説明

VLA−1に対するブロッキングモノクローナル抗体および炎症性障害の処置のためのその使用

【課題】被験体の炎症性障害の治療法を提供すること。
【解決手段】関節炎に罹患している被験体の処置のための組成物であって、ここで該組成物は、コントロール抗体処置した被験体と比較して約65%以上の関節炎スコアの減少を提供するに有効な量で機能ブロッキング抗体または該抗体のフラグメントを含み、ここで該機能ブロッキング抗体または該抗体のフラグメントは、VLA−1のエピトープと結合し得、ここで該エピトープは、図15のアミノ酸残基92〜97を含む、組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
インテグリンは、細胞相互のおよび細胞の周囲への接着を仲介する細胞表面分子の大きいクラスを形成する細胞表面タンパク複合体である。細胞類は多くの発達過程および生理的過程において互いに、およびその環境内のその他分子に、接着する必要がある。その例は組織および器官の形成およびそれらの統合維持を含む。これらの生理的過程には炎症性障害が含まれる。
炎症性過程における重要な工程の一つは、細胞が血管から組織に、そして感染部位に向かって遊出する段階を含む。この過程における接着分子の役割はしばしば以下を含む三段階モデルに分けられる;最初、白血球が炎症中の内皮に運搬され、次の段階でこれにしっかりと付着し、そして白血球の炎症組織への経内皮的移動を生じる(非特許文献1;非特許文献2)。炎症カスケードにおけるさらなる重要な段階で、そしてこれまで広くは研究されていない段階は、末梢組織内に起こる;ここでは既存の細胞と同様侵潤細胞もエフェクター機能を果たすために感染部位に移動し、異種抗原を識別し、そして細胞活性化を受ける必要がある。接着性相互作用が白血球の補充のために果たす役割とは別に、炎症における間隙の(interstitial)接着性相互作用の重要性を直接評価するために、本発明者らはインテグリンファミリーの接着分子およびそのフラグメントの重要性、および動物炎症(特に関節炎)モデル、におけるそれらの役割に焦点を当てた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0002】
【非特許文献1】Hynes,R.O.、1992、Cell 69:11−25
【非特許文献2】Springer,T.A.、1992、Cell 76:301−314
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
本発明は被験体の炎症性障害の治療法を提供する。特に本発明は関節炎の治療法を提供する。
【0004】
より詳細には、本発明の被験体に有効量のα1β1機能ブロッキング抗体またはその抗体のフラグメントを含んでいる薬学的組成物を被験体に投与することを含む、被験体における炎症性障害の処置法を提供する。ここで、α1β1機能ブロッキング抗体またはフラグメントはアミノ酸残基92−97、Val−Glu−Arg−Gly−Gly−Argを含むVLA−1のエピトープに結合することができる。
【0005】
上記抗インテグリン抗体はヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体およびそのフラグメントからなる群から選択され得る。抗インテグリン抗体はモノクローナルまたはポリクローナル抗体であり得る。
【0006】
本発明はさらに、ヒトまたは動物被験体である被験体の炎症性障害の治療法を提供する。
【0007】
前節に記載した全ての文献並びに下記の開示に含まれる引用文献は全て参考として本明細書に援用される。
【0008】
本発明はさらに、例えば、以下を提供する。
(項目1)
被験体における炎症性障害の処置のための方法であって、その方法は、その被験体に薬学的組成物を投与する工程を包含し、その薬学的組成物は、その炎症性障害を処置するのに有効な量のα1β1機能ブロッキング抗体またはその抗体のフラグメントを含み、ここでそのα1β1機能ブロッキング抗体またはそのフラグメントは、VLA−1のエピトープと結合し得、そしてここでそのエピトープは、図15のアミノ酸残基92〜97を含む、方法。
(項目2)
関節炎の処置のための方法であって、その方法は、関節炎に罹患している被験体に、コントロール抗体処置した被験体と比較して約65%以上の関節炎スコアの減少を提供するに有効な量で、機能ブロッキング抗体またはその抗体のフラグメントを含む組成物を投与する工程を包含し、ここでその機能ブロッキング抗体またはその抗体のフラグメントは、VLA−1のエピトープと結合し得、ここでそのエピトープは、図15のアミノ酸残基92〜97を含む、方法。
(項目3)
前記関節炎スコアの減少が約79%以上である、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記関節炎スコアの減少が約85%以上である、項目2に記載の方法。
(項目5)
前記関節炎スコアの減少が約90%以上である、項目2に記載の方法。
(項目6)
前記抗体がモノクローナルである、項目1〜5のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記被験体がヒトである、項目1〜6のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記被験体が、慢性関節リウマチに罹患している、項目2〜7のいずれかに記載の組成物。
(項目9)
モノクローナル抗体AJH10(ATCC番号 )。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】活性化白血球上のコラーゲン結合インテグリンα1β1およびα2β1。(A)IL2−活性化脾細胞(d11)上のα1およびα2β1インテグリン発現のフローサイトメトリー分析。細胞を、抗−α1 mAb、抗α2 mAb、または非結合コントロールmAb(灰色の線)のいずれかで標識し、その後FITC−抗ハムスター免疫グロブリンで標識した。(B)コラーゲンへの白血球接着における抗−α1および抗−α2 mAbの効果。105IL2活性化脾細胞を、上記のmAbで15分間処理し、その後IV型またはI型コラーゲン被覆ウェルのいずれかで37℃で1時間培養した。実施例1に例示されるように接着を計算し、そしてコントロールmAb処理細胞と比較して、%接着としてあらわした。接着アッセイは3重に行われ、少なくとも3回の独立実験が行われた。代表的一実験が示される。
【図1B】活性化白血球上のコラーゲン結合インテグリンα1β1およびα2β1。(A)IL2−活性化脾細胞(d11)上のα1およびα2β1インテグリン発現のフローサイトメトリー分析。細胞を、抗−α1 mAb、抗α2 mAb、または非結合コントロールmAb(灰色の線)のいずれかで標識し、その後FITC−抗ハムスター免疫グロブリンで標識した。(B)コラーゲンへの白血球接着における抗−α1および抗−α2 mAbの効果。105IL2活性化脾細胞を、上記のmAbで15分間処理し、その後IV型またはI型コラーゲン被覆ウェルのいずれかで37℃で1時間培養した。実施例1に例示されるように接着を計算し、そしてコントロールmAb処理細胞と比較して、%接着としてあらわした。接着アッセイは3重に行われ、少なくとも3回の独立実験が行われた。代表的一実験が示される。
【図2】遅延型過敏症のエフェクター相における抗インテグリンmAbの効果。SRBC感作マウスに、SRBCチャレンジの1時間前に上記mAbを腹腔内注射した。抗原チャレンジの20時間後に足蹠の厚さを測定し、実施例2に示すように結果を、足蹠の厚さの増加%±SEMとして示した。これらのデータはn=79(PBS)、68(コントロールハムスターIg)、68(抗−α1)、29(抗−α2)、18(抗−α1+抗−α2)、45(抗−α4)、18(抗−α5)、20(抗−α6)、および10(抗−β1)の8実験をまとめたものである。使用したmAbは、Ha4/8(コントロールハムスターIgグループ2)、Ha31/8(抗−α1)、Ha1/29(抗−α2)、PS/2(抗−α4)、5H10−27(抗−α5)、GoH3(抗−α6)、およびHMβ1−1(抗−β1)であった。
【図3】接触過敏症のエフェクター相における抗−インテグリンmAbの効果。FITC−感作マウスに、FITCチャレンジ4時間前に上記mAbを腹腔内注射した。耳の厚さをベースラインと24時間後に測定し、結果を、実施例3に示すように耳の厚さの増加%±SEMとして示した。これらのデータは、9実験をまとめたものであり、 n=74(PBS)、60(コントロールハムスターIg)、26(抗−ICAM−1)、44(抗−α1)、44(抗−α2)、38(抗−α1+抗−α2)、36(抗−α4)、16(抗−α5)、26(抗−α4+抗−α5)、24(抗−α6)、および22(抗−β1)である。使用したハムスターmAbは、Ha4/8(コントロールハムスターIgグループ2)、Ha31/8(抗−α1)、Ha1/29(抗−α2)、HMβ1−1(抗β−1)、3E2(抗−ICAM−1)であった;使用したラットmAbは、R35−95およびR35−38(それぞれコントロールラットIgG2aおよびラットIgG2b)、PS/2(抗−α4)、5H10−27(抗−α5)、GoH3(抗−α6)であった。
【図4】野生型マウスに比較したα1−欠乏マウスにおける接触過敏症反応。FITC感作マウスに、FITCチャレンジの4時間前に上記mAbを腹腔内注射した。耳の厚さをベースラインと24時間後に測定し、結果を実施例4に示すように、耳の厚さの増加%±SEMとして示した。状態ごとに4〜5匹のマウス群を用い、全実験を少なくとも3回行った。代表的1実験が示される。
【図5】クロトン油誘起性非特異的炎症における抗−α1および抗−α2 mAbの効果。耳にクロトン油を塗る4時間前に、マウスに上記mAbを腹腔内注射した。耳の厚さをベースラインと24時間後に測定し、結果を、実施例5に示すように耳の厚さの増加%±SEMとして示した。状態ごとに4ないし5匹ののマウス群を用い、全実験を少なくとも3回行った。代表的一実験が示される。
【図6】コラーゲンmAb誘起性関節炎における抗−α1および抗−α2の効果。マウスに0日目に抗−コラーゲンmAbを腹腔内注射し、その後3日目にLPSを注射した。マウスに0日目から始めて3日目ごとに上記mAbを腹腔内注射した。臨床的関節炎がLPS注射後2−3日目に明らかになり、数週間続いた。四肢の各々を実施例6に示すように3日目ごとに0−4スケールで評価し、結果を全四肢の9日目と15日目の間の平均関節炎スコア(±SEM)としてあらわした。これらのデータは4実験をまとめたものであり、各実験は状態ごとに3ないし4匹のマウス群からなっている。
【図7】抗−α1または抗−α2 mAbの投与は、DTH反応中の白血球の足蹠への侵潤を阻止する。実験は図2に記載のように行われた。抗原チャレンジの20時間後に足蹠を切り取り、そして組織切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。組織切片は、非チャレンジマウス(A)またはSRBCでチャレンジしたSRBC感作マウス(B−H)のいずれかの足蹠から得たものである。マウスはチャレンジの1時間前にPBS(B)、コントロールハムスターIg(C、G)、抗−α1(D)、抗−α2(E)または抗−α1および抗−α2 mAbの組み合わせ(F、H)のいずれかで処理した。倍率:×100(A−F)、×400(G−H)。
【図8】α1β1は、DTH反応中の足蹠における侵潤白血球に発現する。抗原チャレンジの20時間後の未処理炎症足蹠からの侵潤白血球の免疫組織学的染色。(A)Alexa488−結合コントロールmAbおよび抗−α1 mAbで直接染色した連続切片。(B)Alexa488−結合抗−α1 mAbおよびフィコエリトリン(PE)−結合細胞系−特異的mAbによる二重免疫蛍光染色。使用したPE結合mAbは顆粒球/単球(抗−CD11b)、好中球(抗−Ly6G/Gr−1)、およびTリンパ球(抗−CD3)に特異的であった。倍率:×400。
【図9】コラーゲンmAb−誘導性関節炎における抗−α1 mAbおよび抗α2 mAbの効果。(A)抗−α1または抗−α2 mAbのいずれかによるマウスの予防的処置は関節炎スコアを減らす。マウスを0日目に抗−コラーゲンmAbで、3日目にLPSで処理した。関節炎は6日目までに明らかになり、その後数週間続いた。マウスに0日目から始めて3日目ごとに上記mAbで処理した。3日目ごとに各四肢を評価し、0−4スケールで採点した。結果を、平均関節炎スコアとしてあらわす。結果を、全四肢の9日目から15日目までの平均関節炎スコア(±SEM)(最大スコア16)としてあらわす。状態ごとに4匹のマウス群を用いた;12実験の平均を示す。(B)α1−欠乏マウスは、抗−α1 mAb処理野生型マウスに比較して減少した関節炎スコアを有した。実験の詳細および採点法は上記のようである。状態ごとに4匹のマウス群を用いた:2実験の平均を示す。
