説明

UDP−N−アセチル−アルファ−D−ガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GALNT)モジュレーションによる高比重リポタンパク質レベルの改変

本発明は、GALNTの発現または活性を阻害することによる総血漿リポタンパク質およびHDL−Cのレベルのモジュレーションに基づいた冠動脈疾患およびアテローム性動脈硬化症の検出および処置方法に関するものである。また、本発明は、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置に有用な薬剤(複数も可)の同定方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置方法に関するものである。特に、本方法では、UDP−N−アセチル−アルファ−D−ガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GALNT)の発現および/または活性を阻害することにより、高比重リポタンパク質レベルを増加させる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アテローム性動脈硬化症は、脂質蓄積、炎症応答、細胞死および動脈壁での線維化を特徴とする。アテローム性動脈硬化症は、特に米国および西欧諸国における罹病率および死亡率の主要原因である。例えば家族歴など遺伝的に支配されている因子、高血漿低比重リポタンパク質(LDL)レベルおよび低血漿高比重リポタンパク質(HDL)レベル、高血圧、糖尿病、老齢、男性であること、および喫煙、高脂肪で過度の加工食品の食べ過ぎおよび運動不足などの生活様式因子を含め、多くの危険因子がアテローム性動脈硬化症の発症に関与している。
【0003】
LDL−Cはアテローム発生促進性であるため、血漿LDL−Cレベルを低下させ、有害な心臓血管事象の危険性を縮小させるためにスタチン薬剤が開発された。最近の研究は、現行の指針目標を下回るレベルまでLDL−Cレベルを低下させると、さらにアテローム発生が阻止され、有害な冠動脈事象が低減化されることを示唆している。スタチン薬剤は新たな有害な心臓血管事象を3分の1ほど減少させた。これは意義深いことであるが、追加治療が必要とされるのは明らかである。血漿HDLコレステロール(HDL−C)レベルの増加によりアテローム性動脈硬化が阻止されるという証拠はあるが、有効なHDL上昇剤が多数存在するとは思われない。したがって、HDLレベルを高める薬剤の同定が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
発明の要約
本発明は、UDP−N−アセチル−アルファ−D−ガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(本明細書では「GALNT」)が血漿中の高比重リポタンパク質レベルを調節するという新たな発見に関するものである。血漿リポタンパク質レベルに影響を及ぼす際のこのタンパク質の役割は、未だ判明していない。本発明は、GALNTがHDLコレステロールの血漿レベルに影響を及ぼすこと、具体的には、GALNT活性阻害を利用することにより、血漿HDLコレステロールレベルを上昇させ、アテローム性動脈硬化症を処置し得ることを立証している。
【0005】
したがって、一態様において、本発明は、GALNT遺伝子(例、ヒトGALNT2遺伝子)によりコード化されるポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む、単離抗体またはその機能性フラグメントの使用に関するものであり、この場合抗体または機能性フラグメントは、細胞上の表面受容体に結合することにより、HDL関連疾患の発症を阻止または改善する。
【0006】
一実施態様において、本発明は、抗体またはその機能性フラグメントの有効量を対象に投与することを含む、HDL関連疾患の処置方法に関するものである。
【0007】
抗体は、抗体またはその機能性フラグメントおよび医薬上許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物に製剤化され得る。医薬組成物は、処置を必要とする対象に抗体または機能性フラグメントを含む医薬組成物の有効量を投与することによるHDL関連疾患の処置方法として使用され得る。
【0008】
本発明はまた、HDL関連疾患処置用医薬の製造を目的とする単離抗体またはその機能性フラグメントの使用であって、上記抗体または機能性フラグメントは、GALNT遺伝子(例、ヒトGALNT2遺伝子)によりコード化されるポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む、使用に関する。また、抗体または機能性フラグメントをコード化する遺伝子を担持するトランスジェニック動物も本発明の範囲内に含まれる。
【0009】
一実施態様において、本発明は、GALNTの発現を阻止することを含む冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置方法に関するものである。一実施態様では、GALNTは、ヒトGALNT2である。
【0010】
別の実施態様において、本発明は、冠動脈疾患または冠動脈疾患に対する易罹患性の検出方法であって、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症発症の危険性に関連するヒトGALNT2遺伝子の対立遺伝子の検出を含む方法に関するものである。
【0011】
別の実施態様において、本発明は、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置の効力を測定し、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置の効力が決定されるように生物試料中のGALNTのレベルを対照標準と比較する方法に関するものである。一実施態様において、GALNTはヒトGALNT2である。
【0012】
別の実施態様において、本発明は、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置に有用な薬剤の同定方法であって、GALNTの阻害により血漿HDL−Cレベルの増加が誘導されることに基づくもので、候補薬剤と生物試料を接触させ、候補薬剤との接触の前後に試料中のHDL−Cのレベルを測定することを含み、HDLレベルの増加が、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置に有用な薬剤の指標となる方法に関するものである。
【0013】
別の実施態様において、本発明は、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置に有用な薬剤の同定方法であって、既知GALNT基質の存在下でGALNTを候補薬剤と接触させることを含み、GALNTの活性の減少により冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置に有用な候補薬剤が同定されることを特徴とする方法に関するものである。一実施態様において、GALNTはヒトGALNT2である。一実施態様では、接触段階を培養細胞で実施する。別の実施態様では、接触段階を生体内で実施する。別の実施態様において、GALNTは、内因性または外因性である。
【0014】
別の実施態様では、本発明は、対象においてHDLレベルを上昇させるHDLモジュレーション剤の投与を含む、HDL関連疾患のモジュレーション方法に関するものである。一実施態様において、HDL関連疾患は、アテローム性動脈硬化性心臓血管疾患(冠動脈疾患、卒中、心不全、末梢毒脈疾患)、脂質障害、アルツハイマー病、過度の酸化ストレス、内皮機能不全、肥満、慢性腎疾患、糖尿病およびインスリン抵抗から成る群から選択される。脂質障害は、例えば、高い血漿コレステロールレベル、脂質異常症候群、高トリグリセリド、脂質異常症、異常リポタンパク血症、高脂血症、家族性高コレステロール血症および家族性高トリグリセリド血症であり得る。別の実施態様において、モジュレーション薬剤は、小分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNAおよび抗体から成る群から選択される。一実施態様において、HDL関連疾患は、対象のHDL−Cレベルが一般に容認された正常HDL−Cレベルを下回る疾患を包含する。一実施態様において、HDL関連疾患は、対象のHDL−Cレベルが関連集団の一般に容認された正常HDL−Cレベルを下回る疾患を包含する。別の実施態様では、医薬上許容される担体を用いて薬剤を投与する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】内部対照(マウス組織についてはβ−アクチンRNAおよびヒト組織については18s RNA)に対する様々なヒト(図1A)およびマウス(図1B)組織におけるGALNT2のmRNA発現レベルを示すチャートを表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な記載
本発明は、GALNT2発現が、HDLコレステロールの血漿レベルと相関関係をなすという予想外の発見に関するものである。上記阻害により、血漿HDL−Cレベルは上昇する。これらの酵素は、オリゴ糖、多糖および複合糖質の合成に関与する、グリコシルトランスフェラーゼのファミリー、具体的にはヘキソシルトランスフェラーゼに属する(Breton et al., 2006, Glycobiology 16:29R-37R)。UDP−N−アセチル−アルファ−D−ガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.41、CAZyにおけるファミリー27)は、O−結合オリゴ糖生合成の第1段階においてN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)をセリンまたはトレオニン残基のヒドロキシル基に転移させることによりムチン型糖タンパク質の合成を開始させる。このファミリーは、ヒトでは進化的に保存された20の構成員を有する。個々のアイソフォームについての基質優先性は決定されておらず、リポタンパク質代謝におけるGALNT2の正確な機能も解明されていない。
【0017】
定義
本明細書で使用されている「HDL」の語は、高比重リポタンパク質を意味する。HDLは、血中でのコレステロール輸送体として機能する、ほぼ等量の脂質とタンパク質から成る複合体を含む。HDLは、主として肝臓および小腸の内皮細胞で合成および分泌される。分泌直後、HDLは、その主要構成成分としてアポリポタンパク質A−I(アポA−Iとも呼ばれる)およびリン脂質を含む円盤状粒子の形態を呈し、新生HDLとも呼ばれる。この新生HDLは、血中で、末梢細胞の細胞膜からの遊離コレステロールまたは他のリポタンパク質の加水分解過程で生成されたコレステロールを受け取る。成熟球状HDLは、その疎水性中心でLCAT(レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)の作用により上記コレステロールから変換されたコレステロールエステルを保持している。HDLは、血中で末梢組織からのコレステロールを取り込み、それを肝臓に輸送する「コレステロール逆転送」と呼ばれる脂質代謝過程において非常に重要な役割を演じる。コレステロール逆転送は、アテローム性動脈硬化症に対するHDLの予防的作用に関わる主要機構の一つであると考えられるため、HDLのレベルが高いと、アテローム性動脈硬化症および冠動脈性心疾患(CHD)の危険性は低下する。
【0018】
本明細書で使用されている「HDLモジュレーション剤」の語は、HDLレベルの改変により、HDL関連疾患または状態が改変されるようにHDLの発現または機能性レベルを改変させ得る分子をいう。HDLモジュレーション剤は、HDLレベルに影響を及ぼす核酸またはポリペプチドと直接的または間接的に作用し得る。HDLモジュレーション剤の例としては、限定されるわけではないが、抗体、siRNA/shRNA分子および低分子量化合物がある。一実施態様において、HDLモジュレーション剤は、CES遺伝子(例、hCES1遺伝子)によりコード化されるポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む単離抗体またはその機能性フラグメントである。抗体または機能性フラグメントは、細胞上の表面受容体に結合することにより、HDL関連疾患の発症を阻止または改善し得る。
【0019】
本明細書で使用されている「生物試料」の語は、生物全体またはその組織のサブセット、細胞または構成部分(例、限定されるわけではないが、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、臍帯血、尿、膣液および精液を含む体液)をいう。さらに「生物試料」は、生物全体またはその組織のサブセット、細胞または構成部分、または限定されるわけではないが、血漿、血清、髄液、リンパ液、皮膚の表面薄片、呼吸器、腸および尿生殖器官、涙液、唾液、乳、血液細胞、腫瘍、臓器を含むフラクションまたはその一部分から調製されるホモジネート、ライゼートまたは抽出物をいう。たいていの場合、試料を動物から取り出すが、「生物試料」の語は、例えば動物から採取せずに、生体内で分析される細胞または組織を指す場合もあり得る。典型的には、「生物試料」は動物からの細胞を含むが、この語はまた、血液、唾液または尿の非細胞性フラクションなどの非細胞性生物材料を指す場合もあり得て、これらは疾患関連ポリヌクレオチドまたはポリペプチドレベルの測定に使用され得る。さらに「生物試料」は、タンパク質または核酸分子などの細胞成分を含む、生物を増殖させていた栄養ブイヨンまたはゲルなどの培地も包含する。
【0020】
本明細書で使用されている「核酸」の語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびその重合体の1本または2本鎖形態を包含する。この語は、合成的、天然的および非天然的に存在し、対照標準核酸と類似した結合特性を有し、対照標準ヌクレオチドと同様に代謝される既知ヌクレオチド類似体または修飾バックボーン残基または結合を含む核酸を包含する。上記類似体の例としては、制限は無いが、ホスホロチオエート、ホスホロアミデート、メチルホスホネート、キラル−メチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチドおよびペプチド−核酸(PNA)がある。核酸配列はまた、上記核酸の天然に存する対立遺伝子変異型を含む。
【0021】
本明細書で使用されている「オリゴヌクレオチド」の語は、ホスホジエステル結合により連結された2またはそれより多いデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドから成り、好ましくは約6ないし約300のヌクレオチド長を含む核酸分子をいう。オリゴヌクレオチドのサイズは、オリゴヌクレオチドの最終的機能または使用を含む多くの因子により異なる。好ましくは、例えば伸長プライマーとして機能するオリゴヌクレオチドは、触媒、例えばDNAポリメラーゼ、およびデオキシヌクレオチド三リン酸の存在下で伸長産物の合成を開始させるのに十分なほど長いものである。さらに、本明細書で使用されている「オリゴヌクレオチド」の語は、構造的に修飾されてはいるが(「修飾オリゴヌクレオチド」)、非修飾オリゴヌクレオチドと同様に機能するオリゴヌクレオチドも包含する。修飾オリゴヌクレオチドは、例えばホスホロチオエートのように、改変糖部分または糖間結合などの非天然部分を含み得る。
【0022】
本明細書で使用されている「ポリペプチド」の語は、単量体がアミノ酸であり、ペプチドまたはジスルフィド結合により連結されている重合体をいう。またこの語は、約8ないし約500アミノ酸長の完全長天然アミノ酸配列またはそのフラグメントを包含する。さらに、非天然アミノ酸、例えば、ベータ−アラニン、フェニル、グリシンおよびホモアルギニンも含まれ得る。本発明で使用されるアミノ酸は全て、D−またはL−光学異性体であり得る。また、ポリペプチド配列は、上記ポリペプチドの天然対立遺伝子変異型も包含する。
