説明

Sn合金めっき付き導電材及びその製造方法

【課題】電気めっき法によらずに、均一組織で薄膜のSn−Ag合金層を容易かつ確実に形成する。
【解決手段】Cu又はCu合金からなる基材の上に、Sn又はSn合金からなるSnめっき層を形成するSnめっき層形成工程と、Snめっき層の上に、保護剤が化学修飾したAg又はAg合金からなるAgナノ粒子を含む水とアルコールと有機バインダー又は有機溶剤との混合液を塗布することにより、Agナノ粒子を分散させたAgナノ粒子膜を形成するAgナノ粒子膜形成工程と、次いで、リフロー処理することにより、Snめっき層の表面に、Snめっき層のSn又はSn合金とAgナノ粒子膜のAg又はAg合金とを合金化してなるAg−Sn合金層を形成するAg−Sn合金層形成工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置や電子・電気部品の素材として利用されるSn合金めっき付き導電材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
端子、コネクタ、リードフレーム等の導電材として、Cu又はCu合金基材の表面にSnめっきを施したものが多く用いられている。その中でもSnめっきした後にリフロー処理しためっき材は耐熱性に優れ、自動車のエンジンルーム内をはじめとする厳しい温度環境で使用される部品の材料として広く用いられている。
しかしながら、100℃〜170℃程度の高温環境に暴露された場合、表面層であるSn層の厚みが薄いために、基材の銅成分が表面層まで熱拡散し、相手材との接触抵抗が高くなるという問題があった。
【0003】
そこで、Snめっき層にAgを含有させることにより耐熱性を向上させ、接触抵抗の低減を図ることが提案されている。
また、近年では環境問題から電子部品のRoHs指令対応に伴う鉛フリー化により、鉛を含まない純Snめっき層に切り替わっているが、鉛を含まない純Snめっき層からSnウィスカーが発生する場合があることが知られている。このSnウィスカーを抑制する方法の一つとして、Sn−Ag合金層を形成することが提案されている。
このようなSn−Ag合金層を形成する方法として、特許文献1では、Snめっき浴の中にAgイオンを含有させ、Sn−Ag合金層を形成することが開示されている。
また、特許文献2及び特許文献3では、Snめっき層の上にAgめっき層を形成して熱処理することにより、Sn−Ag合金層を形成することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−350189号公報
【特許文献2】特開2002−317295号公報
【特許文献3】特開2004−225070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載のように電気めっき法でSn−Ag合金のめっきを施す場合は、Agの標準電極電位がSnに比べ著しく貴であるため、Agの優先析出を抑制させるために錯形成剤の添加が必要であり、液の安定性に問題があり、組成のバラツキが大きくなる欠点があった。
また、特許文献2及び特許文献3記載のようにAgを単独でめっきする場合、めっき液がシアン系となるために取り扱いに問題が多い。
また、いずれの方法も電気めっきによりSn−Ag合金層を形成するものであるので、Agの結晶構造が大きく、厚く形成される傾向にある。このため、Agの消費量が多くなり、コスト増を招き易い。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、電気めっき法によらずに、均一組織で薄膜のSn−Ag合金層を容易かつ確実に形成することができるSn合金めっき付き導電材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のSn合金めっき付き導電材の製造方法は、Cu又はCu合金からなる基材の上に、Sn又はSn合金からなるSnめっき層を形成するSnめっき層形成工程と、前記Snめっき層の上に、保護剤が化学修飾したAg又はAg合金からなるAgナノ粒子を含む水とアルコールと有機バインダー又は有機溶剤もしくはその両者との混合液を塗布することにより、前記Agナノ粒子を分散させたAgナノ粒子膜を形成するAgナノ粒子膜形成工程と、次いで、リフロー処理することにより、前記Snめっき層の表面に、該Snめっき層のSn又はSn合金と前記Agナノ粒子膜のAg又はAg合金とを合金化してなるAg−Sn合金層を形成するAg−Sn合金層形成工程とを有することを特徴とする。
