説明

TOC計

【課題】
IC除去のため試料に添加される酸の添加量の不足によるICの不完全除去および添加量の過剰による燃焼部の劣化を防止し、TOC測定精度の低下および装置の寿命の劣化を改善する。
【解決手段】
試料注入器5にpH測定部21を取り付け、試料注入器5を試料容器1に接続しプランジャ6の操作により規定量の試料を吸入した後、マルチポートバルブ3の切り替え操作により試料注入器5を酸容器2に接続し、pH測定部21でpHを連続的にその場でモニタしながらプランジャ6の操作により試料に酸を徐々に添加し、試料が最適のpHになったところで酸の供給を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、湖沼、海域、工場等に由来する水質の監視または水質の管理に使用される、有機炭素濃度測定用のTOC計(全有機体炭素計)に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料中のTOC(Total Organic Carbon)濃度測定のためにはTOC計が使用されている(たとえば特許文献1、特許文献2参照)が、以下の説明はJISの公的試験法に記載されている酸性化・通気処理法によるTOC測定法に限定する。なお、この測定法により測定されたTOC濃度を他の方法で測定されたTOC濃度と区別するため、以下この測定法により測定されたTOC濃度をNPOC(不揮発性有機体炭素)濃度と呼ぶ。
【0003】
NPOC濃度(以下、原則として濃度を省略し、単にTOC、NPOC等と記す)の測定時には、まず液体試料(以下、試料と略記する)を試料注入器に適量分取し、試料注入器に酸性の試薬(通常塩酸が使用されている。以下、酸と略記する)を少量加えて酸性にし、酸性の試料に純空気や純窒素等の二酸化炭素を含まないスパージガスを一定時間連続して吹き込む(以下、通気処理と記す)ことによって、IC(無機体炭素)の除去を行った後、試料を試料注入器から試料燃焼部(以下、燃焼部と略記する)のTC燃焼管に送り、TC燃焼管に内蔵された酸化触媒中で完全燃焼させ二酸化炭素に変換し、二酸化炭素濃度を非分散型赤外分析法(以下、NDIRと略記する)で測定・検出する。試料注入器からTC燃焼管への配管の途中にはキャリアガス注入部が設けられており、試料はキャリアガス注入部から導入されたキャリアガスと共にTC燃焼管に送られる構造になっている。この測定法においては二酸化炭素濃度の測定値が試料中のNPOC濃度となるので、IC由来の二酸化炭素が測定値に加算されないよう、測定・検出の前工程でいかに試料中のICを完全に除去するかが重要な技術である。
【0004】
以下、図2によって従来のTOC計の構成と作動を説明する。1は試料容器で、あらかじめ被測定液体試料(以下、試料と略記する)を入れておく。3はマルチポートバルブで、中央のポートに試料注入器5が連結されている。そして必要に応じて、周辺のポートの何れか1個が選択されて中央のポートと接続され、試料注入器5と接続されるようになっている。試料注入器5は必要に応じてスパージガスを導入できるように、スパージガスの導入口を有している。プランジャ6の摺動(図2においては上下動)により、試料注入器5における試料の吸引・放出が行われる。2は試料に添加するための酸性の液体(以下、酸と略記する)を内蔵した酸容器である。酸としては前記のように通常塩酸が使用されている。4はバックグラウンド確認用の純水を収納する純水容器である。
【0005】
マルチポートバルブ3の周辺のポートのうち1個は、キャリアガス注入部7を介してTC燃焼管8に接続されている。TC燃焼管8内には、試料中のTC(全炭素)を二酸化炭素に変換するための酸化触媒(図示せず)が内蔵されている。燃焼部FはTC燃焼管8とTC炉9によって構成される。燃焼部Fを通過した試料中の二酸化炭素は検出器11で検出され、電気信号としてデータ処理部12で処理されTOC濃度として記録されるとともに、表示器13でTOC濃度として表示される。検出器11としては前記のようにNDIRが一般に使用されている。
【0006】
マルチポートバルブ3のポートの他の1個はアブソーバ10に接続されている。通気処理中は試料注入器5はアブソーバ10に接続されており、スパージガス中の二酸化炭素、すなわち試料から揮散したICはアブソーバ10を通過する際に除去されるが、試料から揮散したPOC(揮発性有機体炭素)は除去されない。したがって、必要により試料注入器5を経由したスパージガスをPOC燃焼管(図示せず)で燃焼させることによりPOCの測定を行うことができる。本発明の要件とPOCの測定とは直接の因果関係は無いので、以後POCに関しては詳細説明は省略する。
【0007】
NPOC測定時はまず試料注入器5を純水容器4に接続し、プランジャ6の操作により規定量の純水を試料注入器5に吸入し、次に試料注入器5をTC燃焼管8に接続しバックグラウンドの測定を行う。その後試料注入器5を試料容器1に接続し規定量の試料を吸入し、次いで酸容器2に接続し適量の酸を吸入した後、アブソーバ10に接続しスパージガスを導入し通気処理を行う。通気処理終了後、試料注入器5をTC燃焼管8に接続すると共にキャリアガス注入部7からキャリアガスを導入し、プランジャ6の操作により試料をキャリアガスと共にTC燃焼管8に送り込む。TC燃焼管8を通過したキャリアガスおよび試料は検出器11を通過し、NPOCの測定が行われる。
【0008】
【特許文献1】特開平10−104219号公報(第1−3頁)
