説明

Vprタンパク質の検出方法及び検出用試薬

【課題】本発明は、Vprタンパク質を検出する方法及び検出用試薬を提供することを課題とする。また、HIVの感染を診断する方法及び診断用試薬を提供することを課題とする。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物を細胞に添加する工程、及び蛍光を検出する工程を含む方法により、Vprタンパク質を簡便に検出することができる。これによりHIVの感染過程をin vitro又はin vivoで可視的・動的(経時的)に解析する蛍光イメージングが可能となる。さらに本発明はHIV感染の診断、薬剤開発のスクリーニングと評価等に応用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vprタンパク質の検出方法、及び該方法に用いる検出用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
後天性免疫不全症候群(AIDS;エイズ)は、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)の感染によりCD4陽性T細胞が破壊されて宿主の免疫機能を著しく低下させ、種々の合併症を引き起こすことが知られている。エイズは、一般にHIV感染から発症まで長い潜伏期間を伴う。臨床現場において、他人へのさらなる感染を防止するためにも、HIVの感染を一刻も早く検出することが重要である。
【0003】
従来、HIV感染の診断は、ゼラチン粒子凝集反応、ELISA法、イムノクロマト法、ウェスタンブロット法等により感染後に産生する抗HIV抗体を検出する方法や、PCR法でHIVの遺伝子を検出する方法により行われてきた。
また、HIV-1のタンパク質を検出して、HIV感染を診断する方法も開発されている。そのターゲットタンパク質の1つにVprがある。
Vprタンパク質は、HIVゲノムのアクセサリー遺伝子vprにコードされる96個のアミノ酸からなり、HIV−1ウイルス粒子に結合する15kDaの核タンパク質である。HIV−1、HIV−2及びSIV等の霊長類のレンチウイルスには、何れも非常によく保存されたVpr様タンパク質が含まれている。Vprタンパク質は多くの機能を有する多機能性タンパク質であり、HIVの複製・増殖に重要な役割を果たすことが知られている。そのため、in vitro又はin vivoでVprタンパク質の局在又は存在状態を評価できれば有用である。例えば、Vprタンパク質のリアルタイムイメージングが実現すれば、感染の早期診断、薬剤開発のin vivoスクリーニングと評価、又はVprタンパク質活性の制御機構の研究等に応用できる。
これまでに抗Vprタンパク質モノクローナル抗体を用いた免疫学的方法や(特許文献1)、Vprタンパク質の存在下で分子量300ないし3000の物質の細胞への取り込みが促進されることを示標とする方法(特許文献2)でHIV感染を検出することが開発されてきた。また、緑色蛍光タンパク質(GFP)や赤色蛍光タンパク質(RFP)等で蛍光標識したタンパク質を用いて、Vprタンパク質の局在状態のイメージングする方法もなされてきた。
しかしながら、in vitro又はin vivoで、低分子プローブを用いてVprタンパク質を簡便に検出し、イメージングする方法、及びHIV−1感染を検出する方法は未だ開発されていない。
【0004】
ところで、HIV−1は、感染後にRNAゲノムの逆転写産物である核酸−タンパク質複合体(プレインテグレーション複合体;PIC)を形成し、PICは免疫細胞の核膜を通過して核へ移行し、マクロファージでのHIV−1複製に至る。この核移行及びHIV−1の複製は、Vprタンパク質とインポーチン(Imp)αの相互作用によって媒介される(非特許文献1、2)。ここで、Vprタンパク質は、そのN末端から17〜74番目のアミノ酸残基によって形成されるαヘリックス領域で、Impαと相互作用する。従って、この相互作用を阻害する化合物をスクリーニングすることにより、ヒト免疫細胞へのHIV−1感染を阻害する薬剤が得られることが報告されている(特許文献3、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−290743号公報
【特許文献2】特開2002−085099号公報
【特許文献3】特開2006−067994号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Virology, (2007) 81, 5284-5293
【非特許文献2】Journal of Virology, (2005) 79, 3557-3564
【非特許文献3】Biochem Biophys Res Commun (2009) 380, 838-843
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、Vprタンパク質を検出する方法及び検出用試薬を提供することを課題とする。また、HIVの感染を診断する方法及び診断用試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、まず、下記式(I)で表されるヘマトキシリン化合物がVprタンパク質と結合し、Vprタンパク質とImpαが相互作用するのを阻害することを見出した。
