説明

SiCおよびその製造方法

【課題】 FRPを有効利用して低コスト、効率的かつ簡便に得ることのできるSiC製造方法を提供すること。
【解決手段】 FRP<1>を粉末化する粉末化工程<P1>と、粉末化工程<P1>により得られたFRP粉末<2>を加熱処理する加熱処理工程<P2>とにより構成される、極めて簡素なものである。したがって本製法によれば、粉末化工程<P1>においてFRP<1>が粉末化されてFRP粉末<2>が得られ、ついで加熱処理工程<P2>においてFRP粉末<2>が加熱処理されることによって、容易に目的のSiC<3>を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSiCおよびその製造方法に係り、特に廃材を利用し、低コスト、効率的かつ簡便に得ることのできるSiC、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化ケイ素)は、研磨材、耐火煉瓦の原料、鋳鉄への加炭加ケイ素剤、発熱体等の電気素子の素材、青色発光ダイオード・MOSFET等の半導体材料や半導体の基板、ファインセラミックス・エンジニアリングセラミックス、ディーゼル車排出煤塵の集塵用フィルター(DPF)材料、釣り竿のガイド、装飾用宝石など、広範な分野に亘って利用される無機材料である。
【0003】
シリカと炭素を混合物の原料として1673−2073Kでの熱処理によってβ―SiCを合成する方法はシリカ還元炭化法と呼ばれ、工業的にも現在広く使用されている。この方法は一般にシリカに由来する一酸化ケイ素(SiO)と炭素(C)が気―固反応を介してSiCを生成しているものと考えられている。
【0004】
たとえば非特許文献1には、木炭粉末、カーボンブラック、および黒鉛粉末についてそれぞれSi粉末と混合・成形し、Ar雰囲気中1450℃、2時間保持し反応させてSiCを生成する技術が開示されている。また非特許文献2には、フェノール樹脂、オルトケイ酸テトラエチル、ほう酸トリエチルを混合して調製した複合ゲルを前駆体として炭化ケイ素を合成する技術が開示されている。
【0005】
また非特許文献3には、Si単結晶からウエハーを作製する際のSi廃棄物の有効利用を目的としてなされた、家庭廃棄物と農業廃棄物を炭素源とするSiC合成法の研究成果が開示されている。また特許文献1には、廃シリコンスラッジからの炭化ケイ素の製造方法として、廃シリコンスラッジにカーボンブラック粉末を混ぜて加圧成型し、熱処理してSiCを合成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−255532号公報「炭化珪素の製造方法及び廃シリコンスラッジの処理方法」
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「木炭を出発原料とした炭化ケイ素セラミックスの作製」、松村優, 鎌田郁子, 塩野剛司, 西田俊彦 (京都工繊大 工芸) 材料 Vol.52, No.6, Page.576-580
【非特許文献2】「フェノール樹脂,オルトケイ酸テトラエチル複合体からの炭化ケイ素の生成機構」、成沢雅紀, 岡部義生, 岡村清人 (大阪府大 工), 清野肇, 嶋田志郎 (北大 大学院) 炭素No.190, Page.273-281 (1999.12.24)
【非特許文献3】「廃品を用いたSiCの合成」、岩本千恵子, 島田恵理子, 伊熊泰郎 (神奈川工科大)日本セラミックス協会年会講演予稿集 Vol.1999, Page.470
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、SiC製造技術については従来種々提案されており、製造コスト低減や廃棄物有効利用を目指したものもある。しかし、さらなる低コスト化や、あるいは効率的な製造技術の開発が求められている現状である。
【0009】
さて、有効利用技術の開発が多く取り組まれているものの一つに、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)がある。FRPは機械的強度が高い上、コストも安いため、漁船船体や生活用品などを初めとする広い分野で利用されている。しかしながら、耐用年数に達し老朽化した廃材やFRP製造工程で生じる廃材の処理には問題がある。結局、多くは廃棄物として処理されている中で、FRP内部のガラス繊維だけを取り出して再利用するための技術開発も、従来から取り組まれている。
【0010】
しかし、廃材から再生されたガラス繊維はコスト高になる上、ガラス繊維自体が短くなってしまうために本来の機械的強度を得ることができず、用途は限定されたものとなってしまう。したがって、FRP廃材の有効利用策が求められている。
【0011】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、FRPを有効利用して低コスト、効率的かつ簡便に得ることのできるSiC、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は上記課題について検討した結果、FRP廃材内部に使用されている安価なガラス繊維の成分の一部であるSiと、ガラス繊維を取り囲んでいるプラスチックの分解から得られるCを利用することでSiCが合成できることを見出し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0013】
