説明

Siと金属Mとを含む膜の製造方法

【課題】より効率的な蒸着レートでのSiと金属Mとを含む膜の製造方法を提供する。
【解決手段】Siと金属M(但し、金属MはSi以外の金属である。)とを蒸着源に用いて、柱状構造の集合体を有する膜を基板に蒸着により形成するSiと金属Mとを含む膜の製造方法であって、下記(1)および(2)の条件で蒸着するSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
(1)蒸着時の蒸着源の温度が、蒸着源の融点よりも100K以上高い温度であること
(2)蒸着時のSi原子の平均自由行程(λ)が蒸着源−基板間距離(D)よりも小さいこと

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Siと金属Mとを含む膜の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、Siと金属Mとを含む蒸着膜の製造方法に関する。また、本発明は、かかる製造法により得られた膜、および当該膜を有する電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Siはリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な材料であり、リチウム二次電池の負極活物質として検討されている。現在、リチウム二次電池の負極活物質としては炭素が使用されているが、Siの理論放電容量は約4200mAh/gと大きく、炭素の理論放電容量の10倍以上になり得るとされている。
【0003】
しかしながら、Siはリチウムイオンの吸蔵時の体積膨張が大きいために電極構造が劣化しやすいことが知られており、体積膨張を緩和するような柱状構造の集合体を有する膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、Siは導電性が低いため、Siをリチウム二次電池用活物質として使用する際に金属と複合化して導電性を付与することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
上記特許文献2には、蒸着源(ターゲット)に電子ビームを照射することにより、柱状構造の集合体を有するSiと金属Mとを含む膜を製造する方法が具体的に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−303586号公報
【特許文献2】特開2008−117785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2で開示されたSiと金属Mとを含む膜の製造方法では、蒸着レートが1μm/min以下であるため、生産性が低く更なる改良が求められる。
かかる状況下、本発明の目的は、より効率的な蒸着レート、例えば、10μm/min以上の蒸着レートでのSiと金属Mとを含む膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記事情に鑑み、種々検討した結果、特定の蒸着条件を用いることで柱状構造の集合体を有するSiと金属Mとを含む膜を高い蒸着レートで製造可能であることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記の発明を提供するものである。
<1> Siと金属M(但し、金属MはSi以外の金属である。)とを蒸着源に用いて、柱状構造の集合体を有する膜を基板に蒸着により形成するSiと金属Mとを含む膜の製造方法であって、下記(1)および(2)の条件で蒸着するSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
(1)蒸着時の蒸着源の温度が、蒸着源の融点よりも100K以上高い温度であること
(2)蒸着時のSi原子の平均自由行程(λ)が蒸着源−基板間距離(D)よりも小さいこと
<2> 蒸着時の蒸着源の温度が、蒸着源の融点よりも300K以上高い温度である前記<1>に記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
<3> 更に、蒸着時の基板の温度を、蒸着源の温度より700K以上低い条件で蒸着を行う前記<1>または<2>に記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
<4> 蒸着時のSi原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)の1/10以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
<5> 蒸着源が、Siと金属Mとの合金および/またはこれらの混合物である前記<1>から<4>のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
<6> 製膜速度が、10〜200μm/分である前記<1>から<5>のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
<7> 金属Mが、銅である前記<1>から<6>のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
<8> 基板の材質が、銅、ステンレス、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、チタンおよびタンタルからなる群より選ばれる1種以上の金属である前記<1>から<7>のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の製造方法で得られてなるSiと金属Mとを含む膜。
<10> 前記<9>に記載のSiと金属Mとを含む膜を有してなる電極。