【図10】関節炎の関節の免疫病態学における抗−α1 mAb処理の効果。 抗−α1 mAb処理は、白血球侵潤、細胞の関節表面への接着、およびプロテオグリカン喪失によって証明される軟骨破壊を減らす。コントロールハムスターIg(E−H)または抗−α1 mAb処理(I−L)のいずれかを受けた正常マウス(A−D)または関節炎マウス(d8)からの後肢。肢の写真を撮り(A、E、I)、切り取り、組織切片をヘマトキシリン/エオシンのいずれかで染色するか(B−C、F−G、J−K)、またはトルイジンブルーで染色してプロテオグリカンを検出した(D、H、L)。倍率:×16(B、F、J);×160(C、G、K);×200(D、H、L)。
【図11】関節炎の発生はリンパ球不在下では遅れ、抗−α1 mAbによる関節炎の阻止がリンパ球不在下で起きる。野生型B6,129またはRAG−1欠乏B6,129マウスを0日目に抗−コラーゲンmAbで処理し、3日目にLPSで処理した。関節炎は6日目までに明らかになり、数週間続いた。マウスに上記mAbを0日目から始めて、3日目ごとに処理した。各四肢を3日目ごとに0−4スケールで評価し、そして採点した。結果を1本の肢についての平均関節炎スコアであらわす(最大スコア4)。状態ごとに4匹のマウス群を用いた。
【図12】抗−α1 mAbによる関節炎阻止の用量反応。野生型Balb/cマウスに抗−コラーゲンmAbを用いて0日目に処理し、3日目にLPSで処理した。関節炎は6日目までに明らかになり、数週間続いた。マウスにHa4/8(アイソタイプコントロール)またはHa31/8(抗−α1)mAbの指示量を0日目から始めて3日目毎に腹腔内投与した。各肢を3日目ごとに評価し、0−4スケールで採点した。結果を1本の肢につき平均関節炎スコアとしてあらわす(最大スコア4)。状態ごとに4匹のマウス群を用いた。
【図13】抗−α1 mAbの治療的処理は関節炎スコアを減らす。野生型Balb/cマウスに0日目に抗−コラーゲンmAbで処理し、3日目にLPSで処理した。関節炎は6日目までに明らかになり数週間続いた。マウスにmAb(250μg)またはIg融合タンパク質(200μg)を4日目から始めて、3日目ごとに腹腔内投与した。マウスは、mAb(Ha4/8アイソタイプコントロールまたはHa31/8抗−α1)、Ig融合タンパク質(アイソタイプコントロールIgまたはTNF−R55−Ig)、または両者の組み合わせ(250μg Ha31/8および200μg TNF−R55−Ig)のいずれかを受容した。各肢を3日目ごとに評価し、0−4スケールで採点した。結果を1本の肢につき平均関節炎スコアとしてあらわす(最大スコア4)。状態ごとに4匹のマウス群を使用した。
【図14】抗−α1 IドメインブロッキングmAbのためのエピトープの位置。A.ラット(最上部)およびヒト(下)α1−Iドメインのアミノ酸配列。MIDAS(金属イオン依存性接着部位)モチーフ含む残基が太線で示される。対応するラット残基(R△H)に代わるヒトアミノ酸はボックス領域のラット配列の下に示される。明白にするために、本文中にナンバーをつけた残基は、この図を参照する。B.増加する濃度のmAb AJH10(ATCC NO.)を、30μg/ml ヒト(丸)、ラット(三角)またはR△H(四角)α1−Iドメインを塗布したプレートに結合させた。示したデータは3実験をあらわす。
【図15】ヒトα1−Iドメインのアミノ酸配列。
【図16】α1−Iドメインに対するブロッキングmAbの同一化。A.漸増濃度のmAb AEF3(三角)またはAJH10(ATCC NO.)(丸)を、30μg/ml α1−Iドメインで被覆したプレートに結合させる。B.α1−Iドメインを、漸増濃度のmAb AJH10(ATCC NO.)(ダイヤモンド)またはmAb BGC5(四角)で処理し、コラーゲンIV(2μg/ml)被覆プレートに結合させた。C.K562−α1細胞を、漸増濃度のmAb AEF3(三角)またはAJH10(ATCC NO.)(丸)で処理し、コラーゲンIV(5μg/ml)被覆プレートに結合させた。各ウェルに加えた細胞の45−50%が、コラーゲンIVに付着した。示されるデータは独立的3実験をあらわす。
【図17】ブロッキングmAbの種交差反応性。A.(1)ヒツジ血管平滑筋、(2)ヒト白血病K562−α1細胞、 または(3)精製R△H GST−Iドメインからの界面活性剤溶解物;(4)ラットGST−α1Iドメイン;および(5)ヒトGST−α1Iドメインを、非還元的条件下で10−20%SDS−PAGEによって分離し、機能ブロッキングmAb AJH10(ATCC NO.)で免疫ブロットした。分子量マーカーを左側に示す;非還元α1β1インテグリンは〜180kDaに移動する;GST−Iドメインは〜45kDaに移動する。B.ウサギ血管平滑筋細胞をmAb AJH10(ATCC NO.)(底部)かまたはネズミIgGコントロール(頂上)かのいずれかと共にインキュベートし、蛍光活性化細胞選別機(FACS)によって分析した。
【図18】α1−Iドメインはコラーゲンに結合する。A.漸増濃度のヒトα1−Iドメインを、1μg/mlコラーゲンI(四角)またはコラーゲンIV(丸)であらかじめ被覆したプレートに結合した。示される数値はBSAとのバックグラウンド結合に対して補正してある。B.2μ/mlヒトα1−Iドメインを漸増濃度の抗−ヒトα1インテグリン抗体5E8D9(四角)または抗−ヒトα2−インテグリン抗体A2IIE10(丸)と混合し、次いで、あらかじめ1μg/mlコラーゲンIVを塗布したプレートに結合した。C.プレートに1μg/mlコラーゲンIVまたは3%BSAを塗布した。α1−Iドメイン(2μg/ml)をその後1mM Mn2+、1mM Mg2+、または5mM EDTAの存在のもとで被覆プレートに結合させた。示されるデータは、独立した3実験を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
インテグリンおよびそのフラグメント、特にα1−インテグリンサブユニットに対する抗体が前炎症性白血球と細胞外基質の諸成分(限定しないが、コラーゲン、ラミニンおよびフィブロネクチンを含む)との相互作用をブロックし得ることが本発明の発見である。本発明は任意の単一の作用機構に制限することを意図しないが、インテグリンおよびそのフラグメントと、周囲のマトリックスとの相互作用の崩壊が前炎症性サイトカイン類の発現を減少させ得ることが提起される。さらに、インテグリンおよびそのフラグメントに対する抗体は、抗原特異的T−細胞のレベルに作用することによって、炎症反応のエフェクター相を調節し得ることが提起される。さらに、インテグリンおよびそのフラグメントに対する抗体は、組織内の細胞移動および組織内の細胞性プライミングおよび/または活性化を中断することによって作用し得ることが提起される。
【0011】
この発見は、炎症に関連する条件の間、インテグリンファミリーの接着分子(特にα1β1)が、末梢組織環境において重要であることを例示する。この発見はまた、免疫反応に対するマトリックス富化(matrix−rich)末梢組織環境の重要性を強調することによって、インテグリンファミリーおよびそのフラグメントの炎症における役割を白血球の内皮境界面における付着および遊出を超えてさらに広げ、そしてこのことは、接着を基礎とする療法のインターベンションの新しい観点として、末梢組織を明らかにする。
【0012】
本発明の方法は、インテグリンに対する抗体の使用を意図する;その際意図されるインテグリンは、α鎖(α1、α2、α3、α4、α5、α6、α7、α8、α9、α10、αV、αL、αM、αX、αD、αE、αIIbを含むがこれらに限定されない)と非共役結合されるのβ鎖(β1、β2、β3、β4、β5、β6、β7、β8を含むがこれらに限定されない)を含む分子を含む。本発明に使用するために意図される種々のインテグリンの例には、以下を含むがこれらに限定されない:
α1β1、α2β1、α3β1、α4β1、α5β1、α6β1、α7β1、α8β1、α9β1、α10β1、αVβ1、αLβ1、αMβ1、αXβ1、αDβ1、αIIbβ1、αEβ1;
α1β2、α2β2、α3β2、α4β2、α5β2、α6β2、α7β2、α8β2、α9β2、α10β2、αVβ2、αLβ2、αMβ2、αXβ2、αDβ2、αIIbβ2、αEβ2;
α1β3、α2β3、α3β3、α4β3、α5β3、α6β3、α7β3、α8β3、α9β3、α10β3、αVβ3、αLβ3、αMβ3、αXβ3、αDβ3、αIIbβ3、αEβ3;
α1β4、α2β4、α3β4、α4β4、α5β4、α6β4、α7β4、α8β4、α9β4、α10β4、αVβ4、αLβ4、αMβ4、αXβ4、αDβ4、αIIbβ4、αEβ4;
α1β5、α2β5、α3β5、α4β5、α5β5、α6β5、α7β5、α8β5、α9β5、α10β5、αVβ5、αLβ5、αMβ5、αXβ5、αDβ5、αIIbβ5、αEβ5;
α1β6、α2β6、α3β6、α4β6、α5β6、α6β6、α7β6、α8β6、α9β6、α10β6、αVβ6、αLβ6、αMβ6、αXβ6、αDβ6、αIIbβ6、αEβ6;
α1β7、α2β7、α3β7、α4β7、α5β7、α6β7、α7β7、α8β7、α9β7、α10β7、αVβ7、αLβ7、αMβ7、αXβ7、αDβ7、αIIbβ7、αEβ7;
α1β8、α2β8、α3β8、α4β8、α5β8、α6β8、α7β8、α8β8、α9β8、α10β8、αVβ8、αLβ8、αMβ8、αXβ8、αDβ8、αIIbβ8、αEβ8。
【0013】
本発明の方法はまた、例えば以下を含むインテグリンフラグメントの使用も考慮する:β鎖単独(β1、β2、β3、β4、β5、β6、β7、β8を含むがこれらに限定されない)に対する抗体、ならびにα鎖単独(α1、α2、α3、α4、α5、α6、α7、α8、α9、α10、αV、αL、αM、αX、αD、αE、αIIbを含むがこれらに限定されない)に対する抗体。加えて、本発明の方法はさらに、例えば以下を含むがそれらに限定されないα鎖のIドメインに対する抗体を含む、インテグリンフラグメントに対する抗体の使用を意図する:α1β1由来のIドメイン(Briesewitzら、1993、J.Biol.Chem.268:2989);α2β1由来のIドメイン(TakadaおよびHemler、1989 J.Cell.Biol.109:397)、αLβ2由来のIドメイン(Larsonら、1989 J.Cell.Biol.108:703)、αMβ2由来のIドメイン(Corbiら、1988 J.Biol.Chem.263:12403)、αXβ2由来のIドメイン(Corbiら、1987 EMBO J 6:4023)、αDβ2由来のIドメイン(Graysonら、1988 J Exp Med 188:2187)、αEβ7由来のIドメイン(Shawら、1944 J Biol Chem 269:6016)。好ましい実施形態において、α1−Iドメイン抗原決定基は少なくとも6個の隣接アミノ酸のアミノ酸配列を含み、ここで上記隣接配列は図15の配列内に見いだされる。さらに、好ましい実施形態において、上記隣接配列はVal−Gln−Arg−Gly−Gly−Argである。
【0014】
本発明の使用のためのインテグリンを生成する方法は、当業者に公知である(例えば、Springerら、1990、Nature 346:425−434頁を参照のこと)。
【0015】
さらに、本発明の実施形態は抗インテグリンポリクローナル抗体および抗インテグリンモノクローナル抗体を含む。本発明の好ましい実施形態は、抗−α1モノクローナル抗体のようなモノクローナル抗体を含む。
【0016】
本明細書中で用いられるようなα1β1機能ブロッキング抗体は、α1−Iドメイン(特に、図15の残基92−97)に結合し、かつ例えば、コラーゲンIVに対するK562−α1依存性接着を阻害する能力によって試験されたようにα1β1機能をブロックする抗体をいう(実施例15を参照のこと)。
【0017】
