説明

Sn又はSn合金めっき被膜、及びそれを有する複合材料

【課題】Sn又はSn合金めっき皮膜の摺れや脱落を防止することにより、ロールのメンテナンス性に優れ、生産性を向上させることができるSn又はSn合金めっき被膜及びそれを有する複合材料を提供する。
【解決手段】樹脂層又はフィルム4を積層した銅箔又は銅合金箔1の他の面に形成され、非接触式の表面粗さ計を使用した場合の表面粗さRaが0.5×102nm以上であるSn又はSn合金めっき被膜2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド材料等に用いられ、樹脂等を積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成されるSn又はSn合金めっき被膜、及びそれを有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
Snめっき被膜は耐食性に優れ、かつ、はんだ付け性が良好で接触抵抗が低いと言う特徴を持っている。このため、例えば、車載用電磁波シールド材の複合材料として、銅等の金属箔にSnめっきされて使用されている。
上記の複合材料としては、銅箔又は銅合金箔の一方の面に樹脂層又はフィルムを積層し、他の面にSnめっき被膜を形成した構造が用いられている。
また、近年、コネクター等の用途において、耐摩耗性・挿抜性の観点からSnめっき被膜を硬くすることが望まれており、Snめっき表層のヌープ硬度Hkを規定した技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
銅又は銅合金箔へのSnめっきは、通常は湿式めっきにより行われるが、めっき皮膜に外観上ムラが無く、美麗であること、つまり色調が均一で、色斑や模様がないことが求められるため、めっき液に添加剤を加えて光沢Snめっきを行うことが多い。そのため、Snめっき皮膜の表面粗さは小さい。
例えば、錫とニッケルとモリブデンとからなる合金めっきを行って反射率が1%〜15%の銅箔を製造し、この銅箔を用いて電磁波シールド体を得る技術が開示されている(特許文献2)。この技術において、合金めっき前の銅箔の表面粗さは、中心線平均粗さで0.1〜0.5μm(1.0×102〜5.0×102nm)の値を示す。
一方、Snめっきには,その内部応力や外部応力によって,ウィスカとよばれるひげ状結晶が発生する。これを防止するために,めっき時に光沢剤を極端に減らして,内部応力を低下することが知られている。しかし,この方法によっても外部応力に伴うウィスカ発生を防止することは難しい。このため、電気めっき浴中の光沢剤を減らすと共にメタノールを添加し、Snめっき皮膜に空隙を持たせて,めっき後に曲げ加工や打ち抜き加工等で発生する外部応力を緩和する技術が開示されている。(特許文献3参照)
【0004】
【特許文献1】特開2002-298963号公報
【特許文献2】特開2003-201597号公報
【特許文献3】特開2007-254860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、通常の光沢Snめっきの場合、表面粗さRaが小さいため、銅箔ストリップに連続めっきした場合、めっき出側で接触するロールとの摩擦が小さくなってロールがスリップし、Snめっき表面がこすれてロールに転写、付着するという問題がある。
また、例えば、銅又は銅合金箔を基材とする複合材料を使用して車載用電磁波シールド材を製造するため、熱可塑性接着剤を連続ラインで塗布する工程においても同様な問題がある。この工程は40m〜100m/minと通箔速度が速く、めっき面に接触するロールへのSn付着が顕著に観察される。
いずれの場合も、ロールへのSn付着により、メンテナンスに時間を要するため、生産性を低下させる。更に、メンテナンスを怠った場合、ロール側に付着したSnによる表面キズ等の品質異常が発生する恐れがある。また、ロールへのSn付着により、Snめっき被膜が薄くなり、耐食性の低下を招く可能性もある。
【0006】
