説明

Ti含有含クロム溶鋼の製造方法

【課題】等軸晶の割合を簡便な方法で安定的に高位に維持でき、例えば、製品板の加工性の向上及び表面性状の改善を図ることが可能なTi含有含クロム溶鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】予備処理を施した溶銑にクロム源を添加し、吹酸処理して粗溶鋼を溶製する一次精錬を行った後、粗溶鋼が含有する成分の調整をして溶鋼を製造する二次精錬を行う含クロム溶鋼の製造方法において、二次精錬の際に、仕上脱炭処理後の溶鋼を覆うスラグの組成を、CaO/SiO2:2.2以上3.2以下、Al23:20質量%以上30質量%以下、MgO:12質量%以上22質量%以下、Cr23:1.0質量%以下にそれぞれ制御した後、溶鋼にTi源を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等軸晶の割合を高めた鋼片を安定的に製造可能なTi含有含クロム溶鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転炉を用いて含クロム溶鋼を溶製する方法として、例えば、脱Si、脱S、及び脱Pの予備処理を施した溶銑を転炉に装入し、この溶銑にクロム源を添加して上吹きランスから酸素を吹酸し、炭素濃度が0.1質量%以上0.7質量%以下になるまで脱炭精錬を行い、その後二次精錬を行う方法が採用されている。そして、この方法により製造した含クロム溶鋼から、連続鋳造により鋼片を製造している。なお、この鋼片中の等軸晶率が高いほど、例えば、製品板の加工性の向上及び表面性状の改善を図ることができる。
そこで、代表的な鋳造組織微細化技術として、以下の方法が開示されている。
例えば、特許文献1には、C:0.015質量%以下、Si:0.01〜1.0質量%、Mn:1.0質量%以下、P:0.04質量%以下、S:0.02質量%以下、Cr:16〜32質量%、Ti:0.003〜0.3質量%、Al:0.001〜0.15質量%、N:0.003〜0.015質量%、O:0.001〜0.006質量%、残部Fe及び不可避的不純物で構成される鋼中に、大きさが0.3〜5μmのAl系介在物とTi系介在物の複合介在物を分散させ、その鋼片の等軸晶組織部の粒径を3mm以下、等軸晶率を40%以上にするフェライト系ステンレス鋼の製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、Al:0.002〜0.02質量%、Mg:0.0005質量%未満を含有し、かつ溶鋼の凝固温度と鋳込温度、溶鋼中のTi量、N量、及びCr量に基づいて定まる温度が規定式を満足する条件で、溶鋼を連続鋳造する方法が開示されている。
そして、特許文献3には、Cr:9〜30質量%、MgO−Al23系介在物を核にもつ複合型TiNを鋳片中に含有するフェライト系ステンレス鋼を溶製するに際し、TiとNの濃度積が0.0007〜0.004になり、かつ溶鋼中の酸素活量aoの常用対数log(ao)が、−5.0〜−3.0になるように成分調整を行い、その後に鋳造を行う方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−323502号公報
【特許文献2】特開2002−30395号公報
【特許文献3】特開2004−43838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の方法では未だ解決すべき以下のような問題があった。
特許文献1及び特許文献2の方法は、溶鋼中の各成分範囲について規定しているものの、溶鋼中の介在物の生成過程に関しては規定されていない。このため、鋼片の微細結晶組織である等軸晶の割合も、安定的に高位に維持することが難しいという問題があった。
また、特許文献3の方法では、溶鋼の成分調整段階で、少なくとも1回以上、酸素センサーを用いた溶鋼中の酸素活量測定を行うことが必要であり、直接的に合金添加量を算出することが困難であるため、予め予測された範囲内でしか脱酸剤を含む成分調整を行うことができず問題があった。また、酸素センサーを使用するためランニングコストがかかり不経済であった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、等軸晶の割合を簡便な方法で安定的に高位に維持でき、例えば、製品板の加工性の向上及び表面性状の改善を図ることが可能なTi含有含クロム溶鋼の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係るTi含有含クロム溶鋼の製造方法は、予備処理を施した溶銑にクロム源を添加し、吹酸処理して粗溶鋼を溶製する一次精錬を行った後、該粗溶鋼が含有する成分の調整をして溶鋼を製造する二次精錬を行う含クロム溶鋼の製造方法において、
