説明

TNF−α、CD40L及びGM−CSF併用遺伝子治療剤

【課題】免疫療法に抵抗性を示す難治性癌における制御性T細胞の増加と液性免疫優位の免疫状態を改善することを、自己免疫疾患という有害事象を起こさず達成する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、TNF−αの発現ベクターを有効成分として含有する医薬組成物(1)と、CD40L及びGM−CSFを有効成分として含有する医薬組成物(2)との組み合わせからなる医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子免疫治療剤に関し、詳しくは、TNF−α、CD40L及びGM−CSFの発現ベクターを用いた、抑制免疫優位にある難治性癌の免疫バランスを拒絶免疫優位にシフトさせる癌の治療分野に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の免疫療法は、生来体に備わる抵抗力を活性化することで、抗癌剤等が効かない癌を抑制し得る、体に優しい治療法として期待され、試みられてきた。癌拒絶免疫は主として細胞性免疫を担うT細胞が中心となり、直接腫瘍を破壊する能力を持つ細胞としては、抗原特異性の緩いナチュラルキラーT細胞や、抗原提示細胞(樹状細胞等)よりMHCクラス1と共に提示された抗原ペプチドを認識するCD8+ CTL(cytotoxic T lymphocyte)があり、種々のサイトカインで成熟化された抗原提示細胞がCTLの活性化に重要な役割を果たしている。抗原提示細胞を利用した治療例として、GM-CSF、IL-4及びTNF-αを分化誘導剤として用いて得られた樹状細胞を含む細胞ワクチンは、癌、感染症の治療及び予防に有効であるとの報告も認められる(特許文献1)。一方、CD4+ヘルパーT細胞は直接腫瘍を破壊する機能はないものの、抗腫瘍免疫応答を制御する基本的な役割を担っており、担癌患者では、抗腫瘍サイトカインを産生するヘルパーT細胞(Th1)より抑制性サイトカインを産生するヘルパーT細胞(Th2)優位に免疫バランスがシフトしていることが報告されている(非特許文献1)。加えて最近、CD4陽性のTリンパ球の中で転写因子FoxP3が活性化した制御性T細胞(「Treg」ともいう)という細胞亜集団が発見され、免疫エフェクター細胞の機能不全を起こすことが明らかとなり(非特許文献1)、癌患者においてはTh2優位の免疫バランス(非特許文献2)に加えて制御性T細胞の増加が免疫療法に抵抗性を与えていることが明らかになってきた(非特許文献3、4)。
【0003】
制御性T細胞の制御に関する免疫療法は、近年、様々な工夫により開発の試みが行われており、癌の免疫療法とは逆になるが、免疫寛容を誘導し移植拒絶を抑制する為に制御性T細胞を活性化する方法がいくつか報告されている(特許文献2、3)。一方、制御性T細胞を抑制し癌を治療する方法として、制御性T細胞に対する中和抗体(抗CTLA4抗体:Ipilimumab)、制御性T細胞とエフェクターT細胞との相互作用をブロックする中和抗体(抗PD1抗体:MDX-1106)、及び制御性T細胞のリガンドIL-2とトキシンとを融合させたDAB389-IL2(Ontak)等が開発され、抗体/ミサイル療法としての臨床試験が実施され、その有効性も報告された。しかしながら、同時に、全身投与によるためその作用は癌特異性が乏しく、自己免疫疾患の誘発という有害事象も指摘されている(非特許文献5〜8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-69001号公報
【特許文献2】特表2010-501556号公報
【特許文献3】特開2005-247709号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sakaguchi S, et al. Nat Rev Immunol 2010, 10(7), 490-500
【非特許文献2】Clerici M, et al. J Natl Cancer Inst 1996, 88(7), 461-2
【非特許文献3】Woo EY, et al. J Immunol 2002, 168, 4272-76
【非特許文献4】Curiel TJ, et al. Nature Med 2004, 10, 942-49
【非特許文献5】Yang JC, et al. J Immunother 2007, 30(8), 825-30
【非特許文献6】Chung KY, et al. J Clin Oncol 2010, 28(21), 3485-90
【非特許文献7】Brahmer JR, et al. J Clin Oncol 2010, 28(19), 3167-75
【非特許文献8】Olsen E, et al. J Clin Oncol 2001, 19(2), 376-88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
癌の治療分野において、制御性T細胞を抑制した上でTh2からTh1へ免疫バランスを回復させることが治療効果を上げるために必要と考えられる。本発明が解決しようとする課題は、免疫療法に抵抗性を示す難治性癌における制御性T細胞の増加と液性免疫優位の免疫状態を改善することを、自己免疫疾患という有害事象を起こさず達成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
制御性T細胞に対する抗体療法では癌組織への選択性がなく、自己免疫疾患という有害事象の危険性を回避し難い。これに対して、高分子ミセルやウイルスベクター等のナノ遺伝子キャリアを用いた遺伝子治療の場合は、EPR(Enhanced permeation and retention)効果による癌組織選択性があるため、制御性T細胞を抑制できる治療分子が同定できれば有害事象を回避することができると考えられる。本発明者らは、様々な遺伝子を用いて検証を重ねた結果、TNF-α遺伝子を導入することにより制御性T細胞を抑制できることを見出した。更に、CD40L遺伝子及びGM-CSF遺伝子を導入することにより、制御性T細胞の抑制のみならず免疫バランス状態をTh2優位からTh1優位にシフトさせ、抗腫瘍免疫効果により予後を改善させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕TNF−αの発現ベクターを有効成分として含有する医薬組成物(1)と、CD40L及びGM−CSFを有効成分として含有する医薬組成物(2)との組み合わせからなる医薬組成物。
〔2〕CD40L及びGM−CSFが遺伝子として発現ベクターに組み込まれている、〔1〕の医薬組成物。
〔3〕CD40L遺伝子及びGM−CSF遺伝子が単一の発現ベクターに組み込まれている、〔2〕の医薬組成物。
〔4〕TNF−αの発現ベクターが投与され、次いでCD40L及びGM−CSFが投与されるように用いられる、〔1〕〜〔3〕のいずれかの医薬組成物。
〔5〕TNF−αの発現ベクターが投与され、次いでCD40L及びGM−CSFが同時に投与されるように用いられる、〔1〕〜〔4〕のいずれかの医薬組成物。
〔6〕TNF−αの発現ベクター、CD40L及び/又はGM−CSFが、下記いずれかのブロック共重合体からなる高分子ミセル、又は下記いずれかのブロック共重合体とカチオン性ポリマーとを含んでなり、ブロック共重合体及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン基に対する、ブロック共重合体が有するカチオン基のモル百分率(B/H比)が、25〜99%である高分子ミセルに内包されてなることを特徴とする、〔1〕〜〔5〕のいずれかの医薬組成物:
(1)非荷電親水性ポリマーセグメントとポリカチオン性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合体、又は
(2)非荷電親水性ポリマーセグメントとポリカチオン性ポリマーセグメントとを有し、該親水性ポリマーセグメントと該ポリカチオン性ポリマーセグメントがジスルフィド結合を介して結合したブロック共重合体。
〔7〕ブロック共重合体(1)が、下記一般式(I)又は(II)で表される、〔6〕の医薬組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
(上記各式中、
は水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1―12アルキル基を表し、
、Lは連結基を表し、
はメチレン基又はエチレン基を表し、
は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、
はRと同一であるか又は開始剤残基であり、
はそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH−X基を表し、ここで、Xはそれぞれ独立してpKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基であるか、あるいは一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基であり、aは1〜5の整数であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、xは0〜5,000の整数であるが、xはnより大きくないとする。
また、上記の一般式における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムに存在することができる。)
〔8〕ブロック共重合体(1)が、下記一般式(III)又は(IV)で表される、〔6〕の医薬組成物。
【0011】
【化2】

【0012】
(上記各式中、
は水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基を表し、
、Lは連結基を表し、
はメチレン基又はエチレン基を表し、
は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、
はRと同一であるか又は開始剤残基であり、Rはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH−X基を表し、ここでXはそれぞれ独立してpKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基であるか、あるいは一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基であり、aは1〜5の整数であり、
はそれぞれ独立して水素原子又は保護基であり、
mは5〜20,000の整数であり、
nは2〜5,000の整数であり、
yは0〜4,999の整数であり、
zは1〜4,999の整数であるが、zはnより小さく、y+zはnより大きくないとする。
また、上記の一般式における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムに存在することができる。)
〔9〕Xが下記のA、B、C、D又はE群に示す式で表される基である、〔7〕又は〔8〕の医薬組成物。
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Xは水素原子又はC1−6アルキル基であり、XはアミノC1−6アルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、dは1〜5の整数を表し、eは1〜5の整数を表し、fは0〜15の整数を表し、Rは保護基を表し、gは0〜15の整数を表す。)
〔10〕ブロック共重合体(2)が、下記一般式(V)で表される、〔6〕〜〔9〕のいずれかの医薬組成物。
【0015】
【化4】