一方、銅箔は薄いため、強度が低い。そのため、シールド材として使用する場合、銅箔に樹脂またはフィルムを貼り付けて使用するのが一般的である。しかし、このような樹脂またはフィルムを貼り付けた銅箔でさえ、連続めっき時にストリップにかかる張力を高くすると折れやシワが発生する。そこで、この折れやシワを防止するため、低い張力で通箔することが必要になる。加えて、めっき工程や熱可塑性接着剤塗布工程等では、表面のキズを防止するため粗さの小さいロールを使用しており、ロールとSnめっき被膜との抵抗が小さい。そのため、ロールとの間でスリップを生じ易くなっている。従って、Snめっき被膜の表面粗さが小さいと、ますますスリップを助長する。
また、Snめっき被膜の表面粗さが小さいと、光沢剤の有機物がSn被膜に共析して、めっきが脆くなり、脱落し易くなることも考えられる。
【0007】
又、銅箔にSnめっきして得られた複合材料をケーブル等の電磁波シールド材料に用いる場合、ケーブル外周にこの複合材料を巻き、更にその外側に樹脂を被覆する。そして、この被覆工程で、複合材料がダイス(金型)を通過する際、Snめっき被膜が脱落してダイスにSnカスとして付着する可能性があり、それを除去するためのメンテナンスに時間を要し、生産性を低下させる可能性がある。
【0008】
更に、特許文献1記載の技術の場合、銅箔の表面粗さが0.1〜0.5μmであり、銅箔表面のめっき皮膜の表面粗さも同程度であることが想定される。そして、本発明者らの検討によれば、Snめっき皮膜の表面粗さRaが0.5×102nm以上であれば、連続めっきの際にロールがスリップし難いことが判明している。
ところが、接触式の表面粗さ計において表面粗さが0.5×102nm以上であっても、非接触式の表面粗さ計では0.5×102nm未満の場合があり、この場合には連続めっき時にロールのスリップが生じる。つまり、連続めっき時のロールのスリップを有効に防止するためには、非接触式の表面粗さ計でSnめっき皮膜の表面粗さRaを厳密に管理する必要がある。
【0009】
一方、特許文献3には、外部応力の影響を受け難くするため、Snめっき被膜の硬さを400MPa以下にすることが記載されている。しかしながら、特許文献3記載の技術は、めっき浴中に高濃度のメタノールを含有するため空隙の多いめっき被膜であり、さらに長時間電解を続けると、Snめっき被膜に大きな欠陥(下地の露出)が生じることが本発明者らの検討により判明した。
これは、めっき浴中のメタノールが電解によってホルムアルデヒドに変化し、このホルムアルデヒドが正常なSnの析出を阻害し、めっき被膜の欠陥をもたらすためと考えられる。そして、下地が露出すると、下地(金属箔)の耐食性が低下する不具合が生じる。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、めっき時や使用時のSn又はSn合金めっき被膜の摺れや脱落を防止することにより、ロールのメンテナンス性に優れ、生産性を向上させることができるSn又はSn合金めっき被膜及びそれを有する複合材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは種々検討した結果、銅又は銅合金箔表面のSn又はSn合金めっき被膜の表面粗さを大きくすることで、Sn又はSn合金めっき被膜の摺れや脱落を低減することに成功した。又同時に、銅又は銅合金箔表面のSn又はSn合金めっき被膜の硬さを所定の硬さ以下にすることで、Sn又はSn合金めっき被膜の摺れや脱落を低減することに成功した。更に、メタノールを含有しないめっき浴を用いて電気めっきすることで、めっき被膜の欠陥による下地の露出を抑制し、耐食性を向上させることにも成功した。
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明のSn又はSn合金めっき被膜は、樹脂層又はフィルムを積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成され、非接触式の表面粗さ計を使用した場合の表面粗さRaが0.5×102nm以上である。
非接触式の表面粗さ計としては、原子間力顕微鏡(AFM)等が例示される。
【0013】
前記表面粗さRaが2.0×102nm以下であることが好ましい。
前記Sn又はSn合金めっき被膜の硬さが500MPa以下であって、該Sn又はSn合金めっき被膜の表面を走査電子顕微鏡で観察したとき(但し、該Sn又はSn合金めっき被膜の厚みが1.5μmを超える場合、該Sn又はSn合金めっき被膜の厚みを1.5μmに減じたとき)、前記銅箔又は銅合金箔が露出しないことが好ましい。
【0014】