【0023】
本明細書で使用されている「対象」の語は、ヒトまたはヒト以外の動物を含む。好ましくは、動物は、ヒトまたはヒト以外の哺乳類である。対象には、例えば、霊長類(例、サル、類人猿およびヒト)、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、魚類、鳥類などがある。好ましい実施態様では、対象はヒトである。
【0024】
本明細書で使用されている「効力」の語は、所望の効果が得られる程度をいう。具体的には、この語は、血漿リポタンパク質およびHDLレベルがモジュレーション(例、上昇、増加、阻害、低減化または遅延)される程度をいう。本願明細書で使用されている「効力」の語はまた、冠動脈疾患(CAD)の1つまたは複数の症状または臨床事象の軽減または縮小を指す。症状の軽減または縮小には、限定されるわけではないが、ホスファチジルコリン分解、酸化リン脂質の縮小または排除、アテローム斑(プラーク)形成および破綻の縮小、心臓発作、アンギナまたは卒中などの臨床事象の縮小、高血圧の減少、炎症伝達物質生合成の減少、血漿コレステロールの減少などがある。また、症状の軽減または縮小は、アテローム性動脈硬化により影響される血管床への血流の改善を含み得る。
【0025】
本明細書で使用されている「冠動脈疾患」(CAD)または同意語の「冠動脈性心疾患」(CHD)の語は、冠動脈の遮断を特徴とする心臓血管疾患をいう。遮断は、プラーク破綻または塞栓形成などの機構により突然起こり得る。遮断は、筋内膜過形成およびプラーク形成による動脈の狭窄を伴いながら漸進的に起こり得る。プラークが肥厚すると、動脈は狭まり、血流が減少することにより、心筋層への酸素供給が減少する。血流におけるこの減少により、心筋層に関する一連の重大な結果がもたらされる。例えば、心筋層への血流の中断により、一般に心臓発作として知られている「梗塞」(心筋梗塞)が誘発される。心臓に酸素を送達する動脈の遮断から起こるそれらの臨床徴候および症状が、CADの症状発現である。CADの症状発現には、アンギナ、虚血、心筋梗塞、心筋症、うっ血性心不全、不整脈および動脈瘤形成がある。冠動脈循環系における脆弱性プラーク疾患は、動脈血栓症またはそれ自体心筋梗塞として症状を発現する遠位塞栓形成と因果関係を示すことがわかる。CADは、一連の病期を包含し得る。CADの初期段階は、血流を遮断してはいない冠動脈の壁内におけるアテローム線条を特徴とする。何年もの期間にわたって、これらの線条は肥厚する。すなわち、CADの次なる段階は、動脈壁および脈管内腔中へ拡大し、動脈を通る血流に影響を及ぼすプラークの形成を特徴とする。プラークが厚さを増し、脈管の直径の大部分を遮断したときに、対象は、閉塞性CADまたは虚血性心疾患の症状を呈し得る。症状は、労作性狭心症または運動耐容能の減少を含むことが多い。CADの度合いが進行すると、冠動脈の管腔がほぼ完全に遮断され、心筋層へ酸素を送達する血液の流れが厳しく制限され得る。CADのこの段階は心筋梗塞(心臓発作)と呼ばれ、安静時狭心症および急性肺浮腫の症状を含む、慢性冠動脈虚血の徴候および症状を特徴とする。
【0026】
本明細書で使用されている「アテローム性動脈硬化症」の語は、1本またはそれより多い動脈、小動脈および身体および身体諸器官の移植静脈、例えば、限定されるわけではないが、冠動脈、大動脈、腎動脈、頸動脈、四肢および中枢神経系へ血液を供給する動脈、およびバイパス手術における移植静脈の狭窄および/または閉塞をまねく、マクロファージ、平滑筋細胞および細胞外空間におけるコレステロールおよびコレステロールエステルおよび関連脂質の異常な蓄積に至る過程をいう。アテローム性動脈硬化症は、血流からの物理的な力によりアテローム性動脈硬化病変部分が崩壊し、動脈壁成分が流れている血液に露出されるまで何十年も続く全く潜行性のものであり、血栓症を誘発し、心臓または脳などの標的臓器への酸素供給に支障をきたすことになり得る。
【0027】
本明細書で使用されている「HDL関連疾患」は、低HDLレベルに伴う疾患または特性またはHDLレベルの上昇が有利にはたらき得る疾患または特性、例えばアテローム性動脈硬化症をいう。これらの関連疾患としては、例えば、アテローム性動脈硬化性心臓血管疾患(冠動脈疾患、卒中、心不全、末梢動脈疾患)、脂質障害、アルツハイマー病、過度の酸化ストレス、慢性腎疾患、肥満、2型糖尿病およびインスリン抵抗、および高血圧、脂質異常症、中心性肥満および空腹時血漿グルコースの増加を含むいわゆる「メタボリック症候群」が挙げられる。脂質障害としては、例えば、異常に高いコレステロール(1デシリットル当たり130ミリグラムまたはmg/dLを超えるLDLレベル)、脂質異常症候群、異常に高いトリグリセリド(1500mg/dL程度の高トリグリセリドレベル)、脂質異常症またはリポタンパク質異常血症(HDLが35mg/dL未満である)、高脂血症または高コレステロール、家族性高コレステロール血症(総およびLDLコレステロールを高める遺伝疾患)および家族性高トリグリセリド血症(遺伝的高トリグリセリド)が挙げられる。
【0028】
本明細書で使用されている「発現レベルの有意な変化」という表現は、発現の評価に使用された本検定法の標準誤差より大きい量での対照レベルからの発現レベルの増加または減少を指す。この表現はまた、好ましくは少なくとも約10%、約20%、約25%、約30%、好ましくは少なくとも約40%、約50%、さらに好ましくは少なくとも約60%、約70%または約90%、約100%、約150%または約200%またはそれを超える変化を包含する。
【0029】
本明細書で使用されている「遺伝子」の語は、ポリペプチドをコード化し、その発現を調節する核酸配列をいう。したがって、遺伝子は、調節エレメント、例えばプロモーター、スプライス部位、エンハンサー、リプレッサー結合部位などを含む。遺伝子は、ポリペプチド配列または発現レベルに影響を及ぼし得るか、またはポリペプチドに対して何ら影響を及ぼさない配列変異型である多くの異なる「対立遺伝子」を有し得る。遺伝子は、連続したポリペプチドをコード化する核酸配列である、1つまたはそれより多い「読み枠」を含み得る。遺伝子は、内因的または外因的に存在し得る。
【0030】
本明細書で使用されている「GALNT(またはGALNT2)の発現レベル」なる語は、生物試料中に存在する対応遺伝子から転写されたmRNAの量を指す。発現レベルは、対照試料からのレベルまたは対照試料の予測レベルとの比較を伴うかまたは伴わずに検出され得る。
【0031】
本明細書で使用されている「対照レベル」の語は、変化を測定するためのバイオマーカーの標準レベルをいう。一実施態様では、「対照レベル」は、正常または健康な細胞、組織または対象から、または正常または健康な細胞、組織または対象の集団から発現されたバイオマーカー核酸またはポリペプチド、またはバイオマーカー生物活性の正常レベルであり得る。非限定的な例として、対照レベルは、正常細胞、組織または対象におけるマウスまたはヒトGALNT2ポリペプチドまたは生物活性のレベル、または血漿総リポタンパク質またはHDLレベルであり得る。
【0032】
本明細書で使用されている「GALNT(またはGALNT2)の対照発現レベル」なる語は、健康な対象の典型を示す生物試料中に存在する対応遺伝子から転写されたmRNAの量を指す。また、「対照発現レベル」なる語は、健康な対象からの測定値に基づいて先に確立された健康な集団の典型を示すmRNAの確立されたレベルを意味し得る。
【0033】
本明細書で使用されている「検出する」とは、試料中における分子の存在または非存在の識別を指す。検出すべき分子がポリペプチドである場合、検出段階は、例えば、検出可能な形で標識された抗体にポリペプチドを結合させることにより実施され得る。検出可能な標識は、刺激因子とは独立して、またはそれに応答して観察可能なシグナルを発し得る分子である。検出可能な標識としては、限定されるわけではないが、蛍光性標識、色素原標識、発光標識または放射性標識が挙げられる。標識を「検出する」方法には、例えば、標準または共焦顕微鏡、FACS分析に適合させた定量的および定性的方法、およびマルチウェルプレート、アレイまたはマイクロアレイを伴うハイスループット方法に適合させた同方法がある。当業者であれば、所与の蛍光性ポリペプチドまたは染料からの蛍光放射線検出に適切なフィルターセットおよび励起エネルギー供給源を選択し得るはずである。本明細書で使用されている「検出する」はまた、検出すべきポリペプチドに対する多抗体の使用を含み得て、その場合、多抗体は、検出すべきポリペプチド上の異なるエピトープに結合する。この方法で使用される抗体は、2つまたはそれより多い検出可能な標識を利用し得て、例えばFRET対を含み得る。検出可能なシグナルのレベルが検出可能な標識のバックグラウンドレベルより実際に大きいとき、または測定されたポリペプチドのレベルが対照試料で測定されたレベルよりも実際に大きい場合、ポリペプチド分子は本発明に従って「検出」される。
【0034】
本明細書で使用されている「検出する」はまた、例えば、直接的または間接的に標識された(血清試料中で標的とハイブリダイゼーションし得る)プローブ核酸分子により発せられるシグナルを測定または観察する方法による、標的核酸分子の存在の識別を指す。プローブ核酸の検出は、標的核酸、例えばマーカー遺伝子をコード化する配列の存在を直接的に示すもの、すなわちその検出である。蛍光性、放射性および他の化学的標識を「検出する」ための方法および技術は、Ausubel et al.(1995, Short Protocols in Molecular Biology, 第3版、John Wiley and Sons, Inc.)により記載されている。
【0035】
別法として、ある部分を標的とハイブリダイゼーションするプローブ核酸に結合させ、その部分が、例えば、適切な基質の存在下において標的の検出を可能にする酵素活性、または抗体または他の特異的指標の付加による検出を可能にする特異的抗原または他のマーカーを含んでいる場合、核酸は「間接的に検出され」得る。別法として、標的核酸分子は、標的核酸配列の一部分とハイブリダイゼーションするように特異設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、患者臨床試料から調製された核酸試料を増幅することにより検出され得る。また、定量的増幅方法、例えばTaqMan(登録商標)を用いて、本発明による標的核酸を「検出する」ことも可能である。(例えば定量的PCRにより)測定された核酸のレベル、または検出可能な標識により提供された検出可能なシグナルのレベルがバックグラウンドレベルより実際に上である場合、核酸分子は本明細書で使用されているとおり「検出される」。
【0036】
さらに、本明細書で使用されている「検出する」は、対象におけるアテローム性動脈硬化症などのCADの少なくとも早期発見を指し、その場合、「早期」発見とは、好ましくは症状が目に見える時点より前の初期段階でのCADの検出を指す。さらに、本明細書で使用されている「検出する」は、上記で示したのと同一の検出基準を用いることによる対象におけるCAD再発の検出を指す。さらに、本明細書で使用されている「検出する」は、HDLモジュレーション剤での処置の前後におけるCADの程度の変化の測定を指す。この場合、HDLモジュレーション剤に応答したCADの程度の変化は、HDLモジュレーション剤が存在しない場合に対する、HDLモジュレーション剤の存在に応答した、超音波、X線、内視鏡または組織分析により検出される1つまたはそれ以上のマーカー遺伝子(例、GALNT2)またはタンパク質の増加または減少を指す。
【0037】
本明細書で使用されている「抗体」の語は、無傷の抗体またはその抗原結合フラグメント(すなわち、「抗原結合部分」)または単鎖(すなわち、軽または重鎖)を指す。無傷の抗体は、ジスルフィド結合により相互連結された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書では略してV)および重鎖定常領域から成る。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH、CHおよびCHにより構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書では略してV)および軽鎖定常領域から成る。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、Cにより構成される。さらにVおよびV領域は、間にフレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存性の高い領域が散在した、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に分けられ得る。各VおよびVは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4という順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された3つのCDRおよび4つのFRにより構成される。重および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を仲介し得る。
【0038】
本明細書で使用されている抗体の「抗原結合部分」の語は、所与の抗原への特異的結合能を保持している無傷抗体の1つまたは複数のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は、無傷抗体のフラグメントにより遂行され得る。抗体の「抗原結合部分」なる語に包含される結合フラグメントの例としては、Fabフラグメント、V、V、CおよびCHドメインから成る1価フラグメント;F(ab)フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合された2つのFabフラグメント(一般的に重鎖から1つおよび軽鎖から1つ)を含む2価フラグメント;VおよびCHドメインから成るFdフラグメント;抗体の単一アームのVおよびVドメインから成るFvフラグメント;Vドメインから成る単一ドメイン抗体(dAb)フラグメント(Ward et al., 1989 Nature 341:544-546);および単離相補性決定領域(CDR)がある。
【0039】
さらに、Fvフラグメントの2つのドメインVおよびVは、別々の遺伝子によりコードされるが、それらは、VおよびV領域が対合して1価分子(単鎖Fv(scFv)としても知られている;例、Bird et al., 1988 Science 242:423-426;およびHuston et al., 1988 Proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883 参照)を形成している単タンパク質鎖としてそれらを構成させ得る人工ペプチドリンカーによる組換え技法を用いて連結され得る。上記の単鎖抗体は、抗体の1つまたは複数の「抗原結合部分」を含む。当業者に周知の慣用的技術を用いてこれらの抗体フラグメントを得て、無傷抗体の場合と同様にして上記フラグメントを有用性についてスクリーニングにかける。
【0040】
抗原結合部分はまた、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、細胞内発現抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体、v−NARおよびbis−scFvに組み込まれ得る(例、Hollinger および Hudson, 2005, Nature Biotechnology, 23, 9, 1126-1136 参照)。抗体の抗原結合部分は、フィブロネクチンIII型(Fn3)などのポリペプチドに基づいたスカホールドに移植され得る(フィブロネクチンポリペプチドモノボディについて記載している米国特許第6703199号参照)。
【0041】
抗原結合部分は、相補的軽鎖ポリペプチドと一緒になって、一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFvセグメント(V−CH−V−CH)を含む単鎖分子に組み込まれ得る(Zapata et al., 1995 Protein Eng. 8(10):1057-1062;および米国特許第5641870号参照)。