治療、特にヒトの治療のための好ましい抗体およびホモログとしては、ヒト抗体ホモログ、ヒト化抗体ホモログ、キメラ抗体ホモログ、Fab、Fab’、F(ab’)2およびF(v)抗体フラグメント、ならびに抗体重鎖または軽鎖のモノマーまたはダイマー、またはこれらの混合物が挙げられる。従って、インテグリン分子およびそのフラグメントに対するモノクローナル抗体は、本発明の方法における好ましい結合剤である。
【0018】
本明細書中に使用される場合、用語「抗体ホモログ」は、ジスルフィド結合を介して連結される結合した免疫グロブリン軽鎖および重鎖からなるインタクトな抗体を含む。用語「抗体ホモログ」はまた、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖およびそれらの抗原結合性フラグメント(それらは一つ以上の抗原(すなわち、α1、α2、α6またはα−Iドメインを含むインテグリンサブユニット)に結合可能である)から選択される一つ以上のポリペプチドを含むタンパク質を含むことが意図される。一つより多いポリペプチドから構成される抗体ホモログの成分のポリペプチドは必要に応じてジスルフィド結合していてもよいし、さもなくば共有結合で架橋していてもよい。
【0019】
従って、それゆえ「抗体ホモログ」は、IgA、IgG、IgE、IgD、IgM型(並びにそのサブタイプ)のインタクトな免疫グロブリンを含む。ここで、免疫グロブリンの軽鎖は、κ型またはλ型であり得る。
【0020】
「抗体ホモログ」はまた、抗原結合特異性を保持するインタクトな抗体の部分(例えば、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、F(v)フラグメント、重鎖モノマーまたはダイマー、軽鎖モノマーまたはダイマー、1本の重鎖と1本の軽鎖とからなるダイマーなど)も含む。従って、上記の抗体由来の抗原結合性フラグメント、ならびに全長ダイマーポリペプチドまたはトリマーポリペプチドもそれ自体有用である。
【0021】
本明細書中で使用される場合、「ヒト化抗体ホモログ」は、組み換えDNA技術により産生される抗体ホモログである。この抗体ホモログにおいて、抗原結合のためには必要とされないヒト化免疫グロブリン軽鎖または重鎖のアミノ酸のいくつかまたは全てが、非ヒト哺乳動物免疫グロブリン軽鎖または重鎖由来のその対応するアミノ酸の代わりに置換されている。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「キメラ抗体ホモログ」は、組み換えDNA技術により産生される抗体ホモログであり、このホモログにおいて免疫グロブリン軽鎖、重鎖、またはその両方のヒンジ領域および定常領域の全てまたは一部分が、別の免疫グロブリン軽鎖または重鎖からの対応領域の代わりに置換されている。別の局面において、本発明は、(1)インテグリン標的化部分;(2)必要に応じて、第2のペプチド、例えばインテグリン標的化部分の溶解度またはインビボでの寿命を増加するもの、例えば、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーまたはそのフラグメントまたはその一部、例えばIgGの一部またはフラグメント、例えばヒトIgG1重鎖定常部、例えばCH2およびCH3ヒンジ領域;およびトキシン部分を含むキメラ分子の改変体を特徴とする。キメラ分子を用いて、毛包などの上皮細胞の増殖に関連する疾患の危険のある被験体(例えば、ヒト)を処置し得る。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「ヒト抗体ホモログ」とは、組み換えDNA技術によって産生された抗体ホモログであり、免疫グロブリン軽鎖または重鎖のアミノ酸の全ては、供給源がヒトに由来する。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「炎症性障害」としては、乾癬、湿疹、火傷および皮膚炎などの皮膚関連の状態のような障害が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法による処置において意図される他の炎症性障害としては、喘息、気管支炎、月経性痙攣、腱炎、滑液包炎の処置、ならびに痛みおよび頭痛の処置、または高熱を処置する解熱薬としての使用が含まれる。本発明の方法はまた、炎症性腸疾患、クローン病、胃炎、過敏性腸症候群および潰瘍性大腸炎などのような胃腸障害および直腸結腸癌の予防にも有用である。本発明の方法は血管性疾患(vascular disease)、片頭痛、結節性動脈周囲炎、甲状腺炎、再生不良性貧血、ホジキン病、リウマチ熱、I型糖尿病、重症筋無力症、多発性硬化症、サルコイドーシス、ネフローゼ症候群、ベーチェット症候群、多発性筋炎、歯肉炎、過敏症、結膜炎、外傷後腫脹、心筋虚血などの疾患における炎症性障害の処置に有用である。本発明の方法は、アレルギー性鼻炎、呼吸困難症候群、内毒素ショック症候群、およびアテローム性硬化症の処置にも有用である。
【0025】
好適な実施形態において、本発明の方法はリウマチ性関節炎および骨関節炎などを含む関節炎の治療に有用である。
【0026】
“有効量”とは、好都合なまたは所望の臨床結果をもたらすのに十分な量である。有効量は1回または数回に投与できる。炎症性疾患の治療のためには、抗インテグリン抗体の“有効量”は、治療すべき障害に対して、または美容的目的のために臨床的に容認できる基準にしたがって、炎症関連性状態の進行を和らげ、軽くし、安定させ、逆転させ、緩徐にし、または遅らせるために十分な量である。効果のインジケータの検出および測定は、多数の利用可能な診断ツール、例えば非制限的に血液検査、肺機能試験、および胸部X線;CTスキャン;気管支鏡;気管支肺胞洗浄法;肺生検およびCTスキャン等を含む身体検査によって測定され得る。
【0027】
例えば、抗インテグリン モノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体の製造技術は公知である。例えばMendrickら、1995、Lab.Invest.72巻:367−375頁(マウス抗α1β1および抗α2β1 mAb);Sonnenbergら、1987 J.Biol.Chem.262巻:10376−10383頁(マウス抗α6β1 mAb);Yaoら、1996、J Cell Sci 1996 109巻:3139−50頁(マウス抗α7β1 mAb);Hemlerら、1984、J Immunol 132巻:3011−8頁(ヒトα1β1に対するmAb);Pischelら、 1987 J Immunol 138巻:226−33頁(ヒトα2β1に対するmAb);Waynerら、1988、J Cell Biol 107巻:1881−91頁(ヒトα3β1に対するmAb);Hemlerら、1987 J.Biol.Chem.262巻:11478−85頁(ヒトα4β1に対するmAb);Waynerら 1988 J Cell Biol 107巻:1881−91頁(ヒトα5β1に対するmAb);Sonnenbergら、1987、 J.Biol.Chem.262巻:10376−10383頁(ヒトα6β1に対するmAb);A.Wangら、 1996 Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.15巻:664−672頁(ヒトα9β1に対するmAb);Davisら、1989 J Cell Biol 109巻:1817−26頁(ヒトαVβ1に対するmAb);Sanchez−Madridら、 1982、Proc Natl Acad Sci USA 79巻:7489−93頁(ヒトαLβ2に対するmAb);Diamondら、1993:J Cell Biol 120巻:1031−43頁(ヒトαMβ2に対するmAb);Stackerら、1991 J Immunol 146巻:648−55頁(ヒトαXβ2に対するmAb);Van der Vierenら、1995、Immunity 3巻:683−90頁(ヒトαDβ2に対するmAb);Bennettら、 1983 Proc Natl Acad Sci USA 80巻:2417−21頁(ヒトαIIβ3に対するmAb);Hessleら、1984、Differentiation 26巻:49−54頁(ヒトα6β4に対するmAb);Weinackerら、1994 J.Biol.Chem.269巻:6940−8頁(ヒトαVβ5に対するmAb);Weinackerら、1994 J.Biol.Chem.269巻:6940−8頁(ヒトαVβ6に対するmAb);Cerf−Bensussanら、1992、Eur J Immunol 22巻:273−7頁(ヒトαEβ7に対するmAb);Nishimuraら、1994 J.Biol.Chem.269巻:28708−15頁(ヒトαVβ8に対するmAb);Bossyら、 1991 EMBO J 10巻:2375−85頁(ヒトα8β1に対するポリクローナル抗血清);Camperら、 1998 J.Biol.Chem.273巻:20383−20389頁(ヒトα10β1に対するポリクローナル抗血清)を参照されたい。
【0028】
一般に、不死細胞系統(典型的には骨髄腫細胞)を、所定の抗原、例えばインテグリンを発現する全細胞で免疫した哺乳動物から得たリンパ球(典型的には脾細胞)に融合する。そして、生成したハイブリドーマ細胞の培養上清液を上記抗原に対する抗体についてスクリーニングする。一般的にはKohlerら、 1975、Nature 265巻:295−497頁“所定の特異性の抗体を分泌する融合細胞の連続培養”を参照されたい。
【0029】
免疫は標準手順を用いて達成される。単位量および免疫レジメンは免疫される哺乳動物の種、その免疫状態、哺乳動物の体重などに依存する。典型的には、免疫した哺乳動物を繁殖させ、そして適切なスクリーニングアッセイを用いて各血液サンプルからの血清を特定の抗体についてアッセイする。例えば抗インテグリン抗体はインテグリン発現細胞からの125I標識細胞溶解液の免疫沈殿によって同定され得る。例えば、抗インテグリン抗体が挙げられる抗体を、フローサイトメトリーによって例えばインテグリン分子を認識すると考えられる抗体とインキュベートした抗体発現細胞の蛍光染色を測定することによって同定し得る。ハイブリドーマ細胞の生産に用いるリンパ球は、典型的には免疫哺乳動物から単離され得る。この哺乳動物の血清は、このようなスクリーニングアッセイを使用して、抗インテグリン抗体の存在が陽性であることがすでに試験ずみである。
【0030】
代表的には、不死細胞系統(例えば骨髄腫細胞系統)は上記リンパ球と同じ哺乳動物種に由来する。好ましい不死細胞系統は、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン(“HAT培地”)を含む培養培地に大して感受性であるマウス骨髄腫細胞系統である。一般的には、HAT感受性マウス骨髄腫細胞を1500分子量のポリエチレングリコール(“PEG1500”)を用いてマウス脾細胞に融合する。次いで、融合により生成したハイブリドーマ細胞をHAT培地を用いて選択する。HAT培地は未融合骨髄腫細胞や非生産的融合骨髄腫細胞を殺す(未融合脾細胞は形質転換されないことから、数日後には死滅する)。ハイブリドーマ培養上清液をスクリーニングすることによって、所望抗体を産生するハイブリドーマを検出する。例えば抗インテグリン抗体を産生するために調製されたハイブリドーマは、そのハイブリドーマ培養上清液に、組み換えインテグリン発現細胞系統に結合する能力を有する分泌抗体を検査することによってスクリーニングされ得る。
【0031】
抗インテグリン抗体ホモログを含む抗体ホモログ(それらはインタクトな免疫グロブリンである)を産生するために、このようなスクリーニングアッセイで陽性の検査結果の出たハイブリドーマ細胞を、栄養培地中で上記ハイブリドーマ細胞がモノクローナル抗体を上記培養培地中に分泌できる十分な条件下でかつ十分な時間培養した。ハイブリドーマ細胞に適した組織培養技術および培養培地は周知である。馴化ハイブリドーマ培養上清液を集め、そして抗インテグリン抗体を必要に応じて周知の方法によってさらに精製してもよい。
【0032】
あるいは、上記ハイブリドーマ細胞を、免疫していないマウスの腹腔内に注入することによって、所望抗体を産生してもよい。ハイブリドーマ細胞は腹腔内で増殖し、抗体を分泌する。それは腹水として蓄積する。上記腹水をで腹腔から吸い出すことによって抗体を採取できる。
【0033】
