説明

Si系材料の製造方法

【課題】生産効率の良いSi系材料の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素系るつぼ12、または、炭素系サセプタ16内に配置した耐熱ガラスるつぼ18内に純Siまたは純Siおよび下記合金原料Xを投入し、高周波誘導加熱により炭素系るつぼ12または炭素系サセプタ16を加熱して、るつぼ12、18内の純Siまたは純Siおよび下記合金原料Xを溶解し、溶湯14を得る工程と、合金原料X:長周期型周期表の2A族元素、遷移元素、2B族元素、3B族元素、および、4B族元素から選択される1または2以上の元素、アトマイズ法またはロール急冷法を用いて、溶湯14からSi系材料を得る工程とを有する製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si系材料の製造方法に関し、さらに詳しくは、リチウム二次電池用負極活物質等として好適なSi系材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への配慮等の観点から、自動車等の電動化が加速している。自動車等を電動化するための動力源としては、リチウム二次電池が有力視されている。Si系材料は、例えば、リチウム二次電池の負極活物質としての利用が期待されている。現在広く使用されている負極活物質である黒鉛と比較して、理論容量が大きく電池の高容量化に有利なためである。
【0003】
従来、各種合金粉末の製造方法としては、ボールミル等を用いたメカニカルアロイング(以下、「MA」という)などによる機械的手法が知られている。最近では、ガスアトマイズ法等を用い、Si系合金溶湯を急冷凝固して合金粉末を製造する方法なども提案されるようになっている。
【0004】
例えば、特許文献1、2等には、Co−Si等の合金原料をアルゴン雰囲気下に高周波溶解して得た合金溶湯をアルゴン雰囲気下のタンディッシュに注湯し、タンディッシュの底部に設けた細孔から流出した溶湯細流に高圧のアルゴンガスを噴霧することにより合金溶湯を急冷凝固し、合金粉末を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−075351号公報
【特許文献2】特開2001−291513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術は以下の点で問題があった。すなわち、MA法等による合金粉末の製造方法は、機械的エネルギーが加わるため、非平衡状態を越える組成が形成されるなど、合金状態図にとらわれない様々な合金粉末を得ることができるといった利点がある。しかし、ミル内のボール(メディア)や内壁等から不純物が混入しやすい。そのため、粒子内に不純物が取り込まれたり、粒子間に不純物が残ったりし、高純度の合金粉末を得難いといった問題があった。また、バッチ処理となるため、合金粉末の製造に時間が掛かり、生産性も悪い。
【0007】
一方、アトマイズ法を用いた合金粉末の製造方法は、タンディッシュ底部のノズルから出湯させた合金溶湯にガス等の冷却媒体を直接吹き付けて粉末を得る。そのため、不純物の混入が比較的少なく、また、連続生産にも向くため生産性も良好である。ところが、Si系材料を製造する場合には、以下の特有の問題が発生しやすい。
【0008】
高周波誘導加熱により原料を溶解し、溶湯を得るには、通常、セラミックス製(アルミナ、マグネシア等)の耐火物るつぼが使用されることが多い。しかし、Siは、電気抵抗が高く、高周波誘導が掛かり難い。そのため、Siを直接溶解することは困難である。それ故、高Si含有の材料を製造しようとする場合には、導電性を向上させるため、アーク溶解法等により予めSiを合金化し、得られたSi合金インゴットを高周波誘導加熱し、合金溶湯を得るなどの工夫が必要であった。さらに、必要以上の電源出力を用いて無理に溶解するため、るつぼの寿命が短くなったり高温になりすぎて成分が蒸発してしまったりする、といった弊害も存在していた。言い換えれば、Si系材料を製造するにあたり、生産効率が悪いといった問題があった。また、耐火物るつぼからの不純物の混入も生じうる、といった問題も懸念される。
【0009】
さらに、Si以外の合金元素として、長周期型周期表の2A族元素、遷移元素、2B族元素、3B族元素、4B族元素等の元素を用いる場合、これら元素は、Siと比較して融点が低く、溶湯状態における粘度が低い元素も存在する。そのため、場合によっては、多孔質な耐火物るつぼ内にこれら元素が浸透しやすく、得られるSi系材料に組成ズレが生じやすいといった問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、生産効率の良いSi系材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係るSi系材料の製造方法は、炭素系るつぼ、または、炭素系サセプタ内に配置した耐熱ガラスるつぼ内に純Siまたは純Siおよび下記合金原料Xを投入し、高周波誘導加熱により前記炭素系るつぼまたは炭素系サセプタを加熱して、上記るつぼ内の純Siまたは純Siおよび合金原料Xを溶解し、溶湯を得る工程と、
