説明

Snイオンを含有する廃液の再生処理方法

【課題】Snイオンを含有する廃液から、短時間で効率良くSnイオンを酸化物として沈殿させて分離除去する廃液の再生処理方法を提供する。
【解決手段】Snイオンを含有する廃液を70℃以上に加熱し、且つ、廃液にエアレーションを行うとともに、機械攪拌を行い、SnイオンをSn酸化物として沈殿させ、Sn酸化物を分離除去する。薬品を添加することなく、短時間で効率良くSnイオンを酸化物として沈殿させて分離除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばCu系材料のSnめっき層剥離液として用いられる硫酸水溶液等の、Snイオンを含有する廃液の再生処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
純銅や黄銅、リン青銅の他、Fe、Ni、Si、Sn、P、Mg、Zr、Cr、Ti、Al、Ag等の元素を単体もしくは複数、数百ppm〜30質量%の範囲で含有する銅基合金を含むCu系材料は、インゴットから圧延、焼鈍等の工程を経て、板厚0.1〜4.0mmの条材や線材として仕上げられた後、車載用、民生機器用または産業機器用の端子やバスバー、ばね等の通電部に広く使用されている。このようなCu系材料は、一般に、通電時の接触信頼性および耐食性を確保するために、めっき金属の中でも比較的安価なSnを0.5〜5.0μmの厚さでめっきして使用される。
【0003】
Snめっきが施された板材等のCu系材料が通電部の製品となるまでには、Snめっき後にスリット加工やプレス加工等が行われることが一般的であり、その際にスクラップが発生する。このスクラップを原料としてそのまま溶解すると、めっきしたSnの分だけSn成分が多くなり、元の素材であるCu系材料の原料として再利用できない。したがって、元の素材を再利用するためには、めっきされたSnを剥離、除去する必要がある。
【0004】
従来、Cu系材料の基材への侵食が軽微なSnめっきの剥離方法として、例えば特許文献1に開示されているように、Cu系材料を、Cuイオンを含有する硫酸または硝酸による剥離液に浸漬する方法が知られている。しかし、この方法で剥離液を使用し続けると、
Cu2+ +Sn →Sn2+ + Cu
の反応により剥離液中のCuイオンが消費され、Snイオンがある濃度に達すると、Snの剥離が進行しなくなる。
【0005】
このような剥離液の再生方法として、特許文献2に、過酸化水素水を添加し、剥離液中のSnイオンを酸化させて生成沈殿物を分離除去した後、Cuイオンを初期濃度になるように補給する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、Cu合金酸洗廃液の再生方法において、廃液中のSnイオンの除去方法として、廃液を40℃以上に加熱し、SnイオンをSn酸化物もしくは水酸化物として沈降分離処理する方法が開示されており、さらにSnイオンの酸化速度を高めるために、加熱時に空気もしくは酸素をエアレーションする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−87275号公報
【特許文献2】特開平1−319689号公報
【特許文献3】特開平2003−342763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献2に開示されている方法では、生成沈殿物の粒径が微細であり、濾過による分離除去は、濾材が閉塞しやすく困難である。また、沈降速度が遅いため、沈殿の分離作業を迅速かつ効率よく行うためには、遠心分離や高分子凝集剤を用いて強制的に沈降させる必要がある。さらに、過酸化水素水という比較的高価な薬品を使用する必要があるため、コストアップが避けられない。しかも、薬品添加によって本来の剥離液の濃度が薄まるため、再利用するには濃度調整が必要となり、生産性の低下を招く。
【0009】
また、前記特許文献3に開示されている方法では、薬品を添加することなく沈殿物を分離除去できるものの、沈殿物を生成させるためにかなりの時間を要し、回収効率も悪いため、生産性の低下が避けられない。
【0010】
本発明の目的は、Snイオンを含有する廃液から、短時間で効率良くSnイオンを酸化物として沈殿させて分離除去することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するため、本発明は、Snイオンを含有する廃液の再生処理方法であって、前記廃液を70℃以上に加熱し、且つ、前記廃液にエアレーションを行うとともに機械的攪拌を行い、SnイオンをSn酸化物として沈殿させ、前記Sn酸化物を分離除去することを特徴とするSnイオンを含有する廃液の再生処理方法を提供する。