【0008】
Ag又はAg合金をAgナノ粒子溶液の湿式成膜法によりSnめっき層の上に塗布することにより、Agの電気めっき法に由来する諸問題を解消した。
この場合、Agナノ粒子膜は、表面に保護剤が化学修飾したAg又はAg合金のナノ粒子を含む水とアルコールと有機バインダー又は有機溶剤もしくはその両者との混合液を塗布したものであるので、Snめっき層に塗布した状態では、Agナノ粒子は、Agナノ粒子の表面に化学修飾している保護剤の作用により相互に凝集することはなく、かつ有機バインダー又は有機溶媒の作用によりAgナノ粒子膜の全体に均一に分散している。その後、リフロー処理することにより、Agナノ粒子に化学修飾している保護剤および有機バインダー又は有機溶媒が脱離又は燃焼揮発し、その後、AgとSnめっき層中のSnとが合金化してSn−Ag合金層を形成する。
Agナノ粒子は、ナノレベルの微細粒であるため、そのままでは凝集し易く、Snの融点より低い温度でAgナノ粒子どうしの焼結が進行し、Sn−Ag合金化より優先してAgナノ粒子が凝集してAgナノ粒子膜にクラックが発生するおそれがあるが、有機バインダー又は有機溶剤で分散させているため、Agナノ粒子膜の全体に均一に混合され、保護剤離脱後Snと速やかに合金化させられる。
なお、Agナノ粒子膜をSnめっき層表面に湿式成膜法で形成するので、Snめっき層表面の必要な領域にAgナノ粒子膜を形成することができる。
【0009】
本発明のSn合金めっき付き導電材の製造方法において、前記Snめっき層形成工程では、前記Snめっき層の表面光沢度を600以上とするとよい。
Snめっき層の表面光沢度が低いと、次のAgナノ粒子膜形成工程においてSnめっき層の表面に形成されるAgナノ粒子膜中のAgナノ粒子がSnめっき層の粒界に凝集するおそれがあるが、表面光沢度を入射角60°で600以上とすることにより、局部的な凝集を防止して、Agナノ粒子を均一に分散させることができる。
表面光沢度を600以上とする手段としては、Snめっき層を形成した後に熱処理して表面を平滑化する、Snめっき浴中に光沢剤を添加して光沢めっきとする、などの方法を採用することができる。
【0010】
本発明のSn合金めっき付き導電材の製造方法において、前記Sn−Ag合金層の表面にAgの変色防止剤又ははんだ濡れ性劣化防止剤を塗布するとよい。
Sn−Ag合金層は、AgSnが分散して連続した網目状に形成されており、最表面に位置するAgSnの硫化を変色防止剤によって防止し、あるいははんだ濡れ性劣化防止剤を塗布する。これにより、経時劣化に対する接触抵抗、およびはんだ接合性の劣化を抑制する。
【0011】
本発明のSn合金めっき付き導電材の製造方法において、前記Agナノ粒子の粒径は10nm〜100nmであり、前記Sn−Ag合金層の厚みが20nm〜200nmであるとよい。
Agナノ粒子は、電気めっき法により析出するAgの結晶構造に比べて極めて小さいので、従来のAgめっき層に比べて薄膜のAgナノ粒子膜を形成することができ、銀の消費量を低減してコストを低減することが可能である。
【0012】
そして、本発明のSn合金めっき付き導電材は、前記製造方法によって製造されたものである。
すなわち、Cu又はCu合金からなる基材の上に、Sn又はSn合金からなるSn層を介してSn−Ag合金層が形成され、前記Sn−Ag合金層は、厚みが20nm〜200nmであり、AgSnが連続した網目状に形成されていることを特徴とする。
分散させて塗布したAgナノ粒子の合金化により、Sn−Ag合金層にAgSnが連続した網目状に分散して形成され、合金組成が均一で優れた耐熱性を有する。
