説明

Ti−MWW前駆体の活性化方法

【課題】チタノシリケート触媒を活性化する方法を提供すること。
【解決手段】Ti-MWW前駆体をカルボン酸もしくはカルボン酸塩と接触させることを特徴とするTi-MWW前駆体の活性化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ti-MWW前駆体の活性化方法および活性化されたTi-MWW前駆体を触媒として用いるオレフィンオキサイドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Ti-MWW前駆体を触媒としてプロピレンを過酸化水素と反応させプロピレンオキサイドを製造する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。しかしながらこの方法では必ずしも工業的に十分な反応成績が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-326171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、工業的使用に好適な活性を有するチタノシリケートの製造方法およびそれを用いたオレフィンオキサイドの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、Ti-MWW前駆体をカルボン酸もしくはカルボン酸塩と接触させることを特徴とするTi-MWW前駆体の活性化方法、さらには、活性化されたTi-MWW前駆体触媒の存在下、過酸化水素をオレフィンと反応させることを特徴とするオレフィンオキサイドの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、簡便な方法でTi-MWW前駆体を活性化することができ、オレフィンオキサイドを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
Ti-MWW前駆体とは、これを焼成することによりMWW (IZA(国際ゼオライト学会)の構造コード)構造を有するチタノシリケートであるTi-MWWとなるものの総称であり、チタノシリケートとは、テクトケイ酸塩中のSiの一部がTiに同形置換されたものの総称である(触媒の事典(朝倉書店) 2000年11月1日発行)の「チタノシリケート」の項の記載を参照)。TiのSiとの同形置換は、例えば、紫外可視吸収スペクトルで210 nm〜230 nmにピークを持つことにより容易に確認できる。
【0008】
Ti-MWW前駆体は、ケイ素化合物、ホウ素化合物、チタン化合物、水および構造規定剤を混合した後、熱処理し得られる層状化合物(例えば、Chemistry Letters 774-775 (2000)を参照、同文献中ではas-synthesizedサンプルとも記載されている。)を、典型的には、2M硝酸と接触させ、構造規定剤を除く工程からなる合成方法により製造することができる。なおas-synthesizedサンプルと呼ばれる上記層状化合物は、これをそのまま焼成することによりMWW構造を有するゼオライトに変化するが、これは紫外可視吸収スペクトルで210 nm〜230 nmにピークが無いためチタノシリケートではなく、Ti-MWW前駆体とは明らかに区別される。
【0009】
また、Ti-MWW前駆体は、構造規定剤、ホウ素化合物、ケイ素化合物および水を含有する混合物を加熱して得られる層状ボロシリケートを、好ましくは酸等と接触させ構造規定剤を除いた後、焼成してB-MWWを得て、得られたB-MWWを酸等により脱ホウ素した後、構造規定剤、チタン化合物、水を加えて得られる混合物を加熱して層状化合物を得て、これを、典型的には、6M硝酸と接触させ、構造規定剤を除く工程からなる方法により製造することもできる(例えば、Chemical Communication 1026-1027,(2002))。
【0010】
さらに、Ti-MWW前駆体は、構造規定剤、ホウ素化合物、ケイ素化合物および水を含有する混合物を加熱して得られる層状ボロシリケートを、チタン源および無機酸と接触させ、構造規定剤を除く工程からなる方法により製造することもできる。
【0011】
さらに、Ti-MWW前駆体として、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤を用いてシリル化して得られるシリル化物を使用してもよい。
【0012】
本発明で用いるカルボン酸としては、例えば、モノカルボン酸、ポリカルボン酸が挙げられる。
モノカルボン酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、オクチル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪族モノカルボン酸、例えば、シクロヘキサンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸などの飽和単環モノカルボン酸、例えば、ナフテン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸などの不飽和脂肪族モノカルボン酸、例えば、ジフェニル酢酸などの芳香族基が置換した脂肪族カルボン酸、例えば、安息香酸、トルイル酸などの芳香族モノカルボン酸などが例示される。好ましいモノカルボン酸としては酢酸、安息香酸等が挙げられる。
ポリカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、酒石酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、グルタコン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸、α-ハイドロムコン酸、β-ハイドロムコン酸、α-ブチル-α-エチルグルタル酸、α,β-ジエチルサクシン酸、マレイン酸、フマル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などが例示される。好ましいポリカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸等が挙げられる。
【0013】
カルボン酸塩としては、例えば、上記カルボン酸の金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。好ましいカルボン酸塩は、カルボン酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩であり、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム等が例示される。
【0014】
Ti-MWW前駆体とカルボン酸もしくはカルボン酸塩とを接触する際の温度としては20℃から150℃が好ましく、さらに50℃から104℃が特に好ましい温度範囲である。カルボン酸もしくはカルボン酸塩を溶液中で使用する場合には、その溶媒としては、例えば、水、アルコール、エーテル、エステル、ケトンもしくはそれらの混合物が例示され、特に水が好ましい。接触させる際の圧力については、特に制限は無いが、通常、ゲージ圧力で0〜10MPa程度である。
【0015】
用いるカルボン酸もしくはカルボン酸塩の量は、特に限定されず、例えば、Ti-MWW前駆体1重量部当たり、0.001〜100重量部であり、0.1〜10重量部の範囲でも有効である。
【0016】
オレフィンとしては、具体的には、炭素数2〜10のオレフィン、炭素数4〜10の環状オレフィンが挙げられる。炭素数2〜10のオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、2-ブテン、イソブテン、2-ペンテン、3-ペンテン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、2-オクテン、3-オクテン、2-ノネン、3-ノネン、2-デセン及び3-デセン等が例示され、炭素数4〜10のシクロオレフィンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロへキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン等が例示されるが、好ましいオレフィンは、プロピレンである。
【0017】
過酸化水素は、通常、0.0001重量%〜100重量%の濃度範囲の過酸化水素水溶液がオレフィンのエポキシ化反応に用いられる。過酸化水素は、公知の方法で製造されたものを用いてもよいし、オレフィンのエポキシ化反応の行われる反応器内で貴金属の存在下に酸素と水素から製造されたものを用いてもよい。
【0018】
過酸化水素として、エポキシ化反応の行われる反応器内で酸素と水素から製造される過酸化水素を使用することもできる。酸素と水素から過酸化水素を製造する反応に使用する貴金属触媒としては、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、金等の貴金属、またはそれらの合金もしくは混合物があげられる。好ましい貴金属としては、パラジウム、白金、金があげられる。さらにより好ましい貴金属はパラジウムである。パラジウムとしては、例えば、パラジウムコロイドを用いてもよい(例えば、特開2002-294301号公報、実施例1等参照)。
【0019】
パラジウムには、白金、金、ロジウム、イリジウム、オスミウム等の金属を添加混合して用いることができる。好ましい添加金属としては、白金があげられる。
また、これらの貴金属は、酸化物や水酸化物等の化合物の状態であっても良い。貴金属化合物の状態で反応器に充填し、反応条件下、反応原料中の水素により部分的あるいは全てを還元することもできる。
貴金属は、通常、担体に担持して使用される。貴金属は、チタノシリケートに担持して使用することもできるし、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ニオビア等の酸化物、ニオブ酸、ジルコニウム酸、タングステン酸、チタン酸等の水化物または炭素およびそれらの混合物に担持して使用することもできる。チタノシリケートに貴金属を担持させない場合、貴金属を担持した担体をチタノシリケートと混合し、当該混合物を触媒として使用することができる。チタノシリケート以外の担体の中では、炭素が好ましい担体として挙げられる。炭素担体としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が知られている。
