説明

SiC単結晶の製造方法及びSiC単結晶の製造装置

【課題】SiC種結晶の結晶成長面上にSiC多結晶が析出し難くすることを容易にできるSiC単結晶の製造方法を提供することを、目的とする。
【解決手段】準備工程では、SiC溶液16の原料を収容する坩堝14と、SiC種結晶36が取り付けられる下端面34を有するシードシャフト30とを備えるSiC単結晶の製造装置10を準備する。取付工程では、シードシャフト30の軸方向から見て、シードシャフト30がSiC種結晶36の周縁よりも内側に位置するように、SiC種結晶36を下端面34に取り付ける。生成工程では、坩堝14を加熱して、SiC溶液16を生成する。浸漬工程では、シードシャフト30の下端をSiC溶液16に浸漬して、SiC種結晶36をSiC溶液16に浸漬する。育成工程では、SiC種結晶36の結晶成長面38上にSiC単結晶を育成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶の製造方法及びSiC単結晶の製造装置に関し、さらに詳しくは、溶液成長法によるSiC単結晶の製造方法及びSiC単結晶の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)の単結晶を製造する方法として、溶液成長法が従来から知られている。溶液成長法では、板状のSiC種結晶をシードシャフトの下端に配置し、SiC種結晶の下面(以下、結晶成長面という)をSiC溶液に浸漬する。そして、SiC溶液に浸漬されたSiCの種結晶の結晶成長面上にSiCの単結晶を成長させる。ここで、SiC溶液は、Si又はSi合金の融液にカーボン(C)が溶解した溶液をいう。
【0003】
SiC単結晶を成長させるときに、SiC溶液がシードシャフトの下端部側面に濡れ上がることがある。例えば、SiC溶液の撹拌等により、SiC溶液がシードシャフトに濡れ上がる。シードシャフトの温度はSiC溶液の温度よりも低い。そのため、濡れ上がったSiC溶液は、シードシャフトで冷却される。そのため、シードシャフトの側面にSiC多結晶が生成されやすい。生成されたSiC多結晶がSiC種結晶の結晶成長面に付着すれば、SiC単結晶の成長が阻害される。したがって、SiC種結晶の結晶成長面にSiC多結晶がなるべく付着しない方が好ましい。
【0004】
シードシャフトの下端部側面におけるSiC多結晶の生成を抑制することを目的としたSiC単結晶の製造方法は、例えば、特開2010−184838号公報(特許文献1)及び特開2011−98871号公報(特許文献2)に開示されている。
【0005】
特許文献1では、種結晶が炭素棒の下端に取り付けられる。炭素棒下端部の側面には、カーボンシートが取り付けられる。カーボンシートは、炭素棒よりも濡れ性が低い。そのため、炭素棒の融液による濡れが防止される。その結果、炭素棒への多結晶の生成・付着が防止される。
【0006】
特許文献2では、種結晶が軸(shaft)に取り付けられる。軸の下端部側面には、溶液が濡れ上がる。軸の下端部側面は加熱手段によって加熱される。そのため、軸の側面における多結晶の生成が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−184838号公報
【特許文献2】特開2011−98871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、炭素棒下端の側面にカーボンシートを取り付ける必要があり、その作業が煩雑である。特許文献2では、加熱装置を設ける必要があり、単結晶を製造するための装置が複雑になる。したがって、他の方法により、SiC種結晶の結晶成長面へのSiC多結晶の付着を抑制できる方が好ましい。
【0009】
本発明の目的は、シードシャフトの側面に生成されたSiC多結晶がSiC種結晶の結晶成長面上に付着し難いSiC単結晶の製造方法及びSiC単結晶の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施の形態によるSiC単結晶の製造方法は、準備工程と、取付工程と、生成工程と、浸漬工程と、育成工程とを備える。準備工程では、SiC溶液の原料を収容する坩堝と、SiC種結晶が取り付けられる下端面を有するシードシャフトとを備えるSiC単結晶の製造装置を準備する。取付工程では、シードシャフトの軸方向から見て、シードシャフトがSiC種結晶の周縁よりも内側に位置するように、SiC種結晶を下端面に取り付ける。生成工程では、坩堝を加熱して、SiC溶液を生成する。浸漬工程では、シードシャフトの下端をSiC溶液に浸漬して、SiC種結晶をSiC溶液に浸漬する。育成工程では、SiC種結晶の結晶成長面上にSiC単結晶を育成する。