(1) ガラス繊維強化プラスチック(FRP)の加熱処理により製造されたSiC。
(2) 粉末化したガラス繊維強化プラスチック(FRP)の加熱処理により製造されたSiC。
(3) 前記FRPは廃材であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のSiC。
(4) 前記FRPは廃FRP船であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のSiC。
【0014】
(5) ガラス繊維強化プラスチック(FRP)を粉末化する粉末化工程と、該粉末化工程により得られたFRP粉末を加熱処理する加熱処理工程とを経てSiCを得る、SiC製造方法。
(6) 前記加熱処理工程において加熱温度を1450℃以上とすることを特徴とする、(5)に記載のSiC製造方法。
(7) 前記FRPは廃FRP船または廃FRP船以外の廃材であることを特徴とする、(5)または(6)に記載のSiC製造方法。
【0015】
つまり、端的にいえば本発明は、粉末化したガラス繊維強化プラスチック(FRP)を利用し、その中に含まれているガラス繊維由来のSiとプラスチック由来のCを高温熱処理中に反応させて、SiCを製造する方法および製造されるSiCであり、FRPとしては廃FRP船その他の廃材を利用できるというものである。特に、従来技術のようにCやCO由来の炭素を敢えて添加するのではなく、FRPに元来含有される成分同士を熱処理によって反応させて、SiCを得るものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のSiCおよびその製造方法は上述のように構成されるため、これによれば、FRPを有効利用し、しかも従来のようにSi粉末やC、COを添加させるものではないので、低コスト、効率的かつ簡便にSiCを得ることができる。特に、従来は産業廃棄物として処分されていたFRP廃材を利用できるため、SiC製造の低コスト化の効果が高まるだけでなく、FRP廃材の有効利用策ともなる発明である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のSiC製造方法の構成を示すフロー図である。
【図2】実施例1に係るFRP粉末のX線回折結果を示すグラフである。
【図3】実施例1に係るFRP粉末の写真である。
【図4】実施例1の加熱処理物のX線回折結果を示すグラフである。
【図5】実施例1に係る加熱処理物の写真である。
【図6】実施例2の加熱処理物のX線回折結果を示すグラフである。
【図7】実施例2に係る加熱処理物の写真である。
【図8】比較例1の加熱処理物のX線回折結果を示すグラフである。
【図9】比較例1に係る加熱処理物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面も用いつつ本発明を詳細に説明する。
上述したように本発明のSiCは、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)の加熱処理により製造されるものであるが、FRPとしては特に、粉末化したものを用いる。粉末化の程度は特に限定されず、要するに、FRP内部に使用されている安価なガラス繊維の成分の一部であるSiと、ガラス繊維を取り囲んでいるプラスチックの構成成分であるCとが、所定の熱処理条件下にて十分に反応し、化合物SiCを得るのに適した程度の粒度や形態であればよい。たとえば実施例として後述するような25μmなど、100μm前後のサイズの粉末化は、本発明の実施において十分な効果が得られる。
【0019】
図1は、本発明のSiC製造方法の構成を示すフロー図である。図示するように本製法は、FRP<1>を粉末化する粉末化工程<P1>と、粉末化工程<P1>により得られたFRP粉末<2>を加熱処理する加熱処理工程<P2>とにより構成される、極めて簡素なものである。したがって本製法によれば、粉末化工程<P1>においてFRP<1>が粉末化されてFRP粉末<2>が得られ、ついで加熱処理工程<P2>においてFRP粉末<2>が加熱処理されることによって、容易に目的のSiC<3>を得ることができる。
【0020】
図において、加熱処理工程<P2>における加熱温度は、1450℃以上とすることが望ましい。実施例に後述するように1450℃以上の加熱温度であれば、SiCを製造できることを確認済みである。また、原料のFRP<1>としては、廃FRP船、または廃FRP船以外のFRP廃材を特に用いることとしてもよい。コスト低減効果を得られる上に、FRP廃材の有効利用策にもなる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
FRP製の廃漁船を、一軸破砕機LSC−88(ラサ工業)と粉砕機(スーパーエディミルG−55 ラサ工業)等にて爆砕し、30〜100μmに粉砕してFRP粉末を得た。さらに遊星回転ボールミル(フレッチェ製)をもちいて、約25μmに粉末化し、FRP粉末とした。FRP粉末についてX線回折を行った。使用装置は、リガク製のRINT−2100型である。
【0022】
