説明

TGF−βの遮断により腫瘍再発を防ぐ方法

TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤を被験対象に投与する段階を含む、被験対象における腫瘍の再発を防ぐ方法が、本明細書において提供される。1つの態様では、薬剤はTGF-βの免疫抑制作用を阻害する。TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤を投与することで被験対象の免疫応答を促進して腫瘍再発を阻害する方法も提供される。TGF-β受容体を発現する細胞にTGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤を接触させることで免疫細胞の活性を高めて腫瘍の再発を阻害する方法が提供され、腫瘍の再発を阻害または再発率を測定可能に低下させる薬剤のスクリーニング法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、参照として本明細書に組み入れられる、2002年10月25日に出願された米国仮特許出願第60/421,286号の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本開示は、腫瘍の再発を防ぐ方法に関する。具体的には本開示は、TGF-βの免疫抑制作用を阻害するためにトランスフォーミング成長因子(TGF)-βシグナル伝達を遮断して腫瘍の再発を防ぐ方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
トランスフォーミング成長因子(TGF)-βスーパーファミリーは、多機能性ポリペプチドの成長因子および分化因子の大きなグループを占める。このファミリーのメンバーは、さまざまな構造上および機能上の基準から3つのクラスに分けられる(米国特許第6,046,165号)。この3つのクラスとは、1)TGF-βのイソ型、2)アクチビン、および3)骨形成タンパク質である。このタンパク質ファミリーの関連性の弱いメンバーとしては、マウスのnodal遺伝子産物、ショウジョウバエのdecapentaplegic複合体の遺伝子産物、およびツメガエルのVg1などがある。
【0004】
TGF-βはホモ二量体タンパク質であり、少なくとも5種類のイソ型が存在する。一般にTGF-βファミリーのタンパク質はホモ二量体であり、個々の機能性タンパク質複合体は2個の同一な結合状態の単量体サブユニットを含む。TGF-β1のホモ二量体の結晶構造は周知である(Hinck et al., Biochem., 35: 8517, 1996; Qian et al., J. Biol. Chem., 271: 30656, 1996)。TGF-βは極めてコンパクトなタンパク質であり、各サブユニット内に4本の分子内ジスルフィド架橋を有し、また1本の分子間ジスルフィド架橋を有する。
【0005】
このタンパク質の個々の単量体は、長い(約278残基)N末端のプロ領域と、かなり短い(112残基、12.5 kDa)C末端の活性ドメイン(成熟領域)を有する大きな(〜55 kDa)前駆体分子として合成される。成熟過程中に2つの前駆体分子が相互に結合し、プロ領域は活性ドメイン単量体の適切なフォールディング、および2つの活性ドメイン単量体間の適切な結合に重要な役割を果たす。各単量体のプロ領域は、結合した状態の活性ドメインからタンパク質分解によって切断されるが、多くの場合、プロ領域は成熟型TGF-β断片と結合した状態のままである。TGF-βの合成に関する議論については、Khalil、 Micro. Infect., 1: 1255, 1999を参照されたい。
【0006】
TGF-βファミリーのタンパク質は、I型およびII型の膜貫通型セリン/スレオニンキナーゼ受容体を含む特定のヘテロマーの複合体形成を促すように作用する。II型受容体はリガンドと結合し、I型受容体をそのグリシンおよびセリンに富むドメインにおいてリン酸化する。この一連の分子的事象は下流の分子群であるSmad群にシグナルを伝達し、最終的にはタンパク質の発現および細胞の機能に影響を及ぼす(例えば、Moustakas et al., J Cell Science 114: 4359, 2001; Massague and Wotton, EMBO J. 19: 1745, 2000を参照)。
【0007】
TGF-βおよびTGF-β受容体は本質的にすべての組織で発現され、多くの細胞過程に重要な役割を果たすことがわかっている。というのはTGF-βは、細胞の成長および分化、免疫抑制、炎症、ならびに細胞外マトリックスタンパク質の発現に役割を果たすことがわかっているからである。TGF-βは例えば、上皮細胞を始めとする多くの細胞種の成長を阻害するが、さまざまな種類の間葉細胞の増殖を刺激することも示されている。別の例では、動物モデルでTGF-βが、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、創傷治癒、気管支喘息、および炎症性腸疾患を含むさまざまな疾患および障害と関連する症状を緩和することがわかっており、創傷治癒を促すために臨床現場で用いられている。またTGF-βは、T細胞の増殖、アポトーシス、活性化、および分化の調節などの多くの免疫調節機能も有する。
【0008】
TGF-βは、多くの腫瘍で大量に発現され、例えば米国特許第6,046,165号に記載されているように、癌において2つの重要な役割を果たすと考えられている。TGF-βは一般に成長を阻害するように作用する。しかしTGF-βは高度の免疫抑制性も示すので、TGF-βは腫瘍の「逃避」に関与していると考えられている。TGF-βの成長阻害作用に反応しなくなった腫瘍細胞は、サイトカインの発現を促進して、細胞自体を免疫系から保護することで、免疫監視を逃れる(Mule et al., Cancer Immunol Immunother 26: 95, 1988; Gorelik and Flavell, Nature Medicine 7: 1118, 2001)。
【発明の開示】
【0009】
発明の要旨
本開示は、治療的有効量の薬剤を被験対象に投与することで被験対象における腫瘍の再発を阻害する方法を提供する。薬剤はTGF-βの活性を中和し、TGF-βの免疫抑制作用を遮断して腫瘍の再発を防ぐ。1つの態様では、薬剤はTGF-βに結合する。他の態様では、薬剤はTGF-β受容体またはTGF-β経路の下流のシグナル伝達分子に結合する。
【0010】
被験対象における免疫応答を促進して腫瘍の再発を阻害する方法も提供する。このような方法の例は、TGF-β受容体を発現する免疫細胞におけるTGF-βシグナル伝達経路を遮断する治療的有効量の薬剤を被験対象に投与する段階を含む。免疫細胞の活性を高めて腫瘍の再発を阻害する方法も提供する。このような方法の例は、TGF-β受容体を発現する免疫細胞に、TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤を接触させる段階を含む。本開示はまた、腫瘍の再発を阻害したり、または再発率を測定可能に低下させたりする薬剤、または免疫応答を促進する薬剤をスクリーニングする方法も提供する。
【0011】
前述ならびに他の特徴および利点は、いくつかの態様に関する以下の詳細な説明によって明らかとなる。添付の図面を参照しながら説明を進める。
【0012】
詳細な説明
I.略語

【0013】
II.用語・表現
特に明記しない限り、技術用語は従来の使用法に準じて用いる。分子生物学領域における一般用語の定義は、Benjamin Lewin, Genes V, published by Oxford University Press, 1994 (ISBN 0-19-854287-9; Kendrew et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, published by Blackwell Science Ltd., 1994 (ISBN 0-632-02182-9;およびRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, published by VCH Publishers, Inc., 1995 (ISBN 1-56081-569-8)に記載されている。
【0014】
本発明のさまざまな態様の検討を容易にするために、いくつかの表現を説明する。
【0015】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性:TGF-β受容体を発現する細胞の生物学的活性。このような細胞の生物学的活性には、標的細胞の溶解、細胞増殖、サイトカイン産生、腫瘍成長の阻害、または腫瘍再発の阻害などがある。標的細胞の溶解の低下、サイトカイン産生の低下、または腫瘍再発の阻害の低下などの、TGF-β受容体発現細胞の活性の変化は、TGF-βシグナル伝達の遮断に起因する場合がある。細胞の活性の測定は、当業者に周知の任意の方法で実施することができる。例えば、標的細胞を溶解する能力は、本明細書に開示されたクロム(Cr)放出アッセイ法で測定できる。別の例では、サイトカイン産生能力は、ウェスタンブロットまたはノーザン解析で測定できる。さらに別の例では、腫瘍再発の阻害能力は、処理後(例えば抗TGF-β抗体投与後)における、対照マウスと比較時の、腫瘍を有するマウスの個体数から測定することができる。
【0016】
薬剤:抗体、化合物、小分子、ペプチド模倣体、ペプチド、またはタンパク質を含むがこれらに限定されない任意の物質。薬剤は、被験対象の身体で産生される場合がある。1つの態様では、薬剤はTGF-βの免疫抑制作用を遮断する。別の態様では、薬剤は腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる。さらに別の態様では、薬剤は腫瘍の再発を防ぐ。別の態様では、薬剤はTGF-βの活性を中和する。
【0017】
動物:例えば哺乳類および鳥類を含む分類である、生きている多細胞脊椎動物。「哺乳類」という用語は、ヒトと非ヒト哺乳類の両方を含む。同様に、「被験対象」という用語は、ヒトと獣医学的対象の両方を含む。
【0018】
抗体:免疫グロブリン(Ig)分子、およびIg分子の免疫学的に活性のある部分(例えば抗原と特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含む分子)。1つの態様では、抗原はTGF-βである。他の態様では、抗原はTGF-β受容体、またはTGF-β下流シグナル伝達分子(例えばSmad2、Smad3、Smad4、Smad複合体DNA結合コファクター)である。モノクローナル免疫グロブリン、ポリクローナル免疫グロブリン、およびヒト化免疫グロブリンは本開示に含まれる。本開示はまた、このような免疫グロブリンの合成バリアントおよび遺伝子工学的に作製されたバリアントも含む。
【0019】
天然の抗体(例えばIgG)は、ジスルフィド結合で相互に連結された4本のポリペプチド鎖(2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖)を含む。しかし、抗体の抗原結合機能が、天然の抗体の断片によって発揮可能なことがわかっている。したがって、このような抗原結合断片も、「抗体」という表現で示されることが意図される。「抗体」という表現に含まれる結合断片の例には、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなるFab断片;(ii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iii)抗体の1本のアームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片;(iv)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al., Nature 341: 544, 1989);ならびに(v)ヒンジ領域においてジスルフィド架橋で連結された2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab')2断片などがある。
【0020】
またFv断片の2つのドメインは別個の遺伝子にコードされているが、両ドメインを1本のタンパク質鎖(1本鎖Fv(scFv)として知られる;Bird et al., Science 242: 423, 1988;およびHuston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 5879, 1988)として組換え法で作られるように合成リンカーを作製することができる。このような1本鎖抗体、ならびにジスルフィド結合で安定化されたFvであるdsFv(Bera et al., (1998) J. Mol. Biol. 281: 475-483)、および異なるポリペプチド鎖の対合によって生じる二量体Fv(diabody)(Holliger et al., (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. 90: 6444-6448)も含まれる。
【0021】
1つの態様では、本開示で使用される抗体断片は、例えばF(ab')2断片などの2価断片などの、標的抗原の架橋が可能な抗体断片である。あるいは、それ自体では標的抗原を架橋しない抗体断片(例えばFab断片)を、抗体断片を架橋することで標的抗原を架橋するように作用する二次抗体と共に使用することができる。抗体は従来の手法で断片化することが可能であり、また断片の有用性を、抗体全体に関して記載された方法と同じ方法でスクリーニングすることができる。抗体はさらに、標的抗原と特異的に結合するヒト化モノクローナル分子を含むことを意図する。
【0022】
「特異的に結合する」という表現は、個々の抗体が抗原と特異的に免疫反応する能力を意味する。このような結合は、抗体分子と抗原の間でのランダムでない結合反応である。1つの態様では抗原はTGF-βである。結合特異性は典型的には、抗体が対象抗原および無関係の抗原と差次的に結合することで、2種類の異なる抗原(特に2種類の抗原は固有のエピトープを有する)を区別する能力を元に決定される。特定のエピトープに特異的に結合する抗体は「特異的抗体」と呼ばれる。1つの態様では、ハイブリドーマ1D11.16(ATCCアクセッション番号HB9849)から得られるモノクローナル抗体はTGF-βと結合し、特異的である。
【0023】
抗原:抗体が特異的に結合する任意の分子。抗原は、免疫系に拮抗したり免疫系を刺激したりして抗体を産生させる物質(例えば、抗原提示細胞の表面上の抗原)でもある。抗原は、身体を侵すアレルゲン、細菌、またはウイルスなどの物質であることが多い。
【0024】
1つの態様では抗原はTGF-βである。他の態様では、抗原はTGF-β受容体、またはTGF-β下流シグナル伝達分子(例えばSmad2、Smad3、Smad4、Smad複合体DNA結合コファクター)である。
【0025】
サイトカイン:細胞によって作られる、炎症応答および免疫応答に関与するタンパク質。1つの態様では、サイトカインは、細胞の運動に影響する分子であるケモカインである。サイトカインには、インターロイキン(例えばIL-4、IL-8、IL-10、IL-13)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ニューロキニン、腫瘍壊死因子(TNF)(例えばTNF-α、TNF-β)、インターフェロン(IFN)(例えばIFN-α、IFN-β、IFN-γ)、およびTGF-β(例えばTGF-β-1、TGF-β-2)などがあるがこれらに限定されない。
【0026】
細胞傷害性Tリンパ球(CTL):外来抗原を提示する自己細胞、または細胞免疫系による破壊目標となる印が付けられた異常な自己細胞(腫瘍細胞を含む)のいずれかを死滅させることが可能なリンパ球。CTLは、ウイルス、真菌、寄生生物、またはある種の細菌に感染した細胞を破壊可能である。CTLは通常、CD8細胞表面マーカーを発現し、クラスI主要組織適合性複合体(MHC)分子によって提示された微生物ペプチドを認識する。CTLはウイルス感染細胞を死滅させるが、抗体は一般に、血中を自由に浮遊するウイルスを標的とする。CTLによる感染細胞の死滅には、内容物に膜孔形成タンパク質および酵素が含まれる細胞質顆粒の放出が関与する。CTLは、変異体細胞タンパク質または発癌性ウイルスタンパク質に由来し、クラスI MHC分子との結合によって提示されるペプチドを発現する潜在的に悪性の細胞を認識して死滅させることで免疫監視機能を果たす。CTLが関与する腫瘍の免疫監視は、本明細書に開示されるようにTGF-βによって下方制御される。
【0027】
CTLアッセイ法:活性化されたCTLは一般に、CTLが認識する特定のペプチド:MHCクラスI複合体を提示する任意の細胞を死滅させる。CTL活性は、CTLが標的細胞(特定のペプチド:MHCクラスI複合体を発現する細胞)を死滅させる能力を測定するアッセイ法で決定することができる。CTL活性の典型的なアッセイ法はクロム放出アッセイ法である。表面に抗原を発現する標的細胞を、クロムの放射性同位体(51Cr)で標識する。次に被験対象のCTLを標的細胞と混合して数時間インキュベートする。CTLによって抗原発現細胞が溶解すると51Crが培地中へ放出される。放出された51Crを検出して定量することができる。CTLが抗原特異的な溶解を引き起こす能力は、エフェクター細胞の存在下または非存在下における、抗原または対照抗原を発現する標的細胞の溶解(クロムの放出と相関する)を比較することで計算され、通常は、抗原特異的な溶解のパーセントで表される。
【0028】
エピトープタグ:抗体産生を引き起こすことが可能な短いペプチドまたはアミノ酸配列。いくつかの態様では、ペプチドタグにより、対象タンパク質(例えば生きている生物または培養細胞に添加された、タグの付いたタンパク質)を特異的に同定して追跡することができる。タグの付いたタンパク質は多種多様な手法で検出することができる。このような手法の例には、免疫組織化学法、免疫沈降法、フローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡法、ELISA、イムノブロット法(「ウェスタン」)、およびアフィニティクロマトグラフィーなどがある。有用なエピトープタグの例にはFLAG、T7、HA(赤血球凝集素)、およびmycなどがある。
【0029】
