説明

VOC除去液再生・回収装置及び再生・回収方法

【課題】ヒータや透過膜を用いることなく効率よくVOCを再生・回収する。
【解決手段】VOC除去液再生・回収装置であって、VOC除去液を噴霧するノズルを内部に配した真空容器と、当該真空容器内部を減圧してVOCを真空蒸発させる真空ポンプと、当該真空容器内に蒸発促進気体を導入する気体導入機構と、処理後のVOC除去液を排出する排液機構と、を含めて構成する。噴霧と真空蒸発の組み合わせにより効率よくVOCを再生・回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC(揮発性有機化合物)を除去するために用いられたVOC除去液(以下、適宜、単に「除去液」という)から、そこに含まれるVOCを除去し、除去液を回収するためのVOC除去液再生・回収装置及び再生・回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1が示すVOC除去装置(以下、適宜「従来の装置1」という)には、VOC(排ガス)に接触させた除去液(吸収液)を回収する吸収液回収槽が設けられている。吸収液回収槽にはヒータが設けられ、ヒータの加温によって除去液からVOCを蒸発除去するように構成されている。一方、脱気膜を用いた除去液回収機構として、特許文献2に記載された装置(以下、適宜「従来の装置2」という)がある。従来の装置2は、処理すべき液を気体透過膜の一方の側に導入し、他方の側の気相を減圧することにより、液中に含有される気体ないし揮発性物質を気相室へ除去するモジュールにより構成されている。従来の装置2は、さらに、減圧した気相室に搬送ガスとしての空気を導入するためのエアブリーダーが設けられている。特許文献2には、エアブリーダーは、脱気を促進するための手段であって、そこから導入されたガスが、気体透過膜を透過した揮発性物質を効率よく運び去るような位置に設けられることが好ましい、との記載、さらに、気体透過膜として、平膜、中空糸膜、管状膜の非多孔質膜や多孔質膜を適用できる、との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−273157号公報(段落0017、0018参照)
【特許文献2】特許第2949732号公報(第3頁第5欄及び第6欄参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置1は、除去液(吸収液)回収のためにヒータを用いているため、消費電力が大きくその分だけ余計にCOを排出するという課題がある。また、従来の装置2は気体透過膜を必要とするので、透過する際に揮発物質等が受ける悪影響により処理効率が悪いという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した2つの課題を解決するために発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ヒータを使用せずに効率的にVOC除去液を再生・回収できる技術を開発した。その詳しい内容については、項を改めて説明する。なお、いずれかの請求項記載の発明を説明するに当たって行う用語の定義等は、その記載順や発明のカテゴリーの違いに関わらず、その性質上可能な範囲において他の請求項記載の発明にも適用があるものとする。
【0006】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係るVOC除去液再生・回収装置(以下、適宜「請求項1の装置」という)は、VOC除去液中に含まれるVOCを除去してVOC除去液を再生・回収する装置であって、VOC除去液を噴霧する送液ポンプ及びノズルと、当該ノズルを内部に配した真空容器と、当該真空容器内部を減圧してVOC除去液に含まれるVOCを真空蒸発させる真空ポンプと、当該真空容器内に蒸発促進気体を導入する気体導入機構と、当該真空容器から処理後のVOC除去液を排出する排液機構と、を含めて構成してある。
【0007】
請求項1の装置によれば、送液ポンプによって圧送されたVOC除去液が、真空容器内においてノズルから噴霧される。真空ポンプの働きにより真空容器内は減圧され、これによってVOC除去液からVOCが真空蒸発する。VOC除去液は噴霧によって霧状になっているので単に貯留してあるものに比べてその表面積が飛躍的に拡大している。これと相まって、気体導入機構を介した蒸発促進気体の導入が、真空蒸発の効率をよくする。すなわち、VOC除去液の再生・回収が効率よく行われる。ここで、「真空蒸発」とは、気相の圧力を減圧してVOC除去液から揮発性物質等を分離する方法のことをいう。蒸発の一種であるが、常圧蒸発のように温度を上昇させて揮発性物質等を分離する方法とはことなり、熱を必要とせず、VOC除去液の回収に当たって冷却する必要もない。もっとも、加温を完全排除する趣旨ではない。VOC除去液や含有される揮発性物質等の種類、さらに、処理環境の違い等にもよるが、VOC除去液を加温(たとえば、40〜80℃)することにより、真空蒸発をより効果的に行いうる場合もある。
