説明

T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド融合蛋白質

【課題】T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドと異種蛋白質を融合してなる融合蛋白質を提供し、T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドと異種蛋白質を融合してなる融合蛋白質から異種蛋白質を製造する方法を提供する。
【解決手段】T7RNAポリメラーゼの少なくとも1位から857位を含んだT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドのカルボキシル末端に、直接に、又は1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを介して、異種蛋白質を融合した融合蛋白質。プロテアーゼを用いて本発明の融合蛋白質を加水分解し異種蛋白質を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T7RNAポリメラーゼの部分配列からなるポリペプチドと、直接に、又は1残基以上のアミノ酸を介して、異種蛋白質が融合したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質及び当該融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドに関する。また本発明は、当該ポリヌクレオチドを有し、かつ、それを発現して当該融合蛋白質を生産することができる細胞、並びに当該細胞を使用するT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌(Escherichia coli)を用いた蛋白質生産において、宿主である大腸菌とは異種の生物等に由来する外来の蛋白質、いわゆる異種蛋白質を生産させた場合に、生産された異種蛋白質は菌体内に蓄積され封入体を形成することが多い。封入体を形成した異種蛋白質は、その存在状態故に生物学的あるいは生化学的に不活性であるため、活性型の蛋白質を得るためには、可溶化、再生の操作がさらに必要となる。
【0003】
これらの問題を解決するため、異種蛋白質に大腸菌菌体内で可溶性蛋白質として発現する蛋白質を融合させて発現する方法が知られている。異種蛋白質に融合する蛋白質としては、T7ファージの10B配列のC末端部位からなるSolubility enhancement tag(SET)やGB1ドメイン、ユビキチン、Small ubiqutin−related modifer(SUMO)、チオレドキシン(TRX)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合蛋白質(MBP)、N−utilization substance A(Nus A)を用いた融合発現(非特許文献1)やカルボキシル末端が欠失したシャペロニンを用いた融合発現(特許文献1)が知られている。
【0004】
バクテリオファージであるT7ファージに由来するRNAポリメラーゼであるT7RNAポリメラーゼを、異種蛋白質に融合させて発現させた例に関しては、T7RNAポリメラーゼを酵母内で機能させる目的で、酵母GAL4蛋白質をT7RNAポリメラーゼのアミノ末端に融合させた発現させた例が知られている(非特許文献2)。なおGAL4蛋白質自体は大腸菌菌体内でも機能を有する蛋白質として発現することが知られている。
一方、これまでにT7RNAポリメラーゼの部分配列からなるT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドのカルボキシル末端側に異種蛋白質を連結した融合蛋白質を可溶性の蛋白質として発現させた例や、発現させた融合蛋白質から異種蛋白質を調製した例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−321141号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】加藤 淳ら,生物物理,Vol.48,185−189(2008)
【非特許文献2】Ostrander E.A.ら,Science,249,1261−1265(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、宿主に対して異種の蛋白質を、可溶化や再生の操作を必要としない活性型の蛋白質として発現させるための融合蛋白質として有用なT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質及び該T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質の製造法を提供するとともに、該T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を位置特異的に加水分解して、異種蛋白質を効率よく生産する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、配列番号24に示したT7RNAポリメラーゼの部分配列からなるポリペプチドのカルボキシル末端に、場合によってはリンカーを介して異種蛋白質を連結したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質が、大腸菌の細胞質中に可溶性蛋白質として発現することを見出し、さらに、これらの可溶性蛋白質をプロテアーゼで位置特異的に加水分解することにより、所望の異種蛋白質を効率よく製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、配列番号1から23に示したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類のカルボキシル末端に、直接に、又は1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを介して、異種蛋白質が融合したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質に関するものである。
【0010】
また、本発明は配列番号1から23に示したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類のカルボキシル末端に、直接に、又は1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを介して、脊椎動物由来のポリペプチドが融合した融合蛋白質あるいは脊椎動物由来のポリペプチドの1残基以上のアミノ酸を、他のアミノ酸に置換、及び/又は欠失、及び/又は付加したポリペプチドを融合したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質に関するものである。
【0011】
また、本発明は配列番号1から23に示したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類のカルボキシル末端に、直接に、又は1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを介して、配列番号25に示したヒト成長ホルモンレセプターの1位から238位のアミノ酸からなるポリペプチド、配列番号26に示したヒトエリスロポエチンレセプターの1位から225位のアミノ酸からなるポリペプチドあるいは配列番号27に示したヒトエリスロポエチンの1位から166位のアミノ酸からなるポリペプチドを融合したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質に関するものである。
【0012】
また、本発明は配列番号1から23に示したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類のカルボキシル末端に、直接に、又は1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを介して、配列番号25に示したヒト成長ホルモンレセプターの1位から238位のアミノ酸からなるポリペプチド、配列番号26に示したヒトエリスロポエチンレセプターの1位から225位のアミノ酸からなるポリペプチドあるいは配列番号27に示したヒトエリスロポエチンの1位から166位のアミノ酸からなるポリペプチドの、1残基以上のアミノ酸を、他のアミノ酸に置換、及び/又は欠失、及び/又は付加したポリペプチドを融合したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質に関するものである。
【0013】
また、本発明は、本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドと、そのポリヌクレオチドを発現し、融合蛋白質を生産するEscherichia属の細菌に関するものである。
【0014】
また、本発明は、本発明のEscherichia属の細菌を使用することを特徴とするT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質の製造法に関するものである。
【0015】
さらに、本発明は、T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を1種類以上のプロテアーゼで加水分解することを特徴とする異種蛋白質の製造法に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を用いれば、目的の異種蛋白質を、例えば、大腸菌を用いて、可溶性の融合蛋白質として製造することができる。特に、目的の異種蛋白質を、例えばプロテアーゼによって位置特異的な加水分解が可能なリンカーを介してT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)に連結した本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質は、所望の位置でT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)を含むポリペプチドを切除することにより、目的の異種蛋白質を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド、ヒト成長ホルモンレセプター(hGHR)及び、実施例1及び2のhGHbpf1の一次構造の模式図