【0011】
本発明の実施の形態によるSiC単結晶の製造装置は、溶液成長法によるSiC単結晶の製造に用いられる。SiC単結晶の製造装置は、SiC種結晶と、シードシャフトとを備える。シードシャフトは、SiC種結晶が取り付けられる下端面を有する。シードシャフトは、シードシャフトの軸方向から見て、SiC種結晶の周縁よりも内側に位置する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施の形態によるSiC単結晶の製造方法及びSiC単結晶の製造装置は、シードシャフトの側面に生成されたSiC多結晶がSiC種結晶の結晶成長面上に付着するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に用いるSiC単結晶の製造装置の模式図である。
【図2】図2は、SiC種結晶の上面全体がシードシャフトの下端面に取り付けられた状態を示す模式図である。
【図3】図3は、シードシャフトの側面に生成されるSiC多結晶を示す模式図である。
【図4】図4は、成長時間が5時間である場合の飛び出し量と浸漬深さとの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、成長時間が10時間である場合の飛び出し量と浸漬深さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態によるSiC単結晶の製造方法は、準備工程と、取付工程と、生成工程と、浸漬工程と、育成工程とを備える。準備工程では、SiC溶液の原料を収容する坩堝と、SiC種結晶が取り付けられる下端面を有するシードシャフトとを備えるSiC単結晶の製造装置を準備する。取付工程では、シードシャフトの軸方向から見て、シードシャフトがSiC種結晶の周縁よりも内側に位置するように、SiC種結晶を下端面に取り付ける。生成工程では、坩堝を加熱して、SiC溶液を生成する。浸漬工程では、シードシャフトの下端をSiC溶液に浸漬して、SiC種結晶をSiC溶液に浸漬する。育成工程では、SiC種結晶の結晶成長面上にSiC単結晶を育成する。
【0015】
この場合、シードシャフトの軸方向から見ると、SiC種結晶がシードシャフトの側面よりも外側に張り出している。SiC多結晶は、シードシャフトの側面に生成する。しかしながら、SiC多結晶がSiC種結晶の周縁よりも外側に張り出すまで大きく成長しないと、SiC多結晶がSiC種結晶の結晶成長面(下面)まで到達しない。換言すれば、シードシャフトの幅よりも大きな幅を有するSiC種結晶が、SiC多結晶の結晶成長面への到達を阻害する。その結果、シードシャフトの側面に生成されたSiC多結晶がSiC種結晶の結晶成長面に付着し難くなる。さらに、SiC単結晶の製造装置の構成が複雑になりにくい。
【0016】
本実施形態の製造装置はさらに、欠陥の少ない高品質なSiC単結晶を成長できる。詳しく説明すると、シードシャフトとSiC種結晶とでは、熱膨張率に差がある。そのため、SiC単結晶を育成中、SiC種結晶に熱応力が掛かる。しかしながら、本製造方法においては、シードシャフトとSiC種結晶との接触面積が小さい。そのため、SiC種結晶に掛かる熱応力は小さい。したがって、欠陥の少ない高品質なSiC単結晶が製造される。
【0017】
好ましくは、浸漬工程では、結晶成長面をSiC溶液の液面から4mm以上離す。この場合、SiC多結晶の結晶成長面への付着がさらに抑制される。
【0018】
さらに、SiC種結晶がSiC溶液中に深く浸漬されるため、結晶成長面内の温度が均一になり易い。したがって、育成されたSiC単結晶の厚み(成長厚み)の面内分布(結晶成長面内での分布)が一定になり易い。
【0019】
本発明の実施の形態によるSiC単結晶の製造装置は、上述の製造方法に用いられる。
【0020】
以下、実施の形態によるより具体的なSiC単結晶の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図中同一又は相当部分には、同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0021】