前記二次精錬の際に、仕上脱炭処理後の前記溶鋼を覆うスラグの組成を、CaO/SiO2:2.2以上3.2以下、Al23:20質量%以上30質量%以下、MgO:12質量%以上22質量%以下、Cr23:1.0質量%以下にそれぞれ制御した後、該溶鋼にTi源を添加する。
本発明に係るTi含有含クロム溶鋼の製造方法において、前記Ti源は、純Ti屑及びTi−Fe系合金のいずれか1又は2であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び2記載のTi含有含クロム溶鋼の製造方法は、スラグのCaO/SiO2を規定しているので、溶鋼の脱酸を十分にでき、溶鋼中へのMgO−Al23−TiO2系低融点介在物の微細分散が可能になる。
また、スラグのAl23濃度を規定しているので、環境に有害なフッ素を含有する蛍石を使用することなく、スラグの滓化性を確保し、溶鋼中へのMgO−Al23−TiO2系低融点介在物の微細分散が可能になる。
そして、スラグのMgO濃度を規定しているので、MgO−Al23−TiO2系低融点介在物の生成に必要なMg源を確保できると共に、スラグの滓化性を良好にし、溶鋼中へのMgO−Al23−TiO2系低融点介在物の微細分散が可能になる。
更に、スラグの組成制御を行った後、溶鋼にTi源を添加するので、溶鋼の脱酸を十分に行うことができ、溶鋼中にMgO−Al23−TiO2系低融点介在物を生成できる。
このように、粗溶鋼から製造する溶鋼中に、MgO−Al23−TiO2系低融点介在物を微細に分散させることで、溶鋼を凝固させて鋼片を製造する過程において、上記した低融点介在物をAlによって改質した微細なスピネル系介在物(MgAl24)を多数晶出できる。そして、この多数で微細なスピネル系介在物を核としてTiNを晶出させ、更にこのTiNを核としてδFeを凝固させることで、簡便な方法で高い等軸晶率を得ることができ、例えば、製品板での加工性の向上及び表面性状の改善が図れる。
【0008】
特に、請求項2記載のTi含有含クロム溶鋼の製造方法は、Ti源として純Ti屑を使用する場合、安価なTi源を使用でき経済的である。また、Ti源としてTi−Fe系合金を使用する場合についても、Ti−Fe系合金は純Tiまで精製しないため、純Tiを使用する場合と比較して経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るTi含有含クロム溶鋼の製造方法の説明図、図2はCaO/SiO2と等軸晶率との関係を示す説明図、図3はAl23濃度と等軸晶率との関係を示す説明図、図4はMgO濃度と等軸晶率との関係を示す説明図である。
【0010】
本発明の一実施の形態に係るTi含有含クロム溶鋼の製造方法は、予備処理を施した溶銑にクロム源を添加し、吹酸処理して含クロム粗溶鋼(以下、単に粗溶鋼ともいう)を溶製する一次精錬を行った後、この粗溶鋼が含有する成分の調整をして溶鋼を製造する二次精錬を行う方法であり、二次精錬の際に、仕上脱炭処理後の溶鋼を覆うスラグの組成を調整した後、この溶鋼にTi源を添加してTi含有含クロム溶鋼(以下、単に溶鋼ともいう)を溶製する方法である。以下、詳しく説明する。
【0011】
図1に示すように、高炉溶銑を使用したTi含有含クロム溶鋼の溶製は、溶銑予備処理工程で不純元素であるSi、P、及びSの大部分を予め除去し、製造した溶銑を転炉工程で転炉に装入する。この転炉工程では、上吹のみ、底吹のみ、又は上吹と底吹とを組み合わせ、溶銑に吹酸することにより、溶銑中の炭素を除去する粗脱炭処理を行うと共に、例えば、含クロム溶湯、Fe−Cr合金、又はクロム鉱石のクロム源を溶銑に添加することにより、含クロム粗溶鋼(例えば、炭素濃度:0.1質量%以上0.7質量%以下程度)を製造する。
【0012】
この含クロム粗溶鋼からTi含有含クロム溶鋼を製造する場合、大気雰囲気下で含クロム粗溶鋼に吹酸を行っても、クロム酸化を招いて目標レベルまで炭素量を低減できない。そこで、含クロム粗溶鋼を取鍋に移し、引き続き行う二次精錬工程において、例えば、真空下(減圧下)で上吹きランスにより含クロム粗溶鋼の吹酸脱炭(仕上脱炭処理)を行い、目標C量(例えば、炭素濃度が0.001質量%以上0.08質量%以下程度)となるまで脱炭して、溶鋼とする。