【図2】実施例1で調製したプラスミドpCDF2−hGHbpf1の構造の模式図
【図3】実施例2のhGHbpf1のSDS−PAGEの結果を示す図
【図4】実施例3のhGHbpf1のエンザイムイムノアッセイの結果を示す図
【図5】本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド、ヒトエリスロポエチンレセプター(hEPOR)、実施例4及び5のEPObpf1の一次構造の模式図
【図6】実施例4で調製したプラスミドpCDF2−EPObpf1の構造の模式図
【図7】実施例5のEPObpf1のSDS−PAGEの結果を示す図
【図8】本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド、ヒトエリスロポエチンレセプター(hEPOR)、実施例6のEPObpf2、実施例7、11,15及び16のEPObpf2Hの一次構造の模式図
【図9】実施例6で調製したプラスミドpCDF20−EPObpf2の構造の模式図
【図10】実施例7で調製したプラスミドpCDF20−EPObpf2Hの構造の模式図
【図11】本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド、ヒトエリスロポエチンレセプター(hEPOR)、実施例8及び9のEPObpf31Hの一次構造の模式図
【図12】実施例8で調製したプラスミドpCDF20−EPObpf31Hの構造の模式図
【図13】実施例9のEPOf31HのSDS−PAGEの結果を示す図
【図14】本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド、ヒトエリスロポエチン(hEPO)、実施例10、12、及び13のEPOf2、実施例11及び12のEPOf2Hの一次構造の模式図
【図15】実施例10で調製したプラスミドpCDF20−EPOf2の構造の模式図
【図16】実施例11で調製したプラスミドpCDF20−EPOf2Hの構造の模式図
【図17】実施例12のEPOf2、EPOf2H、EPObpf2及びEPObpf2HのSDS−PAGEの結果を示す図
【図18】実施例13のEPObpf2及びEPOf2のSDS−PAGEの結果を示す図
【図19】実施例14のエンテロキナーゼで位置特異的に加水分解したEPOf2のウエスタンブロッティングの結果を示す図
【図20】実施例15のEPObpf2HのSDS−PAGEの結果を示す図
【図21】実施例16で得た画分のウエスタンブロッティングの結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質は、配列番号1から23に示したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類を含む融合蛋白質である。
【0019】
本発明において、配列番号1から23に示したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類と直接、あるいは、1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを介して融合する異種蛋白質は、大腸菌(Escherichia coli)に対して異種の生物等に由来する外来の蛋白質を挙げることができ、具体的には、脊椎動物である哺乳類、鳥類、爬虫類、両性類、魚類に由来するポリペプチドを例示することができる。
【0020】
さらに具体的には、異種蛋白質としては、例えば成長ホルモン、エリスロポエチン、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−9(IL−9)、インターロイキン−10(IL−10)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−12(IL−12)のサブユニットp35、インターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−15(IL−15)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、カルジオトロフィン−1(CT−1)、白血球阻害因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、インターフェロンα(IFNα)、インターフェロンβ(IFNβ)、インターフェロンγ(IFNγ)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、レプチン、プロラクチンなどのポリペプチド、あるいは、それらのポリペプチドの各レセプターの細胞外ドメインなどの、脊椎動物に由来するポリペプチドが例示できる。
【0021】
また、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32A)、FcγRIIb(CD32B)、FcγRIIIa(CD16A)、FcγRIIIb(CD16B)、FcεRI、FcεRII(CD23)、FcαRI(CD89)、Fcα/μR、FcRn、ポリメリックIgレセプターなどの抗体レセプターの細胞外ドメイン、細胞接着分子(カドヘリン、インテグリン、セレクチンなど)の細胞外ドメイン、抗体のH鎖やL鎖などの、脊椎動物に由来するポリペプチドが例示できる。また脊椎動物に由来する、酵素、オリゴマー酵素の構成要素であるポリペプチド、酵素阻害蛋白質、膜結合型酵素の可溶性ドメインなどのポリペプチドが例示できる。
【0022】
また本発明で用いる異種蛋白質は、例えば上記のような、脊椎動物に由来するポリペプチドに加えて、当該ポリペプチドに対して以下の(ア)から(ウ)から選択される一以上の変異を加えたものであって、当該異種蛋白質の活性、例えば酵素活性や結合活性などを有するものであっても良い。
(ア)上記ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の配列中の一残基以上のアミノ酸を欠失したもの
(イ)上記ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の配列中の一残基以上のアミノ酸を他のアミノ酸に置換したもの
(ウ)上記ポリペプチドを構成するアミノ酸残基の配列について、一残基以上のアミノ酸を付加したもの。
【0023】
異種蛋白質のカルボキシル末端には、例えばポリヒスチジン、S−ペプチド、あるいはc−mycペプチドなどの付加配列を連結してもよい。
【0024】
異種蛋白質をコードしたポリヌクレオチドは、公知の方法により調製できる。例えば目的の異種蛋白質をコードしたポリヌクレオチドは、公知の情報を利用してオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを作製し、目的の異種蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを含んだ、市販のcDNAやcDNAライブラリー、あるいは、公知の方法で調製したcDNAを鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、目的のポリヌクレオチドを増幅して調製すればよい。
【0025】
PCRによるポリヌクレオチドの増幅反応は、例えば、PrimeSTAR HS DNA Polymerase(商品名、タカラバイオ社製)を利用することができ、付属のプロトコールに従って実験的に、目的のポリヌクレオチドが増幅する条件を探せばよい。例えば付属の緩衝液を用いた反応溶液中で、例えば、0.01U/μlL PrimeSTAR HS DNA Polymerase、0.2mM dNTP、反応に使用するプライマーの濃度は、最大0.3μM、鋳型となるプラスミドDNA0.2〜20pg/mlLで反応を検討すればよい。反応の温度と時間は、例えば、98℃で10秒間、55℃で5秒間、ついで72℃で、増幅したいDNAの塩基対の数に0.06を乗じた秒数の時間を、1サイクルとして、25サイクルから30サイクルの反応をおこなえばよい。また反応サイクルにおいて55℃で5秒間の設定を、56℃から72℃の間のいずれかの温度に設定して、増幅したいDNAが得られる温度を実験的に定めてもよい。
【0026】
PCRによるポリヌクレオチドの増幅反応は公知の方法に基づいて行えばよく、上述の方法に限定されない。
【0027】
また上述の調製方法で調製したポリヌクレオチドを鋳型に、アミノ酸の置換、及び/又は欠失、及び/又は付加するように設計したプライマーセットを用いてPCRで増幅を行なう、又はエラープローンPCRにて増幅を行なうことで、1残基以上のアミノ酸の置換、及び/又は欠失、及び/又は付加された、異種蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを調製することができる。
【0028】
PCRで増幅した目的のDNAは、そのDNAを含んだPCR反応液を、例えば、アガロース電気泳動したのち、そのゲルを臭化エチジウムで染色し、例えば波長302nmあるいは波長312nmの紫外線を照射して目的のDNAを検出して、目的のDNAを含んだ部分のゲルを切り出し、そこから、DNAを精製すればよい。DNAの精製は、市販のキットを利用して精製すればよく、例えば、MERmaid Kit(商品名、Qbiogene社)やDNA Purification Kit,15,UltraClean(商品名、MO Bio Laboratories社)を精製したいDNAのサイズに応じて利用すればよい。DNAの検出方法や精製の方法はこれらに限定されるものではない。
【0029】