さらに、Sn又はSn合金めっき被膜の平均厚みが0.5〜2μmであることが好ましい。
Sn又はSn合金めっき被膜が連続めっきによって形成されていることが好ましい。
【0015】
本発明の複合材料は、銅箔又は銅合金箔と、前記銅箔又は銅合金箔の一方の面に積層された樹脂層又はフィルムと、前記銅箔又は銅合金箔の他の面に形成された前記Sn又はSn合金めっき被膜とからなる。
【0016】
複合材料の厚みが0.1mm以下であることが好ましく、電磁波シールドに用いられることが好ましい。
【0017】
なお、本発明において、Sn又はSn合金めっきの硬さは、ISO 14577-1 2002-10-01 Part1に準拠して測定される、超微小硬さ試験において、最大荷重1mNによる押し込み硬さとする。測定方法の詳細は後述する。
本発明において、Sn又はSn合金めっき被膜の表面を走査電子顕微鏡で観察したとき、「銅箔又は銅合金箔が露出しない」とは、Sn又はSn合金めっき被膜の反射電子像と異なる輝度の反射電子像が通常の倍率(例えば、1000倍程度)で観察されず、一様な輝度の反射電子像が得られることをいう。
又、Sn又はSn合金めっき被膜の厚みは、Sn又はSn合金めっき被膜の平均的なマクロな厚みであり、めっき被膜を電解して完全に溶解したときの電気量から求めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Sn又はSn合金めっき皮膜の摺れや脱落を防止することにより、ロールのメンテナンス性に優れ、生産性を向上させることができるSn又はSn合金めっき皮膜及びそれを有する複合材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0020】
本発明の実施の形態に係る複合材料は、銅箔(又は銅合金箔)1と、銅箔(又は銅合金箔)1の一方の面に積層された樹脂層(又はフィルム)4と、銅箔(又は銅合金箔)1の他の面に形成されたSn又はSn合金めっき被膜2とからなる。
材料の軽薄化の観点から、複合材料の厚みは0.1mm以下であることが好ましい。
【0021】
銅箔としては、純度99.9%以上のタフピッチ銅、無酸素銅、又、銅合金箔としては要求される強度や導電性に応じて公知の銅合金を用いることができる。公知の銅合金としては、例えば、0.01〜0.3%の錫入り銅合金や0.01〜0.05%の銀入り銅合金が挙げられ、中でも、導電性に優れたものとしてCu-0.12%Sn、Cu-0.02%Agがよく用いられる。
銅箔(又は銅合金箔)の厚みは特に制限されないが、例えば5〜50μmのものを好適に用いることができる。
なお、銅箔(又は銅合金箔)としては、電解銅箔よりも高強度の圧延箔を用いることが好ましい。
又、銅箔(又は銅合金箔)の表面粗さは、Sn又はSn合金めっき被膜の表面粗さに影響を与えないよう、中心線平均粗さで0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下のものを用いることが好ましい。
【0022】
樹脂層としては例えばポリイミド等の樹脂を用いることができ、フィルムとしては例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)のフィルムを用いることができる。樹脂層やフィルムは、接着剤により銅箔(又は銅合金箔)に接着されてもよいが、接着剤を用いずに溶融樹脂を銅箔(銅合金箔)上にキャスティングしたり、フィルムを銅箔(銅合金箔)に熱圧着させてもよい。
樹脂層やフィルムの厚みは特に制限されないが、例えば5〜50μmのものを好適に用いることができる。又、接着剤を用いた場合、接着層の厚みは例えば10μm以下とすることができる。
【0023】
Sn合金めっき被膜としては、例えばSn−Cu、Sn−Ag、Sn−Pb等を用いることができる。
【0024】
Sn又はSn合金めっき被膜の表面粗さRaを0.5×102nm以上とする。ここで、本発明におけるRaは、JIS B0601 で定義されているRaを三次元に拡張して適用したものである。但し、JIS規格には、面の平均的な粗さを示す指標がないため、表面粗さ計で出力されるRaを本発明では三次元的な値として採用する。
