Wiley Interscience Publishers、(1995)を参照されたい。
【0030】
本明細書で定義される「ストリンジェントな条件」、または「高ストリンジェンシー条件」は、以下によって特定される場合がある:(1)洗浄段階に低イオン強度および高温を用いる(例えば0.015 M 塩化ナトリウム/0.0015 M クエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(50℃);(2)ハイブリダイゼーション時に、ホルムアミドなどの変性剤を使用する(例えば50%(v/v)ホルムアミド+0.1% ウシ血清アルブミン/0.1% フィコール(Ficoll)/0.1%ポリビニルピロリドン/50 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)、+750 mM 塩化ナトリウム、75 mM クエン酸ナトリウム(42℃);または(3)以下を用いる;50% ホルムアミド、5×SSC(0.75 M NaCl、0.075 M クエン酸ナトリウム)、50 mM リン酸ナトリウム(pH 6.8)、0.1% ピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト液、超音波処理されたサケ精子DNA(50 μg/ml)、0.1% SDS、および10% 硫酸デキストラン(42℃)、ならびに42℃で0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中で洗浄、50% ホルムアミド中で洗浄(55℃)に続いて、EDTAを含む0.1×SSC中における高ストリンジェンシーの洗浄(55℃)。
【0031】
「中程度にストリンジェントな条件」は、Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、New York:Cold Spring Harbor Press、1989に記載された手順で決めることが可能であり、上述の条件と比べてストリンジェンシーが弱い洗浄液およびハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度、および%SDS)の使用を含む。中程度にストリンジェントな条件の一例は、以下の組成の溶液中で一晩37℃におけるインキュベーション:20% ホルムアミド、5×SSC(150 mM NaCl、15 mM クエン酸三ナトリウム)、50 mM リン酸ナトリウム(pH 7.6)、5×デンハルト溶液、10% 硫酸デキストラン、および20 mg/mL 変性サケ精子DNAによる処理と、それに続く、約37〜50℃で1×SSC中におけるフィルターの洗浄である。プローブ長などの因子を配慮する必要に応じて、温度やイオン強度などを調整する方法を当業者であれば理解すると思われる。
【0032】
本明細書に記載されたBCR-ABLバリアントの表記を短くする目的で、数字がBCR-ABLポリペプチドのアミノ酸配列に沿ったアミノ酸残基の位置を意味することに注意されたい。アミノ酸を示す場合は、

