説明

TVOC計

【課題】試料ガス中の酸素や二酸化炭素量に影響されずに測定可能なTVOC計を提供する。
【解決手段】一定流量の試料ガスG1の酸素濃度を磁気式酸素計2で測定した後、試料ガスG1を燃焼触媒酸化炉3で完全燃焼させ、排出された試料ガスG2の酸素濃度を磁気式酸素計4で測定し、それぞれの測定値に比例した電気信号E1、E2を演算処理装置5に入力して酸素濃度差を求め、その酸素濃度差を演算処理して試料ガスG1の全揮発性有機化合物(TVOC)濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気ガスや雰囲気ガスに含まれる全(総)揮発性有機化合物(TVOC)濃度を測定するTVOC計に関する。
【背景技術】
【0002】
TVOCは、ベンゼン、キシレン、トルエンなど最大11種類の揮発性有機化合物の総量を指すもので、工場などの事業所における塗装、接着、印刷、化学製品製造等の作業現場や住宅の建築材料や接着材などから放出されるガスが該当するが、これらの揮発性有機化合物は化学物質過敏症やシックスハウス症候群などの原因物質であることが知られている。
【0003】
このため各揮発性有機化合物に対し、表1に示す室内環境ガイドラインとしての規制値が国の指針値として定められている(例えば、非特許文献1参照。)。
【表1】

