説明

TN液晶表示装置

【課題】セルロースエステルフイルムの厚み方向のレターデーション値(Rth)と面内のレターデーション値(Re)との関係を調整する。
【解決手段】ソルベントキャスト法の乾燥工程において、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度以上の温度となる場合は機械方向には実質的に延伸しないことを条件にして、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い温度となる場合は残留溶媒量が5乃至3重量%の状態であることを条件にして、機械方向に垂直な方向に0.1乃至20%延伸してセルロースエステルフイルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルフイルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、液晶セル、偏光素子および光学補償シート(位相差板)からなる。透過型液晶表示装置では、二枚の偏光素子を液晶セルの両側に取り付け、一枚または二枚の光学補償シートを液晶セルと偏光素子との間に配置する。反射型液晶表示装置では、反射板、液晶セル、一枚の光学補償シート、そして一枚の偏光素子の順に配置する。
液晶セルは、棒状液晶性分子、それを封入するための二枚の基板および棒状液晶性分子に電圧を加えるための電極層からなる。液晶セルは、棒状液晶性分子の配向状態の違いで、透過型については、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、反射型については、HAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。
偏光素子は、一般に、偏光膜の両側に二枚の透明保護膜を取り付けた構成を有する。
【0003】
光学補償シートは、画像着色を解消するため、あるいは視野角を拡大するために、様々な液晶表示装置で用いられている。光学補償シートとしては、延伸複屈折フイルムが従来から使用されていた。
延伸複屈折フイルムからなる光学補償シートに代えて、透明支持体上に液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)から形成された光学異方性層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。光学異方性層は、液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定することにより形成する。一般に、重合性基を有する液晶性分子を用いて、重合反応によって配向状態を固定する。液晶性分子は、大きな複屈折率を有する。そして、液晶性分子には、多様な配向形態がある。液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折フイルムでは得ることができない光学的性質を実現することが可能になった。
【0004】
光学補償シートの光学的性質は、液晶セルの光学的性質、具体的には上記のような表示モードの違いに応じて決定する。液晶性分子、特にディスコティック液晶性分子を用いると、液晶セルの様々な表示モードに対応する様々な光学的性質を有する光学補償シートを製造することができる。
ディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートでは、様々な表示モードに対応するものが既に提案されている。例えば、TNモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献1〜4に記載がある。また、IPSモードまたはFLCモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献5に記載がある。さらに、OCBモードまたはHANモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献6および7に記載がある。さらにまた、STNモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献8に記載がある。そして、VAモードの液晶セル用光学補償シートは、特許文献9に記載がある。
【0005】
液晶性分子には様々な配向形態があるが、液晶性分子の光学異方性のみでは、液晶セルを充分に光学的に補償できない場合もある。そのような場合には、光学補償シートの透明支持体を光学異方性にして、液晶性分子の光学異方性と共に液晶セルを光学的に補償する方法が提案されている(特許文献3記載)。光学異方性透明支持体としては、具体的には合成ポリマーの延伸フイルムが用いられている。
光学異方性支持体として従来から用いられている合成ポリマー延伸フイルムは、支持体としての機能に問題がある。また、合成ポリマー延伸フイルムを透明支持体として用いると、光学補償シートと偏光板を一体化した楕円偏光板を製造することも難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−214116号公報
【特許文献2】米国特許5583679号明細書
【特許文献3】米国特許5646703号明細書
【特許文献4】独国特許発明第3911620A1号明細書
【特許文献5】特開平10−54982号公報
【特許文献6】米国特許5805253号明細書
【特許文献7】国際公開第96/37804号パンフレット
【特許文献8】特開平9−26572号公報
【特許文献9】特許第2866372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
欧州特許0911656号明細書には、厚み方向のレターデーション値が高い(70乃至400nmの)セルロースエステルフイルムを透明支持体として用いた光学補償シートが開示されている。
セルロースエステルフイルムは、支持体としての機能が優れている。また、セルロースエステルフイルムを透明支持体として用いると、光学補償シートと偏光板を一体化した楕円偏光板を製造することも容易である。ただし、従来のセルロースエステルフイルムは、高い光学的等方性を有する(レターデーション値が低い)ことを特徴としていた。
上記欧州特許0911656号明細書に記載の発明は、セルロースエステルフイルムのレターデーション値を高くする手段を開示して、セルロースエステルフイルムを光学異方性透明支持体として使用することを可能にしている。同明細書は、レターデーション値を高くする手段として、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物(レターデーション上昇剤)の使用が開示されている。
【0008】
レターデーション上昇剤の使用により、レターデーションが高いセルロースエステルフイルムを製造することが可能になった。ただし、レターデーション上昇剤は、厚み方向のレターデーション値(Rth)に加えて、面内のレターデーション値(Re)も上昇させる。そのため、レターデーション上昇剤のみでは、厚み方向のレターデーション値(Rth)と面内のレターデーション値(Re)との関係を任意に調整することが困難であった。
本発明の目的は、厚み方向のレターデーション値(Rth)と面内のレターデーション値(Re)との関係が調整されたセルロースエステルフイルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、下記(1)〜(8)のセルロースエステルフイルムの製造方法により達成された。
