Vリブドベルト及びその製造方法
【課題】Vリブドベルトの耐熱性を損なうことなく、プーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持することによって、ベルト走行時に優れた異音発生抑制効果を得る。
【解決手段】VリブドベルトBは、ベルト内周側にベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブ13を有するベルト本体10と、ベルト本体10のVリブ13表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布14と、を備えている。リブ側ニット補強布14は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%である。
【解決手段】VリブドベルトBは、ベルト内周側にベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブ13を有するベルト本体10と、ベルト本体10のVリブ13表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布14と、を備えている。リブ側ニット補強布14は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vリブドベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Vリブドベルトがリブプーリに巻き掛けられて使用されるとき、プーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持するために、Vリブ表面を補強布で被覆することが行われている。
【0003】
特許文献1には、VリブドベルトのVリブ表面が摩擦係数低下剤を含浸させた不織布で被覆された構成が開示されており、これによって優れた耐屈曲性、静音性、及び耐摩耗性が得られると記載されている。
【0004】
特許文献2には、Vリブ表面が布帛層で被覆されたVリブドベルトについて、リブと布帛層との間にポリフッ化ビニリデンフィルム等の熱可塑性樹脂が設けられた構成が開示されている。
【0005】
特許文献3には、Vリブ表面が布帛層で被覆されたVリブドベルトについて、布帛層のプーリ接触側表面にポリフッ化ビニリデンフィルムが設けられていると共に、任意でリブと布帛層との間に不飽和カルボン酸エステルグラフト化水素化ニトリルブタジエンエラストマーの亜鉛塩を含有するバリヤー層が設けられた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−42344号公報
【特許文献2】特開2002−122187号公報
【特許文献3】特開2002−5238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エンジンルームのコンパクト化の要請から、自動車の補機駆動ベルト伝動装置として、クランクシャフトプーリ(駆動リブプーリ)及びパワーステアリングプーリ、エアコンプーリ(従動リブプーリ)の3つ以上のプーリに1本のVリブドベルトが巻き掛けられたサーペンタインドライブ方式のものが広く普及している。
【0008】
自動車の高機能化に伴って、エンジンルームの収容部品が増加し、補機駆動ベルト伝動装置のプーリレイアウトにも、例えば、相互に隣接してVリブドベルトが巻き掛けられた一対のプーリのベルトスパン長を狭くせざるを得ない、あるいは、プーリのアライメントの公差を大きくせざるを得ないといった制約が生じてきた。そのため、補機駆動用ベルト伝動装置において、隣接する一対のリブプーリのミスアライメントが大きくなり、結果として、そのミスアライメントに起因して異音が発生するという問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、耐熱性を損なうことなく、Vリブドベルトのプーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持することによって、ベルト走行時に優れた異音発生抑制効果を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のVリブドベルトは、ベルト内周側にベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブを有するベルト本体と、該ベルト本体の該Vリブ表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布と、を備えたものであって、
上記リブ側ニット補強布は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%であることを特徴とする。
【0011】
本発明のVリブドベルトは、上記リブ側ニット補強布は、摩擦係数低下剤を含んだRFL水溶液によるRFL層で表面被覆されていることが好ましい。
【0012】
その場合、摩擦係数低下剤はポリテトラフルオロエチレンであることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンがRFL層のRFL固形分100質量部に対して10〜50質量部含まれていてもよい。
【0013】
本発明のVリブドベルトは、上記ベルト本体のVリブと上記リブ側ニット補強布との間にはリブ表面ゴム層が設けられており、
上記リブ表面ゴム層は上記リブ側ニット補強布の編み目から浸みだしてプーリ接触表面に露出していることが好ましい。
【0014】
その場合、リブ表面ゴム層は、原料ゴムに摩擦係数低下剤が配合されたゴム組成物で形成されていることが好ましい。摩擦係数低下剤は、原料ゴム成分100質量部に対して5〜100質量部配合されていることが好ましい。
【0015】
本発明のVリブドベルトは、上記リブ側ニット補強布を構成する糸がポリアミド繊維又はポリエステル繊維のウーリー加工糸であってもよい。
【0016】
また、本発明のVリブドベルトは、上記リブ側ニット補強布を構成する糸がポリウレタン弾性糸を芯糸とするカバーリングヤーンであってもよい。
【0017】
その場合、カバーリングヤーンは、少なくともポリアミド及び超高分子量ポリエチレンのいずれか1種からなる糸でカバーリングされていることが好ましい。
【0018】
また、カバーリングヤーンがダブルカバードヤーンである場合、上記ダブルカバードヤーンは、少なくとも超高分子量ポリエチレン及びポリアミドのいずれか1種からなる糸で二重にカバーリングされていることが好ましい。
【0019】
本発明のVリブドベルトは、上記ベルト本体の少なくともVリブを構成する部分がエチレン−α−オレフィンエラストマーを原料ゴムとするゴム組成物で形成されていてもよい。
【0020】
本発明のVリブドベルトの製造方法は、
円筒状のゴムスリーブ型の外周に、ベルト本体を形成するための未架橋ゴム材料、及びリブ側ニット補強布となるニット布を含むベルト材料を設けるステップと、
上記ベルト材料を設けたゴムスリーブ型を、内周にリブ形成部が設けられた円筒状外型に挿入するステップと、
上記円筒状外型に挿入された上記ゴムスリーブ型を膨張させることにより上記ベルト材料を該円筒状外型に圧接させると共に、該ベルト材料に含まれる未架橋ゴム組成物を架橋させて一体化させるステップと、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リブ側ニット補強布は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%であるので、耐熱性を損なうことなくプーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持することができ、結果として、ベルト走行時に優れた異音発生抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】Vリブドベルトの斜視図である。
【図2】Vリブドベルトの斜視図である。
【図3】Vリブドベルトの製造方法の説明図である。
【図4】Vリブドベルトの製造方法の説明図である。
【図5】実施形態の補機駆動用ベルト伝動装置のプーリレイアウトを示す図である。
【図6】プーリずれによるミスアライメントの説明図である。
【図7】プーリ倒れによるミスアライメントの説明図である。
【図8】ミスアライメント量の求め方の説明図である。
【図9】耐熱走行試験に係るベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図10】ミスアライメント異音耐久試験に係るベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図11】6%強制スリップ摩耗試験に係るベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
(Vリブドベルト)
図1は、本実施形態に係るVリブドベルトBを示す。このVリブドベルトBは、例えば、自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置に用いられるものであり、ベルト周長700〜3000mm、ベルト幅10〜36mm、及びベルト厚さ4.0〜5.0mmに形成されている。
【0025】
このVリブドベルトBは、ベルト外周側の接着ゴム層11とベルト内周側の圧縮ゴム層12との二重層に構成されたベルト本体10を備えている。そして、そのベルト本体10のベルト外周側表面に背面側補強布17が貼設されている。ベルト本体10のベルト内周側の表面には、リブ側ニット補強布14が設けられている。また、接着ゴム層11には、心線16がベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。
【0026】
接着ゴム層11は、断面横長矩形の帯状に形成され、例えば、厚さ1.0〜2.5mmに形成されている。接着ゴム層11は、原料ゴム成分に種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。接着ゴム層11を構成するゴム組成物の原料ゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリルニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。これらのうち、耐熱性及び耐寒性の点で優れた性質を示す観点から、エチレン−α−オレフィンエラストマーが好ましい。配合剤としては、例えば、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、カーボンブラックなどの補強材、充填材等が挙げられる。接着ゴム層11を構成するゴム組成物には、短繊維が配合されていてもよいが、心線16との接着性の点からは短繊維が配合されていないことが好ましい。なお、接着ゴム層11を形成するゴム組成物は、原料ゴム成分に配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたものである。
【0027】
心線16は、接着ゴム層11にベルト長さ方向に伸びると共に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。心線16は、ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリケトン繊維等の撚り糸16’で構成されている。心線16は、例えば外径が0.7〜1.1μmである。心線16は、ベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。
【0028】
圧縮ゴム層12は、複数のVリブ13がベルト内周側に垂下するように設けられている。これらの複数のVリブ13は、各々がベルト長さ方向に延びる断面略三角形の突状に形成されていると共に、ベルト幅方向に並設されている。各Vリブ13は、例えば、リブ高さが2.0〜3.0mm、基端間の幅が1.0〜3.6mmに形成されている。また、リブ数は、例えば、3〜6個である(図1では、リブ数が6)。
【0029】
圧縮ゴム層12は、原料ゴム成分に種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。圧縮ゴム層12を構成するゴム組成物の原料ゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリルニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。これらのうち、耐熱性及び耐寒性の点で優れた性質を示す観点から、エチレン−α−オレフィンエラストマーが好ましい。配合剤としては、例えば、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、カーボンブラック等の補強材、充填材、短繊維等が挙げられる。なお、圧縮ゴム層12を形成するゴム組成物は、原料ゴム成分に配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたものである。
【0030】
圧縮ゴム層12を構成するゴム組成物に配合される短繊維としては、例えば、ナイロン短繊維、ビニロン短繊維、アラミド短繊維、ポリエステル短繊維、綿短繊維等が挙げられる。短繊維は、例えば、長さが0.2〜5.0mm、及び、繊維径が10〜50μmである。短繊維は、例えば、RFL水溶液等に浸漬した後に加熱する接着処理が施された長繊維を長さ方向に沿って所定長に切断して製造される。短繊維のうち一部分は、Vリブ13表面に分散して露出していてもよく、Vリブ13表面に露出した短繊維は、Vリブ13表面から突出していてもよい。
【0031】
接着ゴム層11と圧縮ゴム層12とは、別々のゴム組成物で形成されていても、また、全く同じゴム組成物で形成されていても、いずれでもよい。
【0032】
ベルト本体10のVリブ13側表面には、リブ表面ゴム層15を介してリブ側ニット補強布14が設けられている。
【0033】
リブ側ニット補強布14は、例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、綿、ナイロン繊維、アラミド繊維等を仮撚加工(ウーリー加工)して得られるウーリー加工糸や、ポリウレタン弾性糸を芯糸としてカバーリング糸でカバーリングしたカバーリングヤーン等を編布としたものである。リブ側ニット補強布14は、例えば厚さが0.1〜0.8mmである。リブ側ニット補強布14は、JIS L1018に準じて短冊状テストピース(但し、ここでは3cm幅のテストピースを使用)に50Nの荷重を負荷したとき、ベルト長さ方向についての伸び率が100〜500%、及び、ベルト幅方向についての伸び率が150〜500%であり、好ましくは、ベルト長さ方向についての伸び率が150〜350%、及び、ベルト幅方向についての伸び率が200〜350%である。
