T型継手の製造方法
【課題】 溶接設備として一般的でコストが安いアーク溶接やプラズマ溶接法を用いて安価で高品質なT字継手を形成することができる製造方法を提供する。
【解決手段】 このT型継手の製造方法は、第1板材12の裏面側に所定の角度で第2板材14の端面を当接させ、第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行う。これにより、アーク又はプラズマ溶接熱が第1板材12を貫通して第2板材の端面部分を溶融させ、これらを溶着させることによってT型溶接継手が形成される。アーク又はプラズマ溶接では、第1板材の板厚に応じて場合により深溶け込みの手法を採用する。また、板厚が溶け込み深さを超える場合には表面に減厚加工を行う。
【解決手段】 このT型継手の製造方法は、第1板材12の裏面側に所定の角度で第2板材14の端面を当接させ、第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行う。これにより、アーク又はプラズマ溶接熱が第1板材12を貫通して第2板材の端面部分を溶融させ、これらを溶着させることによってT型溶接継手が形成される。アーク又はプラズマ溶接では、第1板材の板厚に応じて場合により深溶け込みの手法を採用する。また、板厚が溶け込み深さを超える場合には表面に減厚加工を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば比較的小型の流体機械の羽根車の主板又は側板と羽根のような複雑な構造を溶接するために好適なT型継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型ポンプ用の羽根車は、従来、図15に示すように、大型のものと同様に鋳造で製造されていた。この場合、最終形状に近い形に鋳造するので、製品当たりの製造工程が少なくコストが安い。しかしながら、このような小型で複雑な形状の製品の鋳造は、中子が薄いので変形や割れが生じやすく、またガスが抜けにくいので欠陥が発生しやすい、といった鋳造自体の困難性がある。本来、羽根車の性能には、寸法精度や表面粗さが大きな影響を及ぼすが、一体物の鋳物は流路面が鋳肌になるので、表面が粗い。また、凝固収縮による寸法の変化があるので、設計通りの寸法を得ることが困難である。さらに、中空形状の鋳物を作るには中子を使わなければならないが、中子のずれにより肉厚・寸法を狙い通りにすることが難しい。内部流路にグラインダが入りにくいので鋳造後の内表面の仕上げ作業も困難であり、狭い流路面の手直しや修正加工はできず、性能に及ぼす上記の影響を回避できない。特に、翼(羽根)高さが小さい羽根車は鋳造が難しく不良率が高いことなどの問題がある。このため、鋳造後の廃却率が高くなり、納期遅れやコスト高の原因となっていた。
【0003】
そこで、このような閉鎖的な空間を持つ構造の鋳造が困難なことに鑑み、羽根車を構成する部品である主板と側板を個別に製造し、これらを溶接することで一体化する製造方法が考えられる(図13参照)。この場合、主板と側板の一体化は、一方に形成した翼14の端面を他方の主板(又は側板)12の裏面に突き合わせて行うが、裏面側は閉鎖空間に近いので、図16(d)に示すような、裏面側からの隅肉溶接56を形成するのは困難で、主板(又は側板)12の表面側からしか行えない。このような場合に採用される従来の方法を、図16(a)〜(c)の開先形状図を参照して説明する。なお、ここでは、口径150mm以下の羽根車を製造する場合で、主板又は側板の板厚は5mm程度としている。
【0004】
同図(a)および(b)は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接方法を用いるもので、主板または側板(第1板材)12に板厚方向に貫通するスリット50、52を形成し、これにより羽根(第2板材)14の先端との間に形成される開先に肉盛り溶接する方法である。(a)の方法は板の全厚を開先とするもので、溶接部54が深く、トーチ侵入のためにスリット50の断面形状が上広がりとなるため、加工量が増え、機械加工のための費用が高くなる。また、溶接の肉盛量が多いため、溶接作業に時間を要し、作業コストが高くなるとともに、溶接熱による歪みの発生も大きい。
【0005】
一方、(b)の方法では、羽根の先端をスリット52内に所定長さだけ進入させて開先を形成しており、溶接部54の深さが小さいので、スリット52をレーザ加工することが可能で加工費用は安いが、裏面側で裏波が形成されず、溶接の品質はよくない。また、板厚方向の位置決め、すなわち進入深さの調整作業に手間が掛かるという難点がある。
【0006】
一方、同図(c)は、主板または側板の裏面に羽根を突き合わせ、表面側から、レーザまたは電子ビームを照射して、その溶け込み深さが大きいことを利用したいわゆる貫通溶接を行うものである。レーザまたは電子ビームを用いる貫通溶接は、板厚の小さい電子部品等の場合に良く用いられている。特許文献1に示すように、この方法では、スリットを形成するための加工工程に要する費用を省くことができる。しかしながら、これらの方法はアークやプラズマを用いる方法と比較して一般に設備コストが高く、特に板厚が大きい場合には大きな入熱が必要であるので、一層それが顕著となる。また、入熱量が少ないので、溶込みも少なく、良好な形状の裏波を形成するのは難しい。
【0007】
そこで、同図(e)に示すように、アーク又はプラズマ溶接を用いて、表面側から貫通溶接を行うことが考えられる。しかしながら、大きな板厚の上板を貫通し、さらに良好な裏波を出すのは必ずしも容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−334680号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、溶接設備として一般的でコストが安いアーク溶接やプラズマ溶接法を用いて安価にかつ高品質なT字継手を形成することができるようなT型継手の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のT型継手の製造方法は、第1板材の裏面側に所定の角度で第2板材の端面を当接させ、該第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行い、該アーク又はプラズマ溶接熱により第1板材を貫通して第2板材の端面部分を溶融させ、これらを溶着させることによって溶接継手を形成することを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、一般的アーク又はプラズマ溶接法において貫通溶接を行い、第1板材と第2板材を第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接して、これらを溶着させることで、複雑でコストの掛かる開先形成や多層の肉盛等の作業を排除し、低コストで高品質のT型継手を提供する。
【0012】