【0042】
「サイレンス」および「の発現を阻害する」という表現は、それらが標的遺伝子、例えばヒトGALNT2について用いられている限り、本明細書では、ヒトGALNT2遺伝子が転写され、ヒトGALNT2遺伝子の発現が阻害されるように処理が為された第1細胞または細胞群から単離され得るヒトGALNT2遺伝子から転写されたmRNAの量を、第1細胞または細胞群と実質的に同一であるが、上記の処理は為されていない第2細胞または細胞群(対照細胞)の場合と比較したときの量の縮小により証明される、ヒトGALNT2遺伝子発現の少なくとも部分的な抑制をいうものとする。阻害の程度は通常下式で表される。
【数1】

【0043】
別法として、阻害の程度は、ヒトGALNT2遺伝子転写に機能的に結びついたパラメーター、例えば細胞により分泌されるヒトGALNT2遺伝子によりコード化されるタンパク質の量、またはある種の表現型を呈する細胞数の縮小によって与えられ得る。原則として、ヒトGALNT2遺伝子サイレンシングは、構成的またはゲノム遺伝子操作により標的を発現する細胞において、適切な検定法により測定され得る。
【0044】
本発明の英文明細書(特に請求の範囲の部分で)で使用されている冠詞「a」、「an」、「the」および本明細書で使用されている同様の語は、本明細書で特に断らなければ、または明らかに文脈と矛盾していなければ、単数および複数の両方の場合を包含するものと見なす。本明細書では値の範囲を列挙しているが、これは単にその範囲内に含まれる各独立値を個々に示す手短な方法としての役割を果たしているのに過ぎないものとする。本明細書において特に断らなければ、個々の各値は、それが明細書において個々に列挙されているがごとく、明細書に組み入れられているものとする。本明細書記載の方法は全て、特に断らなければ、または文脈と明らかに矛盾するものでなければ、任意の適切な順序で実施され得る。本明細書に記載された全ての実例または例示的な表現(例、「例えば、などの」)の使用は、単に本発明をよりわかり易くすることを意図しているのに過ぎず、別の形で請求された発明の範囲に制限を設けるものではない。本明細書中で、本発明の実践に不可欠な請求外の要素を示すものとしてみなされるべき表現は一切無いものとする。
【0045】
本発明は、マウスおよびヒトGALNT2が、CADの発生および進行に影響を及ぼすレベルである、血漿HDL−Cのレベルを調節するという驚くべき新発見に基づいている。特に、マウスまたはヒトGALNT2発現および/または活性を阻害すると、HDL−Cレベルは高くなる。したがって、本発明の一態様は、マウスまたはヒトGALNT2の発現または活性を阻害するか、低下または遅延させる化合物、またはCADを処置する化合物の同定方法を提供する。本発明の別の態様は、CADの発症、進行または退縮をモニターするか、またはCADの処置における化合物の効力を評価するためのバイオマーカーとしてのマウスまたはヒトGALNT2の使用に関するものである。
【0046】
スクリーニング検定法
一態様において、本発明は、GALNT、例えばマウスまたはヒトGALNT2の活性を阻害するかまたはその発現を低下させることにより、HDL−Cの血漿レベルを増加させる化合物のスクリーニング(同定)方法を提供する。スクリーニングは、例えば、GALNT、例えばマウスまたはヒトGALNT2を含む生物試料と化合物を接触させ、マウスまたはヒトGALNT2のGALNT活性に対する化合物の効果をモニターするか、マウスまたはヒトGALNT2の発現をモニターするか、または試料中のHDL−C、LDL−CおよびVLDL−Cレベルに対する化合物の効果をモニターすることにより実施され得る。GALNT、例えばマウスまたはヒトGALNT2は、内因性または外因性核酸分子(例、適切な読み枠を含む内因性遺伝子または外因性ベクター)またはポリペプチドまたはその機能性フラグメントの形態であり得る。
【0047】
総血漿リポタンパク質またはHDL−Cレベルのモジュレーションに対する化合物の効果は、例えばマウスまたはヒトGALNT2の活性のモジュレーションによるものである。マウスまたはヒトGALNT2の活性のモジュレーションは、限定されるわけではないが、1)ポリペプチドまたはその機能性フラグメントによるHDL分解の阻害または阻止、2)マウスまたはヒトGALNT2ポリペプチドまたはその機能性フラグメントの分解または分解の誘導、3)マウスまたはヒトGALNT2ポリペプチドまたはその機能性フラグメントの生物活性の不活化、4)マウスまたはヒトGALNT2核酸分子の発現の縮小または阻害、および5)マウスまたはヒトGALNT2核酸分子の分解または脱安定化を含み得る。
【0048】
HDLに対する化合物の効果の測定を目的とする場合、化合物を投与していない並行試料についても対照としてモニターする。次いで、処理および未処理試料を、限定されるわけではないが、顕微鏡分析、生存能試験、複製能力、組織検査、特定RNAまたはポリペプチドまたはその複合体のレベル、酵素活性のレベル、および他の細胞または化合物と相互作用する細胞の能力などを含む適切な表現型基準により比較する。処理および未処理細胞間の差異は、化合物に起因すると考えられる効果を示す。一実施態様において、化合物は、少なくとも約2%、約5%、約10%、約20%、約30%、約50%、約70%、約90%、約100%、約150%、約200%またはそれを超える率でのGALNT活性の阻害またはHDL−Cレベルのモジュレーションについて同定され得る。スクリーニング方法は、1)HDLおよび適切なGALNT、例、マウスまたはヒトGALNT2を含む生物試料と化合物を接触させ、2)第1生物試料中におけるHDLのレベルを測定し、3)第2生物試料中におけるHDLのレベルを測定し、ただし、第2生物試料は化合物に暴露されていないものとし、4)2)からのHDLレベルが、3)からのHDLレベルと比べて増加、例えば1.5倍増加している化合物を選択する段階を含む。
【0049】
一実施態様において、スクリーニング検定法は、HDLおよび適切なGALNT、例えば、マウスまたはヒトGALNT2を含む無細胞生物試料を、化合物と接触させ、血漿総−およびHDL−Cレベルをモジュレーションする化合物の能力を測定する無細胞検定法である。HDLレベルの測定方法は、当業界では周知である(Sugiuchi, et al. Clin. Chem., 41:717-723, 1995; Izawa et al., J. Med. Pharm. Sci., 37:1385-1388, 1997)。
【0050】
本明細書記載の無細胞スクリーニング検定法の場合、適切なGALNT、例えばマウスまたはヒトGALNT2ポリペプチドまたはその機能性フラグメントは、生物試料そのものに含有されるか、または他の供給源から生物試料中に添加され得る。例えば、ポリペプチドまたはその機能性フラグメントは、市販されているか、または適切な生物学的供給源、例えば培養細胞からかなりの量で精製され得る。別法として、タンパク質は、同じく当業界では周知のとおり、適切な原核生物または真核生物発現系での発現により単離遺伝子またはcDNAから遺伝子組換えにより製造され、その後に精製され得る。同様に、HDLは、生物試料それ自体に含有され得るか、または他の供給源から生物試料中に添加され得る。HDLは、完全に単離または部分的に単離され得る。HDLの部分的または完全単離方法は、当業界では周知である(Havel et al., J. Clin. Invest., 43:1345-1353, 1955; Navab et al., J. Clin. Invest., 99:2005-2019, 1997; Carroll および Rudel, J. Lipid Res., 24:200-207, 1983, McNamara et al., Clin. Chem., 40:233-239, 1994, Grauholt et al., Scandinavian J. Clin. Lab. Invest., 46:715-721, 1986; Warnick et al., Clin. Chem., 28:1379-1388, 1982; Talameh et al., Clin. Chimica Acta, 158:33-41, 1986)。
【0051】
別の実施態様では、スクリーニング検定法は、インビボスクリーニング検定法である。インビボスクリーニング検定法をヒト以外の動物で実施することにより、動物においてHDLの分解を効果的に阻害、縮小または遅延させるかまたはHDL構成成分(複数も可)の生成に影響を及ぼす化合物を発見することができる。非限定的な例では、化合物を、適量の時間適切な用量で、所望により高脂肪食餌摂取後でもよいヒト以外の動物に投与する。次いで、動物を採血し、血漿リポタンパク質を単離し、当業界で公知の方法によりHDLレベルを測定する。化合物で処置した動物におけるHDLレベルの増加および総コレステロールの減少を、化合物で処置しなかった動物におけるHDLレベルと比較したところ、この化合物は、例えばマウスまたはヒトGALNT2の活性を阻害することにより、動物において総血漿リポタンパク質および/またはHDL−Cのレベルをモジュレーションすることが示された。好ましくは、変化は少なくとも約1.5倍である。また好ましくは、化合物は、動物における総リポタンパク質および/またはHDL−Cのレベルを少なくとも約10%、約20%、約30%、約50%、約70%、約90%、約100%、約150%、約200%またはそれを超える率でモジュレーションする。
【0052】
所望により、動物に投与する前に、化合物を本明細書記載の無細胞スクリーニング検定法または細胞に基づくスクリーニング検定法によるプレ-スクリーニングにかけることも可能である。
【0053】
細胞に基づくスクリーニング検定法では、適切なGALNT、例えばマウスまたはヒトGALNT2またはその機能性フラグメント(複数も可)を発現する細胞を、化合物と接触させ、化合物がGALNT活性をモジュレーションする能力を測定する。GALNT活性をモジュレーションする細胞の能力の測定は、適切な基質についてのGALNTの生物活性、例えば触媒/酵素活性を評価することにより、化合物が呈するGALNTへの結合能力またはそれとの相互作用能力を評価することにより、検出可能なマーカーをコード化する核酸に機能し得るように結合されたGALNT応答性エレメントを含むリポーター遺伝子の誘導を評価することにより、または適切なGALNT調節細胞性応答、例えばシグナル伝達またはタンパク質/タンパク質相互作用を評価することにより実施され得る。細胞は、哺乳類細胞、昆虫細胞、細菌細胞または酵母細胞などであり得る。
【0054】
本発明の別の態様は、上記スクリーニング検定法から得られる化合物に関するものである。化合物は、化学的化合物、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、非免疫グロブリン結合スカホールドまたは抗体であり得る。
【0055】
抗体
一実施態様では、本発明は、抗体を用いることによるHDL核酸およびポリペプチドレベルのモジュレーションに関するものである。抗体としては、限定されるわけではないが、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異性、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、Fvフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fab発現ライブラリーにより生成されるフラグメント、抗イディオタイプ抗体または他のエピトープ結合ポリペプチドを挙げることができる。本発明抗体は、単一特異性、二重特異性、三重特異性、またはそれ以上の多重特異性であり得る。好ましくは、マウスまたはヒトGALNT2ポリペプチド検出に関して本発明で有用な抗体は、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)、Fd、単鎖抗体またはFvを含む、ヒト抗体またはそのフラグメントである。本発明で有用な抗体は、完全重または軽鎖定常領域またはその一部分を含むか、またはそれが欠如している場合もあり得る。一実施態様において、本発明で有用な抗体は、ヒト抗体と緊密に類似するようにアミノ酸が非抗原結合領域で置換されているが、元の結合能は依然として保持しているヒト化抗体であり得る。ヒト化抗体の製造方法は、当業界では公知である(Teng et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:7308-7312, 1983; Kozbor et al., Immunology Today, 4:7279, 1983; Olsson et al., Meth. Enzymol., 92:3-16, 1982; 国際公開第92/06193号; および欧州特許第0239400号)。
【0056】
実施態様によっては、GALNT2ポリペプチドに結合する抗体の抗原結合部分、(例、VおよびV鎖)が、「混合および対合」され、他の抗GALNT2結合分子を作製し得ることもある。上記の「混合および対合」抗体の結合は、結合検定法(例、ELISA)を用いて試験され得る。Vを選択して特定V配列と混合および対合させるとき、典型的にはVと構造上類似したVを選択し、それをそのVとの対合で置き換える。同様に、特定完全長重鎖/完全長軽鎖対合からの完全長重鎖配列は、一般的に構造上類似した完全長重鎖配列と置換される。同様に、特定V/V対合からのV配列は、当然構造上類似したV配列と置換される。同様に、特定完全長重鎖/完全長軽鎖対合からの完全長軽鎖配列は、構造上類似した完全長軽鎖配列により置換されるべきである。上記における構造類似性の同定は、当業界では公知のプロセスである。
【0057】
抗体の可変領域または完全長鎖が配列供給源としてヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子を用いる系から得られる場合、ヒト抗体は、特定生殖系列配列「の産物」であるかまたはそこ「から誘導される」重または軽鎖可変領域または完全長重または軽鎖を含む。かかる一系では、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子を担持するトランスジェニックマウスで産生される。トランスジェニック(マウス)を、興味の対象である抗原(例、GALNT2ポリペプチドのエピトープ)で免疫化する。
【0058】
ヒト生殖系列免疫グロブリン配列「の産物」であるかまたはそこ「から誘導される」ヒト抗体は、ヒト抗体のアミノ酸配列をヒト生殖系列免疫グロブリンのアミノ酸配列と比較し、ヒト抗体の配列と配列が最も近似した(すなわち、最大同一性%の)ヒト生殖系列免疫グロブリン配列を選択することによりそれ自体同定され得る。特定ヒト生殖系列免疫グロブリン配列「の産物」であるかまたはそこ「から誘導される」ヒト抗体は、例えば、天然に存する体細胞突然変異または人工的位置指定突然変異導入の結果として、生殖系列コード化配列との比較におけるアミノ酸差異を含み得る。しかしながら、選択されたヒト抗体は、典型的にはヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコード化されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有し、他種(例、ネズミ生殖系列配列)の生殖系列免疫グロブリンアミノ酸配列との比較に際しヒト由来であるものとしてヒト抗体を同定するアミノ酸残基を含む。場合によって、ヒト抗体は、生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコード化されるアミノ酸配列と少なくとも60%、70%、80%、90%または少なくとも95%またはさらに少なくとも96%、97%、98%または99%のアミノ酸配列同一性を示し得る。
【0059】
ラクダ科抗体
