説明

VEGFアンタゴニストを用いて疾患を処置する方法

高血圧を軽減又は予防することが望ましい、血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニストによって処置可能な疾患又は状態を患うヒト被験体において、VEGFアンタゴニストの投与に伴う高血圧を軽減又は予防する方法を提供する。本方法は特に、静脈内投与されたVEGF阻害剤による処置に対する不応答性を有する患者の処置に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
発明の分野
本発明の分野は、血圧上昇などの副作用を最低限にするように血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニストを用いてヒト被験体における疾患を処置する治療法に関する。処置対象となる患者群は、血圧上昇を最低限にすることが望ましい群である。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
血管内皮増殖因子(VEGF)は、病的状態における血管新生の主要な刺激因子であることが認識されている。VEGFを遮断する方法への取り組みには、可溶性受容体構築物、アンチセンス分子、RNAアプタマー、及び抗体が含まれる。VEGF受容体を基礎とするトラップ(trap)アンタゴニストの説明については、例えば、PCT WO/0075319を参照されたい。
【0003】
抗VEGFヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブを投与された被験体において、頻度及び重篤度の高い高血圧が報告されている(Hurwitz, et al, (2004) N. Engl. J. Med. 350:2335-42)。
【発明の開示】
【0004】
発明の簡単な概要
ある局面において、本発明は、血圧上昇を最低限にすることが望ましいヒト被験体に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)アンタゴニストを皮下投与する工程を含む、VEGFアンタゴニストの投与に伴う高血圧を軽減する方法を特徴とする。
【0005】
より具体的には、VEGFアンタゴニストの静脈内投与に伴う収縮期及び拡張期血圧の上昇が皮下投与によってほとんど解消されることが、以下で説明する調査によって実証されている。本発明の方法は、高血圧の予防が望ましい患者に対して特に有用である。
【0006】
本発明の方法は、患者に投与された場合に血圧上昇を伴う任意のVEGFアンタゴニストに対して有用である。ある態様において、VEGFアンタゴニストは、VEGF受容体Flt1の免疫グロブリン様(Ig)ドメイン2及びVEGF受容体Flk1又はFlt4のIgドメイン3、並びに多量体化成分を有する融合ポリペプチドを含む、高親和性融合タンパク質二量体(すなわち「トラップ」)である。さらにより具体的には、VEGFアンタゴニストは、Flt1D2.Flk1D3.FcΔC1(a)(配列番号:1〜2)、VEGFR1R2-FcΔC1(a)(配列番号:3〜4)、又はこれらの機能等価物からなる群より選択される融合ポリペプチドを含む。機能的に等価な分子には、哺乳動物宿主細胞内で発現しかつグリコシル化、C末端リシン及び/又はシグナルペプチドの切断などの翻訳後修飾を含む、2つの融合ポリペプチドからなる二量体タンパク質が含まれる。
【0007】
本発明のある局面において、「免疫不応答(non-responder)」患者を、治療的有効量で投与されかつ治療的有効期間にわたって反復投与される血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニストの皮下投与によって処置する。本発明によると、「免疫不応答者」には、VEGFアンタゴニストによる処置が必要であるが、処置の際に、そのような投与によって患者の血圧に望ましくないピークが生じるという点で、有効となるのに十分な量のVEGFアンタゴニストの静脈内投与が受けられない個人が含まれる。従って、そのような免疫不応答者には、十分に制御されていない高血圧を当初患っていたが血圧上昇によって患者の健康に医学的リスクが生じている患者、及びさらに、血圧は正常であるか正常レベル内で制御されているがVEGFアンタゴニストで処置された場合に患者に医学的リスクを生じるレベルまで血圧が上昇する患者が含まれる。
【0008】
VEGF阻害剤を用いた処置により寛解、阻害、又は軽減される、疾患及び/もしくは状態又はこれらの再発は、本発明の方法に包含される。そのような状態には、例えば、癌、糖尿病、血管透過性、浮腫、又は炎症(例えば、創傷、脳卒中、もしくは腫瘍に関連する脳浮腫、炎症性障害(例えば、乾癬又は関節炎)に関連する浮腫、喘息、火傷に関連する浮腫、腫瘍、炎症、もしくは外傷に関連する腹水及び胸水、慢性気道炎症、毛細管漏出症候群、タンパク質漏出の亢進に関連する敗血症性腎臓疾患、眼障害(例えば、年齢関連性の黄斑変性及び糖尿病性網膜症)、異常な血管新生(例えば、多嚢胞性卵巣疾患、子宮内膜症、及び子宮内膜癌))が含まれる。VEGF阻害剤はまた、既存の腫瘍又は転移癌、糖尿病の後退又はその大きさの低下を誘導するために、腫瘍新生血管形成を減少させるために、移植角膜生存時間を向上させるために、角膜移植拒絶反応又は角膜のリンパ脈管新生(lympangiogenesis)及び血管新生を阻害するためにも使用され得る。
