説明

TNF−アルファ関連疾患の治療用ヒト抗体の製剤

【課題】腫瘍壊死因子α関連疾患を治療するためのヒト抗体を含有した、保存期間の長い安定した水性医薬製剤の提供。
【解決手段】治療用抗体を約45mg/mlを上回る濃度で含有し、十分な量のマンニトールに代表されるポリオール、ポリソルベート80の如き界面活性剤、及びpH約4〜8のクエン酸及び/又はリン酸を含む緩衝液系を含有する水性医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はTNF−α関連疾患の治療用ヒト抗体の製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子α(TNFα)は単球やマクロファージ等の多数の細胞型により産生されるサイトカインであり、所定マウス腫瘍の壊死誘導能により最初に同定された(例えばOld,L.(1985)Science 230:630−632参照)。その後、悪液質に関連するカケクチンと呼ばれる因子がTNFαと同一分子であることが判明した。TNFαはショックを媒介することが示されている(例えばBeutler,B.and Cerami,A.(1988)Annu.Rev.Biochem.57:505−518;Beutler,B.and Cerami,A.(1989)Annu.Rev.Immunol.7:625−655参照)。更に、TNFαは敗血症、感染、自己免疫疾患、移植拒絶反応及び移植片対宿主疾患等の種々の他のヒト疾患の病態生理に関与することが示されている(例えばMoeller,A.ら(1990)Cytokine 2:162−169;Moellerらの米国特許第5,231,024号;Moeller,A.らのヨーロッパ特許公開第260 610 B1号;Vasilli,P.(1992)Annu.Rev.Immunol.10:411−452;Tracey,K.J.and Cerami,A.(1994)Annu.Rev.Med.45:491−503参照)。
【0003】
ヒトTNFα(hTNFα)は種々のヒト疾患で有害な役割を果たすため、hTNFα活性を阻害又は対抗するように治療ストラテジーが設計されている。特に、hTNFαと結合して中和する抗体がhTNFα活性の阻害手段として探求されている。このような抗体の最初期のものとして、hTNFαで免疫したマウスのリンパ球から作製したハイブリドーマにより分泌されるマウスモノクローナル抗体(mAb)が挙げられる(例えばHahn Tら,(1985)Proc Natl Acad Sci USA 82:3814−3818;Liang,C−M.ら(1986)Biochem.Biophys.Res.Commun.137:847−854;Hirai,M.ら(1987)J.Immunol.Methods 96:57−62;Fendly,B.M.ら(1987)Hybridoma 6:359−370;Moeller,A.ら(1990)Cytokine 2:162−169;Moellerらの米国特許第5,231,024号;Wallach,D.のヨーロッパ特許公開第186 833 B1号;Oldらのヨーロッパ特許出願公開第218 868 A1号;Moeller,A.らのヨーロッパ特許公開第260 610 B1号参照)。これらのマウス抗hTNFα抗体はhTNFαに対して高親和性(例えばKd≦10−9M)を示すことが多く、hTNFα活性を中和することができたが、そのin vivo使用はマウス抗体をヒトに投与することに伴う問題(例えば血清半減期が短く、所定ヒトエフェクター機能を誘導することができず、ヒトでマウス抗体に対する望ましくない免疫応答(「ヒト抗マウス抗体」(HAMA)反応)を誘発する)により制限され得る。
【0004】
完全マウス抗体をヒトで使用することに伴う問題を解決しようとして、より「ヒトに似る」ようにマウス抗hTNFα抗体が遺伝子組換えされた。例えば、抗体鎖の可変領域がマウスに由来し、抗体鎖の定常領域がヒトに由来するキメラ抗体が作製された(Knight,D.Mら(1993)Mol.Immunol.30:1443−1453;Daddona,P.E.らのPCT公開第WO92/16553号)。更に、抗体可変領域の超可変ドメインがマウスに由来するが、可変領域の残余と抗体定常領域がヒトに由来するヒト化抗体も作製された(Adair,J.R.らのPCT公開第WO92/11383号)。しかし、これらのキメラ抗体やヒト化抗体は依然としてマウス配列を含んでいるので、特に、例えばリウマチ様関節炎等の慢性疾患に長期間投与する場合には、望ましくない免疫反応であるヒト抗キメラ(HACA)反応を生じる恐れがある(例えばElliott,M.J.ら(1994)Lancet 344:1125−1127;Elliot,M.J.ら(1994)Lancet 344:1105−1110参照)。
【0005】
完全ヒト抗hTNFα抗体は長期間使用してもHAMA反応を誘発しないので、マウスmAb又はその誘導体(例えばキメラ又はヒト化抗体)に対する好ましいhTNFα阻害剤である。ヒトハイブリドーマ技術を使用してhTNFαに対するヒトモノクローナル自己抗体が作製されている(Boyle,P.ら(1993)Cell.Immunol.152:556−568;Boyle,P.ら(1993)Cell.Immunol.152:569−581;Boyleらのヨーロッパ特許出願公開第614 984 A2号)。しかし、これらのハイブリドーマ由来モノクローナル自己抗体はhTNFαに対する親和性が従来の方法では計算できないほど低いため、可溶性hTNFαと結合することができず、hTNFαにより誘導される細胞毒性を中和することができなかった(Boyleら;前出参照)。更に、ヒトハイブリドーマ技術の成功はhTNFαに特異的な自己抗体を産生するリンパ球がヒト末梢血中に天然に存在するか否かによる。ヒト被験体でhTNFαに対する血清自己抗体を検出している報告もある(Fomsgaard,A.ら(1989)Scand.J.Immureol.30:219−223;Bendtzen,K.ら(1990)Prog.Leukocyte Biol.10B:447−452)が、検出していない報告もある(Leusch,H−G.ら(1991)J.Immunol.Methods 139:145−147)。
【0006】
天然ヒト抗hTNFα抗体の代用は組換えhTNFα抗体である。比較的低親和性(即ちK〜10−7M)と速い解離速度(即ちKoff〜10−2sec−1)でhTNFαと結合する組換えヒト抗体が記載されている(Griffiths,A.D.ら(1993)EMBO J.12:725−734)。しかし、これらの抗体は解離速度が比較的速いため、治療用には適していないと思われる。更に、hTNFα活性を中和せずに、むしろhTNFαと細胞表面の結合を増強し、hTNFαのインターナリゼーションを増強する組換えヒト抗hTNFαが記載されている(Lidbury,A.ら(1994)Biotechnol.Ther.5:27−45;Aston,R.らのPCT公開第WO92/03145号)。
【0007】
高親和性と低解離速度で可溶性hTNFαと結合し、hTNFαにより誘導される細胞毒性(in vitro及びin vivo)やhTNFαにより誘導される細胞活性化等のhTNFα活性を中和することが可能な組換えヒト抗体も記載されている(米国特許第6,090,382号参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,231,024号明細書
【特許文献2】欧州特許公開第260610号明細書
【特許文献3】欧州特許公開第186833号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第218868号明細書
【特許文献5】国際公開第92/16553号
【特許文献6】国際公開第92/11383号
【特許文献7】欧州特許出願公開第614984号明細書
【特許文献8】国際公開第92/03145号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Old,L.(1985)Science 230:630−632
【非特許文献2】Beutler,B.and Cerami,A.(1988)Annu.Rev.Biochem.57:505−518
【非特許文献3】Beutler,B.and Cerami,A.(1989)Annu.Rev.Immunol.7:625−655
【非特許文献4】Moeller,A.ら(1990)Cytokine 2:162−169
【非特許文献5】Vasilli,P.(1992)Annu.Rev.Immunol.10:411−452
【非特許文献6】Tracey,K.J.and Cerami,A.(1994)Annu.Rev.Med.45:491−503
【非特許文献7】Hahn Tら,(1985)Proc Natl Acad Sci USA 82:3814−3818
【非特許文献8】Liang,C−M.ら(1986)Biochem.Biophys.Res.Commun.137:847−854
【非特許文献9】Hirai,M.ら(1987)J.Immunol.Methods 96:57−62
【非特許文献10】Fendly,B.M.ら(1987)Hybridoma 6:359−370
【非特許文献11】Knight,D.Mら(1993)Mol.Immunol.30:1443−1453
【非特許文献12】Elliott,M.J.ら(1994)Lancet 344:1125−1127
【非特許文献13】Elliot,M.J.ら(1994)Lancet 344:1105−1110
【非特許文献14】Boyle,P.ら(1993)Cell.Immunol.152:556−568
【非特許文献15】Boyle,P.ら(1993)Cell.Immunol.152:569−581
【非特許文献16】Fomsgaard,A.ら(1989)Scand.J.Immureol.30:219−223
【非特許文献17】Bendtzen,K.ら(1990)Prog.Leukocyte Biol.10B:447−452
【非特許文献18】Leusch,H−G.ら(1991)J.Immunol.Methods 139:145−147
【非特許文献19】Griffiths,A.D.ら(1993)EMBO J.12:725−734
【非特許文献20】Lidbury,A.ら(1994)Biotechnol.Ther.5:27−45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有害なhTNFα活性を阻害又は対抗するために治療用に適した抗体を含有しており、保存期間の長い安定した水性医薬製剤が必要とされている。治療用に適した抗体を含有しており、投与し易く、高濃度の蛋白質を含有しており、保存期間の長い安定した水性医薬製剤も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はpH約4〜約8と少なくとも18か月間の保存期間をもつ製剤を形成する緩衝液中に治療有効量の抗体から構成される液体水性医薬製剤を提供する。本発明は更にpH約4〜8と液体状態で少なくとも18か月間の保存期間をもつ製剤を形成する緩衝液中に治療有効量の抗体を含有する水性医薬製剤も含む。1態様では、医薬製剤は高い安定性をもつ。別の態様では、本発明の製剤は製剤の少なくとも3回の凍結/解凍サイクル後に安定である。別の態様では、抗体はTNFαに特異的である。更に別の態様では、抗体はヒトTNFαに特異的である。更に別の態様では、抗体はD2E7である。