【0016】
〔式中、R10及びR11はそれぞれ独立して、水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基を表し、
12は、一級アミンを有するアミン化合物由来の残基を表し、
は、NH、CO、下記一般式(VIII):
−(CHp1−NH− (VIII)
(式中、p1は1〜5の整数を表す。)
で示される基、又は下記一般式(IX):
−L4a−(CHq1−L5a− (IX)
(式中、L4aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L5aは、NH又はCOを表す。q1は1〜5の整数を表す。)
で示される基を表し、m1は30〜150の整数を表し、m2は1〜5の整数を表し、nは100〜400の整数を表す。〕
〔11〕R12が下記一般式(VI):
−NH−(CH−X− (VI)
(式中、Xは、一級、二級もしくは三級アミン化合物又は四級アンモニウム塩由来のアミン化合物残基を表し、rは0〜5の整数を表す。)
で示される基、又は下記一般式(VII):
−〔NH−(CH−X− (VII)
(式中、Xは、一級、二級もしくは三級アミン化合物又は四級アンモニウム塩由来のアミン化合物残基を表す。s及びtは、それぞれ独立して、かつ〔NH−(CH〕ユニット間で独立して、sは1〜5の整数を表し、tは2〜5の整数を表す。)
で示される基を表す、〔10〕の医薬組成物。
〔12〕R12が−NH−NH又は−NH−(CH−NH−(CH−NHである、〔10〕の医薬組成物。
〔13〕ベクターがプラスミドである、〔1〕〜〔12〕のいずれかの医薬組成物。
〔14〕制御性T細胞を抑制し、拒絶免疫Th1を誘導する、〔1〕〜〔13〕のいずれかの医薬組成物。
〔15〕癌の治療用である、〔1〕〜〔14〕のいずれかの医薬組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の医薬組成物を用いることにより、TNF-α遺伝子を導入して患者の制御性T細胞数を低減し、抑制性の免疫状態を改善することができる。さらに、TNF-α遺伝子導入によるプレコンディショニング後にCD40L及びGM-CSFを投与することで、患者に本来備わっている抵抗力の活性化を誘導させることが可能となる。これにより、患者における拒絶免疫を活性化させ、癌(特に難治性癌)、感染症等に対して、体に優しい治療効果が期待できる普遍性の高い治療法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、各種発現プラスミド(pVIVO-mTNF-α、pVIVO-mCD40L、pVIVO-mGMCSF、pVIVO-mCD40L+mGMCSF)の概略を示した図である。
【図2】図2は、腹膜播種に対する遺伝子治療による制御性T細胞の抑制効果を示した図である。グラフの横軸は治療に使用した各種遺伝子(No Txは無治療)を示し、縦軸は脾臓中のCD4陽性細胞における制御性T細胞の割合(%)を示す。
【図3】図3は、CT26細胞腹膜播種組織におけるリンパ球と、該リンパ球の細胞集団における、FoxP3陽性の制御性T細胞を示した図である。上図はTNF-α遺伝子治療群の結果を示し、下図はコントロールの結果を示す。
【図4】図4は、腹膜播種に対する遺伝子治療によるTh2優位からTh1優位への免疫状態の変化を示した図である。グラフの横軸は治療に使用した各種遺伝子を示し(矢印は、TNF-α処置後に各種遺伝子を用いたことを示す)、縦軸は血中のサイトカイン濃度(pg/mL)を示す。
【図5】図5は、皮下腫瘍モデルマウスにおける腫瘍移植4週間後の肉眼所見の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の医薬組成物は、TNF−α(腫瘍壊死因子α)の発現ベクターを有効成分として含有する医薬組成物(1)と、CD40L(CD40リガンド)及びGM−CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)を有効成分として含有する医薬組成物(2)の組み合わせである。
【0020】
1.医薬組成物(1)の有効成分:TNF-α発現ベクター
本発明の医薬組成物(1)中に有効成分として含まれるTNF−αの発現ベクターは、TNF−αをコードする核酸(以下、TNF-α遺伝子と省略する)がプロモーターと作動可能に連結されたものである。
【0021】
本発明において核酸とは、DNAまたはRNAであってもよい。本発明においてTNF-α遺伝子は、いかなる動物由来の遺伝子であってもよい。動物としては哺乳動物が好ましく、例えば、ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター等があげられる。ヒトの治療目的のためには、ヒトTNF-α遺伝子を用いることが好ましい。例えば、ヒトTNF-α遺伝子は、Genbank Accession No. NM_000594.2などで公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、マウスTNF-α遺伝子は、Genbank Accession No. NM_013693.2などで公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。
【0022】
本発明において「TNF-α遺伝子」又は「TNF-αをコードする核酸」とは、特定塩基配列(配列番号1)で示されるヒトTNF-α遺伝子(核酸)ならびに、TNF-αの同族体、変異体及び成熟体などをコードする遺伝子(核酸)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号1に記載のヒトTNF-α遺伝子ならびに、そのマウスホモログ及びラットホモログなどが包含される。なお、遺伝子又は核酸は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンを含むことができる。
【0023】
本発明において「タンパク質」には、特定のアミノ酸配列で示される「タンパク質」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。前記変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加及び挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、前記変異体としては、変異のないタンパク質又は(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものをあげることができる。前記誘導体には、タンパク質のアミノ末端もしくはカルボキシ末端又は側鎖を置換したものが包含される。前記成熟体には、N末端のシグナルペプチドが切断されたタンパク質が包含され、例えば、TNF-αの場合、配列番号2に記載のアミノ酸配列の77〜233位のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。前記アミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸の翻訳後修飾体があげられる。
【0024】
本発明において「TNF-α(タンパク質)」という用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号2)で示されるヒトTNF-αやその同族体、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。
【0025】
発現したTNF-αが腫瘍血管系に指向した送達を可能ならしめるためには、N末端にRGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)ペプチドが連結したTNF-α、より具体的には、成熟体のN末端にRGDペプチドが連結したTNF-αを用いることができる。ここで、RGDペプチドとは、RGDトリペプチドを含有し、インテグリンαβに結合するオリゴペプチドをいう。RGDペプチドとしては、例えば、
ACDCRGDCFCG(配列番号7;RGD4Cとも称する)、
DGARYCRGDCFDG(配列番号8;RGD10とも称する)、
RGDCF(K[H−]KKK)(配列番号9;cRGD−hKとも称する)、
などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
TNF-αを発現させるベクターとしては、プラスミド、ウイルス及び当該技術分野で従来用いられているその他のベクターがあげられる。当業者であれば、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1989), N.Y.; Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (1987), Jon Wiley & Sons等を参照し、様々な発現ベクターを構築することができる。
【0027】
プラスミドベクターとしては、特に制限されないが、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo、pVIVO等があげられる。ウイルスベクターとしては、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルス、センダイウイルス、ヘルペスウイルス等が用いられる。
【0028】
発現ベクター中に含まれるプロモーターは、TNF-α遺伝子が当該プロモーターの下流に作動可能に連結された場合、標的細胞内でTNF-α遺伝子の転写開始部位を決定し、転写の頻度を直接的に調節する塩基配列を有するDNAをいい、いわゆるエンハンサー領域をも含んでいてもよい。前記プロモーターとしては、標的細胞内でプロモーター活性を有する限り、あらゆるプロモーターを限定なく用いることができ、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、CMVエンハンサー/ニワトリβアクチンプロモーター、ヒトEF-1αプロモーター、ヒトGRP78プロモーター/CMVエンハンサー、ヒトGRP94プロモーター/SV40エンハンサーなどがあげられる。これらは、発現プラスミドに含まれた形で市販されており、当該プラスミドから単離することができる。また、ウイルスベクターの場合、各ウイルスに由来するプロモーターを用いることができる。
【0029】
前記プロモーター及び遺伝子を発現ベクターに連結する方法は、自体公知の方法により行うことができる。また、市販の発現プラスミド、pCAGGS(Niwa H., Yamamura K., and Miyazaki J., (1991), Gene, vol. 108, 193-199)、pRC/CMV(Invitrogen)、pcDNA3.1(Invitrogen Cat# V855-20)、pVIVO1(Invivogen)などを用いることにより、容易にTNF-α発現プラスミドを調製することができる。また、各種ウイルスベクターも市販されており、市販品を用いることにより、容易にTNF-α発現ウイルスベクターを調製することができる。
【0030】
2.医薬組成物(2)の有効成分:CD40L及びGM−CSF
本発明の医薬組成物(2)中には、CD40L及びGM−CSFが有効成分として含まれる。本発明においては、CD40L及びGM−CSFは、タンパク質の形態又は発現ベクターに組み込まれた遺伝子の形態のいずれでもよい。1つの実施態様として、CD40L及びGM−CSFはタンパク質である。この態様においては、CD40L及びGM−CSFは、医薬組成物(1)中に含有されることもできるが、医薬組成物(1)とは別個の医薬組成物(2)中に含有されることが好ましい。
【0031】
CD40Lタンパク質及びGM−CSFタンパク質は、前述したTNF-αタンパク質と同様に、特定のアミノ酸配列(それぞれ配列番号4および6)で示される「タンパク質」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などが包含される。
CD40Lの成熟体には、N末端のシグナルペプチドと細胞内ドメインとが切断された分泌型タンパク質が包含され、例えば、配列番号4に記載のアミノ酸配列の113〜261位のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。また、GM−CSFの成熟体には、N末端のシグナルペプチドが切断されたタンパク質が包含され、例えば、配列番号6に記載のアミノ酸配列の18〜144位のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。
CD40Lタンパク質及びGM−CSFタンパク質は、生体内での半減期を延長させるために、PEG(ポリエチレングリコール)等による誘導体を用いることが好ましい。
【0032】
別の態様として、本発明の医薬組成物(2)中に有効成分として含まれるCD40L及びGM−CSFは、遺伝子として発現ベクターに組み込まれている。この態様においては、CD40Lの発現ベクター及びGM−CSFの発現ベクターは、医薬組成物(1)中に含有させることもできるが、医薬組成物(1)とは別個の医薬組成物(2)中に含有されることが好ましい。
【0033】
発現ベクターの場合、CD40L遺伝子及びGM−CSF遺伝子が別々の発現ベクターに組み込まれていてもよく、単一の発現ベクターに組み込まれていてもよい。治療効率の観点から、単一の発現ベクターに組み込まれていることが好ましい。
【0034】
CD40Lの発現ベクターは、CD40Lをコードする核酸(以下、CD40L遺伝子と省略する)がプロモーターと作動可能に連結されたものである。GM−CSFの発現ベクターは、GM−CSFをコードする核酸(以下、GM−CSF遺伝子と省略する)がプロモーターと作動可能に連結されたものである。
【0035】
本発明において「CD40L遺伝子」は、いかなる動物由来の遺伝子であってもよい。動物としては哺乳動物が好ましく、例えば、ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター等があげられる。ヒトの治療目的のためには、ヒトCD40L遺伝子を用いることが好ましい。例えば、ヒトCD40L遺伝子は、Genbank Accession No. NM_000074.2などで公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、マウスCD40L遺伝子は、Genbank Accession No. NM_011616.2などで公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。
【0036】
本発明において「CD40L遺伝子」とは、特定塩基配列(配列番号3)で示されるヒトCD40L遺伝子ならびに、CD40Lの同族体、変異体及び成熟体などをコードする遺伝子を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号3に記載のヒトCD40L遺伝子ならびに、そのマウスホモログ及びラットホモログなどが包含される。なお、遺伝子は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンを含むことができる。
【0037】
本発明において「GM−CSF遺伝子」は、いかなる動物由来の遺伝子であってもよい。動物としては哺乳動物が好ましく、例えば、ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター等があげられる。ヒトの治療目的のためには、ヒトGM−CSF遺伝子を用いることが好ましい。例えば、ヒトGM−CSF遺伝子は、Genbank Accession No. NM_000758.2などで公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。また、マウスGM−CSF遺伝子は、Genbank Accession No. NM_009969.4などで公表されており、自体公知の方法により単離または製造することができる。
【0038】
本発明において「GM−CSF遺伝子」とは、特定塩基配列(配列番号5)で示されるヒトGM−CSF遺伝子ならびに、GM−CSFの同族体、変異体及び成熟体などをコードする遺伝子を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号5に記載のヒトGM−CSF遺伝子ならびに、そのマウスホモログ及びラットホモログなどが包含される。なお、遺伝子又は核酸は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンを含むことができる。
【0039】
CD40L及びGM−CSF発現ベクターは、前述したように、別々の発現ベクターに組み込まれていてもよい。この場合、CD40Lの発現ベクター及びGM−CSFの発現ベクターは、前述したTNF−αの発現ベクターと同様に調製することができる。CD40L及びGM−CSF遺伝子が単一の発現ベクターに組み込まれている場合、各遺伝子が所定のプロモーターの下流に作動可能に連結されるようにベクターを構築することができる。好適には、2箇所のマルチクローニングサイトを有する発現プラスミドpVIVO1(Invivogen)等を使用することができる。
【0040】
さらに別の態様として、TNF−α、CD40L及びGM−CSF遺伝子が単一の発現ベクター内に含まれるものであってもよい。この場合、医薬組成物(1)と医薬組成物(2)とは単一の医薬組成物である。
【0041】
3.医薬組成物のDDS:ブロック共重合体
本発明の医薬組成物は、上記有効成分が種々のドラッグデリバリーシステム(DDS)に内包されたものであってもよい。使用可能なDDSとしては、リポソーム、高分子ミセル、ウイルスベクター等があげられる。1つの実施態様として、本発明の医薬組成物は、ブロック共重合体からなる高分子ミセルに内包されたものである。
【0042】
本発明に用いられるブロック共重合体には、非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとが、ジスルフィド結合を介さずに結合したブロック共重合体(1)、ならびに、ジスルフィド結合を介して結合したブロック共重合体(2)が含まれる。
【0043】
非荷電親水性ポリマーセグメントは、非荷電且つ親水性の性質を有するポリマーセグメントである。ここで「非荷電」とは、セグメント全体が中性であることをいう。例としてはセグメントが正・負の電荷を有さない場合が挙げられる。また、セグメントが正・負の荷電を分子内に有する場合であっても、局所的な実効電荷密度が高くなく、高分子ミセルの形成を妨げない程度にセグメント全体の荷電が中和されていれば、やはり「非荷電」に該当する。また、「親水性」とは水性媒体に対して溶解性を示すことをいう。
【0044】
非荷電親水性ポリマーセグメントの種類は限定されない。単一の反復単位からなるセグメントでもよく、二種以上の反復単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。非荷電親水性ポリマーセグメントの具体例としては、特に限定されないが、ポリアルキレングリコール、ポリ(2−オキサゾリン)、ポリサッカライド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ(2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン)、等電点が7付近のペプチド・タンパク質及びそれらの誘導体等が挙げられる。中でもポリアルキレングリコール、ポリ(2−オキサゾリン)等が好ましく、ポリアルキレングリコールが特に好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、ポリエチレングリコール(PEG)が好ましい。PEGの誘導体は、後述する式(I)〜(V)中で示される。
【0045】
非荷電親水性ポリマーセグメントの分子量は、限定されるものではないが、高分子ミセルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。具体的な分子量の範囲は、非荷電親水性ポリマーセグメントの種類やカチオン性ポリマーセグメントとの組み合わせ等によっても異なるが、非荷電親水性ポリマーセグメントとしてポリエチレングリコールを用いる場合、その分子量(Mw)は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、また、好ましくは40000以下、より好ましくは30000以下の範囲である。非荷電親水性ポリマーセグメントの反復単位数も制限されないが、通常は非荷電親水性ポリマーセグメントの分子量が前記の分子量範囲を満たすように、その反復単位の種類に応じて決定される。
【0046】
カチオン性ポリマーセグメントは、カチオン基を有し、カチオン性(陽イオン性)を示すポリマーセグメントである。但し、カチオン性ポリマーセグメントは、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で多少のアニオン基を有していてもよい。
【0047】
カチオン性ポリマーセグメントの種類も限定されない。単一の反復単位からなるセグメントでもよく、二種以上の反復単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。カチオン性ポリマーセグメントとしてはカチオン基を側鎖に有するポリペプチド、ポリアミン等が好ましく側鎖にアミノ基を有するポリ(アミノ酸又はその誘導体)が特に好ましい。かかるポリ(アミノ酸又はその誘導体)は、1種のアミノ酸又はその誘導体からなるものでもよく、2種以上のアミノ酸又はその誘導体を任意の組み合わせ及び比率で含んでいてもよい。かかるポリ(アミノ酸又はその誘導体)を構成するアミノ酸又はその誘導体の例としては、制限されるものではないが、アミノ基含有アスパルタミド、アミノ基含有グルタミド、リシン、アルギニン、ヒスチジン等が挙げられる。これらの中でも、特にアミノ基含有アスパルタミド、アミノ基含有グルタミドが好ましい。
【0048】
カチオン性ポリマーセグメントの分子量は、限定されるものではないが、高分子ミセルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。カチオン性ポリマーセグメントの反復単位数も制限されないが、通常はカチオン性ポリマーセグメントの分子量が所定の分子量範囲を満たすように、その反復単位の種類に応じて決定される。具体的には、カチオン性ポリマーセグメントとしてポリアスパラギン酸誘導体又はポリグルタミン酸誘導体を用いる場合、その反復単位数は好ましくは5以上、より好ましくは10以上、また、好ましくは300以下、より好ましくは200以下の範囲である。
【0049】
非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとの組み合わせは制限されず、任意の非荷電親水性ポリマーセグメントと任意のカチオン性ポリマーセグメントとを組み合わせることが可能である。非荷電親水性ポリマーセグメント及びカチオン性ポリマーセグメントの個数も任意であり、それぞれ1つでも2つ以上でもよく、2つ以上の場合には互いに同一でも異なっていてもよい。通常は、非荷電親水性ポリマーセグメント1つに対して、カチオン性ポリマーセグメントが1つ結合することが好ましい。しかし、高分子ミセルに多量の核酸を保持する観点からは、非荷電親水性ポリマーセグメント1つに対して、カチオン性ポリマーセグメントが2つ以上結合する形態も好適である。また、非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとの結合形態も制限されず、直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。
【0050】
高分子ミセルを形成させる場合、いずれのブロック共重合体を用いてもよい。高分子ミセルが標的細胞内に取り込まれた後の還元的環境下で、非荷電親水性ポリマーセグメントを分離させて遺伝子発現効率をより高めるためには、ブロック共重合体(2)を用いることが好ましい。以下、ブロック共重合体(1)及び(2)の具体的構造について説明する。
【0051】
4.ブロック共重合体(1)
本発明に用いられるブロック共重合体(1)は、好ましくは、下記一般式(I)又は(II)で表される。
【0052】
【化5】