貴金属担持触媒の調製方法としては、例えばPdテトラアンミンクロリド等のアンミン錯体等を担体上に含浸法等によって担持した後、還元する方法が知られている。還元方法としては、水素等の還元剤を用いて還元しても良いし、不活性ガス下、熱分解時に発生するアンモニアガスで還元しても良い。還元温度は、貴金属アンミン錯体によって異なるがPdテトラアンミンクロリドを用いた場合は、通常、100℃から500℃であり、200℃から350℃が好ましい。かくして、得られる貴金属担持物は、貴金属を、通常、0.01〜20重量%の範囲、好ましくは0.1〜5重量%含むものである。チタノシリケートに対する貴金属の重量比(貴金属の重量/チタノシリケートの重量)は、好ましくは、0.01〜100重量%、より好ましくは0.1〜20重量%である。
【0020】
オレフィンオキサイドの製造方法においては、緩衝塩を反応溶媒に加える方法も、触媒活性の減少を防止したり、触媒活性をさらに増大させたり、原料ガスの利用効率を向上させることができるため有効である。緩衝塩を反応溶媒に加える方法としては、緩衝塩を液相中に溶解させた後、反応に使用する方法が一般的であるが、予め貴金属錯体の一部に含ませておくことも有効である。例えば、Pdテトラアンミンクロリド等のアンミン錯体等を担体上に含浸法等によって担持した後、還元し、アンモニウムイオンを残存させ、エポキシ化反応中に緩衝塩を発生させる方法である。緩衝塩の添加量は通常、単位溶媒重量(水およびニトリル化合物の合計重量)あたり、通常、0.001 mmol /kg〜100 mmol/kgである。
緩衝塩としては、1)硫酸イオン、硫酸水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸2水素イオン、ピロリン酸水素イオン、ピロリン酸イオン、ハロゲンイオン、硝酸イオン、水酸化物イオンもしくはC1-C10カルボン酸イオンから選ばれるアニオンと、2)アンモニウム、アルキルアンモニウム、アルキルアリールアンモニウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩から選ばれるカチオンとからなる緩衝塩が例示される。
C1-C10カルボン酸イオンとしては、酢酸イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、吉草酸イオン、カプロン酸イオン、カプリル酸イオン、カプリン酸イオン、安息香酸イオンが例示される。
アルキルアンモニウムの例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ-n-プロピルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウムが挙げられ、アルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオンの例は、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、ルビジウムカチオン、セシウムカチオン、マグネシウムカチオン、カルシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、バリウムカチオンが例示される。
好ましい緩衝塩としては、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、ピロリン酸水素アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩または酢酸アンモニウム等のC1-C10のカルボン酸のアンモニウム塩が例示され、好ましいアンモニウム塩としては、リン酸2水素アンモニウムが挙げられる。
【0021】
オレフィンオキサイドの製造方法において、反応器内で酸素と水素から過酸化水素を合成して使用する場合は、キノイド化合物を、チタノシリケート、貴金属触媒担持物とともに反応溶媒に加える方法も、オレフィンオキサイドの選択性をさらに増大させることができるため有効である。
キノイド化合物としては、下記式(1)のρ−キノイド化合物およびフェナントラキノン化合物が例示される。
式(1)



(式中、R、R、RおよびRは、水素原子を表すかあるいは、互いに相隣り合うRとR、あるいはRとRは、それぞれ独立に、その末端で結合し、それぞれが結合しているキノンの炭素原子とともに、アルキル基もしくはヒドロキシル基で置換されていてもよいベンゼン環または、アルキル基もしくはヒドロキシル基で置換されていてもよいナフタレン環を表し、XおよびYは同一または互いに相異なり、酸素原子もしくはNH基を表す。)
式(1)の化合物としては、
1)式(1)にいおいて、R、R、RおよびRが、水素原子であり、XおよびYが共に酸素原子であるキノン化合物(1A)、
2)式(1)において、R、R、RおよびRが、水素原子であり、Xが酸素原子であり、YがNH基であるキノンイミン化合物(1B)、
3)式(1)において、R、R、RおよびRが、水素原子であり、XおよびYがNH基であるキノンジイミン化合物(1C)が例示される。