【0013】
そして、取鍋耐火物の保護のために必要なCaO源と、脱酸剤であるSi源とをそれぞれ添加して、含クロム溶鋼の脱酸処理を行った後、所定のスラグ組成に制御するためMgO源を添加する。これにより、溶鋼の脱酸を十分に行った後、例えば、MgO源の添加から2分以上20分以下程度の時間が経過した後、含クロム溶鋼へのTi源添加とその温度調整を行う。
このように、脱炭精錬が行われ、しかもMgO−Al23−TiO2系低融点介在物(以下、単に低融点介在物ともいう)を微細分散させたTi含有含クロム溶鋼を、連続鋳造工程で冷却し凝固させる。これにより、低融点介在物をAlによって改質させたスピネル系介在物(MgAl24)を晶出させ、これを核としてTiNを晶出させ、更にこのTiNを核としてδFeを凝固させて鋼片を製造する。
【0014】
この二次精錬工程において制御する所定のスラグ組成とは、スラグ塩基度(CaO/SiO2):2.2以上3.2以下、Al23:20質量%以上30質量%以下、MgO:12質量%以上22質量%以下、Cr23:1.0質量%以下である。
このスラグ組成の制御に際しては、予め前記した脱酸処理等を行っているため、MgO源の添加のみにより、上記した組成のスラグを形成できるが、必要に応じて、例えば、アルミナフレークの添加によりAl23の調整を行ってもよい。
なお、取鍋耐火物の保護のために必要なCaO源の調整は、例えば生石灰の添加により行い、脱酸剤であるSi源の調整は、例えば昇熱又は還元で用いるFe−Si合金又は軟珪石の添加により行い、MgO源の調整は、例えば、MgO粉の添加により行う。
【0015】
ここで、スラグ塩基度を、前記した範囲に調整する理由について、図2を参照しながら説明する。
この図2は、取鍋内の150トンの溶鋼上に8トンのスラグを配置してTi含有含クロム溶鋼を製造し、これを連続鋳造して鋼片を製造した場合のスラグ塩基度(C/S)と鋼片中の等軸晶率との関係を示している。ここで、スラグのAl23濃度は26質量%、MgO濃度は15質量%、溶鋼温度はクロム含有量により異なり、(凝固開始温度)+(10〜100)℃にするとよい。
なお、図2に示す2本の線は、各スラグ塩基度における等軸晶率のばらつきの上限値と下限値を示している。また、等軸晶率は、製造した鋼片の結晶組織中に占める等軸晶の割合を示している(以下、同じ)。
【0016】
スラグ塩基度が2.2未満の場合、溶鋼の脱酸を十分に行うことができないため、MgO−Al23−TiO2系低融点介在物を形成するために必要なMg源及びAl源が不足し、低融点介在物の組成が制御できない。これにより、低融点介在物の微細分散が阻害されるため、図2に示すように、製造した鋼片の等軸晶率が急激に低下すると共に、取鍋又はその他溶鋼に接する耐火物の保護効果が薄れ、耐火物寿命の低下によるコストの悪化を招く。
一方、スラグ塩基度が3.2を超える場合、スラグの滓化性の悪化に伴って低融点介在物の微細分散が阻害され、図2に示すように、鋼片の等軸晶率が低下し始める。また、含クロムスラグ生成量の増加により発生スラグ処理負荷が増大したり、更にはスラグ生成量の増大に伴う溶出MgOの増大により耐火物損耗に繋がる問題が生じる。
以上のことから、スラグ塩基度を2.2以上3.2以下としたが、下限値を2.5とすることが好ましく、上限値を3.0とすることが好ましい。
【0017】
次に、スラグのAl23濃度を、前記した範囲に調整する理由について、図3を参照しながら説明する。
この図3は、取鍋内の150トンの溶鋼上に8トンのスラグを配置してTi含有含クロム溶鋼を製造し、これを連続鋳造して鋼片を製造した場合のAl23濃度と鋼片中の等軸晶率との関係を示している。ここで、スラグの塩基度は2.6、MgO濃度は15質量%、溶鋼温度は前記した図2の条件と同じである。
なお、図3に示す2本の線は、各Al23濃度における等軸晶率のばらつきの上限値と下限値を示している。
【0018】
Al23濃度が20質量%未満の場合、スラグの滓化性が悪化して、目的とするMgO−Al23−TiO2系低融点介在物の微細分散が阻害されるため、図3に示すように、製造した鋼片の等軸晶率が急激に低下する。このため、等軸晶率を向上させるには、環境に有害なフッ素を含有する蛍石の使用を余儀なくされる。
一方、Al23濃度が30質量%を超える場合、低融点介在物の性状が変化し、図3に示すように、製造した鋼片の等軸晶率が急激に低下すると共に、スラグの飽和MgO量が増加し、耐火物中のMgOの溶出を招くため、取鍋又はその他溶鋼に接する耐火物の保護効果が薄れ、耐火物寿命の低下又はAl23源添加のためにコスト悪化を招く。