【0053】
(上記各式中、
は水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基を表し、
、Lは連結基を表し、
はメチレン基又はエチレン基を表し、
は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、
はRと同一であるか又は開始剤残基であり、
はそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH−X基を表し、ここで、Xはそれぞれ独立してpKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基であるか、あるいは一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基であり、aは1〜5の整数であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、xは0〜5,000の整数であるが、xはnより大きくないとする。)
【0054】
特定の態様として、ブロック共重合体(1)は、好ましくは、下記一般式(III)又は(IV)で表される。
【0055】
【化6】

【0056】
(式中、Rは水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基を表し、L、Lは連結基を表し、Rはメチレン基又はエチレン基を表し、Rは水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、RはRと同一であるか又は開始剤残基であり、Rはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH−X基を表し、ここでXはそれぞれ独立してpKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基であるか、あるいは一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基であり、aは1〜5の整数であり、Rはそれぞれ独立して水素原子又は保護基であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜4,999の整数であり、zは1〜4,999の整数であるが、zはnより小さく、y+zはnより大きくないとする。)
【0057】
一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)において、Rは水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基を表すが、C1−12アルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル、ドデシル等が挙げられる。また置換された場合の置換基としてはアセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1−6アルコキシカルボニル基、C2−7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C1−6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基が挙げられる。Rは、好ましくは、メチル又はアセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1−6アルコキシカルボニル基、C2−7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C1−6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基で置換された直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基である。置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(−CHO;アルデヒド基)に転化できる。かようなホルミル基、又はカルボキシル基もしくはアミノ基は、例えば、本発明に従う共重合体と核酸との高分子ミセルのシェル部に存在することができ、これらの基を介して、抗体もしくはその特異結合性を有する断片(F(ab')、F(ab)等)及びその他の機能性もしくは標的指向性を該ミセルに付与し得るタンパク質等を該ミセルに共有結合するのに利用できる。このような官能基を片末端に有するPEGセグメントは、例えば、国際公開第96/32434号パンフレット、国際公開第96/33233号パンフレット、国際公開第97/06202号パンフレットに記載のブロック共重合体のPEGセグメント部の製造法によって、都合よく形成できる。
【0058】
こうして形成されるPEG又はその誘導体部分とポリペプチド部分とは、一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)の共重合体の製造方法に応じて、どのような連結様式をもとり得、そして本発明の目的に沿う限り、どのような連結基で結合されていてもよい。
【0059】
製造方法は特に限定されるものではないが、一つの方法として、末端にアミノ基を有するPEG誘導体を用いて、そのアミノ末端から、β−ベンジル−L−アスパルテート、Nε−Z−L−リシン等の保護アミノ酸のN−カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロック共重合体を合成し、その後側鎖を変換することにより、本発明の共重合体を得る方法が挙げられる。この場合共重合体の構造は一般式(I)又は(III)となり、連結基Lは用いたPEG誘導体の末端構造に由来する構造となるが、好ましくは−(CH−NH−であり、かつbは1〜5の整数である。
【0060】
また、ポリペプチド部分を合成してから、PEG又はその誘導体部分と結合させる方法でも、本発明の共重合体は製造可能であり、この場合結果的に上記の方法で製造したものと同一の構造となることもあるが、一般式(II)又は(IV)の構造となることもある。連結基Lは特に限定されるものではないが、好ましくは−(CH−CO−であり、かつcは1〜5の整数である。
【0061】
一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)におけるRは、メチレン基又はエチレン基を表すが、メチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、Rがメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体及びグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在ずるか、あるいはランダムに存在できる。Rは、好ましくは、メチレン基である。
【0062】
一般式(I)又は(III)におけるRは、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表すが、保護基としてはC1−6アルキルカルボニル基が挙げられ、好ましくはアセチル基である。疎水性基としてはベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン等の誘導体が挙げられる。重合性基としてはメタクリロイル基、アクリロイル基が挙げられ、かような重合性基を一般式(I)又は(III)の共重合体が有する場合には、これらの共重合体は、所謂、マクロマーとして使用でき、例えば、高分子ミセルを形成した後、必要により他のコモノマーを用い、これらの重合性基を介して架橋させることもできる。
【0063】
これらの保護基、疎水性基、重合性基を共重合体の末端に導入する方法としては、酸ハロゲン化物を用いる方法、酸無水物を用いる方法、活性エステルを用いる方法等、通常の合成で用いられている手法が挙げられる。
【0064】
一般式(II)又は(IV)におけるRは、Rと同じく水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH−X基であることができるが、低分子の開始剤を用いて保護アミノ酸のNCAを重合させてポリペプチドセグメントを合成してからPEGセグメントと結合させる方法でブロック共重合体を製造する場合には、使用した開始剤に由来する構造をとることもできる。すなわち−NH−Rであり、Rが置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1−20アルキル基である。
【0065】
直鎖もしくは分枝のC1−20アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルなどのC1-6低級アルキル、さらに、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどのC7-12の中級アルキル、また、トリデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イコシルなどのC13-20の高級アルキルが挙げられる。これらの基は、場合により、1以上のハロゲン(例えば、フッ素、塩基、臭素)で置換されていてもよく、また、中〜高級アルキルにあっては、1個の水酸基で置換されていてもよい。
【0066】
一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)中のRはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH−X基であることができるが、大部分(一般的には、85%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは100%)が−NH−(CH−X基であることが好ましい。
【0067】
また一般式(III)又は(IV)中のRはそれぞれ独立して水素原子又は保護基であることができるが、大部分が水素原子であることが好ましい。ここで保護基とは通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基、トリフルオロアセチル基等のことである。
【0068】
前記Xは、共重合体が本発明の条件を満たす(又は本発明の目的に沿う)限り特に制限されないが、好ましくは、5つの群に分類される残基の中から選ばれる。すなわち、A群:pKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基:
【0069】
【化7】

