説明

T溝への取付具

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は被取付部材に連続的に形成されたT溝の任意の位置に取り付けられる簡易な取付具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、被取付部材50上に取付物52を取り付ける場合、図7のように被取付部材50に連続的にT溝51を形成し、このT溝51を利用して取付物52を任意の位置にネジ止めするようにしたものがある。この場合、T溝51には予めナット53を摺動自在に収納しておき、所定の取付位置までナット53を移動させ、ここで上方からネジ54を取付物52を介してナット53に螺合させることにより、ネジ54とナット53とで取付物52と被取付部材50とを締め付け固定している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記のようにネジ止めを行うのは作業上面倒であり、特にナット53がT溝51内で保持されていないので、ネジ止めの際にネジ54とナット53の位置合わせを手探りで行わなければならず、時間がかかる。また、ナット53はT溝51の上方から後で挿入することができないため、T溝51内に予めナット53を挿入しておかなければならない。そのため、手順を誤ってナット53の挿入を忘れると、取付不能となり、また追加取付が必要な場合に備えて予備のナット53をT溝51内に挿入しておかなければならず、その個数が多過ぎると余りが生じ、少な過ぎると不足が発生しやすい。そこで、本発明の目的は、従来のようなネジ止めをなくし、作業性を改善するとともに、追加取付が容易なT溝への取付具を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の取付具は、樹脂等の可撓性材料で形成された本体部と、本体部の下面に一体に突設され、T溝の一方の口縁に係止される第1係合爪と、第1係合爪と対向する位置に設けられ、T溝の他方の口縁に係止される一対の第2係合爪と、第2係合爪を本体部に連結し、第2係合爪を第1係合爪との対向方向に変位可能に支持する一対の弾性片と、一対の第2係合爪の間に架設された橋渡し部と、本体部と橋渡し部との隙間に圧入され、第1係合爪および第2係合爪がT溝の口縁に圧接するように相反方向へ付勢する固定ピンと、を備えたものである。
【0005】
【作用】まず橋渡し部を本体部方向へ押し、弾性片を撓める。これにより、第1係合爪と第2係合爪の間隔が狭くなり、両係合爪はT溝に容易に挿入される。挿入後、橋渡し部への押圧力を解除すると、第2係合爪は自身の復元力によってT溝の口縁に係合し、第1係合爪もT溝の口縁に係合する。つぎに、橋渡し部と本体部との隙間に固定ピンを圧入すると、第2係合爪が第1係合爪と相反方向に付勢され、両係合爪がT溝の口縁に圧接する。そのため、取付具がT溝に対して軸方向に移動不能に圧接保持される。なお、本発明においてT溝とは、断面形状がT字形のものに限らず、少なくとも連続した溝を間にして一定厚みの口縁が対向するように形成されたものであればよい。したがって、溝の底部形状は如何なる形状でもよい。
【0006】
【実施例】図1〜図4は本発明にかかる取付具Aの一例を示し、1は取付具本体、10は固定ピンである。両者とも樹脂で一体成形されている。取付具本体1は、直方体ブロック形状の本体部2と、本体部2の一側部下面に全幅に亘って連続的に突設された外向きの第1係合爪3と、両側部の第1係合爪3と対向する位置に形成された一対の外向きの第2係合爪4と、一対の第2係合爪4の間に水平に架設された橋渡し部5とを備えている。第2係合爪4は、薄肉な弾性片6を介して本体部2と連結されており、この弾性片6によって第2係合爪4は第1係合爪3との対向方向に変位可能である。橋渡し部5の中央部上面には、ドライバー等の工具挿入用溝5aが形成され、橋渡し部5の本体部2と対向する面には浅底の凹状切欠部5bが形成されている。橋渡し部5の下面と本体部2の下面とは同一レベルに設定されている。
【0007】固定ピン10は略逆L字形に形成されたものであり、その上端部には水平方向に突出する把手部11が設けられ、下部の一側面には係止爪12が形成されている。なお、固定ピン10の係止爪12と反対側には垂直な平坦面13が形成されている。把手部11の下面から係止爪12の上縁までの距離sは上記橋渡し部5の厚みにほぼ等しく設定されている。また、固定ピン10の幅寸法wは上記工具挿入用溝5aより幅広で、かつ凹状切欠部5bより幅狭である。さらに、固定ピン10の中間部の厚みdは、上記取付具本体1が後述するT溝に装着された状態における本体部2と凹状切欠部5bの底面までの距離よりやや大きく設定されている。