【0012】
本発明は更にpH4〜8と温度2〜8℃で少なくとも12か月間の高い安定性をもつ製剤を形成する緩衝液中に治療有効量の抗体を含有する液体水性医薬製剤を提供する。1態様では、製剤は少なくとも18か月間の高い安定性をもつ。別の態様では、抗体はTNFαに特異的である。更に別の態様では、抗体はヒトTNFαに特異的である。別の態様では、抗体はD2E7である。
【0013】
本発明は更にpH約4〜約8の容易に投与可能な製剤を形成する緩衝液中に治療有効量の抗体を含有する液体水性医薬製剤を提供する。1態様では、抗体はTNFαに特異的である。更に別の態様では、抗体はヒトTNFαに特異的である。別の態様では、抗体はD2E7である。
【0014】
本発明の1態様では、液体水性医薬製剤は注射用に適している。別の態様では、製剤は単回使用sc注射用に適している。別の態様では、液体水性医薬製剤中の抗体濃度は約1〜150mg/mlである。更に別の態様では、製剤中の抗体濃度は約50mg/mlである。更に別の態様では、製剤は蛋白質濃度が高い。本発明の更に別の態様では、製剤は光に感受性でない。
【0015】
本発明の1態様では、液体水性医薬製剤はいずれも表面プラズモン共鳴により測定した場合に1×10−8M以下のKと1×10−3−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離し、標準in vitro L929アッセイにおいて1×10−7M以下のIC50でヒトTNFα細胞毒性を中和する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。別の態様では、本発明の製剤は5×10−4−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。別の態様では、製剤は1×10−4−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。更に別の態様では、本発明の製剤は標準in vitro L929アッセイにおいて1×10−8M以下のIC50でヒトTNFα細胞毒性を中和する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。本発明の更に別の態様では、本発明の製剤は標準in vitro L929アッセイにおいて1×10−9M以下のIC50でヒトTNFα細胞毒性を中和する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。本発明の別の態様は、抗体、又はその抗原結合部分が標準in vitro L929アッセイにおいて1×10−10M以下のIC50でヒトTNFα細胞毒性を中和する製剤を含む。
【0016】
本発明の別の態様では、液体水性医薬製剤は組換え抗体、又はその抗原結合部分である抗体、又はその抗原結合部分を含有する。別の態様では、製剤はヒト臍静脈内皮細胞でヒトTNFαにより誘導されるELAM−1の発現を阻害する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。更に別の態様では、本発明の製剤はD2E7抗体を含有する。
【0017】
本発明の別の態様では、液体水性医薬製剤は、
a)表面プラズモン共鳴により測定した場合に1×10−3−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離し;
b)配列番号3のアミノ酸配列を含むか、あるいは1、4、5、7もしくは8位の単一アラニン置換又は1、3、4、6、7、8及び/又は9位の1〜5カ所の保存アミノ酸置換により配列番号3から変異したアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメインをもち;
c)配列番号4のアミノ酸配列を含むか、あるいは2、3、4、5、6、8、9、10もしくは11位の単一アラニン置換又は2、3、4、5、6、8、9、10、11及び/又は12位の1〜5カ所の保存アミノ酸置換により配列番号4から変異したアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメインをもつ抗体、又はその抗原結合部分を含有する。別の態様では、本発明の製剤は5×10−4−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。本発明の更に別の態様では、製剤は1×10−4−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。
【0018】
本発明の更に別の態様では、液体水性医薬製剤は配列番号3のアミノ酸配列を含むか、又は1、4、5、7もしくは8位の単一アラニン置換により配列番号3から変異したアミノ酸配列を含むCDR3ドメインをもつ軽鎖可変領域(LCVR)と、配列番号4のアミノ酸配列を含むか、又は2、3、4、5、6、8、9、10もしくは11位の単一アラニン置換により配列番号4から変異したアミノ酸配列を含むCDR3ドメインをもつ重鎖可変領域(HCVR)をもつ抗体、又はその抗原結合部分を含有する。別の態様では、本発明の製剤は抗体、又はその抗原結合部分のLCVRが配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR2ドメインを更にもち、抗体、又はその抗原結合部分のHCVRが配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR2ドメインを更にもつ抗体を含有する。更に別の態様では、本発明の製剤は抗体、又はその抗原結合部分のLCVRが配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを更にもち、HCVRが配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを更にもつ抗体を含有する。
【0019】
本発明の更に別の態様では、液体水性医薬製剤に含まれる抗体又はその抗原結合部分は配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)をもつ。別の態様では、抗体、又はその抗原結合部分はIgG1重鎖定常領域をもつ。更に別の態様では、抗体、又はその抗原結合部分はIgG4重鎖定常領域をもつ。別の態様では、抗体、又はその抗原結合部分はFabフラグメントである。更に別の態様では、抗体、又はその抗原結合部分は1本鎖Fvフラグメントである。
【0020】
本発明の1態様では、液体水性医薬製剤は配列番号3、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含むCDR3ドメインをもつ軽鎖可変領域(LCVR)又は配列番号4、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含むCDR3ドメインをもつ重鎖可変領域(HCVR)をもつ抗体、又はその抗原結合部分を含有する。更に別の態様では、抗体、又はその抗原結合部分はヒトTNFα、チンパンジーTNFα並びにヒヒTNFα、マーモセットTNFα、カニクイザルTNFα及びアカゲザルTNFαから構成される群から選択される少なくとも1種の追加的な霊長類TNFαの活性を中和する。別の態様では、本発明の製剤は更にマウスTNFαの活性を中和する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。本発明の製剤は更にブタTNFαの活性を中和する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。
【0021】
別の態様では、本発明はヒトTNFαと結合し、
配列番号3のアミノ酸配列を含むか、あるいは1、4、5、7もしくは8位の単一アラニン置換又は1、3、4、6、7、8及び/又は9位の1〜5カ所の保存アミノ酸置換により配列番号3から変異したアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメインと、
配列番号4のアミノ酸配列を含むか、あるいは2、3、4、5、6、8、9、10もしくは11位の単一アラニン置換又は2、3、4、5、6、8、9、10、11及び/又は12位の1〜5カ所の保存アミノ酸置換により配列番号4から変異したアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメインを含む抗体、又はその抗原結合部分を含有する液体水性医薬製剤を提供する。1態様では、液体水性医薬製剤はヒトTNFαと結合し、配列番号3、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含むCDR3ドメインをもつ軽鎖可変領域(LCVR)又は配列番号4、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号34から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含むCDR3ドメインをもつ重鎖可変領域(HCVR)を含む抗体を含有する。本発明の別の態様では、抗体、又はその抗原結合部分はヒトTNFαと結合し、抗体D2E7又はその抗原結合部分である。
【0022】
本発明は更に約45mg/mlを上回る濃度で治療用抗体を製剤化するために十分な量のポリオール、界面活性剤、及びpH約4〜8のクエン酸及び/又はリン酸を含む緩衝液系を含有する水性医薬組成物を提供する。1態様では、ポリオールはマンニトールであり、界面活性剤はポリソルベート80である。別の態様では、組成物は5〜20mg/mlのマンニトールと0.1〜10mg/mlのポリソルベート80を含有する。別の態様では、組成物は抗体D2E7を含有する。
【0023】
本発明は更に1〜150mg/mlの抗体と、5〜20mg/mlのマンニトールと、0.1〜10mg/mlのTween−80と、pH4〜8のクエン酸及び/又はリン酸を含む緩衝液系を含有する液体水性医薬製剤を提供する。1態様では、抗体はhTNFαに特異的である。別の態様では、製剤は約40mgの抗体を含有する。本発明は更に約50mg/mlの抗体と、約12mg/mlのマンニトールと、約1mg/mlのTween−80と、pH約4〜約8のクエン酸及び/又はリン酸を含む緩衝液系を含有する液体水性医薬製剤を提供する。1態様では、製剤のpHは約4.5〜約6.0である。別の態様では、pHは約4.8〜約5.5である。更に別の態様では、本発明のpHは約5.0〜約5.2である。
【0024】