<11> 前記<10>に記載の電極を、負極として用いてなるリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明のSiと金属Mとを含む膜の製造方法を用いれば、有用な厚みの柱状構造の集合体を有するSiと金属Mとを含む膜を短時間に製造可能であり、また、高真空を必要としない蒸着法を用いていることから製造装置などの製造コストも低く、本発明の工業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の製造方法で作製した膜をSEM観察した際の断面図である。
【図2】本発明の製造方法で作製した膜をSEM観察した際の断面図(高倍率)である。
【図3】本発明の製造方法で作製した膜をSEM観察した際の表面図である。
【図4】本発明の製造方法で作製した膜の切断面をSEM観察した際の断面図である。
【図5】図4の断面図についてEDS分析した際のSiのマッピング図である。
【図6】図4の断面図についてEDS分析した際のCuのマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、Siと金属Mとを蒸着源に用いて、柱状構造の集合体を有する膜を基板に蒸着により形成するSiと金属Mとを含む膜の製造方法であって、下記(1)および(2)の条件で蒸着することを特徴とするSiと金属Mとを含む膜の製造方法に係るものである。
(1)蒸着時の蒸着源の温度が、蒸着源の融点よりも100K以上高い温度であること
(2)蒸着時のSi原子の平均自由行程(λ)が蒸着源−基板間距離(D)よりも小さいこと
本発明の製造方法により、本発明のSiと金属Mとを含む膜を製造することができる。
【0012】
[蒸着源]
本発明における蒸着源としては、Siと金属M(但し、金属MはSi以外の金属である。)とを含む組み合わせであればよく、Si、金属M、Siと金属Mとを含む合金を複数組み合わせてもよい。また、本発明では蒸着源を融点以上に加熱して溶融させるため蒸着源はどのような形状でもよく、溶融速度の観点から粉末状であることが好ましい。
蒸着源として用いる物質は表面に有機物や酸化被膜層が存在する場合がある為、必要に応じて使用前に当該蒸着源として用いる物質に対して、HF処理、酸化処理、還元処理等を行うことが好ましい。
【0013】
本発明において、蒸着源のSiと金属Mとは、均質な膜を作製する観点では合金やこれらの混合物としてSiと金属Mとが接触した状態で同じボートで溶融させることができるが、溶融時に別々のボートに入れてSiと金属Mとが接触しない状態で異なる温度で加熱してもよい。Siと金属Mを別々のボートに入れることで異なる温度での蒸着が可能になるため、Siと蒸気圧の異なる金属Mを用いても均質な膜を作製することができる。従って、本発明の製造方法では、蒸着源である金属Mがいかなる金属元素であっても、原理的には均質な本発明のSiと金属Mとを含む膜を作製することが可能である。
【0014】
本発明の蒸着源のボートの素材としてはカーボン、タングステン、窒化ホウ素、SiCなどが挙げられ、ボートと蒸着源との副反応を抑制する観点からカーボンであることが好ましい。
【0015】
本発明において、金属MとしてはCu、Ni、Ti、Agなどから選ばれた1種以上を挙げることができ、導電性の観点からCuであることが好ましい。
【0016】
本発明におけるSiまたはSiと金属Mとを含む合金には、本発明の効果を損なわない範囲で、不純物が含まれていてもよい。このような不純物としては、炭素、窒素、リン、アルミニウム、砒素、ホウ素、ガリウム、インジウム、鉄、カルシウム、チタン、マンガン、アンチモン、酸素等の元素を挙げることができる。
【0017】
[蒸着源の温度]
本発明において、蒸着源の温度は蒸着速度を速くする観点から蒸着源の融点よりも100K以上高い温度であり、融点よりも300K以上高い温度であることが好ましい。
ここに「蒸着源の融点」とは、Siと金属Mとを溶融時に別々のボートに入れて接触しない状態で異なる温度で加熱する場合は、Siおよび金属Mの夫々の融点をいい、Siと金属Mの混合物としてSiと金属Mとが接触した状態で同じボートで溶融させる場合は、混合物の融点をいう。また、Siと金属Mの合金の場合は、合金の融点をいう。ここで、融点とは、常圧(1気圧)の時の融点をいう。
一方、蒸着源の温度は、蒸着速度を大きくする観点では、蒸着源の温度は、1800K以上であることが好ましい。蒸着源の温度の上限は、通常、2300K程度である。
なお、本発明では、後述のように蒸着源の温度に加え、基板の温度を、蒸着源の温度より700K以上低くすることが好ましい。
【0018】
[平均自由工程]
本発明において、Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)よりも小さいことが条件の一つである。このことは、通常の真空蒸着における雰囲気圧力ではないことを意味しており、通常の真空蒸着(圧力は、0.001Pa程度)においては、前記λは、前記Dよりも大きくなる。なお、好適な条件の一例をとして、蒸着時のSi原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)の1/10以下の条件を挙げることができる。
【0019】
[蒸着源の距離]
本発明のSiと金属Mとを含む膜の製造方法においては、蒸着源−基板間距離(D)が、基板の垂直方向からみた基板の最小径(P)よりも小さいことが好ましい。これにより、膜の成長速度、すなわち製膜速度をより高くすることができる。本発明のSiと金属Mとを含む膜の製造方法においては、蒸着源と基板とが平行に配置され、色々な方向から蒸着源の原子が飛来する状況にあったとしても、柱状構造の集合体を有するSiと金属Mとを含む膜を得ることができる。
【0020】
[製膜速度]
本発明のSiと金属Mとを含む膜の製造方法においては、上記条件下に蒸着を行なうことにより、製膜速度を5μm/分以上、好ましくは10μm/分以上とすることができる。一方、製膜速度が、1000μm/分を超えると均一な膜ができない(膜厚に偏りを生じる)おそれがある。
このため、製膜速度としては、10〜1000μm/分であることが好ましい。それにより、蒸着時間を0.1〜10分としても、実用上有用な厚みのSiと金属Mとを含む膜を製造することができる。
