説明

TIS測定方法および装置

【課題】携帯端末等のTIS(全等方性感度)を短時間に測定できるようにする。
【解決手段】楕円球の閉空間12の一方の焦点F1に配置した送信アンテナ3に対して送信機2からデータで変調された信号を供給し、送信アンテナ3から放射した電波を、他方の焦点F2に配置した被測定物1に対してほぼ全方向から同位相で集約させて、全空間からの電波を積分したのと同等な状態にして、被測定物1で復調されるデータ信号のビット誤り率をBER測定器5によって測定し、そのビット誤り率が規定値となる時の送信供給電流をしきい値電力Pthとして求める。そしてそのしきい値電力と、被測定物1に代わって基準受信アンテナを配置したときに得られる電力値および送信アンテナと基準受信アンテナについての既知のパラメータとから、被測定物1のTISを算出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機のような移動体無線端末の受信感度を評価するための全等方性感度TIS(Total Isotropic Sensitivity)を、容易に且つ短時間に測定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機のような移動体無線端末の受信感度を評価するパラメータとしてTISがある。なお、このTISと同じ意味のパラメータとしてTRS(Total Radiated Sensitivity)と呼ぶこともあるが、以下の説明ではTISと記載する。
【0003】
TISの定義について図8を用いて説明する。図8の(a)は導体接続測定の系を示し、(b)は放射測定の系を示すものである。
【0004】
導体接続測定の場合は、測定用端子を介した直結の測定系で、送信機100から受信機110にデータで変調された信号を入力し、その入力レベルを高い方から低い方へ順次低下させていき、受信機110で復調されるデータのBER(ビット誤り率)が規定値に達した時の入力電力Psで受信感度を規定する。
【0005】
この測定法は測定用端子の存在を前提にしているが、携帯端末の小型化や低コスト化に伴い、測定用端子を持たないものが増えてくると上記測定法は使えず、受信機の感度を放射で測定しなければならなくなる。
【0006】
一方、放射測定の場合は、(θ,φ)方向からθ偏波の平面波が電力EISθ(θ,φ)で到来した状態で、受信機110で復調されるデータのBER(ビット誤り率)が規定値に達する時の受信アンテナ111から受信機110への入力電力がPsであったとする。
【0007】
θ、φの両偏波に対し、このような平面波が全空間から到来する散乱環境(各平面波は異なる方向でインコヒーレントとする)を考え、その中に理想的無指向性アンテナを配置して受信した全電力を空間平均したものをTISと定義する。
【0008】
即ち、θ、φの両偏波に対する受信アンテナの動作利得をそれぞれGθ(θ,φ)、Gφ(θ,φ)とすると、θ偏波の平面波の電力EISθ(θ,φ)と、φ偏波の平面波の電力EISφ(θ,φ)は、以下のように表される。
【0009】
EISθ(θ,φ)=Ps/Gθ(θ,φ) ……(1)
EISφ(θ,φ)=Ps/Gφ(θ,φ) ……(2)
【0010】
また、上記定義からTISは、次式によって表される。なお、以下の式では、θ、φの関数であることを示す(θ,φ)を省略して記載する。
【0011】
TIS
=4π/{∫∫[(1/EISθ)+(1/EISφ)]sinθdθdφ}……(3)
【0012】
つまり、式(1)、(2)のEISを全空間で測定し、それを式(3)の分母のように積分することでTISが得られる。
【0013】
なお、上記技術に関連して、アンテナの3次元ゲインパターンを測定し、その測定結果に基づいてTISを求める技術が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−235959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記のように3次元の式(1)、(2)のEISを全空間で測定し、それを積分する方式では、測定結果を得るために大変な時間がかかるという問題があった(自動測定システムを用いても通常6時間かかると言われている)。
【0016】