本発明の1態様では、液体水性医薬製剤は更に約1.305mg/mlのクエン酸と、約0.305mg/mlのクエン酸ナトリウムと、約1.53mg/mlのリン酸2ナトリウム2水和物と、約0.86mg/mlのリン酸2水素ナトリウム2水和物と、約6.165mg/mlの塩化ナトリウムを含有する。別の態様では、本発明の製剤はhTNFαに対する抗体を含有する。更に別の態様では、本発明の製剤は抗体D2E7を含有する。更に別の態様では、本発明の製剤はTNFα活性が有害となる疾患に罹患している被験体に、被験体におけるTNFα活性を阻害するように投与する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は約1〜約150mg/mlの抗体濃度範囲の高濃度の蛋白質を含有しており、高い安定性をもつpH約4〜約8の液体水性医薬製剤に関する。本発明は更に有害なTNFα活性を特徴とする病態に罹患している被験体の治療に使用する液体水性医薬製剤に関する。本発明の製剤は以下の成分:高親和性、低解離速度及び高中和能でヒトTNFαと結合する抗体;クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸2ナトリウム2水和物、及びリン酸2水素ナトリウム2水和物を含む緩衝液;マンニトールと塩化ナトリウムを含む等張化剤;ポリソルベート80を含む洗浄剤;並びにpH調整用水酸化ナトリウムを含有する。
【0026】
定義
本発明を理解し易くするために、まず所定の用語を定義する。
【0027】
「被験体」なる用語は例えば原核生物及び真核生物等の生物を含むものとする。被験体の例としては、例えばヒト、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラット、及びトランスジェニック非ヒト動物等の哺乳動物が挙げられる。本発明の特定態様では、被験体はヒトである。
【0028】
「医薬製剤」なる用語は活性成分の生物活性を明白に有効にできるような形態であり、製剤を投与する被験体に有意毒性の付加成分を含有しない製剤を意味する。「医薬的に許容可能な」賦形剤(担体、添加剤)は使用する活性成分の有効用量を提供するように被験体哺乳動物に妥当に投与することができるものである。
【0029】
「安定な」製剤とはこの製剤に含まれる抗体がその保存後に物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物活性を実質的に維持する製剤である。蛋白質安定性を測定するための種々の分析技術が当分野で利用可能であり、例えばPeptide and Protein Drug Delivery,247−301,Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991)やJones,A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29−90(1993)に記載されている。安定性は選択温度で選択時間測定することができる。製剤は室温(約30℃)又は40℃で少なくとも1か月間及び/又は約2〜8℃で少なくとも1年間又は少なくとも2年間安定であることが好ましい。更に、製剤は製剤の(例えば−70℃まで)凍結及び解凍(本明細書では「凍結/解凍サイクル」と言う)後に安定であることが好ましい。
【0030】
抗体は色及び/又は透明度の目視試験又はUV光散乱もしくはサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した場合に凝集、沈殿及び/又は変性の徴候を実質的に示さない場合に医薬製剤中で「その物理的安定性を維持している」。
【0031】
抗体は、所与時点の化学的安定性に関して抗体が以下に定義するようなその生物活性を維持しているとみなされるような場合に、医薬製剤中で「その化学的安定性を維持している」。化学的安定性は抗体の化学変化形態を検出及び定量することにより試験することができる。化学変化としてはサイズ変化(例えば短縮)が挙げられ、例えばサイズ排除クロマトグラフィー、SDS−PAGE及び/又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間質量分析法(MALDI/TOF MS)を使用して測定することができる。他の型の化学変化としては、(例えば脱アミド化の結果として生じる)電荷変化が挙げられ、例えばイオン交換クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0032】
抗体は、医薬製剤中の抗体がその所期目的に生物学的に活性である場合に医薬製剤中で「その生物活性を維持している」。例えば、医薬製剤中の抗体の生物活性が(例えば抗原結合アッセイで測定した場合に)医薬製剤の製造時の生物活性の(アッセイの誤差の範囲内で)約30%、約20%、又は約10%以内である場合に生物活性は維持されている。
【0033】
「等張」とは当分野で公認用語である。等張とは、例えば該当製剤がヒト血液とほぼ同一浸透圧であることを意味することができる。等張製剤は一般に浸透圧約250〜350mOsmである。等張性は例えば蒸気圧又は氷点降下型浸透圧計を使用して測定することができる。「等張化剤」は製剤を等張にする化合物である。
【0034】
「ポリオール」は複数の水酸基をもつ物質であり、糖(還元及び非還元糖)、糖アルコール及び糖酸が挙げられる。本発明において好ましいポリオールは分子量約600kD未満(例えば約120〜約400kD)である。「還元糖」は金属イオンを還元するか又は蛋白質中のリシン及び他のアミノ基と共有的に反応するヘミアセタール基を含む糖であり、「非還元糖」は還元糖のこれらの性質をもたない糖である。還元糖の例はフルクトース、マンノース、マルトース、ラクトース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトース及びグルコースである。非還元糖としてはスクロース、トレハロース、ソルボース、メレジトース及びラフィノースが挙げられる。マンニトール、キシリトール、エリスリトール、スレイトール、ソルビトール及びグリセロールは糖アルコールの例である。糖酸としてはL−グルコン酸とその金属塩が挙げられる。製剤が凍結解凍安定性であることが所望される場合には、ポリオールは製剤中の抗体を脱安定化するように凝固点(例えば−20℃)で結晶化しないものが好ましい。ポリオールは等張化剤としても機能することができる。本発明の1態様では、製剤の1成分は濃度5〜20mg/mlのマンニトールである。本発明の好ましい態様では、マンニトールの濃度は7.5〜15mg/mlである。本発明のより好ましい態様では、マンニトールの濃度は10〜14mg/mlである。
【0035】
本明細書で使用する「緩衝液」なる用語は酸−塩基共役成分の作用によりpH変化を抑える緩衝溶液を意味する。本発明の緩衝液はpH約4〜約8;好ましくは約4.5〜約7であり;pH約5.0〜約6.5が最も好ましい。pHをこの範囲に制御する緩衝液の例としては酢酸塩(例えば酢酸ナトリウム)、琥珀酸塩(例えば琥珀酸ナトリウム)、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩及び他の有機酸緩衝液が挙げられる。
【0036】
本発明との関連で薬理学的な意味では、抗体の「治療有効量」又は「有効量」とは抗体がその治療に有効である疾患の予防又は治療に有効な量を意味する。「疾患」とは抗体による治療が有効である任意状態を意味する。これは被験体を該当疾患にかかり易くする病態等の慢性及び急性疾患又は疾病を含む。
【0037】
「防腐剤」とは例えば多目的製剤の生産を容易にするように細菌作用を本質的に抑制するために製剤に添加することができる化合物である。可能な防腐剤の例としては塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンズアルコニウム(アルキル基が長鎖化合物である塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウムの混合物)、及び塩化ベンゼトニウムが挙げられる。他の型の防腐剤としては芳香族アルコール(例えばフェノール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール)、アルキルパラベン(例えばメチル又はプロピルパラベン)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノール、及びm−クレゾールが挙げられる。
【0038】
「治療」とは治療処置と予防処置の両者を意味する。治療を要するものとしては疾患を既にもつものと疾患を予防すべきものが挙げられる。
【0039】
本明細書で使用する「非経口投与」及び「非経口投与する」なる用語は経腸及び局所投与以外の(通常は注射による)投与方法を意味し、限定しないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、関節包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、上皮下、関節内、関節包下、クモ膜下、髄腔内及び胸骨内注射及び輸液が挙げられる。
【0040】
本明細書で使用する「全身投与」、「全身投与する」、「末梢投与」及び「末梢投与する」なる用語は、患者の体内に侵入して代謝等のプロセスを受けるように化合物、薬剤又は他の材料を中枢神経系直接投与以外の方法で投与することを意味し、例えば皮下投与が挙げられる。
【0041】
「医薬的に許容可能なキャリヤー」なる用語は当分野で公認されている通りであり、哺乳動物に投与するのに適した医薬的に許容可能な材料、組成物又は担体が挙げられる。キャリヤーとしては該当物質をある臓器又は体内の一部から別の臓器又は体内の一部に輸送又は送達するのに関与する液体又は固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶剤又はカプセル封入剤が挙げられる。各キャリヤーは製剤の他の成分と適合可能であり、患者に有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。
【0042】
本明細書で使用する「ヒトTNFα」(本明細書ではhTNFα、又は単にhTNFと略称する)なる用語は17kD分泌形及び非共有結合17kD分子の三量体から構成される生物学的に活性な形態である26kD膜結合形として存在するヒトサイトカインを意味する。hTNFαの構造は例えば、Pennica,D.ら(1984)Nature 312:724−729;Davis,J.M.ら(1987)Biochemistry 26:1322−1326;及びJones,E.Y.ら(1989)Nature 338:225−228に詳細に記載されている。ヒトTNFαなる用語は標準的な組換え発現法により製造することができるか又は市販(R & D Systems,Catalog No.210−TA,Minneapolis,MN)されている組換えヒトTNFα(rhTNFα)も含むものとする。
【0043】