【0021】
[基板]
前記基板の材質としては、金属が挙げられ、中でも、銅、ステンレス、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、チタンおよびタンタルからなる群より選ばれる1種以上の元素を含むことが好ましく、より好ましくは、銅、ステンレス、ニッケルおよび鉄からなる群より選ばれる1種以上であり、さらにより好ましくは、銅である。基板として用いる物質は表面に有機物や酸化被膜層が存在する場合がある為、必要に応じて蒸着前に基板として用いる物質に対して酸化処理や還元処理等を行うことが好ましい。
【0022】
また、基板は、その厚みが薄いものであることが好ましく、金属箔であることが好ましく、より好ましくは銅箔である。銅箔の中でも、その表面が粗面化された銅箔であることが好ましい。このような銅箔としては電解銅箔が挙げられる。電解銅箔は、例えば、銅イオンが溶解した電解液中に金属製のドラムを浸漬し、これを回転させながら電流を流すことにより、ドラムの表面に銅を析出させ、これを剥離して得られる銅箔である。電解銅箔の片面または両面には、さらに粗面化処理や表面処理がなされていてもよい。また、基板は、圧延銅箔の表面に、電解法により銅を析出させ、表面を粗面化した銅箔であってもよい。
【0023】
[基板の温度]
本発明においては、蒸着源の温度に加え、基板の温度をコントロールすることが、本発明の目的とする膜を得る為に有効である。
即ち、基板の温度は、蒸着源の温度よりも700K以上、好ましくは1000K以上低くすることが好ましい。基板の温度を、このように蒸着源の温度より低くすることにより、形成される膜には、柱状構造の集合体のそれぞれの間に、十分な幅と間隔の亀裂を有すため、この形成される膜をリチウム二次電池の負極として用いた場合に、リチウムイオンの吸蔵時等の際に生じる、柱状構造の集合体の体積膨張を緩和することできる。
【0024】
上記製造方法で得られた本発明のSiと金属Mとを含む膜は、柱状構造の集合体である柱状集合体を複数有する。この柱状集合体は、柱状構造の側面同士が接触して集合しており、本発明の膜は、その柱状集合体を複数有する。
本発明の膜において、前記柱状集合体は、好ましくはアスペクト比が30以上であり、より好ましくは300以上である。また、前記柱状集合体の厚みは、好ましくは1〜100μmであり、この柱状集合体を構成する柱状構造の直径は、好ましくは10〜1000nmである。
【0025】
本発明のSiと金属Mとを含む膜は、リチウム二次電池用電極として好適に使用することができる。以下、リチウム二次電池用電極および当該を使用するリチウム二次電池について説明する。
【0026】
本発明のSiと金属Mとを含む膜を有する電極は、リチウム二次電池などの電気化学蓄電デバイスにおける電極として好適に使用できる。特に、本発明のSiと金属Mとを含む膜を有する電極は、リチウム二次電池における負極として、極めて好適に使用できる。なお、本発明において、基板は、電極における集電体としての機能を果たすこともできる。
【0027】
次に、本発明におけるリチウム二次電池の代表例として、基板として銅箔を用い、この銅箔上にSiと金属Mとを含む膜を形成させた電極をリチウム二次電池の負極として用いて、リチウム二次電池を製造する場合を説明する。
【0028】
リチウム二次電池は、セパレータ、上記の負極、セパレータおよび正極を、積層または積層・巻回することにより得られる電極群を、電池缶などの電池ケース内に収納した後、電解液を電池ケース内に注入して製造することができる。
【0029】
前記の電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような形状を挙げることができる。また、電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0030】
前記正極は、負極よりも高い電位でリチウムイオンをドープ、かつ、脱ドープすることができればよく、公知の方法で製造すればよい。具体的には、正極は、正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を正極集電体に担持させて製造する。前記導電材としては炭素材料などを用いることができ、前記バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。また、前記正極集電体としては、Alを挙げることができる。
【0031】
前記セパレータも、公知のものを使用すればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂などの材質からなる多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する膜を用いることができる。
【0032】
また、前記電解液も、公知のものを使用すればよい。電解液は、通常、電解質および有機溶媒を含有し、例えば、LiPF6などのリチウム塩からなる電解質を、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などの有機溶媒に溶解させて得られる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0034】
実施例
(SEM観察及びEDS分析)
基板上に蒸着により形成した蒸着膜をサンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せ、日本電子株式会社製のSEM(JSM−5510)を用いて、加速電圧が20kVの電子線を蒸着膜に照射して蒸着膜の表面および断面のSEM観察を行った。蒸着膜の断面は、蒸着膜および基板を蒸着膜表面に垂直な方向から切断して得た。また、膜の切断面の元素マッピングは、日本電子株式会社製のEDS(JED−2300)を用いて、加速電圧が20kVの電子線を切断面に照射して行った。
(蒸着膜の製造)