以上のことから、スラグのAl23濃度を20質量%以上30質量%以下としたが、下限値を25質量%とすることが好ましい。
【0019】
スラグのMgO濃度を、前記した範囲に調整する理由について、図4を参照しながら説明する。
この図4は、取鍋内の150トンの溶鋼上に8トンのスラグを配置してTi含有含クロム溶鋼を製造し、これを連続鋳造して鋼片を製造した場合のMgO濃度と鋼片中の等軸晶率との関係を示している。ここで、スラグの塩基度は2.6、Al23濃度は26質量%、溶鋼温度は前記した図2、図3の条件と同じである。
なお、図4に示す2本の線は、各MgO濃度における等軸晶率のばらつきの上限値と下限値を示している。
【0020】
MgO濃度が12質量%未満の場合、MgO−Al23−TiO2系低融点介在物を生成するためのMg源が不足するため、低融点介在物の微細分散がされず、図4に示すように、製造した鋼片の等軸晶率が急激に低下する。
一方、MgO濃度が22質量%を超える場合、融点の急激な上昇に伴いスラグの滓化性が悪化して、MgO−Al23−TiO2系低融点介在物の微細分散を阻害し、図4に示すように、製造した鋼片の等軸晶率が低下し始める。
以上のことから、スラグのMgO濃度を12質量%以上22質量%以下としたが、下限値を15質量%とすることが好ましく、上限値を20質量%とすることが好ましい。
【0021】
また、スラグ中のCr23濃度が1.0質量%を超える場合、溶鋼を十分に脱酸することができず、MgO−Al23−TiO2系低融点介在物の微細分散を阻害する。なお、Cr23濃度の下限値について規定していないのは、Cr23濃度が1.0質量%以下であれば、MgO−Al23−TiO2系低融点介在物の微細分散に影響がないためである。
更に、Ti源の添加を上記したスラグ組成の制御前に行った場合、脱酸が十分になされておらず、MgO−Al23−TiO2系低融点介在物を生成するためのMg源及びAl源が不足するため、TiO2が主体となって低融点介在物の微細分散を阻害する。
なお、溶鋼に添加するTi源としては、純Ti屑及びTi−Fe系合金のいずれか1又は2を使用する。このTi源の添加量は、製造する製品中のTi濃度(例えば、0.10質量%以上0.25質量%以下程度)に応じて決まる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
一次精錬工程において、予備処理を施した溶銑を転炉で処理して粗溶鋼を製造し、この粗溶鋼を取鍋に150トン移した。そして、二次精錬工程において、この粗溶鋼に仕上脱炭処理、CaO添加、Si還元処理、スラグの組成調整、Ti源添加、及び溶鋼の温度調整(例えば、1600℃程度)を行って、Ti含有含クロム溶鋼を製造した。
この溶鋼を、連続鋳造によって凝固処理して鋼片を製造し、その等軸晶率を調査した。なお、鋼片の目標等軸晶率は80%以上である。この結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
表1は実施例を示し、表2は比較例を示している。
なお、表1中の実施例1〜5は、溶鋼を覆うスラグの組成を、スラグ塩基度(CaO/SiO2:C/S):2.2以上3.2以下、Al23:20質量%以上30質量%以下、MgO:12質量%以上22質量%以下、Cr23:1.0質量%以下にそれぞれ制御した後、製造する溶鋼のTi濃度が0.15質量%になるように、Ti源である純Ti屑を添加した結果である。中でも実施例2〜4は、スラグ塩基度、Al23、及びMgOを、特に好ましい条件(スラグ塩基度:2.5以上3.0以下、Al23:25質量%以上30質量%以下、MgO:15質量%以上20質量%以下)にそれぞれ制御した結果である。
【0026】
一方、表2中の比較例6、7は、スラグ塩基度が上記した範囲外の結果である。また、比較例8〜10は、スラグのAl23濃度が上記した範囲外のものであり、中でも比較例10は、スラグ塩基度も上記した範囲の下限値を下回った結果である。そして、比較例11、12は、スラグのMgO濃度が上記した範囲外の結果であり、比較例14は、スラグのCr23濃度が上記した範囲を超えた結果である。なお、比較例13は、スラグ塩基度、Al23、MgO、及びCr23が、前記した範囲を満足しているが、純Ti屑の添加時期(タイミング)が、スラグの組成制御前の結果である。
【0027】