【0009】
処置対象の被験体は好ましくは、上記で列挙した状態のうちの一つを有する、高血圧を患っているか、高血圧発症のリスクを有するか、又は高血圧の予防もしくは阻害が望ましい被験体(例えば、心血管系疾患のリスクを有する被験体、65歳を超える被験体、又は他の方法では高血圧を発症することなく適切な用量のVEGFアンタゴニストによって処置することができない患者)である。
【0010】
第2の局面において、本発明は、高血圧のリスクを有する患者において血管内皮増殖因子(VEGF)阻害剤による処置の間に高血圧の発症を予防する方法を特徴とし、該方法は、患者への皮下注射によってVEGFアンタゴニストを投与する工程を含む。
【0011】
他の目的及び利点は、以下の詳細な説明を精査すれば明らかとなろう。
【0012】
詳細な説明
本発明の方法及び組成物について説明する前に、特定の方法及び記載される実験条件は変更され得るので、これらの方法及び条件に本発明が制限されないことが理解されるべきである。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるので、本明細書で使用される専門用語は特定の態様の説明のみを目的にしており限定を意図したものではないことも理解されるべきである。
【0013】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される、単数形の「1つの(a)」「ある(an)」、及び「その(the)」とは、文脈上で明確に規定されない限り、複数の言及も含む。従って、例えば、「ある方法」に対する言及には、1つ又は複数の方法、及び/又は本明細書に記載されかつ/もしくは本開示を読めば当業者には明らかとなる種類の段階等が含まれる。
【0014】
特記されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本発明の実施又は試験においては本明細書に記載されたものと類似した又は等価な任意の方法及び材料を使用できるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。
【0015】
一般的記載
正常な哺乳動物において、血圧は、生理学的因子の複雑なシステムによって厳密に制御されている。高い血圧(高血圧)は、例えば脳卒中、急性冠動脈症候群、心筋梗塞、及び腎不全などのいくつかの有害な医学的事象及び状態をもたらす可能性があるので、このことは生存する上で重要である。VEGFは、インビトロで冠動脈を一過的に拡張させて(Ku et al. (1993) Am J Physiol 265:H585-H592)低血圧を誘発する(Yang et al. (1996) J Cardiovasc Pharmacol 27:838-844)ことが、研究によって示されている。子癇及び子癇前症を処置する方法は公知であり、例えば、米国特許出願公開第2003/0220262号、国際公開公報第98/28006号、国際公開公報第00/13703号には、VEGFなどの血管新生因子又はそのアゴニストの有効量を患者に投与する工程を含む高血圧を処置する方法が記載されている。米国特許出願公開第2003/0144298号は、VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤の高レベル投与が、長期投与の場合に、ラットにおいて持続的な血圧上昇を導くことを示している。
【0016】
VEGFアンタゴニスト及びVEGF特異的融合ポリペプチドトラップ
本発明の方法は、被験体に投与された場合に、血圧上昇に関連する任意のVEGFアンタゴニストと共に使用され得る。好ましい態様において、VEGFアンタゴニストは、VEGFと高い親和性で結合できる二量体タンパク質であり、ヒトIgG1のFc部分に融合したヒトVEGFR1及びVEGFR2の受容体細胞外ドメインの主要なリガンド結合部分からなる2つの受容体-Fc融合ポリペプチドで構成される(「VEGFトラップ」)。具体的には、VEGF「トラップ」は、VEGFR2由来のIgドメイン3と融合し、次いでIgG1のFcドメインと融合した、VEGFR1由来のIgドメイン2からなる。
【0017】
好ましい態様において、VEGFトラップをコードする発現プラスミドがCHO細胞にトランスフェクトされ、これは、培養培地中にVEGFトラップを分泌する。得られるVEGFトラップはタンパク質分子量97kDaの二量体糖タンパク質であり、〜15%のグリコシル化を含み、総分子量が115kDaとなる。二量体を形成する融合ポリペプチドは、1つもしくは複数のAsn残基におけるグリコシル化及び/又は末端Lysの除去によって翻訳後修飾される。
【0018】
