説明

Swedish変異を有するAPP対立遺伝子を含有するトランスジェニック動物

【課題】新規なトランスジェニック動物モデルの提供。
【解決手段】ヒトAPP695中の595 位と596 位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれアスパラギンとロイシンであるSwedish 変異を含む非相同APP ポリペプチドをコードするトランスジーンを含んで成る二倍体ゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物において、前記トランスジーンが発現されてSwedish変異を有するヒトAPPポリペプチドが生産され、当該ポリペプチドが、トランスジェニック齧歯動物の脳ホモジネート中で、APPと反応することなくATP−βAPPと反応する抗体を用いることにより検出される量でATF−βAPPにプロセッシングされる、ことを特徴とするトランスジェニック齧歯動物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Swedish 変異(リジン595−メチオニン596がアスパラギン595−ロイシン596に変異される)を含むアミロイド前駆体タンパク質(APP)をコードするトランスジェンを含有するトランスジェニック非ヒト動物およびトランスジェニック非ヒト哺乳動物細胞を提供する。本発明はまた、Swedish 変異を含むAPPをコードするトランスジェンを含んで成り且つ機能的に破壊された内因性APP遺伝子座を更に含んで成る非ヒト動物および細胞、そのようなトランスジェニック細胞および動物を製造するのに使われるトランスジェンおよびターゲティング構成物、ヒトSwedish 変異APPポリペプチド配列をコードするトランスジェン、並びに、生体内でのAPP生化学と神経変性疾患(例えばアルツハイマー病)をモデル化するための商業的研究動物としておよび薬剤スクリーニングにおいてトランスジェニック動物を使用する方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、一般的に老人痴呆として知られる進行性疾患である。大まかに言えば、この病気は2つのカテゴリー、即ち後期発病と早期発病に分かれる。老齢(65才〜)で起こる後期発病は、自然な脳の萎縮が正常より速い速度でより過度に起こることによって引き起こされる。早期発病ADはずっとまれであるが、老齢期よりかなり前、即ち35〜60才の年齢で発生する、脳の萎縮を伴う病理学的に同一の痴呆を示す。
アルツハイマー病は、AD患者の脳、特に記憶と認識に関係する領域中にみられる多数のアミロイド斑と神経原繊維のもつれ(非常に不溶性のタンパク質凝集物)の存在により特徴付けられる。
【0003】
過去にはそのような斑やもつれがADの原因であるのかまたは単にADの結果であるのかについてかなりの科学的論争があったけれども、最近の発見はアミロイド斑が原因となる前駆体または因子であることを指摘している。特に、アミロイド斑の主成分であるβ−アミロイドペプチドの生産は、正常にプロセシングされるとβ−アミロイドペプチドを生成しないタンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質をコードする遺伝子の中の突然変異から生じ得ることが発見された。現在、β−アミロイド前駆体タンパク質の正常な(非病原性の)プロセシングは、該タンパク質のアミノ酸16と17の間を開裂させる推定上の「α−セクレターゼ」による開裂によって起こると考えられている。更に、前駆体タンパク質中のβ−アミロイドペプチドのアミノ末端のところで推定上の「β−セクレターゼ」による病原性プロセシングが起こると考えられている。更に、β−アミロイドペプチドは大脳ニューロンに対して毒性のようであり、神経細胞の致死がこの病気に関係があるとされている。
【0004】
β−アミロイドペプチド〔A4,βAP,AβまたはAβPとも呼称される;米国特許第4,666,829 号並びにGlenner およびWong (1984) Biochem. Biophys. Res. Commn. 120: 1131 を参照のこと〕はβ−アミロイド前駆体タンパク質(βAPP)から誘導され、βAPPは695, 751および770 アミノ酸という異なってスプライシングされた形で発現される。Kang他 (1987) Nature 325: 773 ; Ponte他 (1988) Nature 331: 525 ; およびKitaguchi 他 (1988)Nature 331: 530を参照のこと。アミロイド前駆体タンパク質の正常プロセシングは、膜貫通領域の近くの残基Lys16とLeu17〔Kang他 (1987) 前掲、においてAsp597を残基1としたνAP領域に対して番号づけしたもの〕の間の部位でのタンパク質分解的開裂を含み、β−アミロイドペプチド配列の残りの部分を保持した細胞外領域の構成的分泌をもたらす〔Esch他 (1990) Science 248:1122-1124 〕。
【0005】
この経路は種間で広く保存されておりそして多くの細胞種に存在すると思われる。Weidemann 他 (1989) Cell 57:115-126 およびOltersdorf他 (1990) J. Biol. Chem. 265:4492-4497を参照のこと。この正常経路はβ−アミロイドペプチドに相当する前駆体タンパク質の領域内を開裂し、どうもこのようにそれの形成を妨げるらしい。Eschら(前掲)により記載された形態のカルボキシ末端にもっとβAP配列を含む、構成的に分泌される別のβAPP形態が報告されている(Robakis 他、Soc. Neurosci. 1993 年10月26日, AbstractNo. 15.4, Anaheim, CA.)。
【0006】
Golde 他 (1992) Science 255:728-730 は、アミロイド前駆体タンパク質の一連の欠失変異体を調製し、そしてβ−アミロイドペプチド領域中の単一の開裂部位を観察した。この観察に基づいて、β−アミロイドペプチド形成が分泌経路を含まないと仮定された。Estus 他 (1992) Science 255:726-728 は、脳細胞に見られるアミロイド前駆体タンパク質の2つの最大カルボキシ末端タンパク質分解断片が完全なβ−アミロイドペプチド領域を含むことを教示している。
【0007】
最近の報告は、可溶性β−アミロイドペプチドが健全な細胞により培地中に〔Haass 他 (1992) Nature 359: 322-325〕並びにヒトおよび動物のCSF中で〔Seubert 他 (1992) Nature 359: 325-327〕生産されることを示している。Palmert 他 (1989) Biochem.Biophys. Res. Comm. 165: 182-188は、βAPPについての3つの可能な開裂機構を記載しており、そしてβAPPの可溶性誘導体の生産においてメチオニン596のところでβAPP開裂が起こらないという証拠を提示している。米国特許第5,200,339 号は、推定上βAPPアミノ末端の近くの部位でβAPPを開裂させることができる或る種のタンパク質分解因子の存在を論じている。
【0008】
APP遺伝子はヒト染色体21上に位置することが知られている。家族性アルツハイマー病と共に分離する遺伝子座が、APP遺伝子に近い染色体21にマッピングされている〔St. George Hyslop 他(1987)Science 235: 885〕。APP遺伝子とAD遺伝子座の間の組換えは以前に報告されている〔Schellenberg他 (1988) Science 241: 1507 ; Schellenberg他 (1991) Am. J. Hum. Genetics 48:563 ; Schellenberg他 (1991) Am. J. Hum. Genetics 49: 511 ;これらは参考として本明細書中に組み込まれる〕。
【0009】
家族性早発性アルツハイマー病を引き起こすアミロイド前駆体タンパク質遺伝子中の変異の同定は、アミロイド代謝がこの病気の基礎をなす病原性過程の中心的現象であるという証拠である。報告された4つの発病性変異は、770 イソ型に関してはバリン717をイソロイシンに〔Goate 他 (1991) Nature 349: 704〕、バリン717をグリシンに〔Chartier Harlan 他 (1991) Nature 353: 844〕、バリン717をフェニルアラニンに〔Murrell 他 (1991) Science 254:97〕変える変異、そして695 イソ型に関してはSwedish 変異と呼ばれるリジン595−メチオニン596をアスパラギン595−ロイシン596に変える二重変異〔Mullan他 (1992) Nature Genet 1: 345 ;Citron他 (1992) Nature 360: 672〕を含む。明確にADと関連づけられるAPP対立遺伝子は「病気関連対立遺伝子」と呼ばれる。
【0010】
AD病原論に含まれる根本的な生化学現象を更に明確にするために用いることができるアルツハイマー病の実験モデルの開発は非常に望ましいだろう。そのようなモデルは、1つの応用として、おそらくアルツハイマー病の変性過程を変える剤のスクリーニングに使用できる。例えば、アルツハイマー病のモデル系を使って、AD病原論を誘導または促進する環境因子についてスクリーニングすることができる。反対に、実験モデルを使って、ADの進行を抑制、予防または逆転させる剤についてスクリーニングすることができる。おそらく、そのようなモデルは、ADを予防、緩和または逆転させるのに有効である薬を開発するのに使用できるだろう。
【0011】
不運にも、ヒトと加齢した非ヒト霊長類だけに何らかのADの病的特徴が現れる。霊長類を使う費用と難しさ並びにAD病理学を発展させるのに要する時間の長さのため、そのような動物に関する広範囲にわたる研究は不可能になる。齧歯類は高齢でもADを発生しない。齧歯類の脳へのβ−アミロイドタンパク質(βAP)または細胞毒性βAP断片の注入は細胞の減少を引き起こし、そして神経原繊維もつれ成分のための抗原マーカーを誘導することが報告されている〔Kowall他 (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 88:7247〕。
【0012】
染色体16の部分的トリソミーの結果としてAPP遺伝子の余分なコピーを有するマウスは出産前に死ぬ〔Coyle 他 (1988)Trends in Neurosci. 11:390〕。APP遺伝子のクローニング以来、APP遺伝子の全部または一部を含むトランスジェンを使ってマウスADモデルを作製する幾つかの試みがなされているが、あいにくマウスが生存不可能であったかまたはAD様病理学を示すことができなかったためにその実験の大部分は未発表のままである。少なくとも2つの発表された報告は、報告結果の不備のために取り消された〔Marx J, Science 255: 1200 ; Wirak 他 (1991) Nature354: 476 ; Kawabata 他 Nature 356: 23 ; Quon他 (1991)Nature 352: 239 ; Marx, Science 259: 457〕。
【0013】
従って、ヒト病気関連対立遺伝子、例えばSwedish 変異を含んで成るヒトAPPタンパク質をコードするポリヌクレオチド、またはSwedish 変異APP遺伝子の完全ゲノムコピー(またはミニ遺伝子)のいずれかの無傷の病気関連APP遺伝子を含有するトランスジェニック非ヒト動物の必要性が当業界に存在する。
【0014】
あるいは、Swedish 変異を含むヒトAPP配列に相当する配列変更を含む変異型齧歯類(例えばネズミ)対立遺伝子を置換することができる。そのようなトランスジェニック動物から誘導した細胞株と細胞系(例えば星状細胞)は、AD治療薬を開発するための実験モデルとしておよびSwedish 変異を含むAPPタンパク質の便利な源として当業界で広範な用途を見出すであろう。更に、Swedish 変異APPタンパク質をコードし且つ機能的な内因性APP遺伝子座を欠くトランスジェンを含んで成る(即ち、APP「ノックアウト」背景を有する)トランスジェニック非ヒト動物は、Swedish 変異を含まない別のAPPタンパク質を欠く背景におけるSwedish 変異APPタンパク質の便利な入手源であろう。
【0015】
上記に基づき、Swedish 変異を含んで成るAPP遺伝子をコードする1または複数のトランスジェンを含有する非ヒト細胞および非ヒト動物の必要性が存在することは明らかである。よって、本発明の目的は、哺乳類細胞、特に胎児性幹細胞中にトランスジェンおよび相同組換え構成物を移入する方法とそのための組成物を提供することである。本発明の1または複数のSwedish 変異APPトランスジェンを含有するトランスジェニック非ヒト細胞およびトランスジェニック非ヒト動物を提供することも本発明の目的である。本発明に更に着目されるのは、病原性β−アミロイド斑の生成を抑制または防止する能力について候補となる薬剤をスクリーニングするための生体内系としてのそのようなトランスジェニック動物の応用である。
【0016】
アミロイド前駆体タンパク質から病原性β−アミロイドペプチドへの変換を抑制または防止する能力について試験化合物をスクリーニングするための方法および系を提供することは望ましいだろう。特に、そのような変換に関与することがわかっている代謝経路にそのような方法および系の基礎を置くことが望ましいだろう。この場合、試験化合物は変換をもたらす代謝経路を中断するかまたは妨害することができるだろう。そのような方法およびトランスジェニック動物は、多数の試験化合物の迅速で、経済的で且つ適当なスクリーニングを提供する。
【0017】
本明細書中に言及される参考文献は、単に本出願の出願日より前のそれらの開示に与えられる。本発明者らが先行発明によってそのような開示よりも日付が前であるという権利が与えられないことを認めるものとしてそれを解釈してはならない。
【発明の開示】
【0018】