式(1)のキノイド化合物には、下記のアントラキノン化合物(2)が含まれる。
式(2)



(式中、XおよびYは式(1)において定義されたとおりであり、R、R、RおよびRは、同一または互いに相異なり、水素原子、ヒドロキシル基もしくはアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル等のC1-Cアルキル基)を表す。)の化合物。
式(1)および式(2)において、XおよびYは好ましくは、酸素原子を表す。式(1)のXおよびYが酸素原子であるキノイド化合物は、特別にキノン化合物あるいはρ−キノン化合物と呼ばれており、また、式(2)のXおよびYが酸素原子であるキノイド化合物は、更に特別にアントラキノン化合物と呼ばれている。
キノイド化合物のジヒドロ体としては、前記式(1)および(2)の化合物のジヒドロ体である下記の式(3)および(4)の化合物が例示される。
式(3)


(式中、R、R、R、R、XおよびYは、前記式(1)に関して定義されたとおり。)
式(4)

(式中、X、Y、R、R、RおよびRは前記式(2)に関して定義されたとおり。)
式(3)および式(4)において、XおよびYは好ましくは、酸素原子を表す。式(3)のXおよびYが酸素原子であるキノイド化合物のジヒドロ体は、特別にジヒドロキノン化合物あるいはジヒドロρ−キノン化合物と呼ばれており、また、式(4)のXおよびYが酸素原子であるキノイド化合物のジヒドロ体は、更に特別にジヒドロアントラキノン化合物と呼ばれている。
フェナントラキノン化合物としては、ρ−キノイド化合物である1,4-フェナントラキノン、ο−キノイド化合物である1,2-、3,4-および9,10-フェナントラキノンが例示される。
【0022】
具体的なキノン化合物としては、ベンゾキノンやナフトキノン、アントラキノン、例えば2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−ブチルアントラキノン、2−t−アミルアントラキノン、2−イソプロピルアントラキノン、2−s−ブチルアントラキノンまたは2−s−アミルアントラキノン等の2−アルキルアントラキノン化合物ならびに、2−ヒドロキシアントラキノン、例えば1,3−ジエチルアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、1,4−ジメチルアントラキノン、2,7−ジメチルアントラキノン等のポリアルキルアントラキノン化合物、2,6−ジヒドロキシアントラキノン等のポリヒドロキシアントラキノン、ナフトキノンおよびその混合物があげられる。
好ましいキノイド化合物としては、アントラキノンや、2−アルキルアントラキノン化合物(式(2)において、XおよびYが酸素原子であり、R5が2位に置換したアルキル基であり、R6が水素を表し、R7およびR8が水素原子を表す。)があげられる。好ましいキノイド化合物のジヒドロ体としては、これらの好ましいキノイド化合物に対応するジヒドロ体が挙げられる。
キノイド化合物もしくはキノイド化合物のジヒドロ体(以下、キノイド化合物誘導体と略記する。)を反応溶媒に添加する方法としては、キノイド化合物誘導体を液相中に溶解させた後、反応に使用する方法が挙げられる。例えばヒドロキノンや、9,10-アントラセンジオールのようにキノイド化合物が水素化された化合物を液相中に添加し、反応器内で酸素により酸化してキノイド化合物を発生させて使用しても良い。
さらに、例示したキノイド化合物を含め、本発明で用いるキノイド化合物は、反応条件によっては、一部が水素化されたキノイド化合物のジヒドロ体となり得るが、これらの化合物を使用してもよい。
用いるキノイド化合物の量は、単位溶媒重量(水、ニトリル化合物もしくは両者の混合物の単位重量)あたり、通常、0.001 mmol/kg〜500 mmol/kgの範囲で実施することができる。好ましいキノイド化合物の量は、0.01 mmol/kg〜50 mmol/kgである。
さらに本発明の方法においては、アンモニウム、アルキルアンモニウムまたはアルキルアリールアンモニウムからなる塩とキノイド化合物を同時に反応系中に加えることも可能である。
【0023】
オレフィンオキサイド製造における反応方法としては、流通式固定床反応、流通式スラリー完全混合反応等があげられる。
【0024】
予め製造した過酸化物を用いてオレフィン化合物を酸化してエポキシ化する反応の場合、反応ガス雰囲気に特に制限はないが、酸化反応の行われる反応器内で貴金属の存在下に酸素と水素から過酸化水素を製造させる場合は、反応器に供給する酸素と水素の分圧比は、通常、1:50〜50:1の範囲で実施される。好ましい酸素と水素の分圧比は、1:2〜10:1である。酸素と水素の分圧比(酸素/水素)が高すぎるとオレフィンオキサイドの生成速度が低下する場合がある。また、酸素と水素の分圧比(酸素/水素)が低すぎると、アルカン化合物副生の増大によりオレフィンオキサイドの選択率が低下する場合があるため前記のような酸素と水素の分圧比の範囲が採用される。本反応で用いられる酸素および水素ガスは希釈用のガスで希釈して反応を行うことができる。希釈用のガスとしては、窒素,アルゴン,二酸化炭素、メタン,エタン,プロパンがあげられる。希釈用ガスの濃度に特に制限は無いが、必要により、酸素あるいは水素を希釈して反応は行われる。
