VEGF産生促進剤

【課題】血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生促進作用を有し、医薬品、化粧品若しくは食品、又はそれらの素材となり得る、VEGF産生促進剤、髪質改善剤、及び皮膚外用剤の提供。
【解決手段】ユリ科ナギイカダ属植物由来のアクレオシドA(スピロスタ-5,25(27)-ジエン-1β、3β、23α、24α-テトロール-1-O‐[2,3,4‐トリ-O‐アセチル‐α‐L‐ラムノピラノシル‐(1→4)-α‐L‐アラビノピラノシル]‐24‐O-6−デオキシ-D-グリセロ-L-スレオ-4-ヘキスロピラノシド)を有効成分とするVEGF産生促進剤、髪質改善剤、皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor;VEGF)の産生を促進し得るVEGF産生促進剤、髪質改善剤及び皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
VEGFは、血管透過性因子として知られているが、最近の研究により、ヒト皮膚における主要な血管新生因子であることが報告され、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛等の研究分野で注目されている分子である。
【0003】
正常な皮膚において、VEGFは、表皮角化細胞により少量分泌され、真皮の微小血管内皮細胞上の特異的なレセプターに結合し、それによって内皮細胞の生存能力を確保することにより、上部の網状構造の血管を維持している。
【0004】
炎症あるいは創傷治癒時に肥厚した表皮におけるVEGFは、非常に高く発現していて、真皮での血管の増加と栄養供給を導いていることが報告されている(非特許文献1)。また、毛髪の成長期では毛包周囲の血管が劇的に拡張していて、毛包の細胞でVEGFが発現しており、毛髪の退行期と休止期では、血管の退縮に伴いVEGFの発現が抑制されていることが報告されている(非特許文献2)。
さらに、VEGFは血管の形成を促進することから、血流循環を促進して毛根に栄養を多く供給することや、毛髪のコルテックス細胞同士の接着に関係していることが報告されている。
特に、最近の研究では、VEGF発現量の低下と毛髪のハリコシの低下が相関していることが報告され、VEGF産生促進剤の毛髪化粧料への応用が着目されている(非特許文献3)。
【0005】
従って、真皮での血管の増加と栄養供給に関与しているVEGFの産生を促進することは、創傷の回復・治癒に非常に有効である他、皮膚の新陳代謝の低下等によって生じるくすみや肌の透明感の低下といった肌色改善に有効である。また、毛髪・毛包の成長にも関与しているVEGFの産生を促進することは、毛髪の脱毛・薄毛、ハリコシの低下といった症状の防止や改善にも有効である。
【0006】
このため、様々なVEGF産生促進剤がこれまでに開発されている。例えば、大豆由来の調製物(特許文献1)、アミハナイグチ、シロヌメリイグチ、ハナイグチ、ウツロベニハナイグチ、アミタケ、キノボリイグチ、エゾウコギ、黄精、ゲンチアナ、センナ、トチュウ、ダイオウ、メリロート、ヨクイニン、クコの実、当帰、地黄、サンシシ、甘草、ニンジン、紅参、紫根、シンビジュームの各抽出物(特許文献2)、タコノキ属(Pandanus L.f.)植物抽出物(特許文献3)、シイタケ、エチナシ、プルーン、モヤシ、アマチャヅルの各抽出物(特許文献4)等に、VEGF産生促進作用があることが報告されている。しかし、これらのVEGF産生促進剤は、副作用の点から配合が制限される場合があり、また有効量を配合すると着色や不快臭が発生する等の問題が生じる場合もあった。
【0007】
一方、ブッチャーブルーム(Ruscus aculeatus L.)のようなユリ科(Liliaceae)のナギイカダ属(Ruscus)植物であるに含まれるサポニンであるアクレオシドAには、抗腫瘍作用(非特許文献4)があることが報告されている。
また、ブッチャーブルームは、利尿作用、血管収縮作用を有することから、そのエキスは、皮膚コンディショニング剤、収れん剤等として、基礎化粧品やファンデーション、シャンプーなどに配合されている植物であり、最近では、ニキビの形成抑制作用(特許文献5)、白髪の発生防止作用(特許文献6)の他、皮膚表皮細胞及び毛母細胞のコレステロール合成を促進させ、毛髪の内在コレステロール量を向上させて毛髪のダメージを防ぐ作用があること(特許文献7)等が報告されている。
【0008】
しかしながら、アクレオシドAやブッチャーブルームにVEGFの産生促進作用があることは全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−286432号公報
【特許文献2】特開2000−212059号公報
【特許文献3】特開2004−43393号公報
【特許文献4】特開2004−35443号公報
【特許文献5】特開2001−322943号公報
【特許文献6】特開2005−068159号公報
【特許文献7】特開2002−173416号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Detmar M. The role of VEGF and thrombospondins in skin angiogenesis, J Dermatol Sci. 24(Suppl 1), S78-84, 2000
【非特許文献2】Yano K, Brown LF, Detmar M.Control of hair growth and follicle size by VEGF-mediated angiogenesis , J Clin Invest. 107(4), 409-17, 2001
【非特許文献3】森脇、田口 フレグランスジャーナル2007年12月号
【非特許文献4】Mimaki Y. Aculeoside B, a New Bisdescosidic Spirostanol Saponin from the Underground Parts of Ruscus Aculeatus, J. Nat. Prod. 61, 1279-1282,1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、VEGF産生促進作用を有し、医薬品、化粧品若しくは食品、又はそれらの素材となり得る、VEGF産生促進剤、髪質改善剤、及び皮膚外用剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、VEGFの産生を促進する物質について、研究を重ねた結果、サポニンの一種であるアクレオシドAに優れたVEGF産生促進作用があることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の1)〜3)に係るものである。