免疫細胞:宿主防御機構に関与する任意の細胞。免疫細胞には例えば、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NKT細胞、好中球、マスト細胞、マクロファージ、抗原提示細胞、好塩基球、好酸球、および好中球などがある。
【0030】
免疫応答:被験対象への外来(例えば非自己)物質の侵入に対する集合的および協調的な応答(応答には免疫系の細胞および分子が関与する)。免疫応答の一例は、CTLが関与する腫瘍の免疫監視である。免疫応答の別の例は、腫瘍特異抗原などの特定の抗原に特異的な応答(「抗原特異的応答」)である。免疫応答のさらに別の例は、サイトカインの存在によって刺激される応答である。
【0031】
免疫抑制:基礎疾患の結果としての、または移植拒絶もしくは自己免疫疾患の予防もしくは治療を目的として薬剤によって意図的に誘導される、適応免疫系または先天性免疫系の1つもしくは複数の成分の阻害(Cellular and Molecular Immunology, fourth edition, WB Saunders Co., 2000)。
【0032】
免疫抑制剤:免疫応答の少なくとも1つの機能に対する阻害作用を有する薬剤、および免疫抑制を引き起こす薬剤。免疫抑制剤の一例はTGF-βである。免疫抑制剤は、外来(非自己)物質、および腫瘍や他の異常成長などの、被験対象が闘っている疾患に対する免疫系による反応を防ぐことができる。
【0033】
TGF-βは、CD8+CTLが関与する腫瘍の免疫監視がTGF-βによって下方制御されるという事実からわかるように、高度に免疫抑制的である。TGF-βは、腫瘍の「逃避」に関与することが提案されている。TGF-βの成長阻害作用に反応しなくなった腫瘍細胞は、TGF-βの発現を上方制御することで、自らを免疫系から守ることで免疫監視を逃れる(Mule et al., Cancer Immunol Immunother 26: 95, 1988; Gorelik and Flavell, Nature Medicine 7: 1118, 2001)。
【0034】
TGF-βによる腫瘍の免疫監視の下方制御および免疫抑制の機構は例えば、マウスへの腫瘍の注入後に腫瘍が「成長-退行-再発」のパターンを示すマウスの腫瘍モデルを用いて調べることができる。このような系の1つを実施例5で説明する。
【0035】
免疫監視:免疫系が、外来抗原(例えば腫瘍抗原または微生物抗原)を発現する細胞を認識して破壊する機能。1つの態様では、免疫監視は、腫瘍に成長する前の形質転換細胞を認識して破壊し、また形成済みの腫瘍を死滅させるTリンパ球の機能である。免疫監視の1つの特定の非制限的な例は、CD8+CTLが関与する腫瘍の免疫監視である。
【0036】
単離された:「単離された」生物学的成分(核酸分子、タンパク質、または細胞小器官など)は、成分が天然に存在する生物の細胞内の他の生物学的成分(例えば、他の染色体ならびに染色体外のDNAおよびRNA、タンパク質、ならびに細胞小器官)から実質的に分離されているか、または精製されている。「単離された」核酸およびタンパク質は、標準的な精製法で精製された核酸およびタンパク質を含む。この表現は、宿主細胞内で組換え発現によって調製された核酸およびタンパク質、ならびに化学的に合成された生体高分子も含む。「単離された」という表現は100%の(absolute)単離を必要としない。同様に、「実質的に分離された」という表現は100%の(absolute)分離を必要としない。
【0037】
リンパ球:身体の免疫応答に関与する白血球の1種。B細胞とT細胞の2つの主なクラスのリンパ球が存在する。第3のクラスのリンパ球はナチュラルキラー(NK)細胞である。細胞傷害性Tリンパ球(CTL)およびNKT細胞はT細胞の1種である。
【0038】
哺乳類:この表現は、ヒトと非ヒト哺乳類の両方を含む。同様に「被験対象」という表現は、ヒトと獣医学的対象の両方を含む。
【0039】
転移:身体のある部位から別の部位への腫瘍の拡散。拡散した細胞から形成される腫瘍は「二次腫瘍」と呼ばれ、元の(原発)腫瘍に含まれる細胞と同様の細胞を含む。転移は、元の腫瘍に由来して元の腫瘍から循環または異なる部位へ移動する少なくとも1個の腫瘍細胞によって引き起こされる。転移には、新しい腫瘍部位における新しい血液供給の確立が必要とされる。
【0040】
ナチュラルキラー(NK)細胞:CD3細胞表面マーカーを発現せず、標的を認識する際に従来のT細胞受容体またはB細胞受容体を用いないリンパ球の1種(T細胞でもB細胞でもない)。NK細胞は、標的細胞上のMHC分子の有無を検出する活性化受容体または阻害性受容体を有するが、T細胞受容体とは異なり、これらは抗原特異的ではなく、MHCの拘束を受けない。
【0041】
NK細胞は、ウイルス感染細胞および非特異的な癌細胞に対する先天性免疫防御の一部である。NK細胞は記憶をもたず、また特異的抗原による免疫化によって誘導されない。NK細胞は、そのFc受容体を介して抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)に関与する場合がある。マウスではNK細胞は、NK1.1と呼ばれる表面マーカーによって同定され、T細胞マーカーCD3、CD4、およびCD8は陰性である。HIV感染に起因するような免疫不全の被験者では、「ナチュラル」キラー細胞活性は低下している場合が多い。
【0042】
中和する:分子の活性を阻害可能な薬剤に関する表現。中和可能な分子の例にはTGF-β、TGF-β受容体、またはTGF-β下流シグナル伝達分子などがある。1つの態様では中和性TGF-βは、TGF-βシグナル伝達経路を阻害することでTGF-βの免疫抑制作用を阻害する。薬剤は本明細書で、例えば任意の測定量(measure amount)によって分子の活性を中和するように開示されている。「中和する」という表現は100%の(absolute)中和を必要としない。同様に、「阻害する」という表現は100%の(absolute)阻害を必要としない。
【0043】
例えば薬剤は、ある分子に特異的に結合することで同分子を中和することによって、この分子がその機能またはその機能群の1つを発揮することを防ぐことができる。1つの態様では中和剤は、ある分子が他の分子と相互作用するのを、例えばTGF-βがTGF-β受容体と相互作用するのを妨げることでTGF-βの活性を中和することで妨げる。中和剤の1つの特定の非制限的な例は、1D11.16抗TGF-βモノクローナル抗体である。
【0044】
NKT細胞:CD3細胞表面マーカーを発現し、従来型のアルファ-ベータT細胞受容体を有するが、アルファ-ベータT細胞受容体のレパートリーが制限されているために、大半のNKT細胞は、非典型的なクラスI MHC分子であるCD1dによって提示される糖脂質抗原を認識するT細胞。CD1d分子は、ペプチドよりむしろ糖脂質をTリンパ球に提示するMHC(主要組織適合性複合体)クラスI様分子である。NKT細胞は、限られたレパートリーのT細胞受容体(特にマウスのV-アルファ14/V-ベータ8のペア、およびヒトのV-アルファ24)を用いる。NKT細胞は標的細胞を死滅させる能力を有するが、その主な機能の1つは、免疫応答の極めて初期にサイトカインを分泌することである。NKT細胞はいずれもCD3を発現し、一部はCD4を発現するが、一部はCD4/CD8二重陰性である。NKT細胞は当初、マウスのNKT細胞として記載された。というのは、NK細胞と同様にNK1.1マーカーを発現するからである(ただし、これはNK細胞との単なる類似性である)。NKT細胞は現在、CD1d拘束性のT細胞であると一般にみなされている。
【0045】
ヌクレオチド:この用語は、糖に連結されたピリミジン、プリン、もしくはこれらの合成類似体などの塩基、またはペプチド核酸(PNA)中におけるようなアミノ酸に連結された塩基を含む単量体を含むが必ずしもこれらに限定されない。ヌクレオチドはポリヌクレオチド中の1つの単量体である。この用語は、ポリヌクレオチドの一部を形成可能な、このような分子の、当技術分野で明らかな他の修飾も含む。ヌクレオチド配列は、ポリヌクレオチド中の塩基の配列を意味する。
【0046】
非経口的:腸外に、例えば消化管を経由せずに投与されること。一般に非経口製剤は、摂取以外の任意の可能な様式で投与される製剤である。この表現は特に、静脈内、髄腔内、筋肉内、腹腔内、または皮下に投与されるかに関わらない注射、および例えば経鼻、皮内、および局所塗布を含むさまざまな表面への塗布を意味する。
【0047】
ペプチド:ある残基のカルボキシル基と、次のアミノ基から形成される、アミド結合で連結された2個もしくはこれ以上のアミノ酸残基を含む任意の化合物。意味の範囲の広い表現である「ペプチド」は、オリゴペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質を含む。
【0048】
薬学的に許容される担体:本開示に有用な薬学的に許容される担体は、従来の担体である。Remington's Pharmaceutical Sciences(E.W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, PA, 15th Edition, 1975)には、本明細書に開示された融合タンパク質の薬学的輸送に適した組成および剤形が記載されている。
【0049】
担体の性質は一般に、用いられる特定の投与様式に依存する。例えば非経口製剤は通常、溶媒として、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、デキストロース水溶液、グリセロールなどの薬学的および生理学的に許容される流体を含む注射可能な流体を含む。固体組成物(例えば、粉末、丸剤、錠剤、またはカプセル剤)に関しては、従来の非毒性固体担体は例えば、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムを含む場合がある。生物学的に中性の担体に加えて、対象となる薬学的組成物は、湿潤剤または乳化剤、保存剤、および例えば酢酸ナトリウムやソルビタンモノラウレートのようなpH緩衝剤などの少量の非毒性補助物質を含む場合がある。
【0050】
原発腫瘍:元の腫瘍。(転移性腫瘍に対して)元の部位における腫瘍。
【0051】
タンパク質:コードする核酸分子(例えば遺伝子)から発現され、アミノ酸からなる生体分子。タンパク質は、広範囲の分子クラスである「ペプチド」のサブセットである。
【0052】
精製された:「精製された」という表現は100%の純度を必要とせず、むしろ相対的な表現として用いられる。したがって例えば、「精製された」タンパク質調製物は、タンパク質が、その生成環境(例えば細胞内または生化学的反応槽内)にあるタンパク質よりも濃縮された調製物である。好ましくはタンパク質の調製物は、タンパク質が調製物の全タンパク質量の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%となるように精製される。
【0053】
組換えヌクレオチド:組換えヌクレオチドは、天然には存在しない配列を有するヌクレオチドか、またはヌクレオチド配列の2つの通常は別個のセグメントの人工的な組み合わせによって作られる配列を有するヌクレオチドである。こうした人工的な組み合わせは、化学合成によって、またはより一般的には、核酸の単離されたセグメントの人工的な操作によって、例えば遺伝子工学的手法によって達成することができる。同様に、組換えタンパク質は、組換えヌクレオチドにコードされたタンパク質である。
【0054】
配列同一性:2つの核酸配列間、または2つのアミノ酸配列間の類似性は、配列間の類似性で表される(配列同一性とも呼ばれる)。配列同一性は、同一性(%)(または類似性もしくは相同性)で測定されることが多い。このパーセンテージが高いほど、2つの配列の類似性は高くなる。
【0055】
比較目的の配列アライメント法は当技術分野で周知である。さまざまなプログラムおよびアライメントアルゴリズムが、SmithおよびWaterman(Adv. Appl. Math. 2: 482, 1981)、NeedlemanおよびWunschの(J. Mol. Biol. 48: 443, 1970)、PearsonおよびLipman(PNAS. USA 85: 2444, 1988)、HigginsおよびSharp(Gene, 73: 237-244, 1988)、HigginsおよびSharp(CABIOS 5: 151-153, 1989)、Corpetら(Nuc. Acids Res. 16: 10881-10890, 1988)、Huangら(Comp. Appls. Biosci. 8: 155-165, 1992)、ならびにPearsonら(Meth. Mol. Biol. 24: 307-31, 1994)に記載されている。Altschulら(Nature Genet., 6: 119-129, 1994)は、配列アライメント法およびホモロジー計算に詳細な考察を述べている。
【0056】
アライメントツールALIGN(Myers and Miller, CABIOS 4: 11-17, 1989)またはLFASTA(Pearson and Lipman, 1988)を使用して配列比較を行うことができる(Internet Program(著作権)1996, W.R. Pearson and the University of Virginia, "fasta20u63" version 2.0u63、1996年12月リリース)。ALIGNでは配列全体を相互に比較し、LFASTAでは局所的な類似領域を比較する。これらのアライメントツール、および個々の使用上の手引きはNCSAのウェブサイトから入手できる。あるいは、約30アミノ酸を上回る数のアミノ酸配列の比較では、デフォルトのパラメータ(gap existence costが11、per residue gap costが1)を設定したデフォルトのBLOSUM62行列を用いた「Blast 2配列」の関数を使用することができる。短いペプチド(約30アミノ酸未満)をアライメントさせる場合は、デフォルトのパラメータ(open gap 9, extension gap 1 penalties)を設定したPAM30行列を用いた「Blast 2配列」の関数を使用してアライメントを実施する必要がある。BLAST配列比較システムは、例えばNCBIのウェブサイトで利用することができる(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215: 403-410, 1990; Gish. & States, Nature Genet. 3: 266-272, 1993; Madden et al. Meth. Enzymol. 266: 131-141, 1996; Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997;およびZhang & Madden, Genome Res. 7: 649-656, 1997も参照)。
【0057】
タンパク質のオーソログ(他の種のタンパク質と同等)は、場合によっては、デフォルトのパラメータを設定したALIGNを用いた特定のタンパク質のアミノ酸配列との完全長アライメントに対して計算される75%を上回る配列同一性を有することを特徴とする。標準配列に対する類似性がさらに高いタンパク質は、この方法で評価して、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、または少なくとも98%などのさらに高い同一性(%)を示すであろう。また配列同一性は、開示された融合タンパク質の結合ドメインの一方または両方の完全長に対して比較することができる。
【0058】
配列全体よりもかなり小さい配列を対象に配列同一性の比較を行う際は、相同な配列は典型的には、10〜20の短いウィンドウに関して少なくとも80%の配列同一性を有し、また標準配列に対する類似性に依存して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の配列同一性を有する場合がある。このような短いウィンドウに対する配列同一性はLFASTAで決定することができる(この方法はNCSAのウェブサイトで説明されている)。当業者であれば、このような配列同一性の範囲は、手引き目的でのみ提供されていることを理解するであろう。提供される範囲外の非常に有意な相同物を得ることは十分可能である。類似のホモロジーの概念は、タンパク質に関して記載されていると同様に、核酸にも適用される。
【0059】
2つの核酸分子が密接に関連していることを示す別の指標は、2つの分子が、ストリンジェントな条件で相互にハイブリダイズすることである。ストリンジェントな条件は配列に依存し、また異なる環境パラメータの下では異なる。一般にストリンジェントな条件は、一定のイオン強度およびpHにおける特定配列の融点(Tm)より約5℃〜20℃低くなるように選択される。Tmは、標的分子の50%が、完全にマッチしたプローブと、一定のイオン強度およびpHの下でハイブリダイズする温度である。核酸のハイブリダイゼーションの条件、およびストリンジェンシーの計算法はSambrookらの文献(In Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York, 1989)、およびTijssenの文献(Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology Part I, Ch. 2, Elsevier, New York, 1993)に記載されている。
【0060】
高い同一性を示さない核酸配列であっても、遺伝コードの縮重のために類似のアミノ酸配列をコードする場合がある。核酸配列の変化は、遺伝コードの縮重を用いて、それぞれが実質的に同じタンパク質をコードする複数の核酸配列を生じるように作製可能であると理解される。
【0061】
特異的な結合剤:実質的に特定の標的のみと結合する薬剤。したがって、ペプチドに特異的な結合剤は実質的に、特定のペプチド、または融合タンパク質などのタンパク質中のペプチド領域のみと結合する。本明細書で用いる、「[X]に特異的な結合剤」という表現([X]は特定のタンパク質またはペプチドを意味する)は、実質的に[X]のみと結合する抗[X]抗体(およびこの機能性断片)ならびに他の薬剤(可溶性の受容体など)を含む。[X]が、1つの特異的な結合剤によって認識される密接に関連したタンパク質(例えば密接に関連したTGF-β)のファミリーでありうることが想定される。抗体は、特異的な結合剤の一例である。