VEGFトラップは、高親和性受容体の結合ドメインを用いてそのリガンドに結合するので、モノクローナル抗体よりもVEGFに対して高い親和性を有する。VEGFトラップは、VEGF-A(KD=1.5pM)、PLGF1(KD=1.3nM)、及びPLGF2(KD=50pM)に結合するが、他のVEGFファミリーメンバーへの結合は未だ完全に特徴付けられていない。
【0019】
処置群
好ましくは本明細書に記載の方法によって処置されるヒト被験体は、抗血管新生剤による処置に起因する1つ又は複数の副作用(例えば、高血圧、タンパク尿)を予防又は軽減することが望ましい被験体である。特に好ましい被験体は、高血圧を患う被験体、65歳を超える被験体、又は、望ましくない副作用の軽減又は予防によって、他の方法では有害医学的事象のリスクに該被験体をさらすことなしには使用できなかったような最適な治療用量の抗血管新生剤の使用が可能になる被験体である。腎細胞癌、膵癌、進行性乳癌、結腸直腸癌、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、又は黒色種を患う患者は、本発明の併用療法で処置され得る。本発明の併用療法による処置によって寛解、阻害、もしくは軽減される疾患及び/もしくは状態、又はそれらの再発には、以下が含まれる:癌、糖尿病、血管透過性、浮腫、又は炎症(例えば、創傷、脳卒中、もしくは腫瘍に関連する脳浮腫、炎症性障害(例えば、乾癬又は関節炎)に関連する浮腫、喘息、火傷に関連する浮腫、腫瘍、炎症、もしくは外傷に関連する腹水及び胸水、慢性気道炎症、毛細管漏出症候群、タンパク質漏出の亢進に関連する敗血症性腎臓疾患、眼障害(例えば、年齢関連性の黄斑変性及び糖尿病性網膜症)、異常な血管新生(例えば、多嚢胞性卵巣疾患、子宮内膜症、及び子宮内膜癌))。VEGF阻害剤はまた、既存の腫瘍又は転移癌、糖尿病の後退又はその大きさの低下を誘導するために、腫瘍新生血管形成を減少させるために、移植角膜生存時間を向上させるために、角膜移植拒絶反応又は角膜のリンパ脈管新生及び血管新生を阻害するためにも使用され得る。
【0020】
併用療法
多くの態様において、VEGFアンタゴニストは、第二のVEGFアンタゴニスト分子及び/又は降圧剤を含む、1つ又は複数の追加の化合物又は療法と組み合わせて投与され得る。併用療法には、VEGFアンタゴニスト及び1つ又は複数の追加の薬剤を含む単一薬学的投与製剤の投与、ならびに、それ自体の別個の薬学的投与製剤におけるVEGFアンタゴニスト及び1つ又は複数の追加の薬剤の投与が含まれる。例えば、VEGFアンタゴニスト及び、細胞障害性薬剤、化学療法剤、又は増殖阻害剤を、混合製剤などの単一投与組成物として一緒に患者に投与することができ、または、各薬剤を別々の投与製剤として投与することができる。別個の投与製剤を使用する場合、本発明のVEGF特異的融合タンパク質及び1つ又は複数の追加の薬剤を、同時に、又は別のずらした時間に、すなわち連続的に、投与することができる。
【0021】
本明細書で使用される「細胞障害性薬剤」という用語は、細胞の機能を阻害もしくは防止し、かつ/又は細胞の破壊を引き起こす物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、I131、I125、Y90、及びRe186)、化学療法剤、及び、細菌、真菌、植物、もしくは動物起源の酵素的に活性な毒素又はその断片のような毒素を含むことが意図される。
【0022】
「化学療法剤」とは、癌の処置に有用な化学的化合物である。化学療法剤の例には、以下が含まれる:アルキル化剤(例えば、チオテパ及びシクロホスファミド(Cytoxan(登録商標)));アルキルスルホネート(例えば、ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファン);アジリジン(例えば、ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)、及びウレドパ(uredopa));エチレンイミン及びメチルアメラミン(methylamelamine)(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、及びトリメチロールメラミンを含む);ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノブエンビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード);ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン);抗生物質(例えば、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリチアマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン);代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサート及び5-フルオロウラシル(5-FU));葉酸類似体(例えば、デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート);プリン類似体(例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン);ピリミジン類似体(例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン);アンドロゲン(例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン);抗副腎剤(anti-adrenal)(例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン);葉酸補充剤(例えば、フォリン酸(frolinic