【0008】ここで、上記取付具Aを被取付部材20に連続的に形成されたT溝21に取り付けるための方法を説明する。まず橋渡し部5を本体部2方向へ押し、弾性片6を撓めて第2係合爪4と第1係合爪3との間隔が狭くする。この状態で両係合爪3,4はT溝21に容易に挿入される。挿入後、橋渡し部5への押圧力を解除すると、弾性片6は元の状態に復元しようとして第2係合爪4はT溝21の一方の口縁21bに係合し、第1係合爪3もT溝21の反対側の口縁21aに係合する。このとき、本体部1の下面と橋渡し部5の下面とが共に被取付部材20の上面に接触するので、取付具本体1は被取付部材20上に安定に支持される。つぎに、橋渡し部5と本体部2との隙間に固定ピン10を圧入すると、平坦面13が本体部2の側面によってガイドされ、係止爪12が橋渡し部5の凹状切欠部5bを押し広げながら圧入される。そのため、橋渡し部5の中央部は図2に示されるように外側へ湾曲するように撓められ、その復元力により第2係合爪4が第1係合爪3と相反方向に付勢され、両係合爪3,4がT溝21の口縁21a,21bに圧着する。その結果、取付具AはT溝21に対して軸方向に移動不能に圧接保持される。なお、取付状態において、固定ピン10の係止爪12はT溝21には係合していない。
【0009】上記取付状態において、弾性片6に内向きの外力が作用しても、橋渡し部5が固定ピン10によって内側への変位が規制されているので、第2係合爪4がT溝21から外れるおそれはない。また、係合爪3,4のT溝21に対する圧接力は橋渡し部5の弾力性によって得られるので、長時間に亘って安定した保持力が得られ、取付具AがT溝21に対して軸方向にずれを起こす恐れがない。一方、取付具AをT溝21から取り外す場合には、図4のようにドライバー等の工具30の先端を工具挿入用溝5aと固定ピン10の把手部11との隙間に挿入し、係止爪12を橋渡し部5から強制的に引き抜けばよい。
【0010】図5,図6は本発明にかかる取付具Aの具体的な適用例を示す。図5は被取付部材であるアルミニウム等の押出型材40の4面にそれぞれT溝41を形成し、これらT溝41の1つにタップブロックを構成する1個または複数個の取付具Bを取り付けてある。取付具Bの本体部2には取付物である板材42に挿通された摘み付ネジ43が螺合され、板材42を型材40と平行に固定している。図6は上記と同様の型材40のT溝41の一つにマグネットキャッチを構成する1個または複数個の取付具Cを取り付けたものである。即ち、取付具Cの本体部2には2枚の磁性板44,45と永久磁石46とが取り付けられ、これら磁性板44,45の突出部に磁性の板材47を吸着保持している。
【0011】本発明は上記実施例のものに限定されるものではない。例えば、固定ピン10の係止爪12を橋渡し部5の下面に係止するようにしたが、例えば本体部2の橋渡し部5との対向面に凹部を形成し、この凹部に係止爪12を係止するようにしてもよい。
【0012】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように、本発明によれば、第1係合爪と第2係合爪とをT溝に嵌め込んだ後、固定ピンを橋渡し部と本体部との隙間に圧入することにより、第1係合爪と第2係合爪とを相反方向に押し広げ、両係合爪をT溝の口縁に圧接させるようにしたので、ネジ止めのように手探りで位置合わせを行う必要がなく、取付作業が簡単でかつ確実である。また、予めT溝内にナットを挿入しておく必要がないので、自由に追加取り付けや取り外しを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる取付具の一例の斜視図である。
【図2】取付具を被取付部材に取り付けた状態の平面図である。
【図3】図2のIII −III 線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】本発明にかかる取付具の具体的適用例の断面図である。
【図6】本発明にかかる取付具の他の具体的適用例の断面図である。
【図7】従来例の断面図である。
【符号の説明】
A,B,C 取付具
1 取付具本体
2 本体部
3 第1係合爪
4 第2係合爪
5 橋渡し部
6 弾性片
20 被取付部材
21 T溝
21a,21b 口縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】被取付部材20に連続的に形成されたT溝21の任意の位置に取り付けられる取付具Aにおいて、樹脂等の可撓性材料で形成された本体部2と、本体部2の下面に一体に突設され、T溝21の一方の口縁21aに係止される第1係合爪3と、第1係合爪3と対向する位置に設けられ、T溝21の他方の口縁21bに係止される一対の第2係合爪4と、第2係合爪4を本体部1に連結し、第2係合爪4を第1係合爪3との対向方向に変位可能に支持する一対の弾性片6と、一対の第2係合爪4の間に架設された橋渡し部5と、本体部1と橋渡し部5との隙間に圧入され、第1係合爪3および第2係合爪4がT溝21の口縁に圧接するように相反方向へ付勢する固定ピン10と、を備えたことを特徴とする取付具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】第2816457号
【登録日】平成10年(1998)8月21日
【発行日】平成10年(1998)10月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−244503
【出願日】平成3年(1991)8月28日
【公開番号】特開平5−60117
【公開日】平成5年(1993)3月9日
【審査請求日】平成9年(1997)8月26日
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【参考文献】
【文献】実開 昭49−61651(JP,U)
【文献】実開 昭61−190007(JP,U)