Sn又はSn合金めっき被膜のRaを0.5×102nm以上とすると、Sn又はSn合金めっき被膜の粗度が高くなって接触部分の摩擦力を高くすることができる。このため、連続めっき時にロールとの間のスリップを低減することができる。又、Raを0.5×102nm以上とすると、得られた複合材料をケーブル等の電磁波シールド材料に加工する際、Sn又はSn合金めっき被膜がロールとの間でスリップしてSn又はSn合金めっき被膜が脱落することが少なくなる。このため、ロールへのSn付着を防止でき、生産性を向上でき、得られた複合材料を加工した際、Sn又はSn合金めっき被膜の粉落ちが生じず、固着力が低下することがない。
Sn又はSn合金めっき被膜の表面粗さRaの上限は、Sn又はSn合金めっきの製造条件等によって変化するので特に制限されないが、Raが2.0×10nmを超えると、めっき効率が低下したり、不均一な外観(粗大な析出等)となって耐食性が低下する場合がある。
【0025】
又、本発明においては、非接触式の表面粗さ計を使用してSn又はSn合金めっき被膜の表面粗さRaを測定する。これは、Sn又はSn合金めっき被膜が柔らかいため、接触式の表面粗さ計を使用すると、Raを精度よく測定できず、結果として実際の表面粗さに関らず、測定された表面粗さの値が大きな値を示してしまう。従って、接触式の表面粗さ計で測定した場合には、連続めっき時にロールのスリップを低減するRaの閾値が明確とならない。
このようなことから、本発明においては、非接触式の表面粗さ計を使用してRaを測定する。非接触式の表面粗さ計としては、原子間力顕微鏡等のマイクロプローブ顕微鏡や、共焦点顕微鏡が例示される。原子間力顕微鏡としては、例えば、セイコーインスツル社製の型式 SPI-4000 ( E-Sweep )が挙げられる。
又、測定誤差を低減するため、表面粗さの測定の際、100×100μm程度の視野内で複数の位置のRaを測定して平均することが好ましい。
【0026】
Sn又はSn合金めっき被膜の表面粗さRaを0.5×102nm以上とする方法としては、Sn又はSn合金めっき浴中に光沢剤(例えば、ホルマリン及びアルデヒド系、イミダゾル系、ベンザルアセトン等の市販されている薬品)を添加しないことにより制御できる。但し、EN(エトキシレーテッドナフトール)等のナフトール系の界面活性剤をSn又はSn合金めっき浴中に添加してもよい。また、ENSA(エトキシレーテッドナフトールスルフォニックアッシド)、ポリエチレングリコール、さらにはポリエチレングリコールノニルフェノールエーテル等のノニオン界面活性剤をSn又はSn合金めっき浴中に添加してもよい。また、界面活性剤の他、光沢効果の低いナフトール等の有機物を添加しても良い。
【0027】
より具体的な方法について以下に説明する。
Sn又はSn合金めっき浴の基剤としては、フェノールスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸等を挙げることができる。
電着粒の大きさは、めっき条件において、電流密度を低く、浴中のSn濃度を高く、浴温度を高くすることで調整できる。例えば電流密度2〜12A/dm、Sn濃度30〜60g/L、浴温30〜60℃とすることで、粒状の電着Sn(又はSn合金)を銅箔面に均一に電着させることができ、表面粗さRaを0.5×102nm以上とすることができるが、装置によって異なるので特に限定されない。
【0028】
なお、特許文献3に記載されているように、Snめっき浴にメタノールを添加すると、長時間電解を続けた際にSnめっき皮膜に空隙が生じ、耐食性が低下するので好ましくない。これは、めっき浴中のメタノールが電解によってホルムアルデヒドに変化し、このホルムアルデヒドが正常なSnの析出を阻害し、めっき被膜の欠陥をもたらすためと考えられる。従って、本発明のSn又はSn合金めっき被膜は、メタノールを添加しないSn又はSn合金めっき浴によって形成されるものとする。
なお、めっき被膜に欠陥を与えるための電解時間はめっき条件によって変化するが、電解時間の合計が多くなるほど、メタノールが変化したホルムアルデヒドがめっき浴中に蓄積し、下地が露出するめっき欠陥が発生し易くなる。めっき浴中に「メタノールを含有しない」とは、めっき浴中のメタノール濃度が不純物レベル(通常は、数ppm(数mg/L)以下、例えば5mg/L以下)であることをいう。
【0029】
Sn又はSn合金めっき浴の基剤としては、フェノールスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸等を挙げることができる。