例えばインテグリンに対する完全ヒトモノクローナル抗体ホモログ類は、本発明の方法において抗原類をブロックし得る別の好ましい結合剤である。これらは、Boernerら、1991、J.Immunol.147巻:86−95頁、“インビトロでプライムされたヒト脾細胞から抗原特異的ヒトモノクローナル抗体の産生”に記載されているように、インビトロでプライムされたヒト脾細胞を用いてインタクトな形態で調製される。
【0034】
あるいは、それらはPerssonら、1991、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 88巻:2432−2436頁“レパートリークローニングによる多様な高親和性ヒトモノクローナル抗体の生成”およびHuangおよびStollar、1991、J.Immunol.Method 141巻:227−236頁、“インビトロ刺激を行わずにヒト末梢血リンパ球から典型的免疫グロブリン可変領域CDNAライブラリーの構成”により記載されているように、レパートリークローニングによって調製することもできる。米国特許第5,798,230号(1998年8月25日“ヒトモノクローナル抗体の製法およびその使用”)はヒトB細胞からヒトモノクローナル抗体の調製を記載している。このプロセスに従って、ヒト抗体産生B細胞を、エプスタイン−バーウィルス核抗原2(EBNA2)を発現するエプスタイン−バーウィルス、またはその誘導体での感染によって不死化する。不死化のために必要なEBNA2機能は引き続いて停止し、その結果、抗体産生の増加を生じる。
【0035】
完全ヒト抗体を産生するなお別の方法において、米国特許第5,789,650号(1998年8月4日“異種抗体産生のためのトランスジェニック非ヒト動物”)は、異種抗体を産生することができるトランスジェニック非ヒト動物および不活性化内因性免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を記載している。内因性免疫グロブリン遺伝子は、内因性免疫グロブリンに対するアンチセンス ポリヌクレオチド類および/または抗血清によって抑制される。異種抗体は、非ヒト動物の種のゲノムには普通は見いだされない免疫グロブリン遺伝子によってコードされる。非再配列異種ヒト免疫グロブリン重鎖の配列を含む1つ以上の導入遺伝子が非ヒト動物に導入され、それによって、トランスジェニック免疫グロブリン配列を機能的に再配列することができ、ヒト免疫グロブリン遺伝子によってコードされる種々のアイソタイプの抗体レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物を生成する。このような異種ヒト抗体はB細胞において産生される。B細胞は、その後例えば骨髄腫のような不死化細胞系統と融合するとか、またはこのようなB細胞を他の技術によって操作して、モノクローナルの異種完全ヒト抗体ホモログを産生できる細胞系統を不朽化するという方法で、不死化される。
【0036】
本発明の方法でインテグリン抗原またはそのフラグメントをブロックし得るなお別の好ましい結合剤は、インテグリンタンパク質またはそのフラグメントに結合する能力を有するヒト化抗体ホモログである。キメラ抗体を調製する初期の方法にしたがって、新しいアプローチがEP0239400(Winterら)において記載された。それによると或る種の相補的決定部領域(determining regions)(CDR)を別の種からのCDRで置き換えることによって、抗体を変化させる。このプロセスを用いて、例えばヒト重鎖および軽鎖Ig可変領域ドメインからのCDRをマウス可変領域ドメインからの代替のに置き換えることができる。これらの変化したIg可変領域を引き続きヒトIg定常部と組み合わせて、置換されたマウスCDRを除く組成が総合的にヒトである抗体を作り出すことができる。このようなCDR−置換抗体は、キメラ抗体に比較してヒトでは免疫反応を誘起しそうもないと推定される。なぜならばCDR−置換抗体は明らかにより少ない非ヒト成分を含むからである。CDR“グラフティング(grafting)”を介してモノクローナル抗体をヒト化するプロセスは“再形成(reshaping)”と呼ばれる。(Riechmannら、1988 Nature 332巻:323−327頁、“治療のためのヒト抗体のリシェイピング”;Verhoeyenら、1988、Science 239巻:1534−1536頁、“モノクローナル抗体にCDRグラフティングを用いるヒト抗体のリシェイピング”)。
【0037】
代表的には、マウス抗体の相補的決定領域(CDR)がヒト抗体中の対応する領域に移植される。なぜならば特異抗原に結合するマウス抗体の領域がCDRだからである(抗体重鎖に3つ、軽鎖に3つ)。CDRの移植は遺伝子工学によって達成される。これによりCDR DNA配列はマウス重鎖および軽鎖可変(V)領域遺伝子セグメントのクローニングによって決定され、その後対応するヒトV領域に部位指向変異誘発によって移される。このプロセスの最後の段階では、所望アイソタイプのヒト定常領域遺伝子セグメント(通常、CHではγI、CLではκ)が付加され、ヒト化重鎖および軽鎖遺伝子が哺乳動物細胞に同時発現し、可溶性ヒト化抗体を生成する。
【0038】
これらCDRのヒト抗体への移動が、この抗体に、本来のマウス抗体の抗原結合特性を伝える。マウス抗体における6つのCDRが構造的にV領域“フレームワーク”領域に取り付けられる。CDR−グラフティングが成功する理由は、マウスとヒト抗体との間のフレームワーク領域が、類似のCDR付着点を有する非常に似た三次元構造を有し得、その結果CDRが交換可能だからである。このようなヒト化抗体ホモログは、Jonesら、 1986 Nature 321:522−525頁、“ヒト抗体の相補的決定領域の、マウスのそれらによる置換”;Riechmann、1988、Nature 332巻:323−327頁、“治療のためのヒト抗体のリシェイピング”;Queenら、1989、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86巻:10029頁、“インターロイキン2レセプターに結合するヒト化抗体”およびOrlandiら、1989、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86巻:3833頁“ポリメラーゼ連鎖反応法によって発現するための免疫グロブリン可変ドメインのクローニング”に例示されるようにして調製することができる。
【0039】
それにもかかわらず、フレームワーク領域内の特定のアミノ酸はCDRと相互作用し、抗原結合親和性全体に影響を与えると考えられている。いかなるヒトV領域フレームワークの改変を伴わずにヒト化抗体を作るためにマウス抗体からのCDRを直接移すと、しばしば結合親和性の部分的または完全な損失を生じる。多くの場合、結合活性を得るためにはアクセプター抗体のフレームワーク領域による残基を変えることが重要であるようである。
【0040】
Queenら、1989、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86巻:10029−10033頁、“インターロイキン2レセプターに結合するヒト化抗体”およびWO 90/07861(Protein Design Labs Inc.)は、マウスmAb(抗Tac)のCDRとヒト免疫グロブリンのフレームワークおよび定常部とを組み合わせることによって、アクセプター抗体のフレームワーク領域ににおける改変された残基を含むヒト化抗体を調製する方法を記載している。彼らは、ヒトV領域フレームワーク残基のいかなる改変をも伴わずに直接的なCDR移動からしばしば生じる結合親和性の喪失の問題に対する一つの解決策を示した;彼らの解決策は二つの重要な段階を含む。第一に、本来のマウス抗体(この場合は抗Tac MAb)のV領域フレームワークに対する最適タンパク配列ホモログに対してヒトVフレームワーク領域をコンピューター分析によって選び出す。第二段階では、マウスCDRと相互作用しそうなフレームワークアミノ酸残基を可視化し、次いで、これらのマウスアミノ酸残基を相同ヒトフレームワークに重ねるために、マウスV領域の三次構造をコンピューターによってモデル化する。推定的マウス接触残基を有する相同ヒトフレームワークを用いるこれらのアプローチは、インターロイキン2レセプターに特異的な抗体類(Queenら、1989[前出])およびまた、単純ヘルペスウィルス(HSV)に特異的な抗体類(Co.ら 1991、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 88巻:2869−2873頁、“抗ウィルス治療のためのヒト化抗体”)に関して、本来のマウス抗体に対する同様な結合親和性を有するヒト化抗体を生成する。
【0041】
WO 90/07861の上記の2段階のアプローチにより、Queenらはヒト化免疫グロブリンを設計するための幾つかの基準を概説した。第一の基準はヒトアクセプターとして、通常は、ヒト化すべき非ヒトドナー免疫グロブリンに普通は相同である特定のヒト免疫グロブリンからのフレームワークを用いるか、または多くのヒト抗体からのコンセンサスフレームワークを用いることである。第二の基準は、もしもヒトアクセプター残基が異常であり、そしてドナー残基がフレームワークの特定残基においてヒト配列に典型的である場合、上記アクセプターよりもむしろ上記ドナーアミノ酸を使用することである。第三の基準は、CDRSに直に隣接する部分ではアクセプターよりもむしろドナーフレームワークアミノ酸残基を使用することである。
【0042】
極端なマウス残基導入なしでCDRグラフティングに、異なるアプローチ(Tempest、 1991、Biotechnology 9巻:266−271頁、“インビボでのヒトRSウィルス感染を阻止するためにヒトモノクローナル抗体の再形成”)を使用し得、そして標準として、NEWMおよびREI重鎖および軽鎖からそれぞれ誘導されるV領域フレームワークを使用し得る。Tempestらの1991年のアプローチを用いてNEWMおよびREIベースのヒト化抗体を構築する利点は、x線結晶学からNEWMおよびREI可変領域の三次元構造が知られており、そのためCDRとV領域フレームワーク残基との間の特異的相互作用がモデル化できることである。
【0043】
本治療はこれらの状態に罹患したヒトおよび動物被験体両方に有効である。本発明が適用できる動物被験体は、ペットとしても商業的目的のためにも飼育される家畜および牧畜の両方にわたる。例としてはイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタおよびヤギが挙げられる。
【0044】
本発明の方法において、抗体(例えば抗VLA−1抗体)は非経口投与してもよい。本明細書中で用いる用語“非経口”として、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、滑膜内、胸骨内、クモ膜下、肝内、損傷内および頭蓋内注射または注入技術が挙げられる。
【0045】
本発明の薬学的組成物は本発明の化合物のいずれか、またはその薬物学的に受容可能な誘導体を、薬物学的に受容可能なキャリアと共に含む。本明細書中で用いられる用語“キャリア”は公知の受容可能なアジュバントおよびビヒクルを含む。
【0046】
本発明によると、医薬組成物は無菌の注射用調製物(例えば無菌の注射用水性または油性懸濁液)の形態であり得る。この懸濁液は適切な分散または湿潤剤および懸濁剤を用い、当業者に公知の技術に従って処方される。
【0047】
本発明の医薬組成物は経口的に得られ得る。経口的に与えられる場合、それらは、非制限的に、カプセル、錠剤、水性懸濁液または溶液等の経口的に受容可能な投与型で投与できる。
【0048】
局所的適用について、上記医薬組成物は活性成分を一種類以上のキャリアに懸濁または溶解して含む適切な軟膏に処方することができる。
【0049】
本発明の医薬組成物は、ネブライザー、乾燥粉末吸入器または定量吸入器を介して鼻孔内噴霧または吸入によってもまた投与することもできる。
【0050】