【0070】
B群:一級アミンと二級アミン、三級アミン又は四級アンモニウム塩の両方を含むアミン化合物残基:
【0071】
【化8】

【0072】
C群:一級アミンのみを含むアミン化合物残基:
【0073】
【化9】

【0074】
D群:二級アミン、三級アミン又は四級アンモニウム塩のみを含むアミン化合物残基でA群に含まれないもの:
【0075】
【化10】

【0076】
E群:アミンでない化合物残基:
【0077】
【化11】

【0078】
である。
【0079】
一般式(I)又は(II)の共重合体の場合、A群及びB群の残基から選ばれるいずれか一つの残基のみを含むのでもよく、C群はA群及びD群の残基から選ばれる少なくとも一つの残基を同時に含まなければならず、D群はB群及びC群の残基から選ばれる少なくとも一つの残基を同時に含まなければならない。またE群は共重合体の物性を変化させるために含ませることができるが、E群を除いた部分で上記の条件を満たしていなければならない。一般式(III)又は(IV)の共重合体の場合、Rの少なくとも1個以上が水素原子であるならば、A群、B群及びD群の残基から選ばれるいずれか一つの残基のみを含むのでもよい。C群及びE群は上記の条件と同じである。
【0080】
それぞれの群について好ましい残基の例を式で示す。式中、A群でXは水素原子又はC1−6アルキル基であり、B群でXはアミノC1−6アルキル基であり、Rは水素原子又はメチル基であり、d、eはともに1〜5の整数であり、C群でfは0から15の整数であり、D群でd、eはともに1〜5の整数であり、RはZ基、Boc基、アセチル基、トリフルオロアセチル基等の保護基であり、E群でgは0〜15の整数であることができる。
【0081】
ポリペプチド構造の側鎖にこれらの残基を導入する方法であるが、特にポリアスパラギン酸構造の場合には、例えば、特許第2777530号公報に記載されているようなポリ(β−ベンジル−L−アスパルテート)部分のアミノリシスによるエステルからアミドへの交換反応によって都合よく製造できる。別法としてはベンジルエステルを接触還元、酸、アルカリ等により加水分解しポリアスパラギン酸又はポリグルタミン酸に変換した後、縮合剤等を用いてこれらの残基を有する化合物を結合させるという方法でも製造できる。
【0082】
これらのカチオン側鎖は塩になっていてもよく、この場合塩を形成する対イオンとしてはCl、Br、I、(1/2SO、NO、(1/2CO、(1/3PO、CHCOO、CFCOO、CHSO、CFSO等が挙げられる。
【0083】
PEG部分の鎖長及びポリペプチド部分の鎖長を規定する、m及びnは、それぞれ5〜20,000の整数、好ましくは10〜5,000、特に好ましくは40〜500、及び2〜5,000、より好ましくは5〜1,000、特に好ましくは10〜200であるが、一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)の共重合体が、核酸又は陰イオン性タンパク質とポリイオンコンプレックスミセルを形成するものであれば、限定されるものではない。したがって、本明細書では便宜上、ポリエチレングリコール、ポリカチオン等と称しているが、「ポリ」の語には、所謂、「オリゴ」に分類されるものも包合される概念として用いている。
【0084】
ポリペプチド部分の構成割合を規定する、x、y、zは、それぞれ0〜5,000の整数(ただしnより大きくない。)、0〜4,999の整数、1〜4,999の整数(ただしzはnより小さく、y+zはnより大きくない。)であるが、zは10〜n−10の範囲であることがより好ましい。また、各構成成分はランダムに分布していることもブロック状に分布していることもどちらも可能である。
【0085】
非荷電親水性ポリマーセグメントを構成するPEG又はその誘導体の好ましい分子量は、200〜1,000,000、より好ましくは500〜200,000、特に好ましくは1,000〜50,000である。
【0086】
カチオン性ポリマーセグメントを構成するポリペプチドの好ましい分子量は、200〜1,000,000、より好ましくは500〜200,000、特に好ましくは1,000〜50,000である。
【0087】
5.ブロック共重合体(2)
本発明に用いられるブロック共重合体(2)は、好ましくは、下記一般式(V)で表される。
【0088】
【化12】

【0089】
一般式(V)中、R10及びR11はそれぞれ独立して、水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基を表す。C1−12アルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル、ドデシル等が挙げられる。また置換された場合の置換基としてはアセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1−6アルコキシカルボニル基、C2−7アシルアミド基、シロキシ基又はシリルアミノ基、トリ−アルキルシロキシ基(各アルキルシロキシ基は、それぞれ独立に、C1−6アルキルシロキシ基である)などが挙げられる。
【0090】
上記置換基がアセタール化ホルミル基である場合、酸性の温和な条件下で加水分解することにより、他の置換基であるホルミル基(アルデヒド基;−CHO)に転化することができる。また、上記置換基(特にR10における置換基)がホルミル基、又はカルボキシル基もしくはアミノ基の場合は、例えば、これらの基を介して、抗体もしくはその断片又はその機能性もしくは標的指向性を有するタンパク質等を結合することができる。
【0091】
10は、好ましくはメチル基であり、あるいはアセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1−6アルコキシカルボニル基、C2−7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C1−6アルキルシロキシ基、シロキシ基もしくはシリルアミノ基で置換された直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基も好ましい。
【0092】
一般式(V)中、カチオン性基を含む部分となるR12は、一級アミンを有するアミン化合物由来の残基を表す。−R12基としては、例えば、下記一般式(VI)又は一般式(VII)で示される基が挙げられ、中でも、下記一般式(VII)で示される基が好ましい。
【0093】
−NH−(CH−X (VI)
(式(VI)中、Xは、一級、二級もしくは三級アミン化合物又は四級アンモニウム塩由来のアミン化合物残基を表し、rは0〜5の整数を表す。)
【0094】
−〔NH−(CH−X (VII)
(式(VII)中、Xは、一級、二級もしくは三級アミン化合物又は四級アンモニウム塩由来のアミン化合物残基を表す。s及びtは、それぞれ独立して、かつ〔NH−(CH〕ユニット間で独立して、sは1〜5(好ましくは2)の整数を表し、tは2〜5(好ましくは2)の整数を表す。)
【0095】
一般式(VI)又は一般式(VII)中、末端の−X及び−X(アミン化合物残基)としては、例えば、−NH、−NH−CH、−N(CH、及び下記式(i)〜(viii)に示される基等が好ましく挙げられ、中でも−NHが特に好ましい。なお、下記式(vi)中、Yとしては、例えば、水素原子、C1−6アルキル基、及びアミノC1−6アルキル基等が挙げられる。
【0096】
【化13】

【0097】
一般式(V)中、−R12基としては、具体的には、「−NH−NH」又は「−NH−(CH−NH−(CH−NH」が特に好ましく、中でもエチレンジアミンユニットを含む後者がより好ましい。なお、上記「−NH−(CH−NH−(CH−NH」は、pKaが6.0及び9.5という2段階を示し、コンプレックスを形成するpH7.4では、gauche型のシングルプロトン化状態であるので(下記反応式1参照)、核酸と静電相互作用をすることができる。一方、エンドソーム内(pH5.5)では、上記「−NH−(CH−NH−(CH−NH」は、さらにプロトン化され、anti型に変化するので(下記反応式1参照)、バッファー効果によるエンドソームエスケープを促進させる効果を有する。
【0098】
【化14】

【0099】
一般式(V)中、ジスルフィド結合(−S−S−)とともにリンカー部分となるLは、NH、CO、下記一般式(VIII):
−(CHp1−NH− (VIII)
(式(VIII)中、p1は1〜5(好ましくは2〜3)の整数を表す。)
で示される基、又は下記一般式(IX):
−L4a−(CHq1−L5a− (IX)
(式(IX)中、L4aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L5aは、NH又はCOを表す。q1は1〜5(好ましくは2〜3)の整数を表す。)
で示される基を表す。
【0100】
一般式(V)中、m1及びnは、各ブロック部分の繰り返し単位の数(重合度)を表す。具体的には、m1は、30〜150(好ましくは60〜100)の整数を表し、nは、100〜400(好ましくは200〜300)の整数を表す。また、m2は1〜5(好ましくは1〜2)の整数を表す。
【0101】
一般式(V)で示されるブロック共重合体の分子量は、限定されないが、23,000〜45,000であることが好ましく、より好ましくは28,000〜34,000である。また、個々のブロック部分については、PEG又はその誘導体部分の分子量は、8,000〜15,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜12,000であり、ポリカチオン部分の分子量は、15,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは18,000〜22,000である。
【0102】
一般式(V)で示されるブロック共重合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、たとえば、R10とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)をあらかじめ合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R10と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をカチオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、カチオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。
【0103】
上記PEGセグメントは、例えば、国際公開第96/32434号パンフレット、国際公開第96/33233号パンフレット、国際公開第97/06202号パンフレットに記載のブロックコポリマーのPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。PEGセグメントのうち、−R10鎖と反対側の末端は、一般式(V)において「−S−S−L」となる部分であり、−S−S−NH、−S−S−COOH、下記一般式(X):
−S−S−(CHp2−NH (X)
(式(X)中、p2は1〜5(好ましくは2〜3)の整数を表す。)
で示される基、又は一般式(XI):
−S−S−L4b−(CHq2−L5b (XI)
(式(XI)中、L4bは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L5bは、NH又はCOOHを表す。q2は1〜5(好ましくは2〜3)の整数を表す。)
で示される基であることが好ましい。
【0104】
一般式(V)で示されるブロック共重合体の具体的な製造方法としては、例えば、末端にジスルフィド基を介してアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β−ベンジル−L−アスパルテート(BLA)、Nε−Z−L−リシン等の保護アミノ酸のN−カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロック共重合体を合成し、その後、各ブロック部分の側鎖が前述したカチオン性基を有する側鎖となるように、ジエチレントリアミン(DET)等で置換又は変換する方法が挙げられる。
【0105】
6.非荷電親水性ポリマーセグメントを含まないポリカチオン荷電性ポリマー
また、本発明においては、非荷電親水性ポリマーセグメントを含まないカチオン性ポリマーセグメントのみからなるポリカチオン荷電性ポリマーを用いることもできる。ポリカチオン荷電性ポリマーは、TNF−αの発現ベクター又はCD40L及びGM−CSFもしくはそれらの発現ベクターとポリイオンコンプレックスを形成し、後述する高分子ミセルと同様に、本発明の医薬組成物に供することができる。かかるポリカチオン荷電性ポリマーとしては、ポリペプチド、多糖、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、又はビニルポリマーをベースとする主鎖を有し、且つ側鎖として、該主鎖に直接又は連結基を介して結合した式−NH−(CH−(NH(CH−NHで表される基(ここで、a及びeはそれぞれ独立して、1〜5の整数である)を含む荷電性ポリマー由来のセグメント鎖を有するポリマーが挙げられる。好ましい具体例として、下記一般式(XII)で表される化合物又はその塩があげられる。
【0106】
【化15】

