説明

SVOCの放散速度制御装置及び制御方法

【課題】部材から放散されるSVOCの放散速度を制御することができるSVOCの放散速度制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】不活性な表面を有する材料から製作され、上面6に排気口8を、底面5に吸気口7をそれぞれ有するチャンバー4と、チャンバー4の側壁12内に上下方向に分離して配設された複数のヒータ13、14と、それら複数のヒータ13、14の温度をそれぞれ調整する温調手段16と、チャンバー4内に設置された温度センサー15とからSVOCの放散速度制御装置1Aを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSVOCの放散速度制御装置及び制御方法に関し、更に詳しくは、部材から放散されるSVOCの放散速度を制御することができるSVOCの放散速度制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会的な問題となっている化学物質過敏症やシックハウス症候群を防止することを目的として、建築材料や車室内の部品などから放散される揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)を低減する試みが各業界において進められている。更に、最近では、高沸点成分の毒性を有する準揮発性有機化合物(SVOC:Semi Volatile Organic Compounds)も規制対象として注目されてきている。
【0003】
部材から放散されるVOC及びSVOCの定量測定は、それぞれ日本工業規格に定める小型チャンバー法及びマイクロチャンバー法により行われる(非特許文献1、2を参照)。これらの測定方法では、通常は一定の形状に加工された試料が用いられるが、実際には部材の態様によりVOCやSVOCの放散速度が変化するため、測定精度を向上するためには、あらかじめ既知濃度の試薬からなる標準物質を用いて部材からの放散速度を確認する必要がある。
【0004】
前者のVOCについては、試薬を容易に入手することができるので、部材の態様に応じた捕集方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、後者のSVOCについては、VOCに比べて沸点及び吸着性が高いため、試薬を用いて部材からの放散速度を確認することは非常に困難であった。
【0005】
つまり、従来のSVOCの定量測定においては、標準物質とはSVOC標準溶液のことを意味していたが、そのようなSVOC標準溶液を用いると実際の部材から放散するSVOCの放散性状が再現できないため、その実際の部材を利用して標準物質を形成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−226745号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】JIS A 1901「建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定方法−小型チャンバー法」
【非特許文献2】JIS A 1904「建築材料の準揮発性有機化合物(SVOC)の放散測定方法−マイクロチャンバー法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、部材から放散されるSVOCの放散速度を制御することができるSVOCの放散速度制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明のSVOCの放散速度制御装置は、部材から放散するSVOCの放散速度を制御するSVOCの放散速度制御装置であって、不活性な表面を有する材料から製作され、上面に排気口を、底面に吸気口をそれぞれ有するチャンバーと、前記チャンバーの側壁内に上下方向に分離して配設された複数のヒータと、前記複数のヒータの温度をそれぞれ調整する温調手段と、前記チャンバー内に設置された温度センサーとを備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、上記のSVOCの放散速度制御装置において、前記吸気口を通じて前記チャンバー内にガスを供給するガス管を設置することで、対流の発生を防止して、直線状の気流を発生させてSVOCを放散させることができる。更に、前記チャンバーの内壁面から突設してなる支持具を有することで、板材のような薄い部材から効率よくSVOCを放散させることができる。
【0011】
上記の目的を達成する本発明のSVOCの放散速度制御方法は、部材から放散するSVOCの放散速度を制御するSVOCの放散速度制御方法であって、不活性な表面を有する材料から製作され、上面に排気口を、底面に吸気口をそれぞれ有するチャンバー内に前記部材を載置し、前記チャンバーの側壁内に上下方向に沿って配設された複数のヒータの間に温度差が生じるように加熱することで、前記チャンバー内に対流を発生させ、前記部材から放散するSVOCを前記対流に乗せて前記排出口から放散させることを特徴とするものである。