【0062】
被験対象:ヒトおよび非ヒト哺乳類の両方を含む分類である、生きている多細胞脊椎動物。
【0063】
TGF-βファミリーのタンパク質:炎症、免疫監視、および腫瘍形成を含む、真核細胞におけるいくつかの細胞過程および発生過程に関与する分泌型シグナル伝達分子のファミリー。TGF-βファミリーのタンパク質にはTGF-β2、TGF-β3、TGF-β1、TGF-β4(ニワトリ)、TGF-β5(ツメガエル)、GDF-9(マウス/ヒト)、BMP-16/nodal(マウス)、Fugacin(ツメガエル)、BMP3、Sumitomo-BIP/GDF-10(マウス)、ADMP(ツメガエル)、BMP-9、Dorsalin-1(ニワトリ)、BMP-10、BMP-13/GDF-6(マウス)、Radar(ゼブラフィッシュ)、GDF-1/CDMP-1(マウス/ヒト)、BMP-12/GDF-7(マウス)、BMP-5、BMP-6、BMP-7/OP-1、BMP-8/OP-2、PC8/OP-3(マウス)、60A(ショウジョウバエ)、BMP-2、BMP-4、Decapentaplegic(ショウジョウバエ)、Vg-1(ツメガエル)、Univin(ウニ)、Vgr-2/GDF-3、GDF-1、Screw(ショウジョウバエ)、BMP-11、GDF-8、アクチビンβC、アクチビンβD(ツメガエル)、アクチビンβE、BMP-14/GDF-12、アクチビンβA、アクチビンβB、GDF-14、Mullerian阻害物質、およびα-インヒビンなどがあるがこれらに限定されない。「TGF-β」という表現は本明細書では一般に、TGF-βの任意のイソ型を意味するように用いられる(イソ型が免疫抑制活性を有する場合)。TGF-βの免疫抑制作用を遮断する薬剤を用いる方法が、本明細書に開示されている。
【0064】
「TGF-βファミリーのタンパク質の機能」という表現は、例えば各TGF-β単量体の二次フォールディング、多量体(例えばホモ二量体)のTGF-β複合体のタンパク質間の3元会合(tertiary association)、プロ領域(LAP)の切断および/または除去による成熟、細胞内で翻訳されたタンパク質の分泌、特異的な受容体結合、およびTGF-βファミリーのリガンドタンパク質とその同族受容体(群)の結合によって生じる下流の活性を含む、TGF-βファミリーのタンパク質に関連したあらゆる機能を含む。このような下流の活性には(調査対象となるTGF-βファミリーのタンパク質および使用する系に依存して)例えば、細胞の成長(増殖)の調節、細胞の成長もしくは増殖の促進、細胞分化の促進、細胞の成長もしくは増殖の阻害、サイトカイン産生の調節、細胞分化の誘導、細胞周期の阻害、接着分子発現の制御、血管形成の促進、白血球走化性の誘導、アポトーシスの誘導、リンパ球活性化の抑制、炎症の抑制、マトリックスタンパク質の合成の刺激を含むメカニズムによる創傷治癒の促進、イソ型のスイッチ組換えを含む免疫グロブリン産生の調節、ならびに腫瘍形成の抑制などがある。
【0065】
TGF-βファミリーのさまざまなタンパク質は、さまざまな生物学的な特異性および活性を有する。列挙されたTGF-βファミリーのタンパク質の特異性は当業者に周知である(例えば文献Doetschman, Lab. Anim. Sci. 49: 137-143, 1999; Letterio and Roberts, Annu. Rev. Immunol. 16: 137-61: 137-161, 1998; Wahl, J. Exp. Med. 180: 1587-1590, 1994; Letterio and Roberts, J. Leukoc. Biol. 59: 769-774, 1996; Piek et al., FASEB J. 13: 2105-2124, 1999; Heldin et al., Nature 390: 465-471, 1979;およびDe Caestecker et al., J. Nat'l Cancer Inst., 92: 1388-1402, 2000を参照されたい)。
【0066】
TGF-β受容体に結合する能力を保持するがTGF-βシグナル伝達経路を誘導できないTGF-βの断片およびTGF-βペプチドを含むTGF-β変異体が本開示に含まれる。TGF-β受容体に対する結合能力を保持するがTGF-βシグナル伝達経路を誘導できないTGF-βの点突然変異体も本開示に含まれる。本明細書に開示されたような、ある種のTGF-β変異体は「中和性」分子である。
【0067】
TGF-βシグナル伝達経路:TGF-βは、I型およびII型のセリン/スレオニンキナーゼ受容体(例えばTGF-β受容体)の特定のヘテロマー複合体の形成を促すことで、細胞膜を超えてシグナルを伝える。II型受容体はリガンド(例えばTGF-β)と結合し、I型受容体をリン酸化して活性化し、I型受容体は下流のシグナル伝達の特異性に関与する。リン酸化されたI型受容体の下流の細胞内分子(またはエフェクター)はSmadとして知られる。
【0068】
シグナル伝達機能を有することが知られているI型受容体キナーゼの唯一の基質であるSmadには、N末端のMad homologyドメインとC末端のMad homology 2ドメインの2つの保存されたドメインがある。Smadは、発生過程の全体で、またあらゆる成体組織で普遍的に発現される。機能面からSmadは、I型受容体によって活性化される受容体活性化型Smad(R-Smad;Smad1、Smad2、Smad3、Smad5、Smad8)、活性化されたR-Smadとオリゴマーを形成する一般的なメディエーターであるSmad(Co-Smad;Smad4)、ならびにTGF-βファミリーのタンパク質によって誘導される阻害型Smad(I-Smad;Smad6およびSmad7)の3つのサブファミリーに分けられている。
【0069】
活性化されたTGF-β受容体はSmad2およびSmad3をリン酸化する。I型受容体キナーゼによるR-SmadのC末端のセリン残基のリン酸化は、TGF-βシグナル伝達の重要な段階である。最もC末端側にある2つのセリン残基がリン酸化され、第3の非リン酸化セリン残基とともに、すべてのR-Smadにおいて進化的に保存されたSSXSモチーフを形成する。非リン酸化型Smadタンパク質は主に単量体として存在し、リン酸化されるとR-Smadが同型オリゴマーを形成し、Co-Smad、Smad4などの異型オリゴマーに速やかに変換する。
【0070】
すべてのR-Smad、哺乳類のSmad4、およびツメガエルのSmad4αは細胞質に存在する。しかしながら、ヘテロマーのR-Smad/Co-Smad複合体は核内に見出されるので、このSmadは核に輸送されるはずである。全8種類のSmadのNH1ドメインはそれぞれリシンに富むモチーフを含み、Smad1とSmad3については核局在化シグナルとして機能することがわかっている。
【0071】
すべてのSmadには転写活性がある。ヘテロマーのR-Smad/Co-Smad複合体は、インビボにおける転写に重要な複合体である。Smad3とSmad4は低親和性ながらもSmad結合エレメント(SBE)と、MH1ドメイン中の保存されたβ-ヘアピンループを介して直接結合する。α-ヘリックス2などの他のMH1配列は、Smad3とSBEのDNAの結合に寄与する。SBEに対する親和性は低いので、DNA結合コファクターが、標的遺伝子中の調節エレメントの強力で高度の特異的な認識に関与しているはずである。活性化型Smad複合体による標的遺伝子の選択は、この複合体と、特定のDNA結合コファクターとの結合によってなされる。このようなコファクターの例にはFAST、OAZ、AP-1、TFE3、およびAMLの各タンパク質などがある。Smad複合体がDNAと結合すると、標的遺伝子の転写を例えばヌクレオソーム構造を変化させることで制御することができる(Massague and Chen, Genes and Development 14: 627-644, 2000; Moustakas et al., J. Cell Sci. 114: 4359-4369, 2001)。
【0072】
TGF-β、TGF-β受容体、またはTGF-β受容体の下流の任意のシグナル伝達パートナーと結合する本明細書に開示された薬剤は、TGF-βシグナル伝達経路を遮断可能である(TGF-βシグナル伝達の遮断)。1つの態様では、このような薬剤は、結合対象分子の活性の阻害をもたらす中和剤である。TGF-β受容体との結合能力を保持するがTGF-βシグナル伝達経路を誘導できないTGF-βの断片およびTGF-βペプチドを含むTGF-β変異体が本開示に含まれる。TGF-β受容体との結合能力を保持するがTGF-βシグナル伝達経路を誘導できないTGF-βの点突然変異体も本開示に含まれる。TGF-βシグナル伝達を遮断すると、例えばI型受容体のリン酸化、Smadのリン酸化、SmadとSmad結合エレメントの結合、または標的遺伝子の転写を妨げることができる。
【0073】
治療的有効量の薬剤:治療対象の被験対象で所望の作用を達成するために十分な薬剤量。例えば、抗TGF-β抗体などの中和剤に関しては、用量依存性の作用を誘導するのに必要な量でありうる。中和性の抗TGF-β抗体の用量依存性の作用の例には、中和抗TGF-β抗体の量が、被験対象に投与するとTGF-βの免疫抑制作用を阻害可能なこと、ならびに中和抗TGF-β抗体の量が、腫瘍の治療後に被験対象に投与すると腫瘍の再発を阻害可能なことなどがある。
【0074】
他の中和剤(例えば化合物、小分子、またはペプチド)は臨床的に重要であり、また治療対象の被験対象で所望の作用を達成するために治療有効量を投与可能である。
【0075】
有効量の薬剤を単回投与量または複数回の投与量(例えば治療過程で毎日)で投与することができる。しかし、有効量の薬剤は、使用薬剤、治療対象の被験対象、病気疾患の重症度および種類、ならびに薬剤の投与様式に依存する。例えば、治療的有効量の中和抗TGF-β抗体1D11.16は、約0.01mg/kg体重〜約1g/kg体重の範囲をとりうる。1つの特定の非制限的な例では、治療的有効量は約3〜4mg/kg体重である。
【0076】
本発明に開示された薬剤は、医学および獣医学の領域において同等に応用できる。したがって、「治療対象の被験対象」という総括的な表現は、あらゆる動物(例えばヒト、類人猿、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシ)を含むと理解される。
【0077】
治療:疾患(腫瘍の再発など)の予防的阻害と、腫瘍の成長などの未治療疾患過程の自然経過を変化させるための治療的介入の両方を意味する。腫瘍の治療は例えば、腫瘍の外科的除去を含む。腫瘍の治療は化学療法、免疫療法、または放射線療法を含む場合もある。腫瘍の2つもしくはこれ以上の治療法を組み合わせて被験対象に提供することができる。被験対象の治療は、腫瘍の再発を阻害する段階や、腫瘍再発率を測定可能に低下させる段階を含む。
【0078】
腫瘍:悪性または非悪性(良性)のいずれかの可能性のある新生物。同じ組織種の腫瘍は、特定の器官(乳房、前立腺、膀胱、または肺など)に起源を有する腫瘍である。同じ組織種の腫瘍は、さまざまな亜型の腫瘍(典型例として腺癌、小細胞、扁平細胞、または大細胞の腫瘍の場合がある気管支原性癌(肺腫瘍))に分けることができる。乳癌は組織学的に、硬癌、浸潤癌、乳頭状、乳管癌、髄様癌、および小葉癌に分けることができる。
【0079】
腫瘍の再発:腫瘍が外科的に、薬剤もしくは他の治療法によって除去された、または消失した後における、当初の(原発)腫瘍と同じ部位における腫瘍の復活。腫瘍の再発は、腫瘍が(任意の方法で)完全に除去されたと考えられる場合、または消失した場合であっても起こることがある。しかし根絶は完全ではないことがあり、血液供給が確立された場合には腫瘍が再発する恐れがある。任意の方法(例えば外科的除去、薬剤、もしくは他の治療法)で腫瘍が除去された被験対象、または腫瘍が消失した被験対象には腫瘍再発のリスクがある。
【0080】
例えば任意の測定量(measure amount)によって腫瘍の再発を阻害する方法を本明細書に開示する。「阻害する」という表現は100%の阻害を必要としない。同様に「予防する」という表現は100%の予防を必要としない。腫瘍の再発率を低下させる段階には、例えば少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%のかなりの量の腫瘍の再発率を低下させる段階を含む。
【0081】
ベクター:宿主細胞に導入して形質転換宿主細胞を作るための核酸分子。ベクターは、宿主細胞における複製を可能とする核酸配列(複製起点など)を含む場合がある。ベクターはまた、1つもしくは複数の選択マーカー遺伝子、および当業者に周知の他の遺伝的エレメントを含む場合もある。
【0082】
特に説明しない限り、本明細書で使用するすべての科学技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される表現と同じ意味をもつ。単数形の「1つの(a、an)」、および「その(the)」は、文中で明記しない限りにおいて複数の対象を含む。同様に、「または、もしくは(or)」という用語は、文中で明記しない限りにおいて「および、ならびに(and)」を含むことを意図する。さらに、核酸またはポリペプチドに関し、すべての塩基の大きさ、またはアミノ酸の大きさ、およびすべての分子重量または分子量の値は概数であり、説明目的で記載されていると理解される。本明細書に記載された方法および材料に類似または等価の方法および材料は、本開示の実施または検討に使用することができる。適切な方法および材料を以下に記載する。矛盾が生じた場合は、用語・表現の説明を含む本出願が優先する。また材料、方法、および実施例は、説明目的のみで提供されるものであり、制限する意図はない。
【0083】
III.いくつかの特定の態様の説明
本開示は第1の態様において、TGF-βの免疫抑制作用を遮断するために治療的有効量の薬剤を被験対象に投与する段階を含む、被験対象(例えばヒト被験者)における腫瘍の再発を阻害する方法、または再発率を低下させる方法を提供する(被験対象には腫瘍再発のリスクがあり、薬剤はトランスフォーミング成長因子(TGF)-βの活性を中和することで、腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる)。この方法の例では、薬剤はアンタゴニスト、抗体(例えばポリクローナル抗体やモノクローナル抗体)、化合物、小分子、ペプチド模倣体、ペプチド、またはタンパク質を含む。
【0084】
腫瘍の再発を阻害または再発率を低下させるこのような方法の特定の例では、薬剤はモノクローナル抗体であり、ハイブリドーマ1D11.16(ATCCアクセッション番号HB9849)から得られるモノクローナル抗体などのモノクローナル抗体はTGF-βに特異的である。例えば、いくつかの例における抗TGF-β抗体は、TGF-βがTGF-β受容体と結合する段階を阻害する。
【0085】
本明細書に提供される方法で言及される腫瘍は良性または悪性の場合がある。例えば腫瘍は、癌、肉腫、白血病、リンパ腫、または神経系の腫瘍を含む場合がある。他の例では、腫瘍は、乳房の腫瘍、肝臓の腫瘍、膵臓の腫瘍、胃腸の腫瘍、結腸の腫瘍、子宮の腫瘍、卵巣の腫瘍、頚部の腫瘍、睾丸の腫瘍、脳の腫瘍、皮膚の腫瘍、黒色腫、網膜の腫瘍、肺の腫瘍、腎臓の腫瘍、骨の腫瘍、前立腺の腫瘍、鼻咽頭の腫瘍、甲状腺の腫瘍、白血病、またはリンパ腫を含む。
【0086】
記載された方法に使用される薬剤は、例えば静脈内に、皮下に、皮内に、または筋肉内に投与することができる。
【0087】
本明細書では、治療的有効量の薬剤を投与することで、インビボまたはインビトロにおける腫瘍の成長が止るか、またはかなり低下する、被験対象における腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる方法も提供する。
【0088】
被験対象における腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる方法の別の例では、TGF-βの免疫抑制作用の遮断は、被験対象のリンパ球(例えばT細胞もしくはB細胞、または両者の混合物)による免疫監視の亢進を招く。例えば、一部の方法ではリンパ球はT細胞を含み、またT細胞は細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、CD8+細胞、CD4+細胞、CD4+CD1d拘束性T細胞、ナチュラルキラー細胞、またはこれらの2種類もしくはこれ以上の組み合わせである。
【0089】
免疫監視の亢進は、例えばCTLアッセイ法(例えばクロム放出アッセイ法)で測定される、リンパ球の生物学的活性の上昇として測定することができる。
【0090】
TGF-β受容体に薬剤を接触させることでTGF-βの活性を中和する段階を含む、被験対象における腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる方法も提供する。例えば、このような方法における薬剤は、アンタゴニスト、抗体、小分子、化合物、ペプチド模倣体、ペプチドもしくはタンパク質、またはこれらの組み合わせの場合がある。このような方法の特定の例では、薬剤はTGF-β受容体のシグナル伝達を阻害する。
【0091】
別の態様は、薬剤投与段階がTGF-β受容体の下流シグナル伝達分子に薬剤を接触させる段階を含む、被験対象における腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる方法である。例えば、このような方法における薬剤はアンタゴニスト、抗体、小分子、化合物、ペプチド模倣体、ペプチドもしくはタンパク質、またはこれらの組み合わせの場合がある。このような方法の特定の例では、下流シグナル伝達分子はSmadタンパク質、またはSmad複合体DNA結合コファクターを含む。
【0092】
別の態様では、免疫細胞の活性を高めて腫瘍の再発を阻害する方法も提供する。例えば、このような方法は、TGF-β受容体を発現する免疫細胞に、TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤(例えばアンタゴニスト、抗体、小分子、化合物、ペプチド模倣体、ペプチドもしくはタンパク質)を接触させる段階を含み、TGF-βシグナル伝達経路を遮断することによってTGF-β受容体を発現する免疫細胞による腫瘍の免疫監視が亢進することで、免疫細胞の活性が高められて腫瘍の再発が阻害される。例えば、この方法におけるTGF-β受容体を発現する免疫細胞はT細胞またはB細胞の場合がある。特定の例では、TGF-β受容体を発現する免疫細胞はリンパ球である。例えば、このような細胞はT細胞であり、T細胞はCTL、CD8+細胞、CD4+細胞、CD4+CD1d拘束性T細胞、またはナチュラルキラー細胞である。
