説明

Toll様受容体の活性を抑制するための方法

Toll様受容体3(TLR3)の移動に干渉する剤、及び上記のものを製造し、使用する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Toll様受容体の移動(translocation)と活性を抑制する剤、及びこれを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Toll様受容体(TLR)は、自然免疫応答の活性を調節し、並びに細菌性の、ウイルス性の、寄生性の、及び場合によってはホスト由来のリガンドを検出し、かつこれらに反応してシグナル伝達カスケードを開始することにより、獲得免疫の形成に影響を与える(Lancaster et al.,J.Physiol.563:945〜955,2005)。TLRファミリーのメンバーであるTLR1、TLR2、TLR4及びTLR6は原形質膜上に配置され、細菌類及び菌類のタンパク質又は脂質成分を含むリガンドに反応して下流のシグナル経路を活性化する。TLR3、TLR7及びTLR9は優先的に細胞内に配置され、それぞれdsRNA、ssRNA及び非メチル化CpG DNAに応答する。
【0003】
TLRは、アダプター分子骨髄分化因子88(MyD88)、インターフェロン−βを誘導するToll/IL−1受容体領域含有アダプター(TRIF)及びTRIF関連アダプター分子(TRAM)を通してシグナル生成し、JNK/p38キナーゼ、インターフェロン制御因子(IFN)IFN−3、IFN−5及びIFN−7並びにNF−κBを伴うシグナル経路を開始し、炎症性サイトカインの産生を引き起こす(Romagne,Drug Discov.Today 12:80〜87,2007)TLR3領域は、これまでに同定された受容体シグナル伝達にとって重要な意味を持つ。タンパク質のグリコシル化、ジスルフィド結合の形成、ループ2、及びロイシンリッチリピート配列(LRR)に関与する、残基の突然変異は、TLR3シグナル伝達の欠損をもたらす(Ranjith−Kumar et al.,J.Biol.Chem.282:7668〜7678,2007;Ranjith−Kumar et al,.J.Biol.Chem.282:17696〜17705,2007;Sun et al.,J.Biol.Chem.281:11144〜11151,2006;Takada et al,Mol.Immunol.44:3633〜3640,2007)。マウスの2つのTLR3細胞外ドメインとTLR3リガンドdsRNAとの間の複合体の結晶構造は更に、アミノ酸、並びにTLR3の適切な折りたたみ及び二量体形成に重要な意味を持つ領域に結合する、リガンドを明らかにした(Liu et al.,Science 320:379〜81,2008)。TLR3はまた、選択的スプライシングによっても制御され得る。可溶型のTLR3がニワトリでクローン化され(Yilmaz et al.,Immunogenetics 56:743〜53,2005)、及びフレームに192bpの欠失を生じる、TLR3エクソン4の選択的スプライシングに関するスプライス変異体をコードする、ヒトTLR3 mRNAが同定されてきた(Yang et al.,Immunogenetics 56:743〜53,2005)。記載のTLR3変異体の機能的意義は未知である。
【0004】
TLRシグナル伝達の調節不全は多数の問題を引き起こすと考えられ、治療戦略はこの軸に沿って開発されている(Hoffman et al.,Nat.Rev.Drug Discov.4:879〜880,2005;Rezaei,Int.Immunopharmacol.6:863〜869,2006;Wickelgren,Science 312:184〜187,2006)。例えば、深刻な敗血症及び狼瘡用に、それぞれTLR4拮抗薬、並びにTLR7及び9の拮抗薬が臨床開発されている(Kanzler et al.,Nat.Med.13:552〜559,2007)。
【0005】
TLR3シグナル伝達は、炎症又はウイルス感染に応じて壊死細胞から放出された、dsRNA、mRNA又はRNAにより活性化される。TLR3の活性化により、これまでに病原体の感染と関連付けられ、炎症性の免疫応答性疾患への、及び例えば、ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患、乾癬、敗血性ショック、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、及びI型糖尿病などの自己免疫疾患への寄与が示されてきた、インターフェロン及び炎症性サイトカインの、分泌の誘導が得られる(Tabeta et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.101:3516〜3521,2004;Underhill,Curr.Opin.Immunol.16:483〜487,2004;Gaspari,J.Am.Acad.Dermatol.54:S67〜80,2006;Van Amersfoort et al.,Clin.Microbiol.Rev.16:379〜414,2003;Miossec et al.,Curr.Opin.Rheumatol.16:218〜222,2004;Ogata and Hibi,Curr.Pharm.Res.9:1107〜1113,2003;Takeda and Akira,J.Derm.Sci.34:73〜82,2004;Doqusan et al.,Diabetes 57:1236〜1245,2008)。
【0006】
TLR3の発現は、肝組織の原発性胆汁性肝硬変などの病態と関連付けられる、炎症反応と相関することがこれまでに示されてきた(Takii et al.,Lab Invest.85:908〜920,2005)。加えて、関節リウマチの患者の関節ではTLR3が過剰発現していることも発見された(Ospelt et al.,Arthritis Rheum.58:3684〜92,2008)。TLR3は、ウイルス感染に応じた免疫反応において重要な役割を果たしている。例えば、A型インフルエンザウイルスへの感染時には、TLR3が欠損している動物は、炎症メディエーターのレベルの低減と相関する、生存度の増大により、野生型の動物を上回る生存優位性を示す(Le Goffic et al.,PloS Pathog.2:E53,2006)。TLR3欠損型の動物はまた、ロタウイルス感染誘導誘発性の粘膜上皮の破壊から保護される(Zhou et al.J.Immunology 178:4548〜4556,2007)。ヒトにおいては、ドミナントネガティブなTLR3対立遺伝子は、HSV−1による一次感染に基づく、単純ヘルペス脳炎への罹患率の上昇と関連付けられてきた(Zheng et al.,Science 317:1522〜7 2007)。
【0007】
壊死疾患では、内因性のmRNAを含む細胞内含有物の放出は、局所炎症を誘導し、死細胞のレムナントの排除を促進し、損傷を修復する、サイトカイン、ケモカイン、及び他の因子の分泌を誘発する。多くの場合、壊死は炎症プロセスを永続化させ、慢性の又は悪化した炎症の一因となる(Bergsbaken et al.,Nature Reviews 7:99〜109,2009)。壊死部位でのTLR3の活性化は、これらの異常な炎症プロセスの一因となって、放出されたTLR3リガンドによる炎症促進性の正のフィードバックループを更に発生させる場合がある。TLR3活性の下方制御も同様に、腎臓細胞癌、並びに頭部及び頸部扁平上皮細胞癌が含まれる腫瘍学的な兆候に対して、新規の治療法を示す(Morikawa et al.,Clin.Cancer Res.13:5703〜5709,2007;Pries et al.,Int.J.Mol.Med.21:209〜15,2008)。同様に、TLR3活性の低減をもたらす、以前特徴づけされたTLR3L423F対立遺伝子は、進行した「乾燥」型加齢性黄斑変性症(Yang et al.,N.Engl.J.Med.359:1456〜63,2008)に抗する保護作用と関連付けられ、TLR3拮抗薬がこの疾患において有益なものであり得ることを示した。
【0008】
炎症状態に伴う病態、及び他の、例えば感染に伴う病態は、健康への、及び経済への有意な影響を有する。しかしながら、薬剤に関する多くの領域で進歩があったにも関わらず、比較的少数の治療選択肢と治療法が、多くのこれらの病態のために利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、TLR3活性を抑制することで、TLR3介在性の病態を治療する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、Toll様受容体3(TLR3)の活性の抑制を必要としている患者において、かかる活性を抑制するための方法であって、TLR3の移動に干渉する剤をかかる患者に投与することを含む。
【0011】
本発明の他の態様は、炎症状態を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、炎症状態を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【0012】
本発明の他の態様は、壊死性疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、壊死性疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【0013】
本発明の他の態様は、感染症を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、感染症を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【0014】