めっき条件は、特に限定されないが、例えば電流密度8A/dm2、Sn濃度20〜50g/L、浴温30〜60℃とすることができるが、装置によって異なるので特に限定されない。
【0030】
Sn又はSn合金めっき被膜の硬さを500MPa以下とし、該Sn又はSn合金めっき被膜の表面を走査電子顕微鏡で観察したとき(但し、該Sn又はSn合金めっき被膜の厚みが1.5μmを超える場合、該Sn又はSn合金めっき被膜の厚みを1.5μmに減じたとき)、前記銅箔又は銅合金箔が露出しないことが好ましい。
Sn又はSn合金めっき被膜の硬さを500MPa以下とすると、Sn又はSn合金めっき時にSn又はSn合金めっき表面とロールとの間のスリップが少なくなり、Sn又はSn合金めっきの付着がなくなる。又、得られた複合材料をケーブル等の電磁波シールド材料に用いる場合にも、加工時のロールやダイスへのSnの付着が見られず、生産性を向上できる。そして、得られた複合材料を加工した際、Sn又はSn合金めっき被膜の粉落ちが生じず、密着性が低下することがない。
Sn又はSn合金めっき被膜のめっきの硬さの下限を特に限定する理由はないが、溶融凝固したSnの硬さ以下にはなりえず、本発明では、100MPaを下限とする。
【0031】
Sn又はSn合金めっき被膜の硬さは、ISO(国際標準化機構)14577-1 2002-10-01 Part1に準拠して測定される超微小硬さ試験において、最大荷重1mNによる押し込み硬さとする。この測定に用いる測定機器はISO 14577-1 2002-10-01 Part1に準拠して測定できる装置であれば問わないが、例えば、エリオニクス製のENT-2100を用いることができ、圧子としてバーコビッチ圧子(ダイヤモンド三角錐圧子)を用いることができる。また、本発明において、押し込み硬さの測定条件は以下のとおりである。
試験モード:負荷-除荷試験(最大荷重まで押し込んだ後、除荷する)
最大荷重:1mN
測定温度:32±1℃
硬さの値は5箇所の平均値とする。
本方法で測定できる押し込み硬さは被膜厚さの影響を受ける。すなわち、被膜が厚いほど被膜そのものの硬さとなり、被膜が薄いほど下地金属である、CuやCu−Snの金属間化合物の硬さの影響を受ける。しかし、本発明で問題にするのは表層の「みかけ硬さ」であり、これが柔らかく測定される場合にロールとのスリップを起こさない。その指標として、上記条件での硬さ測定結果が有効である。
【0032】
Sn又はSn合金めっき被膜の硬さを500MPa以下にする方法としては、例えば電着粒の制御(電着粒を大きくする)によって行うことができる。電着粒の大きさは、電流密度、Sn濃度及び浴温等のめっき条件により、又は、Sn又はSn合金めっき浴中に光沢剤(例えば、アルデヒド系、イミダゾル系、ベンザルアセトン等の市販されている薬品)の添加量を変化させることにより制御できる。
【0033】
又、メタノールを含有しないSn又はSn合金電気めっき浴を用いてめっきすることにより、めっき被膜の表面を走査電子顕微鏡で観察したとき、下地(銅箔又は銅合金箔)が露出せず、欠陥のないめっき被膜が得られる。この場合、めっき被膜の表面を走査電子顕微鏡で観察すると、めっき被膜の反射電子像と異なる輝度の反射電子像が通常の倍率(例えば、1000倍程度)で観察されず、一様な輝度の反射電子像が得られる。つまり、めっき被膜と異なる組成がめっき被膜表面から検出されず、下地(銅箔又は銅合金箔)が露出しないことを表す。
なお、Sn又はSn合金めっき被膜の厚みが1.5μmを超える場合、粗雑なめっき粒が下地の露出部分(めっき欠陥部分)を覆う場合があるため(但し、下地を完全に被覆しているわけではない)、めっき被膜の表面を走査電子顕微鏡で観察すると、露出しているはずの下地の反射電子像が得られないことがある。この場合も実際には下地が露出して耐食性が劣ることから、下地の露出の有無を正確に判定するため、めっき被膜の厚みを1.5μmに減じて走査電子顕微鏡で観察することとする。
めっき被膜の厚みを1.5μmに減じる方法としては、FIB(集束イオンビーム)によりめっき被膜の断面を作製する方法や、めっき被膜の厚みを1.5μmにするための、めっき金属(又は合金)の減量を求めておき、めっき被膜を電解したときの溶解量がこの減量に一致するよう電解時の電気量を設定する方法がある。
