説明

VI型コラーゲン欠損に起因する先天性筋ジストロフィーまたはミオパシーの予防および/または処置のためのN−(ジベンゾ(b,f)オキセピン−10−イルメチル)N−メチル−N−プロプ−2−イニルアミン(オミガピル)の使用法

本発明は、VI型コラーゲンをコードする遺伝子における突然変異に起因する筋ジストロフィーまたはミオパシーの予防および/または処置のための医用製剤の調製を目的とする、下記式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩の使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋ジストロフィー、好ましくは先天性筋ジストロフィー、特に、ベスレム(Bethlem)ミオパシー(BM)およびウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー(UCMD)などのVI型コラーゲン欠損に起因する先天性筋ジストロフィーの予防および/または処置のための、N-(ジベンゾ(b,f)オキセピン-10-イルメチル)-N-メチル-N-プロプ-2-イニルアミンまたはその薬学的に許容される付加塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
先天性筋ジストロフィー(CMD)は、筋肉疲労、筋線維壊死および線維症により特徴づけられる筋障害の異質の群である。他の筋ジストロフィー、特に肢帯筋異栄養症とは異なる特徴は、出生児または生後6ヶ月以内の症状の初期発現である。CMDは主に常染色体遺伝性の疾患である。今日ではCMDは、遺伝子起源に基づきいくつかのの異なる疾病にサブグループ化される(Kaplan JC (2006) Neuromuscular disorders: gene location; Neuromuscul. Disord. 16: 65(非特許文献1))。一般に、CMDの有病率は低い(約1〜2.5×10-5)。
【0003】
VI型コラーゲン欠損に起因するCMDは、臨床上、2つの異なる症候群である、臨床的により重篤なウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー(ウールリッヒCMD、UCMD)と、一般に比較的軽度な形態であるベスレムミオパシー(BM)とに分類される。両方の臨床的症候群は、VI型コラーゲン欠損によるCMDと呼ばれる。推定による有病率は、100’000分の1未満である。
【0004】
ベスレムミオパシー(OMIM 158810)は、VI型A1コラーゲン(Col6A1; OMIM 120220)、VI型A2コラーゲン(Col6A2; OMIM 120240)、またはVI型A3コラーゲン(Col6A3; OMIM 120250)をコードする遺伝子における突然変異により引き起こされる、拘縮を伴う常染色体遺伝性のミオパシーである。ベスレムミオパシーに至る、Col6A1〜6A3遺伝子におけるいくつかの突然変異が、マッピングされ特徴付けされている(Lampe AK & Bushby KMD (2005); Collagen VI related disorders. J Med Genet 42: 673-685(非特許文献2))。古典的な表現型は、変化しやすい臨床上の発症により特徴付けされ、家族間の変動にほぼ支配される(Bertini E, Pepe G., (2002) Collagen type VI and related disorders: Bethlem myopathy and Ullrich scleroatonic muscular dystrophy. Europ. J. Paediatric Neurol. 6:193-198(非特許文献3))。何人かの成人患者における臨床的症状は、単に拘縮であり得、衰弱を伴わない。疾患の過程はゆっくりと進行し、50代以降、患者の約半分が支持的な手段を必要とする。衰弱は、遠位筋よりも近位筋に関連し、屈筋よりも伸筋に関連する。この疾患の最も典型的かつ頻度の高い臨床的徴候は、拘縮(例えば、指節間関節における、肘および足首の屈曲拘縮)の存在である。ある場合には、関節の拘縮は臨床像中の多くを占める。
【0005】
ウールリッヒスクレロアトニック(scleroatonic)/先天性筋ジストロフィー(UCMD; OMIM 254090)は、一般に、Col6A1、Col6A2、およびCol6A3遺伝子における突然変異により特徴付けられる(Lampe AK & Bushby KMD (2005); Collagen VI related disorders. J Med Genet 42: 673-685(非特許文献2))。この疾患は、初期に発症する、近位関節の拘縮および遠位関節の顕著な強い弾性(hyper-elasticity)ならびに隆起型踵骨(protruding calcanei)を伴う筋肉の衰弱として現れる。衰弱は根深く、子供では、典型的に一人で歩く能力を獲得することができないか、または一人では短時間しか歩けないかのいずれかである。知能は正常である。疾患の進行に伴い、典型的に脊髄の硬直および側湾ならびに変わりやすい近位拘縮が起こるが、時とともに遠位過剰運動性(distal hyperlaxity)は著しい中指屈曲拘縮およびゆるみの無いアキレス腱に移行し得る。10代以前または10代での呼吸不全は、夜間の呼吸支援により処置しない限りありふれた死因であるが、心臓との関係については今日まで確認されていない。UCMD患者において観察される他の典型的な特徴は、出生時における先天性股関節脱臼および一過性の後湾奇形、ならびに毛孔性角化症ならびにケロイドまたは「たばこ巻紙様」瘢痕形成の傾向である(Lampe AK & Bushby KMD (2005); Collagen VI related disorders. J Med Genet 42: 673-685(非特許文献2))。