本明細書で使用する「抗体」なる用語はジスルフィド結合により相互に結合した2個の重(H)鎖と2個の軽(L)鎖からなる4個のポリペプチド鎖から構成される免疫グロブリン分子を意味する。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略称する)と重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域はCH1、CH2及びCH3の3個のドメインから構成される。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略称する)と軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1個のドメインCLから構成される。VH及びVL領域は更にフレームワーク領域(FR)と呼ぶ高度に保存された領域を挟んで相補性決定領域(CDR)と呼ぶ超可変領域に分割される。各VH及びVLはアミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配置された3個のCDRと4個のFRから構成される。本発明の1態様では、製剤は各々参考として本明細書に援用されている米国特許第6,090,382号及び6,258,562号に記載されているもの等のCDR1、CDR2、及びCDR3配列をもつ抗体を含有する。
【0044】
本明細書で使用する抗体の「抗原結合部分」(又は単に「抗体部分」)なる用語は抗原(例えばhTNFα)と特異的に結合する能力を保持する抗体の1以上のフラグメントを意味する。抗体の抗原結合機能は全長抗体のフラグメントにより実施できることが示されている。抗体の「抗原結合部分」なる用語に含まれる結合フラグメントの例としては、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインから構成される1価フラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド結合により結合された2個のFabフラグメントを含む2価フラグメントであるF(ab’)フラグメント;(iii)VHドメインとCH1ドメインから構成されるFdフラグメント;(iv)抗体の単一アームのVLドメインとVHドメインから構成されるFvフラグメント;(v)VHドメインから構成されるdAbフラグメント(Wardら,(1989)Nature 341:544−546);及び(vi)分離した相補性決定領域(CDR)が挙げられる。更に、Fvフラグメントの2個のドメインVL及びVHは別々の遺伝子によりコードされるが、組換え法を使用してVL領域とVH領域が対合して1価分子を形成する単一蛋白質鎖とすることが可能な合成リンカーにより結合することができる(1本鎖Fv(scFv)として知られる;例えばBirdら(1988)Science 242:423−426;及びHustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883参照)。このような1本鎖抗体も抗体の「抗原結合部分」なる用語に含むものとする。二重特異性抗体(diabody)等の他の形態の1本鎖抗体も含む。二重特異性抗体は2価二重特異性抗体であり、VHドメインとVLドメインが単一ポリペプチド鎖上で発現されるが、同一鎖上の2個のドメイン間で対合させるには短いリンカーを使用し、これらのドメインを別の鎖の相補的ドメインと対合させ、2個の抗原結合部位を形成する(例えばHolliger,P.ら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448;Poljak,R.J.ら(1994)Structure 2:1121−1123参照)。本発明の1態様では、製剤は各々参考として本明細書に援用されている米国特許第6,090,382号及び6,258,562号に記載されている抗原結合部分を含有する。
【0045】
更に、抗体又はその抗原結合部分は抗体又は抗体部分と1種以上の他の蛋白質又はペプチドの共有又は非共有的会合により形成される大型免疫接着分子の一部でもよい。このような免疫接着分子の例としてはストレプトアビジンコア領域を使用して四量体scFv分子を作製したり(Kipriyanov,S.M.ら(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93−101)、システイン残基、マーカーペプチド及びC末端ポリヒスチジンタグを使用して2価ビオチン化scFv分子を作製することなどが挙げられる(Kipriyanov,S.M.ら(1994)Mol.Immunol.31:1047−1058)。FabフラグメントやF(ab’)フラグメント等の抗体部分は完全抗体の夫々パパイン又はペプシン消化等の慣用技術を使用して完全抗体から作製することができる。更に、抗体、抗体部分及び免疫接着分子は本明細書に記載するような標準組換えDNA技術を使用して獲得することができる。
【0046】
本明細書で使用する「ヒト抗体」なる用語はヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域をもつ抗体を含むものとする。本発明のヒト抗体はヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えばランダムもしくは部位特異的突然変異によりin vitro又は体細胞突然変異によりin vivo導入された突然変異)を例えばCDR、特にCDR3に含むことができる。他方、本明細書で使用する「ヒト抗体」なる用語はマウス等の別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされた抗体は含まないものとする。
【0047】
本明細書で使用する「組換えヒト抗体」なる用語は組換え手段により作製、発現、創製又は単離された全ヒト抗体を含むものとし、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体(下記セクションIIに詳述)、組換え組み合わせヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(下記セクションIIIに詳述)、ヒト免疫グロブリン遺伝子にトランスジェニックな動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えばTaylor,L.D.ら(1992)Nucl.Acids Res.20:6287−6295参照)又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライスする等の他の任意手段により作製、発現、創製又は単離された抗体が挙げられる。このような組換えヒト抗体はヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域をもつ。しかし、所定態様では、このような組換えヒト抗体はin vitro突然変異誘発(又は、ヒトIg配列にトランスジェニックな動物を使用する場合には、in vivo体細胞突然変異誘発)を受け、従って、組換え抗体のVH領域とVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列VH及びVL配列に由来及び関連するが、ヒト抗体生殖細胞系列レパートリーにin vivoで天然に存在していなくてもよい配列である。
【0048】
本明細書で使用する「単離抗体」なる用語は異なる抗原特異性をもつ他の抗体を実質的に含まない抗体を意味する(例えばhTNFαと特異的に結合する単離抗体はhTNFα以外の抗原と特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかし、hTNFαと特異的に結合する単離抗体は他の種に由来するTNFα分子等の他の抗原と交差反応性を有し得る。更に、単離抗体は他の細胞材料及び/又は化学物質を実質的に含まないと考えられる。
【0049】
本明細書で使用する「中和抗体」(又は「hTNFα活性を中和した抗体」)とはhTNFαとの結合の結果としてhTNFαの生物活性を阻害する抗体を意味する。hTNFαの生物活性のこの阻害はhTNFαにより誘導される細胞毒性(in vitro又はin vivo)、hTNFαにより誘導される細胞内活性化及びhTNFαとhTNFα受容体の結合等のhTNFα生物活性の1種以上の指標を測定することにより試験することができる。hTNFα生物活性のこれらの指標は当分野で公知の数種の標準in vitro又はin vivoアッセイの1種以上により試験することができ、各々参考として本明細書に援用されている米国特許第6,090,382号及び6,258,562号に記載されている。抗体がhTNFα活性を中和する能力はL929細胞のhTNFαにより誘導される細胞毒性の阻害により試験することが好ましい。hTNFα活性の付加的又は代替的パラメーターとして、hTNFαにより誘導される細胞内活性化の尺度として抗体がHUVEC上でhTNFαにより誘導されるELAM−1の発現を阻害する能力を試験することもできる。
【0050】
本明細書で使用する「表面プラズモン共鳴」なる用語は例えばBIAcoreシステム(Pharmacia Biosensor AB,Uppsala,スウェーデン及びPiscataway,NJ)を使用してバイオセンサーマトリックス内で蛋白質濃度変化の検出によりリアルタイム生体特異的相互作用の分析を可能にする光学現象を意味する。詳細については、Jonsson,U.ら(1993)Ann.Biol.Clin.51:19−26;Jonsson,U.ら(1991)Biotechniques 11:620−627;Johnsson,B.ら(1995)J.Mol.Recognit.8:125−131;及びJohnnson,B.ら(1991)Anal.Biochem.198:268−277参照。
【0051】
本明細書で使用する「Koff」なる用語は抗体が抗体/抗原複合体から解離する解離速度定数を意味する。
【0052】
本明細書で使用する「K」なる用語は特定抗体−抗原相互作用の解離定数を意味する。
【0053】
II.製剤の抗体
本発明はpH約4〜約8および好ましくは少なくとも約18か月間の長い保存期間をもつ製剤を形成する緩衝液中に治療有効量の抗体を含有する液体水性医薬製剤に関する。別の態様では、本発明の液体水性医薬製剤は高い安定性をもつ。本発明の別の態様では、製剤は光に感受性でない。本発明の更に別の態様では、本発明の製剤は製剤の少なくとも3回の凍結/解凍サイクル後に安定に維持される。更に別の態様では、本発明の医薬製剤は単回使用sc注射用に適している。
【0054】
製剤で使用することができる抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、1本鎖抗体、ハイブリッド抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はそのフラグメントが挙げられる。抗原の1又は2個の結合部位と免疫グロブリンのFc部分を含む抗体様分子も使用することができる。抗体様分子の1例は活性成分であるエタナーセプト又はインフリキシマブである。製剤で使用する好ましい抗体はヒト細胞又はヒト抗体リザバーを示す遺伝子アーカイブからクローニングされるヒト抗体である。ヒト抗体のうちでは、ヒトTNFα(又はhTNFα)等の抗原TNFαに対する抗体が特に好ましい。