合金原料X:長周期型周期表の2A族元素、遷移元素、2B族元素、3B族元素、および、4B族元素から選択される1または2以上の元素
アトマイズ法またはロール急冷法を用いて、上記溶湯からSi系材料を得る工程とを有することを要旨とする。
【0012】
ここで、上記溶解は、不活性ガス雰囲気中または真空中にて行われることが好ましい。また、上記合金原料Xは、Snおよび/またはCuを含むことが好ましい。また、上記炭素系サセプタは、筒状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るSi系材料の製造方法は、アトマイズ法またはロール急冷法を用いてSi系材料を製造するための溶湯を得るにあたり、炭素系るつぼ、または、炭素系サセプタ内に配置した耐熱ガラスるつぼ内に純Siまたは純Siおよび合金原料Xを投入し、高周波誘導加熱により上記炭素系るつぼまたは炭素系サセプタを加熱して、上記るつぼ内の純Siまたは純Siおよび合金原料Xを溶解し、溶湯を得る。そのため、従来のように、高Si含有の材料を製造しようとする場合でもアーク溶解法等により予めSiを合金化し、得られたSi合金インゴットを溶解するといった手間が省ける。また、必要以上の電源出力を用いて無理に溶解する必要もない。つまり、Si系材料を製造するにあたり生産効率の良いものとすることができる。
【0014】
また、ミル内のボール(メディア)や内壁、セラミックス製の耐火るつぼ等に起因する不純物がなく、高純度のSi系材料が得られる。とりわけ、炭素系サセプタ内に配置した耐熱ガラスるつぼを用いた場合には、SiとCとの反応を抑制することができるので、炭素系るつぼを用いた場合に比べ、より高純度のSi系材料を得やすくなる。
【0015】
また、純SiやSi組成の大きなSi系合金等であっても、十分に溶解させることができるので、Siの溶け残りが生じ難い。加えて、Siと比較して融点が低く溶湯状態における粘度が低い合金原料Xが、るつぼ内に浸透し難い。したがって、組成ズレの少ないSi系材料を得ることも期待できる。とりわけ、炭素系サセプタ内に配置した耐熱ガラスるつぼを用いた場合には、SiとCとの反応を抑制することができるので、炭素系るつぼを用いた場合に比べ、より組成ズレの少ないSi系材料を得やすくなることが期待できる。
【0016】
ここで、上記溶解が、不活性ガス雰囲気中または真空中にて行われる場合には、合金元素と酸素との反応により生じる酸化物スラグを抑制することができる。そのため、酸化物スラグに起因する組成ズレが生じ難く、より一層組成ズレの少ないSi系材料を得やすくなる。また、タンディッシュ下部の出湯ノズルが酸化物スラグにより閉塞されるのを抑制することができる。そのため、溶湯の出湯率を向上させることができ、生産性の向上にも寄与することができる。
【0017】
また、Sn、Cuは、融点が低く、溶解時の表面張力が低い。そのため、上記合金原料XがSnおよび/またはCuを含む場合には、るつぼへの浸透に起因する組成ズレを抑制できるといった効果が大きくなる。
【0018】
また、上記炭素系サセプタが筒状である場合には、耐熱ガラスるつぼの底部が炭素系サセプタにより過度に加熱され難くなる。そのため、耐熱ガラスるつぼの底部が溶けて溶湯が漏洩するのを回避しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】高周波誘導炉内に設置するるつぼとして炭素系るつぼを用い、溶湯を得る場合を模式的に示した図である。
【図2】高周波誘導炉内に炭素系サセプタを配置し、この炭素系サセプタ内に設置するるつぼとして耐熱ガラスるつぼを用い、溶湯を得る場合を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係るSi系材料の製造方法(以下、「本製造方法」ということがある。)について詳細に説明する。本製造方法は、溶湯を得る工程と、溶湯からSi系材料を得る工程とを有している。
なお、本発明で言うSi系材料とは、アトマイズ法を用いて溶湯を噴霧して直接得られたSi系粉末やロール急冷法を用いて得られるSi系薄帯を含む意味である。
【0021】
(溶湯を得る工程)
本工程は、高周波誘導炉を用いて、るつぼ内の純Si、または、純Siおよび合金原料Xを溶解し、溶湯を得る工程である。図1は、高周波誘導炉10内に設置するるつぼとして炭素系るつぼ12を用い、溶湯14を得る場合を模式的に示したものである。