【0107】
上記式中、R13は、水酸基、オキシベンジル基、又はNH−R20基を表し、ここでR20は置換されていてもよい直鎖又は分枝のC1−20アルキル基を表し、
14及びR15は、それぞれ独立して、メチレン基又はエチレン基を表し、
16は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、
17及びR18は、それぞれ独立して、水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH−X基を表し、ここでaは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して、一級、二級、若しくは三級アミン化合物、若しくは四級アンモニウム塩由来の基を一つ以上含むアミン化合物残基、又は非アミン化合物残基を表し、R17とR18の総数のうち、−NH−(CH−X基(ここで、Xは(NH(CH−NHであり、eは1〜5の整数である)であるものが少なくとも二つ以上存在し、
19は、それぞれ独立して、水素原子又は保護基であり、ここで保護基はZ基、Boc基、アセチル基、及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれ、
nは2〜5,000の整数であり、
yは0〜5,000の整数であり、
zは0〜5,000の整数であるが、y+zはnより大きくないものとし、
また、上記の一般式における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムに存在することができる。
【0108】
一般式(XII)における置換されていてもよい直鎖又は分枝のC1−20アルキル基は、一般式(II)又は(IV)において前述した通りである。
【0109】
一般式(XII)における保護基、疎水性基又は重合性基は、一般式(I)又は(III)のRにおいて前述した通りである。
【0110】
一般式(XII)におけるNH−(CH−X基は、一般式(I)〜(IV)のRにおいて前述した通りである。
【0111】
一般式(XII)で表されるポリカチオン荷電性ポリマーは、国際公開第2006/085664号パンフレットに記載された一般式(III)で表されるポリカチオン荷電性ポリマーと同一であり、同パンフレットに記載された方法に従って製造することができる。
【0112】
7.ブロック共重合体とカチオン性ポリマーとから構成される高分子ミセル
また、本発明においては、ブロック共重合体の安定化を図る観点から、上記のブロック共重合体とカチオン性ポリマーとを含んでなる高分子ミセルを提供することができる。カチオン性ポリマーは、カチオン基を有し、カチオン性(陽イオン性)を示すポリマーである。但し、カチオン性ポリマーは、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で多少のアニオン基を有していてもよい。
【0113】
カチオン性ポリマーの種類も限定されない。単一の反復単位からなるポリマーでもよく、二種以上の反復単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。カチオン性ポリマーとしてはポリアミン等が好ましく、側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体が特に好ましい。側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体としては、特に限定されないが、ポリアスパルタミド、ポリグルタミド、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、特にポリアスパルタミド誘導体及びポリグルタミド誘導体が好ましい。
【0114】
カチオン性ポリマーの分子量は、限定されるものではないが、均質な高分子ミセルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲の分子量を有することが好ましい。カチオン性ポリマーの反復単位数も制限されないが、通常はカチオン性ポリマーの分子量が所定の分子量範囲を満たすように、その反復単位の種類に応じて決定される。具体的には、カチオン性ポリマーとしてポリアスパラギン酸誘導体又はポリグルタミン酸誘導体を用いる場合、その反復単位は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、また、好ましくは300以下、より好ましくは200以下の範囲である。
【0115】
カチオン性ポリマーの好ましい具体例としては、下記一般式(I’)〜(IV’)に示すポリ(アミノ酸又はその誘導体)が挙げられる。
【0116】
【化16】

【0117】
(上記式(I’)及び(II’)中、R、R、R、R、n及びxは、上記式(I)及び(II)の同符号の基と同じ定義を表す。)
【0118】
【化17】

【0119】
(上記式(III’)及び(IV’)中、R、R、R、R、R、n、x、y及びzは、上記式(III)及び(IV)の同符号の基と同じ定義を表す。)
【0120】
上記式(I’)〜(IV’)における各基の詳細は、上記式(I)〜(IV)のブロック共重合体のポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントについて上述した通りである。なお、上記式(I’)〜(IV’)においてRが−NH−(CH−X基である場合、Xは通常は前記のA群〜E群に分類される残基の中から選択されるが、中でもB群が好ましく、特に以下のアミン化合物残基が好ましい。
【0121】
【化18】

【0122】
上記式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、d及びeは各々独立に、1〜5の整数である。
【0123】
本発明においてカチオン性ポリマーを用いる場合、カチオン性ポリマーの含有量はブロック共重合体との比率において定めることができる。当該比率は、ブロック共重合体及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン基に対する、ブロック共重合体が有するカチオン基のモル百分率(本明細書において「B/H比」と称する場合がある)によって表される。具体的には以下の式で表される。
【0124】
【数1】