ここで、連続した網目状とは、分散していたAgナノ粒子が熱処理によってAgSnへと合金化し、ある程度凝集して成長することにより、一部で粒子形状を保ちつつ部分的に連続した状態であり、緻密な層ではなく、AgSnの膜厚によっては部分的に下層のSn層が見える部分があるため、網目状と称した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シアン系のめっき浴を使用しないので作業性が良いとともに、保護剤や有機バインダー等によってAgナノ粒子を分散させたAgナノ粒子膜とSnめっき層とをリフロー処理により合金化するので、得られたSn−Ag合金層中に均一にAgSnを分散させることができ、面方向にわたって合金組成の均一なSn−Ag合金層により、優れた耐熱性を有するSn合金めっき付き導電材を得ることができる。しかも、Sn−Ag合金層を薄膜に形成するので、低コストに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製造方法により製造されるSn合金めっき付き導電材の層構成を示した断面図である。
【図2】本発明の製造方法により製造した実施例の荷重変化−接触抵抗値曲線を示すグラフである。
【図3】比較例の荷重変化−接触抵抗値曲線を示すグラフである。
【図4】Sn−Ag合金層の表面のSEM写真であり、(a)が比較例、(b)が実施例のものを示す。
【図5】本発明の製造方法により製造した実施例の耐熱試験前後の表面のSEM写真であり、(a)が耐熱試験前、(b)が耐熱試験後を示す。
【図6】本発明の製造方法により製造した実施例のSn−Ag合金層を含む表層部分の断面のSIM写真である。
【図7】本発明の製造方法により製造した実施例のSn−Ag合金層の表面からのSEM写真である。
【図8】Sn−Ag合金層表面のウイスカー発生状態を示す表面のSEM写真であり、(a)(b)は比較例、(c)は本実施例のものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態のSn合金めっき付き導電材は、図1に層構成を示したように、Cu又はCu合金からなる基材1の表面に、Cu−Sn合金層2、Sn層3、Sn−Ag合金層4がこの順に形成された全体構成とされている。
基材1は、Cu又はCu合金から構成された例えば板状のものであり、導電材として一般的に用いられるものを適用できる。
Cu−Sn合金層2は、後述するように基材1の上にCuめっき、Sn又はSn合金めっきした後にリフロー処理することにより、CuとSnとが拡散して形成された合金層であり、CuSnとCuSnを含有し、表面が凹凸状に形成されている。
Sn層3は、Sn又はSn合金(例えばSn−Cu合金、Sn−Zn合金、Sn−Bi合金等)からなるSnめっき層がリフロー処理によって一部合金化することにより残った層である。
Sn−Ag合金層4は、Sn層3の表面にAgSnが分散して析出され網目状に形成されてなる薄膜である。
【0016】
このSn合金めっき付き導電材における各層の厚さについては、特に限定されるものではないが、例えば、Cu−Sn合金層3は0.5〜2.0μm、Sn層は0.5〜3.0μmとされるが、これらの界面は大きな凹凸状に形成される。また、Sn−Ag合金層4は20〜200nmとされる。
【0017】
次に、このような積層構造としたSn合金めっき付き導電材の製造方法について説明する。
<Cuめっき、Snめっき形成工程>
Cu又はCu合金基材の板材を用意し、これに脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にした後、Cuめっき、Snめっきをこの順序で施す。
Cuめっきは一般的なCuめっき浴を用いればよく、硫酸銅及び硫酸を主成分とした硫酸銅浴等が用いられる。めっき浴の温度は20〜50℃、電流密度は1〜10A/dmとされる。このCuめっきにより形成されるCuめっき層の膜厚は0.1〜0.5μmとされる。
【0018】
Snめっき層形成のためのめっき浴としては、メタンスルホン酸(CHS)とメタンスルホン酸錫(CSn)を主成分としたメタンスルホン酸浴、硫酸(HSO)と硫酸第一錫(SnSO)を主成分とした硫酸浴等が用いられる。メタンスルホン酸浴のめっき浴の温度は5〜60℃、電流密度は1〜30A/dmとされ、硫酸浴のめっき浴の温度は15〜30℃、電流密度は1〜5A/dmとされる。このSnめっき層の膜厚は1〜3μmとされる。
