説明

UV硬化性ハイソリッド塗料組成物

【課題】環境問題や加工性の問題を引き起こさず、優れた塗膜を提供することのできる溶媒含量の低いUV硬化性塗料組成物を提供する。
【解決手段】低粘度の多官能アクリレートオリゴマー、UV硬化性モノマー、10重量%以下の有機溶剤及び光開始剤を含ませた本発明のUV硬化性ハイソリッド塗料組成物はスプレーコート法、スピンコート法などの塗工法を用いた倍に、大気汚染、作業者への健康への悪影響、塗工基材の変形およびエネルギーの無駄遣いをなくすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境問題や加工性の問題を引き起こさず、優れた塗膜を提供することができる溶媒含量の低いUV硬化性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで粉体塗料(powder coating)、水性塗料(water born coating)、UV硬化性塗料(UV curable coating)及びハイソリッドコーティング組成物(high−solid coating)などの多様な塗料組成物が開発されており、特にUV硬化性塗料組成物が広く用いられている。しかし、従来のUV硬化性塗料組成物は揮発性有機溶剤を、例えば45〜60重量%と多量含有するので、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法またはスピンコート法を用いる場合、大気汚染、作業者の健康への悪影響、塗工基材の変形及びエネルギーの無駄使いをもたらす。
【0003】
従って、揮発性有機溶剤の使用によって生じる問題を最小化できる環境に優しい(environment-friendly)なUV硬化性組成物を開発することが求められてきた。
【発明の概要】
【0004】
従って、本発明の主要な目的は、優れた物性を有する塗膜を得る際に優れた作業性及び環境受容性(environmental acceptability)を示す、10重量%以下の少量の有機溶剤を含むUV硬化性ハイソリッド(high solid)塗料組成物を提供することである。
【0005】
本発明の1つの要旨に従えば、組成物全重量に基づいて反応性アクリレートオリゴマー20〜60重量%、UV硬化性モノマー20〜60重量%、有機溶剤1〜10重量%及び光開始剤1〜10重量%を含んで成るUV硬化性塗料組成物であって、該反応性アクリレートオリゴマーは4〜9個のアクリレート官能基を有しおよび500〜20、000cpsの範囲の室温での粘度を示すものである、UV硬化性塗料組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【0006】
本発明によるUV硬化性ハイソリッド塗料組成物は、室温での粘度が低い多官能アクリレートオリゴマー及び10重量%以下の有機溶剤を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明で用いられるUV硬化性多官能オリゴマーは、4〜9個のアクリレート官能基を有し、室温での粘度が500〜20、000cpsである低粘度の反応性アクリレートである。前記多官能オリゴマーの具体的な例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物が挙げられる。
【0008】
本発明では、前記アクリレートオリゴマーを全組成物に基づいて20〜60重量%、好ましくは30〜40重量%の量で用いる。前記アクリレートオリゴマーの量が60重量%より高い場合は、硬化塗膜の架橋密度が高すぎて塗膜が脆くなり、熱や衝撃によってクラックが発生し、20重量%未満である場合は、塗膜の機械的物性が低下する。
【0009】
本発明でオリゴマーの粘度調節のための反応性希釈剤として用いられるUV硬化性モノマーの代表例としては、ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(pentaerythritoltri/tetraacrylate; PETA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(trimethylolpropane triacrylate; TMPTA)、ヘキサメチレンジアクリレート(hexamethylenediacrylate; HDDA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2−hydroxyethylacrylate; 2−HEA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(2−hydroxypropylacrylate; 2−HPA)、イソボニルアクリレート(isobonylacrylate; IBOA)などが挙げられる。前記単量体は、全組成物に基づいて20〜60重量%、好ましくは25〜55重量%の量で用いられる。このとき、前記単量体の量が60重量%より高いと、硬化速度が遅くなり、前記塗膜の機械的及び化学的物性が低下し、20重量%未満であると、作業性及びレベリング(leveling)性が低下する。