【0006】
BMおよびUCMDを有する患者に対する処置は支持的なものであり、同一の原則に従うが、症状の重篤さにおけるその強度および発症の年齢に依存する。重篤なUCMD表現型を有する子供は、運動性および自主性を促すために、診断が確立し次第積極的な管理を必要とする。スタンディングフレーム中での初期の援動術は、直立姿勢を獲得し、側湾および他の拘縮の発症を防ぐのに重要である。UCMD患者の拘縮は特に、急速進行性である傾向があり、手術による解放が必要であり得る。側湾は、10代以前または10代に高い頻度でUCMD患者において発症し、進行を防ぐため、脊髄手術を含む積極的な管理を必要とし得る。肺活量測定および一晩のパルス酸素飽和度測定試験(pulse oximetry studies)を含む、呼吸機能の定期的な評価は、VI型コラーゲン関連障害を有する全ての患者に対して重要である(Wallgren-Pettersson C., et al. (2004); 117th ENMC workshop: ventilatory support in congenital muscular disorders - congenital myopathies, congenital muscular dystrophies, congenital myotonic dystrophy and SMA. Neuromuscul. Disord 14:56-69(非特許文献4))。夜間の換気による呼吸補助が、UCMD患者に対し10代以前または10代に通常必要となり、症状を軽減すること、生活の質を向上させること、およびに標準的な学校教育を可能にすることに有効であり得る(Mellies U et al. (2003) Long-term noninvasive ventilation in children and adolescents with neuromuscular disorders. Europ. Respir. J 22:631-636(非特許文献5))。BMにおいて、横隔膜が関係する呼吸不全は、歩行運動の喪失および夜間の換気過少症状の前であっても起こる。インフルエンザによる胸部感染症の予防ならびに肺炎球菌の予防接種および物理療法、ならびに抗生物質の初期の積極的な使用は、BMおよびUCMD両方においてさらなる呼吸の問題を防ぎ得る。さらに、UCMD患者における摂食障害は、発育不全または過度の食事所要時間として顕在化し得る。栄養学専門家による診察が、エネルギー摂取を増強するために必要であり得る。深刻な問題に対しては、胃造瘻による栄養補給が、正常な体重増加を促すための最良の解決策であり得る。
【0007】
【非特許文献1】Kaplan JC (2006) Neuromuscular disorders: gene location; Neuromuscul. Disord. 16: 65
【非特許文献2】Lampe AK & Bushby KMD (2005); Collagen VI related disorders. J Med Genet 42: 673-685
【非特許文献3】Bertini E, Pepe G., (2002) Collagen type VI and related disorders: Bethlem myopathy and Ullrich scleroatonic muscular dystrophy. Europ. J. Paediatric Neurol. 6:193-198
【非特許文献4】Wallgren-Pettersson C., et al. (2004); 117th ENMC workshop: ventilatory support in congenital muscular disorders - congenital myopathies, congenital muscular dystrophies, congenital myotonic dystrophy and SMA. Neuromuscul. Disord 14:56-69
【非特許文献5】Mellies U et al. (2003) Long-term noninvasive ventilation in children and adolescents with neuromuscular disorders. Europ. Respir. J 22:631-636
【発明の開示】
【0008】
本発明の根底にある課題は、ベスレムミオパシー(BM)は臨床的症状範囲の軽度の端にあり、ウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー(UCMD)は重篤な端にある、一連の臨床的な症状の発現をもたらすVI型コラーゲン遺伝子における突然変異に起因する筋ジストロフィーの、予防および/または処置に適した化合物を提供することである。
【0009】