【0019】
これらCuめっき、Snめっきを施した後、リフロー処理してSnめっき層の表面の光沢度を高める。このリフロー処理条件としては、還元雰囲気中で450〜700℃、5〜30秒が好ましい。加熱後、水冷によって冷却される。リフロー処理後のSnめっき層の表面の光沢度は、JIS Z 8741に準拠した測定方法に基づき、入射角60°による光沢度が600以上とされる。
ここでのリフロー処理は、Snめっき層の表面の光沢度を上げて、平滑化するために行われ、得られた光沢度の高いSnめっき層表面に、後述するAgナノ粒子溶液を最少量で均一に塗布することができる。
Snめっき層の表面光沢度を600以上にする場合、Snめっき浴に光沢剤を添加して、光沢Snめっき層とすることとしてもよい。
また、必要に応じて、このSnめっき層の表面に形成される酸化膜の除去処理を行う。光沢Snめっき層の場合は、還元雰囲気での熱処理を要しないので、酸化膜除去のための処理を行った方が好ましい。酸化膜除去処理としては、メタンスルホン酸溶液等の酸化膜剥離用溶液に浸漬することにより行われる。
【0020】
<Agナノ粒子膜形成工程>
次に、Snめっき層の上に、Ag又はAg合金のナノ粒子溶液を塗布する。
このAgナノ粒子溶液の構成は、保護剤が化学修飾されたAg又はAg合金(例えばAg−Sn合金、Ag−Pd合金等)からなるAgナノ粒子とアルコールと水を含有し、さらに有機溶媒(アルコールを除く)と有機バインダーの片方もしくは両方を含んだ混合液である。
このAgナノ粒子溶液の詳細について以下に説明する。
【0021】
Agのナノ粒子の一次粒子の粒径は、10nm以上、100nm以下であり、その範囲内のAgナノ粒子を数平均で70%以上、好ましくは75%以上含有する。一次粒子10〜50nmの範囲内のAgナノ粒子の含有量を、数平均で全てのAgナノ粒子100%に対して70%以上の範囲としたのは、70%未満では粒径が10nm未満の粒子の割合が増大することによって、Agナノ粒子の比表面積が増大して保護剤の占める割合が多くなり、熱処理時の際に脱離あるいは分解(分離・燃焼)しやすい有機分子であっても、この有機分子の占める割合が多いため、有機残渣が多く残ってしまうためである。またAgナノ粒子溶液100%質量に対する最終的なAg含有率は1.0〜20質量%の範囲内とする。
また、Agナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3である有機分子主鎖の保護剤で化学修飾されている。更に保護剤、即ちAgナノ粒子表面に化学修飾している保護分子は、水酸基(−OH)またはカルボニル基(−C=O)のいずれか一方または双方を含有する。炭素数4以上の場合は、熱処理時の際に脱離あるいは分解(分離・燃焼)しやすい有機分子であっても、この有機分子の占める割合が多いため、有機残渣が多く残ってしまうためである。
【0022】
また、Agナノ粒子溶液に添加する有機バインダーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルピロリドンの共重合体(PVP−メタクリレート共重合体等)、ポリビニルアルコールおよびセルロースエーテル(メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)からなる郡より選ばれた1種または2種以上の有機高分子を含むものであり、有機高分子の含有率はAgナノ粒子の0.1〜10質量%の範囲内となるように調整する。
【0023】
また、Agナノ粒子溶液に添加する有機溶媒は、水と相溶する有機溶剤(アルコールを除く)であり、アセトン、酢酸メチル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸2−(1−メトキシ)プロピル、ジメチルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノ、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルおよび酢酸2−(2−エトキシエトキシ)エチルからなる群より選ばれた1種または2種以上からなる。