本発明の他の態様は、心血管疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、心血管疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【0015】
本発明の他の態様は、I型又はII型糖尿病を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、I型又はII型糖尿病を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【0016】
本発明の他の態様は、癌を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、癌を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【0017】
本発明の他の態様は、リウマチ様疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、リウマチ様疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【0018】
本発明の他の態様は、肺疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、肺疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【0019】
本発明の他の態様は、神経疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、神経疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】TLR3Δ64配列。TLR3Δ64は、野生型のTLR3ポリペプチドにおける289〜353番アミノ酸に対応する、64個のアミノ酸が欠失している。
【図2】TLR3Δ64はポリ(I:C)刺激によるシグナル伝達を欠損しており、野生型TLR3によるNF−κBのポリ(I:C)誘導型活性化に対して抑制効果を発現する。
【図3】FACSによる、野生型TLR3(実線)、TLR3Δ64(点線)、及びTLR3ΔTIR(破線)の、細胞表面(A、B、C)及び細胞内発現(D、E、F)。アイソフォーム対照は灰色で示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に引用される、特許及び特許出願を含むがこれらに限定されない刊行物は全て、それらが本明細書に完全に記載されているものとして考えられるように、本願に援用として組み込まれる。
【0022】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記載する目的でのみ使用され、限定を意図するものではないことが理解される。別段の規定がない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されている意味と同一の意味を有する。
【0023】
本明細書に記載されているものと同様又は同等の任意の方法及び材料を、本発明の試験を実施するために使用できるが、例示となる材料及び方法を本明細書に記載する。本発明の記載及び請求には、以下の用語が使用される。
【0024】
本明細書で使用するとき、用語「抑制する」又は「抑制」は、部分的に又は全体的に、刺激をブロックすること、活性化を低減すること、防止すること、遅延させること、不活化すること、又はTLR3活性を下方調節することを意味する。Toll様受容体活性の抑制は、Toll様受容体の活性化値が対照に対して50〜80%、所望により25〜50%又は0〜25%である場合に達成され、対照試料は相対的にTLR3活性化値100%として記載される。
【0025】
用語「剤」は、TLR3に結合し、TLR3活性を抑制し、以下の特徴:TLR3の移動の干渉又は変更、TLR3の細胞内局在の干渉又は変更、TLR3とそのリガンドの共局在の干渉;のうちの少なくとも1つを有する、ポリペプチド、ペプチド又はタンパク質、融合タンパク質、ペプチド模倣薬、抗体、核酸、オリゴヌクレオチド、合成オリゴヌクレオチド、及び同様のもの、を意味する。TLR3活性についてのアッセイ、あるいはTLR3の移動を又は細胞内局在を評価するためのアッセイを用いることにより、単独で、又はTLR3リガンドの局在を評価することと併せて、剤を同定することができる。剤の例としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するTLR3変異体ポリペプチド、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するTLR3変異体ポリペプチド、又は配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0026】
本明細書で使用するとき、用語「TLR3活性」又は「活性」は、リガンドをTLR3に結合させるように生じる任意の活性を指す。TLR3リガンドとしては、dsRNA、ポリ(I:C)、及び例えば壊死細胞から放出される内因性のmRNAなどの内因性のmRNA、が挙げられる。例示的なTLR3受容体活性化は、TLR3リガンドに対する応答として、NF−κBの活性化をもたらす。レポーター遺伝子アッセイを用いることで、ポリ(I:C)による受容体の誘導に基づき、NF−κBの活性化をアッセイすることができる(Alexopoulos et al.,Nature 413:732〜738,2001;Hacker et al.,EMBO J.18:6973〜6982,1999)。他の例示的なTLR3受容体の活性化は、TLR3リガンドに対する応答として、インターフェロン応答因子(IRF−3、IRF−7)の活性化をもたらす。TLR3介在性のIRF活性化は、インターフェロン刺激応答配列(ISRE)により駆動されるレポーター遺伝子を用いることでアッセイすることができる。他の例示的なTLR3受容体の活性化は、例えばTNF−α、IL−6、IL−8、IL−12、IP−10及びRANTESなどの、炎症性サイトカイン及びケモカインの分泌をもたらす。細胞、組織からの又は循環器でのサイトカイン及びケモカインの放出は、ELISAイムノアッセイなどの周知のイムノアッセイを用いることで測定することができる。
【0027】
用語「野生型」又は「WT」は、天然に生じる源から単離した場合に遺伝子又は遺伝子産物の特性を有する、遺伝子又は遺伝子産物を指す。野生型遺伝子は集団中で最も頻繁に観察され、したがって適宜、遺伝子の「正常型」又は「参照」又は「野生型」形態として記載される。
【0028】
用語「TLR3変異体」は、参照の「野生型」TLR3ポリペプチド又はポリヌクレオチドとは異なるポリペプチド又はポリヌクレオチドを指し、本質的な特性を保持する場合もあれば、あるいは保持していない場合もある。一般的に、配列が異なる参照ポリペプチド及びその変異体は全体的には極めて類似しており、領域のほとんどは同一である。変異体及び参照ポリペプチドは、例えば、置換、挿入又は欠失などのような1つ以上の改変によりアミノ酸配列が異なっている場合がある。アミノ酸残基の置換又は挿入は、遺伝子暗号によりコードされている場合も、あるいはコードされていない場合もあり、置換、挿入、又は欠失は、保存的なもの又は非保存的なもののいずれかであり得る。挿入と欠失の長さは例えば、1〜64アミノ酸の間で変化し得る。ポリペプチドの変異体は、自然には対立遺伝子スプライス変異体などとして発生する場合があり、あるいは変異体は自然には生じることが知られていない変異体であり得る。
【0029】
本明細書で使用するとき、用語「ドミナントネガティブ」又は「ドミナントネガティブなタンパク質」は、ドミナントネガティブな変異遺伝子による産物を指す。用語「ドミナントネガティブな変異遺伝子」は、野生型の又は同一遺伝子若しくは同一遺伝子産物の他の変異体の機能に干渉するタンパク質産物をコードする、遺伝子を指す。用語「ドミナントネガティブ」は、機能している野生型タンパク質にドミナントネガティブなタンパク質が干渉する方法に、あるいはドミナントネガティブなタンパク質を製造する方法に限定されることを意図しない。ドミナントネガティブなタンパク質は、TLR3のスプライス変異体又はそれらの断片であり得る。TLR3の移動に干渉することにより、又はTLR3及びそのリガンドの共局在に干渉することにより、TLR3活性を抑制することができる。ドミナントネガティブなタンパク質は合成的に産生することもできる。用語「ドミナントネガティブ」はまた、部分的な抑制又は機能的な変更を提供する、スプライス変異体又は変異遺伝子産物を含むことも意図するが、全てが抑制される必要があるものとしては意図されない。
【0030】
本明細書で使用するとき、語句「移動に干渉する」及び「局在に干渉する」は、ほぼ同じ意味で使用することができ、移動若しくは細胞内局在を部分的に若しくは完全に変更すること、妨害すること、又は介入することを、あるいはTLR3の移動の速度を変更することを指す。
【0031】
本明細書で使用するとき、用語「移動させる」、「移動された」、「移動」又は「移動する」は、1つの細胞内区画(intracellular)から他への、例えば1つの細胞内区画(subcellular)から他の細胞内区画へのTLR3の移動を指す。例えばTLR3の、小胞体(ER)からゴルジ複合体への、ERからエンドソームへの、ERからリソソームへの、細胞膜からエンドソームへの、及び細胞膜からリソソームへの移動が生じ得る。TLR3の移動は、特徴のはっきりした任意の小胞輸送系、例えば、クラスリン被覆小胞、カベオリン依存的な移動、又はコートタンパク質I若しくはコートタンパク質IIに依存型の移動(Mancias and Goldberg,Traffic 6:278〜85,2005;van der Goot and Gruenberg,Trends Cell.Biol.16:514〜521,2006;Parton and Richards,Traffic 4:724〜38,2003)を介する輸送系、又は新規の未だ特徴づけられていないメカニズムに依存し得る。