この課題は、筋ジストロフィーの予防および/または処置のための医用製剤の調製を目的とする、下記式(I)の化合物:

またはその薬学的に許容される付加塩の使用により解決される。
【0010】
式(I)の化合物またはその付加塩は、先天性筋ジストロフィー、特に、VI型A1コラーゲン(Col6A1)、VI型A2コラーゲン(Col6A2)、またはVI型A3コラーゲン(Col6A3)をそれぞれコードする遺伝子における突然変異に起因するベスレムミオパシー(BM)またはウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー(UCMD)の予防および/または処置に使用されることが好ましい。
【0011】
式(I)の化合物は、オミガピル(omigapil)としても公知であるN-(ジベンゾ(b,f)オキセピン-10-イルメチル)-N-メチル-N-プロプ-2-イニルアミンである。式(I)の化合物またはその塩は、アポトーシス細胞溶解が役割を果たす様々な神経変性疾患の可能な処置選択肢として提唱され調査されている。このような神経変性疾患には、脳虚血、アルツハイマー病、ハンチントン病およびパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障の種類、網膜変性、ならびに一般のもしくは糖尿病性末梢神経障害が含まれる。これらの疾患の処置のための、式(I)の化合物またはその塩の使用、ならびにオミガピルの調製のためのプロセスは、WO 97/45422、EP-A-0726265、WO 2004/066993、およびWO 2005/044255に開示されている。さらに、式(I)の化合物はグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)に結合し、抗アポトーシス効果を発揮することが報告されている(Kragten E et al. (1998) - Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase, the putative target of the antiapoptotic compounds CGP 3466 and R(-)deprenyl. J. Biol. Chem. 273: 5821-5828)。
【0012】
式(I)の化合物の薬学的に許容される塩は、好ましくは、鉱酸または有機カルボン酸の塩である。より好ましい態様において、有機カルボン酸は、ヒドロキシル化されたていてもよい(C1-7)アルカン酸、ヒドロキシル化、アミノ化、および/もしくはオキソ置換されていてもよい(C2-7)アルカン-ジカルボン酸、ヒドロキシル化および/もしくはオキソ置換されていてもよい(C3-7)アルカン-トリカルボン酸、ヒドロキシル化および/もしくはオキソ置換されていてもよい(C4-7)アルケン-ジカルボン酸、ヒドロキシル化および/もしくはオキソ置換されていてもよい(C4-7)アルキン-ジカルボン酸、脂肪族もしくは芳香族スルホン酸、または脂肪族もしくは芳香族N-置換スルファミン酸である。
【0013】
さらに好ましい態様において、式(I)の化合物の付加塩は、塩化物、過塩素酸塩、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、リン酸塩、酸リン酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、重硫酸塩、N-シクロヘキシルスルファミン酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、ピバル酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、アスコルビン酸塩、パントテン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、酒石酸塩、重酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アコナート(aconate)、フマル酸塩、マレイン酸塩、イタコン酸塩、アセチレンジカルボン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、フタル酸塩、フェニル酢酸塩、マンデル酸塩、ケイ皮酸塩、p-ヒドロキシ安息香酸塩、2,5-ジヒドロキシ安息香酸塩、p-メトキシ安息香酸塩、ヒドロキシナフトアート、ニコチン酸塩、イソニコチン酸塩、およびサッカラートからなる群より選択される陰イオンを含む。
【0014】
別の好ましい態様において、式(I)の化合物の付加塩は、H+、Na+、およびK+からなる群より選択される陽イオンを含む。
【0015】
式(I)の化合物のマレイン酸塩、すなわち、N-(ジベンゾ(b,f)オキセピン-10-イルメチル)-N-メチル-N-プロプ-2-イニルアンモニウムマレイン酸塩が特に好ましい。この化合物はオミガピル、CGP 3466、またはTCH346としても知られている。
【0016】
本発明はまた、筋ジストロフィー、好ましくは、臨床上はウールリッヒ型先天性筋ジストロフィーまたはベスレムミオパシーの形態として記述される、VI型コラーゲン(Col6A1〜3)をコードする遺伝子における突然変異に起因する筋ジストロフィーまたはミオパシーの予防および/または処置のための、有効量の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩の投与による、処置を必要とする哺乳動物の治療的および/または予防的処置のための方法を目的とする。