【0055】
1態様では、本発明の製剤は(2種以上の)抗体の組み合わせ、又は抗体の「カクテル」を含む。例えば、製剤は抗体D2E7と1種以上の追加的抗体を含むことができる。
【0056】
本発明の好ましい態様では、製剤はいずれも表面プラズモン共鳴により測定した場合に1×10−8M以下のKと1×10−3−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離し、標準in vitro L929アッセイにおいて1×10−7M以下のIC50でヒトTNFα細胞毒性を中和する抗体、又はその抗原結合部分を含有する。別の好ましい態様では、本発明の製剤は各々参考として本明細書に援用されている米国特許第6,090,382号及び6,258,562号に記載されているもの等の抗体、又はその抗原結合部分を含有する。
【0057】
1側面では、本発明の製剤はD2E7抗体と抗体部分、D2E7関連抗体と抗体部分、及びD2E7と等価性質(例えばhTNFαとの結合親和性が高く、解離速度が低く、中和能が高い)をもつ他のヒト抗体と抗体部分を含有する。別の1態様では、本発明の製剤はいずれも表面プラズモン共鳴により測定した場合に1×10−8M以下のKと1×10−3−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離し、標準in vitro L929アッセイにおいて1×10−7M以下のIC50でヒトTNFα細胞毒性を中和する単離抗体、又はその抗原結合部分を含有する。単離ヒト抗体、又はその抗原結合部分は5×10−4−1以下のKoffでヒトTNFαから解離することがより好ましく、1×10−4−1以下のKoffが更に好ましい。単離ヒト抗体、又はその抗原結合部分は標準in vitro L929アッセイにおいて1×10−8M以下のIC50でヒトTNFα細胞毒性を中和することがより好ましく、1×10−9M以下のIC50が更に好ましく、5×10−10M以下のIC50が更に好ましい。好ましい態様では、製剤は単離ヒト組換え抗体、又はその抗原結合部分である抗体を含有する。別の好ましい態様では、製剤は更に標準in vitroアッセイを使用してヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)でTNFαにより誘導されるELAM−1発現を試験した場合にTNFαにより誘導される細胞内活性化を中和する抗体を含有する。
【0058】
III.製剤の製造
本発明は当分野の公認製剤に比較して改善された性質をもつ製剤(例えば蛋白質製剤及び/又は抗体製剤)に関する。例えば、本発明の製剤は当分野の公認製剤に比較して改善された保存期間及び/又は安定性をもつ。好ましい側面では、本発明の製剤は蛋白質濃度が高く、例えば、約45mg/mlを上回る蛋白質濃度、約50mg/mlを上回る蛋白質濃度、約100mg/mlを上回る蛋白質濃度、又は約150mg/mlを上回る蛋白質濃度である。本発明の好ましい態様では、蛋白質は抗体である。別の好ましい態様では、抗体はD2E7である。本発明は更に例えば約45mg/mlを上回る濃度で治療用抗体を製剤化するために十分な量のポリオール、界面活性剤、及びpH約4〜8のクエン酸及び/又はリン酸を含む緩衝液系を含有する水性医薬組成物を提供する。
【0059】
該当抗体の製造は当分野で公知の標準方法に従って実施される。本発明の好ましい態様では、製剤で使用される抗体はCHO細胞で発現され、クロマトグラフィー段階の標準系列により精製される。より好ましい態様では、抗体はhTNFαに特異的であり、各々参考として本明細書に援用されている米国特許第6,090,382号及び6,258,562号に記載の方法に従って製造される。
【0060】
該当抗体の製造後に、抗体を含有する医薬製剤を製造する。製剤中に存在する抗体の治療有効量は例えば所望投与容量や投与方法を考慮することにより決定される。本発明の1態様では、製剤中の抗体の濃度は液体製剤1ml当たり抗体約1〜約150mgである。好ましい態様では、製剤中の抗体の濃度は約5〜約80mg/mlである。別の好ましい態様では、製剤中の抗体の濃度は約25〜約50mg/mlである。製剤は15mg/mlを上回る高い抗体用量に特に適している。好ましい態様では、抗体の濃度は50mg/mlである。
【0061】
本発明の別の態様では、製剤中の抗体の濃度は約1〜150mg/ml、約5〜145mg/ml、約10〜140mg/ml、約15〜135mg/ml、約20〜130mg/ml、約25〜125mg/ml、約30〜120mg/ml、約35〜115mg/ml、約40〜110mg/ml、約45〜105mg/ml、約50〜100mg/ml、約55〜95mg/ml、約60〜90mg/ml、約65〜85mg/ml、約70〜80mg/ml、又は約75mg/mlである。上記濃度の中間の範囲(例えば約6〜144mg/ml)も本発明に含むものとする。例えば、上記値の任意のものの組み合わせを上限及び/又は下限として使用する範囲の値も含むものとする。
【0062】
1態様では、本発明はマンニトール、クエン酸1水和物、クエン酸ナトリウム、リン酸2ナトリウム2水和物、リン酸2水素ナトリウム2水和物、塩化ナトリウム、ポリソルベート80、水、及び水酸化ナトリウムと共に活性成分、好ましくは抗体を含有する保存期間の長い製剤を提供する。別の態様では、本発明の製剤は液体状態で少なくとも約18か月という長い保存期間をもつ。本発明の製剤の凍結もその保存期間を延ばすために使用することができる。
【0063】
抗体とpH緩衝液を含有する水性製剤を製造する。本発明の緩衝液はpH約4〜約8、好ましくは約4.5〜約6.0、より好ましくは約4.8〜約5.5であり、pH約5.0〜約5.2が最も好ましい。上記pHの中間の範囲も本発明に含むものとする。例えば、上記値の任意のものの組み合わせを上限及び/又は下限として使用する範囲の値も含むものとする。pHをこの範囲内に制御する緩衝液の例としては酢酸塩(例えば酢酸ナトリウム)、琥珀酸塩(例えば琥珀酸ナトリウム)、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩及び他の有機酸緩衝液が挙げられる。
【0064】
本発明の好ましい態様では、製剤はpHを約4〜約8に維持するためにクエン酸とリン酸を含有する緩衝液系を含む。より好ましい態様では、pH範囲は約4.5〜約6.0、より好ましくは約pH4.8〜約5.5、最も好ましくは約5.0〜約5.2のpH範囲である。別の好ましい態様では、緩衝液系はクエン酸1水和物、クエン酸ナトリウム、リン酸2ナトリウム2水和物、及び/又はリン酸2水素ナトリウム2水和物を含有する。より好ましい態様では、緩衝液系は約1.3mg/ml(例えば1.305mg/ml)のクエン酸と、約0.3mg/ml(例えば0.305mg/ml)のクエン酸ナトリウムと、約1.5mg/ml(例えば1.53mg/ml)のリン酸2ナトリウム2水和物と、約0.9mg/ml(例えば0.86)のリン酸2水素ナトリウム2水和物と、約6.2mg/ml(例えば6.165mg/ml)の塩化ナトリウムを含有する。他の好ましい態様では、緩衝液系は1〜1.5mg/mlのクエン酸と、0.25〜0.5mg/mlのクエン酸ナトリウムと、1.25〜1.75mg/mlのリン酸2ナトリウム2水和物と、0.7〜1.1mg/mlのリン酸2水素ナトリウム2水和物と、6.0〜6.4mg/mlの塩化ナトリウムを含有する。別の態様では、水酸化ナトリウムで製剤のpHを調整する。
【0065】
等張化剤として機能し、抗体を安定化させることができるポリオールも製剤に添加する。ポリオールは製剤の所望等張性を考慮して可変量を製剤に添加する。水性製剤は等張であることが好ましい。ポリオールの添加量はポリオールの分子量を考慮して調節してもよい。例えば、単糖(例えばマンニトール)は二糖(例えばトレハロース)に比較して添加量を少なくすることができる。本発明の好ましい態様では、製剤中で等張化剤として使用するポリオールはマンニトールである。本発明の好ましい態様では、マンニトール濃度は約5〜20mg/mlである。本発明の別の好ましい態様では、マンニトールの濃度は約7.5〜15mg/mlである。本発明の製剤のより好ましい態様では、マンニトールの濃度は約10〜14mg/mlである。最も好ましい態様では、マンニトールの濃度は約12mg/mlである。本発明の別の態様では、ポリオールソルビトールを製剤に添加する。
【0066】
洗浄剤ないし界面活性剤も抗体製剤に添加する。典型的洗浄剤としてはポリソルベート(例えばポリソルベート20、80等)やポロキサマー(例えばポロキサマー188)等の非イオン洗浄剤が挙げられる。洗浄剤の添加量は製剤化した抗体の凝集を抑制するか及び/又は製剤中の粒子形成を最小限にするか及び/又は吸着を抑制するような量とする。本発明の好ましい態様では、製剤は界面活性剤としてポリソルベートを添加する。本発明の別の好ましい態様では、製剤は洗浄剤としてポリソルベート80又はTween 80を添加する。Tween 80とはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートを表すために使用される用語である(Fiedler,Lexikon der Hifsstoffe,Editio Cantor Verlag Aulendorf,4th edi.,1996参照)。1好適態様では、製剤は約0.1〜約10mg/ml、より好ましくは約0.5〜約5mg/mlのポリソルベート80を含有する。別の好適態様では、約0.1%のポリソルベート80を本発明の製剤に添加する。
【0067】
本発明の好ましい態様では、製剤は下表1に示す成分を含有するバイアル入り0.8mL溶液である。
【0068】
【表1】

【0069】
1態様では、製剤は上記成分(即ち抗体、緩衝液、ポリオール及び洗浄剤)を含有しており、ベンジルアルコール、フェノール、m−クレゾール、クロロブタノール及びベンゼトニウムCl等の1種以上の防腐剤を実質的に含有しない。別の態様では、特に製剤が多用量製剤である場合には、防腐剤を製剤に添加してもよい。製剤の所望特性に有意悪影響を与えない限り、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に記載されているもの等の1種以上の他の医薬的に許容可能なキャリヤー、賦形剤又は安定剤を製剤に添加してもよい。許容可能なキャリヤー、賦形剤又は安定剤は使用する用量と濃度でレシピエントに非毒性であり、付加緩衝剤;補助溶剤;酸化防止剤(例えばアスコルビン酸及びメチオニン);キレート剤(例えばEDTA);金属錯体(例えばZn−蛋白質錯体);生分解性ポリマー(例えばポリエステル);及び/又は塩形成対イオン(例えばナトリウム)が挙げられる。
【0070】