【0032】
TLR3の移動及び細胞内局在、TLR3とそのリガンド(例えばポリ(I:C)又はODN2006)の共局在、他のToll様受容体(例えばTLR7又はTLR9)、任意の細胞構造又は細胞タンパク質(例えば小胞体、エンドソーム、リソソーム、又は細胞膜及びその常在性タンパク質)、を検出する方法、並びに細胞表面上の又は細胞内のTLR3濃度を検出する方法は周知である。例示的な方法は、タグ付きの又は内因的に蛍光性のポリペプチド又は分子の蛍光顕微鏡検査、及び細胞選別法である(Meyer and Teruel,Trends in Cell Biol.13:101〜106,2003;Giepmans et al.,Science 312:217〜224,2006,Watson et al.,Advanced Drug Delivery Reviews 57:43〜61,2005;Kumar et al.,Adv.Biochem.Eng.Biotechnol.106:1〜18,2007;Tung et al.,Clin.Lab.Med.27:453〜468,2007)。例えばTLR3を過剰発現している細胞局在は、蛍光顕微鏡検査を用いることで、特異的な抗TLR3抗体と、それに続いて、蛍光分子を結合させた2次抗体と、により検出することができる。TLR3局在はまた、抗TLR3抗体を利用するFACSアッセイを用いることで評価することもできる。
【0033】
本明細書で使用するとき、「細胞内区画(subcellular compartment)」は、細胞の任意の下位構造の高分子構成要素を指し、これはタンパク質、脂質、炭水化物、又は核酸からなる。細胞内区画は、高分子集合体又は細胞小器官(細胞成分を区切る膜)であり得る。細胞内区画の例は、細胞質、核、細胞膜、ゴルジ体、トランスゴルジ網、リソソーム、エンドソーム、小胞体、細胞外間隙、及びミトコンドリアである。
【0034】
本明細書で使用するとき、用語「共局在」又は「共局在した」は、細胞内で同一の又は重複する局在を持つ、2つ以上の分子を指す。分子とタンパク質の共局在は、固定した細胞又は生細胞に蛍光顕微鏡検査を用いることで検出できる。例えば、TLR3とそのリガンド(ポリ(I:C))は、蛍光標識ポリ(I:C)、抗TLR3一次抗体、及びAlexa Fluor(登録商標)647結合2次抗体を用いた場合に細胞中で共局在し得る。細胞分子の共局在法は周知である。
【0035】
「細胞表面発現」は、細胞膜で見出されるTLR3ポリペプチドの量を指す。
【0036】
「エンドソーム区画」又は「エンドソーム」は細胞内小胞区画であり、例えば、細胞からの、生体分子(脂質及びタンパク質など)を含む化学物質の輸送、細胞膜由来のかかる生体分子の、細胞内区画への、及び細胞内区画からの内部移行及び再生、並びに細胞内区画間のこのような生体分子の移動、に関与する細胞小器官である。エンドソーム区画の例としては、核周囲の回収区画(perinuclear recycling compartment(PRC))、回収エンドソーム、分泌小胞、及びトランスゴルジ網(TGN)が挙げられる。
【0037】
用語「抗体」は抗原に特異的に結合する分子を指し、二量体の、三量体の、多量体の抗体、並びにキメラ抗体、ヒト化抗体及び完全なヒト抗体を含む。同様に抗体は全抗体、又は抗体分子の機能性の断片(例えば、少なくとも自身の抗原結合能を保持している断片)であってよく、抗体にはFab、F(ab’)、F(ab’)2、scFv、dsFv、及び二重特異性抗体を含む。例えば、抗体断片はタンパク質分解酵素を用いることで得られる(例えば、全抗体をパパインで消化することでFabフラグメントは産生され、ペプシン処理によってF(ab’)2フラグメントの産生が得られる)。様々な抗体の、作製及び使用についての技術が、当該技術分野において周知である(Ausubel,et al.,ed.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,NY 1987〜2001;Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor,NY,1989;Harlow and Lane,Antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,NY,1989;Colligan,et al.,ed.,Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons,Inc.,NY 1994〜2001;Colligan et al.,Current Protocols in Protein Science,John Wiley & Sons,NY,NY,1997〜2001)。
【0038】
用語「リガンド」は、ヒトTLR3受容体又はその変異体に結合するか又はこれらと複合体を形成する、オリゴヌクレオチド、合成又は内因性RNAの一部分、ペプチド又はポリペプチド(ポリ(I:C)(Alexopoulou et al.,Nature 413:732〜738,2001)又はODN2006(Ranjith−Kumar et al.,Mol Cell Biol.28:4507〜19,2008)など)を指す。リガンドはTLR3のアンタゴニスト、インヒビター、サプレッサー、アゴニスト、刺激物質又は活性化因子、又は同様のものなどであり得る。
【0039】
本発明は、TLR3の移動に干渉する剤、及びかかる剤の使用に関する。本発明は、自然に生じるTLR3スプライス変異体(本明細書においては名称TLR3Δ64)が、TLR3の移動と活性に干渉したという予期せぬ発見に少なくとも部分的に基づく。例えば野生型TLR3(GenBank Acc.No.NP_0032565.1;SEQ ID NO:4)の細胞外ドメインのアミノ酸残基289〜352は、ERからのTLR3の放出、エンドソーム及び細胞膜での局在、並びにTLR3の、自身のリガンドと共局在する能力に関与することが同定された。代表的な剤としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する、TLR3変異体TLR3Δ64ポリペプチド、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する、TLR3Δ64ポリペプチドの細胞外ドメイン、及び配列番号3に記載の野生型TLR3のアミノ酸289〜352を含む、ポリペプチドが挙げられる。TLR3活性化によりもたらされる、炎症性サイトカインの分泌及びNF−κBの活性化は、ヒトの一連の病態に関連付けられてきた。したがって、これらの剤は、研究用試薬及び治療薬として有用である。
【0040】
本発明の一実施形態は、Toll様受容体3(TLR3)の活性の抑制を必要としている患者において、かかる活性を抑制するための方法であって、TLR3の移動に干渉する剤をかかる患者に投与することを含む。小胞体に局在したTLR3は、ER常在性タンパク質Unc93B1を必要とするプロセスであるdsRNA刺激に応じ、dsRNA含有エンドソームに移動すると考えられている(Johnsen et al.,EMBO J.25:3335〜3346,2006;Kim et al.,Nature 452:234〜238,2008)。受容体の移動制御に関係しているTLR3残基は、Unc93B1及び細胞質リンカー領域(配列番号4のアミノ酸727〜749)と結合する膜貫通型ドメイン(配列番号4のアミノ酸707〜728)であり、この残基はTLR3のエンドソーム局在に関与していることも実証されてきた(Funami et al.,Int.Immunol.16:1143〜1154,2004;Nishiva et al.,J.Biol.Chem.280:37107〜37117,2005;米国特許第2006/0265767(A1)号)。UNC93B1の変異は、通常のリガンド誘導型の移動と、現在既知の、核酸感受性の全てのTLR(TLR3、TLR7、及びTLR9)のシグナル伝達を、同時に無効にする(Tabeta et al.,Nat.Immunol.7:156〜164,2006;Brinkmann et al.,J.Cell.Biol.177:265〜275,2007)。他のタンパク質及び経路は、PRAT4A(ER常在性でTLR9と関係づけられる)(Takahashi et al.,J.Exp.Med.204:2963〜2976,2007)及びダイナミン(クラスリン依存性の被覆小胞の形成に必要とされるGTPアーゼ)を含むTLRファミリーメンバーの、輸送及びシグナル伝達に関係する。ダイナミン阻害は、TLR4(I型インターフェロン産生に必要とされるプロセス)の、LPS誘導型の内部移行を妨げた(Kagan et al.,Nat.Immunol.9:361〜368,2008)。したがって、TLRの通常型の移動は受容体シグナル伝達を必要とすることから、TLR移動を調節する剤は治療的な有用性を有し得る。TLR3の移動の特異的な調節は、複数の受容体の移動に関与する分子を阻害することで生じる、又は広範に使用される小胞輸送機序(治療に関する宿主免疫に実質的な影響のより少ないUNC93B1及びダイナミンなど)により生じる、多指向性の効果を回避する効果を有し得る。
【0041】
任意の特定の理論に縛られることは望まないが、本発明の剤は、野生型TLR3に結合して複合体を形成し、続いてTLR3の移動シグナルをマスクするか又は干渉することによって、あるいは適切な受容体活性(おそらく内部移行が含まれる)に必要とされるTLR3の二量体形成を妨げることによって、TLR3の移動に干渉すると考えられる。TLR3の移動に干渉する剤は抗体であるか、又はTLR3の細胞外ドメインに反応する抗体断片であり得る。TLR3との抗体反応は、TLR3の移動の制御時に、これらのアミノ酸によってコードされるシグナルをマスクすることで、TLR3の移動及び活性に干渉し得るということが想到される。例示的な抗体は、野生型のTLR3ポリペプチドの、アミノ酸289〜352(配列番号3に記載)と反応性の抗体である。