【0017】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩は、第2の治療剤と共に用いられることが好ましい。より好ましくは、第2の治療剤は、VI型コラーゲン欠損に起因する筋衰弱の病的な症状の発現を処置するためにUCMDまたはBM患者において用いられる任意の医用製剤である。さらにより好ましくは、第2の治療剤は、イデベノン(2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-(10-ヒドロキシデシル)-1,4-ベンゾキノン)、グルココルチコステロイド、および抗感染薬からなる群より選択される。グルココルチコステロイドは例えば、6α-メチルプレドニソロン-21ナトリウムサクシネート(Solumedrol(登録商標))またはデフラザコート(Calcort(登録商標))である。抗感染薬は、BMまたはUCMD患者において呼吸器感染の処置に日常的に用いられている抗感染薬から適当に選択される。
【0018】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩および第2の治療剤は、疾病の症状を予防または処置するために、同時に、別個に、または連続して用いることができる。2つの治療剤は、単一の投薬剤形として、または各製剤が2つの治療剤の内の少なくとも一つを含む別個の製剤として提供されうる。
【0019】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩は、好ましくは、VI型コラーゲン欠損に起因する先天性筋ジストロフィーまたはミオパシー、特にUCMDまたはBMに関連する骨格筋組織の衰弱および損失を処置または予防するために用いられる。具体的には、本発明は、有効量の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩、好ましくはN-(ジベンゾ[b,f]オキセピン-10-イルメチル)-N-メチル-N-プロプ-2-イニルアンモニウム塩、および特にN-(ジベンゾ[b,f]オキセピン-10-イルメチル)-N-メチル-N-プロプ-2-イニルアンモニウムマレイン酸塩を投与することにより、Col6A1〜3遺伝子における突然変異に起因するUCMDまたはBMおよび筋ジストロフィーまたはミオパシーの臨床的中間形態を処置するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩の使用に関する。
【0020】
用いられる有効成分の有効用量は、用いられる特定の化合物、投与形態、処置される状態、および処置される状態の重篤度に応じて変動しうる。そのような用量は、当業者には容易に確認できる。ヒトにおいて式(I)の化合物またはその薬宅的に許容される付加塩は、好ましくは0.01mg/日〜80mg/日の用量範囲で、より好ましくは0.05mg/日〜40mg/日の用量範囲で、最も好ましくは0.1mg/日〜20mg/日の用量範囲で投与される。
【0021】
さらに、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩は、VI型コラーゲン欠損に起因するUCMDおよびBMに関連した病兆の初期の改善(例えば、以下に限定はされないが、筋衰弱、呼吸器の問題の改善のような)が観察されるよう、好ましくは少なくとも一日に一回、好ましくは少なくとも3ヶ月、より好ましくは少なくとも6ヶ月、最も好ましくは6ヶ月〜12ヶ月の間、投与される。治療効果の維持のために長期の処置が推奨され、好ましい処置は一生涯である。
【0022】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩の有効用量を哺乳動物、特にヒトに提供するためのいかなる適当な投与経路も用いられうる。投与の形態には、直腸、局所、眼内、肺、口腔、腹腔内(i.p.)、静脈内(i.v.)、筋内(i.m.)、洞内(intracavernous)(i.c.)、非経口、鼻腔内、および経皮が含まれる。好ましい投与形態は、経口、腹腔内、静脈内、筋内、洞内、非経口、鼻腔内、および経皮であるが、経口投与が最も好ましい投与形態である。
【0023】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩は、好ましくは投与の前に投薬剤形に製剤化される。投薬剤形には、例えば錠剤、丸薬、顆粒、粉末、薬用ドロップ(lozenge)、サシェ剤、カシェ剤(cachet)、エリキシル剤、水性および油性の懸濁剤、乳剤、分散剤、滅菌注射剤のような溶液、シロップ、エアロゾル(固体としてまたは液状媒質で)、軟および硬ゼラチンカプセル剤のようなカプセル剤(capsule)、坐薬、滅菌パッケージ入粉剤(sterile packaged powder)、トローチ(troche)、クリーム、軟膏、およびエアロゾルが含まれる。錠剤が最も好ましい。
【0024】
経口適用に適した製剤は、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、顆粒粉末、ドロップ、ジュース、およびシロップの形状であるが、非経口、局所、および吸入適用に適した形状は、溶液、懸濁剤、容易に再構成可能な乾燥製剤、ならびにスプレーである。