有機溶媒の含有率はAgナノ粒子溶液の5〜60質量%の範囲内のなるように調整する。
【0024】
また、Agナノ粒子溶液に添加するアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、イソボニルヘキサノール、グリセロールおよびエリトリトールからなる群より選ばれた1種または2種以上からある。また分散媒が水およびアルコールからなる場合は、水を2重量%含有するときはアルコール類を98重量%含有し、アルコール類が2重量%含有するときは水を98重量%含有する。
【0025】
このような構成とされるAgナノ粒子溶液において、Agナノ粒子は、その表面に保護剤が化学修飾された状態で、水、アルコール、有機バインダー又は有機溶剤もしくはその両者との混合液中に分散している。
そして、このAgナノ粒子溶液をダイコーター等によってSnめっき層の上に塗布し、Agナノ粒子膜を形成する。このAgナノ粒子膜の厚さは20〜200nmとされる。また、このAgナノ粒子膜の厚さはエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社の蛍光X線膜厚計(SFT9400)の検量線法を使って測定した値とする。
【0026】
<Sn−Ag合金層形成工程>
次いで、このAgナノ粒子膜を形成した導電材を加熱してリフロー処理する。このときのリフロー処理は、450〜700℃の温度で1〜30秒が好ましい。リフロー雰囲気は、昇温段階を含めて最初の段階は酸素含有雰囲気とすることにより、Agナノ粒子を覆っている保護剤を脱離させる。保護剤が脱離した後は、酸化膜の生成を防ぐために還元雰囲気に切り換えるのが好ましいが、酸素含有雰囲気のままとしてもよい。
【0027】
このリフロー処理により、Cuめっき層のCuとSnめっき層のSnとが合金化してCu−Sn合金層を形成するとともに、Snめっき層表面のAgナノ粒子膜のAgナノ粒子がSnめっき層中のSnと反応してAgSnとなり、図1に示すようにSn層3の表層部分にAgSnが分散したSn−Ag合金層4が形成される。
Cu−Sn合金層2は、CuSnとCuSnを有し、表面が凹凸状に形成される。
Sn−Ag合金層4は、厚みが20〜200nmとされる。このSn−Ag合金層4は、保護剤や有機バインダー等により合金化直前まで分散状態が維持されたAgナノ粒子がSnと合金化されているので、合金化によりある程度凝集して成長したAgSnがSn層3表層に一部で粒子形状を保ちつつ部分的に連続した状態で均一に分散しており、その構造は緻密な層ではなく連続した網目構造になっている。接触抵抗が安定しているとともに、被膜強度も高いものとなる。
なお、Sn−Ag合金層4は、Sn層3の表層部分に形成される薄膜であるので、Agの硫化を防止するため、表面に変色防止剤(例えばJX日鉱日石金属株式会社製CT−5fx)が塗布される。あるいは、Sn−Ag合金層4の表面に、はんだ濡れ性劣化防止剤(例えばJX日鉱日石金属株式会社製TG−4))が塗布される。これらの表面処理剤により、経時劣化および環境劣化しにくい良好なはんだ接合性を得ることができる。
また、Sn層3の表層にあるAgSnの他にも、Sn層3内部にもAgSnを形成させることもできる。その時のAgSnの粒径は20nm以上で、最大の大きさはSn層3によって決まり、Sn層3の5倍を超えない大きさとなる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の有効性を確認するために行った実験結果について説明する。
板厚0.3mmの無酸素Cuである基材の表面に、電気めっきによりCuめっき層を0.3μm、Snめっき層を1.1μm形成した後、中和浴に浸漬することによって中和処理を行った。めっき浴・中和浴条件は表1に示す通りである。
【0029】
【表1】

【0030】
その後に熱処理として300℃に設定したホットプレート上で5秒間加熱して、無光沢Snめっき層の表面の平滑化処理を行い、光沢度を約750となるようにした。