例えばラマ種(ラマ・パコス(Lama paccos)、ラマ・グラマ(Lama glama)およびラマ・ビクグナ(Lama vicugna))などの新世界要員を含む、(フタコブ)ラクダおよびヒトコブラクダ(カメルス・バクトリアヌス(Camelus bactrianus)およびカレルス・ドロマデリウス(Calelus dromaderius))ファミリーの要員から得られる抗体タンパク質は、サイズ、構造複雑度およびヒト対象に対する抗原性に関して特性確認されてきた。この哺乳類ファミリーで天然に見出されるある種のIgG抗体は、軽鎖を欠くため、他の動物からの抗体に典型的な2重鎖および2軽鎖を有する4鎖4次構造とは構造的に区別される。国際公開第94/04678号参照。
【0060】
Hとして同定された小さな単一可変ドメインであるラクダ科抗体の一領域を遺伝子工学技術により入手して、標的に対し高い親和力を有する小タンパク質を生成することにより、「ラクダ科ナノ抗体」として知られる低分子量抗体由来タンパク質が得られる。米国特許第5759808号参照;また、Stijlemans et al., 2004 J. Biol. Chem. 279: 1256-1261; Dumoulin et al., 2003 Nature 424: 783-788; Pleschberger et al., 2003 Bioconjugate Chem. 14: 440-448; Cortez-Retamozo et al., 2002 Int. J. Cancer 89: 456-62; および Lauwereys. et al., 1998 EMBO J. 17: 3512-3520 も参照。ラクダ科抗体および抗体フラグメントの遺伝子工学的ライブラリーは、例えばAblynx(ゲント、ベルギー国)から市販されている。ヒト以外に由来する他の抗体の場合と同様、ラクダ科抗体のアミノ酸配列を組換え技法で改変することにより、ヒト配列とより密接に類似した配列を得ることも可能である、すなわち、ナノ抗体の「ヒト化」も可能である。したがって、ヒトに対するラクダ科抗体の天然の低抗原性はさらに低減化され得る。
【0061】
ラクダ科ナノ抗体は、ヒトIgG分子の約10分の1の分子量を有し、このタンパク質は僅か数ナノメートルの物理的直径を有する。サイズが小さいことによる一つの結果は、ラクダ科ナノ抗体が、大きな抗体タンパク質では機能的に見えないほど小さい抗原部位へ結合できることである、すなわち、ラクダ科ナノ抗体は、古典的免疫学的技術を用いても普通なら曖昧なものである抗原を検出する試薬として、また可能性のある治療剤として有用である。すなわち、サイズが小さいことによるさらに別の結果は、ラクダ科ナノ抗体が、標的タンパク質の溝または狭い裂け目にある特異的部位へ結合することによりそれを阻害し得て、このため、古典的抗体の場合よりも古典的低分子量薬剤の機能とさらに密接に類似した受容力で役割を果たし得ることである。
【0062】
さらに、低分子量および小型サイズであることから、ラクダ科ナノ抗体は、非常に熱安定性が高く、極端なpHおよびタンパク質分解的消化にも安定性を示し、抗原性も乏しい。別の結果は、ラクダ科ナノ抗体が、循環系から組織中へ容易に移動し、そして血液脳関門さえも通過するため、神経組織に影響を及ぼす疾患を処置し得ることである。さらにナノ抗体により、血液脳関門を超える薬剤輸送が容易に行える。2004年8月19日付公開の米国特許公開第20040161738号参照。これらの特徴をヒトでの低抗原性と組み合わせると、多大な治療的可能性が示される。さらに、これらの分子は、エシェリキア・コリ(E.coli)などの原核生物細胞で十分に発現され得る。ラクダ科抗体も、本発明の範囲内に含まれるものとする。したがって、本発明の一つの特徴は、GALNT2ポリペプチドについての高い親和力を有するラクダ科抗体またはラクダ科ナノ抗体である。
【0063】
二重特異性抗体
二重特異性抗体は、VおよびVドメインが、単一ポリペプチド鎖で発現される2価の二重特異性分子であり、これらは同一鎖において2ドメイン間で対を形成させるには短すぎるリンカーにより結合されている。VおよびVドメインは、別の鎖の相補性ドメインと対をなすことにより、2つの抗原結合部位を設ける(例、Holliger et al., 1993 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448; Poljak et al., 1994 Structure 2:1121-1123 参照)。二重特異性抗体は、同一細胞内で構造VA−VBおよびVB−VA(V−V立体配置)、またはVA−VBおよびVB−VA(V−V立体配置)を有する2本のポリペプチド鎖を発現させることにより製造され得る。それらのほとんどは、細菌において可溶性形態で発現され得る。
【0064】
単鎖二重特異性抗体(scDb)は、2本の二重特異性抗体形成ポリペプチド鎖を約15アミノ酸残基のリンカーと連結することにより製造される(Holliger および Winter, 1997 Cancer Immunol. Immunother., 45(3-4):128-30; Wu et al., 1996 Immunotechnology, 2(1):21-36 参照)。scDbは、細菌において可溶性活性モノマー形態で発現され得る(Holliger およびWinter, 1997 Cancer Immunol. Immunother., 45(34): 128-30; Wu et al., 1996 Immunotechnology, 2(1):21-36; Pluckthun およびPack, 1997 Immunotechnology, 3(2): 83-105; Ridgway et al., 1996 Protein Eng., 9(7):617-21 参照)。二重特異性抗体をFcと融合させることにより、「二重−二重特異性抗体(di-diabody)」が生成され得る(Lu et al., 2004 J. Biol. Chem., 279(4):2856-65参照)。
【0065】
遺伝子操作および修飾抗体
出発材料として1つまたは複数のVおよび/またはV配列を有する抗体を用いて本発明抗体を製造することにより、遺伝子工学的に修飾抗体が作製され得て、その修飾抗体は、出発抗体からの改変された特性を有し得る。抗体は、一方または両方の可変領域(すなわち、Vおよび/またはV)内、例えば1つまたはそれより多いCDR領域内および/または1つまたはそれより多いフレームワーク領域内における1つまたはそれより多い残基を修飾することにより遺伝子工学的に作製され得る。さらに、または別法として、抗体は、定常領域(複数も可)内の残基に修飾を加えることにより、例えば抗体のエフェクター機能(複数も可)を改変するように遺伝子工学的に作製され得る。
【0066】
実施され得る可変領域遺伝子操作の一タイプは、CDRグラフト技術である。抗体は、主に6つの重および軽鎖CDRに位置するアミノ酸残基を通して標的抗原と相互作用する。この理由により、CDR内のアミノ酸配列は、CDRの外側の配列よりも個々の抗体間で高い多様性を示す。CDR配列はほとんどの抗体−抗原相互作用に関与するため、異なる特性をもつ異なる抗体からフレームワーク配列へグラフトされた特異的天然抗体からのCDR配列を含む発現ベクターを構築することにより、特異的天然抗体の特性を模倣する組換え抗体を発現させることが可能である(例、Riechmann et al., 1998 Nature 332:323-327; Jones et al., 1986 Nature 321:522-525; Queen et al., 1989 Proc. Natl. Acad. See. U.S.A. 86:10029-10033; 米国特許第5225539号および米国特許第5530101、5585089、5693762および6180370号参照)。
【0067】
フレームワーク配列は、生殖系列抗体遺伝子配列を含む公開DNAデータベースまたは発表された参考文献から入手され得る。例えば、ヒト重および軽鎖可変領域遺伝子についての生殖系列DNA配列は、「VBase」ヒト生殖系列配列データベースおよび Kabat et al., 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版、 U.S. Department of Health and Human Services, NIH 公開第91-3242号; Tomlinson et al., 1992 J. Mol. Biol. 227:776-798; および Cox et al., 1994 Eur. J. Immunol. 24:827-836 から入手され得て、これらの内容については、出典明示で援用する。
【0068】
CDR1、2および3配列およびVCDR1、2および3配列は、フレームワーク配列が誘導される生殖系列免疫グロブリン遺伝子で見いだされるのと同一の配列を有するフレームワーク領域へグラフトされ得るか、またはCDR配列は、生殖系列配列と比べて1つまたは複数の突然変異を含むフレームワーク領域へ移植され得る。例えば、ある一定の場合には、フレームワーク領域内における残基に突然変異を導入して、抗体の抗原結合能力を維持または高めるのが有益であることが見出された(例、米国特許第5530101、5585089、5693762および6180370号参照)。
【0069】
CDRはまた、免疫グロブリンドメイン以外のポリペプチドのフレームワーク領域へグラフトされ得る。適切なスカホールドは、グラフト残基が局在化した表面を形成し、興味の対象である標的と結合するようにそれらを提示する立体配座的に安定したフレームワークを形成する。例えば、CDRは、フレームワーク領域が、フィブロネクチン、アンキリン、リポカリン、ネオカルジノスタイン、シトクロムb、CP1亜鉛フィンガー、PST1、超らせん、LACI−D1、Zドメインまたはテンドラミサット(tendramisat)に基づいているスカホールドへグラフトされ得る(例、Nygren および Uhlen, 1997 Current Opinion in Structural Biology, 7, 463-469参照)。
【0070】
可変領域修飾の別のタイプは、Vおよび/またはVCDR1、CDR2および/またはCDR3領域内におけるアミノ酸残基への突然変異導入であり、それにより「親和性成熟」として知られる、興味の対象である抗体の1つまたは複数の結合特性(例、親和性)が改善される。位置指定突然変異導入またはPCRを通した突然変異誘発を実施することにより、突然変異(複数も可)が導入され得て、抗体結合または興味の対象である他の機能的特性に対する効果を、本明細書記載のインビトロまたはインビボ検定法で評価することができる。保守的修飾が導入され得る。突然変異は、アミノ酸置換、付加または欠失であり得る。さらに、典型的には、CDR領域内における多くて1、2、3、4または5の残基が改変される。
【0071】
遺伝子操作された本発明抗体には、例えば抗体の特性を改善するように、Vおよび/またはV内のフレームワーク残基に修飾が加えられたものがある。典型的には、上記フレームワーク修飾は、抗体の免疫原性を減らすように行われる。例えば、一方法は、1つまたは複数のフレームワーク残基を対応する生殖系列配列に「復帰突然変異させる」ことである。さらに具体的には、体細胞突然変異を被った抗体は、抗体が由来する生殖系列配列とは異なるフレームワーク残基を含み得る。上記残基は、抗体フレームワーク配列を、抗体が由来する生殖系列配列と比較することにより同定され得る。フレームワーク領域配列をそれらの生殖系列立体配置に戻すために、体細胞突然変異を、例えば位置指定突然変異導入またはPCRを通した突然変異誘発により生殖系列配列に「復帰突然変異」させることが可能である。上記「復帰突然変異」抗体もまた、本発明に包含されるものとする。
【0072】
フレームワーク修飾の別のタイプでは、フレームワーク領域内、または1つまたは複数のCDR領域内における1つまたは複数の残基に突然変異を誘発することにより、T細胞エピトープを除去し、抗体の潜在的免疫原性を縮小させる。この方法は、「脱免疫化」とも称され、Carr et al.による米国特許公開第20030153043号に詳述されている。
【0073】
フレームワークまたはCDR領域内に加える修飾に加えて、またはそれに代わるものとして、本発明抗体の場合、遺伝子工学技術によりFc領域内に修飾を加え、典型的には抗体の1つまたは複数の機能的特性、例えば血清半減期、補体固定、Fc受容体結合および/または抗原依存的細胞傷害性を改変させることも可能である。さらに、本発明抗体を化学的に修飾するか(例、1つまたは複数の化学的部分を抗体に結合させ得る)、またはそのグリコシル化を改変して、再び抗体の1つまたは複数の機能的特性を改変するように修飾することも可能である。
【0074】
一実施態様では、CHのヒンジ領域におけるシステイン残基の数を改変する、すなわち増加または減少させるように、ヒンジ領域を修飾する。この方法は、Bodmer et al.による米国特許第5677425号に詳述されている。CHのヒンジ領域におけるシステイン残基の数を改変することにより、例えば軽および重鎖の会合を促進するか、または抗体の安定性を増加または減少させる。
【0075】
別の実施態様では、抗体のFcヒンジ領域に突然変異を導入して、抗体の生物学的半減期を減少させる。さらに具体的には、抗体が、天然Fc−ヒンジドメインブドウ球菌(スタフィロコッカス(Staphylococcyl))プロテインA(SpA)結合と比べて低下したSpA結合性を示すように、1つまたは複数のアミノ酸突然変異をFc−ヒンジフラグメントのCH−CHドメイン界面領域に導入する。この方法は、Ward et al.による米国特許第6165745号で詳細に記載されている。
【0076】
別の実施態様では、抗体にその生物学的半減期を増すように修飾を加える。様々な方法が可能である。例えば、米国特許第6277375号は、そのインビボ半減期を増加させるIgGにおける次の突然変異:T252L、T254S、T256Fについて報告している。別法として、Presta et al.による米国特許第5869046および6121022号に記載されているとおり、生物学的半減期を増加させるために、抗体は、IgGのFc領域のCHドメインの2つのループから取り出したサルベージ受容体結合エピトープを含むようにCHまたはCL領域内で改変され得る。
【0077】
さらに他の実施態様では、少なくとも1個のアミノ酸残基を異なるアミノ酸残基と置換してFc領域を改変することにより、抗体のエフェクター機能を改変させる。例えば、抗体が、エフェクターリガンドについては親和性が改変されているが、親抗体の抗原結合能については保持しているように、1個または複数のアミノ酸を異なるアミノ酸残基と置換することができる。親和性が改変されるエフェクターリガンドは、例えばFc受容体または補体系のC1成分であり得る。この方法は、両方ともWinter et al.による米国特許第5624821および5648260号で詳細に報告されている。
【0078】
別の実施態様では、抗体においてC1q結合性が改変されるか、そして/または補体依存的細胞傷害性(CDC)が低減化または排除されるように、アミノ酸残基から選択された1個または複数のアミノ酸を異なるアミノ酸残基と置換することも可能である。この方法は、Idusogie et al. による米国特許第6194551号で詳細に記載されている。
【0079】
別の実施態様では、1個または複数のアミノ酸残基を改変することにより、抗体の補体固定能力を改変させる。この方法は、Bodmer et al. による国際公開第94/29351号に詳述されている。
【0080】
さらに別の実施態様では、抗体の抗体依存的細胞介在性細胞傷害活性(ADCC)の伝達能を高めるか、そして/または1個または複数のアミノ酸を修飾することによりFcγ受容体に関する抗体の親和性を増加させるようにFc領域を修飾する。この方法は、Presta による国際公開第00/42072号に詳述されている。さらに、FcγR1、FcγRII、FcγRIIIおよびFcRnについてのヒトIgG1での結合部位はマッピングされており、結合性が改善された変異型も報告されている(Shields, R.L. et al., 2001 J. Biol. Chem. 276:6591-6604 参照)。
【0081】