【0034】
Sn又はSn合金めっき被膜の厚みが0.5μm以上であることが好ましい。厚みが0.5μm未満であると耐食性、はんだ付け性が低下する場合がある。
Sn又はSn合金めっき被膜の厚みの上限は、Sn又はSn合金めっきの製造条件等によって変化するので特に制限されないが、2μmを超えてSn又はSn合金めっきを厚くしても耐食性、はんだ付け性の更なる向上はみられず、逆に、コストアップや生産性を低下させる等の不具合もある。従って、Sn又はSn合金めっき被膜の厚みが0.5〜2μmであることが好ましい。
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
銅99.9%以上のタフピッチ銅箔(厚み7.3μm)の片面に、厚み12.5μmのPETフィルムを熱可塑性接着剤を使用して接着したものをストリップとした。このストリップを錫陽極と対向させ、連続めっきセル中で電気めっきした。めっき浴としてフェノールスルホン酸浴を用い、界面活性剤(EN)10g/Lと酸化錫を添加し、Sn濃度25〜37g/Lとした。めっき条件は、浴温35〜55℃、電流密度9A/dm2とし、めっき厚を1.2μmとした。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaを、原子間力顕微鏡(セイコーインスツル社製の型式 SPI-4000 E-Sweep )で測定したところ、1.01×102nmであった。なお、Raの測定範囲を100×100μm、測定モードDFMとした。
また、Snめっきの硬さは、470MPaであった。なお、めっき表面からの超微小硬さ試験による最大荷重1mNでの硬さを測定し、測定機器はエリオニクス製ENT-2100とし、圧子にバーコビッチ圧子(ダイヤモンド三角錐圧子)を用い、測定条件は、試験モード:負荷-除荷試験(最大荷重まで押し込んだ後、除荷する)、測定温度:32±1℃とした。硬さの値は5回の測定の平均値とした。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。
さらに、耐食性評価として塩水噴霧試験(Z2371)(温度:35℃、塩水濃度:5%(塩化ナトリウム)、噴霧圧力:98±10kPa、噴霧時間:480h)を行い、良好な結果を得た。
【実施例2】
【0037】
めっき厚を0.5μmとしたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaは、0.86×102nmであり、Snめっきの硬さは、480MPaであった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。また、耐食性評価も良好な結果であった。
【実施例3】
【0038】
めっき厚を1.9μmとし、電流密度7A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaは、1.31×102nmであり、Snめっきの硬さは、450MPaであった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。また、耐食性評価も良好な結果であった。
【実施例4】
【0039】
めっき厚を2.0μmとし、電流密度5A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaは、1.54×102nmであり、Snめっきの硬さは、425MPaであった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。また、耐食性評価も良好な結果であった。
【実施例5】
【0040】
銅99.9%以上のタフピッチ銅箔(厚み7.3μm)の片面に厚み12.5μmのPETフィルムと熱可塑性接着剤を使用して接着したものをストリップとした。このストリップを錫陽極と対向させ、連続めっきセル中で電気めっきした。めっき浴としてフェノールスルホン酸浴を用い、界面活性剤(EN)10g/Lと酸化錫を添加し、Sn濃度32〜40g/Lとした。めっき条件は、浴温35〜45℃、電流密度9A/dm2とし、めっき厚を2.0μmとした。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaは、1.88×102nmであり、Snめっきの硬さは、475MPaであった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔してもロールにSn付着が見られなかった。また、耐食性評価も良好な結果であった。