【0008】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係るVOC除去液再生・回収装置(以下、適宜「請求項2の装置」という)は、請求項1の装置の好ましい態様として、前記真空容器内における前記ノズルと前記排液機構との間に、VOC除去液の少なくとも一部と接触し接触したVOC除去液の通過を妨げずに一時的に保持するトラップを配してある。ここで、「トラップ」は、たとえば、網状のもの、多孔体、連続気泡フォーム体、溢れるように構成した皿状のもの、がある。
【0009】
請求項2の装置によれば、請求項1の装置の作用効果に加え、トラップの存在によりVOC除去液が真空容器内に留まる時間がトラップされている時間だけ長くなる。長くなった分だけ、VOCが真空蒸発しやすくなり、それが、VOC除去液の再生効率をさらに押し上げる。
【0010】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係るVOC除去液再生・回収装置(以下、適宜「請求項3の装置」という)は、請求項2の装置の好ましい態様として、前記トラップは、連続気泡フォーム体(たとえば、ウレタンフォーム)を含めて構成してある。
【0011】
請求項3の装置によれば、請求項2の装置の作用効果に加え、連続気泡フォーム体はそのセル壁の総面積がたいへん広いので、それに付着したVOC除去液の総表面積もたいへん広くなる。広くなった分だけVOC蒸発が促進され、それによって、VOC除去液再生が効率よく行われる。
【0012】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係るVOC除去液再生・回収装置(以下、適宜「請求項4の装置」という)は、請求項1ないし3いずれかの装置の好ましい態様として、当該真空ポンプには、排気に含まれるVOCを処理するVOC処理機構を接続してある。
【0013】
請求項4の装置によれば、請求項1ないし3いずれかの装置の作用効果に加え、処理機構を設けることにより真空ポンプの排気に含まれるVOCを処理(たとえば、再生・回収、燃焼)することができる。特に、再生・回収した場合は、VOCの再生・回収ができるようになる。
【0014】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係るVOC除去液再生・回収方法(以下、適宜「請求項5の方法」という)は、VOC除去液中に含まれるVOCを除去するためのVOC除去液再生・回収方法であって、真空容器内においてVOC除去液を噴霧するとともに真空ポンプによって減圧し、さらに、蒸発促進気体を当該真空容器内に導入することによってVOC除去液に含まれるVOCを真空蒸発させる。
【0015】
請求項5の方法によれば、再生・回収対象となるVOC除去液が真空容器内において噴霧され、これとともに、真空ポンプの働きにより真空容器内が減圧される。これによってVOC除去液からVOCが真空蒸発する。真空容器内への蒸発促進気体の導入は、VOCの真空蒸発を促進する。VOC除去液は噴霧によって霧状になっているので単に貯留してあるものに比べてその表面積が飛躍的に拡大している。これと相まって、気体導入機構を介した蒸発促進気体の導入が、真空蒸発の効率をよくする。すなわち、VOC除去液の再生・回収が効率よく行われる。
【0016】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係るVOC除去液再生・回収方法(以下、適宜「請求項6の方法」という)は、請求項5の方法の好ましい態様として、VOC除去液の少なくとも一部を接触したVOC除去液の通過を妨げずに一時的に保持するトラップに噴霧する。ここで、「トラップ」は、たとえば、網状のもの、多孔体、連続気泡フォーム体、溢れるように構成した皿状のもの、がある。
【0017】
請求項6の方法によれば、請求項5の方法の作用効果に加え、トラップの存在によりVOC除去液が真空容器内に留まる時間がトラップされている時間だけ長くなる。長くなった分だけ、VOCが真空蒸発しやすくなり、それが、VOC除去液の再生効率をさらに押し上げる。
【0018】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係るVOC除去液再生・回収方法(以下、適宜「請求項7の方法」という)は、請求項6の方法の好ましい態様として、前記トラップは、連続気泡フォーム体(たとえば、ウレタンフォーム)を含めて構成してある。
【0019】
請求項7の装置によれば、請求項6の装置の作用効果に加え、連続気泡フォーム体はそのセル壁の総面積がたいへん広いので、それに付着したVOC除去液の総表面積もたいへん広くなる。広くなった分だけVOC蒸発が促進され、それによって、VOC除去液再生が効率よく行われる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によればヒータが不要であるため、用いているものに比べ電力を消費しない分CO排出が少ない。また、気体透過膜を必要としないので、透過する際に揮発物質等が受ける悪影響を受けない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】VOC除去液再生・回収装置の概略断面図である。