さらに別の実施態様では、抗体のグリコシル化を修飾する。例えば、アグリコシル化抗体が作製され得る(すなわち、抗体はグリコシル化を欠く)。グリコシル化は、例えば抗原に対する抗体の親和性を高めるように改変され得る。上記炭水化物修飾は、例えば、抗体配列内における1つまたは複数のグリコシル化部位を改変することにより達成され得る。例えば、1つまたは複数の可変領域フレームワークグリコシル化部位の排除をもたらす1つまたは複数のアミノ酸置換を行うことにより、その部位でのグリコシル化が排除され得る。上記アグリコシル化により、抗原に対する抗体の親和性が高められ得る。上記方法は、Co et al. による米国特許第5714350および6350861号でさらに詳細に報告されている。
【0082】
さらに、または別法として、改変されたグリコシル化タイプを有する抗体、例えばフコシル残基の量が縮小された低フコシル化抗体または高バイセクティングGlcNac構造を有する抗体が作製され得る。上記の改変されたグリコシル化パターンは、抗体のADCC能力を高めることが立証された。上記炭水化物修飾は、例えばグリコシル化機構が改変された宿主細胞で抗体を発現させることにより達成され得る。グリコシル化機構が改変された細胞は、文献で報告されており、本発明の組換え抗体を発現させることによりグリコシル化が改変された抗体を産生させる宿主細胞として使用され得る。例えば、Hang et al. による欧州特許第1176195号は、フコシルトランスフェラーゼをコード化する、機能的に破壊されたFUT8遺伝子を担持するセルラインに関するもので、結果的に上記セルラインで発現された抗体はフコシル化の低下を呈することを報告している。Presta によるPCT国際公開第03/035835号は、Asn(297)−結合炭水化物へのフコース結合能が低下した変異型CHOセルライン、Lec13細胞に関するもので、この場合も、結果として、その宿主細胞で発現された抗体が低フコシル化を呈することを報告している(また、Shields, R.L. et al., 2002 J. Biol. Chem. 277:26733-26740 も参照)。Umana et al. による国際公開第99/54342号は、糖タンパク質修飾グリコシルトランスフェラーゼ(例、ベータ(1,4)−NアセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII))を発現するように遺伝子操作されたセルラインに関するものであり、結果的に、遺伝子操作されたセルラインで発現された抗体はバイセクティングGlcNac構造の増大を呈するため、抗体のADCC活性が高くなることを報告している(また、Umana et al., 1999 Nat. Biotech. 17:176-180 参照)。
【0083】
本発明により想到される本発明抗体の別の修飾は、ペグ化である。抗体をペグ化すると、例えば、抗体の生物学的(例、血清)半減期を増加させることができる。抗体をペグ化するために、典型的には、抗体またはそのフラグメントを、1つまたは複数のポリエチレングリコール(PEG)部分が抗体または抗体フラグメントに結合される条件下で、PEG、例えばPEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体と反応させる。ペグ化は、反応性PEG分子(または類似反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応により実施され得る。本明細書で使用されている「ポリエチレングリコール」の語は、モノ(C1−C10)アルコキシ−またはアリールオキシ−ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール−マレイミドなど、他のタンパク質の誘導体化に使用されてきたPEGのあらゆる形態を包含するものとする。ある種の実施態様では、ペグ化される抗体はアグリコシル化抗体である。タンパク質のペグ化方法は当業界では公知であり、本発明抗体にも適用され得る。例えば、Nishimura et al.による欧州特許第0154316号およびIshikawa et al.による欧州特許第0401384号参照。
【0084】
さらに、ペグ化は、非天然アミノ酸の導入により抗体のいずれかの部分で達成され得る。ある種の非天然アミノ酸は、Deiters et al., J Am Chem Soc 125:11782-11783, 2003; Wang および Schultz, Science 301:964-967, 2003; Wang et al., Science 292:498-500, 2001; Zhang et al., Science 303:371-373, 2004 または米国特許第7083970号に記載された技術により導入され得る。簡単に述べると、これらの発現系の中には、位置指定突然変異導入により、本発明ポリペプチドをコード化する読み枠へアンバーTAG等のナンセンスコドンを導入するものがある。次いで、上記発現ベクターを、導入されたナンセンスコドンに特異的なtRNAを利用し得る宿主に導入し、選択された非天然アミノ酸を負荷する。本発明ポリペプチドに該当部分をコンジュゲートする目的に有益な特定非天然アミノ酸は、アセチレンおよびアジド側鎖を伴うものである。次いで、これらの新規アミノ酸を含むポリペプチドは、タンパク質におけるこれらの選択された部位でペグ化され得る。
【0085】
抗体の遺伝子操作方法
抗体に修飾を加えて、すなわち完全長重鎖および/または軽鎖配列、Vおよび/またはV配列、またはそこに結合した定常領域(複数も可)を修飾することにより新たな抗体が作製され得る。例えば、抗体の1つまたは複数のCDR領域を、遺伝子組換え操作で既知フレームワーク領域および/または他のCDRと組み合わせることにより、新たな遺伝子組換え抗体を作製することができる。遺伝子操作方法についての出発材料は、1つまたは複数のVおよび/またはV配列、または1つまたは複数のそのCDR領域である。遺伝子組換え抗体を作製するために、1つまたは複数のVおよび/またはV配列、またはその1つまたは複数のCDR領域を有する抗体を実際に製造する(すなわち、タンパク質として発現させる)必要はない。むしろ、配列(複数も可)に含まれる情報を出発材料として使用することにより、元の配列(複数も可)から誘導される「第2世代」配列(複数も可)を作製し、次いで「第2世代」配列(複数も可)を調製し、タンパク質として発現させる。
【0086】
標準分子生物学技術を用いることにより、改変された抗体配列を調製および発現させることができる。改変された抗体配列(複数も可)によりコード化される抗体は、それが誘導される所望の機能的特性の一つ、幾つかまたは全部を保持しているものである。改変された抗体の機能的特性は、当業界で利用可能および/または本明細書記載の標準検定法(例、ELISA)により評価され得る。
【0087】
本発明抗体の遺伝子操作方法のある種の実施態様では、突然変異が抗体コーディング配列の全部または一部に沿って無作為または選択的に導入され得る。例えば、Short によるPCT国際公開第02/092780号は、飽和突然変異誘発、合成的ライゲーションアセンブリまたはその組み合わせを用いた抗体突然変異の誘発およびスクリーニング方法について記載している。別法として、Lazar et al. による国際公開第03/074679号は、コンピュータースクリーニング方法の使用により抗体の物理化学特性を最適化する方法について報告している。
【0088】
非抗体結合分子
さらに本発明は、抗体の機能的特性を呈するが、それらのフレームワークおよび抗原結合部分が他のポリペプチド(例、抗体遺伝子によりコード化されるかまたは抗体遺伝子のインビボ組換えにより作製されたもの以外のポリペプチド)から誘導されている結合分子を提供する。これらの結合分子の抗原結合ドメインは、定向進化過程を通して生成される。米国特許第7115396号参照。抗体の可変ドメインの場合と類似した全体的折りたたみ(「免疫グロブリン様」折りたたみ)を有する分子は、適切なスカホールドタンパク質である。抗原結合分子の誘導に適切なスカホールドタンパク質には、フィブロネクチンまたはフィブロネクチン二量体、テナシン、N−カドヘリン、E−カドヘリン、ICAM、チチン、GCSF−受容体、サイトカイン受容体、グリコシダーゼ阻害剤、抗生物質色素タンパク質、ミエリン膜接着分子P0、CD8、CD4、CD2、IクラスMHC、T細胞抗原受容体、CD1、CD2およびVCAM−1のI−セットドメイン、ミオシン結合タンパク質CのI−セット免疫グロブリンドメイン、ミオシン結合タンパク質HのI−セット免疫グロブリンドメイン、テロキンのI−セット免疫グロブリンドメイン、NCAM、トウィッチン、ニューログリアン、成長ホルモン受容体、エリスロポイエチン受容体、プロラクチン受容体、インターフェロン−ガンマ受容体、β−ガラクトシダーゼ/グルクロニダーゼ、β−グルクロニダーゼ、トランスグルタミナーゼ、T細胞抗原受容体、スーパーオキシドジスムターゼ、組織因子ドメイン、シトクロムF、緑色蛍光タンパク質、GroELおよびソーマチンがある。
【0089】
非抗体結合分子の抗原結合ドメイン(例、免疫グロブリン様折りたたみ)は、10kD未満または7.5kDを超える分子量(例、7.5〜10kDの分子量)を有し得る。抗原結合ドメインの誘導に使用されるタンパク質は、天然に存する哺乳類タンパク質(例、ヒトタンパク質)であり、抗原結合ドメインは、それが由来するタンパク質の免疫グロブリン様折りたたみと比較した場合50%以下(例、34%以下、25%、20%または15%)の割合で突然変異アミノ酸を含む。免疫グロブリン様折りたたみを有するドメインは、一般的に50〜150アミノ酸(例、40〜60アミノ酸)から成る。
【0090】
非抗体結合分子を生成するため、抗原結合表面を形成するスカホールドタンパク質の領域(例、抗体可変ドメイン免疫グロブリン折りたたみのCDRと位置および構造が類似した領域)における配列がランダム化されているクローンのライブラリーを作製する。ライブラリークローンを、興味の対象である抗原への特異的結合性および他の機能について試験する。選択されたクローンをさらなるランダム化および選択についての基礎として用いることにより、抗原に対する親和性がさらに高い誘導体を製造することができる。
【0091】
例えば、スカホールドとしてフィブロネクチンIIIの第10モジュール(10Fn3)を用いることにより、高親和性結合分子が生成される。残基23〜29、52〜55および78〜87にある10FN3の3つのCDR様ループのそれぞれについてライブラリーを構築する。各ライブラリーを構築するため、各CDR様領域と部分的に重複する配列をコード化するDNAセグメントをオリゴヌクレオチド合成によりランダム化する。選択可能な10Fn3ライブラリーの作製技術は、米国特許第6818418および7115396号; Roberts および Szostak, 1997 Proc. Natl. Acad. Sci USA 94:12297; 米国特許第6261804号; 米国特許第6258558号; および Szostak et al. 国際公開第98/31700号に記載されている。
【0092】
非抗体結合分子を二量体または多量体として製造することにより、標的抗原についての結合活性を高めることができる。例えば、抗原結合ドメインは、Fc−Fc二量体を形成する抗体の定常領域(Fc)との融合体として発現される。例えば、米国特許第7115396号参照。
【0093】
RNA干渉
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的一次転写物(プロセッシングされていない転写物)またはmRNAの全部または一部と相補的なポリヌクレオチドであり、標的遺伝子の発現を遮断する(米国特許第5107065号、国際公開第9928508号)。アンチセンスオリゴヌクレオチドの相補性は、特異的遺伝子転写物のいずれかの部分、例えば5´非コーディング配列、3´非コーディング配列、またはコーディング配列によるものであり得る。
【0094】
siRNAは、短い干渉性RNAを指し、二重らせんにおけるRNA鎖のどちらかと相同的なmRNA配列を分解するように作用し、細胞、例えば哺乳類細胞(ヒト細胞を含む)および身体、例えば哺乳類の身体(人体を含む)において特異的遺伝子の転写後サイレンシングを誘発し得る。siRNA分子は、細胞または哺乳類における標的遺伝子(例、hGALNT2)発現の阻害に使用され得て、その場合siRNAは、標的遺伝子の発現で形成されたmRNAの少なくとも一部と相補的である領域を含むものとする。RNA干渉現象は当業界では周知である(Bass, Nature, 411:428-29, 2001; Elbahir et al., Nature, 411:494- 98, 2001; Fire et al., Nature, 391:806-11, 1998; および国際公開第01/75164号)。本明細書で開示された遺伝子産物をコード化する配列および核酸に基づいたsiRNAは、典型的には100未満の塩基対を有し、例えば約30pbまたはそれより短いものであり得て、相補性DNA鎖の使用または合成的方法を含む、当業界で周知の方法により作製され得る。siRNAは、干渉を誘発し得て、細胞、例えば哺乳類細胞(ヒト細胞を含む)および身体、例えば哺乳類の身体(人体を含む)における特異的遺伝子の転写後サイレンシングを誘発し得る。本発明による典型的siRNAは、29bp以下、25bp、22bp、21bp、20bp、15bp、10bp、5bpまたはその前後またはその間の整数値の塩基対を有し得る。最適な阻害性siRNAを設計するための道具としては、DNAengine Inc.(シアトル、ワシントン)およびAmbion, Inc.(オースチン、テキサス)から入手できるものが挙げられる。
【0095】
また、2本鎖リボ核酸(dsRNA)分子も細胞または哺乳類における標的遺伝子(例、hGALNT2)の発現阻害に使用され得て、その場合dsRNAは、標的遺伝子の発現で形成されるmRNAの少なくとも一部分と相補的である相補性領域を含むアンチセンス鎖を含み、相補性領域は30未満のヌクレオチド長、一般的には19〜24ヌクレオチド長であり、dsRNAは、標的遺伝子を発現する細胞と接触したとき、標的遺伝子の発現を少なくとも10%、25%または40%阻害するものとする。
【0096】
dsRNAは、ハイブリダイゼーションして二重らせん構造を形成するのに十分な程度相補的である2本のRNA鎖から成る。これら2鎖が、適切な条件下で組合わされたとき、ハイブリダイゼーションし、二重らせん構造を形成するように、dsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)は、標的遺伝子の発現中に形成されるmRNAの配列から誘導された、標的配列と実質的に相補的、さらに一般的には完全に相補的である相補性領域を含み、他方の鎖(センス鎖)はアンチセンス鎖と相補的である領域を含むものとする。一般的に、二重らせん構造は、長さが15ないし30、さらに一般的には18ないし25、さらに一般的には19ないし24、そして最も一般的には19ないし21塩基対である。同様に、標的配列との相補性領域は、15ないし30、さらに一般的には18ないし25、さらに一般的には19ないし24、そして最も一般的には19ないし21ヌクレオチド長である。本発明のdsRNAは、さらに1つまたはそれより多い1本鎖ヌクレオチドオーバーハング(複数も可)を含み得る。dsRNAは、自動式DNA合成装置、例えばBiosearch, Applied Biosystems, Inc.から市販されている装置の使用による当業界で周知の標準方法により合成され得る。
【0097】
当業者であれば、20ないし23、特に21塩基対の二重らせん構造を含むdsRNAが、RNA干渉を誘導する上で特に有効であると認められていることを熟知しているはずである(Elbashir et al., EMBO 2001, 20:6877-6888)。
【0098】
さらに別の実施態様では、安定性を高めるためにdsRNAを化学的に修飾する。本発明の核酸は、当業界で十分に確立された方法、例えばCurrent Protocols in Nucleic Acid Chemistry, Beaucage, S.L. et al. (編), John Wiley & Sons, Inc.(ニューヨーク、ニューヨーク、米国)に記載された方法により合成および/または修飾され得て、これについては、出典明示で援用する。化学的修飾としては、限定されるわけではないが、2´修飾、オリゴヌクレオチドの糖または塩基の他の部位での修飾、オリゴヌクレオチド鎖への非天然塩基の導入、リガンドまたは化学的部分への共有結合、およびチオリン酸基などの代替的結合によるヌクレオチド間リン酸結合の置換が挙げられる。複数の上記修飾が使用され得る。