式(I)で表される化合物はヘマトキシリンとして知られている化合物であるが、従来ヘマトキシリンの用途は核染色剤などが知られているのみであり、HIV診断等の用途は知られていない。
【化1】

【0009】
さらに本発明者らは、ヘマトキシリンに蛍光色素が結合した化合物も、Vprタンパク質と特異的に結合することによりVprタンパク質とImpαの相互作用を阻害する効果を維持していることを見出した。また、前記相互作用阻害効果を利用することによりVprタンパク質を検出できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)下記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物を細胞に添加する工程、及び蛍光を検出する工程、を含むVprタンパク質の検出方法。
【化2】

(2)前記蛍光色素がフルオレセインである、(1)に記載の検出方法。
(3)前記蛍光色素が、式(I)で表される化合物の4位の水酸基の酸素原子を介して結合した、(1)又は(2)に記載の検出方法。
(4)前記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物が、下記式(II)で表される化合物である、(1)〜(3)の何れかに記載の検出方法。
【化3】

(5)(1)〜(4)の何れかに記載の検出方法を使用する、HIV感染の診断方法。
(6)下記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物を含有する、Vprタンパク質の検出用試薬。
【化4】

(7)前記蛍光色素がフルオレセインである、(6)に記載の検出用試薬。
(8)前記蛍光色素が、式(I)で表される化合物の4位の水酸基の酸素原子を介して結合した、(6)又は(7)に記載の検出用試薬。
(9)
前記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物が、下記式(II)で表される化合物である、(6)〜(8)の何れかに記載の検出用試薬。
【化5】

(10)(6)〜(9)の何れかに記載の検出用試薬を含有する、HIV感染の診断用試薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、低分子プローブでHIV−1のVprタンパク質を検出する方法及び検出用試薬が提供される。また、HIVの感染を診断する方法及び診断用試薬が提供される。
これによりHIVの感染過程をin vitro又はin vivoで可視的・動的(経時的)に解析する蛍光イメージングが可能となる。さらに本発明はHIV感染の早期診断、薬剤開発のスクリーニングと評価等に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヘマトキシリンをフルオレセインで蛍光標識したHemF−001を合成するスキームを示す。
【図2】蛍光標識ヘマトキシリン(HemF−001)がヘマトキシリン同様に、Vprタンパク質とImpαの相互作用及びHIV−1の複製を阻害する挙動を示す。 A:GST-Impα-His6又はGSTが結合したグルタチオン−セファロースビーズを、His6タグ付きVprN17C74-GFP-His 6又はGFPと、HemF−001 1、10又は100μMの存在/非存在下で、2時間4℃でインキュベートし、結合能を解析した。抗GFPモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの写真を示す。 B:GST-Impα-His6が結合したグルタチオン−セファロースビーズを、His6タグ付きVprN17C74-GFP- His 6又はGFPと、ヘマトキシリン 1、10又は100μMの存在/非存在下で、1時間4℃でインキュベートし、結合能を解析した。抗GFPモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの写真を示す。 C:TZMbl細胞における、HemF−001及びヘマトキシリンのHIV−1複製に対する阻害効果を調べたルシフェラーゼアッセイの結果を示す。3回以上の独立実験で同様の結果を得て、代表的な結果を示す。○:DMSO、●:PMPA、□:ヘマトキシリン、■:HemF−001
【図3】HeLa細胞に、蛍光標識ヘマトキシリン(HemF−001)10μMを添加し、2時間インキュベートし、3回洗浄した後に、HemF−001の未添加の培地で0、12、24時間培養後の共焦点レーザー走査顕微鏡写真を示す(励起波長:488nm)。