【0012】
前記廃液の主成分が硫酸水溶液であってもよい。前記廃液が、Cu系材料のSnめっき層剥離液の廃液であってもよい。
【0013】
前記エアレーションは、前記廃液1L当たり0.1L/min以上の空気または酸素の吹き込みであることが好ましい。前記機械的攪拌は攪拌子または攪拌羽を用いた攪拌であることが好ましい。前記廃液の再生処理を、密閉容器内で行ってもよい。
【0014】
前記廃液が、Cu系材料のSnめっき層剥離液の廃液であれば、前記Sn酸化物の分離除去後、前記廃液にCuイオンを補給し、Snめっき層剥離液として再使用してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Snイオンを含有する廃液から、薬品を添加することなく、短時間で効率良くSnイオンを酸化物として沈殿させて分離除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
本発明は、Snイオンを含有する例えば主成分が硫酸水溶液の廃液から、Snイオンを分離させるものである。Snイオンを含有する廃液とは、例えばCu系材料のSnめっき層剥離を行った際の廃液や、Cu系材料の製造工程における酸洗廃液等であり、Snイオン以外にCuイオン等も含有しても良い。
【0018】
本発明では、Snイオンを含有する廃液が入った容器を、例えば容器の周囲に配置したヒータにより、廃液が70℃以上となるように加熱する。そして、例えばその廃液中に攪拌子または攪拌羽を挿入し、機械的に攪拌子または攪拌羽を回転させて、廃液を機械攪拌する。攪拌子としては、例えばクロス型やストレート型、攪拌羽としては、例えばファン型やプロペラ型など様々なものがあるが、容器の大きさや廃液の液量に合わせて適当なものを用いて攪拌すれば良い。この攪拌子または攪拌羽は、例えば100rpm以上、好ましくは300rpm以上の回転数で高速回転させることにより、Snイオンの酸化が促進される。さらに、この廃液が収容された容器の底部に、出口を設けたパイプを設置し、廃液に空気または酸素を吹き込んでエアレーションを行う。空気または酸素の添加量は、廃液1L当たり0.1L/min以上が好ましい。空気または酸素の添加量がこれよりも少ないと、酸化能力が低すぎてSn反応が遅く、Sn酸化物が十分に得られない。なお、廃液の温度は75℃以上がさらに好ましく、空気または酸素の添加量は、廃液1L当たり0.5L/min以上がさらに好ましい。
【0019】
本発明では、廃液の再生処理中に空気又は酸素を供給(エアレーション)するが、その気体の気泡が溶液全体に略均一に分散する程度の比較的強い攪拌を行うことが好ましい。このような状態にすることで、後述の実施例に記載した条件で、ろ過時間が30分/L以下、液中のSnイオン除去率が80%以上という効果を得ることができ、非常に短時間で、Snイオン除去率の高い廃液の再生処理を達成することができる。
【0020】
一般に、工業的には多量の薬液(廃液)を加熱して処理する際、設備上、安全上の制約から、40〜50℃で処理をすることが多い。しかしながら、本発明では、比較的高温である70℃以上において、且つエアレーション及び機械的攪拌を行うことにより、極めて短時間で非常に大きな粒径のSn酸化物の沈殿物を得ることができ、Sn酸化物の分離除去が容易となることを見いだした。
【0021】
また、本発明の攪拌においては、機械的攪拌を行うことにより、供給する空気や酸素の気泡が大きくても分断され、直径の平均が2mm以下、好ましくは1mm以下の非常に小さい気泡となるまで攪拌される。この分断された細かい気泡が、廃液との接触面積を大きく増大させ、また攪拌により廃液に速い流れができてその気泡と接触することで、より反応が促進されると考えられる。気泡は廃液全体に略均一に分散されることが好ましく、廃液全体において反応を進めることにより、処理時間を短くすることができる。
【0022】
なお、エアレーションを行うための気体の吹き込み口の穴を小さくして、直径の平均が2mm以下の小さい気泡を発生させ、それを攪拌して廃液中に分散させても良い。この場合、廃液中に所定量の気体を吹き込むために、複数の穴から気体を廃液中に吹き込むことが好ましい。
【0023】
また、本発明の機械的攪拌は、廃液を循環ポンプで循環させるなどの手段により、廃液中に速い流れを発生させても良い。機械的攪拌の程度としては、上述のように、気泡が廃液の略全体に均一に分散されていること、または気泡のサイズを目安とすれば良い。
【0024】