図2は、実施例1に係るFRP粉末のX線回折結果を示すグラフである。図示するように、ここではFeのピークが見られるが、これは、粉砕した際のボールミルから混入されたものと考えられる。なお、図3にFRP粉末の形態を写真で示す。
【0023】
ついで、FRP粉末をAr雰囲気中で1600℃に加熱処理した。得られた加熱処理物について、同様にX線回折を行った。図4は、実施例1の加熱処理物のX線回折結果を示すグラフである。図示するように本加熱処理物においては、SiCを示すピークのみが出現した。したがって、FRP粉末を1600℃で加熱処理することによって、純度高くSiCを得られることが示された。なお、図5に加熱処理物の形態を写真で示す。加熱処理物は、灰色の硬い結晶であった。
【0024】
<実施例2>
上述非特許文献1に開示されているとおり、1450℃による加熱処理によってSiC生成可能であることは既に知られているため、実施例2ではこれに代えて加熱温度を1500℃とした。それ以外は実施例1と同様の条件にて、FRP粉末から加熱処理物を得た。図6は、実施例2の加熱処理物のX線回折結果を示すグラフである。図示するように本加熱処理物においては、実施例1と同様SiCを示すピークが出現した。しかしその他に、2θ=25°付近にもピークが現れた(このピークについては、未同定)。いずれにせよ、FRP粉末を1500℃で加熱処理することによって、SiCを得られることが示された。なお、図7に加熱処理物の形態を写真で示す。加熱処理物は、黒色の脆い結晶であった。
【0025】
<比較例1>
加熱温度を1250℃とする以外は実施例1と同様の条件にて、FRP粉末から加熱処理物を得た。
図8は、比較例1の加熱処理物のX線回折結果を示すグラフである。図示するように本加熱処理物においては、SiCを示すピークの出現は認められなかった。2θ=25°付近にピークが現れたが結晶性が悪く、1本のみのために物質の同定はできなかった。なお、図9に加熱処理物の形態を写真で示す。加熱処理物は、黒色の脆い結晶であった。
【0026】
以上のとおり、FRP製船体の廃材からFRP粉末を調製し、他の材料を添加することなく、ただ同FRP粉末をAr雰囲気中で1450℃以上の温度で加熱処理するのみという簡便な方法によって、SiCを得られることが確認できた。特に、1600℃以上の温度で加熱処理することにより、得られるSiCの純度を高められることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
SiCは、研磨材、ヒータ、セメント、混合材、耐火煉瓦の原料、鋳鉄への加炭加ケイ素剤、高級釣り竿のガイド等に大量に使われる他、鋳鉄用、発熱体等の電気素子の素材、半導体材料(青色発光ダイオード、高速ショットキーバリアダイオード、MOSFET(電界効果トランジスタ)、他種材料による半導体の基板、またファインセラミックス、エンジニアリングセラミックスとしての用途、装飾用宝石としても使用される。さらに、ディーゼル車排出煤塵の集塵用フィルター(DPF)材料としての用途も急拡大している。
【0028】
本発明のSiCおよびその製造方法によれば、このように用途が広範でしかも拡大しているSiCを、漁船や日用品・生活用品由来のFRP廃材の有効利用によって、低コスト、効率的かつ簡便に製造することができる。したがって、各種産業分野に亘って利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0029】
1…FRP
2…FRP粉末
3…SiC
P1…粉末化工程
P2…加熱処理工程




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維強化プラスチック(FRP)の加熱処理により製造されたSiC。
【請求項2】
粉末化したガラス繊維強化プラスチック(FRP)の加熱処理により製造されたSiC。
【請求項3】
前記FRPは廃材であることを特徴とする、請求項1または2に記載のSiC。
【請求項4】
前記FRPは廃FRP船であることを特徴とする、請求項1または2に記載のSiC。
【請求項5】
ガラス繊維強化プラスチック(FRP)を粉末化する粉末化工程と、該粉末化工程により得られたFRP粉末を加熱処理する加熱処理工程とを経てSiCを得る、SiC製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理工程において加熱温度を1450℃以上とすることを特徴とする、請求項5に記載のSiC製造方法。
【請求項7】
前記FRPは廃FRP船または廃FRP船以外の廃材であることを特徴とする、請求項5または6に記載のSiC製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−250863(P2012−250863A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122735(P2011−122735)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【出願人】(511132351)北日本海事興業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】