請求項2に記載のT型継手の製造方法は、請求項1に記載の発明において、事前に前記第1板材の前記第2板材が当接する部分に減厚溝を加工し、該減厚溝に沿って溶接を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、第1板材の板厚がアーク又はプラズマ溶接の溶け込み深さを上回るほど大きい場合でも、一般的アーク又はプラズマ溶接法を用いて貫通溶接を行う際に、比較的簡単な加工のみで、第2板材の端面まで充分に入熱してこれを溶融させ、欠陥の無い継手を形成させる。これにより、複雑な開先形成や多層の肉盛等の作業を排除し、低コストで高品質のT型継手を提供する。
【0014】
請求項3に記載のT型継手の製造方法は、請求項2に記載の発明において、前記減厚溝の底部の幅は前記第2板材の厚さより大きく設定され、それにより、溶接の際に、前記第2板材が前記第1板材の裏面に接する箇所において溶融した金属が裏波ビードを形成することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、第2板材の端面のエッジ部分の上部において第1板材が充分に溶融するとともに、第2板材の端面のエッジ部分も充分な入熱が供給され、これにより、第1板材裏面と第2板材端面のエッジ部分とが交差する隅部に良好な裏波ビードが形成される。
【0016】
請求項4に記載のT型継手の製造方法は、請求項3に記載の発明において、前記減厚溝の断面は、前記第2板材の端面のエッジに相当する位置において、該減厚溝の中央から外方に向かうに従い厚さが上昇するようになっていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、第2板材の端面のエッジに相当する位置において、減厚溝の中央側が溶融しやすく、外側は溶融しにくいので、中央側の溶融金属が外側部分により保持され、表面張力によって形状を維持し、当該部分における割れや溶け落ちの発生を防ぎ、欠陥の無い溶接部を形成する。
【0018】
請求項5に記載のT型継手の製造方法は、請求項4に記載の発明において、前記減厚溝の断面は、前記第2板材の端面のエッジに相当する位置において、滑らかに変化するようになっていることを特徴とする。これにより、形状が滑らかに変化するので、溶融境界で接線方向が急激に変化して境界に大きな力が作用することが防止される。
【0019】
請求項6に記載のT型継手の製造方法は、請求項5に記載の発明において、前記減厚溝の断面は、円弧状であることを特徴とする。これにより、断面円弧状の溝の形成は、機械加工が容易であり、加工コストを低減させる。
【0020】
請求項7に記載のT型継手の製造方法は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の発明において、前記第1板材は、流体機械の羽根車の主板又は側板であり、前記第2板材は、流体機械の羽根車の羽根であることを特徴とする。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、流体機械の羽根車の製造工程を大幅に簡素化し、高品質の羽根車を安価で製造することができる。
【0022】
請求項8に記載のT型継手の製造方法は、請求項7に記載の発明において、前記主板と側板は、それぞれ最終形状に近い形状で鋳造されたニアネットシェイプ材を機械加工して得ることを特徴とする。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、比較的簡単な形状に鋳造した部材を機械加工することで、鋳造材の内部品質及び表面品質の向上が図られ、また、加工及び素材コストの低減が図られる。
【0024】
請求項9に記載のT型継手の製造方法は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の発明において、前記第1板材の表面に酸化物系の溶接用フラックスを塗布することを特徴とする。
【0025】
請求項9に記載の発明によれば、酸化物系の溶接用フラックスが、アークを集中させるとともに、溶融池の酸素量を制御して深溶け込み作用を促進する。
【0026】
請求項10に記載のT型継手の製造方法は、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の発明において、溶接トーチの周囲に二重のガスシールドを形成し、外側のシールドガスに酸素源を添加することを特徴とする。
【0027】
請求項10に記載の発明によれば、トーチの周囲に形成した二重のガスシールドが、アークのエネルギーを集中させるとともに、溶融池の酸素量を制御して深溶け込み作用を促進する。
【0028】
請求項11に記載のT型継手の製造方法は、請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の発明において、溶接時に前記第1板材の裏面側に不活性ガスを供給することを特徴とする。
【0029】
請求項11に記載の発明によれば、前記第1板材の裏面側に供給された不活性ガスにより、特に、裏波のビード形状の不正や、酸化、割れの発生を防止する。
【0030】
請求項12に記載のT型継手は、表面、裏面を有する第1板材の裏面側に所定の角度で第2板材を当接させ、該第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行い、該第1板材と第2板材とを溶着させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
請求項1ないし請求項11に記載の発明によれば、小型ポンプの主板等と羽根の溶接部のような比較的厚肉材のT型継手の製造を、低コストかつ高品質に実施することができる。
【0032】
請求項12に記載の発明によれば、低コストで高品質のT型継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の方法を用いた小型ポンプの羽根車の(a)製造工程および(b)外観を説明する図である。
【図2】本発明のT型継手の製造方法の第1の実施の形態を説明する図である。
【図3】同じく、本発明のT型継手の製造方法の第2の実施の形態を説明する図である。
【図4】本発明のT型継手の製造方法における減厚溝を説明する図である。
【図5】(a)及び(b)は、減厚溝を詳しく説明する図である。
【図6】(a)及び(b)は、減厚溝の他の実施の形態を説明する図である。
【図7】本発明の実施例のT型継手の断面組織を示す図である。
【図8】本発明の他の実施例のT型継手の断面組織を示す図である。
【図9】図8の実施例の溶接部の断面における硬度試験結果を示すグラフである。
【図10】従来の隅肉溶接法によるT型継手の断面組織を示す図である。
【図11】図10の従来法によるT型継手の溶接部の断面における硬度試験結果を示すグラフである。
【図12】本発明のT型継手の製造方法により製造したポンプ用羽根車の(a)外観を示す図、(b)要部を拡大して示す図である。
【図13】本発明の方法による羽根車の製造方法を示す図である。
【図14】本発明の他の実施の形態の方法による羽根車の製造方法を示す図である。
【図15】鋳造による羽根車の製造方法を示す図である。