実施例1〜5から明らかなように、スラグ組成及び純Ti屑の添加時期を規定することで、製造した鋼片の等軸晶率が80%以上となり、目標値を達成できた。また、スラグの滓化性、即ちスラグの流動性も良好(例えば、スラグ上への添加物がスラグ中へ入り込み易い)であり、しかも取鍋耐火物のスラグライン、即ちスラグ存在領域に顕著な凹みも確認されなかった。
特に、スラグ塩基度、Al23、及びMgOを特に好ましい条件に規定した実施例2〜4については、鋼片の等軸晶が98%以上となった。
【0028】
一方、比較例6は、スラグ塩基度が低い(2.1)ため、MgO−Al23−TiO2系低融点介在物の微細分散が阻害され、等軸晶率が目標値を達成できなかった。また、耐火物に顕著な凹みが発生した。
また、比較例7は、スラグ塩基度が高い(3.3)ため、低融点介在物の微細分散が阻害され、等軸晶率が目標値を達成できず、しかもスラグの滓化性も悪化した。また、耐火物に顕著な凹みが発生した。
比較例8は、スラグのAl23濃度が低い(19質量%)ため、スラグの滓化性が悪化し、低融点介在物の微細分散が阻害され、等軸晶率が目標値を達成できなかった。
比較例9は、スラグのAl23濃度が高い(33質量%)ため、等軸晶率が目標値を達成できず、しかも耐火物に顕著な凹みが発生した。
【0029】
比較例10は、スラグのAl23濃度が低く(7質量%)、しかもスラグ塩基度が低い(1.1)ため、スラグの滓化性が悪化し、低融点介在物の微細分散が阻害され、等軸晶率が目標値を達成できなかった。また、耐火物に顕著な凹みが発生した。
比較例11は、スラグのMgO濃度が低い(11質量%)ため、低融点介在物を生成するためのMg源が不足し、低融点介在物の微細分散が阻害され、等軸晶率が目標値を達成できなかった。
比較例12は、スラグのMgO濃度が高い(23質量%)ため、スラグの滓化性が悪化し、低融点介在物の微細分散が阻害され、等軸晶率が目標値を達成できなかった。
【0030】
比較例13は、純Ti屑の添加時期が、スラグの組成制御前であるため、粗溶鋼の脱酸が十分になされておらず、その結果、低融点介在物の微細分散が阻害され、等軸晶率が目標値を達成できなかった。
比較例14は、スラグのCr23濃度が高い(1.2質量%)ため、粗溶鋼を十分に脱酸できず、低融点介在物の微細分散が阻害され、等軸晶率が目標値を達成できなかった。
以上のことから、従来のように、酸素センサーによる酸素活量測定を行うことなく、等軸晶の割合を安定的に高位に維持した鋼片を製造するためのTi含有含クロム溶鋼を製造できることを確認できた。
【0031】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のTi含有含クロム溶鋼の製造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態に係るTi含有含クロム溶鋼の製造方法の説明図である。
【図2】CaO/SiO2と等軸晶率との関係を示す説明図である。
【図3】Al23濃度と等軸晶率との関係を示す説明図である。
【図4】MgO濃度と等軸晶率との関係を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備処理を施した溶銑にクロム源を添加し、吹酸処理して粗溶鋼を溶製する一次精錬を行った後、該粗溶鋼が含有する成分の調整をして溶鋼を製造する二次精錬を行う含クロム溶鋼の製造方法において、
前記二次精錬の際に、仕上脱炭処理後の前記溶鋼を覆うスラグの組成を、CaO/SiO2:2.2以上3.2以下、Al23:20質量%以上30質量%以下、MgO:12質量%以上22質量%以下、Cr23:1.0質量%以下にそれぞれ制御した後、該溶鋼にTi源を添加することを特徴とするTi含有含クロム溶鋼の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のTi含有含クロム溶鋼の製造方法において、前記Ti源は、純Ti屑及びTi−Fe系合金のいずれか1又は2であることを特徴とするTi含有含クロム溶鋼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−119818(P2007−119818A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311341(P2005−311341)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】