acid));アセグラトン;アルドホスファミドグルコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エフロールニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン類(例えば、パクリタキセル(Taxol(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)及びドセタキセル(Taxotere(登録商標);Aventis Antony, France);クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体(例えば、シスプラチン及びカルボプラチン);ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ(xeloda);イバンドロネート;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラマイシン;カペシタビン;並びに、上記いずれかの薬学的に許容される塩、酸、又は誘導体。この定義にはまた、以下も含まれる:腫瘍に対するホルモンの作用を調節又は阻害するよう作用する抗ホルモン剤(例えば、(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害性4(5)-イミダゾール、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びトレミフェン(フェアストン)を含む、抗エストロゲン);並びに、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリン)などの抗アンドロゲン)、及び上記いずれかの薬学的に許容される塩、酸、又は誘導体。
【0023】
本明細書で使用される「増殖阻害剤」とは、インビトロ又はインビボのいずれかにおいて細胞、特に癌細胞の増殖を阻害する化合物又は組成物を指す。増殖阻害剤の例には、G1期停止及びM期停止を誘発する薬剤などの、細胞周期の進行を(S期以外の時期に)遮断する薬剤が含まれる。古典的なM期遮断剤には、ビンカ類(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、Taxol(登録商標)、ならびに、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンなどのトポII阻害剤が含まれる。G1期停止をもたらすこれらの薬剤はまた、S期停止にも影響をもたらす(例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキサート、5-フルオロウラシル、及びara-Cなどの、DNAアルキル化剤)。
【0024】
本明細書で使用される「降圧剤」は、カルシウムチャネル遮断剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト(A-IIアンタゴニスト)、利尿剤、βアドレナリン受容体遮断剤、血管拡張剤、及びαアドレナリン受容体遮断剤を含むことを示唆する。
【0025】
カルシウムチャネル遮断剤には、アムロジピン;ベプリジル;クレンチアゼム;ジルチアゼム;フェンジリン;ガロパミル;ミベフラジル;プレニルアミン;セモチアジル;テロジリン;ベラパミル;アラニジピン;バルニジピン;ベニジピン;シルニジピン;エホニジピン;エルゴジピン;フェロジピン;イスラジピン;ラシジピン;レルカニジピン;マニジピン;ニカルジピン;ニフェジピン;ニルバジピン;ニモジピン;ニソルジピン;ニトレンジピン;シンナリジン;フルナリジン;リドフラジン;ロメリジン;ベンシクラン;エタフェノン;及びペルヘキシリンが含まれる。
【0026】
アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)には、アラセプリル;ベナゼプリル;カプトプリル;セロナプリル;デラプリル;エナラプリル;ホシノプリル;イミダプリル;リシノプリル;モベルチプリル;ペリンドプリル;キナプリル;ラミプリル;スピラプリル;テモカプリル;及びトランドラプリルが含まれる。
【0027】