本発明は、この問題を解決し、TISを極めて短時間に測定できるTIS測定方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1のTIS測定方法は、
楕円をその2つの焦点を通る軸を中心に回転して得られる楕円球状で金属の壁面で囲まれた閉空間の一方の焦点の近傍に送信アンテナ(3)を配置し、他方の焦点の近傍に被測定物(1)を配置して、前記送信アンテナから出力された信号が前記被測定物に最大感度で受信されるように前記送信アンテナと前記被測定物の位置を調整する段階と、
前記送信アンテナに対して前記被測定物が受信可能なビット誤り率測定用の測定信号を供給するとともに、該測定信号を受信した前記被測定物の復調データ信号のビット誤り率を測定できる状態にして前記測定信号の供給電力を変化させ、該ビット誤り率が規定値に達するときの前記測定信号の供給電力をしきい値電力Pthとして求める段階と、
前記求めたしきい値電力に基づいて被測定物のTISを算出する段階とを含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項2のTIS測定方法は、請求項1記載のTIS測定方法において、
前記被測定物の代わりに基準受信アンテナを用い、該基準受信アンテナの受信電力が最大となるように、前記送信アンテナと基準受信アンテナの位置を調整したときの前記送信アンテナへの信号供給電力Pc′と受信最大電力Pr′を求める段階を含み、
前記求めた各電力値Pth、Pc′、Pr′に基づいて、被測定物のTISを算出することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項3のTIS測定方法は、請求項2記載のTIS測定方法において、
前記求めた各電力値Pth、Pc′、P′と、前記被測定物を測定したときの前記送信アンテナの反射係数Γ、前記基準受信アンテナを測定したときの前記送信アンテナの反射係数Γ′、前記基準受信アンテナの既知の放射効率ηr′、前記被測定物の自由空間中における既知の不整合損失Lmとを用い、次式、
TIS
=[Pth(1−|Γ|)P′]/[P′(1−|Γ′|)ηr′・Lm]
にしたがって被測定物のTISを算出することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項4のTIS測定装置は、
楕円をその2つの焦点を通る軸を中心に回転して得られる楕円球状で、金属の壁面で囲まれた閉空間を有し、送信アンテナ3を一方の焦点の近傍位置に支持し、被測定物(1)を他方の焦点の近傍位置に支持する支持手段(50、55)を含む結合器(21)と、
前記送信アンテナに前記被測定物が受信可能な測定信号を供給する送信機(2)と、
前記測定信号を受信した被測定物の復調データを受けて、そのビット誤り率を測定するビット誤り率測定器(5)と、
前記送信アンテナから出力された信号が前記被測定物に最大感度で受信されるように前記送信アンテナと前記被測定物の位置が調整された状態で、前記送信機が供給する測定信号の電力を変化させて、前記ビット誤り率測定器によって測定されるビット誤り率が規定値に達したときの供給電力をしきい値電力Pthとして求めるしきい値電力測定手段(191)と、
前記しきい値電力測定手段によって得られたしきい値電力に基づいて被測定物のTISを算出するTIS算出手段(192)とを有していることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項5のTIS測定装置は、請求項4記載のTIS測定装置において、
前記被測定物の代わりに基準受信アンテナを用い、該基準受信アンテナの受信電力が最大となるように、前記送信アンテナと基準受信アンテナの位置を調整したときの前記送信機の信号供給電力Pc′と受信最大電力Pr′を予め記憶する手段を有し、
前記TIS算出手段は、前記しきい値電力、信号供給電力Pc′、受信最大電力Pr′に基づいて、被測定物のTISを算出することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項6のTIS測定装置は、請求項5記載のTIS測定装置において、
前記TIS算出手段は、