酸素原料としては、酸素ガス、あるいは空気等があげられる。酸素ガスは安価な圧力スウィング法で製造した酸素ガスも使用できるし、必要に応じて深冷分離等で製造した高純度酸素ガスを用いることもできる。
オレフィンオキサイド製造反応における反応温度は、通常0℃〜200℃、好ましくは40℃〜150℃である。
反応温度が低すぎると反応速度が遅くなり、反応温度が高くなりすぎると副反応による副生成物が増加する。
反応圧力は、特に制限は無いが、通常、ゲージ圧力で0.1 MPa〜20 MPa、好ましくは、1MPa〜10MPaである。反応の生成物の回収は、通常の蒸留分離により行うことができる。
【0025】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例における分析装置
粉末X線回折法(XRD)
サンプルを以下の装置、条件で粉末X線回折パターンを測定した。
装置:理学電機社製RINT2500V
線源:Cu Kα線
条件:出力 40kV-20mA
範囲:2θ=0.75〜20°
走査速度:
【0026】
紫外可視吸収スペクトル(UV-Vis)
サンプルをメノウ乳鉢でよく粉砕後、ペレット化(7mmφ)し以下の装置、条件で紫外可視吸収スペクトルを測定した。
装置:拡散反射装置(HARRICK製 Praying Mantis)
付属品:紫外可視分光光度計(日本分光製(V-7100))
圧力:大気圧
測定値:反射率
データ取込時間:0.1秒
バンド幅:2nm
測定波長:200〜900nm
スリット高さ:半開
データ取込間隔:1nm
ベースライン補正(リファレンス):BaSO4ペレット(7mmφ)
【0027】
実施例1
室温、大気(Air)雰囲気下、オートクレーブにピペリジン899g、純水2402g、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)112g、ホウ酸565g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)410gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら8時間かけて昇温した後、160℃で96時間保持することで、水熱合成を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH10付近になるまで水洗した。次にろ塊を50℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、522gの固体を得た。得られた固体75gに2Mの硝酸3750mLを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、150℃で重量減少が見られなくなるまで真空乾燥して60gの白色粉末を得た(触媒1)。この白色粉末のX線回折パターンを測定した結果、MWW前駆体構造を有することを確認し、紫外可視吸収スペクトル測定結果からはチタノシリケートであることが分かった。
室温、大気雰囲気下、ガラス製3つ口フラスコ(200mL)中に、触媒1(5g)、水(90g)、酢酸(10g)を混合した。撹拌しながら混合物を加熱し、内温が75℃となる状態で6時間撹拌を継続した。6時間後、室温まで放冷し、懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH6付近になるまで水洗(7L)した。次にろ塊を150℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、4.5gの固体を得た(触媒A)。
【0028】
実施例2
室温、大気雰囲気下、オートクレーブにピペリジン899g、純水2402g、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)112g、ホウ酸565g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)410gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら8時間かけて昇温した後、160℃で96時間保持することで、水熱合成を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH10付近になるまで水洗した。次にろ塊を50℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、519gの固体を得た。得られた固体75gに2Mの硝酸3750mLを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、150℃で重量減少が見られなくなるまで真空乾燥して60gの白色粉末を得た(Ti-MWW前駆体、以下触媒2と記す。)。この白色粉末のX線回折パターンを測定した結果、MWW前駆体構造を有することを確認し、紫外可視吸収スペクトル測定結果からはチタノシリケートであることが分かった。
