説明

VOCモニタリングシステム及びVOCモニタリング方法

【課題】多色刷り用の複数のインクユニットを有する印刷機において、印刷時に発生するVOCを確実に検出することが可能なVOCモニタリングシステム及びVOCモニタリング方法を提供する。
【解決手段】本発明は、複数の印刷ユニットU1〜U4と、各印刷ユニットからの枝ラインA1〜A4を経て外部へ排気を行う排気ラインBとを有する印刷機P1〜P3に設けられるVOCモニタリングシステムであって、各枝ラインA1〜A4及び排気ラインBに連結されるサンプリングラインLと、排気ラインBからサンプリングラインLへの排気を制御する主枝バルブV0と、各枝ラインA1〜A4からサンプリングラインLへの排気をそれぞれ制御する第1〜第4枝バルブV1〜V4と、サンプリングラインLに連結され、VOC量を測定するVOC測定装置1とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機で発生するVOCをモニタリングするシステム及びモニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年問題となっているシックハウス症候群は、建材に塗布された接着剤やインキに混入するトルエン、キシレン等のいわゆるVOC(揮発性有機化合物)が原因とされている。シックハウス症候群の対策としては、まず空気中のVOCを測定する必要があるが、そのような方法は、例えば特許文献1に示されている。
【特許文献1】特開2005−83854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、建材が家屋などに設置された後では、塗布されたインキからのVOCの発生を食い止めることは困難である。そのため、根本的な解決方法としては、VOCが混入した建材を製造しないようにすることであり、原因となるVOCを予め除去しておくことが望ましい。そのためには、例えば、印刷時にVOCを検出しておくことが考えられるが、現在のところ、印刷工程中にVOCを検出するシステムは提案されておらず、そのようなシステムが要望されていた。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、多色刷り用の複数のインクユニットを有する印刷機において、印刷時に発生するVOCを確実に検出することが可能なVOCモニタリングシステム及びVOCモニタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、複数の印刷ユニットと、各印刷ユニットからの枝ラインを経て外部へ排気を行う排気ラインとを有する印刷機に設けられるVOCモニタリングシステムであって、上記問題を解決するためになされたものであり、前記各枝ライン及び排気ラインに連結されるサンプリングラインと、前記排気ラインから前記サンプリングラインへの排気を制御する第1のバルブと、前記各枝ラインから前記サンプリングラインへの排気をそれぞれ制御する第2のバルブと、前記サンプリングラインに連結され、VOC量を測定するVOC測定装置と、を備えている。
【0006】
この構成によれば、複数の印刷ユニットを備えたいわゆる多色刷り用の印刷機において、いずれの印刷ユニットからVOCが発生しているかを確実に検出することができる。すなわち、各印刷ユニットからの排気が通過する排気ラインに、VOC測定装置が設けられたサンプリングラインが連結されているので、まず印刷機全体からの排気にVOCが含まれているかを検出することができる。このときは、印刷機全体からの排気を測定対象とするので、枝ラインからの排気を停止するために第2のバルブを閉じるとともに、排気ラインからの排気をサンプリングするために第1のバルブを開くようにする。
【0007】
そして、例えば、印刷機全体からの排気にVOCが基準値以上含まれている場合には、次のようにして、どの印刷ユニットからVOCが発生しているかを確認することができる。つまり、第1のバルブを閉じるとともに、第2のバルブを順に開けて各枝ラインからの排気のサンプリング及びVOCの測定をそれぞれ行う。こうすることで、いずれの印刷ユニットからVOCが発生しているかを特定することができる。そして、VOCが発生している印刷ユニットを特定できれば、例えば、その印刷ユニットのインキを取り除くことで、印刷物からVOCが発生するのを未然に防止することができる。
【0008】
なお、上記のように印刷機が複数ある場合には、各印刷機に上記サンプリングライン及び第1及び第2のバルブを設ける一方、VOC測定装置は、一つだけ設けておけばよい。すなわち、各印刷機のサンプリングラインがVOC測定装置に連結されるようにすれば、システムのコストダウンが可能となる。勿論、各印刷機にVOC測定装置を設けることもでき、こうすることで、各印刷機から発生するVOCを独立して測定することができるため、VOC量の測定を効率的に行うことが可能となる。