以上の工程は、廃液を高温で処理するため、略密閉容器内で行うことが好ましい。密閉容器は、攪拌およびエアレーション機能を備え、例えば大気を取り込み、そのエアレーションにより吹き込んだ空気の放出口が設けられる。エアレーションの吹き込み口は、吹き込んだ気体を廃液全体に略均一に分散させるのに有利であるように、容器の下方(底部)が好ましい。
【0025】
以上のように、廃液を70℃以上に加熱し、さらに空気または酸素を吹き込みながら機械攪拌を行うことにより、粒径の大きい沈殿物(Sn酸化物)が生成される。そのため、沈降速度が増して、濾過による沈殿物除去を容易に行うことができる。すなわち、本発明によれば、薬品を添加することなく、加熱、エアレーション、機械攪拌のみによって、粒子の大きいSn酸化物が生成される。したがって、高価な薬品が不要であり低コストで実施できるうえ、薬品添加時のように廃液の成分が薄まらないため、廃液を再使用する際の濃度調整が容易であり、コスト面および生産性の両面において優れている。
【0026】
Snめっき層剥離液として使用された廃液から、上記の方法によりSnイオンを分離除去した後、Cuイオンを補給することにより、Snめっき層剥離液として再使用できる。Cu系材料を、Cuイオンを含有する硫酸または硝酸による剥離液に浸漬すると、
Cu2+ +Sn →Sn2+ + Cu
の反応により剥離液中のCuイオンが消費される。Cuイオン濃度が減少すると、Snの剥離効果が低下する。剥離液中のSnイオンの溶解度が例えば1.0〜3.0質量%程度の場合、mol比でCu:Snがおよそ1:1となるように、1〜2質量%程度のCuイオンを補給することにより、再びSnの剥離効果を得ることができる。
【0027】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例1】
【0028】
1000mLのビーカーに、攪拌およびエアレーション機能を設け、エアレーションにより吹き込んだ気体の放出口を形成し、放出口以外を密閉して、その中で、硫酸水溶液によるCu系材料のSnめっき層を剥離した後の廃液の再生処理を行った。本発明例として、廃液(硫酸水溶液)中のSnイオン濃度が10g/L、15g/L、20g/Lの3種類について実施した。廃液を加熱する温度は、70℃、80℃、90℃の3種類とした。吹き込む気体およびその流量は、大気(空気)が0.5L/min、1L/min、2L/min、酸素が0.1L/minの計4種類で行った。機械攪拌による攪拌子の回転数は、300rpm、500rpm、650rpm、700rpmの4種類とした。なお、エアレーションの吹き込み口を容器の底部に設け、その直径は約4mmとした。攪拌子は、マグネットをPTFEで被覆したクロス型形状のもので、クロスの直径が10mm、クロスの端部から端部までの長さがそれぞれ37mmのものを用いた。攪拌及び加熱は、マグネット式のホットスターラーを使用して行った。以上の条件で、各1Lの廃液について、本発明にかかる再生処理を、それぞれ1時間行った。また、比較例として、本発明のいずれかの条件から外れた再生処理を実施した。本発明例および比較例の実施条件および処理結果一覧を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
本再生処理中に、エアレーションされた気体の気泡を測定した結果、本発明例1〜12、比較例1、2において、いずれも直径が1mm以下と非常に小さいものであり、且つ、気泡は廃液全体に均一に分散していた。気泡の直径は、廃液を写真撮影して気泡100個の直径の平均値によって求めた。なお、比較例4の気泡の平均直径は、約3mmであった。
【0031】
本発明例および比較例において、それぞれ、沈殿したSn酸化物の粒度(μm)、沈降速度(mm/h)、濾過時間(min/L)、濾過後の廃液中のSnイオン濃度(g/L)を測定し、廃液中のSnイオン除去率(%)を算出した。ただし、濾過時間は、保留粒子径1.0μm(ADVANTEC社製GA−100)の濾紙を使用して第1の減圧濾過を行い、得られた濾液を保留粒子径0.6μm(ADVANTEC社製GA−55)の濾紙を使用して第2の減圧濾過を行った際の、第1の減圧濾過と第2の減圧濾過に要した時間の和であり、生産性を低下させないと判断する評価基準は、30min/L以下とした。なお、第1の減圧濾過および第2の減圧濾過は、減圧ポンプ(オイルレスピストンポンプ)で200Torr程度に減圧しながら行った。また、Snイオン除去率は、80%以上のSnイオンが除去された場合を、有効な処理と判断する評価基準とした。85%以上のSnイオン除去率であることが、さらに好ましい。