【0125】
本発明では、B/H比を、通常25%超、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、また、通常99%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下の範囲とする。B/H比を前記範囲内に収めることで、低い細胞毒性と高い核酸導入効率という両特性を兼ね備えた、優れた医薬組成物を得ることが可能となる。
【0126】
なお、本発明の医薬組成物が2種以上のブロック共重合体及び/又は2種以上のカチオン性ポリマーを含む場合には、それら2種以上のブロック共重合体全体及び/又は2種以上のカチオン性ポリマー全体のB/H比が前記範囲内を満たしていればよい。
【0127】
上記の高分子ミセルは、通常は、前記のブロック共重合体及びカチオン性ポリマー、並びに必要に応じて用いられるその他の成分を、混合することにより調製される。
具体的には、前記のブロック共重合体を含んでなる第1の水性溶液と、前記のカチオン性ポリマーを含んでなる第2の水性溶液とを用意する。第1及び第2の水性溶液は、所望により濾過して精製してもよい。
【0128】
第1の水性溶液におけるブロック共重合体の濃度、及び、第2の水性溶液におけるカチオン性ポリマーの濃度は限定されず、ブロック共重合体とカチオン性ポリマーとの比率、ブロック共重合体及びカチオン性ポリマーの水性溶液の溶解度、高分子ミセルの形成効率等の条件を勘案して、適宜決定される。
第1及び第2の水性溶液の溶媒は、水性溶媒であれば、その種類は限定されない。好ましくは水であるが、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で、水に他の成分を混合した溶媒、例えば生理食塩水、水性緩衝液、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒等も用いることができる。水性緩衝液としては10mM HEPES緩衝液等が挙げられる。
【0129】
第1及び第2の水性溶液のpHは、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくはpH5以上、より好ましくはpH6.5以上であり、また、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH7.5以下である。pHの調整は、溶媒として緩衝液を用いることにより、容易に行うことができる。第1及び第2の水性溶液のpHを調整して用いることは、ブロック共重合体及びカチオン性ポリマーの荷電状態を保持し、効率的に高分子ミセルを形成する上で有利である。
【0130】
第1及び第2の水性溶液の塩濃度は、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくは5mM以上、より好ましくは10mM以上であり、また、好ましくは300mM以下、より好ましくは150mM以下である。
第1及び第2の水性溶液の混合方法も限定されない。第1の水性溶液に第2の水性溶液を加えてもよく、第2の水性溶液に第1の水性溶液を加えてもよい。また、容器に第1及び第2の水性溶液を同時に入れて混合してもよい。得られた第1及び第2の水性溶液の混合液を、適宜攪拌してもよい。
【0131】
第1及び第2の水性溶液の混合時の温度は、高分子ミセルの形成を妨げない範囲であれば限定されないが、ブロック共重合体及びカチオン性ポリマーの温度に応じた溶解度を勘案して設定することが好ましい。具体的には、通常0℃以上、また、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。
【0132】
混合後、形成された高分子ミセルをすぐに所望の用途に供してもよいが、系を平衡化させるために、混合液を静置する時間を設けてもよい。混合液を静置する時間は、高分子ミセルの形成効率等の条件によって異なるが、好ましくは50時間以下、より好ましくは30時間以下である。但し、架橋剤を用いない場合は、形成された高分子ミセルの径が経時的に増大する傾向があるので、静置時間を設けないことが好ましい場合もある。
【0133】
ブロック共重合体及びカチオン性ポリマー以外のその他の成分を加える場合、前記の第1及び第2の水性溶液の混合時又は混合後に、当該その他の成分を加えて混合すればよい。当該その他の成分をそのまま加えて混合してもよいが、当該その他の成分を含有する水性溶液を調製し、これを混合してもよい。当該その他の成分の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、第1及び第2の水性溶液について上述した条件と同様である。また、さらに透析、希釈、濃縮、攪拌等の操作を適宜付加してもよい。
【0134】
8.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、TNF−αの発現ベクターを有効成分として含有する医薬組成物(1)と、CD40L及びGM−CSFを有効成分として含有する医薬組成物(2)との組み合わせである。医薬組成物(1)及び医薬組成物(2)は、それぞれの有効成分であるTNF−αの発現ベクターならびにCD40L及びGM−CSFを薬学的に許容される担体とともに含むものであってもよく、前記したDDSに内包されたものであってもよいが、標的部位への到達性及び生体内での安定性等を考慮すると、有効成分がDDSに内包されたものであることが好ましく、非荷電親水性ポリマーセグメント及びカチオン性ポリマーセグメントを有するブロック共重合体に由来する高分子ミセルに内包されたものがより好ましい。
【0135】
かかる高分子ミセルは、通常、非荷電親水性ポリマーセグメントがシェル部分を、カチオン性ポリマーセグメントがコア部分を形成するコア−シェル型である。また、かかる高分子ミセルは、通常、疎水的相互作用によりミセル化するものであるが、他の作用によってミセル化するものであってもよい。本発明において、高分子ミセルに「内包」されるとは、通常、上記コア部分に担持されることをいう。本発明の医薬組成物中の有効成分であるTNF−αの発現ベクターならびにCD40L及びGM−CSFの発現ベクターは、負に荷電しており、CD40L及びGM−CSFも生理的条件下で負に荷電していると考えられるので、ブロック共重合体のカチオン性ポリマーセグメントとの間で静電的相互作用を生じやすく、効率的に高分子ミセルに内包される。
【0136】
一般式(I)、(II)、(III)、(IV)又は(V)で表される共重合体は、TNF−αの発現ベクター又はCD40L及びGM−CSFもしくはそれらの発現ベクターと水性媒体(水混和性の有機溶媒を含んでいてもよい。)中で混合することにより、共重合体のポリカチオン部と核酸とのポリイオンコンプレックスをコア部とし、非荷電親水性ポリマーセグメントをシェル部とする高分子ミセルを、都合よく形成できる。本発明においては、必要に応じ、TNF−αの発現ベクター又はCD40L及びGM−CSFもしくはそれらの発現ベクターとともに、生理活性タンパク質、各種ペプチド、分子内に荷電性官能基を有する低分子物質などのアニオン性物質をコア部分に含有させることもできる。本発明によれば、かような高分子ミセルそれ自体も提供される。一般式(XII)で表されるポリカチオン荷電性ポリマーは、TNF−αの発現ベクター又はCD40L及びGM−CSFもしくはそれらの発現ベクターと水性媒体(水混和性の有機溶媒を含んでいてもよい。)中で混合することにより、ポリカチオン部とポリアニオン性核酸とが静電結合したポリイオンコンプレックスを形成することができる。
【0137】
TNF−αの発現ベクター又はCD40L及びGM−CSFの発現ベクターとブロック共重合体との混合比は、ブロック共重合体中のカチオン性基(例えば、アミノ基)の総数(N)と、発現ベクター中のリン酸エステル結合の総数(P)との比率(N/P比)で表すことができる。N/P比は、高分子ミセルを形成できる限り限定されないが、1.5〜60であることが好ましく、より好ましくは1.5〜32である。特にブロック共重合体が前記一般式(V)のコポリマーである場合、N/P比は、1.5〜32であることが好ましく、より好ましくは1.5〜8であり、さらにより好ましくは2〜8、特に好ましくは4〜6である(この場合のNは、ポリカチオン部分の側鎖に含まれる1級アミンと2級アミンの合計数である。)。N/P比が上記範囲のときは、遊離のポリマーが存在せず、in vivoでの高い発現効率が得られるなどの点で好ましい。なお、上記カチオン性基(N)は、内包する核酸中のリン酸基と静電的に相互作用してイオン結合を形成することができる基を意味する。TNF−αの発現ベクター又はCD40L及びGM−CSFの発現ベクターとポリカチオン荷電性ポリマーとの混合比も同様に設定することができる。
ブロック共重合体とカチオン性ポリマーとを含んでなる高分子ミセルを用いる場合は、ブロック共重合体及びカチオン性ポリマーに対するTNF−αの発現ベクター又はCD40L及びGM−CSFの発現ベクターの比率は、[前記ベクターが有するリン酸基]に対する[ブロック共重合体及びカチオン性ポリマーが有するカチオン性基]のモル比で表すことができる。本発明においてこの比率は限定されるものではないが、通常2以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、また、通常200以下、好ましくは100以下、より好ましくは50以下の範囲である。当該高分子ミセルを含有する本発明の医薬品組成物は、核酸導入効率に優れているため、より少ない核酸の使用量で効率的に核酸を送達し、遺伝子発現することが可能である。
【0138】
高分子ミセル又はポリイオンコンプレックスの形成に用いられる溶液としては、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。TNF−αの発現ベクター又はCD40L及びGM−CSFの発現ベクター及びブロック共重合体を上記溶液に別々に溶解し、得られた核酸溶液及びブロック共重合体溶液を混合し、通常、4〜25℃で0.5〜24時間、静置又は攪拌することにより高分子ミセルを形成する。さらに、透析、攪拌、希釈、濃縮、超音波処理、温度制御、pH制御、イオン強度制御、有機溶媒の添加などの操作を適宜付加することができる。
【0139】
本発明の高分子ミセルの平均粒径は、通常、30〜200nm、好ましくは30〜150nm、より好ましくは50〜100nmである。また、粒度分布指数は、通常、0.1〜0.3である。平均粒径及び粒度分布指数の測定方法としては、例えば、動的光散乱光度計(例、大塚電子(株)社製、DLS-7000DH型)を用いる方法が挙げられる。平均粒子径が約50〜200nmである高分子ミセルは、注射剤(皮下注射用、静脈注射用、動脈注射用、筋肉注射用、腹腔内注射用等)の調製に際して使用される0.22μmのフィルターを用いて除菌濾過しても、極めて高収率で回収し得、注射剤が効率よく提供できる点で優れている。
【0140】
上記高分子ミセル及びポリイオンコンプレックスは、ブロック共重合体が過剰になる条件下で混合して形成された場合、生理的条件下(例えば、血液中)ではそれらの複合体の表面が正に荷電していると考えられる。生体内(例えば、血液中)には、負に荷電した物質(タンパク質など)が共存し、正の電荷と負の電荷による非特異的な相互作用を生じる可能性が考えられる。かかる非特異的相互作用を抑制するためには、形成した高分子ミセル又はポリイオンコンプレックスの表面を電荷変換性ポリアニオン荷電性ポリマーで被覆し、正の電荷を遮蔽する手段を採用することができる。このようにして形成された複合体を、電荷変換型三元系ポリイオンコンプレックスと称する。従って、本発明は、かかる電荷変換型三元系ポリイオンコンプレックスを含有する医薬組成物も提供することができる。電荷変換型三元系ポリイオンコンプレックスについては、国際公開第2009/133968号パンフレットを参照することができる。
【0141】
前記電荷変換性ポリアニオン荷電性ポリマーとは、一般式(I)〜(V)、(XII)で表されるポリマーの側鎖におけるR、R17又はR18
−〔NH−(CH−NHX’ (XIII)
(式中、X’は、マレイン酸誘導体を表す。s及びtは、それぞれ独立して、かつ〔NH−(CH〕ユニット間で独立して、sは1〜5の整数を表し、tは2〜5の整数を表す。)
である化合物又はその塩が挙げられる。
【0142】
前記マレイン酸誘導体としては、マレイル基、シトラコニル基、cis-アコニチル基、シクロヘキサ-1-ノイル-2-カルボキシラートアニオン、ジメチルマレイル基、3,4,5,6-テトラヒドロフタリル基又はフタリル基が挙げられ、シトラコニル基又はcis-アコニチル基が好ましい。
【0143】
式(XIII)におけるアミノ基とX’との結合に関しては、例えば、X’がシトラコニル基及びcis-アコニチル基の場合、当該結合後の上記式(XIII)に示される構造は、それぞれ以下の通りとなる。
【0144】
【化19】