所望効果をもたらす本発明の化合物の投与量および投与速度は、インヒビターの性質、被験体のサイズ、治療の目標、治療すべき病態の性質、使用する特定の医薬組成物、および治療医師の判断等、種々の要因に依存する。1日あたり約0.001と約100mg/kgとの間の体重、好ましくは1日あたり約0.1と約50mg/kgとの間の体重の活性成分化合物という投与レベルが有用である。最も好ましいのは、抗体ホモログが、約0.1mg/kg体重/日と約20mg/kg体重/日との間の投与量範囲、好ましくは約0.1mg/kg体重/日と約10mg/kg体重/日との間の範囲で、かつ1−14日間毎の間隔で投与される。別の好ましい実施形態では、腹腔内投与の際には上記抗体は約0.3〜1mg/kgの用量で投与される。別の好ましい実施形態では抗体は静脈内投与の際に約5〜12.5mg/kgの投与量で投与される。少なくとも1μg/mlの抗体の血漿レベルを提供するのに効果的な量の抗体組成物を投与するのが好ましい。
【0051】
当業者は、本発明のアンタゴニストがその意図する効果を有するか否かを容易に試験することができる。例えば、個体の上皮のサンプルに含まれる細胞について、投与された上記作用物質を検出する第二の試薬を用いて、インビトロで(またはエキソビボで)上記作用物質の存在を検査する。これは例えば、投与された作用物質に特異的な蛍光色素標識抗体(これは、次いでその後標準FACS(蛍光活性化細胞選別機)分析によって測定される)でもよい。あるいは、投与された作用物質の存在をインビトロ(エキソビボ)で、個々の細胞の、それ自体標識された(例えば蛍光色素で)同じ作用物質との結合能力の消失または低下によって検出する。好ましい投与量はハリマウスポジティブ細胞の大部分の検出可能コーティングをもたらすべきである。コーティングは抗体ホモログの場合、1−14日間持続するのが好ましい。
【0052】
本発明の実施は、他に指示されない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、微生物学、組み換えDNA、タンパク質化学、および免疫学の従来技術を利用する。これらは当業者の範囲内である。このような技術は文献に記載されている。例えば、下記を参照されたい。分子クローニング:実験室マニュアル、第2版(Sambrook、FritschおよびManiatis編集)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989;DNAクローニング、IおよびII巻(D.N.Glover編)、1985;オリゴヌクレオチド合成(M.J.Gait編)、1984:米国特許第4,683,195号(Mullisら);核酸ハイブリダイゼーション(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編)、1984;転写と翻訳(HamesおよびS.J.Higgins編)、1984;動物細胞の培養(R.I.Freshney編)、Alan R.Liss社、1987;固定細胞および酵素、IRL Press、1986;分子クローニングの実際的指針B.Perbal)、1984;酵素学における方法、154および155巻(Wuら、編)、Academic Press、ニューヨーク;哺乳動物細胞の遺伝子伝達ベクター(J.H.MillerおよびM.P.Calos編)、1987、Cold Spring Harbor Laboratory Press;細胞および分子生物学における免疫化学的方法(MayerおよびWalker編)、Academic Press、ロンドン、1987;実験免疫学ハンドブック、I−IV 巻D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編)、 1986;マウス胚の操作、Cold Spring Harbor Laboratory PressPress、1986。
【0053】
下記の実施例は本発明を説明するためのものであって、それを制限すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0054】
(実施例)
(化学的試薬)
蛍光イソチオシアネート(FITC)はSigma Chemical社(セントルイス、MO)から購入した。クロトン油はICNBiochmicals(オーロラ、OH)から購入した。Alsevers溶液中の全ヒツジ血液はEast Acres Biologicals(サウスブリッジ、MA)から得た。I型ラット尾コラーゲンおよびIV型マウスコラーゲンはそれぞCollaborative Research Ins.(ベドフォード、MA)およびGibco(ゲイザースバーグ、 MD)から購入した。
【0055】
齢6−8週のBalb/c雌マウスはタコニック(Taconic)(ゲルマンタウン、 NY)から購入し、そしてBalb/cバックグラウンドのα1β1インテグリン−欠乏マウスは前述のようであった(3)。
【0056】
(実施例1)
(モノクローナル抗体)マウス抗原に対する機能ブロッキングmAbをアジドを含まない形式および低エンドトキシン形式で作製した:Ha31/8(ハムスター抗CD49a;インテグリンα1)(Mendrickら、1995 Lab.Invest.72巻:367−375頁)、Hal/29(ハムスター抗CD49b;インテグリンα2)(β1)(Mendrick,D.L.ら、1995、Lab.Invest.72巻367−375頁;MendrickおよびD.M.Kelly1993 Lab.Invest.69巻:690−702頁)、ハムスターII群コントロールmAb Ha4/8(ハムスター抗KLH)(Mendrick,D.L.およびD.M.Kelly 1993 Lab.Invest.69巻:690−702頁)、およびPS/2(ラット抗CD49d;インテグリンα4β1鎖)(Miyakeら、1991 J.Exp.Med. 173巻:599−607頁)。さらに、下記のマウス抗原に対する機能ブロッキングmAbをアジドなし/低エンドトキシン調製物としてPharmingen(サンディエゴ、CA)から購入した:HMβ1−1(ハムスター抗CD29;インテグリンβ1鎖)(Notoら、1995 Int.Immunol. 7巻:835−842頁)、Ha2/5(ハムスター抗CD29;インテグリンβ1鎖)(Mendrick,D.LおよびD.M.Kelly 1993 Lab.Invest.69巻:690−702頁)、3E2(ハムスター抗CD54、ICAM−1)Scheyniusら、1993 J.Immunol.150巻:655−663頁)、5H10−27(ラット抗CD49e;インテグリンα5)(Kinashi,T.およびT.A.Springer、1994、Blood Cells 20巻:25−44頁)、GoH3(ラット抗CD49f;インテグリンα6)(Sonnenbergら、1987 J.Biol.Chem.262巻:10376−10383頁)およびラット アイソタイプコントロールmAb R35−95(ラットIgG2a)およびR35−38(ラットIgG2b)。
【0057】
(接着アッセイ)Balb/cマウスからの脾細胞を20ng/ml IL−2と共に7−12日間培養した。I型およびIV型コラーゲンに対する細胞の接着は既述のようであった(Gotwal)ら、1996 J.Clin.Invest.97巻:2469−2477頁)。つまり、96ウェルのMaxisorpプレート(Nunc、Napiervill、IL)に10μg/mlのIV型または5μg/mlのI型コラーゲンのいすれかをコーティングし、そして非特異的部位を1%BSAでブロックした。IL−2活性化脾細胞を2μM BCECF[2’,7’−ビス(カルボキシエチル)−5(6)カルボキシル フルオレセイン ペンタ アセトキシメチルエステル](Molecular Probes、ユーゲン、OR)で標識化し、示したmAb10μg/mlと共に15分間インキュベートした。次いで、コーティングしたウェルにRPMI中0.25%BSA中105細胞を加え、そして37℃で60分間インキュベートした。RPMI中0.25%BSAで3回洗って未結合細胞を除去した。CytoFluor2350蛍光プレート・リーダー(Millipore、ベドフォード、MA)を用いて接着を定量した。入力した細胞に対する結合細胞の割合を測定し、コントロールmAb処理細胞(100%に正規化した)に対するパーセント接着を計算した。BSAのみでコーティングしたウェルに起因する細胞接着によるバックグラウンド値を差し引いた。
【0058】
(活性化白血球上のα1β1およびα2β1の発現および機能遮断)炎症において白血球が重要な役割を演ずると仮定して、本発明者は抗α1および抗α2mAbが白血球のコラーゲンへの接着をブロックすることができるかどうかを試験した。α1およびα2の両方の高レベルを発現する白血球を得るために、マウスT細胞をインビトロでIL−2で7−12日間刺激した。これらの細胞はα1もα2も高レベルに発現し(図1A)、コラーゲンIV型およびI型をコーティングした両方の表面にも良好に結合した(図1B)。IV型コラーゲンへの接着は抗α1 mAb単独によって一部分阻止され、抗α2 mAb単独では阻止されなかった。対照的に、I型コラーゲンへの接着は抗α2 mAbによって完全に阻止され、抗α1 mAb単独では部分的阻止のみを示した。抗β1mAbおよび抗α1と抗α2との組み合わせの両方は、I型およびIV型コラーゲンへの接着を完全に阻止した。α1β1およびα2β1インテグリンが活性化T細胞に発現され、抗α1およびα2 mAbがコラーゲンへの白血球接着を機能的にブロックし得ることが証明されたので、本発明者はこれらのmAbを用いて炎症性疾患の動物モデルにおけるこれらインテグリンのインビボでの役割を研究した。
【0059】
(実施例2)
(抗インテグリンmAbによるDTH応答の阻止)以前刊行されたプロトコル((Hurtrelら、1992、Cell.Immunol.142巻:252−263頁)を若干変えて、SRBC誘起性遅延型過敏症(DTH)応答を起こした。つまり、0日目にマウスの背中に100μl PBS中2×107SRBCを皮下注射することによってマウスを免疫した。そのマウスを、5日目に、右後肢の足蹠に25μlPBS中1×108SRBCを皮下注射することによってチャレンジした。足蹠の厚さを抗原チャレンジの20時間後に工学的ノギス(engineer’s caliper)(Mitutoyo/MTI,Paramus,NJ)で測定し、足蹠の腫脹程度を計算した。結果を足蹠厚さの平均増加パーセント±SEMとして報告し、%増加=[1−(抗原チャレンジの20時間後の右足蹠厚さ/抗原チャレンジの20時間後の注射しなかった左足蹠厚さ)]×100として計算した。SRBC誘起性DTH応答のエフェクター相をブロックするために、治療的またはコントロールmAb(100μg)(実施例1に記載の方法で作製された)を、5日目に抗原チャレンジする1時間前に腹腔内投与した。
【0060】
SRBC誘起性DTHは炎症、特に乾癬のよく特徴づけられたインビボモデルである。これは炎症における種々のサイトカインおよび接着分子の重要性を示すために用いられている(Tedderら、1995 J.Exp.Med.181巻:2259−2264頁、Terashitaら、1996 J.Immuno.156巻:4638−4643頁)。SRBC感作マウスに足蹠抗原チャレンジの1時間前に抗インテグリンmAbを受けさせ、20時間後に増加した足蹠厚によって炎症を測定し、評価した。PBSおよびコントロールハムスターIg処理マウスは抗原チャレンジの20時間後に足蹠厚さの60−70%の増加を示した(図2)。コントロールハムスターIg処理に比較して、抗α1または抗α2 mAbは足蹠厚において68%および60%阻止をそれぞれ生じた。抗α1およびα2 mAbの組み合わせは71%阻止し、抗α1または抗α2 mAb単独を超える付加的効果はほとんど示さなかった。他の抗インテグリンmAbでの処置もDTHエフェクター応答を有効に阻止した。種々のmAb処理でみられる阻止程度は49%(抗α4)、23%(抗α5)、および57%(抗α6)であった。最後に、一般的β1インテグリン・サブユニットのmAb遮断(mAb HMBI−1)はエフェクターDTH応答を67%阻止した。
【0061】
(実施例3)