のアミノ酸の1文字アルファベットを用いる。
【0033】
アミノ酸配列を比較する場合に、「同一性」という表現を、同じ相対位置における同一のアミノ酸残基のパーセンテージを決定して表すために用いる。またこの場合に、「相同性」という表現を、同じ相対位置における同一または類似の残基のパーセンテージを、当技術分野で一般に理解されるように、BLAST解析の保存アミノ酸基準で同定して表すために用いる。例えば、同一性および相同性の値はWU-BLAST-2で得られる(Altschulら、Methods in Enzymology, 266:460-480(1996):http://blast.wustl/edu/blast/README.html)。
【0034】
本明細書に記載された配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、BCR-ABL配列中のアミノ酸残基と、配列をアライメントさせ、必要であれば最大パーセントの配列同一性を示すようにギャップを導入した後に同一になる、候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。パーセントアミノ酸の配列同一性を決定することを目的としたアライメントは、当技術分野に含まれる、比較対象の完全長の配列にわたって最大アライメントを達成するために必要なアルゴリズムを割り当てる段階を含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定する、さまざまな方法で達成することができる。本明細書の目的では、パーセントアミノ酸同一性の値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2でも得られる(このソースコードは、米著作権局(Washington、DC、20559)のユーザ文書とともに申請されており、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている)。ALIGN-2プログラムは、Genentech社(South San Francisco、CA)を通して公開されている。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムに設定されており、変動しない。
【0035】
「癌」、「癌性の」、または「悪性腫瘍の」という表現は、典型的には、調節が外れた細胞の成長を特徴とする哺乳類の生理条件を意味する。癌の例には、白血病、リンパ腫、芽腫、カルシノーマ、および肉腫があるがこれらに限定されない。このような癌の具体的な例には、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、神経膠腫、消化器癌、腎癌、卵巣癌、肝臓癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、前立腺癌、甲状腺癌、神経芽腫、膵臓癌、多形性膠芽腫、子宮頚癌、胃癌、膀胱癌、肝癌、乳癌、結腸癌、および頭頸部癌などがある。
【0036】
本明細書で用いる「治療する」、「治療」、および「療法」という表現は、治療的療法、予防的療法、および予防的な処置を意味する。「治療対象として選択された被験者」という表現は、当業者が理解する条件を有すると同定された被験者が、特定の治療法に反応可能であること、また結果として、治療が必要であるとみなされている(または治療される)ことを意味する(例えばSTI-571が投与される慢性骨髄性白血病の患者)。
【0037】
本明細書で用いる「哺乳類」という表現は、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、およびネコを含む哺乳類に分類される任意の哺乳類を意味する。本発明の好ましい態様では、哺乳類はヒトである。
【0038】
他の定義は、以降の小節で提供する。
【0039】
本明細書に記載された発明は、STI-571に対する耐性が関連する変異体(Mutants Associated with Resistance to STI-571)(例えばT315I Bcr-Abl)と呼ばれる新規の遺伝子、およびこれにコードされるタンパク質に関し、また診断法および治療法、ならびにMARSを発現するさまざまな癌の管理に有用な組成物に関する。本明細書に記載される発明の態様は、STI-571投与患者を対象としたBcr-Ablタンパク質キナーゼの研究で説明される。STI-571投与患者における再発機構を明らかにするために、本発明者らは最初に、原発性白血病の細胞におけるBcr-Ablシグナル伝達の状態の評価を行った。実施例で説明するように、末梢血試料および/または骨髄試料を、Novartis Pharmaceuticalsの資金提供によるSTI-571の多施設臨床試験に登録された、UCLAのCML患者およびPh陽性ALLの患者から適切なインフォームド・コンセントとともに得た。全ての患者は、骨髄の急性転化が治療前に>30パーセントであった。反応のみられる患者では、B.J. Drukerら、N.Engl.J.Med. 344, 1031(2001)に記載されているように、治療前の骨髄急性転化のパーセンテージが低値であった(15%未満(部分的)、または5%未満(完全))。進行疾患は、STI-571投与の継続にかかわらず、初期反応後の急性転化のパーセンテージの上昇と定義した。単核球を、フィコール-ハイパーク(Hypaque)中で遠心して単離し、リン酸緩衝塩溶液で2回洗浄し、計数し、速やかに使用するか凍結保存した。
【0040】
目的は、Bcr-Abl依存性の再発機構を、Bcr-Abl非依存性の再発機構と区別することであった。Bcr-Ablが白血病クローンの増殖に依然として重要であれば、Bcr-Ablのシグナル伝達経路は再活性化されるはずである。または、白血病クローンの増殖がBcr-Ablに依存しないならば、Bcr-Abl経路を通るシグナル伝達は、STI-571で損なわれないはずである。Bcr-Abl経路のシグナル伝達の最も直接的な尺度は、Bcr-Ablのタンパク質そのものの酵素活性である(例えばJ.B. Konopkaら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 82, 1810(1985);S.S. Clarkら、Science 235, 85(1987);およびS.S. Clarkら、Science 239, 775(1988)を参照)。
【0041】
Bcr-Ablタンパク質の酵素活性は、細胞系列で容易に測定できるが、このようなアッセイ法を、臨床材料を対象に再現性よく定量的に実施することは困難である。というのは、細胞の溶解に伴い、Bcr-Ablは速やかに分解されて脱リン酸化されるからである。Bcr-Ablキナーゼ活性の別の尺度の探索の過程で、本発明者らは、CML細胞でBcr-Ablによって特異的および構成的にリン酸化されるアダプタータンパク質Crklのホスホチロシン量(例えばJ. ten Hoeveら、Blood 84, 1731(1994);T. Odaら、J.Biol.Chem. 269, 22925(1994);およびG.L. Nicholsら、Blood 84, 2912(1994)を参照)が、臨床試料を対象に再現性よく、また定量的に測定可能であることに気づいた(実施例2参照)。CrklはBcr-Ablに直接結合し、キナーゼのシグナルと下流のエフェクター経路を連結することによってBcr-Ablの転換に機能的役割を果たす(例えばK. Senechalら、J.Biol.Chem. 271, 23255(1996)を参照)。リン酸化されたCrklは、SDS-PAGEゲル上を異なった速度で移動するので、濃度測定法で定量可能である。予想されるように、一次CML患者の細胞のCrklのリン酸化は、STI-571に曝露した場合に用量依存的に阻害され、Bcr-Ablの脱リン酸化と相関が認められた(図1A)。このCrklアッセイ法により、臨床材料を対象にBcr-Ablタンパク質の酵素活性の評価が再現性よく、また定量的に可能となる。
【0042】
ヒトの急性転化CML細胞系列を移植したマウスを用いたSTI-571耐性に関する最近の前臨床試験では、肝臓で合成される急性期反応物であるαl酸糖タンパク質が、血清中でSTI-571に結合してBcr-Ablに対する活性をブロック可能なことがわかった(例えばC. Gambacorti-Passeriniら、J.Natl.Cancer Inst. 92, 1641(2000)を参照)。この結果から、患者のSTI-571耐性が、宿主が関連する対薬剤反応によるものであるという可能性が生まれた。または耐性は、STI-571によるキナーゼ阻害の回避を可能とする、白血病サブクローンにおける細胞-自己イベントと関連する可能性がある。以上の2つの可能性を区別するために、本発明者らは、Crklのリン酸化の阻害を測定することによって、STI-571の投与前および再発時に採取した患者の細胞の感受性を決定した。簡単に説明すると、精製した細胞を、1〜10×106/mlになるように、RPMI-1640+10% ヒトAB血清にさまざまな濃度のSTI-571を添加した培地に24時間プレーティングした。タンパク質を抽出し、イムノブロット解析を行った。
【0043】
仮にSTI-571耐性が宿主反応の結果だとすると、治療前および再発時の白血病細胞は、エクスビボのSTI-571投与に同等の感受性を示すはずである。しかし仮にSTI-571が細胞に内在する場合、再発時に得た白血病細胞は、STI-571に対する感受性が治療前の細胞と比較して低いはずである。本発明者らが臨床材料を十分マッチさせた患者では、STI-571に対する感受性の10倍またはこれ以上の変化が再発時に認められた(図2A)。11の試料を対象とした凝集解析で、患者の細胞におけるCrklのリン酸化を阻害するためには、治療前に得た細胞に対して、再発時に得た細胞では、より高濃度のSTI-571が必要なことが確認された(図2B)。
【0044】
このようなエクスビボ研究は、STI-571耐性が細胞内在性であるという証拠をもたらすので、本発明者らは、いくつかの可能な機構を考えた。治療量以下の薬剤でインビトロで成長させた数か月後にSTI-571に対する耐性を生じる一部のCML細胞系列ではBCR-ABL遺伝子が増幅された(例えばE. Weisbergら、Blood 95, 3498(2000);P. le Coutreら、Blood 95, 1758(2000);およびF.X. Mahonら、Blood 96, 1070(2000)を参照)。本発明者らは、二色蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)実験を行って、BCR-ABL遺伝子の増幅が、ヒト臨床試料のSTI-571耐性に同様に関連することを示した(実施例3を参照)。
【0045】
本開示では、さまざまな患者群から得られたデータを説明する。表1A-1Fは、患者データの概要である。実施例1で説明するように、本発明者らは、BCR-ABLの変異がSTI-571に対する耐性をもたらしうるという可能性も考慮した。したがって、Bcr-AblのキナーゼドメインのATP結合ポケットおよび活性化ループに対応する579塩基対の領域の配列を、再発時にRNAの入手が可能であった9人の患者について決定した(図4A)。1つの、同一のC→Tヌクレオチド変化が、ABLヌクレオチドの944位で、調査対象の9例中6例で検出された(図4A)。全6人の患者では、野生型と変異型のcDNAクローンの混合物が認められ、変異型クローンの出現頻度は17〜70%であった。この変異は、リンパ性疾患患者の3人中3人で、また骨髄性急性転化の患者の6人中3人で認められた。変異の存在は、ゲノムDNAを解析して確認した(図4A)。
【0046】
T315I Bcr-Abl と命名されたMARSでは、1つのヌクレオチド変化C→Tが、c-Ablの315位におけるスレオニンからイソロイシンへの置換を生じる。STI-571のバリアントと複合体を形成したAblの触媒ドメインの最近明らかにされた結晶構造では、c-AblのATP結合部位と活性化ループ内のアミノ酸残基が、STI-571の結合、ひいてはAblキナーゼ活性の阻害に必要なことがわかった(例えばT. Schindlerら、Science 289, 1938(2000)を参照)。Thr315は、STI-571と重要な水素結合を形成する残基の1つである。STI-571結合ポケット上におけるT315I置換の潜在的な結果を、STI-571と複合体を形成した野生型Ablキナーゼドメインの結晶構造を元にモデル化した(図4B)。Thr315の側鎖によって通常提供される酸素原子の不在は、STI-571の二級アミノ基との水素結合の形成を除外すると考えられる。またイソロイシンは、STI-571と空間的な衝突を生じて、おそらく結合を阻害することになると思われる過剰な炭化水素基を側鎖に含む。特に、このモデルから、T315I変異がATP結合に干渉しないであろうということが推定される。ATP類似体(AMP-PNP)との複合体中のHckのキナーゼドメインの構造を、Ile315 Ablキナーゼドメインのモデルに重ね合わせた。
【0047】
T315I Bcr-Ablについては、本明細書に開示するMARSの代表的な態様として説明する(例えば表1Aで説明)。本明細書に提供された発明の、ある説明では、1つの遺伝子の態様(例えばT315I Bcr-Abl)を用いて、本明細書に開示されたMARSの全て(例えば、表1に示すE255K、Q252H、V304D、M351T、E355Gなど)に適用できる、本発明の典型的な態様を説明する。本明細書では、当業者は、態様が一般に本明細書に開示された他の種(例えばE255K、Q252H、V304D、M351T、E355Gなど)に適用する場合に、1つの種(例えばT315I)に関して典型的な態様を説明することが、本発明の説明における不必要な重複を除くことを理解する。
【0048】
T315I変異は、キナーゼ活性を保持することがわかっており、またSTI-571と結合した時のキナーゼドメインの結晶構造に基づいて、STI-571とBCR/ABLの非効率的な結合を生じることが推測される。大標本数で、キナーゼドメインの変異の完全な範囲を決定するために、本発明者らは、骨髄性急性転化のCMLの患者18人を対象にBCR/ABLキナーゼドメインの配列決定を行った。13人の患者については、STI-571に対して部分反応または完全反応を示した(獲得耐性)後に、再発時に得た試料を解析した。STI-571に反応しなかった(デノボ耐性)5人の患者については、治療前に得た試料を対象に解析を行った。血液中に小数のBCR/ABL発現細胞が存在することを説明できる可能性がある、キナーゼドメインに変異があるサブクローンの検出を確実に行うために、本発明者らは典型的には通常、各患者の試料に由来する10個の独立したクローンの配列を決定した。両方のcDNA鎖の配列決定で検出された場合にのみ変異が存在するとみなした。過去に同定されたT315I変異は、他の3人の患者で認められた。
【0049】
11人の患者を対象とした本発明者らによる予備解析(Gorreら、2001、Science, Aug 3;293(5531):876-80)とともに、T315I変異が、続く研究でも、患者28人中9人で検出された(6/25は骨髄性急性転化、3/3はリンパ性急性転化またはPh+ ALL)。他の2つの変異(M351TとE255K)も、それぞれ4人の患者と3人の患者で認められた。別の変異も認められたが、必ずしも常に、再発時に優性サブクローンを示すわけではなかった。以上の知見は、BCR/ABLキナーゼドメインの変異が一般にCML急性転化で生じること、また場合によってはSTI-571投与前に検出できることを示す。以上の変異は、疾患進行、またはおそらく投与前の曝露に関連する遺伝的不安定性を反映したものである可能性がある。本発明者らが過去に、インビトロにおいて対STI-571耐性を生じることを示した、T315I変異を調べるためのプロトコルにしたがって、STI-571薬剤耐性のこれらの他の変異の重要性を決定することができる。
【0050】
このアミノ酸の置換がSTI-571活性と干渉することを確認するために、本発明者らは、T315I変異を野生型p210 Bcr-Ablに作り込んだ(例えば完全長p210 Bcr-AblをpSRaMSVtkNeoレトロウイルスベクター(例えばA.J. Mullerら、Mol.Cell.Biol. 11, 1785(1991)を参照)にサブクローニングした。ABLの944位のヌクレオチドにC→T変異を含む断片をPCRで作製し、pSRaMSVtkNeo p210 Bcr-Abl野生型中の対応する配列と交換して、pSRaMSVtkNeo p210 Bcr-Abl T315I変異体を得た。結果として得られたコンストラクト、を配列決定で確認した。細胞に野生型Bcr-Abl、またはT315I p210 Bcr-Ablをトランスフェクトし、STI-571の濃度を上昇させながら培養した。簡単に説明すると、293T細胞の一過的なトランスフェクションをCaCl2法で行った(例えばA.J. Mulletら、Mol.Cell.Biol. 11, 1785(1991)を参照)。トランスフェクションから24時間に、細胞を、さまざまな濃度のSTI-571(Novartis Pharmaceuticals、Basel、Switzerlandから供与)と2時間インキュベートした。タンパク質を抽出し、イムノブロット解析を行った。Ablイムノブロット解析からわかるように、野生型およびT315I変異型のBcr-Ablタンパク質の発現は同等であり、STI-571による変化は認められなかった(図4C、下のパネル)。抗ホスホチロシンイムノブロット解析では、野生型Bcr-AblおよびT315I変異型のキナーゼ活性は、STI-571の非存在下で同等と考えられる。野生型Bcr-Ablのキナーゼ活性はSTI-571で阻害されたが、T315I変異型は、高レベルのホスホチロシンを、検討した阻害剤の全ての濃度で保持していた(図4C、上のパネル)。
【0051】
要約すると、STI-571に対する初期反応後に疾患が進んだ11人の進行段階のCMLの患者を対象とした本発明者らによる予備解析で、STI-571投与の継続にかかわらず、Bcr-Ablシグナル伝達の再活性化が全患者で生じたことがわかる。したがって、これらの患者にみられる疾患進行の一次的な説明は、Bcr-Ablに依存しない成長を可能とする二次的な発癌性シグナルではなく、Bcr-Ablに依存した増殖のようである。多数の患者を対象とした研究で、不定期に生じる腫瘍が癌遺伝子のイニシエーションに対する依存性を回避可能な、条件的癌遺伝子を発現するトランスジェニックマウスで報告されているように、このテーマの例外を同定できる可能性がある(例えばL. Chinら、Nature 400, 468(1999);D.W. Felsherら、Mol.Cell 4, 199(1999);およびC.S. Huettnerら、Nature Genet. 24, 57(2000)を参照)。本発明者らが検討した多数の患者では、耐性機構は、標的癌遺伝子BCR-ABLの変異または増幅の結果である(1人の患者では両方)。以上の結果は、遺伝的に複雑なヒトの癌では、1つの分子標的が後期の再発性疾患で関連性を維持することの証拠となる。
【0052】
例えば興味深いことに、上記の患者にみられるAblキナーゼドメインの変異に、c-AblのThr315に対応するv-Srcとc-Srcの338位におけるスレオニン→イソロイシンの変化と顕著な類似性がある。v-Srcとc-Srcがほぼ同一のキナーゼドメイン配列(98%の同一性)を有するという事実にもかかわらず、Src阻害剤PP1によるキナーゼの阻害に対してv-Srcがc-Srcより約50倍耐性が高い(例えばY. Liuら、Chem.Biol. 6, 671(1999を参照)。
【0053】
本発明者らによる予備研究で説明された11人の患者は、STI-571により完全な血液学的緩解を示し、また場合によっては完全な細胞遺伝学的緩解を示した後に、2〜6か月以内に再発がみられた。このような臨床シナリオは、STI-571に部分的な反応しか示さないか、または全く反応しない患者のシナリオと区別しなければならない。骨髄性急性転化時にSTI-571を投与した260人の患者を対象とした第II相試験では、約20%の患者のみが、前者のグループに分類された。したがって本発明者らによる研究で記載された11人の患者は高度に選択的な集団である。この差は重要である。というのは、部分的な血液学的反応を示し、細胞遺伝学的な反応を示さない患者は、投与中に持続し、再発性の薬剤耐性サブクローンとならない、かなりの数の成熟型BCR-ABLを発現する造血細胞を有する。変異を検出するための現在のプロトコルは、他のBCR-ABL発現血液細胞に由来する再発性の薬剤耐性細胞を特異的に単離しないので、変異を検出できないことは、非感受性アッセイ法で説明できる可能性がある。これとは対照的に、細胞遺伝学的な反応後に再発する患者のBCR-ABL発現細胞の優性集団は定義上、代表的な耐性サブクローンとなる。実際に本発明者らは、T315I変異を、このような3人の患者に由来するBCR-ABL発現細胞の80%を超える細胞で見出した。
【0054】
方法に関しては本発明者らは、直接配列決定を行わずに、本発明者らの得たPCR産物をサブクローニングし、また本発明者らは、患者1人あたり少なくとも10個の独立したクローンの配列を決定した。全ての変異は、両方向の配列決定による確認を必要とした。本発明者らは、少数のBCR-ABL発現細胞に存在する可能性のある、本発明者らによる変異検出感度を最大化させるために、この方法を選択した。また、この方法では、変異を含むBCR-ABL発現細胞の一部の粗い量的推定値が得られた。このため、クローン進化の経時的な追跡が可能となった。振り返ってみると、この方法によって本発明者らは、耐性クローンがBCR-ABL発現細胞の20%未満である複数の患者でT315I変異を見つけることができた。
【0055】
STI-571耐性の出現は、新規の治療の目標となるが、Bcr-AblがSTI-571耐性細胞で活性状態を維持するという事実は、キメラ癌タンパク質が合理的な薬剤標的の地位を保つという証拠となる。今日までに調べられたかなりの割合の患者が、薬剤耐性に関連する同一の変異を有するので、用途が広いと考えられる変異型BCR-ABL対立遺伝子の阻害剤を同定することが可能かもしれない。また、この変異に関する知見は、この変異を評価する(例えば臨床的再発に先立つ薬剤耐性クローンを検出する)ためのさまざまなアッセイ法の開発に役立つ(例えばB.J. Drukerら、N.Engl.J.Med. 344, 1038(2001);A. Gogaら、Cell 82, 981(1995);E. Abruzzeseら、Cancer Genet.Cytogenet. 105, 164(1998);J.D. Thompsonら、Nucleic. Acids Res.25, 4876(1997);A.J. Mullerら、Mol.Cell.Biol. 11, 1785 (1991)を参照)。
【0056】
本明細書に記載されているように、解析の結果、STI-571耐性が、少なくとも2つの異なる機構で生じうることがわかった。一部の患者では、STI-571の細胞内濃度を克服するBcr-Ablタンパク質のレベルにおそらく至る、Bcr-Ablをコードするゲノム領域の染色体増幅がみられた(Gorreら、Science 293:876-880(2001))。もう一つの機構には、キナーゼ活性を損なうことなく薬剤-タンパク質結合とおそらく干渉する、キナーゼドメインにおける点突然変異が関与する。性質が極めて詳しく明らかにされた変異は、315位のアミノ酸におけるスレオニンからイソロイシンへの置換(T315I)である。この変異は、結晶学的モデルによれば薬剤-結合ポケットの形状を変化させる(Gorreら、Science 293:876-880(2001))。キナーゼドメイン内の他の少数の変異は、耐性獲得の症例の44例中2例(Bartheら、Science 293:2163(2001);Hochhausら、Science 293:2163(2001))から8例中7例(Von Bubnoffら、Lancet 359:487-491(2001);Lancet 359:487-491(2001))の頻度で報告されている。1つの小規模研究の結果、再発時に加速的なCML期の1人の患者で変異が検出されないが、フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病(ALL)の各5人の患者、ならびにリンパ性急性転化のCML患者1人でE255Kを含む固有の変異が見出されることがわかった(Von Bubnoffら、Lancet 359:487-491(2001))。別の研究では、フィラデルフィア染色体陽性ALLにも焦点を当てられており、E255Kが9人中6人の患者で再発時に、ならびにT315Iが9人中1人の患者で検出された(Hofmannら、Blood 99:1860〜1862(2002))。さらに最近になり、不均一患者集団を対象とした結果から、Bcr-Ablキナーゼドメインの変異が、再発性骨髄性急性転化の4例中2例(1人の患者はT315Iを有することが判明し、もう1人は新規の変異G250Eを有する証拠が得られた)に、また初期血液学的反応後に進行疾患のみられる慢性期の疾患の患者7人中2人に存在することが明らかになった。新規の変異G250E、F317L、およびM351Tが存在するの証拠はあるが、生物学的アッセイ法または生化学的アッセイ法が実施された報告はない(Branfordら、Blood 99:3472-3475(2002))。
【0057】
STI-571耐性時に、白血病細胞がBcr-Abl活性に依存することを考えれば、STI-571耐性を克服する試みは、最も一般的な耐性機構を対象としなければならない。DNAの直接配列決定を含む方法で、再発時に存在する配列のコンセンサスとなる、さまざまな頻度のキナーゼドメインの変異について報告している研究者もいる。本発明者らは、変異を検出する高感度の方法で、耐性時のBcr-Ablキナーゼドメインの変異の完全な範囲の決定を試みた。本明細書で本発明者らは、STI-571を投与した患者のBcr-Ablキナーゼドメインの本発明者らによる配列解析について報告する。これには、骨髄性急性転化の耐性獲得の症例、デノボ耐性を示す骨髄性急性転化の症例、リンパ性急性転化の症例、ならびに慢性期の細胞遺伝学的な不応性/再発の症例が含まれる。本発明者らは、Bcr-Ablのキナーゼドメインの変異が、耐性獲得のほぼ全ての症例に存在する証拠を見出した。
【0058】
より一般的な変異のサブグループの解析から、これらの変異型のイソ型が、Bcr-Ablの生物学的活性を保持するが、さまざまな程度の対STI-571耐性を生化学的アッセイ法と生物学的アッセイ法の両方で示すという証拠が得られる。キナーゼドメインにおける点突然変異は明らかに、STI-571に対する耐性が獲得されることによる一般的な機構である。また本発明者らは、個々の患者におけるSTI-571に対する多クローン性の耐性の最初の証拠を提供する。STI-571耐性の状況において、Bcr-Ablを標的とすることは、数多くの変異型Bcr-Ablのイソ型の活性を説明する必要があろう。標的療法を受けるCML患者の医学的管理は、キナーゼドメインの変異の常用の定期的な評価によって促される可能性がある。最後に本発明者らは、既存のキナーゼドメインの変異が、治療開始前のSTI-571不応性の骨髄性急性転化の少数の患者にみられる証拠を提供する。これは、慢性期CMLから急性転化のCMLへの変化が、場合によっては、活性化性のBcr-Ablキナーゼドメインの変異の蓄積によって促進される可能性があることを示唆する。ヒトの悪性腫瘍は、たとえ極めて少数の遺伝的変化に依存すると考えられても、かなり不均一の細胞集団を含む可能性が高く、また悪性腫瘍の標的療法の開発分野は、困難な障害に直面すると考えられる。
【0059】
骨髄性急性転化の症例で耐性を生じうるキナーゼドメインの変異の真の発生率および完全な範囲を決定するために、本発明者らは、STI-571投与に対する初期反応後に疾患が再発した(「獲得耐性」)患者を対象に、Bcr-Ablのキナーゼドメインの感度配列解析を行った。本発明者らは、再発性骨髄性急性転化の患者でさまざまな変異を、評価した極めて多数の症例で同定した。変異の証拠は、全4種の可変型Pループのコンセンサスアミノ酸(Gly-X-Gly-X-X-Gly-X-Val)で得られた。変異は、Pループから140アミノ酸離れて見出され、位置によってカテゴリーに分類することができた。また本発明者らは、耐性にBcr-Abl発現細胞の多クローン性の増幅が関与することが多いという証拠を提供する。
【0060】
キナーゼドメインの変異のサブセットのインビトロ解析で、野生型Bcr-Ablに対して、さまざまな程度のSTI-571耐性が存在することがわかった。本発明者らは、STI-571に対する細胞遺伝学的反応がみられない慢性期CML患者のBcr-Ablキナーゼドメインの解析も行い、キナーゼドメインの変異が数例の解析対象に存在するという証拠を得た。これらのキナーゼドメインの変異のサブセットは、再発性骨髄性急性転化の症例で認められたものと同一であった。このような状況におけるキナーゼドメインの変異の存在が、疾患の進行および総生存率の低下と強く相関することは明らかであった。最後に本発明者らは、後にSTI-571に反応しなかった骨髄性急性転化の患者のサブセットにおけるSTI-571投与前におけるSTI-571耐性キナーゼドメインの変異が存在するという証拠を見出した。
【0061】
Bcr-Ablキナーゼドメインにおける多数の変異は、骨髄性急性転化の症例で耐性時に検出可能である。疾患が当初STI-571に反応した骨髄性急性転化の患者の細胞遺伝学的な解析から、フィラデルフィア染色体がほぼ100パーセント維持されることがわかった。本発明者らは、Bcr-Ablを含むこの細胞集団から耐性クローンが出現する可能性と、このため再発時に、フィラデルフィア染色体を含む細胞のサブセットを含む可能性が高いことを想定した。配列決定によって、患者試料1人あたり10個の独立したPCR産物の配列を決定し、任意の変異を有する2個の独立した単離物を必要とすることで、本発明者らは、わずか20パーセントのBcr-Abl配列の集団を含む変異を検出する。Bcr-Ablキナーゼドメインの配列解析から、再発時に、再発性骨髄性急性転化(MBC)のCMLの17例中16例で点突然変異の存在が明らかとなった(表4参照)。過去に同定されたT315I変異が検出された。過去に報告されたE255K(Von Bubnoffら、Lancet 359:487-491(2001);Hofmannら、Blood 99:1860〜1862(2002);Branfordら、Blood 99:3472-3475(2002))も検出された。M351Tも最近報告され(Branfordら、Blood 99:3472-3475(2002))、これも検出された。新規の変異Q252Hならびに最近報告されたG250E(Branfordら、Blood 99:3472-3475(2002))は再発時に認められた。患者には、過去に報告された、チロシンがヒスチジンに置換された変異(Y253H)を含む、Y253位における2つの代替的な置換の1つが認められた(Von Bubnoffら、Lancet 359:487-491(2001);Branfordら、Blood 99:3472-3475(2002))。興味深いことに、チロシンからフェニルアラニンへの新規の変換(Y253F)も観察された。フェニルアラニンは、Srcファミリーのチロシンキナーゼのこの位置に高度に保存されており、c-Ablに作り込むと、この変異は、細胞の形質転換アッセイ法で示されるように発癌能を示すことがわかっている(Allenら、J Biol Chem 275:19585-19591(1996))。本発明者らは最近、Y253FのSTI-571に対する感受性が、野生型Bcr-AblとT315I変異型を仲介することを見出した。患者は、プロリンまたはアルギニンのいずれかへの置換に関与する、活性化ループ内のH396位に変異を示した。興味深いことに、Hck、c-Src、v-src、lck、およびFynを含む複数のチロシンキナーゼには全て、この位置がアルギニンである。新規の変異V304D、E355G、およびF359V、ならびに最近報告されたF317L(Branfordら、Blood 99:3472-3475(2002))の固有の例がそれぞれ観察された。本発明者らの検出解析法によって、本発明者らは、いくつかの新規の変異を含む、再発性骨髄性急性転化の患者から得た大部分の試料のBcr-Ablキナーゼドメインの変異を検出することができた。
【0062】
変異検出に大きな感度を提供することに加えて、本発明者らの方法により、STI-571に対する多クローン性の耐性(任意の患者における複数の耐性クローンの存在)を評価することが可能となった。実際に、STI-571に対する耐性獲得を示す骨髄性急性転化の患者がかなりのパーセンテージで、複数の独立した変異をもつことがわかった。耐性獲得の症例で、投与前に得た試料では、変異の証拠は認められなかった。
【0063】
意外なほど高頻度で多様性に富むキナーゼドメインの変異が、PCR増幅の過程で入り込んだ人工産物か否かを説明するために、本発明者らは、各2人の健康な血液ドナーから得たAblキナーゼドメインの10個の独立したサブクローンの配列を決定した。10個クローンのうち少なくとも2つの独立した単離物に本発明者らの基準を用いたところ、本発明者らはAblキナーゼドメインの変異の証拠を得られなかった。したがって本発明者らは、本明細書に記載されたBcr-Ablキナーゼドメインの変異が、PCRで導入されたエラーの結果である可能性は極めて低く、おそらくは、このようなSTI-571耐性患者におけるキナーゼドメイン配列の不均一性を正確に反映したものであると結論する。
【0064】
リンパ性急性転化のイマチニブ耐性例から、キナーゼドメインの変異が骨髄性急性転化と似ていることがわかる。再発時にリンパ性急性転化(LBC)の患者の5人中4人から得た試料の解析から、Bcr-Ablキナーゼドメインに変異が存在することがわかった。また、多クローン性の耐性に関する明瞭な証拠が認められ、4種類の異なる変異(Y253F、E255K、T315I、およびM351T)が1人の患者に共存していた。別の患者には、E255KとY253Fの両方が認められた。別の2人の患者は、T315Iを有し、他の任意の変異が存在しないことがわかった。
【0065】
Bcr-Ablキナーゼドメインの変異は、細胞遺伝学的緩解を達成できないか、または確立された主要な細胞遺伝学的反応を失う慢性期の患者で検出することが可能であり、疾患の進行および生存率の低下と関連する。細胞遺伝学的緩解が得られなかったか、または過去に達成した細胞遺伝学的緩解を失った慢性期患者に由来する細胞を対象に、Bcr-Ablキナーゼドメインの配列解析を行った。血液学的な反応が持続している時点で得た試料を対象に解析を行った。数人の患者に変異の存在が認められた。これらの変異のうち3つは、上述の再発性骨髄性急性転化の症例でも認められた(E255K、F317L、F359V)。F317Lは最近、慢性期疾患患者で、後に進行疾患となった細胞遺伝学的な持続を示した1人の患者で認められた(Branfordら、Blood 99:3472-3475(2002))。最後の変異V379Iは、他の任意の患者で、これまで認められていなかった。本発明者らが調査した患者のうち、4人が進行疾患であり、それ以降STI-571の投与が中止された。これらのうち3人が死亡し、4人目は、後に同種幹細胞移植を受けて生存している。これら4人の患者のうち3人にBcr-Ablキナーゼドメインの変異(E255K、F317L、F359V)が存在し、1人には変異の証拠は認められなかった。V379I変異を有する10人の患者は、細胞遺伝学的な反応の非存在下でSTI-571に対する反応で完全な血液学的緩解が続いている。本発明者らは、キナーゼドメインの変異が、STI-571に対する細胞遺伝学的反応または血液学的反応を失う慢性期の患者に、また完全な血液学的反応の状況でフィラデルフィア染色体を持続する慢性期の患者のサブセットに生じると結論する。
【0066】
Bcr-Ablキナーゼドメインの変異は、デノボ耐性を示す骨髄性急性転化の患者で、STI-571投与前に検出することができるが、STI-571感受性の骨髄性急性転化または慢性期CMLの患者では検出できない。Bcr-Ablキナーゼドメインの変異が、STI-571に対するデノボの耐性に役割を果たす可能性があるか否かを判定するために、本発明者らは、STI-571に対する一過性の反応さえ示さなかった4人のMBC患者に由来する治療前の試料を解析した。1人の患者は、治療開始前にT315Iを示した。同じ患者で、2つの変異(M343TおよびF382L)を含むBcr-Abl対立遺伝子も検出された。もう1人の患者では、STI-571投与に先立ちE255K変異が認められた。
【0067】
Bcr-Ablキナーゼドメインの変異は、触媒活性を保持しており、STI-571耐性をインビトロでもたらすことができる。観察された新規の変異が、対STI-571耐性をインビトロでもたらす能力をもつか否かを評価するために、本発明者らは、レトロウイルス発現プラスミド上のBcr-Ablを対象に部位特異的変異誘発法を行った。本発明の説明目的の態様では、観察された変異のうち8種類(G250E、Q252H、Y253F、E255K、T315I、F317L、M351T、およびE355G)をpSRαP210Bcr-Ablに独立に導入した。これらの変異体は、本明細書に記載された発明の好ましい態様として提供されるが、当業者は、表1に示されたような、本明細書に記載されたMARSのいずれか1つの匹敵する変異体を作製することができる。
【0068】
期待される変異の導入が成功したか否かを、キナーゼドメインの配列解析を行って確認した。8つの変異で、293-T細胞をそれぞれトランスフェクトし、STI-571に対するさまざまな程度の感受性を示すことがわかった。細胞内における酵素的阻害のIC50は、ホスホチロシンを含むBcr-Ablによって調べたところ1.27〜5.63 μMの範囲であった(図9参照)。マウスの造血細胞系列Ba/F3は、Bcr-Ablの非存在下で外因性のIL-3を必要とする。インターロイキン-3の非存在下で成長可能な安定なBa/F3細胞系列は、8種類の個々の変異型のイソ型に由来した。これから、8種類の個々の変異型のイソ型が、このアッセイ法で生物学的活性を保持することがわかる。さまざまな濃度のSTI-571が、48時間後に細胞の生存に及ぼす作用を決定した。また、8種類の変異型のイソ型が、STI-571に対するさまざまな程度の感受性を示すことがわかった。いくつかの変異体は、患者で理論的に達成可能なSTI-571濃度に対する感受性を保持する、中程度の耐性のみを示すと考えられる(図9参照)。
【0069】
キナーゼドメインの変異を含む細胞の解析から、Bcr-Ablのキナーゼドメイン側のすぐ5'側の配列に、またはc-Kitのチロシンキナーゼドメインにおける点突然変異の証拠がないことがわかる。進行期のCMLにおけるゲノム不安定性については既に報告されている。本発明者らの研究で認められた、高頻度のキナーゼドメインの変異は、個々の患者に存在するさまざまな変異のサブ集団に関する知見に加えて、DNAミスマッチ修復の全体的な低下を理論的に示すか、またはSTI-571の存在下で、これらのイソ型の強い選択を反映している可能性がある。この問題に取り組むために、キナーゼドメインの5'側のすぐ近傍のBcr-Ablの700 bpの断片の配列決定を、複数のキナーゼドメインの変異が検出された5人の患者を対象に行った。これらの試料では、別の変異が存在する証拠は認められなかった本発明者らは、第4染色体に存在し、同グループの5人の患者におけるBcr-Ablと同等の濃度でSTI-571に対する感受性を示す、関連するチロシンキナーゼc-Kitのキナーゼドメインの評価も行った。c-Kitキナーゼドメインの変異が存在する証拠は認められなかった。これは、広範囲に及ぶゲノム不安定性の可能性に反対する。本発明者らは、と仮定する。急性転化に関連するゲノム不安定性の上昇が、低いバックグラウンドのBcr-Abl配列バリアントを生じ、またSTI-571が、キナーゼ-活性STI-571耐性のBcr-Ablのイソ型の出現を強く選択する可能性がある
【0070】
本明細書で提供する開示から、本発明者らは、高感度の検出法で、Bcr-Ablキナーゼドメインの変異を、ほぼ全ての再発性骨髄性急性転化の患者で検出可能であること;耐性には、さまざまなキナーゼドメインの変異を含む細胞集団の共存が高頻度で関与すること;Bcr-Ablキナーゼドメインの変異が、インビトロでさまざまなSTI-571耐性を示すこと;キナーゼドメインの変異が、フィラデルフィア染色体を保持し、予後不良となることを予測させる慢性期CML患者のサブセットに生じること;ならびに一部のSTI-571耐性キナーゼドメインの変異が、進行期CML症例でSTI-571投与前に決定可能であり、このために変異を有する細胞における白血病駆動に寄与する可能性があることと結論する。したがってBcr-Ablキナーゼドメインの変異は、場合によっては慢性期から進行期に至るCMLの自然の進行に寄与する可能性がある。本発明者らが得た知見を考慮して、本発明者らは、STI-571を投与された患者を対象としたBcr-Ablキナーゼドメインの常用の高感度配列解析が必要になると考えている。
【0071】
上述したように、本明細書で提供する開示は、キナーゼドメインの変異が、STI-571治療失敗の一次機構であることを裏づける。キナーゼドメインの変異に関する過去の研究は主に、フィラデルフィア染色体陽性ALLおよびリンパ性急性転化のCMLの一部の症例を対象に実施された。再発性骨髄性急性転化のほぼ全ての症例で、Bcr-Ablキナーゼドメインの変異に関して本発明者らが得た知見は、過去の報告から予想されなかった。完全な細胞遺伝学的緩解率は、グリーベックを投与した骨髄性急性転化の患者では低いので、リンパ性急性転化のCMLおよびPh+ ALLの患者におけるグリーベック耐性が、より一般的には、高い遺伝的均一性を示すことがありうる。したがって、変異を検出する感度の低い方法は、このような症例におけるヌクレオチド置換の有無を適切に示す可能性があるが、再発性骨髄性急性転化の症例における変異を確実に検出できない。
【0072】
いくつかの過去の研究は、STI-571耐性例の大半において1〜2の異なるキナーゼドメインの変異が支配的であることを示唆しているが、本発明者らによる、耐性例におけるBcr-Ablキナーゼドメインの拡張解析から、このような変異の範囲が広いことがわかる(図10参照)。コンセンサス配列Gly-X-Gly-X-X-Gly-X-Valを含むPループの検討の結果、個々の非保存アミノ酸部位にSTI-571耐性変異が存在することがわかる。また、キナーゼドメインの変異は、耐性獲得の症例で非常に一般的である。
【0073】
現在の研究で用いられている方法は、個々のmRNA分子の配列を決定することができる唯一の手法である。本発明者らは本明細書で、STI-571に対する耐性を獲得した患者の細胞が、さまざまなBcr-Ablキナーゼドメインの変異を含むさまざまな細胞の多クローン性集団である場合が多いことを示す。また、この方法によって、わずか約20パーセントの耐性細胞集団を含む変異型のイソ型の検出を可能とすることによる感度の上昇が可能となる。本発明者らによる多クローン性の耐性例の多くでは、クローン優性のクローンを欠くために、直接配列決定で、コンセンサスの野生型キナーゼドメイン配列が得られると予測される。また本発明者らは、2つの異なるキナーゼドメインの変異が1本鎖のDNAに存在することの最初の直接的証拠を提供する。したがって本明細書で用いられる変異検出法は、他の研究者によって用いられているcDNAの直接配列決定法と比べて、特に出現する耐性が多クローン性の増殖の結果である症例において優れていると考えられる。
【0074】
本発明者らはさらに、STI-571の投与前における骨髄性急性転化の症例における、キナーゼドメインの変異の最初の証拠を提示する。このような変異体がゲノム不安定性を単に反映していることは、形式的に可能であるが、このような変異体が、20パーセントの頻度で存在することは、このような細胞の有意なクローン増殖を示唆している。ある種のキナーゼドメインの変異が、罹患細胞に成長上の利点をもたらす可能性があることはありうる。ウイルス性癌遺伝子v-ablは、マウスのc-ablと比較した場合に、代替的なN末端のコード配列に加えて点突然変異を含むことが知られている。この研究では、本発明者らは、疾患が後にSTI-571に反応しなくなった患者の治療前にT315Iを検出した。興味深いことに、src遺伝子の対応する残基では、v-srcは、その細胞の対応残基とイソロイシンとスレオニンの置換によって異なる。後にSTI-571に反応した患者に由来する治療前の試料にキナーゼドメインの変異が全く存在しないことを考えれば、治療前におけるキナーゼドメインの変異の存在は、遺伝的不均一性の上昇と関連性が強い、不応性疾患のマーカーとなる可能性がある。
【0075】
本発明者らは、後に進行疾患に至った多数の慢性期の患者と、フィラデルフィア染色体が継続して存在するにもかかわらずSTI-571に対する血液学的反応が続けて認められた患者9人中1人だけにキナーゼドメインの変異を検出した。したがって、このような状況でキナーゼドメインの変異を検出する能力は、血液学的再発の可能性の強固な予測因子となると考えられる。また、疾患進行が認められた3人の患者には全て、進行疾患の臨床症状の発現に先行する変異の証拠が認められた。このような状況における定期的な変異解析が、別の治療法を促すために必要であろう。疾患進行のない慢性期CMLに関する、検出可能な変異の唯一の例は、他の任意の患者で検出されていないV379I変異である。この研究で機能的に活性であることがわかっているキナーゼドメインの変異と、STI-571療法を行わない慢性期における疾患進行が相関することを考えれば、フィラデルフィア染色体をある程度保持している患者を対象にSTI-571のキナーゼドメインの変異解析を定期的に行うことは、疾患進行を予測するために、また、同種移植または他の治療法の開始を促すために有用な可能性がある。
【0076】
耐性獲得時における、圧倒的多数の患者における変異型P210イソ型に関する本発明者らの知見は、Bcr-Ablキナーゼドメインにおける点突然変異が、STI-571療法失敗の第1の原因であるという考えを補強する。したがって、CMLの標的療法の将来は、Bcr-Ablキナーゼドメインの変異に関連するSTI-571耐性の克服に依存する。STI-571に対するキナーゼドメインの変異型のイソ型の感受性に差があることは考慮に値する。ヒトで理論的に達成されるSTI-571の濃度に対する、F317L、M351T、およびE355Gなどの一部の変異体の感受性を考えれば、高用量のSTI-571を用いる臨床試験が、耐性獲得の一部の症例では必要となるであろう。しかし、T315I、E255K、およびG250Eなどの数少ない変異は、極めて高濃度のSTI-571に対する耐性を明らかにもたらす。本発明者らは、STI-571耐性獲得を示す、慢性期および進行期のCML両方に対する将来の医学的管理は、変異特異的なPCRを必要とすること、ならびに、ある種の変異の有無に依存して、用量の増加が試みられる場合があると考えている。高度の耐性を示すT315I、E255K、またはG250Eなどの変異体のイソ型が継続してクローン優性を達成する場合、大部分のSTI-571耐性のイソ型に対する活性をもつ第2世代の薬剤を次に使用することになるだろう。
【0077】
高感度の変異検出法の臨床応用性は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の治療で最も良好に確立されている。この場合、いくつかの標的療法が用いられ、術者は、対象患者の血液中に検出されるレトロウイルス変異の範囲を元に定期的に治療の決定を行う。ときには、薬剤耐性変異は、ウイルスの複製能力を大きく妨げ、抗レトロウイルス剤の使用は、野生型のHIVを再び確立させるために中止される。個々のさまざまな変異型Bcr-Ablのイソ型の生化学的活性および生物学的活性を明らかにすることは重要だろう。仮に、野生型Bcr-Ablとの比較で、一部のSTI-571耐性変異が、実際に、成長促進作用の低下を示す場合、急性転化段階に向かって疾患が進行するのを遅らせるために間欠的なSTI-571療法が開始される可能性がある。
【0078】
CML治療用のSTI-571の開発は、ヒト悪性腫瘍の標的療法の将来に向かって前進を続けている。本発明者らの研究は、調査されたほぼ全ての耐性獲得例における悪性クローンに不可欠なBcr-Ablの活性に明確に関連する。イマチニブは、慢性期のCMLの治療に対して、より一般的に使用されている。本明細書で本発明者らは、STI-571療法にかかわらず細胞遺伝学的に持続的な14例中4例におけるキナーゼドメインの変異の例を提供した。キナーゼドメインの変異の存在は、後の進行疾患の発現および総生存率の低下と強く相関する。したがってBcr-Ablの活性は、依然として将来の治療法における最適な標的である。本発明者らの知見に関しては、STI-571を投与した他の悪性腫瘍(転移性消化器間質性腫瘍など)に対する耐性獲得を理解する試みは論理的には、c-Kitキナーゼドメインの高感度の配列解析から開始されるであろう。本発明者らは、CMLの臨床的管理の将来には、高感度のキナーゼドメインの変異検出法の常用に加えて、Bcr-Abl、ならびにキナーゼ活性STI-571耐性のイソ型および下流のエフェクターを標的とする能力を有する複数の薬剤を使用する併用分子療法が関与することを想定している。
【0079】
本発明の典型的な態様を以下に述べる。
【0080】
MARSポリヌクレオチド
MARSのいくつかの特定の配列を表1に示す。本発明の1つの局面は、MARSタンパク質およびこの断片、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、および関連分子をコードするポリヌクレオチド、MARSの遺伝子もしくはmRNAの配列、またはこの一部に相補的なポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、ならびにMARSの遺伝子、mRNAとハイブリッドを形成する、またはMARSのコードするポリヌクレオチド配列(集合的に「MARSポリヌクレオチド」)とハイブリッドを形成する、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドを含む、MARSの遺伝子、mRNA、および/またはコード配列の全体または一部に対応する、または相補的な、好ましくは単離された状態のポリヌクレオチドを提供する。本明細書で用いる、MARSの遺伝子およびタンパク質は、本明細書に具体的に記載されたMARSの遺伝子およびタンパク質、ならびにMARSタンパク質に対応する遺伝子およびタンパク質を含むことを意味する。本明細書に開示された発明の典型的な態様は、MARSのmRNA配列の特定の部分(およびこのような配列に相補的な配列)を含むMARSポリヌクレオチド(例えばT315Iコドン配列をコードする配列)を含む。
【0081】
したがって本発明の1つの特定の局面は、T315I Bcr-Ablタンパク質、およびこの断片、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、ならびに関連分子をコードするポリヌクレオチド、T315I Bcr-Ablの遺伝子もしくはmRNAの配列、またはこの一部に相補的なポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、ならびにT315I Bcr-Ablの遺伝子、mRNAとハイブリッドを形成する、またはポリヌクレオチドをコードするT315I Bcr-Abl(集合的に「T315I Bcr-Ablポリヌクレオチド」)とハイブリッドを形成するポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドを含む、T315I Bcr-Ablの遺伝子、mRNA、および/またはコード配列の全体または一部に対応する、または相補的なポリヌクレオチドを、好ましくは単離された状態で提供する。本明細書で用いる、T315I Bcr-Ablの遺伝子およびタンパク質は、特に本明細書に記載されたT315I Bcr-Ablの遺伝子およびタンパク質、ならびにT315I Bcr-Ablタンパク質に対応する遺伝子およびタンパク質を含むことを意味する。本明細書に開示された発明の典型的な態様は、T315I Bcr-AblのmRNA配列(およびこのような配列に相補的な配列)の特定の部分(例えばT315I コドンをコードする配列)を含むT315I Bcr-Ablのポリヌクレオチドを含む。
【0082】
本発明のMARSポリヌクレオチドは、以下としてMARS遺伝子(群)、mRNA(群)、またはこの断片の検出を含むがこれらに限定されない、さまざまな目的に有用である:癌の診断用および/または予後予測用の試薬;MARSポリペプチドの発現を誘導可能なコード配列;MARSタンパク質の機能を調節したり阻害したりするツール。
【0083】
本発明のこの局面の別の特定の態様は、本発明のMARSポリヌクレオチド、またはこの任意の特定の部分の特異的な増幅を可能とするプライマーおよびプライマー対、ならびに、本発明の核酸分子、またはこの任意の部分と選択的または特異的にハイブリッドを形成するプローブを含む。プローブは、例えば放射性同位元素、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤、または酵素などの検出マーカーで標識することができる。このようなプローブおよびプライマーは、試料中のMARSポリヌクレオチドの有無を検出するために使用することが可能であり、またMARSタンパク質を発現する細胞を検出する手段として使用することができる。
【0084】
このようなプローブおよびプライマーの例には、表1に示すヒトMARSのcDNA配列の全体または一部を含むポリペプチドなどがある。MARSのmRNAを特異的に増幅する能力をもつプライマー対(例えば本明細書に記載されたプライマー)の例は、当業者によって容易に確認される。当業者に理解されるように、極めて多種多様なプライマーおよびプローブを、本明細書に提供される配列を元に調製して、MARSのmRNAを増幅および検出するために有効に使用することができる。
【0085】
組換えDNA分子および宿主-ベクター系
本発明は、当技術分野で周知のファージ、プラスミド、ファジミド、コスミド、YAC、BAC、ならびにさまざまなウイルス、および非ウイルスベクターを含むがこれらに限定されないMARSポリヌクレオチドを含む組換えDNA分子またはRNA分子、ならびにこのような組換えDNA分子またはRNA分子で形質転換した細胞、またはトランスフェクトされた細胞も提供する。本明細書で用いる、組換えDNA分子またはRNA分子は、インビトロにおける分子操作を受けたDNA分子またはRNA分子である。このような分子を作製する方法は周知である(例えばSambrookら、1989、前記、を参照)。
【0086】
本発明はさらに、適切な原核生物または真核生物の宿主細胞内にMARSポリヌクレオチドを含む組換えDNA分子を含む宿主-ベクター系を提供する。適切な真核宿主細胞の例には、酵母細胞、植物細胞、または哺乳類細胞もしくは昆虫細胞(例えばSf9細胞などのバキュロウイルス感染細胞)などの動物細胞などがある。適切な哺乳類細胞の例には、組換えタンパク質(例えばCOS細胞、CHO細胞、293細胞、293T細胞など)の発現に常用されている哺乳類細胞を含むさまざまな癌細胞系列、他のトランスフェクト可能な細胞系列または形質転換可能な細胞系列がある。具体的には、MARSをコードする配列を含むポリヌクレオチドは、常用されていて当技術分野で周知の任意の数の宿主-ベクター系を用いて、MARSタンパク質およびこの断片を作製するために使用することができる。
【0087】
MARSタンパク質またはこの断片の発現に適切な、さまざまな宿主-ベクター系を利用できる。これについては例えばSambrookら、1989、前記;「Current Protocols in Molecular Biology」、1995、前記、を参照されたい。哺乳類における発現に好ましいベクターには、pcDNA 3.1 myc-His-tag(Invitrogen)、およびレトロウイルスベクターpSRαtkneo(Mullerら、1991, MCB 11:1785)などがあるがこれらに限定されない。これらの発現ベクターを用いて、例えばCHO、COS、293、293T、rat-1、3T3などの細胞系列でMARSを発現させることができる。本発明の宿主-ベクター系は、MARSタンパク質またはこの断片の産生に有用である。このような宿主-ベクター系を用いて、MARSおよびMARSの変異の機能特性を調べることができる。
【0088】
MARSポリペプチド
本発明の別の局面は、MARSタンパク質、およびこのポリペプチド断片を提供する。本発明のMARSタンパク質は、本明細書で同定されたタンパク質を特に含む。さまざまなMARSタンパク質、またはこの断片の一部を組み合わせた融合タンパク質、ならびにMARSタンパク質と異種ポリペプチドの融合タンパク質も含まれる。このようなMARSタンパク質は集合的に、MARSタンパク質、本発明のタンパク質、またはMARSと呼ばれる。本明細書で用いる「MARSポリペプチド」という表現は、ポリペプチド断片、または少なくとも約6アミノ酸のMARSタンパク質(例えばT315IなどのMARSを含む約6残基の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも約10〜15残基のアミノ酸を有するBcr-Ablポリペプチド)を意味する。
【0089】
MARS遺伝子、またはこの断片にコードされるタンパク質には、抗体の作製、ならびにリガンドおよび他の薬剤(例えば2-フェニルピリミジンなどの小分子)、およびMARSの遺伝子産物に結合する細胞成分を同定する方法を含むがこれらに限定されない、さまざまな用途がある。MARSタンパク質またはこの断片に対する抗体は、リンパ系列の癌を含むがこれらに限定されないMARSタンパク質の発現を特徴とするヒトの癌の管理における、診断アッセイ法および予後予測アッセイ法、画像法(特に癌の画像化を含む)、ならびに治療法に有用な場合がある。さまざまな種類の放射免疫アッセイ法、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素結合免疫蛍光アッセイ法(ELIFA)、免疫細胞化学法などを含むがこれらに限定されない、MARSタンパク質の検出に有用な、さまざまな免疫学的アッセイ法が対象となる。このような抗体を標識して、白血病細胞の検出能力を有する(例えばラジオシンチグラフィー画像法における)免疫学的画像化用試薬として使用することができる。
【0090】
MARS抗体
「抗体」という表現は、広い意味で、また具体的には1種類の抗MARSモノクローナル抗体(作動物質、拮抗物質、および中和抗体を含む)、ならびにポリエピトープ特異性を有する抗MARS抗体組成物を対象に用いられる。本明細書で用いる「モノクローナル抗体」(mAb)という表現は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する(個々の集団を含む抗体は、少量存在する場合がある可能な天然の変異を除いて同一である)。
【0091】
本発明の別の局面は、MARSのタンパク質およびポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体を提供する。最も好ましい抗体は、MARSタンパク質に特異的に結合し、Bcr-Ablのタンパク質およびポリペプチドには結合しない(または弱く結合する)。特に対象となる抗MARS抗体には、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、ならびに抗原結合ドメインを含む断片、および/またはこれらの抗体の1つまたは複数の相補性決定部などがある。本明細書で用いられるように「抗体断片」は、その標的に結合する免疫グロブリン分子の可変領域(抗原結合領域)の少なくとも一部と定義される。
【0092】
いくつかの応用では、特定のMARSタンパク質、および/または特定の構造ドメイン内のエピトープと特異的に反応する抗体を作製することが望ましい場合がある。例えば、診断目的に有用な好ましい抗体は、癌細胞で発現されるMARSタンパク質の変異領域中のエピトープと反応する抗体である。このような抗体は、本明細書に記載されたMARSタンパク質を用いるか、そのさまざまなドメインに由来するペプチドを免疫原として用いるかして作製することができる。
【0093】
本発明のMARS抗体は、癌(例えば慢性骨髄性白血病)の治療法、診断アッセイ法、および予後予測アッセイ法、ならびに画像法に特に有用な場合がある。同様に、このような抗体は、他の種類の癌でMARSも発現されているか、または過剰に発現されている限りにおいて、他の癌の診断および/または予後予測に有用な場合がある。本発明は、MARSおよび変異型MARSのタンパク質およびポリペプチドの検出および定量に有用なさまざまな免疫学的アッセイ法を提供する。このようなアッセイ法は一般に、適切であれば、MARSまたは変異型MARSのタンパク質に認識および結合する能力をもつ1種または複数のMARS抗体を含み、またさまざまな種類の放射免疫アッセイ法、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素結合免疫蛍光アッセイ法(ELIFA)などを含むがこれらに限定されない、当技術分野で周知のさまざまな免疫学的アッセイ法フォーマットの一部として実施することができる。また、癌細胞を検出可能な、標識MARS抗体を用いるラジオシンチグラフィー画像法を含むがこれらに限定されない免疫学的画像法も本発明で提供される。このようなアッセイ法は、癌(特に慢性骨髄性白血病)の検出、モニタリング、および予後予測に臨床的に使用することができる。
【0094】
MARSトランスジェニック動物
MARSをコードする核酸を使用して、治療的に有用な試薬の開発およびスクリーニングに有用な、いずれかのトランスジェニック動物を作製することもできる。トランスジェニック動物(例えばマウスやラット)は、導入遺伝子を含む細胞を有する動物である(導入遺伝子は、動物にまたは動物の祖先に出生前(例えば胚形成期)に導入される)。導入遺伝子は、細胞のゲノムに組み込まれるDNAである(この細胞からトランスジェニック動物が発生する)。1つの態様では、T315I Bcr-AblをコードするcDNAを用いて、確立された手法でT315I Bcr-AblをコードするゲノムDNAをクローニングすることができる。またゲノム配列を用いて、T315I Bcr-AblをコードするDNAを発現する細胞を含むトランスジェニック動物を作製することができる。トランスジェニック動物(特にマウスやラットなどの動物)を作製する方法は、当技術分野で従来の方法となっており、また例えば米国特許第4,736,866号および第4,870,009号で説明されている。典型的には、特定の細胞が、組織特異的なエンハンサーを伴うMARS導入遺伝子の組込みの標的となる。胚形成期に対象動物の生殖系列に組み込まれた、MARSをコードする導入遺伝子のコピーを含むトランスジェニック動物を使用して、MARSをコードするDNAの発現の上昇による作用を調べることができる。このような動物は、例えば、その発現に関連する病理学的条件に対する防御もたらすと考えられる試薬のテスター動物として使用することができる。本発明のこの局面に基づき、動物を、試薬で処理し、病的条件の発生率が、導入遺伝子をもつ未処理の動物と比較して小さくなれば、対象病的条件に対する潜在的な治療介入法であることになる。
【0095】
MARSの検出法
本発明の別の局面は、MARSポリヌクレオチドおよびMARSタンパク質の検出法、ならびにMARSを発現する細胞の同定法に関する。MARSの発現プロファイルは、疾患状態の診断マーカーとなる。詳しく後述するように、患者試料中のMARS遺伝子産物の状態は、インサイチューハイブリダイゼーション、RT-PCR解析(例えばレーザー捕捉顕微解剖試料を対象とする)、ウエスタンブロット解析、および組織アレイ解析を含むノーザンブロッティング法の1種である免疫組織化学的解析を含む、当技術分野で周知のさまざまなプロトコルで解析することができる。
【0096】
具体的には本発明は、細胞調製物などの生物試料中のMARSポリヌクレオチドを検出するためのアッセイ法を提供する。MARSポリヌクレオチドを増幅および/または有無を検出するいくつかの方法は当技術分野で周知であり、本発明のこの局面の実施に用いることができる。
【0097】
1つの態様では、生物試料中のMARSのmRNAを検出する方法は、少なくとも1本のプライマーを用いた逆転写で試料からcDNAを作製する段階;このように作製されたcDNAを、内部のMARSのcDNAを増幅するためにMARSポリヌクレオチドをセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーとして用いて増幅する段階;ならびに、増幅されたMARSのcDNAの有無を検出する段階を含む。任意の数の適切なセンスプローブおよびアンチセンスプローブの組み合わせを、MARS用に提供される、またこの目的で使用されるヌクレオチド配列から設計することができる。
【0098】
本発明は、生物試料中のMARSタンパク質の有無を判定するためのアッセイ法も提供する。MARSタンパク質の検出法も周知であり、例えば免疫沈殿法、免疫組織化学的解析、ウエスタンブロット解析、分子結合アッセイ法、ELISA、ELIFAなどがある。例えば1つの態様では、生物試料中のMARSタンパク質の有無の判定法は、最初に試料にMARS抗体、そのMARS反応性断片、またはMARS抗体の抗原結合領域を含む組換えタンパク質を接触させる段階;ならびに、次に試料中のMARSタンパク質の結合を検出する段階を含む。
【0099】
MARSを発現する細胞の同定法も提供する。1つの態様では、MARS遺伝子を発現する細胞を同定するアッセイ法は、細胞中におけるMARSのmRNAの有無を判定する段階を含む。細胞中の特定のmRNAの検出法は周知であり、例えば、相補的DNAプローブを用いるハイブリダイゼーションアッセイ法(標識MARSリボプローブを用いるインサイチューハイブリダイゼーション、ノーザンブロット法、および関連手法など)、ならびに、さまざまな核酸増幅アッセイ法(MARSに特異的な相補的プライマーを用いるRT-PCR、および例えば分枝状DNA、SISBA、TMAなどの他の増幅を利用する検出法など)を含む。
【0100】
本明細書に開示された発明の重要な局面は、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列内のアミノ酸の置換が、STI-571などのチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性をもつ癌細胞を産生可能であるという発見である。具体的には当業者であれば、薬剤耐性の生理学的機構が多様であること、ならびに薬剤耐性が典型的には、薬剤を細胞外へ運び出すタンパク質の発現の上昇などの他の機構を介して生じることを理解する(例えばSuzukiら、Curr Drug Metab 2001 Dec;2(4):367-77を参照)。したがって、本明細書の開示は、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列が、薬剤耐性細胞の同定に関する方法(ヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換を、チロシンキナーゼ阻害剤による治療を受ける被験者から同定する方法など)における解析の標的となることを確認するための科学的証拠を提供する。
【0101】
本発明の好ましい態様は、以下の段階を含む、チロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択されたヒト癌細胞で発現される、ある程度のレベルのチロシンキナーゼ活性を有する少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチド中に少なくとも1残基のアミノ酸の置換を同定する方法である:ヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を決定する段階、ならびにヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列と比較することで、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチドのアミノ酸の置換が同定可能な段階。本発明の好ましい方法では、このように同定されたアミノ酸の置換は、ある程度のレベルの対STI-571耐性をもたらす。
【0102】
本明細書に開示された発明の重要な局面は、STI-571などのチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性をもつ癌細胞を生じる変異を含む、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列内の明瞭な領域が定義および記述されていることである。この発見によって当業者は、診断プロトコルで同領域を中心に扱うことで、このような解析を速やかに実施できるようになる。この文脈では、本発明の好ましい方法は、以下の段階を含む、チロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択された被験者に由来するヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換を同定する方法である:ヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を決定する段階、ならびに、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列と比較することで、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換が同定可能な段階(アミノ酸の置換は、残基D233〜残基T406を含む、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の領域に存在する)。特定の科学理論に拘束されることはないが、本明細書に開示されたデータは、同領域がSTI-571との相互作用に優性に関与するBcr-Ablの一部の構造的アーキテクチャーの境界となることの証拠となる。
【0103】
本明細書に開示された発明の別の重要な局面は、STI-571などのチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性をもつ癌細胞を作製可能な変異を含む、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列内の明瞭なサブ領域が定義および記述されていることである。この発見によって当業者は、診断プロトコルで、このようなサブ領域を中心に扱うことで、このような解析を速やかに実施できるようになる。この文脈では、本発明の好ましい方法は、以下の段階を含む、チロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択された被験者に由来するヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換を同定する方法である:ヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を決定する段階、ならびに、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列と比較することで、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換が同定可能な段階(アミノ酸の置換は、Pループ(配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の残基G249〜残基V256)、ヘリックスC(配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の残基E279〜残基I293)、触媒ドメイン(配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の残基H361〜残基R367)、または活性化ループ(配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の残基A380〜残基P402)に生じる)。または、このアミノ酸の置換は、一方のサブ領域の近傍(例えば約10アミノ酸残基以内)にサブ領域の機能を乱すように位置する
【0104】
本明細書に開示された発明の特に重要な局面は、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列内の明瞭な残基位置が、変異した場合に、STI-571などのチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性をもつ癌細胞を産生することが定義および記述されていることである。この発見によって当業者は、診断プロトコルで、このような残基位置を中心に扱うことで、このような解析を速やかに実施できるようになる。この文脈では、本発明の好ましい方法は、以下の段階を含む、チロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択された被験者に由来するヒト癌細胞で発現された少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換を同定する方法である:ヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を決定する段階;ならびに、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列と比較することで、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換が同定可能な段階(アミノ酸の置換は、残基