[製造装置]
図1は、本発明の実施の形態に用いるSiC単結晶の製造装置10の概略構成図である。図1を参照して、製造装置10は、チャンバ12を備える。チャンバ12は、坩堝14を収容する。SiC単結晶が製造されるとき、チャンバ12は水冷される。
【0022】
坩堝14は、SiC溶液16を収容する。SiC溶液16は、SiC単結晶の原料である。SiC溶液16は、シリコン(Si)と炭素(C)とを含有する。
【0023】
SiC溶液16の原料は例えば、Si単体、又は、Siと他の金属元素との混合物である。原料を加熱して融液とし、その融液にカーボン(C)が溶解してSiC溶液16が生成される。他の金属元素は例えば、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、鉄(Fe)等である。これらの金属元素のうち、好ましい金属元素は、Ti、Cr及びFeである。更に好ましい金属元素は、Ti及びCrである。
【0024】
好ましくは、坩堝14は炭素を含有する。坩堝14は例えば、黒鉛製や、SiC製であってもよい。坩堝14は、内表面をSiCで被覆してもよい。これにより、坩堝14は、SiC溶液16への炭素供給源になる。
【0025】
チャンバ12は、断熱部材18を更に収容する。断熱部材18は、坩堝14を取り囲むように配置される。換言すれば、断熱部材18は、坩堝14を収容する。
【0026】
チャンバ12は、加熱装置20を更に収容する。加熱装置20は例えば、高周波コイルである。加熱装置20は、断熱部材18の側壁を取り囲むように配置される。
【0027】
加熱装置20は、坩堝14を誘導加熱して、坩堝14に収容された原料を溶融する。これにより、SiC溶液16が生成される。
【0028】
加熱装置20は更に、SiC溶液16を結晶成長温度に維持する。結晶成長温度は、SiC溶液16の組成に依存する。一般的な結晶成長温度は、1600〜2000℃である。
【0029】
製造装置10は、回転装置22を更に備える。回転装置22は、回転軸24と、駆動源26とを備える。
【0030】
回転軸24は、チャンバ12の高さ方向(図1の上下方向)に延びる。回転軸24の上端は、断熱部材18内に位置する。回転軸24の上端には、坩堝14が配置される。回転軸24の下端は、チャンバ12の外側に位置する。回転軸24は、駆動源26と連結される。
【0031】
駆動源26は、チャンバ12の下方に配置される。SiC単結晶を製造するとき、駆動源26は、回転軸24を、その中心軸線周りに回転させる。これにより、坩堝14が回転する。
【0032】
製造装置10は、昇降装置28を更に備える。昇降装置28は、シードシャフト30と、駆動源32とを備える。
【0033】
シードシャフト30は、チャンバ12の高さ方向に延びる。シードシャフト30の上端は、チャンバ12の外側に位置する。
【0034】
本例では、シードシャフト30は円形断面を有する。しかしながら、シードシャフト30の断面は円形に限定されない。シードシャフト30の断面は、例えば、矩形等の多角形であってもよい。
【0035】
シードシャフト30は、中実構造であってもよいし、中空構造であってもよい。シードシャフト30は、冷却構造を有していてもよい。
【0036】
シードシャフト30は、駆動源32と連結される。駆動源32は、チャンバ12の上方に配置される。駆動源32は、シードシャフト30を昇降する。駆動源32は更に、シードシャフト30を、その中心軸線周りに回転させる。
【0037】
シードシャフト30の下端は、坩堝14内に位置する。シードシャフト30の下端面34には、SiC種結晶36が取り付けられる。
【0038】
SiC種結晶36は板状であり、取付面37と、結晶成長面38とを有する。取付面37はSiC種結晶36の上面に相当し、結晶成長面38はSiC種結晶36の下面に相当する。取付面37は、シードシャフト30の下端面34と対向し、下端面34に取り付けられる。本例では、SiC種結晶36は円板状である。しかしながら、SiC種結晶36の形状は円板状に限定されない。SiC種結晶36の形状は、例えば、六角形、矩形等の多角形であっても良い。
【0039】