【0012】
前記吸気口を通じてガスを供給することで、前記チャンバー内に発生した対流を消滅させるとともに、前記吸気口から排気口へ向かう直線状の流れを発生させ、前記部材から放散するSVOCを前記直線状の流れに乗せて前記排出口から放散させることができる。
本発明のSVOCの放散速度制御及び制御方法は、自動車内装材から放散されるSVOCの測定精度の向上に好ましく適用される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のSVOCの放散速度制御装置及び制御方法によれば、チャンバー内及び側壁を上下方向に異なる温度で加熱することで、チャンバー内外にわたって所定の速度を有する対流を発生させて、部材から放散するSVOCをその対流に乗せてチャンバーから放散させるようにしたので、部材から放散するSVOCの放散速度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態からなるSVOCの放散速度制御装置の断面図である。
【図2】図1の制御装置の上面図である。
【図3】図1の制御装置の底面図である。
【図4】本発明のSVOCの放散速度制御方法における部材の設置を示す断面図である。
【図5】ヒータによる加熱中の状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態からなるSVOCの放散速度制御装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1〜3は、本発明の第1の実施の形態からなるSVOCの放散速度制御装置を示す。
このSVOCの放散速度制御装置(以下「制御装置」という。)1Aは、有底円筒体からなる本体部2と、その開口部に脱着可能に取り付けられた蓋部3とからなるチャンバー4を有している。本体部2及び蓋部3は、SVOCが吸着しにくいように、表面が不活性な材料である石英などから製造されている。
【0017】
本体部2の底面5及び蓋部3の上面6には、吸気口7及び排気口8がそれぞれ形成されている。吸気口7及び排気口8の大きさ、数及び配置は、特に限定するものではないが、図2、3に示すように、過度に強度を損なわない大きさで、中心に対して回転対称となる位置に複数設けることが好ましい。本体部2の底面5の周縁部には、吸気口7が通気可能となるように、一定の高さの支持台9が周方向に所定の間隔をおいて取り付けられている。
【0018】
また、本体部2の上部内面には、SVOCを放散する部材10を載置するための支持具11が、周方向に所定の間隔をおいて突設されている。
【0019】
本体部2の側壁12内には、周方向に巻き回された上部ヒータ13及び下部ヒータ14がそれぞれ上下に分離して配設されている。また、側壁12の内面には、チャンバー4の内部温度及び側壁温度を測定するための熱電対等からなる温度センサー15が、周方向に所定の間隔をおいて複数設置されている。それらの温度センサー15と電気的に接続されている温調装置(ECU)16により、2組のヒータ13、14は、個別に加熱温度を調整できるようになっている。なお、図1の例ではヒータが2組であるが、3組以上のヒータをそれぞれ上下方向に分離して配設するようにしてもよい。
【0020】
このような制御装置1Aを用いたSVOCの放散速度制御方法(以下「制御方法」という。)を、図4、5を用いて以下に説明する。
【0021】
まず、図4に示すように、SVOCを放散する部材10を本体部2の支持具11上に載置する。
【0022】
次に、図5に示すように、蓋部3を取り付けてから、上部ヒータ13及び下部ヒータ14にそれぞれ通電してチャンバー4の側壁12及び内部を所定の温度で加熱する。この所定の温度は、部材の種類や部材から放散されるSVOCの種類や量により決定され、例えば自動車用内装材では60〜150℃の範囲が好ましく設定される。ここで、温度センサー15が実測した温度を反映させるとともに、上部ヒータ13の加熱温度が下部ヒータ14よりも高くなるように温調装置16を用いて調整することにより、吸気口7から排気口8へ向けて流れる対流17をチャンバー4内に発生させることができる。そのため、主に上部ヒータ13により加熱された部材10から放散するSVOCは、この対流17に乗って所定の速度でチャンバー4の外へ放散されることになる。このとき、チャンバー4の表面は不活性な状態になっているため、SVOCがチャンバー4の壁面に吸着することがないので、部材10から放散するSVOCの全てが対流14に乗ることになる。このSVOCの放散速度は、上部ヒータ13と下部ヒータ14の加熱温度及び両者の間の温度差を適切に調整することで、容易に制御することができる。