熱処理後、Snめっき層上に生成した酸化膜を、酸化膜剥離用溶液に浸漬することによって除去し、Snめっき面を最表面に露出させた。酸化膜剥離用溶液としては、10%メタンスルホン酸溶液を用いて、10秒間浸漬した。
その後、スピンコーターによってAgナノ粒子溶液を塗布し、50nmの厚さにAgナノ粒子膜を成膜した。用いたAgナノ粒子溶液については表2に示す通りである。
【0031】
【表2】

【0032】
成膜処理をした後、300℃に設定したホットプレート上で5秒間加熱するリフロー処理を行って、最表面にSn−Ag合金層を生成させた。
比較例として、Agナノ粒子を被覆させていないCuめっき層及びSnめっき層の2層めっき品について同様の加熱条件でリフロー処理したものも作製した。
これら作製した試料の耐熱性を評価するため、大気中で175℃、500時間加熱後の接触抵抗を測定した。測定方法はJIS−C−5402に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS−113−AU)により、摺動式(1mm)で0から50gまでの荷重変化−接触抵抗を測定した。結果を図2及び図3に示す。
【0033】
図2及び図3は、横軸の中央が50g(0.49N)荷重点であり、左から徐々に加重し、50g荷重点から徐々に荷重を除去したときの接触抵抗値の変化を示している。接触抵抗値測定試験は2回行った。図2が本実施例、図3が比較例のものを示しており、それぞれの図中の(1)、(2)は1回目、および2回目の測定結果を表している。
この図2及び図3に示す結果からわかるように、50g(0.49N)荷重点での接触抵抗の平均値が、実施例(図2)では3.27mΩで、比較例(図3)では14.48mΩであり、Sn−Ag合金層を有する本実施例のものは、比較例のものに比べて接触抵抗値が約1/5になっており、約5倍の耐熱性を有していると言える。
【0034】
次に、Agナノ粒子溶液を塗布する前のSnめっき層表面の光沢度がSn−Ag合金層にどのように影響するかについて確認した。
表1の条件で作製した無光沢Snめっき層について熱処理条件を変えることで、表面の光沢度が異なるもの、及びSnめっき浴に光沢剤を添加して得た光沢Snめっき層を作製し、これらの光沢度を測定した。
光沢度はHANDY GLOSS METER(日本電色(株)製)を使用して測定し、測定方法はJIS Z8741に準じて角度60°で測定した。
また、各光沢度のSnめっき層に、前述と同様にして、酸化膜剥離処理、Agナノ粒子膜の成膜、リフロー処理をすることにより、Sn−Ag合金層を形成して、その表面をSEMで観察した。
その結果は、表3に示す通りであった。
【0035】
【表3】

【0036】
この表3に示す通り、Snめっき層の表面光沢度が低いと、Agナノ粒子が粒界に凝集していることが確認された。
このうち、光沢度451と光沢度753のもののSEM観察写真を図4に示す。図4(a)が比較例(光沢度451)のもの、(b)が本実施例(光沢度753)のものである。これらの写真からわかるように、光沢度451のSn−Ag合金層の場合は、AgSn又はAgの粒子が部分的に凝集し、粒界に集中しているため、Snめっきの溶解を妨げているのに対して、光沢度753のSn−Ag合金層の場合は、AgSnが均一に分散している。
この観察結果から、Agナノ粒子の凝集を防止するためには、無光沢Snめっきの場合にはめっき処理後に光沢付与のための熱処理を加える、あるいは光沢Snめっき浴とするなどにより、Snめっき層の光沢度を600以上とすることが好ましいと推察される。
【0037】
また、Agナノ粒子の粒子径及び膜厚と耐熱性との関係を確認した。
試料は、Agナノ粒子溶液以外は、実施例に挙げた条件と同様にして作製し、耐熱試験として、大気中175℃で500時間放置後、JIS−C−5402に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS−113−AU)により、摺動式(1mm)で0から50gまでの荷重変化−接触抵抗を測定した。結果を表4に示す。
表4中、「外観」は耐熱試験を行う前に外観を目視した結果である。
【0038】
【表4】