本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を遺伝子工学的に製造するために用いるポリヌクレオチドは、本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドであればよく、当業者であれば公知の方法により調製することができる。
【0030】
ポリヌクレオチドの調製法の一例としてはPCRを利用した方法がある。
例えばT7ファージからT7ファージDNAを調製して、それを鋳型に用いて、適当なオリゴヌクレオチドからなるフォワードプライマーとリバースプライマーでPCRを行って所望のポリヌクレオチドを得ることができる。PCRに用いるフォワードプライマーとリバースプライマーは、例えばGenBankにaccession No.NP 041960に登録されているT7RNAポリメラーゼの塩基配列を参考にして作製すればよく、配列番号1から23のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類から選択したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドをコードした塩基からなるポリヌクレオチドとその相補鎖からなる二本鎖ポリヌクレオチドをPCRで増幅して作製することができる。
【0031】
次に、例えば、下記の(A)から(F)をひとつの反応溶液中にて反応させるPCRを行うことで、T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類から選択したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドと異種蛋白質が融合した、本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを調製することができる。
【0032】
すなわち、PCRで増幅して得た、配列番号1から23に示したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類から選択したひとつのT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(以下、選択したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドと称する)をコードした塩基からなるポリヌクレオチドとその相補鎖からなる二本鎖ポリヌクレオチド(A)、連結させようとする異種蛋白質をコードした塩基からなるポリヌクレオチドとその相補鎖からなる二本鎖ポリヌクレオチド(B)、選択したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドの1位メチオニンから数アミノ酸をコードしたオリゴヌクレオチドのフォワードプライマー(C)、選択したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドのカルボキシル末端から数残基上流までのアミノ酸と、例えば、それに連結させようとする異種蛋白質のアミノ末端から数残基下流までの数アミノ酸の両者に跨る部分をコードしたオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチドのリバースプライマー(D)、5’端側が(D)の5’端側と相補的な配列であり、その配列がコードした異種蛋白質のアミノ末端部分に続く配列のアミノ酸をコードしたオリゴヌクレオチド、すなわち、(D)と(B)の相補鎖側の、両者に跨る部分をコードしたオリゴヌクレオチドのフォワードプライマー(E)及び、選択したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドと連結させようとする異種蛋白質の、例えば、カルボキシル末端を含んだカルボキシル末端側の数アミノ酸をコードしたオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチドのリバースプライマー(F)をひとつの反応溶液中にて反応させるPCRを行うことで、選択したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドをコードしたポリヌクレオチドを調製することができる。
【0033】
またT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質のカルボキシル末端に、1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを介して、異種蛋白質が融合した本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドは、先述の(D)のプライマーの代わりに、選択したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドに由来するカルボキシル末端と異種蛋白質のアミノ末端をコードしたポリヌクレオチドの間に1残基以上のアミノ酸をコードしたポリヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチドのリバースプライマー(G)を用いれば調製することができる。
【0034】
またT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質と連結させようとする異種蛋白質のカルボキシル末端に付加配列を有する本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドは、先述の(F)のプライマーの代わりに、融合させる異種蛋白質のカルボキシル末端を含むカルボキシル末端側の数アミノ酸と、そのカルボキシル末端に付加させる配列をコードしたオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド(H)を用いれば調製することができる。
【0035】
また例えば、(A)、(B)、(C)、(E)、(G)および(H)をひとつの反応溶液中にて反応させるPCRを行うことで、選択したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドのカルボキシル末端に、1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを介して、カルボキシル末端に付加配列を有する異種蛋白質が融合した本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを調製することができる。「1残基以上のアミノ酸からなるリンカー」は、T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を可溶性で発現できるリンカーであれば何でもよく、好ましくは1〜50のアミノ酸からなるリンカーを指し、さらに好ましくは、1〜20のアミノ酸から成るリンカーを指す。さらに好ましくは、1〜10のアミノ酸からなるリンカー、又は1若しくは数残基のアミノ酸からなるリンカーを指す。
【0036】
また本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドの調製には、例えば特願2007−312462号に記載のT7RNAポリメラーゼ(GenBank accession No.NP 041960)をコードした、プラスミドpTrc99A−T7RPやpCDF2−T7RPを調製して、T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを作製するためのPCRの鋳型として利用してもよく、さらには本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドをコードするプラスミドの作製に用いてもよい。
【0037】
またT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)と異種蛋白質の間には、場合によっては1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを挿入してもよい。
該リンカーには、例えばAsp−Pro配列及び/又はAsn−Gly配列を含んだアミノ酸配列を有するリンカーを用いてもよい。
【0038】
Asp−Pro配列は例えば70% ギ酸水溶液(pH2.5)で、アスパラギン酸(Asp)とプロリン(Pro)の間の結合が加水分解されることが知られている。またAsn−Gly配列は、例えば2M ヒドロキシルアミン水溶液(pH9)で、アスパラギン(Asn)とグリシン(Gly)の間の結合が加水分解されることが知られている。
異種蛋白質の分子内にAsp−Pro配列やAsn−Gly配列がある場合には、その箇所のアミノ酸を予め置換しておいてもよい。異種蛋白質の分子内にあるAsp−Pro配列のアスパラギン酸(Asp)は、例えばグルタミン酸(Glu)にアミノ酸置換すればよい。また異種蛋白質の分子内にあるAsn−Gly配列のアスパラギン(Asn)は、例えばグルタミン(Gln)、また例えばアスパラギン酸(Asp)に、アミノ酸置換すればよい。
【0039】
また、本発明に用いるリンカーには、例えば1種類以上のプロテアーゼの基質となるアミノ酸配列(以下、基質アミノ酸配列と称する。)からなるペプチドを用いてもよい。特に、加水分解の位置特異性が高いプロテアーゼは、特定のアミノ酸配列を基質として認識し、特定のペプチド結合を選択的に加水分解することができることから、このようなプロテアーゼの基質アミノ酸配列からなるリンカーを有する本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質は、対応するプロテアーゼで加水分解すれば、本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)と異種蛋白質を所望の位置で切り離すことができる。
【0040】