【0010】
本発明で用いられる有機溶剤の代表的な例としては、メチルイソブチルケトン(methylisobutyl ketone)、メチルエチルケトン(methylethyl ketone)、ジメチルケトン(dimethylketone)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、イソブチルアルコール(isobutyl alcohol)、ブチルアルコール(butylalcohol)、酢酸エチル(ethyl acetate)、酢酸ブチル(butyl acetate)、エチルセロソルブ(ethylcellosolve)、ブチルセロソルブ(butyl cellosolve)などが挙げられる。前記有機溶剤は、全組成物に基づいて1〜10重量%、好ましくは5〜10重量%の量で用いられる。前記有機溶剤の量が10重量%より高いと所期の効果を達成し難く、1重量%未満であると効果的な混合物を形成しない。
【0011】
本発明の組成物は、UV照射によってラジカルを発生させて不飽和炭化水素を架橋させる役割をする光開始剤を含む。前記光開始剤の代表的な例としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(1−hydroxycyclohexyl phenyl ketone、 IRGACURE 184)、ビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(bis(2、4、6−trimethylbenzoyl)phenyl phosphineoxide、 IRGACURE 819)、2、4、6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィン(2、4、6−trimethyl benzoyl diphenyl phosphine、TPO)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン(2−hydroxy−2−methyl−1−phenyl−1−propane、DAROCUR 1173)、ベンゾフェノン(benzophenone、BP) などが挙げられ、これは全組成物に基づいて1〜10重量%、好ましくは5〜7重量%の量で用いられる。
【0012】
前記塗膜の滑り性及び光沢を向上させるために、本発明の塗料組成物はレベリング剤を全組成物に基づいて0.1〜2重量%の量でさらに含むことができる。前記レベリング剤としては塗料組成物に用いられる通常のものを使うことができるが、ポリシロキサン、例えばBYK−300、BYK−333、BYK−310(BYK−Chemie社から商業的に入手可能)が好ましい。
【0013】
また、前記塗膜の物性を向上させるために、本発明の塗料組成物は、例えばXP−0396、XP−0596、XP−0746(HanseChemie社から商業的に入手可能)などの添加剤を全組成物に基づいて0.1〜2重量%の量でさらに含むことが可能である。
【0014】
本発明による組成物は、低粘度の多官能アクリレートオリゴマー、UV硬化性モノマー及び有機溶剤を適量混合した後、前記混合物に光開始剤、任意のレベリング剤及びその他の添加剤を攪拌しながら添加することで製造され得る。
【0015】
本発明によれば、前記塗膜は本発明の組成物を基材の表面にスプレーコート、ディップコート、フローコートまたはスピンコートしてUV硬化性膜を形成し、このUV硬化性膜を室温で乾燥した後、乾燥したフィルムを紫外線照射によって硬化させて製造し得る。スプレーコート法を用いる場合は、塗膜は室温で1〜2分間乾燥させることが好ましい。
【0016】
本発明の塗膜は、5〜50μm範囲の厚さを有し、密着性、鉛筆硬度、光沢、耐湿性、耐薬品性、耐摩耗性及び耐酸性などの物性に優れる。
【0017】
前述したように、極めて少量の有機溶剤を含む本発明のUV硬化性塗料組成物は作業性に優れ、環境受容性であり、優れた物性を有する塗膜を提供する。従って、携帯電話、自動車及び家電製品などの製品塗膜に有用である。
【0018】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0019】
「実施例1」「UV型硬化用塗料組成物の製造」
25℃での粘度が6、000cps(Brookfield DV−II)であるジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート混合物(N−4612、サンノプ株式会社製、日本)35重量%、トリメチロールプロパントリアクリレート14重量%、ヘキサメチレンジオールジアクリレート17重量%及び2−ヒドロキシプロピルアクリレート17.5重量%からなる混合物をメチルイソブチルケトン3重量%、イソブチルアルコール5重量%及びジメチルケトン2重量%の混合物に攪拌しながら添加した。これに光開始剤であるDAROCUR1173(CIBA−GEIGY社製)6重量%及びレベリング剤であるBYK−333(BYKChemie社製)0.5重量%を添加して得られた混合物を20分間攪拌して、UV硬化性ハイソリッド塗料組成物を得た(不揮発成分、90重量%)。前記成分の重量%は最終組成物を基準とした値である。