SiC種結晶36は、SiC単結晶からなる。好ましくは、SiC種結晶36の結晶構造は、製造しようとするSiC単結晶の結晶構造と同じである。例えば、4H多形のSiC単結晶を製造する場合、4H多形のSiC種結晶36を利用する。4H多形のSiC種結晶36を利用する場合、SiC種結晶36の表面は、(0001)面であるか、又は、(0001)面から8°以下の角度で傾斜した面であることが好ましい。この場合、SiC単結晶が安定して成長する。
【0040】
SiC種結晶36が下端面34に取り付けられたとき、シードシャフト30の軸方向から見て、シードシャフト30は、SiC種結晶36の周縁よりも内側に配置される。要するに、SiC種結晶36は、シードシャフト30の下端にフランジ状に配置される。
【0041】
製造装置10を側面から見て、SiC種結晶36の幅(本例では直径)は、シードシャフト30の幅(本例では直径)よりも大きい。そのため、シードシャフト30の軸方向から見て、シードシャフト30は、SiC種結晶36の周縁よりも内側に配置できる。
【0042】
上述のとおり、製造装置10において、シードシャフト30は、SiC種結晶36の周縁よりも内側に配置される。そのため、シードシャフト30の下端部側面にSiC多結晶が生成されても、SiC種結晶36の取付面37(上面)がSiC多結晶の下方への移動を阻害する。そのため、SiC多結晶がSiC種結晶36の結晶成長面38(下面)まで到達しにくい。したがって、SiC多結晶が生成されても、SiC種結晶36の結晶成長面38にSiC多結晶が付着しにくい。以下、SiC単結晶の製造方法について詳述する。
【0043】
[SiC単結晶の製造方法]
製造装置10を用いたSiC単結晶の製造方法について説明する。初めに、製造装置10を準備する(準備工程)。次に、シードシャフト30にSiC種結晶36を取り付ける(取付工程)。次に、チャンバ12内に坩堝14を配置し、SiC溶液16を生成する(生成工程)。次に、SiC種結晶36を坩堝14内のSiC溶液16に浸漬する(浸漬工程)。次に、SiC単結晶を育成する(育成工程)。以下、各工程の詳細を説明する。
【0044】
[準備工程]
初めに、製造装置10を準備する。
【0045】
[取付工程]
続いて、シードシャフト30の下端面34にSiC種結晶36を取り付ける。
【0046】
シードシャフト30の軸方向から見て、シードシャフト30がSiC種結晶36の周縁よりも内側に位置するように、SiC種結晶36をシードシャフト30の下端面34に取り付ける。換言すれば、シードシャフト30の軸方向から見ると、SiC種結晶36がシードシャフト30の側面よりも外側に張り出している。要するに、下端面34の全体は、SiC種結晶36に重なる。
【0047】
本例では、シードシャフト30とSiC種結晶36とが同軸に位置している。換言すれば、シードシャフト30の軸方向から見た場合に、シードシャフト30の中心とSiC種結晶36の中心とが一致している。シードシャフト30とSiC種結晶36は同軸に位置していることが望ましいが、必ずしもその必要はない。
【0048】
[生成工程]
次に、チャンバ12内の回転軸24上に、坩堝14を配置する。坩堝14は、SiC溶液16の原料を収容する。
【0049】
次に、SiC溶液16を生成する。先ず、チャンバ12内に不活性ガスを充填する。そして、加熱装置20により、坩堝14内のSiC溶液16の原料を融点以上に加熱する。坩堝14が黒鉛からなる場合、坩堝14を加熱すると、坩堝14から炭素が融液に溶け込み、SiC溶液16が生成される。坩堝14の炭素がSiC溶液16に溶け込むと、SiC溶液16内の炭素濃度は飽和濃度に近づく。
【0050】
[浸漬工程]
次に、SiC種結晶36をSiC溶液16に浸漬する。具体的には、駆動源32により、シードシャフト30を降下し、SiC種結晶36をSiC溶液16に浸漬する。より具体的には、シードシャフト30の下端部がSiC溶液16内に浸漬されるまで、シードシャフト30を降下する。これにより、SiC種結晶36の全体がSiC溶液16に浸漬され、SiC種結晶36の取付面37(上面)はSiC溶液16の液面よりも深い位置に配置される。したがって、SiC種結晶36の結晶成長面38(下面)も、SiC溶液16の液面よりも深い位置に配置される。
【0051】
[育成工程]
SiC種結晶36をSiC溶液16に浸漬した後、加熱装置20により、SiC溶液16を結晶成長温度に保持する。さらに、SiC溶液16におけるSiC種結晶36の近傍を過冷却して、SiCを過飽和状態にする。
【0052】