【0025】
したがって、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩は、任意の適当な薬学的担体と組み合わされてもよい。本発明にしたがった使用のための薬学的製剤は、周知の容易に入手可能な成分を用いて通常の手法で調製することができる。そのような成分は、賦形剤、充填剤、溶剤、希釈剤、染料、および/または結合剤でありうる。
【0026】
製剤の作成において、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩は、通常担体と混合されるか、もしくは担体により希釈され、または担体と共に封入され、それらはカプセル剤、カシェ剤、紙、または他の容器の形状でありうる。
【0027】
担体が希釈剤として使用される場合、固体、半固体、または液体の物質であってもよく、媒体、賦形剤、または有効成分の媒質として作用する。
【0028】
適当な担体、賦形剤、および希釈剤の一部の例として、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水シロップ、メチルセルロース、メチルおよびプロピルヒドロキシ安息香酸塩、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ならびに鉱物油が含まれる。
【0029】
製剤は、さらに潤滑剤、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、保存剤、甘味料、ならびに/または着香料を含んでいてもよい。
【0030】
使用する補助剤ならびにその量の選択は、医用薬が経口、静脈内、腹腔内、皮内、筋内、鼻内、経頬、または局所投与されるか否かに依る。
【0031】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩は、患者への投与後に有効成分を迅速放出、持続放出、または遅延放出させるために製剤化されうる。この目的を達成するために、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩は、例えば、持続放出型物質として、溶解された形状で、または膏薬として、任意で皮膚への浸透を促進し経皮適用製剤として適している物質を添加して、投与することができる。経口または経皮的に使用されうる製剤の形状は、化合物の遅延放出をもたらす。
【0032】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩は毒性的に安全であり、それは医用製剤中の薬学的活性剤として使用できることを意味する。
【0033】
以下の実施例により本発明をさらに説明する。
【0034】
VI型コラーゲン欠損に起因するミオパシーの動物モデル
標的とする遺伝子の破壊によるVI型A1コラーゲン(Col6a1)遺伝子の不活化により、BMおよびUCMDに関するマウスモデルを得た(Bonaldo P. et al. (1998) Collagen VI deficiency induces early onset myopathy in the mouse: an animal model for Bethlem myopathy. Hum Mol Genet 7: 2135-2140)。ホモ接合型col6a1-/-突然変異体は三重らせんVI型コラーゲンを欠き、VI型コラーゲン欠損を有するヒト患者におけるBM/UCMDに類似する表現型を生じた。具体的には、 col6a1-/-マウスは、繊維壊死およびファゴサイトーシスならびに繊維の直径における著しい変動などのミオパシーの組織学的特徴を示す。さらに、筋肉は、刺激された繊維再生の徴候を示し、壊死繊維は特に横隔膜に多く存在することから、BMよりもUCMDの臨床像に、より類似した(Bertini E., Pepe G. (2002) Collagen type VI and related disorders: Bethlem myopathy and Ullrich scleroatonic muscular dystrophy Europ. J. Paediatric Neurology 6:193-198)。さらに、col6a1-/-マウスでの調査により、筋小胞体およびミトコンドリアの超微細構造の変化に関連して、筋肉に収縮強度の減少が見られることが実証された(Irwin WA et al. (2003) Mitochondrial dysfunction and apoptosis in myopathic mice with collagen VI deficiency. Nature Genetics 35:367-371)。このミトコンドリアの機能不全は、筋細胞膜におけるカルシウム流入のわずかな増加およびその後のカルシウム過負荷により起こり得、ついにはミトコンドリア膜透過性遷移孔(MPTP)の開口をもたらし、最終的にアポトーシスを引き起こす。
【0035】
実施例1