【0023】
また、このように部材から放散するSVOCの放散速度を制御できるので、試薬を用いることなく、実際の部材10の態様に則したSVOCの放散速度を再現できる。それにより、SVOCの測定精度を向上することができるとともに、実現象に則したSVOCの評価手法の開発が可能になる。
【0024】
図6は、本発明の第2の実施の形態からなるSVOCの放散速度制御装置を示す。
【0025】
上記の制御方法においては、チャンバー4内に対流17が発生してSVOCが循環するようになっている。しかし、SVOCの吸着剤の効果を評価する場合などでは、このようにSVOCを循環させるのではなく、ワンパスとなる直線状の気流を発生させて標準物質として利用することが適当である。そのため、この制御装置1Bでは、本体部2の底面5の下方に、吸気口7の少なくとも一部に対向する位置に噴射口18を有するガス管19(又はガス容器19)を配置している。
【0026】
このような制御装置1Bを用いる場合には、上部ヒータ13及び下部ヒータ14による加熱を開始した後に、ガス管19の噴射口18からチャンバー4の内部へ吸気口7を通じてガス20を供給することで、チャンバー4内での対流17の発生を抑制することできる。そのため、部材10から放散したSVOCは、上方へ向かう直線状の気流21に乗って排気口8から所定の速度で放散する。このSVOCの放散速度は、上部ヒータ13と下部ヒータ14の温度及び両者の間の温度差を調整することで、容易に制御することができる。
【0027】
更には、噴出口18にそれぞれ遠隔操作可能な弁を取り付けて開度を調整することで、ガス20の流量及び流速を調整できるので、SVOCの放散速度をより正確かつ容易に制御することができる。
【0028】
ガス20の種類としては、不活性ガスが望ましく、例えば、ヘリウム、窒素及びアルゴンなどを挙げることができる。
【0029】
この制御装置1Bは、上述したSVOCの吸着剤の効果を評価する場合などのように、チャンバー4内の対流17などにより部材10から放散するSVOCが循環することによる影響を排除する場合において特に有効である。
【0030】
上述した制御装置1A、1B及び制御方法は、VOCの放散速度の制御についても適用することができる。また、部材10としては車室内の部品(自動車用内装材)や建築材料が好ましく例示されるが、その他に家電製品や家具なども対象とすることができる。
【符号の説明】
【0031】
1A、1B 制御装置
2 本体部
3 蓋部
4 チャンバー
5 底面
6 上面
7 吸気口
8 排気口
9 支持台
10 部材
11 支持具
12 側壁
13 上部ヒータ
14 下部ヒータ
15 温度センサー
16 温調装置
17 対流
18 噴射口
19 ガス管
20 ガス
21 気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材から放散するSVOCの放散速度を制御するSVOCの放散速度制御装置であって、
不活性な表面を有する材料から製作され、上面に排気口を、底面に吸気口をそれぞれ有するチャンバーと、前記チャンバーの側壁内に上下方向に分離して配設された複数のヒータと、前記複数のヒータの温度をそれぞれ調整する温調手段と、前記チャンバー内に設置された温度センサーと、を備えることを特徴とするSVOCの放散速度制御装置。
【請求項2】
前記吸気口を通じて前記チャンバー内にガスを供給するガス管を設置した請求項1に記載のSVOCの放散速度制御装置。
【請求項3】
前記チャンバーの内壁面から突設してなる支持具を有する請求項1又は2に記載のSVOCの放散速度制御装置。
【請求項4】
部材から放散するSVOCの放散速度を制御するSVOCの放散速度制御方法であって、
不活性な表面を有する材料から製作され、上面に排気口を、底面に吸気口をそれぞれ有するチャンバー内に前記部材を載置し、
前記チャンバーの側壁内に上下方向に沿って配設された複数のヒータの間に温度差が生じるように加熱することで前記チャンバー内に対流を発生させ、
前記部材から放散するSVOCを前記対流に乗せて前記排出口から放散させることを特徴とするSVOCの放散速度制御方法。
【請求項5】
前記吸気口を通じてガスを供給することで、前記チャンバー内に発生した対流を消滅させるとともに、前記吸気口から排気口へ向かう直線状の流れを発生させ、前記部材から放散するSVOCを前記直線状の流れに乗せて前記排出口から放散させる請求項4に記載のSVOCの放散速度制御方法。
【請求項6】
前記部材が自動車内装材である請求項4又は5に記載のSVOCの放散速度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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