【0042】
基質特異性、安定性、及び溶解性などを高める目的で、本発明のポリペプチド又は断片の構造を改変することも可能である。例えば、アミノ酸置換、欠失、又は付加などによりアミノ酸配列が変更された改変ポリペプチドを産生することができる。イソロイシン又はバリンでのロイシンの単独性の置換、グルタミン酸でのアスパラギン酸の単独性の置換、セリンでのスレオニンの単独性の置換、又は構造的に関連するアミノ酸でのアミノ酸の同様の置換(すなわち保存的な変異)は、全てがではないが、場合によっては、得られる分子の生物活性に対して目立った効果は有さない。保存的置換は側鎖に関連しているアミノ酸ファミリーに起こる。遺伝的にコードされたアミノ酸は次の4つ:(1)酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸);(2)塩基性(リジン、アルギニン、ヒスチジン);(3)非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン);及び(4)無電荷で極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン);のファミリーに分けることができる。フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンは時には芳香族アミノ酸と一緒に分類される。同様の方法で、アミノ酸レパートリーは次の:(1)酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸);(2)塩基性(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、(3)脂肪族性(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン)(セリン及びスレオニンは、所望により脂肪族ヒドロキシル基として別にグループ化される);(4)芳香族性(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン);(5)アミド性(アスパラギン、グルタミン);並びに(6)硫黄含有性(システイン及びメチオニン);にグループ化することができる(Stryer(ed.),Biochemistry,2nd ed,WH Freeman and Co.,1981)。ポリペプチド又はその断片のアミノ酸配列中の変化が機能上の相同体を生じるかどうかは、本明細書に記載のアッセイを用いて、改変されていないポリペプチド又は断片と同様のやり方で、改変されたポリペプチド又は断片の、応答を生じる能力を評価することにより容易に判定することができる。1つ以上の置換が生じているペプチド、ポリペプチド又はタンパク質は、同様の方法で容易に試験することができる。
【0043】
TLR3の移動に干渉する剤は、第2のポリペプチドに結合して融合タンパク質を形成することができ、融合タンパク質は、例えば安定性の増加などの所望の特性を付与する場合がある。例示の融合タンパク質は、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する、TLR3変異体のTLR3Δ64ポリペプチド、配列番号2に示すアミノ酸配列を有する、TLR3Δ64ポリペプチドの細胞外ドメイン、及び配列番号3に示すアミノ酸配列を含む、ポリペプチド、アンキリン反復設計タンパク質(DARPin)などの代替の足場物質(Stumpp and Amstutz,Curr.Opin.Durg Discov.Devel.10:153〜159,2007),MIMETIBODY(商標)コンストラクト(Picha et al.Diabetes 57:1926〜1934,2008)、TLR3に特異的な他のタンパク質ドメイン又はペプチド、に結合させることにより形成することができる。一般的に、融合タンパク質は組み換え核酸法又は当該技術分野において周知の化学的な合成法のいずれかを用いることにより生成され得る。
【0044】
本発明は、TLR3の移動に干渉することによって、TLR3活性を抑制することが所望される哺乳類の数多くの疾病状態(例えば、炎症状態、感染症、壊死状態、心血管疾患、I型糖尿病、II型糖尿病、癌、リウマチ様疾患、肺疾患、及び神経疾患)を治療又は予防する方法を提供する。
【0045】
本発明の予防法及び治療法に、TLR3の移動に干渉する剤を使用できる。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するTLR3変異体TLR3Δ64ポリペプチド、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するTLR3Δ64ポリペプチドの細胞外ドメイン、及び配列番号3に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドが有用である。
【0046】
本発明の方法は、治療の必要がある患者を治療するために使用することもできる。「患者」は、任意の動物、好ましくはヒト患者、家畜、又は家庭用ペットを指す。任意の特定の理論に縛られることは望まないが、TLR3の移動に干渉する剤の治療効果は、TLR3リガンド誘導型NF−κB並びに/又はIRF3(それぞれ、最終的には炎症促進性ケモカイン及びサイトカインの、及びI型インターフェロンの分泌を生じさせるが、その一方で、これらの免疫調節分子の調節不全が多くの炎症状態に関与していることが既知である)の活性化を阻害するという、かかる剤の能力に由来するものであると考えられる。
【0047】
所与の病態の治療又は予防のために与えられる剤の、十分な量は、容易に決定することができる。本発明の方法において、剤は単独で、又は少なくとも1つの他の分子との組み合わせとして投与することができる。そのような追加の分子は、TLR3受容体のシグナル伝達によって媒介されない治療効果を有する分子である場合がある。抗生物質、抗ウイルス剤、対症療法剤、及びサイトカインレベル又は活性を低減させる化合物が、かかる追加の分子の例である。かかる追加の分子は、抗体、MIMETIBODY(商標)コンストラクト、オリゴヌクレオチド、又はTLR3若しくは他のTLR受容体に特異的な低分子であり得る。本明細書で使用するとき、「組み合わせて」は、記載の剤が、患者に混合物の状態で一緒に、単独の剤の状態で同時に、又は単独の剤として任意の順番で連続的に投与できることを意味する。
【0048】
他の実施形態では、本発明は炎症状態を治療又は予防する方法を提供し、治療上の有効量の剤をこの剤を必要としている患者に投与することを含み、かかる剤は、炎症状態を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する。
【0049】
一般的に、本発明の方法により予防又は治療することのできる、炎症状態、感染症又は免疫介在性炎症性疾患には、サイトカインに介在される疾患、及びTLR3の活性化又はTLR3経路を介するシグナル伝達から全体的に又は部分的に生じる病態が挙げられる。このような炎症状態の例としては、敗血症関連性疾患、炎症性腸疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、及び感染症が挙げられる。
【0050】
このような炎症状態の一例は、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血性ショック、又は多臓器障害(MODS)を含む場合がある、敗血症関連性疾患である。特定の理論に縛られることは望まないが、TLR3の移動に干渉する剤での治療は、敗血症関連性炎症状態に罹患している患者の生存期間を延長することにより治療効果をもたらし、あるいは全身症状へと広がる局所性の(例えば、肺での)炎症イベントを、生得的な抗菌活性を増強することにより、抗菌剤と組み合わせた場合に相乗的な活性を示すことにより、病理の一因となる局所炎症状態を最小化することにより、あるいは前述の任意の組み合わせにより、予防し得ると考えられる。かかる治療介入は、患者の生存を確実にするのに必要な、追加の治療(例えば潜在する感染の治療、又はサイトカインレベルの低減)を可能にするのに十分なものであり得る。
【0051】
このような炎症状態の他の例は、炎症性腸疾患である。この炎症性腸疾患は、クローン病又は潰瘍性大腸炎であり得る。当業者は、腸管の炎症を引き起こす既知の又は未知の病因による、他の炎症性腸疾患を認識するであろう。
【0052】
このような炎症状態の他の例は、炎症性肺疾患である。例示の炎症性肺疾患としては、ウイルス、細菌、菌、寄生生物又はプリオン感染に関連付けられるものが挙げられる、感染により誘導された肺疾患;アレルゲンにより誘導された肺疾患;汚染因子により誘導された肺疾患(石綿症、珪肺症、又はベリリウム中毒症など);胃吸引により誘導された肺疾患、免疫調節異常、嚢胞性線維症などの遺伝的に誘導された炎症性肺疾患及び人工呼吸器による傷害などの身体の外傷により誘導された肺疾患、が挙げられる。これらの炎症状態としてはまた、ぜんそく、気腫、気管支炎、COPD、類肉腫症、組織球増加症、リンパ管筋腫症、急性肺傷害、急性呼吸窮迫症候群、慢性肺疾患、気管支肺異形成症、院外感染性肺炎、院内肺炎、人工呼吸器関連肺炎、敗血症、ウイルス性肺臓炎、インフルエンザ感染症、パラインフルエンザ感染症、ヒトメタニューモウイルス感染症、RSウイルス感染症、及びアスペルギルス又は他の真菌感染症を挙げることもできる。
【0053】