【0034】
リブ側ニット補強布14のベルト長さ方向の伸び率が100%未満であれば、逆方向に曲げられたときにVリブ13側の彎曲に追いつけなくなってリブ側ニット補強布14がVリブ13から剥離してしまう。リブ側ニット補強布14のベルト幅方向の伸び率が150%未満であれば、Vリブ13の形成時にリブ側ニット補強布14の伸びが不十分となって、リブ側ニット補強布14をVリブ13に沿って形成することができなくなってしまう。リブ側ニット補強布14がVリブ13に沿っていない場合には、リブ側ニット補強布14を超えて圧縮ゴム層12のゴム成分がプーリ接触部分に浸みだしてしまい、プーリ接触部分の摩擦係数が大きくなることによる異音が発生する。
【0035】
また、リブ側ニット補強布14のベルト長さ方向、ベルト幅方向のそれぞれの伸び率が500%を超えていると、VリブドベルトBの製造の過程において、未架橋ゴム成分を加熱することによって架橋するときにゴム成分が流動し、それと同時にプーリ接触部分に皺が発生してしまい不良品となる。
【0036】
リブ側ニット補強布14がウーリー加工糸で構成されている場合、ウーリー加工糸が高捲縮に仮撚りされて得られたものであることが好ましい。また、リブ側ニット補強布14は、耐熱性及び耐摩耗性の点で優れた性質を示す観点から、ポリアミド繊維又はポリエステル繊維で構成されていることが好ましい。リブ側ニット補強布14は、例えば、縦方向の編み目の数が55〜80コース/インチ、及び横方向の編み目の数が40〜60ウェル/インチである。
【0037】
リブ側ニット補強布14がカバーリングヤーンで構成されている場合、カバーリングヤーンはシングルカバードヤーンであっても、ダブルカバードヤーンであってもよく、カバーリング糸としては、例えば、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の化学繊維からなる双糸や仮撚り糸が挙げられる。カバーリングヤーンのカバーリング糸は、これらのうち単一種の繊維で構成されていても、複数種の繊維で構成されていてもよい。リブ側ニット補強布14を構成するカバーリングヤーンがポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の耐摩耗性に優れた化学繊維からなるカバーリング糸で構成されているので、ベルト走行時に優れた摩耗性を得ることができる。
【0038】
リブ側ニット補強布14は、RFL層(図示せず)で繊維表面が被覆されていることが好ましい。
【0039】
RFL層には、摩擦係数低下剤が分散されて含有されている。摩擦係数低下剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。これらのうち、摩擦係数低下剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子が配合されていることが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンは、例えば、平均粒子径が0.1〜0.5μmである。ポリテトラフルオロエチレンの含有量は、RFL層のRFL固形分100質量部に対して10〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがより好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの含有量がRFL固形分100質量部に対して10質量部未満であれば、プーリ接触部分の摩擦係数が大きくなって異音が発生しやすくなる。一方、50質量部を超えると、摩擦係数が低くなりすぎて、VリブドベルトBが十分な伝動能力を示さなくなる。
【0040】
リブ側ニット補強布14が摩擦係数低下剤を含有したRFL層で表面被覆されているので、ダストやサビが発生する環境下で使用された場合でも、リブ側ニット補強布14の内部にまでダストやサビが付着することがなく、低摩擦係数の状態を維持することができる。そのため、摩擦係数が大きくなってベルトが早期に摩耗してしまったり、摩擦係数が大きいことによって異音が発生したりするのを抑制することができる。
【0041】
リブ側ニット補強布14は、リブ表面ゴム層15を介してベルト本体10のベルト内周側の表面に設けられていることが好ましい。
【0042】
リブ表面ゴム層15は、原料ゴム成分に種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。リブ表面ゴム層15を構成するゴム組成物の原料ゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリルニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。これらのうち、耐熱性及び耐寒性の点で優れた性質を示す観点から、エチレン−α−オレフィンエラストマーが好ましい。リブ表面ゴム層15は、例えば厚さが0.05〜0.8mmであることが好ましい。
【0043】
リブ表面ゴム層15を形成するゴム組成物には、摩擦係数低下剤が配合されている。摩擦係数低下剤としては、例えば、超高分子量ポリエチレン、モンモリロナイト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素化合物、二硫化モリブデン、グラファイト、酸化チタン、ポリエチレングリコール(PEG)ラウリン酸エステル等の界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
摩擦係数低下剤として超高分子量ポリエチレンが配合されている場合、例えば、分子量が100万〜700万の粒子が分散するように配合されている。超高分子量ポリエチレンは、例えば粒径が50〜200μmである。
【0045】
摩擦係数低下剤の全体の配合量は、例えば、原料ゴム100質量部に対して5〜100質量部であることが好ましく、30〜60質量部であることがより好ましい。摩擦係数低下剤の配合量が原料ゴム成分100質量部に対して5質量部未満であれば低摩擦係数の状態を維持することができなくなる。一方、100質量部を超えると、ゴム全体としての屈曲性が劣化してしまい、リブ表面でクラックが発生する可能性がある。
【0046】
リブ表面ゴム層15を形成するゴム組成物に配合される配合剤としては、摩擦係数低下剤の他、例えば、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、カーボンブラック等の補強材、充填材等が挙げられる。
【0047】
リブ表面ゴム層15を形成するゴム組成物は、図2に示すように、リブ側ニット補強布14の編み目から浸みだして、プーリ接触表面に一部露出していることが好ましい。この場合、Vリブドベルトが新品の状態でも摩擦係数低下剤がプーリ接触部分に存在することとなり、走行開始時から長期にわたって、摩擦係数が0.5〜0.8程度に低い状態を維持することができる。
【0048】
背面側補強布17は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維などの糸で形成された平織、綾織、朱子織などに製織した織布17’で構成されている。背面側補強布17は、例えば厚さが0.4mmである。背面側補強布17は、ベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理及び/又はベルト本体10側となる表面にゴム糊をコーティングして乾燥させる接着処理が施されている。なお、背面側補強布17の代わりにベルト外周側表面部分がゴム組成物で構成されていてもよい。また、背面側補強布17は、編物や不織布で構成されていてもよい。
【0049】
以上の構成によれば、リブ側ニット補強布14は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%であるので、耐熱性を損なうことなくプーリ接触部分を摩擦係数が0.5〜0.8程度に低い状態で維持することができ、結果として、ベルト走行時に優れた異音発生抑制効果を得ることができる。
【0050】
(Vリブドベルトの製造方法)
VリブドベルトBの製造方法を、図3及び図4に基づいて説明する。
【0051】
このVリブドベルトBの製造方法では、ベルト成形装置20を使用する。このベルト成形装置20は、円筒状のゴムスリーブ型21と、それを嵌合する円筒状外型22と、からなるものである。ゴムスリーブ型21は、例えばアクリルゴム製の可撓性のものであり、円筒内側から高温の水蒸気を送りこむ等の方法によってゴムスリーブ型21を半径方向外方に膨らませ、円筒状外型22に圧接させることができる。ゴムスリーブ型21の外周面は、例えば、VリブドベルトBの背面側となる面を平滑に成形するための形状となっている。ゴムスリーブ型21は、例えば、外径が700〜800mm、厚さが8〜20mm、及び高さが500〜1000mmである。円筒状外型22は、例えば金属製のものであり、内側面に、VリブドベルトBのVリブ13を形成するための断面略三角形の突条部22aが、周方向に伸びると共に高さ方向に並ぶようにして設けられている。突条部22aは、例えば、高さ方向に140本並べて設けられている。円筒状外型22は、例えば、外径が830〜2930mm、内径(突条部22aを含まない)が730〜2830mm、高さが500〜1000mm、突条部22aの高さが2.0〜2.5mm、及び突条部22aの一つ当たりの幅が3.5〜3.6mmである。
【0052】
まず、ベルト材料、つまり、接着ゴム層11及び圧縮ゴム層12を形成するための未架橋ゴムシートである接着ゴム材料11’及び圧縮ゴム材料12’、リブ側ニット補強布14及び背面側補強布17を形成するためのニット布14’及び織布17’、並びに、心線16となるための撚り糸16’を準備する。
【0053】
接着ゴム材料11’は、接着ゴム層11の原料ゴム及び配合剤を混練機にて混練することによって塊状の未架橋ゴム組成物を得、それを、カレンダーロールを用いて例えば厚さ0.4〜0.8mmのシート状に加工して作成する。
【0054】
圧縮ゴム材料12’は、圧縮ゴム層12の原料ゴム及び配合剤を混練機にて混練することによって塊状の未架橋ゴム組成物を得、それを、カレンダーロールを用いて例えば厚さ0.6〜1.0mmのシート状に加工して作成する。
【0055】
リブ側補強布14を形成するためのニット布14’としては、RFL水溶液に含浸した後に加熱する接着処理、及び、ニット布14’の片面にゴム糊を塗布してゴム糊層を設ける処理を行ったものを用いる。
【0056】
ニット布14’を処理するためのRFL水溶液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物にラテックスを混合した混合液である。RFL水溶液の固形分については、例えば、10〜30質量%である。レゾルシン(R)とホルマリン(F)とのモル比については、例えばR/F=1/1〜1/2である。ラテックスとしては、例えば、エチレンプロピレンジエンモノマーゴムラテックス(EPDM)、エチレンプロピレンゴムラテックス(EPR)、クロロプレンゴムラテックス(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴムラテックス(X−NBR)等が挙げられる。レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物(RF)とラテックス(L)の質量比については、例えば、RF/L=1/5〜1/20とする。このRFL水溶液には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の摩擦係数低下剤が、例えば、RFL固形分100質量部に対する配合量が10〜50質量部配合されている。
【0057】
このRFL水溶液にニット布14’を浸漬した後、乾燥炉を用いて120〜170℃で加熱乾燥することにより、RFL水溶液の水分が飛散すると共にレゾルシンとホルマリンとの縮合反応が進行してニット布14’の表面を被覆するようにRFL層が形成される。RFL層は、例えば、ニット布14’の100質量部に対する付着量が5〜30質量部である。
【0058】
ニット布14’の表面にRFL層を形成するRFL接着処理を行った後、ニット布14’の片面にリブ表面ゴム層15を形成するためのゴム糊15’を塗布する。このゴム糊15’は、原料ゴムに摩擦係数低下剤を含む種々の配合物を配合して混練機で混練してゴム組成物を得、それをトルエン等の溶剤に溶解することによって調製したものである。
【0059】
このように調製したゴム糊15’を、例えばナイフコーターを用いてニット布14’の片面に塗布する。このとき、塗布する厚さは例えば50〜200μmである。
【0060】
なお、これらの処理を施したニット布14’を公知の方法によって筒状に成形すると、容易にゴムスリーブ型21へセットすることができる。この場合、ゴム糊15’を塗布した面が内側となるように成形する。
【0061】
背面側補強布17を形成するための織布17’としては、ベルト本体10との接着性を良好にするために、RFL水溶液に含浸した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理を施したものを用いる。
【0062】
なお、これらの処理を施した織布17’を公知の方法によって筒状に成形すると、容易にゴムスリーブ型21へセットすることができる。
【0063】
次に、ゴムスリーブ型21に順次ベルト材料をセットする。筒状となった織布17’をゴムスリーブに嵌めた後、シート状の接着ゴム材料11’を巻き付けると共に撚り糸16’を周方向に伸びるように複数巻き付ける。このとき、ゴムスリーブ型21の高さ方向にピッチを有する螺旋を形成するように撚り糸16’を巻き付ける。次いで、撚り糸16’の上からシート状の接着ゴム材料11’を巻き付け、さらに、シート状の圧着ゴム材料12’を巻き付ける。そして、圧着ゴム材料12’の上から内側面にゴム糊15’が塗布された筒状のニット布14’を嵌めこむ。このとき、図3に示すように、ゴムスリーブ21の方から順に数えて、織布17’、接着ゴム材料11’、撚り糸16’、接着ゴム材料11’、圧縮ゴム材料12’、ゴム糊15’、及びニット布14’が積層された状態となっている。そしてさらに、それらの外側に円筒状外型22を取り付ける。
【0064】
続いて、円筒状外型22をゴムスリーブ型21に取り付けた状態でゴムスリーブ型21に、例えば高温の水蒸気を送りこんで熱及び圧力をかけ、ゴムスリーブ型21を膨らませて円筒状外型22に圧接させ、ゴムスリーブ型21と円筒状外型22とでベルト材料を挟み込む。このときベルト材料は、例えば、温度が150〜180℃となっており、半径方向外方に0.5〜1.0MPaの圧力がかかった状態となっている。そのため、ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し、ニット布14’、撚り糸16’及び織布17’のゴム成分への接着反応も進行し、さらに、Vリブ13形成部である円筒状外型22の内側面の突条部22aによってVリブ13の間のV溝が成形される。また、架橋反応と同時に、ゴム糊15’がニット布14’の編み目から露出する。このようにしてVリブ付ベルトスラブ(ベルト本体前駆体)が成形される。