上記目的によれば、本発明の一観点では、トランスジェニック非ヒト動物において非相同APPポリペプチドの発現を誘導することができる転写調節配列に作用可能に連結された、Swedish 変異(アスパラギン595−ロイシン596)を含む非相同APPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含んで成るトランスジェンの少なくとも1コピーを含有する非ヒト動物が提供される。前記Swedish変異を含む非相同APPポリペプチドは一般に、天然に存在する内因性APP遺伝子(もしあれば)を正常に発現する細胞中で発現される。典型的には、非ヒト動物がマウスであり、そして非相同APP遺伝子がヒトSwedish 変異APP遺伝子である。そのようなトランスジェンは、典型的には連結されたプロモーターと好ましくはエンハンサーがSwedish 変異を含む非相同APPポリペプチドをコードする構造配列の発現を指令する、Swedish 変異APP発現カセットを含んで成る。
【0019】
本発明はまた、Swedish 変異APPをコードする遺伝子を含んで成るトランスジェンであって、前記遺伝子が宿主トランスジェニック動物中で機能的な転写調節配列(例えば神経特異的プロモーター)に作用可能に連結されているトランスジェンも提供する。そのようなトランスジェンは、典型的には非相同的組み込みによって宿主染色体部位に組み込まれる。トランスジェンは、構成的プロモーター、例えばエンハンサー(例えばSV40エンハンサー)に連結されたホスホグリセレートキナーゼ(pgk)プロモーターまたはHSV tk遺伝子プロモーターに作用可能に連結された選択可能マーカー、例えばneoまたはgpt遺伝子を更に含んでもよい。
【0020】
本発明は更に、Swedish 変異APPポリペプチドをコードするように内因性染色体部位中に相同的にまたは非相同的に組み込まれた、本発明のトランスジェンまたはターゲティング構成物の少なくとも1コピーを含有する非ヒトトランスジェニック動物、典型的には非ヒト哺乳動物、例えばマウスを提供する。そのようなトランスジェニック動物は通常、典型的にはマイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポフェクションまたはバイオリスティクスによって、前記トランスジェンまたはターゲティング構成物を受精卵または胎児性幹(ES)細胞中に導入することにより製造される。トランスジェニック動物は、典型的には脳組織中で、該トランスジェン(または相同組換えされたターゲティング構成物)のSwedish変異APP遺伝子を発現する。そのような動物は、様々な病気モデル用および薬剤スクリーニング用並びに他の用途に適当である。
【0021】
本発明は、典型的には完全な遺伝子産物の効率的な機能発現に必要とされる遺伝要素(例えばエキソン配列、スプライシングシグナル、プロモーター、エンハンサー)を削除するかまたは変異せしめることにより、内因性APP遺伝子座を機能的に破壊する少なくとも1つの組み込み型ターゲティング構成物を含有する非ヒト動物および細胞も提供する。
本発明はまた、少なくとも1つの不活性化された内因性APP対立遺伝子を有し、そして好ましくは不活性化されたAPP対立遺伝子に対して同型接合であり、且つ内因性(即ち野性型)APPの効率的発現を指令することが実質的にできない、トランスジェニック非ヒト動物、例えば非霊長類哺乳動物も提供する。
【0022】
例えば、好ましい態様では、トランスジェニックマウスは、不活性化された内因性APP対立遺伝子に対して同型接合であり且つ内因性(即ち天然に存在する)APP遺伝子によりコードされるマウスAPPを実質的に生産することができない。不活性化された内因性APP遺伝子を有するそのようなトランスジェニックマウスは、非相同APPポリペプチド、好ましくはヒトSwedish 変異APPポリペプチドをコードするトランスジェンのための好ましい宿主受容体である。例えば、そのようなトランスジェニックマウス中の非相同トランスジェンからSwedish 変異を含むヒトAPPがコードされそして発現されてもよい。そのような非相同トランスジェンは、非ヒト動物の染色体の非相同部位に組み込むことができ、または相同組換えもしくは遺伝子変換によって非ヒトAPP遺伝子座に組み込み、それによって内因性APP遺伝子(またはそのセグメント)の同時破壊とヒトAPP遺伝子(またはそのセグメント)との置換を成し遂げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
定義
異なって定義されない限り、本明細書中で使われる全ての技術用語と科学用語は、本発明が属する当業界の普通の技術者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるのと類似しているがまたは同等であるいずれの方法および材料も本発明の実施または試験に使うことができるが、好ましい方法および材料が記載される。本発明の目的上、次の用語を下記に定義する。
【0024】
用語「〜に相当する」は、あるポリヌクレオチド配列が参照ポリヌクレオチド配列の全部もしくは一部分に相同である(即ち、同一であり、厳密には進化論上は関連しない)こと、またはあるポリペプチド配列が参照ポリペプチド配列と同一であることを意味するのに使われる。反対に、用語「〜に相補的である」は、相補的配列が参照ポリヌクレオチド配列の全部または一部分に相同であることを意味するのに使われる。例示として、ヌクレオチド配列「TATAC」は参照配列「TATAC」に相当しそして参照配列「GTATA」に相補的である。
【0025】
本明細書中で使われる用語「実質的に相当する」、「実質的に相同である」または「実質的な一致」は、ある核酸配列が参照配列に比較した時に少なくとも70%の配列一致、典型的には少なくとも85%の配列一致、そして好ましくは参照配列に比較した時に少なくとも95%の配列一致を有するという核酸配列の特徴を表す。配列一致の比率は、合計すると参照配列の25%未満である小さな欠失または付加を除いて計算される。参照配列は大きな配列の部分集合、例えば遺伝子もしくは隣接配列の一部分、または染色体の反復部分であってもよい。しかしながら、参照配列は長さが少なくとも18ヌクレオチド、典型的には長さが少なくとも30ヌクレオチド、好ましくは長さが少なくとも50〜100 ヌクレオチドである。本明細書中で使用する時、「実質的に相補的である」とは、参照配列に実質的に相当する配列に相補的である配列について言う。
【0026】
本明細書中では、特異的ハイブリダイゼーションは、ターゲティング用トランスジェン配列(例えば、置換、欠失および/または付加を含み得る本発明のポリペプチド)と特定の標的DNA配列(例えばヒトAPP遺伝子配列)との間でのハイブリッドの形成として定義され、ここで例えば、プロープとして標識されたターゲティング用トランスジェン配列を使って細胞から調製されたDNAのサザンブロット上に或る遺伝子の制限断片に相当する単一バンドを同定できるように、標識されたターゲティング用トランスジェン配列が標的にハイブリダイズする。
【0027】
最適ハイブリダイゼーション条件は、ターゲティング用トランスジェンの配列組成および長さ、並びに実施者により選択される実験方法に依存して異なるだろう。適当なハイブリダイゼーション条件を選択するのに様々なガイドラインを使うことができる〔Maniatis他、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1989),第2版,Cold Spring Harbor, N.Y. 並びにBergerおよびKimmel, Methods in Enzymology, Volume 152, Guide to Molecular Cloning Techniques (1987), Academic Press, Inc.,San Diego, CA.を参照のこと;これらは参考として本明細書中に組み込まれる〕。
【0028】
本明細書中で使用する「天然に存在する」という用語は、対象物に用いた時、その対象物が天然に見つけることができることを言う。例えば、天然源から単離することができ且つ人間によって実験室で故意に変更されていない、生物体(ウイルスを含む)中に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、「天然に存在する」ものである。
本明細書中で使用する「同族(cognate)」という用語は、種間で進化論的におよび機能的に関連している遺伝子配列を指して言う。非限定的な例として、ヒトゲノムでは、ヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子座はマウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座と同族の遺伝子である。何故なら、それら2つの遺伝子の配列と構造は、両者が高度に相同性であり且つ両遺伝子とも特異的に抗原を結合する働きをするタンパク質をコードするからである。
【0029】
本明細書中で使用する時、「異種」という用語は受容体哺乳類宿主細胞または非ヒト動物に関して定義され、そしてアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列が受容体哺乳類宿主細胞または非ヒト動物の天然ゲノムによってコードされないかまたは天然ゲノム中に存在しないことをそれぞれ意味する。異種DNA配列は外来DNA配列である;例えば、ヒトAPP遺伝子はマウスES細胞に関して異種である。更に、例示として、ヒト嚢胞性繊維症に関連するCFTR対立遺伝子は、野性型(正常)CFTR対立遺伝子に対して同型接合であるヒト細胞系に関して異種である。よって、変異されている(例えば部位特異的変異誘発によって)クローン化マウス核酸配列は、変異配列がマウスゲノム中に天然に存在しないならば、該配列が最初に誘導されたマウスゲノムに関して異種である。
【0030】
本明細書中で使用する時、「非相同遺伝子」または「非相同ポリヌクレオチド配列」は、そのような遺伝子産物を産生するトランスジェニック非ヒト生物に関して定義される。異種ポリペプチドとも呼称される非相同ポリペプチドは、トランスジェニック非ヒト動物から成らない生物体中に見つかる同族遺伝子のものに相当するDNAコード配列またはアミノ酸配列を有するポリペプチドとして定義される。よって、ヒトAPP遺伝子を含有するトランスジェニックマウスは、非相同APP遺伝子を含有すると記載することができる。非相同タンパク質配列をコードする様々な遺伝子セグメントを含有するトランスジェンは、例えばハイブリダイゼーションやDNA配列決定により、トランスジェニック動物以外の生物種からのものであると容易に同定することができる。
【0031】
例えば、本発明のトランスジェニック非ヒト動物におけるヒトAPPアミノ酸配列の発現は、ヒトAP遺伝子セグメントによりコードされるヒトAPPエピトープに特異的な抗体を使って検出することができる。同族非相同遺伝子とは別の種からの対応する遺伝子のことを言う。従って、マウスAPPが参照遺伝子であるならば、ヒトAPPは同族非相同遺伝子である(別の種からのAP遺伝子と一緒に、ブタ、ウシ、またはラットAPPもそうである)。変異された内因性遺伝子配列は非相同遺伝子と呼ぶことができる。例えば、Swedish 変異(天然に存在するマウスゲノム中では知られていない変異)を含むマウスAPPをコードするトランスジェンは、マウスや非マウス種に関して非相同の(異種の)トランスジェンである。
【0032】
本明細書中で使用する時、用語「ターゲティング構成物」は、(2)宿主細胞の内因性遺伝子座に存在する配列に実質的に同一であるかまたは実質的に相補的である配列を有する少なくとも1つの相同性領域、および(2)ターゲティング構成物相同性領域と前記内因性遺伝子座配列との間の相同組換えによって宿主細胞の内因性遺伝子座中に組み込まれるようになるターゲティング領域、を含んで成るポリペプチドのことを言う。ターゲティング構成物が「ヒット・アンド・ラン」または「イン・アンド・アウト」型の構成物〔ValanciusおよびSmithies (1991) Mol. Cell Biol. 11: 1402 ; Donehower他(1992)Nature 356: 215 ; (1991) J. NIH Res. 3: 59 ; Hasty他 (1991) Nature 350: 243;これらは参考として本明細書中に組み込まれる〕であるならば、ターゲティング領域は一時的にのみ内因性遺伝子座に取り込まれ、選別により宿主ゲノムから排除される。
【0033】
ターゲティング領域は内因性遺伝子配列に実質的に相同であり、そして/または非相同配列、例えば選択可能マーカー(例えばneo,tk, gpt)を含んで成ってもよい。「ターゲティング構成物」という用語は、必ずしも該ポリヌクレオチドが宿主ゲノム中に組み込まれるようになる遺伝子を含んで成ることを示すとは限らず、また必ずしも該ポリヌクレオチドが完全な構造遺伝子配列を含んで成ることを示すわけではない。本明細書中で使用する用語「ターゲティング構成物」は本明細書中で使用する用語「ターゲティングトランスジェン」と同意義である。
【0034】
本明細書中で使用する「相同性領域」および「相同性クランプ」という用語は、予め決られた内因性遺伝子配列(前記遺伝子に隣接する配列を含むことができる)に実質的に相当するかまたは実質的に相補的である配列を有するターゲティング構成物のセグメント(即ち部分)を指して言う。相同性領域は通常、長さが少なくとも約100 ヌクレオチド、好ましくは長さが少なくとも約250 〜500 ヌクレオチド、典型的には長さが少なくとも約1000ヌクレオチドまたはそれ以上である。相同組換えを媒介する相同性クランプの理論上の最小長さは証明されていないが、相同組換え効率は一般に相同性クランプの長さと共に増加する。
【0035】
同様に、組換え効率はターゲティング構成物の相同性領域と内因性標的配列との間の配列相同性の程度と共に増加し、最適な組換え効率は相同性クランプが内因性標的配列と同遺伝子系(isogenic)である時に起こる。「相同性クランプ」と「相同性領域」は本明細書中で使用する時は相互交換可能であり、当業界における矛盾した類似用語の用法を考慮して、明確化のために代わりの用語法が与えられる。相同性クランプは必ずしも内因性配列との塩基対ハイブリッド構造の形成を暗示するとは限らない。トランスジェン相同性領域に実質的に相当するかまたは実質的に相補的である内因性遺伝子配列は、本明細書中では「交差標的配列」または「内因性標的配列」と呼ばれる。