【図16】(a)〜(d)はそれぞれ従来又は想定される溶接方法を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、素材がオーステナイト系のステンレス鋼のようにフラックスの効果が大きく溶け込みも深い場合で、側板(第1の板材)12の厚さが5mm程度以下の場合の小型ポンプ用の羽根車10の製造方法を示す。この方法では、図1(a)に示すように、側板(第1の板材)12と、表面に羽根(第2の板材)14を削り出し加工した主板16とを準備している。側板12と、羽根14を有する主板16の作製方法は適宜に採用する。そして、所定の治具を用いて側板12の裏面と羽根14の端面を密着させ、図1(b)に示すように互いに固定した状態とする。
【0035】
次に、図2(a)に羽根14に直交する方向から見た断面を示すように、当接部の側板12の表面側から溶接トーチ20を当てて、突き合わせ線(溶接線)18に沿ってアーク又はプラズマ溶接を行う。これにより、溶接線18に沿って溶接ビードが形成される。溶接トーチ20は、電極22の周囲に不活性ガスGを供給するようにした管状構造であり、電極22へ印加する電圧、電流、シールドガス流路等についての溶接条件下で、人手または自動溶接装置(ロボット)により突き合わせ面(溶接線)に沿って移動させつつ溶接を行う。不活性ガスGは、トーチから表面に供給する他に、裏波ビード部をシールするために裏面側にも別途供給する。
【0036】
この溶接は、図16の(a)、(b)に示すような切り欠いた開先に肉盛するものではなく、側板12と羽根14のそれぞれの母材を溶融させて互いに融着させる貫通溶接である。すなわち、アーク熱が、第1の板材12を溶融し、これを貫通してさらに第2の板材14の端部を溶融させる。これにより、図2(a)で斜線ハッチングで示すような第1の板材12と第2の板材の端部を含む溶融池24が形成される。これが冷却すると、図2(b)に示すように、側板12の表面側が重力で多少凹んだ溶接ビード26が形成され、裏面側の板材の接合する角部には、溶接金属24が適当な曲率を持って凸となる裏波28が形成される。
【0037】
ここで、従来のTIG溶接では、板厚が2mm未満の場合、板が薄すぎて裏波ビードによるフィレットが確保できない。また、板厚が2〜4mmの場合、通常の溶接では溶け込みが浅いため、均一な裏波が確保できない。溶け込みを大きくするため電流を上げても溶け込みは横に広がるのみで深くはならず、その結果、溶融部の溶け落ちが起こる。このため、通常の溶接の場合よりアークを狭い範囲に集中させて溶け込み深さを大きくする、いわゆる深溶け込み法を用いることが必要である。以下、一般的に用いられているTIG溶接法において深溶け込み法を実施する方法について詳しく説明する。
【0038】
(1)A−TIG(Active Flux TIG)
図2に示すように、金属酸化物を主成分とするフラックス30を被溶接材の表面に塗布してアーク溶接を行うことにより、アークの発生および熱の発散をコントロールして、深溶け込みを実現する方法である。アーク溶接の不利点を補う方法として開発された方法であるが、これを本発明の貫通溶接に適用することができる。フラックス30の成分としては、TiO2 、Cr2 O3 、SiO2等が好適である。このようなフラックス30が有効である理由は、フラックス30が溶接時に表面を被覆してアーク発生を集中させること、および溶融池の酸素量を増加させて溶融池における対流を反転させる効果があるためであると言われている。
【0039】
(2)AA−TIG(Advanced A-TIG)
A−TIG法はフラックスの材料コスト、塗布作業コスト等が掛かることに鑑み、より簡素な方法として、電極の周囲から溶剤等部に向けて噴射するシールドガスGに酸化成分(O2やCO2)を添加する方法が提案されている。例えば、Ar+0.3〜0.5%O2またはAr+0.3〜0.5%CO2が有効である。この方法ではフラックスを用いずに製造できるので、コスト低下が可能である。
【0040】
(3)二重シールドTIG
AA−TIGは電極の酸化による消耗を起こすことから開発された。これは図3に示すように、二重管構造の溶接トーチ32の内側からは通常のシールドガスGを、外側からは酸化成分を含むシールドガスG2を供給する。これにより、溶融池24への酸素供給を確保するとともに、エネルギーのさらなる集中による深溶け込みを達成することができる。なお、本発明では、上述した方法の他、適宜の深溶け込み手法を採用することができる。
【0041】
次に、側板12の板厚が5mm以上の場合には、深溶け込み手法を用いても裏波ビードによるフィレットの形成は難しいので、図4に概略を示すように、側板12の羽根14との突き合わせ箇所の表面側に減厚溝60を加工することにより、溶接部を局部的に減厚する。減厚溝60の底部の幅wは羽根14の厚さt2より大きく設定され、それにより、溶接の際に溶融金属が裏波28を形成するようになっている。減厚溝60は、貫通溶接後に肉盛溶接して埋める。
【0042】
以下にさらに詳しく減厚溝60の形状、寸法について説明する。なお、以下の例では、羽根14の厚さ(t2)5mmに対して側板12の板厚(t1)が10mm程度である場合を想定している。図5(a)は、減厚溝60の断面形状がほぼ台形である場合を示している。減厚溝60の底部は中央が平坦であり、底部と側部の間の隅部は、円弧状部分により滑らかに接続されている。溶接の際に溶融する底部の幅(w)は、羽根14の厚さ(t2)より大きくなるように設定されている。また、平坦な底部の厚さ(t0)は、溶接の際に第1部材の底部と第2部材の端面を含む頂部が充分に溶融する程度(この例では2mm)に設定されている。羽根14の端面のエッジ62の上部では、第1部材の底部は円弧状部分となっており、底部は減厚溝60の中央から外方に向かうに従い厚さが上昇するので、溶接の際に中央から外方に向かうに従い徐々に単位入熱量が少なくなり、中央の溶融部の両側に未溶融部が形成されやすくなる。
【0043】
このような構成により、溶融部が未溶融部分によって安定に支持され、溶融部が重力によりやや下降した後に凝固し、裏波を含む欠陥の無い溶融金属を形成する。また、中央から外方に向かうに従い厚さが上昇する未溶融部の形成により、溶融金属が未溶融部分から切り離される(溶落ち)ことが起きにくい。図5(b)は、図5(a)とほぼ同じ形状の減厚溝60が形成されているが、断面が不連続な直線で形成されている。この例でも上述した例の作用効果を奏するが、溶融部を安定的に保持する作用は多少損なわれると思われる。
【0044】
図6(a)は、減厚溝60の断面形状が半円形である場合を示している。図6(b)に示すように、溶接の際に溶融する底部の幅(w)は、羽根14の厚さ(t2)より大きくなるように設定されている。底部の最小厚さ(t0)は、溶接の際に第1部材の底部と第2部材の端面を含む頂部が充分に溶融する程度に設定されている。この例も、良好な形状の裏波28が形成される等、先の図5(a)の例と同様の作用効果を奏する。また、この例では、減厚溝60の断面が円形であるので、回転工具のみで形成することができ、溝の加工が大幅に容易になるという利点がある。もちろん、半円形でなくても、部分的な円弧状溝であればよく、深さと幅を適宜に設定できる。
【0045】
(実施例1)