アンジオテンシンII受容体アンタゴニストには、カンデサルタン(US 5,196,444);エプロサルタン;イルベサルタン;ロサルタン;及びバルサルタンが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0028】
β遮断剤には、アセブトロール;アルプレノロール;アモスラロール;アロチノロール;アテノロール;ベフノロール;ベタキソロール;ベバントロール;ビソプロロール;ボピンドロール;ブクモロール;ブフェトロール;ブフラロール;ブニトロロール;ブプラノロール;塩酸ブチドリン;ブトフィロロール;カラゾロール;カルテオロール;カルベジロール;セリプロロール;セタモロール;クロラノロールジレバロール;エパノロール;インデノロール;ラベタロール;レボブノロール;メピンドロール;メチプラノロール;メトプロロール;モプロロール;ナドロール;ナドキソロール;ネビバロール;ニプラジロール;オクスプレノロール;ペンブトロール;ピンドロール;プラクトロール;プロネタロール;プロプラノロール;ソタロール;スルフィナロール;タリノロール;テルタトロール;チリソロール;チモロール;トリプロロール;及びキシベノロールが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0029】
α遮断剤には、アモスラロール;アロチノロール;ダピプラゾール;ドキサゾシン;フェンスピリド;インドラミン;ラベトロール;ナフトピジル;ニセルゴリン;プラゾシン;タムスロシン;トラゾリン;トリマゾシン;及びヨヒンビンが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0030】
血管拡張剤には、脳血管拡張剤、冠血管拡張剤、及び抹消血管拡張剤が含まれる。脳血管拡張剤には、ベンシクラン;シンナリジン;シチコリン;シクランデレート;シクロニカート;ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン;エブルナモニン;ファスジル;フェノキセジル;フルナリジン;イブジラスト;イフェンプロジル;ロメリジン;ナフロニル;ニカメタート;ニセルゴリン;ニモジピン;パパベリン;チノフェドリン;ビンカミン;ビンポセチン;及びビキジルが含まれる。
【0031】
冠血管拡張剤には、アモトリフェン;ベンダゾール;ベンフロジルヘミスクシナート;ベンズヨーダロン;クロラシジン;クロモナール;クロベンフラール;クロニトラート;クロリクロメン;ジラゼプ;ジピリダモール;ドロプレニラミン;エフロキサート;四硝酸エリトリチル;エタフェノン;フェンジリン;フロレジル;ガングレフェン;ヘキセストロールビス(β-ジエチルアミノエチル)エーテル;ヘキソベンジン;イトラミントシレート;ケリン;リドフラジン;六硝酸マンニトール;メジバジン;ニトログリセリン;四硝酸ペンタエリスリトール;ペントリニトロール;ペルヘキシリン;ピメフィリン;プレニルアミン;硝酸プロパチル;トラピジル;トリクロミル;トリメタジジン;リン酸トロルニトレート;ビスナジンが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0032】
抹消血管拡張剤には、ニコチン酸アルミニウム;バメタン;ベンシクラン;ベタヒスチン;ブラジキニン;ブロビンカミン;ブフェニオード;ブフロメジル;ブタラミン;セチエジル;シクロニカート;シネパジド;シンナリジン;シクランデレート;ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン;エレドイシン;フェノキセジル;フルナリジン;ヘプロニカート;イフェンプロジル;イロプロスト;イノシトールナイアシネート;イソクスプリン;カリジン;カリクレイン;モキシシリト;ナフロニル;ニカメタート;ニセルゴリン;ニコフラノース;ナイリドリン;ペンチフィリン;ペントキシフィリン;ピリベジル;プロスタグランジンE1;スロクチジル;トラゾリン;及びキサンチノールナイアシネートが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0033】
利尿剤には、利尿性ベンゾチアジアジン誘導体;利尿性有機水銀;利尿性プリン;利尿性ステロイド;利尿性スルホンアミド誘導体;利尿性ウラシル;及びその他の利尿剤(例えば、アマノジン;アミロライド;アルブチン;クロラザニル;エタクリン酸;エトゾリン;ヒドラカルバジン;イソソルビド;マンニトール;メトカルコン;ムゾリミン;ペルヘキシリン;チクリナフェン;トリアムテレン;及び尿素)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0034】
投与法
本発明は、VEGFアンタゴニスト投与に伴う血圧上昇を回避、軽減、又は解消する、VEGFアンタゴニストによる処置の組成物及び方法を提供する。従って、本発明の方法において、VEGFアンタゴニストは、そのような処置を必要とする被験体に皮下投与される。
【0035】