に生じる)。
【0105】
変異が生じると、チロシンキナーゼ阻害剤(STI-571など)に対する耐性をもつ癌細胞を生じる、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列内の明瞭な残基位置の上記のような同定は重要である。というのは部分的には、秩序だった実験によって、ポリペプチド鎖内の特定の位置における特定の残基の特性が、タンパク質の機能的完全性のいくつかの局面を維持するために重要であることが明らかにされている状況では、以上の「活性」アミノ酸位置の1つにおけるアミノ酸側鎖の大きさ、形状、電荷、水素結合能力、または化学反応性の変化が、タンパク質の特性に何らかの経路で影響を及ぼす可能性が高いことを説明する技術分野が存在するからである(例えばRudigerら、「Peptide Hormones」、University Park Press(1976)を参照)。この理由によって当業者は、Bcr-Ablポリペプチドのキナーゼ活性を阻害するSTI-571の能力に影響を及ぼす、野生型タンパク質におけるSTI-571によるチロシンキナーゼ活性の阻害に重要であることがわかる残基の置換を合理的に予測すると思われる。本明細書に開示されているように、STI-571耐性に及ぼす、任意の置換変異(または切り詰め、欠失、フレームシフトなど)の特定の作用は、実施例に記載されているプロトコルなどで調べることができる。
【0106】
本明細書に開示された方法の特定の態様では、アミノ酸の置換は、

である。置換の同定は、本発明の好ましい態様であるが、本明細書に開示された方法で、K245STOPまたはE334STOPなどのアミノ酸残基の位置に終止コドンが導入される変異から生じる切り詰めなどの、STI-571などのチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性に関連する他の変異を同定することもできる。
【0107】
本発明の態様は、癌細胞で発現されるポリペプチドの配列を、配列番号:1に示されたポリペプチド配列と比較した時に生じる、Bcr-Ablポリペプチド配列内の全アミノ酸位置の任意の1つのアミノ酸(例えばM1、L2、E3〜V1128、Q1129、およびR1130)を含む。この文脈では、本発明の好ましい態様では、残基

を調べるとよい。特定の態様では、残基

を調べるとよい。
【0108】
当技術分野で周知のように、1つの残基を調べることが望ましい場合があり、必ずしもBcr-Ablポリペプチド配列の全てのアミノ酸の位置を調べなくともよい。したがって本発明の別の態様は、以下の段階を含む、チロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択された被験者に由来するヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換を同定する方法である:ヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を決定する段階;ならびに、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列と比較することで、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換が同定可能な段階(アミノ酸の置換は、残基

には生じない)。本発明の対応する態様は、Bcr-Ablポリペプチド中の1個または複数のアミノ酸変異を調べるが、Bcr-Ablポリペプチド配列内の別の特定のアミノ酸位置を調べない方法を含む(例えば残基位置315位を調べるが残基位置255位は調べない方法)。
【0109】
Bcr-Ablのポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドの配列は、本明細書に開示されているような、当技術分野で周知のさまざまなプロトコルの任意の1つで同定することができる。好ましい方法では、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリヌクレオチドは、ポリメラーゼ連鎖反応で単離される。また、1つのチロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択された被験者に由来するヒト癌細胞で発現される1つのBcr-Ablポリペプチドの同定に用いられる方法は、別のチロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択された被験者に由来するヒト癌細胞で発現される1つのBcr-Ablポリペプチドの同定に用いられる方法と同一な場合がある。本発明の説明目的の方法では、キナーゼ阻害剤は2-フェニルアミノピリミジンである。
【0110】
本明細書に記載されているように、本発明の方法は、STI-571などの特定のチロシンキナーゼ阻害剤で被験者の治療を行うか否かの判定に使用することができる。本明細書に開示された発明の別の態様は、以下の段階を含む、哺乳類細胞中のBcr-Ablポリヌクレオチド中の変異を同定する方法である(Bcr-Ablポリヌクレオチド中の変異は、2-フェニルアミノピリミジンによるBcr-Ablチロシンキナーゼ活性の阻害に関連する):哺乳類細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリヌクレオチドの配列を決定する段階、ならびにBcr-Ablポリヌクレオチドの配列を、配列番号:1に示されたポリペプチド配列をコードするBcr-Ablポリヌクレオチド配列と比較する段階(Bcr-Ablポリヌクレオチド中の変異は、配列番号:1に示されたポリペプチド配列のアミノ酸残基の位置:

における変化を含む。本明細書で用いる「2-フェニルアミノピリミジンによるBcr-Ablチロシンキナーゼの阻害に対する耐性に関連するBcr-Ablポリヌクレオチド」という表現は、STI-571などの2-フェニルアミノピリミジン(または類似体もしくはこの誘導体)に対して、ある程度のレベルの耐性を示す癌細胞で同定されたBcr-Ablポリヌクレオチド、また、配列番号:1に示されたポリペプチド配列(例えば表1Aに記載された配列)と少なくとも1つのアミノ酸の差を有するポリペプチドをコードするBcr-Ablポリヌクレオチドを意味する。好ましくは、2-フェニルアミノピリミジンによるBcr-Ablチロシンキナーゼの阻害に対する耐性に関連するBcr-Ablポリヌクレオチドは、STI-571などの2-フェニルアミノピリミジンに対して、ある程度のレベルの耐性を示すポリペプチドをコードする。
【0111】
選択的に、上記の方法では、哺乳類細胞はヒトの癌細胞である。好ましい方法では、ヒトの癌細胞は、慢性骨髄性白血病細胞である。極めて好ましい方法では、ヒトの癌細胞は、STI-571を投与された被験者から得られる。選択的に、ヒトの癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換は、STI-571によるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性をもたらす。
【0112】
MARS発現解析は、MARSの遺伝子発現を調節する薬剤を同定および評価するツールとして有用な場合もある。MARS活性を阻害する可能性がある分子または生物薬剤の同定には治療上効果がある。
【0113】
MARSの状態のモニタリング
MARSのmRNAが、STI-571耐性を示す癌で発現されるという知見は、Bcr-Ablの変異がSTI-571耐性と関連し、したがって同遺伝子、およびその産物が、当業者が用いてMARS発現関連疾患の存在が疑われる被験者に由来する生物試料を評価可能な標的となることの証拠となる。この文脈では、MARSの遺伝子およびその産物の状態を評価することで、組織試料の疾患可能性に関する情報が得られる。
【0114】
この文脈における「状態」という表現は、当技術分野で受け入れられている意味で用いられ、また調節配列を含む遺伝子の完全性および/またはメチル化、発現遺伝子産物の位置(MARS発現細胞の位置を含む)、発現遺伝子産物(MARSのmRNA、ポリヌクレオチド、およびポリペプチドなど)の存在、レベル(例えばMARSを発現する骨髄性癌細胞が骨髄性癌細胞の全集団に占めるパーセンテージ)、および生物学的活性、発現遺伝子産物に対する転写段階および翻訳段階の修飾の有無、ならびに発現遺伝子産物とタンパク質結合パートナーなどの他の生物分子との関連を含むがこれらに限定されない遺伝子およびその産物の条件を意味する。MARSの状態は、典型的には以下で説明されている、当技術分野で周知のさまざまな方法で評価することができる。
【0115】
MARSの状態は、特定の疾患の段階、進行、および/または腫瘍の病原力に対する感受性の推定に有用な情報となる場合がある。本発明は、MARSの状態を決定するための、またMARSを発現する癌を診断するための方法およびアッセイ法を提供する。患者試料中のMARSの状態は、免疫組織化学的解析、インサイチューハイブリダイゼーション、レーザー捕捉顕微解剖試料を対象とするRT-PCR解析、臨床試料および細胞系列のウエスタンブロット解析、ならびに組織アレイ解析を含むがこれらに限定されない、当技術分野で周知のいくつかの手段で解析することができる。MARSの遺伝子および遺伝子産物の状態を評価するための典型的なプロトコルは、例えばAusubelら編、1995、「Current Protocols In Molecular Biology」の第2部[ノーザンブロッティング]、第4部[サザンブロッティング]、第15部[免疫ブロッティング]、および第18部[PCR解析]で説明されている。
【0116】
本発明の典型的な局面は、治療計画におけるSTI-571の有効性の評価に関する。代表的な態様では、STI-571の有効性の評価法は、組織試料中のMARSのmRNAまたはMARSタンパク質を検出する段階を含む(その存在は、STI-571に対する耐性が存在する可能性を示す)(MARSのmRNAの発現の程度(例えば1種または複数のMARSを発現するクローンの占めるパーセンテージ)は、STI-571に対する耐性の可能性に比例する)。
【0117】
本発明の別の局面は、被験者の癌の段階の調査に関する。1つの態様では、癌の段階を調査する方法は、組織試料中のMARSのmRNA、またはMARSタンパク質を検出する段階を含む(その存在は、癌に対する感受性を示す)(MARSのmRNAの発現の程度は、感受性の程度に比例する)。特定の態様では、組織試料中のMARSの有無を調査する(試料中にMARSが存在することは、白血病のある段階(または白血病の出現もしくは存在)を示す)。密接に関連する態様では、これらの分子の構造の変化(挿入、欠失、置換など)を見極めるために生物試料中のMARSのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の完全性を評価することができる(試料中のMARS遺伝子産物1つまたは複数の変化の存在は、癌の段階もしくは感受性(または癌の種類もしくは段階の出現または存在)の指標となる)。
【0118】
本発明のさらに別の関連する局面は、腫瘍の病原力の評価法に関する。1つの態様では、腫瘍の病原力の評価法は、腫瘍試料中の細胞で発現されるMARSのmRNAまたはMARSタンパク質のレベルを決定する段階、このように決定されたレベルを、対応する対照組織で発現されるMARSのmRNAまたはMARSタンパク質のレベルと比較する段階を含む(MARSのmRNAの発現の程度は病原力の程度と比例する)。特定の態様では、白血病の病原力を、腫瘍細胞でMARSが発現される程度を決定することで評価する(1種または複数のMARSを発現する細胞が比較的多い数の場合、病原力の高い腫瘍である(STI-571などの治療的薬剤に対して耐性を示す)ことを意味する)。
【0119】
本発明のさらに別の関連する局面は、被験者の悪性腫瘍の経時的な進行を観察する方法に関する。1つの態様では、被験者の悪性腫瘍の進行を経時的に観察する方法は、腫瘍の試料中の細胞で発現されるMARSのmRNAまたはMARSのタンパク質のレベルを決定する段階、このように決定されたレベルを、同じ被験者の異なる時期に由来する同等の組織試料で発現されるMARSのmRNAまたはMARSのタンパク質のレベルと比較する段階を含む(腫瘍試料中の経時的なMARSのmRNAまたはMARSのタンパク質の発現の程度は、癌の進行に関する情報となる)。特定の態様では、癌の進行を、腫瘍細胞内におけるMARSの発現の経時的な変化の程度を決定することで評価する(経時的な発現レベルが高いことは、癌の進行を意味する)。
【0120】
遺伝子増幅は、Bcr-Ablの状態を評価するための別の方法となる。遺伝子増幅は、例えば、本明細書に記載された配列に基づく適切に標識されたプローブを用いる、従来のサザンブロッティング、mRNAの転写を定量するノーザンブロッティング(Thomas, 1980, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 77:5201-5205)、ドットブロッティング(DNA解析)、またはインサイチューハイブリダイゼーションによって、試料を対象に直接測定することができる。または、DNA2本鎖、RNA2本鎖、およびDNA-RNAハイブリッド2本鎖、またはDNA-タンパク質2本鎖を含む特定の2本鎖を認識可能な抗体を使用することができる。抗体は標識することが可能で、またアッセイ法は、2本鎖を表面に結合させ、表面で2本鎖が形成されることで、2本鎖に結合した抗体の有無を検出するように実施することができる。
【0121】
上記の診断法は、当技術分野で周知のさまざまな予後予測プロトコルおよび診断プロトコルの任意の1つと組み合わせることができる。例えば、本明細書に開示された発明の別の態様は、の組織試料の状態の診断および予後予測の手段として、MARS遺伝子および/またはMARS遺伝子産物の発現と、悪性腫瘍に関連する因子との一致を観察する方法に関する。この文脈では、通常は悪性腫瘍と関連する遺伝子の発現、ならびに全体的な細胞学的観察などの、悪性腫瘍に関連するさまざまな因子を用いることができる(例えばBockingら、1984, Anal.Quant.Cytol. 6(2):74-88;Eptsein、1995, Hum.Pathol. 26(2):223-9;Thorsonら、1998, Mod.Pathol. 11(6):543-51;Baisdenら、1999, Am.J.Surg.Pathol. 23(8):918-24を参照)。MARSの遺伝子およびMARS遺伝子産物の発現と、悪性腫瘍に関連する別の因子との一致を観察する方法は、例えば、一致する特定の因子群の存在が、組織試料の状態の診断および予後予測に重要な情報となるために有用である。
【0122】
典型的な態様では、MARSの遺伝子およびMARS遺伝子産物の発現(または、MARSの遺伝子およびMARS遺伝子産物変化)と、悪性腫瘍に関連する因子との一致を認める方法は、組織試料中のMARSのmRNAまたはタンパク質の過剰発現を検出すること、また次に、組織試料中のRASなどの別の癌遺伝子またはp53もしくはRbなどの腫瘍抑制因子の発現の変化を検出すること、ならびにMARSのmRNAまたはタンパク質の発現と、例えばRASのmRNAまたはタンパク質の過剰発現との一致を観察することにつながる。特定の態様では、試料中のMARSおよびRASのmRNAの発現を調べる。好ましい態様では、試料中のMARSおよびRASのmRNAの過剰発現の一致は、白血病の段階、または白血病の出現もしくは存在の指標となる。
【0123】
本明細書に記載された発明の好ましい態様は、骨髄性系列の癌の遺伝子型および/または表現型などの、癌の遺伝子型および/または表現型を明らかにする方法を含む。本明細書に記載された発明の特定の態様は、2-フェニルアミノピリミジンなどのヌクレオチド類似体に対する耐性の可能性を評価する方法を含む。本明細書に記載された発明の特定の態様は、STI-571に対するある程度の耐性をもつ細胞を特異的に同定する方法を含む。このような方法は、典型的には、特定の遺伝子型または表現型(STI-571に対する耐性など)に関連する変異を同定するためにBcr-Ablなどの標的キナーゼの配列を決定する段階を含む。好ましくは、このような変異は、癌の遺伝子型および/または表現型に関連することがわかっているドメイン(例えばBcr-AblのATP結合ドメイン)内に存在する。より好ましくは、このような変異は、表1に記載されたBcr-Abl残基(またはBcr-Ablと相同性があるキナーゼの同等の残基)に存在する。
【0124】
以上の方法のさまざまな組み合わせを、本明細書に記載された発明では提供する。例えば、本明細書に開示された発明によって当業者は、さまざまな状況におけるMARSを調べて、さまざまな変異が特定の臨床的表現型とともに分離するか否か(例えばリンパ性疾患か骨髄性疾患か)、またはSTI-571耐性のさまざまな臨床パターンとともに分離するか否か(例えば、不応性疾患;遅い再発か速い再発か)を判定することができる。本発明によってさらに当業者は、キナーゼドメインの変異が、進行段階の疾患の患者に制限されるか、または慢性期の患者でもみられるかを判定できる。本発明によって当業者は、1つまたは複数の変異が、疾患の進行と関連するクローン多様性および遺伝的不安定性の徴候か否かを判定することもできる。本発明によって、当業者は、このような変異が、事前の化学療法の結果であるか、またはSTI-571投与患者だけで生じるのかを判定することもできる。本発明によって当業者は、現在臨床開発中の他の標的化キナーゼ阻害剤の生物学的意味を判定することもできる。
【0125】
MARSのmRNAまたはタンパク質の発現を検出および定量する方法は、本明細書に記載されており、また当技術分野で周知の標準的な核酸およびタンパク質の検出法および定量法を用いる。MARSのmRNAの検出および定量の標準的な方法には、標識MARSリボプローブを使用するインサイチューハイブリダイゼーション、MARSポリヌクレオチドプローブを使用するノーザンブロットおよび関連手法、MARSに特異的なプライマーを使用するRT-PCR解析、ならびに例えば分枝状DNA、SISBA、TMAなどの他の増幅型検出法がある。特定の態様では、半定量RT-PCRで、実施例に記載されている手順でMARSのmRNAの発現を検出および定量することができる。MARSを増幅可能な、本明細書に具体的に記載されたさまざまなプライマーセットを含むがこれらに限定されない任意の数のプライマーを、この目的で使用することができる。タンパク質の検出および定量の標準的な方法をこの目的で使用することができる。特定の態様では、MARSタンパク質に特異的に反応するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を、試料の免疫組織化学的アッセイ法に使用することができる。MARSタンパク質に対する抗体を用いて、患者試料(例えば血液または他の試料)中のMARSを、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)および/またはELISAなどの従来の手法で検出することもできる。
【0126】
詳しく後述するように、変異を含む配列が同定されたら、変異型キナーゼの活性を結合および/または阻害する化合物を同定することができる。
【0127】
MARSの同定法および特性解析法
本明細書で提供する開示によって当業者は、骨髄性系列の癌に関連する遺伝子型および/または表現型などの、癌に関連する遺伝子型および/または表現型を有する細胞を同定および特性を解析することができる。本明細書に記載された発明の特定の態様は、2-フェニルアミノピリミジンなどのヌクレオチド類似体に対する耐性に関連するBcr-Abl変異体の同定法および特性解析法を含む。本明細書に記載された発明の特定の態様は、STI-571などの阻害剤に対するある程度の耐性をもつ細胞の同定法および特性解析法を含む。
【0128】
癌に関連する癌遺伝子型および/または表現型を有する細胞の特性を解析する第1の方法は、細胞中のBcr-Ablの配列を決定して、特定の遺伝子型および/または表現型に関連することがわかっているドメイン(例えばBcr-AblのATP結合ドメイン)または領域の変異などの、特定の表現型(例えばSTI-571に対する耐性)に関連する1つまたは複数の変異を同定する段階を含む。好ましくは、このような変異は、表1に示すBcr-Abl残基に存在する。
【0129】
癌および/または癌の段階に関連する遺伝子型および/または表現型を有する細胞の特性解析に関連する方法は、バリアントSTI-571と結合したABLキナーゼドメインの結晶構造に照らして変異の位置を検討する段階を含む(例えばSchindlerら、Science, 2000 Sep 15;289(5486):1938-42を参照)。結晶構造をこのように決めることで、対象変異が、STI-571の抗白血病活性に干渉するか否かを評価することができる。この解析を元に、ABLキナーゼ活性、白血病誘発性、およびSTI-571による阻害のレベルの直接実験解析の対象となる変異の優先度を決めることができる。
【0130】
癌および/または癌の段階に関連する遺伝子型および/または表現型を有する細胞の特性を解析する別の方法は、疾患の進行の段階、集団内における変異体の相対度数などの、調査対象となる標的細胞の癌に関連する遺伝子型および/または表現型に関連する別の因子を解析する段階を含む(例えば対象クローンが成長上の利点をもつことの証拠となる優性集団か)。
【0131】
癌に関連する遺伝子型および/または表現型を有する細胞の特性を明らかにする別の方法は、選択された変異を、野生型BCR-ABLのcDNAに作り込んで、酵素学的および生物学的な特性を直接調査可能な変異型対立遺伝子を作製する段階を含む。酵素学的試験は、チロシンキナーゼ活性をインビトロで、または当技術分野で周知の標準的なアッセイ法で細胞を対象に測定することで実施することができる(例えば実施例1における引用文献を参照)。生物学的活性は、成長因子依存性の造血細胞系列当技術分野で周知の、または一次マウス骨髄細胞を用いる標準的な癌遺伝子形質転換アッセイ法で測定することができる(例えば実施例1における引用文献を参照)。このようにして、STI-571に対する耐性を、このようなキナーゼアッセイ法および形質転換アッセイ法で測定することができる。
【0132】
当業者であれば、癌に関連する遺伝子型および/または表現型を有する細胞の特性を解析するための上述のアッセイ法を独立に、または相互に組み合わせて実施することができることを理解すると思われる。
【0133】
関連分子の変異
MARSで変異していることがわかった残基は、タンパク質キナーゼファミリーのキナーゼで高度に保存されたドメインに存在する(例えばHanksら、Science 241:42-51(1988)を参照)。高度に保存された残基が癌で変異しており、同変異が化学療法薬剤に対する耐性に関連するという知見は、このドメインが、細胞の成長の調節不全に関連し、したがってこのようなドメインおよび残基の位置が、チロシンキナーゼファミリーのキナーゼの調節不全に関連する疾患であることが疑われる被験者に由来する、当業者が利用してチロシンキナーゼファミリー(例えばHanksら、Science 241:42-51(1988)の図1を参照)の関連キナーゼの状態を評価するための標的となることの証拠となる。
【0134】
この文脈では、チロシンキナーゼファミリーのキナーゼのドメインおよび/または残基の状態の評価を行って、組織試料の疾患可能性に関する情報が得られる。例えば、特定のチロシンキナーゼファミリーのキナーゼの調節不全が知られているか、疑われる症候群(好ましくは、Bcr-Ablで認められるパターンに似た病変のパターンを示す症候群)では、変異が残基に生じたかどうかを判定して、成長調節不全に関連する遺伝的変化(例えば化学療法薬剤に対する耐性)の証拠を得ることができる。細胞内にこのような特定の変異を有するmRNAの検出法は周知であり、例えば相補的DNAプローブを用いるハイブリダイゼーションアッセイ法(インサイチューハイブリダイゼーション、ノーザンブロット、および関連手法など)、ならびにさまざまな核酸増幅アッセイ法(対象mRNAに特異的な相補的プライマーを用いるRT-PCR、および例えば分枝状DNA、SISBA、TMAなどの他の増幅型検出法)などがある。後述するように、チロシンキナーゼファミリーのこのような変異型キナーゼと相互作用する分子を同定する方法も提供する。
【0135】
本発明の態様は、以下の段階を含む、標的キナーゼに機能的ホットスポット(例えば、キナーゼ活性および薬剤耐性に有意な機能的重要性をもつタンパク質の領域)を同定する方法を含む:標的キナーゼの少なくとも一部の配列決定を行うことで変異を同定する段階;ならびに変異の位置を、相同なキナーゼ(例えばBcr-Abl)中に同定される機能的ホットスポットの位置と比較する段階(相同なキナーゼ中のホットスポットに対応する、標的キナーゼ中の変異の同定は、標的キナーゼ中の変異が機能的ホットスポット内に存在するという証拠となる)。典型的には、このようなホットスポットは、STI-571耐性に関連する変異を有するBcr-Ablドメイン(例えば活性化ループ)に存在する。より好ましくは、このようなホットスポットは、表1に示されるBcr-Abl残基に存在する。好ましくは、相同なキナーゼはBcr-Ablであり、相同性はBLAST解析で比較する。標的キナーゼはc-kit、PDGFR、EGFR、およびVEGFRなどの当技術分野で周知のさまざまなキナーゼの任意の1種、またはハンクス(Hanks)ら、Science 241:42-51(1988)の図1に記載されたキナーゼの1種の場合がある。選択的に、これらの方法で、標的キナーゼの異常な発現が関連する病変を示す患者に由来する細胞の特性を解析することができる。
【0136】
本発明の他の態様は、標的キナーゼの少なくとも一部の配列を決定して変異を同定する段階を含む、標的キナーゼが2-フェニルアミノピリミジンなどのヌクレオチド類似体に対する耐性をもつ可能性を評価する方法を含む(相同なキナーゼのホットスポットに対応する標的キナーゼ中の変異の同定は、標的キナーゼが阻害剤に耐性をもつことの証拠となる)。好ましくはホットスポットは、STI-571耐性に関連する変異を有するBcr-Ablドメインに存在する。より好ましくはホットスポットは、表1に記載されたBcr-Abl残基に存在する。好ましくは、相同なキナーゼはBcr-Ablであり、相同性をBLAST解析で比較する。標的キナーゼはc-kit、PDGFR、EGFR、およびVEGFRなどの当技術分野で周知のさまざまなキナーゼの任意の1種、または参照として本明細書に組み入れられるハンクス(Hanks)ら、Science 241:42-51(1988)の図1に記載されたキナーゼの1種である可能性がある。選択的に、上記の方法で、標的キナーゼの異常な発現に関連する病変を示す患者に由来する細胞の特性を決定することができる。
【0137】
本明細書に開示された発明は、キナーゼ活性を保持するが、2-フェニルアミノピリミジンによるキナーゼ活性の阻害に対する耐性に関連するように特性が明らかにされる変異を生じるBcr-Abl中のアミノ酸残基の同定を含む。開示で提供される本発明の1つの態様は、以下の段階を含む、このような変異をアベルソンタンパク質キナーゼ中に同定する方法である(このような変異は、2-フェニルアミノピリミジンによるキナーゼ活性の阻害に対する耐性に関連する):アベルソンタンパク質キナーゼをコードするポリヌクレオチドの一部のアミノ酸配列を決定して、変異の有無を判定する段階(変異は、BLAST解析の相同性基準で決定されるSTI-571耐性に関連する配列番号:1に示されたC-Ablタンパク質キナーゼ中の変異と同じ相対位置のアミノ酸残基に存在する)。この文脈では、当業者であれば、STI-571耐性に関連する、配列番号:1に示されたC-Ablタンパク質キナーゼにおける変異が、例えばSTI-571などの2-フェニルアミノピリミジンを用いる治療法に対して耐性を示すことがわかっている被験者から単離された癌細胞で同定されたC-Ablタンパク質キナーゼの変異を含むことを理解する。本明細書に開示されているように、STI-571耐性と関連することがわかっている、配列番号:1に示されたC-Ablタンパク質キナーゼの変異体の特性がc-Abl、Bcr-Abl、および/または、ARGなどのアベルソン タンパク質キナーゼの1種の広範囲に及ぶ生物学的特性解析に関して当技術分野で周知のさまざまな手法の任意の1つで容易に決定される。このようなプロトコルは、キナーゼ活性または小分子との相互作用に重要であることが明らかにされているタンパク質内のドメインまたは残基の生物学的重要性の理解に基づく解析を含む(例えば、上述の結晶学的解析などで過去に同定されたSTI-571と直接相互作用するさまざまなドメインならびに残基を示す実施例3を参照)。このようなプロトコルはさらに、例えば実施例1で引用されているアベルソンタンパク質キナーゼのキナーゼ活性およびトランスフォーミング能力を明らかにする周知のアッセイ法を含む、変異体の生物学的活性の生物学的解析を含む。
【0138】
1つの関連する態様は、細胞で発現されるアベルソンタンパク質チロシンキナーゼのキナーゼドメインをコードするポリヌクレオチドの一部のヌクレオチド配列を決定し、次に、このように決定されたヌクレオチド配列を、アベルソンタンパク質チロシンキナーゼの野生型の配列と比較することで変異の有無を同定することによって、細胞で発現される変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼを同定する方法である(このように同定された変異は、アベルソンタンパク質チロシンキナーゼのポリペプチド配列内に、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性に関連すること(BLAST解析の相同性パラメータを用いて決定される)がわかっている、配列番号:1に示されたC-Ablタンパク質キナーゼの変異と同じ相対位置(例えば配列番号:1の315位に対応するc-srcの338位)に位置するアミノ酸残基に存在するという特性を有する)。この態様の特定の場合では、変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼを発現する細胞が、臨床集団中に観察されていて、2-フェニルアミノピリミジン(例えばSTI-571)によるチロシンキナーゼ活性の阻害に対して耐性を示す癌細胞集団に認められる。極めて好ましい態様では、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性と関連することがわかっている、配列番号:1に示されたC-Ablタンパク質キナーゼの変異は、表1に記載されたBcr-Ablの残基である。
【0139】
本発明のさらに別の態様は、細胞で発現されるアベルソンチロシンキナーゼの触媒ドメイン(また、より好ましくは触媒ドメイン内のヌクレオチド結合部位)の一部のヌクレオチド配列を決定し、次に、このように決定されたヌクレオチド配列を、アベルソンチロシンキナーゼの触媒ドメインの野生型配列と比較することで、触媒ドメイン内の変異の有無を判定することによって、細胞で発現される変異型アベルソンチロシンキナーゼを同定する方法である(このように同定された変異は、アベルソンタンパク質チロシンキナーゼのポリペプチド配列内の、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性に関連する配列番号:1に示されたC-Ablキナーゼ内のアミノ酸の位置と相同性を有するアミノ酸残基に位置するアミノ酸残基に存在するという特性をもつ(アベルソンタンパク質チロシンキナーゼのポリペプチド配列内に位置するアミノ酸残基と、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性に関連する配列番号:1に示されたC-Ablキナーゼのアミノ酸残基の相同性はBLAST解析で説明可能である))。
【0140】
本明細書で用いるアベルソンチロシンキナーゼという表現は、c-Ablタンパク質に密接に関連する、またはc-Ablタンパク質中のドメインと高度の相同性を共有するドメインを有する、当技術分野で周知のキナーゼのファミリーを意味する。例えば、フィラデルフィア転座は、Bcrタンパク質の一部がC-Ablタンパク質と融合したキメラタンパク質のファミリーの発現を導くことが知られている。アベルソンチロシンキナーゼファミリーのキナーゼの特定のグループ分けは、2-フェニルアミノピリミジンが、これらの分子と相互作用可能で、そのキナーゼ活性を阻害するように構造的および/または機能的に関連するアミノ酸配列の相同性を示すものである(例えばBcr-Abl、TEL-Abl、c-kit、PDGFR、EGFR、およびVEGFR)。
【0141】
アベルソンチロシンキナーゼファミリー別の代表的なキナーゼは、ARGと命名されたタンパク質である。ARGタンパク質のアミノ酸配列の解析から、これがc-Ablの配列と密接に関連することがわかっている(例えばKruhら、PNAS 1990, 87(15):5802-6、およびWangら、Oncogene 1996、13(7):1379-85を参照)。具体的には、c-AblおよびARGは、そのチロシンキナーゼドメインの全体的な構造的アーキテクチャーならびにアミノ酸配列に関して極めて類似している。このファミリーの別のキナーゼには、例えばDash、Nabl、およびFes/Fpsなどがある(例えばHunterら、Science 241, 42-51(1988)を参照)。
【0142】
当技術分野で周知のように、タンパク質キナーゼのアベルソンチロシンキナーゼファミリーは、高度に保存された構造的および機能的アーキテクチャーを有する触媒ドメインを含む(例えばSicheriら、Curr Opin Struct Biol. 1997 Dec;7(6):777-85;およびSicheriら、Nature 1997 Feb 13;385(6617):602-9を参照)。言うまでもなく、これらのチロシンキナーゼの触媒ドメイン内の領域は、同遺伝子ファミリーのキナーゼ間で高度に保存されていることが知られているので、STI-571が同ファミリーの代表的なキナーゼ(c-kitやPDGFRなど)とも相互作用することが報告されている(例えばTuvesonら、Oncogene. 2001 Aug 16;20(36):5054-8;Buchdungerら、J Pharmacol Exp Ther. 2000 Oct;295(1):139-45;Wangら、Oncogene 2000 Jul 20;19(31):3521-8;Heinrichら、Blood. 2000 Aug 1;96(3):925-32;およびCarrollら、Blood. 1997 Dec 15;90(12):4947-52を参照)。
【0143】
上述したように、このようなタンパク質キナーゼの触媒ドメインは、2-フェニルアミノピリミジンクラスの分子の化合物と、上記ドメインとの相互作用を可能とし、またさらに、さまざまな競合解析ならびに合理的な薬剤設計の基礎となる、高度に保存された構造的および機能的アーキテクチャーを有する(例えばTraxlerら、Med Res Rev. 2001 Nov;21(6):499-512;Traxlerら、J Med Chem. 1999 Mar 25;42(6):1018-26;およびParangら、Nat Struct Biol. 2001 Jan;8(1):37-41 Singhら、J Med Chem. 1997 Mar 28;40(7):1130-5、ならびにFuretら、J Comput Aided Mol Des. 1995 Dec;9(6):465-72を参照)。また、STI-571のバリアントなどの2-フェニルアミノピリミジンと複合体を形成したAblの触媒ドメインの結晶構造が決定されているので、これは、同クラスの分子が、このようなキナーゼ内にこのように高度に保存された領域とどのように相互作用するかということに関する情報となる(例えばSchindlerら、Science. 2000 Sep 15;289(5486):1938-42を参照)。このような解析は、他のいくつかのチロシンキナーゼ阻害剤の結晶構造も決定されているという事実によって効率よく行われる(例えばSchindlerら、Mol Cell. 1999 May;3(5):639-48;Mohammadiら、EMBO J. 1998 Oct 15;17(20):5896-904を参照)。
【0144】
本明細書に開示されているように、ATP結合部位を含むドメインは、STI-571に対して耐性を示すBcr-Ablタンパク質内で変異を生じる領域として同定されている。興味深いことに、キナゾリンやピラゾロ-ピロロ-ピリドピリミジンを含む、他の化学的クラスのTK阻害剤は、ATP結合部位に結合することが知られている(例えばTianら、Biochemistry. 2001 Jun 19;40(24):7084-91;Fryら、Science. 1994 Aug 19;265(5175):1093-5;Rewcastleら、J Med Chem. 1996 Feb 16;39(4):918-28;Rewcastleら、J Med Chem. 1995 Sep 1;38(18):3482-7;Toledoら、Curr Med Chem. 1999 Sep;6(9):775-805;およびBridgesら、Curr Med Chem. 1999 Sep;6(9):825-43を参照)。したがって、Bcr-AblのATP結合部位と相同性の高いATP結合部位に結合するTK阻害剤(およびこのような阻害剤に対して耐性を示す変異体)は、本明細書に記載された開示で同様に同定されて特性が明らかにされる可能性がある
【0145】
本明細書に記載された発明は、一群のチロシンキナーゼ阻害剤に対して耐性を示す、保存されたタンパク質キナーゼファミリーのキナーゼ内の特定領域を明らかにすることによって、同領域が本明細書に記載された診断プロトコルの標的であることがわかる。特に、2-フェニルアミノピリミジンなどのキナーゼ阻害剤との相互作用に関連することが知られている、ある種のアミノ酸残基が同定されているが、変異が、キナーゼとキナーゼ阻害剤との相互作用を阻害する可能性のある特定の生物学的活性を有するドメイン内の残基に存在して、さらに同キナーゼが、特に、臨床試料中に変異が観察される場合における病的条件に関連する生物学的活性を保持するか否かはわかっていない。本明細書で提供する開示は、キナーゼを2-フェニルアミノピリミジンなどのキナーゼ阻害剤に対して耐性にして、さらにキナーゼが、病的条件(例えば慢性骨髄性白血病)に関連する生物学的活性を保持することを可能とするアミノ酸変異が生じる場合があるタンパク質キナーゼ内の特定の標的ドメイン(例えばATP結合ドメイン)を明らかにする。このような二重の特性を有する変異が生じるタンパク質キナーゼ中の特定の領域を同定することによって、本明細書に記載された開示によって当業者は、このような領域をコードするポリヌクレオチドを特異的に解析するように最適化された診断手順を用いることができる(例えばPCRプロトコルで、キナーゼ阻害剤に対して耐性を示す可能性が高いタンパク質キナーゼを同定する場合)。このようにして、本明細書に記載された開示は、病的条件と関連する変異型タンパク質キナーゼの特性を明らかにするために必要な実験の量を減らすことができる。このような解析は、これらの標的ドメインが、容易に同定されるさまざまなタンパク質キナーゼで高度に保存されているので、上記ドメイン内における上記変異の有無を判定する際に用いられるプロトコルで容易に標的化されるという事実によって効率的に行われる。
【0146】
本発明の典型的な態様は、触媒ドメインのアミノ酸配列を決定する段階、ならびにその配列を、標的タンパク質キナーゼの触媒ドメインの野生型配列と比較することで、内部の変異を同定する段階を含む、標的タンパク質キナーゼの触媒ドメイン内の変異を同定する方法を含む(標的タンパク質キナーゼの触媒ドメインは、配列番号:1に示されたc-able触媒ドメインの触媒ドメインと少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、または95%の相同性を有する)。関連する態様は、活性化ループドメインのアミノ酸配列を決定する段階、ならびにその配列を、標的タンパク質キナーゼの活性化ループドメインの野生型配列と比較することで、内部の変異を同定する段階を含む、標的タンパク質キナーゼの活性化ループドメイン内の変異を同定する方法である(標的タンパク質キナーゼの活性化ループドメインは、配列番号:1に示されたc-able活性化ループドメインの活性化ループドメインと少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、または95%の相同性を有する)。関連する態様は、ヌクレオチド結合ポケットのアミノ酸配列を決定する段階、ならびにその配列を、標的タンパク質キナーゼのヌクレオチド結合ポケットドメインの野生型配列と比較することで、内部の変異を同定する段階を含む、標的タンパク質キナーゼのヌクレオチド結合ポケット内の変異を同定する方法である(標的タンパク質キナーゼのヌクレオチド結合ポケットドメインは、配列番号:1に示されたc-able触媒ドメインのヌクレオチド結合ポケットドメインと少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、または95%の相同性を有する)。関連する態様は、Pループ、ヘリックスc、活性化ループ、または触媒配列のアミノ酸配列、ならびに個々のドメイン(群)の約10アミノ酸以内の配列を決定する段階、ならびにその配列を、標的タンパク質キナーゼのPループ、ヘリックスc、活性化ループ、または触媒配列の野生型配列、ならびに個々のドメイン(群)の約10アミノ酸以内の配列と比較することで、内部の変異を同定する段階を含む、チロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性と関連する可能性が高い、標的チロシンキナーゼ内の変異を同定する方法である(標的タンパク質キナーゼのPループ、ヘリックスc、活性化ループ、または触媒配列、ならびに個々のドメイン(群)の約10アミノ酸以内の配列は、c-AblのこれらのドメインのPループ、ヘリックスc、活性化ループ、または触媒配列、ならびに約10アミノ酸以内の配列と少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、または95%の相同性を有する)。
【0147】
別の関連する態様は、PCRで標的タンパク質キナーゼの触媒ドメインを増幅する段階(標的タンパク質キナーゼは、病的条件に関連する生物学的活性を示し、また標的タンパク質キナーゼは、チロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性を示し、ならびに標的タンパク質キナーゼの触媒ドメインは、配列番号:1に示すc-able触媒ドメインの触媒ドメインと少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、または95%の相同性を有する)、触媒ドメインのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を比較する段階、ならびにその配列を、標的タンパク質キナーゼの触媒ドメインの野生型アミノ酸配列のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列と比較することで、変異型触媒ドメインをコードするポリヌクレオチドを同定する段階を含む、標的タンパク質キナーゼの変異型触媒ドメインをコードするポリヌクレオチドを同定する方法である。
【0148】
このような方法の特定の態様では、ドメイン内で変異している少なくとも1つのアミノ酸残基は、表1に記載された残基と相同性を有する。別の特定の態様では、変異を有する標的タンパク質キナーゼは、病的条件(例えば癌)に関連するキナーゼ活性を示す。別の特定の態様では、病的条件(例えば癌)と関連する標的タンパク質キナーゼのキナーゼ活性は、チロシンキナーゼ阻害剤による阻害に対して耐性を示す。別の特定の態様では、病的条件(例えば癌)と関連する標的タンパク質キナーゼのキナーゼ活性は、2-フェニルアミノピリミジンによる阻害に対して耐性を示す。別の特定の態様では、標的タンパク質キナーゼは、ハンクス(Hanks)ら、Science 241:42-51(1988)の表2に記載されている。別の特定の態様では、標的タンパク質キナーゼはBcr-Abl、TEL-Abl、c-kit、PDGFR、EGFR、VEGFRである。
【0149】
関連する態様は、タンパク質チロシンキナーゼが、病的条件に関連する活性を示すか否かを(例えば本明細書または当技術分野の引用文献に記載された手順で)判定する段階、タンパク質チロシンキナーゼが、チロシンキナーゼ阻害剤に対して耐性を示すか否かを(例えば、本明細書または当技術分野の引用文献に記載された手順で)判定する段階、タンパク質チロシンキナーゼのアミノ酸配列を決定する段階、タンパク質チロシンキナーゼのアミノ酸配列が変異型残基を含むか否かを判定する段階、変異型残基が、触媒ドメイン、活性化ループ、および/またはATP結合ドメイン内に存在するか否かを判定する段階、および/または変異型残基が、表1に記載された残基と相同性を有するか否かを判定する段階を含む(触媒ドメイン、活性化ループ、および/またはATP結合ドメインに存在する変異型残基が存在すること、および/または変異型残基が、表1に記載された残基と相同性を有することは、このように同定された変異が、キナーゼとキナーゼ阻害剤の相互作用を阻害して、さらにキナーゼがそのキナーゼ活性を保持することを可能とすることの証拠となる)、タンパク質チロシンキナーゼの特性を明らかにする方法を含む(タンパク質キナーゼは、配列番号:1に示されたc-ableと少なくとも約60%、70%、80%、85%、90%、または95%の相同性を有する)。特定の態様では、病的条件に関連するタンパク質キナーゼのキナーゼ活性は、2-フェニルアミノピリミジンによる阻害に対して耐性を示す。別の特定の態様では、タンパク質キナーゼは、ハンクス(Hanks)ら、Science 241:42-51(1988)の表2に記載されたタンパク質キナーゼである。別の特定の態様では、タンパク質キナーゼはBcr-Abl、TEL-Abl、c-kit、PDGFR、EGFR、VEGFRである。
【0150】
本発明のさらに別の態様は、細胞で発現されるアベルソンタンパク質チロシンキナーゼのキナーゼドメインをコードするポリヌクレオチドの一部のヌクレオチド配列を決定し、次に、このように決定されたヌクレオチド配列を、アベルソンタンパク質チロシンキナーゼの野生型配列と比較することで、変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼ中のアミノ酸の置換の有無を判定することで、哺乳類の癌細胞で発現される変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼを同定する方法である(このように同定された任意のアミノ酸の置換は、アベルソンタンパク質チロシンキナーゼのポリペプチド配列内において、WU-BLAST解析の相同性パラメータで決定可能なように、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性と関連することがわかっている、配列番号:1に示されたC-Ablタンパク質キナーゼ中のアミノ酸の置換と同じ相対位置に位置するアミノ酸残基に存在するという特性を有する)。本発明の好ましい態様では、細胞で発現される変異型アベルソンチロシンキナーゼは、変異型c-Abl(例えばNCBIアクセッション番号 P00519を参照)、Bcr-Abl(例えばNCBIアクセッション番号 NP_067585を参照)、PDGFR(例えばNCBIアクセッション番号 NP002600を参照)、c-kit(例えばNCBIアクセッション番号 CAA29458を参照)、TEL-Abl(例えばNCBIアクセッション番号 CAA84815を参照)、またはTEL-PDGFR(例えばNCBIアクセッション番号 AAA19786を参照)である。本発明の関連する態様は、さまざまな対象から得た別の哺乳類癌細胞を対象に段階(a)〜(b)を繰り返す段階;ならびに続いて、哺乳類癌細胞中に存在する変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼ中に存在する変異のカタログを作製する段階を含む。好ましくは、このような方法では、変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼを発現する細胞は、2-フェニルアミノピリミジンに曝露した後に、チロシンキナーゼ活性の阻害に対して耐性を示すことが観察される哺乳類癌細胞の集団内に認められる。このような方法では、哺乳類癌細胞は、2-フェニルアミノピリミジンを含むチロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択された被験者から得られたヒト癌細胞の場合がある。好ましくは、アミノ酸の置換は、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性をもたらす。
【0151】
このような方法の特定の態様では、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性と関連することがわかっている、配列番号:1に示されたC-Ablタンパク質キナーゼの変異が、アミノ酸残基