(1)A−TIG法を用いて、オーステナイト系ステンレス綱(18Cr-8Ni)、マルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)について、それぞれ板厚5mmの第1板材と第2板材の試験片を直交させたT型継手を貫通溶接により作成した。また、素材がマルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)であって、第1板材の板厚が10mmの場合について、図6(a)に示す溝加工を行って第1板材の最小板厚(t0)を2mmまで減厚して貫通溶接を実施した。
【0046】
フラックスは、TiO2 、Cr2 O3 、SiO2系のTIG用深溶け込み剤であるスピーディグF(商品名:株式会社タセト社製)を用いた。溶接条件を表1に、フラックスの成分を表2に、それぞれ示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
板厚5mmのオーステナイト系ステンレス綱の断面組織は図7(a)に示すように健全であり、裏波の形成も隅肉溶接と同程度であった。板厚5mmのマルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)については、図7(b)に示すように、磁界の影響でアークが偏向する磁気吹き現象が見られた。
【0050】
板厚10mmの減厚溝60付きマルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)については、図8に示すように健全な溶接組織が得られた。この継手について、断面での硬度試験を行った。結果を図9に示す。また、比較例として、隅肉溶接を行った場合の断面組織と硬度試験結果を図10および図11に示す。この実施例の硬度は、全て溶融金属の硬度を示しており、隅肉溶接と比較しても問題が無いと考えられる。
【0051】
(実施例2)
マルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)を素材とし、羽根を形成した主板を鋳造し、これに圧延材を加工した側板を第1板材として、図1と同様の方法で貫通溶接を行い、羽根車を製造した。深溶け込み手法としては、実施例1と同様のA−TIG法を用いた。溶接条件を表3に示す。フラックスは実施例1と同じである。溶接は、溶接用ロボットをティーチングすることにより実施した。
【表3】
【0052】
溶接後に仕上げ加工を行った状態の側板上の溶接ビードの外観を図12(a)に、また、羽根車端面部における羽根と側板の断面を図12(b)に示す。欠陥の無い良好なビードが得られた。
【0053】
以上説明したように、この発明のT型継手の製造方法により、小型ポンプの主板等と羽根の溶接部のような比較的肉厚の板材のT型継手の製造を、低コストかつ高品質に実施することができるようになった。以下に、このT型継手の製造方法を用いて小型ポンプ等の流体機械を製造する方法を説明する。
【0054】
図13は、鍛造した鋼材を切削加工して主板16と側板12の形状とし、さらにその一方(図では主板)に翼(羽根)の削出し加工をする。そして、主板と側板とを溶接により接合して一体化した後、仕上げ加工して製品とする。この製造方法では、素材の欠陥はほとんどなく、削り出しで翼形状の加工を行うので、設計通りの寸法・形状にすることが可能。加工面も滑らかであるため、性能が高い羽根車を製造することができる。一方、鍛造素材が高価であり、また、削出し加工の量が多いために、加工費、材料費ともに嵩むので、製造コストは比較的高い。
【0055】
図14は、鍛造した鋼材の代わりに、主板16と側板12の形状に近い形状であって必要な全表面に加工しろを設けた形状(ニアネットシェイプ)に鋳造した素材を用いるものである。先の場合と同様に、これらの素材を切削加工して主板16と側板12の形状とし、さらにその一方(図では主板)に翼(羽根)の削出し加工をする。そして、主板と側板とを溶接により接合して一体化した後、仕上げ加工して製品とする。
【0056】
この製造方法では、全表面が機械加工されるので、表面は滑らかでばらつきが少ない、設計通りの形状が得られる。また、素材は鋳造でも、主板と側板を別に鋳込むので、鋳造が簡単で内在欠陥がほとんどできない。そして、最終形状に近い形で主板と側板の素材を作るので、機械加工の量が少なく、素材費、加工費ともに鍛造材を使うより大幅に安くできる。
【符号の説明】
【0057】
12 主板(第1板材)
14 羽根(第2板材)
16 側板
18 溶接線
20 溶接トーチ
22 電極
24 溶融池
26 溶接ビード
28 裏波
30 フラックス
32 二重管溶接トーチ
60 減厚溝
62 エッジ
G、G2 シールドガス
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば比較的小型の流体機械の羽根車の主板又は側板と羽根のような複雑な構造を溶接するために好適なT型継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型ポンプ用の羽根車は、従来、図15に示すように、大型のものと同様に鋳造で製造されていた。この場合、最終形状に近い形に鋳造するので、製品当たりの製造工程が少なくコストが安い。しかしながら、このような小型で複雑な形状の製品の鋳造は、中子が薄いので変形や割れが生じやすく、またガスが抜けにくいので欠陥が発生しやすい、といった鋳造自体の困難性がある。本来、羽根車の性能には、寸法精度や表面粗さが大きな影響を及ぼすが、一体物の鋳物は流路面が鋳肌になるので、表面が粗い。また、凝固収縮による寸法の変化があるので、設計通りの寸法を得ることが困難である。さらに、中空形状の鋳物を作るには中子を使わなければならないが、中子のずれにより肉厚・寸法を狙い通りにすることが難しい。内部流路にグラインダが入りにくいので鋳造後の内表面の仕上げ作業も困難であり、狭い流路面の手直しや修正加工はできず、性能に及ぼす上記の影響を回避できない。特に、翼(羽根)高さが小さい羽根車は鋳造が難しく不良率が高いことなどの問題がある。このため、鋳造後の廃却率が高くなり、納期遅れやコスト高の原因となっていた。
【0003】
そこで、このような閉鎖的な空間を持つ構造の鋳造が困難なことに鑑み、羽根車を構成する部品である主板と側板を個別に製造し、これらを溶接することで一体化する製造方法が考えられる(図13参照)。この場合、主板と側板の一体化は、一方に形成した翼14の端面を他方の主板(又は側板)12の裏面に突き合わせて行うが、裏面側は閉鎖空間に近いので、図16(d)に示すような、裏面側からの隅肉溶接56を形成するのは困難で、主板(又は側板)12の表面側からしか行えない。このような場合に採用される従来の方法を、図16(a)〜(c)の開先形状図を参照して説明する。なお、ここでは、口径150mm以下の羽根車を製造する場合で、主板又は側板の板厚は5mm程度としている。
【0004】
同図(a)および(b)は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接方法を用いるもので、主板または側板(第1板材)12に板厚方向に貫通するスリット50、52を形成し、これにより羽根(第2板材)14の先端との間に形成される開先に肉盛り溶接する方法である。(a)の方法は板の全厚を開先とするもので、溶接部54が深く、トーチ侵入のためにスリット50の断面形状が上広がりとなるため、加工量が増え、機械加工のための費用が高くなる。また、溶接の肉盛量が多いため、溶接作業に時間を要し、作業コストが高くなるとともに、溶接熱による歪みの発生も大きい。