前記しきい値電力、信号供給電力Pc′、受信最大電力Pr′、前記被測定物を測定したときの前記送信アンテナの反射係数Γ、前記基準受信アンテナを測定したときの前記送信アンテナの反射係数Γ′、前記基準受信アンテナの既知の放射効率ηr′、前記被測定物の自由空間中における既知の不整合損失Lmとを用い、次式、
TIS
=[Pth(1−|Γ|)P′]/[P′(1−|Γ′|)ηr′・Lm]
にしたがって、被測定物のTISを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
このように、本発明は、楕円球の閉空間の一方の焦点に配置した送信アンテナから放射した電波を、他方の焦点に配置した被測定物に対してほぼ全方向から同位相で集約させて、全空間からの電波を積分したのと同等な状態にして、ビット誤り率が規定値となる時のしきい値電力を求め、そのしきい値電力と、被測定物に代わって基準受信アンテナを配置したときに得られる電力値および送信アンテナと基準受信アンテナについての既知のパラメータとから、被測定物のTISを算出しているので、従来の3次元積分方式に比べて格段に短時間にTISを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のTIS測定方法を説明するための測定系の構成図
【図2】本発明のTIS測定方法を説明するための校正系の構成図
【図3】本発明のTIS測定方法の手順の一例を示すフローチャート
【図4】本発明のTIS測定装置の実施形態の構成図
【図5】要部の内部構造を示す図
【図6】要部の内部構造を示す図
【図7】要部の内部構造を示す図
【図8】TISの定義を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
始めに本発明のTISの測定原理について説明する。
【0026】
前記したTISの式(3)の分母は、ゲインを用いて表すと、
(1/Ps)∫∫(Gθ+Gφ)sinθdθdφ……(4)
となる。
【0027】
ここで、携帯端末などの被測定物の内部の受信アンテナの効率をηr 、その受信アンテナと受信部の間の自由空間中における不整合損失をLm、指向性利得をGDθ(θ,φ)、GDφ(θ,φ)とすると、次式(5)が成立する。なお、前記したように、θとφの関数であることを示す(θ,φ)の記載は省略する。
【0028】
θ+Gφ=ηr ・Lm(GDθ+GDφ) ……(5)
【0029】
また、指向性利得については、
∫∫(GDθ+GDφ)sinθdθdφ=4π ……(6)
が成立する。
【0030】
したがって、式(4)は、
(1/Ps)∫∫(Gθ+Gφ)sinθdθdφ
=(1/Ps)ηr ・Lm∫∫(GDθ+GDφ) sinθdθdφ
=(1/Ps)ηr ・Lm・4π
となり、これを式(3)に代入すれば、
TIS=Ps/(ηr ・Lm) ……(7)
が得られる。
【0031】
上式(7)において、被測定物の自由空間中における不整合損失Lmを既知とすると、TISの測定は、被測定物の受信アンテナの放射効率ηrを測定することで得られ、その放射効率ηr は、後述する楕円球型の結合器を用いることで短時間に測定することができる。
【0032】
次に、楕円球型の結合器を用いてTISを測定する方法について説明する。
図1は測定系を示す図であり、結合器21は、楕円をその長軸を中心に回転させて得られる楕円球状の閉空間12を囲む壁面11をもち、その壁面11が電磁波を反射する金属によって形成されている。
【0033】
この結合器21は、それを形成する楕円の一方の焦点F1から放射されて内壁で反射した電波が、同一長の経路を経て他方の焦点F2に集まるという楕円の幾何学的性質を用いたものであり、焦点位置からみて全方位からの電波がほぼ同位相で集約される、つまり全方位からの電波が積分された状態を模擬することができる。
【0034】
図1に示した測定系の場合、ビット誤り率(以下、BERと記す)を測定するためにデータ信号で変調された測定信号を送信機2から結合器21の一方の焦点F1に放射中心をもつ送信アンテナ3にケーブルを介して供給する。このとき送信側の反射係数Γ(被測定物1を測定する場合の反射係数)は既知とする(予め測定しておく)。
【0035】
また、結合器21の他方の焦点F2には、携帯端末のような被測定物1のアンテナ部分を位置させ、その受信信号出力を結合器外部のBER測定器5にケーブルを介して入力する。
【0036】