(1)ソルベントキャスト法により、セルロースエステルフイルムを製造する方法であって、ソルベントキャスト法の乾燥工程において、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度以上の温度となる場合は機械方向には実質的に延伸しないことを条件にして、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い温度となる場合は残留溶媒量が5乃至3重量%の状態であることを条件にして、機械方向に垂直な方向に0.1乃至20%延伸して製造することを特徴とするセルロースエステルフイルムの製造方法。
(2)製造されるセルロースエステルフイルムの機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mmであり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mmであり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36である(1)に記載の製造方法。
(3)製造されるセルロースエステルフイルムの面内のレターデーション値が−50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmである(1)に記載の製造方法。
(4)機械方向に垂直な方向の延伸率/剥ぎ取り時に機械方向に延伸されることを加えた機械方向の延伸率の比が、0.70乃至8.0となるように延伸する(1)に記載の製造方法。
【0010】
(5)セルロースエステルフイルムが、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.01乃至20重量%含む(1)に記載の製造方法。
(6)製造されるセルロースエステルフイルムが光学的に負の一軸性であり、光軸がフイルム面の法線と実質的に平行である(1)に記載の製造方法。
(7)セルロースエステルがセルロースアセテートである(1)に記載の製造方法。
(8)ソルベントキャスト法に用いるセルロースエステル溶液の溶媒が、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる(1)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明者の研究により、セルロースエステルフイルムの機械方向の引張弾性率と機械方向に垂直な方向(横方向)の引張弾性率とを調整することにより、セルロースエステルフイルムの面内のレターデーション値(Re)を制御できることが判明した。具体的には、横方向の引張弾性率を通常よりも大きな値とするか、機械方向の引張弾性率を通常よりも小さな値にすると(言い換えると横方向の引張弾性率と機械方向の引張弾性率を近い値にすると)、厚み方向のレターデーション値(Rth)が比較的高いが、面内のレターデーション値(Re)が比較的低いセルロースエステルフイルムが得られる。
引張弾性率は、セルロースエステルフイルムの製造時の延伸処理で容易に調整できる。(通常の方法では実施しない)横方向の延伸処理を実施すると、横方向の引張弾性率を通常よりも大きな値にすることができる。また、(通常の方法では特に延伸処理を実施しなくても、フイルムの巻き取り処理のような製造工程の都合で延伸されてしまう)縦方向の延伸を抑制すると、縦方向の引張弾性率を通常よりも小さな値にすることができる。
延伸処理とレターデーション上昇剤とを併用すれば、厚み方向のレターデーション値(Rth)と面内のレターデーション値(Re)とを任意に調整したセルロースエステルフイルムを得ることも可能である。
本発明のセルロースエステルフイルムは、レターデーションが高く、支持体としての機能が優れており、光学補償シートの光学異方性透明支持体として有利に用いることができる。さらに、このセルロースエステルフイルムは、偏光膜の保護機能も優れており、一体型楕円偏光板の光学異方性透明支持体としても有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】透過型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
【図2】反射型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、透過型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
図1の(a)に示す透過型液晶表示装置は、バックライト(BL)側から順に、透明保護膜(1a)、偏光膜(2a)、透明支持体(3a)、光学異方性層(4a)、液晶セルの下基板(5a)、棒状液晶性分子からなる液晶層(6)、液晶セルの上基板(5b)、光学異方性層(4b)、透明支持体(3b)、偏光膜(2b)、そして透明保護膜(1b)からなる。
透明支持体(3a)〜光学異方性層(4a)および光学異方性層(4b)〜透明支持体(3b)が、二枚の光学補償シートを構成している。
また、透明保護膜(1a)〜光学異方性層(4a)および光学異方性層(4b)〜透明保護膜(1b)が、二枚の楕円偏光板を構成している。
本発明のセルロースエステルフイルムは、透明支持体(3a、3b)として用いることができる。なお、本発明のセルロースエステルフイルムは、レターデーションが高く光学異方性を有しているため、光学補償シートまたは楕円偏光板から光学異方性層(4a、4b)を削除して、透明支持体(3a、3b)の光学異方性のみで液晶セルを光学的に補償することも可能である。
【0014】
図1の(b)に示す透過型液晶表示装置は、バックライト(BL)側から順に、透明保護膜(1a)、偏光膜(2a)、透明支持体(3a)、光学異方性層(4a)、液晶セルの下基板(5a)、棒状液晶性分子からなる液晶層(6)、液晶セルの上基板(5b)、透明保護膜(1b)、偏光膜(2b)、そして透明保護膜(1c)からなる。
透明支持体(3a)〜光学異方性層(4a)が、光学補償シートを構成している。
また、透明保護膜(1a)〜光学異方性層(4a)が、楕円偏光板を構成している。
本発明のセルロースエステルフイルムは、透明支持体(3a)として用いることができる。なお、本発明のセルロースエステルフイルムは、レターデーションが高く光学異方性を有しているため、光学補償シートまたは楕円偏光板から光学異方性層(4a)を削除して、透明支持体(3a)の光学異方性のみで液晶セルを光学的に補償することも可能である。
【0015】
図1の(c)に示す透過型液晶表示装置は、バックライト(BL)側から順に、透明保護膜(1a)、偏光膜(2a)、透明保護膜(1b)、液晶セルの下基板(5a)、棒状液晶性分子からなる液晶層(6)、液晶セルの上基板(5b)、光学異方性層(4b)、透明支持体(3b)、偏光膜(2b)、そして透明保護膜(1c)からなる。
光学異方性層(4b)〜透明支持体(3b)が、光学補償シートを構成している。
また、光学異方性層(4b)〜透明保護膜(1c)が、楕円偏光板を構成している。
本発明のセルロースエステルフイルムは、透明支持体(3b)として用いることができる。なお、本発明のセルロースエステルフイルムは、レターデーションが高く光学異方性を有しているため、光学補償シートまたは楕円偏光板から光学異方性層(4b)を削除して、透明支持体(3b)の光学異方性のみで液晶セルを光学的に補償することも可能である。
【0016】
