説明

VEGF阻害剤とイリノテカンとを含有する抗腫瘍性の組み合わせ

腫瘍性疾患の処置にて治療に有用なVEGF阻害剤とイリノテカンの組み合わせ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VEGF阻害剤と、腫瘍性疾患の処置に有用なトポイソメラーゼ阻害剤クラスの化学毒性剤との組み合わせに関する。
【0002】
血管内皮増殖因子の阻害剤であるVEGF阻害剤は、大抵の場合、可溶性レセプター、アンチセンス、RNAアプタマーおよび抗体から選択される生物由来物質である。既知の腫瘍性疾患の処置に有用なトポイソメラーゼ阻害剤は、CPT11を含むカンプトセシン、トポテカンおよびピリドベンゾインドールから選択される。本発明の組み合わせは、特に大腸癌または胃癌の処置を対象とする。
【背景技術】
【0003】
VEGFトラップのキメラタンパク質である、本発明に使用されるのが好ましいVEGF阻害剤の説明およびこの調製は、特許出願WO 00/75319に記載されている。キメラタンパク質について幾つかの実施形態がある。
【0004】
VEGFトラップに対応する実施形態は、図24(配列)に記載されているものである。本発明に使用されるVEGFトラップは、VEGFR1レセプターのD2Igドメインに融合したVEGFR1のシグナル配列を含む融合タンパク質であり、レセプター自体はVEGFR2レセプターのD3Igドメインに融合し、次いでIgG1のFcドメインに融合しており、VEGFR1R2−FcΔC1またはF1tD2.Flk1D3.FcΔC1としても知られている。
【0005】
一般に、ヒトに使用されるVEGFトラップの用量は、処置されるべき個人に特異な因子に依存し、投与が皮下または静脈内で行なわれる場合は1キロあたり1から10ミリグラムである。
【0006】
トポイソメラーゼ阻害剤のうち、一般名CPT−11としても既知のイリノテカンを使用するのが好ましい。
【0007】
イリノテカンは、一般に投与スキームに依存して100mg/mから500mg/mの用量にて静脈内で使用される。150mg/mの用量は、例えば毎週のスキームに使用され、200から400mg/mの用量は、例えば3週間毎のスキームに使用される。
【0008】
「The New England Journal of Medicine」に公開されたH Hurwitz、L Fehrenbacher、W Novotny、T Cartwright、J Hainsworth、W Heim、J Berlin、A Baron、S Griffing、E Holmgren、N Ferrara、G Fyfe、B Rogers、R Ross、F Kabbinavarによる論文では、ベバシズマブと、イリノテカン、5FUおよびロイコボリンとの組み合わせが使用される場合に、ベバシズマブを含有していない同じ組み合わせと比較すると良好な生存率を与える臨床治験について記載している。この臨床治験において、生存率の改善がイリノテカンとベバシズマブとの組み合わせに由来するという証拠はないが、5FUまたはロイコボリンとベバシズマブとの組み合わせに由来するというのが最も適当であり得、または4種の組み合わせに由来する可能性もある。ここで、抗癌剤それぞれがこの治療作用と共に毒性の副作用をもたらすことが知られているので、特にこれらの少なくとも1つの非存在下にて同じ作用を得ることができる場合には、出来る限りこれらの存在を制限することが望ましいことは明らかである。さらに、この論文では、Corbettの意味内で相乗作用については全く証明されていない、即ちこの作用は、使用される組み合わせの元素それぞれを単独で、この最大耐用量にて用いることでは得ることができないものである。
【0009】
VEGFトラップは、VEGFR−1の第2のIgドメインとVEGFR−2の第3のIgドメインとの融合により生じた可溶性レセプターであり、これが続いてヒトIgG1のFc部分に融合する。VEGFR−1レセプターと同様に、アフリベルセプト(VEGFトラップ)は、kdが0.5ピコMであり、VEGF−Aに対する非常に高い親和性を有する。VEGFトラップとVEGF−Aとの高い親和結合により、細胞表面にてVEGFがこのレセプターと結合および活性化するのを防止する複合体を形成する。
【0010】