【0065】
最後に、Vリブ付ベルトスラブを冷却してからそれをベルト成形装置20から取り外す。そして、取り外したVリブ付ベルトスラブを例えば10.68〜28.48mmの幅に輪切りしてから、それぞれの表裏を裏返す。これによってVリブドベルトBが得られる。
【0066】
以上の製造方法によれば、VリブドベルトBの未架橋ゴム成分の架橋反応、ゴム成分と繊維成分との接着反応、及び、Vリブ13の成形を同時に行うことができ、容易に製造することができる。
【0067】
なお、本実施形態ではニット布14’及び織布17’を円筒状にしたものをゴムスリーブ型21に嵌めてセットしたが、所定の接着処理を施したニット布14’及び織布17’をシート状のままゴムスリーブ型21に巻き付けるようにしてもよい。また、シート状の接着ゴム材料11’及び圧縮ゴム材料12’をゴムスリーブ型21に巻き付けてセットしたが、予め円筒状に成形したものをゴムスリーブ型21に嵌めてセットしてもよい。
【0068】
なお、ベルト成形装置20は、円筒状外型22の内側面にVリブドベルトBのVリブ13を形成するためのV溝が設けられたものとして説明したが、特にこれに限られるものではなく、例えば、ゴムスリーブ型の外周側面にVリブドベルトBのVリブ13を形成するための突条部が設けられると共に円筒状外型22の内周面はVリブドベルトBの背面を成形するために平滑に設けられたものであってもよい。この場合、ニット布14’、圧縮ゴム材料12’、接着ゴム材料11’、撚り糸16’、接着ゴム材料11’、織布17’の順にゴムスリーブ型21への巻き付けを行う。
【0069】
また、本実施形態では、リブ表面ゴム層15はゴム糊15’をニット布14’に塗布することによって設けたが、特にこれに限られるものではなく、シート状に形成した未架橋ゴム組成物をベルト成形装置20のゴムスリーブ型21にニット布14’をセットした後に巻き付けることによって設けられていてもよい。
【0070】
次に、上記VリブドベルトBを用いた自動車のエンジンルームに設けられる補機駆動ベルト伝動装置50について説明する。
【0071】
図5は、補機駆動ベルト伝動装置50のプーリレイアウトを示す。この補機駆動ベルト伝動装置50は、4つのリブプーリ及び2つのフラットプーリの6つのプーリに巻き掛けられたサーペンタインドライブ方式のものである。
【0072】
この補機駆動ベルト伝動装置50のレイアウトは、最上位置のパワーステアリングプーリ51と、そのパワーステアリングプーリ51の下方に配置されたジェネレータプーリ52と、パワーステアリングプーリ51の左下方に配置された平プーリのテンショナプーリ53と、そのテンショナプーリ53の下方に配置された平プーリのウォーターポンププーリ54と、テンショナプーリ53の左下方に配置されたクランクシャフトプーリ55と、そのクランクシャフトプーリ55の右下方に配置されたエアコンプーリ56とにより構成されている。これらのうち、平プーリであるテンショナプーリ53及びウォーターポンププーリ54以外は全てリブプーリである。そして、VリブドベルトBは、Vリブ13側が接触するようにパワーステアリングプーリ51に巻き掛けられ、次いで、ベルト背面が接触するようにテンショナプーリ53に巻き掛けられた後、Vリブ13側が接触するようにクランクシャフトプーリ55及びエアコンプーリ56に順に巻き掛けられ、さらに、ベルト背面が接触するようにウォーターポンププーリ54に巻き掛けられ、そして、Vリブ13側が接触するようにジェネレータプーリ52に巻き掛けられ、最後にパワーステアリングプーリ51に戻るように設けられている。この補機駆動ベルト伝動装置50においては、例えば、パワーステアリングプーリ51とジェネレータプーリ52との間のベルトスパン長が150mm、及び、クランクシャフトプーリ55とエアコンプーリ56との間のベルトスパン長が180mmである。ここで、ベルトスパン長とは、相互に隣接してVリブドベルトが巻き掛けられた一対のプーリにおける共通接線の接点間距離である(養賢堂発行「新版 ベルト伝動・精密搬送の実用設計 ベルト伝動技術懇話会編」第39頁)。
【0073】
以上のような構成の補機駆動ベルト伝動装置50では、本発明のVリブドベルトBが巻き掛けられて使用されているので、ベルト走行開始時から長期にわたって、プーリ接触部分において低摩擦係数の状態を維持することができ、結果として優れた異音抑制効果を得ることができる。また、この補機駆動ベルト伝動装置50がコンパクト化されるのに伴って、ベルトスパン長が小さくなると共にプーリ間のミスアライメントが生じやすくなるが、この場合でも、上記VリブドベルトBを用いることにより、ミスアライメントに起因する異音の発生を小さく抑えることができる。
【0074】
なお、ミスアライメントは、一対のリブプーリP1、P2の一方の他方に対する図6に示すようなプーリずれや図7(a)及び(b)に示すようなプーリ倒れが原因となって生じる。ミスアライメント量αは、図8に示すように、リブプーリP1、P2にVリブドベルトBを巻き掛けて所定軸加重を与えた状態でそれらの軸間位置Cを測定すると共に、軸位置における一方のリブプーリP1に対する他方のリブプーリP2の前後方向のずれΔCを測定し、α=tan−1(ΔC/C)として求められる(養賢堂発行「新版 ベルト伝動・精密搬送の実用設計 ベルト伝動技術懇話会編」第64頁及び第65頁)。
【実施例】
【0075】
実施例1〜12及び比較例1〜3のVリブドベルトを作製し、試験評価を行った。それぞれの構成は、表1にも示す。
【0076】
(試験評価用ベルト)
<接着ゴム材料>
接着ゴム層を形成するための接着ゴム材料として、EPDM(JSR社製、商品名:JSR EP123)を原料ゴムとして、この原料ゴム100質量部に対して、カーボンブラック(旭カーボン社製、商品名:旭#60)50質量部、可塑剤(日本サン石油社製、商品名:サンフレックス2280)15質量部、架橋剤(日本油脂社製、商品名:パークミルD)8質量部、老化防止剤(川口化学工業社製、商品名:アンテージMB)3質量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名:酸化亜鉛二種)6質量部、及びステアリン酸(花王社製、商品名:ステアリン酸)1質量部を配合して混練した未加硫ゴム組成物を調製した。この未架橋ゴム組成物を、ロールを用いて厚さ0.4mmのシート状に加工した。
【0077】
<圧縮ゴム材料>
圧縮ゴム層を形成するための圧縮ゴム材料として、EPDMを原料ゴムとして、この原料ゴム100質量部に対して、カーボンブラック55質量部、可塑剤15質量部、架橋剤8質量部、老化防止剤3質量部、酸化亜鉛6質量部、及びステアリン酸1質量部を配合して混練した未加硫ゴム組成物を調製した。この未架橋ゴム組成物を、ロールを用いて厚さ1mmのシート状に加工した。
【0078】
<RFL水溶液>
レゾルシン(R)とホルマリン(F)とを混合し、水酸化ナトリウム水溶液を加えて攪拌し、2時間熟成して、RF初期縮合物(R/Fモル比=1/1.5)を得た。そして、RF初期縮合物にVPラテックス(L)をRF/L質量比=1/8となるよう混合し、さらに、水を加えて固形分濃度20%となるよう調整した後、さらに、RFL固形分100質量部に対してPTFEディスパージョン溶液(AGC社製、商品名:フルオンPTFE AD911、PTFE平均粒子径0.25μm、PTFE60質量%含有)30質量部を配合し、24時間攪拌を行ってPTFE含有RFL水溶液を調製した。
【0079】
<ゴム糊>
リブ表面ゴム層を形成するためのゴム糊として、以下のゴム糊(1)〜(6)を調整した。
【0080】
−ゴム糊(1)−
EPDMを原料ゴムとして、この原料ゴム100質量部に対して、カーボンブラック40質量部、可塑剤15質量部、架橋剤8質量部、老化防止剤3質量部、酸化亜鉛6質量部、ステアリン酸1質量部、及び超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン240S)50質量部を配合して混練した未加硫ゴム組成物を調製し、これをトルエンの溶剤に溶解した。
【0081】
−ゴム糊(2)−
超高分子量ポリエチレンの代わりにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(AGC社製、商品名:フルオンPTFE L173J)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0082】
−ゴム糊(3)−
超高分子量ポリエチレンの代わりにモンモリロナイト(ホージュン社製、商品名:ベンゲルHVP)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0083】
−ゴム糊(4)−
超高分子量ポリエチレンの代わりに酸化チタン(石原産業社製、商品名:A−100)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0084】
−ゴム糊(5)−
超高分子量ポリエチレンの代わりにグラファイト(日本黒鉛工業社製、商品名:UP−10)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0085】
−ゴム糊(6)−
超高分子量ポリエチレンの代わりにポリエチレングリコール(PEG)ラウリン酸エステル(松本油脂製薬社製、商品名:TB−202)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0086】
<実施例1>
ベルトの背面を所定形状に成形するためのゴムスリーブ型21と、ベルトの内側を所定形状に成形するための円筒状外型22と、からなるベルト成形装置20を用いて、Vリブドベルトを作製した。円筒状外型22は、ベルトにVリブを形成するための突条部22aが円筒状外型22の内側に周方向に設けられたものであった。
【0087】
Vリブドベルトを構成する材料として、接着ゴム材料、圧縮ゴム材料、片面にゴム糊を塗布したニット布、編布及び撚り糸を準備した。
【0088】
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布は、高捲縮にウーリー加工したポリエステル糸(84dtex)を編布としたものであった。このリブ側ニット補強布には、予め、上記調製したPTFE含有RFL水溶液に浸漬した後に加熱して乾燥させるRFL接着処理を行った。このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦64本及び横39本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向250%及びベルト幅方向250%であった。そして、ニット布の片面に、リブ表面ゴム層を形成するためのゴム糊(1)を塗布した。
【0089】
まず、ベルト成形装置20のゴムスリーブ型21に、背面側補強布、ベルト本体の背面側を形成するための未加硫ゴム材料、撚り糸、を順に巻き付け、次いで、ベルト本体のVリブ側を形成するための未加硫ゴム材料、及び上記の接着処理を行ったリブ側ニット補強布を巻き付けた。そして、V溝が設けられた円筒状外型22を膨張させてゴムスリーブ型21側に押圧すると共にゴムスリーブ型21を高熱の水蒸気などにより加熱した。このとき、ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し、加えて、撚り糸、背面側補強布、リブ側ニット補強布のゴムへの接着反応も進行した。これによって、筒状のベルト前駆体が得られた。
【0090】
このベルト前駆体をベルト成形装置20から取り外し、長さ方向に、幅10.68mmとなるように幅切りし、それぞれの表裏を裏返すことによってVリブドベルトを得た。このようにして得られたVリブドベルトを実施例1とした。
【0091】
<実施例2>
リブ表面ゴム層を形成しないことを除いて実施例1と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例2とした。
【0092】
<実施例3>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布にRFL接着処理を行わないことを除いて実施例1と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例3とした。
【0093】
<実施例4>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布にRFL接着処理を行わないことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例4とした。
【0094】
<実施例5>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、芯糸がポリウレタン弾性糸(22dtex)及びカバーリング糸がナイロン糸(78dtex)であるシングルカバードヤーンからなる編布を用いたことを除いて実施例1と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例5とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦75本及び横55本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向350%及びベルト幅方向350%であった。
【0095】
<実施例6>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、芯糸がポリウレタン弾性糸(22dtex)及びカバーリング糸が超高分子量ポリエチレン糸(85dtex)であるシングルカバードヤーンからなる編布を用いたことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例6とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦75本及び横55本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向350%及びベルト幅方向350%であった。
【0096】