【0036】
本明細書中で使用する時、用語「ミニ遺伝子」は、天然に存在する遺伝子に関して或る遺伝子の1または複数の非必須セグメントが削除されている非相同遺伝子構成物のことを言う。典型的には削除されるセグメントは少なくとも約100 塩基対から数キロ塩基対のイントロン配列であり、そして数十キロ塩基以上までに及ぶことも可能である。大型の(即ち約50キロ塩基以上の)ターゲティング構成物の単離と操作はしばしば困難であり、ターゲティング構成物を宿主細胞中に移入する効率を減少させることがある。よって、該遺伝子の1または複数の非必須部分を削除することにより、ターゲティング構成物のサイズを小さくすることがしばしば望ましい。
【0037】
典型的には、必須の調節要素を含まないイントロン配列が削除され得る。しばしば、便利な制限部位がクローン化遺伝子配列の非必須イントロン配列の境界となっている場合、(1)クローン化DNAを適当な制限酵素で消化し、(2)制限断片を分離し(例えば電気泳動により)、(3)必須のエキソンと調節要素を包含する制限断片を単離し、そして(4)単離された制限断片を連結せしめ、天然に存在する遺伝子の生殖細胞系列(ジャームライン)コピー中に存在するものと同じ線形順序でエキソンが存在するミニ遺伝子を作製することにより、イントロン配列の削除を行うことができる。
【0038】
ミニ遺伝子を製造する別法は当業者に明白であろう(例えば、必須エキソンを含むがイントロン配列の部分を欠く部分的ゲノムクローンの連結)。最も典型的には、ミニ遺伝子を含んで成る遺伝子セグメントは、生殖細胞系列(ジャームライン)遺伝子中に存在するのと同じ線形順序に配列されるだろうが、これはいつもそうとは限らないだろう。ある種の所望の調節要素(例えばエンハンサー、サイレンサー)は比較的位置に鈍感であるので、該調節要素は対応する生殖細胞系列遺伝子中とは異なるようにミニ遺伝子中に配置されたとしても正しく機能するだろう。例えば、エンハンサーはプロモーターから異なる距離で、異なる方向で、および/または異なる線形順序で配置することができる。
【0039】
例えば、生殖細胞系列配置ではプロモーターの3′側に置かれるエンハンサーを、ミニ遺伝子中でプロモーターの5′側に置いてもよい。同様に、ある遺伝子はRNAレベルで異なってスプライシングされるエキソンを有してもよく、従ってミニ遺伝子はより少数のエキソンを有してもよくそして/または対応する生殖細胞系列遺伝子とは異なる線形順序のエキソンを有してもよく、そしてまだ機能的な遺伝子産物をコードしてもよい。遺伝子産物をコードするcDNAを使ってミニ遺伝子を作製することもできる。
【0040】
しかしながら、非相同ミニ遺伝子を天然に存在する同族の非ヒト遺伝子と同様に発現させることがしばしば望ましいので、cDNAミニ遺伝子の転写は、典型的には天然に存在する遺伝子からの連結された遺伝子プロモーターとエンハンサーによって指令される。そのようなミニ遺伝子は、しばしば、ミニ遺伝子APPコード配列のニューロン特異的またはCNS特異的転写を付与する転写調節配列(例えばプロモーターおよび/またはエンハンサー)を含んで成ることができる。
【0041】
本明細書中で使用する時、「転写単位」または「転写複合体」なる用語は、構造遺伝子(エキソン)、シス作用性連結プロモーターおよび前記構造配列の効率的転写に必要な他のシス作用性配列、前記構造配列の適当な組織特異的および発育的転写に必要な遠位の調節要素、並びに効率的転写および翻訳に重要な追加のシス配列(例えばポリアデニル化部位、mRNA安定性調節配列)を含んで成るポリヌクレオチド配列を指して言う。
本明細書中で使用する時、「連結された」とは、ポリヌクレオチド結合(即ち、ホスホジエステル結合)になっていることを意味する。「未連結の」とは、他のポリヌクレオチド配列に連結されていないことを意味する。よって、各々の配列が遊離の5′末端と遊離の3′末端を有するならば、2つの配列は未連結である。
【0042】
本明細書中で使用する時、「作用可能に連結された」という用語は、機能的な関係でのポリヌクレオチド要素の連結を指して言う。ある核酸が別の核酸と機能的な関係に置かれる時、その核酸は「作用可能に連結」される。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列に影響を及ぼすならば該コード配列に作用可能に連結されている。作用可能に連結されるとは、連結されるDNA配列が典型的には連続しており、そして2つのタンパク質コード領域を接合するのに必要な場合、連続しており且つ読み枠内である。
【0043】
本明細書中で使用する時、「正確にターゲティングされた構成物」という用語は、内因性交差標的配列の内部またはそれの近くに組み込まれているターゲティング構成物の一部分、例えば内因性APP遺伝子座の一部分のことを言う。非限定的な例として、neo をコードしており且つ第一エキソンに隣接する内因性APP遺伝子配列と実質的な配列一致を有する相同性領域によって隣接されているターゲティングトランスジェンの部分は、前記トランスジェン部分が例えば内因性APP遺伝子の第一エキソンを置換するように染色体部位に組み込まれる時、正確にターゲティングされる。
【0044】
対比してまた例として、ターゲティングトランスジェンまたはその一部分が非相同領域および/またはAPP遺伝子配列の約50 kb 以内にない領域中に組み込まれる場合、結果として生じる生成物は不正確にターゲティングされたトランスジェンである。正確にターゲティングされたトランスジェンと不正確にターゲティングされたトランスジェンの両方を有する細胞を作製することが可能である。正確にターゲティングされたトランスジェンおよび/または不正確にターゲティングされたトランスジェンを有する細胞および動物は、ゲノムDNAのPCRおよび/またはサザンブロット分析により同定および分析することができる。
【0045】
本明細書中で使用する時、用語「ターゲティング領域」は、相同性クランプと内因性APP遺伝子配列との間での相同組換え後に内因性染色体部位に組み込まれるようになるターゲティング構成物の部分を指して言う。典型的には、相同性クランプの各々とそれらの対応する内因性APP遺伝子配列との間の二重交差組換えがターゲティング領域による内因性APP遺伝子座の該部分の置換を生じるように、ターゲティング領域の各側は相同性クランプにより隣接されている。そのような二重交差遺伝子置換ターゲティング構成物では、ターゲティング領域を「置換領域」と呼ぶことができる。しかしながら、ある種のターゲティング構成物は単一の相同性クランプだけを使用することがある〔例えば、「ヒット・アンド・ラン」型のベクター、Bradley 他 (1992) Bio/Technology 10: 534 を参照のこと;これは本明細書中に参考として組み込まれる〕。
【0046】
本明細書中で使用する時、用語「置換領域」は、相同性領域により隣接されたターゲティング領域の部分を指して言う。隣接する相同性領域とそれらの対応する内因性APP遺伝子交差標的配列との間で二重交差相同組換えが起こると、置換領域は宿主細胞染色体中の内因性交差標的配列の間に組み込まれる。置換領域は相同(例えば内因性APP遺伝子配列に類似しているが点変異またはミスセンス変異を含む配列を有する)、非相同(例えば neo遺伝子発現カセット)、または相同領域と非相同領域の組合せであることができる。置換領域は内因性APP対立遺伝子をSwedish 変異を含むAPP対立遺伝子に変換することができる。例えば、置換領域は長さ695 アミノ酸のAPPイソ型タンパク質(またはそれの非ヒト同等物)の残基595と596をコードするAPP遺伝子の部分に及ぶことができ、そして置換領域は595と596位〔Kangら(1987)前掲の番号付け法に従って〕にアスパラギン595−ロイシン596をコードする配列を含んで成ることができる。
【0047】
本明細書中で使用する「機能的破壊」または「機能的に破壊された」という用語は、機能的に破壊された遺伝子が機能的遺伝子産物の効率的発現を指令することができないような具合に、ある遺伝子座が少なくとも1つの変異または構造的変化を含んで成ることを意味する。限定的でない例として、APPのエキソン(例えば第三エキソン)中にneo 遺伝子カセットが組み込まれている内因性APP遺伝子は、不活性化されたエキソンを含む機能的タンパク質(イソ型タンパク質)をコードすることができず、従って機能的に破壊されたAPP遺伝子座である。同じく例として、内因性APP遺伝子のエキソン中の標的変異は、先端が切り取られたAPPイソ型タンパク質を発現し得る変異型内因性遺伝子を生成することができる。
【0048】
機能的破壊は、内因性APP遺伝子座の代わりの非相同APP遺伝子座の完全な置換を含むことができ、そのため、例えば、完全なマウスAPP遺伝子座をヒトAPP Swedish変異対立遺伝子により置換するターゲティングトランスジェン(これはマウス中で機能的である)は、内因性マウスAPP遺伝子座を置換することによってそれを機能的に破壊したと言わる。好ましくは、APPイソ型タンパク質の大部分または全部をコードするmRNA中に含まれる少なくとも1つのエキソンが機能的に破壊される。必須の転写調節要素、ポリアデニル化シグナル、スプライシング部位の削除または中断も、機能的に破壊された遺伝子を生成するだろう。内因性APP遺伝子の機能的破壊は、別の方法(例えばアンチセンスポリヌクレオチド遺伝子抑制)により行ってもよい。
【0049】
用語「構造的に破壊された」とは、少なくとも1つの構造(即ちエキソン)配列が相同遺伝子ターゲティング(例えば、挿入、欠失、点変異、および/または再配列)により変更されているターゲティングされた遺伝子のことを言う。典型的には、構造的に破壊されるAPP対立遺伝子は結果として機能的に破壊されるが、しかしながら、APP対立遺伝子は、例えばプロモーターの切除などの非エキソン配列の標的変更により、付随して構造的に破壊せずに機能的に破壊することもできる。対立遺伝子からの機能的遺伝子産物の効率的発現を妨害する標的変更を含んで成る対立遺伝子は、当業界では「ヌル(無効)対立遺伝子」または「ノックアウト(破壊)対立遺伝子」と呼ばれる。
【0050】
用語「剤」は、化学化合物、化学化合物の混合物、生物学的巨大分子、または細菌、植物、真菌もしくは動物(特に哺乳動物)の細胞もしくは組織のような生物学的材料から得られた抽出物を表すのに使われる。
【0051】
本明細書中で使用する時、「イソ型タンパク質」、「APP」および「APPイソ型タンパク質」は、APP遺伝子〔Kitaguchi 他 (1988) Nature 331: 530 ; Ponte他, 同文献, p.525 ;R.E. Tanzi, 同文献, p.528 ; de SauvageおよびOctave (1989)Science 245: 651 ; Golde他 (1990) Neuron 4: 253〕の少なくとも1つのエキソンによりコードされるポリペプチドのことを言う。APPイソ型タンパク質は、アルツハイマー病の1つの型と関連するかまたはAD病表現型と関連しないAPP対立遺伝子(またはそれのエキソン)によりコードされてもよい。
【0052】
用語「β−アミロイド遺伝子」は、β−アミロイドがAPP遺伝子産物の翻訳後開裂により生産されるタンパク質産物であるため、本明細書中ではAPP遺伝子の同義語として用いられる。
【0053】
本明細書中で使用する時、「APP695」、「APP751」および「APP770」は、それぞれ、ヒトAPP遺伝子(Ponte 他、前掲;Kitaguchi 他、前掲;Tanzi 他、前掲)によりコードされる長さ695, 751および770 アミノ酸残基のポリペプチドのことを言う。
本明細書中で使用する時、「コドン595」および「コドン596」は、APP695中の595 および596 番目のアミノ酸位置、またはKang他(1987)前掲における番号付け法に従ったAPP695中の595 および596 番目の位置に相当するAPPイソ型タンパク質もしくは断片中のアミノ酸位置、をコードするコドンのことを言う。
【0054】
非限定的な例として、95個のN末端アミノ酸を除去することによってAPP695先端を切り取ることにより製造される長さ 600残基の断片は、APP695のコドン595と596に相当する500番目と501番目のアミノ酸位置を有する。実際、本明細書中で使う時、Swedish 変異は、APP770中のアミノ酸位置670と671に相当するAPP695のそれぞれアミノ酸位置595と596のところのアスパラギン残基とロイシン残基により特徴づけられる。
【0055】
具体的説明
一般的に、下記で使用する命名法と、後述する細胞培養、分子遺伝学並びに核酸化学およびハイブリダイゼーションにおける実験手順は、当業界で公知であり且つ常用されるものである。組換え核酸法、ポリヌクレオチド合成、細胞培養、およびトランスジェン導入(例えばエレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション)には標準技術が使われる。酵素反応、オリゴヌクレオチド合成および精製段階は一般に製造業者の説明書に従って実施される。方法および手順は一般に当業界での常法および本明細書中に与えられる様々な参考文献に従って実施される。その中の手順は当業界で周知であると思われるが、読者の便宜のために与えられる。その中に含まれる情報は全て参考として本明細書中に組み込まれる。
【0056】
キメラ標的マウスは、Hogan 他、Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Labotatory (1988)およびTeratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A PracticalApproach, E.J. Robertson編, IRL Press, Washington, D.C.,(1987)(これらは参考として本明細書中に組み込まれる)に従って誘導される。