特に、TVOCに対しては、0.4mg/m3(新築時1mg/m3)が国の暫定目標値として定められている。また、環境省告示第61号(平成17年6月10日)による大気汚染防止法により、TVOCを水素炎イオン化形分析計(FID計)(例えば、特許文献1参照。)または非分散型赤外線ガス分析計(NDIR計)を用いて測定するよう通達されている。
【0004】
図3にFID計を用いてTVOC濃度を測定する場合の構成例を示す。このFID計は石英製のノズル101の先端部と電極となるコレクタ102を反応炉103内に収容し、前記ノズル101に約300Vの高電圧104を前記コレクタ102に対して印加したものである。試料ガスG1と水素ガスH1を供給し、前記反応炉103に空気A1を供給するものである。前記ノズル101の先端の水素炎105中で下記反応式で表される反応が行われる。
CH+O2→CHO++e-
すなわち、試料ガスG1中の揮発性有機化合物が水素炎105中で燃焼し、有機物化合物濃度に比例したイオン電流がコレクタ102に捕集される。この電流をデータ処理装置106によりTVOC濃度に変換し出力・表示している。
【0005】
図4に単セル方式のNDIR計を用いてTVOC濃度を測定する場合の構成例を示す。このNDIR計は、試料ガスG1をバイパスするバイパス流路201と酸化触媒202が介在する酸化触媒流路203と、前記バイパス流路201と酸化触媒流路203を切り替える切替弁204と、前記切替弁204からの試料ガスG1を収容する試料セル205、赤外線を放射する光源206、静電容量型の検出器207及び前記切替弁204を交互に切り替えるとともに、前記検出器207からの電気信号を試料ガスG1のTVOC濃度に変換処理する信号変換器208から構成されている。前記バイパス流路201からの試料ガスG1中のCO2濃度と酸化触媒流路203を経由した試料ガスのCO2濃度を測定しそのCO2濃度差から揮発性有機化合物濃度を求めるものである。
【0006】
【非特許文献1】シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書の第4回〜第5回のまとめについて、厚生省、平成12年12月22日
【特許文献1】特開2003−202324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のFID計を使用してTVOC濃度を測定する場合、試料ガス中の酸素濃度によって測定値が変わる、所謂、酸素干渉を受けるという問題がある。また、NDIR計を使用してTVOC濃度を測定する場合、原理上試料ガス中に二酸化炭素が大量に含まれている燃焼排ガス中のTVOC濃度の測定は困難であるという問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、試料中に含まれる酸素や二酸化炭素の影響を受けずにTVOC濃度を測定できるTVOC計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明のTVOC計は試料ガスを一定流量吸入する吸入手段と、吸入された試料ガスの酸素濃度を測定する測定手段と、測定後の試料ガスを酸化燃焼させる酸化燃焼手段と、酸化燃焼後の試料ガスの酸素濃度を測定する測定手段と、酸化燃焼前後の試料ガスの酸素濃度差を算出し、この酸素濃度差に補正演算を行い試料ガス中の全揮発性有機化合物濃度を算出する演算手段とを備えているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のTVOC計は試料ガスを酸化燃焼し、その前後の酸素濃度を酸素計で測定し、その酸素濃度の減少量を測定することによって試料ガス中に含まれる酸素や二酸化炭素の影響を受けずにTVOCの濃度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明が提供する最良の形態のTVOC計は、試料ガスを一定流量吸入する吸入手段と、吸入された試料ガスの酸素濃度を測定する測定手段と、測定後の試料ガスを酸化燃焼させる酸化燃焼手段と、酸化燃焼後の試料ガスの酸素濃度を測定する測定手段と、酸化燃焼前後の試料ガスの酸素濃度差を算出し、この酸素濃度差に補正演算を行い試料ガス中の全揮発性有機化合物濃度を算出する演算手段とを備えているものである。
【実施例1】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例の形態について述べる。図1は本発明の実施例によるTVOC計の概略構成図である。本TVOC計は、試料ガスG1を一定流量吸入するための流量制御系1と、吸入された試料ガスG1の酸素濃度O1を測定する磁気式酸素計2と、該磁気式酸素計2を通過した試料ガスG1中の有機化合物を完全燃焼して炭酸ガスと水に分解する燃焼触媒酸化炉3と、該燃焼触媒酸化炉3を通過した試料ガスG2の酸素濃度O2を測定する磁気式酸素計4と、前記磁気式酸素計2、4の電気信号E1、E2を減算してTVOC濃度に変換する演算処理装置5から構成されている。前記流量制御系1は、ガス流路11中に配設された流量制御弁12及び流量センサ13aと、流量制御装置13と、ポンプ14から構成されている。また、前記燃焼触媒酸化炉3は、石英ガラス製の燃焼管31と、その下部から順次収容されている白金網32、石英ウール33及び白金触媒34等から構成されている。
【0012】
前記磁気式酸素計2、4として公知の磁気風方式ドーナツ状測定室型や磁気風方式円筒測定室型などの磁気式酸素計を用いることができる。図2は磁気風方式ドーナツ状測定室型の磁気式酸素計2の構成を示すもので、ガラス製のリングセル21と、バイパス管22と、コイル23と、磁石24と、ブリッジ回路25とで構成されている。前記リングセル21には、リング状の試料ガス流路26の対称位置に試料ガスの入口27、出口28が配設されている。前記コイル23の中央から左右は前記ブリッジ回路25の各一辺を形成している。なお、磁気式酸素計4も磁気式酸素計2と同様の構成である。
【0013】
上記構成において試料ガスG1はポンプ14により吸引されるとともにその流量は流量センサ13aにより検出され、この検出信号は流量制御装置13内の流量設定値と比較され、その設定流量となるように流量制御弁12により制御される。この試料ガスG1を磁気式酸素計2の入口27から出口28に流すと、試料ガスG1中の酸素は前記磁石24で形成される磁界に吸引されることにより、バイパス管22の内部で左から右方向に酸素の磁気風が生じ、コイル23の左右の抵抗値に差が生じ、不平衡電圧が電気信号E1として検出される。この電気信号E1は一定流量の試料ガスG1に対して検出されるのでその大きさは酸素濃度O1に比例する。
【0014】
そして前記磁気式酸素計2から送出された試料ガスG1は次に前記燃焼触媒酸化炉3に供給される。この試料ガスG1は、燃焼触媒酸化炉3内の白金触媒34に接触して約680℃の完全燃焼温度で燃焼され、試料ガスG1は酸素の一部が揮発性有機化合物と結合して炭酸ガスおよび水に変換され試料ガスG2となって前記磁気式酸素計4に供給される。
【0015】
前記試料ガスG2は前記磁気式酸素計4において、前記磁気式酸素計2と同様な測定方法により酸素濃度O2に比例した電気信号E2として検出される。前記電気信号E1、E2は演算処理装置5によって引き算(E1−E2)が行われるとともに、その差ΔEを例えば予め実験的に求めた下記演算式(1)に入力することにより、TVOC濃度が算出され出力・表示される。
Y=f(ΔE)……………(1)
なお上式において、YはTVOC濃度を示し、f(ΔE)はΔEの関数を示す。
【0016】
本発明のTVOC計の構成は上記実施例に限定されるものではなく、例えば試料ガスG1、G2中の酸素濃度の測定に公知のジルコニア酸素計を始め各種の酸素計を使用することもできる。また、図1に示した構成部品を一台の筐体内に収容してもよい。そして試料ガス中の酸素量が少ない場合は、酸素又は空気を試料ガスに加えて供給してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は工場などの事業所における塗装、接着、印刷、化学製品製造等の作業現場や住宅の建築材料や接着材などから放出されるガス中のTVOC濃度の測定に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例によるTVOC計の構成を示す図である。
【図2】実施例に係わる磁気式酸素計の構成を示す図である。
【図3】FID計を用いてTVOC濃度を測定する場合の構成例を示す図である。
【図4】NDIR計を用いてTVOC濃度を測定する場合の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 流量制御系
2 磁気式酸素計
3 燃焼触媒酸化炉
4 磁気式酸素計
5 演算処理装置
11 ガス流路
12 流量制御弁
13 流量制御装置
13a 流量センサ
14 ポンプ
21 リングセル
22 バイパス管
23 コイル
24 磁石
25 ブリッジ回路
26 試料ガス流路
27 入口
28 出口
31 燃焼管
32 白金網
33 石英ウール
34 白金触媒
101 ノズル
102 コレクタ
103 反応炉
104 高電圧
105 水素炎
106 データ処理装置
201 バイパス流路
202 酸化触媒
203 酸化触媒流路
204 切替弁
205 試料セル
206 光源
207 検出器
208 信号変換器
A1 空気
E1、E2 電気信号
G1、G2 試料ガス
H1 水素ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスを一定流量吸入する吸入手段と、吸入された試料ガスの酸素濃度を測定する測定手段と、測定後の試料ガスを酸化燃焼させる酸化燃焼手段と、酸化燃焼後の試料ガスの酸素濃度を測定する測定手段と、酸化燃焼前後の試料ガスの酸素濃度差を算出し、この酸素濃度差に補正演算を行い試料ガス中の全揮発性有機化合物濃度を算出する演算手段とを備えていることを特徴とするTVOC計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−93409(P2007−93409A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283774(P2005−283774)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】