説明

UOEパイプの製造におけるサブマージアーク溶接方法およびそれを用いたUOEパイプの製造方法

【課題】パイプ全長にわたって均一な溶け込み状態とすることで、溶込不良やスラグ巻き込み等の溶接欠陥が発生するのを抑制する。
【解決手段】溶接中、溶接電極とパイプの間の距離を測定し、溶接電極と前記パイプのなす角度を一定とすることを目標に、前記溶接電極の傾斜角度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UOEパイプの製造におけるサブマージアーク溶接方法およびそれを用いたUOEパイプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
UOEパイプの代表であるUOE鋼管(非特許文献1参照)の製造工程は、図4に示されるように、大きく分けると、エッジミーリング(鋼板端部の開先形状加工)、Cプレス(鋼板幅端曲げ加工)、Uプレス、Oプレスからなる成型工程、仮付溶接、内面溶接、外面溶接からなる溶接工程、そして、拡管工程からなる。
【0003】
図5に、UOEパイプ(以降、パイプと称する)の製造におけるサブマージアーク溶接方法の概要について、一例を示す。パイプ10を溶接台車20に積載してパイプ10の長手方向に搬送する。すると、搬送されずに固定されている溶接機30の側に付設された溶接電極31からのアークによりパイプ20の突合せ端部が溶接される。図示しないが、別の設備から、溶接部にフィラーワイヤやフラックスを供給する場合もある。なお、あくまで一例であり、パイプ10ではなく溶接機30の側がパイプ10の長手方向に移動するなど、適宜な変化形も想定し得る。
【0004】
サブマージアーク溶接の条件として、溶接電極31に与える電流、電圧、溶接電極の突き出し量、搬送速度などのほか、溶接電極31と被溶接母材(パイプ10)のなす角度(以降、電極角度と称する)などが挙げられる。
【0005】
ここで、電極角度に着目すると、図6に示すように、被溶接母材(パイプ10)に対して電極先端が溶接方向(図中の矢印が示す方向)に傾斜する場合を前進角θをつける場合と称し、溶接方向と逆方向に傾斜する場合を後退角ψをつける場合と称す。前進角θをつける場合はビード幅が広く溶け込みが浅くなり、後退角ψをつける場合はビード幅が狭く溶け込みが深くなることが一般的に知られている。良好な溶け込み状態を安定して得るために、電極角度には、目標値と許容公差が設けられ、溶接開始前に調整が行われる。
【0006】
ところが、溶接前にパイプにはその長手方向に反りが発生している場合があり、また、溶接中にも、溶接による入熱によってパイプに反りが発生する場合がある。特に、後者の場合、図7に示すように、溶接の進行に伴い、反りが増大していく。
【0007】
そのため、パイプ10に反りがない状態で、本来通り、電極角度が垂直(θ=ψ=0°)にて溶接開始できたにもかかわらず、溶接による入熱によってパイプ10に反りが発生し、パイプ10が大きく傾斜した状態で溶接を行う場合が出てくることになる。
【0008】
その場合、例えば、電極角度が垂直(θ=ψ=0°)にて溶接開始したものが、溶接前半にては後退角がついた状態で、溶接後半にては前進角がついた状態で、溶接を行うことになる場合が出てくる。
【0009】
パイプ10の反りへの対策を直接的に目的とするものではないが、特許文献1には、UOE鋼管の搬送速度を一定とすることを目的に、溶接台車20のかわりにチェーンコンベアを用い、チェーンコンベアの隣り合うチェーンリンクを接続するピンが、チェーンコンベアを駆動するスプロケットホイールを離脱したり噛み合ったりするときに、チェーンコンベアのチェーンが上下動する影響を避けるために、駆動側スプロケットホイールと従動側スプロケットホイールとの中間に位置する上部側のチェーンを、ピンの中心がスプロケットホイールのピッチ円の最上端部よりも高い位置になるように支持することが記載されている。
【非特許文献1】鉄鋼便覧 第三巻(2)p1109〜1135
【特許文献1】特開2004−276073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のような方法によって搬送速度を一定とすることができたとしても、溶接による入熱によってパイプに反りが発生した場合、電極角度が垂直(θ=ψ=0°)にて溶接開始したにもかかわらず、溶接前半にては後退角ψがついた状態で、溶接後半にては前進角θがついた状態で、溶接を行うことになる場合が出てくる問題は、依然として残ることになる。
【0011】
パイプに反りが発生していると、電極角度が変化する。すなわち、溶接開始端からしばらく溶接を継続していくと、後退角ψがつき、パイプ長手方向中央を過ぎて溶接終了端に近づくにつれ、前進角θがつく。従って、溶接開始端からしばらく溶接を継続していくと、後退角ψがついて溶け込みが浅くなり、溶接後半にては前進角θがついて溶け込みが深くなる。すると、パイプ全長にわたって均一な溶け込みを得ることが出来ない。それに伴って、溶込不良、スラグ巻き込み等の溶接欠陥が発生する場合が出てくる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するために、溶接中、溶接電極とパイプの間の距離を測定し、溶接電極と前記パイプのなす角度を一定とすることを目標に、前記溶接電極の傾斜角度を調整するようにしたものである。
【0013】
そして、本発明は、それを用いたUOEパイプの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶接電極とパイプのなす角度を一定の範囲内に保つことが可能となる。その結果、パイプ全長にわたって均一な溶け込み状態とすることが出来、溶込不良やスラグ巻き込み等の溶接欠陥が発生するのを抑制することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に本発明の一実施形態を示す。溶接電極31とパイプ10の間の距離dをレーザー距離計40にて測定する。その結果を制御装置50に送り、制御装置50では、電極角度が垂直(図中のθ=0°)になることを目標に、図示しないアクチュエータに指令を送り、溶接電極31の傾斜角度を調整する。
【0016】
なお、本実施形態ではレーザー距離計による測定を想定したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、マグネスケール等を用いてもよい。また、θは必ずしも0°でなくともよく、本発明では所望の値となるように一定にする。
【0017】
図2に本発明を適用してθ=0°として製造したパイプ長手方向の溶込深さを、図3に溶接欠陥(溶込不良、スラグ巻き込み)の発生率を、それぞれ従来と比較して示す。本発明を適用しない従来の場合と比較して、本発明を適用した場合には、溶接欠陥発生率が減少し、パイプ全長にわたり溶接部の品質が均一良好なパイプを製造することができるようになったことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態を模式的に示す図。
【図2】パイプ長手方向の溶込深さを、本発明の場合と従来の場合とで比較して示した図。
【図3】欠陥の発生率を、本発明の場合と従来の場合とで比較して示した図。
【図4】UOE鋼管の製造工程の概要を示す図。
【図5】従来のサブマージアーク溶接方法の概要を示す図。
【図6】従来のサブマージアーク溶接における前進角および後退角の作用を説明するための図。
【図7】従来のサブマージアーク溶接方法の問題を示す図。
【符号の説明】
【0019】
10 パイプ
20 溶接台車
30 溶接機
31 溶接電極
40 レーザー距離計
50 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接中、溶接電極とパイプの間の距離を測定し、溶接電極と前記パイプのなす角度を一定とすることを目標に、前記溶接電極の傾斜角度を調整することを特徴とするUOEパイプの製造におけるサブマージアーク溶接方法。
【請求項2】
前記請求項1のサブマージアーク溶接方法を用いたUOEパイプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−205248(P2006−205248A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23891(P2005−23891)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】