胎児性幹細胞は発表された手順〔Teratocarcinomas and Embryo-nic Stem Cells: A Practical Approach, E.J. Robertson編, IRLPress, Washington, D.C., (1987) ;Zjilstra他、Nature 342:435-438 (1989);およびSchwartzberg他、Science 246: 799-803(1989)、その各々は参考として本明細書中に組み込まれる〕に従って操作される。
オリゴヌクレオチドは、製造業者により与えられた指針に従ってApplied Bio Systems オリゴヌクレオチド合成装置上で合成することができる。
【0057】
一般に、本発明は、Swedish 変異を含むAPPポリペプチドを発現する非ヒトトランスジェニック動物を作製するのに使われる方法およびポリヌクレオチド構成物を包含する。ある態様では、Swedish変異APPを発現する非ヒトトランスジェニック動物は、機能的に破壊された内因性APP遺伝子座も有する。有利には、Swedish 変異はAβの増強発現をもたらし、動物または細胞がトランスジェンによりコードされるSwedish 変異Aβを正常Aβよりも有意に高いレベルで発現する。正常(野性型)Aβに比較したSwedish Aβの優先的発現にはMet596からLeu596への変更が特に重要であると思われる。
【0058】
新たに同定された分泌断片は、開裂後に残るβAPP(Aβ)のアミノ末端部分を含んで成り、これを以後、βAPPのアミノ末端断片形(ATF-βAPP)と呼ぶことにする。ATF-βAPPはAβの別の分泌プロセシング経路の生成物であると思われ、この経路は正常(非病的)細胞中にも存在する。しかしながら、更に、この分泌別経路が患者の病的細胞におけるAβの生産に不可欠な現象の原因であるかもしれないと考えられ、そしてATF-βAPP の異常生産がAβ斑に関係のある病気、特にアルツハイマー病やダウン症に関与しているかもしれないと思われる。
【0059】
Aβのβ−セクレターゼ開裂のための特に好ましい動物モデルは、上述のようなAβ遺伝子のSwedish 変異を発現するトランスジェニック動物である。そのようなトランスジェニック動物、特にトランスジェニックマウスは、本発明の方法に従って検出することができる多量のATF-βAPP を生産することがわかった。特に、AβのSwedish 変異は、動物中で発現される野性型ヒトβAPPの通常少なくとも2倍であろう量のATF-βAPP を生産することがわかった。普通、その生産は有意に高く、典型的には少なくとも2倍高いであろう。そのように高められたレベルのATF-βAPP 生産により、異なる条件下でβ−セクレターゼ活性をモニタリングすることが非常に容易になる。特に、薬剤スクリーニングやβ−セクレターゼ活性を阻害する(従ってβAPP生産を阻害する)ための他の療法は、ヒトβAPPのSwedish 変異を発現する動物モデルにより大きく単純化される。
【0060】
トランスジェニックであり且つヒトβAPPのSwedish 変異を発現する試験動物、例えば試験マウスに薬剤が投与される。βAPPのSwedish 形態を発現するトランスジェニックマウスを作製する特定の技術は下記に記載される。Swedish ヒトβAPPを発現する別のトランスジェニック動物、例えばラット、ハムスター、モルモット、ウサギなどの調製は容易に達成できると思われる。
【0061】
試験動物中でのATF-βAPP 生産に対する試験化合物の効果は、試験動物からの様々な試料を使って測定することができる。どの場合でも、試験化合物の不在下での試験動物におけるATF-βAPP 生産のレベルに特有である対照値を得ることが必要であろう。動物を犠牲にする場合、そのような対照値は、ヒトβAPPのSwedish 変異体を発現するようにトランスジェンにより変更されているがいずれかの試験化合物またはATF-βAPP 生産のレベルに影響を及ぼすと予想されるいずれかの別の物質を投与していない別の試験動物からの平均値または代表値に基づかせることが必要であろう。
【0062】
一端そのような対照値が決定されれば、試験化合物を追加の試験動物に投与することができ、その場合の平均対照値からの偏差は、試験化合物がβ−セクレターゼ活性に効果があったことを示す。陽性とみなされる試験物質、即ち、アルツハイマー病または他のβ−アミロイド関連状態の治療に有益となりそうな試験物質は、ATF-βAPP 生産のレベルを好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも80%減少させることができるものであろう。
【0063】
試験物質は、細胞または動物の生存力を実質的に妨害することなく細胞培養物に添加することができるかまたは試験動物に投与することができる、任意の分子、化合物または他の物質であることができる。適当な試験物質は、小分子、生物学的ポリマー、例えばポリペプチド、多糖、ポリヌクレオチドなどである。試験化合物は典型的には1ng/kg〜10mg/kg、通常10μg/kg〜1mg/kgの用量でトランスジェニック動物に投与されるだろう。 ATF-βAPP の分泌または動物生産を阻害することができる試験化合物は、動物およびヒトにおいてβ−アミロイド生産を阻止する能力の更なる決定のための候補と見なされる。分泌または生産の阻害は、おそらくβAPのアミノ末端のところでのβAPPの開裂が少なくとも部分的にブロックされており、β−アミロイドペプチドへの変換に利用できるプロセシング中間体の量が減少されることを指摘する。
【0064】
本発明は更に、上述の方法により選択された化合物を含有し且つ医薬上許容される担体を含んで成る医薬組成物にも関する。そのような医薬組成物は、本発明の方法により同定された少なくとも1つの化合物の治療量または予防量を含有すべきである。医薬上許容される担体は、該化合物を意図する宿主に運ぶのに適当である適合性で非毒性の任意物質であることができる。無菌水、アルコール、脂肪、ワックスおよび不活性固体が担体として利用できる。医薬上許容される補助剤、緩衝剤、分散剤などを医薬組成物に含めてもよい。活性物質を混合する医薬組成物の調製は、医学および科学文献中に詳しく記載されている。例えば、Remington's PharmaceuticalSciences, Macl Publishing Company, Easton, Pennsylvania,第16版, 1982年を参照のこと。その開示は参考として本明細書に組み込まれる。
【0065】
上述の医薬組成物は、非経口、局所および経口投与を含む宿主への全身投与に適当である。該医薬組成物は、非経口、即ち皮下、筋肉内または静脈内に投与することができる。よって、本発明は、宿主への投与のための組成物を提供し、該組成物は上述のような許容される担体中の同定化合物の医薬上許容される溶液を含んで成る。
【0066】
非相同Swedish 変異APPタンパク質をコードするトランスジェン
本発明の好ましい態様では、Swedish 変異を含むAPPポリペプチドを発現するトランスジェニック非ヒト動物を製造するために、Swedish 変異(アスパラギン595−ロイシン596)を含む非相同APPタンパク質をコードするトランスジェンが受精胚またはES細胞中に移入される。非相同Swedish 変異APPタンパク質をコードするトランスジェンは、非相同Swedish 変異APPタンパク質をコードする構造配列を含み、そして通常は更に非ヒト宿主中での非相同Swedish 変異APPタンパク質の発現を指令する連結された調節要素も含んで成る。しかしながら、非相同構造配列の発現に適当である機能的な内因性調節要素を含む染色体部位にトランスジェン配列を組み込むことにより、非ヒト宿主のゲノム中の内因性調節要素を活用してもよい。そのような標的組み込みは、普通は上述したような相同遺伝子ターゲティングによって行われる。この場合、前記非相同トランスジェンは少なくとも1つの相同性クランプを含んで成るだろう。
【0067】
非相同トランスジェンが自分自身の調節要素に頼る時、適当な転写要素とポリアデニル化配列が含められる。少なくとも1つのプロモーターが非相同構造配列の転写を指令する方向において最初の構造配列の上流に連結される。時々、天然に存在する非相同遺伝子からのプロモーターが使われる(例えば、ヒトSwedish 変異APPトランスジェンの発現を指令するのにヒトAPPプロモーターが使われる)。あるいは、内因性同族APP遺伝子からのプロモーターを使うことができる(例えば、ヒトSwedish 変異APPトランスジェンの発現を指令するのにマウスAPPプロモーターが使われる)。あるいは、トランスジェンをコードする配列と非ヒト宿主動物の両方に関して異種である転写調節要素を使うことができる(例えば、トランスジェンがマウス中に導入される場合、ヒトSwedish 変異APPをコードするヌクレオチド配列に作用可能に連結されたラットプロモーターおよび/またはエンハンサー)。
【0068】
ある態様では、Swedish 変異APPポリペプチドをコードするトランスジェンが、天然に存在するAPP遺伝子では作用可能に連結されないプロモーターおよび/またはエンハンサー(および/またはサイレンサー)(即ち、非APPプロモーターおよび/またはエンハンサー)の転写調節下にあることが好ましい。例えば、ある態様では高レベルの発現および/または細胞型特異的発現パターンを付与する転写調節配列(例えばニューロン特異的プロモーター)を使用するだろう。ラット神経特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター〔Forss-Petter (1990) Neuron 5: 187〕は、Swedish 変異APPポリペプチドをコードするヌクレオチド配列への作用可能な連結に好ましい転写調節要素である。脳組織中のトランスジェンによりコードされるAPP配列に効率的発現を付与する他のプロモーターおよび/またはエンハンサーも一般に好ましい。
【0069】
色々な強度を有する様々なプロモーター(例えば pgk, tk, dhfr)を実施者の自由裁量で置換することができるが、しかし、該プロモーターが非ヒト宿主中で機能することが必要であり、そして或る態様では、該プロモーターがトランスジェンを欠く類似宿主動物中での天然に存在するAPP遺伝子と同様な発育パターンまたは細胞型特異的パターン(および発現レベル)での発現を指令することが望ましい。
【0070】
非相同トランスジェンは一般に少なくとも1つの全長APPイソ型タンパク質(例えば695 アミノ酸イソ型タンパク質)をコードする。非相同トランスジェンは、完全なゲノムAPP遺伝子またはその部分に及ぶポリヌクレオチドを含んでもよく、ミニ遺伝子を含んでもよく、単一の連続コードセグメント(例えばcDNA)を含んでもよく、またはそれらの組合せを含んでもよい。しばしば、トランスジェンはSwedish 変異を含むヒトAPPポリペプチド配列をコードするが、しかしSwedish 変異を含む非ヒトAPPポリペプチドをコードするトランスジェンを使ってもよい。一般に、該トランスジェンは、Swedish 変異を更に含む天然に存在する全長のAPPイソ型タンパク質(例えばAPP695、APP751またはAPP770)をコードするだろう。
【0071】
Swedish 変異を含むAPPポリペプチドをコードするトランスジェンは、しばしば1または複数の連結された選択可能マーカー(後述)も含んで成るだろう。
【0072】
Swedish 変異分子を含む非相同APPポリペプチドをコードするトランスジェンは、幾つかの方法で非ヒト宿主ゲノム中に移入することができる。遺伝子ターゲティングについて上述したのと同様な相同ターゲティングにより、特定の予め決められた染色体部位に非相同トランスジェンをターゲティングすることができる。非相同トランスジェンを断片にして逐次相同ターゲティングにより宿主ゲノム中に導入し、内因性宿主染色体部位において完全な非相同遺伝子を再構成することができる。対照的に、APP遺伝子ターゲティング構成物を使うものとは別にまたは使わずに非相同トランスジェンをランダムに組み込んでもよい。
【0073】
非相同トランスジェンはAPP遺伝子ターゲティング構成物と同時移入することができ、そして所望であれば、別個の識別可能な選択マーカーを使って選択することができ、そして/または選択された細胞のPCR分析もしくはサザンブロット分析によりスクリーニングすることができる。あるいは、APP遺伝子ターゲティング構成物の導入とそれについての選択の前または後に、非相同トランスジェンをES細胞に導入することができる。
【0074】
最も便利には、非相同トランスジェンを前核注入による非相同トランスジェン組込みにより非ヒト動物の生殖細胞系列中に導入し、そして生成したトランスジェニック系統を、機能的に破壊された同族の内因性APP遺伝子を有する同型接合ノックアウト背景と交配させる。同型接合ノックアウトマウスを妊娠させ、そして非相同Swedish 変異APPトランスジェンを標準的前核注入または当業界で公知の他の手段によって直接ノックアウトマウスの胚に導入することもできる。
【0075】
遺伝子ターゲティング
ある態様では、Swedish 変異を含むトランスジェンによりコードされるAPPを妨害または汚染しないように内因性的にコードされるAPPの発現が抑制または排除されるように、内因性非ヒトAPP対立遺伝子が機能的に破壊される。1つの変形として、内因性APP対立遺伝子が、相同遺伝子ターゲティングによりSwedish 変異を含むように変換される。
【0076】
哺乳類ゲノムを変更するのに相同組換えを利用する方法である遺伝子ターゲティングは、培養された細胞中に変異を導入するのに使うことができる。着目の遺伝子を胎児性幹(ES)細胞中にターゲティングすることにより、実験動物の生殖細胞系列にそれらの変異を導入し、生物体そのものに対する変異の影響を調べることができる。遺伝子ターゲティング法は、標的遺伝子座に相同であるセグメントを有し且つ意図する配列変更(例えば挿入、欠失、点変異)も含んで成るDNAターゲティング構成物を組織培養細胞中に導入することにより達成される。