図2は、反射型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
図2に示す反射型液晶表示装置は、反射板(RP)側から順に、液晶セルの下基板(5a)、棒状液晶性分子からなる液晶層(6)、液晶セルの上基板(5b)、光学異方性層(4b)、透明支持体(3b)、偏光膜(2b)、そして透明保護膜(1b)からなる。
光学異方性層(4b)〜透明支持体(3b)が、光学補償シートを構成している。
また、光学異方性層(4b)〜透明保護膜(1b)が、楕円偏光板を構成している。
本発明のセルロースエステルフイルムは、透明支持体(3b)として用いることができる。なお、本発明のセルロースエステルフイルムは、レターデーションが高く光学異方性を有しているため、光学補償シートまたは楕円偏光板から光学異方性層(4b)を削除して、透明支持体(3b)の光学異方性のみで液晶セルを光学的に補償することも可能である。
【0017】
[セルロースエステルフイルム]
本発明では、セルロースエステルフイルムの機械方向の引張弾性率を360乃至480kgf/mmとする。機械方向の引張弾性率は、380乃至460kgf/mmであることが好ましく、400乃至440kgf/mmであることがさらに好ましい。
また、本発明では、セルロースエステルフイルムの機械方向に垂直な方向(横方向)の引張弾性率を260乃至440kgf/mmとする。横方向の引張弾性率は、280乃至420であることが好ましく、300乃至400kgf/mmであることがさらに好ましい。
さらに、本発明では、セルロースエステルフイルムの機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向(横方向)の引張弾性率の比を0.80乃至1.36とする。機械方向の引張弾性率/横方向の引張弾性率の比は、0.84乃至1.32であることが好ましく、0.88乃至1.28であることがさらに好ましい。
【0018】
セルロースエステルフイルムの厚さは、20乃至500μmであることが好ましく、50乃至200μmであることがさらに好ましい。
セルロースエステルフイルムは、光学的には負の一軸性であり、光軸がフイルム面の法線と実質的に平行であることが好ましい。
セルロースエステルフイルムの厚み方向のレターデーション値(Rth)は、60乃至1000nmであることが好ましい。
また、セルロースエステルフイルムの面内のレターデーション値(Re)は、−50乃至50nmであることが好ましく、−20乃至20nmであることがさらに好ましい。
厚み方向のレターデーション値は、厚み方向の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値である。面内のレターデーション値は、面内の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値である。具体的な値は、測定光の入射方向をフイルム膜面に対して鉛直方向として、遅相軸を基準とする面内レターデーションの測定結果と、入射方向をフイルム膜面に対する鉛直方向に対して傾斜させた測定結果から外挿して求める。測定は、エリプソメーター(例えば、M−150:日本分光(株)製)を用いて実施できる。測定波長としては、550nmを採用する。
厚み方向のレターデーション値(Rth)および面内のレターデーション値(Re)は、下記に従って算出する。
厚み方向のレターデーション値(Rth)={(nx+ny)/2−nz}×d
面内のレターデーション値(Re)=(nx−ny)×d
式中、nxはフイルム平面内の機械方向の屈折率であり、nyはフイルム平面内の機械方向に垂直な方向(横方向)の屈折率であり、nzはフイルム面に垂直な方向の屈折率であり、そしてdはフイルムの厚み(nm)である。
【0019】
なお、厚み方向の複屈折率{(nx+ny)/2−nz}は、7×10-4乃至4×10-3であることが好ましく、1×10-3乃至4×10-3であることがより好ましく、1.5×10-3乃至4×10-3であることがさらに好ましく、2×10-3乃至4×10-3であることがさらにまた好ましく、2×10-3乃至3×10-3であることが最も好ましく、2×10-3乃至2.5×10-3であることが特に好ましい。
以上の引張弾性率および光学的性質を有するセルロースエステルフイルムは、以下のように製造することができる。
【0020】
セルロースエステルとしては、セルロースの低級脂肪酸エステルを用いることが好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルロースアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
セルロースアセテートの平均酢化度(アセチル化度)は、55.0%以上62.5%未満であることが好ましい。フイルムの物性の観点では、平均酢化度は、58.0%以上62.5%未満であることがさらに好ましい。ただし、平均酢化度が55.0%以上58.0%未満(好ましくは57.0%以上58.0%未満)であるセルロースアセテートを用いると、厚み方向のレターデーションが高いフイルムを製造することができる。
【0021】
ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフイルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースエステルを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムを製造する。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0022】
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0023】
一般的な方法でセルロースエステル溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースエステルの量は、得られる溶液中に10乃至40重量%含まれるように調整する。セルロースエステルの量は、10乃至30重量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースエステルと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースエステルと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
【0024】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0025】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒(ハロゲン化炭化水素以外の有機溶媒)中にも、セルロースエステルを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースエステルを溶解できる溶媒(例えば、ハロゲン化炭化水素)であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。また、冷却溶解法を用いると、製造するセルロースエステルフイルムのレターデーションが高い値になる。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースエステルを撹拌しながら徐々に添加する。