1)アクレオシドAを有効成分とするVEGF産生促進剤。
2)アクレオシドAを有効成分とする髪質改善剤。
3)アクレオシドAを含有する皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れたVEGF産生促進作用を有し、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、毛髪のハリコシの改善等に有用な医薬品、医薬部外品、化粧料、食品等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアクレオシドA(Aculeoside A)は、スピロスタ-5,25(27)-ジエン-1β、3β、23α、24α-テトロール 1-O‐[2,3,4‐トリ-O‐アセチル‐α‐L‐ラムノピラノシル‐(1→4)- α‐L‐アラビノピラノシル]‐24‐O-6−デオキシ-D-グリセロ-L-スレオ-4-ヘキスロピラノシドを意味し、以下の化学構造を有する。
【0016】
【化1】

【0017】
上記アクレオシドAは、植物体から抽出・精製することにより取得することができる。植物体からの抽出・精製は、文献(Chem. Lett. 1994, 2303)記載の方法を適宜参照して行うことができ、例えば、ユリ科(Liliaceae)のナギイカダ属(Ruscus)の植物、具体的には、ナギイカダRuscus aculeatus L.(ブッチャーブルーム)、Ruscus acleatusver. angustifolius Boss.、Ruscus hypoglossum L.、Ruscus hypophyllum L.等の根茎、新芽、葉から溶剤抽出して得られる抽出物を、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の適当な分離精製手段を用いて分離・精製することにより得ることができる。以下にその一例を示す。
【0018】
1)ブッチャーブルーム(Ruscus aculeatus L.)の根茎に30%エタノールを加え、室温又は加熱下(40〜80℃)にて抽出し、ろ過する。
2)1)で得られた抽出物を、イオン交換樹脂を充填したカラムに通液し、成分を吸着させる。50%エタノールで洗浄後、99.5%エタノールで溶出し、粗サポニン画分を得る。
3)2で得られた粗サポニン画分をシリカゲルカラムに供し、クロロホルム:メタノール=9:1混合溶媒で溶出し、サポニン画分を得る。
4)さらにシリカゲルカラムクロマトにてクロロホルム:メタノール混合溶媒(50:1→19:1→9:1)を用い、グラジェント溶出を行い、スピラクレオシドAを含む画分を得る。
5)次いで、スピラクレオシドAを含む画分をODSカラムを備えた分取HPLCに供し、50%アセトニトリル水溶液を溶離液に用いてアイソクラティック溶出にて分画を行い、スピラクレオシドA(スピロスタ-5,25(27)-ジエン-1β、3β、23α、24α-テトロール 1-O‐[2,3,4‐トリ-O‐アセチル‐α‐L‐ラムノピラノシル‐(1→4)- α‐L‐アラビノピラノシル]‐24‐O-[4,4‐O‐[オキシ[(R)‐1‐[(S)‐1‐ヒドロキシ‐1‐メチルプロピル]‐2‐オキソエタン‐1,2‐ジイル]‐6‐デオキシ‐α‐L‐アルトロピラノシドを得る。
6)5)で得られたスピラクレオシドAをメタノールに溶解し、還流下1時間撹拌処理し、溶媒留去後、得られた固形物をセファデックスLH-20カラム(溶離液:メタノール)で精製し、アクレオシドAを得る。
【0019】
尚、斯かる抽出・分画によれば、アクレオシドAが、単独のみならず、数種の混合物として取得される場合があるが、本発明のVEGF産生促進剤においては、これらの何れをも用いることができる。
【0020】
得られたアクレオシドAは、そのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、あるいは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、水・エタノール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0021】
本発明のアクレオシドAは、後記実施例に示すように、ヒト表皮角化細胞におけるVEGFの産生を促進する作用を有することから、内皮細胞の生存能力の向上、血管新生促進等の効果を発揮し(Heidemarie Rossiter, Caterina Barresi, Johannes Pammer, Michael Rendl, Jody Haigh, Erwin F. Wagner, and Erwin Tschachler. Loss of Vascular Endothelial Growth Factor A Activity in Murine Epidermal Keratinocytes Delays Wound Healing and Inhibits Tumor Formation, Cancer research 64, 3508-3516, 2004)、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、毛髮のハリコシ改善等に有用であると考えられる。
従って、本発明のアクレオシドAは、VEGF産生促進剤又は髪質改善剤として使用することができ、また、VEGF産生促進剤又は髪質改善剤を製造するために使用することができる。当該VEGF産生促進剤は、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、毛髪のハリコシ改善等の効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品であってもよく、当該医薬品等に配合するための素材であってもよい。また、本発明において、「髪質改善」とは、毛髮の質を硬く及び/又は強くし、ハリやコシを付与する効果を意味するものであり、髪質改善剤は、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、化粧料又は食品であってもよく、当該医薬品等に配合するための素材であってもよい。