SiC溶液16におけるSiC種結晶36の近傍を過冷却する方法は特に限定されない。例えば、加熱装置20を制御して、SiC溶液16におけるSiC種結晶36の近傍領域の温度を他の領域の温度よりも低くする。また、SiC溶液16におけるSiC種結晶36の近傍を冷媒により冷却してもよい。具体的には、シードシャフト30の内部に冷媒を循環させる。冷媒は例えば、ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスである。シードシャフト30内に冷媒を循環させれば、SiC種結晶36が冷却される。SiC種結晶36が冷えれば、SiC溶液16におけるSiC種結晶36の近傍も冷える。
【0053】
SiC溶液16におけるSiC種結晶36の近傍を過冷却することにより、SiC溶液16には、坩堝14の深さ方向に温度勾配が形成される。温度勾配は、好ましくは2〜100℃/cmであり、より好ましくは5〜50℃/cmである。
【0054】
SiC溶液16におけるSiC種結晶36の近傍領域のSiCを過飽和状態にしたまま、SiC種結晶36とSiC溶液16(坩堝14)とを回転する。シードシャフト30を回転することにより、SiC種結晶36が回転する。回転軸24を回転することにより、坩堝14が回転する。SiC種結晶36の回転方向は、坩堝14の回転方向と逆方向でも良いし、同じ方向でも良い。また、回転速度は一定であっても良いし、変動しても良い。シードシャフト30は、回転しながら、徐々に上昇する。このとき、SiC溶液16に浸漬されたSiC種結晶36の結晶成長面38にSiC単結晶が生成し、成長する。なお、シードシャフト30は、上昇せずに回転しても良い。さらに、シードシャフト30は、上昇も回転もしなくても良い。
【0055】
本実施の形態によるSiC単結晶の製造方法では、シードシャフト30の下端部がSiC溶液16に浸漬されているので、シードシャフト30の側面にSiC溶液16が濡れ上がる。シードシャフト30の側面に濡れ上がったSiC溶液16は、シードシャフト30で冷却される。その結果、シードシャフト30の側面にSiC多結晶が生成される。
【0056】
ここで、SiC種結晶36をシードシャフト30の軸方向から見ると、SiC種結晶36はシードシャフト30の側面よりも外側に広がっている。そのため、図2に示すように、SiC種結晶36の上面全体がシードシャフト30の下端面に取り付けられている場合よりも、結晶成長面38にSiC多結晶が付着し難くなる。
【0057】
詳しく説明すると、図2の場合、シードシャフト30の側面に生成されたSiC多結晶40は、シードシャフト30の側面に沿って成長する。SiC種結晶36がシードシャフト30の側面よりも外側に広がっていないので、SiC多結晶40は、シードシャフト30の側面に沿って下方に成長し、SiC種結晶36の結晶成長面38に容易に辿り着く。
【0058】
一方、図3に示すように、本実施の形態は、SiC種結晶36がシードシャフト30の側面よりも外側に広がっている。そのため、SiC多結晶40は、シードシャフト30の側面に沿って成長するだけでは、結晶成長面38に辿り着けない。なぜなら、SiC種結晶36の取付面(上面)37が、SiC多結晶40の下方への成長を阻害するからである。この場合、SiC多結晶40は、取付面37に沿って幅方向に成長する。SiC多結晶40は、SiC種結晶36の周縁よりもさらに外側に至るまで幅方向に成長しなければ、下方に成長しない。そのため、図2に示す場合よりも、SiC多結晶40が結晶成長面38に到達しにくい。換言すれば、SiC多結晶40が結晶成長面38に付着するまでの時間を稼ぐことができる。したがって、結晶成長面38にSiC多結晶40が付着し難くなる。
【0059】
SiC溶液16の液面から結晶成長面38までの距離は4mm以上に設定されていることが望ましい。これにより、SiC多結晶40の成長に伴う移動距離が顕著に大きくなる。換言すれば、SiC多結晶40が結晶成長面38に付着するまでの時間をさらに稼ぐことができる。
【実施例】
【0060】
図1と同じ構成を有する製造装置を用いて、SiC単結晶を製造した。このとき、SiC多結晶の飛び出し量(以下、単に飛び出し量と称する。図3参照)Tを測定した。飛び出し量Tは、SiC種結晶の結晶成長面を基準とし、この基準からSiC多結晶の下端までの距離(結晶成長面の垂線方向の距離)を示す。飛び出し量Tの測定では、SiC種結晶の直径D1に対するシードシャフト下端部の直径D2の比率Rと、SiC溶液の液面からSiC種結晶の結晶成長面までの距離(浸漬深さ)Lと、SiC単結晶の成長時間とを変化させた。SiC溶液のSiC種結晶近傍の温度勾配は、12℃/cmであった。