【0022】
炭素系るつぼの材質としては、具体的には、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを例示することができる。このうち、好ましくは、高温加熱性、成形性、コスト等の観点から、黒鉛であると良い。なお、炭素系るつぼの形状は、特に限定されるものではなく、高周波誘導炉の仕様等に合わせて最適な形状を選択すれば良い。
【0023】
炭素系るつぼを用いる場合、炭素系るつぼ内に純Si、または、純Siおよび合金原料Xを投入し、高周波誘導加熱により炭素系るつぼを加熱し、るつぼ内の純Si、または、純Siおよび合金原料Xを溶解し、溶湯を得ることになる。つまり、この場合、炭素系るつぼを高周波誘導加熱することにより、純Si、または、純Siおよび合金原料Xを間接的に加熱溶解することになる。もっとも、後述するように合金原料の種類によっては、直接、高周波誘導加熱されるものもあり、このような加熱溶解を除外するわけではない。
【0024】
図2は、高周波誘導炉10内に炭素系サセプタ16を配置し、この炭素系サセプタ16内に設置するるつぼとして耐熱ガラスるつぼ18を用い、溶湯14を得る場合を模式的に示したものである。
【0025】
炭素系サセプタは、耐熱ガラスるつぼの周囲を取り囲むようにして配置される。具体的には、炭素系サセプタは、耐熱ガラスるつぼ側面の周囲を全体的に取り囲んでいても良いし、スリット等、部分的に空間を設けた状態で耐熱ガラスるつぼ側面の周囲を取り囲んでいても良い。また、炭素系サセプタは、耐熱ガラスるつぼ底面を覆っていても良い。
【0026】
炭素系サセプタは、好ましくは、筒状、より好ましくは、円筒状であり、耐熱ガラスるつぼ底面を覆わず、耐熱ガラスるつぼ側面の周囲を全体的に取り囲んでいると良い。耐熱ガラスるつぼの底部が炭素系サセプタにより過度に加熱され難くなるため、耐熱ガラスるつぼの底部が溶けて溶湯が漏洩するのを回避しやすくなるからである。
【0027】
炭素系サセプタの材質としては、具体的には、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを例示することができる。このうち、好ましくは、高温加熱性、成形性、コスト等の観点から、黒鉛であると良い。
【0028】
また、耐熱ガラスるつぼの材質としては、具体的には、ケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスなどを例示することができる。このうち、好ましくは、耐熱性等の観点から、石英であると良い。なお、耐熱ガラスるつぼの形状は、特に限定されるものではなく、高周波誘導炉の仕様、炭素系サセプタの形状等に合わせて最適な形状を選択すれば良い。
【0029】
炭素系サセプタ内に配置した耐熱ガラスるつぼを用いる場合、耐熱ガラスるつぼ内に純Si、または、純Siおよび合金原料Xを投入し、高周波誘導加熱により炭素系サセプタを加熱し、るつぼ内の純Si、または、純Siおよび合金原料Xを溶解し、溶湯を得ることになる。つまり、この場合、炭素系サセプタを高周波誘導加熱することにより、純Si、または、純Siおよび合金原料Xを間接的に加熱溶解することになる。もっとも、後述するように合金原料の種類によっては、直接、高周波誘導加熱されるものもあり、このような加熱溶解を除外するわけではない。
【0030】
上記るつぼ内における純Si、または、純Siおよび合金原料Xの溶解は、好ましくは、不活性ガス(N、Ar、He等)雰囲気中、または、真空中で行うことが好ましい。合金元素と酸素との反応により生じる酸化物スラグを抑制することができるため、酸化物スラグに起因する組成ズレが生じ難く、より一層組成ズレの少ないSi系材料を得やすくなるからである。また、後述するタンディッシュ下部の出湯ノズルが酸化物スラグにより閉塞されるのを抑制することができるため、溶湯の出湯率を向上させることができ、生産性の向上にも寄与することができるからである。なお、溶解雰囲気を不活性ガス雰囲気、真空雰囲気にするには、溶解チャンバ内に高周波誘導炉を設置し、この溶解チャンバ内の雰囲気を不活性ガス雰囲気、真空雰囲気に調節すれば良い。
【0031】
純Si、または、純Siおよび合金原料Xの溶解時における酸素濃度は、酸化物スラグに起因する組成ズレを一層低減させるなどの観点から、好ましくは、1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは、50ppm以下であると良い。
【0032】
ここで、上述の純Siは、好ましくは、組成を厳密に制御する等の観点から、5N(純度99.999%)以上の高純度Siであると良い。
【0033】