【0020】
「実施例2」
ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート30重量%、トリメチロールプロパントリアクリレートの代わりにペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート14重量%、及び2−ヒドロキシプロピルアクリレート22.5重量%を用いたことを除いては実施例1と同様な方法によりUV硬化性ハイソリッド塗料組成物を得た(不揮発成分、90%)。
【0021】
「実施例3」
ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート30重量%、及び2−ヒドロキシプロピルアクリレートの代わりにイソボニルアクリレート22.5重量%を用いたことを除いては実施例1と同様な方法によりUV硬化性ハイソリッド塗料組成物を得た(不揮発成分、90%)。
【0022】
「実施例4」
ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート30重量%、トリメチロールプロパントリアクリレート15重量%、2−ヒドロキシプロピルアクリレート26.5重量%、ならびにメチルイソブチルケトン3重量%及びイソブチルアルコール2重量%の組合せを溶媒として用いたことを除いては実施例1と同様な方法によりUV硬化性ハイソリッド塗料組成物を得た(不揮発成分、95%)。
【0023】
「比較例1」
従来のUV硬化性塗料組成物の組成に従って、60℃での粘度が2、000cpsであるウレタンアクリレートオリゴマー(EBECRYL1290、UCB社製、ベルギー)15重量%、60℃での粘度が2、000〜4、000cpsであるウレタンアクリレートオリゴマー(EBECRYL9260)11重量%、トリメチロールプロパントリアクリレート6重量%、及びメチレンジオールジアクリレート7重量%を、トルエン30重量%、メチルイソブチルケトン15重量%、酢酸エチル5重量%及びエチルセロソルブ5重量%からなる混合物に攪拌しながら添加した。得られた混合物に光開始剤としてDAROCUR1173 5重量%及びレベリング剤としてBYK−333(BYK−Chemie社製)1重量%を添加して得られた混合物を30分間攪拌してUV硬化性塗料組成物を得た(不揮発成分、45%)。前記成分の重量%は最終組成物を基準とした値である。
【0024】
「実施例5〜8」「塗膜の製造」
前記実施例1〜4で得られたUV硬化性ハイソリッド塗料組成物をそれぞれUVPプライマー(UV硬化性上塗り用)が塗装されたポリカーボネート(polycarbonate)基材上にスプレーコート法を用いて塗装した後、室温(25℃)で1〜2分間乾燥させることで微量の残存する有機溶剤を除去した。乾燥された塗工基材を融合ランプ(FusionLamp)(ヒュージョンシステムズジャパン株式会社製)を用いてライン速度(linespeed)10/min、光量300mJ/cm2の硬化条件下で回硬化して15〜17μm厚さの塗膜を製造した。
【0025】
「比較例2」
前記比較例1で得られたUV硬化性塗料組成物を用い、残存する有機溶剤を除去するために60℃で1〜2分間乾燥したことを除いては実施例5〜8と同一の方法により行って15〜20μm厚さの塗膜を製造した。
【0026】
「物性評価」
「試験例」
前記実施例5〜8及び比較例2で得られた塗膜の物理・化学的特性を下記方法によって測定した。:
【0027】
(1)密着性:ASTM D3359−87による評価
塗膜を1mm間隔の格子状に切って100個の1m×1mの升目を形成した。形成された格子に接着性テストテープを強く貼り付けてから急激に180゜の角度ではがす動作を3回繰り返した後、格子の状態を確認し、その結果を次の基準に従って評価した。
5B:端部及び格子内にともに剥離なし。
4B:端部で弱く剥離(剥離面積が格子の5%未満)。
3B:端部に剥離及び破れが若干見える(剥離面積が格子の15%未満)。
2B:端部及び格子内に剥離及び破れがかなり見える(剥離面積が格子の35%未満で。
1B:リボン状の大きな剥離(剥離された面積が格子の35〜65%範囲)。
0B:弱い粘着力(剥離面積が格子の65%超過)。
【0028】
(2)鉛筆硬度:ASTM D3363−74による評価
塗膜試片を45゜の角度で一定の圧力下で多様な硬度の鉛筆で引っかき、これを5回繰り返した。塗膜層に1つでも傷又は破れが生じる場合、鉛筆の硬度数値を鉛筆硬度として示した。
【0029】
(3)光沢