加水分解の位置特異性が高いプロテアーゼとその基質アミノ酸配列の組み合わせとしては、例えば、エンテロキナーゼには4個の連続したアスパラギン酸残基(Asp)の後にリジン残基(Lys)がつながったAsp−Asp−Asp−Asp−Lysのアミノ酸配列を、トロンビンにはロイシン残基−バリン残基−プロリン残基−アルギニン残基(Lue−Val−Pro−Arg)のアミノ酸配列を、活性化血液凝固X因子にはイソロイシン残基−グルタミン酸残基−グリシン残基−アルギニン残基(Ile−Glu−Gly−Arg)のアミノ酸配列を、ウロキナーゼにはプロリン残基−グリシン残基−アルギニン残基(Pro−Gly−Arg)のアミノ酸配列を基質として認識し、それぞれの基質アミノ酸配列のカルボキシル末端側に結合したアミノ酸との間のペプチド結合を選択的に加水分解する。したがってこれらの基質アミノ酸配列のカルボキシル末端側に異種蛋白質のアミノ末端を結合させた場合には、対応するプロテアーゼで加水分解することにより、容易に異種蛋白質を切り出すことができる。
【0041】
また例えば、HRV 3Cプロテアーゼは、ロイシン残基−グルタミン酸残基−バリン残基−ロイシン残基−フェニルアラニン残基−グルタミン残基−グリシン残基−プロリン残基(Leu−Glu−Val−Leu−Phe−Gln−Gly−Pro)からなる基質アミノ酸配列を認識し、その配列のGlnとGlyの間のペプチド結合を位置特異的に加水分解する。したがって、例えばLeu−Glu−Val−Leu−Phe−Gln−Gly−Proからなる基質アミノ酸配列のカルボキシル末端側に異種蛋白質のアミノ末端を結合させた場合には、HRV 3Cプロテアーゼで加水分解することにより、アミノ末端にGly−Proが付加した異種蛋白質が得られるが、本発明はこれらの異種蛋白質も包含するものである。
【0042】
加水分解の位置特異性が高いプロテアーゼとその基質アミノ酸配列の組み合わせは、特にこれらに限定されるものではない。
【0043】
さらに、本発明に用いるリンカーとして、上述の加水分解の位置特異性が高いプロテアーゼの基質アミノ酸配列のアミノ末端側及び/又はカルボキシル末端側に1残基以上のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるリンカーを用いてもよく、基質アミノ酸配列の少なくともカルボキシル末端側に1残基以上のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるリンカーを用いた場合には、対応するプロテアーゼで加水分解すると、少なくとも1残基以上のアミノ酸がアミノ末端に付加した異種蛋白質が得られるが、本発明はこれらの異種蛋白質も包含するものである。
【0044】
また、複数種類のプロテアーゼの基質となるアミノ酸配列からなるリンカーを用いる場合には、異種蛋白質のアミノ末端に最も近い基質アミノ酸配列を対応するプロテアーゼで加水分解すればよく、その結果、1残基以上のアミノ酸がアミノ末端に付加した異種蛋白質が得られる場合であっても、本発明はこれらの異種蛋白質を包含するものである。
【0045】
基質アミノ酸配列のカルボキシル末端側にプロリンがあると加水分解が起こらない場合があり、使用するプロテアーゼの性質とその基質配列については、公知の文献等で調べてから用いることが望ましい。
【0046】
プロテアーゼを用いた加水分解においては、使用するプロテアーゼ、本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質およびそれが加水分解されて生じる異種蛋白質が不溶化を起こさずに、該プロテアーゼが反応するように反応条件等を定めればよい。例えば、反応のpHは5から8、反応温度は4℃から40℃から適宜選ばれた条件で行えばよく、本発明はこれらに限定されない。例えばアスパルティックプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、チオールプロテアーゼ、あるいはそれらのプロテアーゼに分類されるプロテアーゼであり耐熱性を有するプロテアーゼなどを用いる場合にはそれに応じた反応条件を探して用いればよい。
【0047】
また反応溶液への添加物の添加については、塩の種類(例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩あるいはカルシウム塩など)とその濃度(例えば0Mから1M)、界面活性剤の種類(例えば、Tween20(商品名)、Tween80(商品名)、Triton X−100(商品名)、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−オクチル−β−D−マンノシド、n−デシル−β−D−マンノシドなど)とその濃度(例えば0%から1%)、還元剤の種類(例えばジチオスレイトール、メルカプトエタノール、グルタチオンなど)とその濃度(0mMから10mM)、変性剤の種類(例えば尿素、塩酸グアニジンなど)とその濃度(0Mから2M)など、あるいはそれらの組み合わせを、位置特異的な加水分解に使用するプロテアーゼについて、本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質およびそれが位置特異的に加水分解されて生じる異種蛋白質が不溶化を起こさずに該プロテアーゼが反応するように定めればよい。
【0048】
さらに具体的には、特異性が高いプロテアーゼとして、例えば、エンテロキナーゼを用いる場合には、T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドと異種蛋白質を連結する配列に、Asp−Asp−Asp−Asp−Lysのアミノ酸配列を有する、本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質(すなわちエンテロキナーゼの基質となる本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質)を、例えばたとえば、0.02M〜0.1Mの濃度のトリス塩酸緩衝液(pH8.0)の溶液中で反応させればよい。また反応を行う溶液には、0.001M〜0.02M塩化カルシウム、及び/又は、1M以下の濃度の塩化ナトリウム、より好ましくは0.3M以下の濃度の塩化ナトリウム、及び/又はおよび/または、界面活性剤、例えばTween20(商品名)を0.01%〜0.2%濃度加えることもできる。
反応温度は4℃〜40℃から適宜選ばれた温度で、反応時間は数分間〜数日間から適宜選ばれた時間で、エンテロキナーゼの基質となる本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質の蛋白質濃度とエンテロキナーゼの蛋白質濃度の比は、例えば、1:10から1:10000で行えばよい。
【0049】
さらに、例えばニッケルキレート樹脂にアフィニティーがあるポリヒスチジン、S−プロテインにアフィニティーがあるS−ペプチド、あるいはc−myc抗体にアフィニティーがあるc−mycペプチドなどのアフィニティーリガンドをリンカーにしてもよい。
【0050】
T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチドと異種蛋白質を連結するリンカーは、上記のような複数種類のリンカーを組み合わせて用いてもよい。
本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドは、通常の遺伝子工学の分野で使用される相応のプラスミドを用いれば種々の宿主で発現することが可能であるが、取扱い易さ、培養の容易性、高密度培養の可否、更には遺伝子操作における宿主/ベクター系が整備されている細菌、中でもエシェリヒア(Escherichia)属細菌である大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。
【0051】
本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を発現するためのプラスミドは、例えばpTrc99A(GenBank Accession Number、U13872)、pSTV28(商品名、(株)タカラバイオ社製)、pCDF−1b、pRSF−1b(以上は、商品名、メルク(株)社製)等のプラスミドを例示できる。
【0052】
本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を発現するためのプラスミドで形質転換させる大腸菌としては、E.coli JM109、E.coli HB101、E.coli BLR(DE3)などの菌株が例示できるが、本発明はこれらに限定されない。また本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を発現するためのプラスミドで形質転換する前の大腸菌が薬剤耐性を有する大腸菌である場合には、本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を発現するためのプラスミド上の薬剤耐性マーカー遺伝子は、宿主となる大腸菌の薬剤耐性とは異なるものを選択すればよい。またT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質の発現にT7プロモーターを利用したプラスミドを使用する場合には、例えば、E.coli BLR(DE3)のようにT7RNAポリメラーゼの遺伝子をもち、それを発現する大腸菌を宿主にすればよい。
【0053】
形質転換した大腸菌はプラスミドにコードされている薬剤耐性マーカー遺伝子に対応する薬剤を加えた寒天培地で培養して選別すればよい。
【0054】
本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを組み込んだ発現用プラスミドで形質転換した大腸菌は、宿主に用いた大腸菌を培養するための公知の培地、例えばLB培地や2xYT培地に、T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを組み込んだ発現用プラスミド上の薬剤マーカー遺伝子に対応する薬剤を添加して培養すればよい。培養温度は15℃から37℃で実験的に定めればよい。本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチドを組み込んだ発現用プラスミドで形質転換した大腸菌に、本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質を可溶性の蛋白質として発現させるためには、15℃〜37℃から適宜選ばれた温度、好ましくは25℃〜30℃から適宜選ばれた温度で培養を行うとよい。