例示の感染関連性炎症疾患としては、重症肺炎、嚢胞性線維症、気管支炎、気道悪化、及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が挙げられる、ウイルス性又は細菌性の肺炎が挙げられる。このような感染関連性炎症疾患は、一次ウイルス感染及び二次細菌感染などの、多重感染に関与する場合がある。
【0054】
本発明の方法により予防又は治療し得る他の炎症状態及び神経障害は、自己免疫疾患により引き起こされるものである。これらの病態及び神経障害としてはまた、多発性硬化症、紅斑性狼瘡硬化症、並びにアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、双極性障害及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)が挙げられる神経変性及び中枢神経系(CNS)疾患、線維症、C型肝炎ウイルス(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)が挙げられる肝疾患、糖尿病及びインスリン抵抗性、脳卒中及び心筋梗塞が挙げられる心臓血管疾患、関節炎、関節リウマチ、乾癬性関節炎及び若年性関節リウマチ(JRA)、骨粗鬆症、変形性関節症、膵炎、線維症、脳炎、乾癬、巨細胞動脈炎、強直性脊椎炎、自己免疫性肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、炎症性皮膚疾患、移植組織、癌、アレルギー、内分泌腺疾患、創傷修復、他の自己免疫疾患、気道応答性亢進、並びに細胞、ウイルス、又はプリオン介在性の感染症又は疾患、が挙げられる。
【0055】
例示的な癌としては、白血病、急性白血病、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、B細胞、T細胞又は全てのFAB、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、有毛細胞白血病、骨髄異形成症候群(MDS)、リンパ腫、ホジキン病、悪性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、多発性骨髄腫、カポジ肉腫、直腸結腸癌、膵臓癌、腎細胞癌、乳癌、鼻咽頭癌、悪性組織球増殖症、悪性の腫瘍随伴症候群/高カルシウム血症、固形腫瘍、腺癌、扁平上皮細胞癌、肉腫、悪性黒色腫、特に転移性黒色腫、血管腫、転移性疾患、癌関連骨吸収、及び癌関連骨痛などのうちの少なくとも1つを含む(ただしこれらに限定されない)、細胞、組織、器官、動物、又は患者における少なくとも1つの悪性疾患が挙げられる。
【0056】
例示の心血管疾患としては、心臓機能不全症候群、心筋梗塞、うっ血性心不全、脳卒中、虚血性脳卒中、出血、動脈硬化、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、糖尿病性動脈硬化性疾患、高血圧、動脈性高血圧、腎血管性高血圧症、失神、ショック状態、循環器系の梅毒、心不全、肺性心、原発性肺高血圧症、心不整脈、心房性異所性拍動、心房粗動、心房細動(持続性又は発作性)、灌流後症候群、心肺バイパスによる炎症反応、無秩序型すなわち多源性心房頻拍、狭く規則正しいQRSの頻拍症、特異的な不整脈、心室細動、His束不整脈、房室ブロック、脚ブロック、虚血性の心筋疾患、冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、心筋症、拡張型(うっ血型)心筋症、拘束型心筋症、心臓弁膜症、心内膜炎、心膜疾患、心腫瘍、大動脈及び末梢動脈瘤、解離性大動脈瘤、大動脈炎、腹大動脈及びその末梢の閉塞、末梢血管疾患、閉塞性動脈疾患、末梢性動脈硬化性疾患、閉塞性血栓血管炎、機能性末梢動脈疾患、レイノー現象及びレイノー病、先端チアノーゼ、先端紅痛症、静脈疾患、静脈性血栓症、静脈瘤、動静脈フィステル、リンパ浮腫、脂肪性浮腫、不安定狭心症、再潅流傷害、ポンピング後症候群(post pump syndrome)、及び虚血・再潅流傷害などのうちの少なくとも1つを含む(ただしこれらに限定されない)、細胞、組織、器官、動物、又は患者における少なくとも1つの心血管疾患が挙げられる。
【0057】
例示の神経疾患としては、神経変性病、多発性硬化症、片頭痛、AIDS認知症複合、多発性硬化症及び急性横断性脊髄炎などの脱髄疾患;皮質脊髄系の病変などの錯体外路疾患及び小脳疾患;基底核の疾患又は小脳疾患;ハンチントン舞踏病及び老人性舞踏病などの運動過剰症;CNSドーパミン受容体をブロックする薬剤により誘発されるものなどの薬物誘発性運動障害;パーキンソン病などの運動低下性移動疾患;進行性上核麻痺;小脳の構造的な傷害;脊髄性運動失調症などの脊髄小脳変性症、フリートライヒ失調症、小脳皮質変性、多系統変性(Mencel,Dejerine−Thomas,Shi−Drager,and Machado−Joseph);全身疾患(レフスム病、無βリポタンパク血症β、運動失調、毛細血管拡張症、及びミトコンドリア型多系統疾患(mitochondrial multisystem disorder);多発性硬化症などの脱髄性コア疾患(demyelinating core disorders)、急性横断性脊髄炎;神経原性筋萎縮症などの運動単位の疾患(筋萎縮性側索硬化症などの脊髄前角細胞の変性、乳児脊髄性筋萎縮症及び若年性脊髄性筋萎縮症);アルツハイマー病;中年でのダウン症;びまん性レヴィー小体病;レーヴィ小体型老年期精神病;ウェルニッケコルサコフ症候群;慢性アルコール依存;クロイツフェルト−ヤーコブ病;亜急性硬化性全脳炎、ハラーフォルデン・シュパッツ症候群;並びにボクサー認知症などのうちの少なくとも1つを含む(ただしこれらに限定されない)、細胞、組織、器官、動物、又は患者における少なくとも1つの神経系疾患が挙げられる。
【0058】
例示的な繊維性の病態としては、肝臓線維症(アルコール性肝硬変、ウイルス性肝硬変、自己免疫性肝炎が挙げられるがこれらに限定されない);肺線維症(強皮症、特発性肺線維症が挙げられるがこれらに限定されない);腎臓線維症(強皮症、糖尿病性腎炎、糸球体腎炎、狼瘡腎炎を含むがこれらに限定されない);皮膚線維症(強皮症、肥厚性及びケロイド瘢痕、火傷を含むがこれらに限定されない);骨髄線維症;神経線維腫症;線維腫;腸線維症;及び外科手術の結果としての線維症癒着などが挙げられる。このような1つの方法において、線維症は器官特異性線維症又は全身性線維症のいずれであってもよい。器官特異性線維症は、肺線維症、肝臓線維症、腎臓線維症、心臓線維症、血管線維症、皮膚線維症、眼線維症、骨髄線維症、又はその他の線維症のうち少なくとも1つに関連し得る。肺線維症は、特発性肺線維症、薬剤誘発性肺線維症、喘息、サルコイドーシス、又は慢性閉塞性肺疾患のうち少なくとも1つに関連し得る。肝臓線維症は、肝硬変、住血吸虫症、又は胆管炎のうち少なくとも1つに関連し得る。肝硬変は、アルコール性肝硬変、C型肝炎後肝硬変、原発性胆汁性肝硬変の中から選択され得る。胆管炎は硬化性胆管炎である。腎線維症は、糖尿病性腎症又は狼瘡糸球体硬化症(lupus glomeruloschelerosis)の少なくとも1つに関連し得る。心臓線維症は、心筋梗塞の少なくとも1つの種類に関連し得る。血管線維症は、血管形成術後動脈再狭窄、又はアテローム性動脈硬化の少なくとも1つに関連し得る。皮膚線維症は、火傷瘢痕化、肥厚性瘢痕化、ケロイド、又は腎性線維症皮膚症の少なくとも1つに関連し得る。眼線維症は、後眼窩線維症、白内障手術後又は増殖性硝子体網膜症の少なくとも1つに関連し得る。骨髄線維症は、特発性骨髄線維症又は薬剤誘発性骨髄線維症の少なくとも1つに関連し得る。他の線維症は、ペイロニー病、デュピュイトラン拘縮又は皮膚筋炎から選択され得る。全身性線維症は、全身性硬化症及び移植片対宿主病から選択され得る。
【0059】
TLR3活性の抑制が所望される病態の治療又は予防に効果的な剤の「治療上の有効量」は、標準的な研究技術により判定され得る。例えば、クローン病及び潰瘍性大腸炎などの炎症状態の治療又は予防に効果的であり得る剤の投薬量は、クローン病及び潰瘍性大腸炎の動物モデル(デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を摂取させた動物など)に、かかる剤を投与することにより決定することができる(Okayasu et al.,Gastroenterology 98:694〜702,1990)。
【0060】
加えて、インビトロアッセイを、至適用量の範囲を同定する一助として所望により選択することもできる。個別の有効量の選択は、複数の因子についての判断に基づき、当事者により決定することができる(例えば臨床試験により)。このような因子としては、治療又は予防される疾患、伴う症状、患者の体重、患者の免疫状態、及び当事者により既知の他の因子が挙げられる。処方に使用される正確な用量は、投与経路と、疾患に関連する消耗の重篤度とにも依存し、医師の判断及び各患者の状況に基づいて決定されなければならない。有効量は、インビトロ又は動物モデル試験系から導出される用量反応曲線から外挿することができる。ヒトなどの患者に投与される剤の投与量は、かなり幅広く変動し得るものであり、独立して判断を実施できる。多くの場合、1日の様々な時間での、一日用量の剤の投与が実際的である。しかしながら、任意の所与の場合において、投与される剤の量は、剤の溶解性、使用される処方、患者の状態(体重など)、及び/又は投与経路などの因子に依存するであろう。
【0061】
本発明の剤を使用する治療のための投与の態様は、薬剤をホストに送達できる任意の適切な経路であってもよい。タンパク質、タンパク質断片、融合タンパク質、抗体及び抗体断片、並びにこれらの剤の医薬組成物は、特に非経口的投与(例えば皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下又は鼻孔内)について有効である。
【0062】