【図2】VOC再生・回収実験の結果を示す図である。
【図3】VOC再生・回収実験の結果を示す図である。
【図4】VOC再生・回収実験の結果を示す図である。
【図5】VOC再生・回収実験の結果を示す図である。
【図6】VOC再生・回収実験の結果を示す図である。
【図7】VOC再生・回収実験の概念図である。
【図8】VOC再生・回収実験の実験装置を示す図である。
【図9】VOC再生・回収実験の結果を示す図である。
【図10】VOC再生・回収実験の結果を示す図である。
【図11】VOC除去液を噴霧するVOC再生・回収の実験装置を示す図である。
【図12】VOC除去液を噴霧するVOC再生・回収の実験装置を示す図である。
【図13】VOC再生・回収実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここで、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下、適宜「本実施形態」という)について説明する。図1に示すように、本実施形態に係るVOC除去液再生・回収装置1(以下、適宜「再生・回収装置1」という)は、VOC(揮発性有機化合物)が含まれたVOC除去液(以下、適宜「被処理除去液」という)から、そのVOCを除去してVOC除去液(以下、適宜「再生除去液」という)を再生・回収する方法を実施する装置である。
【0023】
(VOC除去液再生・回収装置の概略構造)
図1に示す再生・回収装置1は、貯留タンク3、送液ポンプ5、ノズル7、真空容器9、真空ポンプ11、気体導入機構13、排液機構15と、から概ね構成してある。貯留タンク3は、被処理除去液Ldを貯留するタンクである。貯留タンク3は、外部から注入された被処理除去液Ldを貯留するようになっているが、必要がなければ省略してもよい。たとえば、貯留タンク3の代わりにVOC除去装置(図示を省略)から直接、被処理除去液Ldを取り出したり、被処理除去液Ldの送液管(図示を省略)の途中に設けたりすることができる。送液ポンプ5は、貯留タンク3に貯留されている被処理除去液Ldを取り出してノズル7へ圧送するためのものである。ノズル7は、圧送された被処理除去液Ldを真空容器9内で噴霧するためのものである。真空ポンプ11の排気側にはVOC処理機構19を取り付けてある。
【0024】
(真空容器の構造)
真空容器9は接続した真空ポンプ11によって内部が減圧されるようになっている筒状容器である。真空容器9内の上部には上述したノズル7を配してあり、その下部には気体導入機構13を、さらに最下部には排液機構15をそれぞれ配してある。これらに加え本実施形態では、真空容器9の高さ方向の途中に霧トラップ17を、同じく上部には霧トラップ17´をそれぞれ設けてある。
【0025】
(トラップの構造)
本実施形態の霧トラップ17は、連続気泡フォーム体17aと、それを下支えする支持体17bと、により構成してある。連続気泡フォーム体17aには、ポリウレタンフォーム(スポンジ)を採用した。ここで、ポリウレタンフォームを採用したのは、それが軽量であり安価に入手できるので最適と考えたからである。さらに、ポリウレタンフォームによって構成した連続気泡フォーム体17aは、その一辺を1mの立方体である場合(すなわち、容積1立方メートル)に、その単位容積当たり1490mという膨大な表面積(セル壁の総面積)を有し、空隙率も0.97でVOC除去液の通過抵抗もほとんどないという利点もある。これに伴い、そのセル壁に付着する被処理除去液Ldの総面積も(付着しない部分があるとしても)膨大となり、これが、効率のよいVOCの真空蒸発を実現する。従来のセラミック製ガス吸着用多孔体と比較して軽量・安価(概ね1/10以下)であり、ウレタンフォームは非常に使い勝手がよい。もっとも隣接気泡間のセル壁が相互に連通している気泡構造の気泡体であって、被処理除去液Ldがそのセル壁に付着可能なものであれば、ポリウレタンフォーム以外のフォームを適宜採用することを妨げない。なお、霧トラップ17´は、真空容器9噴霧された除去液が真空ポンプ11に入らない様にブロックするために設けてある。霧トラップ17´には、上記した連続気泡フォーム17aと同様にポリウレタンフォームを採用したが、霧トラップの目的が達成できる限り他の連続気泡フォームその他の部材を採用してもよい。
【0026】
支持体17bは、網状の部材であって真空容器9内部を横断するように取り付けてある。網状にしたのは、被処理除去液Ldが過度に滞留せずに連続気泡フォーム体17aから滴下できるようにするためである。したがって、支持体17bの網目は、連続気泡フォーム体17aを下支えするのに十分であり、かつ、VOC除去液の滴下が円滑に行われる程度の粗さであることが必要である。そのような目的が達成できるのであれば、この支持体17bは、網状のもの以外の、たとえば、簀の子状のもの、パンチングメタルのような多数の小穴を形成した板部材、によって構成することもできる。連続気泡フォーム体17aが充分に自立可能な硬さを持っている場合、連続気泡フォーム体以外の自立可能な部材をトラップとして採用した場合等、支持体17bが不要であれば、これを省略して構わない。