【0145】
また、上記結合は、例えば、弱酸性のpH環境下(細胞のエンドソーム内等)において切断されやすいため、細胞内に取り込まれた後に、元の総電荷数に戻り、高分子ミセル又はポリイオンコンプレックスからのプラスミドの放出に影響を及ぼすことは少ない。
【0146】
電荷変換性ポリアニオン荷電性ポリマーの塩としては、前述と同義である。電荷変換性ポリアニオン荷電性ポリマー及びその好ましい具体例は、国際公開第2009/133968号パンフレット及びAngew Chem Int Ed 2008 47, 1-5に記載されており、同文献に記載された方法に準じて製造し、用いることができる。
【0147】
電荷変換型三元系ポリイオンコンプレックスを含有する医薬組成物を生体内に投与した場合、ポリカチオン荷電性ポリマーにおける細胞障害性を低減しつつ、高い遺伝子導入効率を維持し得る。
【0148】
本発明の医薬組成物は、前記有効成分以外に薬学的に許容される担体を含んでいてもよく、前記有効成分及びブロック共重合体(及び任意にカチオン性ポリマー)又はポリカチオン荷電性ポリマーとともに薬学的に許容される担体をさらに含んでいてもよく、必要により、自体公知の方法によって、凍結乾燥物とすることも可能である。薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤などの製剤添加物を用いることもできる。溶剤の好適な例としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。溶解補助剤の好適な例としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤の好適な例としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子などが挙げられる。等張化剤の好適な例としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールなどが挙げられる。緩衝剤の好適な例としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。無痛化剤の好適な例としては、例えば、ベンジルアルコールなどが挙げられる。防腐剤の好適な例としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤の好適な例としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0149】
本発明の医薬組成物は、医薬組成物(1)と医薬組成物(2)を組み合わせたものであり、同時に、別々に又は連続して使用する態様に適したものである。具体的には、以下の製剤があげられる:
a) TNF−α、CD40L及びGM−CSFが単一の発現ベクターから発現するベクターを含有する医薬組成物1種からなる単一の製剤;
b) TNF−αの発現ベクターを含有する医薬組成物(1)と、CD40L及びGM−CSFを含有する医薬組成物(2)との2種の製剤;
c) TNF−αの発現ベクターを含有する医薬組成物(1)と、CD40Lを含有する医薬組成物(2)とGM−CSFを含有する医薬組成物(2)とが別々の剤形となっている3種の製剤;
d) TNF−αの発現ベクターを含有する医薬組成物(1)と、CD40L及びGM−CSFの発現ベクターを含有する医薬組成物(2)との2種の製剤;
e) TNF−αの発現ベクターを含有する医薬組成物(1)と、CD40Lの発現ベクター含有する医薬組成物(2)とGM−CSFの発現ベクターを含有する医薬組成物(2)とが別々の剤形となっている3種の製剤。
【0150】
本発明の医薬組成物は、TNF−α、CD40L及びGM−CSFの併用により、制御性T細胞を抑制するとともに、個体における免疫バランス状態をTh2優位からTh1優位にシフトさせることができる。本発明において「制御性T細胞(Treg)」とは、CD4+CD25+FoxP3+に分画されるT細胞をいい、「制御性T細胞の抑制」とは、医薬組成物の投与前と比べて投与後に、疾患部位または脾臓等の組織におけるTregの数を有意に減少させることをいう。
本発明において「Th2優位からTh1優位にシフトさせる」とは、医薬組成物の投与前と比べて投与後の個体において、Th2サイトカインの血中レベルが低下するとともにTh1サイトカインの血中レベルが上昇することをいう。ここで、Th2サイトカインとしては、IL-4、IL-5、IL-10等があげられ、Th1サイトカインとしては、IFN-γ、IL-2、TNF-α等があげられる。
【0151】
したがって、本発明の医薬組成物をヒトを始めとする担癌動物に投与すると、優れた抗腫瘍効果を示し、かつ、有害事象の発現は低い。従って、本発明の医薬組成物は、哺乳動物(例えば、ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター等)の癌の治療剤として有用である。本発明において、「治療」は、治療のみならず予防をも含む概念である。
【0152】
本発明の医薬組成物が標的とする癌は、固形癌であっても血液癌であってもよく、具体的には、胃癌、食道癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、膵臓癌、胆道癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、腎細胞癌、肝癌、子宮癌、非小細胞肺癌、脳腫瘍、黒色腫、腹膜播腫等の固形癌;ならびに、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、非Hodgkinリンパ腫、成人T細胞白血病リンパ腫、多発性骨髄腫等の血液癌が挙げられる。なお、本発明の医薬組成物を構成する高分子ミセルは、癌組織における腫瘍血管の透過性の亢進と未発達なリンパ系の構築によって、癌に選択的かつ効果的に集積する傾向がある(EPR効果)。そのため、上記ブロック共重合体からなる高分子ミセルを用いる場合は、標的とする癌は固形癌であることが好ましい。
【0153】
あるいは、本発明の医薬組成物は、ヒトを始めとする動物に投与することによって拒絶免疫が促進されることから、感染症の治療剤としても有用である。感染症としては、宿主の細胞内小胞局在微生物による感染症があげられ、例えば、結核、マラリア、エイズ等があげられる。
【0154】
TNF−α、CD40L及びGM−CSFの発現ベクターの併用に際しては、各種発現ベクターの投与時期は限定されず、投与対象に対して同時に投与してもよいし、連続的に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。時間差をおいて投与する場合、各種発現ベクターの投与間隔は投与する有効成分、剤形、投与方法により異なるが、例えば、10日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは1から7日、更に好ましくは3から4日とすることができる。
【0155】
本発明では、上記b)〜e)の製剤を用いて、まず、TNF−αの発現ベクターを投与して、投与対象をプレコンディショニングしてTreg等による免疫寛容状態をより拒絶免疫状態に整えた後に、CD40L及びGM−CSF又はそれらの発現ベクターを投与することが好ましい。両者の投与間隔としては、TNF−αの発現ベクターを投与後10日以内、好ましくは7日以内、より好ましくは1から7日目、更に好ましくは3から4日目にCD40L及びGM−CSF又はそれらの発現ベクターを投与することができる。
【0156】
本発明の医薬組成物を癌の治療に用いる場合はまた、既存の抗癌剤と併用することも可能である。併用する場合、本発明の医薬組成物と既存の抗癌剤との投与順序は、同時又は別々であってもよい。別々の場合、本発明の医薬組成物は、既存の抗癌剤の投与前又は投与後のいずれでもよい。
【0157】
本発明の医薬組成物を感染症等の治療に用いる場合は、既存の薬剤と併用することも可能である。併用する場合、本発明の医薬組成物と既存の薬剤との投与順序は、同時又は別々であってもよい。別々の場合、本発明の医薬組成物は、既存の薬剤の投与前又は投与後のいずれでもよい。
【0158】
本発明の医薬組成物の投与量は、治療目的、投与対象の年齢、投与経路、投与回数、疾病の程度により異なり、広範囲に変えることができる。本発明の医薬組成物に含まれるTNF−α、CD40L及びGM−CSFの発現ベクターの量は、当業者であれば適宜設定することができ、例えば、TNF−α、CD40L及びGM−CSFを全て合わせた場合は、一回につき体重1kgあたり0.5 mg〜10 mg、好ましくは1 mg〜10 mg、より好ましくは2.5 mg〜5 mgとすることができる。また、各種発現ベクターを別個に分けた場合は、TNF-αの発現ベクターの投与量としては、一回につき体重1kgあたり0.5 mg〜10 mg、好ましくは1 mg〜10 mg、より好ましくは2.5 mg〜5 mgとすることができ、CD40Lの発現ベクターの投与量としては、一回につき体重1kgあたり0.5 mg〜10 mg、好ましくは1 mg〜10 mg、より好ましくは2.5 mg〜5 mgとすることができ、GM−CSFの発現ベクターの投与量としては、一回につき体重1kgあたり0.5 mg〜10 mg、好ましくは1 mg〜10 mg、より好ましくは2.5 mg〜5 mgとすることができる。また、CD40LとGM−CSFを単一のベクターに含有させた場合は、当該ベクターの投与量としては、一回につき体重1kgあたり0.5 mg〜10 mg、好ましくは1 mg〜10 mg、より好ましくは2.5 mg〜5 mgとすることができる。
【0159】
本発明の医薬組成物の投与経路は、種々の状況により特に制限されないが、例えば経口或いは非経口経路で投与することができる。ここで使用される「非経口」には、静脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、腟内及び腹腔内等への投与を含む。本発明の医薬組成物を抗癌剤として用いる場合は、癌の病変部位に応じて、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下に非経口的に投与することができる。その際、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供されることができる。また、持続点滴も可能であり、カテーテルを用いた局所投与も望ましい。本発明の医薬組成物は、単回投与又は複数回投与を行うことが可能であり、その投与期間及び間隔は、種々の状況に応じて変更されるものであり、医師の判断により随時判断されるものである。
【実施例】
【0160】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0161】
動物実験
正常免疫能を有する6週齢雌性BALB/cマウスは、日本クレアから購入した。すべてのマウスは、高圧滅菌した飼料及び滅菌水を自由摂取させて飼育した。動物実験は、東京大学及び九州大学の動物実験に関するガイドラインの原則に従って行った。
【0162】
実施例1:TNF-α及び免疫遺伝子発現ベクターの構築
マウスTNF-α、CD40L、GM-CSFの単独又は複数同時発現ベクターは、プラスミドを用いて常法に従って構築した。複数の遺伝子を同時に発現するプラスミドを作製するために、ヒトGRP78プロモーター/サイトメガロウイルスCMVエンハンサー及びポリAシグナル;ヒトGRP94プロモーター/SV40エンハンサー及びポリAシグナルが組み込まれた発現プラスミドpVIVO1(インビボジェン製)を鋳型に用いた。一つの作製例を挙げる。マウスCD40Lのシグナルペプチド及び成熟型マウスCD40LをコードするDNAを連結させ、ヒトGRP78プロモーター/サイトメガロウイルスCMVエンハンサーの下流(クローニングサイト2)に組み込んで、マウスCD40Lを発現するプラスミドpVIVO-mCD40Lを構築した。このプラスミドのヒトGRP94プロモーター/SV40エンハンサーの下流(クローニングサイト1)に、マウスGM-CSFのシグナルペプチド及び成熟型マウスGM-CSFをコードするDNAを組み込んで、CD40LとGM-CSFを同時に発現するプラスミドpVIVO-mCD40L+mGMCSFを構築した。単独遺伝子発現プラスミドの作製例としては、マウスTNF-αのシグナルペプチド及び成熟型マウスTNF-αをコードするDNAを連結させ、ヒトGRP78プロモーター/サイトメガロウイルスCMVエンハンサーの下流(クローニングサイト2)に組み込んで、マウスTNF-αを発現するプラスミドpVIVO-mTNF-αを構築した。
発現プラスミド(pVIVO-mTNF-α、pVIVO-mCD40L、pVIVO-mGMCSF、pVIVO-mCD40L+mGMCSF)の概略を図1に示す。
【0163】
実施例2:PEG-SS-P[(Asp(DET)]の調製
国際公開第2007/09960号パンフレットの実施例1に記載の方法に準じて、PEG-SS-P[Asp(DET)]を調製した。
【0164】
実施例3:TNF-α及び免疫遺伝子発現ベクター内包高分子ミセルの調製
実施例1で得られたTNF-α、CD40L及びGM-CSFの発現プラスミド、CD40L及びGM-CSF(「CD40L+GM-CSF」と称する場合がある)の同時発現プラスミド、並びに実施例2で得られた高分子ポリマー(PEG-SS-P[Asp(DET)])を10mMリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)に別々に溶解し、N/P比が20となるように混合し、各種発現プラスミドを内包した高分子ミセル(TNF-α-PEG-SS-P[Asp(DET)]、CD40L-PEG-SS-P[Asp(DET)]、GM-CSF-PEG-SS-P[Asp(DET)]、CD40L+GM-CSF-PEG-SS-P[Asp(DET)])を調製した。
【0165】
実施例4:TNF-α遺伝子治療による制御性T細胞(Treg)の抑制効果
6週齢雌性BALB/cマウスを1週間馴化した後に、同種大腸癌細胞株CT26細胞を腹腔内に2x105個移植し、腹膜播種モデルを作製した。実施例3により調製したTNF-α、CD40L及びGM-CSFを内包する各種高分子ミセル(プラスミド50μg/匹;生理食塩水200μL)を腹膜播種モデルマウスの腹腔内に投与した。これら遺伝子治療の制御性T細胞に及ぼす影響を検討するために、遺伝子治療後7日目に(播種後14日)にマウス脾臓を採取し、細胞を単離して以下の免疫学的解析を行った。対照群としては、腫瘍を移植しない正常マウス及び無治療の腹膜播種マウス(播種7日後及び14日後)を用いた。単離した細胞に、抗マウスCD4抗体及び抗マウスFoxP3抗体(いずれもベクトン・ディッキンソン(BD)製)を添付のプロトコールに準じて反応させた後、フローサイトメーター(BD FACScalibur、BD製)を用いて、CD4陽性リンパ球のうちの制御性T細胞(Treg)の割合を解析した。
【0166】
図2に示されたとおり、制御性T細胞は腹膜播種2週間後には、有意に正常マウスに比較して増加した。CD40L及びGM-CSFによる遺伝子治療は制御性T細胞に有意な影響を及ぼさなかったが、TNF-αによる遺伝子治療は播種2週後無治療マウスに比較して有意に制御性T細胞の比率を正常マウスのレベルまで低下させた。この結果から、TNF-α遺伝子治療により担癌状態の特徴とされる抑制性T細胞による免疫不全の改善が可能であることが示唆された。
【0167】
実施例5:TNF-α遺伝子治療による同種大腸癌及び乳癌腹膜播種組織における制御性T細胞の抑制効果
6週齢雌性BALB/cマウスを1週間馴化した後に、同種大腸癌細胞株CT26細胞又は乳癌細胞株4T1細胞を腹腔内に2x105個移植し、正常免疫能を有するマウスの腹膜播種モデルを作製した。移植後1週間目に、実施例2で作製したTNF-α発現プラスミド内包PEG-SS-P[Asp(DET)]高分子ミセル(混合比(N/P)=20;DNAの含有量は50μg)を腹腔内に投与する治療を単回行った。生理食塩水を同様に投与した群をコントロール群とした。治療後1週間後に腹膜播種癌を採取し、自動細胞単離装置GentleMACS dissociator(ミルテニーバイオテック)を用いて、腫瘍組織中の細胞を単離し、リンパ球のマーカー抗体CD3、CD4、CD8及び制御性T細胞のマーカー抗体FoxP3とインキュベーションさせた。その後、フローサイトメーターBD FACScalibur(べクトンディッキンソン)を用いて、リンパ球の細胞集団の同定と該細胞集団の中でのFoxP3陽性の制御性T細胞の割合を解析した。その結果を図3に示す。尚、制御性T細胞の抑制効果に関し、キャリアの種類には依存しないこと、即ち、高分子ミセルに限定されずウイルスベクター等のEPR効果を有するナノサイズのキャリアであればよいことは追加実験にて検証している。
【0168】
図3に示すように、CT26細胞腹膜播種組織中のリンパ球の数は、治療群とコントロール群に差は認められなかった(図右)。しかし、TNF-α遺伝子治療群は、リンパ球(CD3陽性)のうち、CD4+FoxP3+の制御性T細胞の数が有意にコントロール群に比較して減少していた。4T1細胞腹膜播種組織中においても、TNF-α遺伝子治療により腫瘍組織中の制御性T細胞が抑制される同様の結果が認められた。即ち、全身性免疫(脾臓)において制御性T細胞が抑制されているのを反映して、腫瘍組織においても同様にTNF-α遺伝子治療により制御性T細胞が抑制されていることがわかった。
【0169】
実施例6:TNF-α/CD40L/GM-CSF遺伝子発現による液性免疫状態Th2から細胞性免疫状態Th1への誘導
実施例4と同様に、6週齢雌性BALB/cマウスを1週間馴化した後に、同種大腸癌細胞株CT26細胞を腹腔内に2x105個移植し、腹膜播種モデルを作製した。腹膜播種1週間後に、実施例3により調製したTNF-α、CD40L及びGM-CSFを内包する各種高分子ミセル(プラスミド50μg/匹;生理食塩水200μL)をマウス腹腔内に投与した。更に、TNF-α遺伝子治療により制御性T細胞を低下させた状態下で併用遺伝子治療を行うことで、免疫バランスが腫瘍寛容状態(Th2細胞優位な状態)から腫瘍拒絶状態(Th1細胞優位な状態)へ変化するか否かを検討した。具体的には、TNF-α遺伝子治療を行った3日後に、マウス腹腔内にCD40L、GM-CSF及びCD40L+GM-CSFを内包する各種高分子ミセル(プラスミド50μg/匹;生理食塩水200μL)を再び投与し、その4日後(播種移植後14日目)に採血を行った。Th1細胞とTh2細胞の指標となるサイトカインの血中濃度をベクトン・ディッキンソンCBSキットを用いて測定し、全身の免疫バランスに関する解析を行った。対照群としては、腫瘍を移植しない正常マウス及び無治療(生理食塩水投与)の腹膜播種マウス(播種14日後)を用いた。
【0170】
図4に示した結果より、細胞性免疫Th1サイトカインであるIFN-γ及びIL-2について、IFN-αはTNF-α又はCD40Lの遺伝子治療で2倍以上の増加が認められ、IL-2はGM-CSF遺伝子治療で1.5倍以上の増加が認められた。一方、液性免疫Th2サイトカインであるIL-4に関してはGM-CSF遺伝子治療で明らかな低下が認められたが、TNF-α又はCD40Lの遺伝子治療では変化が見られなかった。IL-10に関しては、全てのマウスで血中濃度は検出限界以下であった。TNF-α遺伝子治療の後にCD40L、GM-CSF、CD40L+GM-CSFの遺伝子治療を追加した併用群のうち、CD40L+GM-CSF併用群において最もIFN-γとIL-2が亢進され、IL-4が抑制されており、明らかにTh1細胞優位となる免疫バランスの変化が認められた。
【0171】
実施例7:TNF-α遺伝子治療プレコンディショニング後CD40L/GM-CSF遺伝子治療の皮下腫瘍に対する抗腫瘍効果
6週齢雌性BALB/cマウスを1週間馴化した後に、同種大腸癌細胞株CT26細胞を腹壁皮下に5x106個移植し、皮下腫瘍モデルを作製した。腫瘍径が約7-8mmに達した時点で、実施例3により調製したTNF-αを内包する高分子ミセル(TNF-α-PEG-SS-P[Asp(DET)])(プラスミド50μg/匹;生理食塩水100μL)を皮下腫瘍内に投与した。亜群として、TNF-α遺伝子治療の3日後にCD40L+GM-CSF-PEG-SS-P[Asp(DET)]を皮下腫瘍内に追加投与した。生理食塩水を腫瘍内投与したマウスを対照群とした。
【0172】
図5に、腫瘍移植4週後の各群の肉眼所見の例を示す。その結果、生理食塩水を投与した対照群は腫瘍体積が5835±3238mm3であったのに対して、TNF-α単独による遺伝子治療を行った群は1426±719mm3であり、さらにTNF-αの処置後CD40L+GM-CSF遺伝子治療を併用した群は65±29mm3となっていた(各群n=3;腫瘍体積は1/2 x a x b2にて計算した(a:長径、b:短径))。TNF-αを処置したいずれの群も有意に抗腫瘍効果の増強を認める中で、特にTNF-αにCD40L+GM-CSFを併用した群では極めて高い抗腫瘍効果が示された。
【0173】
実施例8:TNF-α遺伝子治療プレコンディショニング後CD40L/GM-CSF併用遺伝子治療の腹膜播種に対する治療効果
実施例4と同様に、6週齢雌性BALB/cマウスを1週間馴化した後に、同種大腸癌細胞株CT26細胞を腹腔内に2x105個移植し、腹膜播種モデルを作製した。腹膜播種1週間後に、実施例3により調製したTNF-α、CD40L及びGM-CSFを内包する各種高分子ミセル(プラスミド50μg/匹;生理食塩水200μL)をマウス腹腔内に投与した。更に、TNF-α遺伝子治療により制御性T細胞を低下させた状態下で併用遺伝子治療を行うことで、腹膜播種に対する治療効果が増強するか否かを検討した。具体的には、TNF-α遺伝子治療を行った3日後に、マウス腹腔内にCD40L、GM-CSF及びCD40L+GM-CSFを内包する各種高分子ミセル(プラスミド50μg/匹;生理食塩水200μL)を再び投与し、播種後の生存期間を、併用遺伝子治療群又は単独遺伝子治療群と対照群(生理食塩水のみ投与)とで比較検討した。
【0174】
表1に示した結果より、TNF-α又はCD40Lの単独遺伝子治療群は対照群の生存期間と比較して数日程度の延長しか認められなかった。それに対して、TNF-α処置後CD40Lを投与した遺伝子併用治療群とGM-CSF単独遺伝子治療群は1週間前後、TNF-α処置後GM-CSFを投与した遺伝子併用治療群は10日前後の予後延長を認めた。最も予後延長が著明であったのは、TNF-α遺伝子治療後にCD40L+GM-CSF遺伝子治療を併用した群で、生存期間が対照群の約3倍であった。
【0175】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明によれば、難治性癌に対する新規な治療剤を提供することができ、難治性癌に対する抗腫瘍効果が上昇するとともに有害事象の発生を低く抑えることができる。また、制御性の免疫状態を改善し、さらにTh2優位の状態からTh1優位の状態に免疫バランスをシフトさせることにより、体に優しい治療効果が期待できる普遍性の高い癌の治療方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TNF−αの発現ベクターを有効成分として含有する医薬組成物(1)と、CD40L及びGM−CSFを有効成分として含有する医薬組成物(2)との組み合わせからなる医薬組成物。
【請求項2】
CD40L及びGM−CSFが遺伝子として発現ベクターに組み込まれている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
CD40L遺伝子及びGM−CSF遺伝子が単一の発現ベクターに組み込まれている、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
TNF−αの発現ベクターが投与され、次いでCD40L及びGM−CSFが投与されるように用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
TNF−αの発現ベクターが投与され、次いでCD40L及びGM−CSFが同時に投与されるように用いられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
TNF−αの発現ベクター、CD40L及び/又はGM−CSFが、下記いずれかのブロック共重合体からなる高分子ミセル、又は下記いずれかのブロック共重合体とカチオン性ポリマーとを含んでなり、ブロック共重合体及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン基に対する、ブロック共重合体が有するカチオン基のモル百分率(B/H比)が、25〜99%である高分子ミセルに内包されてなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物:
(1)非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとを有するブロック共重合体、又は
(2)非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとを有し、該親水性ポリマーセグメントと該カチオン性ポリマーセグメントがジスルフィド結合を介して結合したブロック共重合体。
【請求項7】
ブロック共重合体(1)が、下記一般式(I)又は(II)で表される、請求項6に記載の医薬組成物。
【化1】