本発明の製剤は治療する特定疾患の必要に応じて1種以上の他の治療剤と併用してもよく、製剤の抗体に悪影響を与えない相補的活性をもつものが好ましい。このような治療剤は意図された目的に有効な量を併用すると適切である。本発明の製剤と併用することができる付加治療剤は各々参考として本明細書に援用されている米国特許第6,090,382号及び6,258,562号に詳細に記載されている。
【0071】
in vivo投与に使用する製剤は無菌でなければならない。これは製剤の製造前又は製造後に滅菌濾過膜で濾過することにより容易に実施される。
【0072】
IV.製剤の投与
本発明の製剤は各々参考として本明細書に援用されている米国特許第6,090,382号及び6,258,562号に記載されているものと同様の適応症に使用することができ、これらの疾患については追って詳述する。
【0073】
製剤の「有効量」なる用語はTNFα活性を阻害するため、例えば有害なTNFα活性関連状態の各種形態及び身体症状を予防するために必要又は十分な量である。別の態様では、製剤の有効量は所望結果を達成するために必要な量である。1例では、製剤の有効量は有害なTNFα活性を阻害するために十分な量である。別の例では、製剤の有効量は表1に記載するように抗体40mgを含有する製剤0.8mLである。有効量は被験体の寸法と体重、又は疾病の種類等の因子に応じて変えることができる。例えば、「有効量」の値はTNFα活性阻害製剤の選択により変化することがある。当業者は上記因子を検討し、過度の実験を介さずにTNFα活性阻害製剤の有効量を決定することができよう。
【0074】
有効量の値は投与レジメンにより変化することもある。TNFα活性阻害製剤は有害なTNFα活性の発現前又は発現後に被験体に投与することができる。更に、用量を数回に分けたり、時間をずらせて毎日又は逐次投与してもよいし、用量を連続輸液してもよいし、ボーラス注射してもよい。更に、TNFα活性阻害製剤の用量は治療又は予防状況の緊急性に応じて比例的に増減することができる。
【0075】
「治療される」、「治療する」又は「治療」なる用語は治療下の状態、疾患又は疾病に関連又は起因する少なくとも1種の症状の軽減又は緩和を含む。例えば、治療は疾患の1もしくは数種の症状の軽減又は疾患の完全な根絶とすることができる。
【0076】
本発明の医薬製剤中の活性成分(抗体)の実際の用量レベルは患者に非毒性で特定患者、組成、及び投与方法で所望治療応答を達成するために有効な活性成分の量を得るように変えることができる。
【0077】
選択用量レベルは製剤中に存在する抗体の活性、投与経路、投与時間、使用する特定化合物の排泄率、治療期間、使用する特定化合物と併用する他の薬剤、化合物及び/又は材料、治療する患者の年齢、性別、体重、病態、一般健康状態及び病歴並びに医療分野で周知の他の因子等の種々の因子によって異なる。
【0078】
当分野の通常の知識をもつ医師又は獣医は本発明の医薬組成物の必要な有効量を容易に決定及び処方することができる。例えば、医師又は獣医は医薬製剤で使用する本発明の化合物の用量をまず所望治療効果を達成するために必要なレベルよりも低レベルから開始し、所望効果が達成されるまで用量を漸増させることができる。
【0079】
一般に、本発明の製剤の適切な1日用量は治療効果を生じるために有効な最低用量に相当する製剤の量である。このような有効用量は一般に上記因子により異なる。本発明の製剤の有効量はTNFα活性が有害となる疾患に罹患している被験体でTNFα活性を阻害する量である。好ましい態様では、製剤は1回の注射で活性成分である抗体40mgの有効用量を提供する。別の態様では、製剤は抗体約1〜150mgの有効用量を提供する。所望により、医薬製剤の有効1日用量を2、3、4、5、6回以上に分けて1日の間に適当な間隔で場合により単位剤形として別々に投与してもよい。
【0080】
本発明の1態様では、製剤中の抗体の用量は約5〜約80mgである。別の態様では、製剤中の抗体の用量は約25〜約50mgである。製剤は15mgを上回る多量の抗体用量に特に適している。本発明の好ましい態様では、製剤は約40mgの用量の抗体を提供する。別の好ましい態様では、抗体はTNFαに特異的である。最も好ましい態様では、抗体はD2E7である。
【0081】
本発明の1態様では、製剤中の抗体の用量は約1〜150mg、約5〜145mg、約10〜140mg、約15〜135mg、約20〜130mg、約25〜125mg、約30〜120mg、約35〜115mg、約40〜110mg、約45〜105mg、約50〜100mg、約55〜95mg、約60〜90mg、約65〜85mg、約70〜80mg、又は約75mgである。好ましい態様では、抗体の用量は40mgである。より好ましい態様では、抗体はTNFαに特異的である。最も好ましい態様では、抗体はD2E7である。上記用量の中間の範囲(例えば約2〜149mg)も本発明に含まれる。例えば、上記値の任意のものの組み合わせを上限及び/又は下限として使用する範囲の値も含むものとする。
【0082】
当然のことながら、用量値は緩和すべき病態の重篤度によって変化することがある。更に、当然のことながら、任意特定被験体の特定投与レジメンは個体の必要と組成物の投与者又は投与監理者の専門的判断に従って経時的に調節すべきであり、本明細書に記載する用量範囲は例示に過ぎず、特許請求の範囲に記載する組成物の範囲又は実施を制限するものではない。
【0083】
本発明は、1態様ではTNFα活性が有害となる疾患に罹患している被験体でTNFα活性を阻害するために使用される保存期間の長い医薬製剤を提供し、被験体におけるTNFα活性を阻害するように本発明の抗体又は抗体部分を被験体に投与する。好ましくは、TNFαはヒトTNFαであり、被験体はヒト被験体である。あるいは、被験体は本発明の抗体が交差反応するTNFαを発現する哺乳動物とすることができる。更に、被験体は(例えばhTNFαの投与又はhTNFαトランスジーンの発現により)hTNFαが導入された哺乳動物とすることもできる。本発明の製剤はヒト被験体に(以下に詳述する)治療目的で投与することができる。本発明の1態様では、液体医薬製剤は容易に投与可能であり、例えば患者により自己投与される製剤である。好ましい態様では、本発明の製剤はsc注射により投与され、単回使用が好ましい。更に、本発明の製剤は、獣医目的のため又はヒト疾病の動物モデルとして抗体が交差反応するTNFαを発現する非ヒト哺乳動物(例えば霊長類、ブタ又はマウス)に投与することができる。動物モデルに関しては、このような動物モデルは本発明の抗体の治療効力を評価するため(例えば用量と投与時間経過の試験)に有用であると思われる。
【0084】
本明細書で使用する「TNFα活性が有害となる疾患」なる用語は疾患に罹患している被験体におけるTNFαの存在が疾患の病態生理に関与しているか又は疾患の悪化を助長する因子であることが判明したか又はその疑いがある疾病及び他の疾患を含むものとする。従って、TNFα活性が有害となる疾患はTNFα活性の阻害が疾患の症状及び/又は進行を緩和させると予想される疾患である。このような疾患は例えば疾患に罹患している被験体の体液中のTNFα濃度の増加(例えば、被験体の血清、血漿、滑液等におけるTNFα濃度の増加)により検証することができ、例えば上記のような抗TNFα抗体を使用して検出することができる。
【0085】
TNFα活性が有害となる疾患としては多数の例がある。TNFα活性が有害となる疾患の例は参考として本明細書に援用されている米国特許出願第60/397275号に記載されている。TNFα活性が有害となる疾患の例は各々参考として本明細書に援用されている米国特許第6,015,557号、6,177,077号、6,379,666号、6,419,934号、6,419,944号、6,423,321号、及び6,428,787号;米国特許出願第US2001/0016195号、US2001/0004456号、及びUS2001/026801号;WO00/50079及びWO01/49321にも記載されている。
【0086】
以下、特定疾患の治療における本発明の抗体及び抗体部分の使用について詳述する。
【0087】
A.敗血症
腫瘍壊死因子は敗血症の病態生理に関与することが立証されており、低血圧、心筋抑制、血管外漏出症候群、臓器壊死、毒性二次メディエーター放出刺激及び凝固カスケードの活性化等の生体作用がある(例えばTracey,K.J.and Cerami,A.(1994)Annu.Rev.Med.45:491−503;Russell,D and Thompson,R.C.(1993)Curr.Opin.Biotech.4:714−721参照)。従って、発明の製剤は敗血性ショック、内毒素性ショック、グラム陰性敗血症及び毒素性ショック症候群等のその臨床症状の任意のものにおいて敗血症を治療するために使用することができる。
【0088】
更に、敗血症を治療するために、本発明の製剤はインターロイキン−1阻害剤(例えばPCT公開第WO92/16221号及びWO92/17583号に記載されているもの)、サイトカインインターロイキン−6(例えばPCT公開第WO93/11793号参照)又は血小板活性化因子のアンタゴニスト(例えばヨーロッパ特許出願公開第EP374 510号参照)等の敗血症を更に緩和することができる1種以上の付加的治療剤と同時投与することができる。
【0089】
更に、好ましい態様では、本発明の製剤は治療時の血清又は血漿IL−6濃度が500pg/ml、より好ましくは1000pg/mlを上回る敗血症患者のサブグループ内のヒト被験体に投与する(Daum,L.らのPCT公開第WO95/20978参照)。
【0090】
B.自己免疫疾患
腫瘍壊死因子は種々の自己免疫疾患の病態生理に関与することが示されている。例えば、TNFαはリウマチ様関節炎で組織炎症を活性化し、関節破壊の原因となることが示されている(例えばTracey and Cerami,前出;Arend,W.P.and Dayer,J−M.(1995)Arth.Rheum.38:151−160;Fava,R.A.ら(1993)Clin.Exp.Immunol.94:261−266参照)。TNFαは糖尿病で膵島細胞死を促進し、インスリン抵抗性を媒介することも示されている(例えばTracey and Cerami,前出;PCT公開第WO94/08609号参照)。TNFαは多発性硬化症で希突起膠細胞への細胞毒性を媒介し、炎症性プラークを誘導することも示されている(例えばTracey and Cerami,前出参照)。キメラ及びヒト化マウス抗hTNFα抗体がリウマチ様関節炎の治療で臨床試験されている(例えばElliott,M.J.ら(1994)Lancet 344:1125−1127;Elliot,M.J.ら(1994)Lancet 344:1105−1110;Rankin,E.C.ら(1995)Br.J.Rheumatol.34:334−342参照)。
【0091】
本発明の製剤は自己免疫疾患、特に炎症を伴うもの(例えばリウマチ様関節炎、リウマチ様脊髄炎、骨関節炎及び痛風性関節炎、アレルギー、多発性硬化症、自己免疫糖尿病、自己免疫ブドウ膜炎及びネフローゼ症候群)を治療するために使用することができる。一般に、製剤は全身投与するが、疾患によっては抗体又は抗体部分を炎症部位に局所投与すると有益な場合もある(例えばPCT公開第WO93/19751号に記載されているようにリウマチ様関節炎の関節への局所投与又は糖尿病潰瘍への単独もしくはシクロヘキサン−イリデン誘導体との併用局所投与)。