<実施例7>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、ポリウレタン弾性糸(22dtex)を芯糸として、超高分子量ポリエチレン糸(85dtex)をカバーリングした上にさらにナイロン糸(78dtex)をカバーリングしたダブルカバードヤーンからなる編布を用いたことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例7とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦65本及び横45本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向300%及びベルト幅方向300%であった。
【0097】
<実施例8>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(2)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例8とした。
【0098】
<実施例9>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(3)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例9とした。
【0099】
<実施例10>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(4)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例10とした。
【0100】
<実施例11>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(5)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例11とした。
【0101】
<実施例12>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(6)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例12とした。
【0102】
<比較例1>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、ウレタン糸(22dtex)を芯糸としてナイロン糸(78dtex)でカバーリングした編布を用いたことを除いて実施例1と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを比較例1とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦85本及び横75本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向550%及びベルト幅方向550%であった。
【0103】
<比較例2>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、ポリエステル(84dtex)をウーリー加工して編布としたものを用いたことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを比較例2とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦40本及び横25本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向100%及びベルト幅方向100%であった。
【0104】
このVリブドベルトは、ベルト本体ゴムがVリブ表面に設けられたリブ側ニット補強布から全体に浸みだしてリブ側ニット補強布の繊維がゴムに埋もれてしまうのが観察された。
【0105】
<比較例3>
Vリブ表面をリブ側ニット補強布で被覆しないことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを比較例3とした。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
(試験評価方法)
<耐熱走行試験>
図9は、耐熱走行試験におけるベルト走行試験機90のプーリレイアウトを示す。
【0109】
このベルト走行試験機90は、上下に設けられた大径のリブプーリ91,92(上側が従動プーリ及び下側が駆動プーリ、共にプーリ径120mm)と、それらの上下方向中間に設けられたアイドラプーリ93(プーリ径70mm)と、アイドラプーリ93の右方に設けられた小径従動リブプーリ94(プーリ径45mm)と、で構成されており、アイドラプーリ93におけるVリブドベルト背面の巻き掛け角度が90°となるように、また、小径従動リブプーリ94におけるVリブドベルトBの巻き掛け角度が90°となるように、それぞれ配されている。そして、VリブドベルトBは、Vリブがリブプーリ91,92及びリブプーリ94に接すると共に背面側がアイドラプーリ93に接するようにして、このベルト走行試験機90に巻き掛けられる。
【0110】
実施例1〜12及び比較例1〜3のそれぞれのVリブドベルトについて、上記ベルト走行試験機90にセットし、200Nのベルト張力が負荷されるように小径従動リブプーリ94に側方にセットウェイトを負荷し、そして、雰囲気温度120℃の下で、駆動リブプーリ92を4900rpmの回転数で回転させてベルトを走行させた。VリブドベルトのVリブにクラックが発生するまでの走行時間を測定し、ベルト走行開始から500時間経過した時点でベルト走行を打ち切った。
【0111】
<ミスアライメント異音耐久試験>
図10は、ミスアライメント異音耐久試験におけるベルト走行試験機100のプーリレイアウトを示す。
【0112】
このベルト走行試験機100は、上下に設けられた上側の駆動リブプーリ101(プーリ径80mm)及び下側の大径従動リブプーリ102(プーリ径130mm)と、それらの上下方向中間に設けられたアイドラプーリ103(プーリ径80mm)と、アイドラプーリ103の右方に配された小径従動リブプーリ104(プーリ径60mm)と、から構成されている。そして、VリブドベルトBは、Vリブが駆動リブプーリ101,大径従動リブプーリ102及び小径従動リブプーリ104に接すると共に背面側がアイドラプーリ103に接するようにして、このベルト走行試験機100に巻き掛けられる。
【0113】
実施例1〜12及び比較例1〜3のそれぞれのVリブドベルトについて、上記ベルト走行試験機100にセットし、アイドラプーリ103との間のミスアライメント量が3°となるように大径リブプーリ102を手前にオフセットしてプーリずれによるミスアライメントを生じさせ、雰囲気温度5℃の下、駆動リブプーリ101を750rpmで反時計回りに回転させて、ベルト走行試験機100から1m離れた場所から聴覚ではっきり聴きとれる程度の異音が観測されるまでベルト走行させた。
【0114】
<6%強制スリップ摩耗試験>
図11は、6%強制スリップ摩耗試験におけるベルト走行試験機110のプーリレイアウトを示す。
【0115】
このベルト走行試験機110は、上下方向に設けられたリブプーリ111,112(上側が従動プーリ及び下側が駆動プーリ、プーリ径80mm)と、それらの上下方向の中間の右方に設けられた大径のリブプーリ113と、から構成されており、大径リブプーリ113におけるVリブドベルトBの巻き掛け角度が90°となるように配されている。そして、VリブドベルトBは、Vリブが従動リブプーリ111,駆動リブプーリ112及び大径リブプーリ113に接するようにして、このベルト走行試験機110に巻き掛けられる。
【0116】
実施例1〜12及び比較例1〜3のそれぞれのVリブドベルトについて、質量を測定した後、ベルト走行試験機110に巻き掛け、9.8Nmの軸トルクが負荷されるように大径リブプーリ113に側方にデッドウェイトを負荷し、そして、6%強制スリップが生じるように、つまり、駆動リブプーリ112の回転数3135rpmに対して従動プーリの回転数がそれよりも6%少ない2958rpmとなるように駆動リブプーリ軸及び従動プーリ軸を歯付ベルトで同期させてベルトの走行を行った。100時間ベルト走行させ保ちに回転を停止し、再度Vリブドベルトの質量を測定した。
【0117】
ベルト走行前後の質量減量をベルト走行前の質量で除して摩耗率を算出した。
【0118】
(試験評価結果)
表3〜6は、試験評価の結果を示す。
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
【表5】
【0122】
【表6】
【0123】
リブ側ニット補強布の長さ方向の伸び率が100〜500%及び幅方向の伸び率が150〜500%である実施例1〜12と、長さ方向、幅方向共にリブ側ニット補強布の伸び率が550%である比較例1と、と比較すると、後者はミスアライメント異音耐久試験において異音発生までの時間が著しく短く、また、6%強制スリップ摩耗試験において、後者は摩耗率が大きいことが分かる。
【0124】
リブ側ニット補強布の編み目数が64×39であって伸び率がベルト方向、ベルト幅方向共に250%の実施例2と、リブ側ニット補強布の編み目数が40×25であって伸び率がベルト方向、ベルト幅方向共に100%の比較例2とを比較すると、後者はリブ側ニット補強布からベルト本体ゴムが全体にしみ出してリブ側ニット補強布の繊維がゴムにほとんど埋もれてしまい、ベルト走行初期から異音が発生することが分かる。
【0125】
Vリブ表面にベルト本体ゴムが滲みだしている比較例2、及び、Vリブ表面はリブ側ニット補強布で被覆されずベルト本体ゴムが露出している比較例3は、ミスアライメント異音耐久試験において走行初期より異音が発生していることから、Vリブ表面にベルト本体ゴムが全面に露出しているとミスアライメント走行時の異音の原因となることが分かる。
【0126】
摩擦係数低下剤として種々の薬品を用いた実施例3,8〜12によれば、耐熱走行試験、ミスアライメント異音耐久試験、及び6%スリップ摩耗試験において、いずれも、同程度の性能のVリブドベルトが得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
以上説明したように、本発明はVリブドベルト及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0128】
B Vリブドベルト
10 ベルト本体
13 Vリブ
14 リブ側ニット補強布
15 リブ表面ゴム層
20 ベルト成形装置
21 ゴムスリーブ型
22 円筒状外型
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vリブドベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Vリブドベルトがリブプーリに巻き掛けられて使用されるとき、プーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持するために、Vリブ表面を補強布で被覆することが行われている。
【0003】
特許文献1には、VリブドベルトのVリブ表面が摩擦係数低下剤を含浸させた不織布で被覆された構成が開示されており、これによって優れた耐屈曲性、静音性、及び耐摩耗性が得られると記載されている。
【0004】
特許文献2には、Vリブ表面が布帛層で被覆されたVリブドベルトについて、リブと布帛層との間にポリフッ化ビニリデンフィルム等の熱可塑性樹脂が設けられた構成が開示されている。
【0005】
特許文献3には、Vリブ表面が布帛層で被覆されたVリブドベルトについて、布帛層のプーリ接触側表面にポリフッ化ビニリデンフィルムが設けられていると共に、任意でリブと布帛層との間に不飽和カルボン酸エステルグラフト化水素化ニトリルブタジエンエラストマーの亜鉛塩を含有するバリヤー層が設けられた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−42344号公報
【特許文献2】特開2002−122187号公報
【特許文献3】特開2002−5238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エンジンルームのコンパクト化の要請から、自動車の補機駆動ベルト伝動装置として、クランクシャフトプーリ(駆動リブプーリ)及びパワーステアリングプーリ、エアコンプーリ(従動リブプーリ)の3つ以上のプーリに1本のVリブドベルトが巻き掛けられたサーペンタインドライブ方式のものが広く普及している。
【0008】
自動車の高機能化に伴って、エンジンルームの収容部品が増加し、補機駆動ベルト伝動装置のプーリレイアウトにも、例えば、相互に隣接してVリブドベルトが巻き掛けられた一対のプーリのベルトスパン長を狭くせざるを得ない、あるいは、プーリのアライメントの公差を大きくせざるを得ないといった制約が生じてきた。そのため、補機駆動用ベルト伝動装置において、隣接する一対のリブプーリのミスアライメントが大きくなり、結果として、そのミスアライメントに起因して異音が発生するという問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、耐熱性を損なうことなく、Vリブドベルトのプーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持することによって、ベルト走行時に優れた異音発生抑制効果を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のVリブドベルトは、ベルト内周側にベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブを有するベルト本体と、該ベルト本体の該Vリブ表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布と、を備えたものであって、
上記リブ側ニット補強布は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%であることを特徴とする。
【0011】
本発明のVリブドベルトは、上記リブ側ニット補強布は、摩擦係数低下剤を含んだRFL水溶液によるRFL層で表面被覆されていることが好ましい。
【0012】
その場合、摩擦係数低下剤はポリテトラフルオロエチレンであることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンがRFL層のRFL固形分100質量部に対して10〜50質量部含まれていてもよい。
【0013】
本発明のVリブドベルトは、上記ベルト本体のVリブと上記リブ側ニット補強布との間にはリブ表面ゴム層が設けられており、
上記リブ表面ゴム層は上記リブ側ニット補強布の編み目から浸みだしてプーリ接触表面に露出していることが好ましい。
【0014】
その場合、リブ表面ゴム層は、原料ゴムに摩擦係数低下剤が配合されたゴム組成物で形成されていることが好ましい。摩擦係数低下剤は、原料ゴム成分100質量部に対して5〜100質量部配合されていることが好ましい。