ここで、予め送信アンテナ3と被測定物1の位置を例えば楕円軸に沿って微調整して、感度最大となるようにしてから、送信機2から測定信号を供給しBER測定を行う。
【0037】
そして、測定信号の供給電力を下げていき、BERが規定値に達した時の電力をしきい値電力Pthとして求める。
【0038】
このしきい値電力Pthと受信電力Psとの関係は、次のように表される。
Pth・Lc・ηt ・Lm・(1−|Γ|)C・ηr =Ps ……(8)
ここで、Lcは送信側ケーブル損失、ηt は送信アンテナ効率、Cは結合器損失であり、これらは後述の校正系と共通に用いられるパラメータで、演算により除去されるため、既知である必要はない。また、ηr
は被測定物のアンテナ放射効率である。
【0039】
一方、図2に示す校正系では、送信機2から電力Pc′の無変調のキャリア信号を送信アンテナ3に供給し、その出力を基準受信アンテナ6で受信し、その受信電力を電力測定器7によって測定する。なお、このシステムではデータ変調の必要がないので送信機2の代わりにSGを用いることもできる。
【0040】
この校正系では、送信アンテナ3と基準受信アンテナ6の位置を、例えば楕円軸の中心に対して対称に軸に沿って移動させて最大受信電力Pr′となるように設定する。
【0041】
この状態で、送信電力P′と最大受信電力P′との間には次の関係が成立する。
Pc′・Lc・ηt
・(1−|Γ′|)C・ηr′=Pr′ ……(9)
ここで、Γ′は基準受信アンテナ6を測定する場合の送信側の反射係数、ηr′は基準受信アンテナ6の放射効率であり、共に既知とする。
【0042】
式(8)、(9)の除算により、次の結果が得られる。
TIS
=Ps/(ηr ・Lm)
=[Pth(1−|Γ|)Pr′]/[Pc′(1−|Γ′|)ηr′・Lm]
……(10)
【0043】
このように、被測定物1のTISは、式(10)の各既知の値により算出することができる。
【0044】
つまり、図3のフローチャートに示すように、楕円球型の結合器21を用いた測定系で、予め、一定の送信電力において受信電力が最大となるように送信アンテナ3と被測定物1の位置の微調整を行う(S1、S2)。なお、この受信電力が最大になることについての把握は、例えば被測定物1の受信信号レベルを示すデータの出力機能を用いたり、あるいは送信電力の増減変化に追従してBERの値が変化するような比較的低い送信電力に設定し、BERが最小となる(即ち受信電力最大となる)ように位置調整を行う方法が考えられる。
【0045】
上記位置の微調整の後、BERを監視しながら測定信号の供給電力を下げ、BERが規定値となった時のしきい値電力Pthを求めて記憶する(S3〜S5)。
【0046】
そして、前記した校正系にセットして、送信側の供給電力をPc′とし、送信アンテナ3と基準受信アンテナ6の位置を微調整して、受信電力を最大Pr′とする(S6、S7)。
【0047】
上記処理により、式(10)の演算に必要な各電力値Pth、Pc′、Pr′が実測され、その他のパラメータ(Γ、Γ′、ηr′、Lm)が既知となっていれば、被測定物1のTISを算出することができる(S8)。
【0048】
なお、上記処理のうち校正系の処理S6、S7は、使用する送信アンテナ3、基準受信アンテナ6等の構成要素に変化がなければいつ行ってもよく、その結果得られた送信電力Pc′と受信最大電力Pr′をメモリ(図示せず)に記憶しておき、測定系で得られた電力値とともに用いてTISを算出すればよい。
【0049】
次に、上記方法を用いたTIS測定装置の実施形態を説明する。
【0050】
図4は、上記測定方法に基づいたTIS測定装置20の全体構成を示している。
このTIS測定装置20は、前記した結合器21、送信機2、送信アンテナ3、BER測定器5、測定定制御部190を有している。なお、ここでは、校正系で得られたデータは測定定制御部190に予め記憶されているものとする。
【0051】
結合器21には、楕円球状の閉空間12を囲む壁面11と、その閉空間12内の一方の焦点F1の位置に送信アンテナ11のほぼ放射中心位置がくるように支持する手段と、他方の焦点F2の位置に被測定物1のアンテナ部(あるいは前記した基準受信アンテナ6)の放射中心がくるように支持する手段とが設けられている。また、被測定物1、受信基準アンテナ6の出し入れができるように、閉空間12を開閉できる構造が必要である。