【0039】
この表4に示される通り、Sn−Ag合金層の厚さが200nmを超えるとその膜にひび割れが生じた。またAgナノ粒子の直径が100nmを超えるとSn−Ag合金層の厚さを200nm以下に調整するのが困難であった。Sn−Ag合金層の厚さが20nm未満では、耐熱性効果を示さないと推察される。したがって、Sn−Ag合金層の厚さは20〜200nmとするのが好ましい。また、この表4に記述されているSn−Ag合金層厚さは、Sn層3の表層に網目状に形成されているSn−Ag合金層のことである。
また、図5は、本実施例の耐熱試験前後のSn−Ag合金層表面のSEM観察写真であり、(a)の耐熱試験前の状態と、(b)の耐熱試験後の状態とでほぼ変わらずAgSnが均一に分散しており、長期的に安定した耐熱性を有することがわかる。
また、図6は本実施例の表層部分の断面のSIM観察写真である。この図6に示す実施例では、Sn層の表層にAgSnが網目状に分散したSn−Ag合金層が薄く形成され、また、Sn層の内部にも比較的大きい粒径のAgSnが形成されている。図7はそのAgSnが網目状に分散して形成されるSn−Ag合金層を表面から見たSEM観察写真である。これら図6及び図7に示されるように、AgSn(図7で白く見える部分)が一部で元のAgナノ粒子の粒子形状を保ちつつ部分的に連続しており、緻密な層ではないため、部分的に下層のSn層(図7で黒く見える部分)が見えている。
【0040】
また、Agナノ粒子の粒子径及び膜厚とウイスカー生成防止効果との関係について確認した。
外部圧子法により、静止状態で先端がφ0.1mm圧子にて荷重300gの負荷をかけて、室温で120時間放置して加速試験を行った後、SEMによりSnウィスカーの発生状態を確認した。
比較例として、Agナノ粒子を塗布する以外は実施例に挙げた条件と同様のものを作製した。比較例の試料はAgナノ粒子が塗布されていないもの(No.1)と、Agナノ粒子のかわりにAgをめっきして、Sn−Ag合金層を設けたもの(No.2)である。Agめっき液は市販されている大和化成株式会社製のダインシルバーGPE−PLを用いた。
結果を表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
Sn−Ag層厚が20nm以上ではウィスカーの生成を防ぐことができた。また、そのときのSEM像を図8に示す。図8(a)が試料No.1、(b)が試料No.2、(c)が試料No.8の写真である。従来のSn−Ag合金めっきはSnめっき中にAgSnが存在することで、耐ウィスカー性を有しているが、本実施例にて作製したSn−Ag合金層では、図6に示すように、Sn層の内部だけではなく、Sn層の表面上にもAgSnが網目状に分散して存在している。そのため、試料No.2のSn−Ag合金めっきが持つ耐ウィスカー性にプラスして、網目状AgSnが外圧からの力を受け変形することで外部からの力を分散させてウィスカーの生成を防いでいると考えられ、めっき法から作製したSn−Ag合金めっきよりも優れた耐ウィスカー性を有していることが認められた。
【0043】
次に、Snめっき層として、Sn−Cu、Sn−Bi、Sn−ZnのSn合金からなるめっき層を形成した場合の実験結果について説明する。
板厚0.3mmの無酸素Cuである基材の表面に、電気めっきによりCuめっき層を0.3μm、Sn合金層を1.1μm形成した後、中和浴に浸漬することによって中和処理を行った。Cuめっき浴及び中和浴条件は前述の表1に示すものと同じである。Sn合金浴としては表6に示す3種類とした。
【0044】
【表6】

【0045】
その後、Sn合金表面の光沢度が750以下のものは、熱処理として300℃に設定したホットプレート上で5秒間加熱して、無光沢Sn合金めっき層の表面の平滑化処理を行うことにより、各Snめっき層の光沢度が約600となるようにした。
この熱処理したものについては、Sn合金めっき層上に生成した酸化膜を、酸化膜剥離用溶液に浸漬することによって除去し、Sn合金めっき面を最表面に露出させた。酸化膜剥離用溶液としては、10%メタンスルホン酸溶液を用いて、10秒間浸漬した。