セルロースエステルの量は、この混合物中に10乃至40重量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースエステルの量は、10乃至30重量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0026】
次に、混合物を−100乃至−10℃(好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30乃至−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースエステルと有機溶媒の混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0027】
さらに、これを0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースエステルが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよいし、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0028】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20重量%の溶液は、示差走査熱量測定(D
SC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの平均酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0029】
調製したセルロースエステル溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースエステルフイルムを製造する。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延した後2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。本発明に従い調製した溶液(ドープ)は、この条件を満足する。
なお、この乾燥工程と同時に後述する延伸処理を実施することもできる。
【0030】
セルロースエステルフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1乃至25重量%であることが好ましく、1乃至20重量%であることがさらに好ましく、3乃至15重量%であることが最も好ましい。
【0031】
セルロースエステルフイルムには、後述するレターデーション上昇剤、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)や紫外線防止剤を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1重量%であることが好ましく、0.01乃至0.2重量%であることがさらに
好ましい。添加量が0.01重量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1重量%を越えると、フイルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を挙げることができる。紫外線防止剤については、特開平7−11056号公報に記載がある。
なお、平均酢化度が55.0乃至58.0%であるセルロースアセテートは、平均酢化度が58.0%以上であるセルローストリアセテートと比較して、調製した溶液の安定性や製造したフイルムの物性が劣るとの欠点がある。しかし、上記のような劣化防止剤、特にブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)のような酸化防止剤を用いることで、この欠点を実質的に解消することが可能である。
【0032】
[セルロースエステルフイルムの延伸処理]
前述したソルベントキャスト法の乾燥工程において、セルロースエステルフイルムの残留溶媒量が5乃至3重量%の状態で、機械方向に垂直な方向に0.1乃至20%延伸することが好ましい。
ただし、フイルムの乾燥工程において、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度以上の温度となる状態では、機械方向には実質的に延伸しない(延伸率0乃至0.1%とする)ことが好ましい。言い換えると、上記の0.1乃至20%延伸の延伸処理は、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い温度で実施することが好ましい。そのためには、セルロースエステルフイルムの残留溶媒量が5乃至3重量%の状態では、フイルムの温度をセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い温度まで低下させる。
機械方向に垂直な方向(横方向)の延伸率/機械方向の延伸率の比は、0.70乃至8.0であることが好ましく、0.7乃至6.0であることがさらに好ましい。上記の延伸率比を得るためには、セルロースエステルフイルムに横方向の延伸処理を実施することが好ましい。
横方向の延伸処理は、ピンテンターを用いてロール状フイルムの巾を規制しながらフイルムを乾燥することにより実施できる。ピンテンターを用いる横方向の延伸処理については、特開昭61−158413号、同61−158414号および特開平4−1009号の各公報に記載がある。
【0033】
[レターデーション上昇剤]
セルロースエステルフイルムには、レターデーション上昇剤を添加することが好ましい。レターデーション上昇剤としては、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を使用できる。レターデーション上昇剤は、セルロースエステル100重量部に対して、0.01乃至20重量部の範囲で使用することが好ましい。
少なくとも二つの芳香族環を有する化合物は、炭素原子7個分以上のπ結合性の平面を有する。二つの芳香族環の立体配座を立体障害しなければ、二つの芳香族環は、同一平面を形成する。本発明者の研究によれば、セルロースエステルフイルムのレターデーションを上昇させるためには、複数の芳香族環により同一平面を形成することが重要である。
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
【0034】
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましい。
【0035】
レターデーション上昇剤が有する芳香族環の数は、2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、2乃至6であることが最も好ましい。3以上の芳香族環を有する場合、少なくとも二つの芳香族環の立体配座を立体障害しなければよい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。レターデーション上昇機能の観点では、(a)〜(c)のいずれでもよい。ただし、(b)または(c)の場合は、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しないことが必要である。