N-(ジベンズ(b,f)オキセピン-10-イルメチル)-N-メチル-N-プロパ-2-イニルアンモニウムマレアート(オミガピル)の効果を、Col6a1欠損マウスモデルの筋肉におけるアポトーシス性の核の数に基づいて試験した。16±4週齢の時点で開始し、ホモ接合型col6a1-/-マウスをオミガピルで処置した。このために、オミガピルを1% w/vのエタノールに溶解し、最終濃度を20 μg/mlとした。他に記載される手引きに従って、突然変異体マウスに、最終濃度が1 mg/kgまたは10 mg/kgのオミガピルを胃管栄養法により1日2回与えた(Sagot Y. et al. (2000) An orally active anti-apoptotic molecule (CGP 3466B) preserves mitochondria and enhances survival in an animal model of motoneuron disease. Br. J. Pharmacol. 131:721-728)。比較のため、col6a1-/-マウスに媒体のみを等量与えた。投与の5日後にマウスを屠殺し、横隔膜を除去し、薄片に切り、アポトーシス性の核をTUNEL染色を用いて染色した。横隔膜筋mm2面積当たりのアポトーシス性の核の数を、記載のように決定した(Irwin WA et al. (2003) Mitochondrial dysfunction and apoptosis in myopathic mice with collagen VI deficiency. Nature Genetics 35:367-371)。
【0036】
驚くべき事に、横隔膜筋において、オミガピルがアポトーシス性(すなわち、TUNELアッセイが陽性)の核の数を有意に減少させたことが分かった。図1に示すように、オミガピルは、1 mg/kg (N=3)または10mg/kg (N=4)の用量のオミガピルにより5日間処置されたcol6a1-/-マウスの横隔膜筋におけるアポトーシス性の核の数を、媒体で処置したcol6a1-/-マウス(N=6)と比較して有意に減少させた。オミガピルで処置した動物におけるアポトーシス性の核の数が、野生型動物(すなわち、VI型A1コラーゲン遺伝子における突然変異を有しないマウス)の横隔膜筋に見られる数に相当することは、驚くべきことである。
【0037】
特に、オミガピルがCol6A1-欠損マウスの筋肉におけるアポトーシス性の核の数を減少させることは、驚くべき事である。なぜならば、GAPDHの阻害が、BMおよびUCMDの動物モデルにおいてアポトーシス防止の可能性を有し得ることが、当業者にとって明らかではないからである。GAPDH媒介性細胞シグナル伝達プロセスの関与(Hara MR et al. (2005); S-nitrosylated GAPDH initiates apoptotic cell death by nuclear translocation following Siah1 binding, Nature Cell Biol 7:665-674)は、VI型コラーゲン欠損に関連する筋ジストロフィーに関係しておらず、現在、VI型A1コラーゲン、VI型A2コラーゲン、またはVI型A3コラーゲン遺伝子のいずれかにおける遺伝子突然変異により引き起こされる病状にGAPDHが関与し、ベスレムミオパシーまたはウールリッヒ型CMDを生じるという証拠は存在しない。オミガピルが、VI型コラーゲン欠損組織において筋細胞のアポトーシスを防ぎ得るという驚くべき知見は、アポトーシスが報告されているBMおよびUCMD患者における、オミガピルに基づく治療的介入の可能性を有する(Hayashi YK., et al. (2001) Massive muscle cell degeneration in the early stage of merosin-deficient congenital muscular dystrophy. Neuromuscul. Disord. 11: 350-359)。
【0038】
実施例2
N-(ジベンズ(b,f)オキセピン-10-イルメチル)-N-メチル-N-プロパ-2-イニルアンモニウムマレアート(オミガピル)の効果を、Col6a1欠損マウスモデルの筋肉のミトコンドリアにおける超微細構造の欠陥を正常化する作用に基づいて試験した。このために、Col6a1-欠損マウスを、実施例1に記載のようにオミガピルで処置した。
【0039】
横隔膜筋の筋繊維におけるミトコンドリアの超微細構造の様相を、記載のように決定および定量化した(Irwin WA et al. (2003) Mitochondrial dysfunction and apoptosis in myopathic mice with collagen VI deficiency. Nature Genetics 35:367-371)。
【0040】
驚くべき事に、オミガピルが、横隔膜筋の筋繊維におけるミトコンドリアの超微細構造の様相を正常化することが分かった。具体的には、病理学的に変化したミトコンドリアを有する筋繊維の割合が、媒体で処置した動物(動物C1〜C2、図2)と比較して、10mg/kg(動物A1〜A3、図2)または1 mg/kg(動物B1〜B2、図2)の用量のオミガピルにより明らかに減少した。
【0041】
オミガピルが、col6a1-/-マウスにおける筋肉組織のミトコンドリアにおいて超微細構造レベルの病理学的な変化を正常化し得るということは、驚くべき事である。
【0042】