と同じ相対位置に存在する。典型的には、このようなアミノ酸の置換は、アミノ酸残基

と同じ相対位置に存在する。
【0152】
本明細書で提供する開示によって、本明細書に開示された方法の1つで同定された変異体の特性をさらに詳細に明らかにすることができる。具体的には、本明細書に記載された酵素学的アッセイ法および/または生物学的アッセイ法、ならびに当技術分野で周知のアッセイ法(例えば実施例で開示されたアッセイ法)で、タンパク質キナーゼの保存された標的ドメイン内に存在することがわかる変異体の特性を容易に明らかにして、同変異の生物学的重要性(例えば、タンパク質キナーゼを、2-フェニルアミノピリミジンなどのキナーゼ阻害剤に対して耐性にすることで、さらにキナーゼが病的条件に関連する生物学的活性を保持することを可能とすること)を評価することができる。また標的タンパク質が同定されているタンパク質の場合、本明細書に開示されたアッセイ法は、CML細胞でBcr-Ablによって特異的および構成的にリン酸化されるアダプタータンパク質であるCrklを対象としたアッセイ法と類似の手順でホスホチロシン量を測定する(例えば図1および図2を参照)。
【0153】
表1に記載された変異に加えて、スキャニングアミノ酸解析を、2-フェニルアミノピリミジンなどの化合物の比較解析に用いても、アベルソンチロシンキナーゼと2-フェニルアミノピリミジンなどの化合物との相互作用に構造的におよび/または機能的に関連する1つまたは複数のアミノ酸の重要性を見極めることができる(例えば米国特許第6,004,931号および米国特許第5,506,107号を参照)。好ましいスキャニング対象のアミノ酸は、比較的低分子量の中性のアミノ酸である。このようなアミノ酸には、アラニン、グリシン、セリン、およびシステインが含まれる。このグループのなかで、アラニンは典型的に好ましいスキャニングアミノ酸である。というのは、アラニンは、β炭素以外の側鎖を除去し、またバリアントの主鎖構造を変化させる可能性が低いからである。アラニンは、最も一般的なアミノ酸であることからも典型的に好ましい。さらにアラニンは、内部および表面の両方に認められる[Creighton、「The Proteins」、(W.H. Freeman社、N.Y.);Chothia、J.Mol.Biol., 150:1(1976)]。仮にアラニンの置換が適切な量のバリアントを生じない場合、等価のアミノ酸を使用することができる。
【0154】
MARSと相互作用する分子の同定
実施例8で説明されるように、本明細書に開示されたMARSのタンパク質配列および核酸配列によって当業者は、MARSと相互作用するタンパク質、小分子、および他の薬剤、ならびにMARSで活性化される経路を、当技術分野で受け入れられるさまざまなプロトコルの任意の1つで同定することができる。例えば、本明細書に記載された開示によって、STI-571とBcr-Ablの相互作用を評価するために当技術分野で使用されている方法で、被験分子とMARSの相互作用を評価することができる。
【0155】
本発明の代表的な態様は、分子集団にMARSアミノ酸配列を接触させる段階、分子集団とMARSアミノ酸配列の相互作用を、相互作用を促す条件で可能とする段階、MARSのアミノ酸配列と相互作用する分子の有無を判定する段階、ならびに続いて、MARSのアミノ酸配列と相互作用しない分子を、相互作用する分子から分離する段階を含む、MARSのアミノ酸配列と相互作用する分子のスクリーニング法を含む。特定の態様では、この方法はさらに、MARSのアミノ酸配列と相互作用する分子を精製する段階を含む。同定された分子を用いて、MARSによる機能を調節することができる。
【0156】
本発明のこの態様は、本明細書に開示されたアッセイ法の1つで測定されるように、BCR-ABLの活性を調節する(例えば、阻害する、拮抗する、もしくは作用する)、または模倣する分子のケミカルライブラリーのスクリーニングによく適している。ケミカルライブラリーは、ペプチドライブラリー、ペプチド模倣体ライブラリー、化学的に合成されたライブラリー、組換え体(例えばファージディスプレー)ライブラリー、およびインビトロ翻訳ベースのライブラリー、他の非ペプチド合成有機ライブラリー(例えば2-フェニルアミノピリミジン、キナゾリン、またはピラゾロ-ピロロ-ピリドピリミジンのライブラリーなど)の場合がある。
【0157】
例示的なライブラリーは、複数の供給先(ArQule、Tripos/PanLabs、ChemDesign、Pharmacopoeia)から市販されている。場合によっては、このようなケミカルライブラリーは、ライブラリーの各構成成分の性質を、成分化合物を結合させる基質上にコード化することによって、有効な修飾因子である分子の直接および迅速な同定を可能とするコンビナトリアル法で作製される。したがって、多くのコンビナトリアル法では、化合物のプレート上の位置が、化合物の組成を指定する。また、ある例では、1つのプレート上の位置が、対象となる相互作用を含むウェルに分注することで、スクリーニングの対象となる1〜20種類の化合物を収容する場合がある。したがって、仮に修飾が検出されれば、相互作用ペアの、より小さなプールを対象に、修飾活性を調べることができる。このような方法で、多くの候補分子をスクリーニングすることができる。
【0158】
用途に適した多種多様なライブラリーが当技術分野で周知であり、本発明による検討対象となる化合物を提供するために使用することができる。またはライブラリーは、標準的な方法で構築することができる。ケミカル(合成)ライブラリー、組換え体発現ライブラリー、またはポリソームベースのライブラリーは、使用可能な例示的なタイプのライブラリーである。
【0159】
1つの態様では、ペプチドライブラリーをスクリーニングして、MARSタンパク質配列と相互作用する分子を同定することができる。このような方法では、MARSなどの分子と結合するペプチドを、ランダムな一連のアミノ酸、または制御された一連のアミノ酸をコードするライブラリーをスクリーニングすることで同定する。ライブラリーにコードされるペプチドは、バクテリオファージのコートタンパク質の融合タンパク質として発現される。次にバクテリオファージ粒子を対象に、対象タンパク質に対するスクリーニングを行う。
【0160】
したがって、治療用、予後予測用、または診断用の試薬などの、さまざまな用途を有するペプチドは、推定されるリガンドまたは受容体分子の構造に関する何らかの事前の情報を必要とすることなく同定される。MARSタンパク質の配列と相互作用する分子の同定に使用可能な典型的なペプチドライブラリー、およびスクリーニング法は例えば1998年3月3日に申請された米国特許第5,723,286号、および1998年3月31日に申請された第5,733,731号に記載されている。
【0161】
MARSと相互作用する小分子およびリガンドは、このようなスクリーニングアッセイ法に関連する態様で同定することができる。例えば、MARSのもつリン酸化と脱リン酸化に関与する能力に干渉する分子を含む、タンパク質の機能に干渉する小分子を同定することができる。
【0162】
典型的な態様は、以下の段階を含む、表1に示すMARSに特異的に結合する化合物を同定する方法である(MARSはチロシンキナーゼ活性を示す):MARSに被験化合物を、結合が起こりやすい条件で接触させる段階;ならびに、続いて被験化合物がMARSに結合するか否かを判定して、MARSに結合する化合物をすることが可能な段階。さまざまなアベルソンチロシンキナーゼと、さまざまな被験化合物が相互作用することは報告されているので、当業者は、結合につながる条件に精通している。本発明のこの局面の特定の態様は、MARSをコードするコンストラクトで細胞をトランスフェクトする段階、タグをつけ被験化合物または検出マーカーで標識した被験化合物を細胞に接触させる段階、ならびに続いて細胞を対象に、結合状態の被験化合物の有無を解析する段階を含む。トランスフェクトした細胞が、MARSコンストラクトがトランスフェクトされていない細胞と比較して選択的に被験化合物と結合することが認められる場合は、被験化合物が、これらの細胞で発現されているMARSタンパク質に結合していることがわかる。
【0163】
次に、MARSに結合する被験化合物を対象に、MARSの生物学的活性(例えばチロシンキナーゼ活性)の阻害に関してスクリーニングを行うことができる。このような態様は例えば、被験化合物がMARSのチロシンキナーゼ活性を阻害するか否かを、分子生物学的プロトコルで判定することで、酵素学的特性および生物学的特性を直接調査可能な組換えコンストラクトを作製する段階を含む。STI-571に対する耐性などの特異的な生物学的活性は、標準的なキナーゼアッセイ法および形質転換アッセイ法で測定することができる。酵素学的試験は例えば、チロシンキナーゼ活性をインビトロで測定することで、またはMARS発現細胞を、標準的なアッセイ法(例えば実施例における引用文献の1つを参照)で測定することで行う。または生物学的活性を、標準的な癌遺伝子形質転換アッセイ法で測定する(例えば実施例における引用文献の1つを参照)。
【0164】
本発明の特定の態様は、被験化合物がMARSチロシンキナーゼ阻害剤の生物学的活性を阻害するか否かを、STI-571がBcr-Ablののチロシンキナーゼ活性を、どのように阻害するかということを調べる手順の類似の手順で判定する段階を必要とする。このような方法は典型的には、被験化合物の非存在下で、MARSを発現する細胞系列のキナーゼ活性または成長能力を調べる段階、ならびに、これを、MARSを発現する細胞系列のキナーゼ活性または成長能力と、被験化合物の存在下で比較する段階を含む(MARSを発現する細胞系列の、被験化合物の存在下におけるキナーゼ活性または成長能力の低下は、対象化合物がMARSの生物学的活性の阻害剤である可能性があることを意味する)。
【0165】
本発明のさらに別の態様は、以下の段階を含む、変異型Bcr-Ablのポリペプチドに特異的に結合する化合物を同定する方法である(Bcr-Ablポリペプチドは、残基D233〜残基T406を含む配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の領域に存在するアミノ酸の置換を含む):変異型Bcr-Ablのポリペプチドに被験化合物を、結合が起こりやすい条件で接触させる段階;ならびに変異型Bcr-Ablのポリペプチドに結合する化合物が同定されるように、被験化合物が変異型Bcr-Ablのポリペプチドに特異的に結合するか否かを判定する段階。化合物の結合は典型的には、ELISA、RIA、および/またはBIAcoreアッセイ法などの当技術分野で周知のさまざまなアッセイ法の任意の1つで判定される。
【0166】
好ましい態様では、変異型Bcr-Ablのポリペプチドのアミノ酸の置換は、残基

で生じる。本発明の特定の態様では、このようなアミノ酸の置換は、

である。
【0167】
本発明の関連する態様は、被験化合物が変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を阻害するか否かを、哺乳類細胞を変異型Bcr-Ablのポリペプチドをコードするコンストラクトでトランスフェクトすることで判定する段階;ならびに続いて、哺乳類細胞に被験化合物を接触させる段階;ならびに続いて、変異型Bcr-Ablポリペプチドのチロシンキナーゼ活性に関して哺乳類細胞をモニタリングする段階をさらに含む、上述の方法を含む(被験化合物の非存在下と比較して被験化合物の存在下におけるチロシンキナーゼ活性の阻害は、被験化合物が、変異型Bcr-Ablのポリペプチドの阻害剤であることを意味する)。本発明の好ましい態様では、変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を、Crklのホスホチロシン量を調べることによって測定する。
【0168】
実施例で説明されているように、本発明のさらに別の態様は、以下の段階を含む、被験化合物が、変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を阻害するか否かを判定する方法である(Bcr-Ablポリペプチドは、残基D233〜残基T406を含む、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の領域に存在するアミノ酸の置換を含む):哺乳類細胞(例えば293-T細胞)を、変異型Bcr-Ablのポリペプチドをコードするコンストラクトでトランスフェクトすることで、変異型Bcr-Ablのポリペプチドを哺乳類細胞に発現させる段階、哺乳類細胞に被験化合物を接触させる段階、ならびに続いて哺乳類細胞を対象に、変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性に関してモニタリングする段階(被験化合物の非存在下と比較時の、被験化合物の存在下におけるチロシンキナーゼ活性の阻害は、被験化合物がBcr-Ablポリペプチドのの阻害剤であることを示す。本発明の特定の態様では、アミノ酸の置換は残基

に存在する。
【0169】
好ましくは、このような方法では、変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を、Crklのホスホチロシン量を調べることで測定する。または、変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を、抗ホスホチロシン抗体を用いるウエスタンブロット解析で測定して、哺乳類細胞の可溶化液のホスホチロシン量を調べる。これらの方法で、2-フェニルアミノピリミジンやピリド[2,3-d]ピリミジンなどのさまざまな化合物を調べることができる。
【0170】
典型的には、アミノ酸の置換は残基