【0036】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0037】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0038】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。ただし、置換基は、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しないことが必要である。立体障害では、置換基の種類および位置が問題になる。置換基の種類としては、立体的に嵩高い置換基(例えば、3級アルキル基)が立体障害を起こしやすい。置換基の位置としては、芳香族環の結合に隣接する位置(ベンゼン環の場合はオルト位)が置換された場合に、立体障害が生じやすい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、スルホ、カルバモイル、スルファモイル、ウレイド、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0039】
アルキル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチルおよび2−ジエチルアミノエチルが含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリルおよび1−ヘキセニルが含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニルおよび1−ヘキシニルが含まれる。
【0040】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイルおよびブタノイルが含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ、エトキシ、ブトキシおよびメトキシエトキシが含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルおよびエトキシカルボニルが含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノおよびエトキシカルボニルアミノが含まれる。
【0041】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオおよびオクチルチオが含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニルおよびエタンスルホニルが含まれる。
脂肪族アミド基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミドおよびn−オクタンスルホンアミドが含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノおよび2−カルボキシエチルアミノが含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイルおよびジエチルカルバモイルが含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイルおよびジエチルスルファモイルが含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイドが含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノおよびモルホリノが含まれる。
レターデーション上昇剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。レターデーション上昇剤の沸点は、260℃以上であることが好ましい。
【0042】
[セルロースエステルフイルムの表面処理]
セルロースエステルフイルムを透明支持体として使用する場合、セルロースエステルフイルムを表面処理することができる。表面処理としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理を実施する。
透明支持体と配向膜あるいは光学異方性層との接着を改善するためには、ゼラチン下塗り層を設けることが好ましい。ゼラチンの下塗り層の厚さは、0.01乃至1μmであることが好ましく、0.02乃至0.5μmであることがさらに好ましく、0.05乃至0.2μmであることが最も好ましい。
【0043】
[配向膜]
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で、設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。ポリマーのラビング処理により形成する配向膜が特に好ましい。ラビング処理は、ポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に、数回こすることにより実施する。
配向膜に使用するポリマーの種類は、液晶セルの表示モードの種類に応じて決定する。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に垂直に配向している表示モード(例、VA、OCB、HAN)では、光学異方性層の液晶性分子を実質的に水平に配向させる機能を有する配向膜を用いる。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に水平に配向している表示モード(例、STN)では、光学異方性層の液晶性分子を実質的に垂直に配向させる機能を有する配向膜を用いる。液晶セル内の棒状液晶性分子の多くが実質的に斜めに配向している表示モード(例、TN)では、光学異方性層の液晶性分子を実質的に斜めに配向させる機能を有する配向膜を用いる。
【0044】
具体的なポリマーの種類については、前述した様々な表示モードに対応するディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートについての文献に記載がある。
配向膜に使用するポリマーを架橋して、配向膜の強度を強化してもよい。配向膜に使用するポリマーに架橋性基を導入して、架橋性基を反応させることにより、ポリマーを架橋させることができる。なお、配向膜に使用するポリマーの架橋については、特開平8−338913号公報に記載がある。
配向膜の厚さは、0.01乃至5μmであることが好ましく、0.05乃至1μmであることがさらに好ましい。
なお、配向膜を用いて液晶性分子を配向させてから、その配向状態のまま液晶性分子を固定して光学異方性層を形成し、光学異方性層のみを支持体上に転写してもよい。配向状態で固定されたディスコティック液晶性分子は、配向膜がなくても配向状態を維持することができる。そのため、光学補償シートでは、配向膜は(ディスコティック液晶性分子を含む光学補償シートの製造において必須ではあるが)必須の要素ではない。
【0045】
[光学異方性層]
光学異方性層は、液晶性分子から形成する。
液晶性分子としては、棒状液晶性分子またはディスコティック液晶性分子が好ましく、ディスコティック液晶性分子が特に好ましい。
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性分子だけではなく、高分子液晶性分子も用いることができる。高分子液晶性分子は、以上のような低分子液晶性分子に相当する側鎖を有するポリマーである。高分子液晶性分子を用いた光学補償シートについては、特開平5−53016号公報に記載がある。
【0046】
ディスコティック液晶性分子は、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq.
Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))に記載されている。ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、ディスコティック液晶性分子は、下記式(I)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0047】
(I)
D(−L−P)n
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり;Pは重合性基であり;そして、nは4乃至12の整数である。
式(I)の円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LP(またはPL)は、二価の連結基(L)と重合性基(P)との組み合わせを意味する。
【0048】
【化1】

【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
【化6】

【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
式(I)において、二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−および−S−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた基であることがさらに好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−および−O−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた基であることが最も好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2乃至12であることが好ましい。アリーレン基の炭素原子数は、6乃至10であることが好ましい。アルキレン基、アルケニレン基およびアリーレン基は、置換基(例、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ、アルコキシ基、アシルオキシ基)を有していてもよい。
二価の連結基(L)の例を以下に示す。左側が円盤状コア(D)に結合し、右側が重合性基(P)に結合する。ALはアルキレン基またはアルケニレン基を意味し、ARはアリーレン基を意味する。
【0058】
L1:−AL−CO−O−AL−
L2:−AL−CO−O−AL−O−
L3:−AL−CO−O−AL−O−AL−
L4:−AL−CO−O−AL−O−CO−
L5:−CO−AR−O−AL−
L6:−CO−AR−O−AL−O−
L7:−CO−AR−O−AL−O−CO−
L8:−CO−NH−AL−
L9:−NH−AL−O−
L10:−NH−AL−O−CO−
L11:−O−AL−
L12:−O−AL−O−
【0059】
L13:−O−AL−O−CO−
L14:−O−AL−O−CO−NH−AL−
L15:−O−AL−S−AL−
L16:−O−CO−AL−AR−O−AL−O−CO−
L17:−O−CO−AR−O−AL−CO−
L18:−O−CO−AR−O−AL−O−CO−
L19:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−
L20:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−
L21:−S−AL−
L22:−S−AL−O−
L23:−S−AL−O−CO−
L24:−S−AL−S−AL−
L25:−S−AR−AL−
【0060】
なお、STNモードのような棒状液晶性分子がねじれ配向している液晶セルを、光学的に補償するためには、ディスコティック液晶性分子もねじれ配向させることが好ましい。上記AL(アルキレン基またはアルケニレン基)に、不斉炭素原子を導入すると、ディスコティック液晶性分子を螺旋状にねじれ配向させることができる。また、不斉炭素原子を含む光学活性を示す化合物(カイラル剤)を光学異方性層に添加しても、ディスコティック液晶性分子を螺旋状にねじれ配向させることができる。
【0061】
式(I)の重合性基(P)は、重合反応の種類に応じて決定する。重合性基(P)の例を以下に示す。
【0062】
【化10】

【0063】
【化11】

【0064】
【化12】

【0065】
【化13】

【0066】
【化14】

【0067】
【化15】

【0068】
重合性基(P)は、不飽和重合性基(P1、P2、P3、P7、P8、P15、P16、P17)またはエポキシ基(P6、P18)であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基(P1、P7、P8、P15、P16、P17)であることが最も好ましい。
式(I)において、nは4乃至12の整数である。具体的な数字は、ディスコティックコア(D)の種類に応じて決定される。なお、複数のLとPの組み合わせは、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0069】
二種類以上のディスコティック液晶性分子を併用してもよい。例えば、以上述べたような重合性ディスコティック液晶性分子と非重合性ディスコティック液晶性分子とを併用することができる。
非重合性ディスコティック液晶性分子は、前述した重合性ディスコティック液晶性分子の重合性基(P)を、水素原子またはアルキル基に変更した化合物であることが好ましい。すなわち、非重合性ディスコティック液晶性分子は、下記式(II)で表わされる化合物であることが好ましい。
(II)
D(−L−R)n
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり;Rは水素原子またはアルキル基であり;そして、nは4乃至12の整数である。
式(II)の円盤状コア(D)の例は、LP(またはPL)をLR(またはRL)に変更する以外は、前記の重合性ディスコティック液晶分子の例と同様である。
また、二価の連結基(L)の例も、前記の重合性ディスコティック液晶分子の例と同様である。
Rのアルキル基は、炭素原子数が1乃至40であることが好ましく、1乃至30であることがさらに好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも直鎖状アルキル基の方が好ましい。Rは、水素原子または炭素原子数が1乃至30の直鎖状アルキル基であることが特に好ましい。
【0070】
光学異方性層は、液晶性分子、あるいは下記の重合性開始剤や任意の添加剤(例、可塑剤、モノマー、界面活性剤、セルロースエステル、1,3,5−トリアジン化合物、カイラル剤)を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成する。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
塗布液の塗布は、公知の方法(例、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
【0071】
液晶性分子は、実質的に均一に配向していることが好ましく、実質的に均一に配向している状態で固定されていることがさらに好ましく、重合反応により液晶性分子が固定されていることが最も好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01乃至20重量%であることが好ましく、0.5乃至5重量%であることがさらに好ましい。
ディスコティック液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm乃至50J/cmであることが好ましく、100乃至800mJ/cmであることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0072】