【0077】
次いで処理細胞を正確なターゲティングについてスクリーニングし、正しくターゲティングされたものを同定し単離する。遺伝子ターゲティングにより遺伝子機能を破壊するための汎用スキームは、ES細胞ゲノム中の染色体相対物との相同組換えを受けるようにデザインされるターゲティング構成物を作製することである。ターゲティング構成物は、典型的には、それらが追加の配列(例えば陽性選択マーカー)を標的遺伝子コード要素の中に挿入し、それによって標的遺伝子を機能的に破壊するように配置される。ターゲティング構成物は通常、挿入型または置換型構成物である〔Hasty 他 (1991) Mol. Cell Biol. 11: 4509〕。
【0078】
内因性APP遺伝子のターゲティング
本発明は、相同組換えターゲティング構成物を使った遺伝子ターゲティングにより不活性化された内因性APP遺伝子を有する非ヒト動物(例えば非霊長類哺乳動物)を作製するための方法を包含する。典型的には、ターゲティング構成物中の相同性クランプとして使われるであろう領域に隣接するPCRプライマーを製造するための基礎として非ヒトAPP遺伝子配列が使われる。
【0079】
次いで前記PCRプライマーを使って高性能PCR増幅〔Mattila 他 (1991)Nucleic Acids Res. 19: 4967 ; Eckert, K.A. およびKunkel, T.A. (1991) PCR Methods and Applications 1: 17 ; 米国特許第4,683,202 号、これらは参考として本明細書中に組み込まれる〕により、ゲノムクローンライブラリーからのまたはゲノムDNAの調製物からのゲノム配列、好ましくはターゲティング構成物を使ってターゲティングしようとする非ヒト動物の株からのゲノム配列を増幅させる。
【0080】
次いで増幅されたDNAを相同性クランプおよび/またはターゲティング領域として使用する。かくして、当業界で入手可能なヌクレオチド配列情報に基づいておよび/または常用のクローニングにより、非ヒトAPP遺伝子をターゲティングするための相同性クランプを容易に作製することができる。ターゲティング構成物の作製および選択方法に関する一般原理は、Bradley 他 (1992)Bio/Technology 10: 534 (参考として本明細書中に組み込まれる)に概説されている。
【0081】
内因性非ヒトAPP遺伝子を機能的に破壊することができ、そして所望により、Swedish 変異を含むAPPをコードするトランスジェンにより置換することができる。
ターゲティング構成物が内因性APP遺伝子座の一部と相同的に組み換わり、内因性APP遺伝子の機能的発現を妨げる1または複数の変異(即ち挿入、欠失、再配列、配列置換、および/または点変異)を造成するような多分化能性幹細胞(例えばマウス胎児性幹細胞)にターゲティング構成物を導入することができる。
【0082】
本発明の好ましい方法は、標的相同組換えにより、内因性APP遺伝子の必須構造要素を削除することである。例えば、ターゲティング構成物は内因性APP遺伝子と相同的に組み換わり、1または複数のエキソンの実質的に全部に及ぶ部分を削除し、典型的には対応する1または複数のエキソンを欠く置換領域を挿入することにより、エキソンが枯渇された対立遺伝子を作製することができる。エキソン枯渇対立遺伝子に対して同型接合のトランスジェニック動物(例えば互いに異型接合体の交配による)は、機能的な内因性APPポリペプチドを発現することが本質的にできない細胞(好ましくは天然に存在するイソ型タンパク質のいずれも発現することができない細胞)を生産する。同様に、相同遺伝子ターゲティングを使って、所望であればエキソンの一部分のみを削除することによりAPPを機能的に破壊することができる。
【0083】
ターゲティング構成物は、内因性APP遺伝子の必須調節要素、例えばプロモーター、エンハンサー、スプライス部位、ポリアデニル化部位、および他の調節配列、例えばAPP構造遺伝子の上流または下流に存在するが内因性APP遺伝子発現に関与するシス作用性配列、を削除するのに使うこともできる。調節要素の削除は、典型的には、相同二重交差組換えにより、対応する調節要素を欠く置換領域を挿入することによって達成される。
本発明の別の好ましい方法は、ポリヌクレオチド配列の標的挿入により内因性APP遺伝子の必須構造要素および/または調節要素を中断し、それによって内因性APP遺伝子を機能的に破壊することである。
【0084】
例えば、ターゲティング構成物は内因性APP遺伝子と相同的に組み換わり、そして非相同配列(例えばneo 発現カセット)を構造要素(例えばエキソン)および/または調節要素(例えばエンハンサー、プロモーター、スプライス部位、ポリアデニル化部位)中に挿入し、挿入的中断を有するターゲティングされたAPP対立遺伝子を作製することができる。挿入される配列は、長い非相同置換領域を有するターゲティング構成物を使った時の相同遺伝子ターゲティングの効率により限定すると、約1ヌクレオチド(エキソン配列のフレームシフトを引き起こす)から数キロ塩基以上までのサイズに及ぶことができる。
【0085】
本発明のターゲティング構成物は、内因性APP遺伝子の一部分を外因性配列(即ちターゲティングトランスジェンの一部分)により置換するためにも使用することができる。例えば、APP遺伝子の第一エキソンを、ナンセンスまたはミスセンス変異を含む実質的に同一の部分により置換することができる。
【0086】
内因性マウスAPP遺伝子座の不活性化は、マウス胎児性幹細胞中での相同組換えによる適当な遺伝子の標的破壊によって達成される。不活性化には、標的APP遺伝子座の機能的遺伝子産物の効率的発現を阻止するような標的APP遺伝子座中の遺伝子変更を引き起こすいずれのターゲティング構成物を使ってもよい。調節要素のみがターゲティングされる場合、ターゲティングされた遺伝子の低レベル発現が起こり得る(即ち、ターゲティングされた対立遺伝子が「漏出性」である)が、ターゲティングされた漏出性対立遺伝子が機能的に破壊されるのに十分な位、発現のレベルは低いかもしれない。
【0087】
ヌルAPP対立遺伝子およびノックアウトマウスの作製
本発明の一態様では、非ヒト宿主中の内因性APP遺伝子が、Swedish 変異を含む同族の非相同APP遺伝子セグメントを含まないターゲティング構成物を使った相同組換えにより機能的に破壊される。この態様では、ターゲティング構成物の一部分が内因性APP遺伝子座の必須構造要素または調節要素中に組み込まれ、それによって該遺伝子座を機能的に破壊してヌル対立遺伝子を生ぜしめる。典型的には、ターゲティング構成物の相同性クランプと内因性APP遺伝子配列との相同組換えにより、APP遺伝子の必須構造および/または調節配列中に選択可能マーカー(例えばneo 遺伝子発現カセット)をコードする非相同配列を組み込むことにより、ヌル対立遺伝子が作製されるが、他の方策(下記参照)を使用してもよい。
【0088】
最も普通には、ターゲティング構成物はエレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションにより全能性胎児性幹(ES)細胞系、例えばマウスAB-1またはCCE 系に導入される。ターゲティング構成物は、APP遺伝子座中のまたはそれに隣接する内因性配列と相同的に組み換わり、APP遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子を機能的に破壊する。典型的には、ターゲティング構成物と内因性APP遺伝子座配列との相同組換えは、通常は陽性選択カセット(後述)の形の選択可能マーカー(例えばneo )をコードしそして発現する非相同配列の組み込みをもたらす。機能的に破壊された対立遺伝子はAPPヌル(無効)対立遺伝子と名付けられる。
【0089】
少なくとも1つのAPPヌル対立遺伝子を有するES細胞は、選択可能マーカーを発現する細胞の選択的増殖を許容する培地中で該細胞を増殖させることによって選択される。選択されたES細胞は、PCR分析および/またはサザンブロット分析により分析され、正確にターゲティングされたAPP対立遺伝子の存在が確認される。ヌル対立遺伝子に対して異型接合である非ヒト動物の繁殖を行い、前記ヌル対立遺伝子に対して同型接合である非ヒト動物、いわゆる「ノックアウト」動物を作製する〔Donehower 他 (1992) Nature 256:215 ; Science 256: 1392 、これらは参考として本明細書中に組み込まれる〕。
【0090】
あるいは、選択可能マーカーが組み込まれているヌル対立遺伝子に対して同型接合であるES細胞を、高濃度の選択薬剤(例えばG418またはヒグロマイシン)を含有する培地中での選択培養により製造することができる。正確にターゲティングされたヌル対立遺伝子に対する異型接合性および/または同型接合性は、選択されたES細胞クローンのアリコートからおよび/または尾部の生検から単離されたDNAのPCR分析および/またはサザンブロット分析を使って確認することができる。
【0091】
所望により、Swedish 変異を含む非相同APPポリペプチドをコードするトランスジェンを、APPヌル対立遺伝子を有する非ヒト宿主、好ましくはAPPヌル対立遺伝子に対して同型接合である非ヒトES細胞中に移入することができる。該トランスジェンは、機能的な非相同Swedish 変異APP遺伝子産物をコードする構造配列の発現を指令するプロモーターとエンハンサーを含んで成ることが一般に有利である。非限定的例として、ヌル対立遺伝子に対してAPP遺伝子座のところが同型接合であるノックアウトマウスは、Swedish 変異を含む機能的なヒトAPPタンパク質をコードしそして発現するトランスジェンのための好ましい宿主である。
【0092】
Swedish変異APPトランスジェンは、スプライス部位配列を有するエキソンの形で、連続したコードセグメント(例えばcDNA)として、またはそれらの組合せとしてのいずれかで、Swedish 変異を含むAPPポリペプチドをコードする非相同APP構造配列を含んで成る。最も普通には、Swedish 変異APPトランスジェンは全長APPポリペプチドをコードするが、トランスジェンは先端が切り取られたAPPイソ型タンパク質、キメラAPPポリペプチド(例えば一部がヒト/一部がマウス)、および/またはSwedish 変異を更に含むアミノ置換されたAPP変異体(即ちミューテイン)をコードしてもよい。典型的には、トランスジェンは、調節要素、例えばプロモーターと、最適発現のために、エンハンサーも含んで成る。
【0093】
相同APP遺伝子置換
本発明の別の変形によれば、同族非相同APP遺伝子が、少なくともKangら(1987)前掲の番号付け法に従ったアミノ酸位置595-596に及ぶ内因性APP遺伝子を実質的に置換し、好ましくは内因性APP遺伝子のコード配列を完全に置換するように、Swedish 変異を含む同族非相同APP遺伝子の相同組込みにより非ヒト宿主中の内因性APP遺伝子が機能的に破壊される。好ましくは相同組込みの結果として、非相同Swedish 変異遺伝子が内因性APP遺伝子座からの調節要素の転写調節下で発現されるように、非相同Swedish 変異遺伝子が内因性APP遺伝子の調節配列(例えばエンハンサー)に連結される。そのような置換対立遺伝子に対して同型接合である非ヒト宿主(即ち、同族非相同Swedish 変異APP遺伝子産物をコードする宿主染色体APP遺伝子座)は本明細書中に記載の方法に従って作製することができる。
【0094】
そのような同型接合性非ヒト宿主は、一般に非相同Swedish 変異APPタンパク質を発現するが内因性APPタンパク質を発現しないであろう。最も普通には、非相同Swedish 変異APP遺伝子の発現パターンは、天然に存在する(非トランスジェニック)非ヒト宿主中の内因性APP遺伝子の発現パターンを実質的に模倣するだろう。非限定的例として、内因性マウスAPP遺伝子配列と置き換わり且つ内因性マウス調節配列により転写調節されるトランスジェニックマウス所有のヒトSwedish 変異APP遺伝子配列は、天然に存在する非トランスジェニックマウスにおけるマウスAPPと同様にして発現されるだろう。
【0095】
一般に、置換型ターゲティング構成物は相同遺伝子置換に使われる。内因性APP遺伝子配列とターゲティング構成物の置換領域(即ち非相同Swedish 変異APPコード領域)に隣接する相同性クランプとの間の二重交差相同組換えは、非相同Swedish 変異APP遺伝子セグメントの標的組込みをもたらす。通常、トランスジェンの相同性クランプは内因性APP遺伝子セグメントに隣接する配列を含んで成り、その結果、相同組換えは内因性APP遺伝子セグメントの同時削除と非相同遺伝子セグメントの相同組み込みを引き起こす。
【0096】
1回のターゲティング操作または複数のターゲティング操作(例えば個々のエキソンの連続置換)により、実質的に全部の内因性APP遺伝子がSwedish 変異を含む非相同APP遺伝子により置換され得る。1または複数の選択可能マーカーを、通常陽性または陰性選択発現カセットの形で、ターゲティング構成物の置換領域中に置くことができる。通常、選択可能マーカーは非相同置換領域のイントロン領域中に置くことが好ましい。
【0097】
非相同Swedish 変異APP遺伝子(例えば置換対立遺伝子)を含有するES細胞は、数種類のやり方で選択することができる。第一に、置換対立遺伝子を有する細胞が選択できるようにターゲティング構成物中の非相同Swedish 変異APP遺伝子に選択可能マーカー(例えばneo, gpt, tk)を連結せしめる(例えばイントロンまたは隣接配列中に)ことができる。最も普通には、陽性−陰性選択法〔Mansour 他 (1988) 前掲;この開示は参考として本明細書中に組み込まれる〕を使って相同的にターゲティングされた細胞を選択できるように、非相同APP遺伝子ターゲティング構成物は陽性選択発現カセットと陰性選択発現カセットの両方を含んで成るだろう。通常、二重交差相同組換えが陽性選択カセットの組込みと陰性選択カセットの欠失を生じるように、陽性選択発現カセットは非相同Swedish 変異APP遺伝子置換領域のイントロン領域に置かれ、そして陰性選択発現カセットは相同性クランプから遠位に置かれるだろう。