アバスチン(またはベバシズマブ)と比較して、VEGFトラップは可溶性のレセプターであるが、アバスチンはVEGF−Aに対する抗体である。VEGFトラップはアバスチンの場合よりVEGF−Aに対する親和性が非常に高く、VEGFトラップがVEGFR1−2レセプターの他のリガンド、即ちPIGF(胎盤増殖因子)およびVEGF−Bとも結合するため、異なる選択率プロファイルを有する。さらに、VEGFトラップは、アバスチンの場合よりも実質的に小さい分子量を有し(アバスチンが160kDaであるのに対し、アフリベルセプトでは115kDa)、これは固体腫瘍への浸透により望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第00/75319号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「The New England Journal of Medicine」に公開されたH Hurwitz、L Fehrenbacher、W Novotny、T Cartwright、J Hainsworth、W Heim、J Berlin、A Baron、S Griffing、E Holmgren、N Ferrara、G Fyfe、B Rogers、R Ross、F Kabbinavarによる論文
【発明の概要】
【0013】
今般、VEGF阻害剤の有効性は、VEGF阻害剤とは異なる作用機構を有する抗癌処置での治療に有用な少なくとも1つの物質と組み合わせて投与する場合に顕著に改善できることを見出し、およびこれが本発明の主題である。
【0014】
さらに、製品の活性は使用される用量に依存するので、VEGF阻害剤または造血性タイプの増殖因子である他の治療活性物質のこれらの類縁体、例えばG−CSFもしくはGM−CSF、または特定のインターロイキンとを組み合わせることで、毒性現象を低減することによって、またはこの出現を遅延することによって、高用量で使用でき、活性を増大できる。
【0015】
より詳細には、本発明は、VEGFトラップとイリノテカンとの組み合わせに関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に従う組み合わせの改善された有効性は、治療相乗作用を測定することによって示すことができる。
【0017】
組み合わせは、最適な用量で使用される構成成分それぞれよりも治療的に優れている場合に、治療相乗作用を示す。
【0018】
組み合わせの有効性を示すために、検討中の調査にて単離した構成成分それぞれについての最大耐用量と、組み合わせの最大耐用量とを比較する必要がある場合がある。この有効性は、例えばlog10細胞死滅によって定量でき、次の式に従って測定される。
【0019】
log10細胞死滅=T−C(日)/3.32×T
式中、T−Cは、細胞の増殖における遅延を表し、これは処置される群(T)の腫瘍およびコントロール群(C)の腫瘍が所定の値(例えば1g)に到達した日単位の平均時間であり、Tは、コントロール動物における腫瘍の体積が2倍になるのに必要な日単位の時間を表す[T.H.Corbettら、Cancer,40,2660.2680(1977);F.M.Schabelら,Cancer Drug Development,Part B,Methods in Cancer Research,17,3−51、New York,Academic Press Inc.(1979)]。製品は、log10細胞死滅が0.7以上である場合に活性であると考えられる。製品は、log10細胞死滅が2.8を超える場合に非常に活性であると考えられる。
【0020】
これ自体の最大耐用量で使用される組み合わせでは、各構成成分が一般にこの最大耐用量以下の用量で存在しているが、log10細胞死滅が、構成成分単独で投与される場合の最良構成成分のlog10細胞死滅の値より大きく、特にlog細胞死滅が少なくとも1である優位性を有する場合に相乗作用を示す。
【0021】
固体腫瘍に対する組み合わせの有効性は次の方法で実験的に測定できる。
【0022】