【0099】
2本の別々のdsRNA鎖の化学的結合は、様々な公知技術のいずれかにより、例えば、共有結合、イオン結合または水素結合の導入、疎水性相互作用、ファンデルワールスまたはスタッキング相互作用、金属イオン配位手段またはプリン類似体の使用により達成され得る。一般的に、dsRNAの修飾に使用され得る化学基には、制限は無いが、メチレンブルー、二官能基、一般的にビス−(2−クロロエチル)アミン、N−アセチル−N´−(p−グリオキシルベンゾイル)シスタミン、4−チオウラシルおよびソラレンがある。一例では、リンカーは、ヘキサ−エチレングリコールリンカーである。この場合、dsRNAを固相合成により製造し、ヘキサ−エチレングリコールリンカーを標準的方法に従って組み込む(例、Williams, D.J.,および K.B. Hall, Biochem. (1996) 35:14665-14670)。一実施態様では、アンチセンス鎖の5´−末端およびセンス鎖の3´−末端をヘキサエチレングリコールリンカーにより化学的に結合する。別の実施態様では、dsRNAの少なくとも1個のヌクレオチドは、ホスホロチオエートまたはホスホロジチオエート基を含む。dsRNAの末端における化学結合は、一般的に三重らせん結合により形成される。
【0100】
さらに別の実施態様において、2本の単鎖のうちの一方または両方にあるヌクレオチドを修飾することにより、細胞性酵素、例えば、制限はないが、ある種のヌクレアーゼ類の分解活性が阻止または阻害され得る。核酸に対する細胞性酵素の分解活性の阻害技術は、当業界では公知であり、例えば、限定されるわけではないが、2´−アミノ修飾、2´−アミノ糖修飾、2´−F糖修飾、2´−F修飾、2´−アルキル糖修飾、非荷電バックボーン修飾、モルホリノ修飾、2´−O−メチル修飾およびホスホルアミデートがある(例、Wagner, Nat. Med. (1995) 1:1116-8参照)。すなわち、dsRNAにおけるヌクレオチドの少なくとも1個の2´−ヒドロキシル基を、化学基、一般的には2´−アミノまたは2´−メチル基により置換する。また、少なくとも1個のヌクレオチドを修飾することにより、ロックトヌクレオチドを形成させ得る。上記のロックトヌクレオチドは、リボースの2´−酸素をリボースの4´−炭素と結合するメチレン架橋を含む。ロックトヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドは、Koshkin, A.A., et al., Tetrahedron Lett 1998), 54: 3607-3630) および Obika, S. et al., Tetrahedron Lett. (1998), 39: 5401-5404で報告されている。オリゴヌクレオチドへのロックトヌクレオチドの導入により、相補的配列についての親和性が改善され、融解温度が数度高くなる(Braasch, D.A. およびD.R. Corey, Chem. Biol. (2001), 8:1-7)。
【0101】
バイオマーカーとしてのGALNT2の使用
一態様において、発現差があるマウスまたはヒトGALNT2遺伝子の発現レベルを、正常およびCAD細胞および/または組織で測定する。一実施態様において、遺伝子(複数も可)の発現レベルの測定方法は、任意の効果的な順序で以下の段階の1つまたはそれ以上、例えばポリヌクレオチドプローブと生物試料を、上記プローブが上記試料中のマウスまたはヒトGALNT2核酸分子と特異的にハイブリダイゼーションするのに有効な条件下で接触させ、上記試料中におけるマウスまたはヒトGALNT2マーカー遺伝子核酸の存在または非存在を検出する段階を含み得る。また、明確で関連性のある多形を含む特異的対立遺伝子も検出される。
【0102】
一実施態様では、正常およびCAD細胞および/または組織の両方から得られた試料にプローブを適用し、マウスまたはヒトGALNT2核酸分子の存在を当業界で周知の方法により検出する。例えば、マーカー遺伝子の存在の検出方法は、有効な方法、例えばノーザン・ブロット分析、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素PCR、RACE PCR、in situ ハイブリダイゼーションなどにより実施され得る。
【0103】
別の実施態様では、正常およびCAD細胞および/または組織の両方から得られた試料にプローブを適用し、マウスまたはヒトGALNT2核酸の量を当業界で周知の方法により検出する。上記方法は、例えばプローブと接触させ、ハイブリダイゼーションさせ、ハイブリダイゼーションしたプローブを検出する段階を含むが、さらに定量的な方法および/または標準との比較を使用し得る。プローブと標的間のハイブリダイゼーションの量は、適切な方法、例えばPCR、RT−PCR、RACE PCR、ノーザン・ブロット、ポリヌクレオチドマイクロアレイ、高速スキャン(Rapid-Scan)などにより測定され得て、定量的および定性的測定結果の両方を含む。
【0104】
別の実施態様では、マウスまたはヒトGALNT2特異的抗体を用いて、当業界で公知の方法により生物試料中におけるマウスまたはヒトGALNT2またはそのフラグメント(複数も可)の存在を検出し得る。この方法には、少し例を挙げると、免疫検定法、例えばウエスタン・ブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合イムノソルベント検定法)、「サンドイッチ」免疫検定法、免疫沈降検定法、沈殿反応、ゲル内拡散沈降素反応、免疫拡散検定法、凝集検定法、補体固定化検定法、免疫放射線検定法、蛍光免疫検定法、プロテインA免疫検定法等の技術を用いる競合的および非競合的検定法系が含まれ得る。上記検定法は当業界では公知である(Ausubel et al.編、1994, Current Protocols in Molecular Biology, 第1巻 1, John Wiley & Sons, Inc.、ニューヨーク、これについては出典明示で援用する)。さらにまた、本発明で有用な免疫検定法としては、ホモジニアスおよびヘテロジニアスの両方法、例えば蛍光偏光免疫検定法(FPIA)、蛍光免疫検定法(FIA)、酵素免疫検定法(EIA)およびネフロメトリー阻害免疫検定法(NIA)などの方法が挙げられる。
【0105】
別の実施態様では、生物試料中におけるマウスまたはヒトGALNT2ポリペプチドのレベルが、マウスまたはヒトGALNT2の発現レベルのモニター手段として測定され得る。かかる方法は、例えば、生物試料を入手し、マウスまたはヒトGALNT2ポリペプチドまたはその適切なエピトープに特異的な抗体と試料を接触させ、抗体との免疫複合体形成の量を測定する段階を含み、免疫複合体形成の量がマウスまたはヒトGALNT2ポリペプチドのレベルの指標となる。CADに罹患した対象から入手した生物試料中におけるGALNTポリペプチドレベルを、正常対象から採取した生物試料中、または同一対象から予め、または後続的に入手した1つまたは複数の試料中のGALNTレベルと比較するとき、この測定法は有益である。
【0106】
また、GALNTポリペプチドの量の測定結果は、CADの進行と相関関係を示し得る。GALNTポリペプチドレベルは、これらのペプチドを含む生物試料がCAD罹患の傾向を示すか否かを評価するために予測的に使用され得るか、または特定治療計画を立てるのに使用され得る。
【0107】
診断的検定法
正常対象と比べた場合のCAD罹患対象における適切な、例えばリポタンパク質モジュレーション性GALNT、例えばマウスまたはヒトGALNT2の発現レベルの検出可能な増加または減少の測定は、病気の状態および/または治療にとって有益となる応答の診断またはモニター手段を提供する。したがって、本発明は、CADまたはアテローム性動脈硬化症の検出方法、または別法として、対象においてCADまたはアテローム性動脈硬化症を発症する危険が増しているか否かの測定方法を提供する。
【0108】
臨床適用では、適切なGALNTコード化核酸および/またはGALNTポリペプチドの存在および/または非存在についてヒト組織試料をスクリーニングにかけ得る。上記試料は、例えば穿刺生検コア、外科的切除標本、リンパ節組織、血漿または血清を含む、組織試料、全細胞、細胞ライゼート、または単離核酸を含み得る。ある種の実施態様では、これらの試料から抽出された核酸は、当業界で公知の技術を用いて増幅され得る。検出されたGALNTおよび/または血漿総および/またはHDL−Cのレベルを、正常組織試料の場合と比較する。
【0109】
一実施態様における診断方法では、適切な、例えばリポタンパク質モジュレーション性GALNT、例えばマウスまたはヒトGALNT2のmRNA、cDNAまたはポリペプチドレベルを検出することにより、対象におけるCAD罹患についての危険性が増しているか否かを測定する。健康な正常対象の場合と比較した対象におけるGALNTの発現レベルの有意な変化が、CADまたはCADに対する易罹患性の指標である。好ましくは、変化は、少なくとも約10%、約20%、約25%、約30%、好ましくは少なくとも約40%、約50%、さらに好ましくは少なくとも約60%、約70%または約90%、約100%、約150%または約200%またはそれを超える%である。
【0110】
別法として、診断方法は、抗体を用いてGALNTポリペプチドまたはその機能性フラグメントを検出することにより実施され得る。一実施態様において、本方法は、対象からの生物試料中における適切なGALNTポリペプチド分子のレベルと、ポリペプチド分子の対照レベルとの比較を含み、その場合、GALNTポリペプチドレベルの有意な変化が対象におけるCADの指標となる。「有意な変化」の語は、健康な正常対象由来の生物試料の場合との比較におけるポリペプチドまたはその機能性フラグメントの量の少なくとも約10%、約20%、約25%、約30%、好ましくは少なくとも約40%、約50%、さらに好ましくは少なくとも約60%、約70%または約90%、約100%、約150%または約200%またはそれを超える変化をいう。
【0111】
冠動脈疾患の予後、病期分類およびモニター
一態様において、本発明は、適切な、例えばリポタンパク質モジュレーション性GALNT、例えばマウスまたはヒトGALNT2核酸、ポリペプチドおよび/またはその機能性フラグメントの発現レベルの検査に基づいたCADの開始、予後および病期の決定方法を提供する。本明細書で使用されている予後とは、疾患の考えられる経過および結果の予測をいう。
【0112】
一般に、CADの予後または病期分類に使用される方法では、興味の対象である試料中における適切なGALNTの量を対照試料のそれと比較することにより、GALNT発現レベルの相対的差異を検出する。この差異は、定性的および/または定量的に測定され得る。対照試料は、無CADまたは正常試料、または進行していないことが判明している試料、または進行していることが判明している試料であり得る。
【0113】
本明細書で使用されているCAD病期分類とは、CADが発生し、症状を誘発している事象の進行度をいう。さらに、病期分類は、CADの病状が患者においていかなる形で進行しているかを述べるのに使用されるプロセスである。本発明方法は、CADの病期分類を検定するのに有用である。病期分類は、対照標準レベルに対して適切なGALNTの発現レベルを測定することにより達成され得る。対照標準レベルは、無CADの健康な状態の試料、または病気の展開における異なる病期のCAD試料からのものであり得る。
【0114】
さらに本発明は、適切なGALNT核酸またはポリペプチドまたはその機能性フラグメントの発現レベルを経時的に測定することによる、対象におけるCADの進行または再発のモニター方法を提供する。
【0115】
一実施態様において、本方法は、a)最初の時点で対象における適切なGALNT核酸分子の発現レベルを測定し、b)後の時点で対象におけるGALNT核酸の発現を測定し、c)最初の時点での発現レベルを後の時点でのそれと比較することを含み、その場合の発現レベルの有意な変化を、CADの開始、進行または退縮の指標とする。
【0116】
別の実施態様では、本方法は、a)最初の時点で対象におけるGALNTポリペプチド分子の発現レベルを測定し、b)後の時点で対象におけるGALNTポリペプチドの発現を測定し、c)最初の時点での発現レベルを後の時点でのそれと比較することを含み、その場合の発現レベルの有意な変化を、CADの開始、進行または退縮の指標とする。
【0117】
初期の時点に対する後の時点でのGALNT核酸またはポリペプチドまたはその機能性フラグメントの発現レベルの増加は、病気がより深刻な段階に進行していることを示す。対照的に、後の時点での発現レベルの低下は、病気が深刻度の低い段階に移行していることを示す。
【0118】
治療および治療化合物の効力
別の態様において、本発明はまた、CADに関する伝統的および非伝統的処置および治療の両方が奏功していると思われる患者の評価および/またはモニターを可能にする方法を提供する。本発明の利点は、利用可能な治療の一つまたは幾つかが奏功し得る患者を経時的にモニター、スクリーニングすることにより、患者が処置(複数も可)によりいかなる経過をたどっているか、処置の変更、改変または中止が正当化されるか否か、または患者の病状または病期が進行したか否かを決定できることである。
【0119】
本発明による特定治療について正しい患者を同定することにより、処置の効力を高めることができ、治療の不必要で生命を脅かす副作用に患者をさらすことを回避できる。本発明方法を用いて1クールの治療を受けている患者をモニターできれば、患者が経時的に治療に対し適正に応答しているか否かを測定でき、投薬または用量または送達方法を改変または調節するべきか否かを決定し、患者が治療中に快方に向かっているか、回帰しているか、またはより深刻または進行した病期に突入しているか否かを確認できる。
【0120】
本発明によるモニター方法は、患者の体液試料をある一定期間、例えば処置または治療過程中、または患者の病気の経過中に試験または分析することにより、CADまたはアテローム性動脈硬化症に罹患した患者の系列的または連続的な試験または分析結果を反映させる。例えば、系列試験では、同一患者が体液試料、例えば血清または血漿を提供するか、または本発明方法に従って、処置過程中、および/または病気の経過中にGALNTレベルを測定することにより、患者における適切なGALNT核酸またはポリペプチドまたはその機能性フラグメントの発現レベルを観察、チェックまたは検査する目的で同一患者から試料を採取する。
【0121】
同様に、彼または彼女の病気の状態および/または彼または彼女が受けている処置または治療に対する効力、反応および応答を測定する目的で生物試料におけるGALNTレベルを評価するために患者を経時的スクリーニングにかけ得る。1つまたは複数の生物試料を、処置または治療過程以前に、または処置または治療の開始時点で患者から最適な形で採取することにより、患者が処置を受け、臨床および医学的評価を受けている期間中における1または複数の後の時点での患者の進行および/または応答の分析および評価を補足するのが望ましい。
【0122】
レベルは、何日か、何週間か、何か月か、何年かのある一定期間にわって、またはその様々な間隔でモニターされ得る。患者の体液試料、例えば血清または血漿試料を、医師または臨床研究者などの専門家が定めた間隔で集めて、処置または病気の経過に即して患者におけるGALNT、HDLを含む血漿リポタンパク質レベルを測定し、正常個体でのレベルと比較する。例えば、本発明に従って、患者試料を毎月、2か月ごとまたは1、2または3か月間隔の組み合わせで採取およびモニターし得る。年4回またはそれより頻繁な患者試料のモニターが賢明である。患者で見いだされるレベルを、正常個体でのレベル、以前の検査期間から得られた患者自身のレベルと比較することにより、処置または病期の進行または結果を測定する。
【0123】
適切なGALNTレベルの経時的な低下は、血漿HDL−Cの増加を示すもので、処置の進行または効力、および/または病気の改善、寛解などの指標となる。
【0124】