【0098】
ターゲティング構成物
幾つかの遺伝子ターゲティング技術が記載されており、その非限定的例としては、同時エレクトロポレーション、「ヒット・アンド・ラン」、一重交差組込み、および二重交差組換えが挙げられる〔Bradley 他 (1992) Bio/Technology 10:534〕。本発明は、本質的には任意の当業界で公知の適用可能な相同遺伝子ターゲティング方法を使って実施することができる。ターゲティング構成物の配置は選択される特定のターゲティング技術に依存する。例えば、一重交差組込みまたは「ヒット・アンド・ラン」ターゲティングのためのターゲティング構成物は、ターゲティング領域に連結された単一の相同性クランプのみを必要とし、一方で二重交差置換型ターゲティング構成物は、置換領域の各側に隣接する2つの相同性領域を必要とする。
【0099】
非限定的例として、好ましい態様は、(1)内因性APP遺伝子のエキソンの上流(即ち、該エキソンの翻訳解読枠と反対の方向)約3キロ塩基以内の配列と実質的に同一の配列を有する第一の相同性クランプ、(2)neo遺伝子の転写を指令する pgkプロモーターを有する陽性選択カセットを含んで成る置換領域、(3)前記内因性APP遺伝子の前記エキソンの下流約3キロ塩基以内の配列と実質的に同一の配列を有する第二の相同性クランプ、および(4)HSV tk遺伝子の転写を指令するHSV tkプロモーターを含んで成る陰性選択カセット、をこの順序で含んで成るターゲティング構成物である。そのようなターゲティング構成物は、前記エキソンに及ぶ内因性APP遺伝子座の一部分を削除しそしてそれを陽性選択カセットを有する置換領域で置き換える、二重交差置換組換えに適する。削除されたエキソンが機能的APP遺伝子産物の発現に重要であるならば、得られたエキソン枯渇対立遺伝子は機能的に破壊されており、ヌル(無効)対立遺伝子と称される。
【0100】
本発明のターゲティング構成物は、ポリヌクレオチド結合(即ちホスホジエステル結合)でターゲティング領域に連結された少なくとも1つのAPP相同性クランプを含んで成る。相同性クランプは非ヒト宿主動物の内因性APP遺伝子配列に実質的に相当するかまたは実質的に相補的である配列を有し、更にAPP遺伝子に隣接する配列を含んでもよい。
【0101】
遺伝子ターゲティング用の組換え形成性相同性クランプのサイズの上限または下限は技術の現状では決定されていないけれども、相同性クランプの最良形態は、約50塩基対〜数十キロ塩基対の範囲であると思われる。従って、ターゲティング構成物は通常、少なくとも長さ約50〜100 ヌクレオチド、好ましくは少なくとも長さ約250〜500 ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも長さ約1000〜2000である。構成物の相同性領域(相同性クランプ)は通常少なくとも長さ約50〜100 塩基、好ましくは少なくとも長さ約100 〜500 塩基、より好ましくは少なくとも長さ約750 〜2000塩基である。長さが約7〜8キロ塩基の相同性領域が好ましいと思われ、好ましい一態様は、置換領域の一方の側に隣接する約7キロ塩基の第一の相同性領域と、前記置換領域のもう一方の側に隣接する約1キロ塩基の第二の相同性領域を有する。
【0102】
相同性領域の相同性(即ち、実質的な同一)の長さは、内因性APP遺伝子標的配列の配列組成と複雑さ並びに該技術に与えられる案内書〔Hasty 他 (1991) Mol. Cell Biol. 11:5586 ; Shulman他 (1990) Mol. Cell Biol. 10: 4466〕を基にして実施者の自由裁量で選択することができる。ターゲティング構成物は、内因性APP遺伝子配列(例えば、エキソン配列、エンハンサー、プロモーター、イントロン配列、またはAPP遺伝子の約3〜20 kb 以内の隣接配列)に実質的に相当するかまたは実質的に相補的である配列を有する少なくとも1つの相同性領域を有する。そのようなターゲティングトランスジェン相同性領域は、実質的に同一の内因性APP遺伝子配列との相同性対合と組換えのための鋳型として働く。
【0103】
ターゲティング構成物中では、そのような相同性領域は典型的には、標的内因性APP遺伝子配列との置換を受けるはずであるターゲティング構成物の領域である置換領域に隣接する〔Berinstein他 (1992) Mol. Cell Biol. 12: 360 〕。よって、相同性領域により隣接されたターゲティング構成物のセグメントは、二重交差相同組換えにより内因性APP遺伝子配列のセグメントを置換することができる。相同性領域とターゲティング領域は便利な直鎖状ポリヌクレオチド結合(5′→3′ホスホジエステル骨格)で一緒に連結される。ターゲティング構成物は通常は二本鎖DNA分子であり、最も普通には直鎖状である。
【0104】
何ら特定の相同組換えまたは遺伝子変換の理論に結びつけようとしないでも、そのような二重交差置換組換えでは、第一のターゲティング構成物相同性領域と第一の内因性APP遺伝子配列との間の第一の相同組換え(例えば鎖の交換、鎖の対合、鎖の切除、鎖の連結)は、第二のターゲティング構成物相同性領域と第二の内因性APP遺伝子配列との間の第二の相同組換えと同時に起こり、それによって第一と第二の内因性APP遺伝子配列の間に置かれた内因性APP遺伝子の部分と置きかわった2つの相同性領域の間に置かれたターゲティング構成物の部分を生じる。このため、相同性領域は一般に同じ配向で使われる(即ち、再配列を避けるためにトランスジェンの各相同性領域について上流方向が同じである)。
【0105】
このように、内因性APP遺伝子の一部分を削除すると同時に非相同部分(例えばneo 遺伝子発現カセット)を対応する染色体部位に移入するために、二重交差置換組換えを使うことができる。二重交差組換えは、内因性染色体部分を削除せずに非相同部分を内因性APP遺伝子中に付加するためにも使うことができる。しかしながら、二重交差組換えは、非相同部分を内因性APP遺伝子中に移入せずに単に内因性APP遺伝子配列の一部分を削除するためにだけ用いることもできる〔Jasin 他 (1988) Genes Devel. 2:1353〕。非相同部分から上流および/または下流には、二重交差相同組換えが起こったかどうかの同定に備える遺伝子が存在してもよい。そのような遺伝子は典型的には陰性選択に利用することができるHSV tk遺伝子である。
【0106】
典型的には、本発明のターゲティング構成物は、内因性APP遺伝子を機能的に破壊するために用いられ、そして選択可能マーカー、例えば neo〔Smith およびBerg (1984) Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 49: 171 ; Sedivyおよび Sharp (1989) Proc. Natl.Acad. Sci. (U.S.A.) 86: 227 ; ThomasおよびCapecchi (1987)前掲〕をコードする発現カセットを含有する非相同配列により隔てられた少なくとも2つの相同性領域を含んで成る。しかしながら、本発明の或る種のターゲティングトランスジェンは、非相同配列の片側のみに隣接する相同性領域を有することがある。本発明のターゲティングトランスジェンは、当業界で「ヒット・アンド・ラン」または「イン・アンド・アウト」型トランスジェンと呼称される型のものであってもよい〔Valancius およびSmithies (1991) Mol.Cell. Biol. 11: 1402 ; Donehower他 (1992) Nature 356: 215;(1991) J. NIH Res. 3: 59 、これらは参考として本明細書中に組み込まれる〕。
【0107】
陽性選択発現カセットは、該陽性選択発現カセットを含むターゲティングトランスジェン配列を組み込んだ細胞を選択するための手段を提供する選択可能マーカーをコードする。陰性選択発現カセットは、該陰性選択発現カセットの組込みコピーを持たない細胞を選択するための手段を提供する選択可能マーカーをコードする。よって、組合せ陽性−陰性選択プロトコールにより、陽性マーカーの存在についてと陰性マーカーの不在について選択することにより、相同置換組換えを受けそして相同性領域の間のトランスジェンの部分(即ち、置換領域)を染色体部位中に組み込んでいる細胞を選択することが可能である。
【0108】
本発明のターゲティング構成物中への包含のための好ましい発現カセットは、選択可能な薬剤耐性マーカーおよび/またはHSVチミジンキナーゼ酵素をコードしそして発現する。適当な薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ミコフェノール酸を使って選択することができる gpt(キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ);G418またはヒグロマイシンを使って選択することができるneo (ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ);およびメトトレキセートを使って選択することができるDFHR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)が挙げられる〔MulliganおよびBerg (1981) Proc. Natl. Acad. Sci.(U.S.A.) 78: 2072 ; Southern およびBerg (1982) J. Mol. Appl. Genet. 1: 327 ;これらは参考として本明細書中に組み込まれる〕。
【0109】
正確にターゲティングされた組換え体の選択は、通常少なくとも陽性選択を使用する。この場合、非相同発現カセットは、内因性的に組み込まれた発現カセットを含有する標的細胞に選択可能表現型を付与する機能性タンパク質(例えばneoまたはgpt)をコードしそして発現する。そのため、選択薬剤(例えばG418またはミコフェノール酸)の添加により、そのような標的細胞は組み込まれた発現カセットを持たない細胞よりも増殖または生存上の利点を有する。
【0110】
正確にターゲティングされた相同組換え体の選択は、該トランスジェンの非相同組込みだけを有する細胞が選別されるように陰性選択も使用することが好ましい。典型的には、そのような陰性選択は、非相同組込みだけにより組み込まれるようにトランスジェン中に配置された単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV tk)をコードする発現カセットを使用する。そのような配置は、一般に、相同性領域の二重交差置換組換えが陽性選択発現カセットを染色体部位に転移させるがHSV tk遺伝子を転移させないように、組換え形成性相同性領域に対して遠位にHSV tk発現カセット(または他の陰性選択カセット)を連結せしめることにより達成される。HSV tkを発現する細胞に選択的に毒性であるヌクレオシド類似体ガンシクロビルは、組み込まれたHSV tk発現カセットを持たない細胞を選択するので、陰性選択薬剤として使用することができる。HSV tkを持たない細胞を選択するための選択薬剤としてFITUを使用してもよい。
【0111】
不正確に組み込まれたターゲティング構成物配列を有する細胞のバックグラウンドを減らすために、典型的には組合せ陽性−陰性選択方法が使われる〔Mansour 他 (1988) 前掲、この開示は参考として本明細書中に組み込まれる〕。
【0112】
一般に、本発明のターゲティング構成物は、好ましくは、(1)宿主細胞の内因性APP遺伝子配列に実質的に同一である2つの相同性領域により隣接された陽性選択発現カセット、および(2)遠位の陰性選択発現カセットを含んで成る。しかしながら、陽性選択発現カセットのみを含有するターゲティング構成物も使用することができる。典型的には、ターゲティング構成物は、HSV tkプロモーターまたはpgk プロモーターのようなプロモーターの下流に(即ち、翻訳解読枠方向でコードされるポリペプチドのカルボキシ末端の方に)連結された neo遺伝子を含む陽性選択発現カセットを含有するだろう。より典型的には、ターゲティングトランスジェンはHSV tkプロモーターの下流に連結されたHSV tk遺伝子を含む陰性選択発現カセットも含有するだろう。
【0113】
本発明のターゲティング構成物は、予め決められた1または複数の標的内因性DNA配列に高度に相同である、好ましくは同遺伝子系(即ち、同一配列)である、相同性領域を有することが好ましい。同遺伝子系またはほぼ同遺伝子系の配列は、遺伝子ターゲティングに使われるES細胞の源である非ヒト動物の株からのゲノムDNAのゲノムクローニングまたは高性能PCR増幅により得ることができる。
【0114】
マウスAPP遺伝子を破壊するためには、Jaenischおよび共同研究者〔Zjilstra他 (1989) 前掲〕によりマウスβ2−ミクログロブリン遺伝子の好結果の破壊のために使われたデザインに基づいたターゲティング構成物を使うことができる。プラスミド pMC1NEOからのネオマイシン耐性遺伝子(neo)が標的APP遺伝子のコード領域に挿入される。pMC1NEO 挿入断片は、neo 発現を指令するのにハイブリッドウイルスプロモーター/エンハンサー配列を使用する。このプロモーターは胎児性幹細胞中で活性である。従って、ノックアウト(破壊)構成物の組込みのための選択可能マーカーとしてneo を使うことができる。ランダム挿入現象に対する陰性選択マーカーとして該構成物の末端にHSV チミジンキナーゼ(tk)遺伝子が付加される(Zjilstra他、前掲)。
【0115】