実験に供する動物は、一般にマウスであり、0日目にHCT116ヒト腫瘍フラグメント30から60mgを両側に皮下移植する(Brattain,M.G.,Fine,W.D.,Khaled,F.M.,Thompson,J.およびBrattain,D.E.,Heterogeneity of malignant cells from a human colonic carcinoma.Cancer Res.,1981,41,1751−1756)。腫瘍をもつ動物を種々の処置およびコントロールに供する前にランダム化する。本発明の腫瘍の処置の場合、腫瘍を48から294mgの大きさに発達させることで、群あたりの腫瘍中央値を129から162mgとすることができた。VEGFトラップ単独の処置を受けた動物は17.1から22.7gの体重を有し、イリノテカン単独の処置を受けた動物は17.5から22.3gの体重を有しており、組み合わせの処置を受けた動物は、17.5から23.6gの体重を有していた。腫瘍を有する動物はまた、腫瘍に対する化学療法の実際の作用から賦形剤の毒性作用を切り離すことができるように賦形剤単独での同じ処理に供した。化学療法は、腫瘍移植後12日目に開始した。VEGFトラップ注射を皮下に行なうのと同時に1日2回イリノテカン注射を静脈内に行なった。これらの注射は、腫瘍の移入後12、15および18日目に行なった。種々の群の動物は、最大体重減少に到達するまで毎週3から4回計量し、次いでこの群を治験の終わりまで1週間に少なくとも1回計量する。
【0023】
腫瘍は、これが約2gに到達するまで、または腫瘍が2gに到達する前に死んでしまった場合は動物が死ぬまで、1週間に2または3回測定する。動物は屠殺時に解剖する。
【0024】
抗腫瘍活性は、記録された種々のパラメータに従って決定される。
【0025】
例として次の表には、VEGFトラップおよびイリノテカンの組み合わせをこれらの最適な用量で用いて得られた結果を示す。
【0026】
本発明はまた、本発明に従う組み合わせに使用される製品を含有する医薬組成物のキットに関する。
【0027】
この組み合わせを構成する製品は、組み合わせの最大有効性が得られるような方法で、同時に、別々にまたは続けて投与されてもよい。それぞれの投与は、迅速な総投与から持続注入に及ぶ変更可能な期間を有することができる。
【0028】
この結果として、本発明の目的のためには、組み合わせは、構成成分の物理的な会合によって得られるものだけでなく、同時または連続であることができる別々の投与が可能なものでもある。
【0029】
本発明に従う組成物は、非経口で投与できる組成物が好ましい。
【0030】
非経口投与のための組成物は一般に、場合により使用時に即座に調製できる医薬的に許容される滅菌溶液または懸濁液である。非水性溶液または懸濁液の調製に関して、天然植物油、例えばオリーブ油、ゴマ油もしくは液体パラフィンまたは注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルを使用してもよい。滅菌水溶液は、水中の製品溶液で構成されてもよい。水溶液は、例えば十分な量の塩化ナトリウムまたはグルコースを用いてpHが好適に調節され、等張性を生じる限り、静脈内投与に好適である。滅菌は、加熱により、または有害に組成物を変更しないいずれかの他の手段によって行なうことができる。組み合わせはまた、リポソームの形態またはシクロデキストリンまたはポリエチレングリコールのような担体と会合した形態であってもよい。
【0031】
本発明に従う組み合わせにおいて、構成成分の適用は同時に、別々にまたは連続的であることができ、VEGFトラップ誘導体の量は組み合わせの10重量%から80重量%を示すのが特に有利であり、この含量は、会合する物質の特質、所望の有効性および処置されるべき癌の特質によって変更できる。
【0032】
本発明に従う組み合わせは、大腸癌および/または胃癌の処置に特に有用である。特に、構成成分を単独で使用する場合よりも非常に低い用量で構成成分を使用できるという利点を有することができる。
【0033】
次の実施例は本発明に従う組み合わせを示す。
【実施例】
【0034】
5mMリン酸塩、5mMクエン酸ナトリウム、100mM塩化ナトリウム、ポリソルバート20および20%スクロースの緩衝液中に希釈したVEGFトラップ25mgを含有するバイアル瓶1cmを、皮下投与用に通常の技術に従って調製する。マウスあたりの投与体積は0.1mlである。VEGFトラップは、腫瘍移入後12日、15日および18日目に1日1回投与される。
【0035】
市販の溶液から、イリノテカン20mg/mlにて水中の5%デキストロースで希釈される通常の技術に従ってマウスあたり0.3mlを静脈内投与用に調製する。