【図4】Vprタンパク質を発現するHeLa細胞に、蛍光標識ヘマトキシリン(HemF−001)を添加したときの共焦点レーザー走査顕微鏡写真を示す。 A:蛍光イメージ検出の概略図を示す。 B:HeLa細胞を、mRFP及びFlagタグ付き野生型Vpr(mRFP-FVpr)をコードする発現ベクターpCS2+-mRFP-FVpr、又はコントロールベクターpCS2+でトランスフェクションした。トランスフェクション後24時間経過後、細胞をHemF−001(10μM)と30分間インキュベートし、3回洗浄した後の共焦点レーザー走査顕微鏡写真を示す(励起波長はHemF−001:488nm、mRFP:584nm)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のVprタンパク質検出方法は、下記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物を細胞に添加する工程、及び蛍光を検出する工程を含む。
【0013】
本発明に用いる化合物には、下記式(I)で表される化合物(ヘマトキシリン)部分が含まれる。ヘマトキシリンは、分子内に不正炭素原子を有するため光学異性体又はジアステレオマーなどの立体異性体が存在するが、本発明に用いる化合物のヘマトキシリン部分は、純粋な形態の立体異性体の他、任意の立体異性体の混合物又はラセミ体でもよい。
【化6】

【0014】
本発明に用いる化合物は、前記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合したものである。前記蛍光色素は、Vprタンパク質と式(I)で表される化合物部分との結合を妨げないものであれば特に限定されない。例えば、フルオレセイン、フルオレセインイソチアネート、ローダミン、過塩素酸1,1'−ジオクタデシル−3,3,3',3'−テトラメチルインドカルボシアニン(DiD)、過塩素酸1,1'−ジオクタデシル−3,3,37,37−テトラメチル−endo−カルボシアニン(DiI)等が挙げられ、これらの中ではフルオレセインが好ましい。
前記蛍光色素は、前記式(I)で表される化合物の4位の水酸基の酸素原子を介して、前記式(I)で表される化合物に結合していることが好ましい。また、蛍光色素部分がVprタンパク質と式(I)で表される化合物部分との結合を妨げないよう、適当なスペーサーを設けることができる。例えば、不飽和結合や酸素原子を含んでもよい炭化水素鎖をスペーサーとすることができる。
本発明に用いる好ましい化合物としては、式(I)で表される化合物の4位の水酸基の位置にスペーサーを介してフルオレセインが結合した化合物(下記式(II))が挙げられる。
【化7】

【0015】
後述の実施例で示されるように、上記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物は、ヘマトキシリン同様にin vitro又はin vivoでVprタンパク質と特異的に結合することができる。
従って、式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物を細胞に添加すると、該細胞にVprタンパク質が存在している場合は、その細胞においてVprタンパク質に結合した式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物の蛍光パターンを検出することで、Vprタンパク質を検出できる。
例えば、細胞を培養している培地に式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物を50μM以下の濃度になるように添加し、10〜120分間インキュベートし、好ましくは非特異的結合を除くために洗浄を行った後に、蛍光パターンを検出することができる。蛍光の検出には、共焦点レーザー走査顕微鏡等を用いることができ、蛍光色素に応じた励起波長の励起光を照射し、細胞をスキャンして行うことができる。
【0016】
HIVに感染した細胞では、ウイルスのVprタンパク質は核移行によりその大部分が核に局在する(Journal of Virology, (2000) 74, 7179-7186)。
本発明の式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物は、Vprタンパク質が存在しない通常の細胞に添加すると、後述の実施例で示されるように、大部分が細胞質及び核膜に局在し、ある程度の量が核に存在する。
これに対し、HIVに感染している細胞、すなわちVprタンパク質の大部分が核に局在している細胞に、本発明の式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物を添加すると、後述の実施例で示されるように、該化合物はVprタンパク質と特異的に結合するため、蛍光は核で検出される。従って、細胞の蛍光イメージングしたときに、核で蛍光が顕著に観察された細胞は、Vprタンパク質が存在することが検出され、HIVに感染していることが診断されることとなる。
なお、本発明のVprタンパク質検出方法において細胞は、培養細胞であってもHIV感染が疑われる検体から単離された細胞であってもよい。
【0017】