ターゲティング構成物を含有するベクターは、典型的には大腸菌中で増殖させ次いで標準分子生物学的方法を使って単離するか、またはオリゴヌクレオチドとして合成することができる。原核または真核ベクターを必要としない直接標的不活性化を行ってもよい。ターゲティングトランスジェンは、任意の適当な技術、例えば特に、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、バイオリスティクス、リン酸カルシウム沈澱、およびウイルス由来ベクターにより、宿主細胞に移入することができる。哺乳類細胞を形質転換せしめるのに使われる別の方法としては、ポリブレン、プロトプラスト融合などが挙げられる〔総括的にはSambrook他、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, 1989,Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照のこと;この開示は参考として本明細書中に組み込まれる〕。
【0116】
トランスジェニック非ヒト動物(相同的にターゲティングされた非ヒト動物を含む)を作製するためには、胎児性幹細胞(ES細胞)が好ましい。マウスES細胞、例えば本質的には Robertson, E.J.(1987) Tetratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Pract-ical Approach. E.J. Robertson 編 (Oxford: IRL Press), p.71-112 に記載された通りに有糸分裂的に不活性なSNL76/7 細胞支持層上で増殖させたAB-1系〔McMahon および Bradley (1990) Cell 62:1073〕を相同遺伝子ターゲティングに使用することができる。
【0117】
別の適当なES細胞系としては、E14 系〔Hooper他 (1987) Nature326: 292-295〕、D3系〔Doetschman他 (1985) J. Embryol. Exp.Morph. 87:27-45〕およびCCE 系〔Robertson 他 (1986) Nature323: 445-448〕が挙げられるが、それらに限定されない。特定の標的変異を有するES細胞からマウス系列をうまく作製できるかは、ES細胞の多分化能性(即ち、一度宿主の胚盤胞中に注入されると、胚形成に参加しそして結果として生じる動物の生殖細胞に貢献するそれらの能力)に依存する。注入されたES細胞を含有する胚盤胞を偽妊娠した非ヒト雌動物の子宮中で発育させ、キメラマウスとして出産させる。得られたトランスジェニックマウスは不活性化された内因性APP遺伝子座を有する細胞に対してキメラである。
【0118】
不活性化されたAPP遺伝子座に対して異型接合であるトランスジェニックマウスを同定するために、トランスジェニックマウスをもどし交配し、そして子孫の尾部生検DNAに関するPCR分析またはサザンブロット分析により、正確にターゲティングされた1または複数のトランスジェンの存在についてスクリーニングする。適当な交配を行うことにより、機能的に破壊されたAPP対立遺伝子に対して同型接合であり、そして所望によりSwedish 変異を含む非相同APPポリペプチドをコードするトランスジェンも含有する、トランスジェニック非ヒト動物を製造することが可能である。そのようなトランスジェニック動物は、内因性APP遺伝子産物を生産することが実質的にできないが、Swedish 変異非相同APPを発現する。
【0119】
商業的研究およびスクリーニング用途
Swedish 変異APP(従ってSwedish 変異Aβ)をコードするトランスジェンを含んで成る非ヒト動物は、Aβの生産および/または蓄積を低下させる効果を有する剤についてスクリーニングするために商業的に利用することができる。そのような剤は、異常なAPPプロセシングおよび/または数ある神経変性状態の中でも特にアルツハイマー病を治療するための薬として開発することができる。例えば、Donehower 他 (1992) Nature 356: 215の p53ノックアウト(破壊)マウスは、発癌物質スクリーニング用等の商品として広く受け入れられている。
【0120】
本発明のトランスジェニックマウスは異常なAPPプロセシングと発現を示し、従って薬剤スクリーニングに並びに神経変性病の病気モデルおよびAPP生化学のモデルとして利用することができる。そのような動物は、例えば、Aβプロセシングを果たすかまたはそれに影響を及ぼす化合物を同定することを含む、多数の用途を有する。1つの変形としては、薬剤候補としてそれらの剤が同定される。トランスジェニック動物はAPP(またはAβ)発現および/または安定性を変更する剤を開発するためにも利用することができる。そのような剤は、神経変性病を治療するための治療薬として役立ち得る。本発明のノックアウト動物は、APP関連性病的状態(例えばアルツハイマー病など)を研究するための病気モデルとしても役立つことができる。そのようなトランスジェニックマウスは、特に、研究者に市販することができる。
【0121】
Swedish 変異APPに対する抗体
Swedish 変異を含むAPPポリペプチドを使って、例えばKohlerおよびMilsteinの方法〔 (1975) Nature 256: 495〕により、抗血清とモノクローナル抗体を調製することが可能である。次いで、そのような抗体は特にSwedish 変異の存在についての診断試験の基礎を形作ることができる。
【0122】
Swedish 変異APPポリペプチドを使って特異抗体の生産のために動物を免疫することができる。それらの抗体はポリクローナル抗血清を含んでもよく、またはハイブリドーマ細胞により生産されたモノクローナル抗体を含んでもよい。一般的な抗体調製方法については、Antibodies: A Laboratory Manual, (1988) E. Harlow およびD. Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor,N.Y.を参照のこと(その開示は参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0123】
非限定的な例として、免疫応答を生じさせるためにSwedish 変異APP695ポリペプチドの組換え作製断片をアジュバントと共にマウスに注入することができる。免疫化マウスから少なくとも1×107 M-1の結合親和力で前記組換え断片を結合するマウス免疫グロブリンを抗血清として回収し、そしてアフィニティークロマトグラフィーまたは他の手段により更に精製することができる。その上、前記マウスから脾細胞を収得し、ミエローマ細胞と融合せしめて抗体分泌性ハイブリドーマ細胞のバンクを作製する。少なくとも1×106 M-1の親和力で前記組換え作製断片を結合する免疫グロブリンを分泌するクローンについて、前記ハイブリドーマのバンクをスクリーニングすることができる。より詳しくは、野性型APPを使った予備吸収によりまたは野性型に比べてSwedish 変異形を優先的に結合する特定のイディオタイプについてハイブリドーマ細胞系をスクリーニングすることにより、Swedish 変異APPポリペプチドに結合するが野性型APPポリペプチドとは限定された交差反応性を有する免疫グロブリンを選択する。
【実施例】
【0124】
次の実施例は例示のために与えられ、与えられた特定の例に本発明を限定するつもりはない。
実験例
抗体 6C6はβAPの残基1〜16内のエピトープを認識する。
Swedish 変異APPを発現するトランスジェニックマウス
図1に示されるプラスミド(NSEAPPswとNSEAPPswΔ3')を使ってトランスジェニックマウスを作製した。それらのプラスミドは、Swedish 変異を含むβAPPの751 形(695 形の595 位と596 位がKMからNLに変異)を含有する。
【0125】
ニューロン特異的エノラーゼプロモーターが発現を指令し、スプライス配列を提供する。ラットNSEプロモーターとスプライス配列は、pNSE6 〔Forss-Petter他(1990) Neuron 5: 187〕から誘導した。このベクターは、ベクターpSP65 (Promega) のBamHI 部位にクローニングされたラットNSEプロモーター領域の4.2 kb BglII断片(上流の BglII部位から始まり第二イントロン中の BglII部位まで続く)を含有する。使用したプロモーターの5′末端のところのベクター由来 XbaI部位と第二イントロン中に含まれるNSE翻訳開始ATGとを融合せしめ、ATGで始まるβAPPにした。
【0126】
NSEAPPswは、遺伝子の3′領域中にSV40からのスプライス配列も含有する。このスプライス配列はOkayama/BergベクターpL1 に由来し、そして後期16s と19s メッセージスプライス配列の融合体である。ポリアデニル化配列はSV40配列により提供される。
【0127】
それらのプラスミド配列を組み込んだトランスジェニックマウスは標準技術を使って作製した。上記発現カセットを含有する NotI断片を精製し、それをC57B1/DBA ハイブリッドマウスから得られた卵子に注入した。この卵子を偽妊娠マウスに移植し、それらのF1トランスジェニック子孫の分析によりヒトβAPPの発現について子孫をスクリーニングした。手動ホモジナイザー(Polytron PT122B,Kinematica AG)を使ってF1動物からの脳を SDS緩衝液(2% SDS,20 mM Tris, pH 8.0, 150 mM NaCl, 10 mM EDTA)中または NP-40緩衝液(1% NP-40, 50 mM Tris, pH 7.5, 10 mM EDTA, 並びに5 〜10μg/mlのロイペプチン、2 〜4 μg/mlのペプスタチンA、5 〜10μg/mlのアプロチニンおよび1 〜2 mM PMSF を含有するプロテアーゼ阻害剤の混合物)中のいずれかでホモジナイズした。
【0128】
SDS 溶解物はウエスタン分析用のゲルに直接負荷した。NP40ホモジネートはBeckman 超遠心機(Tl100.3 ローター)中で44,000 rpmで10分間遠心した後、上清をウエスタン分析用のゲルに負荷した。ウエスタン分析は、ヒト特異的βAPPを検出するために抗5抗体(0.4 μg/ml)または 8E5抗体(5μg/ml)のいずれかを使った標準手順により実施した。比較的高レベルのβAPPを発現する系統を次の分析用に選択した。これはHillary 14, Chelsea 32およびChelsea 58系列を含んだ。記載の実験は、トランスジェン含有動物を野性型動物と交配しそしてその子孫を該トランスジェンの存在についてスクリーニングすることにより誘導されたそれらの系統の異型接合動物において行った。同様に、選ばれた系統番号からの同型接合動物を使うこともできる。
【0129】
トランスジェニック動物の脳の可溶性画分を、分泌されたAPP「92」形の存在について探査した(図2)。この形態はβAPの生産の副産物として生産され、そして培養細胞中でのこの形態の生産の阻害は、β−セクレターゼにより開裂される部位であるβAPのN末端部分の開裂の阻害と同時に起こる。
【0130】
トランスジェニック(Swedish Hillary 14)または非トランスジェニックマウスからの脳を50 mM Tris, 10 mM EDTA+上述のプロテアーゼ阻害剤混合物中でホモジナイズし、そして上記と同様に55Krpm で10分間遠心分離した。その上清を、β−セクレターゼにより産生されるAPPの分泌形態とだけ反応するSwedish "192" 抗体を使ったウエスタン分析により分析した。ウエスタン分析に向けて、タンパク質を6% SDS-PAGE ゲル(Novex から)上で分離し、次いで標準技術によりImmobilon P に移した。同じく標準技術を使ってこのフィルターを2μg/mlのSwedish "192" 抗体と共にインキュベートし、そしてAmersham ECLキットを使って結合抗体を視覚化した。
【0131】
図2のレーン3に示されるように、トランスジェニック動物からの上清中には強固に検出できる"192"反応性物質が存在した。非トランスジェニック動物の脳ホモジネートは、トランスジェニック動物に特異的な物質よりもゲル中での移動度がわずかに速い少量の免疫反応性物質を含んでいた(レーン1)。この物質は別のβAPP抗体(例えば抗5)とハイブリダイズしないので、おそらくβAPPと関連がないだろう。
【0132】
組織培養系では、Swedish 192 抗体(後述)は、β−ペプチド配列の中央の17位にあるα−セクレターゼ部位のところで開裂された分泌βAPPと交差反応しない。これが脳ホモジネートにも当てはまることを証明するために、βAPの最初の16アミノ酸に特異的であり、従ってα−セクレターゼにより開裂された分泌βAPPと反応するがβ−セクレターゼにより開裂されたより短鎖の分泌βAPPとは反応しない 6C6抗体に結合させた樹脂を使って、脳ホモジネート中の長鎖分泌βAPP形を枯渇させた。この樹脂は、製造業者(Sterogene)により記載された通りに懸濁液中でカップリングさせた Actigel−ALS を使うことにより製造した。
【0133】
過剰の樹脂−抗体を、トランスジェンを含有するまたは含有しない動物からの脳ホモジネートと共に、4℃で振盪しながら3時間のインキュベーション時間の間インキュベートし、次いで14,000 rpmで1分間の遠心分離により結合材料と未結合材料を分離した。上清を再び過剰の 6C6結合樹脂と共に4℃で16時間インキュベートし、そして再遠心して未結合材料を分離した。最初のインキュベーション中に結合した材料と 6C6結合樹脂に結合しなかった材料を、抗5抗体とSwedish 192抗体を使ったウエスタン分析により分析した(図3)。
【0134】
トランスジェニック(+)または非トランスジェニック(−)マウスからのホモジネートを、 8E5(パネルA)またはSwedish 192 (パネルB)を使って探査した。レーン1は全ホモジネートを指し、レーン2は6C6 樹脂に結合しなかった画分を指し、そしてレーン3は 6C6樹脂に結合した画分を指す。抗5抗体との反応性により同定された結合βAPPのいずれも、Swedish 192 抗体と交差反応しなかった。抗5抗体との反応性により同定された未結合材料はSwedish 192 抗体と反応した。
【0135】