【0052】
図5〜図7は、その具体例を示すものであり、結合器21は、下ケース22と上ケース23とに別れた開閉式で、下ケース22の上板22aには、楕円状の穴(図示せず)が形成され、その穴に前記した楕円球状の閉空間12の下半部の外周形状に沿った形状の内壁25aを有する第1の内壁形成体25が取り付けられている。
【0053】
第1の内壁形成体25は、電波を反射する金属板、金属メッシュ板のプレス加工、あるいは合成樹脂の成形品の内壁に金属膜を設ける等して形成され、その上縁には、僅かに外側へ延びて前記穴の外縁と重なるフランジ26が延設されており、この第1の内壁形成体25は、フランジ26部分が下ケース22の上板22aに固定されている。
【0054】
一方、上ケース23の下板23aにも、楕円形の穴(図示せず)が設けられ、この穴に、第2の内壁形成体30が装着されている。
【0055】
第2の内壁形成体30は、第1の内壁形成体25と対称な形状を有している。即ち、前記した楕円球状の閉空間12の上半部の外周形状に沿った形状の内壁30aを有し、その開口側の縁部には、僅かに外側へ延びて上ケース23の前記穴の外縁と重なるフランジ31が延設され、このフランジ31部分が下板23aに固定されている。
【0056】
上ケース23は、下ケース22に対して図示しないヒンジ機構とロック機構などにより開閉自在に連結されており、上ケース23を下ケース22に重なるように閉じてロックしたとき、図5のように、第1の内壁形成体25のフランジ26と第2の内壁形成体30のフランジ31が全体的に隙間なく面接触して、それぞれの内壁25a、30aが連続して、前記した壁面11で囲まれた楕円球状の閉空間12が形成される。
【0057】
なお、下ケース22と上ケース23には、閉じたときに、上下の内壁形成体25、30がずれない状態で重なり合うようにするための位置決め機構(例えば図のようにガイドピン40とそれを受け入れるガイド穴41)が形成されている。
【0058】
また、例えば、図6の(a)のように、一方の内壁形成体30の開口側の内縁のほぼ全周に渡って弾性リブ45を突設させることで、図6の(b)のように他方の内壁形成体25と合わせられたときに、その弾性リブ45を内壁形成体25の開口側の内縁全周に接触させて、内壁形成体25、30のフランジ26、31の接触部を覆い、その接触部に隙間が生じた場合の電波の漏洩等などを低減することができる。
【0059】
また、ここでは、下ケース22の上板22aと第1の内壁形成体25、上ケース23の下板23aと第2の内壁形成板30とがそれぞれ別体になっている例を示しているが、下ケース22の上板22aと第1の内壁形成体25、および上ケース23の下板23aと第2の内壁形成板30と上板22とを同一材料で一体に形成してもよい。また、ここでは第1の内壁形成体25および第2の内壁形成体30の外周形状を半楕円外周形状にしているが、内壁25a、30aが前記した楕円球に沿っていればよく、外側の形状は任意である。
【0060】
図4、図5、図7に示しているように、第1の内壁形成体25の開口面上の前記焦点F1の近傍位置には、前記した閉空間12内で送信アンテナ3を支持するための送信側支持部50が設けられ、焦点F2の近傍位置には、被測定物1や基準受信アンテナ6を支持するための受信側支持部55が設けられている。
【0061】
送信側支持部50は、送信アンテナ3の放射中心が焦点F1の位置にほぼ一致する状態を基準位置とし、それらを焦点F1、F2を結ぶ軸に沿って一定距離(例えば中心波長λに対して±λ/4)移動できる状態で支持するものであり、焦点F1、F2を結ぶ軸に沿って移動可能で送信アンテナ3を支持する支持板51と、支持板51の下降を防ぐ基台53および後述するスライド駆動装置180により構成されている。なお、これらの各構成部材のうち、結合器21内部に配置されたものは、電波に対する透過率が高い(比誘電率が1に近い)合成樹脂材により形成されている。
【0062】
この支持板51の外側端部には内壁形成体25を貫通摺動する軸部51aが突設され、その軸部51aは、内壁形成体25の外側に固定されたスライド移動装置180に保持されている。
【0063】