光学異方性層の厚さは、一般には、0.1乃至10μmである。光学異方性層の厚さは、0.5乃至5μmであることが好ましく、1乃至5μmであることがさらに好ましい。ただし、液晶セルのモードによっては、高い光学異方性を得るために、光学異方性層を厚く(3乃至10μm)する場合がある。本発明者の研究によれば、0.5乃至5μmであることがさらに好ましく、1乃至5μmであることが最も好ましい。
光学異方性層内での液晶性分子の配向状態は、前述したように、液晶セルの表示モードの種類に応じて決定される。液晶性分子の配向状態は、具体的には、液晶性分子の種類、配向膜の種類および光学異方性層内の添加剤(例、可塑剤、バインダー、界面活性剤)の使用によって制御される。
【0073】
[液晶表示装置]
本発明のセルロースエステルフイルムを用いた光学補償シートまたは一体型楕円偏光板は、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。本発明のセルロースエステルフイルムは、光学補償のために高いレターデーションを必要とする液晶表示装置(例えば、TNやVA)において特に有効である。
液晶表示装置は、液晶セル、偏光素子および光学補償シート(位相差板)からなる。
偏光素子は、一般に偏光膜と保護膜からなる。
偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フイルムを用いて製造する。偏光膜の偏光軸は、フイルムの延伸方向に垂直な方向に相当する。
保護膜は偏光膜の両面に設けられる。光学補償シートまたはその透明支持体を、偏光膜の一方の側の保護膜としても機能させる(一体型楕円偏光板を形成する)ことができる。他方の側の保護膜としては、(通常の)セルロースエステルフイルムを用いることが好ましい。
【実施例】
【0074】
[実施例1]
(セルロースエステルフイルムの作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースエステル溶液を調製した。
【0075】
────────────────────────────────────────
セルロースエステル溶液組成
────────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100重量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8重量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9重量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 300重量部
メタノール(第2溶媒) 54重量部
1−ブタノール 11重量部
────────────────────────────────────────
【0076】
別のミキシングタンクに、下記の組成物を投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
【0077】
────────────────────────────────────────
レターデーション上昇剤溶液組成
────────────────────────────────────────
2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン(レターデーション上昇剤)
12重量部
2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン(レターデーション上昇剤) 4重量部
メチレンクロライド 80重量部
メタノール 20重量部
────────────────────────────────────────
【0078】
セルロースエステル溶液474重量部に、レターデーション上昇剤溶液22重量部を添加し、充分に攪拌して、ドープを調製した。二種類のレターデーション上昇剤の合計添加量は、セルロースアセテート100重量部に対して、3重量部である。
ドープを流延口から0℃に冷却したドラム上に流延した。溶媒含有率70重量%の場外で剥ぎ取り、フイルムの巾方向の両端をピンテンター(特開平4−1009号の図3に記載のピンテンター)で固定し、溶媒含有率が3乃至5重量%の状態で、横方向(機械方向に垂直な方向)の延伸率が3%となる間隔を保ちつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、さらに乾燥し、ガラス転移温度が120゜を越える領域で機械方向の延伸率が実質0%、(剥ぎ取り時に機械方向に4%延伸することを考慮して)横方向の延伸率と機械方向の延伸率との比が0.75となるように調整して、厚さ107μmのセルロースアセテートフイルムを作製した。
作製したフイルムの機械方向の引張弾性率は430kgf/mmであり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率は360kgf/mmであり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比は1.19であった。また、厚み方向のレターデーション(Rth)は80nm、面内のレターデーション(Re)は、17nmであった。なお、レターデーション上昇剤の析出は、製造直後はもちろん、後述するフイルム製造後の処理においても、全く認められなかった。
【0079】
(第1下塗り層の形成)
作製したセルロースエステルフイルムを透明支持体として用いた。
透明支持体の上に、下記の組成の塗布液を28ml/m塗布し、乾燥して第1下塗り層を形成した。
【0080】
────────────────────────────────────────
第1下塗り層塗布液組成
────────────────────────────────────────
ゼラチン 5.42重量部
ホルムアルデヒド 1.36重量部
サリチル酸 1.6重量部
アセトン 391重量部
メタノール 158重量部
メチレンクロライド 406重量部
水 12重量部
────────────────────────────────────────
【0081】
(第2下塗り層の形成)
第1下塗り層の上に、下記の組成の塗布液を7ml/m塗布し、乾燥して第2下塗り層を形成した。
【0082】
────────────────────────────────────────
第2下塗り層塗布液組成
────────────────────────────────────────
下記のアニオン性ポリマー 0.79重量部
クエン酸ハーフエチルエステル 10.1重量部
アセトン 200重量部
メタノール 877重量部
水 40.5重量部
────────────────────────────────────────
【0083】
【化16】

【0084】
(バック層の形成)
透明支持体の反対側の面に、下記の組成の塗布液を25ml/m塗布し、乾燥してバック層を形成した。
【0085】
────────────────────────────────────────
バック層塗布液組成
────────────────────────────────────────
酢化度55%のセルロースジアセテート 6.56重量部
シリカ系マット剤(平均粒径:1μm) 0.65重量部
アセトン 679重量部
メタノール 104重量部
────────────────────────────────────────
【0086】
(配向膜の形成)
第2下塗り層の上に、下記の変性ポリビニルアルコールの水溶液を塗布し、80℃の温風で乾燥した後、ラビング処理を行い、配向膜を形成した。
【0087】
【化17】

【0088】
(光学的異方性層の形成)