【0093】
これらの方法の特に想定される例では、TGF-β受容体を発現する免疫細胞に薬剤を接触させる段階は、TGF-βもしくはTGF-β受容体を接触させる段階、または両者を接触させる段階を含む。例えばTGF-βを接触させる段階は、例えばATCCアクセッション番号HB9849のハイブリドーマ1D11.16から得られるような抗TGF-βモノクローナル抗体を接触させる段階を含む場合がある。
【0094】
さらに別の態様は、TGF-βシグナル伝達経路を遮断する治療的有効量の薬剤を被験対象に投与する段階を含む、被験対象(ヒトなど)の免疫応答(例えばT細胞応答)を促進して腫瘍の再発を阻害する方法である(TGF-βシグナル伝達経路を遮断することによって、被験対象における腫瘍の免疫監視が亢進することで被験対象の免疫応答が促進されて腫瘍の再発が阻害される)。このような免疫応答は例えばT細胞応答であり、T細胞応答はCTL応答、CD8+CTL応答、CD4+ T細胞応答、CD4+CD1d拘束性T細胞応答、またはナチュラルキラー細胞応答を含むT細胞応答の場合がある。特定の方法では、細胞傷害性T細胞応答はCTLが関与する免疫監視である。以上の個々の方法に使用される薬剤にはアンタゴニスト、抗体、小分子、化合物、ペプチド模倣体、ペプチド、またはタンパク質などがある。
【0095】
被験対象の免疫応答を促進するこれらの方法の特定の例では、薬剤はTGF-βまたはTGF-β受容体と接触する。例えば場合によっては、薬剤はハイブリドーマ1D11.16(ATCCアクセッション番号HB9849)から得られる抗TGF-βモノクローナル抗体を含む。
【0096】
さらに別の態様は、TGF-β受容体を発現する免疫細胞にTGF-βを接触させる段階;TGF-β受容体を発現する免疫細胞に薬剤を接触させる段階;およびTGF-β受容体を発現する対照免疫細胞と比較して、TGF-β受容体を発現する免疫細胞内におけるTGF-βシグナル伝達の活性の低下を調べることで、腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる薬剤をスクリーニングする段階を含む、腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる薬剤をスクリーニングする方法である(対照免疫細胞は薬剤と接触させない)。
【0097】
このようなスクリーニング法の別の例では、方法はさらに、TGF-β受容体を発現する免疫細胞(例えばCTL)の活性の上昇を調べる段階を含む。CTLの活性を調べる段階は例えば、本明細書に記載された方法のようなCTLアッセイ法による測定を含む場合がある。
【0098】
腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる薬剤をスクリーニングするさらに別の例では、TGF-βシグナル伝達の活性の低下は、Smadタンパク質のリン酸化の低下、Smadタンパク質の核内移行の減少、またはSmad複合体とDNAの結合の減少を含む。
【0099】
あるいは、TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性の上昇は免疫監視の亢進を含む。例えば、免疫監視の亢進は、場合によってはCTL活性の上昇を含む場合がある。
【0100】
IV.TGF-βシグナル伝達経路を遮断することで腫瘍の再発を阻害する方法
TGF-βの免疫抑制作用を遮断するためにTGF-βシグナル伝達経路を遮断することで被験対象における腫瘍の再発を阻害する方法を本明細書に開示する。TGF-βシグナル伝達経路を遮断することで免疫細胞の活性を高める方法も開示する。TGF-βシグナル伝達経路における遮断に対して感受性を有する免疫細胞は、TGF-β受容体を発現する細胞である。本開示はまた、TGF-βシグナル伝達経路を遮断することで被験対象の免疫応答を促進する方法も提供する。本明細書に開示された任意の薬剤を使用してTGF-βシグナル伝達経路を遮断することができる。
【0101】
TGF-βシグナル伝達経路の遮断による腫瘍の再発の阻害
TGF-βがCTLに及ぼす免疫抑制作用によって引き起こされるCTLによる腫瘍の免疫監視の下方制御の機構はマウスの腫瘍モデルを対象に調べられており、腫瘍の注入後に腫瘍が「成長-退行-再発」のパターンを示すことがわかっている(Matsui et al., J. Immunol. 163: 184, 1999)。このマウス腫瘍モデルを用いて、腫瘍の再発が、CD4+CD1d拘束性NKT細胞が産生するIL-13によってIL-4Rα-STAT6シグナル伝達経路を介して負に調節されたCTLによる腫瘍細胞の不完全な除去の結果であることがわかっている(Terabe et al., Nature Immunol. 1: 515, 2000)。
【0102】
CD4+CD1d拘束性NKT細胞が産生したIL-13が、骨髄起源のCD11b+Gr-1+非リンパ細胞を誘導してTGF-βを産生することを本明細書で開示する。TGF-βが、CD8+CTLが関与する腫瘍の免疫監視の下方制御を引き起こすことも本明細書で開示する(図10)。したがって、TGF-βの免疫抑制作用を遮断することで被験対象における腫瘍の再発を阻害する方法を本明細書に開示する。この方法は、例えばTGF-βとTGF-β受容体の結合を遮断することでTGF-βシグナル伝達経路を遮断する治療的有効量の薬剤を被験対象に投与する段階を含む。TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤の投与は、TGF-βの免疫抑制作用の結果としてCTLによる免疫監視を逃れた腫瘍に対して特に有効である。
【0103】
TGF-βシグナル伝達経路の遮断による免疫細胞の活性の上昇
本開示は、TGF-βシグナル伝達経路を遮断することで免疫細胞の活性を高める方法を提供する。TGF-βシグナル伝達経路の遮断に感受性を有する免疫細胞は、TGF-β受容体を発現する細胞である。本明細書に開示された任意の薬剤を使用して、TGF-βシグナル伝達経路を遮断することができる。
【0104】
本明細書では、免疫細胞の活性を高める方法を開示する。免疫細胞には、白血球(例えば好中球、好酸球、単球、好塩基球、マクロファージ、B細胞、T細胞、樹状細胞、およびマスト細胞)、ならびに免疫応答に関与する他の種類の細胞などがある。この方法は、TGF-β受容体を発現する免疫細胞に、TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤を接触させる段階を含む。1つの態様では、免疫細胞はT細胞やB細胞などのリンパ球である。他の態様では、免疫細胞はCTL、CD8+CTL、CD4+T細胞、CD4+CD1d拘束性T細胞、NK細胞、またはNKT細胞である。別の態様では、免疫細胞は顆粒球である。免疫細胞はインビボまたはインビトロの場合がある。薬剤は、TGF-β、TGF-β受容体、またはTGF-β受容体の下流シグナル伝達分子のいずれかに結合可能である。
【0105】
1つの態様では、免疫細胞の活性は、TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤の投与によって被験対象で高められる。薬剤の投与によって活性が高められた免疫細胞、例えば腫瘍の免疫監視が亢進された細胞は、CTLなどのTGF-β受容体を発現する細胞を含む。1つの態様では、活性が高められた免疫細胞は、CTLによる免疫監視を逃れた腫瘍を有する被験対象に存在する。別の態様では、免疫細胞の活性の上昇(CTLによる免疫監視の亢進)は腫瘍の再発を阻害する。
【0106】
TGF-βシグナル伝達経路の遮断による被験対象の免疫応答の亢進
本開示は、TGF-βシグナル伝達経路を遮断することで被験対象の免疫応答を促進する方法を提供する。1つの態様では、促進された免疫応答、例えば腫瘍の免疫監視の亢進は腫瘍の再発を阻害する。本明細書に記載された任意の薬剤を使用してTGF-βシグナル伝達経路を遮断することで免疫応答を促進することができる。
【0107】
被験対象の免疫応答を促進する方法を本明細書に開示する。この方法は、TGF-βシグナル伝達経路を遮断することで免疫応答を促進する治療的有効量の薬剤を被験対象に投与する段階を含む。1つの態様では、免疫応答はT細胞応答である。別の態様では免疫応答には、TGF-β受容体を発現する細胞が関与する。TGF-β受容体を発現する細胞はCTL、CD8+CTL、CD4+ T細胞、CD4+CD1d拘束性T細胞、NK細胞、またはNKT細胞などの場合があるがこれらに限定されない。別の態様では免疫応答は、CTLが関与する免疫監視である。1つの態様では、免疫応答が促進された被験対象は、CTLによる免疫監視を逃れた腫瘍を有する。別の態様では、促進された免疫応答は、被験対象における腫瘍の再発を阻害する。
【0108】
T細胞が関与する免疫応答を促進する方法も本明細書で開示する。この方法は、TGF-βシグナル伝達経路を遮断する治療的有効量の薬剤を被験対象に投与する段階を含むことで、T細胞が関与する免疫応答を改善させる。1つの態様では、T細胞が関与する免疫応答はCTLが関与する免疫監視である。別の態様では、T細胞が関与する免疫応答はNKT細胞の応答である。別の態様では、T細胞が関与する免疫応答はCD4+CD1d拘束性T細胞の応答である。
【0109】
TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤
TGF-βシグナル伝達経路を遮断する中和剤を含む薬剤を本明細書に開示する。本明細書では、TGF-βの免疫抑制作用を遮断することで、被験対象におけるCTLによる免疫監視、または免疫応答などの免疫細胞の活性を高める薬剤も開示する。1つの態様では薬剤は、CTLによる免疫監視を逃れた腫瘍の再発を阻害する。
【0110】
このような薬剤はアンタゴニスト、抗体、化合物、小分子、ペプチド模倣体、ペプチド、またはタンパク質を含むがこれらに限定されない任意の物質の場合がある。薬剤は好ましくは毒性のない薬剤である。薬剤は例えば、あるタンパク質に選択的に結合し、タンパク質の機能、および/またはTGF-βシグナル伝達経路などの分子経路の活性を変化させる酵素(例えばキナーゼもしくはホスホリラーゼ)、または別の触媒性分子の場合がある。例えばタンパク質は、リン酸化されると機能を発揮し、脱リン酸化されると機能を喪失する場合がある。機能性のリン酸化されたタンパク質は、ホスホリラーゼなどの脱リン酸化剤に曝露されると非機能性となる場合がある。したがって、機能性タンパク質の発現の結果として活性を示す細胞は、同タンパク質の機能を阻害する(中和する)薬剤と接触すると不活性化される場合がある(この逆も成り立つ)。例えば、機能性タンパク質の発現の結果として不活性な細胞は、同タンパク質の機能を阻害する(中和する)薬剤と接触すると活性化される場合がある。
【0111】
1つの態様では、このような薬剤は中和剤である。薬剤は、ある分子に特異的に結合することで、同分子が少なくとも1つの機能を果たすことを妨げることで、同分子を中和する(活性を阻害する)ことが可能である。例えば中和剤は、ある分子と他の分子の相互作用を妨げることができる。1つの特定の非制限的な例では、中和剤は、TGF-βがTGF-β受容体に特異的に結合することを妨げる。TGF-β活性は、本明細書に開示された任意の薬剤で中和することができる。
【0112】
1つの態様では、薬剤はアンタゴニストである。アンタゴニストは、結合することで別の薬剤、例えばTGF-β受容体などの受容体に結合する薬剤の作用を、生物学的応答を誘導することなく無力化すなわち中和する任意の物質である。1つの態様では、アンタゴニストはTGF-βを直接中和する化合物である。他の態様では、アンタゴニストは、TGF-β受容体またはTGF-β受容体の下流シグナル伝達分子(例えばSmad2、Smad3、もしくはSmad4)の少なくとも1つ、またはSmad複合体DNA結合コファクターを中和する化合物である。
【0113】
1つの態様では、このような薬剤は、TGF-β分子と直接相互作用する(例えば特異的に結合する)。このような薬剤は、いくつかの態様では抗TGF-β抗体である。このような抗TGF-β抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の場合がある。1つの特定の非制限的な例では、抗TGF-β抗体は、TGF-βと結合するハイブリドーマ1D11.16(ATCCアクセッション番号HB9849)から得られるモノクローナル抗体である。1D11.16抗体などの薬剤はTGF-βに結合して、TGF-βと抗TGF-β受容体との結合を妨げることでその活性を中和することが可能である。
【0114】
あるいは薬剤は、TGF-βなどのリガンドと複合体を形成する場合がある(リガンド:薬剤複合体は、TGF-β受容体などの受容体との結合能力を保持したままであるが、同受容体を活性化できず、シグナルを伝達できない)。
【0115】
薬剤はTGF-β受容体などの受容体に特異的に結合可能であり、受容体が、細胞膜を越えて細胞内へシグナルを伝達する段階を妨げる。具体的には薬剤は、TGF-β受容体などの受容体に、そのリガンド結合部位において特異的に結合することで、TGF-βなどのリガンドが受容体に結合する段階を妨げることが可能である。本明細書に開示されているように、TGF-βは本明細書では一般に、TGF-βの任意のイソ型を意味するように用いられる(ただし、イソ型が免疫抑制活性を有する場合)。1つの特定の非制限的な例では、薬剤は抗TGF-β受容体抗体である。別の特定の非制限的な例では、薬剤はTGF-β変異体である。TGF-β変異体は、TGF-β受容体に対する結合能力を保持するが、TGF-βシグナル伝達経路を誘導できない、TGF-βの断片およびTGF-βペプチドを含む。TGF-β変異体は、TGF-β受容体に対する結合能力を保持するが、TGF-βシグナル伝達経路を誘導できないか、または野生型TGF-βと比較して低レベルでのみ誘導可能なTGF-βの点突然変異体も含む。
【0116】
薬剤はまた、受容体の1つもしくは複数の下流シグナル伝達分子に特異的に結合可能である。例えば一部の薬剤は、下流シグナル伝達分子に特異的に結合して、細胞内TGF-βシグナルの伝達を妨げることでTGF-β活性を中和する。TGF-β下流シグナル伝達分子にはSmad2、Smad3、Smad4、またはSmad複合体DNA結合コファクターなどがあるがこれらに限定されない。
【0117】
1つの特定の非制限的な態様では、中和剤は可溶性のTGF-β受容体である。可溶性のTGF-β受容体はTGF-βに特異的に結合し、任意の利用可能なTGF-βをめぐってTGF-β細胞表面受容体と競合する。TGF-βとその内因性受容体の結合を妨げると、すべての利用可能なTGF-βリガンドと結合するのに十分な可溶性TGF-β受容体が存在する場合にTGF-βの活性が中和される。
【0118】
TGF-β受容体はTリンパ球などのリンパ球で発現させることができる。具体的には、TGF-β受容体はCTLで発現させることができる。したがって、薬剤でTGF-βの活性を中和する方法は、TGF-β受容体を発現するCTLにおけるTGF-βシグナル伝達を妨げる。
【0119】
TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤の測定可能な作用
1つの態様では、TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤の投与法はCTL活性を変化させる。CTL活性の変化は、当業者に周知の任意のいくつかの方法で測定することができる。CTL活性は、ELISA、ELISPOT(酵素連結イムノスポット)、またはRT-PCRによる、一部のケモカイン(例えばRANTES)の産生またはIFN-γの産生を測定することで追跡できる。他の方法には、MHCクラスI四量体の検出法とCTLアッセイ法を組み合わせた細胞内サイトカイン染色法などがある。CTLアッセイ法の1つの特定の非制限的な例はクロム放出アッセイ法である。クロム放出アッセイ法では、抗原(例えばP18-IIIBペプチド)を表面に発現する標的細胞を、クロムの放射性同位体(51Cr)で標識する。CD8+ T細胞などの対象細胞を、サイトカインの存在下または非存在下のいずれかで標的細胞と混合して数時間インキュベートする。サイトカインの特定の非制限的な例にはIL-4、IL-13、およびTGF-βなどがある。抗原を発現する細胞が溶解すると51Crが培地中に放出される。抗原特異的な溶解は、エフェクター細胞の存在下または非存在下で抗原または対照抗原を発現する標的細胞の溶解を比較することで計算され、通常は抗原特異的な溶解のパーセントで表される。
【0120】
薬剤投与の結果としての活性の変化はCTL活性の上昇または低下の場合がある。CTL活性の変化は、CTL活性の少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、または少なくとも約200倍の上昇もしくは低下として測定される場合がある。
【0121】
TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤の投与
本明細書に開示された薬剤を、腫瘍再発の候補であると考えられる被験対象に投与することができる。いくつかの態様では、薬剤を腫瘍の治療前に被験対象に投与する。腫瘍の治療には、腫瘍の外科的除去、化学療法、免疫療法、または放射線療法などが含まれるがこれらに限定されない。他の態様では薬剤を被験対象に、腫瘍の治療と同時に、または腫瘍の治療後に投与する。他の態様では薬剤を、少なくとも1種類の追加的な薬剤と組み合わせて、腫瘍の治療前、治療中、または治療後のいずれかにおいて被験対象に投与する。追加的な薬剤は、腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる、本明細書に記載された別の薬剤の場合もある。あるいは、追加的な薬剤は、被験対象における腫瘍再発阻害能力を改善する薬剤か、または腫瘍の治療過程中に被験対象が感染症と闘うことを助ける薬剤(抗生物質など)の場合がある。例えば追加的な薬剤は、サイトカインなどの免疫系を刺激する薬剤の場合がある。