本発明のVprタンパク質検出方法は、HIVに感染している細胞において発現しているVprタンパク質をin vitro又はin vivoで可視的・動的(経時的)に解析する蛍光イメージングが可能となるので、HIVの感染の診断方法に使用することができる。係る診断方法は、HIVの初期感染の診断及び治療の最小限非侵襲的な評価方法の開発に対する強い需要に適うものである。
【0018】
なお、本発明において「Vprタンパク質」とは、HIV−1のVprタンパク質(例えば、Journal of Virology, (1989) 63, 4110-4114及びGenBank Accession No. M28355、配列番号2)のことをいうが、HIV−2、及びSIV等の霊長類のレンチウイルスにおいて非常によく保存されているVpr様タンパク質(Vpr及び/又はVpx)が含まれていてもよい。
また、「インポーチンα」としては、配列番号4のタンパク質が例示される。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を掲げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0020】
<蛍光標識ヘマトキシリンの合成>
図1に示すスキームに従ってフルオレセイン標識ヘマトキシリン(HemF−001)を合成した。
まず、ヘマトキシリンから化合物2を合成した。ヘマトキシリン(6.08g、20.1mmol)の脱水アセトン溶液(100mL)に、2,2−ジメトキシプロパン(2.18g、21.0mmol)、p−トルエンスルホン酸(200mg、1.16mmol)及び五酸化リン(3.14g、22.1mol)を添加した反応混合液を12時間還流した。5酸化リン(10.0g、70.4mmol)をさらに添加し、反応混合液をさらに10時間還流した。冷却後、反応混合液に氷水(100mL)を加えて反応を止め、酢酸エチル(3×200mL)で抽出し水相を除去した。有機相を食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウム存在下で濃縮した。溶離剤としてヘキサン−酢酸エチル(2:1)を用いてフラッシュクロマトグラフィーを行い、粗精製物を精製した。化合物2(1.91g)を収率28%で得た。
1H-NMR(CDCl3) δ6.79 (1 H, d, J = 8.8 Hz, ArH), 6.76 (1 H, s, ArH), 6.71 (1 H, d, J = 8.8 Hz, ArH), 6.56 (1 H, s, ArH), 5.65.5 (2 H, br, ArOH), 4.11 (1 H, d, J = 11 Hz, CH2), 4.08 (1 H, s, CH), 3.87 (1 H, d, J = 11 Hz, CH2), 3.19 (1 H, d, J = 16 Hz, CH2), 2.84 (1H, d, J = 16 Hz, CH2), 2.52 (1 H, br, OH), 1.65 (3 H, s, CH3), 1.59 (3 H, s, CH3); LRMS (ESI pos.) m/z 343 [M+H]+.
【0021】
次に、化合物2から化合物3を合成した。化合物2(178mg、0.521mmol)の脱水ジメチルホルムアミド溶液(4.0mL)に、臭化アリル(0.10mL、1.2mmol)及び炭酸カリウム(107mg、0.750mmol)を添加した反応混合液を、室温で20時間攪拌した。反応混合液を水(15mL)で洗浄し、酢酸エチル(3×200mL)で抽出し水相を除去した。有機相を食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウム存在下で濃縮した。溶離剤としてヘキサン−酢酸エチル(2:1)を用いてフラッシュクロマトグラフィーを行い、粗精製物を精製した。化合物3(44.1mg)を収率22%で得た。
1H-NMR(CDCl3) δ6.97 (1 H, d, J = 8.5 Hz, ArH), 6.67 (1 H, s, ArH), 6.66 (1 H, d, J = 8.5 Hz, ArH), 6.56 (1 H, s, ArH), 6.05 (1 H, dddd, J = 6.3, 6.3, 10, 17 Hz, OCH2CHCH2), 5.79 (1 H, br s, ArOH), 5.34 (1 H, br dd, J = 1.4, 17 Hz, OCH2CHCH2), 5.24 (1 H, br d, J = 10 Hz, OCH2CHCH2), 4.59 (1 H, dd, J = 6.3, 12 Hz, OCH2CHCH2), 4.52 (1 H, dd, J = 6.3, 12 Hz, OCH2CHCH2), 4.11 (1 H, d, J = 11 Hz, CH2), 4.05 (1 H, s, CH), 3.85 (1 H, d, J = 11 Hz, CH2), 3.17 (1 H, d, J = 15 Hz, CH2), 2.83 (1H, d, J = 15 Hz, CH2), 2.64 (1 H, br, OH), 1.65 (3 H, s, CH3), 1.60 (3 H, s, CH3); LRMS (ESI pos.) m/z 383 [M+H]+.