【0061】
測定結果を表1に示す。表1において、飛び出し量Tが負の値をとる場合は、SiC多結晶の下端がSiC単結晶の結晶成長面よりも上方に位置することを示し、飛び出し量Tが正の値をとる場合は、SiC多結晶の下端がSiC単結晶の結晶成長面よりも下方に位置することを示す。SiC多結晶の下端がSiC単結晶の結晶成長面よりも上方に位置すれば、SiC多結晶がSiC単結晶の結晶成長面に到達しにくい。したがって、この場合、SiC多結晶が結晶成長面に付着しにくいことを意味する。一方、SiC多結晶の下端がSiC単結晶の結晶成長面よりも下方に位置すれば、SiC多結晶がSiC単結晶の結晶成長面に到達しやすい。したがってこの場合、SiC多結晶が結晶成長面に付着しやすいことを意味する。
【0062】
【表1】

【0063】
表1を参照して、SiC種結晶の直径D1がシードシャフトの直径D2よりも小さい場合(実施例1〜9)、飛び出し量Tがマイナスであった。したがって、SiC多結晶がSiC単結晶の結晶成長面から飛び出さないことを確認できた。一方、SiC種結晶の直径D1とシードシャフトの直径D2とが同じである場合(比較例1,2)、飛び出し量Tはプラスであった。したがって、SiC多結晶がSiC単結晶の結晶成長面から飛び出すことを確認できた。SiC種結晶の直径D1がシードシャフトの直径D2よりも大きければ、SiC多結晶がSiC単結晶の結晶成長面に付着しにくかった。
【0064】
図4及び図5は、表1の測定結果のグラフを示す。図4は成長時間が5時間である場合のグラフであり、図5は成長時間が10時間である場合のグラフである。図4及び図5の各グラフの横軸は、浸透深さL(mm)を示し、縦軸は飛び出し量T(mm)を示す。
【0065】
図4及び図5を参照して、浸漬深さLが4mm以上になると、浸透深さLが4mm未満である場合と比較して、飛び出し量Tが顕著に低減した。つまり、浸漬深さLが4mm以上になると、SiC多結晶がSiC種結晶の結晶成長面に顕著に付着しにくくなった。
【0066】
以上、本発明の実施形態について、詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、上述の実施形態によって、何等、限定されない。
【符号の説明】
【0067】
10:製造装置,14:坩堝,16:SiC溶液,30:シードシャフト,34:下端面,36:SiC種結晶,38:結晶成長面,40:SiC多結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC溶液の原料を収容する坩堝と、SiC種結晶が取り付けられる下端面を有するシードシャフトとを備えるSiC単結晶の製造装置を準備する準備工程と、
前記シードシャフトの軸方向から見て、前記シードシャフトが前記SiC種結晶の周縁よりも内側に位置するように、前記SiC種結晶を前記下端面に取り付ける取付工程と、
前記坩堝を加熱して、前記SiC溶液を生成する生成工程と、
前記シードシャフトの下端を前記SiC溶液に浸漬して、前記SiC種結晶を前記SiC溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記SiC種結晶の結晶成長面上にSiC単結晶を育成する育成工程とを備える、SiC単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記浸漬工程では、前記結晶成長面を前記SiC溶液の液面から4mm以上離す、請求項1に記載のSiC単結晶の製造方法。
【請求項3】
溶液成長法によるSiC単結晶の製造装置であって、
下端面を有するシードシャフトと、
前記下端面に取り付けられるSiC種結晶とを備え、
前記シードシャフトの軸方向から見て、前記シードシャフトが前記SiC種結晶の周縁よりも内側に位置する、製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−112553(P2013−112553A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259170(P2011−259170)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】