【0005】
一方、(b)の方法では、羽根の先端をスリット52内に所定長さだけ進入させて開先を形成しており、溶接部54の深さが小さいので、スリット52をレーザ加工することが可能で加工費用は安いが、裏面側で裏波が形成されず、溶接の品質はよくない。また、板厚方向の位置決め、すなわち進入深さの調整作業に手間が掛かるという難点がある。
【0006】
一方、同図(c)は、主板または側板の裏面に羽根を突き合わせ、表面側から、レーザまたは電子ビームを照射して、その溶け込み深さが大きいことを利用したいわゆる貫通溶接を行うものである。レーザまたは電子ビームを用いる貫通溶接は、板厚の小さい電子部品等の場合に良く用いられている。特許文献1に示すように、この方法では、スリットを形成するための加工工程に要する費用を省くことができる。しかしながら、これらの方法はアークやプラズマを用いる方法と比較して一般に設備コストが高く、特に板厚が大きい場合には大きな入熱が必要であるので、一層それが顕著となる。また、入熱量が少ないので、溶込みも少なく、良好な形状の裏波を形成するのは難しい。
【0007】
そこで、同図(e)に示すように、アーク又はプラズマ溶接を用いて、表面側から貫通溶接を行うことが考えられる。しかしながら、大きな板厚の上板を貫通し、さらに良好な裏波を出すのは必ずしも容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−334680号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、溶接設備として一般的でコストが安いアーク溶接やプラズマ溶接法を用いて安価にかつ高品質なT字継手を形成することができるようなT型継手の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のT型継手の製造方法は、第1板材の裏面側に所定の角度で第2板材の端面を当接させ、該第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行い、該アーク又はプラズマ溶接熱により第1板材を貫通して第2板材の端面部分を溶融させ、これらを溶着させることによって溶接継手を形成することを特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、一般的アーク又はプラズマ溶接法において貫通溶接を行い、第1板材と第2板材を第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接して、これらを溶着させることで、複雑でコストの掛かる開先形成や多層の肉盛等の作業を排除し、低コストで高品質のT型継手を提供する。
【0012】
請求項2に記載のT型継手の製造方法は、請求項1に記載の発明において、事前に前記第1板材の前記第2板材が当接する部分に減厚溝を加工し、該減厚溝に沿って溶接を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、第1板材の板厚がアーク又はプラズマ溶接の溶け込み深さを上回るほど大きい場合でも、一般的アーク又はプラズマ溶接法を用いて貫通溶接を行う際に、比較的簡単な加工のみで、第2板材の端面まで充分に入熱してこれを溶融させ、欠陥の無い継手を形成させる。これにより、複雑な開先形成や多層の肉盛等の作業を排除し、低コストで高品質のT型継手を提供する。
【0014】
請求項3に記載のT型継手の製造方法は、請求項2に記載の発明において、前記減厚溝の底部の幅は前記第2板材の厚さより大きく設定され、それにより、溶接の際に、前記第2板材が前記第1板材の裏面に接する箇所において溶融した金属が裏波ビードを形成することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、第2板材の端面のエッジ部分の上部において第1板材が充分に溶融するとともに、第2板材の端面のエッジ部分も充分な入熱が供給され、これにより、第1板材裏面と第2板材端面のエッジ部分とが交差する隅部に良好な裏波ビードが形成される。
【0016】
請求項4に記載のT型継手の製造方法は、請求項3に記載の発明において、前記減厚溝の断面は、前記第2板材の端面のエッジに相当する位置において、該減厚溝の中央から外方に向かうに従い厚さが上昇するようになっていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、第2板材の端面のエッジに相当する位置において、減厚溝の中央側が溶融しやすく、外側は溶融しにくいので、中央側の溶融金属が外側部分により保持され、表面張力によって形状を維持し、当該部分における割れや溶け落ちの発生を防ぎ、欠陥の無い溶接部を形成する。
【0018】
請求項5に記載のT型継手の製造方法は、請求項4に記載の発明において、前記減厚溝の断面は、前記第2板材の端面のエッジに相当する位置において、滑らかに変化するようになっていることを特徴とする。これにより、形状が滑らかに変化するので、溶融境界で接線方向が急激に変化して境界に大きな力が作用することが防止される。
【0019】
請求項6に記載のT型継手の製造方法は、請求項5に記載の発明において、前記減厚溝の断面は、円弧状であることを特徴とする。これにより、断面円弧状の溝の形成は、機械加工が容易であり、加工コストを低減させる。
【0020】
請求項7に記載のT型継手の製造方法は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の発明において、前記第1板材は、流体機械の羽根車の主板又は側板であり、前記第2板材は、流体機械の羽根車の羽根であることを特徴とする。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、流体機械の羽根車の製造工程を大幅に簡素化し、高品質の羽根車を安価で製造することができる。
【0022】
請求項8に記載のT型継手の製造方法は、請求項7に記載の発明において、前記主板と側板は、それぞれ最終形状に近い形状で鋳造されたニアネットシェイプ材を機械加工して得ることを特徴とする。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、比較的簡単な形状に鋳造した部材を機械加工することで、鋳造材の内部品質及び表面品質の向上が図られ、また、加工及び素材コストの低減が図られる。
【0024】
請求項9に記載のT型継手の製造方法は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の発明において、前記第1板材の表面に酸化物系の溶接用フラックスを塗布することを特徴とする。
【0025】
請求項9に記載の発明によれば、酸化物系の溶接用フラックスが、アークを集中させるとともに、溶融池の酸素量を制御して深溶け込み作用を促進する。
【0026】