【0055】
本発明のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(類)融合蛋白質は、それをコードしたポリヌクレオチドを組み込んだ発現用プラスミドで形質転換した大腸菌を適切に培養して、増殖させ、必要に応じて適当な誘導剤を培地に加えて遺伝子発現を誘導しながら更に培養した後、その菌を集菌して凍結融解、リゾチーム消化処理、超音波処理あるいはそれらの組み合わせにより、菌を破砕すれば、可溶性画分に得ることができる。
【0056】
可溶性画分に含まれる本発明の融合蛋白質は、イオン交換クロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィー用いて精製することができる。
【0057】
また例えば、S−ペプチドタグを付加した融合蛋白質であればS−プロテインを固定化した担体、例えば、S−プロテインアガロース(商品名、メルク社製)を用いて精製できる。
【0058】
またポリヒスチジンからなるいわゆるヒスチジンタグが付加した融合蛋白質の場合には、ニッケルイオンやコバルトイオンなどの金属イオンをキレートした樹脂、例えばHis・Bind Resin(商品名、メルク社製)、Chelating Sepharose Fast Flow(商品名、GEヘルスケア バイオサイエンス社製)などを用いて精製することができる。
【0059】
上記の精製方法を必要に応じて組み合わせて融合蛋白質を精製してもよい。
【0060】
以下に本発明を更に詳細に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
実施例1 プラスミドpCDF2−hGHbpf1の作製
T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(配列番号1)の1位メチオニンから857位グルタミンまでのアミノ酸配列に続き、配列番号25に示したヒト成長ホルモンレセプターの1位フェニルアラニンから238位グルタミンまでを連結した融合蛋白質(hGHbpf1、配列番号29、図1参照)をコードしたポリヌクレオチド(配列番号30)をコードした、プラスミドpCDF2−hGHbpf1を以下のようにして作製した。
【0062】
特願2009−025901号に記載のプラスミドpET−hGHbp258を鋳型にして、配列番号31と32のプライマーセットを用いて、PrimeSTAR HS DNA Polymerase(商品名、タカラバイオ社製)とその付属の試薬を使ってPCRを行い、0.7kbpのDNAを合成した。そのDNAを制限酵素NcoIとHindIIIで消化して得た0.7kbpのDNA(DNA−1と称する)を、プラスミドpRSF−1bを制限酵素NcoIとHindIIIで消化して得た3.6kbpのDNAとDNAリガーゼを用いてライゲーションして環化させてプラスミドpRSF−hGHbp238を調製し、そのプラスミドにより大腸菌BLR(DE3)を形質転換して大腸菌BLR(DE3)/pRSF−hGHbp238を得た。
【0063】
次に特開2009−136153号公報に記載のプラスミドpCDF2−T7RPを制限酵素MfeIで消化し、次いで制限酵素BlnIで消化して得た5.8kbpのDNAと、プラスミドpRSF−hGHbp238を制限酵素EcoRIとBlnIで二重消化して得られた0.8kbpのDNA(DNA−2と称する)を、DNA Ligation Kit ver.2.1(商品名、タカラバイオ社製)を用いて、ライゲーションして環化させてプラスミドを調製した。そのプラスミドにより大腸菌HB101を形質転換し、50μg/mL カルベニシリンナトリウム、5g/L 酵母エキス、10g/L トリプトン及び10g/L 塩化ナトリウムを含む20g/L 寒天の固体培地(LB/Carb寒天培地と称する)で培養して、目的のプラスミドを有する大腸菌HB101/pCDF2−hGHbpf1を得た。 調製したプラスミドpCDF2−hGHbpf1の構造の模式図を図2に示す。
【0064】
実施例2 融合蛋白質hGHbpf1の発現
大腸菌HB101/pCDF2−hGHbpf1を、50mg/lL カルベニシリンナトリウム、10g/L 酵母エキス、16g/L トリプトン、5g/L 塩化ナトリウムを含む培地(2xYT/Carb培地と称する)で、培養温度30℃で一晩培養した。菌密度はO.D.600の値で3.8であった。その培養液を新鮮な培地で、O.D.600が0.5になるように希釈したのち2つに分け、その一方に濃度が0.1mM になるようにイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)を添加し、それぞれを25℃で2時間培養した。
【0065】
培養した大腸菌HB101/pCDF2−hGHbpf1を、遠心分離して集菌したのち、0.001M エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む0.05Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁したのち、遠心分離して菌を洗浄後、菌密度(O.D.600)の値がおよそ36になるように、0.1mg/mL 卵白リゾチーム、0.0001M 4−(アミノエチル)ベンゼンスルオニルフルオリド、0.0001M フェニルメタンスルオニルフルオリド、1mg/mL ジメチルスルホキシド及び0.001M EDTAを含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)(卵白リゾチーム溶液と称する)に、菌を懸濁した。その懸濁液を0℃で1時間インキュベーションしたのち、−80℃で凍結した。それを解凍後、超音波破砕機に供した。破砕して得た液を遠心分離して可溶性画分と不溶性画分を得た。不溶性画分は、0.001M EDTAを含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)でリンスしたのち、菌の懸濁に用いた卵白リゾチーム溶液と同容量の、0.001M EDTAを含む0.05Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に再懸濁した。
【0066】
得られた可溶性画分と不溶性画分のそれぞれを等容量の20mg/mL ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、4%(V/V) 2−メルカプトエタノール、570mg/mL グリセリン及び1mg/mL ブロモフェノールブルーを含む0.25M トリス塩酸緩衝液(pH6.8)(SDSサンプル緩衝液と称する)を加えて98℃で5分間加熱してSDS化したのち、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)で分析した。また、特開2009−136153号公報に記載のプラスミドpCDF2で形質転換した、hGHbpf1を発現しない大腸菌(HB101/pCDF2)から得られた可溶性画分と不溶性画分を比較対照としてあわせて分析した。
【0067】
結果を図3に示した。図3のレーン1は分子量マーカー蛋白質(上から順に175kDa、80kDa、58kDa、46kDa、30kDa、25kDa、17kDa)、IPTGを加えずに培養した大腸菌HB101/pCDF2から得られた可溶性画分(レーン2)及び不溶性画分(レーン3)、IPTGを加えずに培養した大腸菌HB101/pCDF2−hGHbpf1から得られた可溶性画分(レーン4)及び不溶性画分(レーン5)、及び、IPTGを加えて培養した大腸菌HB101/pCDF2−hGHbpf1から得られた可溶性画分(レーン6)及び不溶性画分(レーン7)を電気泳動したのち、Coomasie Brilliant Blue R−250[6104−59−2]で染色して蛋白質を検出した結果である。
図3のレーン4及び6に可溶性のhGHbpf1(分子量123kDa)が発現していることがわかる。
【0068】
実施例3 ヒト成長ホルモンへの融合蛋白質hGHbpf1の吸着
大腸菌HB101/pCDF2−hGHbpf1を2xYT/Carb培地で、培養温度28℃で一晩培養して、菌密度(O.D.600)が3.6の培養液10mLを得た。
その培養液から大腸菌HB101/pCDF2−hGHbpf1を、遠心分離して集菌したのち、1mlLの0.001M EDTAを含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁したのち、遠心分離して菌を洗浄した。次にその菌を1mlLの0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)、で洗浄した。
その菌を菌密度(O.D.600)の値が36になるように、0.1mg/mlL 卵白リゾチ−ムを含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、菌を懸濁した。その懸濁液を0℃で30分間インキュベーションしたのち、−80℃で凍結した。それを解凍後、超音波破砕機に供したのち、破砕して得た液を遠心分離して可溶性画分(含まれるhGHbpf1の濃度を1とする)を得た。
その可溶性画分に含まれるhGHbpf1がヒト成長ホルモンに吸着することを、エンザイムイムノアッセイを行って調べた。
【0069】
エンザイムイムノアッセイは、96穴イムノプレートに1μg/mLヒト成長ホルモンを、0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)を1ウエルあたり100μL加えて、4℃で18時間インキュベーションしたのち、0.15M 塩化ナトリウム及び0.5mg/mL Tween20を含んだ0.05M トリス塩酸緩衝液(pH7.5)(TBS−Tと称する)でリンスしてB/F分離し、ついでTBS−Tで調製した5mg/mL ウシ血清アルブミン溶液(BSA/TBS−T溶液と称する)を1ウエルあたり200μL加えて、30℃で2時間インキュベーションしてブロッキングしてから行った。