本発明の方法の実施において有用な組成物は、本発明の薬剤を溶液として、懸濁液として、又はその両方として含む液体であり得る。「溶液/懸濁液」という用語は、活性物質の第一の部分が溶液として存在し、活性物質の第二の部分が粒子形態で液体マトリクス中に懸濁液として存在する、液体組成物を指す。また、液体組成物はゲルも含む。液体組成物は、水性であってもよく、軟膏形態であってもよい。
【0036】
本発明の方法を実施するのに有用な水性懸濁液又は溶液/懸濁液は、懸濁剤として1つ又は複数のポリマーを含み得る。有用なポリマーには、セルロースポリマーなどの水溶性ポリマー、及び架橋カルボキシル含有ポリマーなどの水不溶性ポリマーが含まれる。本発明の水性懸濁液又は溶液/懸濁液は、好ましくは、粘調性又は粘膜付着性であり、あるいは、さらにより好ましくは、粘稠性及び粘膜付着性の両方を有する。
【0037】
本発明の説明のために与えられかつその限定を意図するものではない以下の例示的な態様の説明を通じて、本発明のその他の特徴が明らかとなるであろう。
【0038】
実施例
以下の実施例は、本発明の方法及び組成物の製造法及び使用法の完全な開示及び説明を当業者に提供する目的で提供されるものであり、発明者らが本発明とみなす範囲を制限することを意図するものではない。使用された数値(例えば、量、温度等)に関しては正確性を確保するよう努めているが、ある程度の実験誤差及び偏差は酌量されるべきである。特記されない限り、パーセントは重量パーセントであり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧又は大気圧付近である。
【0039】
実施例1 VEGFアンタゴニストの皮下投与
調査0103
連続した6回の週1回注射によって、患者3名の初期コホートに、受容体を基礎とするVEGFアンタゴニスト(「VEGFトラップ」)(配列番号:4)25 ug/kgを皮下投与した。4週間後、さらに3名の患者をコホートに登録し、50 ug/kgの週1回注射を6回行った。4週間後、さらに3名の患者をコホートに登録し、50 ug/kgの週1回注射を6回行った。100 ug/kg、200 ug/kg、400 ug/kg、及び800 ug/kgの各コホート用量群に患者3名を登録し、このスケジュールを繰り返した。さらなるコホートを加え、800 ug/kgを週2回投与した。
【0040】
患者には、登録のための以下の基準を満たしていることが要求された:(1) 再発したか難治性の固形腫瘍(肺の扁平上皮癌を除く)、又は、少なくとも2種の標準的化学療法レジメン及びリツキシマブに対して抵抗性の非ホジキンリンパ腫を有し、かつ、転移又は残存原発腫瘍の測定可能部位を少なくとも1つ有する患者であること;(2) CNS原発腫瘍又は転移の病歴が無いこと;(3) その原疾患に対する治療的化学療法レジメンが全て失敗し、かつ、利用可能な標準的化学療法、免疫療法、抗腫瘍療法又は放射線療法の選択肢が無い患者であること;(4) 臓器機能が適切であること;(5) 凝固プロファイル及び腎機能試験を含む実験パラメータが許容可能であること。
【0041】
仰臥位及び立位の両血圧を、本プロトコールにおける各試験往診(study visit)の際にモニタリングした。新規の高血圧又は以前記録された高血圧の悪化がある場合、血圧は、1種又は2種の降圧剤を用いて直ちに管理された。
【0042】
血圧の用量応答性の診査分析
潜在的傾向の試験用の統計学的ツールの使用を容易にするために、用量レベルコホートを結合して4群の用量群とした。結合用量群1は、25 μg/kg、50 μg/kg、及び100 μg/kgの用量レベルで処置された被験体を含み、結合用量群2は、200 μg/kg及び400 μg/kgの用量レベルで処置された被験体を含み、結合用量群3は、800 μg/kgで処置された被験体を含み、結合用量群4は、週2回800 μg/kgの用量レベルで処置された被験体を含む。これらの結合用量群を用いて、各時点における群の違いを、潜在的傾向に目印を付ける(flag)ための記述ツールとしての分散分析法(ANOVA)を用いて評価した。線形トレンドを試験するために、単回帰分析も適用した。仰臥位及び立位の収縮期及び拡張期血圧について、別々に分析を行った。
【0043】
立位収縮期血圧
立位収縮期血圧における変化に関して、各時点におけるANOVAによって、立位収縮期血圧の増加に向かう用量関連傾向が無いことが明らかにされたが、14回の評価のうち3日目のみが、0.05未満の名目的(nominal)P値を有するようであった。投与の最初の2週間に得られたベースライン測定値からの平均変化を、表1に示す。
【0044】
立位拡張期血圧
立位拡張期血圧における変化に関しても、各時点における平均値に対するANOVAによって、用量関連傾向が無いことが明らかにされた。14回の評価のいずれも0.05未満の名目的P値を有さなかったが、14回の評価のうち4回が、0.05〜0.1の名目的P値を有した。投与の最初の2週間に得られたベースライン測定値からの平均変化を、表1に示す。
【0045】
実施例2 VEGFアンタゴニストの静脈内投与
調査0202