請求項10に記載のT型継手の製造方法は、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の発明において、溶接トーチの周囲に二重のガスシールドを形成し、外側のシールドガスに酸素源を添加することを特徴とする。
【0027】
請求項10に記載の発明によれば、トーチの周囲に形成した二重のガスシールドが、アークのエネルギーを集中させるとともに、溶融池の酸素量を制御して深溶け込み作用を促進する。
【0028】
請求項11に記載のT型継手の製造方法は、請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の発明において、溶接時に前記第1板材の裏面側に不活性ガスを供給することを特徴とする。
【0029】
請求項11に記載の発明によれば、前記第1板材の裏面側に供給された不活性ガスにより、特に、裏波のビード形状の不正や、酸化、割れの発生を防止する。
【0030】
請求項12に記載のT型継手は、表面、裏面を有する第1板材の裏面側に所定の角度で第2板材を当接させ、該第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行い、該第1板材と第2板材とを溶着させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
請求項1ないし請求項11に記載の発明によれば、小型ポンプの主板等と羽根の溶接部のような比較的厚肉材のT型継手の製造を、低コストかつ高品質に実施することができる。
【0032】
請求項12に記載の発明によれば、低コストで高品質のT型継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の方法を用いた小型ポンプの羽根車の(a)製造工程および(b)外観を説明する図である。
【図2】本発明のT型継手の製造方法の第1の実施の形態を説明する図である。
【図3】同じく、本発明のT型継手の製造方法の第2の実施の形態を説明する図である。
【図4】本発明のT型継手の製造方法における減厚溝を説明する図である。
【図5】(a)及び(b)は、減厚溝を詳しく説明する図である。
【図6】(a)及び(b)は、減厚溝の他の実施の形態を説明する図である。
【図7】本発明の実施例のT型継手の断面組織を示す図である。
【図8】本発明の他の実施例のT型継手の断面組織を示す図である。
【図9】図8の実施例の溶接部の断面における硬度試験結果を示すグラフである。
【図10】従来の隅肉溶接法によるT型継手の断面組織を示す図である。
【図11】図10の従来法によるT型継手の溶接部の断面における硬度試験結果を示すグラフである。
【図12】本発明のT型継手の製造方法により製造したポンプ用羽根車の(a)外観を示す図、(b)要部を拡大して示す図である。
【図13】本発明の方法による羽根車の製造方法を示す図である。
【図14】本発明の他の実施の形態の方法による羽根車の製造方法を示す図である。
【図15】鋳造による羽根車の製造方法を示す図である。
【図16】(a)〜(d)はそれぞれ従来又は想定される溶接方法を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、素材がオーステナイト系のステンレス鋼のようにフラックスの効果が大きく溶け込みも深い場合で、側板(第1の板材)12の厚さが5mm程度以下の場合の小型ポンプ用の羽根車10の製造方法を示す。この方法では、図1(a)に示すように、側板(第1の板材)12と、表面に羽根(第2の板材)14を削り出し加工した主板16とを準備している。側板12と、羽根14を有する主板16の作製方法は適宜に採用する。そして、所定の治具を用いて側板12の裏面と羽根14の端面を密着させ、図1(b)に示すように互いに固定した状態とする。
【0035】
次に、図2(a)に羽根14に直交する方向から見た断面を示すように、当接部の側板12の表面側から溶接トーチ20を当てて、突き合わせ線(溶接線)18に沿ってアーク又はプラズマ溶接を行う。これにより、溶接線18に沿って溶接ビードが形成される。溶接トーチ20は、電極22の周囲に不活性ガスGを供給するようにした管状構造であり、電極22へ印加する電圧、電流、シールドガス流路等についての溶接条件下で、人手または自動溶接装置(ロボット)により突き合わせ面(溶接線)に沿って移動させつつ溶接を行う。不活性ガスGは、トーチから表面に供給する他に、裏波ビード部をシールするために裏面側にも別途供給する。
【0036】
この溶接は、図16の(a)、(b)に示すような切り欠いた開先に肉盛するものではなく、側板12と羽根14のそれぞれの母材を溶融させて互いに融着させる貫通溶接である。すなわち、アーク熱が、第1の板材12を溶融し、これを貫通してさらに第2の板材14の端部を溶融させる。これにより、図2(a)で斜線ハッチングで示すような第1の板材12と第2の板材の端部を含む溶融池24が形成される。これが冷却すると、図2(b)に示すように、側板12の表面側が重力で多少凹んだ溶接ビード26が形成され、裏面側の板材の接合する角部には、溶接金属24が適当な曲率を持って凸となる裏波28が形成される。
【0037】
ここで、従来のTIG溶接では、板厚が2mm未満の場合、板が薄すぎて裏波ビードによるフィレットが確保できない。また、板厚が2〜4mmの場合、通常の溶接では溶け込みが浅いため、均一な裏波が確保できない。溶け込みを大きくするため電流を上げても溶け込みは横に広がるのみで深くはならず、その結果、溶融部の溶け落ちが起こる。このため、通常の溶接の場合よりアークを狭い範囲に集中させて溶け込み深さを大きくする、いわゆる深溶け込み法を用いることが必要である。以下、一般的に用いられているTIG溶接法において深溶け込み法を実施する方法について詳しく説明する。
【0038】
(1)A−TIG(Active Flux TIG)
図2に示すように、金属酸化物を主成分とするフラックス30を被溶接材の表面に塗布してアーク溶接を行うことにより、アークの発生および熱の発散をコントロールして、深溶け込みを実現する方法である。アーク溶接の不利点を補う方法として開発された方法であるが、これを本発明の貫通溶接に適用することができる。フラックス30の成分としては、TiO2 、Cr2 O3 、SiO2等が好適である。このようなフラックス30が有効である理由は、フラックス30が溶接時に表面を被覆してアーク発生を集中させること、および溶融池の酸素量を増加させて溶融池における対流を反転させる効果があるためであると言われている。
【0039】
(2)AA−TIG(Advanced A-TIG)
A−TIG法はフラックスの材料コスト、塗布作業コスト等が掛かることに鑑み、より簡素な方法として、電極の周囲から溶剤等部に向けて噴射するシールドガスGに酸化成分(O2やCO2)を添加する方法が提案されている。例えば、Ar+0.3〜0.5%O2またはAr+0.3〜0.5%CO2が有効である。この方法ではフラックスを用いずに製造できるので、コスト低下が可能である。
【0040】
(3)二重シールドTIG