【0022】
次に、フルオレセインから化合物4を合成した。フルオレセイン(789mg、2.38mmol)の脱水ジメチルホルムアミド溶液(10mL)に、臭化アリル(512mg、4.24mmol)及び炭酸カリウム(316mg、2.29mmol)を添加した反応混合液を、55℃で12時間攪拌した。溶離剤としてヘキサン−酢酸エチル(2:1)を用いてフラッシュクロマトグラフィーを行い、反応混合液を精製した。化合物4(107mg)を収率12%で得た。
1H-NMR(CDCl3) δ8.02 (1 H, d, J = 7.3 Hz, ArH), 7.67 (1 H, ddd, J = 1.2, 7.3, 7.3 Hz, ArH), 7.61 (1 H, ddd, J = 1.2, 7.3, 7.3 Hz, ArH), 7.17 (1 H, d, J = 7.3 Hz, ArH), 6.77 (1 H, d, J = 2.4 Hz, ArH), 6.73 (1 H, d, J = 2.4 Hz, ArH), 6.67 (1 H, d, J = 8.8 Hz, ArH), 6.63 (1 H, d, J = 2.4 Hz, ArH), 6.61 (1 H, d, J = 2.4 Hz, ArH), 6.61 (1 H, d, J = 8.8 Hz, ArH), 6.53 (1 H, d, J = 2.4 Hz, ArH), 6.51 (1 H, d, J = 2.4 Hz, ArH), 6.04 (1 H, ddt, J = 10, 17, 5.4 Hz, OCH2CHCH2), 5.9-5.8 (1 H, br s, ArOH), 5.43 (1 H, br dd, J = 1.5, 17 Hz, OCH2CHCH2), 5.32 (1 H, br d, J = 10 Hz, OCH2CHCH2), 4.56 (2 H, ddd, J = 1.5, 1.5, 5.4 Hz, OCH2CHCH2); LRMS (ESI pos.) m/z 373 [M+H]+.
【0023】
次に、化合物3と化合物4をカップリングさせて化合物5を合成した。化合物3(44.1mg、184μmol)及び化合物4(70.3mg、189μmol)のジクロロメタン溶液(3.0mL)に、第2世代グラブス触媒(4.1mg、4.83μmol、2.5mol%)を添加した反応混合液を、55℃で72時間攪拌した。溶離剤としてクロロホルム−アセトン(3:1)を用いて薄層クロマトグラフィーを行い、反応混合液を精製した。化合物5(59.3mg)を収率44%で得た。
1H-NMR(CDCl3) δ8.01 (1 H, d, J = 7.6 Hz, ArH), 7.67 (1 H, dd, J = 7.6, 7.6 Hz, ArH), 7.61 (1 H, dd, J = 7.6, 7.6 Hz, ArH), 7.16 (1 H, d, J = 7.6 Hz, ArH), 6.96 (1 H, dd, J = 2.0, 8.5 Hz, ArH), 6.72-6.50 (9 H, m, ArH), 6.07 (1 H, ddd, J = 5.9, 5.9, 15 Hz, OCH2CH), 5.99 (1 H, ddd, J = 5.9, 5.9, 15 Hz, OCH2CH), 5.80-5.70 (1 H, br, OH), 4.66-4.54 (4 H, m, OCH2CHCHCH2O), 4.09-4.05 (2 H, m, CH2, CH), 3.84 (1 H, dd, J = 1.2, 11 Hz, CH2), 3.17 (1 H, d, J = 16 Hz, CH2), 2.83 (1H, d, J = 16 Hz, CH2), 2.64 (1 H, s, OH), 1.64 (3 H, s, CH3), 1.59 (3 H, s, CH3); LRMS (ESI pos.) m/z 727 [M+H]+.