に生じる。本発明のある態様では、アミノ酸置換は、表1Aに記載された残基の1つ(例えば残基T315)で生じ、表1Aに記載された別の残基(例えば残基E255)では生じない。
【0171】
キット
既に記述または示唆したように診断および治療の応用に使用するために、キットも本発明で提供される。このようなキットは、1つまたは複数の容器手段(バイアルやチューブなど)(各容器手段は、方法に使用される独立した要素の1つを含む)に限局的に収納するように区画化された運搬手段を含む場合がある。例えば、容器手段の1つは、検出目的で標識されているか、標識することが可能なプローブを含む場合がある。このようなプローブは、それぞれMARSタンパク質、またはMARSの遺伝子もしくはメッセージに特異的な抗体またはポリヌクレオチドの場合がある。このキットは、核酸ハイブリダイゼーションを利用して標的核酸を検出するが、同キットは、標的核酸配列の増幅用のヌクレオチド(群)を含む容器、および/またはアビジンもしくはストレプトアビジンなどのビオチン結合タンパク質などのレポーター手段、酵素標識、蛍光標識、または放射性同位元素標識などの、レポーター分子に結合したレポーター手段を有する場合もある。
【0172】
本発明のキットは典型的には、緩衝物、希釈物、フィルター、ニードル、シリンジ、および使用方法が記載された添付文書を含む、商業的および使用者の見地からに望ましい材料を含む上述の容器、および1つまたは複数の他の容器を含む。内容物が、特定の治療的応用または非治療的応用に使用されることを示すために容器の表面にラベルがつけられる場合があるほか、上述したようなインビボまたはインビトロにおける使用に関する指示がラベルに記載される場合がある。
【実施例】
【0173】
実施例
実施例1:BCR-ABLを調べるための説明目的の材料および方法
MARSを調べる説明目的の方法において、本発明者らの研究室は、慢性骨髄性白血病患者のABLキナーゼドメインにおける変異を同定するために大規模配列決定プロジェクトを行うことにした。好ましい実験法は、PCRで、BCRおよびABLに特異的なプライマーを用いてBCR-ABLの転写物の領域を増幅し、この産物をサブクローニングし、少なくとも10個の独立したクローンの配列を両方向について決定することである。この方法によって、同じ患者に由来する、さまざまなクローンの経時的な変動の定量が可能となる。ABL変異の頻度および種類が、疾患段階または事前の治療によって異なるかどうかを判定するために、多種多様なグループの患者を対象に解析を行った。このようなグループは以下を含む:慢性期(STI-571(グリーベック)非投与、慢性期(STI-571投与)、急性転化(STI-571非投与)、および急性転化(STI-571投与)。この方法で本発明者らは、40を超える、このような変異を見出した。このようなプロトコルの典型的な方法を以下に示す。
【0174】
実施例1A:BCR-ABLのポリヌクレオチド配列およびポリペプチド配列を調べるための説明目的の方法
血液試料を、CML治療におけるSTI-571の効力を評価する、UCLAにおける臨床試験に登録された、同意書を提出した患者から得た。RNAを、TriReagentまたはTriAzolを用いて抽出した。cDNAの合成を、MMTV逆転写酵素を用いて行った。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)をCM10

、および3'Abl KD

のプライマーを用いて行った。結果として得られた1.3 kbの断片を、電気泳動後に低融点アガロースゲルから切り出した。2回目のPCRを、ゲルから精製した1.3 kbの断片を対象に行い、プライマーとして5'Abl KD

、および3'Abl KDを用いてキナーゼドメインを単離した。結果として得られた0.6 kbの断片を、EcoRVで切断したpBluescript II KS+に連結した。細菌形質転換体を、アンピシリンおよびX-galを含む培地にプレーティングした。1種のcDNAあたり10個の白色コロニーを培地に植え継ぎ、ミニプレップ法でDNAを単離した。各クローンの配列決定を、M13ユニバーサルのフォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いて行った。2回の増幅を行ったので、患者1人あたり少なくとも2個の独立したクローンの両鎖において検出された場合に変異が存在するとみなした(図8を参照)。2人の健康な血液ドナーに由来するAblキナーゼドメインの解析を、Ablキナーゼドメインを対象としたPCRと、これに続く、患者試料を対象とする増幅回数の数を調節するための再増幅で行った。キナーゼドメインのすぐ5'側のBcr-Ablの0.7 kbの配列解析を、上述の1.3 kbの断片の、CM10および5'Abl KDリバース相補物

を用いた増幅と、続く上述のpBluescript II KS+への連結によって行った。c-Kitのキナーゼドメインを

および

のプライマーを用いて増幅した。Bcr-Ablキナーゼドメインを対象とした増幅回数を調節するために、第2の増幅を行った。結果として得られた0.6 kbの断片を、pBluescript II KS+にサブクローニングし、10個の独立したコロニーの配列を決定した。
【0175】
変異型P210イソ型の発現ベクターを以下の手順で作製した。さまざまな点突然変異を含むオリゴヌクレオチドは、Gibco/BRLによって合成された。pSRαP210Bcr-Ablを、変異型オリゴヌクレオチドとクイックチェンジ(QuikChange)変異誘発キット(Stratagene)を用いる部位特異的変異誘発反応のテンプレートDNAとして使用した。変異誘発が成功したかどうかは、キナーゼドメインの配列解析を行って確認した。他のP210 ablコンストラクトは当技術分野で周知である(例えばSunら、Cancer Res. 2002、62(11):3175-3183;Dugrayら、Leukemia 2001 15(10):1658-1662;およびHeisterkampら、Transgenic Res. 1991 1(1):45-53を参照)。
【0176】
293-T細胞に、変異型P210発現ベクターと、パッケージング用プラスミド(Ecopack、R. van Ettenの好意により供与)を同時にトランスフェクトした。ウイルスを含む培地を用いて、Ba/F3細胞に感染させた。安定な系列を、G418およびIL-3の存在下で選択した。次に、IL-3を培地から除去した。Bcr-Ablの発現をウエスタンブロット解析で調べた。STI-571に対する変異型P210イソ型の生化学的感受性を決定するために、細胞を、1リットルあたり0 μM、0.5 μM、1 μM、5 μM、および10 μMのSTI-571(Novartis、Switzerlandの好意により供与)の存在下でインキュベートした。2時間のインキュベーション後に、細胞溶解液を1% トライトン(Triton)を用いて調製した。AB-3(Oncogene Research Products)、または4G10(Upstate Biochemicals)を用いたウエスタンブロット解析を行った。STI-571に対する生物学的感受性を決定するために、P210のさまざまなイソ型を発現するBa/F3細胞を、1リットルあたり0 μM、0.5μM、1 μM、5 μM、および10 μMのSTI-571(Novartis、Switzerlandの好意により供与)の存在下でインキュベートした。24時間のインキュベーション後に、生細胞数をトリパンブルー色素排除法で数えた。
【0177】
実施例1B:BCR-ABL中の明確な領域を調査するための説明目的の方法
ある状況では、本明細書に記載された機能ドメインの1つなどの、BCR-ABLの特定領域を増幅することが望ましい場合がある。この文脈では、Bcr-AblのキナーゼドメインのATP結合ポケットおよび活性化ループに対応する579塩基対の領域の配列を、再発時にRNAが得られた9人の患者を対象に決定した(図4A)。簡単に説明すると、RNAを、精製した末梢血細胞または骨髄細胞からトリリージェント-LS(Trireagent-LS)(Molecular Research Center社、Cincinnati、OH)を用いて抽出した。2 mgの全RNAを対象にOligo dTプライマーを用いてRT-PCRを行った。1327 bpのcDNA断片を、5' BCR特異的プライマー

、および3'ABL特異的プライマー

を用いたPCRで増幅した。2人の患者で、BCR-ABL断片は増幅できなかった。したがって、579 bpの断片を、別の5'ABL特異的プライマー

、および同じ3'ABLプライマーを用いて増幅した。PCR産物をpCR2.1 TAクローニングベクター(Invitrogen、Carlsbad、CA)にクローニングした。579 bpの領域の両鎖の配列を、5'ABLプライマーとM13フォワードプライマー、またはM13フォワードと、それぞれ1327 bpの断片および579 bpの断片に対するリバースプライマーセットを用いて、ABIプリズム377自動DNAシーケンサーで決定した(PE Applied Biosystems、Foster City、CA)。配列解析は、ClustalWアライメントアルゴリズムを用いて行った。1つの同一のC→Tヌクレオチド変化が、調査した9症例中6例でABLヌクレオチドの944位に検出された(図4A)。全6人の患者で、野生型および変異型のcDNAクローンの混合体が認められた(変異型クローンの頻度=17〜70%)。この変異は、リンパ性疾患患者の3人中3人で、また骨髄性急性転化の患者の6人中3人で認められた。変異が存在することは、ゲノムDNAを解析して確認した(図4A)。簡単に説明すると、ゲノムDNAを、精製した骨髄細胞または末梢血細胞からキアアンプ血液ミニキット(QiaAMP Blood Mini Kit)(Qiagen社、Valencia、CA)を用いて抽出した。361 bpのDNA断片を、それぞれイントロン配列の5'側と、ABLの第3エキソンの3'側に特異的な2種類のプライマー

および

を用いてPCRで増幅した。PCR産物をクローニングし、配列を決定した。治療前の試料に由来するRNAまたはゲノムDNAの解析では、STI-571投与前に変異が存在するという証拠は得られなかった。しかし本発明者らは、投与前に変異を有する細胞がまれに存在する可能性を除外できない。
【0178】
実施例2:Crklのホスホチロシン量を指標にBCR-ABLキナーゼ活性を測定するための説明目的の方法
Bcr-Ablタンパク質の酵素活性は、細胞系列で(例えば後述する1つのアッセイ法によって)容易に測定されるが、このようなアッセイ法を、臨床材料を対象に再現性よく定量的な様式で実施することが困難な場合もある。これは、Bcr-Ablが細胞の溶解に伴って速やかな分解および脱リン酸化を受けるためである。Bcr-Ablキナーゼ活性の別の尺度の探索過程で、本発明者らは、CML細胞中でBcr-Ablによって特異的および構成的にリン酸化されるアダプタータンパク質であるCrklのホスホチロシン量(例えばJ. ten Hoeveら、Blood 84, 1731(1994);T. Odaら、J.Biol.Chem. 269, 22925(1994);およびG.L. Nicholsら、Blood 84, 2912(1994)を参照)が、臨床試料で再現性よく、かつ定量的に測定可能であることを見出した。CrklはBcr-Ablに直接結合し、キナーゼのシグナルを下流の作用経路に連結することによって、Bcr-Ablの形質転換に機能的役割を果たす(例えばK. Senechalら、J.Biol.Chem. 271, 23255(1996)を参照)。Crklは、リン酸化されると、SDS-PAGEゲル上における移動度が変化するので、濃度測定法で定量することができる。予想されるように、原発性CML患者の細胞におけるCrklのリン酸化は、STI-571曝露時に用量依存的に阻害され、また、Bcr-Ablの脱リン酸化に相関した(図1A)。このCrklアッセイ法では、Bcr-Ablタンパク質の酵素活性の評価が、臨床材料を対象に再現性よく定量的に可能となる。
【0179】
簡単に説明すると、プロテアーゼおよびホスファターゼの阻害剤を添加した1% トライトン X-100緩衝液で細胞を溶解する(例えばA. Gogaら、Cell 82, 981(1995)を参照)。BioRad DCタンパク質アッセイ法(Bio-Rad Laboratories、Hercules、CA)で決定した等量のタンパク質をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロースにトランスファーし、ホスホチロシン抗体(4G10、Upstate Biotechnologies、Lake Placid、NY)、Abl抗体(pex5、(例えばA. Gogaら、Cell 82, 981(1995)を参照)、β-アクチン抗体(Sigma Chemicals、St. Louis、MO)、またはCrkl抗血清(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)でイムノブロットを行う。免疫反応性のバンドをECL(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)で可視化する。複数回露光して、シグナル強度の直線範囲を確認した。最適な露光をイメージクォント(ImageQuant) ソフトウェア(Molecular Dynamics、Sunnyvale、CA)を用いた濃度測定法で定量する。
【0180】
患者材料を対象とした、このアッセイ法のダイナミックレンジを決定するために、本発明者らは、BCR-ABL陰性の被験者(n=4)、非投与CML患者(n=4)、ならびにSTI-571療法に反応したが骨髄細胞は100%がPh染色体陽性のままであった患者(n=8)に由来する細胞内におけるCrklのリン酸化を測定した。STI-571投与前のCML患者に由来する細胞におけるCrklのリン酸化の平均レベルは73±13.3%であった(図1B)。反応時に、平均値は22±9.9%であり(図1B)、BCR-ABL陰性被験者に由来する細胞におけるCrklのリン酸化の平均レベル(22±6.0%)と同等であった(例えばM.E. Gorre、C.L. Sawyersを参照)。次に本発明者らは、STI-571に反応したが治療後に再発した11人の患者に由来する原発性白血病細胞のCrklのリン酸化のレベルを測定した。リンパ性急性転化の1人、Ph+の急性リンパ系白血病の3人、骨髄性急性転化の7人の患者を含むこれらの症例では、再発時におけるCrklのリン酸化の平均レベルは59±12.5%であった(図1C)。これらの試料のサブセットの抗ホスホチロシンイムノブロット解析によって、再発時にBcr-Ablがチロシンでリン酸化されていることことが確認された(図1C)。STI-571投与前と投与中に上記患者のサブセットから得た血液試料または骨髄試料の縦断的解析によって、Crklのリン酸化が投与に反応中は低下したが、再発時に上昇したことが確認された(図1D)。したがって、STI-571に当初反応する患者における疾患の進行は、Bcr-Ablキナーゼ活性の効率的な阻害の維持の失敗と関連する。
【0181】
実施例3:哺乳類細胞におけるBCR-ABL遺伝子の増幅を調べる説明目的の方法
治療量以下の用量の薬剤を用いるインビトロ成長の数か月後にSTI-571に耐性を生じる一部のCML細胞系列では、BCR-ABL遺伝子が増幅されていた(例えばE. Weisbergら、Blood 95, 3498(2000);P. le Coutreら、Blood 95, 1758(2000);およびF.X. Mahonら、Blood 96, 1070(2000)を参照)。本発明者らは、二色蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)実験を行い、BCR-ABL遺伝子の増幅が、ヒト臨床試料におけるSTI-571耐性と同様に関連するか否かを判定した。簡単に説明すると、間期および中期の細胞を調製し(例えばE. Abruzzeseら、Cancer Genet.Cytogenet. 105, 164(1998)を参照)、Locus Specific Identifier(LSI)BCR-ABL二色転座用プローブ(Vysis社、Downers Grove、IL)を用いて調べた。複数のコピーのBCR-ABL遺伝子が、当初STI-571に反応した後に再発した3人の患者(骨髄性急性転化2人とリンパ性急性転化1人)の間期の核で検出された(図3)。これらの患者の中期の拡散状態の染色体を対象に、細胞遺伝学的解析およびFISH特性解析をさらに行ったところ、固有の逆転重複型のPh染色体が、BCR-ABL融合遺伝子の中間部の増幅とともに認められた(図3C)。1人の患者では、逆転重複型のPh染色体は、STI-571投与開始前に検出することができた。全3症例とも、異常なPh染色体の別のコピーが、STI-571投与の継続に伴って、複数のコピーのBCR-ABLを有する環状染色体とともに認められた。患者MB14を、白血病に対する別の治療を受けてから1か月後にFISHで再評価した。BCR-ABLの増幅が、STI-571投与を中止してから4週後に検出されなくなったことは印象的であった。この結果から、STI-571投与の継続が、一部の患者におけるBCR-ABL遺伝子のコピー数の増加に対して選択されてもよいという可能性が浮かびあがった。
【0182】
上記3人の患者から得たゲノムDNAの定量的PCR解析で、再発時におけるABL遺伝子のコピー数が、BCR-ABL遺伝子の増幅が認められない患者と比較して増えることが確認された(図3D)。簡単に説明すると、ゲノムDNAを、精製した骨髄細胞または末梢血液細胞からキアアンプ血液ミニキット(Qiagen社、Valencia、CA)で抽出した。10 ngの全ゲノムDNAを対象に、アイサイクラーiQ(iCycler iQ)
システム(Bio-Rad Laboratories、Hercules、CA)によるリアルタイムPCR解析を行った。ABLの第3エキソンを含む361 bpのgDNA断片を、それぞれ、イントロン配列の5'側とABLの第3エキソンの3'側に特異的な2種類のプライマー

および

を用いて増幅した。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の472 bpのgDNA 断片を、それぞれGAPDHの第5エキソンおよび第8エキソンの配列に特異的な2種類のプライマー

