説明

TS切替装置およびTS切替方法

【課題】 緊急警報を発生から即座に送出することの可能なTS切替装置を提供すること。
【解決手段】 実施形態によれば、TS切替装置は、複数系統のTS(Transport Stream)信号を入力され、切替部と、遅延部と、検出部と、バイパス処理部と、多重部とを具備する。切替部は、複数系統のTS信号のうちいずれかの系統のTS信号を切替出力する。遅延部は、TS信号の切替部への入力前段において系統ごとのTS信号のタイムスロットを揃える。検出部は、少なくとも出力される系統のTS信号に含まれるTSパケットごとに緊急情報の有無を検出する。バイパス処理部は、検出部により緊急情報を検出されたTSパケットを、遅延部を経由しない経路にバイパスさせる。多重部は、バイパスされたTSパケットを、遅延部を経由したTS信号に多重する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、入力された複数系統のTS信号からいずれか一系統のTS信号を選択的に出力するTS切替装置と、この装置に用いられるTS切替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放送局においては、放送波を送信レベルにまで増幅して空間に放射するブロックの前段に、TS(Transport Stream)信号を出力する装置が設置される。この装置は信頼性を高めるために、複数の系統にわたるTS信号の伝送経路を備えることが多い。この種の装置は例えばTS切替装置と称して知られている。
【0003】
既存のTS切替装置では、TS信号に含まれるTSパケットのヘッダの先頭を示す47Hexを受信系統ごとに検出する。そして、47Hexの検出タイミングの差に基づいて、先行している系統のTS信号を遅延回路でバッファリングして出力系統を切り替えるようにしている。このようにすることで系統ごとのTS信号の時間差が吸収され、複数系統のMPEG2−TS信号をシームレスに切り替えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−283476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、緊急警報(緊急地震警報、緊急津波警報など)を伝達するためのTSパケットは、その発生から即座に、迅速に送出することが要求される。しかしながら既存のTS切替装置では遅延回路によって緊急警報用のTSパケットまでもが遅延されるため、警報の即時性の観点から対策を求められる。
目的は、緊急警報をその発生から即座に送出することの可能なTS切替装置およびTS切替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、TS切替装置は、複数系統のTS(Transport Stream)信号を入力され、切替部と、遅延部と、検出部と、バイパス処理部と、多重部とを具備する。切替部は、複数系統のTS信号のうちいずれかの系統のTS信号を切替出力する。遅延部は、TS信号の切替部への入力前段において系統ごとのTS信号のタイムスロットを揃える。検出部は、少なくとも出力される系統のTS信号に含まれるTSパケットごとに緊急情報の有無を検出する。バイパス処理部は、検出部により緊急情報を検出されたTSパケットを、遅延部を経由しない経路にバイパスさせる。多重部は、バイパスされたTSパケットを、遅延部を経由したTS信号に多重する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態に係わるTS切替装置の一例を示す機能ブロック図。
【図2】比較のため既存のTS切替装置の一例を示す機能ブロック図。
【図3】TSパケットの送出のタイミングの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、実施形態に係わるTS切替装置の一例を示す機能ブロック図である。以下、実施形態に係わるTS切替装置に符号100を付してTS切替器100と称して説明する。TS切替器100はTS多重装置と変調器10との間に設けられる。
図1において、符号化装置1で生成されたTSパケットはTS信号のかたちでTS多重化装置3に入力される。緊急の事態が生じると、緊急情報(緊急警報など)を含む緊急警報TSパケットが緊急警報装置2で生成される。この緊急警報TSパケットはTS多重化装置3に入力されてTS信号に多重される。
【0009】
TS切替器100は冗長化された信号伝達経路を備え、実施形態では2系統の経路を備える。すなわちTS切替器100には複数系統のTS信号が入力される。一方の系統は緊急警報検出部4、PID抽出部5および遅延回路6を備える。他方の系統は緊急警報検出部41、PID抽出部51および遅延回路61を備える。
【0010】
各系統のTS信号は切替部7に入力される。切替部7はいずれかの系統のTS信号を選択的に切替出力し、その出力はTS再多重部8に入力される。TS再多重部8の出力は変調器10により放送信号用に変調され、送信電力増幅器(図示せず)などを介して放送される。
【0011】
遅延回路6,61は各系統からのTS信号が切替部7に入力される手前に設けられる。遅延回路6,61は各系統のTS信号をバッファリングし、系統ごとのTS信号のタイムスロットを揃える。