チャンバー内に、40×2mmのカーボンボートを設置し、この上に、5−10%のHF溶液を用いてHF処理したSi片(純度99.99%以上)を粉砕して作製したSi粉末と、Cu粉末(純度99.8%以上)とを重量比が9:1(Si:Cu)を混合物として載置し、これを蒸着源とした。蒸着源の混合粉末は、加熱することにより融解してボート上に広がるため、蒸着源のサイズは、40×2mmとなる。カーボンボートの上側に、オゾン処理およびH2還元処理を行ったCu箔(15.5mmφ、500μm厚み)を配置し、これを基板(集電体)とした。Cu箔は、ボートに平行に対向させるようにした。このとき、蒸着源−基板間距離(D)は、25mmとした。Cu箔は水冷管で冷却可能な冷却ブロックの表面に密着させて固定した。ドライポンプで真空引きし、その後アルゴンガスを10sccm導入し、チャンバ―内の圧力を18.9Pa(0.14Torr)に設定した。このときのSi原子の平均自由行程(λ)は、分子運動論からλ=kT/(21/2σp)で求められる。ここでボルツマン定数k=1.38×10-23J/K、温度T=300K、圧力p=18.9Pa、衝突断面積σ=πd2である。SiとArの衝突直径dを0.35nmとすると、平均自由行程λは0.40mmと計算される。
圧力が一定になった後、冷却ブロックに水を流してCu箔を冷却し、カーボンボートの通電(加熱)を開始した。通電開始から60秒後にボートの温度がSiの融点(1687K)を超えた。さらに温度上昇を続けて、通電開始から60〜120秒後に1773〜2073Kで60秒間蒸着を行った後、ボートを冷却した。Cu箔はボートの通電開始から60秒後に623Kまで昇温し、更にSiを蒸着している60秒間で873Kまで昇温した後、ボートの冷却とともに冷却された。この蒸着で膜厚13.5μmのSiとCuとを含む膜を得た(製膜速度13.5μm/分)。
【0035】
(蒸着膜の構造)
得られた蒸着膜について、SEM観察した際の断面模式図を図1及び図2に、表面模式図を図3に示す。図1及び図2では、本発明の膜が膜厚方向に成長した柱状構造を有することが示されている。図3では、本発明の膜が膜厚方向に成長した柱状構造の集合体(図中1)を有することが示されている。また、切断面をSEM観察した際の断面模式図、切断面をEDSで分析した際のSiのマッピング図及びCuのマッピング図を、図4、図5及び図6にそれぞれ示す。図4、図5及び図6によれば、SiとCuが切断面に均一に分布していることが示されている。
【0036】
本発明の蒸着条件を用いることで10μm/min以上の蒸着レートで、柱状構造の集合体を有するSiと金属Mとを含む膜の製造を行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、有用な厚みの柱状構造の集合体を有するSiと金属Mとを含む膜を効率よく製造する方法が提供される。本発明の製造法で得られた膜は、リチウム二次電池の電極、特に負極として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siと金属M(但し、金属MはSi以外の金属である。)とを蒸着源に用いて、柱状構造の集合体を有する膜を基板に蒸着により形成するSiと金属Mとを含む膜の製造方法であって、下記(1)および(2)の条件で蒸着することを特徴とするSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
(1)蒸着時の蒸着源の温度が、蒸着源の融点よりも100K以上高い温度であること
(2)蒸着時のSi原子の平均自由行程(λ)が蒸着源−基板間距離(D)よりも小さいこと
【請求項2】
蒸着時の蒸着源の温度が、蒸着源の融点よりも300K以上高い温度である請求項1に記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
【請求項3】
更に、蒸着時の基板の温度を、蒸着源の温度より700K以上低い条件で蒸着を行うとする請求項1または2に記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
【請求項4】
蒸着時のSi原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)の1/10以下である請求項1から3のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
【請求項5】
蒸着源が、Siと金属Mとの合金および/またはこれらの混合物である請求項1から4のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
【請求項6】
製膜速度が、10μm/分以上200μm/分以下である請求項1から5のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
【請求項7】
金属Mが、銅である請求項1から6のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
【請求項8】
基板の材質が、銅、ステンレス、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、チタンおよびタンタルからなる群より選ばれる1種以上の金属である請求項1から7のいずれかに記載のSiと金属Mとを含む膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法で得られてなることを特徴とするSiと金属Mとを含む膜。
【請求項10】
請求項9に記載のSiと金属Mとを含む膜を有してなることを特徴とする電極。
【請求項11】
請求項10に記載の電極を、負極として用いてなることを特徴とするリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−14840(P2013−14840A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129998(P2012−129998)
【出願日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】