(抗インテグリンmAbによるCHSエフェクター応答の阻止)FITCに対する接触過敏症(CHS)を前述のようにアッセイした(Gaspariら、 1991“免疫学における最新プロトコル”、J.E.Coligan、A.M.Kruisbeek、D.H.Margulies、E.M.Shevach、W.Strober編。John Wiley & Sons,New York、ニューヨーク。章4.2:1)。つまり、マウスの毛を剃った背中に0日目に1:1アセトン/ジブチルフタレート中0.5%FITC 100μlを塗ることによりマウスを感作させた。10日後、動物を各耳の両側に0.5%FITC5μlを塗布することによりチャレンジした。耳の腫脹応答を工学的ノギス(Mitutoyo/MTI,Paramus,NJ)で、抗原チャレンジ時(10日目)および24時間後に測定した耳の厚さにより決定し、そして結果をベースラインの耳の厚さの平均増加パーセント±SEMとして報告した。耳の厚さの増加は、%増加=[1−(抗原チャレンジの24時間後の耳の厚さ/抗原チャレンジ時の耳の厚さ)]×100として計算した。CHS応答のエフェクター相をブロックするために、治療的またはコントロールmAb(250μg)を10日目の抗原チャレンジの4時間前に腹腔内に与えた。抗原に感作し、そしてビヒクルのみを耳にチャレンジしたマウス(ビヒクルコントロール)、またはあらかじめ感作させずに耳をチャレンジしたマウス(刺激性コントロール)をネガティブコントロールとした(耳の厚さは2%以上増加することはなかった)。
【0062】
CHSが機構的にDTHと区別され、そして異なるエフェクター細胞を含むと仮定して、本発明者はCHS応答のエフェクター相に対して抗インテグリンmAbがどんな影響を有するかを研究した。マウスの毛を剃った背中へのFITC塗布を用いてマウスをハプテン感作した。10日後に耳にFITCチャレンジすると翌日炎症性応答が起きた。FITC感作マウスは抗原チャレンジの24時間後には厚さの60−70%の増加を示した(図3)。公開されている結果(Scheyniusら、J.Immunol. 150巻:655−663頁)と一致して、抗ICAM−1 mAb処置は耳の腫脹の51%阻止を起こした。コントロールハムスターmAbと比較して、抗α1または抗α2mAbを抗原チャレンジの4時間前のマウスの処置は、耳の腫脹のそれぞれ37%および57%の阻止を起こした(図3)。抗α1および抗α2 mAbの組み合わせは耳の腫脹の若干大きい阻止を起こした(65%)。β1インテグリンに対する他のmAbでの処置は、抗α4および抗5mAbがコントロールラットmAbに比較する場合、FITC誘起性CHSエフェクター応答を阻止しなかったのに対し、抗α6 mAbでの投与はエフェクター応答を86%阻止することが明らかになった。最後に、一般的β1インテグリンサブユニットのmAb遮断はCHSエフェクター応答を74%阻止した。異なる種のマウス(C57/BL6、129/Sv)および異なる感作剤(オキサゾロン)を用いて同様のCHS結果が得られた(データは示されず)。SRBC誘起性DTHモデルにみられる結果と同様に、炎症耳の組織学的分析は、浮腫形成も白血球浸潤も両方とも抗α1および抗α2 mAb処置によって阻止されることを明らかにした。
【0063】
α1β1およびα2β1がIL−2活性化脾細胞上に発現し得るという発見と一致して、抗原感作マウス(FITCまたはオキサゾロン)からのリンパ節の分析は、α1β1およびα2β1が専らCD44hiLFA−1hi活性化CD4+およびCD8+ T細胞に発現されることを明らかにした(データは示されず)。抗α1および抗α2 mAbを用いるマウスの処置は、これら細胞の消失を生じなかった;CHSモデルにおいて抗原感作に対して見られる脾臓およびリンパ節の両方の活性化T細胞の数が影響を受けなかったからである。それに加えて、抗原感作マウスに抗α1および抗α2 mAbで長期処置した際(10−16日)、20日目に抗原でチャレンジしたマウスの炎症性応答には影響がなかったように、エフェクター細胞は機能的には欠失していなかった(データは示されず)。
【0064】
(実施例4)
(CHSエフェクター応答はα1β1欠乏マウスでは減少する)FITC仲介性CHSのエフェクター応答においてα1β1の阻止的役割がmAb仲介性である可能性を排除するために、野生型およびα1β1インテグリン欠乏マウスで実験を行った(図4)。野生型マウスにおけるエフェクター相のmAb阻止はこれまでの結果と一致し、抗α1では耳の厚さの56%阻止を伴い、抗α2では56%阻止が、抗α1と抗α2との組み合わせでは62%の阻止を伴った。CHSのエフェクター相は未処置α1β1欠乏マウスでは未処置野生型マウスと比較して有意に減少した(耳の厚さの増加においてそれぞれ30% 対 71%)。予想通り、未処置α1β1欠乏マウスにおける耳の腫脹レベルは抗α1 mAb処置−野生型マウスに見られる耳の腫脹レベルに匹敵した。最後に、α1β1欠乏マウスにおけるα2β1のmAb遮断は、抗α1と抗α2 mAbとの組み合わせで処置した野生型マウスに見られる結果と一致して、耳の腫脹の阻止をごくわずか高めたに過ぎなかった。
【0065】
(実施例5)
炎症のDTHおよびCHSモデル両方に見られる抗インテグリンmAbの阻止効果が抗α1および抗α2 mAbによって仲介される一般的抗α1炎症効果によって引き起こされる可能性もさらに排除するために、これらmAbの刺激性皮膚炎に対する効果を研究した。
【0066】
刺激性皮膚炎を評価するために、マウスの各耳の両側にアセトン中0.8%クロトン油5μlを塗った。治療的またはコントロール抗体を刺激適用の4時間前に与えた。24時間後に耳の腫脹を前記のように測定し、そしてクロトン油塗布前の耳の厚さと比較した。結果は上記のようにベースラインの耳の厚さの平均増加パーセント±SEMとして報告する。アセトンのみを塗布したマウス(ビヒクルコントロール)をネガティブコントロールとした。
【0067】
24時間後、クロトン油で処置したマウスの耳は、ビヒクルのみ(アセトン)を塗布したマウスに比較する場合、耳の厚さの有意な増加を示した(48%)。クロトン油によって誘起される毒性耳腫脹は、抗α1または抗α2 mAbで前処置したマウスでは、PBSまたはコントロールmAb処置動物のいずれかと比較して有意な影響を受けなかった(図5)。クロトン油処置した耳の組織検査は、抗α1または抗α2 mAb処置マウスと、コントロールmAb処置マウスまたはPBS処置マウスとを比較して、浸潤細胞の数またはタイプ、または浮腫生成において何ら差を示さなかった(データは示されず)。
【0068】
(実施例6)
(α1β1およびα2β1による関節炎の阻止)α1β1は関節炎患者の滑液中の浸潤細胞によく発現することから、本発明者は以前に記載された加速性関節炎モデル(Teratoら、1992 J.Immunol. 148巻:2103−2108頁;Teratoら、1995 Autoimmunity. 22巻:137−147頁)において抗α1または抗α2 mAbが阻止的に作用するかどうかを試験することにした。
【0069】
アルスロゲン−CIA抗体キットをStratagene(ラジョラ、CA)から購入し、そして十分確立されたプロトコルを用いて関節炎を誘発した(Teratoら、1992 J.Immunol. 148巻:2103−2108頁;Teratoら、1995 Autoimmunity. 22巻:137−147頁)。つまり、4種類の抗コラーゲン II型mAb(各1mgづつ)の混合物を0日目に腹腔内注射し、続いて3日目に50μgLPSを腹腔内注射することによって関節炎を誘発した。次の3−4日間にマウスは、腫脹した手首、足首およびを発生した。治療的またはコントロールmAb(250μg)の腹腔内注射を、0日目の抗コラーゲンmAbの注射4時間前および3日目のLPS投与の4時間前に再度行われ、続いて実験期間中、3日目ごとに続けられた。3日目からマウスの関節炎発生を評価した。各肢の関節炎の重症度を4ポイント系を用いてスコア付けした。0=正常;1=足首または手首に軽度の赤み、またはわずかの腫脹;2=足首または手首の中程度の腫脹;3=いくつかの指、足首および足を含む重度の腫脹:4=最大炎症。
【0070】
Balb/cマウスの重度の関節炎がLPS注射後72時間以内に発生し、3週間を超えて持続した。抗コラーゲンmAb単独注射もLPS単独注射も、関節炎を誘発しなかった。コントロールmAb処置を受けたマウスはPBS処置マウスにみられるものと同程度の関節炎を示した(図6)。対照的に、抗α1 mAb単独での処置は関節炎の実験期間中持続する顕著な減少(78%)を示した。抗α2mAb単独での処置は有益な効果を示し、コントロールmAb処置マウスと比較して関節炎スコアの32%の減少を生じた。抗α1と抗α2 mAbとの組み合わせは抗α1 mAb単独でみられるのと同様な程度の阻止を生じた。
【0071】
(実施例7)
(抗α1および抗α2 mAb処置の炎症性細胞浸潤に与える影響の組織学的分析)SRBC誘起性DTH応答のさらなる組織学的分析は、抗α1および抗α2 mAb治療の、誘起された炎症性応答を調節する能力を確認した(図7)。SRBC感作マウスからの非チャレンジ足蹠(図7パネルA)は、同じマウスからのSRBCチャレンジ足蹠(図7パネルB)に比較して炎症性細胞性浸潤物を実質的には示さなかった。抗α1および抗α2を単独または組み合わせでのSRBC感作マウスの処置は、SRBCチャレンジ足蹠に見いだされるこれら浸潤細胞の数を、コントロールmAb−処置マウスと比較する場合、著しく減少した(図7パネルC−F)。浸潤細胞をより綿密に試験は、大部分の細胞が好中球からなり、若干の単球とリンパ球が存在していることを明らかにし、そして抗α1および抗α2 mAb処置がこれらの細胞数を著しく減らすことが確認された(図7パネルG−H)。
【0072】
(実施例8)
(炎症性細胞浸潤物中のα1発現細胞の免疫組織化学的証明)浸潤細胞の性質をより精細に決定し、それらがコラーゲン結合インテグリンを発現するかどうかを決定するために免疫組織化学を行った(図8)。非処置マウスの炎症足蹠からの浸潤細胞についてα1β1インテグリンおよび細胞系統マーカーの発現について試験した(図8)。α1β1インテグリンは多くの浸潤白血球上に発現することが見出された(図8A)。二重免疫組織化学を用いて浸潤細胞の性質およびα1β1発現の分布を同定した(図8B)。細胞系統マーカーを用いて、浸潤物がほとんど顆粒球/単球(Mac−1+)からなり、これら細胞の多くが好中球(Gr1+)であり、加えて、少数がTリンパ球(CD3+)であることを見いだした(図8B)。α1β1インテグリンの発現は細胞の3サブセット全ての間に見いだされ、α1はMac−1+顆粒球/単球のサブセット、Gr1+好中球のサブセット、および浸潤CD3+ Tリンパ球の大部分に発現した(図8B)。詳細な免疫組織化学分析は、抗α1および抗α2 mAb処置が浸潤細胞数を減らすとはいえ、浸潤物中の細胞組成には変化が見られないことを明らかにした(データは示されず)。FITC抗ハムスターmAbでの免疫組成化学的染色は、抗α1および抗α2 mAbが炎症足蹠に局在化する能力を確認した(データは示されず)。
【0073】
(実施例9)
(α1β1およびα2β1に対するmAbによる関節炎の阻止およびα1欠乏マウスにおける関節炎の阻止)α1β1は関節炎患者の滑液中に浸潤する細胞に良好に発現されることから、本発明者は抗α1または抗α2 mAbがこれまで記載された(Teratoら、1992 J.Immunol. 148巻:2103−2108頁;Teratoら、1995 Autoimmunity. 22巻:137−147頁)加速性関節炎モデルにおいて阻止的であるかを試験することにした。このモデルは、抗コラーゲンII型mAbの混合物をマウスに注射し、続いて、LPSを投与し、次の3−7日間に関節炎を発生させることを含む。マウスに0日から始めて、3日目ごとにmAbを投与し、3日目ごとに関節炎の発生をスコア付けした。LPS注射後72時間以内に全てのマウスに重症な関節炎が発生し、3週間以上持続した。抗コラーゲンmAb単独の注射も、LPS単独の注射も関節炎を引き起こさなかった。コントロールmAb処置を受けたマウスはPBS処置マウスに見られるのと同様にひどい関節炎を示した。これに対し、抗α1mAb単独での処置は関節炎の顕著な減少(79%以上)を示し、それは実験期間中持続した。抗α2 mAb単独での処置もまた有益な効果を有し、コントロールmAb処置マウスに比較して関節炎スコアの37%の減少を起こした。抗α1および抗α2mAbの組み合わせは抗α1mAb単独で見られるものと同様程度の阻止を生じた。抗α1mAb処置での関節炎スコアの減少は全てのマウスに見られ、そして以下のようないくつかの他のmAbベースの関節炎治療に好都合に匹敵する:可溶性TNFレセプターIg融合タンパク質(Moriら、1996、J.Immunol.157巻:3178−3182頁)、抗Mac−1(Taylorら、1996 Immunology 88巻:315−321頁)、抗α4(Seiffge 1996 J.Rheumatol.23巻:2086−2091頁)、および抗ICAM−1(カキモトら、1992 Cell Immunol.142巻:326−337頁)(図9A)。関節炎におけるα1β1の重要な役割を示すmAbベースのデータと一致して、非処置α1欠乏マウスは野生型マウスに比較して関節炎スコアの顕著な減少を示した(図9B)。