および

を用いて増幅した。ABLのコピー数の倍加を、各試料についてABLとGAPDHの閾値のサイクル数(DCt)の差を計算することで判定した。標準試料として対照のLB3を用いて、各試料のDCtを、対照のDCtから差し引いてD(DCt)を決定した。倍加は、2-D(DCt)と計算された。
【0183】
実施例4.BCR-ABL変異体の酵素学的性質および生物学的性質を測定するための当技術分野で受け入れられている方法
Ablなどのタンパク質キナーゼの酵素学的特性を測定するためのさまざまなアッセイ法は当技術分野で周知であり、例えば内容が参照として本明細書に組み入れられるKonopkaら、Mol Cell Biol. 1985 Nov;5(11):3116-23;Davisら、Mol Cell Biol. 1985 Jan;5(1):204-13;およびKonopkaら、Cell. 1984 Jul;37(3):1035-42で説明されている。このようなアッセイ法によって当業者は、変異型BCR-Ablタンパク質キナーゼの酵素学的特性を測定することができる。
【0184】
Ablなどのタンパク質キナーゼのトランスフォーミング活性を測定する、さまざまなバイオアッセイ法は当技術分野で周知であり、例えば内容が参照として本明細書に組み入れられるLugoら、Science. 1990 Mar 2;247(4946):1079-82;Lugoら、Mol Cell Biol. 1989 Mar;9(3):1263-70;Klucherら、Blood. 1998 May 15;91(10):3927-34;Renshawら、Mol Cell Biol. 1995 Mar;15(3):1286-93;Sirardら、Blood. 1994 Mar 15;83(6):1575-85;Laneuvilleら、Cancer Res. 1994 Mar 1;54(5):1360-6;Laneuvilleら、Blood. 1992 Oct 1;80(7):1788-97;Mandanasら、Leukemia. 1992 Aug;6(8):796-800;およびLaneuvilleら、Oncogene. 1991 Feb;6(2):275-82に記載されている。このようなアッセイ法によって当業者は、変異型BCR-Ablタンパク質キナーゼの表現型を測定することができる。
【0185】
当技術分野で周知のプロトコルによって、本発明者らは、T315IおよびE255Kの両方が強力なキナーゼ活性を保持し、BaF3マウスの造血細胞を成長因子非依存性とすることを示した。この変異体は、キナーゼアッセイ法および成長アッセイ法でSTI-571による阻害に対して耐性を示す。他の変異体は、このような解析で同様に検討することができる。
【0186】
実施例5:BCR-ABL変異の機能的重要性を明らかにするための他の説明目的の分析法
上述の方法に加えて当業者は、表1に記載された変異体などの1種または複数のBCR-ABL変異体を対象に他の解析を実施することができる。例えば、そのパラメータを後述する典型的な説明目的のアルゴリズムを用いて、キナーゼドメインに存在する、さまざまな変異の臨床的重要性を明らかにすることができる。
【0187】
第1の説明目的の方法では、同じ患者から、疾患進行中のさまざまな時点で得た試料を調べることができる。時間の経過とともに優性となるクローンは、成長上の利点をもつと推定することができる。このような利点は例えば、BCR-ABL癌遺伝子の効力の上昇、またはSTI-571などの薬剤療法に対する耐性(T315I変異によって示される)の結果である場合がある。また、より一般的に出現する変異は、優先的に扱われる場合がある。
【0188】
第2の説明目的の方法では、ABLキナーゼドメインの結晶構造(STI-571と結合した状態で決定されている)に照らして変異の位置を調べることができる。この構造から、変異がSTI-571の抗白血病活性に干渉する可能性があるか否かを仮定することができる。この解析を元に、ABLキナーゼ活性、白血病誘発性、およびSTI-571による阻害レベルの直接実験解析に対する変異の優先度を決めることができる。
【0189】
さらに別の説明目的の方法では、選択された変異を、野生型BCR-ABLのcDNAに作り込んで、酵素学的特性および生物学的特性を直接調査することができる変異型対立遺伝子を作製することができる(例えば実施例1を参照)。酵素学的試験は、チロシンキナーゼ活性をインビトロで、または細胞を対象として当技術分野で周知の標準的なアッセイ法で測定することで実施することができる。生物学的活性は、成長因子依存性の造血細胞系列、または一次マウス骨髄細胞を用いる標準的な癌遺伝子形質転換アッセイ法で測定することができる。STI-571に対する耐性は、キナーゼアッセイ法および形質転換アッセイ法で測定することができる。
【0190】
実施例6:BCR-ABL変異を決定するためのBCR-ABLドメインおよび結晶学的解析に関する情報の用途
BCR-ABL内の特定のドメインの性質が明らかにされており、また同タンパク質の結晶構造が詳細に調べられているので、このような情報を、本明細書に記載された開示とともに用いることで、表1に記載されているようなMARSの特性を決定し、またSTI-571によるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性に果たす役割を説明することができる。例えば、ABLの結晶構造に照らした、このような変異の初期の調査から、例えば以下の群に変異体を分類することができる。
【0191】
1.ヘリックスCの変異(例えばアミノ酸残基304位、278位):
ヘリックスCは、キナーゼV304D、V304A中の重要な調節性のヘリックスである。これらは、ヘリックスCとの境界(M278K、M278L)に位置する。表面に露出したメチオニンは乱れている(境界ヘリックスC)。同領域の内部または同領域の近傍に(同領域の正常な機能を乱すように)認められる変異の機能的重要性は、BCR-ABLのこの局面の性質を明らかにする参考文献によって支持されている。
【0192】
2.Pループの変異(例えばアミノ酸残基253位、252位、250位):
Pループは、構造がSTI-571によって誘導されると考えられているリン酸結合ループである。このような変異は、STI-571を収容するために必要なループの構造を妨げると考えられている。興味深いことに、本発明者らは、Pループ内のGlyモチーフ(249位、251位、および254位)に変異が存在しないことを見出した。これらの残基は、他のキナーゼと高度に保存されており(いわゆるGly-X-Gly-X-X-Glyモチーフ)、キナーゼの機能におそらく不可欠である。本発明者らは、Pループ内の各Xの位置における例を得ている。同領域の内部または同領域の近傍に(同領域の正常な機能を乱すように)認められる変異の機能的重要性は、BCR-ABLのこの局面の性質を明らかにする参考文献によって支持されている。
Y253F:STI-571に直接積み重なる。-OHは、CL(またはH2O)と強力な水素結合を形成する。その他:Q252H、Q252L、Q252R、G250E、E255K。
【0193】
3.STI-571と直接相互作用する残基(例えばアミノ酸残基315位、351位、355位、317位、290位):
これらの残基、またはこれらの残基の近傍の機能的重要性(同領域の正常な機能を乱すようなこと)は、BCR-ABLのこの局面の性質を明らかにする参考文献によって支持されている。
M351T:STI-571のピペラジン基と直接相互作用するHis361とのファンデルワールス相互作用。Thr変異は、この部位における充填を破壊し、STI-571との相互作用を弱めると考えられる。興味深いことに、この変異は、化合物15(Ablと結晶を形成することがわかった初期化合物の1種)の結合に影響を与えない可能性がある(ピペラジン基が存在しないため)。
E355G:STI-571のピペラジン基と相互作用する触媒ループの手前のヘリックスの末端。Glyへの変異により、同領域はより柔軟になり、STIとの結合を弱めると考えられる。この変異についても、化合物15は、同変異によってそれほど影響を受けないはずである。
F317L:STI-571に直接積み重なる。Leu変異は、STI-571の結合を弱める可能性がある。
M290T、M290V:STI-571と直接ファンデルワールス力で相互作用する。TまたはVのいずれかへの変異は、STI-571の結合を弱める可能性がある。
【0194】
4.活性化ループの変異(例えばアミノ酸残基396位)
同領域内部、または同領域の近傍に(同領域の正常な機能を乱すように)存在する変異の機能的重要性は、BCR-ABLのこの局面の性質を明らかにする参考文献によって支持されている
H396K、H396R:活性化ループの混乱する部分。
【0195】
実施例7:STI-571耐性の慢性骨髄性白血病の患者から単離されたBCR-ABLにおける点突然変異は、BCR-ABLシャペロン熱ショックタンパク質90の阻害剤に対する感受性を変えない
STI-571(グリーベック/メシル酸イマチニブ)に対する臨床耐性は、進行したフィラデルフィア染色体陽性(Ph+)の白血病の患者に広く観察される。耐性獲得は典型的には、キナーゼドメインの変異または遺伝子増幅によるBCR-ABLの再活性化と関連するので、BCR-ABLが、このような患者における阻害の有効な標的であることが変わらないことがわかる。耐性を克服する方法は、分子シャペロン熱ショックタンパク質90(Hsp90)に対する依存性などのBCR-ABLタンパク質の他の分子特性の調査によって可能になると考えられる。Hsp90の阻害が、STI-571耐性の変異型BCR-ABLタンパク質の分解を誘導可能か否かを判定するために、STI-571耐性患者に認められる2種類の変異型BCR-ABLタンパク質(T315IおよびE255K)を発現する造血細胞を対象に、ゲルダナマイシンおよび17-AAGに対する感受性を調べた。両化合物とも、野生型および変異型のBCR-ABLの分解を誘導し、細胞の成長を阻害し、変異型BCR-ABLタンパク質に対して、より強力な活性を示す傾向が認められた。以上のデータは、STI-571耐性のPh陽性の白血病を対象とした17-AAGの臨床的調査を支持する。
【0196】
キナーゼドメインの変異に関連する耐性を克服する方法は、BCR-ABLタンパク質の他の分子特性の標的化を必要とする可能性が高い。熱ショックタンパク質90(Hsp90)は、BCR-ABLを含む多数の発癌性タンパク質の安定性および機能に影響を及ぼす分子シャペロンである(An WGら、Cell Growth Differ. 2000;11:355-360;Shiotsuら、Blood. 2000;96:2284-2291)。ゲルダナマイシン(GA)は、Hsp90のアミノ末端のATP結合ポケットに競合的に結合することによってHsp90を特異的に阻害するベンゾキノンアンサマイシンである(Prodromouら、Cell. 1997;90:65-75;Stebbinsら、Cell. 1997;89:239-250;Grenertら、1997;272:23843 23850)。BCR-ABLを発現する白血病細胞における、ゲルダナマイシン、またはその低毒性類似体17-アリルアミノゲルダナマイシン(17-AAG)によるHsp90機能の破壊は、BCR-ABL発現白血病細胞では、BCR-ABLタンパク質の分解を誘導し、細胞増殖を抑制することが報告されている(An WGら、Cell Growth Differ. 2000;11:355-360;Blagosklonny MVら、Leukemia. 2001;15:1537-1543;Nimmanapalli R.ら、Cancer Res. 2001;61:1799-1804)。17-AAGは現在、第I相臨床試験が進行中である。
【0197】
Hsp90の阻害が、STI-571耐性の変異型BCR-ABLタンパク質の分解を誘導するか否かを判定するために、STI-571耐性患者に認められる2種の変異型BCR-ABLタンパク質(T315IおよびE255K)を発現する造血細胞を抽出し、ゲルダナマイシンおよび17-AAGに対する感受性について検討した。本発明者らは、両化合物が、野生型および変異型のBCR-ABLタンパク質の分解を誘導すること、ならびに細胞成長を抑制することを明らかにした。このデータは、変異型BCR-ABLタンパク質に対して、より大きな効力を示す傾向があることも示唆している。以上の結果は、STI-571耐性のPh陽性の白血病の臨床状況における17-AAG使用の根拠となる。
【0198】
化合物:
GA(Sigma)、17-AAG(NSC 330507、National Cancer Institute)、およびSTI-571(Novartis)のストック溶液を、10 mMのジメチルスルホキシド溶液として調製し、-20℃で保存した。
【0199】
プラスミドおよび細胞系列:
pBluescript(Stratagene)中の完全長のP210 T315IおよびP210 E255KのBCR-ABLを、部位特異的変異誘発法で作製し、文献に記載の手順で配列決定を行って確認した(Gorreら、Science. 2001;293:876-880)。野生型および変異型のP210 BCR-ABLを次に、pMSCVpuro(Clontech)のEcoRI部位にサブクローニングして、レトロウイルスを作製した。pMSCVpuro DNAとEcopacレトロウイルスパッケージング用ベクター(R. Van Ettenの好意により供与)を293T細胞に、CaCl2法(Muller AJら、Mol.Cell.Biol. 1991;11:1785-1792)で同時にトランスフェクションしてエコトロピックなレトロウイルスを作製した。マウスの造血細胞系列Ba/F3を、10% ウシ胎児血清、L-グルタミン、および1 ng/mlの組換え型マウスIL-3(R&D)を添加したRPMI1640中で維持した。BCR-ABLを安定に発現しているBa/F3集団を、IL-3の存在下でBa/F3細胞にレトロウイルスの感染によって誘導し、次にピューロマイシンで選択した。IL-3に依存しないBCR-ABL発現細胞は、IL-3を含まない培地で、96ウェル組織培養プレート上で低密度で培養することで誘導した。IL-3に依存しない複数の集団を対象に、BCR-ABLタンパク質の発現を比較するためにウエスタンブロットでアッセイ法を行った。
【0200】
インビトロにおける薬剤曝露アッセイ法:
細胞を24ウェルプレートで、成長培地(親細胞の場合IL-3を追加)中で2×105細胞/mlで、GA、17-AAG、またはSTI-571とともに24〜48時間培養した。続いて、ウエスタンブロットによるタンパク質の解析、またはトリパンブルー色素排除法による細胞生存の解析は文献に記載された手順で行った(Gorreら、Science. 2001;293:876-880;Goga Aら、Cell. 1995;82:981-988)。
【0201】
結果
過去の研究で、Hsp90の阻害剤であるGA、およびこの誘導体17-AAGが、Hsp90の機能を破壊し、BCR-ABLタンパク質の分解を誘導することが報告されいる(An WGら、Cell Growth Differ. 2000;11:355-360;Blagosklonny MVら、Leukemia. 2001;15:1537-1543;Nimmanapalli R.ら、Cancer Res. 2001;61:1799-1804)。GAが同様に、STI-571耐性の点突然変異を有するBCR-ABLタンパク質の分解を引き起すことができるか否かを判定するために、インターロイキン-3(IL-3)依存性のBa/F3マウスの造血細胞の集団に、野生型、T315I、またはE255K P210のBCR-ABLのいずれかを発現させるようにして、さまざまな濃度の阻害剤に曝露した。過去の報告と矛盾することなく、両変異型BCR-ABL対立遺伝子は、細胞をIL-3に依存しない状態とし、またいずれかの変異型を発現する細胞は、高レベルのホスホチロシンを、BCR-ABLおよび他の基質タンパク質に含んでいた(Gorreら、Science. 2001;293:876-880;von Bubnoffら、Lancet. 2002;359:487-491)。ABL特異的抗体を用いたウエスタンブロット解析の結果、予想通り、GAがBCR-ABLタンパク質のレベルを、野生型のBCR-ABLを発現する細胞で、1.0 μMの用量で24時間の投与後に有意に低下させることがわかった(An WGら、Cell Growth Differ. 2000;11:355-360;Blagosklonny MVら、Leukemia. 2001;15:1537-1543;Nirmmanapalli R.ら、Cancer Res. 2001;61:1799-1804)。BCR-ABLタンパク質は、T315IまたはE255KのいずれかのBCR-ABLを発現する細胞でも分解されたが、この分解は、低濃度(0.5 μM)のGAでみられた(図7A)。2つの変異型BCR-ABLタンパク質のこの明らかな強化された分解は特異的なものであった。というのは、別のHsp90クライアントタンパク質RAF-1の分解は、検討した全ての細胞で同等であったからである。以上のデータは、GAが、野生型と比較して変異型BCR-ABLタンパク質に対して極めて効力が大きいことを示唆している。
【0202】
本発明者らは次に、17-AAG(第I相臨床試験が進行中のGA誘導体)のもつ、同じBa/F3細胞系列におけるBCR-ABLタンパク質分解を誘導する能力を検討した。17-AAGとともに培養した細胞に由来する可溶化液を対象としたウエスタンブロット解析の結果、GAの場合と同様の傾向が存在することがわかった。野生型のBCR-ABLタンパク質のレベルは、0.5〜1.0 μMの17-AAGの24時間の曝露後に次第に低下した。T315IおよびE255KのBCR-ABLを発現する両細胞におけるBCR-ABLタンパク質のレベルは、野生型BCR-ABL(0.5 μM)と同等の17-AAG濃度で低下し始めたが、低下の規模は、Bcr-Abl変異体を発現する細胞の方が、より劇的であった。BCR-ABLタンパク質は、1.0 μMの17-AAGでは、両変異体で実質的に検出されなかった(図7B)。この傾向は、本発明者らが、17-AAGが下流のBCR-ABLシグナル伝達に及ぼす作用を、CMLにおいて機能上重要である、BCR-ABLの直接の基質であるCRKLのリン酸化状態を測定することで評価することで確認された(Nicholsら、Blood. 1994;84:2912-2918;Odaら、J. Biol. Chem. 1994;269:22925-22928;Senechalら、J.Biol.Chem. 1996;271:23255-23261;ten Hoeve Jら、Blood. 1994;84:1731-1736)。STI-571を、濃度を高めながら共存させてインキュベートした細胞に由来する可溶化液を対象に行った、CRKL特異的抗血清を用いたウエスタンブロット解析によって、BCR-ABL変異体がSTI-571に対する耐性をもたらすことが確認された(図7E)。17-AAGで処理した細胞の可溶化液を対象としたCRKLのウエスタンブロット解析で、低用量の17-AAGが、野生型BCR-ABLと比較してBcr-Abl変異体を発現する細胞でBCR-ABL活性を阻害するために必要であることが明らかになった(図7C、D)。CRKLのリン酸化の有意な変化は、17-AAGの濃度が5.0 μMになるまで、野生型BCR-ABLを発現する細胞では認められなかった。一方、T315IおよびE255KのBCR-ABL発現細胞におけるCRKLのリン酸化は、0.5 μMの薬剤で有意に阻害された(図7C、D)。17-AAGは、これらの細胞のCRKLのリン酸化に役割を果たす別のキナーゼに影響を及ぼす可能性があるが、17-AAGがBCR-ABLタンパク質のレベルも低下させるという事実は、CRKLのリン酸化の構成的な上昇が、CMLに比較的特異的であることを示す過去に公表されたデータ(Nicholsら、Blood. 1994;84:2912-2918)を考え合わせることで、BCR-ABLが標的であることを示す強い証拠となる。
【0203】
過去の研究では、GAおよび17-AAGが、BCR-ABL陽性の白血病細胞系列の成長を阻害して、アポトーシスを誘導することも報告されている(Blagosklonny MVら、Leukemia. 2001;15:1537-1543;Nimmanapalli R.ら、Cancer Res. 2001;61:1799-1804)。GAが、STI-571耐性のBCR-ABL変異体を発現する細胞の成長を阻害するか否かを判定するために、野生型BCR-ABL、T315I BCR-ABL、およびE255K BCR-ABLで形質転換したBa/F3細胞を、さまざまな範囲のGA濃度で培養した。トリパンブルー色素排除法による、生存の評価、および対応するIC50の計算から、全3種類のBCR-ABL陽性細胞系列の成長が、BCR-ABL陰性の親細胞と比較した時に、低用量のGAによって阻害されることがわかった(表3)。生化学的解析で観察された、野生型BCR-ABLと比較した場合の、STI-571耐性Bcr-Abl変異体の感受性の強化も、成長阻害アッセイ法で再利用された。類似の結果は、17-AAG-処理細胞で認められた。全てのBCR-ABL発現細胞は、Ba/F3親細胞と比較して、17-AAGに対する感受性が高く、またSTI-571耐性のBCR-ABL発現細胞も、野生型BCR-ABL発現細胞と比較して、阻害に対して高い感受性を示した(表3)。
【0204】
要約すると、GAまたは17-AAGのいずれかによるHsp90の標的阻害は、野生型BCR-ABL、および2種類のSTI-571耐性BCR-ABL変異体(T315IおよびE255K)の分解を誘導した。両化合物とも、野生型および変異型のBCR-ABLで形質転換した造血細胞の成長を阻害した。この結果は、STI-571耐性変異体のHsp90の阻害に対する感受性が、野生型BCR-ABLと比較して高いことも示唆している。1つの可能な説明は、これら2つの変異型タンパク質が、野生型BCR-ABLと比較して安定性に劣るために、分子シャペロンに対する依存性が高いというものであろう。クライアントタンパク質Hsp90の機能に対する相対依存性を決定する変数をさらに深く理解するためには、この問題を十分評価する必要がある。それにもかかわらず、以上のデータは、STI-571耐性Ph陽性の白血病に対する17-AAGの臨床試験の実施を支持している。
【0205】
実施例8:BCR-ABL誘導性K562細胞をピコモルレベルで阻害する阻害剤であり、STI-571耐性BCR-ABL変異体に有効な、ABLキナーゼの新規のピリドピリミジン阻害剤の同定
構成的に活性なBcr-Ablチロシンキナーゼ(TK)のSTI-571による阻害は、慢性骨髄性白血病(CML)の高度に有効な治療法であることが証明されている。しかしSTI-571は、急性転化には一過的に有効なだけであり、Bcr-ablにおける変異による変化の増幅または発生によって薬剤耐性が現れる。この実施例で説明するように、本発明者らは、STI-571とは無関係なピリド[2,3-d]ピリミジンクラスのTK阻害剤ファミリーのスクリーニングを実施したので、STI耐性の変異型Bcr-ablタンパク質に対する実質的な活性をもつ化合物について本明細書で報告する。この化合物PD166326は、二重の特異性をもつTK阻害剤であり、srcおよびablをインビトロで阻害する(IC50はそれぞれ6 nMと8 nM)。PD166326は、K562細胞の成長を阻害し(IC50は300ピコモル)、アポトーシスによるG1停止を誘導するが、非Bcr-abl細胞の場合は、1000倍を超える高い濃度必要とする。本発明者らは、PD166326が、2種類の臨床的に認められたBcr-abl変異体に及ぼす作用を検討した。ATP結合ポケット内部のT315I変異は、同ポケットに対するSTI-571の親和性を低下させるが、E255K変異による耐性の構造的基盤は現時点で不明である。PD166326は、E255K変異型Bcr-ablタンパク質、およびBcr-abl E255K誘導型細胞の成長を強力に抑制する。T315I変異型Bcr-ablタンパク質は、PD166326に対して耐性を示すが、Bcr-abl T315I誘導型細胞の成長は、同化合物に、おそらくBcr-ablのエフェクター経路の阻害を介して部分的に感受性を示す。以上の知見から、チロシンキナーゼの薬剤耐性が構造に特異的な現象であり、他の構造的クラスのTK阻害剤によって克服可能なことがわかる。これは、将来の抗癌薬剤開発の新規の方法の存在を示唆している。PD166326は、新世代の抗Bcr-abl化合物のプロトタイプであり、ピコモルで作用し、STI-571耐性変異体に対する実質的な活性を有する。
【0206】
細胞培養法および成長アッセイ法
細胞を、100 U/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、4 mM グルタミン、10% 熱不活性化ウシ胎児血清を添加したRPMI培地で培養し、5% CO2の雰囲気下で37℃でインキュベートした。成長アッセイ法の場合、細胞を12ウェルのクラスターに10〜20,000細胞/ウェルになるようにシーディングした。細胞を、さまざまな濃度の薬剤を、0.1%を超えるで影響を及ぼすことのない溶媒(DMSO)とともにを含む培地に移した。4〜7日後に、細胞数をコールターカウンターで数えた。全ての実験は2回実施し、結果を平均化した。PD166326は、10 mg/ml DMSO 溶液として-70℃で保存した。PD166326の由来および化学構造は既に公表されている(例えばKrakerら、Biochemical Pharmacology 60、885-898, 2000を参照)。
【0207】
細胞周期アッセイ法
細胞を、所定濃度のPD166326または溶媒(DMSO)で所定の時間処理した。同期させる場合は、
細胞を、5 μg/mlのアフィディコリンを含む培地で24時間インキュベートし、PBSで2回洗浄し、成長培地中に移した。回収時に細胞をPBSで1回洗浄し、細胞核をNusseの方法(例えばNusseら、Cytometry. 1990;11:813-821を参照)で調製し、細胞周期の分布をDNA量のフローサイトメトリー解析で、臭化エチジウムで染色された核の赤色蛍光(488 nm)を指標に決定した。
【0208】
タンパク質の抽出およびウエスタンブロッティング
細胞をPBSで1回洗浄し、改変RIPA緩衝液(10 mM リン酸ナトリウム(pH 7.2)、150 mM NaCl、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム、1% NP-40、1% デオキシコール酸ナトリウム、1 mM バナジン酸ナトリウム、およびプロテアーゼ阻害剤)で溶解した。50 μgの全細胞タンパク質をSDS-PAGEで分離し、メンブレンにトランスファーし、対ホスホチロシン抗体(SantaCruz)、対c-abl抗体(8E9)、および対ホスホ-Hck抗体(SantaCruz)、対MAPキナーゼ抗体(SantaCruz)、ならびに対ホスホ-MAPキナーゼ抗体(Promega)を用いてイムノブロットを行った。
【0209】
インビトロキナーゼアッセイ法
C-ablキナーゼアッセイ法を、精製した組換え型c-ablおよびペプチド基質(New England Biolabs)を用いて行った。キナーゼアッセイ法を、100 μlの反応溶媒(50ユニットのc-abl酵素、および10 μCiの[32P]γ-ATPを含む)中に50 mM Tris-Cl(pH 7.5)、10 mM MgCl2、1 mM エチレングリコールビス-アミノエチルエーテルテトラ酢酸(EGTA)、2 mM ジチオスレイトール(DTT)、0.2% トライトン-X、100 μM ATP、40 μM ペプチド基質を含む液体中で行った。反応は30℃で10分間進行させ、EDTAを添加して沸騰させて停止させた。反応産物をホスホセルロースペーパー上にスポットし、リン酸で数回洗浄し、次にアセトンで洗浄し、シンチレーション液中でカウントした。最初にパイロット実験を実施し、これらの反応条件が線形範囲にあることを確認した。
【0210】
Bcr-Ablは、対数増殖期の培養条件で維持したK562細胞の細胞溶解液から免疫沈殿を生じた。複合体をタンパク質A-セファロース上で回収し、溶解緩衝液で3回洗浄し、ablキナーゼ緩衝液(50 mM tris(pH 8.0)、10 mM MgCl2、1 mM DTT、および2 mM p-ニトロフェニルリン酸、および2 mM ATP;New England Biolabs、およびプロトコル)で2回洗浄した。キナーゼアッセイ法を、所定濃度の薬剤の存在下または非存在下で、10 mMの[γ-32P]ATP/試料を対象に30℃で15〜60分間かけて行った。この免疫複合体を、薬剤と4℃で10分間プレインキュベートした後に、標識ATPを添加し、反応を30℃で開始した。反応を、SDS-PAGE試料緩衝液を添加して停止し、100℃で10分間加熱した。タンパク質を7.5% SDSポリアクリルアミドゲルで分離し、ゲルを真空下で乾燥させ、リン酸化の程度をオートラジオグラフィーでX線フィルム上に可視化した。
【0211】
結果
c-srcチロシンキナーゼ活性の阻害剤の化合物ライブラリーのスクリーニングでは、いくつかのピリド[2,3-d]ピリミジンが、c-srcのATP競合阻害剤であること(IC50値は20 nM未満で、c-srcに対する多様な選択性を示す)が報告されている(例えばKrakerら、Biochemical Pharmacology 60, 885-898, 2000を参照)。本発明者らは、このグループの化合物を対象に、c-ablに対する活性に関して、精製した組換え型c-ablおよびインビトロキナーゼアッセイ法用ペプチド基質を用いてスクリーニングを行った。最も強力な化合物はPD166326であり、IC50は8 nM(対c-abl)、および6 nM(対src)であった。srcファミリーキナーゼのLckは、5 nM 未満のIC50で阻害される。この化合物も、インビトロにおいて塩基性FGF、PDGF、およびEGFの受容体チロシンキナーゼに対する活性をもつ(IC50はそれぞれ62 nM、139 nM、および80 nM)。PD166326は、JNKキナーゼ、環状AMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)、PKB-β、PKC-α、rho依存性タンパク質キナーゼ、カゼインキナーゼ-2、およびホスホリラーゼキナーゼに対する有意な活性を示さない。PD166326との比較では、STI-571はインビトロにおいてAblの弱い阻害剤である(IC50=50 nM)。PD166326はまた、Bcr-ablキナーゼをインビトロで阻害する(IC50=1 nM)。
【0212】
PD166326はまた、K562細胞におけるBcr-ablの自己リン酸化を対象としたウエスタンブロット解析で判定されるように、細胞のBcr-abl活性も阻害する。これらの細胞では、Bcr-ablの自己リン酸化は、IC50が1 nMで阻害される(STI-571の場合は100 nM)。Bcr-ablの自己リン酸化は、これらのアッセイ法でMAPキナーゼ活性とBcr-ablの阻害が平行して低下することからわかるようにBcr-ablシグナル伝達活性と相関する。
【0213】
PD166326の生物学的活性および効力は、K562細胞を用いた細胞成長アッセイ法で当初評価された。同化合物は、K562細胞の成長を阻害する(IC50=0.3 nM)。他のBcr-abl誘導型細胞系列も、PD166326に極めて高い感受性を示す(IC50は0.8 nMおよび6 nM)(M07-p210bcr-ablおよびBaF3-p210bcr-ablを参照)。PD166326の強力な生物学的活性は、Bcr-abl誘導型細胞に対する特異性が極めて高い。別の造血細胞系列および上皮細胞系列は、2〜3 log高い濃度で阻害されるだけである(IC50=0.8〜2 μM)。
【0214】
別の解析で、PD166326が細胞増殖を、細胞周期のG1期に特異的に阻害することがわかっている。Bcr-abl陽性細胞の成長を完全に阻害するが、他の種類の細胞の成長を阻害しない濃度では、PD166326は、アポトーシス細胞数の有意な上昇を伴う、G1期の細胞の蓄積を誘導する。同期細胞を対象とした実験からわかるように、細胞周期の他の相は、同化合物の影響を受けない。K562細胞を、アフィディコリンでG1/S境界に同期させ、PD166326または溶媒中に放出し、細胞周期の進行を続く24時間に調べた。以上のデータは、PD166326処理は、細胞周期のS期、G2期、または有糸分裂期の進行に干渉しないが、PD166326処理細胞がG1期から脱することができないことを示している。ノコダゾールで同期させた細胞を対象とした類似の実験でも、PD166326がG1進行を阻害することが確認されている。K562細胞におけるG1期進行の阻害およびアポトーシスの誘導は、STI-571について過去に報告された作用と同程度である(例えばDanら、Cell Death & Differentiation. 1998;5:710-715を参照)。以上のデータから、PD166326がBcr-ablキナーゼ活性の強力な阻害剤であり、Bcr-abl誘導型細胞の成長を、アポトーシスによる細胞死に至るG1進行の阻害を介して抑制することがわかる。
【0215】
STI-571投与に対する耐性は、STI-571による阻害に対して不応性とするBcr-abl癌タンパク質における変異と関連する(例えばGorreら、Science. 2001;293:876-880を参照)。PD166326がSrcとAblの両方を阻害する一方でSTI-571はAblのみを阻害するので、PD166326はBcr-ablに対して、STI-571とは異なる様式で結合する可能性がある。この差は、PD166326が一部の変異型Bcr-ablタンパク質に対して有効な場合があるという可能性を示す。本発明者らは、STI-571療法で再発が認められた患者に由来する、このような2種類の変異型Bcr-ablタンパク質に対するPD166326とSTI-571の活性を比較した。T315I変異は、再発患者で頻繁に認められ、AblのATP結合ポケットの内部の重要なスレオニン残基を失うので、STI-571の結合親和性が大きく低下する。E255K変異も、再発患者で変異が多く認められるBcr-ablの領域内に位置するが、同領域の変異によってもたらされるSTI-571耐性の構造的基礎はまだ解明されていない。BaF3マウスの造血細胞系列は、野生型p210bcr-ablのcDNA、またはT315IもしくはE255Kの変異型のいずれによっても安定にトランスフェクトされたことが報告されている(例えばGorreら、Science. 2001;293:876-880を参照)。Bcr-ablの発現は、BaF3細胞をIL-3非依存性とするが、ベクターのみをトランスフェクトした対照細胞は成長にIL-3を必要とする。STI-571は、野生型 p210bcr-abl細胞を阻害する(IC50=500 nM)が、T315IおよびE255Kの変異型p210bcr-abl細胞は高度の耐性を示す。しかし、STI-571に対する耐性は、PD166326に対する交差耐性をもたらさないようである。PD166326は、p210Bcr-ablE255Kの自己リン酸化を、野生型p210Bcr-ablの自己リン酸化と同程度に有効にインビボで阻害するが、この変異体は、STI-571による阻害に対して高度の耐性を示す。しかし、p210Bcr-ablT315I変異体は、STI-571に対する耐性と同程度の耐性をPD166326に対して示す。これは、ATP結合ポケット内のThr315が重要な役割を果たすことを考えれば意外ではない。
【0216】
PD166326に対する細胞成長の感受性が、変異型Bcr-abl癌タンパク質の阻害と相関するか否かを判定するために、本発明者らは、野生型Bcr-ablタンパク質および変異型Bcr-ablタンパク質で誘導されたBaF3細胞の感受性の決定も行った。BaF3p210Bcr-abl細胞はPD166326に極めて感受性が高く(IC50=6 nM)、またE255K変異型p210bcr-abl細胞は、同化合物に対してそれなりの感受性を示す(IC50=15 nM)。これらの細胞の成長を阻害する用量範囲におけるp210E255Kbcr-abl活性が有効に阻害されることは、STI-571耐性の白血病細胞が、変異型Bcr-abl癌タンパク質の活性の持続によって誘導されることの証拠となる。これとは対照的に、T315I変異型細胞は、PD166326に対して部分的に耐性を示す(完全な耐性ではない)。PD166326は、BaF3p210T315I細胞を阻害する(IC50=150 nM)。これは、野生型BaF3P210細胞の阻害と比較して25倍弱いが、それでも治療上効果はあると考えられる。というのは、BaF3ベクター対照、および非Bcr-abl誘導型細胞の阻害と比較して8倍も強力なためである。PD166326は、BaF3p210Bcr-ablT315I細胞の成長を阻害する(IC50=150 nM)が、最大1 μMまで用量ではT315I Bcr-abl変異体の自己リン酸化を阻害しない。この結果は、この抗増殖作用が部分的には、Bcr-ablの阻害以外の機構に関連することを示唆している。
【0217】
PD166326はsrcキナーゼに対しても活性を示すが、その抗白血病作用は、Bcr-ablの下流で機能するsrcキナーゼHckおよびLynの阻害と部分的に関連する可能性がある。srcキナーゼHckおよびLynはBcr-ablによって活性化され、Bcr-ablのトランスフォーミング機能の一部に関連する可能性がある。触媒ドメイン内のtyr416のリン酸化は、srcキナーゼの活性化に必要であるが、Bcr-ablがHckおよびLynを活性化させる機構は解明されていない。STI-571によってBcr-ablが阻害されると、平行してK562細胞でHckの活性化が抑制される。このような細胞では、PD166326はBcr-ablおよびHckの活性化も抑制するが、STI-571の場合と比較して100倍低い用量で達成される。HckもBcr-ablの変異型によって活性化され、変異型BaF3p210Bcr-ablE255K細胞では、PD166326はHckの活性化を抑制し、これは、Bcr-ablE255Kの自己リン酸化の観察される阻害および細胞成長の阻害と相関する。これとは対照的に、Bcr-ablT315I変異体によるHckの活性化は、PD166326で抑制されず、またこれは、PD166326に対するBcr-ablT315I活性の耐性と相関する。しかし、Bcr-abl活性を抑制できず、また結果としてHckが活性化されるにもかかわらず、PD166326は、BaF3p210Bcr-abl315I細胞の成長を、おそらく別の機構によって阻害する(IC50=150 nM)。
【0218】
STI-571はCMLの治療を革命的に変えたが、TK薬剤耐性の問題が現在、臨床的に現実のものとなりつつある。STI-571に対する耐性には、構造的基礎があると考えられるので、より新規のTK阻害剤は、類似の耐性機構に対して感受性をもつ可能性がある。しかし、さまざまな構造的クラスのTK阻害剤は、より好ましい結合特性をもつ可能性がある。Dorseyらは当初、ピリド[2,3-d]ピリミジンクラスのsrc選択的TK阻害剤が、Bcr-Ablキナーゼに対して実質的な活性をもつことを報告した(例えばDorseyら、Cancer Research. 2000;60:3127-3131を参照)。本発明者らは、src選択的ピリド[2,3-d]ピリミジンのファミリーのスクリーニングを行い、ablキナーゼに対して極めて強力な活性をもつ化合物を同定したことで、この知見を拡張した。本明細書で本発明者らは、この化合物(PD166326)の特性解析について報告する。新規の2つの特異性をもつTK阻害剤であるPD166326は、STI-571と比較してインビボで100倍以上強力であり、K562細胞を阻害する(IC50=300ピコモル)。PD166326の強力な成長阻害活性が、非特異的な活性と関連するという可能性は低い。というのは、PD166326の効力は、Bcr-ablキナーゼによって誘導される細胞種に特異的であると考えられるからである。Bcr-abl誘導型細胞はIC50が0.3〜6 nMで阻害されるが、造血細胞BaF3および32D、ならびにEGFRの過剰な活性によって誘導される、MCF-7細胞、およびMDA-MB-468細胞を含む上皮癌細胞を含む他の種類の細胞はIC50が0.8〜2 μMで阻害される(表2)。非Bcr-abl誘導型細胞の成長に対する、マイクロモルオーダーにおけるPD166326の活性には、別の細胞標的の阻害が介在する可能性が極めて高い。なぜなら、Bcr-abl陽性細胞とは異なり、Bcr-abl陰性細胞の成長は、細胞周期のS期で阻害されるからである。PD166326のもつ、ピコモルオーダーにおける効力および細胞選択性は、インビトロにおいてSTI-571より有意に優れている。
【0219】
Bcr-ablのシグナル伝達には、srcファミリーのキナーゼであるHckおよびLynが関与することが知られており、またPD166326が、srcファミリーのキナーゼの強力な阻害剤でもあるので、同化合物の生物学的効力は、これら2種類の機能的に関連するチロシンキナーゼの二重の阻害に関連すると考えられる。HckはBcr-ablと結合し、またBcr-ablのTyr177をリン酸化して、Grb2/Sosを動員してRas経路を活性化させる(例えばWarmuthら、Journal of Biological Chemistry. 1997;272:33260-33270を参照)。キナーゼ欠損型のHck変異体は、Bcr-ablの誘導による形質転換を抑制することから、Hckが関連するシグナル伝達がBcr-Ablのトランスフォーミング活性に不可欠であることが示唆される(例えばLionbergerら、Journal of Biological Chemistry. 2000;275:18581-18585を参照)。Bcr-ablシグナル伝達におけるLynの役割は、それほどよくわかっていない。しかしLynの活性も急性骨髄性の白血病細胞系列で上昇し、また同細胞を対象に、アンチセンス分子を用いてLynの発現を抑制すると増殖活性が低下し、またsrcファミリー選択的な薬理的阻害剤を用いてLynキナーゼの活性を抑制すると、が細胞の成長およびコロニーの形成が強力に阻害される(例えばRoginskayaら、Leukemia. 1999;13:855-861を参照)。PD166326の効力には、他の未発見の細胞性タンパク質の阻害が介在することも考えられ、本発明者らのもつデータからは、この可能性を除外していない。しかし、現時点で未知の細胞標的が、Bcr-abl誘導型細胞における同化合物の成長阻害作用の制御に果たす役割は、候補となる標的が同定されて検討されるまではわからない。
【0220】
STI-571使用後の再発には、STI-571との結合を変化させるBcr-ablの変異が関連しているので、STI-571とAblとの相互作用の性質を理解することが、薬剤耐性を克服するために基本的に重要である。Ablの触媒ドメインとSTI-571バリアントの複合体の結晶構造が、最近シンドラー(Schindler)らによって明らかにされた(例えばSchindlerら、Science. 2000;289:1938-1942を参照)。STIは、不活性コンフォメーションのAblのATP結合ポケット内に結合する。この結合は、Abl活性化ループのコンフォメーションに大きく影響される。この活性化ループがリン酸化されると、開放的で活性を有するコンフォメーションとなり、そのアミノ末端のアンカーの存在により、STI-571とATP結合ポケットの結合に干渉する。このモデルと矛盾することなく、STI-571の結合は、不活性コンフォメーションのAblに対して選択的であり、また同化合物は、活性を有するリン酸化型Ablの触媒活性を阻害できなくなる。(例えばSchindlerら、Science. 2000;289:1938-1942を参照)。srcキナーゼに対する活性を始めとして、PD166326の活性が広範囲に及ぶことは、STI-571とは異なり、PD166326が、不活性コンフォメーションのAblに選択的に結合しない可能性があることを示唆している。というのは、Ablの活性コンフォメーションは、srcキナーゼと、かなりの構造上の相同性を有するからである(例えばSchindlerら、Science. 2000;289:1938-1942を参照)。不活性コンフォメーションに対する選択性は、STI-571に対する高度の分子特異性をもたらすと想定されるが、これは効力を犠牲にするかもしれない。PD166326は、Ablの不活性コンフォメーションおよび活性コンフォメーションと結合して、本発明者らがインビトロで観察した全体的な酵素活性を、より効果的に阻害しているかもしれない。また、Ablの活性化ループのリン酸化は、Bcr-ablで形質転換した細胞において、srcファミリーキナーゼのHckによって触媒される。PD166326もHckを阻害するので、これは活性化ループのリン酸化を妨げて、Ablの活性コンフォメーションを不安定化するかもしれない。このようなアロステリック機構は、PD166326とATP結合ポケットの直接的な結合に加えて、Ablの活性化の阻害に2つの機構を提供する可能性があり、また、効力を増大させるための基礎となる。以上の仮説を検証するためには、PD166326が結合した状態のAblを対象とする結晶学的研究が待たれる。
【0221】
PD166326は、STI-571と交差耐性を示さず、T315IおよびE255KのSTI-571耐性Bcr-Abl変異体に対して実質的な活性をもつ。この知見は、あらゆる種類のTK阻害剤の将来の設計および用途に重要な意味をもつ。というのは初期の報告で、TK阻害剤耐性が、さまざまな構造的クラスの別のTK阻害剤によって克服可能であることが示されているからである。PD166326に対する耐性の出現がSTI-571の場合と同様の展開をたどるか否かを推測することは難しい。しかし、これらの化合物は構造的に無関係なので、PD166326に対する耐性は、STI-571に対する耐性とは異なる構造的基礎に関与する可能性が高い。この差は、逐次服用や併用療法などの、耐性を防いだり克服したりする方策を得る好機となる。しかし、薬剤の感受性および耐性を理解することは、この点で根本的に重要である。
【0222】
さらに研究を進めることで、STI-571耐性およびPD166326感受性の正確な構造的および細胞学的な基礎が明らかになってくると思われるが、既存のデータは本発明者らが得た知見を説明している。いくつかのアミノ酸残基が、ATP結合ポケット内におけるSTI-571の結合に関与しており、なかでもThr315は、薬剤との水素結合の形成に極めて重要である(例えばSchindlerら、Science. 2000;289:1938-1942を参照)。STI-571耐性CMLに存在するT315I変異は、STI-571との水素結合の形成を不可能にし、Ileの過剰な炭化水素基による空間的な衝突を招く(例えばGorreら、Science. 2001;293:876-880を参照)。同様にPD166326は、Bcr-AblT315Iの活性をインビボで阻害しないことから、ablのATPポケット内における結合にもThr315が重要であることが示唆される。しかしPD166326は、BaF3p210T315I細胞に対してある程度の活性を有し、同細胞の成長を阻害する(IC50=150 nM)。この活性は、Bcr-ablによって誘導される成長に関連する。なぜなら非Bcr-abl誘導型細胞種の成長阻害には、5〜15倍高い濃度が必要だからである。PD166326はsrcキナーゼの強力な阻害剤であり、またsrcキナーゼHckおよびLynは、Bcr-ablのある程度のトランスフォーミング活性に関連するので、PD166326はHckおよびLynの阻害を介して、BaF3p210T315I細胞の成長を阻害する可能性がある。しかし、一見すると、この仮説と一致しないように、本発明者らは、このような細胞における、成長阻害濃度におけるHck Y416のリン酸化の阻害を観察できてない。しかし、これは、インビボにおけるHck活性の調査に限界があるために仮説が誤りであることを意味するのではない。仮にPD166326が、Hckの活性型Y416リン酸化コンフォメーションに結合し、これを阻害するならば、この触媒的に不活性な薬剤-Hck複合体は、リン酸化されたコンフォメーションで、安定な状態を維持する可能性があり、またホスホ-Y416をもつHck抗体では、Hckの触媒機能のインビボにおける阻害を証明できないだろう。インビトロキナーゼアッセイ法は、この点に関して有用ではない。というのは、細胞の溶解および免疫沈殿の過程では、Hck-PD166326の相互作用が失われるからである。したがって、Bcr-abl活性がPD166326に対して耐性を示すBaF3p210T315I細胞では、Hck活性の阻害は、IC50=150 nMで観察される成長阻害作用に、同用量ではHcKのリン酸化状態が持続するにもかかわらず関連する可能性がある。また、Y416は、srcキナーゼの自己リン酸化部位であるが、他のキナーゼによるリン酸化の基質にもなる可能性がある。実際に本発明者らの実験では、Hck Y416のリン酸化状態は、Bcr-abl活性と同時にみられ、Hck Y416がBcr-ablの基質でもあることが伺われる。srcキナーゼに対するPD166326の活性は、同薬剤が、srcファミリーの分子を介してBaF3p210T315I細胞を阻害することを示唆していると言えるが、以上の実験では、このような細胞の感受性に他の未知のキナーゼの阻害が介在する可能性を除外できない。
【0223】
E255K変異型Bcr-ablによるSTI-571耐性の構造的基礎は、同残基の機能的重要性が現時点で不明なために、それほど明らかではない。興味深いことに、この変異は、PD166326に対するわずかな耐性をもたらす。PD166326は、Bcr-ablE255Kの自己リン酸化に対する活性の喪失をインビボで示さず、またBaF3Bcr-ablE255K細胞の成長に対する活性は、野生型のBcr-abl対照と比較して2.5倍しか低くない。BaF3Bcr-ablE255K細胞に対するPD166326の細胞性IC50(15 nM)は、非Bcr-abl誘導型細胞種における活性(0.8〜2 μM)より、かなり低く、また同変異体に対するSTI-571の活性と比較してかなり高い。仮にBcr-abl E255Kの対STI-571耐性の基礎が、不活性コンフォメーションの不安定化であるなら、またPD166326が実際には活性コンフォメーションに結合するならば、これは、PD166326がBcr-ablE255Kの阻害に有効な原因を説明できるだろう。しかし、以上の仮説の検証には、Glu255残基の機能、およびPD166326とBcr-ablの結合を詳細に明らかにするために結晶構造データが必要である。
【0224】