【0027】
(除去液の噴霧)
ノズル7は、連続気泡フォーム体17aの上部に位置させ、噴霧した被処理除去液Ldが満遍なく行き渡るように噴霧角や連続気泡フォーム体17aとの距離、噴霧圧力、噴霧粒径等を調整する。ノズル7の個数は、これを1個としたが、真空容器9の容積や被処理除去液Ldの単位時間当たりの処理量等に合わせて、適宜増やすこともできる。
【0028】
(気体導入機構の構造)
気体導入機構13は、リーク弁である。真空ポンプ11を駆動させて真空容器9内を減圧した状態でこのリーク弁を開放すると、蒸発促進用気体(本実施形態では空気)を真空容器9内へ吸引導入するようになっている。ここで、図1に示すリーク弁を設ける代わりに、ノズル7を介して蒸発促進用気体を真空容器9内に導入するように構成してもよい。リーク弁とノズル7の両者によって気体導入を行ってもよい。これらの場合のノズル7は、被処理除去液を噴霧する機能と気体導入機構13の機能を兼ね備えることになる。
【0029】
(本実施形態の作用効果)
再生・回収装置1によれば、貯留タンク3内に貯留されていた被処理除去液Ldは送液ポンプ5によって圧送されて真空容器9内のノズル7から噴霧される。一方、真空ポンプ11の働きにより真空容器9内は減圧され、これによって被処理除去液LdからVOCが真空蒸発する。被処理除去液Ldは噴霧によって霧状になっているので単に貯留してあるものに比べてその表面積が飛躍的に拡大している。霧状の被処理除去液Ldはやがて連続気泡フォーム体17aに到着してそのセル壁に付着する。セル壁に付着した被処理除去液Ldは、その表面積をさらに拡大する。拡大に拡大を重ねた被処理除去液Ldの表面積は膨大となる。これらと相まって、気体導入機構13を介した蒸発促進気体(空気)の導入が、真空蒸発の効率をよくする。すなわち、被処理除去液Ldの回収(再生除去液Lcへの転換)が効率よく行われる。被処理除去液Ldは、連続気泡フォーム体17aを通過(下降)しながら再生除去液Lcとなり、連続気泡フォーム体17a及び支持体17bを通過して滴下する。滴下した再生除去液Lcは排液機構15を介して真空容器9外へ排出され、再利用に供される。真空蒸発したVOCは真空ポンプ11に吸引され、その後、VOC処理機構19によって処理される。本実施形態のVOC処理機構19は、VOCを回収して再利用可能とする処理を行うようになっている。又、VOCの再利用が不要であれば、VOCを単に除去処理する。
【0030】
(真空蒸発法の実験結果)
気体導入機構13について付け加える。真空蒸発(空気流動真空蒸発)に際して気体導入機構であるリーク弁を介した空気を導入することにより、処理効率を高めることができる理由は、次の通りである。すなわち、VOCを含んだVOC除去液を再生させる従来の方法としては図2(a)に示す膜分離によるPV法(パーベーパレーション法)がある。しかし、この方法ではVOC除去液からのTolueneの回収率0.027%と非常に低い値となり、リアルタイムでのVOC除去液の再生は困難である。
【0031】
図2(a)に示したシリコン膜やPTFE膜を用いたPV法では、VOC除去液中に含まれるVOCが蒸発する際に膜の透過抵抗があるためにVOC蒸発量が少なくリアルタイムで除去液からVOCを回収することができない。そこで、図2(b)に示すように膜の透過抵抗を小さくするために多孔質の膜を用いることでVOC蒸発量を多くすることができた。すなわち、図3に示すように、図2(a)に示すPV法によるToluene蒸発濃度は約70ppmで安定し、回収率は0.027%であった。一方、図4に示すように、PTFE多孔質膜を用いた真空蒸発法によるToluene蒸発濃度は約200ppmで安定した。このときの回収率は0.077%であり、PV法の場合に比べて3倍に向上したが、リアルタイムでのTolueneの回収は困難であった。
【0032】
以上、図2(a)、図2(b)に示す方法では、数十Pa以下と高真空にするために空気の流動が無く蒸発したVOCを効率良く回収することができなかった。空気流動真空蒸発法は、図2(c)に示したように、真空容器をリークして空気を導入して真空度を低くした状態で、空気の流動によって蒸発したVOCをぬぐって回収する方法である。本法では、図5に示すように、Toluene蒸発には数千Paのような比較的低真空が好ましい。さらに図6に示すように、空気流動真空蒸発法によればToluene蒸発濃度は約3600ppmで安定し、このときの回収率は69%であった。本法により、VOC回収率69%と飛躍的に向上し、リアルタイムでの除去液の再生が可能となった。
【0033】
(空気流動真空蒸発法による除去液からのToluene理論的回収率の算出)
数1に示したAntoineの式より各温度によるTolueneの飽和蒸気圧(Psat)を算出することができる。これより25℃におけるTolueneの飽和蒸気圧は3792Pa(28.45mmHg)と算出される。
【0034】
【数1】