また、上記化粧品や食品には、VEGFの産生促進、肌色改善、養毛・育毛、髪質改善等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した化粧品、美容食品、病者用食品若しくは特定保健用食品等の機能性食品が包含される。
【0022】
本発明のアクレオシドAを含有する上記医薬品の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は静脈内注射、筋肉注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、本発明のアクレオシドAを単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。斯かる医薬製剤として用いる場合の該製剤中の本発明のアクレオシドAの含有量は、一般的に0.00001〜50質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜10質量%とすることが好ましい。
上記医薬品の成人1人当たりの1日の投与量は、アクレオシドAとして、例えば0.0003〜3000mgとすることが好ましく、0.003〜300mgであることがより好ましい。
【0023】
本発明のアクレオシドAを含有する上記食品の形態としては、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明のアクレオシドAを単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中のアクレオシドAの含有量は、一般的に0.00001〜100質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜70質量%とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明のアクレオシドAを含有する医薬部外品や化粧料としては、皮膚外用剤、洗浄剤、メイクアップ化粧料、頭皮頭髪用化粧料とすることができ、使用方法に応じて、ローション、乳液、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末、顆粒等の種々の剤型で提供することができる。このような種々の剤型の医薬部外品や化粧料は、本発明のアクレオシドAを単独で、又は医薬部外品、皮膚化粧料、頭皮頭髪用化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、防菌防黴剤、植物抽出物、アルコール類等を適宜組み合わせることにより調製することができる。当該医薬部外品、化粧料中のアクレオシドAの含有量は、一般的に0.00001〜100質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜70質量%とすることが好ましい。
【実施例】
【0025】
実施例1 アクレオシドAの調製
(1)ブッチャーブルーム(Ruscus aculeatus L.、アルバニア産)根茎5.0kgに30%EtOH 50Lを加え、室温で7日間抽出し、ろ過した。残渣は再度30%EtOH抽出し、先のろ液とあわせた後、ダイヤイオンHP-20を充填したカラムに通液し、成分を吸着させた。50%EtOHで洗浄後、99.5%EtOHで溶出し、粗サポニン画分14gを得た。これをシリカゲルカラムに供し、クロロホルム:メタノール=9:1混合溶媒で溶出し、サポニン画分2gを得た。さらにシリカゲルカラムクロマトにてクロロホルム:メタノール混合溶媒(50:1→19:1→9:1)を用い、グラジェント溶出を行い、スピラクレオシドAを含む画分(0.5g)を得た。これをODSカラムを備えた分取HPLCに供し、50%アセトニトリル水溶液を溶離液に用いてアイソクラティック溶出にて分画を行い、スピラクレオシドA(89.9mg)を得た。
(2)(1)で得られたスピラクレオシドA38mgをMeOH 120mLに溶解し、還流下1時間撹拌処理を行った。溶媒留去後、得られた固形物をセファデックスLH-20カラム(溶離液MeOH)で精製し、アクレオシドA 28mgを得た。
【0026】
実施例2 VEGFの産生に及ぼす作用
(1)材料および方法
試験には正常ヒト新生児包皮由来表皮角化細胞(クラボウ:凍結NHEK(F) Lot.No.061130-902)を用いた。1穴あたり2×104cells/mLになるように細胞を6穴マイクロプレート3枚に播種した。培養にはDefined keratinocyte-SFM(SFM培地、ギブコ)を用い、2%CO2、37℃の条件化で培養した。細胞密度が50〜60%コンフルエントに達した後、培地を添加剤不含のDefined keratinocyte-SFM培地(SFM(−)培地)に交換した。細胞をSFM(-)培地に24時間馴化させた後、培地を実施例で取得したアクレオシドAを任意の濃度で添加したSFM(−)培地に交換し試験を開始した。
なお、陰性コントロールとしては化合物無添加のSFM(−)培地を用いた。試験開始から16時間後、培地を回収し、培養上清中に分泌されたVEGFの量をELISAキット(R&Dシステムズ)により定量した。コントロールにおけるVEGF産生量を1とし、これに対する相対値で評価を行った。
【0027】
(2)結果
評価結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
アクレオシドAは、優れたVEGF産生促進効果を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクレオシドAを有効成分とするVEGF産生促進剤。
【請求項2】
アクレオシドAが、ユリ科ナギイカダ属植物由来のものである請求項1記載のVEGF産生促進剤。
【請求項3】
アクレオシドAを有効成分とする髪質改善剤。
【請求項4】
アクレオシドAが、ユリ科ナギイカダ属植物由来のものである請求項3記載の髪質改善剤。
【請求項5】
アクレオシドAを含有する皮膚外用剤。
【請求項6】
アクレオシドAが、ユリ科ナギイカダ属植物由来のものである請求項5記載の皮膚外用剤。

【公開番号】特開2012−12357(P2012−12357A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152197(P2010−152197)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】