塗膜試片の光沢度をBYK−GARDNER製の光沢計を用いて入射角と受光角がそれぞれ60゜にして際に測定し、得られた結果を基準面の光沢度(100)の百分率で表示した。
【0030】
(4)耐摩耗性
塗膜表面を500gの荷重をかけた消しゴムで40回/minの速度で摩擦させた後、素材の状態を肉眼で確認した。
【0031】
(5)耐薬品性
塗膜表面を99.3%のメタノールに浸した後、500gの荷重をかけた消しゴムで40回/minの速度で摩擦させた後、素材の状態を肉眼で確認した。
【0032】
(6)耐湿性
温度50℃、相対湿度95%の条件下に試験片を72時間露出させた後、外観変形及び密着性を試験した。
【0033】
(7)耐酸性
pH4.6である標準溶液に試験片を72時間処理した後、外観変形及び密着性を試験した。
【0034】
(8)UV試験(QUV)
試験片をUVテスター(QUV、Q−Pannel社製、米国)に72時間放置した後、外観変形及び密着性を試験した。
【0035】
前記のように測定された塗膜の物性を表1に示した。
【0036】
【表1】

◎:非常に優秀、O:優秀、△:普通
【0037】
前記表1に示したように、本発明による塗膜組成物は従来の組成物に用いて比べて、密着性、鉛筆硬度、光沢、耐摩耗性、耐薬品性、耐湿性及び耐酸性において優れた物性を示す。
【0038】
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で当業者にとって種々の変更実施が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物全重量に基づいて反応性アクリレートオリゴマー20〜60重量%、UV硬化性モノマー20〜60重量%、有機溶剤1〜10重量%及び光開始剤1〜10重量%を含んで成るUV硬化性塗料組成物であって、該反応性アクリレートオリゴマーは4〜9個のアクリレート官能基を有しおよび500〜20、000cpsの範囲の室温での粘度を示すものである、UV硬化性塗料組成物。
【請求項2】
前記反応性アクリレートオリゴマーが、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物である請求項1に記載のUV硬化性塗料組成物。
【請求項3】
前記UV硬化性モノマーが、ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(PETA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ヘキサメチレンジアクリレート(HDDA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2−HEA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(2−HPA)、イソボニルアクリレート(IBOA)、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものである請求項1に記載のUV硬化性塗料組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤が、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ブチルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、及びこれらの混合物からなる群から選ばれるものである請求項1に記載のUV硬化性塗料組成物。
【請求項5】
基材の表面に請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物を、スプレーコーティングし、ディップコーティングし、フローコーティングしまたはスピンコーティングしてUV硬化性膜を形成し、前記UV硬化性膜を室温で乾燥し、及び前記乾燥された膜を紫外線照射によって硬化させることを含んで成る塗膜の製造方法。
【請求項6】
前記基材が、プラスチックである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項5の方法によって得られる塗膜。
【請求項8】
請求項7の塗膜を含んで成る製品。
【請求項9】
携帯電話、自動車または家電製品である請求項8に記載の製品。

【公開番号】特開2013−60598(P2013−60598A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−237078(P2012−237078)
【出願日】平成24年10月26日(2012.10.26)
【分割の表示】特願2008−535431(P2008−535431)の分割
【原出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(500286643)アクゾ ノーベル コーティングス インターナショナル ビー ヴィ (67)
【Fターム(参考)】