【0122】
一般に薬剤は被験対象に、腫瘍の再発を阻害するのに十分な量が、原発腫瘍の成長の当初の部位に投与される。別の態様では薬剤は、TGF-βの免疫抑制作用を阻害するのに十分な量が被験対象に投与される。被験対象に投与される量は、約0.01mg/kg体重〜約1g/kg体重の範囲をとりうる。1つの特定の非制限的な例では、投与量は約3〜4mg/kg体重である。
【0123】
腫瘍の再発を阻害する方法は、任意の種類の腫瘍を有する被験対象に適用することができる。1つの態様では、腫瘍は免疫応答に感受性を示す。別の態様では腫瘍は、T細胞が関与する免疫応答に感受性を示す。別の態様では、腫瘍はCTLが関与する免疫応答に感受性を示す。さらに別の態様では、腫瘍は免疫監視に感受性を示す(黒色腫、腎臓の腫瘍、乳房の腫瘍、結腸の腫瘍、または骨肉腫など)。
【0124】
腫瘍は良性腫瘍または悪性腫瘍の場合がある。腫瘍は、癌、肉腫、白血病、リンパ腫、または神経系の腫瘍を含む場合がある。いくつかの特定の非制限的な態様では、腫瘍は、乳房の腫瘍、肝臓の腫瘍、膵臓の腫瘍、胃腸の腫瘍、結腸の腫瘍、子宮の腫瘍、卵巣の腫瘍、頚部の腫瘍、睾丸の腫瘍、前立腺の腫瘍、脳の腫瘍、皮膚の腫瘍、黒色腫、網膜の腫瘍、肺の腫瘍、腎臓の腫瘍、骨の腫瘍、骨肉腫、鼻咽頭の腫瘍、甲状腺の腫瘍、白血病、またはリンパ腫を含む。
【0125】
被験対象は、ヒト、サル、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、マウス、またはラットなどの哺乳類の場合がある。
【0126】
V.腫瘍の再発を阻害する薬剤のスクリーニング法
腫瘍の再発を阻害する薬剤のスクリーニング法を提供する。このような方法では、TGF-β受容体を発現する免疫細胞に、対象薬剤(化合物)を接触させた後に、免疫細胞またはTGF-βシグナル伝達に対する薬剤の作用を調べる。TGF-βシグナル伝達の低下、例えば下流シグナル伝達分子のリン酸化の低下、またはSmad複合体のDNA結合の減少は、対象化合物がTGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤であることを意味する。同様に薬剤は、通常TGF-βによって阻害されている免疫細胞の活性が、薬剤との接触後に活性の上昇、または活性期間の延長が明らかとなった場合に、TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤であると同定される。
【0127】
1つの態様では、免疫系の細胞を用いてTGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤のスクリーニング法を提供する。このような方法は、他の例では、CTLなどのTGF-β受容体を発現する免疫細胞に、TGF-β受容体に結合する薬剤を接触させる段階、および薬剤と接触させなかったTGF-β受容体を発現する対照免疫細胞の活性と比較して、TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性を調べる段階を含む。TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性の例には、細胞溶解、細胞増殖、サイトカイン産生、腫瘍成長の阻害、または腫瘍再発の阻害などがある。この方法も、CTLなどのTGF-β受容体を発現する免疫細胞に、TGF-β受容体に結合する薬剤を接触させる段階、および細胞のTGF-β受容体シグナル伝達経路の活性を調べる段階、ならびにこれを、薬剤と接触させなかった対照細胞のTGF-β受容体シグナル伝達経路と比較する段階を含む。スクリーニング法は、1つの容器内で、または高処理能アッセイ法におけるような複数の容器内で実施することができる。
【0128】
別の態様では、このような方法は、CTLなどのTGF-β受容体を発現する免疫細胞に、TGF-βとTGF-βに結合する薬剤を組み合わせて接触させる段階、ならびに薬剤と接触させなかったTGF-β受容体を発現する対照免疫細胞と比較して、TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性を調べる段階を含む。TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性の例には、細胞溶解、細胞増殖、サイトカイン産生、腫瘍成長の阻害、または腫瘍再発の阻害などがある。
【0129】
TGF-βシグナル伝達の遮断、引いてはTGF-β受容体を発現する細胞の活性の変化を測定することは、当業者に周知の任意の手段で評価できる。1つの態様では、ウェスタンブロット解析で、薬剤の存在下もしくは非存在下でインキュベートした細胞内のタンパク質のレベル、または薬剤の存在下もしくは非存在下でインキュベートした細胞内のタンパク質のリン酸化のレベルを測定する。別の態様では、ルシフェラーゼアッセイ法で、薬剤の存在下または非存在下でインキュベートされる細胞内における遺伝子発現を活性化するTGF-βシグナル伝達経路の有効性を測定する。あるいはノーザンブロット解析で、薬剤の存在下もしくは非存在下でインキュベートした細胞内における遺伝子産物の上方制御または下方制御を測定することができる。TGF-βシグナル伝達は、TGF-β依存性の細胞系列を対象とした細胞増殖アッセイ法で測定することもできる。
【0130】
1つの特定の非制限的な例では、TGF-βシグナル伝達の遮断の測定は、CTLの機能を測定することで評価される。場合によってはCTL活性はTGF-β遮断剤の存在下または非存在下で上昇する。CTL活性は、当業者に周知の任意の方法(例えばクロム放出アッセイ法などのCTLアッセイ法)で測定することができる。
【0131】
TGF-βシグナル伝達の遮断の作用は例えば、マウスなどの被験対象への薬剤の投与後における被験対象にみられる腫瘍の形成もしくは再発、または再発腫瘍の相対的な成長速度を調べることでも測定可能である。腫瘍の再発は、薬剤の存在下または非存在下で、原発腫瘍の治療前、治療中、または治療後に調べることができる。原発腫瘍の治療には、腫瘍の外科的除去、化学療法、免疫療法、または放射線療法などがある。したがって、使用法の例として、TGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤の機能性アッセイ法で、腫瘍再発の阻害といった治療的用途に有効な各薬剤の投与量の最適化が可能となる。このようなアッセイ法は、TGF-βの免疫抑制作用を遮断する能力に関して既知の薬剤、ならびに新規同定薬剤、推定薬剤、またはこれらの薬剤の組み合わせの検討にも使用することができる。候補薬剤は最初に、後の選択および検討目的で、本明細書に記載された1つもしくは複数のアッセイ法でスクリーニングすることができる。
【0132】
VI.薬学的組成物および投与
1D11.16抗TGF-β中和モノクローナル抗体、およびTGF-βシグナル伝達経路の遮断に有効な他の薬剤を含む、腫瘍の再発を阻害する薬剤を、腫瘍再発を阻害するために被験対象に直接投与することができる。活性薬剤を含む薬学的組成物は、選択される特定の投与様式に依存して適切な固体または液体の担体で製剤化することができる。薬学的に許容される担体および本開示に有用な賦形剤は従来の薬剤である。例えば、非経口製剤は通常、水、生理食塩水、他の平衡塩類溶液、デキストロース水溶液、グリセロールなどの薬学的および生理学的に許容される流体溶媒である注射溶液を含む。含めることの可能な賦形剤には例えば、ヒト血清アルブミンや血漿製剤などの他のタンパク質がある。望ましいならば、投与される薬学的組成物に、湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤(例えば酢酸ナトリウムやソルビタンモノラウレート)などの非毒性補助物質を少量含めることもできる。
【0133】
薬学的組成物の投与形態は、選択される投与様式によって決定される。例えば注射溶液に加えて、局所製剤および経口製剤を使用することができる。局所調製物は点眼薬、軟膏、スプレー剤などを含む場合がある。経口製剤は液体(例えばシロップ、溶液、もしくは懸濁液)、または固体(例えば粉末、丸剤、錠剤、もしくはカプセル剤)の場合がある。固体組成物に関しては、従来の非毒性の固体担体は、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムを含む場合がある。このような投与形態の実際の調製法は当業者に周知であるか、または当業者であれば理解できる。
【0134】
本開示の薬剤は、局所的に、経口的に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻腔内に、皮内に、髄腔内に、および皮下などの、細胞に対してさまざまな様式で有効なヒトまたは他の動物に投与することができる。特定の投与様式および投与法を、症例の詳細(例えば被験者、疾患、関与する疾患状態、および治療が予防的か否か)を考慮して主治医が選択する。治療は1日1回または1日に複数回の用量の化合物(群)を数日〜数か月にわたって、またはさらには年単位の期間で実施される。
【0135】
1D11.16抗TGF-β中和モノクローナル抗体などの薬剤、およびTGF-βシグナル伝達経路を遮断するのに有効な他の薬剤を含む薬学的組成物は、本開示のいくつかの態様において、正確な用量の個別の投与に適した単位剤形に製剤化される。例えば、治療的有効量の1D11.16抗TGF-β中和モノクローナル抗体は、約0.1mg/kg体重〜約1g/kg体重の範囲をとりうる。1D11.16抗TGF-β中和モノクローナル抗体などの薬剤の有効量は、単回投与で、または治療過程中に複数回投与(例えば毎日)で投与することができる。投与される活性化合物(群)の量は、使用薬剤、治療対象の被験者、疾患の重症度、および投与法に依存し、最も好ましくは実施する医師の判断で決定される。有効量の薬剤を、腫瘍の治療前、治療中、または治療後に投与することができる。これらの制限内で、投与される剤形は一定量の活性成分(群)を治療対象の被験対象で所望の作用を達成するために(例えば腫瘍の再発率を適度に低下させるために)有効な量で含む。
【0136】
1D11.16抗TGF-β中和モノクローナル抗体などの治療的有効量の薬剤は、腫瘍の再発を阻害するために必要な薬剤量、または腫瘍の再発率を適度に低下させるために必要な薬剤量とすることができる。いくつかの態様では、薬剤の腫瘍抑制量は、実質的な細胞傷害作用を引き起こすことなく(例えば試料中の1%、2%、3%、5%、または10%を超える正常細胞を死滅させることなく)腫瘍の再発を阻害するために、または再発率を低下させるために十分な量(例えば本明細書に記載された任意の腫瘍抑制量)である。
【0137】
例えば1D11.16抗TGF-β中和モノクローナル抗体などの薬剤を、腫瘍が除去された組織領域か、または腫瘍が除去された組織領域の周辺に投与することによる、開示された化合物の部位特異的な投与を用いることができる。いくつかの態様では、腫瘍内(または腫瘍周辺部)への1D11.16抗TGF-β中和モノクローナル抗体などの治療的有効量の薬剤を含む薬学的調製物の持続的な放出が有益な場合がある。徐放性の製剤は当業者に周知である。例えば、腫瘍内に持続的に放出するためにビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン-セバシン酸やレシチン懸濁物などのポリマーを使用することができる。
【0138】
いくつかの態様では、例えば注射用および/またはDepoFoam(SkyePharma, Inc, San Diego, CA)(例えばChamberlain et al., Arch. Neuro. 50: 261-264, 1993; Katri et al., J. Pharm. Sci. 87: 1341-1346, 1998; Ye et al., J. Control Release 64: 155-166, 2000;およびHowell, Cancer J. 7: 219-227, 2001を参照)のような多重小胞リポソームを含むような移植薬剤のデポー(drug depot)を介して薬剤を導入することが特に対象となる。
【0139】
本発明を、以下の非制限的な実施例により説明する。
【0140】
実施例1
インビトロにおけるIL-13の対CTL直接作用の評価
線維肉腫15-12RMを皮下注射したBALB/cマウスには、腫瘍に「成長-退行-再発」のパターンがみられる。自然寛解にはCD8+ CTLが関与することが報告されている(Matsui et al., J Immunol. 163: 184-193, 1999)。前述したように、IL-13もCD4+CD1d拘束性T細胞(マウスで唯一の既知のCD1d拘束性T細胞なので、おそらくNKT細胞)(Kronenberg and Gapin, Nat. Rev. Immunol., 2: 557-568, 2002)の両方は、上記のようなCTLが関与する腫瘍の免疫監視を下方制御するために必要である(Terabe et al., Nature Immunol. 1: 515-520, 2000)。IL-13によって誘導される腫瘍の免疫監視の下方制御機構を解明するために、インビトロにおけるIL-13の対CTL直接作用を最初に調べた。
【0141】
方法
HIV gp160を発現する1×107 PFUの組換えワクシニアvPE16で免疫化されたBALB/cマウスの脾臓細胞を、さまざまな用量のIL-13(50 ng/ml、5 ng/ml、0.5 ng/ml)(R&D Systems, Minneapolis, MN)の存在下または非存在下のいずれかにおいて、IL-2(20 U/ml;R&D Systems, Minneapolis, MN)を添加した完全T細胞培地(CTM)中の1μMのP18-IIIBペプチドでパルス処理した1×106 radの放射線を照射した未感作BALB/c脾臓細胞で刺激した。P18ペプチドは、15-12RM腫瘍に対するCTL活性の大半に関与するHIVのgp160のV3ループの免疫優性のエピトープペプチドである(Matsui et al., J. Immunol. 163: 184, 1999)。組換えマウスIL-2およびIL-13は、R&D systems(Minneapolis, MA)から入手した。
【0142】
培養開始から6日後に生細胞を回収し、CTLアッセイ法用のエフェクター細胞として使用した。18Neo繊維芽細胞などの複数の標的細胞に対するCD8+ T細胞の細胞傷害活性を4時間の51Cr放出アッセイ法で測定した。18Neo繊維芽細胞は、対照としてNeor遺伝子のみを発現するヌルベクターでトランスフェクトしたBALB/c 3T3由来の細胞系列である。これらの細胞は、10% FCS、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、ペニシリン、ストレプトマイシン、および5×10-5 Mの2-ME、200μg/mlのジェネティシン(Sigma, St. Louis, MO)を含むRPMI1640からなるCTMで維持した。
【0143】
CTLアッセイ法における特異的な51Cr放出のパーセンテージは、100×(実験時の放出-自然放出)/(最大放出-自然放出)の式で計算した。最大放出はTriton X-100(5%)を添加して溶解した細胞の上清を対象に決定した。自然放出は、エフェクター細胞を添加せずにインキュベートした標的細胞を対象として決定した。
【0144】
結果
IL-13の存在下で刺激されたCTLでは、P18でパルス処理した標的細胞に対するCTL活性の促進または低下は認められなかった(図1A)。IL-13をCTLアッセイ法中に添加して場合でも細胞溶解活性に作用は認められなかった。以上の結果は、T細胞がIL-13受容体をもたないという文献上の報告(Zurawski and de Vries Immunol. Today, 15: 19-26, 1994)と矛盾せず、IL-13はCTLによる腫瘍の免疫監視の下方制御に必要であるが、CTLの誘導または活性に直接影響しない可能性があることを示唆している。したがって、CTL活性を直接的に下方制御する他の下流の段階が存在するはずである。
【0145】
実施例2
RAG2 KOレシピエントマウスおよびRAG2IL-4Rα二重KOレシピエントマウスを用いたT細胞の導入
IL-13はCD8+CTLに直接的に作用できなかったので、どの中間細胞集団がIL-13に反応した後にCTLに作用して腫瘍の免疫監視を下方制御するかということを決定するために、RAG2 KOレシピエントマウスおよびRAG2IL-4Rα二重KOレシピエントマウスを用いたT細胞導入実験を実施した。
【0146】
方法
雌のBALB/cマウスをCharles River Breeding Laboratories(Frederick, MD)から購入した。BALB/cバックグラウンドのRAG2ノックアウト(KO)マウスはTaconic(Germantown, NY)から入手した。RAG2とIL-4Rαの両方を欠くマウス(RAG2IL-4Rα二重KO)を、病原体を含まない条件で交配した。すべてのマウスは、病原体を含まない動物施設で維持し、6〜10週齢で使用した。
【0147】
細胞はIL-13に反応する受容体の一部としてIL-4Rαを必要とする。したがってT細胞を、野生型(RAG2 KO)マウス、またはIL-4Rα KO BALB/cマウス(Dr. Nancy Noben-Trauth, George Washington Universityから入手)の脾臓細胞から負に単離した。脾臓細胞の単個細胞浮遊液(single-cell suspension)を、MHCクラスII、CD11b、CD11c、およびDX5を発現する細胞について磁気ビーズ(Mylteni Biotech)を使用してネガティブ選択で精製した。後者の細胞表面マーカーはNK細胞では発現されるがNKT細胞では発現されない(Kronenberg and Gapin, Nat. Rev. Immunol., 2: 557-568, 2002)。精製後のT細胞は2〜3%のCD1d四量体陽性細胞(NKT細胞)を含んでいた(脾臓細胞では1〜1.5%)。
【0148】