表1A-1Eは、典型的なMARSを示す。このデータは、患者の解析に由来するもので、患者1人あたり平均10個のクローンを処理した。以下の表は、重要である可能性が極めて高い変異のサブグループを示す。なぜなら、複数の患者に存在するか、または優性であるからである(同じ患者の10個のクローンの少なくとも2個で検出されることを条件とする)。これらの変異体が極めて一般的に現れるという結果は、これらの変異が、臨床的に重要であることを示すさらなる証拠となる。
【0225】
(表1A)STI-571投与患者で存在する変異した残基

【0226】
(表1B)典型的な変異

【0227】
(表1C)複数の患者に存在する変異

【0228】
(表1D)優性変異または1人の患者で複数の出現頻度で存在する変異

【0229】
(表1E)優性クローンを有する複数の患者、または少なくとも2個のクローンで存在する変異

【0230】
(表1F)結合性変異

【0231】
(表2)GenBankアクセッション番号M14752

【0232】
(表3)STI-571耐性BCR-ABL形質転換細胞のゲルダナマイシンおよび17-AAGに対する感受性

少なくとも2回の独立した実験(2回実施)に由来する代表的なデータ;
IC50=生細胞数を50%に減少させるために必要な阻害剤の濃度;
*対のないスチューデントのt検定で解析した野生型細胞と変異型P210 Ba/F3細胞の平均IC50値の差;両側P値を示す。
【0233】
(表4)疾患分類によるBcr-Ablキナーゼドメインの変異の詳細
MBCは、再発性骨髄性急性転化を意味する(STI-571以外)。LBCは、再発性リンパ性急性転化を意味する。CPは、細胞遺伝学的な反応のない慢性期を意味する。R-MBCは、疾患が後に不応性となった、骨髄性急性転化の患者に由来するSTI-571投与前の試料を意味する。

【0234】
本出願を通じて、さまざまな出版物を参照している。これらの出版物の開示は、全体が参照として本明細書に組み入れられる。本発明は、本発明の個々の局面の1つの説明であることが意図される、本明細書に開示された態様の範囲に制限されず、また機能的に等価である任意の態様は本発明の範囲に含まれる。本明細書に記載された事項に加えて、本発明のモデルおよび方法に対する、さまざまな修飾は、前述の記述および開示から当業者に明らかとなり、また同様に、本発明の範囲に含まれることを意図する。このような修飾、または他の態様は、本発明の真の範囲および精神から解離することなく実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を決定する段階、ならびにヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列を、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列と比較することで、ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチドのアミノ酸の置換が同定可能な段階を含む、チロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択された被験者に由来するヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチド中のアミノ酸の置換を同定する方法。
【請求項2】
アミノ酸の置換が、残基D233〜残基T406を含む配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の領域に存在する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アミノ酸の置換が、Pループ(配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の残基G249〜残基V256)、ヘリックスC(配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の残基E279〜残基I293)、触媒ドメイン(配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の残基H361〜残基R367)、または活性化ループ(配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の残基A380〜残基P402)に存在する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
アミノ酸の置換が残基

に存在する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
アミノ酸の置換が

である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
アミノ酸の置換が残基

に存在する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
アミノ酸の置換が残基

に存在する、請求項4記載の方法。
【請求項8】
アミノ酸の置換が残基E255に存在しない、請求項4記載の方法。
【請求項9】
キナーゼ阻害剤が2-フェニルアミノピリミジンである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
アミノ酸の置換が、STI-571によるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性をもたらす、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列が、Bcr-Ablポリペプチドをコードする、ヒト癌細胞で発現されるポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定することで決定される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリヌクレオチドがポリメラーゼ連鎖反応によって単離される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
哺乳類細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリヌクレオチドの配列を決定する段階、ならびにBcr-Ablポリヌクレオチドの配列を、配列番号:1に示されたポリペプチド配列をコードするBcr-Ablポリヌクレオチド配列と比較する段階(Bcr-Ablポリヌクレオチド中の変異が、配列番号:1に示されたポリペプチド配列の

の位置のアミノ酸残基における変化を含む)を含む、哺乳類細胞内のBcr-Ablポリヌクレオチド中の変異を同定する方法(Bcr-Ablポリヌクレオチド中の変異が、2-フェニルアミノピリミジンによるBcr-Ablチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性と関連する)。
【請求項14】
哺乳類細胞がヒト癌細胞である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ヒト癌細胞が慢性骨髄性白血病細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ヒト癌細胞を、STI-571を投与した被験者から得る、請求項14記載の方法。
【請求項17】
置換変異が、残基

に存在する、請求項13記載の方法。
【請求項18】
置換変異が、残基E255に存在しない、請求項17記載の方法。
【請求項19】
2-フェニルアミノピリミジンがSTI-571である、請求項13記載の方法。
【請求項20】
ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリペプチドのアミノ酸の置換が、STI-571によるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性をもたらす、請求項19記載の方法。
【請求項21】
ヒト癌細胞で発現される少なくとも1つのBcr-Ablポリペプチドのポリペプチド配列が、Bcr-Ablポリペプチドをコードする、ヒト癌細胞で発現されるポリヌクレオチドの配列を決定することで決定される、請求項13記載の方法(ヒト癌細胞で発現されるBcr-Ablポリヌクレオチドが、ポリメラーゼ連鎖反応で単離される)。
【請求項22】
以下の段階を含む、哺乳類癌細胞で発現される変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼの同定法:
(a)細胞で発現されるアベルソンタンパク質チロシンキナーゼのキナーゼドメインをコードするポリヌクレオチドの一部のヌクレオチド配列を決定する段階;ならびに
(b)このように決定されたヌクレオチド配列を、アベルソンタンパク質チロシンキナーゼの野生型の配列と比較することで、変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼ中のアミノ酸の置換の有無を判定する段階(このように同定された任意のアミノ酸の置換が、アベルソンタンパク質チロシンキナーゼのポリペプチド配列内に、WU-BLAST-2解析の相同性パラメータを用いて決定可能なように、2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性と関連することがわかっている、配列番号:1に示されたC-Ablタンパク質キナーゼにおけるアミノ酸の置換と同じ相対位置に位置するアミノ酸残基に存在するという特性をもつ)。
【請求項23】
変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼを発現する細胞が、2-フェニルアミノピリミジン曝露後にチロシンキナーゼ活性の阻害に対して耐性を示すことが観察される哺乳類癌細胞の集団内に見出される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
哺乳類癌細胞が、2-フェニルアミノピリミジンを含むチロシンキナーゼ阻害剤を用いる治療対象として選択された被験者から得られたヒト癌細胞である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
2-フェニルアミノピリミジンによるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性と関連することがわかっている、配列番号:1に示されたC-Ablタンパク質キナーゼの変異が、アミノ酸残基

と同じ相対位置に存在する、請求項22記載の方法。
【請求項26】
アミノ酸の置換が、アミノ酸残基

と同じ相対位置に存在する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
アミノ酸の置換が、STI-571によるチロシンキナーゼ活性の阻害に対する耐性をもたらす、請求項22記載の方法。
【請求項28】
細胞で発現される変異型アベルソンチロシンキナーゼが、変異型c-Abl、Bcr-Abl、PDGFR、c-kit、TEL-Abl、またはTEL-PDGFRである、請求項22記載の方法。
【請求項29】
異なる個体に由来する別の哺乳類癌細胞を対象に段階(a)〜(b)を繰り返す段階;ならびに
(c)哺乳類癌細胞中に存在する変異型アベルソンタンパク質チロシンキナーゼ中に見出される変異のカタログを作成する段階をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項30】
以下の段階を含む、変異型Bcr-Ablのポリペプチドに特異的に結合する化合物を同定する方法(Bcr-Ablポリペプチドが、残基D233〜残基T406を含む配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の領域に存在するアミノ酸の置換を含む):変異型Bcr-Ablのポリペプチドに被験化合物を、結合が起こりやすい条件で接触させる段階;ならびに被験化合物が、変異型Bcr-Ablのポリペプチドに特異的に結合するか否かを判定して、変異型Bcr-Ablのポリペプチドに結合する化合物が同定可能な段階。
【請求項31】
アミノ酸の置換が残基

に存在する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
アミノ酸の置換が

である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
アミノ酸の置換が残基

に存在する、請求項30記載の方法。
【請求項34】
アミノ酸の置換が残基

に存在する、請求項30記載の方法。
【請求項35】
アミノ酸の置換が残基E255に存在しない、請求項30記載の方法。
【請求項36】
化合物が2-フェニルアミノピリミジンである、請求項30記載の方法。
【請求項37】
以下の段階を含む、被験化合物が、変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を阻害するか否かを判定する段階をさらに含む、請求項30記載の方法:
哺乳類細胞に、変異型Bcr-Ablのポリペプチドをコードするコンストラクトをトランスフェクトする段階;
哺乳類細胞に、被験化合物を接触させる段階;ならびに
変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性に関して、哺乳類細胞をモニタリングする段階(被験化合物の非存在下と比較することで、被験化合物の存在下でチロシンキナーゼ活性の阻害が認められれば、被験化合物が変異型Bcr-Ablのポリペプチドの阻害剤であることがわかる)。
【請求項38】
アミノ酸の置換が残基T315に存在する、請求項37記載の方法。
【請求項39】
変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を、Crklのホスホチロシン量を調べることで測定する、請求項37記載の方法。
【請求項40】
以下の段階を含む、被験化合物が、変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を阻害するか否かを判定する方法(Bcr-Ablポリペプチドが、残基D233〜残基T406を含む、配列番号:1に示されたBcr-Ablポリペプチド配列の領域に存在するアミノ酸の置換を含む):
哺乳類細胞に、変異型Bcr-Ablのポリペプチドをコードするコンストラクトをトランスフェクトして、変異型Bcr-Ablのポリペプチドを哺乳類細胞で発現させる段階;
哺乳類細胞に被験化合物を接触させる段階;ならびに
変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性に関して、哺乳類細胞をモニタリングする段階(被験化合物の非存在下と比較することで、被験化合物の存在下でチロシンキナーゼ活性の阻害が認められれば、被験化合物が変異型Bcr-Ablのポリペプチドの阻害剤であることがわかる。
【請求項41】
変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を、Crklのホスホチロシン量を調べることで測定する、請求項40記載の方法。
【請求項42】
変異型Bcr-Ablのポリペプチドのチロシンキナーゼ活性を、抗ホスホチロシン抗体を用いるウエスタンブロット解析で測定して、哺乳類細胞の可溶化液のホスホチロシン量を調べる、請求項40記載の方法。
【請求項43】
哺乳類細胞が293-T細胞である、請求項40記載の方法。
【請求項44】
アミノ酸の置換が残基

に存在する、請求項40記載の方法。
【請求項45】
アミノ酸の置換が

である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
アミノ酸の置換が残基

に存在する、請求項40記載の方法。
【請求項47】
アミノ酸の置換が残基

に存在する、請求項40記載の方法。
【請求項48】
アミノ酸の置換が残基E255に存在しない、請求項40記載の方法。
【請求項49】
化合物が2-フェニルアミノピリミジンである、請求項40記載の方法。
【請求項50】
化合物がピリド[2,3-d]ピリミジンである、請求項40記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−99355(P2013−99355A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−17055(P2013−17055)
【出願日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【分割の表示】特願2012−274642(P2012−274642)の分割
【原出願日】平成14年6月14日(2002.6.14)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【Fターム(参考)】