【0092】
C.感染性疾患
腫瘍壊死因子は種々の感染性疾患で観察される生体作用を媒介することが示されている。例えば、TNFαはマラリアで脳炎症と毛細血管血栓症及び梗塞を媒介することが示されている(例えばTracey and Cerami,前出参照)。TNFαは髄膜炎で脳炎症を媒介し、血液脳関門の損傷を誘導し、敗血性ショック症候群を誘発し、静脈梗塞を活性化することも示されている(例えばTracey and Cerami,前出参照)。TNFαは後天性免疫不全症候群(AIDS)で悪液質を誘導し、ウイルス増殖を刺激し、中枢神経系損傷を媒介することも示されている(例えばTracey and Cerami,前出参照)。従って、本発明の抗体、及び抗体部分は細菌性髄膜炎(例えばヨーロッパ特許出願公開第EP585 705号参照)、脳マラリア、AIDS及びAIDS関連症候群(ARC)(例えばヨーロッパ特許出願公開第EP230 574号参照)、並びに移植に続発するサイトメガロウイルス感染(例えばFietze,E.ら(1994)Transplantation 58:675−680参照)等の感染性疾患の治療に使用することができる。本発明の製剤は感染による発熱や筋肉痛(例えばインフルエンザ)及び感染に続発(例えばAIDS又はARCに続発)する悪液質等の感染性疾患に伴う症状を緩和するためにも使用することができる。
【0093】
D.移植
腫瘍壊死因子は同種移植拒絶反応と移植片対宿主疾患(GVHD)の主要メディエーターであり、T細胞受容体CD3複合体に対するラット抗体OKT3を使用して腎移植拒絶反応を抑制する場合に観察された有害反応を媒介することが示されている(例えばTracey and Cerami,前出;Eason,J.D.ら(1995)Transplantation 59:300−305;Suthanthiran,M.and Strom,T.B.(1994)New Engl.J.Med.331:365−375参照)。従って、本発明の製剤は同種移植及び異種移植拒絶反応等の移植拒絶反応を抑制したり、GVHDを抑制するために使用することができる。抗体又は抗体部分は単独で使用してもよいが、同種移植に対する免疫応答を抑制又はGVHDを抑制する1種以上の他の物質と併用するとより好ましい。例えば、1態様では、本発明の製剤をOKT3と併用し、OKT3により誘導される反応を抑制する。別の態様では、細胞表面分子CD25(インターロイキン−2受容体−α)、CD11a(LFA−1)、CD54(ICAM−1)、CD4、CD45、CD28/CTLA4、CD80(B7−1)及び/又はCD86(B7−2)等の免疫応答の調節に関与する他のターゲットに対する1種以上の抗体と本発明の製剤を併用する。更に別の態様では、シクロスポリンA又はFK506等の1種以上の汎用免疫抑制剤と本発明の製剤を併用する。
【0094】
E.悪性腫瘍
腫瘍壊死因子は悪性腫瘍で悪液質を誘導し、腫瘍増殖を刺激し、転移能力を増強し、細胞毒性を媒介することが示されている(例えばTracey and Cerami,前出参照)。従って、本発明の製剤は腫瘍増殖又は転移を抑制するため及び/又は悪性腫瘍に続発する悪液質を緩和するために悪性腫瘍の治療で使用することができる。製剤は全身又は腫瘍部位に局所投与することができる。
【0095】
F.肺疾患
腫瘍壊死因子は白血球−内皮細胞活性化の刺激、肺細胞に対する細胞毒性の誘導及び血管外漏出症候群の誘導等の成人呼吸窮迫症候群の病態生理に関与することが示されてい(例えばTracey and Cerami,前出参照)。従って、本発明の製剤は成人呼吸窮迫症候群(例えばPCT公開第WO91/04054号参照)、ショック肺、慢性肺炎症性疾患、肺サルコイドーシス、肺線維症及び珪肺症等の各種肺疾患を治療するために使用することができる。製剤は全身又は例えばエアゾールとして肺表面に局所投与することができる。
【0096】
G.腸疾患
腫瘍壊死因子は炎症性腸疾患の病態生理に関与することが示されている(例えばTracy,K.J.ら(1986)Science 234:470−474;Sun,X−M.ら(1988)J.Clin.Invest.81:1328−1331;MacDonald,T.T.ら(1990)Clin.Exp.Immunol.81:301−305参照)。キメラマウス抗hTNFα抗体がクローン病の治療で臨床試験されている(van Dullemen,H.M.ら(1995)Gastroenterology 109:129−135)。本発明の製剤はクローン病と潰瘍性大腸炎の2種の症候群を含む特発性炎症性腸疾患等の腸疾患を治療するためにも使用することができる。
【0097】
H.心疾患
本発明の製剤は心臓虚血(例えばヨーロッパ特許出願公開第EP453 898号参照)や心不全(心筋衰弱)(例えばPCT公開第WO94/20139号参照)等の各種心疾患を治療するためにも使用することができる。
【0098】
I.その他
本発明の医薬製剤はTNFα活性が有害となる他の各種疾患を治療するためにも使用することができる。TNFα活性が病態生理に関与することが示されており、従って、本発明の製剤を使用して治療することができる他の疾病及び疾患の例としては炎症性骨疾患及び骨吸収疾患(例えば、Bertolini,D.R.ら(1986)Nature 319:516−518;Konig,A.ら(1988)J.Bone Miner.Res.3:621−627;Lerner,U.H.and Ohlin,A.(1993)J.Bone Miner.Res.8:147−155;及びShankar,G.and Stern,P.H.(1993)Bone 14:871−876参照);アルコール性肝炎(例えばMcClain,C.J.and Cohen,D.A.(1989)Hepatology 9:349−351;Felver,M.E.ら(1990)Alcohol.Clin.Exp.Res.14:255−259;及びHansen,J.ら(1994)Hepatology 20:461−474参照)及びウイルス性肝炎(Sheron,N.ら(1991)J.Hepatol.12:241−245;及びHussain,M.J.ら(1994)J.Clin.Pathol.47:1112−1115)等の肝炎;凝固障害(例えばvan der Poll,T.ら(1990)N.Engl.J.Med.322:1622−1627;及びvan der Poll,T.ら(1991)Prog.Clin.Biol.Res.367:55−60参照);火傷(例えばGiroir,B.P.ら(1994)Am.J.Physiol.267:H118−124;及びLiu,X.S.ら(1994)Burns 20:40−44参照);再潅流傷害(例えばScales,W.E.ら(1994)Am.J.Physiol.267:G1122−1127;Serrick,C.ら(1994)Transplantation 58:1158−1162;及びYao,Y.M.ら(1995)Resuscitation 29:157−168参照);ケロイド形成(例えばMcCauley,R.L.ら(1992)J.Clin.Immunol.12:300−308参照);瘢痕組織形成;発熱;歯周病;肥満症及び放射線中毒が挙げられる。
【0099】
TNFα活性が有害となる他の疾患としては限定されないが、成人スティル病、アルツハイマー病、強直性脊椎炎、喘息、癌及び悪液質、アテローム性動脈硬化症、慢性アテローム動脈硬化症、慢性疲労症候群、肝不全、慢性肝不全、閉塞性肺疾患、慢性閉塞性肺疾患、鬱血性心不全、多発性皮膚筋炎、糖尿病性大血管病変、子宮内膜症、家族性周期性発熱、線維症、血液透析、ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応、若年性RA、川崎症候群、骨髄異形成症候群、心筋梗塞、尋常性多発性関節炎、歯周病、末梢神経障害、多発性関節炎、多発性筋炎、進行性腎不全、乾癬、乾癬性関節炎、ライター症候群、サルコイドーシス、強皮症、脊椎関節症、スティル病、発作、治療関連症候群、治療誘導炎症症候群、IL−2投与後炎症症候群、胸腹大動脈瘤修復(TAAA)、血管ベーチェット病、黄熱病ワクチン接種、1型糖尿病、2型糖尿病、神経障害性疼痛、座骨神経痛、脳浮腫、脊髄内及び/又は周囲浮腫、血管炎、ウェグナー肉芽腫症、側頭動脈炎、リウマチ性多筋痛、高安動脈炎、結節性多発性動脈炎、微視的多発性血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、フェルティ症候群、ショーグレン症候群、混合性結合組織疾患、再発性多発性軟骨炎、偽痛風、人工器官の緩み、自己免疫肝炎、硬化性胆管炎、急性膵炎、慢性膵炎、糸球体腎炎、連鎖球菌感染後糸球体腎炎又はIgA腎症、リウマチ性心疾患、心筋症、精巣炎、多発性皮膚壊疽、多発性骨髄腫、TNF受容体関連周期性症候群[TRAPS]、アテローム性動脈硬化性、ステロイド依存巨細胞動脈炎、ブドウ膜炎、並びに薬物反応が挙げられる。
【0100】
以下、実施例により本発明を更に例証するが、これらの実施例は限定的とみなすべきではない。本明細書を通して引用する全文献、係属特許出願及び公開特許の内容は特に参考として本明細書に援用されている。
【実施例1】
【0101】
製剤の製造
以下のプロトコールに従って本発明の医薬製剤を製造した。
【0102】
製剤中で使用した材料は、マンニトール、クエン酸1水和物(クエン酸)、クエン酸ナトリウム、リン酸2ナトリウム2水和物(2塩基性リン酸ナトリウム2水和物)、リン酸2水素ナトリウム2水和物(1塩基性リン酸ナトリウム2水和物)、塩化ナトリウム、ポリソルベート80、注射用水、水酸化ナトリウムを1M溶液としてpHを調節するために使用し、これに蛋白質濃縮物(例えば抗体濃縮物)を加えた。
【0103】
緩衝液20L(20.180kgに等価−溶液の密度:1.009g/ml)の調製
以下の成分:マンニトール240.0g、クエン酸1水和物26.1g、クエン酸ナトリウム6.1g、リン酸2ナトリウム2水和物30.6g、リン酸2水素ナトリウム2水和物17.2g、塩化ナトリウム123.3g、ポリソルベート80 20.0g、及び水19,715.7〜19,716.1gを配量した。
【0104】
水酸化ナトリウム40.0gを注射用水1000.8gに加えることにより水酸化ナトリウム溶液を調製した。
【0105】
次に、予め計量した以下の成分(上記量):マンニトール、クエン酸1水和物、クエン酸ナトリウム、リン酸2ナトリウム2水和物、リン酸2水素ナトリウム、塩化ナトリウム、及びポリソルベート80を注射用水の約90%に溶かすことにより緩衝液を調製した。緩衝液成分の添加順序は重要ではないため、任意に選択できると判断した。
【0106】
全緩衝液成分の添加後、上記のように調製した1M水酸化ナトリウムで溶液のpHを調整した。水酸化ナトリウムの添加後、最終重量の水を加えた。次に緩衝液を滅菌フィルター(親水性ポリビニリデンジフルオライド,細孔径0.22μm)で濾過し、滅菌容器に取った。使用した濾過媒体は濾過滅菌窒素とした。