その後、スピンコーターによってAgナノ粒子溶液を塗布し、50nmの厚さにAgナノ粒子膜を成膜した。用いたAgナノ粒子溶液については前述の表2に示すものと同じである。
成膜処理をした後、300℃に設定したホットプレート上で5秒間加熱するリフロー処理を行って、最表面にSn−Ag−Cu、Sn−Ag−Bi、Sn−Ag−Zn合金層を生成させた。
これら作製した試料の耐熱性を評価するため、大気中で175℃、500時間加熱後の接触抵抗を測定した。測定方法はJIS−C−5402に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS−113−AU)により、摺動式(1mm)で0から50gまでの荷重変化−接触抵抗を測定した。結果を表7に示す。
【0046】
【表7】

【0047】
この表7に示す結果から明らかなように、Snめっき層としてSn合金層を形成した場合でも、そのAg合金層を適切な厚さで形成することにより、良好な耐熱性を有していることがわかる。
【0048】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、基材にCuめっき、Snめっきを順に施したが、Cuめっきの前に拡散防止層としてNiめっき層を形成してもよく、高温環境下でCu基材からSn層へのCuの拡散により界面にカーケンダルボイドが発生して剥離が生じることを防止し、さらに耐熱性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 基材
2 Cu−Sn合金層
3 Sn層
4 Sn−Ag合金層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu又はCu合金からなる基材の上に、Sn又はSn合金からなるSnめっき層を形成するSnめっき層形成工程と、前記Snめっき層の上に、保護剤が化学修飾したAg又はAg合金からなるAgナノ粒子を含む水とアルコールと有機バインダー又は有機溶剤もしくはその両者との混合液を塗布することにより、前記Agナノ粒子を分散させたAgナノ粒子膜を形成するAgナノ粒子膜形成工程と、次いで、リフロー処理することにより、前記Snめっき層の表面に、該Snめっき層のSn又はSn合金と前記Agナノ粒子膜のAg又はAg合金とを合金化してなるAg−Sn合金層を形成するAg−Sn合金層形成工程とを有することを特徴とするSn合金めっき付き導電材の製造方法。
【請求項2】
前記Snめっき層形成工程では、前記Snめっき層の表面光沢度を600以上とすることを特徴とする請求項1記載のSn合金めっき付き導電材の製造方法。
【請求項3】
前記Sn−Ag合金層の表面にAgの変色防止剤又ははんだ濡れ性劣化防止剤を塗布することを特徴とする請求項1又は2記載のSn合金めっき付き導電材の製造方法。
【請求項4】
前記Agナノ粒子の粒径は10nm〜100nmであり、前記Sn−Ag合金層の厚みが20nm〜200nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のSn合金めっき付き導電材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたSn合金めっき付き導電材。
【請求項6】
Cu又はCu合金からなる基材の上に、Sn又はSn合金からなるSn層を介してSn−Ag合金層が形成され、前記Sn−Ag合金層は、厚みが20nm〜200nmであり、AgSnが連続した網目状に分散して形成されていることを特徴とするSn合金めっき付き導電材。
【請求項7】
さらに前記Sn層の内部にSn−Ag合金粒子が分散して形成されていることを特徴とする請求項6記載のSn合金めっき付き導電材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−256459(P2011−256459A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217097(P2010−217097)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】