【0015】
本発明のVリブドベルトは、上記リブ側ニット補強布を構成する糸がポリアミド繊維又はポリエステル繊維のウーリー加工糸であってもよい。
【0016】
また、本発明のVリブドベルトは、上記リブ側ニット補強布を構成する糸がポリウレタン弾性糸を芯糸とするカバーリングヤーンであってもよい。
【0017】
その場合、カバーリングヤーンは、少なくともポリアミド及び超高分子量ポリエチレンのいずれか1種からなる糸でカバーリングされていることが好ましい。
【0018】
また、カバーリングヤーンがダブルカバードヤーンである場合、上記ダブルカバードヤーンは、少なくとも超高分子量ポリエチレン及びポリアミドのいずれか1種からなる糸で二重にカバーリングされていることが好ましい。
【0019】
本発明のVリブドベルトは、上記ベルト本体の少なくともVリブを構成する部分がエチレン−α−オレフィンエラストマーを原料ゴムとするゴム組成物で形成されていてもよい。
【0020】
本発明のVリブドベルトの製造方法は、
円筒状のゴムスリーブ型の外周に、ベルト本体を形成するための未架橋ゴム材料、及びリブ側ニット補強布となるニット布を含むベルト材料を設けるステップと、
上記ベルト材料を設けたゴムスリーブ型を、内周にリブ形成部が設けられた円筒状外型に挿入するステップと、
上記円筒状外型に挿入された上記ゴムスリーブ型を膨張させることにより上記ベルト材料を該円筒状外型に圧接させると共に、該ベルト材料に含まれる未架橋ゴム組成物を架橋させて一体化させるステップと、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リブ側ニット補強布は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%であるので、耐熱性を損なうことなくプーリ接触部分を低摩擦係数の状態で維持することができ、結果として、ベルト走行時に優れた異音発生抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】Vリブドベルトの斜視図である。
【図2】Vリブドベルトの斜視図である。
【図3】Vリブドベルトの製造方法の説明図である。
【図4】Vリブドベルトの製造方法の説明図である。
【図5】実施形態の補機駆動用ベルト伝動装置のプーリレイアウトを示す図である。
【図6】プーリずれによるミスアライメントの説明図である。
【図7】プーリ倒れによるミスアライメントの説明図である。
【図8】ミスアライメント量の求め方の説明図である。
【図9】耐熱走行試験に係るベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図10】ミスアライメント異音耐久試験に係るベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図11】6%強制スリップ摩耗試験に係るベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
(Vリブドベルト)
図1は、本実施形態に係るVリブドベルトBを示す。このVリブドベルトBは、例えば、自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置に用いられるものであり、ベルト周長700〜3000mm、ベルト幅10〜36mm、及びベルト厚さ4.0〜5.0mmに形成されている。
【0025】
このVリブドベルトBは、ベルト外周側の接着ゴム層11とベルト内周側の圧縮ゴム層12との二重層に構成されたベルト本体10を備えている。そして、そのベルト本体10のベルト外周側表面に背面側補強布17が貼設されている。ベルト本体10のベルト内周側の表面には、リブ側ニット補強布14が設けられている。また、接着ゴム層11には、心線16がベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。
【0026】
接着ゴム層11は、断面横長矩形の帯状に形成され、例えば、厚さ1.0〜2.5mmに形成されている。接着ゴム層11は、原料ゴム成分に種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。接着ゴム層11を構成するゴム組成物の原料ゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリルニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。これらのうち、耐熱性及び耐寒性の点で優れた性質を示す観点から、エチレン−α−オレフィンエラストマーが好ましい。配合剤としては、例えば、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、カーボンブラックなどの補強材、充填材等が挙げられる。接着ゴム層11を構成するゴム組成物には、短繊維が配合されていてもよいが、心線16との接着性の点からは短繊維が配合されていないことが好ましい。なお、接着ゴム層11を形成するゴム組成物は、原料ゴム成分に配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたものである。
【0027】
心線16は、接着ゴム層11にベルト長さ方向に伸びると共に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。心線16は、ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリケトン繊維等の撚り糸16’で構成されている。心線16は、例えば外径が0.7〜1.1μmである。心線16は、ベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。
【0028】
圧縮ゴム層12は、複数のVリブ13がベルト内周側に垂下するように設けられている。これらの複数のVリブ13は、各々がベルト長さ方向に延びる断面略三角形の突状に形成されていると共に、ベルト幅方向に並設されている。各Vリブ13は、例えば、リブ高さが2.0〜3.0mm、基端間の幅が1.0〜3.6mmに形成されている。また、リブ数は、例えば、3〜6個である(図1では、リブ数が6)。
【0029】
圧縮ゴム層12は、原料ゴム成分に種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。圧縮ゴム層12を構成するゴム組成物の原料ゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリルニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。これらのうち、耐熱性及び耐寒性の点で優れた性質を示す観点から、エチレン−α−オレフィンエラストマーが好ましい。配合剤としては、例えば、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、カーボンブラック等の補強材、充填材、短繊維等が挙げられる。なお、圧縮ゴム層12を形成するゴム組成物は、原料ゴム成分に配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたものである。
【0030】
圧縮ゴム層12を構成するゴム組成物に配合される短繊維としては、例えば、ナイロン短繊維、ビニロン短繊維、アラミド短繊維、ポリエステル短繊維、綿短繊維等が挙げられる。短繊維は、例えば、長さが0.2〜5.0mm、及び、繊維径が10〜50μmである。短繊維は、例えば、RFL水溶液等に浸漬した後に加熱する接着処理が施された長繊維を長さ方向に沿って所定長に切断して製造される。短繊維のうち一部分は、Vリブ13表面に分散して露出していてもよく、Vリブ13表面に露出した短繊維は、Vリブ13表面から突出していてもよい。
【0031】
接着ゴム層11と圧縮ゴム層12とは、別々のゴム組成物で形成されていても、また、全く同じゴム組成物で形成されていても、いずれでもよい。
【0032】
ベルト本体10のVリブ13側表面には、リブ表面ゴム層15を介してリブ側ニット補強布14が設けられている。
【0033】
リブ側ニット補強布14は、例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、綿、ナイロン繊維、アラミド繊維等を仮撚加工(ウーリー加工)して得られるウーリー加工糸や、ポリウレタン弾性糸を芯糸としてカバーリング糸でカバーリングしたカバーリングヤーン等を編布としたものである。リブ側ニット補強布14は、例えば厚さが0.1〜0.8mmである。リブ側ニット補強布14は、JIS L1018に準じて短冊状テストピース(但し、ここでは3cm幅のテストピースを使用)に50Nの荷重を負荷したとき、ベルト長さ方向についての伸び率が100〜500%、及び、ベルト幅方向についての伸び率が150〜500%であり、好ましくは、ベルト長さ方向についての伸び率が150〜350%、及び、ベルト幅方向についての伸び率が200〜350%である。
【0034】
リブ側ニット補強布14のベルト長さ方向の伸び率が100%未満であれば、逆方向に曲げられたときにVリブ13側の彎曲に追いつけなくなってリブ側ニット補強布14がVリブ13から剥離してしまう。リブ側ニット補強布14のベルト幅方向の伸び率が150%未満であれば、Vリブ13の形成時にリブ側ニット補強布14の伸びが不十分となって、リブ側ニット補強布14をVリブ13に沿って形成することができなくなってしまう。リブ側ニット補強布14がVリブ13に沿っていない場合には、リブ側ニット補強布14を超えて圧縮ゴム層12のゴム成分がプーリ接触部分に浸みだしてしまい、プーリ接触部分の摩擦係数が大きくなることによる異音が発生する。
【0035】
また、リブ側ニット補強布14のベルト長さ方向、ベルト幅方向のそれぞれの伸び率が500%を超えていると、VリブドベルトBの製造の過程において、未架橋ゴム成分を加熱することによって架橋するときにゴム成分が流動し、それと同時にプーリ接触部分に皺が発生してしまい不良品となる。
【0036】
リブ側ニット補強布14がウーリー加工糸で構成されている場合、ウーリー加工糸が高捲縮に仮撚りされて得られたものであることが好ましい。また、リブ側ニット補強布14は、耐熱性及び耐摩耗性の点で優れた性質を示す観点から、ポリアミド繊維又はポリエステル繊維で構成されていることが好ましい。リブ側ニット補強布14は、例えば、縦方向の編み目の数が55〜80コース/インチ、及び横方向の編み目の数が40〜60ウェル/インチである。
【0037】
リブ側ニット補強布14がカバーリングヤーンで構成されている場合、カバーリングヤーンはシングルカバードヤーンであっても、ダブルカバードヤーンであってもよく、カバーリング糸としては、例えば、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の化学繊維からなる双糸や仮撚り糸が挙げられる。カバーリングヤーンのカバーリング糸は、これらのうち単一種の繊維で構成されていても、複数種の繊維で構成されていてもよい。リブ側ニット補強布14を構成するカバーリングヤーンがポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の耐摩耗性に優れた化学繊維からなるカバーリング糸で構成されているので、ベルト走行時に優れた摩耗性を得ることができる。
【0038】
リブ側ニット補強布14は、RFL層(図示せず)で繊維表面が被覆されていることが好ましい。
【0039】
RFL層には、摩擦係数低下剤が分散されて含有されている。摩擦係数低下剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。これらのうち、摩擦係数低下剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子が配合されていることが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンは、例えば、平均粒子径が0.1〜0.5μmである。ポリテトラフルオロエチレンの含有量は、RFL層のRFL固形分100質量部に対して10〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがより好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの含有量がRFL固形分100質量部に対して10質量部未満であれば、プーリ接触部分の摩擦係数が大きくなって異音が発生しやすくなる。一方、50質量部を超えると、摩擦係数が低くなりすぎて、VリブドベルトBが十分な伝動能力を示さなくなる。
【0040】
リブ側ニット補強布14が摩擦係数低下剤を含有したRFL層で表面被覆されているので、ダストやサビが発生する環境下で使用された場合でも、リブ側ニット補強布14の内部にまでダストやサビが付着することがなく、低摩擦係数の状態を維持することができる。そのため、摩擦係数が大きくなってベルトが早期に摩耗してしまったり、摩擦係数が大きいことによって異音が発生したりするのを抑制することができる。
【0041】
リブ側ニット補強布14は、リブ表面ゴム層15を介してベルト本体10のベルト内周側の表面に設けられていることが好ましい。
【0042】
リブ表面ゴム層15は、原料ゴム成分に種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。リブ表面ゴム層15を構成するゴム組成物の原料ゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリルニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。これらのうち、耐熱性及び耐寒性の点で優れた性質を示す観点から、エチレン−α−オレフィンエラストマーが好ましい。リブ表面ゴム層15は、例えば厚さが0.05〜0.8mmであることが好ましい。
【0043】
リブ表面ゴム層15を形成するゴム組成物には、摩擦係数低下剤が配合されている。摩擦係数低下剤としては、例えば、超高分子量ポリエチレン、モンモリロナイト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素化合物、二硫化モリブデン、グラファイト、酸化チタン、ポリエチレングリコール(PEG)ラウリン酸エステル等の界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
摩擦係数低下剤として超高分子量ポリエチレンが配合されている場合、例えば、分子量が100万〜700万の粒子が分散するように配合されている。超高分子量ポリエチレンは、例えば粒径が50〜200μmである。
【0045】