【0009】
上記システムにおいては、サンプリングラインに清浄空気を供給する清浄空気供給装置を設けることが好ましい。このような清浄空気供給装置を設けると、次のような効果を得ることができる。つまり、排気ライン、各枝ラインからのサンプリング及びVOC量の測定後に、それぞれサンプリングラインに清浄空気を供給すると、サンプリングラインに残留するVOCを除去することができる。その結果、その後の測定において、正確なVOC量の測定が可能となる。
【0010】
清浄空気供給装置は、種々の構成をとることができるが、例えば、吸湿剤と、活性炭とを備え、吸引した空気を前記吸湿剤、活性炭の順に通過させた後、前記サンプリングラインに供給するように構成することができる。この構成によれば、吸湿剤を通過させることで、空気から水分を除去することができ、その後、活性炭を通すことで、VOCを除去することができる。つまり、活性炭を通す前に水分を除去できることから、活性炭におけるVOCの除去効率を向上することができる。複数の印刷機を設ける場合には、上記VOC測定装置と同様に、一つの清浄空気供給装置に各印刷機のサンプリングラインを設けてもよい。
【0011】
また、本発明は、複数の印刷ユニットと、各印刷ユニットからの枝ラインを経て外部へ排気を行う排気ラインとを有する印刷機におけるVOCモニタリング方法であって、上記問題を解決するためになされたものであり、前記排気ラインからサンプリングした空気のVOC量を測定する第1のステップと、前記第1のステップにおいて、測定したVOC量が基準値以上である場合、前複数の枝ラインから順に空気をサンプリングし、VOC量を測定する第2のステップと、備えている。
【0012】
この構成によれば、多色刷り用の印刷機において、いずれの印刷ユニットからVOCが発生しているかを確実に検出することができる。
【0013】
また、上記方法において、排気ライン及び枝ラインが連結され、サンプリングした空気が流入するサンプリングラインを設け、上記第1及び第2のステップで、サンプリングラインに流入した空気のVOC量を測定し、第2のステップで、各枝ラインからのサンプリングの終了ごとに、前記サンプリングラインに清浄空気を供給することが好ましい。これにより、サンプリングラインに残留するVOCを除去することができ、正確なVOCの測定が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多色刷り用の複数のインクユニットを有する印刷機において、印刷時に生ずるVOCを確実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るVOCモニタリングシステムの一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係るシステムの概略構成図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態のVOCモニタリングシステムは、3つの印刷機、つまり第1,第2及び第3印刷機P1,P2,P3から発生するVOCをモニタリングするためのものである。各印刷機は、4色のグラビア印刷を行うものであり、各色を印刷するための4つの印刷ユニット、つまり第1,第2,第3,及び第4ユニットU1,U2,U3,U4を備えている。まず、第1印刷機P1について詳細に説明する。
【0017】
第1印刷機P1の印刷ユニットU1〜U4には、内部の空気を排気する枝ラインA1〜A4が設けられている。そして、各枝ラインA1〜A4は、工場の外部へ排気を行うための排気ラインBに連結されており、排気ラインBを通過した空気は工場排気として処理される。
【0018】
本実施形態に係るVOCモニタリングシステムは、排気ラインB及び各枝ラインA1〜A4から分岐する分岐ラインC0〜C4と、各分岐ラインC0〜C4が連結されるサンプリングラインLとを備えている。各分岐ラインC0〜C4には、バルブV1〜V4が取り付けられており、サンプリングラインLへの空気の流入を制御する。また、サンプリングラインLの一端部には、VOCを検出するVOC測定装置1が取り付けられており、各枝ラインA1〜A4から分岐ラインC0〜C4を経た空気は、サンプリングラインLを介してVOC測定装置1に送られる。なお、サンプリングラインLにもバルブVAが設けられており、サンプリングラインLからVOC測定装置1へのガスの流入を制御する。
【0019】
このVOC測定装置1は、図示を省略する吸気ポンプを備えており、サンプリングラインLの空気を吸引する。また、吸引した空気を濃縮後、VOCの量を測定する機能も備えている。なお、測定が終了した後の空気は、内蔵のパージラインを介して外部に放出される。
【0020】