本発明の剤は、製薬上許容できるキャリア内の活性成分として、その薬剤の有効量を含有する、医薬組成物として調製することができる。用語「キャリア」は、活性化合物が一緒に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤、又はビヒクルを指す。かかる医薬用ビヒクルは、落花生油、大豆油、鉱物油、ゴマ油などの、石油、動物油、植物油又は合成油由来の水及び油などの液体であってよい。例えば、0.4%生理食塩水及び0.3%グリシンを使用することができる。これらの溶液は滅菌されており、粒子状物質を含まない。これらの溶液は、従来の周知の殺菌技術(例えばろ過)などにより殺菌されてよい。組成物は、pH調整剤及び緩衝剤、安定化剤、増粘剤、潤滑剤、及び着色剤などの、適切な生理学的状態に必要とされるような、製薬上許容できる補助物質を含有し得る。そのような製剤処方中の本発明の剤の濃度は、幅広く変化させることができ、すなわち、約0.5重量%未満から通常は約1重量%又は少なくとも約1重量%から、15又は20重量%まで変化させることができ、主に、選択された特定の投与様式による、液体の容積及び粘度などに基づいて選択される。非経口投与可能な組成物を調製する実際の方法は周知であり、例えば「Remington’s Pharmaceutical Science」,15th ed.,Mack publishing Company,Easton,PAに、より詳細に記載されている。
【0063】
本発明を以下の実施例を参照しながら更に説明する。これらの実施例はあくまで本発明の態様を説明することを目的としたものであって、本発明を限定することを目的とするものではない。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
TLR3Δ64を初代細胞で発現させる。
【0065】
TLR3Δ64は、自然に生じるTLR3変異体であり、野生型TLR3ポリペプチド(GenBank acc.No.NP_0032565.1;SEQ ID NO:4)中の289〜353番目のアミノ酸に対応する64個のアミノ酸を欠失していることが、以前から報告されている(Yang et al.Immunogenetics.56:743〜53,2005)。変異体の機能は未知である。本研究においてはTLR3Δ64配列が同定され、かかる変異体が、ヒト気管支上皮細胞が挙げられる初代ヒト細胞で発現することが示された。
【0066】
発現は、Yang et al.(Yonesei Medical Journal 45:359〜361,2004)により、標準的な手順(Molecular Cloning:a Laboratory Manual,2nd ed.Vols 1〜3,Cold Spring Harbor Laboratory,1989;Current protocols in molecular biology,Ausubel,ed.John Wiley & Sons,Inc,New York,1997)を使用する、オリゴヌクレオチドプライマー5’GATCTGTCTCATAATGGCTTGTCA 3’(配列番号5)、及び5’GTTTATCAATCCTGTGAACATAT 3’(配列番号6)を用いるPCRにより評価された。簡潔には、初代正常ヒト星状膠細胞(NHA)を得て、供給元(Lonza,Ltd)が推奨するように培養した。気管支上皮細胞株(BEAS−2B)はATCC(カタログ番号CRL−9609(商標))から得、Lonzaにより正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE)について推奨されるように培養した。NHBE細胞を、以前記載した(Krunkosky et al.,Am.J.Respir.Cell mol.Biol.22:685〜692,2000;Krunkosky et al.,Microb.Patholog.42:98〜103,2007)ように、完全に分化するまで培養した。野生型TLR3で又はTLR3Δ64でトランスフェクトしていない又は一過性にトランスフェクトしたHEK293T細胞を、両方とも陽性対照として使用して、10%FBS(Gibco)含有DMEM(Gibco)で培養した。製造元からの取扱説明書に従い、Qiagen RNeasy kitを用いて、全ての細胞型からRNAを単離及び精製した。BIO−RAD iScript cDNA synthesis kitを用いて逆転写を実施した。逆転写産物を1%アガロースゲルで分離した。RT−PCRから得られた結果は、NHA細胞とBEAS−2B細胞とで、およそ684bpと492bpの位置に移動した2本のバンドの存在を示した(データ非掲載)。684bpのバンドは野生型TLR3に対応し、492bpのバンドはTLRΔ64に対応し、バンドは、それぞれ野生型コンストラクト又はTLR3Δ64コンストラクトのいずれかを発現しているHEK293T細胞から増幅させた対照サンプル由来のバンドと一緒に移動した。TLR3Δ64の発現はNHBE細胞でも同様に評価した。RT−PCRより得られた結果は、NHBE細胞においてTLR3Δ64と対応する492bpの増幅産物の存在と、これに加えて野生型TLR3に対応する684bpの増幅産物の存在を示した。NHA、BEAS−2B、及びNHBE細胞から増幅されたおよそ492bpのバンドを、Qiagen’s QIAquick Gel Extraction kitを用いて切り出し、及びゲル精製した。精製したDNAをInvivogenのTOPO pCR4ベクターにクローン化し、ABIのBigDye Terminatorを用いて配列決定した。得られるヌクレオチド配列を、EMBOSSソフトウェアsuite(Rice,Longden et al.2000)を用いてタンパク質のアミノ酸配列へと翻訳して示した。配列決定は、TLRΔ64で表わされ、及び野生型TLR3と比較したときに192bpの既に報告されている欠失を含有する、およそ492bpの単離された断片を確認した(Yang et al.,Yonesei Medical journal 45:359〜361,2004)。TLR3Δ64及びTLR3のタンパク質配列の配列比較を図1に示す。
【0067】
(実施例2)
TLR3Δ64はTLR3活性のシグナル伝達及び調節を欠損している。
【0068】
野生型TLR3とTLR3Δ64の間の、潜在的な機能性の差異を評価するために、TLR3Δ64の、下流のシグナル経路を活性化する能力を評価した。HEK293T細胞に、pcDNA3.1中に野生型TLR3及び/又はTLR3Δ64 cDNAを含有しているプラスミドを一過性にトランスフェクトし、ポリ(I:C)で刺激し、NF−κBの誘導をルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイを用いて測定した(図2)。野生型TLR3が、ポリ(I:C)により誘導された、TLR3依存性のNF−κBの7.7倍の活性の誘導を示した一方で、細胞をTLR3Δ64コンストラクトでトランスフェクトした場合には、TLR3依存性のNF−κBの活性の誘導はなかった。野生型TLR3とTLR3Δ64の両方のコトランスフェクションは、TLR3Δ64に対してドミナントネガティブな影響を示した。TLR3Δ64は野生型TLR3の活性を30%抑制した。
【0069】
完全長のヒトTLR3 cDNA(Genbank Acc.NO.U88879)をヒト樹状細胞から精製し、pcDNA3.1(−)中にクローン化した。プライマー(順方向:5’−CGA TCT TTC CTA CAA CAA CTT AAA TGT GTG GCT AAA ATG TTT GGA GCA CC−3’(配列番号:7)及び逆方向:5’−GGT GCT CCA AAC ATT TTA GCC ACA CAT TTA AGT TGT TGT AGG AAA GAT CG−3’(配列番号8))(IDT,Coralville,IAより)と組み換えpfuを用い、pcDNA3.1 DpnI(NEB,Ipswich,MA)中にクローン化した野生型TLR3のcDNAに変異誘発反応を実施し、消化し、E.coli中に形質転換した。形質転換体のコロニーをピックし、アンピシリンを含有させた状態で一晩培養して増殖させた。次いでプラスミドを精製し、配列決定し(BigDye terminator v3.1,Applied Biosystems,Foster City,CA)、TLR3Δ64に対応する適切な配列が存在するか確認した。HEK293T細胞を、白色のCostar96ウェルプレートに、10% FBS添加ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で4.2×104個細胞/ウェルの密度で播種した。24時間後に、図2に指定されるようなリポフェクタミントランスフェクション法(Invitrogen)を用いて、細胞を、ホタルルシフェラーゼレポーターpNifty−Luc(30 ng;Invivogen)と、ウミシイタケレポーターphRL−TK(5ng;Promega)と、TLR3又はTLR3Δ64コンストラクトを含有している0.6ng/ウェルのプラスミドと、を含有しているプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に培地を吸引し、ポリ(I:・C)(1μg/mL)含有又は不含DMEMをトランスフェクション後細胞の適切な組に添加し、TLR3依存性のNF−κB活性を誘導した。更に24時間のインキュベーション後、Dual Gloルシフェラーゼアッセイシステム試薬(Promega)を用いて細胞を回収した。発光は、FLUOstar OPTIMA Plate Reader(BMG Labtech,Inc.)を用いて定量化した。完全長のTLR3のcDNA配列を配列番号9で示し、TLR3Δ64のcDNA配列を配列番号10で示す。
【0070】
(実施例3)
TLRΔ64の輸送の欠損