5000万個の精製T細胞を、RAG2 KOマウスまたはRAG2IL-4Rα二重KOマウスの静脈内に注入した1週間後に15-12RMを注入した。15-12RMは、HIVエンベロープgp160遺伝子、変異型のk-rasおよびc-myc(Matsui et al., J. Immunol. 163: 184, 1999)をトランスフェクトしたBALB/c 3T3繊維芽細胞系列に由来する線維肉腫である。15-12RM細胞は、10% FCS、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、ペニシリン、ストレプトマイシン、および5×10-5 Mの2-ME、200μg/mlのジェネティシン(Sigma, St. Louis, MO)を含むRPMI1640からなる完全T細胞培地(CTM)で維持した。
【0149】
100万個の15-12RM細胞をマウスの右半身の皮下に注入した。CD4+細胞をインビボで除去するために、マウスの腹腔内に0.5mgの抗CD4モノクローナル抗体(GK1.5; Frederick Cancer Research and Development Center, NCI, Frederick, MD)、または対照ラットIgG(Sigma, St. Louis, MO)を0日目から3日間連続で、またその後は週2回注入した。一部の実験では、0日目、1日目、および3日目にマウスを、Genetics Instituteが作製したマウスIL-13Rα2とヒトIgG1の融合タンパク質(sIL-13Rα2-Fc;0.2mg)で、文献に記載された手順で処理した(Donaldson et al., J. Immunol. 161: 2317, 1998)。あるいはマウスを、0.1mgのTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3(Dasch et al., J. Immunol. 142: 1536, 1989)に特異的な抗TGF-βモノクローナル抗体1D11.16か、またはアイソタイプをマッチさせた対照モノクローナル抗体(13C4)を腹腔内注射で1日おきに10日間にわたって処理した(Strockbine et al., Infect. Immun. 50: 695, 1985)。1D11.16および13C4はGenzyme(Cambridge, MA)によって作製された。
【0150】
結果
RAG2 KOマウスまたはRAG2/IL-4Rα二重KOマウスはT細胞およびB細胞を欠くために腫瘍を全く拒絶しなかった。しかし、T細胞の移植を受けたRAG2 KOマウスは、T細胞によるIL-4Rαの発現にかかわらず野生型BALB/cマウスに似た挙動を示したことから、CD8+エフェクター細胞とCD1d拘束性調節性T細胞の両方が良好に再構成されたことがわかる。さらにIL-4Rα KOマウスのT細胞が野生型T細胞と同様に再構成するという事実は、エフェクター細胞も調節性T細胞そのものもIL-13に反応する能力が必要ないことを意味する。これとは対照的に、野生型T細胞が注入されたRAG2IL-4Rα二重KOマウスでは、腫瘍は、移植されたT細胞がIL-4Rαを発現した場合でも、最初の成長および退縮後に再発しなかった(図2)。IL-4が、この系における腫瘍の免疫監視の下方制御に必要でも十分でもないことが報告されていることから(Terabe et al., Nature Immunol. 1: 515, 2000)、IL-4Rαを介して腫瘍の免疫監視を調節するシグナル伝達を担うサイトカインはIL-13であった。したがって、腫瘍の免疫監視の下方制御に関与するIL-13に反応する細胞は、T細胞およびB細胞を欠くRAG2 KO宿主に由来する。IL-13反応性細胞は非T非B細胞であり、また同細胞はCTL活性を直接下方制御する可溶性の因子を産生する可能性があると結論された。
【0151】
実施例3
TGF-β1はCTLの機能を抑制する
腫瘍を有するマウスにおいて非T非B細胞がIL-13に反応してCTLの誘導を抑制する機構を解明するために、TGF-β1が、CD8+ T細胞の機能の溶解活性を抑制する能力があることが知られていること(Mule et al., Cancer Immunol. Immunother. 26: 95, 1988)を考慮した。
【0152】
方法
TGF-β1がCTLの機能を抑制する能力を調べるために、vPE16免疫化マウスの脾臓細胞を、さまざまな量のTGF-β(100 ng/ml、10 ng/ml、1 ng/ml)の存在下で、P18ペプチドでインビトロで1週間刺激し、これをCTLアッセイ法(実施例1参照)で検討した。組換えヒトTGF-β1はPeprotech(Rocky Hill, NJ)から購入した。
【0153】
一部の実験では、非T非NK細胞を、未感作マウスと15-12RMを注入したBALB/cマウスの両方の脾臓細胞からCD4+細胞、CD8+細胞、およびDX5+細胞を、抗CD4抗体、抗CD8抗体、および抗DX5抗体(Miltenyi Biotec; Auburn, CA)を結合させた磁気ビーズで除去することで調製した。1μMのP18-IIIBペプチドでパルス処理後に細胞を、IL-2(20 U/ml)を添加したCTM中で、抗TGF-β抗体(50μg/ml、1D11)の存在下または非存在下のいずれかにおいて、図3に示すように磁気ビーズ(Miltenyi Biotec; Auburn, CA)で精製したvPE16を注入したマウスの脾臓細胞のT細胞と混合した。1週間の培養後に生細胞を回収し、上述のCTLアッセイ法用のエフェクター細胞として使用した。
【0154】
結果
vPE16で免疫化した脾臓細胞をインビトロでTGF-β1の存在下で刺激したところ、細胞溶解活性が抑制された(図1B)。TGF-βは、溶解アッセイ法自体においては作用を有さなかった。
【0155】
15-12RM注入マウスの非T非NK細胞とともに培養したCTLは、未感作マウスの細胞と培養したCTLより低い細胞溶解活性を示した。しかし、この抑制は、培養中に抗TGF-β抗体を添加したところ完全に克服された(図3)。以上の結果は、IL-13とは対照的に、エクスビボで非リンパ細胞によって作られたTGF-β(図4Aおよび図4B)がCTLの誘導を直接抑制する能力を有することを示唆している。
【0156】
実施例4
TGF-β1の産生は腫瘍を有するマウスではインビボで上方制御される
仮にTGF-β1が、腫瘍を有するマウスでIL-13によって誘導されて腫瘍の免疫監視を下方制御するサイトカインであるなら、TGF-β1の産生は、腫瘍を有するマウスの非T細胞および非B細胞では増すはずである。というのはIL-13Rの成分であるIL-4Rαの発現が、T細胞またはB細胞が免疫監視を下方制御する際に必要なかったからである。腫瘍を有するマウスでTGF-β1の産生がインビボで上方制御されるか否かを判定するために、Thy 1.2、抗CD4、抗CD8、B220、およびDX5が陰性の非リンパ細胞を未感作マウスと15-12RM注入マウスの両方の脾臓細胞から、15-12RM注入の3日後に精製し、インビトロ刺激を加えることなくエクスビボにおけるTGF-β1の産生を調べた。
【0157】
方法
非リンパ細胞と呼ばれる非T非B非NK細胞を、15-12RMを注入した3日後にBALB/cマウスの脾臓細胞から精製した。抗Thy 1.2抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗B220抗体、および抗DX5抗体(Miltenyi Biotec; Auburn, CA)でコーティングした磁気ビーズを用いて脾臓細胞からT細胞、B細胞、およびNK細胞を除去した。この細胞を、200μlのX Vivo 20培地(BioWhittaker, Inc., Walkersville, MD)を分注した2×105/ウェルの密度で96ウェルプレートで培養した。指定時間に100μlの培地を各ウェルから回収し、サイトカインの測定まで-80℃で保存した。
【0158】
試料を酸性化してすべてのTGF-β1を活性型に変換した後に、培養上清中の全TGF-β1の濃度をELISAキット(R&D)で製造業者の指示書にしたがって決定した。全試料のアッセイ法を3回行い、3回の試行の平均±標準偏差(SD)を得た。未感作群と腫瘍群間のスチューデントのt検定によるp値は、p<0.005(6時間)、およびp<0.01(12時間)。酸性化処理を行わなかった場合にはTGF-β1は検出されなかったことから、すべてが潜在型であったことがわかる。1×106個の細胞によるエクスビボにおけるTGF-β1産生量を、「培養上清濃度(pg/ml)×0.2(ml)/(2×105/1×106)=100万個の細胞で作製されたpg」の計算式で算出した。このデータの統計学的有意差についてLog-Rank検定またはスチューデントのt検定で解析を行った。p<0.05の場合にデータを有意であるとみなした。
【0159】
結果
潜在型のTGF-β1は、培養後3時間の時点でこそ検出されなかったものの15-12RM注入マウスの非リンパ細胞の培養上清中にわずか培養後6時間の時点で検出された。未感作マウスの細胞では同じ時点では検出されなかった(スチューデントのt検定、p<0.005)(図4A)。このように早い時期に認められたことはおそらく、インビトロにおける刺激なしでの、マウスから除去された時点におけるこれらの細胞のインビボでの活性を反映しているのであろう。12時間までに、組織培養用プラスチック容器中では、腫瘍を有さないマウスの細胞であっても、ある程度のTGF-βを産生していたことから、組織培養プレートまたは培地による非特異的な刺激の存在が示唆される。これにもかかわらず、後の時点であっても、15-12RM注入マウスの細胞は未だ未感作マウスの細胞より多くのTGF-β1を産生していた(スチューデントのt検定、p<0.01)。非リンパ細胞によるTGF-β1産生の速度論的関係も調べた(図4B)。非リンパ細胞によるTGF-β1の産生は、腫瘍を注入した少なくとも10日後まで上昇した。
【0160】
実施例5
TGF-β1はインビボにおける腫瘍の再発に必要である
インビボにおける腫瘍の再発にTGF-β1が必要であるという仮説を検証するために、抗CD4抗体、中和抗TGF-βモノクローナル抗体(1D11.16; Genzyme, Cambridge, MA)、またはアイソタイプをマッチさせたモノクローナル抗体(13C4; Genzyme, Cambridge, MA)のいずれかを、腫瘍細胞注入マウスの腹腔内に注入した。
【0161】
方法
15-12RMを注入した後の最初の10日間が腫瘍の免疫監視の負の調節に重要であることが既にわかっているので(Terabe et al., Nature Immunol. 1: 515, 2000)、マウスを、抗CD4抗体、抗TGF-β抗体、またはアイソタイプをマッチさせたモノクローナル抗体で、腫瘍注入後の最初の10日間処理した。抗CD4モノクローナル抗体(0.5mg)を、腫瘍注入後の0日後、1日後、2日後、6日後、および10日後に注入した。100μgの抗TGF-βモノクローナル抗体、またはアイソタイプをマッチさせた対照モノクローナル抗体を1日おきに0日目〜10日目に注入した。
【0162】
別の実験では、15-12RM細胞の皮下接種後に、マウス(5匹/群)を0日目〜5日目に100μgの抗TGF-β抗体で、またはアイソタイプをマッチさせた対照抗体で1日おきに10日間にわたって処理した。100μgの抗TGF-β抗体を腹腔内に1日おきに10日間にわたって注入した15-12RMを注入したBALB/cマウス、または抗体注射を行わなかった個体の原発腫瘍の大きさを、ノギスを用いて1日おきに2つの垂直方向の寸法で測定した。
【0163】
結果
抗TGF-βモノクローナル抗体で処理したマウスは、抗CD4抗体で処理したマウス(図4C)、またはIL-13阻害剤で処理したマウスと同様に腫瘍の再発を免れた。抗TGF-βの作用は、腫瘍の大きさの差が大きかった再発相でのみ認められた(対照では>400 mm2、抗TGF-β処理マウスではなし)。対照的に原発腫瘍に差はほとんど認められなかった。抗TGF-β処理マウスの初期成長期における原発腫瘍の大きさは、対照マウスの腫瘍の大きさと比べて全実験でわずかに小さかったが、この差は有意ではなかった(図4E)。以上の結果は、TGF-β1が腫瘍の再発に必要であることを示している。
【0164】
たとえTGF-β産生の上昇が10日間を通して認められても(図4B)、抗TGF-β処理を5日目に開始することは、後の腫瘍の再発に影響を与えるためには遅すぎた(図4D)。以上の結果は、腫瘍注入後の初期に産生されるTGF-β1が、抗腫瘍免疫監視の下方制御に重要な役割を果たすことを示唆している。最初の10日間におけるTGF-βの遮断で十分であるという事実は、TGF-β1がCTLの初回刺激中でのみ重要であることを示唆しており、TGF-βがCTLの誘導を阻害する(図1B)が、そのエフェクター機能は阻害しないという結果と矛盾しない。
【0165】
実施例6
インビボにおけるTGF-β1産生の下方制御
TGF-β1はIL-13によって誘導され、下流で作用して、CTLが関与する腫瘍の免疫監視を下方制御する可能性があるが、IL-13とTGF-β1の両方が、細胞集団にかかわらず、腫瘍の免疫監視の阻害に必要であり、また平行して作用するという可能性は残る。以上の可能性を区別するために、マウスの腫瘍の再発を防ぐIL-13阻害剤が、腫瘍の注入の3日後において、腫瘍を有するマウスにおけるTGF-β1の産生に及ぼす作用を検討した。
【0166】
方法
IL-13阻害剤がTGF-β産生に及ぼす作用を測定するために、脾臓の非リンパ細胞を、腹腔内へのIL-13阻害剤処理を実施または実施せずに、未感作マウスおよび15-12RM注入マウスから、腫瘍注入の0日後、1日後、2日後に調製した。次に200000個の細胞を、図4Aに示したように何も刺激を加えることなくインビトロで培養した。
【0167】
CD1拘束性NKT細胞が、腫瘍を有するマウスで誘導されるIL-13の産生に関与し、またNKT細胞を欠くCD1 KOマウスが腫瘍の再発に耐性を示すことがわかっている。したがって、腫瘍を注入した3日後に、野生型BALB/cマウス(未感作)、15-12RM腫瘍を注入したBALB/cマウス、または腫瘍を注入したCD1 KOマウスに由来する脾臓の非リンパ細胞(200000個)におけるTGF-β1の産生についても調べた。BALB/cバックグラウンドのCD1 KOマウスを交配し、病原体を含まない条件で維持し、6〜10週齢の時点で使用した。
【0168】
結果
図5Aに示すように、15-12RM注入マウスの細胞は、未感作マウスの細胞より多くのTGF-β1を産生し、これは図4Aに示した結果(実施例4)と一致する。しかし、IL-13阻害剤処理はTGF-β1レベルを、未感作マウスとほぼ同じレベルまで低下させた。
【0169】
図5Bに示すように、CD1 KOマウスの細胞は、野生型BALB/cマウスの細胞とは対照的に、エクスビボですぐにはTGF-β1を産生しなかった。以上の結果は、この腫瘍モデルでは、腫瘍を有する個体の非リンパ細胞によるTGF-β1の発現が、インビボでIL-13およびCD1d拘束性T細胞に依存することを示していた。
【0170】
実施例7
腫瘍を有するマウスのCD11b+Gr-1+細胞におけるTGF-β1産生の上方制御
この実施例ではTGF-β1が、腫瘍を有するマウスのCD11b+Gr-1+細胞によって上方制御されることを示す。
【0171】
方法
未感作マウスおよび15-12RM注入マウス(3日目)から、CD4+細胞、CD8+細胞、B220+細胞、およびDX5+細胞を磁気ビーズで除去させることで非リンパ系脾臓細胞を得た。この細胞を、抗Gr-1抗体、抗CD11c抗体、抗F4/80抗体、および抗CD11b抗体で、15分間のCD16/CD32(抗FcR 2.4G2, Pharmingen, San Diego, CA)のブロッキングの30分後に染色した。細胞を1回洗浄し、Cytofix/Cytoperm(Pharmingen)で固定し、Perm/Wash緩衝液で洗浄した。洗浄後に細胞をFACScanまたはFACS Caliberで、CELLQuestソフトウェア(BD Biosciences)を用いて解析した。
【0172】
脾臓の非リンパ細胞のどの細胞集団がTGF-β1を作るのかを決定するために、15-12RMを注入した3日後に、未感作BALB/cマウス(白いバー)、および15-12RM腫瘍を注入したBALB/cマウス(黒いバー)から非リンパ系脾臓細胞を精製した。CD11b+細胞およびCD11c+細胞を、脾臓の非リンパ細胞の精製中に除去した。Gr-1細胞の除去に関しては、マウスの腹腔内に200μg、100μg、10μg、または1μgの抗Gr-1抗体(Cederlane Laboratories Ltd., Ontario, Canada)を、腫瘍注入後の5日目、6日目、10日目、15日目、20日目に注入した。200000個の精製細胞を特別の刺激を加えることなくインビトロで培養した。培養上清を6時間後または12時間後に培養物から回収し、TGF-β1の濃度をELISAで決定した。個々の値は3回のアッセイ法の平均±SDである。
【0173】
細胞内サイトカイン染色も行い、CD11b+Gr-1+細胞によるTGF-β1の産生を確認した。未感作マウスと15-12RM注入マウスから単離直後の脾臓細胞を、抗CD11b抗体および抗Gr-1抗体で染色した。次に細胞を固定し、透過化処理し、抗TGF-β1抗体で染色した。
【0174】
結果
1つの特異的な実験(図6)では、脾臓の非リンパ系脾臓細胞はCD11b+細胞(未感作マウスでは45.33±10.23%、腫瘍を有するマウスでは33.72±8.61%)、CD11c+細胞(未感作マウスでは3.78±1.21%、腫瘍を有するマウスでは3.47±1.76%)、F4/80+細胞(未感作マウスでは23.75±9.80%、腫瘍を有するマウスでは17.83±7.21%)、およびGr-1+細胞(未感作マウスでは45.09±7.59%、腫瘍を有するマウスでは35.92±11.88%)を含む。CD11b+細胞のうち、ほぼ80%(非リンパ系脾臓細胞は未感作マウスで37.52±7.72%、腫瘍を有するマウスで28.16±10.68%)がGr-1陽性であり、また50%を超えて(非リンパ系脾臓細胞は未感作マウスで23.75±9.8%、腫瘍を有するマウスで17.83±7.21%)F4/80陽性であった。CD11c+細胞の大半は、CD11bも発現する骨髄系樹状細胞であった(図6)。
【0175】