スライド移動装置180は、例えば断面凹状に形成され、その中央の溝部で支持板51の軸部51aを摺動自在に保持でき、内部に設けられた駆動源(例えばモータ)の駆動制御により、支持板51を軸に沿った方向にスライド移動させる。
【0064】
なお、信号給電用の同軸ケーブル162は、例えば支持板51の軸部51aの内部に貫通する穴を通過している。
【0065】
また、受信側支持部55も送信側支持部51と同様に、電波に対する透過率が高い合成樹脂材により形成された支持板56と、支持板56の下降を防ぐ基台57、支持板56の上に被測定物1や基準受信アンテナ6を固定する固定具58およびスライド移動装置181により構成されている。固定具58は、例えば電波伝搬に影響を与えない伸縮自在なバンドで、被測定物1や基準受信アンテナ6を支持板56の上の所定位置に固定させる。
【0066】
この支持板56にも、その外側端部に内壁形成体25を貫通摺動する軸部56aが突設され、その軸部56aは、内壁形成体25の外側に固定されたスライド移動装置181に係合保持されている。
【0067】
スライド移動装置181は、スライド移動装置181と同様に構成され、断面凹状に形成されていて、その中央の溝部で支持板56の軸部56aを摺動自在に保持でき、内部に設けられた駆動源(例えばモータ)の駆動制御により、支持板56を軸に沿った方向にスライド移動させる。
【0068】
なお、ここでは、二つのスライド移動装置180、181によってアンテナ間隔を連続的に変化できるようになっているが、例えば、λ/8ステップで離散的に変化させてもよく、自動制御だけでなく手動で位置を変えられるようにしてもよい。
【0069】
また、受信側支持部55においても、被測定物1の信号出力コードや基準受信アンテナ6のケーブルを外部に引き出すことができるように例えば支持板56の軸部56aの内部に貫通する穴が形成されている。
【0070】
この被測定物1の出力信号は、ケーブル16を介して結合器21の外部に出力され、BER測定器5に接続される。
【0071】
そして、測定制御部190は、測定系において、送信機2の出力レベルを制御し、BERの値を監視し、しきい値電力Pthを求め、予め校正系で得られている他の電力値Pc′、Pr′と、既知のパラメータ(Γ、Γ′、ηr′、Lm)とに基づいて、式(10)にしたがって被測定物1のTISを算出する。
【0072】
より具体的にいえば、測定制御部190は、図4に示しているように、しきい値電力測定手段191およびTIS算出手段192を有している。
【0073】
前記図3のフローチャートに示したように、しきい値電力測定手段191は、測定系において、スライド移動装置180、181の制御で位置調整を行ってから、BERが規定値となる測定信号のしきい値電力Pthを求める。
【0074】
また、TIS算出手段192は、その測定されたしきい値電力Pthと、他の電力値を含む既知のパラメータを用いて式(10)にしたがって、TISを算出する。
【0075】
なお、図3のフローチャートの校正系の処理(S6、S7)も、測定制御部190が自動で行うようにしてもよい。
【0076】
このように実施形態のTIS測定装置20は、楕円球型の結合器21を用い、その一方の焦点位置から放射された電波を他方の焦点位置に集合させてあたかも全方位について電波を積分した状態と同等にして得られたしきい値電力に基づいて、被測定物のTISを求めているので、従来のような3D積分方式に比べて格段に短時間にTISを求めることができる。
【符号の説明】
【0077】
1……被測定物、2……送信機、3……送信アンテナ、5……BER測定器、6……基準受信アンテナ、7……電力測定器、11……壁面、12……閉空間、20……TIS測定装置、21……結合器、22……下ケース、23……上ケース、25……第1の内壁形成体、26……フランジ、30……第2の内壁形成体、50……送信側支持部、55……受信側支持部、100……送信機、110……受信機、111……受信アンテナ、180、181……スライド移動装置、190……測定制御部、191……しきい値電力測定手段、192……TIS算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楕円をその2つの焦点を通る軸を中心に回転して得られる楕円球状で金属の壁面で囲まれた閉空間の一方の焦点の近傍に送信アンテナ(3)を配置し、他方の焦点の近傍に被測定物(1)を配置して、前記送信アンテナから出力された信号が前記被測定物に最大感度で受信されるように前記送信アンテナと前記被測定物の位置を調整する段階と、