【0035】
本実験において、VOC除去液にはDEHA(Di-2-ethylhexyl Adipate)を用いている。もしToluene/DEHAが理想溶液と仮定すれば25℃で1g/LのTolueneが溶解しているDEHA溶液と平衡な気相の全圧Πは数2のラウールの法則に従う。DEHAの分圧はToluene分圧に比べれば小さい値であり無視できる。これよりToluene/DEHA溶液の理論平衡濃度はTolueneの分圧のみ考慮することで算出できる(Toluene分子量92、DEHA分子量351)。
【0036】
【数2】

【0037】
Toluene/DEHAは非理想溶液であるので、Tolueneのモル分率(XT)、活量係数(γ)、温度を考慮することでTolueneの平衡蒸気圧を数3によって算出できる。Toluene/DEHA=1g/Lの場合における各温度での算出したToluene/DEHA溶液におけるToluene理論気相平衡蒸気圧の結果を表1に示す。
【0038】
【数3】

【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、Toluene/DEHA溶液(1g/L)での25℃におけるTolueneの平衡蒸気圧(PT)は、8.1Paであり、本装置での任意の真空度における理論Tolueneの気相平衡濃度(CT)は数4で表される。
【0041】
【数4】

【0042】
図7に空気流動真空蒸発法による装置の概略を示す。真空容器内におけるTolueneの最大蒸発量(M)は、容器内のToluene気相平衡濃度(CT)と導入空気流量(v)との積となり数5で表される。又、Toluene気相平衡濃度(CT)は数4で表されるので、25℃での真空容器内におけるTolueneの最大蒸発量(M)は数6で表される。
【0043】
【数5】

【0044】
【数6】

【0045】
一方、除去液からのToluene回収率(y)は、数7によって表される。除去液(DEHA)中Toluene濃度は1g/Lであり、数7に数6を代入すると25℃における除去液からのToluene理論回収率(y)は数8で表される。
【0046】
【数7】