【0036】
これらの溶液を好適な希釈後に同時に投与する。
【0037】
イリノテカンでの処理を、腫瘍の移入後12、15および18日目に1日に2回4時間の間隔で繰り返す。
【0038】
治験の結果を添付の表に示す。
【0039】
腫瘍倍加時間=3.2日
使用される略記:腫瘍の増殖における(T−C)遅延、lck=log細胞死滅。
【0040】
毒性は、イリノテカン単独に関しては52.4、32.5および20.2mg/kg/注射の用量にて観測されたが、これは52.4投与量での死および2つの低投与量での20%を超える体重減少によるものであった。故に、イリノテカンの最大耐用量は12.5mg/kg/注射(総注射用量75.0mg/kg)であった。12.5mg/kg/注射の用量は、lckが1.8で活性であることがわかった。
【0041】
VEGFトラップに関しては、製品は試験された全ての投与量にてよく認容され、40mg/kg/投与および25mg/kg/投与にてlckが1.7で活性であることがわかった。10mg/kg/投与の低用量でも、lckが1.3で活性である。2.5mg/kg/投与の用量は不活性である。
【0042】
32.5mg/kg/注射でのイリノテカンの組み合わせに関して、VEGFトラップの用量に拘わらず、組み合わせは、毒性に近い18%体重減少を伴い毒性であることがわかった。低用量のイリノテカン20.2mg/kg/注射とVEGFトラップ40mg/kgとが、最大耐用量であると見なされた。この用量はlckが3.0であり、非常に活性であると判断された。同じレベルの活性は、低用量のVEGFトラップ、例えば25、10、2.5mg/kg/投与(それぞれlckが2.9、3.0および2.9)を用いても見られた。
【0043】
40mg/kg/投与のVEGFトラップと組み合わせた12.5mg/kg/注射でのイリノテカンは、lckが2.7で活性である。この抗腫瘍活性は、VEGFトラップ25および10mg/kgで維持される(それぞれlckが2.9および2.7)。VEGFトラップ2.5mg/kg/投与との組み合わせはlckが2.0で活性を有する。
【0044】
結論として、VEGFトラップとイリノテカンとの組み合わせの活性は、log細胞死滅が1.8および1.7(それぞれ12.5mg/kg/注射のイリノテカン、および40mg/kg/注射のVEGFトラップに関する。)を示すような単独使用される各化合物の活性と比較した場合にlog細胞死滅が1超過に対応する組み合わせの最大耐用量にて、log細胞死滅が3.0の相乗作用を示す。抗腫瘍活性は、組み合わせの最大耐用量未満である幾つかの用量レベルにて維持される。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍性疾患の処置にて治療に有用なVEGF阻害剤とイリノテカンとを含有する組み合わせ。
【請求項2】
VEGFトラップ阻害剤とイリノテカンとを含有する、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項3】
10重量%から80重量%のVEGFトラップを含有することを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の組み合わせ。
【請求項4】
抗癌治療における同時、別々または連続使用のために組み合わせた調製物としての、腫瘍性疾患の処置におけるVEGF阻害剤およびイリノテカンを含有する製品。
【請求項5】
腫瘍性疾患の処置にて治療的に相乗作用を有する、任意の他の化学毒性誘導体を含まないVEGFトラップ阻害剤とイリノテカンとを含有する組み合わせ。

【公表番号】特表2010−532335(P2010−532335A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514042(P2010−514042)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000943
【国際公開番号】WO2009/024667
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(500152119)アバンテイス・フアルマ・エス・アー (65)
【Fターム(参考)】