難治性の固形腫瘍又は非ホジキンリンパ腫を有し、それらの癌に対して併用療法を受けていない患者を、以下のように、VEGFトラップ(配列番号:4)で処置する。患者3名の初期コホートに、単一用量0.3 mg/kgのVEGFトラップを静脈内投与した。単一用量に対して十分な抵抗性があったので、2週間後に同じ用量レベルで患者に1回の追加注入を行った。患者3名のさらなるコホートに、1.0 mg/kgのVEGFトラップを静脈内投与し、その後同じスケジュールを行った。患者3〜6名の用量レベルコホートに2.0、3.0、及び4.0 mg/kgのVEGFトラップを投与して、このパターンを繰り返した。血圧をモニタリングし、週1回投与期間の開始時及び終了時に腫瘍負荷量を評価する。安定な疾患、部分的又は完全な応答のあった患者には、継続研究においてさらに最大6ヶ月間の投与を継続できる。0日目のベースラインからの15日目における平均変化を、各用量群について表1に示す。
【0046】
調査0305
調査0202に関する手順の後に、第二の調査を行った。本調査のために選択された患者は、再発したか難治性の固形腫瘍(肺の扁平上皮癌を除く)(これは標準的療法による恩典が期待されなかった)、又は、少なくとも2種の標準的化学療法レジメン及びリツキシマブに対して抵抗性の非ホジキンリンパ腫を有し、かつ、転移又は残存原発腫瘍の測定可能部位を少なくとも1つ有し、さらに、用量制限毒性を生じることなく調査0202を完了していた。
【0047】
実施例1に記載のように、収縮期及び拡張期血圧の測定値を得た。各調査群に関する、投与の最初の2週間で得られたベースライン測定値からの平均変化を、表1に示す。
【0048】
概して、VEGFトラップの皮下投与により、最も高い用量レベルで3.8〜8.2%の血圧上昇が生じた。静脈内投与によって、最も高い用量で20%を上回る血圧上昇が生じた。同等の用量では、皮下投与された用量800 ug/kgのVEGFトラップにより、拡張期血圧が1.5%上昇し、一方1.0 mg/kgのVEGFトラップの静脈内投与によって、拡張期血圧は3.7〜13.3%上昇した。
【0049】
(表1)皮下(0103)及び静脈内(0202、0305)調査の結果概要


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニストの投与に伴う高血圧の軽減のための医薬の製造における第一のVEGFアンタゴニストの使用であって、血圧上昇を最小限にすることが望ましい、VEGFアンタゴニストにより処置可能な疾患又は状態を患うヒト被験体への皮下投与によって処置が行われる、使用。
【請求項2】
VEGFアンタゴニストがVEGFR1R2-FcΔC1(a)(配列番号:4)を含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
第二の薬剤が、第一のVEGFアンタゴニストと共に投与される、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
第二の薬剤が降圧剤である、請求項3記載の使用。
【請求項5】
降圧剤が同時に又は連続的に投与される、請求項4記載の使用。
【請求項6】
疾患又は状態が、癌、糖尿病、血管透過性、浮腫、腫瘍、炎症又は外傷に関連する腹水及び胸水、慢性気道炎症、毛細管漏出症候群、タンパク質漏出の亢進に関連する敗血症性腎臓疾患、眼障害、ならびに異常な血管新生からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
ヒト被験体が65歳を超える、又は、他の方法では高血圧を発症することなく適切な用量のVEGFアンタゴニストで処置できない患者である、請求項7記載の使用。
【請求項8】
以下の段階を含む処置法:
(a) 第一の薬剤である血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニストの静脈内投与に対する免疫不応答者(non-responder)として患者を同定する段階;
(b) 治療的有効量のVEGFアンタゴニストを患者に皮下投与する段階;
(c) VEGFアンタゴニストの皮下投与の間及び後の患者の血圧をモニタリングする段階;ならびに
(d) VEGFアンタゴニストを繰り返し皮下投与し、任意で第二の薬剤を投与する段階。
【請求項9】
VEGFアンタゴニストが請求項2で定義された通りである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
第二の薬剤が請求項4で定義された通りである、請求項8又は9記載の方法。

【公表番号】特表2009−504679(P2009−504679A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526285(P2008−526285)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/031681
【国際公開番号】WO2007/022101
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(507302748)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】