【0070】
ブロッキングしたプレートはTBS−TでリンスしてB/F分離したのち、BSA/TBS−Tで希釈して調製した試料を1ウエルあたり100μL加えて、30℃で1時間インキュベーションしたのち、B/F分離した。次いで0.5μg/mL マウス抗ヒト成長ホルモンレセプター抗体(IgG2b)を1ウエルあたり100μL加えて、30℃で1時間インキュベーションしたのち、B/F分離し、さらに西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識されたウサギ抗マウスIgG2b抗体(0.25μg/mL)を1ウエルあたり100μL加えて、30℃で1時間インキュベーションした。それをB/F分離したのち、TMB Microwell Peroxidase Substrate(2−Component System)(製品名、Kirkegaard & Perry Laboratories社)を1ウエルあたり100μL加えて室温で90秒間反応し、それに1M リン酸水溶液を1ウエルあたり50μL加えて反応停止後、波長450nmの吸光度(O.D.450)を測定した。
図4に示したようにhGHbpf1の濃度に依存してヒト成長ホルモンに吸着することがわかった。
【0071】
実施例4 プラスミドpCDF2−EPObpf1の作製
T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(配列番号1)の1位メチオニンから857位グルタミンまでのアミノ酸配列に続き、1残基のフェニルアラニンを介して、配列番号26に示したヒトエリスロポエチンレセプターの2位プロリンから225位アスパラギン酸までのアミノ酸配列と、それに続けてThr−Argの2残基が連結した融合蛋白質(EPObpf1、配列番号33、図5参照)をコードしたポリヌクレオチド(配列番号34)をコードした、プラスミドpCDF2−EPObpf1を以下のようにして作製した。
【0072】
ヒトエリスロポエチンレセプターcDNAをコードしたプラスミド(OriGene社製、品番SC125440;以下pCMV6−hEPORと称する)を鋳型にして、配列番号35と36のプライマーセットを用いてPCRを行い、0.7kbpのDNAを合成した。
【0073】
そのDNAを制限酵素SpeI、次いでEcoRIで消化して0.7kbpのDNA(DNA−3と称する)を得た。そのDNA−3を、特開2009−136153号公報に記載のプラスミドpCDF2−T7RPを制限酵素MfeIで消化し、次いで制限酵素BlnIで消化して得た5.8kbpのDNAとライゲーションして環化させた。なお制限酵素MfeIで消化して生じたDNAの末端は制限酵素EcoRIで消化して生じたDNAの末端と互いに相補的であり、また、制限酵素SpeIで消化して生じたDNAの末端は制限酵素BlnIで消化して生じたDNAの末端と互いに相補的であるため、相補的な配列どおしが連結して環化したプラスミドが調製できる。そのプラスミドにより大腸菌HB101を形質転換し、LB/Carb寒天培地で培養して、目的のプラスミドを有する大腸菌HB101/pCDF2−EPObpf1を得た。調製したプラスミドpCDF2−EPObpf1の構造の模式図を図6に示す。
【0074】
実施例5 融合蛋白質hEPObpf1の発現
大腸菌HB101/pCDF2−EPObpf1を、実施例2の大腸菌HB101/pCDF2−hGHbpf1の替わりに用いて、実施例2と同様にして可溶性画分と不溶性画分を得た。不溶性画分は、0.001M EDTAを含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)でリンスしたのち、菌の懸濁に用いた卵白リゾチーム溶液と同容量の、0.001M EDTAを含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に再懸濁した。
【0075】
得られた可溶性画分と再懸濁した不溶性画分のそれぞれを、等容量のSDSサンプル緩衝液を加えて98℃で5分間加熱してSDS化したのち、SDS−PAGEで分析した。また特願2007−312462号に記載のプラスミドpCDF2で形質転換した、EPObpf1を発現しない大腸菌から得られた可溶性画分と不溶性画分を比較対照としてあわせて分析した。
【0076】
結果は図7に示した。図7のレーン1は分子量マーカー蛋白質、IPTGを加えずに培養した大腸菌HB101/pCDF2から得られた可溶性画分(レーン2)及び不溶性画分(レーン3)、IPTGを加えずに培養した大腸菌HB101/pCDF2−EPObpf1から得られた可溶性画分(レーン4)及び不溶性画分(レーン5)、並びに、IPTGを加えて培養した大腸菌HB101/pCDF2−EPObpf1から得られた可溶性画分(レーン6)及び不溶性画分(レーン7)を電気泳動したのち、CBB染色して蛋白質を検出した結果である。
図7のレーン4及び6に可溶性のEPObpf1(分子量121kDa)が発現していることがわかる。
【0077】
実施例6 プラスミドpCDF20−EPObpf2の作製
T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(配列番号3)の1位メチオニンから859位アスパラギン酸までのアミノ酸配列に続き、Asp−Asp−Asp−Lysの4残基を介して、配列番号26に示したヒトエリスロポエチンレセプターの1位アラニンから225位アスパラギン酸までを連結した融合蛋白質(EPObpf2、配列番号37、図8参照)をコードしたポリヌクレオチド(配列番号38)をコードした、プラスミドpCDF20−EPObpf2を以下のようにして作製した。
【0078】
プラスミドpCDF2−T7RPを制限酵素XbaIで消化して得た5.9kbpの直鎖DNAを、DNA Blunting Kit(商品名、タカラバイオ社製)を用いてDNAの末端を平滑化したのち、DNAリガーゼを用いてライゲーションして環化して、制限酵素XbaIサイトを含まない、5.9kbpのプラスミドpCDF20−T7RPを得た。そのプラスミドpCDF20−T7RPを制限酵素BlnI消化後、ウシ小腸アルカリホスファターゼで脱リン酸化処理して得られた直鎖状DNAを、さらに制限酵素MfeIで消化して5.8kbpのDNA(DNA−4と称する)を得た。
【0079】
一方、プラスミドpCMV6−hEPORを鋳型にして、配列番号39と40のプライマーセットを用いてPCRを行い、0.7kbpのDNAを合成した。そのDNAを制限酵素MfeIとXbaIで二重消化して0.7kbpのDNA(DNA−5と称する)を得て、それをDNA−4とライゲーションして環化させ、プラスミドを調製した。そのプラスミドにより大腸菌HB101を形質転換し、LB/Carb寒天培地で培養して、目的のプラスミドを有する大腸菌HB101/pCDF20−EPObpf2を得た。
調製したプラスミドpCDF20−EPObpf2の構造の模式図を図9に示す。
【0080】
実施例7 プラスミドpCDF20−EPObpf2Hの作製
T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(配列番号3)の1位メチオニンから859位アスパラギン酸までのアミノ酸配列に続き、Asp−Asp−Asp−Lysの4残基を介して、配列番号26に示したヒトエリスロポエチンレセプターの1位アラニンから225位アスパラギン酸までと、それに続けて6個のヒスチジンを連結した融合蛋白質(EPObpf2H、配列番号41、図8参照)をコードしたポリヌクレオチド(配列番号42)をコードした、プラスミドpCDF20−EPObpf2Hを作製した。
【0081】
プラスミドpCMV6−hEPORを鋳型にして、配列番号40と43のプライマーセットを用いてPCRを行い、0.7kbpのDNAを合成した。
【0082】
そのDNAを制限酵素MfeIとXbaIで二重消化して0.7kbpのDNA(DNA−6と称する)を得て、それを実施例6に記載したDNA−4とライゲーションして環化させ、プラスミドを調製した。そのプラスミドにより大腸菌HB101を形質転換し、LB/Carb寒天培地で培養して、目的のプラスミドを有する大腸菌HB101/pCDF20−EPObpf2Hを得た。
調製したプラスミドpCDF20−EPObpf2Hの構造の模式図を図10に示す。
【0083】
実施例8 プラスミドpCDF20−EPObpf31Hの作製
T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(配列番号23)の1位メチオニンから879位アスパラギン酸までのアミノ酸配列に続き、Pro−Gly−Asn−Glyの4残基を介して、配列番号26に示したヒトエリスロポエチンレセプターの1位アラニンから225位アスパラギン酸までと、それに続けて6個のヒスチジンを連結した融合蛋白質(EPObpf31H、配列番号44、図11参照)をコードしたポリヌクレオチド(配列番号45)をコードした、プラスミドpCDF20−EPObpf31Hを以下のようにして作製した。
【0084】
プラスミドpCDF20−T7RPを鋳型にして、配列番号46と47のプライマーセットを用いてPCRを行い、0.9kbpのDNAを合成した。
そのDNAを制限酵素HindIIIとBamHIで二重消化して0.8kbpのDNA(DNA−7と称する)を得た。
また、プラスミドpCDF20−EPObp2Hを鋳型にして、配列番号48と49のプライマーセットを用いてPCRを行い、0.7kbpのDNAを合成した。
そのDNAを制限酵素BamHIとBlnIで二重消化して0.7kbpのDNA(DNA−8と称する)を得た。
【0085】
一方プラスミドpCDF20−T7RPを制限酵素HindIIIとBlnIで二重消化して得られた5.1kbpのDNA(DNA−9と称する)を得た。そのDNA−9と、DNA−7及びDNA−8をライゲーションして環化させ、プラスミドを調製した。そのプラスミドにより大腸菌HB101を形質転換し、LB/Carb寒天培地で培養して、目的のプラスミドを有する大腸菌HB101/pCDF20−EPObpf31Hを得た。