このことは、Swedish 変異トランスジェニックマウスが、β−セクレターゼ活性の直接もしくは間接阻害剤についてまたはβ−セクレターゼ活性を変更する薬剤についてスクリーニングするための貴重な動物モデルを提供することを証明する。そのような剤は、異常なAPP発現および/または代謝に関係する病気(例えばアルツハイマー病)を治療するための薬として開発することができる。
【0136】
Swedish 変異APPと特異的に反応する抗体
免疫原としてウサギ血清アルブミンに接合されたβAP残基1〜28を含有する合成ペプチドを使って、モノクローナル抗体 6C6を惹起せしめそして抗体10D5〔Hyman 他 (1992) J. Neuropath. Exp. Neurol. 51: 76〕と同じ方法でスクリーニングした。10D5も6C6も両方ともβAP配列の最初の16アミノ酸中のエピトープを認識する。6C6 は免疫沈澱において10D5よりも効果的であり、従って捕捉抗体として使用した。
【0137】
6C6 樹脂を調製するために、4mlの AffigelR10(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)を冷水で洗浄し、3mlの 6C6〔 PBS(2.7 mM KCl, 1.5 mM KH2PO4, 8.1 mM Na2HPO4,137 mM NaCl, pH 7.5 )および0.5 M NaCl中 12.5 mg/ml〕と混合した。カップリングは穏やかに振盪しながら4℃で一晩行った。400 μlの1M Tris, pH 8.0 を加え、振盪を40分間続けた。ついで樹脂を使用前に徹底的にTTBS(137 mM NaCl, 5 mM KCl, 25 mM Tris,0.5 % Tween(商用)20, pH 7.5)で洗浄した。抗体7H5 もHyman 他(1992)前掲により記載されている。抗5抗体はβAPP 444-592に対して惹起せしめた。
【0138】
βAPPの残基591 〜596 〔Kang他 (1987) 前掲に従って番号付けした〕を含む合成ペプチドに対して抗体(抗体92と命名)を惹起せしめた。スルホマレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルにより活性化したウサギ血清アルブミンにペプチド(N−アセチルCISEVKM )を接合し、免疫原を作製した。この免疫原に対して標準方法論によりウサギ中で抗血清を惹起させた。各々の接種の間、0.1 mlの注射液中5μgの免疫原をウサギの約10部位に皮下投与した(50μg/ブースター注射)。IgG画分からの抗体のアフィニティー精製のため、同ペプチドをSulfo-link(商標)ゲル(Pierce Chemical Co., Rockford, IL)にカップリングさせた。
【0139】
抗体92調製のより具体的記載は次の通りである。ウサギ血清アルブミン(12.3mg)を1.25mlの0.05 M KH2PO4, pH 7.0 中で13mgのスルホマレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルと共に0℃にて20分間インキュベートした。次いでこの混合物をすぐに同リン酸緩衝液で平衡化されたSephadex G-10 の1×75cmカラム上でのゲル濾過にかけた。排除容積のタンパク質溶出液をプールし、標準的な自動固相合成法により合成した30mgのN−アセチル−CISEVKM ペプチドとすぐに混合した。カップリング反応(20ml容量)を一晩行い、次いで抗体産生のため商業施設に送った。注射プロトコールは、同容量のフロイント完全アジュバント中に該抗原を乳化し、次いで計50μg の抗原を0.1 mlアリコートにおいて約10部位に皮下注射することであった。
【0140】
その後3週間ごとに、乳化剤としてフロイント不完全アジュバントを使ったこと以外は同じプロトコールによりブースター注射を与えた。各注射の1週間後にウサギから採血し、ELISA におけるペプチドとの反応により血清の力価を調べた。陽性反応性の血清から50% (NH4)2SO4を使った沈澱(2回)によりIgGを精製し、PBSに対して透析した。製造業者の教示を使ってN−アセチル−CISEVKM ペプチドペプチドをSulfo-linkTMゲル(Pierce Chemical Co., Rockford, IL)に接合し、ペプチド特異的抗体を精製するためのアフィニティー樹脂を作製した。IgG画分を該カラムに適用し、そして非特異的に結合した材料をPBSで洗い流した後、0.1 M グリシン pH 2.5, 0.5 M NaCl を使って抗体を溶出させ、次いで該抗体をPBSに対して透析した後、凍結乾燥した。
【0141】
Swedish βAPP配列の残基590 〜596 から成る合成ペプチドに対してSwedish 192 抗体を惹起せしめた。該βAPP配列に加えて、スペーサーおよびリンカーとして2つのグリシンと1つのシステインを付加し、次の配列を与えた:CGGEISEVNL。このペプチドを市販のマレイミド活性化カチオン化ウシ血清アルブミン(Pierce ImjectSupercarrier Immune Modulator 、以後cBSAと呼ぶ)に接合した。抗体92について上述した注射スケジュールに従って抗血清を惹起せしめた。Swedish βAPP配列の残基590 〜596 から成る合成ペプチドに対してSwedish 192 抗体を惹起せしめた。該βAPP配列に加えて、スペーサーおよびリンカーとして2つのグリシンと1つのシステインを付加し、次の配列を与えた:CGGEISEVNL。このペプチドを市販のマレイミド活性化カチオン化ウシ血清アルブミン(Pierce Imject Supercarrier Immune Modulator 、以後cBSAと呼ぶ)に接合した。標準的な注射スケジュールに従って抗血清を惹起せしめた。
【0142】
一般に、cBSAを10mg/mlの濃度になるように脱イオン水中に再懸濁した。この担体に等ミリグラム量のペプチドを加え、室温で4時間混合した。次いで該接合体をカルシウムとマグネシウムを含まないダルベッコのリン酸塩緩衝化塩類溶液に対して徹底的に透析した。
該接合体を出発のcBSAと6% Novex充填済Tris−グリシンゲル上で比較した。好結果の接合は、目に見える高分子量へのシフトにより示される。
【0143】
Swedish βAPPタンパク質を過剰発現させるために永続的にトランスフェクトされている293 腎細胞からの順化培地を収集した。1mlアリコートを100 μlの固定化 6C6−アフィニティー樹脂または100 μlのヘパリン−アガロース(Sigma)のいずれかに添加した。6C6 樹脂との反応は4℃で5時間であり;ヘパリン−アガロースとの反応は4℃で30分間であった。インキュベーション後、樹脂をTTBSで洗浄し、次いで各試料に100 μlの2×SDS-PAGE試料緩衝液を加え、該試料を煮沸し(5分)、手短に遠心した。
【0144】
20μlの試料を6%SDS−ポリアクリルアミドゲル上に負荷しそして電気泳動した。上述した通りにタンパク質を ProBlot(商標)に移行した。次の抗体:6C6 、Swedish 192 、または 8E5(695 形の番号付け法を用いたアミノ酸444 〜592 の領域中のβAPPのエピトープを認識するモノクローナル抗体)を使って前記試料を探査した。全ての抗体はイムノブロットの探査中2μg/〓の濃度で使用した。免疫反応性物質の可視化は、製造業者の推奨に従ってAmersham ECL(商標)系を使って行った。ブロッキングと抗体希釈はTTBS中の5%脱脂粉乳(Carnation)を使って行った。
【0145】
図4は、Swedish 192 抗体の特異性を証明するイムノブロットを示す。レーン1,3,5はヘパリンアガロースから溶出された物質を含む。レーン2,4,6は 6C6樹脂から溶出された物質を示す。レーン1と2は8E5 抗体を使って探査し;レーン3と4はSwedish192 抗体を使って探査し;レーン5と6は6C6 抗体を使って探査した。
【0146】
図4のレーン4から明らかなように、レーン3に比べてレーン4中により多くの全βAPPが存在するという事実にもかかわらず、Swedish 192 抗体はβAPPの6C6 反応性形を検知できるほどに認識しない(レーン1と2を比較する)。部分的βAP配列(6C6 反応性)を含むβAPP形との反応性の欠如は、Swedish 192 抗体がAβのアミノ末端またはその付近で開裂されたβAPPを認識することを示唆する。
【0147】
本発明の好ましい態様についての上記記載は、例示と説明のために与えられたものである。それらは徹底的であるつもりはなく、また本発明を開示されたその形態に限定するつもりもなく、上記教示に鑑みて多数の修正と変更が可能である。
当業者に明らかであろうそのような修正や変更は本発明の範囲内にある。
本明細書中に言及される全ての刊行物および特許出願は、あたかも個々の刊行物または特許出願が具体的に且つ個別的に参考として組み込まれると指摘されたかのように、参考として本明細書中に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1A】図1Aは、それぞれ pNSEAPPswΔ3'とpNSEAPPsw のプラスミド地図であり、これらは明細書中に記載されるようにトランスジェニックマウスを製造するのに使われる。
【図1B】図1Bは、それぞれ pNSEAPPswΔ3'とpNSEAPPsw のプラスミド地図であり、これらは明細書中に記載されるようにトランスジェニックマウスを製造するのに使われる。
【図2】図2は、Swedish 192 抗体と反応性の分泌βAPP断片の存在について探査した、トランスジェニック動物および対照動物の脳の可溶性画分のウエスタンブロットである。レーン1:分子量マーカー;レーン2:非トランスジェニック系統;レーン3:トランスジェニック系統。
【図3】図3のパネルAとBは、抗体8E5 (パネルA)とSwedish 192 抗体(パネルB)を使って探査した、6C6 抗体反応性βAPP形が枯渇されたトランスジェニック(+)および非トランスジェニック(−)動物からの脳ホモジネートのウエスタンブロットである。
【図4】図4は、Swedish 192 抗体の特異性を証明するイムノブロットを示す。レーン1,3,5はヘパリンアガロースから溶出された物質を含む。レーン2,4,6は6C6 樹脂から溶出された物質を含む。レーン1と2は抗体 8E5を使って探査し;レーン3と4はSwedish 192 抗体を使って探査し;レーン5と6は抗体 6C6を使って探査した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトAPP695中の595 位と596 位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれアスパラギンとロイシンであるSwedish 変異を含む非相同APP ポリペプチドをコードするトランスジーンを含んで成る二倍体ゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物において、前記トランスジーンが発現されてSwedish変異を有するヒトAPPポリペプチドが生産され、当該ポリペプチドが、トランスジェニック齧歯動物の脳ホモジネート中で、APPと反応することなくATP−βAPPと反応する抗体を用いることにより検出される量でATF−βAPPにプロセッシングされる、ことを特徴とするトランスジェニック齧歯動物。
【請求項2】
前記動物がマウスである、請求項1のトランスジェニック齧歯動物。
【請求項3】
前記トランスジェニック齧歯動物がSwedish 変異を含むヒトAPP ポリペプチドを発現する、請求項1のトランスジェニック齧歯動物。
【請求項4】
前記Swedish 変異を含む非相同APP ポリペプチドが、神経特異的エノラーゼプロモーターの転写調節下で発現される、請求項1のトランスジェニック齧歯動物。
【請求項5】
アミロイド前駆体タンパク質のβ−アミロイドペプチドへのプロセシングに影響を及ぼす事が出来る物質をスクリーニングする方法において、
ヒトAPP695における位置595及び596に対応する位置のアミノ酸残基がそれぞれアスパラギン及びロイシンであるSwedish変異を有するヒトAPPポリペプチドをコードするトランスジーンを含んで成る二倍体ゲノムを有するトランスジェニック齧歯動物を用意し、ここで、前記トランスジーンは発現されて前記Swedish変異を有するヒトAPPポリペプチドを産生するものであり、そして前記ポリペプチドは、前記トランスジェニック齧歯動物の脳ホモジネート中で、APPと反応することなくATP−βAPPと反応する抗体を用いることにより検出される量でATF−βAPPにプロセッシングされ、
前記トランスジェニック齧歯動物を物質と接触せしめ、そして
前記物質が開裂に影響を及ぼすのを示すために、前記接触されたトランスジェニック齧歯動物における、β−アミロイドペプチドのN−末端とATF−βAPPとの間での前記アミロイド前駆体タンパク質の開裂を、対照トランスジェニック齧歯動物での開裂と比較してモニターする、
ことを含んで成る方法。
【請求項6】
前記物質が、前記開裂と関連するβ−セクレターゼ活性を阻害する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記トランスジェニック齧歯動物を、1ng/kg〜10 mg/kgの量で前記物質と接触せしめる、請求項5に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−122059(P2006−122059A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14221(P2006−14221)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【分割の表示】特願平7−512698の分割
【原出願日】平成6年10月18日(1994.10.18)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【出願人】(502072400)エリ リリー アンド カンパニー (8)
【Fターム(参考)】