上記構成において、定常時には例えば緊急警報検出部4を含む系統を現用系として運用し、障害時には、緊急警報検出部41を含む系統が待機系から現用系に切り替えられる。すなわち緊急警報検出部4を含む系統にはTS多重化装置3からのTS信号が入力され、同じ内容のTS信号が冗長系として緊急警報検出部41を含む系統に入力される。
なお緊急警報検出部4,41、PID抽出部5,51、遅延回路6,61、切替部7、TS再多重部8を含むTS切替器100の機能は、制御部9に書き込まれたソフトウェアにより制御される。
【0012】
緊急警報検出部4は、少なくとも出力される系統、すなわち現用系のTS信号に含まれるTSパケットごとに緊急情報の有無を検出する。具体的には、緊急警報検出部4は、TSパケットに含まれるPMT(Program Management Table または Program Map Table)、IIP(ISDB-T Information Packet)情報、または、TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration and Control)情報を解析する。そして、緊急警報記述子や緊急警報放送フラグ(緊急情報と総称する)を検出すると、緊急警報検出部4はその旨とともに検出した内容を制御部9に通知する。
【0013】
なおPMTには、或る放送プログラムに含まれる画像や音声などの各PIDが格納される。また緊急警報検出部4は、PAT(Program Association Table)を参照するようにしても良い。PATは、或るTSパケット内に含まれるプログラム一覧をPMTのPIDの一覧により格納したものである。
【0014】
PID抽出部5は、緊急警報検出部4により緊急情報を検出されたTSパケットを、遅延部6を経由しない経路にバイパスさせる。同様にPID抽出部51は、緊急警報検出部41により緊急情報を検出されたTSパケットを、遅延部61を経由しない経路にバイパスさせる。これらの経路は図1の緊急警報TSパケットと記された矢印により示される。すなわちPID抽出部5,51は、制御部9により予め設定された緊急警報に関連するPIDを含むTSパケットを抽出し、抽出したTSパケットを緊急警報TSパケットとしてTS再多重部8に伝達する。なおPIDを含まないTSパケットはそのまま遅延回路6,61に入力される。
【0015】
TS再多重部8は、バイパスされたTSパケットを、遅延部6,61を経由したTS信号に多重する。すなわちTS再多重部8は緊急警報放送中の通知を制御部9から受け、遅延回路6または61、および切替部7を経由して到達したTSパケットに、PID抽出部5から伝達された緊急警報TSパケットを再多重して変調器10に送る。
TS再多重部8は、バイパスされたTSパケットを、遅延部6,61を経由したTS信号において同じタイムスロットに並ぶTSパケットと例えば差し替えることで多重処理を行う。なお図1においては、緊急警報TSパケットが現用系および待機系の双方からTS再多重部8に入力される経路が示される。そこでTS再多重部8は切替スイッチ(図示せず)をその内部に備え、切替スイッチを一方の系統に接続することで、一つの系統からの緊急警報TSパケットをTS信号に多重する。
【0016】
次に上記構成における作用を説明する。比較のため、まず既存のTS切替装置の構成を概略的に説明する。
図2は、比較のため既存のTS切替装置の一例を示す機能ブロック図である。図2において緊急警報装置2で生成されたTSパケットは、TS多重装置3において符号化装置1からのTS信号と多重されたのち、TS切替器200の遅延回路6または61に入力される。緊急警報を多重されたTS信号は遅延回路6,61における一定期間のバッファリングののち、切替部11を経て変調器10に出力される。これにより現用系、予備系の切替に際して映像をシームレスに切り替えることができる。
【0017】
図3は、TSパケットの送出のタイミングの一例を示す図である。図3(a)は既存の技術によるタイミングを示し、図3(b)は実施形態におけるタイミングを示す。図3(a)に示される既存技術では遅延回路6,61により全てのパケットが同じ遅延期間(例えばN秒とする)だけ遅延されるので、緊急警報放送も遅延時間N秒だけ遅延されることになる。
【0018】
これに対し実施形態によれば、図3(b)に示されるように、緊急警報を含まないTSパケットがN秒遅延しているのに対し、PMTと緊急警報は遅延なく送出することが可能となる。すなわち緊急警報に係わるPMTを含むTSパケット、緊急警報を含むTSパケットは、同じタイムスロットに位置するTSパケットと差し替えられる。これにより特定のPIDにより示される緊急警報TSパケットが、その発生から遅延なく送出されるようになる。
【0019】
以上説明したようにこの実施形態では、複数系統のTS信号を入力されいずれかの系統のTS信号を切替出力する切替部7と、TS信号の切替部7への入力前段において系統ごとのTS信号のタイムスロットを揃えるための遅延部6,61とを備えるTS切替器100において、TSパケットごとに緊急情報の有無を検出し、緊急情報を検出されたTSパケットを遅延部6,61を経由しない経路にバイパスさせたうえで、遅延部6,61を経由したTS信号に多重するようにしている。