一方、サンプリングラインLの他端部には、清浄空気供給装置2が取り付けられており、サンプリングラインL内へ清浄空気を供給する。この清浄空気供給装置2は、図示を省略する吸湿剤と、活性炭とが内蔵されており、外部から吸引した空気を吸湿剤、活性炭の順に通過させることで、清浄空気を生成している。このように、まず吸湿剤を通過させることで、空気から水分を除去することができ、その後、活性炭を通すことで、VOCを除去して清浄空気が生成される。このように、活性炭を通す前に水分を除去できることから、活性炭に水分が吸着されるのが防止され、VOCのみを効率的に除去することができる。
【0021】
以上の構成においては、第1〜第4印刷ユニットU1〜U4に設けられている枝ライン、分岐ライン、バルブをそれぞれ第1〜第4枝ラインA1〜A4、第1〜第4分岐ラインC1〜C4、第1〜第4枝バルブV1〜V4と称することとし、排気ラインBに設けられている分岐ライン及びバルブをそれぞれ主分岐ラインC0及び主枝バルブV0と称することとする。また、サンプリングラインLに設けられているバルブを主バルブVAと称する。このように、上記説明では第1印刷機P1について説明したが、第2及び第3印刷機P2,P3についても同様の構成を有している。但し、VOC測定装置1及び清浄空気供給装置2は、共用されている。つまり、第2及び第3印刷機P2,P3の各サンプリングラインLの一端部は、上述したVOC測定装置1に連結される一方、サンプリングラインLの他端部は、清浄空気供給装置2に連結されている。なお、上記各ラインは、VOCが吸着しにくい材質、例えば、ステンレスやガラスのパイプで形成することが好ましい。また、各分岐ラインV0〜V4とサンプリングラインLの接続部分、清浄空気供給装置2とのサンプリングラインLとの接続部分、及びVOC測定装置1とサンプリングラインLとの接続部分には、それぞれ逆止弁VRが設けられており、空気の逆流を防止している。なお、上述した主枝バルブV0が本発明の第1のバルブに相当し、第1〜第4枝バルブV1〜V4が本発明の第2のバルブに相当する。
【0022】
次に、上記のように構成されたモニタリングシステムを用いたVOCのモニタリング方法について図2を参照しつつ説明する。図2はVOCモニタリング方法を示すフローチャートである。
【0023】
まず、第1印刷機P1から排気される空気について、VOC量を測定する。ここでは、第1印刷機P1における印刷中の所定時間ごとに測定を行う。はじめに、VOC測定装置1をONにし、吸気ポンプによりサンプリングラインLから空気を吸引するようにする。そして、主枝バルブV0を開き、他のすべての枝バルブV1〜V4を閉じる(S1)。これにより、主分岐ラインC0を介して排気ラインBの空気がサンプリングラインLへと流入し、そこからVOC測定装置1内へ流入する。こうして、必要な量の空気を捕集した後、主枝バルブV0を閉じる。そして、VOC測定装置1へ流入した空気は濃縮され、VOC量が測定される(S2)。このとき、測定値が基準値より低ければ(S2のNO)、いずれの印刷ユニットU1〜U4でもVOC量が基準値より小さいことになるため、VOC量の測定を終了し、印刷を続行する。
【0024】
一方、VOC量が基準値より高ければ(S2のYES)、VOCが印刷物に混入する恐れがあるため、印刷を停止するか、或いは低速運転等を行いながら、VOCの発生の原因の調査に移行する。すなわち、どの印刷ユニットで基準値以上のVOCが発生してるかを確認するため、各印刷ユニットU1〜U4からの排気を測定する。そのために、まず主枝バルブV0を開くとともに、清浄空気供給装置2からサンプリングラインLに清浄空気を供給し、主分岐ラインC0及びサンプリングラインL内に残留するVOCを除去する(S3)。清浄空気は、残留するVOCとともに、VOC測定装置1のパージライン及び主枝バルブV0を介して外部へ放出されるため、主分岐ラインC0及びサンプリングラインLが清浄化される。次に、主枝バルブV0を閉じるとともに、第1枝バルブV1を開き、他のすべての枝バルブV2〜V4を閉じる(S5)。これにより、第1ユニットU1からの排気のみが第1枝ラインA1、第1分岐ラインC1、及びサンプリングラインLを介してVOC測定装置1に流入する。そして、VOC量の測定を行う(S6)。その後、第2〜第4印刷ユニットU2〜U4まで、上記と同様にバルブの開閉を行い、各印刷ユニットU2〜U4のVOC量を順に測定し(S6)、測定後には清浄空気をサンプリングラインL及び各分岐ラインC1〜C4に供給する(S7)。こうして、第4ユニットのVOC量の測定が終了すれば(S8のNO)、モニタリングを終了する。そして、第1〜第4印刷ユニットU1〜U4のうち、どの印刷ユニットからVOCが発生しているかを特定し、VOC量が基準値以上の印刷ユニットでは、インキに基準値以上のVOCが含まれていると考えられるので、インキの交換を行う。
【0025】