【0024】
最後に、化合物5から化合物1(HemF−001)を合成した。化合物5(59.0mg、81.2μmol)のアセトン−水溶液(3:1、2.0mL)に3N塩酸溶液(0.10mL)を、60℃で12時間攪拌した。冷却後、反応混合液を蒸留水(5mL)で希釈し、重炭酸ナトリウムで中和し、酢酸エチル(3×10mL)で抽出し水相を除去した。有機相を食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウム存在下で濃縮した。溶離剤としてヘキサン−酢酸エチル(1:5)を用いて薄層クロマトグラフィーを行い、粗精製物を精製した。化合物1(14.6mg)を収率26%で得た。
1H-NMR(CD3CN) δ7.97 (1 H, br d, J = 7.6 Hz, ArH), 7.74 (1 H, dd, J = 7.1, 7.1 Hz, ArH), 7.68 (1 H, ddd, J = 1.2, 7.6, 7.6 Hz, ArH), 7.19 (1 H, br dd, J = 2.9, 8.6 Hz, ArH), 6.96 (1 H, d, J = 8.5 Hz, ArH), 6.78-6.47 (9 H, m, ArH), 6.07 (1 H, ddd, J = 5.9, 5.9, 16 Hz, OCH2CH), 5.95 (1 H, ddd, J = 5.2, 5.2, 16 Hz, CH2CH), 4.68-4.51 (4 H, m, OCH2CHCHCH2O), 3.74-3.72 (2 H, m, CH2, CH), 3.73 (1 H, d, J = 11 Hz, CH2), 2.95 (1 H, d, J = 16 Hz, CH2), 2.80 (1H, d, J = 16 Hz, CH2), 2.57 (1 H, s, OH); LRMS (ESI pos.) m/z 687 [M+H]+; HRMS (ESI pos.) calcd for C40H31O11Na [M+Na]+ 709.1686, found 709.1689.
【0025】
<タンパク質の発現と精製>
プラスミドpGEX-6p3-N17C74-TEV linker-GFP-His 6及びpGEX-Impα-His6はBiochem Biophys Res Commun (2009) 380, 838-843に記載の方法に従って構築した。
pGEX-6p3-N17C74-TEV linker-GFP-His 6は、Impαと結合する、Vprタンパク質のN末端から17〜74番目のアミノ酸残基によって形成されるαヘリックス領域(特開2006-067994号公報:配列番号2の17〜74番目のアミノ酸残基)に、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)タグと、緑色蛍光タンパク質(GFP)と、ポリヒスチジン(His6)タグとを結合させた融合タンパク質(GST-N17C74-GFP-His 6)を発現させるためのプラスミドである。また、pGEX-Impα-His6は、Impαに、GSTタグと、ポリヒスチジンタグとを結合させた融合タンパク質(GST-Impα-His6)を発現させるためのプラスミドである。
上記各プラスミドで大腸菌を形質転換して組換え大腸菌を得た。得られた組換え大腸菌を培養することによって各融合タンパク質を発現させた。GSTカラム及びニッケルカラムを用いて得られた融合タンパク質を精製した。さらにGST-N17C74-GFP-His6は、PreScission protease (Amersham Biosciences)で切断して、VprN17C74-GFP-His 6を得た。
【0026】
<プラスミドの構築>