摩擦係数低下剤の全体の配合量は、例えば、原料ゴム100質量部に対して5〜100質量部であることが好ましく、30〜60質量部であることがより好ましい。摩擦係数低下剤の配合量が原料ゴム成分100質量部に対して5質量部未満であれば低摩擦係数の状態を維持することができなくなる。一方、100質量部を超えると、ゴム全体としての屈曲性が劣化してしまい、リブ表面でクラックが発生する可能性がある。
【0046】
リブ表面ゴム層15を形成するゴム組成物に配合される配合剤としては、摩擦係数低下剤の他、例えば、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、カーボンブラック等の補強材、充填材等が挙げられる。
【0047】
リブ表面ゴム層15を形成するゴム組成物は、図2に示すように、リブ側ニット補強布14の編み目から浸みだして、プーリ接触表面に一部露出していることが好ましい。この場合、Vリブドベルトが新品の状態でも摩擦係数低下剤がプーリ接触部分に存在することとなり、走行開始時から長期にわたって、摩擦係数が0.5〜0.8程度に低い状態を維持することができる。
【0048】
背面側補強布17は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維などの糸で形成された平織、綾織、朱子織などに製織した織布17’で構成されている。背面側補強布17は、例えば厚さが0.4mmである。背面側補強布17は、ベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理及び/又はベルト本体10側となる表面にゴム糊をコーティングして乾燥させる接着処理が施されている。なお、背面側補強布17の代わりにベルト外周側表面部分がゴム組成物で構成されていてもよい。また、背面側補強布17は、編物や不織布で構成されていてもよい。
【0049】
以上の構成によれば、リブ側ニット補強布14は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%であるので、耐熱性を損なうことなくプーリ接触部分を摩擦係数が0.5〜0.8程度に低い状態で維持することができ、結果として、ベルト走行時に優れた異音発生抑制効果を得ることができる。
【0050】
(Vリブドベルトの製造方法)
VリブドベルトBの製造方法を、図3及び図4に基づいて説明する。
【0051】
このVリブドベルトBの製造方法では、ベルト成形装置20を使用する。このベルト成形装置20は、円筒状のゴムスリーブ型21と、それを嵌合する円筒状外型22と、からなるものである。ゴムスリーブ型21は、例えばアクリルゴム製の可撓性のものであり、円筒内側から高温の水蒸気を送りこむ等の方法によってゴムスリーブ型21を半径方向外方に膨らませ、円筒状外型22に圧接させることができる。ゴムスリーブ型21の外周面は、例えば、VリブドベルトBの背面側となる面を平滑に成形するための形状となっている。ゴムスリーブ型21は、例えば、外径が700〜800mm、厚さが8〜20mm、及び高さが500〜1000mmである。円筒状外型22は、例えば金属製のものであり、内側面に、VリブドベルトBのVリブ13を形成するための断面略三角形の突条部22aが、周方向に伸びると共に高さ方向に並ぶようにして設けられている。突条部22aは、例えば、高さ方向に140本並べて設けられている。円筒状外型22は、例えば、外径が830〜2930mm、内径(突条部22aを含まない)が730〜2830mm、高さが500〜1000mm、突条部22aの高さが2.0〜2.5mm、及び突条部22aの一つ当たりの幅が3.5〜3.6mmである。
【0052】
まず、ベルト材料、つまり、接着ゴム層11及び圧縮ゴム層12を形成するための未架橋ゴムシートである接着ゴム材料11’及び圧縮ゴム材料12’、リブ側ニット補強布14及び背面側補強布17を形成するためのニット布14’及び織布17’、並びに、心線16となるための撚り糸16’を準備する。
【0053】
接着ゴム材料11’は、接着ゴム層11の原料ゴム及び配合剤を混練機にて混練することによって塊状の未架橋ゴム組成物を得、それを、カレンダーロールを用いて例えば厚さ0.4〜0.8mmのシート状に加工して作成する。
【0054】
圧縮ゴム材料12’は、圧縮ゴム層12の原料ゴム及び配合剤を混練機にて混練することによって塊状の未架橋ゴム組成物を得、それを、カレンダーロールを用いて例えば厚さ0.6〜1.0mmのシート状に加工して作成する。
【0055】
リブ側補強布14を形成するためのニット布14’としては、RFL水溶液に含浸した後に加熱する接着処理、及び、ニット布14’の片面にゴム糊を塗布してゴム糊層を設ける処理を行ったものを用いる。
【0056】
ニット布14’を処理するためのRFL水溶液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物にラテックスを混合した混合液である。RFL水溶液の固形分については、例えば、10〜30質量%である。レゾルシン(R)とホルマリン(F)とのモル比については、例えばR/F=1/1〜1/2である。ラテックスとしては、例えば、エチレンプロピレンジエンモノマーゴムラテックス(EPDM)、エチレンプロピレンゴムラテックス(EPR)、クロロプレンゴムラテックス(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴムラテックス(X−NBR)等が挙げられる。レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物(RF)とラテックス(L)の質量比については、例えば、RF/L=1/5〜1/20とする。このRFL水溶液には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の摩擦係数低下剤が、例えば、RFL固形分100質量部に対する配合量が10〜50質量部配合されている。
【0057】
このRFL水溶液にニット布14’を浸漬した後、乾燥炉を用いて120〜170℃で加熱乾燥することにより、RFL水溶液の水分が飛散すると共にレゾルシンとホルマリンとの縮合反応が進行してニット布14’の表面を被覆するようにRFL層が形成される。RFL層は、例えば、ニット布14’の100質量部に対する付着量が5〜30質量部である。
【0058】
ニット布14’の表面にRFL層を形成するRFL接着処理を行った後、ニット布14’の片面にリブ表面ゴム層15を形成するためのゴム糊15’を塗布する。このゴム糊15’は、原料ゴムに摩擦係数低下剤を含む種々の配合物を配合して混練機で混練してゴム組成物を得、それをトルエン等の溶剤に溶解することによって調製したものである。
【0059】
このように調製したゴム糊15’を、例えばナイフコーターを用いてニット布14’の片面に塗布する。このとき、塗布する厚さは例えば50〜200μmである。
【0060】
なお、これらの処理を施したニット布14’を公知の方法によって筒状に成形すると、容易にゴムスリーブ型21へセットすることができる。この場合、ゴム糊15’を塗布した面が内側となるように成形する。
【0061】
背面側補強布17を形成するための織布17’としては、ベルト本体10との接着性を良好にするために、RFL水溶液に含浸した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理を施したものを用いる。
【0062】
なお、これらの処理を施した織布17’を公知の方法によって筒状に成形すると、容易にゴムスリーブ型21へセットすることができる。
【0063】
次に、ゴムスリーブ型21に順次ベルト材料をセットする。筒状となった織布17’をゴムスリーブに嵌めた後、シート状の接着ゴム材料11’を巻き付けると共に撚り糸16’を周方向に伸びるように複数巻き付ける。このとき、ゴムスリーブ型21の高さ方向にピッチを有する螺旋を形成するように撚り糸16’を巻き付ける。次いで、撚り糸16’の上からシート状の接着ゴム材料11’を巻き付け、さらに、シート状の圧着ゴム材料12’を巻き付ける。そして、圧着ゴム材料12’の上から内側面にゴム糊15’が塗布された筒状のニット布14’を嵌めこむ。このとき、図3に示すように、ゴムスリーブ21の方から順に数えて、織布17’、接着ゴム材料11’、撚り糸16’、接着ゴム材料11’、圧縮ゴム材料12’、ゴム糊15’、及びニット布14’が積層された状態となっている。そしてさらに、それらの外側に円筒状外型22を取り付ける。
【0064】
続いて、円筒状外型22をゴムスリーブ型21に取り付けた状態でゴムスリーブ型21に、例えば高温の水蒸気を送りこんで熱及び圧力をかけ、ゴムスリーブ型21を膨らませて円筒状外型22に圧接させ、ゴムスリーブ型21と円筒状外型22とでベルト材料を挟み込む。このときベルト材料は、例えば、温度が150〜180℃となっており、半径方向外方に0.5〜1.0MPaの圧力がかかった状態となっている。そのため、ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し、ニット布14’、撚り糸16’及び織布17’のゴム成分への接着反応も進行し、さらに、Vリブ13形成部である円筒状外型22の内側面の突条部22aによってVリブ13の間のV溝が成形される。また、架橋反応と同時に、ゴム糊15’がニット布14’の編み目から露出する。このようにしてVリブ付ベルトスラブ(ベルト本体前駆体)が成形される。
【0065】
最後に、Vリブ付ベルトスラブを冷却してからそれをベルト成形装置20から取り外す。そして、取り外したVリブ付ベルトスラブを例えば10.68〜28.48mmの幅に輪切りしてから、それぞれの表裏を裏返す。これによってVリブドベルトBが得られる。
【0066】
以上の製造方法によれば、VリブドベルトBの未架橋ゴム成分の架橋反応、ゴム成分と繊維成分との接着反応、及び、Vリブ13の成形を同時に行うことができ、容易に製造することができる。
【0067】
なお、本実施形態ではニット布14’及び織布17’を円筒状にしたものをゴムスリーブ型21に嵌めてセットしたが、所定の接着処理を施したニット布14’及び織布17’をシート状のままゴムスリーブ型21に巻き付けるようにしてもよい。また、シート状の接着ゴム材料11’及び圧縮ゴム材料12’をゴムスリーブ型21に巻き付けてセットしたが、予め円筒状に成形したものをゴムスリーブ型21に嵌めてセットしてもよい。
【0068】
なお、ベルト成形装置20は、円筒状外型22の内側面にVリブドベルトBのVリブ13を形成するためのV溝が設けられたものとして説明したが、特にこれに限られるものではなく、例えば、ゴムスリーブ型の外周側面にVリブドベルトBのVリブ13を形成するための突条部が設けられると共に円筒状外型22の内周面はVリブドベルトBの背面を成形するために平滑に設けられたものであってもよい。この場合、ニット布14’、圧縮ゴム材料12’、接着ゴム材料11’、撚り糸16’、接着ゴム材料11’、織布17’の順にゴムスリーブ型21への巻き付けを行う。
【0069】
また、本実施形態では、リブ表面ゴム層15はゴム糊15’をニット布14’に塗布することによって設けたが、特にこれに限られるものではなく、シート状に形成した未架橋ゴム組成物をベルト成形装置20のゴムスリーブ型21にニット布14’をセットした後に巻き付けることによって設けられていてもよい。
【0070】
次に、上記VリブドベルトBを用いた自動車のエンジンルームに設けられる補機駆動ベルト伝動装置50について説明する。
【0071】
図5は、補機駆動ベルト伝動装置50のプーリレイアウトを示す。この補機駆動ベルト伝動装置50は、4つのリブプーリ及び2つのフラットプーリの6つのプーリに巻き掛けられたサーペンタインドライブ方式のものである。
【0072】
この補機駆動ベルト伝動装置50のレイアウトは、最上位置のパワーステアリングプーリ51と、そのパワーステアリングプーリ51の下方に配置されたジェネレータプーリ52と、パワーステアリングプーリ51の左下方に配置された平プーリのテンショナプーリ53と、そのテンショナプーリ53の下方に配置された平プーリのウォーターポンププーリ54と、テンショナプーリ53の左下方に配置されたクランクシャフトプーリ55と、そのクランクシャフトプーリ55の右下方に配置されたエアコンプーリ56とにより構成されている。これらのうち、平プーリであるテンショナプーリ53及びウォーターポンププーリ54以外は全てリブプーリである。そして、VリブドベルトBは、Vリブ13側が接触するようにパワーステアリングプーリ51に巻き掛けられ、次いで、ベルト背面が接触するようにテンショナプーリ53に巻き掛けられた後、Vリブ13側が接触するようにクランクシャフトプーリ55及びエアコンプーリ56に順に巻き掛けられ、さらに、ベルト背面が接触するようにウォーターポンププーリ54に巻き掛けられ、そして、Vリブ13側が接触するようにジェネレータプーリ52に巻き掛けられ、最後にパワーステアリングプーリ51に戻るように設けられている。この補機駆動ベルト伝動装置50においては、例えば、パワーステアリングプーリ51とジェネレータプーリ52との間のベルトスパン長が150mm、及び、クランクシャフトプーリ55とエアコンプーリ56との間のベルトスパン長が180mmである。ここで、ベルトスパン長とは、相互に隣接してVリブドベルトが巻き掛けられた一対のプーリにおける共通接線の接点間距離である(養賢堂発行「新版 ベルト伝動・精密搬送の実用設計 ベルト伝動技術懇話会編」第39頁)。
【0073】
以上のような構成の補機駆動ベルト伝動装置50では、本発明のVリブドベルトBが巻き掛けられて使用されているので、ベルト走行開始時から長期にわたって、プーリ接触部分において低摩擦係数の状態を維持することができ、結果として優れた異音抑制効果を得ることができる。また、この補機駆動ベルト伝動装置50がコンパクト化されるのに伴って、ベルトスパン長が小さくなると共にプーリ間のミスアライメントが生じやすくなるが、この場合でも、上記VリブドベルトBを用いることにより、ミスアライメントに起因する異音の発生を小さく抑えることができる。
【0074】
なお、ミスアライメントは、一対のリブプーリP1、P2の一方の他方に対する図6に示すようなプーリずれや図7(a)及び(b)に示すようなプーリ倒れが原因となって生じる。ミスアライメント量αは、図8に示すように、リブプーリP1、P2にVリブドベルトBを巻き掛けて所定軸加重を与えた状態でそれらの軸間位置Cを測定すると共に、軸位置における一方のリブプーリP1に対する他方のリブプーリP2の前後方向のずれΔCを測定し、α=tan−1(ΔC/C)として求められる(養賢堂発行「新版 ベルト伝動・精密搬送の実用設計 ベルト伝動技術懇話会編」第64頁及び第65頁)。
【実施例】
【0075】
実施例1〜12及び比較例1〜3のVリブドベルトを作製し、試験評価を行った。それぞれの構成は、表1にも示す。
【0076】
(試験評価用ベルト)