調製したプラスミドpCDF20−EPObpf31Hの構造の模式図を図12に示す。
【0086】
実施例9 融合蛋白質EPObpf31Hの精製
大腸菌HB101/pCDF20−EPObpf31Hを、10mLの2xYT培地で、25℃で、16時間培養したのち集菌した。0.001M EDTAを含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)で洗浄後、菌密度(O.D.600)の値がおよそ36になるように、卵白リゾチーム溶液に、菌を懸濁した。その懸濁液を0℃で1時間インキュベーションしたのち、−80℃で凍結した。それを解凍後、超音波破砕して得た液を遠心分離して、可溶性画分300μLを得た。その画分を0.05M イミダゾール及び0.3M 塩化ナトリウムを含む0.02M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)(平衡化緩衝液‐Aと称する)で平衡化したMicroSpin G−25 Column(商品名、GEヘルスケア バイオサイエンス社)にロードして、遠心分離して素通り画分を得た。そのカラムには300μLの平衡化緩衝液‐Aをさらにロードして遠心分離し、先に得た素通り画分と合わせた。その液の500μLを、平衡化緩衝液‐Aで平衡化したニッケルキレート樹脂(His・Bind Resin、商品名、メルク社製)50μLを加えた1.5mL用マイクロ遠心チューブに添加して、樹脂を懸濁させた。それを4℃で一晩インキュベーションしたのち、再度樹脂を懸濁後、マイクロピペットで液(画分1)を取り除いた。その樹脂に500μLの平衡化緩衝液‐Aを加えて、樹脂を懸濁後、液を取り除くことにより樹脂を洗浄した。その操作をもう一度おこなって液を取り除き、1回目に取り除かれた液と混合して画分2とした。
【0087】
洗浄した樹脂には150μLの0.2M イミダゾール及び0.3M 塩化ナトリウムを含む0.02M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)を加えて、懸濁したのち、マイクロピペットで液(画分3)を回収した。
【0088】
図13のレーン1はニッケルキレート樹脂での分画前の試料、レーン2は本実施例の画分1、レーン3は本実施例の画分2、レーン4は本実施例の画分3をSDS−PAGEで分析した結果であり、ほぼ均一に精製されたEPObpf31H(分子量124kDa)を含んだ画分3を得た。
【0089】
実施例10 プラスミドpCDF20−EPOf2の作製
T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(配列番号3)の1位メチオニンから859位アスパラギン酸までのアミノ酸配列に続き、Asp−Asp−Asp−Lysの4残基を介して、配列番号27に示したヒトエリスロポエチンの1位アラニンから166位アルギニンまでを連結した融合蛋白質(EPOf2、配列番号50、図14参照)をコードしたポリヌクレオチド(配列番号51)をコードした、プラスミドpCDF20−EPOf2を以下のようにして作製した。
【0090】
配列番号52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68及び69のプライマーセットを用いてPCRで増幅した、0.34kbpのDNAを制限酵素MfeIとPstIで二重消化したDNA(DNA−10と称する)を得た。
【0091】
またプライマー配列番号68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80及び81のプライマーセットを用いてPCRで増幅した、0.25kbpのDNAを制限酵素PstIとBlnIで二重消化したDNA(DNA−11と称する)を得た。実施例6に記載のDNA−4と、DNA−10及びDNA−11をライゲーションして環化させ、プラスミドpCDF20−EPOf2を作製した。それを用いて大腸菌HB101を形質転換して、大腸菌HB101/pCDF20−EPOf2を得た。
調製したプラスミドpCDF20−EPOf2の構造の模式図を図15に示す。
【0092】
実施例11 プラスミドpCDF20−EPOf2Hの作製
T7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド(配列番号3)の1位メチオニンから859位アスパラギン酸までのアミノ酸配列に続き、Asp−Asp−Asp−Lysの4残基を介して、配列番号27に示したヒトエリスロポエチンの1位アラニンから166位アルギニンまでと、それに続けて6個のヒスチジンを連結した融合蛋白質(EPOf2H、配列番号82、図14参照)をコードしたポリヌクレオチド(配列番号83)をコードした、プラスミドpCDF20−EPOf2Hを以下のようにして作製した。
【0093】
配列番号68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80及び84のプライマーセットを用いてPCRで増幅した0.27kbpのDNAを制限酵素XbaIとPstIで二重消化したDNA(DNA−12と称する)を得た。そのDNA−12と、実施例10に記載のDNA−10及び実施例6に記載のDNA−4をライゲーションして環化させ、プラスミドpCDF20−EPOf2Hを作製した。それを用いて大腸菌HB101を形質転換して、大腸菌HB101/pCDF20−EPOf2Hを得た。
調製したプラスミドpCDF20−EPOf2Hの構造の模式図を図16に示す。
【0094】
実施例12 発現誘導剤存在下での融合蛋白質発現大腸菌の培養
大腸菌HB101/pCDF2−EPOf2、HB101/pCDF2−EPOf2H、HB101/pCDF2−EPObpf2及びHB101/pCDF2−EPObpf2Hを2xYT/Carb培地で、37℃で、一晩、それぞれ培養した。それらの培養液を、新鮮な培地で、菌密度がO.D.600で0.13になるように希釈して1.5時間培養し(O.D.600は0.6〜0.7)、発現誘導剤であるIPTGを濃度が1mMになるように加えて、さらに37℃で2時間培養した(O.D.600は2.4〜2.7)。それぞれを集菌し、実施例2と同様にして可溶性画分と不溶性画分を得て、SDS−PAGEで分析した結果を図17に示した。
【0095】
図17のレーン1と10は分子量マーカー蛋白質、レーン2はEPOf2の可溶性画分、レーン3はEPOf2の不溶性画分、レーン4はEPOf2Hの可溶性画分、レーン5はEPOf2Hの不溶性画分、レーン6はEPObpf2の可溶性画分、レーン7はEPObpf2の不溶性画分、レーン8はEPObpf2Hの可溶性画分、レーン5はEPOfbp2Hの不溶性画分の分析結果で、図中のアローヘッド(黒三角)で指し示したとおり、EPOf2(分子量115kDa)、EPOf2H(分子量116kDa)、EPObpf2(分子量121kDa)、及びEPObpf2H(分子量122kDa)は、いずれも、可溶性画分と不溶性画分に検出された。
【0096】
実施例13 発現誘導剤非存在下での融合蛋白質発現大腸菌の培養
大腸菌HB101/pCDF2−EPObpf2及びHB101/pCDF2−EPOf2を、2xYT/Carb培地で、25℃あるいは37℃で、14時間それぞれ培養したのち集菌し、実施例2と同様にして可溶性画分と不溶性画分を得て、SDS−PAGEで分析した。図18のレーン1と10は分子量マーカー蛋白質、レーン2は25℃で培養して得たEPObpf2の可溶性画分、レーン3は25℃で培養して得たEPObpf2の不溶性画分、レーン4は37℃で培養して得たEPObpf2の可溶性画分、レーン5は37℃で培養して得たEPObpf2の不溶性画分、レーン6は25℃で培養して得たEPOf2の可溶性画分、レーン7は25℃で培養して得たEPOf2の不溶性画分、レーン8は37℃で培養して得たEPOf2の可溶性画分、レーン9は37℃で培養して得たEPOf2の不溶性画分の分析結果で、図中のアローヘッド(黒三角)で指し示したとおり、EPObpf2(レーン2と4)とEPOf2(レーン6と8)が可溶性画分に検出された。
【0097】
実施例14 エンテロキナーゼによる融合蛋白質EPOf2の加水分解
実施例13と同様にして得たEPOf2の可溶性画分に、4unit/mL〜80unit/mL EKmax Enterokinase(以下、EKmaxと称する;商品名、インビトロジェン社製)、0.1M 塩化ナトリウム及び0.004M 塩化カルシウムを含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)を、等容量混合して、25℃で18時間インキュベーションした。それをSDS−PAGEに供したのち、10%(V/V) メタノール、0.01M シクロヘキシルアミノプロピパンスルホン酸−水酸化ナトリウム緩衝液(pH11)中で電気泳動して、PVDF膜に転写した。その膜をBSA/TBS−T溶液中でブロッキングしたのち、ウエスタンブロッティング分析を行い、EPOf2(121kDa)と、それがリンカー部分で位置特異的に加水分解されて生じるEPO(18kDa)を、抗ヒトエリスロポエチン抗体を用いて検出した。
【0098】
ウエスタンブロッティングの手順は、まずブロッキングした膜を、0.5μg/mL ビオチン標識マウス抗ヒトエリスロポエチン抗体を含むBSA/TBS−T溶液中に浸漬して、室温で1時間振とうしたのち、TBS−T溶液で順次洗浄してB/F分離した。次にその膜を0.6μg/mL HRP標識ストレプトアビジンを含むBSA/TBS−T溶液中に浸漬して、室温で1時間振とうしたのち、B/F分離した。次にその膜に結合したHRP標識ストレプトアビジンのHRP活性を、0.1%過酸化水素及び5mM4−クロロナフトールを含む24.3mMクエン酸−51.4mMリン酸水素二ナトリウム緩衝液(pH5)を基質溶液として用いて室温で20分間呈色反応を行って検出し、エリスロポエチンの検出を行った。
【0099】