【特許文献2】特開平10−104220号公報(第1−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のTOC計の構造は以上のとおりであるが、この構造ではTOCの測定精度が損なわれ、また燃焼部Fの寿命も損なわれる。すなわち通気処理時にIC除去に必要な最適な酸量はもともとの試料のpH(水素イオン濃度指数)に依存するため、試料毎に異なっている。従って未知の試料を測定する場合、測定前に別の装置で試料のpHを測定し、試料量に対して添加すべき酸量を計算した後、試料注入器5に規定量の試料を正確に導入し、次いで最適量の酸を正確に添加し、通気処理を開始する必要があるが、試料の導入および酸の添加が正確に実行されたかどうかについては、試料の不均一や、操作または装置の読み取り精度から発生する誤差があっても、それを数値で確認・記録することができない。もし酸の添加量が不足しているとICの除去は不完全になり、TOC濃度の測定に誤差を与える。また酸の添加量が過剰になっていると、装置の燃焼部の劣化を促進する。特にpHの異なる試料の連続分析においては、このためと見られる燃焼部の劣化が顕著であり、度々装置の保守を行わなければならない。本発明はこのような問題点を解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明が提供する全有機体炭素計は上記課題を解決するために、pHモニタ手段を取り付けた試料注入器を設け、酸の添加中の試料のpHをリアルタイムで測定しながら、最適のpHで添加を停止する。
【発明の効果】
【0011】
測定前に最適な酸量を計算で求める必要が無くなり、測定時に種々の試料に対して常に最適量の酸をその場で添加することができるので、分析作業が単純化され、分析精度が向上し、装置の寿命が改善され保守作業頻度が減少する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
試料注入器とキャリアガス注入部と燃焼部を備え、試料注入器から注入された試料とキャリアガス注入部から注入されたキャリアガスを混合して燃焼部で燃焼させ、液体試料中の有機物質の炭素量を測定する全有機体炭素計において、pHモニタ手段を取り付けた試料注入器を設ける。
【実施例】
【0013】
図1は本発明の1実施例の構成図である。なお、図1において図2と同じ符号を有する部品は図2と同一である。1は試料容器、2は酸容器である。3はマルチポートバルブで、中央のポートに試料注入器5が連結されており、必要に応じてマルチポートバルブ3の周辺のポートの何れか1個が選択されて試料注入器5に接続される。4はバックグラウンド確認用の純水を収納する純水容器である。試料注入器5にはスパージガスを導入できるように、スパージガスの導入口を有している。試料等の吸引・放出操作はプランジャ6の移動によって行われる。また試料注入器5にはIn−situ(その場)pH価モニタ手段としてpH測定部21が取り付けられている。pH測定部21としては、たとえばISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)電極やガラス電極を使用したpHセンサを使用することが出来る
【0014】
マルチポートバルブ3の周辺のポートの1個はキャリアガス注入部7を介して、酸化触媒(図示せず)を内蔵したTC燃焼管8に接続されている。TC燃焼管8とTC炉9によって燃焼部Fが構成される。燃焼部Fを通過した試料中の二酸化炭素は検出器11で検出され、電気信号としてデータ処理部12で処理されTOC濃度として記録されるとともに、表示器13で表示される。検出器11としては一般にNDIRが使用されている。
【0015】
測定時はまず試料注入器5を純水容器4に接続し、プランジャ6の操作により規定量の純水を試料注入器5に吸入し、次に試料注入器5をTC燃焼管8に接続しバックグラウンドの測定を行った後、試料注入器5を試料容器1に接続し規定量の試料を吸入し、次いで酸容器2に接続し、pH測定部21で試料のpHをモニタしながら酸を吸入し、試料が最適のpHになったところで酸の供給を停止する。次に試料注入器5をアブソーバ10に接続しスパージガスを導入し通気処理を行う。通気処理終了後、試料注入器5をTC燃焼管8に接続すると共にキャリアガス注入部7からキャリアガスを導入し、プランジャ6の操作により試料をキャリアガスと共にTC燃焼管8に送り込む。TC燃焼管8を通過したキャリアガスおよび試料は検出器11を通過し、NPOCの測定が行われる。
【0016】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、さらに種々の変形実施例を挙げることができる。たとえば図1では基本的に装置の操作は手動として説明しているが、本発明は操作の手動に限定される訳ではなく、酸の最適吸入量の自動検知および酸の吸入の自動停止を含む各操作を自動的に行わせる構成も含む。またpHモニタ手段を取り付けた試料注入器を設けたものであれば、TOC計の構成は実施例に限定されない。本発明はこれらをすべて包含する。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、河川、湖沼、海域、工場等に由来する水質の監視または水質の管理に使用される、有機炭素濃度測定用のTOC計に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】は本発明の実施例の構成図である。
【図2】は従来の実施例の構成図である。
【符号の説明】
【0019】
1 試料容器
2 酸容器
3 マルチポートバルブ
4 純水容器
5 試料注入器
6 プランジャ
7 キャリアガス注入部
8 TC燃焼管
9 TC炉
10 アブソーバ
11 検出器
12 データ処理部
13 表示器
21 pH測定部
F 燃焼部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料注入器とキャリアガス注入部と試料燃焼部を備え、試料注入器から注入された液体試料とキャリアガス注入部から注入されたキャリアガスを混合して試料燃焼部で燃焼させることによって液体試料中の有機物質の炭素量を測定するTOC計において、前記試料注入器にpHモニタ手段を取り付けたことを特徴とするTOC計。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−84307(P2006−84307A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268905(P2004−268905)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】