キット
本発明はまた、生物試料中の適切なGALNTの発現レベル(核酸またはポリペプチドレベル)の検出に必要な試薬を含むキットを提供する。試薬は、上記の特異的プローブ/プライマーおよび抗体を含み得る。またキットは、正常な状態および病気の様々な臨床的進行段階を示す対照/標準値または一連の対照/標準値を含み得る。好ましい実施態様では、対照/標準値または一連の対照/標準値は、正常な状態およびCADの様々な臨床的進行段階を示す。さらに、キットは、試験試料と比較するための陽性対照および/または陰性対照を含み得る。陰性対照は、GALNT核酸またはポリペプチドを持たない試料を含み得る。陽性対照は、様々な既知レベルの適切なGALNT核酸またはポリペプチドを有する試料を含み得る。またキットは、検定を実施し、結果を解釈するための使用説明書を含み得る。抗体に基づくキットの場合、キットは、例えば(1)GALNTポリペプチドまたはその機能性フラグメントに結合する第1抗体(例、固体支持体に結合されている)および所望により(2)GALNTポリペプチド、そのエピトープまたは第1抗体に結合し、検出可能な標識にコンジュゲートされた第2の異なる抗体を含み得る。オリゴヌクレオチドに基づくキットの場合、キットは、例えば、(1)適切なGALNT核酸配列とハイブリダイゼーションするオリゴヌクレオチド、例えば、検出可能な形で標識されたオリゴヌクレオチドまたは(2)GALNT核酸分子の増幅に有用な一対のプライマーを含み得る。またキットは、例えば緩衝剤、保存剤またはタンパク質安定剤を含み得る。さらにキットは、検出可能な標識(例、酵素または基質)の検出に必要な成分を含み得る。キットはまた、検定にかけられ、試験試料と比較され得る対照試料または一連の対照試料を含み得る。キットの各成分は、個別容器内に封入され得て、様々な容器は全て、キットを用いて実施した検定の結果を解釈するための使用説明書と一緒に単一パッケージ内に収められ得る。
【0125】
上記キットは、対照がCADまたはアテローム性動脈硬化症に罹患しているかまたはその発症の危険が増しているか否かを決定するのに使用され得る。さらに、上記キットは、CADまたはアテローム性動脈硬化症の予後を測定し、病期分類し、またはその進行をモニターするのに使用され得る。さらに、上記キットは、薬剤スクリーニングまたはCADまたはアテローム性動脈硬化症についての処置の選択に使用され得る。
【0126】
医薬組成物
別の態様において、本発明は、医薬上許容される担体と一緒に処方された、本発明のHDLモジュレーション剤(例、モノクローナル抗体または抗原結合部分(複数も可)、アンチセンス、siRNA、低分子量分子)の1つまたはその組み合わせを含む組成物、例えば医薬組成物を提供する。上記組成物は、結合分子の一つまたはその(例、2種またはそれより多い異なる結合分子の)組み合わせを含み得る。例えば、本発明医薬組成物は、標的抗原上の異なるエピトープに結合するか、または相補的活性を有する抗体または薬剤の組み合わせを含み得る。
【0127】
本発明医薬組成物はまた、併用療法、すなわち、他の薬剤と組み合わせて投与され得る。例えば、併用療法は、HDLモジュレーション剤を少なくとも1種の他のコレステロール低下剤と組み合わせた形で含み得る。併用療法で使用され得る治療剤の例は、下記の本発明薬剤の使用に関する項でさらに詳しく記載されている。
【0128】
本明細書で使用されている「医薬上許容される担体」は、生理学的に適合し得る溶媒、分散媒質、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを全て包含する。担体は、当然、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮投与(例、注射または注入による)に適したものである。投与経路により、活性化合物は、化合物を酸の作用および不活化し得る他の自然条件から化合物を保護する物質でコーティングされ得る。
【0129】
本発明医薬組成物は、1種またはそれより多い医薬上許容される塩を含み得る。「医薬上許容される塩」は、親化合物の所望の生物活性を保持しており、望ましくない毒物学的作用をもたらすことのない塩をいう(例、Berge, S.M., et al., 1977 J. Pharm. Sci. 66:1-19参照)。上記塩類の例には、酸付加塩および塩基付加塩がある。酸付加塩には、非毒性無機酸、例えば塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸など、並びに非毒性有機酸、例えば脂肪族モノ−およびジ−カルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などから誘導されるものがある。塩基酸付加塩には、アルカリ土類金属等、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど、並びに非毒性有機アミン類、例えばN,N´−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどから誘導されるものがある。
【0130】
本発明医薬組成物はまた、医薬上許容される酸化防止剤を含み得る。医薬上許容される酸化防止剤の例としては、水溶性酸化防止剤、例えばアスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど、油溶性酸化防止剤、例えばアスコルビルパルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ−トコフェロールなど、および金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などがある。
【0131】
本発明医薬組成物で使用され得る適切な水性および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール類(例えばグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)およびその適切な混合物、植物油、例えばオリーブ油、および注射可能有機エステル類、例えばエチルオレエートがある。適正な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材の使用により、分散液の場合に要求される粒子サイズの維持により、そして界面活性剤の使用により維持され得る。
【0132】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などの補助剤を含み得る。微生物の存在の阻止は、滅菌処理、および様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの含有の両方により確実に達成され得る。また、組成物中へ等張剤、例えば糖類、塩化ナトリウムなどを含有させることが望ましい場合もあり得る。さらに、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収遅延剤を含ませることにより、注射可能医薬形態の吸収を延長することも可能である。
【0133】
医薬上許容される担体は、無菌水溶液または分散液および無菌注射可能溶液または分散液をその場で調製するための無菌粉末を含む。医薬活性物質についての上記媒質および薬剤の使用は当業界では公知である。慣用的媒質または薬剤が活性化合物と適合し得ない場合を除き、本発明医薬組成物でのその使用も考慮に入れられる。補足的活性化合物もまた組成物中に混合され得る。
【0134】
治療組成物は、典型的には製造および貯蔵条件下で無菌かつ安定していなくてはならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または高い薬剤濃度に適した他の整った構造として製剤化され得る。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール類(例えば、グリセリン、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびその適切な混合物を含む溶媒または分散媒質であり得る。適正な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材の使用により、分散液の場合に要求される粒子サイズの維持により、そして界面活性剤の使用により維持され得る。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば糖類、ポリアルコール類、例えばマンニトール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムを含ませ得る。例えばモノステアリン酸塩類およびゼラチンなどの吸収遅延剤を組成物に含ませることにより、注射可能組成物の吸収を延長することも可能である。
【0135】
無菌注射可能溶液は、適切な溶媒中の必要量の活性化合物を上記で列挙した成分の一つまたはその組み合わせと混合し、次いで、必要に応じて滅菌精密ろ過することにより調製され得る。一般的に、塩基性分散媒質および上記で列挙したものから選択される他の必要成分を含む無菌賦形剤中へ活性化合物を混ぜ込むことにより、分散液を調製する。滅菌注射可能溶液調製用の無菌粉末の場合、製造方法は真空乾燥および冷凍乾燥(凍結乾燥)であり、有効成分と所望の追加成分を、その予め滅菌ろ過しておいた溶液から上記手段により粉末として得る。
【0136】
担体材料と組み合わされて単一用量形態を形成し得る有効成分の量は、処置されている対象および特定の投与方法により変動する。担体材料と組み合わされて単一用量形態を形成し得る有効成分の量は、一般に治療効果をもたらす組成物の量である。一般的に、100パーセントのうち、この量は、医薬上許容される担体との組み合わせにおいて約0.01パーセント〜約99パーセントの有効成分、約0.1パーセント〜約70パーセント、または約1パーセント〜約30パーセントの割合の有効成分となる。
【0137】
最適条件の所望の応答(例、治療応答)を引き出せるように投薬レジメンを調節する。例えば、単一ボーラスを投与することもあれば、時間をかけて幾つかの分割用量で投与することもあれば、治療状況の緊急性に応じて用量を適宜増減することもあり得る。投与を容易にし、投薬量を均一にするためには単位用量形態で非経口組成物を処方するのが、特に有利である。本明細書で使用されている単位用量形態は、処置される対象にとって単位用量として適切な物理的個別単位をいう。各単位は、必要とされる医薬用担体と配合して所望の治療効果を収めるように計算された予め定められた量の活性化合物を含む。本発明の単位用量形態に関する詳細は、活性化合物独特の特徴および達成すべき特定の治療効果、および個体における感受性に応じた処置に関する上記活性化合物の調合技術に内在する制限により必然的に決められ、直接左右される。
【0138】
HDLモジュレーション剤、例えば抗体の投与について、投薬量は、対象の体重に基づくと約0.0001〜100mg/kg、さらに通常は0.01〜5mg/kgの範囲である。例えば、投薬量は、体重に基づくと0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、5mg/kgまたは10mg/kgまたは1〜10mg/kgの範囲内である。具体例としての処置レジメンは、週1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、1か月に1回、3か月に1回または3〜6か月に1回の投与を必要とする。抗体に関する投薬レジメンは、静脈内投与による1mg/kg(体重)または3mg/kg(体重)を含み、以下の投薬スケジュールの一つを用いて抗体を投与する:6回投薬について4週間ごと、次いで3か月ごと;3週間ごと;3mg/kg(体重)1回、次いで3週間ごとに1mg/kg(体重)。
【0139】
方法によっては、結合特異性が異なる2種またはそれより多い結合分子(例、モノクローナル抗体)を同時に投与することがあり、その場合、投与される各抗体の用量は指示範囲内に含まれるものとする。HDLモジュレーション剤は、通常多頻度で投与される。投薬間隔は、例えば、毎週、毎月、3か月ごとまたは1年ごとであり得る。患者におけるHDLモジュレーション剤(例、抗体)の血液レベルの測定結果によっては、不定期的な間隔が指示されることもあり得る。若干の方法では、約1〜1000μg/mlおよび方法によっては約25〜300μg/mlの血漿抗体濃度を達成するように投薬量を調節する。
【0140】
別法として、HDLモジュレーション剤は持効型製剤として投与され得て、その場合投与頻度は少なくて済む。投薬量および頻度は、患者におけるHDLモジュレーション剤の半減期により変動する。例えば抗体の場合、ヒト抗体が最長の半減期を示し、次いでヒト化抗体、キメラ抗体および非ヒト抗体と続く。投与の用量および頻度は、処置が予防的であるか治療的であるかにより異なり得る。予防的適用の場合、長期間にわたって比較的低用量を比較的低頻度間隔で投与する。患者によっては残りの生涯処置を受け続ける場合もある。治療的適用の場合、病気の進行が低下するかまたは終結するまで、または患者が病気の症状の部分的または完全な改善を示すまで比較的短い間隔で比較的高用量が要求されることもある。その後、患者は予防的投薬プログラムで投与され得る。
【0141】
本発明医薬組成物中における有効成分の実際の投薬レベルは、患者に毒性をもたらすことなく、特定患者、組成物および投与方式について所望の治療的応答を達成するのに有効な量の有効成分が得られるように変更され得る。選択される用量レベルは、使用される本発明の特定組成物、またはそのエステル、塩またはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用されている特定化合物の排泄速度、処置の持続期間、特定の使用組成物と併用される他の薬剤、化合物および/または物質、処置されている患者の年齢、性別、体重、病状、全般的健康状態および既往歴および医学界で周知の同様の因子を含む様々な薬物動態的因子により変化する。
【0142】
本発明HDLモジュレーション剤の「治療有効量」は、病状の重症度の減少(例、血漿コレステロールの減少またはコレステロール関連疾患の症状の減少)、疾患の無症状期間の頻度および持続時間の増加、または病気の苦痛に起因する欠陥または障害の阻止をもたらすものである。
【0143】
組成物は、当業界で公知の様々な方法の一つまたはそれ以上を用いる一つまたは複数の投与経路により投与され得る。当業者であれば、投与経路および/または方法が所望の結果により異なることは容易に理解できるはずである。HDLモジュレーション剤の投与経路としては、限定されるわけではないが、例えば注射または注入による、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄または他の非経口投与経路がある。本明細書で使用されている「非経口投与」という表現は、経腸および局所投与以外の通常注射による投与方式を意味し、限定ではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節腔内、被膜下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外および幹内(intrastemal)注射および注入を包含する。
【0144】
別法として、HDLモジュレーション剤は、非経口経路、例えば局所、表皮または粘膜投与経路により、例えば鼻腔内、経口、膣、直腸、舌下または局所的に投与され得る。
【0145】
活性化合物は、急速な放出から化合物を保護する担体を用いて、例えば移植体、経皮パッチおよびマイクロカプセル化送達系を含む放出制御型製剤として調製され得る。生物分解性の生体適合性ポリマー、例えば酢酸エチレンビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル類およびポリ酪酸が使用され得る。上記製剤の多くの製造方法は、特許を取得しているかまたは当業者には公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J.R. Robinson 編、Marcel Dekker, Inc., ニューヨーク(1978)参照。
【0146】