図19のレーン1は分子量マーカー蛋白質、レーン2は、検出のポジティブコントロールとして用いたCHO細胞由来リコンビナント・ヒトエリスロポエチン(メルク社製)、レーン3はEPObpf2(可溶性画分)、レーン4から8はそれぞれEKmaxを2unit/mL、4unit/mL、10unit/mL、20unit/mL、40unit/mLになるように添加したEPOf2(可溶性画分)、レーン9は40unit/mL EKmaxのみの試料を、それぞれ分析した結果であり、EPOf2が位置特異的に加水分解されてEPO(分子量18kDa)が生じたことがわかった。
【0100】
実施例15 融合蛋白質EPObpf2Hの精製
大腸菌HB101/pCDF20−EPObpf2Hを、2xYT/Carb培地で、25℃で、18時間培養した。菌密度(O.D.600)の値は、4.6であった。その培養液500mLを遠心分離して集菌したのち0.001M EDTA含む0.05M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)で順次洗浄後、菌密度(O.D.600)の値がおよそ36になるように、卵白リゾチーム溶液に、菌を懸濁した。その懸濁液を0℃で1時間インキュベーションしたのち、−80℃で凍結した。それを解凍後、超音波破砕機に供した。破砕して得た液を遠心分離して可溶性画分を得た。その画分を滅菌ろ過して、ろ液72mLを得て、それに7.2mLの0.22M硫安溶液を混合したのち、1.58mLの5%ポリエチレンイミン水溶液を混合した。それを0℃で1時間インキュベーションしたのち、遠心分離して可溶性画分を得て、それを、0.3M塩化ナトリウムを含む0.02Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)中で4℃、一晩透析した。
【0101】
その透析後に遠心分離をして不溶性の画分を除去したのち、0.05Mになるようにイミダゾールを加えた。
【0102】
その溶液の10mLを実施例9に記載した平衡化緩衝液‐Aで平衡化したニッケルキレート樹脂(His・Bind Resin、商品名、メルク社製)を2mL充填したカラムにロードしたのち、平衡化緩衝液‐A5mLで樹脂を洗い込み、素通り画分としてプールした。その樹脂をさらに平衡化緩衝液‐A5mLを3回ロードして洗浄したのち、0.2M イミダゾール及び0.3M 塩化ナトリウムを含む0.02M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で順次溶出させた。吸着画分はそれぞれフラクションサイズ1mLで溶出して分取した。
【0103】
一連のカラム精製を3回行って得たフラクションを、SDS−PAGEで分析した。
【0104】
図20はレーン1及び13が分子量マーカー蛋白質、レーン2がニッケルキレート樹脂による分画前の試料、レーン3はニッケルキレート樹脂にロードした試料の素通り画分、レーン4から6は洗浄して得た画分、レーン7から12は吸着画分を溶出して得た画分であり、レーン8から12に、ほぼ均一に精製されたEPObpf2H(分子量122kDa)が検出された。EPObpf2Hを含んだフラクションをプールし、蛋白質濃度をγ−グロブリンを標準蛋白質に用いて、プロテインアッセイ(商品名、バイオラッド社)で比色定量した結果、3回のカラム精製で得られたEPObpf2Hは合計11.7mgであった。
【0105】
実施例16 EPObpf2Hを結合した樹脂によるエリスロポエチンの吸着
実施例9に記載した平衡化緩衝液‐Aで平衡化したニッケルキレート樹脂1mLに、EPObpf2H(4.8mg)を結合させ、その樹脂に、平衡化緩衝液‐Aで0.42mg/mLに調製したCHO細胞由来リコンビナント・ヒトエリスロポエチン(メルク社製)0.12mLをロードし、さらに0.88mLの平衡化緩衝液‐Aを樹脂にロードして素通り画分(1mL)を得た。さらに1回あたり1mLの平衡化緩衝液‐Aを5回ロードして洗浄画分(1mLx5)を得た。ついで、6M 尿素を含む平衡化緩衝液‐Aで、フラクションサイズ1mLで溶出画分を分取した。
【0106】
同様にEPObpf2Hを結合していない樹脂で上記と同様の素通り画分、洗浄画分及び溶出画分を得て比較試料とした。
【0107】
得た画分はSDS−PAGEに供したのち、実施例14に記載した方法と同様にウエスタンブロッティング分析を行いエリスロポエチンの検出を行った。
【0108】
図21の(a)はEPObpf2Hを結合していない樹脂を用いて得た画分を分析した結果であり、(b)はEPObpf2Hを結合した脂を用いて得た画分を分析した結果である。それぞれのレーン1は分子量マーカー蛋白質、レーン2と3はCHO細胞由来リコンビナント・ヒトエリスロポエチンのポジティブコントロールでそれぞれ、0.25μg、0.5μgを電気泳動したもの、レーン4は素通り画分、レーン5から9は洗浄画分、レーン10から14は溶出画分を分析した結果である。図21の(a)の溶出画分にエリスロポエチンは検出されなかったが、図21の(b)のレーン10と11の溶出画分にはエリスロポエチンは検出され、樹脂に結合したEPObpf2HにCHO細胞由来リコンビナント・ヒトエリスロポエチンが吸着することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1から23に示したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類のカルボキシル末端に、直接に、又は1残基以上のアミノ酸からなるリンカーを介して、異種蛋白質を融合したT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項2】
異種蛋白質が、脊椎動物由来のポリペプチド、あるいは脊椎動物由来のポリペプチドの1残基以上のアミノ酸を、他のアミノ酸に置換、及び/又は欠失、及び/又は付加したポリペプチドであることを特徴とする請求項1に記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項3】
前記異種蛋白質が、蛋白質精製用の付加配列からなるペプチドを含む、請求項1又は2に記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項4】
前記蛋白質精製用の付加配列からなるペプチドが、ポリヒスチジン、S−ペプチド、及びc−mycペプチドからなる群から選ばれる、請求項3に記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項5】
脊椎動物由来のポリペプチドが、配列番号25に示した成長ホルモンレセプターの1位から238位のアミノ酸からなるポリペプチド、配列番号26に示したエリスロポエチンレセプターの1位から225位のアミノ酸からなるポリペプチド又は配列番号27に示したエリスロポエチンの1位から166位のアミノ酸からなるポリペプチドであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項6】
リンカーが、1種類以上のプロテアーゼの基質となるアミノ酸配列を有するリンカーであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項7】
プロテアーゼが、エンテロキナーゼ、トロンビン、活性化血液凝固X因子、ウロキナーゼ又はHRV 3Cプロテアーゼである請求項6に記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項8】
リンカーが、エンテロキナーゼ、トロンビン、活性化血液凝固X因子、ウロキナーゼ又はHRV 3Cプロテアーゼのいずれかの基質となるアミノ酸配列を有するリンカーであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項9】
プロテアーゼの基質となるアミノ酸配列が、Asp−Asp−Asp−Asp−Lys、Lue−Val−Pro−Arg、Ile−Glu−Gly−Arg、Pro−Gly−Arg又はLeu−Glu−Val−Leu−Phe−Gln−Gly−Proである請求項6に記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項10】
リンカーが、Asp−Asp−Asp−Asp−Lys、Lue−Val−Pro−Arg、Ile−Glu−Gly−Arg、Pro−Gly−Arg又はLeu−Glu−Val−Leu−Phe−Gln−Gly−Proのいずれかのアミノ酸配列を有するリンカーであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質をコードしたポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項1から10のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質を生産するEscherichia属の細菌。
【請求項13】
請求項1から10のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質をプロテアーゼで位置特異的に加水分解することを特徴とする異種蛋白質の製造法。
【請求項14】
請求項1から10のいずれかに記載のT7RNAポリメラーゼ様ポリペプチド類融合蛋白質を、請求項12に記載のEscherichia属の細菌を使用して製造することを特徴とする請求項13に記載の異種蛋白質の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図3】
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【図7】
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【図13】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−223983(P2011−223983A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293937(P2010−293937)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)公益財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】