以上のような工程を第2及び第3印刷機P1,P2についても同様に行う。なお、一つの印刷機においてVOC量の測定を行っている際には、他の印刷機のサンプリングラインの主バルブVAは閉じておき、他の印刷機からVOCが測定装置1に流入しないようにしておく。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、各印刷ユニットU1〜U4からの排気が通過する排気ラインBに、VOC測定装置1が設けられたサンプリングラインLが連結されているので、印刷機全体からの排気にVOCが含まれているかを検出することができる。そして、例えば、印刷機全体からの排気にVOCが基準値以上含まれている場合には、第1枝バルブV1を開くとともに、他のバルブV0,V2〜V4を閉じることで第1印刷ユニットU1の排気のサンプリング及びVOCの測定をそれぞれ行うことができる。これを他の印刷ユニットU2〜U4においても行うことで、いずれの印刷ユニットからVOCが発生しているかを特定することができ、インキの交換等により、VOCの発生源を絶つことができる。したがって、上記システムによれば、印刷物へのVOCの混入を確実に防止することができる。なお、上記説明では、排気ラインBのVOC量が基準値以上である場合、第1印刷ユニットU1から順にVOC量を測定しているが、すべての印刷ユニットのVOC量を測定するのであれば、どの印刷ユニットから測定を始めても構わない。なお、バルブの開閉、清浄空気供給装置2からの清浄空気の供給等、システムの稼働については、図示を省略する制御装置などで行うことができ、そのタイミングを自動化することもできる。
【0027】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態に係るシステムでは、3つの印刷機に対して適用しているが、印刷機の数は、1以上であれば、その数は特には限定されない。そして、各印刷機に関しても、印刷ユニットの数は限定されず、また印刷ユニットが複数ある多色印刷用の印刷機であれば、グラビア印刷機以外の印刷機にも適用することができる。
【0028】
また、VOC測定装置1は上記以外の構成であってもよく、VOCの測定ができるものであれば、特には限定されない。例えば、空気の濃縮は、低濃度のVOC量を検出するためのものであり、必要に応じて行えばよい。清浄空気供給装置2の構成も上記以外であってもよく、VOCの含まれていない清浄な空気を供給できるものであれば、特には限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るVOCモニタリングシステムの概略構成図である。
【図2】VOCのモニタリング方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1 VOC測定装置
2 清浄空気供給装置
A1〜A4 第1〜第4枝ライン
B 排気ライン
C0 主分岐ライン
C1〜C4 第1〜第4分岐ライン
L サンプリングライン
P1〜P3 第1〜第3印刷機
V0 主枝バルブ(第1のバルブ)
V1〜V4 第1〜第4枝バルブ(第2のバルブ)
U1〜U4 第1〜第4印刷ユニット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の印刷ユニットと、前記各印刷ユニットからの枝ラインを経て外部へ排気を行う排気ラインとを有する印刷機に設けられるVOCモニタリングシステムであって、
前記各枝ライン及び排気ラインに連結されるサンプリングラインと、
前記排気ラインから前記サンプリングラインへの排気を制御する第1のバルブと、
前記各枝ラインから前記サンプリングラインへの排気をそれぞれ制御する第2のバルブと、
前記サンプリングラインに連結され、VOC量を測定するVOC測定装置と、
を備えている、VOCモニタリングシステム。
【請求項2】
前記サンプリングラインに清浄空気を供給する清浄空気供給装置をさらに備えている、請求項1に記載のVOCモニタリングシステム。
【請求項3】
複数の印刷ユニットと、前記各印刷ユニットからの枝ラインを経て外部へ排気を行う排気ラインとを有する印刷機におけるVOCモニタリング方法であって、
前記排気ラインからサンプリングした空気のVOC量を測定する第1のステップと、
前記第1のステップにおいて、測定したVOC量が基準値以上である場合、前記複数の枝ラインから順に排気をサンプリングし、VOC量を測定する第2のステップと、
を備えている、VOCモニタリング方法。
【請求項4】
前記排気ライン及び枝ラインが連結され、サンプリングした空気が流入するサンプリングラインを設け、
前記第1及び第2のステップでは、前記サンプリングラインに流入した空気のVOC量を測定し、
前記第2のステップでは、各枝ラインからのサンプリングを開始する前それぞれに、前記サンプリングラインに清浄空気を供給する、請求項3に記載のVOCモニタリング方法。

【図1】
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【図2】
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