一方、上述の合金原料Xは、長周期型周期表の2A族元素、遷移元素、2B族元素、3B族元素、および、4B族元素から選択される1または2以上の元素である。これら元素は、Siと比較して融点が低く、溶湯状態における粘度が低い元素も存在するため、耐火物るつぼに浸透しやすく、本製造方法に適用する元素として好適である。合金元素の選択は、Si系材料の用途に応じて選択することができる。
【0034】
上記合金原料Xのうち、好ましくは、Snおよび/またはCuを含んでいると良い。Sn、Cuは、融点が低く、溶解時の表面張力が低いため、るつぼへの浸透に起因する組成ズレを抑制できるといった本発明の効果が大きいからである。
【0035】
上記合金原料Xとしては、具体的には、Sn、Sn系合金(Sn−Cu系合金等)、Cu、Cu系合金(Cu−Sn系合金等)、Ag、Ag系合金、Ga、Ga系合金、Bi、Bi系合金、In、In系合金、Zn、Zn系合金、Pb、Pb系合金などを例示することができる。
【0036】
(溶湯からSi系材料を得る工程)
本工程は、アトマイズ法またはロール急冷法を用いて、溶湯からSi系材料を得る工程である。
【0037】
上記アトマイズ法としては、例えば、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法等を例示することができる。このうち、好ましくは、生産性等の観点から、ガスアトマイズ法を好適に用いることができる。一方、ロール急冷法としては、例えば、単ロール急冷法、相ロール急冷法等を例示することができる。
【0038】
アトマイズ法、ロール急冷法のいずれを適用する場合も、チャンバ内で実施することができる。チャンバ内の雰囲気としては、不活性ガス(N、Ar、He等)雰囲気、真空雰囲気等を例示することができる。
【0039】
また、アトマイズ法、ロール急冷法のいずれを適用する場合も、上述の溶湯は、連続的に滴下できれば、溶解チャンバ内に設置したタンディッシュの底部ノズルから出湯しても良いし、タンディッシュを用いずに炉底から直接出湯しても良い。
【0040】
アトマイズ法を適用する場合、噴霧チャンバ内に出湯されて連続的(棒状)に下方に流れ落ちる溶湯に対し、N、Ar、He等によるガスを高圧(例えば、1〜10MPa)で噴き付け、溶湯を粉砕しつつ冷却する。冷却された溶湯は、半溶融のまま噴霧チャンバ内を自由落下しながら球形に近づき、粉末状のSi系材料が得られる。また、冷却効果を向上させる観点からガスに代えて高圧水を噴きつけても良い。
【0041】
一方、ロール急冷法を適用する場合、急冷および回収チャンバ等のチャンバ内に出湯されて連続的(棒状)に下方に流れ落ちる溶湯を、周速10m/sec〜100m/sec程度で回転する回転ロール(材質は、Cu、Feなど、ロール表面はメッキが施されていても良い。)上で冷却する。溶湯は、ロール表面で冷却されることにより箔化または箔片化され、薄帯状のSi系材料が得られる。この場合、ボールミル、ディスクミル、コーヒーミル、乳鉢粉砕等の適当な粉砕手段により粉砕して粉末状にしたり、必要に応じて分級したりすることができる。
【0042】
本製造方法は、上述した工程以外にも、Si系材料を熱処理する熱処理工程、粉末混合工程、複合化工程などを有していても良い。
【0043】
本製造方法により得られるSi系材料は、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池などのリチウム二次電池の負極活物質として、好適に用いることができる。また、高純度な材料を製造できるため、スパッタリングターゲット用材料等にも適用可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。なお、原料組成の%は、質量%である。
【0045】
1.実施例に係るSi系材料の作製
表1に示すように、溶解チャンバ内の高周波誘導炉内に黒鉛るつぼを設置した。あるいは、溶解チャンバ内の高周波誘導炉内に円筒状の黒鉛サセプタを設置し、この黒鉛サセプタ内に黒鉛サセプタより小さな直径の石英るつぼを設置した。
上記黒鉛るつぼは、炉材商事株式会社製のCIP(冷間静水等方圧プレス)で成形した成形材を用いた。また、黒鉛サセプタも、炉材商事株式会社製のCIP(冷間静水等方圧プレス)で成形した成形材を用いた。また、石英るつぼは、株式会社湘南サプライ社製のものを用いた。
【0046】
なお、溶解チャンバ内の高周波誘導炉内にセラミックス製の耐火物るつぼを設置し、この耐火物るつぼ内にて実施例4に係る原料を溶解した場合、Snは溶解するもののSnの温度上昇だけでは完全にSiを溶解することができなかった。また、実施例6に係る原料を溶解した場合にも、他の原料の温度上昇だけでは完全にSiを溶解することができなかった。
【0047】