下記のディスコティック液晶性化合物1.8g、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)0.2g、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1.0、イーストマンケミカル社製)0.04g、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)0.06gおよび増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.02gを、メチルエチルケトン8.43gに溶解して塗布液を調製した。塗布液を#2.5のワイヤーバーで配向膜の上に塗布した。これを金属枠に貼り付けた状態で、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、ディスコティック液晶性化合物を配向させた。130℃の温度を維持して、120W/cmの高圧水銀灯を用いて1分間紫外線を照射し、ディスコティック液晶性化合物のビニル基を重合させ、配向状態を固定した。その後、室温まで放冷した。
このようにして、光学補償シートを作製した。光学異方性層の厚さは、1.0μmであった。
【0089】
【化18】

【0090】
(透明保護膜の作製)
円盤状化合物(レターデーション上昇剤)を添加しなかった以外は、透明支持体の作製と同様にして、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフイルムを作製した。これを、透明保護膜として用いた。透明保護膜の一方の面に、透明支持体と同様に第1下塗り層および第2下塗り層を設けた。
【0091】
(楕円偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフイルムにヨウ素を吸着させて、偏光膜を作製した。偏光膜の片側に、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、光学補償シートを、光学異方性層が外側となるように貼り付けた。反対側には、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、透明保護膜を貼り付けた。偏光膜の吸収軸と、光学異方性層のラビング方向は、平行になるように配置した。このようにして、楕円偏光板を作製した。
【0092】
(液晶表示装置の作製)
ITO透明電極が設けられたガラス基板の上に、ポリイミド配向膜を設け、ラビング処理を行った。5μmのスペーサーを介して、二枚の基板を配向膜が向かい合うように重ねた。配向膜のラビング方向が直交するように、基板の向きを調節した。基板の間隙に、棒状液晶性分子(ZL4792、メルク社製)を注入し、液晶層を形成した。液晶性分子のΔnは0.0969であった。
以上のように作製したTN液晶セルの両側に、楕円偏光板を、光学的異方性層が基板と対面するように貼り付けて液晶表示装置を作製した。光学的異方性層と透明支持体の積層体の遅相軸と、液晶セルのラビング方向は、直交するように配置した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加して表示画像を調べたところ、広い視野角が得られた。
【0093】
[比較例1]
実施例1で調製したドープを流延口から0℃に冷却したドラム上に流延した。溶媒含有率70重量%の場外で剥ぎ取り、機械方向の延伸率が6%、横方向(機械方向に垂直な方向)の延伸率が0%となる条件で乾燥して、厚さ107μmのセルロースアセテートフイルムを作製した。
作製したフイルムの機械方向の引張弾性率は410kgf/mmであり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率は300kgf/mmであり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比は1.37であった。また、厚み方向のレターデーション(Rth)は85nm、面内のレターデーション(Re)は、25nmであった

作製したセルロースエステルフイルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、光学補償シート、楕円偏光板および液晶表示装置を順次作製した。
液晶表示装置の液晶セルに、電圧を印加して表示画像を調べたところ、実施例1で作製した液晶表示装置よりも視野角が狭かった。
【符号の説明】
【0094】
BL バックライト
RP 反射板
1a、1b、1c 透明保護膜
2a、2b 偏光膜
3a、3b 透明支持体
4a、4b 光学異方性層
5a 液晶セルの下基板
5b 液晶セルの上基板
6 棒状液晶性分子からなる液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルベントキャスト法により、セルロースエステルフイルムを製造する方法であって、ソルベントキャスト法の乾燥工程において、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度以上の温度となる場合は機械方向には実質的に延伸しないことを条件にして、フイルムの温度がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い温度となる場合は残留溶媒量が5乃至3重量%の状態であることを条件にして、機械方向に垂直な方向に0.1乃至20%延伸して製造することを特徴とするセルロースエステルフイルムの製造方法。
【請求項2】
製造されるセルロースエステルフイルムの機械方向の引張弾性率が360乃至480kgf/mmであり、機械方向に垂直な方向の引張弾性率が260乃至440kgf/mmであり、そして、機械方向の引張弾性率/機械方向に垂直な方向の引張弾性率の比が0.80乃至1.36である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
製造されるセルロースエステルフイルムの面内のレターデーション値が−50乃至50nmであり、厚み方向のレターデーション値が60乃至1000nmであり、そして、厚さが50乃至200μmである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
機械方向に垂直な方向の延伸率/剥ぎ取り時に機械方向に延伸されることを加えた機械方向の延伸率の比が、0.70乃至8.0となるように延伸する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
セルロースエステルフイルムが、芳香族環を少なくとも二つ有し、二つの芳香族環の立体配座を立体障害しない分子構造を有する化合物を0.01乃至20重量%含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
製造されるセルロースエステルフイルムが光学的に負の一軸性であり、光軸がフイルム面の法線と実質的に平行である請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
セルロースエステルがセルロースアセテートである請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
ソルベントキャスト法に用いるセルロースエステル溶液の溶媒が、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−284972(P2010−284972A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157513(P2010−157513)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【分割の表示】特願2007−306100(P2007−306100)の分割
【原出願日】平成11年9月30日(1999.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】