【0032】
沈降速度は、表1に示す気体反応時間(再生処理)終了後、ビーカーを静置し、粒子が沈降する速度とした。具体的には、粒子が沈降するにしたがって廃液は青色の部分と沈殿物が多く存在する白っぽく濁った白濁部分とに分かれるが、この青色部分と白濁部分の界面の下がる速度を測定し、再生処理後、ビーカーを静置してから10分後までの界面が下がる速度の平均値を、沈降速度として示した。
【0033】
表1に示すように、本発明例では、Sn酸化物(沈殿物)の粒度が6μm〜11μmと大きく、沈降速度が200mm/h〜1000mm/hと大きく、濾過時間がいずれも30min/Lを下回った。また、Snイオン除去率は88.7%以上と、1時間の処理で、極めて効率良くSnイオンを除去することができた。
【0034】
比較例1は、廃液の温度を50℃まで加熱したものであり、大気の吹き込みおよび機械攪拌を2時間行ったにもかかわらず、Sn酸化物の粒度が小さく、沈降速度が小さく、濾過時間が長くかかったうえ、Snイオン除去率が38.7%と除去効果が低かった。比較例2は、廃液の温度を60℃まで加熱したものであり、大気の吹き込みおよび機械攪拌を2時間行い、Snイオン除去率は71.3%と比較例1よりも改善されたものの、Sn酸化物の粒度が小さく、沈降速度が小さく、濾過時間が長くかかり、非効率的であった。比較例3は、気体の吹き込みを行う代わりにH試薬を加えたものであり、1時間の攪拌でSnイオン除去率が98.7%と高くなったが、Sn酸化物の粒度が小さく、沈降速度が小さく、濾過時間が長くかかり、非効率的であった。比較例4は、攪拌子の回転数が遅い場合であり、Snイオン除去率が13.3%と極めて低かった。また、気泡が廃液全体に均一に分散しておらず、ビーカーの側壁部に近い部分には気泡がほとんどない状態であった。比較例5は、エアレーションを行わない場合であり、Snイオン除去率が20.0%と極めて低かった。また、比較例のいずれも、Sn酸化物の粒度が3μm以下と、本発明例に比べて小さかった。
【0035】
以上の処理結果より、本発明の条件である、廃液の温度が70℃以上、機械攪拌、エアレーションのいずれか一つの要素が欠けると、Snイオンの回収効率が大幅に低下することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、Snイオンを含有する液からSnイオンを除去する方法として適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snイオンを含有する廃液の再生処理方法であって、
前記廃液を70℃以上に加熱し、且つ、前記廃液にエアレーションを行うとともに機械的攪拌を行い、SnイオンをSn酸化物として沈殿させ、前記Sn酸化物を分離除去することを特徴とする、Snイオンを含有する廃液の再生処理方法。
【請求項2】
前記廃液の主成分が硫酸水溶液であることを特徴とする、請求項1に記載のSnイオンを含有する廃液の再生処理方法。
【請求項3】
前記廃液が、Cu系材料のSnめっき層剥離液の廃液であることを特徴とする、請求項1または2に記載のSnイオンを含有する廃液の再生処理方法。
【請求項4】
前記エアレーションは、前記廃液1L当たり0.1L/min以上の空気または酸素の吹き込みであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のSnイオンを含有する廃液の再生処理方法。
【請求項5】
前記機械的攪拌は攪拌子または攪拌羽を用いた攪拌であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のSnイオンを含有する廃液の再生処理方法。
【請求項6】
前記廃液の再生処理を、密閉容器内で行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のSnイオンを含有する廃液の再生処理方法。
【請求項7】
前記Sn酸化物の分離除去後、前記廃液にCuイオンを補給し、Snめっき層剥離液として再使用することを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載のSnイオンを含有する廃液の再生処理方法。

【公開番号】特開2011−177696(P2011−177696A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47340(P2010−47340)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)
【Fターム(参考)】