<接着ゴム材料>
接着ゴム層を形成するための接着ゴム材料として、EPDM(JSR社製、商品名:JSR EP123)を原料ゴムとして、この原料ゴム100質量部に対して、カーボンブラック(旭カーボン社製、商品名:旭#60)50質量部、可塑剤(日本サン石油社製、商品名:サンフレックス2280)15質量部、架橋剤(日本油脂社製、商品名:パークミルD)8質量部、老化防止剤(川口化学工業社製、商品名:アンテージMB)3質量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名:酸化亜鉛二種)6質量部、及びステアリン酸(花王社製、商品名:ステアリン酸)1質量部を配合して混練した未加硫ゴム組成物を調製した。この未架橋ゴム組成物を、ロールを用いて厚さ0.4mmのシート状に加工した。
【0077】
<圧縮ゴム材料>
圧縮ゴム層を形成するための圧縮ゴム材料として、EPDMを原料ゴムとして、この原料ゴム100質量部に対して、カーボンブラック55質量部、可塑剤15質量部、架橋剤8質量部、老化防止剤3質量部、酸化亜鉛6質量部、及びステアリン酸1質量部を配合して混練した未加硫ゴム組成物を調製した。この未架橋ゴム組成物を、ロールを用いて厚さ1mmのシート状に加工した。
【0078】
<RFL水溶液>
レゾルシン(R)とホルマリン(F)とを混合し、水酸化ナトリウム水溶液を加えて攪拌し、2時間熟成して、RF初期縮合物(R/Fモル比=1/1.5)を得た。そして、RF初期縮合物にVPラテックス(L)をRF/L質量比=1/8となるよう混合し、さらに、水を加えて固形分濃度20%となるよう調整した後、さらに、RFL固形分100質量部に対してPTFEディスパージョン溶液(AGC社製、商品名:フルオンPTFE AD911、PTFE平均粒子径0.25μm、PTFE60質量%含有)30質量部を配合し、24時間攪拌を行ってPTFE含有RFL水溶液を調製した。
【0079】
<ゴム糊>
リブ表面ゴム層を形成するためのゴム糊として、以下のゴム糊(1)〜(6)を調整した。
【0080】
−ゴム糊(1)−
EPDMを原料ゴムとして、この原料ゴム100質量部に対して、カーボンブラック40質量部、可塑剤15質量部、架橋剤8質量部、老化防止剤3質量部、酸化亜鉛6質量部、ステアリン酸1質量部、及び超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン240S)50質量部を配合して混練した未加硫ゴム組成物を調製し、これをトルエンの溶剤に溶解した。
【0081】
−ゴム糊(2)−
超高分子量ポリエチレンの代わりにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(AGC社製、商品名:フルオンPTFE L173J)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0082】
−ゴム糊(3)−
超高分子量ポリエチレンの代わりにモンモリロナイト(ホージュン社製、商品名:ベンゲルHVP)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0083】
−ゴム糊(4)−
超高分子量ポリエチレンの代わりに酸化チタン(石原産業社製、商品名:A−100)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0084】
−ゴム糊(5)−
超高分子量ポリエチレンの代わりにグラファイト(日本黒鉛工業社製、商品名:UP−10)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0085】
−ゴム糊(6)−
超高分子量ポリエチレンの代わりにポリエチレングリコール(PEG)ラウリン酸エステル(松本油脂製薬社製、商品名:TB−202)を配合したことを除いてゴム糊(1)と同一の成分からなるゴム糊を調製した。
【0086】
<実施例1>
ベルトの背面を所定形状に成形するためのゴムスリーブ型21と、ベルトの内側を所定形状に成形するための円筒状外型22と、からなるベルト成形装置20を用いて、Vリブドベルトを作製した。円筒状外型22は、ベルトにVリブを形成するための突条部22aが円筒状外型22の内側に周方向に設けられたものであった。
【0087】
Vリブドベルトを構成する材料として、接着ゴム材料、圧縮ゴム材料、片面にゴム糊を塗布したニット布、編布及び撚り糸を準備した。
【0088】
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布は、高捲縮にウーリー加工したポリエステル糸(84dtex)を編布としたものであった。このリブ側ニット補強布には、予め、上記調製したPTFE含有RFL水溶液に浸漬した後に加熱して乾燥させるRFL接着処理を行った。このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦64本及び横39本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向250%及びベルト幅方向250%であった。そして、ニット布の片面に、リブ表面ゴム層を形成するためのゴム糊(1)を塗布した。
【0089】
まず、ベルト成形装置20のゴムスリーブ型21に、背面側補強布、ベルト本体の背面側を形成するための未加硫ゴム材料、撚り糸、を順に巻き付け、次いで、ベルト本体のVリブ側を形成するための未加硫ゴム材料、及び上記の接着処理を行ったリブ側ニット補強布を巻き付けた。そして、V溝が設けられた円筒状外型22を膨張させてゴムスリーブ型21側に押圧すると共にゴムスリーブ型21を高熱の水蒸気などにより加熱した。このとき、ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し、加えて、撚り糸、背面側補強布、リブ側ニット補強布のゴムへの接着反応も進行した。これによって、筒状のベルト前駆体が得られた。
【0090】
このベルト前駆体をベルト成形装置20から取り外し、長さ方向に、幅10.68mmとなるように幅切りし、それぞれの表裏を裏返すことによってVリブドベルトを得た。このようにして得られたVリブドベルトを実施例1とした。
【0091】
<実施例2>
リブ表面ゴム層を形成しないことを除いて実施例1と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例2とした。
【0092】
<実施例3>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布にRFL接着処理を行わないことを除いて実施例1と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例3とした。
【0093】
<実施例4>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布にRFL接着処理を行わないことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例4とした。
【0094】
<実施例5>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、芯糸がポリウレタン弾性糸(22dtex)及びカバーリング糸がナイロン糸(78dtex)であるシングルカバードヤーンからなる編布を用いたことを除いて実施例1と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例5とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦75本及び横55本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向350%及びベルト幅方向350%であった。
【0095】
<実施例6>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、芯糸がポリウレタン弾性糸(22dtex)及びカバーリング糸が超高分子量ポリエチレン糸(85dtex)であるシングルカバードヤーンからなる編布を用いたことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例6とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦75本及び横55本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向350%及びベルト幅方向350%であった。
【0096】
<実施例7>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、ポリウレタン弾性糸(22dtex)を芯糸として、超高分子量ポリエチレン糸(85dtex)をカバーリングした上にさらにナイロン糸(78dtex)をカバーリングしたダブルカバードヤーンからなる編布を用いたことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを実施例7とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦65本及び横45本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向300%及びベルト幅方向300%であった。
【0097】
<実施例8>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(2)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例8とした。
【0098】
<実施例9>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(3)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例9とした。
【0099】
<実施例10>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(4)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例10とした。
【0100】
<実施例11>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(5)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例11とした。
【0101】
<実施例12>
リブ表面ゴム層の形成にゴム糊(6)を用いたことを除いて実施例3と同一構成のVリブドベルトを作成し、これを実施例12とした。
【0102】
<比較例1>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、ウレタン糸(22dtex)を芯糸としてナイロン糸(78dtex)でカバーリングした編布を用いたことを除いて実施例1と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを比較例1とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦85本及び横75本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向550%及びベルト幅方向550%であった。
【0103】
<比較例2>
Vリブ表面を被覆するリブ側ニット補強布として、ポリエステル(84dtex)をウーリー加工して編布としたものを用いたことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを比較例2とした。なお、このリブ側ニット補強布の1インチ平方当たりの編み目数は、縦40本及び横25本であり、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率は、ベルト長さ方向100%及びベルト幅方向100%であった。
【0104】
このVリブドベルトは、ベルト本体ゴムがVリブ表面に設けられたリブ側ニット補強布から全体に浸みだしてリブ側ニット補強布の繊維がゴムに埋もれてしまうのが観察された。
【0105】
<比較例3>
Vリブ表面をリブ側ニット補強布で被覆しないことを除いて実施例2と同一の構成のVリブドベルトを作製し、これを比較例3とした。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
(試験評価方法)
<耐熱走行試験>
図9は、耐熱走行試験におけるベルト走行試験機90のプーリレイアウトを示す。
【0109】
このベルト走行試験機90は、上下に設けられた大径のリブプーリ91,92(上側が従動プーリ及び下側が駆動プーリ、共にプーリ径120mm)と、それらの上下方向中間に設けられたアイドラプーリ93(プーリ径70mm)と、アイドラプーリ93の右方に設けられた小径従動リブプーリ94(プーリ径45mm)と、で構成されており、アイドラプーリ93におけるVリブドベルト背面の巻き掛け角度が90°となるように、また、小径従動リブプーリ94におけるVリブドベルトBの巻き掛け角度が90°となるように、それぞれ配されている。そして、VリブドベルトBは、Vリブがリブプーリ91,92及びリブプーリ94に接すると共に背面側がアイドラプーリ93に接するようにして、このベルト走行試験機90に巻き掛けられる。
【0110】
実施例1〜12及び比較例1〜3のそれぞれのVリブドベルトについて、上記ベルト走行試験機90にセットし、200Nのベルト張力が負荷されるように小径従動リブプーリ94に側方にセットウェイトを負荷し、そして、雰囲気温度120℃の下で、駆動リブプーリ92を4900rpmの回転数で回転させてベルトを走行させた。VリブドベルトのVリブにクラックが発生するまでの走行時間を測定し、ベルト走行開始から500時間経過した時点でベルト走行を打ち切った。
【0111】
<ミスアライメント異音耐久試験>
図10は、ミスアライメント異音耐久試験におけるベルト走行試験機100のプーリレイアウトを示す。
【0112】
このベルト走行試験機100は、上下に設けられた上側の駆動リブプーリ101(プーリ径80mm)及び下側の大径従動リブプーリ102(プーリ径130mm)と、それらの上下方向中間に設けられたアイドラプーリ103(プーリ径80mm)と、アイドラプーリ103の右方に配された小径従動リブプーリ104(プーリ径60mm)と、から構成されている。そして、VリブドベルトBは、Vリブが駆動リブプーリ101,大径従動リブプーリ102及び小径従動リブプーリ104に接すると共に背面側がアイドラプーリ103に接するようにして、このベルト走行試験機100に巻き掛けられる。