このようにしたので、緊急警報に限っては本来の位置において送出することができ、緊急警報をその発生から即座に送出することの可能なTS切替装置およびTS切替方法を、簡易に提供することが可能となる。
【0020】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0021】
100…TS切替器、1…符号化装置、2…緊急警報装置、3…TS多重化装置、4,41…緊急警報検出部、5,51…PID抽出部、6,61…遅延回路、7…切替部、8…TS再多重部、9…制御部、10…変調器、11…切替部、200…TS切替器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数系統のTS(Transport Stream)信号を入力されるTS切替装置において、
前記複数系統のTS信号のうちいずれかの系統のTS信号を切替出力する切替部と、
前記TS信号の前記切替部への入力前段において前記系統ごとのTS信号のタイムスロットを揃えるための遅延部と、
少なくとも出力される系統のTS信号に含まれるTSパケットごとに緊急情報の有無を検出する検出部と、
前記検出部により前記緊急情報を検出されたTSパケットを、前記遅延部を経由しない経路にバイパスさせるバイパス処理部と、
前記バイパスされたTSパケットを、前記遅延部を経由したTS信号に多重する多重部とを具備する、TS切替装置。
【請求項2】
前記多重部は、前記バイパスされたTSパケットを、前記遅延部を経由したTS信号において同じタイムスロットに並ぶTSパケットと差し替える、請求項1に記載のTS切替装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記TSパケットごとにPMT(Program Management Table)を解析して緊急警報記述子の有無を検出し、
前記バイパス処理部は、前記解析の結果に基づいて、緊急警報に関連するPID(Packet Identifier)を含むTSパケットを、前記遅延部を経由しない経路にバイパスさせる、請求項1に記載のTS切替装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記TSパケットごとに、IIP(ISDB-T Information Packet)情報およびTMCC(Transmission and Multiplexing Configuration and Control)情報の少なくとも一方を解析して緊急警報放送フラグの有無を検出し、
前記バイパス処理部は、前記解析の結果に基づいて、緊急警報に関連するPID(Packet Identifier)を含むTSパケットを、前記遅延部を経由しない経路にバイパスさせる、請求項1に記載のTS切替装置。
【請求項5】
複数系統のTS(Transport Stream)信号を入力されるTS切替装置に用いられるTS切替方法において、
前記TS切替装置は、
前記複数系統のTS信号のうちいずれかの系統のTS信号を切替出力する切替部と、
前記TS信号の前記切替部への入力前段において前記系統ごとのTS信号のタイムスロットを揃えるための遅延部とを具備し、
前記方法は、
少なくとも出力される系統のTS信号に含まれるTSパケットごとに緊急情報の有無を検出し、
前記緊急情報を検出されたTSパケットを、前記遅延部を経由しない経路にバイパスさせ、
前記バイパスされたTSパケットを、前記遅延部を経由したTS信号に多重する、TS切替方法。
【請求項6】
前記多重することは、前記バイパスされたTSパケットを、前記遅延部を経由したTS信号において同じタイムスロットに並ぶTSパケットと差し替える、請求項5に記載のTS切替方法。
【請求項7】
前記検出することは、前記TSパケットごとにPMT(Program Management Table)を解析して緊急警報記述子の有無を検出し、
前記バイパスすることは、前記解析の結果に基づいて、緊急警報に関連するPID(Packet Identifier)を含むTSパケットを、前記遅延部を経由しない経路にバイパスさせる、請求項5に記載のTS切替方法。
【請求項8】
前記検出することは、前記TSパケットごとに、IIP(ISDB-T Information Packet)情報およびTMCC(Transmission and Multiplexing Configuration and Control)情報の少なくとも一方を解析して緊急警報放送フラグの有無を検出し、
前記バイパスすることは、前記解析の結果に基づいて、緊急警報に関連するPID(Packet Identifier)を含むTSパケットを、前記遅延部を経由しない経路にバイパスさせる、請求項5に記載のTS切替方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−5401(P2013−5401A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137710(P2011−137710)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】