【実施例6】
【0041】
銅99.9%以上のタフピッチ銅箔(厚み7.3μm)の片面に厚み12.5μmのPETフィルムを熱可塑性接着剤を使用して接着したものをストリップとした。このストリップを錫陽極と対向させ、連続めっきセル中で電気めっきした。めっき浴としてフェノールスルホン酸浴を用い、界面活性剤EN10g/L、光沢剤(パラアルデヒド5ml/L、ナフトアルデヒド0.1ml/L)および酸化錫を添加し、Sn濃度25〜37g/Lとした。めっき条件は、浴温45〜55℃、電流密度9A/dmとし、めっき厚を1.3μmとした。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaは、0.55×102nmであり、硬さは495MPaであった。
連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4000m通箔したところでロールにSn付着が見られた。耐食性は良好であった。
【0042】
<比較例1>
めっき厚を0.4μmとしたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaは、0.43×102nmであり、Snめっきの硬さは、495MPaであった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ、4700m通箔した時点でロールにSn付着が見られ、塩水噴霧試験(Z2371)で腐食が見られた。
【0043】
<比較例2>
めっき厚を1.0μmとし、Snめっき浴中に光沢剤(パラアルデヒド12ml/L、ナフトアルデヒド0.2ml/L)を添加したこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaは、0.32×102nmであり、Snめっきの硬さは、550MPaであった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ3000m通箔した時点でロールにSn付着が顕著に見られた。耐食性評価は良好な結果であった。
【0044】
<比較例3>
めっき厚を0.7μmとし、電流密度13A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaは、2.18×102nmであり、Snめっきの硬さは、580MPaであった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ3500m通箔した時点でロールにSn付着が顕著に見られ、塩水噴霧試験(Z2371)で微細な腐食が見られた。
【0045】
<比較例4>
めっき厚を1.3μmとし、Snめっき浴中に光沢剤(パラアルデヒド12ml/L、ナフトアルデヒド0.2ml/L)を添加し、電流密度14A/dm2としたこと以外は実施例1とまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっきの表面粗さRaは、0.29×102nmであり、Snめっきの硬さは、505MPaであった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ3000m通箔した時点でロールにSn付着が顕著に見られた。耐食性評価は良好な結果であった。
【0046】
<比較例5>
めっき厚を1.3μmとし、Snめっき浴中に光沢剤(パラアルデヒド12ml/L、ナフトアルデヒド0.2ml/L)を添加し、電流密度8A/dm2としたこと以外は実施例1をまったく同様にして連続めっきを行った。
得られたSnめっき被膜の表面粗さRaは、0.45×10nmであり、Snめっきの硬さは、470MPaであった。
又、連続めっき中、めっき出側のロールを観察したところ3700m通箔した時点でロールにSn付着が顕著に見られた。耐食性評価は良好な結果であった。
【0047】