驚くべきことにCD11b+細胞の除去は、腫瘍を有するマウスの非リンパ細胞によるTGF-β1の産生を6時間の時点でほぼ完全に抑止した(図7A)。またGr-1+集団を除去した際のTGF-β1の産生は6時間の時点で大幅に減少していた(図7B)。しかし、CD11c+細胞を除去しても12時間の時点でTGF-β1レベルに作用は認められなかった(6時間の時点では認められた)。一方で、CD11bまたはGr-1の除去のいずれかの作用は12時間の時点で持続していた。この結果から、CD11c+細胞がTGF-β産生に関してCD11b+Gr-1+二重陽性細胞ほど重要ではないことがわかった(図7Aと図7B)。以上の結果は、CD11c+細胞が、ある程度の役割を果たしている可能性がある一方で、CD11bを発現する細胞のなかでCD11b+Gr-1+二重陽性細胞が、15-12RM注入マウスの非リンパ細胞によるTGF-β1産生の主要源であったことを示唆していた。抗CD11b抗体または抗CD11c抗体でコーティングした磁気ビーズ(Mylteni Biotech)を抗Thy1.2抗体、抗B220抗体、および抗DX5抗体と同時に使用した。
【0176】
CD11bおよびGr-1に対する表面染色を元に、二重陽性細胞では、Gr-1発現レベルで区別可能な少なくとも2つの細胞集団が存在することが判明した。CD11b+Gr-1high細胞およびCD11b+Gr-1low細胞を対象とした抗TGF-β1抗体による染色から、15-12RM注入マウスの脾臓細胞におけるTGF-β1の産生の上方制御はCD11b+Gr-1high下位集団では起こるがCd11b+Gr-1low下位集団では起こらないようである。
【0177】
インビボにおける腫瘍の免疫監視の下方制御に果たすGr-1+細胞の役割を調べた。マウスを、さまざまな用量(200μg、100μg、10μg、または1μg)の抗Gr-1抗体(Cederlane Laboratories Ltd., Ontario, Canada)で処理した。この用量のなかで、1μgの抗体で処理した個体群は、腫瘍注入後の5日目〜20日目において腫瘍の再発を防ぐことができた(図8C)。したがってGr-1+細胞は、エクスビボにおけるTGF-β1の産生に必要なだけでなく、実際にはインビボにおける免疫監視の下方制御にも必要である。
【0178】
実施例8
Gr-1+CD11b+細胞における細胞表面マーカーの発現とGr-1+CD11b+細胞の形態
Gr-1+CD11b+細胞の性質を詳しく解析するために、Gr-1+CD11b+細胞上におけるCD11c、CD31、およびIL-4Rαの発現、ならびにこれらの細胞の形態を調べた。
【0179】
方法
15-12RMを注入した3日後に、腫瘍を有するBALB/cマウスと未感作BALB/cマウスの脾臓細胞の単個細胞浮遊液をフローサイトメトリー解析用に調製した。細胞をFITC結合抗Gr-1抗体、Per-CP結合抗CD11b抗体をフィコエリトリン(PE)結合抗F4/80抗体、APC結合抗CD31抗体、またはPE結合抗IL-4Rα抗体と組み合わせて用いて染色し、フローサイトメトリーで解析した。得られたデータの解析中に、Gr-1+CD11b+細胞をゲート化(gated)し、他の分子の発現を解析した。
【0180】
Gr-1+CD11b+細胞の形態も調べた。BALB/cマウスの脾臓細胞から調製した非リンパ細胞を、15分間のCD16/CD32(Pharmingen)のブロッキング後に、FITC結合抗Gr-1抗体およびAPC結合抗CD11b抗体で30分間かけて染色した。洗浄後に細胞をGr-1hiCD11b+およびGr-1intCD11b+の細胞集団を対象にゲート化し、FACSVantage(BD Bioscience)でソートした。ソート後の細胞をcytospinでガラススライド上に回収し、完全に乾燥させた。細胞をDiff-Quik染色セット(Dade Behring Inc., Deerfield, IL)を用いてWright-Giemsa染色法で染色した。Gr-1染色による蛍光強度を元にGr-1+CD11b+細胞には2つの異なる細胞集団(Gr-hiCD11b+およびGr-1intCD11b+)が存在したので、各細胞集団をソートして各集団の細胞の形態を調べた。
【0181】
結果
F4/80は、未感作マウスと15-12RM注入マウスの両方に由来するGr-1+CD11b+細胞の約75%で発現されていた。CD31は、未感作マウスの細胞と比較して、腫瘍を有するマウスの細胞上で比較的高く発現されていたが、差は有意ではなかった(複数回の実験の平均は、腫瘍を有するマウスと未感作マウスのそれぞれにおいて24%および19%)。IL-13受容体の成分であるIL-4Rαも、未感作マウスと腫瘍を有するマウスの細胞とほぼ同じレベルでGr-1+CD11b+細胞で発現されていた(15〜20%)。Gr-1+CD11b+細胞におけるIL-4Rαの発現は、Gr-1+CD11b+細胞がIL-13受容体を発現することを示唆していた。この結果は、IL-13のインビボにおける遮断が、これらの細胞によるTGF-βのエクスビボにおける産生を低下させるという図5Bに示す結果と一致する。
【0182】
未感作マウスと15-12RM注入マウスの両方のGr-1hiCD11b+細胞は、主に成熟した好中球および一部が未成熟の好中球であり、未感作マウスと15-12RM注入マウスの細胞間に差は認められなかった(図8B、上の2つのパネル)。Gr-1intCD11b+細胞(図8B、下の2つのパネル)は主に、いわゆる「バンド状」(矢頭で示す)の未成熟骨髄性細胞を示す。また一部の未成熟な単球を矢印で示す。15-12RM注入マウスの細胞集団は、未感作マウスの細胞と比較して比較的少数の単球を含んでいた。
【0183】
実施例9
T細胞応答の抑制に一酸化窒素(NO)が果たす役割
腫瘍によって誘導されたGr-1+CD11b+骨髄性細胞は、一酸化窒素を介してT細胞応答を抑制する可能性がある。したがって、この実施例では、インビボにおいてNOが腫瘍抑制に果たす可能性のある役割について調べた。
【0184】
マウスに、iNOS(誘導型NO合成酵素)をインビボで阻害すると考えられている0.2mgのL-NAME(N-ニトロ-L-アルギニン-メチルエステル)またはD-NAME(N-ニトロ-D-アルギニン-メチルエステル)を、腫瘍注入後の2週間にわたって毎日注射した。L-NAME処理は腫瘍の成長をインビボで変化させなかった(図9)。したがって15-12RM注入マウスでは、NOはCD8+ CTLの負の調節に必要ない。
【0185】
実施例10
抗TGF-β抗体がインビボにおける転移に及ぼす作用
同系結腸癌のマウスの肺転移モデルを用いて調べた、抗TGF-βモノクローナル抗体がインビボにおける腫瘍の成長に及ぼす作用を、この実施例で報告する。
【0186】
方法
マウスの結腸癌細胞系列CT26をCTM中で維持した。20000個のCT26細胞をBALB/cマウスに尾静脈から注入した。マウスの腹腔内に0.1mgの抗TGF-βモノクローナル抗体(1D11.16; Genzyme, Cambridge, MA)、または対照モノクローナル抗体(13C4; Genzyme, Cambridge, MA)のいずれかを1日おきに2週間にわたって注射した。対照マウスに十分な数の腫瘍の転移が出現した時点(腫瘍の注入からの約3週間後)の時点ですべての個体を殺し、肺をインディアインク(15%溶液)で潅流した。Fekete溶液による固定後に、肺内の結節を顕微鏡で観察して肺転移の評価を行った。
【0187】
結果
1つの肺についてカウントされた結節は最大250個であった。抗TGF-β抗体処理は、肺転移の数を有意に減じた。この結果は、CTLが関与する腫瘍の免疫監視の下方制御にTGF-βが果たす役割が、15-12RM線維肉腫の再発に特有ではないことを示している。
【0188】
本開示は、腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させる方法を提供する。本開示はさらに、TGF-βの免疫抑制作用を阻害することで腫瘍の再発を阻害するか、または再発率を低下させるためにTGF-βシグナル伝達を遮断する方法を提供する。記載された方法の詳細が、記載された発明の趣旨から解離することなく、変更または変形される可能性があることは明らかである。発明者らは、特許請求の範囲および趣旨に含まれる、このような変形および変更のすべてを請求する。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】TGF-β1が、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の誘導をインビトロで直接抑制可能であるが、インターロイキン(IL)-13は抑制できないことを示す2つのグラフ。vPE16(4×106)で事前に免疫化したマウスの脾臓細胞を、P18でパルス処理した脾臓細胞(1×106個)で6日間インビトロで刺激した。インビトロ刺激中に、細胞をIL-2のみ(四角)の存在下、もしくはIL-2+50 ng/ml(丸)、5 ng/ml(菱形)、または0.5 ng/ml(三角)のIL-13の存在下(図1A)か、またはIL-2のみ(四角)の存在下、もしくは100 ng/ml(丸)、10 ng/ml(菱形)、または1 ng/ml(三角)のTGF-βの存在下(図1B)のいずれかの条件で維持した。培養した細胞をCTLアッセイ法に、図に示したE:T比で用いた。標的は、ペプチドなしの18Neo繊維芽細胞(白抜き記号)か、または1μMのP18-IIIBペプチドでパルス処理した同細胞(黒塗り記号)とした。示したデータは3回の独立した実験の代表である。
【図2】非Tおよび非B細胞が、腫瘍の免疫監視を下方制御するIL-13応答細胞であることを示す2つのグラフ。RAG2ノックアウト(KO)マウス、およびRAG2/IL-4Rα KOマウスの静脈内に、野生型マウスまたはIL-4Rα KOマウスの脾臓から精製した5×107個のT細胞を注入した。1週間後にマウスの皮下に1×106個の15-12RM腫瘍細胞を注入した。1群あたり5匹のマウスを使用した。示した結果は3回の実験の代表である。
【図3】TGF-β1がCTLの誘導をインビトロで直接抑制することを示すグラフ。15-12RMを注入した3日後に、非T非ナチュラルキラー(NK)細胞を、腫瘍を有するBALB/cマウス(三角および菱形)、ならびに未感作BALB/cマウス(四角および丸)の脾臓細胞から、CD4+細胞、CD8+細胞、およびDX5+細胞を負に除去することで調製し、1μMのP18ペプチドでパルス処理した。vPE16で免疫化したマウスの脾臓T細胞を、これらの非T非NK細胞の存在下で1週間インビトロで刺激した。すべての培養物にIL-2を添加したことに加えて、50μg/mlの抗TGF-β抗体をインビトロ刺激中に添加(黒塗り記号)、または添加しなかった(白抜き記号)。培養した細胞を回収してCTLアッセイ法に使用した。標的は、P18ペプチド(四角および三角)、またはペプチドなし(丸および菱形)のいずれかでパルス処理した18Neo繊維芽細胞とした。別の独立した実験で類似の結果が得られた。
【図4】TGF-β1の産生が、15-12RMを注入したBALB/cマウスから得た非リンパ系脾臓細胞(非T非B非NK細胞)で上昇したこと、および抗TGF-β抗体が腫瘍の再発を防ぐことを示す一連のグラフ。図4Aは、15-12RMを注入した3日後に、未感作BALB/cマウス(白いバー)、および15-12RM腫瘍を注入したBALB/cマウス(黒いバー)から単離直後の非リンパ細胞を対象に、エクスビボにおけるTGF-β1の産生を調べた結果を示す。対象スケールにおいて極めて小さいエラーバーは表示されていない。この実験は、類似の結果が得られた10回の実験の代表である。図4Bは、15-12RM注入マウスから、腫瘍注入後のさまざまな時点で調製した単離直後の非リンパ細胞を対象に、図4Aに示した手順でエクスビボにおけるTGF-β1の産生を調べた結果を示す。図4Cは、1×107個の15-12RM細胞を皮下に注入した抗CD4抗体処理マウス(丸)、抗TGF-β抗体処理マウス(三角)、またはアイソタイプをマッチさせた対照抗体処理(菱形)BALB/cマウス(5匹/群)を示す。対照群と抗TGF-β抗体処理群間のLog-Rank検定、p<0.05。この実験は、類似の結果が得られた3回の実験の代表である。図4Dは、15-12RM細胞の皮下注入後に、マウス(5匹/群)を100μgの抗TGF-β抗体で、0日目(黒丸)、または5日目(黒三角)、またはアイソタイプをマッチさせた対照抗体(菱形)を1日おきに10日間処理した結果を示す。図4Eは、100μgの抗TGF-βモノクローナル抗体(丸)を腹腔内に1日おきに10日間注入したか、またはどのような抗体処理も行わなかった(菱形)15-12RMを注入したBALB/cマウスの原発腫瘍の大きさを示す。縦軸は、2つの寸法の積として測定した腫瘍面積を示す。この実験は4回の独立した実験の代表である。図4Fでは、0.1mgの抗TGF-βモノクローナル抗体、またはアイソタイプをマッチさせた対照モノクローナル抗体で処理した2×105個のCT26細胞を注入したBALB/cマウス(5匹/群)を示す。結節の平均数を水平方向のバーに示す。対照及び対照mAb群との比較時の抗TGF-β群を対象とした一元ANOVA検定でp<0.0001。2回の実験で類似の結果が得られた。
【図5】インビボにおけるTGF-β1の産生が、15-12RM腫瘍細胞を注入したIL-13阻害剤処理野生型マウスまたはCD1 KOマウスで下方制御されることを示す2つのグラフ。図5Aは、15-12RM腫瘍を注入した3日後に、未感作BALB/cマウス(白いバー)、15-12RM腫瘍を注入したBALB/cマウス(黒いバー)、およびIL-13阻害剤で処理した15-12RM腫瘍を注入したBALB/cマウス(灰色のバー)から単離直後の非リンパ細胞を対象に、エクスビボにおけるTGF-β1の産生を調べた結果を示す。IL-13阻害剤(sIL-13Rα2-Fc、0.2mg)は、腫瘍を注入した0日後、1日後、2日後に腹腔内に投与した。図5Bは、未感作の野生型BALB/cマウス、15-12RM腫瘍を注入した野生型BALB/cマウス、および腫瘍を注入したCD1 KO BALB/cマウスを、腫瘍を注入した3日後における非リンパ細胞の供給源として用いたことを示す。200000個の細胞を、特定の刺激を加えることなくインビトロで培養した。培養上清を所定の時点で回収し、TGF-β1の濃度をELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ法)で決定した。個々の値は3回のアッセイの平均±SDを示す。対象スケールにおいて極めて小さいエラーバーは表示されていない。3回の独立した実験で類似の結果が得られた。
【図6】未感作マウスおよび15-12RM腫瘍注入マウスの脾臓の非リンパ細胞を対象としたフローサイトメトリー染色を示す一連の蛍光標示式細胞ソーティング(FACS)のプロット。非リンパ系脾臓細胞を、CD4+細胞、CD8+細胞、B220+細胞、およびDX5+細胞を磁気ビーズで除去することで、未感作マウスおよび15-12RM注入マウスから得た(3日目)。これらの細胞を、15分間のCD16/CD32のブロッキング後に、抗Gr-1抗体、抗CD11c抗体、抗F4/80抗体、および抗CD11b抗体で30分間かけて染色した。細胞を1回洗浄し、Cytofix/Cytoperm(Pharmingen)で固定し、Perm/Wash緩衝液で洗浄した。洗浄後に、細胞をFACScanまたはFACS Caliberで、CELLQuestソフトウェア(BD Biosciences)を用いて解析した。この実験は、類似の結果が得られた10回の実験の代表である。
【図7】CD11b+細胞およびGr-1+細胞がTGF-β1の主要源であり、また腫瘍の免疫監視の下方制御に必要であることを示す一連のグラフ。図7Aは、15-12RM腫瘍注入マウスの細胞を精製後にCD11b+(線の入ったバー)、またはCD11c+(灰色のバー)を除去した細胞から産生されたTGF-β1の量を示す。図7Bは、15-12RM腫瘍注入マウスの細胞を精製後にCD11b+(線の入ったバー)、またはGr-1+(点の入ったバー)を除去した細胞から産生されたTGF-β1の量を示す。対象スケールにおいて極めて小さいエラーバーは表示されていない。この実験は、類似の結果が得られた3回の実験の代表である。図7Cは、腫瘍を有する抗Gr-1抗体処理マウス(四角)、または対照BALB/cマウス(菱形)のパーセントを示すグラフである。マウスの皮下に1×107個の15-12RM細胞を注入した。15-12RMを注入した5日後、6日後、10日後、15日後、および20日後に抗Gr-1抗体(1μg)を腹腔内に注入した。1群につき5匹のマウスを使用した。対照群と抗Gr-1抗体処理群間におけるLog-Rank検定でp<0.05。この実験は、類似の結果が得られた3回の実験の代表である。
【図8】Gr-1+CD11b+細胞の特性解析の結果を示す一連のイメージ。15-12RMを注入した3日後に、腫瘍を有するBALB/cマウスと未感作BALB/cマウスから脾臓細胞の単個細胞浮遊液(single-cell suspension)を調製した。図8Aは、Gr-1+CD11b+細胞の中で、各細胞表面マーカーが陽性の細胞のパーセンテージを示す。図8Bは、FITC結合抗Gr-1抗体、Per-CP結合抗CD11b抗体で染色された非リンパ細胞を示す。この細胞をフローサイトメトリーで予備的にソートし、Gr-1hiCD11b+集団(上のパネル)、およびGr-1intCD11b+集団(下のパネル)を選択した。ソートされた細胞をcytospinによってガラススライド上に回収し、一晩乾燥させ、Wright-Giemsa染色法で染色した。顕微鏡下で20倍の拡大率で写真を撮影した。矢印は単球を示し、矢頭は「バンド状」の未成熟顆粒球を示す。
【図9】一酸化窒素(NO)産生のインビボにおける遮断が腫瘍の成長を変化させなかったことを示すグラフ。iNOS(誘導型NO合成酵素)をインビボで阻害すると考えられているL-NAME(N-ニトロ-L-アルギニン-メチルエステル)、またはD-NAME(N-ニトロ-D-アルギニン-メチルエステル)の各0.2mgを、腫瘍注入後の2週間にわたってマウスに毎日投与した。腫瘍を有するマウスの個体数を、腫瘍注入後の最長50日後まで計数した。独立した実験で類似の結果が得られた。