上記黒鉛るつぼまたは石英るつぼ内に、表1に示した狙いの組成となるように純Si、または、純Siおよび合金原料Xを投入し、高周波誘導加熱により黒鉛るつぼまたは黒鉛サセプタを加熱して、るつぼ内の純Si、または、純Siおよび合金原料Xを溶解し、各溶湯を得た。なお、溶解チャンバ内は、100Pa以下の真空雰囲気、または、100Pa以下まで真空引きを実施した後、アルゴンガスを投入して酸素濃度50ppm以下のアルゴンガス雰囲気とした。
【0048】
(ガスアトマイズ法の場合:実施例1〜12)
得られた各溶湯を、溶解チャンバ内に設置されたタンディッシュに注湯し、タンディッシュ底部に設けられたノズル(直径4mm)から噴霧チャンバ内に各溶湯を棒状に落下させた。噴霧チャンバ内を棒状に落下する各溶湯に4MPaのアルゴンガスを噴き付け、各溶湯を粉砕しつつ急冷させ、各Si系材料を作製した。なお、噴霧チャンバ内は、100Pa以下まで真空引きを実施した後、アルゴンガスを投入して酸素濃度を50ppm以下まで低下させた。
【0049】
(単ロール急冷法の場合:実施例13〜15)
黒鉛るつぼで溶解して得られた各溶湯を、チャンバ内に設置された溶解るつぼ底部に設けられたノズル(直径0.4mm)からチャンバ内に各溶湯を棒状に落下させた。チャンバ内を棒状に落下する各溶湯を、周速25m/sec程度に回転するCuロール上で冷却させ、各Si系合金箔片を得た。得られた各Si系合金箔片を乳鉢を用いて機械的に粉砕し、各Si系材料を得た。
【0050】
2.評価
(Si系材料の化学組成)
得られた各Si系材料を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)、原子吸光光度法、吸光光度法、重量法、滴定法等により分析し、化学組成を測定した。その結果、いずれの実施例も狙いの各元素の割合(%)は、±0.5%以内であり、生産性の観点から許容範囲内のものであった。
【0051】
表1に、作製した各Si系材料の詳細をまとめて示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1によれば、以下のことが分かる。すなわち、本発明によれば、従来のように、アーク溶解法等により予めSiを合金化し、得られたSi合金インゴットを溶解するといった手間が省ける。また、必要以上の電源出力を用いて無理に溶解する必要もない。つまり、Si系材料を製造するにあたり生産効率の良いものとすることができる。とりわけ、実施例2と実施例3とを比較すると、黒鉛サセプタ内に配置した石英るつぼを用いた場合には、SiとCとの反応を抑制することができるので、黒鉛るつぼを用いた場合に比べ、より高純度のSi系材料を得やすい、と推察される。
【0054】
また、純SiやSi組成の大きなSi系合金等であっても、十分に溶解させることができるので、Siの溶け残りが生じ難い。加えて、Siと比較して融点が低く溶湯状態における粘度が低い合金原料Xが、るつぼ内に浸透し難い。
【0055】
以上、本発明に係るSi系材料の製造方法について説明したが、本発明は、上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 高周波誘導炉
12 炭素系るつぼ
14 溶湯
16 炭素系サセプタ
18 耐熱ガラスるつぼ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系るつぼ、または、炭素系サセプタ内に配置した耐熱ガラスるつぼ内に純Siまたは純Siおよび下記合金原料Xを投入し、高周波誘導加熱により前記炭素系るつぼまたは炭素系サセプタを加熱して、前記るつぼ内の純Siまたは純Siおよび合金原料Xを溶解し、溶湯を得る工程と、
合金原料X:長周期型周期表の2A族元素、遷移元素、2B族元素、3B族元素、および、4B族元素から選択される1または2以上の元素
アトマイズ法またはロール急冷法を用いて、前記溶湯からSi系材料を得る工程と、
を有することを特徴とするSi系材料の製造方法。
【請求項2】
前記溶解は、不活性ガス雰囲気中または真空中にて行われることを特徴とする請求項1に記載のSi系材料の製造方法。
【請求項3】
前記合金原料Xは、Snおよび/またはCuを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のSi系材料の製造方法。
【請求項4】
前記炭素系サセプタは、筒状であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のSi系材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−12657(P2012−12657A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149748(P2010−149748)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】