治療組成物は、当業界で周知の医療器具により投与され得る。例えば、一具体例において、本発明の治療組成物は、針の無い皮下注射器具、例えば米国特許第5399163、5383851、5312335、5064413、4941880、4790824または4596556号で示された器具により投与され得る。本発明で有用な公知の移植体およびモジュールの例としては、制御された速度で薬剤を分配する移植可能な微量注入ポンプを示す米国特許第4487603号、皮膚を通して薬剤を投与する治療器具を示す米国特許第4486194号、正確な注入速度で薬剤を送達する薬剤注入ポンプを示す米国特許第4447233号、連続的薬剤送達用の可変流動性で移植可能な注入装置を示す米国特許第4447224号、マルチチャンバー区画を有する浸透性薬剤送達システムを示す米国特許第4439196号、および浸透性薬剤送達システムを示す米国特許第4475196号が挙げられる。これらの特許については出典明示で援用する。多くの他の上記移植体、送達システムおよびモジュールは、当業者には周知である。
【0147】
ある種の実施態様において、本発明のHDLモジュレーション剤は、生体内での適正な分布を確保するように製剤化され得る。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの高親水性化合物を排除する。本発明治療化合物がBBBを(所望ならば)確実に越えるようにするため、それらを例えばリポソームで製剤化し得る。リポソームの製造方法については、例えば米国特許第4522811、5374548および5399331号を参照。リポソームは、特定の細胞または臓器へ選択的に輸送される1または複数の部分を含むため、ターゲッティングされた薬剤送達を促進させ得る(例、V.V. Ranade, 1989 J. Cline Pharmacol. 29:685参照)。ターゲッティング部分の例としては、葉酸塩またはビオチン(例、Low et al.、米国特許第5416016号参照)、マンノシド類(Umezawa et al., 1988 Biochem. Biophys. Res. Commun. 153:1038)、抗体(P.G. Bloeman et al., 1995 FEBS Lett. 357:140; M. Owais et al., 1995 Antimicrob. Agents Chernother. 39:180)、界面活性剤プロテインA受容体(Briscoe et al., 1995 Am. J. Physiol.1233:134)、p120(chreier et al., 1994 J. Biol. Chem. 269:9090)がある。また、K. Keinanen; M.L. Laukkanen, 1994 FEBS Lett. 346:123; J.J. Killion; I.J. Fidler, 1994 Immunomethods 4:273も参照。
【0148】
実施例
機能的HDLの血漿レベルが上昇すると、冠動脈疾患の危険性が減るということの強力な証拠がある(Gotto, A. et al., J. Am. Coll. Cardiol., 43:717-724, 2004)。以前には知られていなかった、血漿HDL−Cレベルの調節におけるヒトGALNT2の役割について本明細書では開示している。マウス遺伝学、ヒト遺伝学、マウス比較ゲノミクスおよびバイオインフォマティクス方法の組み合わせを用いることにより、GLANT2は、血漿HDL−Cレベルを調節する遺伝子として見出された。血漿リポタンパク質およびHDL−CのモジュレーションにおけるこのGALNTの役割は、これらのGALNTを阻害することで、CADまたはアテローム性動脈硬化症の処置に有用なものとされている薬剤についてのスクリーニングにおけるその有用性、並びに例えば、CAD、アテローム性動脈硬化症、またはCADまたはアテローム性動脈硬化症に対する易罹患性についての生物マーカーとしてのそれらの有用性を示している。
【0149】
量的形質遺伝子座(QTL)解析は、複雑な形質を調節する新規遺伝子を発見する手段である(Abiola O et al., 2003, Nature Rev Genet 4:911-916)。マウス罹患モデルで検出されたQTLにより、ヒト罹患QTLの遺伝子座を予測できることが多いことから、マウスモデルを用いた遺伝子解析はヒト疾患にとって重要な遺伝子を潜在的に同定できると考えられるため、QTL解析は生化学研究にとって特に重要である(Abiola O et al., 2003, Nature Rev Genet 4:911-916; Rollins J et al., 2006, Trends Cardiovasc Med 16:220-234; Chen et al., 2007, Cell Metab 6: 164-179)。
【0150】
血漿HDL−CレベルについてのQTLは、交雑B6xCASTおよびB6xCASAからのマウス遠位染色体(Chr)8で見出された(Rollins J et al., 2006, Trends Cardiovasc Med 16:220-234)。我々は、Pletcher et al., PLoS Biol. 2:e393 (2004)記載の方法に従って、マウス全ゲノム関連研究からGalnt2の多形がマウス集団(P=3.5×10−5)におけるHDL−Cレベルと関連していることを見出した。
【0151】
ハプロタイプ分析は、Galnt2が、上記2交雑種に基づいた候補遺伝子であることを示していた(表1)。染色体8におけるGalnt2遺伝子内のSPNの位置を、表1(表中、「bp」は塩基対である)で強調して示している。(C57BL/6J)B6およびCASTは、異なるハプロタイプを有し、CASAについてのGalnt2内におけるSNPデータは入手できない。しかしながら、マウス Phenome データベースによると、CASTおよびCASAは、この遺伝子の周囲領域に同じハプロタイプを有する。この証拠およびCASTおよびCASAの関連性(両系統とも、Jackson Laboratoryで捕獲された野生カスタネウス(Castaneus)マウスの同一群から同系交配された)に基づくと、CASAおよびB6ハプロタイプがGalnt2遺伝子内では異なることが想定され得る。したがって、Galnt2における対立遺伝子変異および改変されたHDLレベルとの関連性から、HDL代謝におけるこの遺伝子についてのある一定の役割が示唆される。この遺伝子の発現それ自体が、HDLレベルの低下により誘発されるCADに関するバイオマーカーとして有用である。
表1.異なるマウス系統間におけるハプロタイプ比較
【表1】

【0152】
B6およびCASTマウスに平常食餌または高脂肪食餌を与えた。10〜11週齢のマウスを血液試料の採取前に4時間絶食させた。血漿を新たな管に入れ、分析時まで−20℃で冷凍した。血漿試料を解凍し、収集される1週間以内に分析した。各血液試料からの血漿リポタンパク質濃度を、Synchron CX Delta System (Beckman Coulter)で製造業者の推奨に従って酵素試薬キット(650207番、Beckman Coulter)を用いて直接測定した。
【0153】
HDLレベルが異なる2系統のマウスにおいてGALNT2の発現を調べた。B6およびCAST間のGALNT2に関する倍率変化およびq値を表2に示す。示された倍率変化は、CASTと比較したB6におけるものである。データは、GALNT2が、高対立遺伝子系統であるB6ではダウンレギュレーションされていることを示す。すなわち、GALNT2発現は、HDLと相関関係をなし、0.3801のピアソン係数(p=0.019)を示す。この相関関係は、CASTと比較されたB6で見られる負の倍率変化を実証している。この関係に基づくと、GALNT2の阻害によりHDLは上昇すると予測される。すなわち、GALNT2の阻害を含む方法は、CADまたはアテローム性動脈硬化症の処置に使用され得る。
表2.肝臓におけるGalnt2遺伝子発現変化(B6対CAST)
【表2】

【0154】
さらに、ヒトでのHDLモジュレーションにおけるGALNT2の役割は、GALNT2における4つのSNPの多形(rs2144300, rs 17315646, rs4846914, およびrs10127775)がヒトでの血漿HDLレベルと関連していること(P=1.4x10-4 〜3.4x10-4)を示した Novartis-Broad 共同研究により立証されている。
【0155】
リアルタイム定量的PCRを用いて、マウスおよびヒト組織の両方においてGALNT2の遺伝子発現を調べた。図1に示すとおり、GALNT2は、ヒトでは肝臓、膵臓および筋肉で高度に発現され(図1A)、マウスでは膵臓および筋肉で高度に発現される(図1B)。発現レベルを、マウス組織におけるβ−アクチンmRNAおよびヒト組織における18s RNAに対して正規化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GALNT遺伝子によりコード化されたポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む単離抗体またはその機能性フラグメントであって、細胞上の表面受容体に結合し、HDL関連疾患の発症を阻止するかまたは改善する抗体またはその機能性フラグメントの使用。
【請求項2】
GALNT遺伝子がGALNT2遺伝子である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
請求項1〜2記載の抗体またはその機能性フラグメントの有効量を対象に投与することを含む、HDL関連疾患の処置方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の抗体またはその機能性フラグメントおよび医薬上許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項5】
処置を必要とする対象に請求項4記載の医薬組成物の有効量を投与することを含むHDL関連疾患の処置方法。
【請求項6】
HDL関連疾患処置用医薬を製造するための単離抗体またはその機能性フラグメントの使用であって、上記抗体またはその機能性フラグメントがGALNT遺伝子によりコード化されたポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含むものである、使用。
【請求項7】
GALNT遺伝子がGALNT2遺伝子である、請求項6記載の使用。
【請求項8】
請求項1記載の抗体またはその機能性フラグメントをコード化する遺伝子を担持するトランスジェニック動物。
【請求項9】
GALNTの発現および/または活性の阻害を含む、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置方法。
【請求項10】
GALNTがヒトGALNT2である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
カルボキシルエステラーゼの発現および/または活性の阻害段階が、さらに、カルボキシルエステラーゼ遺伝子によりコード化されたポリペプチドのエピトープに特異的な抗原結合領域を含む単離抗体またはその機能性フラグメントを用いて活性を阻害することを含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
抗原結合領域を含む単離抗体またはその機能性フラグメントが、細胞上の表面受容体に結合し、HDL関連疾患の発症を阻止または改善する、請求項12記載の方法。
【請求項13】
冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の指標であるヒトGALNT2遺伝子の対立遺伝子を検出することを含む、冠動脈疾患または冠動脈疾患に対する易罹患性の検出方法。
【請求項14】
冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置の効力の測定方法であって、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症を処置し、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置の効力が測定されるようにGALNTのレベルを対照標準と比較することを含む方法。
【請求項15】
GALNTがヒトGALNT2である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置に有用な薬剤の同定方法であって、GALNTの阻害により血漿HDL−Cレベルの増加が誘導されることに基づき、生物試料を候補薬剤と接触させ、候補薬剤との接触の前後に試料中のHDL−Cレベルを測定することを含み、HDL−Cの増加が、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置に有用な薬剤を示すものとする方法。
【請求項17】
冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置に有用な薬剤の同定方法であって、既知GALNT基質の存在下でGALNTを候補薬剤と接触させることを含み、GALNTのGALNT活性の減少により、冠動脈疾患またはアテローム性動脈硬化症の処置に有用な薬剤として候補薬剤を同定する方法。
【請求項18】
GALNTがマウスまたはヒトGALNT2である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
接触段階を培養細胞で実施する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
接触段階を生体内で実施する、請求項17記載の方法。
【請求項21】
GALNTが内因性または外因性である、請求項17記載の方法。
【請求項22】
対象においてHDL−Cレベルを上昇させるHDLモジュレーション剤の投与を含む、HDL関連疾患をモジュレーションする方法。
【請求項23】
HDL関連疾患が、アテローム性動脈硬化症、脂質障害、アルツハイマー病、過度の酸化ストレス、内皮機能不全、肥満、慢性腎疾患、2型糖尿病およびインスリン抵抗から成る群から選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
脂質障害が、高コレステロール、脂質異常症候群、高トリグリセリド、脂質異常症、異常リポタンパク血症、高脂血症、家族性高コレステロール血症および家族性高トリグリセリド血症から成る群から選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
薬剤が、ヒトGALNT2の活性を阻害するかまたはその発現を減少させる、請求項22記載の方法。
【請求項26】
HDLモジュレーション剤が、低分子量分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNAおよび抗体から成る群から選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
HDL関連疾患が、対象におけるHDL−Cレベルが許容された正常HDL−Cレベルより低い疾患である、請求項22記載の方法。
【請求項28】
HDL関連疾患が、対象におけるHDL−Cレベルが関連集団の正常HDL−Cレベルより低い疾患である、請求項22記載の方法。
【請求項29】
HDLモジュレーション剤が、医薬上許容される担体と共に投与される、請求項22記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−508730(P2011−508730A)
【公表日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538655(P2010−538655)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067636
【国際公開番号】WO2009/077531
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【出願人】(510168450)
【氏名又は名称原語表記】The Jackson Laboratory
【Fターム(参考)】