TLR3Δ64の細胞表面発現、TLR3Δ64の細胞内局在、及びTLR3Δ64タンパク質の可溶性を研究して、TLR3Δ64による野生型TLR3活性の抑制メカニズムを評価した。HEK293T細胞で過剰発現したタンパク質のFACS解析により、TLR3Δ64及びTLR3の細胞表面発現を研究した。細胞表面上に部分的に局在している野生型TLR3(図3A)に反して、TLR3Δ64はHEK293T細胞表面では検出されなかった(図3B)。しかしながら、どちらのタンパク質も細胞内に存在した(図3D、3E)。TLR3シグナル伝達に必要とされるC−末端シグナル伝達ドメインを欠き、NF−κB活性の誘導の欠損を示すTLR3変異体(TLR3ΔTIR)を、本実験において更なる対照として用いた(Matsumoto et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.293:1364〜1369,2002)。TIRシグナル伝達ドメインの欠乏と、下流のシグナル伝達の活性化の不能にも関わらず、TLR3ΔTIRは細胞表面と細胞内の両方に見出された(図3C、3F)。したがって、活性の欠如はTLR3の正しい局在を予測するものではない。
【0071】
TLR3Δ64の、原形質膜発現の欠損はTLR3Δ64の安定性の低下から生じ得る。この目的を達成するために、HEK293T細胞で、TLR3Δ64及び野生型TLR3の定常レベルを、対応するコンストラクトでのトランスフェクションの48時間後に、ウェスタンブロットにより比較した。TLR3Δ64は、野生型TLR3のものと匹敵する、定常状態の安定性を呈した(データ非掲載)。実験ではアクチンをローディング対照として使用した。したがって、安定性の低下がTLR3Δ64の細胞表面発現の欠如を引き起こすことはない。
【0072】
TLR3Δ64の細胞内局在と、その基材ポリ(I:C)との潜在的な共局在とを共焦点顕微鏡法により評価した。野生型TLR3は、TLR3リガンドのポリ(I:C)の蛍光と一部共局在している、細胞基質の断続的な蛍光を示した。野生型のTLR3に匹敵する、細胞基質の断続的な蛍光に加え、TLR3ΔTIRは、拡散した網様蛍光と、野生型のTLR3のようなリガンドポリ(I:C)との部分的な重なりを示した。TLR3Δ64の蛍光は、通常、ER局在の指標になる網様拡散した細胞基質染色を示す、野生型TLR3とは明らかに異なっていた。TLR3Δ64は細胞内でポリ(I:C)と共局在しなかった。TLR3シグナル伝達の強力な阻害剤であることが見出された、第2のリガンド(ODN2006)であるssDNAとのTLR3Δ64の共局在を、同様に評価した(Ranjith−Kumar et al.,Mol.Cell.Biol.28:4507〜19,2008)。共焦点顕微鏡法は、TLR3Δ64が網様細胞内区画を保持し、かつ小胞性ODN2006との共局在は損ねた一方で、2つの対照、TLR3及びTLR3ΔTIRはODN2006と共局在した。したがってTLR3Δ64は、ERを示す網様細胞内区画内で、TLR3Δ64を保持する受容体の移動の欠損は、細胞表面発現、エンドソーム区画への移動、及びそのリガンド(本実施例ではポリ(I:C)及びODN2006である、2つの構造的及び機能的に異なるリガンドであり、前者はTLR3のdsRNAアゴニストとなり、後者はTLR3のssDNAアンタゴニストとなる)との共局在を防ぐ。
【0073】
ウェスタンブロットのために、Complete mini protease inhibitors(Roche Inc.)の存在下で、リコンビナントな野生型又はTLR3Δ64を発現しているHEK293T細胞をM−PER(Pierce Inc.)に溶解させ、染色体DNAを超音波処理して剪断した。BCAタンパク質アッセイ(Pierce Inc.)により測定されたものとして、各サンプルからの等量のタンパク質をNuPAGE 4〜12%ビス−トリスゲルで分離し、PVDF膜上にブロットした。抗TLR3抗体IMG−315A(Imgenex)をウェスタン解析の一次抗体として使用した。ブロットは、SuperSignal West Femto Maximum Sensitivity Substrate(Pierce Inc.)を用いて、2次抗体を結合させたペルオキシダーゼで展開させた。共焦点解析のために、上記のようにHEK293T細胞を一過性にトランスフェクトした。24時間のインキュベート後に、培地を交換し、ラット尾コラーゲンI(BD Biosciences,San Diego,CA)でコートした12mmのカバーガラス上に細胞を播種した。更なる24時間のインキュベーション後に、製造者(Mirus Bio Corp.)により推奨されるようにCy5−標識キットを用いて蛍光標識した2μMの3’修飾FITC ODN 2006(InvivoGen)、2μg/mLのポリ(I−C)(Amersham)のいずれかで24時間にわたって細胞を処理し、あるいは未処理のままにした。次いでカバーガラス上の全ての細胞をPBSで穏やかに洗浄し、PBSで希釈した4%パラホルムアルデヒドを含有しているウェルに移し、室温で30分間にわたって固定した。0.05% Tween(登録商標)20含有PBS[PBST]で2回洗浄した後、細胞をPBSで希釈した0.1% TX−100で15分にわたって透過処理し、1度以上洗浄し、Image−iT(登録商標)FX signal enhancer(Invitrogen)で30分ブロッキングし、更に室温で2時間にわたって1Xブロッキングバッファー(Sigma)でブロッキングした。透過処理し、固定化した細胞をヤギ抗ヒトTLR3ポリクローナル抗体(3μg/mL)AF1487(R&D Systems Inc.)とインキュベートし、ブロッキングバッファーで4℃で1晩希釈し、次いでPBSTで4回洗浄し、1Xブロッキングバッファーで希釈した1μg/mLのDAPI(Sigma)を含有しているAlexa Fluor(登録商標)647結合ロバ抗ヤギIgG(2μg/mL;Invitrogen)と、室温で1時間にわたってインキュベートした。カバーガラスを注意深く洗浄し、更に4回PBSTで洗浄した後に、蒸留水で1回洗浄し、ひっくり返して、Citifluor mounting media(Ted Pella)を含有している顕微鏡スライド上に配置し、マニキュア液により封着した。60X油浸レンズ(NA=1.4)を用いて細胞を撮像し、UltraVIEW ERS共焦点顕微鏡(PerkinElmer)を用いて0.2μmの光学切片を捕捉した。FACS解析のために、記載のようにHEK293T細胞を、TLR3Δ64又は野生型TLR3 cDNAをpcDNA3.1に含有しているプラスミドで一過性にトランスフェクトした。24時間のトランスフェクション後に、PBS+3%FBS+0.04%NaN3からなる冷染色バッファ(SB)で細胞を洗浄した。トリパンブルー色素排除によるバイアビリティーは>95%であった。1μg/200,000個細胞でFITC標識ポリクローナルヤギ抗TLR3(R&D FAB1487F)を4℃で30分にわたってインキュベートした。細胞内染色に先立ち、Cytofix/Cytoperm buffer(BD Biosciences)中でインキュベートすることにより細胞を固定し、透過処理した。FACSCalibur flow cytometer(BD Biosciences)でデータ収集を行い、データ解析はFCS Express(De Novo Software,Ontario,Canada)を使用して実施した。
【0074】
(実施例4)
TLR3Δ64はRNA結合領域に干渉しなかった。
【0075】
欠失の結果として生じ得る、潜在的な構造的及び機能的問題についてより理解を深めるために(Liu et al.,Science 320:379〜381,2008)、TLR3Δ64では欠失している野生型TLR3の細胞外ドメインのアミノ酸を、2つのマウスTLR3細胞外ドメインとdsRNAとの複合体の公開結晶構造に基づくモデル上にマッピングした。モデリングに基づくと、TLR3Δ64では欠失している野生型TLR3のアミノ酸289〜353は、マッピングされたRNA結合領域との直接的な一致は見出されなかった。その代わりに、アミノ酸289〜353の損失により、dsRNAの結合に応じ、各TLR3−ECDのN末端及びC末端ドメイン間の領域が短くなることが見込まれた。恐らく2つのdsRNA結合部位の相対配置を攪乱させることによる、TLR3活性が無効にされたN末端及びC末端dsRNA結合領域間での、一部のドメイン、特に一部のLRR繰り返しドメインの欠失が以前から示されてきた。しかしながら、野生型TLR3のaa 299〜322を含み、TLR3Δ64で欠失しているアミノ酸289〜353と一部重複する、LRR11の欠失は、TLR3機能を無効にしなかった(Takada et al,Mol.Immunol.44:3633〜3640,2007)。したがってTLR3のアミノ酸289〜353は、移動の制御、細胞表面発現、及びTLR3とそのリガンドの共局在を示した。本発明に記載のこれらのアミノ酸の機能は、これまでの機能性変異誘発の研究から得られた結晶構造又は情報に関する知識により予測され得るようなものではなかった(Ranjith−Kumar et al.,J.Biol.Chem.282:7668〜7678,2007;Ranjith−Kumar et al,.J.Biol.Chem.282:17696〜17705,2007;Sun et al.,J.Biol.Chem.281:11144〜51,2006;Takada et al,Mol.Immunol.44:3633〜3640,2007)。
【0076】
TLR3座標(PDB ID:3CIY)は、タンパク質のデータバンクからダウンロードした。野生型TLR3の残基289〜352をモデルに基づいてマッピングし、TLR3Δ64で欠損している領域について示した。University of California,San Franciscoでのバイオコンピューティング、可視化、及びインフォマティクスについてのUCSF Chimera packageを使用して、分子グラフィックイメージを生成した(NIH P41 RR−01081によりサポート)。