【0113】
実施例1〜12及び比較例1〜3のそれぞれのVリブドベルトについて、上記ベルト走行試験機100にセットし、アイドラプーリ103との間のミスアライメント量が3°となるように大径リブプーリ102を手前にオフセットしてプーリずれによるミスアライメントを生じさせ、雰囲気温度5℃の下、駆動リブプーリ101を750rpmで反時計回りに回転させて、ベルト走行試験機100から1m離れた場所から聴覚ではっきり聴きとれる程度の異音が観測されるまでベルト走行させた。
【0114】
<6%強制スリップ摩耗試験>
図11は、6%強制スリップ摩耗試験におけるベルト走行試験機110のプーリレイアウトを示す。
【0115】
このベルト走行試験機110は、上下方向に設けられたリブプーリ111,112(上側が従動プーリ及び下側が駆動プーリ、プーリ径80mm)と、それらの上下方向の中間の右方に設けられた大径のリブプーリ113と、から構成されており、大径リブプーリ113におけるVリブドベルトBの巻き掛け角度が90°となるように配されている。そして、VリブドベルトBは、Vリブが従動リブプーリ111,駆動リブプーリ112及び大径リブプーリ113に接するようにして、このベルト走行試験機110に巻き掛けられる。
【0116】
実施例1〜12及び比較例1〜3のそれぞれのVリブドベルトについて、質量を測定した後、ベルト走行試験機110に巻き掛け、9.8Nmの軸トルクが負荷されるように大径リブプーリ113に側方にデッドウェイトを負荷し、そして、6%強制スリップが生じるように、つまり、駆動リブプーリ112の回転数3135rpmに対して従動プーリの回転数がそれよりも6%少ない2958rpmとなるように駆動リブプーリ軸及び従動プーリ軸を歯付ベルトで同期させてベルトの走行を行った。100時間ベルト走行させ保ちに回転を停止し、再度Vリブドベルトの質量を測定した。
【0117】
ベルト走行前後の質量減量をベルト走行前の質量で除して摩耗率を算出した。
【0118】
(試験評価結果)
表3〜6は、試験評価の結果を示す。
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
【表5】
【0122】
【表6】
【0123】
リブ側ニット補強布の長さ方向の伸び率が100〜500%及び幅方向の伸び率が150〜500%である実施例1〜12と、長さ方向、幅方向共にリブ側ニット補強布の伸び率が550%である比較例1と、と比較すると、後者はミスアライメント異音耐久試験において異音発生までの時間が著しく短く、また、6%強制スリップ摩耗試験において、後者は摩耗率が大きいことが分かる。
【0124】
リブ側ニット補強布の編み目数が64×39であって伸び率がベルト方向、ベルト幅方向共に250%の実施例2と、リブ側ニット補強布の編み目数が40×25であって伸び率がベルト方向、ベルト幅方向共に100%の比較例2とを比較すると、後者はリブ側ニット補強布からベルト本体ゴムが全体にしみ出してリブ側ニット補強布の繊維がゴムにほとんど埋もれてしまい、ベルト走行初期から異音が発生することが分かる。
【0125】
Vリブ表面にベルト本体ゴムが滲みだしている比較例2、及び、Vリブ表面はリブ側ニット補強布で被覆されずベルト本体ゴムが露出している比較例3は、ミスアライメント異音耐久試験において走行初期より異音が発生していることから、Vリブ表面にベルト本体ゴムが全面に露出しているとミスアライメント走行時の異音の原因となることが分かる。
【0126】
摩擦係数低下剤として種々の薬品を用いた実施例3,8〜12によれば、耐熱走行試験、ミスアライメント異音耐久試験、及び6%スリップ摩耗試験において、いずれも、同程度の性能のVリブドベルトが得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
以上説明したように、本発明はVリブドベルト及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0128】
B Vリブドベルト
10 ベルト本体
13 Vリブ
14 リブ側ニット補強布
15 リブ表面ゴム層
20 ベルト成形装置
21 ゴムスリーブ型
22 円筒状外型
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト内周側にベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブを有するベルト本体と、該ベルト本体の該Vリブ表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布と、を備えたVリブドベルトであって、
上記リブ側ニット補強布は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項2】
請求項1に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記リブ側ニット補強布は、摩擦係数低下剤を含んだレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液によるRFL層で表面被覆されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項3】
請求項2に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記摩擦係数低下剤がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項4】
請求項3に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記摩擦係数低下剤であるポリテトラフルオロエチレンが上記RFL層のRFL固形分100質量部に対して10〜50質量部含まれていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載されたVリブドベルトにおいて、
上記ベルト本体のVリブと上記リブ側ニット補強布との間にリブ表面ゴム層が設けられており、
上記リブ表面ゴム層は上記リブ側ニット補強布の編み目から浸みだしてプーリ接触表面に露出していることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項6】
請求項5に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記リブ表面ゴム層は、摩擦係数低下剤が配合されたゴム組成物で形成されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項7】
請求項6に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記摩擦係数低下剤は、原料ゴム成分100質量部に対して5〜100質量部配合されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載されたVリブドベルトにおいて、
上記リブ側ニット補強布を構成する糸がポリアミド繊維又はポリエステル繊維のウーリー加工糸であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載されたVリブドベルトにおいて、
上記リブ側ニット補強布を構成する糸がポリウレタン弾性糸を芯糸とするカバーリングヤーンであることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項10】
請求項9に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記カバーリングヤーンは、少なくともポリアミド及び超高分子量ポリエチレンのいずれか1種からなる糸でカバーリングされていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項11】
請求項9又は10に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記カバーリングヤーンはダブルカバードヤーンであり、
上記ダブルカバードヤーンは、少なくとも超高分子量ポリエチレン及びポリアミドのいずれか1種からなる糸で二重にカバーリングされていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載されたVリブドベルトにおいて、
上記ベルト本体の少なくともVリブを構成する部分がエチレン−α−オレフィンエラストマーを原料ゴムとするゴム組成物で形成されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載されたVリブドベルトの製造方法であって、
円筒状のゴムスリーブ型の外周に、ベルト本体を形成するための未架橋ゴム材料、及びリブ側ニット補強布となるニット布を含むベルト材料を設けるステップと、
上記ベルト材料を設けたゴムスリーブ型を、内周にリブ形成部が設けられた円筒状外型に挿入するステップと、
上記円筒状外型に挿入された上記ゴムスリーブ型を膨張させることにより上記ベルト材料を該円筒状外型に圧接させると共に、該ベルト材料に含まれる未架橋ゴム組成物を架橋させて一体化させるステップと、
を備えたVリブドベルトの製造方法。
【請求項1】
ベルト内周側にベルト長さ方向に伸びるように設けられた複数のVリブを有するベルト本体と、該ベルト本体の該Vリブ表面を被覆するように設けられたリブ側ニット補強布と、を備えたVリブドベルトであって、
上記リブ側ニット補強布は、3cm幅の短冊状テストピースに50Nの荷重を負荷したときの伸び率がベルト長さ方向について100〜500%で且つベルト幅方向の伸び率が150〜500%であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項2】
請求項1に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記リブ側ニット補強布は、摩擦係数低下剤を含んだレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液によるRFL層で表面被覆されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項3】
請求項2に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記摩擦係数低下剤がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項4】
請求項3に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記摩擦係数低下剤であるポリテトラフルオロエチレンが上記RFL層のRFL固形分100質量部に対して10〜50質量部含まれていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載されたVリブドベルトにおいて、
上記ベルト本体のVリブと上記リブ側ニット補強布との間にリブ表面ゴム層が設けられており、
上記リブ表面ゴム層は上記リブ側ニット補強布の編み目から浸みだしてプーリ接触表面に露出していることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項6】
請求項5に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記リブ表面ゴム層は、摩擦係数低下剤が配合されたゴム組成物で形成されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項7】
請求項6に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記摩擦係数低下剤は、原料ゴム成分100質量部に対して5〜100質量部配合されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載されたVリブドベルトにおいて、
上記リブ側ニット補強布を構成する糸がポリアミド繊維又はポリエステル繊維のウーリー加工糸であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載されたVリブドベルトにおいて、
上記リブ側ニット補強布を構成する糸がポリウレタン弾性糸を芯糸とするカバーリングヤーンであることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項10】
請求項9に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記カバーリングヤーンは、少なくともポリアミド及び超高分子量ポリエチレンのいずれか1種からなる糸でカバーリングされていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項11】
請求項9又は10に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記カバーリングヤーンはダブルカバードヤーンであり、
上記ダブルカバードヤーンは、少なくとも超高分子量ポリエチレン及びポリアミドのいずれか1種からなる糸で二重にカバーリングされていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載されたVリブドベルトにおいて、
上記ベルト本体の少なくともVリブを構成する部分がエチレン−α−オレフィンエラストマーを原料ゴムとするゴム組成物で形成されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載されたVリブドベルトの製造方法であって、
円筒状のゴムスリーブ型の外周に、ベルト本体を形成するための未架橋ゴム材料、及びリブ側ニット補強布となるニット布を含むベルト材料を設けるステップと、
上記ベルト材料を設けたゴムスリーブ型を、内周にリブ形成部が設けられた円筒状外型に挿入するステップと、
上記円筒状外型に挿入された上記ゴムスリーブ型を膨張させることにより上記ベルト材料を該円筒状外型に圧接させると共に、該ベルト材料に含まれる未架橋ゴム組成物を架橋させて一体化させるステップと、
を備えたVリブドベルトの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−242825(P2010−242825A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90756(P2009−90756)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
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