AA−TIGは電極の酸化による消耗を起こすことから開発された。これは図3に示すように、二重管構造の溶接トーチ32の内側からは通常のシールドガスGを、外側からは酸化成分を含むシールドガスG2を供給する。これにより、溶融池24への酸素供給を確保するとともに、エネルギーのさらなる集中による深溶け込みを達成することができる。なお、本発明では、上述した方法の他、適宜の深溶け込み手法を採用することができる。
【0041】
次に、側板12の板厚が5mm以上の場合には、深溶け込み手法を用いても裏波ビードによるフィレットの形成は難しいので、図4に概略を示すように、側板12の羽根14との突き合わせ箇所の表面側に減厚溝60を加工することにより、溶接部を局部的に減厚する。減厚溝60の底部の幅wは羽根14の厚さt2より大きく設定され、それにより、溶接の際に溶融金属が裏波28を形成するようになっている。減厚溝60は、貫通溶接後に肉盛溶接して埋める。
【0042】
以下にさらに詳しく減厚溝60の形状、寸法について説明する。なお、以下の例では、羽根14の厚さ(t2)5mmに対して側板12の板厚(t1)が10mm程度である場合を想定している。図5(a)は、減厚溝60の断面形状がほぼ台形である場合を示している。減厚溝60の底部は中央が平坦であり、底部と側部の間の隅部は、円弧状部分により滑らかに接続されている。溶接の際に溶融する底部の幅(w)は、羽根14の厚さ(t2)より大きくなるように設定されている。また、平坦な底部の厚さ(t0)は、溶接の際に第1部材の底部と第2部材の端面を含む頂部が充分に溶融する程度(この例では2mm)に設定されている。羽根14の端面のエッジ62の上部では、第1部材の底部は円弧状部分となっており、底部は減厚溝60の中央から外方に向かうに従い厚さが上昇するので、溶接の際に中央から外方に向かうに従い徐々に単位入熱量が少なくなり、中央の溶融部の両側に未溶融部が形成されやすくなる。
【0043】
このような構成により、溶融部が未溶融部分によって安定に支持され、溶融部が重力によりやや下降した後に凝固し、裏波を含む欠陥の無い溶融金属を形成する。また、中央から外方に向かうに従い厚さが上昇する未溶融部の形成により、溶融金属が未溶融部分から切り離される(溶落ち)ことが起きにくい。図5(b)は、図5(a)とほぼ同じ形状の減厚溝60が形成されているが、断面が不連続な直線で形成されている。この例でも上述した例の作用効果を奏するが、溶融部を安定的に保持する作用は多少損なわれると思われる。
【0044】
図6(a)は、減厚溝60の断面形状が半円形である場合を示している。図6(b)に示すように、溶接の際に溶融する底部の幅(w)は、羽根14の厚さ(t2)より大きくなるように設定されている。底部の最小厚さ(t0)は、溶接の際に第1部材の底部と第2部材の端面を含む頂部が充分に溶融する程度に設定されている。この例も、良好な形状の裏波28が形成される等、先の図5(a)の例と同様の作用効果を奏する。また、この例では、減厚溝60の断面が円形であるので、回転工具のみで形成することができ、溝の加工が大幅に容易になるという利点がある。もちろん、半円形でなくても、部分的な円弧状溝であればよく、深さと幅を適宜に設定できる。
【0045】
(実施例1)
(1)A−TIG法を用いて、オーステナイト系ステンレス綱(18Cr-8Ni)、マルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)について、それぞれ板厚5mmの第1板材と第2板材の試験片を直交させたT型継手を貫通溶接により作成した。また、素材がマルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)であって、第1板材の板厚が10mmの場合について、図6(a)に示す溝加工を行って第1板材の最小板厚(t0)を2mmまで減厚して貫通溶接を実施した。
【0046】
フラックスは、TiO2 、Cr2 O3 、SiO2系のTIG用深溶け込み剤であるスピーディグF(商品名:株式会社タセト社製)を用いた。溶接条件を表1に、フラックスの成分を表2に、それぞれ示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
板厚5mmのオーステナイト系ステンレス綱の断面組織は図7(a)に示すように健全であり、裏波の形成も隅肉溶接と同程度であった。板厚5mmのマルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)については、図7(b)に示すように、磁界の影響でアークが偏向する磁気吹き現象が見られた。
【0050】
板厚10mmの減厚溝60付きマルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)については、図8に示すように健全な溶接組織が得られた。この継手について、断面での硬度試験を行った。結果を図9に示す。また、比較例として、隅肉溶接を行った場合の断面組織と硬度試験結果を図10および図11に示す。この実施例の硬度は、全て溶融金属の硬度を示しており、隅肉溶接と比較しても問題が無いと考えられる。
【0051】
(実施例2)
マルテンサイト系ステンレス綱(13Cr-4Ni)を素材とし、羽根を形成した主板を鋳造し、これに圧延材を加工した側板を第1板材として、図1と同様の方法で貫通溶接を行い、羽根車を製造した。深溶け込み手法としては、実施例1と同様のA−TIG法を用いた。溶接条件を表3に示す。フラックスは実施例1と同じである。溶接は、溶接用ロボットをティーチングすることにより実施した。
【表3】
【0052】
溶接後に仕上げ加工を行った状態の側板上の溶接ビードの外観を図12(a)に、また、羽根車端面部における羽根と側板の断面を図12(b)に示す。欠陥の無い良好なビードが得られた。
【0053】
以上説明したように、この発明のT型継手の製造方法により、小型ポンプの主板等と羽根の溶接部のような比較的肉厚の板材のT型継手の製造を、低コストかつ高品質に実施することができるようになった。以下に、このT型継手の製造方法を用いて小型ポンプ等の流体機械を製造する方法を説明する。
【0054】
図13は、鍛造した鋼材を切削加工して主板16と側板12の形状とし、さらにその一方(図では主板)に翼(羽根)の削出し加工をする。そして、主板と側板とを溶接により接合して一体化した後、仕上げ加工して製品とする。この製造方法では、素材の欠陥はほとんどなく、削り出しで翼形状の加工を行うので、設計通りの寸法・形状にすることが可能。加工面も滑らかであるため、性能が高い羽根車を製造することができる。一方、鍛造素材が高価であり、また、削出し加工の量が多いために、加工費、材料費ともに嵩むので、製造コストは比較的高い。
【0055】
図14は、鍛造した鋼材の代わりに、主板16と側板12の形状に近い形状であって必要な全表面に加工しろを設けた形状(ニアネットシェイプ)に鋳造した素材を用いるものである。先の場合と同様に、これらの素材を切削加工して主板16と側板12の形状とし、さらにその一方(図では主板)に翼(羽根)の削出し加工をする。そして、主板と側板とを溶接により接合して一体化した後、仕上げ加工して製品とする。
【0056】
この製造方法では、全表面が機械加工されるので、表面は滑らかでばらつきが少ない、設計通りの形状が得られる。また、素材は鋳造でも、主板と側板を別に鋳込むので、鋳造が簡単で内在欠陥がほとんどできない。そして、最終形状に近い形で主板と側板の素材を作るので、機械加工の量が少なく、素材費、加工費ともに鍛造材を使うより大幅に安くできる。