【0047】
【数8】

【0048】
数8より、除去液からのToluene理論回収率(y)は、導入空気流量(v)に比例し、容器内の真空度(P)と除去液流量(m)に反比例する。そして、導入空気流量(v)と容器内の真空度(P)は、使用する真空容器と真空ポンプによって決定される。
【0049】
(空気流動蒸発真空法による除去液中VOCの回収実験)
まず、回収実験に用いた実験装置について説明する。図8に、空気流動真空蒸発法による除去液(DEHA)中Toluene分離回収の実験装置の概要と概観を示した。ステンレス製真空容器(45L)内にセットした多孔質PTFE膜セル10枚には、ガラス製の分注器を利用してTolueneを溶け込ませた除去液(DEHA)を均等に導入した。真空容器内をスクリュー型ドライ真空ポンプTDA-051(大晃機械工業(株)製、排気速度 700L/min)で減圧し、多孔質PTFE膜を境界面として、除去液(DEHA)からのToluene蒸発濃度の測定を行った。また、除去液が真空ポンプに入るのを防ぐためにEVトラップを設置した。Tolueneの測定方法は、真空ポンプから排気された試料ガスをTVOC計 PID VX500(Industrial Scientific Corporation製)を用いて行った。
【0050】
(実験による蒸発係数(β)の算出)
排気ガス中トルエン平衡濃度(C)は、数9で表される。
【数9】

【0051】
数9より、図9に示した1/Pに対するCの傾きはPsat×β×x×106で表される。よって蒸発係数(β)は、図9の傾き/(Psat×x×106)より求められる。多孔質PTFE膜セル10枚(除去液流量,m=120mL/min)の場合、Psat=4118Pa(26.6℃)、x=4.33×10-3より、β=6.18×106/106/4118/(4.33×10-3)=0.35と求められる。
【0052】
図10に、本実験装置による除去液(DEHA)中の酢酸エチルの回収率と除去液流量との関係を示した。除去液流量が50mL/min 程度(多孔質PTFE膜セル1枚当たり除去液流量5mL/min)であれば、除去液からの酢酸エチルの回収率は60%と高く、リアルタイムでの除去液の再生が可能であるが、除去液流量400mL/min(多孔質PTFE膜セル1枚当たり除去液流量40mL/min)と大きくなると回収率は20%程度に低下し、多孔質PTFE膜セル内の除去液からの酢酸エチルの蒸発が除去液流量の増加と共に大きくならないことが判った。この結果から、多孔質PTFE膜セルを用いて除去液中酢酸エチルを蒸発回収する最適な除去液流量は、多孔質PTFE膜セル1枚(蒸発表面積400cm2)当たり除去液流量5mL/minであり、除去液流量を大きくするためには、除去液流量に応じて多孔質PTFE膜セル数を増やす必要がある。
【0053】
そこで、除去液流量の拡大を図るために、除去液をステンレス製真空容器(45L)内で噴霧する方法を検討した。その結果、図10に示されている様に、除去液流量400mL/minにおいても除去液中の酢酸エチルの回収率は90%以上となり、多孔質PTFE膜セル10枚の場合と比較して、リアルタイムで処理できる除去液流量を1桁近く拡大できることが判った。これは、除去液を噴霧することで、除去液は50μm程度の微小なミストとなり、除去液1Lが50μmの霧となった場合、その表面積は120m2となり、蒸発表面積が飛躍的に拡大した為である。
【0054】
(除去液噴霧による除去液中VOCの回収実験)
空気流動真空蒸発法(真空蒸発法)において、除去液中のVOCの蒸発を効率良く行うには、真空容器内に多孔質PTFE膜セルを設置して使用するよりは、除去液を真空容器内で噴霧することが有利であることが判った。そこで、図11と図12に、噴霧ノズルを用いた除去液噴霧方式による除去液中のVOC分離回収の実験装置の概略を示した。
【0055】
ステンレス製真空容器(45L)の上板に噴霧ノズルを取り付け、真空容器の上部には噴霧された除去液が真空ポンプに入らない様に、ブロックとしてPUF(ポリウレタンフォーム)を設置し、下部にもPUFを設置して噴霧された除去液(DEHA)を回収する。真空容器内をスクロール型ドライ真空ポンプGVS-500(アネスト岩田(株)製)2台で減圧し、除去液からのVOC分離回収実験を行った。除去液が真空ポンプに入るのを防ぐためにEVトラップを設置した。Tolueneの測定方法は、真空ポンプから排気された試料ガスをTVOC計 PID VX500(Industrial Scientific Corporation製)を用いて行った。また、排気された試料ガスは、テドラーバックにも採取し、GC-MS QP2010(SHIMADZU製)によってVOC濃度の測定を行った。図12に示す実験装置は、図1に示すVOC回収・再生装置に該当する。
【0056】
空気流動真空蒸発法によるToluene理論回収率(y)は、数8に記されている様に、導入空気流量と圧力の比(v/P)に比例し、除去液流量(m)に反比例する。ここで、v/Pは真空ポンプの性能に依存する値であり、v/Pが大きいほど回収率も大きくなる。実際に、図12に示す実験装置を用いて、除去液中のTolueneの分離回収実験を行った。
【0057】
実験結果を表2に記す。除去液中のToluene濃度1g/L、除去液流量0.4L/minの場合、導入空気流量10L/min、圧力(真空度)1400Paで53.1%のToluene回収率が得られ、空気流動真空蒸発法を用いることで除去液中のTolueneのリアルタイムでの分離回収を行うことが可能となった。また、実験結果を基に、Toluene回収率と導入空気流量と圧力の比(v/P)とを図13にプロットした。数8に示される様に、Toluene回収率と導入空気流量と圧力の比(v/P)との間には直線関係が得られ、v/Pが大きいほど回収率も大きくなることが確認できた。また、Toluene回収率の実験値は、理論的Toluene回収率の8割程度の値となり、数8により、本法のToluene回収率(y)を推定することは可能と言える。
【0058】
【表2】