【0074】
(実施例10)
(関節炎関節の免疫病態学に与える抗α1mAb処置の影響)コントロールmAbまたは抗α1mAbのどちらかの投与を受けた野生型関節炎マウス(8日目)からの関節を視覚的に、および組織学的に、正常非投与マウスからの関節と比較した(図10)。視覚的に、コントロールmAb処置マウスからの関節は、指を含む足全体の赤さおよび腫脹を示したが、抗α1 mAb処置マウスは関節または指のいずれかに炎症の兆候をほとんどまたは全く示さなかった。組織検査はコントロールmAb処置した関節炎関節に重度の変化を示し、それは炎症細胞を含む滑膜下組織の広範な浸潤、細胞の関節表面への付着、およびプロテオグリカン消失によって証明される著しい軟骨破壊を伴った(図10)。これまでの報告(Teratoら、1992 J.Immunol 148巻:2103−2108頁;Teratoら、1995 Autoimmunity 22巻:137−147頁)と一致して、このモデルにおける浸潤細胞の大部分は好中球である。マウスの抗α1 mAb投与は炎症性浸潤物の量および軟骨破壊の程度を劇的に減らした(図10)。
【0075】
(実施例11)
(関節炎の発生はリンパ球の非存在下では遅れ、そして抗α1 mAbによる関節炎の阻止はリンパ球の非存在下で起きる)コラーゲンmAb−誘起性関節炎モデルにおいて重要な細胞型を確認するために、野生型B6−129マウスおよびRAG−1−欠乏B6−129マウスの関節炎発生能力を比較した(図11)。RAG−1(組み換え活性遺伝子−1)の遺伝子欠失は成熟TおよびBリンパ球の完全な消失を起こす(Mombaertsら、1992 Cell 68巻:869−877頁)。野生型およびRAG−1−欠乏マウスの両方に関節炎が発生したが、RAG−1−欠乏マウスにおける誘発速度の方が有意により遅い(図11)。これらの結果は、リンパ球がこの関節炎モデルに関係はしているが、それらはこの疾患の発生および進行のためには必要ないことを示唆する。他の関節炎モデルでRAG−1欠乏マウスの効果を試験した公表された報告も、TおよびBリンパ球の喪失が関節炎の発生を遅らせることを見いだした(Plowsら、1999 J.Immunol.162巻:1018−1023頁)。抗α1 mAbでの野生型またはRAG−1−欠乏マウスのいずれの処置も関節炎を完全に阻止した(図11)。これらの結果は、このモデルでは抗α1 mAbの有効性はリンパ球の存在には依存せず、前の実験が示唆したように(図9)、抗α1 mAbの疾患防止効果は他のα1発現細胞(例えばマクロファージおよび好中球)に対するその作用を介し得ることを示している。
【0076】
(実施例12)
(関節炎の抗α1 mAb阻止の用量応答)抗α1 mAb処置が関節炎予防に対して明らかな効果を有すると仮定して、本発明者はこれらの研究を用量応答分析にまでひろげた(図12)。異なる用量のmAbを0日目から始めて3日目ごとに腹腔内投与した。以前のデータと一致して、抗α1 mAb250μg用量はほぼ完全に関節炎を予防した。100μgのより少量の抗α1mAbはこのモデルにおいて関節炎予防に一部有効であったが、これより少い用量は関節炎スコアにいかなる認め得る効果を与えなかった(図12)。
【0077】
(実施例13)
(抗α1 mAbでの治療的処置は関節炎スコアを減らすことができる)関節炎予防における抗α1 mAbの効果を仮定して、本発明者は、この疾患を発生しつつあるマウスを治療することを試みた。0日目に抗コラーゲン II型mAbの混合物を注射し、続いて、3日目にLPSを投与することによってマウスに関節炎を誘発させた。次いで4日目から開始して、マウスに抗α1mAbまたは可溶性TNFレセプターIg融合タンパク質のどちらかを投与した。4日目から抗α1 mAbを受けたマウスでは、4日目から開始して、コントロールハムスターmAbを受けたマウスに比較する場合、関節炎の進行は完全に阻止された(図13)。抗α1mAbの治療的投与で見られる阻止の程度は完全であり、抗α1 mAbの予防的投与(0日目に開始)で見られるものに匹敵した(図13)。比較して、4日目からのTNFレセプターIg融合タンパクでの処置は、コントロールIg融合タンパクに比較する場合、関節炎スコアの60−70%の抑制しか生じなかった(図13)。抗α1 mAbとTNFレセプターIg融合との一緒の組み合わせは、関節炎スコアの完全阻止に有効であった。これは、関節炎の抑制による抗α1 mAb処置単独での完全な効果を考慮すると、驚くにあたらない。以上をまとめると、これらの結果は、抗α1 mAbでの治療的処置が関節炎スコアの抑制に効果的であり、TNFアンタゴニストの治療的処置に好都合に匹敵することを示す。
【0078】
(実施例14)
(α1−Iドメインのクローニングおよび変異誘発)ヒトおよびラットα1β1インテグリンIドメイン配列を、全長cDNAsから(Kernら(1994)J.Biol.Chem.269巻、22811−22816頁;Ignatiusら、(1990)J.Cell Biol.111巻、709−720頁)ポリメラーゼ連鎖応答法(PCR)(PCR COREキット;Boehringer Mannheim GmbH、ドイツ)によって、下記のヒト特異的(5’−CAGGATCCGTCAGCCCCACATTTCAA−3’[順方向];5’−TCCTCGAGGGCTTGCAGGGCAAATAT−3’[逆方向])またはラット特異的(5’−CAGGATCCGTCAGTCCTACATTTCAA−3’[順方向];5’−TCCTCGAGCGCTTCCAAAGCGAATAT−3’[逆方向])プライマーを用いて増幅した。生成したPCR増幅生成物を精製し、pGEX4t−i(Pharmacia)に結合し、コンピテントなDH5α細胞(Life Techbologies)に形質転換した。アンピシリン耐性コロニーを、約45kDaグルタチオンS−トランスフェラーゼ−Iドメイン融合タンパク質の発現に関してスクリーニングした。さらに特徴づけるために選択したクローンのプラスミドDNAの挿入物からの配列をDNA配列決定によって確認した。
【0079】
ラット/ヒト キメラα1−Iドメイン(RΔH)を生成し(MORPH変異誘発キット;5プライム−3プライム)、ラット残基G92、R93、Q94、およびL97(図14)を対応するヒト残基、V、Q、R、およびRにそれぞれ交換した。上記RΔHIドメインを有するクローンは、診断的Stu1制限酵素部位の欠失によって同定され、挿入物はDNA配列決定によって確認された。ヒトα1−Iドメインのアミノ酸配列は図15に示される。
【0080】
(実施例15)
(α1Iドメインに特異的なmAbの生成)モノクローナル抗体はインテグリンサブユニットの構造と機能との関連性の研究において非常に有用なプローブであることが証明された。例えばmAbを広く用いて、活性化コンホメーションと関連するβ1サブユニットの領域が研究された(Qu,AおよびLeahy,D.J.(1996)Structure 4巻、931−942頁)。従って、α1−Iドメインのコンホメーション変化のための潜在的プローブを同定するために、本発明者はヒトα1−Iドメインに対するmAbのパネルを作成した。
【0081】
(抗α1Iドメイン モノクローナル抗体の作製)雌ロバートソンマウス(ジャクソン研究所)を完全フロイントアジュバント(Life Techbologies)で乳濁化した25μg精製ヒトα1β1(エドワーズら(1995)J.Biol.Chem.270巻:12635−12640頁)で腹腔内(i.p.)に免疫した。これらを、不完全フロイントアジュバント(Life Techbologies)で乳濁化した25μgα1β1を3回腹腔内ブーストした。最も高い抗α1−Iドメイン力価を有するマウスに、融合の3日前に100μgのα1β1を腹腔内ブーストし、そして融合の前日に50μgのα1β1を静脈内注射した。脾細胞をFL653骨髄腫細胞と1:6の比率で融合し、96ウェル組織培養プレートに1ウェルあたり100,000および33,000で培養した。
【0082】
上清液について、単色FACSによってα1β1インテグリンへの結合性をアッセイした。FACS分析の前に、上清液を非トランスフェクトしたK562細胞と共にインキュベートして、βサブユニットに単に結合しているIgGを除去した。続いて、FACS緩衝液(0.5%NaN3を含むPBS中1%ウシ胎児血清(FCS))に懸濁したα1インテグリンサブユニット(K562−α1)でトランスフェクトした3−5×104個のK562細胞を上清液と共に4℃で45分間インキュベートし、洗浄し、そしてフィコエリスリンに結合した抗α1マウスIgGと共にインキュベートした。FACS緩衝液で2回洗った後、細胞をBecton Dickinson Flow Cytometerで分析した。
【0083】
生成したハイブリドーマからの上清液を、α1−Iドメインへの結合性に関してスクリーニングした。つまり、PBS中30μg/mlヒトα1−Iドメイン−GST融合体50μlを96ウェルプレート(Nunk)のウェル上に4℃で一晩コーティングした。プレートをPBSで洗い、PBS中1%BSAでブロックし、そしてハイブリドーマ上清液をIドメインと共に室温で1時間インキュベートした。0.03%Tween−20を含むPBSでよく洗った後、アルカリホスファターゼ結合抗マウスIgG(Jakson ImmunoResearch)を加え、さらに1時間インキュベートした。最後の洗浄後、0.1Mグリシン、1mM ZnCl2、および1mM MgCl2中1mg/ml p−ニトロフェニルリン酸(pNPP)を室温で30分間加え、プレートをO.D.405で読み取った。
【0084】
選択した上清液について、コラーゲンIVへのK562−α1依存性接着を阻止するそれらの能力を試験した。K562−α1細胞を、0.25%BSAを含むDMEM中2mMの2’,7’(ビス−2−カルボキシエチル−5および6)(bis−2−carboxyethyl−5 and 6)カルボキシフルオレッセイン ペンタアセトキシメチルエステル(BCECF;Molecular Probes)で37℃で30分間標識化した。標識細胞を結合緩衝液(10mM Hepes、 pH7.4;0.9%NaCl;および2%グルコース)で洗い、結合緩衝液プラス5mM MgCl2中に最終濃度1×106細胞/mlになるように再懸濁した。上清液50μlを、96ウェルプレートで1ウェルあたり、等容量の2×105個のK562−α1細胞と共にインキュベートした。次いで、そのプレートを遠心分離し、上清液を除去した。細胞を結合緩衝液に再懸濁し、コラーゲンコーティングプレートのウェルに移し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、結合緩衝液で3回洗うことにより未接着細胞を除去した。接着した細胞をCytofluor(Millipore)で分析した。
【0085】
本発明者は最初に19ハイブリドーマを同定した。その上清液はα1β1インテグリン(K562−α1)を発現するヒト白血病K562細胞に、そしてα1−Iドメインに結合した。これらのハイブリドーマの各々から免疫グロブリンを精製し、コラーゲンIVに結合するK562−α1またはα1−Iドメインのいずれかをブロックする能力について試験した。mAbは2クラスに分けられた:α1β1機能をブロックするクラスとブロックしないクラス。例えばクローンAEF3、BGC5およびAJH10によって産生するmAbはα1−Iドメインに結合するが(図16A、BGC5に関してはデータは示されず)、mAb AJH10だけがコラーゲンIVに対するα1−Iドメイン−依存性(図16B)またはK562−α1(図16C)接着を阻止する。
【0086】
(相補的決定領域の配列決定)このmAbパネルのクローン起源を確立するために、本発明者はPCRによって増幅し、そして19抗体のうち12抗体からのCDRを配列決定した(データは示されず)。
【0087】