室温、Air雰囲気下、ガラス製3つ口フラスコ(200mL)中に、触媒2(5g)、水(90g)、マロン酸(10g)を混合した。撹拌しながら混合物を加熱し、内温が75℃となる状態で6時間撹拌を継続した。6時間後、室温まで放冷し、懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH6付近になるまで水洗(7L)した。次にろ塊を150℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、4.0gの固体を得た(触媒B)。
【0029】
実施例3
室温、大気雰囲気下、ガラス製3つ口フラスコ(200mL)中に、先に得られた触媒2(5g)、水(90g)、コハク酸(10g)を混合した。撹拌しながら混合物を加熱し、内温が75℃となる状態で6時間撹拌を継続した。6時間後、室温まで放冷し、懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH6付近になるまで水洗(7L)した。次にろ塊を150℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、4.3gの固体を得た(触媒C)。
【0030】
実施例4
室温、大気雰囲気下、ガラス製3つ口フラスコ(200mL)中に、先に得られた触媒2 5g、水 90g、酢酸アンモニウム 10gを混合した。撹拌しながら混合物を加熱し、内温が75℃となる状態で6時間撹拌を継続した。6時間後、室温まで放冷し、懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH6付近になるまで水洗(7L)した。次にろ塊を150℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、4.3gの固体を得た(触媒D)。
【0031】
実施例5
上記の通り得られた触媒2のシリル化を、特開2003-326171号公報の方法を基に実施した。すなわち、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(13g)、トルエン(175mL)、触媒2(10g)を混合し、2時間リフラックスさせることでシリル化を行った。さらに、濾別、アセトン 500mL、水/アセトニトリル(=1/4重量比)混合溶媒 500mLの順で洗浄後、ろ塊を150℃で重量減少が無くなるまで真空乾燥し、9.1gの白色粉末を得た(触媒3)。
室温、大気雰囲気下、ガラス製3つ口フラスコ(200mL)中に、触媒3(5g)、水(90g)、酢酸(10g)を混合した。撹拌しながら混合物を加熱し、内温が75℃となる状態で6時間撹拌を継続した。6時間後、室温まで放冷し、懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH6付近になるまで水洗(7L)した。次にろ塊を150℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、3.7gの固体を得た(触媒E)。
【0032】
実施例6
反応は容量0.5Lのオートクレーブを反応器として用い、この中に触媒A 1.2 gを入れ、窒素500mL/分、プロピレン2114mmol/時間、およびH2O2 7重量%、水/アセトニトリル=20/80(重量比)の溶液を633mL/時間の速度で供給し、反応器からフィルターを介して反応混合物を抜き出すことにより、温度60℃、圧力3MPa (ゲージ圧)、滞留時間9分の条件で連続式反応を行った。5.5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドの生成速度が497mmol/時間であり、H2O2転化率は73.5%であった。
【0033】
比較例1
触媒Aの代わりに触媒1を用いた以外は、実施例6と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。5.5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドの生成速度が418mmol/時間であり、H2O2転化率は62.5%であった。
【0034】
実施例7〜10および比較例2、3に用いる触媒B〜Eおよび触媒2、3は、以下の方法に従い過酸化水素前処理を実施した。触媒 0.05g当たり、0.1重量%の過酸化水素を含む水/アセトニトリル=1/4(重量比)の溶液100gで、室温下、1時間処理し、ろ過後、500mLの水で洗浄した。さらに、洗浄後の触媒は150℃にて1時間真空乾燥を行い、反応に供した。
実施例7
30%H2O2水溶液(和光純薬株式会社製)とアセトニトリルとイオン交換水を用い、H2O2:0.5重量%、水:19.66重量%、アセトニトリル:79.84重量%溶液を調製した。調製した溶液60 gと予め過水処理を行った触媒B(0.010g)を100mLステンレスオートクレーブに充填した。次にオートクレーブを氷浴上に移し、液化プロピレン1.2 gを充填した。さらにアルゴンで2MPa-Gまで昇圧した。オートクレーブを60℃の湯浴に入れ、1時間後、オートクレーブを湯浴から取り出し、サンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーを用いて分析を行った。その結果、プロピレンオキサイドの生成量7.65mmolであった。