(上記各式中、
は水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1―12アルキル基を表し、
、Lは連結基を表し、
はメチレン基又はエチレン基を表し、
は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、
はRと同一であるか又は開始剤残基であり、
はそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH−X基を表し、ここで、Xはそれぞれ独立してpKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基であるか、あるいは一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基であり、aは1〜5の整数であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、xは0〜5,000の整数であるが、xはnより大きくないとする。
また、上記の一般式における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムに存在することができる。)
【請求項8】
ブロック共重合体(1)が、下記一般式(III)又は(IV)で表される、請求項6に記載の医薬組成物。
【化2】

(上記各式中、
は水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基を表し、
、Lは連結基を表し、
はメチレン基又はエチレン基を表し、
は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、
はRと同一であるか又は開始剤残基であり、Rはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH−X基を表し、ここでXはそれぞれ独立してpKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基であるか、あるいは一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基であり、aは1〜5の整数であり、
はそれぞれ独立して水素原子又は保護基であり、
mは5〜20,000の整数であり、
nは2〜5,000の整数であり、
yは0〜4,999の整数であり、
zは1〜4,999の整数であるが、zはnより小さく、y+zはnより大きくないとする。
また、上記の一般式における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムに存在することができる。)
【請求項9】
Xが下記のA、B、C、D又はE群に示す式で表される基である、請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【化3】

(式中、Xは水素原子又はC1−6アルキル基であり、XはアミノC1−6アルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、dは1〜5の整数を表し、eは1〜5の整数を表し、fは0〜15の整数を表し、Rは保護基を表し、gは0〜15の整数を表す。)
【請求項10】
ブロック共重合体(2)が、下記一般式(V)で表される、請求項6〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【化4】

〔式中、R10及びR11はそれぞれ独立して、水素原子又は置換されていてもよい直鎖もしくは分枝のC1−12アルキル基を表し、
12は、一級アミンを有するアミン化合物由来の残基を表し、
は、NH、CO、下記一般式(VIII):
−(CHp1−NH− (VIII)
(式中、p1は1〜5の整数を表す。)
で示される基、又は下記一般式(IX):
−L4a−(CHq1−L5a− (IX)
(式中、L4aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L5aは、NH又はCOを表す。q1は1〜5の整数を表す。)
で示される基を表し、m1は30〜150の整数を表し、m2は1〜5の整数を表し、nは100〜400の整数を表す。〕
【請求項11】
12が下記一般式(VI):
−NH−(CH−X− (VI)
(式中、Xは、一級、二級もしくは三級アミン化合物又は四級アンモニウム塩由来のアミン化合物残基を表し、rは0〜5の整数を表す。)
で示される基、又は下記一般式(VII):
−〔NH−(CH−X− (VII)
(式中、Xは、一級、二級もしくは三級アミン化合物又は四級アンモニウム塩由来のアミン化合物残基を表す。s及びtは、それぞれ独立して、かつ〔NH−(CH〕ユニット間で独立して、sは1〜5の整数を表し、tは2〜5の整数を表す。)
で示される基を表す、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
12が−NH−NH又は−NH−(CH−NH−(CH−NHである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ベクターがプラスミドである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
制御性T細胞を抑制し、拒絶免疫Th1を誘導する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
癌の治療用である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−140369(P2012−140369A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294035(P2010−294035)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】