前記送信アンテナに対して前記被測定物が受信可能なビット誤り率測定用の測定信号を供給するとともに、該測定信号を受信した前記被測定物の復調データ信号のビット誤り率を測定できる状態にして前記測定信号の供給電力を変化させ、該ビット誤り率が規定値に達するときの前記測定信号の供給電力をしきい値電力Pthとして求める段階と、
前記求めたしきい値電力に基づいて被測定物のTISを算出する段階とを含むことを特徴とするTIS測定方法。
【請求項2】
前記被測定物の代わりに基準受信アンテナを用い、該基準受信アンテナの受信電力が最大となるように、前記送信アンテナと基準受信アンテナの位置を調整したときの前記送信アンテナへの信号供給電力Pc′と受信最大電力Pr′を求める段階を含み、
前記求めた各電力値Pth、Pc′、Pr′に基づいて、被測定物のTISを算出することを特徴とする請求項1記載のTIS測定方法。
【請求項3】
前記求めた各電力値Pth、Pc′、P′と、前記被測定物を測定したときの前記送信アンテナの反射係数Γ、前記基準受信アンテナを測定したときの前記送信アンテナの反射係数Γ′、前記基準受信アンテナの既知の放射効率ηr′、前記被測定物の自由空間中における既知の不整合損失Lmとを用い、次式、
TIS
=[Pth(1−|Γ|)P′]/[P′(1−|Γ′|)ηr′・Lm]
にしたがって被測定物のTISを算出することを特徴とする請求項2記載のTIS測定方法。
【請求項4】
楕円をその2つの焦点を通る軸を中心に回転して得られる楕円球状で、金属の壁面で囲まれた閉空間を有し、送信アンテナ3を一方の焦点の近傍位置に支持し、被測定物(1)を他方の焦点の近傍位置に支持する支持手段(50、55)を含む結合器(21)と、
前記送信アンテナに前記被測定物が受信可能な測定信号を供給する送信機(2)と、
前記測定信号を受信した被測定物の復調データを受けて、そのビット誤り率を測定するビット誤り率測定器(5)と、
前記送信アンテナから出力された信号が前記被測定物に最大感度で受信されるように前記送信アンテナと前記被測定物の位置が調整された状態で、前記送信機が供給する測定信号の電力を変化させて、前記ビット誤り率測定器によって測定されるビット誤り率が規定値に達したときの供給電力をしきい値電力Pthとして求めるしきい値電力測定手段(191)と、
前記しきい値電力測定手段によって得られたしきい値電力に基づいて被測定物のTISを算出するTIS算出手段(192)とを有していることを特徴とするTIS測定装置。
【請求項5】
前記被測定物の代わりに基準受信アンテナを用い、該基準受信アンテナの受信電力が最大となるように、前記送信アンテナと基準受信アンテナの位置を調整したときの前記送信機の信号供給電力Pc′と受信最大電力Pr′を予め記憶する手段を有し、
前記TIS算出手段は、前記しきい値電力、信号供給電力Pc′、受信最大電力Pr′に基づいて、被測定物のTISを算出することを特徴とする請求項4載のTIS測定装置。
【請求項6】
前記TIS算出手段は、
前記しきい値電力、信号供給電力Pc′、受信最大電力Pr′、前記被測定物を測定したときの前記送信アンテナの反射係数Γ、前記基準受信アンテナを測定したときの前記送信アンテナの反射係数Γ′、前記基準受信アンテナの既知の放射効率ηr′、前記被測定物の自由空間中における既知の不整合損失Lmとを用い、次式、
TIS
=[Pth(1−|Γ|)P′]/[P′(1−|Γ′|)ηr′・Lm]
にしたがって、被測定物のTISを算出することを特徴とする請求項5載のTIS測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−90049(P2012−90049A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234631(P2010−234631)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、総務省、電波資源拡大のための委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】