107ハイブリドーマ(FastTrack mRNA分離キット、Invitrogen)から分離したmRNA2μgを、下記のプライマーそれぞれ25pMを用いて逆転写した(Ready−To−Go You Prime First Strand Kit、 Pharmacia Biothech):重鎖VH1FOR−2(Midhishitaら(1993)Cell 72巻、857−867頁);軽鎖、VK4FOR(これは4個の別々のオリゴを決める)(Kernら(1994)J.Biol.Chem.269巻:22811−22816頁)。各ハイブリドーマで、重鎖および軽鎖を下記のオリゴの種々の組み合わせを用いて4つの別個のPCR応答で増幅した:1)重鎖:VH1FR1K(Kamataら(1995)J.of Biol.Chem.270巻:12531−12535頁)、VH1BACK(Baldwinら(1998)Structure 6巻:923−935頁)、VHfr1a、VHfr1b、VHfr1e、VHfr1f、VHfr1g(Ignatiusら、(1990)J.Cell Biol.111巻:709−720頁)、またはVH1FOR−2(Michisita,M.、Videm,V.、およびアルノート(Arnaout,M.A.)ら(1993)Cell 72巻、857−867頁);2)軽鎖:VK1BACK(Baldwinら(1998)Structure 6巻:923−935頁)、VK4FOR、VK2BACKオリゴ(ケルンら、(1994)J.Biol.Chem.269巻:22811−22816頁)またはVkfr1a、VHfr1c、VHfr1e、VHfr1f(イグナチウスら(1990)J.Cell Chem.111巻:709−720頁)。生成物を増幅し(95℃で5分、94℃で1分を50サイクル、55℃で2分、72℃で2分、最終サイクルは72℃で10分)、ゲル精製し(QIAquick、Qiagen)、列挙せる種々のオリゴを用いてABI377 Aequencerで直接配列決定した。
【0088】
機能ブロッキングmAbを産生するクローンからの配列は全ての相補的決定領域(CDR)および介在フレームワーク領域にわたりほぼ一致し、これらのハイブリドーマがクローン的(Clonally)に関連があることを示唆する。
【0089】
(実施例16)
(免疫ブロッテイングおよびFACS分析)非ブロッキング抗体(non−blocking antibody)の可変領域の配列は、阻止抗体で見いだされるクローン的に関連がある配列のファミリーとは著しく異なっていた。阻止抗体が単一クローンに由来するようにみえることから、本発明者は一つ(AJH10)を選択し、さらに詳しく特徴づける。
【0090】
(免疫ブロッテイング)ヒツジ大動脈から切り取った平滑筋細胞層およびK562−α1細胞を50mM Hepes(pH7.5)中1%TritonX−100、150mM NaCl、10mM フェニルメチルスルホニルフッ化物(PMSF)20μg/mlアプロチニン、10μg/mlロイペプチン、10mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)で抽出した。サンプルを4−20%勾配SDS−PAGEに供し、ニトロセルロース膜にエレクトロブロッテイング(electroblotting)した。それらのブロットをTBS中5%ドライミルクでブロックした;0.03%Tween−20を含むTBS中で洗い、0.05%NaN3を含むブロッキング緩衝液中の抗体と2時間共にインキュベートした。次いで、ブロットを前のように洗い、セイヨウワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスIgGと共に1時間インキュベートし、再び洗い、次いで、ECL試薬(Amersham)で処理した。次いで、ブロットをフィルム(Kodak)に30〜60秒間曝し、現像した。
【0091】
免疫ブロッテイング(図17A)およびFACS分析(図17B)は、AJH10がヒト、ウサギ、およびヒツジα1β1インテグリンとは応答するが、ラットα1β1インテグリンとは応答しないことを示し、これは、ブロッキングmAbが進化的に保存された線状エピトープに結合することを示唆する。非ブロッキングmAbは免疫ブロッテイングにおいても効率的でなく、またヒト以外の種とも応答しなかった。
【0092】
(実施例17)
(α1−Iドメインのコラーゲンへの結合は二価カチオン依存性である)
(A.α1−Iドメインの精製)
α1−IドメインはE.coliにおいて配列の結合部にトロンビン切断部位を含むGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)融合タンパク質として発現される。PBS中で溶解した細胞からの清澄な上清液を、PBSでよく洗ったグルタチオンSepharose4Bカラム(Pharmacia)にロードした。α1−Iドメイン−GST融合タンパク質を50mM Tris−HCl(pH8.0)5mMグルタチオン(還元型)で溶出した。変性研究では、Iドメインは50mM Tris(pH7.5)中のトロンビンで切断され、GST融合パートナーから精製された。DTTを2mMになるように付加し、そのサンプルをグルタチオンSepharose4Bカラムにロードした。フロースルーおよび洗浄フラクションをプールし、QセファロースFFカラム(Pharmacia)にロードした。α1−Iドメインを50mM TrisHCl(pH7.5)10mM 2−メルカプトエタノール、75mM NaClで溶出した。精製Iドメインはエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)によって、その予想質量(Leeら、(1995)Structure 3巻、1333−1340頁、871Da)を示し、SDS−PAGEによって単一バンドとして移動し、そして上記タンパク質はSuperose6FPLCカラム(Pharmacia)上のサイズ排除クロマトグラフィーによって、 適切なサイズの単一ピークとして溶出した。
【0093】
(B.機能分析)
96ウェルプレートを1μg/mlコラーゲンIV(Sigma)またはコラーゲンI型(Collaborative Biomedical)で4℃で一晩コーティングし、Triton緩衝液(0.1%TritonX−100;1mM MnCl2;25mM Tris−HCl;150mM NaCl)で洗い、そして25mMTris−HCl中3%ウシ血清アルブミン(BSA):150mM NaCl(TBS)でブロックした。1mM MnCl2および3%BSAを含むTBS中のα1−Iドメイン−GST融合タンパク質の一連の希釈物を、ものを、コーティングプレート上で室温で1時間インキュベートし、Tris緩衝液で洗った。結合α1−Iドメインを10μg/mlビオチン化抗GSTポリクローナル抗体(Pharmacia);1mM MnCl2および3%BSAを含むTBSで1:3000に希釈したExtraAvidin−セイヨウワサビペルオキシダーゼ(Sigma)、および1−Step ABTS(2、2’−アジン−ジ[3−エチルベンズチアゾリン スルホネート];Pierce)の連続添加によって検出した。プレートをマイクロプレートリーダー(Molecular Device)でO.D.405で読み取った。
【0094】
(結果)
ヒトおよびラット(ヒトに95%同一)α1−IドメインをE.coliでGST−融合タンパクとして発現させ、そしてグルタチオン セファロース上で精製した。両タンパクについて、以前に記載されたELISAベースのアッセイのバリエーションを用いてコラーゲンIおよびIVへの結合を試験した(Qu,A.およびLeahy,D.J.(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92巻、10277−10281頁)。ヒトα1−IドメインはコラーゲンIよりもコラーゲンIVにより効率的に結合する(図18A)。α1−Iドメインに特異的な抗体は両リガンドに対する結合を排除したが、α2−Iドメインに特異的な抗体は排除しなかった(図18B)(コラーゲンIのデータは示されず)。Mn2+もMg2+も結合を刺激し、EDTAはバックグラウンドレベルへの結合を減らした(図18C)。ヒトおよびラットα1−Iドメインの間で、リガンド結合の顕著な差は検出されなかった。これは種間の配列の差は機能的に関係しないことを示唆する(データは示されず)。このように、 α1−Iドメインは特異的に、効率的リガンド結合のためのカチオンを必要とする。
【0095】
(実施例18)
(MIDASモチーフ近くのカチオン依存性エピトープ残基)本発明者はAJH10がヒトのα1−Iドメイン配列を識別するが、ラットのα1−Iドメイン配列は識別せず、α1β1機能ブロッキングmAbのためのエピトープをマッピング(位置解析)するという知見を活用した。ヒトおよびラット配列は12アミノ酸だけ異なり、そのうち4アミノ酸はMIDASモチーフ内の重要なスレオニン(図14A、aa98)に隣接した6アミノ酸(aa92−97、図14A)の範囲にある。この6アミノ酸残基、Val−Glu−Arg−Gly−Gly−ArgがブロッキングmAbのためのエピトープを含む、という仮定を試験するために、ラット残基G92,R93、Q94、およびL97を、対応するヒト残基、V、Q、R、およびRにそれぞれ交換して、キメラIドメイン(RΔH)を構成した。AJH10は、全ての機能ブロッキングmAbと共に、キメラIドメインを認識する(RΔH;図14B)。
【0096】
これらの残基を、α1−Iドメインの三次元構造のMIDASドメインに関して方向づけるために、本発明者はα2−Iドメインの結晶構造の座標(coordinate)を用いてα1−Iドメインをモデル化した。
【0097】
ヒトα1Iドメインのホモログモデルをヒトα2I−ドメインのX線結晶構造を用いて作製した(Wardら(1989)Nature 341巻、544−546頁)。そのモデルはInsight II のホモログモデル化モジュール(バージョン2.3.5;Biosym Technologies)を用いて作製された。プログラムCHARMM(Clacksonら(1991)Nature 352巻:624−628頁)を、全水素パラメーターセット22において原子間距離(atom separation distance)の2倍の距離依存性誘電率と共に用いた。本発明者は先ず最初に、α1−Iドメインの全ての原子に1kcal/(molÅ2)の質量調和位置制約を用いて、1000段階の最急降下法による最小化を行った。この最小化の後に、さらに1000段階の最急降下法および、5000段階のAdopted−Basis Newton Raphson法による計算を行い、α1−IドメインのC−α原子を0.1kcal/(molÅ2)に制約し、α2−IドメインX線結晶構造からの有意な偏差を避けた。
【0098】
α1β1およびα2β1インテグリン配列は51%の同一性を示し、挿入または決失は示さなかった。これは2つのIドメインの全体的構造が類似していることを示唆する。金属配位部位はα1−Iドメイン内の、α2−Iドメインの場合と同じ場所にあると予想される。そしてブロッキングmAbのためのエピトープを含む残基類はヘリックスα3とヘリックスα4との間のループ(ここにはカチオン結合のために重要なMIDASモチーフ内のスレオニンが含まれる)上に位置する。上記のα1−Iドメインモデルは、Q92(図14A)のアミド窒素が、I33(S32に隣接する残基)のカルボニル基と水素結合することを予想する。従って、このエピトープを含む上記ループはMIDAS領域の安定化において機能的役割を果たし得る。
【0099】
上記の発明を明確にするために図および実施例によって若干詳細に述べたが、或る種の変化および変更がなされることは当業者には明らかである。従って、上記説明および実施例は発明の範囲を制限すると解釈されるべきでなく、本発明は添付のクレームによって輪郭づけられるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載される発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−176983(P2012−176983A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−130177(P2012−130177)
【出願日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【分割の表示】特願2011−116366(P2011−116366)の分割
【原出願日】平成12年6月1日(2000.6.1)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】