この、ミトコンドリア異常の正常化は明らかに治療的に妥当性があり、BMおよびUCMDに対する、オミガピルに基づく治療的介入への道を開く。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】オミガピルは、1 mg/kg (N=3)または10mg/kg (N=4)の用量のオミガピルにより5日間処置されたcol6a1-/-マウスの横隔膜筋におけるアポトーシス性の核の数を、媒体で処置したcol6a1-/-マウス(N=6)と比較して有意に減少させた。
【図2】病理学的に変化したミトコンドリアを有する筋繊維の割合が、媒体で処置した動物(動物C1〜C2、図2)と比較して、10mg/kg(動物A1〜A3、図2)または1 mg/kg(動物B1〜B2、図2)の用量のオミガピルにより明らかに減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋ジストロフィーの予防および/または処置のための医用製剤の調製を目的とする、下記式(I) の化合物またはその薬学的に許容される付加塩の使用:


【請求項2】
筋ジストロフィーが、臨床上ウールリッヒ型先天性筋ジストロフィーまたはベスレム(Bethlem)ミオパシーとして公知である、3種類のVI型コラーゲン遺伝子(Col6A1、Col6A2、Col6A3)のいずれかにおける突然変異に起因する先天性筋ジストロフィーまたはミオパシーおよび中間の臨床的症状である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
式(I)の化合物の塩が鉱酸または有機カルボン酸の塩である、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
有機カルボン酸が、ヒドロキシル化されていてもよい(C1-7)アルカン酸、ヒドロキシル化、アミノ化および/もしくはオキソ置換されていてもよい(C2-7)アルカン-ジカルボン酸、ヒドロキシル化および/もしくはオキソ置換されていてもよい(C3-7)アルカン-トリカルボン酸、ヒドロキシル化および/もしくはオキソ置換されていてもよい(C4-7)アルケン-ジカルボン酸、ヒドロキシル化および/もしくはオキソ置換されていてもよい(C4-7)アルキン-ジカルボン酸、脂肪族もしくは芳香族のスルホン酸、または脂肪族もしくは芳香族のN-置換スルファミン酸である、請求項3記載の使用。
【請求項5】
式(I)の化合物の塩が、塩化物、過塩素酸塩、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、重硫酸塩、N-シクロヘキシルスルファミン酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、ピバレート、グリコール酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、アスコルビン酸塩、パントテン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、酒石酸塩、重酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アコナート(aconate)、フマル酸塩、マレイン酸塩、イタコン酸塩、アセチレンジカルボン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、フタル酸塩、フェニル酢酸塩、マンデル酸塩、ケイ皮酸塩、p-ヒドロキシ安息香酸塩、2,5-ジヒドロキシ安息香酸塩、p-メトキシ安息香酸塩、ヒドロキシナフトアート、ニコチン酸塩、イソニコチン酸塩、およびサッカラートからなる群より選択される陰イオンを含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
式(I)の化合物の塩が、H+、Na+、およびK+からなる群より選択される陽イオンを含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
化合物が式(I)の化合物のマレイン酸塩である、請求項1〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩が、錠剤の形で経口投与される、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される付加塩が、第2の治療剤と共に使用される、請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
第2の治療剤が、イデベノン(2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-(10-ヒドロキシデシル)-1,4-ベンゾキノン)、グルココルチコステロイド、および抗感染薬からなる群より選択される、請求項9記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−532404(P2009−532404A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503488(P2009−503488)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003067
【国際公開番号】WO2007/115776
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(505336024)サンセラ ファーマシューティカルズ (シュバイツ) アーゲー (21)
【Fターム(参考)】