【符号の説明】
【0057】
12 主板(第1板材)
14 羽根(第2板材)
16 側板
18 溶接線
20 溶接トーチ
22 電極
24 溶融池
26 溶接ビード
28 裏波
30 フラックス
32 二重管溶接トーチ
60 減厚溝
62 エッジ
G、G2 シールドガス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1板材の裏面側に所定の角度で第2板材の端面を当接させ、
該第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行い、該アーク又はプラズマ溶接熱により第1板材を貫通して第2板材の端面部分を溶融させ、これらを溶着させることによって溶接継手を形成することを特徴とするT型継手の製造方法。
【請求項2】
事前に前記第1板材の前記第2板材が当接する部分に減厚溝を加工し、該減厚溝に沿って溶接を行うことを特徴とする請求項1に記載のT型継手の製造方法。
【請求項3】
前記減厚溝の底部の幅は前記第2板材の厚さより大きく設定され、それにより、溶接の際に、前記第2板材が前記第1板材の裏面に接する箇所において溶融した金属が裏波ビードを形成することを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記減厚溝の断面は、前記第2板材の端面のエッジに相当する位置において、該減厚溝の中央から外方に向かうに従い厚さが上昇するようになっていることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記減厚溝の断面は、前記第2板材の端面のエッジに相当する位置において、滑らかに変化するようになっていることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記減厚溝の断面は、円弧状であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1板材は、流体機械の羽根車の主板又は側板であり、前記第2板材は、流体機械の羽根車の羽根であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のT型継手の製造方法。
【請求項8】
前記主板と側板は、それぞれ最終形状に近い形状で鋳造されたニアネットシェイプ材を機械加工して得ることを特徴とする請求項7に記載のT型継手の製造方法。
【請求項9】
前記第1板材の表面に酸化物系の溶接用フラックスを塗布することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のT型継手の製造方法。
【請求項10】
溶接トーチの周囲に二重のガスシールドを形成し、外側のシールドガスに酸素源を添加することを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のT型継手の製造方法。
【請求項11】
溶接時に前記第1板材の裏面側に不活性ガスを供給することを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のT型継手の製造方法。
【請求項12】
表面、裏面を有する第1板材の裏面側に所定の角度で第2板材を当接させ、該第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行い、該第1板材と第2板材とを溶着させたことを特徴とするT型継手。
【請求項1】
第1板材の裏面側に所定の角度で第2板材の端面を当接させ、
該第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行い、該アーク又はプラズマ溶接熱により第1板材を貫通して第2板材の端面部分を溶融させ、これらを溶着させることによって溶接継手を形成することを特徴とするT型継手の製造方法。
【請求項2】
事前に前記第1板材の前記第2板材が当接する部分に減厚溝を加工し、該減厚溝に沿って溶接を行うことを特徴とする請求項1に記載のT型継手の製造方法。
【請求項3】
前記減厚溝の底部の幅は前記第2板材の厚さより大きく設定され、それにより、溶接の際に、前記第2板材が前記第1板材の裏面に接する箇所において溶融した金属が裏波ビードを形成することを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記減厚溝の断面は、前記第2板材の端面のエッジに相当する位置において、該減厚溝の中央から外方に向かうに従い厚さが上昇するようになっていることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記減厚溝の断面は、前記第2板材の端面のエッジに相当する位置において、滑らかに変化するようになっていることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記減厚溝の断面は、円弧状であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1板材は、流体機械の羽根車の主板又は側板であり、前記第2板材は、流体機械の羽根車の羽根であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のT型継手の製造方法。
【請求項8】
前記主板と側板は、それぞれ最終形状に近い形状で鋳造されたニアネットシェイプ材を機械加工して得ることを特徴とする請求項7に記載のT型継手の製造方法。
【請求項9】
前記第1板材の表面に酸化物系の溶接用フラックスを塗布することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のT型継手の製造方法。
【請求項10】
溶接トーチの周囲に二重のガスシールドを形成し、外側のシールドガスに酸素源を添加することを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のT型継手の製造方法。
【請求項11】
溶接時に前記第1板材の裏面側に不活性ガスを供給することを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のT型継手の製造方法。
【請求項12】
表面、裏面を有する第1板材の裏面側に所定の角度で第2板材を当接させ、該第1板材の表面側からアーク又はプラズマ溶接を行い、該第1板材と第2板材とを溶着させたことを特徴とするT型継手。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−255172(P2009−255172A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73746(P2009−73746)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
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