【0107】
製剤40L(40.88kgに等価)の製造
濾過した緩衝液を次に、以下のように製造した解凍プール抗体濃縮物(医薬製剤の活性成分)に加えた。抗体(濃縮物)は医薬製剤の製造前に水浴で解凍した。抗体濃縮物34.207g(蛋白質濃縮物中蛋白質濃度60mg/mLの蛋白質2.0kgに等価)を使用した。濃縮物の密度は1.0262g/mLとした。25.655〜37.316(蛋白質濃縮物中蛋白質濃度55〜80mg/mLに等価)の範囲の任意蛋白質濃縮物を使用することができる。バルク溶液の最終重量に達するまで撹拌下に緩衝液を加えた。
【0108】
次に、製剤を0.22μmメンブレンフィルター2枚で濾過した以外は、上記と同様に全成分を加えた製剤を濾過滅菌した。滅菌後、製剤をバイアル又はプレフィルドシリンジ用にパッケージングした。
【0109】
当業者に自明の通り、本明細書に記載する重量及び/又は重量対容量比は記載成分の公認分子量を使用してモル及び/又はモル濃度に変換できる。本明細書に例示する重量(例えばg又はkg)は記載した(例えば緩衝液又は医薬製剤の)容量に対応する。当業者に自明の通り、別の製剤容量が所望される場合には比例的に重量を調節することができる。例えば、32L、20L、10L、5L、又は1L製剤は例示重量の夫々80%、50%、25%、12.5%、又は2.5%を含有する。
【実施例2】
【0110】
凍結/解凍試験
D2E7抗体用製剤緩衝液を選択した後に、薬剤物質を最終製剤と同一マトリックスで製剤化した。
【0111】
薬剤物質を凍結状態から液体状態に3回サイクリングすることにより蛋白質濃度63mg/mLのD2E7抗体薬剤物質の凍結解凍性を評価した。表2は夫々−80℃又は−30℃から出発して0.1%ポリソルベート80の存在下及び不在下で高速及び低速凍結解凍サイクル3回の影響を評価した実験の結果を示す。
【0112】
表2から明らかなように、D2E7抗体薬剤物質は化学的性質(カチオン交換HPLC、サイズ排除HPLC、色、pH)、物理化学的性質(肉眼では見えない粒子、透明度)又は生物活性(in vitro TNF中和アッセイ)に有害な影響を与えずに少なくとも3回解凍/凍結することができる。更に、表2から明らかなように、ポリソルベート80を添加すると、低速又は高速凍結/解凍サイクルのいずれを使用するかに関係なく肉眼では見えない粒子の数が減ることから、D2E7抗体薬剤物質の物理化学的性質が改善された(表2の影付き部分)。
【0113】
【表2】

【実施例3】
【0114】
微生物試験
製剤が微生物増殖を助長できるか否かを調べるために試験を実施した。これらの実験の結果、製剤は20〜25℃で14日間保存した場合に微生物増殖を助長しないことが判明した。この結果は滅菌製剤に微生物(例えばStaphylococous aureus,ATCC−No.:6538P,Candida albicans,ATCC−No.:10231,Aspergillus niger,ATCCC−No.:16404,Pseudomonas aeruginosa,ATCC−No.:9027,環境単離株)を低レベル(NMT100cfu/mL)で直接接種することにより判定した。その後、接種した製剤の総合微生物増殖(例えば濁度変化)を試験した。濁度が認められなければ総合増殖がないという基準で14日後に接種容器で検出した。更に、これらの容器から生物を再単離することはできなかった。従って、製剤はこれらの条件下で微生物増殖を助長しないと結論された。
【0115】
参考としての援用
本明細書に引用する全文献及び特許の内容は、全体を参考として本明細書に援用している。
【0116】
等価物
本明細書に記載する本発明の特定態様の多数の等価物が当業者に自明であるか、又は単なる日常的実験を使用して確認することができよう。このような等価物も特許請求の範囲に含むものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)緩衝液中に治療有効量の抗体を含み、約4〜8のpHと少なくとも18か月間の保存期間をもつ液体水性医薬製剤;
(b)緩衝液中に治療有効量の抗体を含み、約4〜8のpHと液体状態で少なくとも18か月間の保存期間をもつ水性医薬製剤;
(c)緩衝液中に治療有効量の抗体を含み、約4〜8のpHをもち、製剤の少なくとも3回の凍結/解凍サイクル後に安定性を維持する液体水性医薬製剤;及び
(d)緩衝液中に治療有効量の抗体を含み、4〜8のpHと2〜8℃の温度で少なくとも12か月間の高い安定性をもつ液体水性医薬製剤
から構成される群から選択される医薬製剤。
【請求項2】
抗体がTNFαに特異的である請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
抗体の濃度が約1〜150mg/mlである請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
抗体の濃度が約50mg/mlである請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
更に単回使用皮下注射用に適している請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
抗体がいずれも表面プラズモン共鳴により測定した場合に1×10−8M以下のKと1×10−3−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離し、標準in vitro L929アッセイにおいて1×10−7M以下のIC50でヒトTNFα細胞毒性を中和する抗体、又はその抗原結合部分である請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
抗体、又はその抗原結合部分が組換え抗体、又はその抗原結合部分である請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
抗体が、
a)表面プラズモン共鳴により測定した場合に1×10−3−1以下のKoff速度定数でヒトTNFαから解離し;
b)配列番号3のアミノ酸配列を含むか、あるいは1、4、5、7もしくは8位の単一アラニン置換又は1、3、4、6、7、8及び/又は9位の1〜5カ所の同類アミノ酸置換により配列番号3から変異したアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメインをもち;
c)配列番号4のアミノ酸配列を含むか、あるいは2、3、4、5、6、8、9、10もしくは11位の単一アラニン置換又は2、3、4、5、6、8、9、10、11及び/又は12位の1〜5カ所の同類アミノ酸置換により配列番号4から変異したアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメインをもつ
抗体又はその抗原結合部分である請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
抗体、又はその抗原結合部分が配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)をもつ請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
抗体、又はその抗原結合部分がヒトTNFα、チンパンジーTNFα並びにヒヒTNFα、マーモセットTNFα、カニクイザルTNFα及びアカゲザルTNFαから構成される群から選択される少なくとも1種の追加的な霊長類TNFαの活性を中和する請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
抗体、又はその抗原結合部分が更にマウスTNFα及び/又はブタTNFαの活性を中和する請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
抗体、又はその抗原結合部分がヒトTNFαと結合し、抗体D2E7又はその抗原結合部分である請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
治療用抗体を約45mg/mlを上回る濃度で製剤化するために十分な量のポリオール、界面活性剤、及びpH約4〜8のクエン酸及び/又はリン酸を含む緩衝液系を含有する水性医薬組成物。
【請求項14】
ポリオールがマンニトールであり、界面活性剤がポリソルベート80である請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
5〜20mg/mlのマンニトールと0.1〜10mg/mlのポリソルベート80を含有する請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ヒトTNFαと結合し、抗体D2E7又はその抗原結合部分である抗体、又はその抗原結合部分を含有する請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
(a)1〜150mg/mlの抗体と、
(b)5〜20mg/mlのマンニトールと、
(c)0.1〜10mg/mlのTween−80と、
(d)pH4〜8のクエン酸及び/又はリン酸を含む緩衝液系
を含有する液体水性医薬製剤。
【請求項18】
pHが約4.5〜約6.0、約4.8〜約5.5、及び約5.0〜約5.2から構成される群から選択される請求項17に記載の製剤。
【請求項19】
(a)約50mg/mlの抗体と、
(b)約12mg/mlのマンニトールと、
(c)約1mg/mlのTween−80と、
(d)約pH4〜8のクエン酸及び/又はリン酸を含む緩衝液系
を含有する液体水性医薬製剤。
【請求項20】
緩衝液系が、
(a)約1.3mg/mlのクエン酸と、
(b)約0.3mg/mlのクエン酸ナトリウムと、
(c)約1.5mg/mlのリン酸2ナトリウム2水和物と、
(d)約0.9mg/mlのリン酸2水素ナトリウム2水和物と、
(e)約6.2mg/mlの塩化ナトリウムを含有する請求項17に記載の製剤。
【請求項21】
抗体がTNFαに特異的である請求項19に記載の製剤。
【請求項22】
抗体、又はその抗原結合部分がヒトTNFαと結合し、抗体D2E7又はその抗原結合部分である請求項19に記載の製剤。
【請求項23】
TNFα活性が有害となる疾患に罹患している被験体に該被験体におけるTNFα活性を阻害するように投与する請求項22に記載の製剤。

【公開番号】特開2012−46527(P2012−46527A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−204759(P2011−204759)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【分割の表示】特願2004−528780(P2004−528780)の分割
【原出願日】平成15年8月15日(2003.8.15)
【出願人】(503448572)アボツト・バイオテクノロジー・リミテツド (30)
【Fターム(参考)】