【図10】TGF-β、骨髄性細胞、IL-13、およびCD4+CD1d拘束性T細胞(おそらくNKT細胞)が関与するCTLが関与する腫瘍の免疫監視の負の免疫調節回路の提案モデルを描いた図。抗原提示細胞によってCD1d分子を介して提示された腫瘍抗原(糖脂質)は、CD4+CD1d拘束性NKT細胞によって認識されてそれを活性化する。活性化されたCD4+CD1d拘束性NKT細胞はIL-13を産生し、これが、IL-13受容体を発現するGr-1+CD11b+骨髄性細胞に作用する。Gr-1+CD11b+骨髄性細胞はTGF-βを産生して、腫瘍細胞を死滅させることができるCD8+細胞傷害性T細胞(CTL)を抑制することで腫瘍の免疫監視を下方制御する。この経路は、IL-13阻害剤および抗TGF-β抗体によって遮断することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験対象におけるトランスフォーミング成長因子(TGF)-βの免疫抑制作用を遮断するために、治療的有効量のTGF-βの活性を中和する薬剤を腫瘍再発のリスクがある被験対象に投与する段階を含み、これにより被験対象における腫瘍の再発を阻害する、被験対象における腫瘍の再発を阻害する方法。
【請求項2】
薬剤が、ハイブリドーマ1D11.16(ATCCアクセッション番号HB9849)から得られる、TGF-βに特異的なモノクローナル抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
薬剤が、アンタゴニスト、抗体、化合物、小分子、ペプチド模倣体、ペプチド、またはタンパク質を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
薬剤が、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である抗体を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
モノクローナル抗体がTGF-βに特異的である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
抗TGF-β抗体がTGF-βとTGF-β受容体の結合を阻害する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
被験対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
腫瘍が良性または悪性である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
腫瘍が、癌、肉腫、白血病、リンパ腫、または神経系の腫瘍を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
腫瘍が、乳房の腫瘍、肝臓の腫瘍、膵臓の腫瘍、胃腸の腫瘍、結腸の腫瘍、子宮の腫瘍、卵巣の腫瘍、頚部の腫瘍、睾丸の腫瘍、脳の腫瘍、皮膚の腫瘍、黒色腫、網膜の腫瘍、肺の腫瘍、腎臓の腫瘍、骨の腫瘍、前立腺の腫瘍、鼻咽頭の腫瘍、甲状腺の腫瘍、白血病、またはリンパ腫を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
薬剤が、静脈内、皮下、皮内、または筋肉内に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
治療的有効量の薬剤の投与により、インビボまたはインビトロにおいて腫瘍成長の欠損を生じる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
TGF-βの免疫抑制作用の遮断により、被験対象のリンパ球による免疫監視の亢進を生じる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
リンパ球がT細胞またはB細胞を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
リンパ球がT細胞を含み、T細胞が、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、CD8+CTL、CD4+細胞、CD4+CD1d拘束性T細胞、NKT細胞、またはこれらの組み合わせを含む、請求項13記載の方法。
【請求項16】
免疫監視の亢進が、リンパ球の生物学的活性の上昇によって測定される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
リンパ球の活性の上昇がCTLアッセイ法で測定される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
CTLアッセイ法がクロム放出アッセイ法を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
投与段階が、TGF-β受容体を薬剤と接触させる段階を含み、これによりTGF-βの活性を中和する、請求項1記載の方法。
【請求項20】
薬剤が、アンタゴニスト、抗体、小分子、化合物、ペプチド模倣体、ペプチド、またはタンパク質を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
薬剤がTGF-β受容体シグナル伝達を阻害する、請求項19記載の方法。
【請求項22】
投与段階が、TGF-β受容体の下流のシグナル伝達分子を薬剤と接触させる段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
薬剤が、アンタゴニスト、抗体、小分子、化合物、ペプチド模倣体、ペプチド、またはタンパク質を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
下流のシグナル伝達分子がSmadタンパク質またはSmad複合体DNA結合コファクターを含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
被験対象におけるTGF-βの免疫抑制作用を遮断するために、ハイブリドーマ1D11.16(ATCCアクセッション番号HB9849)から得られるモノクローナル抗体であってTGF-βの活性を中和するTGF-βに特異的な治療的有効量のモノクローナル抗体を、腫瘍再発のリスクがある被験対象に投与する段階を含み、これにより被験対象における腫瘍の再発を阻害する、被験対象における腫瘍の再発を阻害する方法。
【請求項26】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞にTGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤を接触させる段階を含み、TGF-βシグナル伝達経路の遮断がTGF-β受容体を発現する免疫細胞による腫瘍免疫監視の亢進を生じ、これにより腫瘍の再発を阻害するために免疫細胞の活性を高める、腫瘍の再発を阻害するために免疫細胞の活性を高める方法。
【請求項27】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞がT細胞またはB細胞である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞がT細胞を含み、T細胞が、CTL、CD8+CTL、CD4+細胞、CD4+CD1d拘束性T細胞、またはNKT細胞を含む、請求項26記載の方法。
【請求項29】
薬剤が、アンタゴニスト、抗体、小分子、化合物、ペプチド模倣体、ペプチド、またはタンパク質を含む、請求項26記載の方法。
【請求項30】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞に薬剤を接触させる段階が、TGF-βまたはTGF-β受容体に接触させる段階を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
TGF-βに接触する薬剤が、ATCCアクセッション番号HB9849のハイブリドーマ1D11.16から得られる抗TGF-βモノクローナル抗体を含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
治療的有効量のTGF-βシグナル伝達経路を遮断する薬剤を被験対象に投与する段階を含み、TGF-βシグナル伝達経路の遮断が被験対象における腫瘍の免疫監視の亢進を生じ、これにより腫瘍の再発を阻害するために被験対象における免疫応答を促進する、腫瘍の再発を阻害するために被験対象の免疫応答を促進する方法。
【請求項33】
免疫応答がT細胞応答である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
T細胞応答が、CTL応答、CD8+CTL応答、CD4+T細胞応答、CD4+CD1d拘束性T細胞応答、またはNKT細胞応答を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
薬剤が、アンタゴニスト、抗体、小分子、化合物、ペプチド模倣体、ペプチド、またはタンパク質を含む、請求項32記載の方法。
【請求項36】
薬剤がTGF-βまたはTGF-β受容体と接触する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
薬剤が、ハイブリドーマ1D11.16(ATCCアクセッション番号HB9849)から得られる抗TGF-βモノクローナル抗体を含む、請求項36記載の方法。
【請求項38】
被験対象がヒトである、請求項32記載の方法。
【請求項39】
以下の段階を含む、腫瘍の再発を阻害する薬剤をスクリーニングする方法:
TGF-β受容体を発現する免疫細胞にTGF-βを接触させる段階;
TGF-β受容体を発現する免疫細胞に薬剤を接触させる段階;ならびに
薬剤を接触させていないTGF-β受容体を発現する対照免疫細胞と比較して、TGF-β受容体を発現する免疫細胞におけるTGF-βシグナル伝達の活性の低下をアッセイする段階、これにより腫瘍の再発を阻害する薬剤をスクリーニングする。
【請求項40】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性の上昇をアッセイする段階をさらに含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞がCTLである、請求項39記載の方法。
【請求項42】
CTLの活性の上昇がCTLアッセイ法で測定される、請求項41記載の方法。
【請求項43】
TGF-βシグナル伝達の活性の低下が、Smadタンパク質のリン酸化の低下、Smadタンパク質の核内移行の減少、またはSmad複合体とDNAとの結合の減少を含む、請求項39記載の方法。
【請求項44】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性の上昇が、免疫監視の亢進を含む、請求項40記載の方法。
【請求項45】
免疫監視の亢進がCTL活性の上昇を含む、請求項44記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験対象におけるトランスフォーミング成長因子(TGF)-βの免疫抑制作用を遮断するために、TGF-βに特異的なモノクローナル抗体であり、かつTGF-βの活性を中和するハイブリドーマ1D11.16(ATCC アクセッション番号 HB 9849)から得られたモノクローナル抗体の治療的有効量を腫瘍再発のリスクがある被験対象に投与する段階を含み、これにより被験対象における腫瘍の再発を阻害する、被験対象における腫瘍の再発を阻害する方法。
【請求項2】
モノクローナル抗体がTGF-βとTGF-β受容体の結合を阻害する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
腫瘍が良性または悪性である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
腫瘍が、癌、肉腫、白血病、リンパ腫、または神経系の腫瘍を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
腫瘍が、乳房の腫瘍、肝臓の腫瘍、膵臓の腫瘍、胃腸の腫瘍、結腸の腫瘍、子宮の腫瘍、卵巣の腫瘍、頚部の腫瘍、睾丸の腫瘍、脳の腫瘍、皮膚の腫瘍、黒色腫、網膜の腫瘍、肺の腫瘍、腎臓の腫瘍、骨の腫瘍、前立腺の腫瘍、鼻咽頭の腫瘍、甲状腺の腫瘍、白血病、またはリンパ腫を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
薬剤が、静脈内、皮下、皮内、または筋肉内に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
治療的有効量の薬剤の投与により、インビボまたはインビトロにおいて腫瘍成長の欠損を生じる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
TGF-βの免疫抑制作用の遮断により、被験対象のリンパ球による免疫監視の亢進を生じる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
リンパ球がT細胞またはB細胞を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
リンパ球がT細胞を含み、T細胞が、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、CD8+CTL、CD4+細胞、CD4+CD1d拘束性T細胞、NKT細胞、またはこれらの組み合わせを含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
免疫監視の亢進が、リンパ球の生物学的活性の上昇によって測定される、請求項9記載の方法。
【請求項13】
リンパ球の活性の上昇がCTLアッセイ法で測定される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
CTLアッセイ法がクロム放出アッセイ法を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
モノクローナル抗体がTGF-β受容体シグナル伝達を阻害する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
被験対象におけるTGF-βの免疫抑制作用を遮断するために、ハイブリドーマ1D11.16(ATCCアクセッション番号HB9849)から得られるモノクローナル抗体であってTGF-βの活性を中和するTGF-βに特異的な治療的有効量のモノクローナル抗体を、腫瘍再発のリスクがある被験対象に投与する段階を含み、これにより被験対象における腫瘍の再発を阻害する、被験対象における腫瘍の再発を阻害する方法。
【請求項17】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞にATCC アクセッション番号 HB 9849のハイブリドーマ1D11.16から得られる抗TGF-βモノクローナル抗体を接触させる段階を含み、モノクローナル抗体がTGF-βシグナル伝達経路を遮断し、かつTGF-βシグナル伝達経路の遮断がTGF-β受容体を発現する免疫細胞による腫瘍免疫監視の亢進を生じ、これにより腫瘍の再発を阻害するために免疫細胞の活性を高める、腫瘍の再発を阻害するために免疫細胞の活性を高める方法。
【請求項18】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞がT細胞またはB細胞である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞がT細胞を含み、T細胞が、CTL、CD8+CTL、CD4+細胞、CD4+CD1d拘束性T細胞、またはNKT細胞を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
ATCC アクセッション番号 HB 9849のハイブリドーマ1D11.16から得られる抗TGF-βモノクローナル抗体の治療的有効量を被験対象に投与する段階を含み、モノクローナル抗体がTGF-βシグナル伝達経路を遮断し、かつTGF-βシグナル伝達経路の遮断が被験対象における腫瘍の免疫監視の亢進を生じ、これにより腫瘍の再発を阻害するために被験対象における免疫応答を促進する、腫瘍の再発を阻害するために被験対象の免疫応答を促進する方法。
【請求項21】
免疫応答がT細胞応答である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
T細胞応答が、CTL応答、CD8+CTL応答、CD4+T細胞応答、CD4+CD1d拘束性T細胞応答、またはNKT細胞応答を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
被験対象がヒトである、請求項20記載の方法。
【請求項24】
以下の段階を含む、腫瘍の再発を阻害する薬剤をスクリーニングする方法:
TGF-β受容体を発現する免疫細胞にTGF-βを接触させる段階;
TGF-β受容体を発現する免疫細胞に薬剤を接触させる段階;ならびに
薬剤を接触させていないTGF-β受容体を発現する対照免疫細胞と比較して、TGF-β受容体を発現する免疫細胞におけるTGF-βシグナル伝達の活性の低下をアッセイする段階、これにより腫瘍の再発を阻害する薬剤をスクリーニングする。
【請求項25】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性の上昇をアッセイする段階をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞がCTLである、請求項24記載の方法。
【請求項27】
CTLの活性の上昇がCTLアッセイ法で測定される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
TGF-βシグナル伝達の活性の低下が、Smadタンパク質のリン酸化の低下、Smadタンパク質の核内移行の減少、またはSmad複合体とDNAとの結合の減少を含む、請求項24記載の方法。
【請求項29】
TGF-β受容体を発現する免疫細胞の活性の上昇が、免疫監視の亢進を含む、請求項25記載の方法。
【請求項30】
免疫監視の亢進がCTL活性の上昇を含む、請求項29記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−503899(P2006−503899A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−547201(P2004−547201)
【出願日】平成15年10月24日(2003.10.24)
【国際出願番号】PCT/US2003/034023
【国際公開番号】WO2004/037209
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(505004949)アメリカ合衆国 (7)
【Fターム(参考)】