得られた結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から明らかなように、Snめっき被膜の表面粗さRaが0.5×102nm以上である各実施例の場合、連続めっきによっても長期間(4000m以上)、ロールにSnが付着しなかった。また、各実施例1〜6の場合、Snめっき被膜の硬さが500MPa以下であり、連続めっきによっても長期間(4000m以上)、ロールにSnが付着しなかった。さらに、各実施例1〜6の場合、Snめっき被膜表面のSEMによるSn以外の反射像が見られず、Snめっき被膜に欠陥がないことがわかった。なお、実施例3,4,5の試料については、電解によりSnめっき被膜の厚みを1.5μmに減じた後、SEMによる反射像を観察した。
【0050】
一方、Snめっき被膜の厚みが0.5μm未満である比較例1の場合、耐食性が劣化した。
Snめっきに光沢剤を含む比較例2,4,5の場合、Snめっき被膜の表面粗さRaが0.5×102nm未満となり、連続めっきを3000〜3700m行った時点でロールにSnが付着した。
Snめっきの電流密度が12A/dm2以上である比較例3の場合、Snめっき被膜の表面粗さRaが2.0×102nmを超え、耐食性が劣化した。
同様に、Snめっきの電流密度が12A/dm2以上である比較例4の場合、Snめっき被膜の表面粗さRaが0.5×102nm未満となり、連続めっきを3000〜3500m行った時点でロールにSnが付着した。なお、比較例3は比較例4に比べてSnめっき被膜の厚さが薄く、Snめっきの電流密度が12A/dm2以上であっても、めっき厚みによってRaが変化することがわかる。
Snめっき浴にメタノールを添加した比較例6の場合、Snめっき被膜表面のSEMによるSn以外の反射像が見られ、耐食性が劣化した。これは、Snめっき被膜に欠陥があるためである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の複合材料の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0052】
1 銅箔(又は銅合金箔)
2 Sn又はSn合金めっき被膜
4 樹脂層(又はフィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層又はフィルムを積層した銅箔又は銅合金箔の他の面に形成され、非接触式の表面粗さ計を使用した場合の表面粗さRaが0.5×102nm以上であるSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項2】
前記表面粗さRaが2.0×102nm以下である請求項1に記載のSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項3】
前記Sn又はSn合金めっき被膜の硬さが500MPa以下であって、該Sn又はSn合金めっき被膜の表面を走査電子顕微鏡で観察したとき(但し、該Sn又はSn合金めっき被膜の厚みが1.5μmを超える場合、該Sn又はSn合金めっき被膜の厚みを1.5μmに減じたとき)、前記銅箔又は銅合金箔が露出しない請求項1又は2に記載のSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項4】
前記Sn又はSn合金めっき被膜の平均厚みが0.5〜2μmである請求項1〜3のいずれかに記載のSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項5】
前記Sn又はSn合金めっき被膜が連続めっきによって形成されている請求項1〜4のいずれかに記載のSn又はSn合金めっき被膜。
【請求項6】
銅箔又は銅合金箔と、前記銅箔又は銅合金箔の一方の面に積層された樹脂層又はフィルムと、前記銅箔又は銅合金箔の他の面に形成された請求項1〜5のいずれかに記載のSn又はSn合金めっき被膜とからなる複合材料。
【請求項7】
厚みが0.1mm以下である請求項6に記載の複合材料。
【請求項8】
電磁波シールドに用いられる請求項6又は7に記載の複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2010−236041(P2010−236041A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86356(P2009−86356)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】