【0035】
実施例8
触媒Bの代わりに触媒Cを用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。その結果、プロピレンオキサイドの生成量4.49mmolであった。
【0036】
実施例9
触媒Bの代わりに触媒Dを用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。その結果、プロピレンオキサイドの生成量4.34mmolであった。
【0037】
実施例10
触媒Bの代わりに触媒Eを用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。その結果、プロピレンオキサイドの生成量4.37mmolであった。
【0038】
比較例2
触媒Bの代わりに触媒2を用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。その結果、プロピレンオキサイドの生成量3.74mmolであった。
【0039】
比較例3
触媒Bの代わりに触媒3を用いた以外は、実施例7と同様の操作を行いプロピレンオキサイドの製造を行った。その結果、プロピレンオキサイドの生成量2.84mmolであった。
【0040】
実施例11
Pd/活性炭(AC)触媒は、以下の方法により調製した。予め2Lの水にて洗浄した活性炭(和光純薬製)3 gと水300mLとを 1Lナスフラスコ中に加え空気下、室温にて撹拌した。この懸濁液に、Pdコロイド(日揮触媒化成株式会社製) 0.30 mmolを含む水溶液100 mLを空気下、室温にてゆっくり滴下した。滴下終了後、さらに懸濁液を空気下、室温にて8時間撹拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、80℃にて6時間真空乾燥、さらに窒素雰囲気下300℃で6時間焼成し、Pd/AC触媒を得た。
【0041】
実施例11および比較例4に用いる触媒Aおよび触媒1は、以下の方法に従い過酸化水素前処理を実施した。触媒 0.266g当たり、0.1重量%の過酸化水素を含む水/アセトニトリル=1/4(重量比)の溶液100gで、室温下、1時間処理し、ろ過後、500mLの水で洗浄した。
【0042】
オレフィンオキサイドの製造反応は以下の通り実施した。容量0.5 Lのオートクレーブを反応器として用い、この中に予め過酸化水素処理した触媒A(0.266g)、Pd/AC触媒(0.03 g)を入れ、プロピレン/酸素/水素/窒素の体積比が4/4/10/82となる原料ガスを16 L/時間、アントラキノン0.7ミリモル/kgおよびプロピレンオキサイド1重量%を含有する水/アセトニトリル=20/80(重量比)の溶液を108 mL/時間の速度で供給し、反応器からフィルターを介して反応混合物を抜き出すことにより、温度60℃、圧力0.8MPa (ゲージ圧)、滞留時間90分の条件で連続式反応を行った。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドの生成量は5.32 mmol/Hr、プロピレングリコールの選択率は9.7%であった。
比較例4
触媒Aの代わりに、触媒1を用いた以外は、実施例11と同様の操作を行いオレフィンオキサイドの製造を行った。反応開始から6時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドの生成量は4.76 mmol/Hr、プロピレングリコールの選択率は10.0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明の活性化方法で得られるTi-MWW前駆体は、オレフィンオキサイドの製造において良好な触媒活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti-MWW前駆体をカルボン酸もしくはカルボン酸塩と接触させることを特徴とするTi-MWW前駆体の活性化方法。
【請求項2】
Ti-MWW前駆体がシリル化されたTi-MWW前駆体である請求項1に記載の活性化方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の活性化されたTi-MWW前駆体の存在下、過酸化水素をオレフィンと反応させることを特徴とするオレフィンオキサイドの製造方法。
【請求項4】
過酸化水素が、オレフィンオキサイドの製造反応を行う反応器内で合成した過酸化水素である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
オレフィンがプロピレンである請求項3または4に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−179279(P2010−179279A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27418(P2009−27418)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】