【0077】
以上、本発明の全容を述べたが、付属の特許請求の範囲の趣旨又は範囲を逸脱することなく、本発明に多くの変更及び改変をなし得ることは、当業者にとって明白であろう。本明細書に記載の具体例は例示目的でのみ提供されるものであり、本発明は特許請求の範囲が表題される全範囲に沿い、付属の特許請求の範囲についての用語により限定されるものであり、本発明は、例示目的で本明細書に記載された具体例により限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Toll様受容体3(TLR3)の活性の抑制を必要としている患者において、前記活性を抑制するための方法であって、TLR3の移動に干渉する剤を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記剤がTLR3変異体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TLR3変異体が、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記TLR3変異体が、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記剤が、配列番号3に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記患者がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記剤が、モノクローナル抗体、抗体断片、代替の足場物質又はタンパク質と結合している、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記剤を、TLR3活性に関する第2の調節因子と組み合わせて投与することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の調節因子が抗体、MIMETIBODY(商標)コンストラクト、又はオリゴヌクレオチドであるか、又はTLR3の低分子量アンタゴニストである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記剤が、TLR3の細胞表面発現に干渉する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記剤が、小胞体からのTLR3の移動に干渉する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記剤が、エンドソームへのTLR3の移動に干渉する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記剤が、TLR3とそのリガンドとの共局在に干渉する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
炎症状態を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤を前記剤を必要としている患者に投与することを含み、前記剤は、前記炎症状態を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する、方法。
【請求項15】
前記炎症状態が感染に付随するものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記炎症状態が、膵臓炎、円形脱毛症、アトピー性皮膚炎、自己免疫性肝炎、ベーチェット病、肝硬変、肝繊維症、クローン病、限局性腸炎、炎症性白斑、多発性硬化症、天疱瘡/類天疱瘡、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、強皮症、硬化性胆管炎、全身性紅斑性狼瘡、ループス腎炎、中毒性表皮壊死症、潰瘍性大腸炎、いぼ、肥厚性瘢痕、ケロイド、又はアセトアミノフェン誘発性障害である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
壊死性疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤を前記剤を必要としている患者に投与することを含み、前記剤は、前記壊死性疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する、方法。
【請求項18】
前記壊死性疾患が急性腎不全である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
感染症を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤を前記剤を必要としている患者に投与することを含み、前記剤は、感染症を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する、方法。
【請求項20】
前記感染症が、炭疽病、クロストリジウム・ディフィシレ感染、脳炎/髄膜炎、心内膜炎、C型肝炎、インフルエンザ/重症急性呼吸器症候群(SARS)、肺炎、敗血症、火傷性又は外傷性皮膚適応症、又は全身性炎症反応症(SIRS)である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
心血管疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤を前記剤を必要としている患者に投与することを含み、前記剤は、前記心血管疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する、方法。
【請求項22】
前記心臓血管疾患が、動脈硬化、心筋梗塞又は脳卒中である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
I型又はII型糖尿病を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤を前記剤を必要としている患者に投与することを含み、前記剤は、前記I型又はII型糖尿病を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する、方法。
【請求項24】
癌を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤を前記剤を必要としている患者に投与することを含み、前記剤は、前記癌を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する、方法。
【請求項25】
前記癌が、急性白血病、乳癌、慢性白血病、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、ホジキン病、肺癌、リンパ腫、黒色腫、多発性骨髄腫、非ホジキン病、子宮癌、膵臓癌、前立腺癌、非上皮性悪性腫瘍、腎細胞癌、頭頸部癌、又はウイルス誘発性癌である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
リウマチ様疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤を前記剤を必要としている患者に投与することを含み、前記剤は、前記リウマチ様疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する、方法。
【請求項27】
前記リウマチ性疾患が、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性血管炎、円板状紅斑性狼瘡、ループス腎炎、変形性関節症、多発性軟骨炎、リウマチ性多発筋痛症、乾癬性関節炎、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡、又は全身性強皮症である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
肺疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤を前記剤を必要としている患者に投与することを含み、前記剤は、前記肺疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する、方法。
【請求項29】
前記肺疾患が、急性肺障害、急性呼吸窮迫症候群、急性喘息増悪、急性COPD増悪、特発性肺繊維症、又は類肉腫である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
神経疾患を治療又は予防する方法であって、治療上の有効量の剤を前記剤を必要としている患者に投与することを含み、前記剤は、前記神経疾患を治療又は予防するのに十分な時間にわたってTLR3の移動に干渉する、方法。
【請求項31】
前記神経疾患が、脳卒中、アルツハイマー型認知症、髄膜炎、脊髄障害、外傷、脱髄疾患、又は痛みである、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−504651(P2012−504651A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530268(P2011−530268)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/059383
【国際公開番号】WO2010/040054
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(509087759)ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】