【符号の説明】
【0059】
1 VOC除去液再生・回収装置
3 貯留タンク
5 送液ポンプ
7 ノズル
9 真空容器
11 真空ポンプ
13 気体導入機構
15 排液機構
17 霧トラップ
17a 連続気泡フォーム体(ポリウレタンフォーム)
17b 支持体
19 VOC処理機構
Ld 被処理除去液(VOC除去液)
Lc 再生除去液(VOC除去液)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOC除去液中に含まれるVOCを除去してVOC除去液を再生・回収するVOC除去液再生・回収装置であって、
VOC除去液を噴霧するポンプ及びノズルと、
当該ノズルを内部に配した真空容器と、
当該真空容器内部を減圧してVOC除去液に含まれるVOCを真空蒸発させる真空ポンプと、
当該真空容器内に蒸発促進気体を導入する気体導入機構と、
当該真空容器から処理後のVOC除去液を排出する排液機構と、
を含めて構成してあるVOC除去液再生・回収装置。
【請求項2】
前記真空容器内における前記ノズルと前記排液機構との間に、VOC除去液の少なくとも一部と接触し接触したVOC除去液の通過を妨げずに一時的に保持するトラップを配してある
ことを特徴とする請求項1記載のVOC除去液再生・回収装置。
【請求項3】
前記トラップは、連続気泡フォーム体を含めて構成してある
ことを特徴とする請求項2記載のVOC除去液再生・回収装置。
【請求項4】
当該真空ポンプには、排気に含まれるVOCを処理するVOC処理機構を接続してある
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のVOC除去液再生・回収装置。
【請求項5】
VOC除去液中に含まれるVOCを除去してVOC除去液を再生・回収するVOC除去液再生・回収方法であって、
真空容器内においてVOC除去液を噴霧するとともに真空ポンプによって減圧し、さらに、蒸発促進気体を当該真空容器内に導入することによってVOC除去液に含まれるVOCを真空蒸発させる
ことを特徴とするVOC除去液再生・回収方法。
【請求項6】
VOC除去液の少なくとも一部を接触したVOC除去液の通過を妨げずに一時的に保持するトラップに噴霧する
ことを特徴とする請求項5記載のVOC除去液再生・回収方法。
【請求項7】
前記トラップは、連続気泡フォーム体を含めて構成してある
ことを特徴とする請求項6記載のVOC除去液再生・回収方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図13】
image rotate

【図2】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−224469(P2011−224469A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96720(P2010−96720)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、環境省、「二酸化炭素を排出しない排ガス中VOCの循環効率的な除去処理技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】