赤色蛍光タンパク質(RFP)とFlagタグ付き野生型Vpr(FVpr)との融合タンパク質をコードする発現ベクターpCS2+を以下の手順で作製した。まず、特異的プライマーmRFP-BH1-5'(配列番号5)及びmRFP-ER1-3'(配列番号6)を用いて、pRSETB(Invitrogen)を鋳型としたPCRによりmRFP配列を増幅し、pBluescript II-SK(+)(Stratagene)にサブクローニングした(pSK-mRFP)。また、特異的プライマーを用いてpSK(+)-FVpr(Biochem Biophys Res Commun (1997) 232, 550-554及びVirology (1999) 263, 313-322参照)を鋳型としたPCRによりFVpr配列を増幅し、BamHI/XhoIで消化したpSC2+にサブクローニングした(pCS2+-FVpr)。次に、pSK-mRFPのmRFP配列を、pCS2+-FVprのBamHIサイトにサブクローニングした。得られたベクターを、pCS2+-mRFP-FVprと命名した。
mRFPのみを発現するコントロールベクターpCS2+を以下の手順で作製した。pSK-mRFPのmRFP配列を、pCS2+のBamHIサイトにサブクローニングした。得られたベクターを、pCS2+-mRFPと命名した。
【0027】
<プルダウンアッセイ>
in vitroでGSTプルダウンアッセイを行い、Vprタンパク質とImpα間の相互作用を、HemF−001が阻害するかを検証した。
VprN17C74-GFP-His6又はGFPを、予めグルタチオン−セファロース4FFビーズ(Amersham Pharmacia Biotech)12.5μLに吸着させたGST-Impα-His6又はGSTと、HemF−001 1、10又は100μMの存在/非存在下で、4℃で2時間反応させた。ビーズをPBS/0.1% Triton X-100で6回洗浄した後、98℃で5分間加熱してビーズに結合したタンパク質を溶出させた。溶出したタンパク質をSDS−PAGE(15% polyacrylamide)で分離し、PVDF膜 (Invitrogen)に転写してイムノブロット解析した(Journal of Virology, (2000) 276, 16-26参照)。膜をPBS/0.05% Tween20/5%スキムミルクで1時間ブロッキングした後、抗GFPモノクローナル抗体(MBL)と反応させた。膜をPBS/0.05% Tween20で洗浄した後、HRP結合抗マウスIgG(Jackson Immuno research)と反応させた。SuperSignalTM West Pico Chemiluuminescent substrate(Pierce)を用いてバンドを検出した。
図2Aに示すとおり、HemF−001はVprタンパク質とImpα間の相互作用を用量依存的に阻害した。従って、HemF−001はVprタンパク質と特異的に結合することが分かる。
なお、HemF−001に代えてヘマトキシリンを用いたプルダウンアッセイも同様に行った。結果を図2Bに示す。ヘマトキシリンはVprタンパク質とImpα間の相互作用を用量依存的に阻害したことから、Vprタンパク質と特異的に結合することが分かる。
【0028】
<ルシフェラーゼアッセイ>
HemF−001がHIV−1複製を阻害するかを検証した。
TZMbl細胞は、HIV-1 LTRの2つの統合コピー遺伝子(ルシフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼをそれぞれ発現させる)を持つ、HeLa細胞由来の細胞である(Journal of Virology, (2005) 79, 10108-10255)。HIV−1に感染したTZMbl細胞におけるレポーターとしてのルシフェラーゼの発現状況により、添加した物質がHIV−1複製を阻害するか否かを調べることができる。すなわち、Vprタンパク質とImpαの相互作用が阻害されてHIV−1複製が阻害されると、ルシフェラーゼ活性が低下することになる。
TZMbl細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)(Sigma)、ペニシリン(100U/mL)及びストレプトマイシン(100μg/mL)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で増殖させた。
感染性分子クローンpNL432株ウイルスの取得方法はJournal of Virology, (1986) 59, 284-291に記載されている。
100〜1.5625μMに倍数希釈したHemF−001又はヘマトキシリンの存在/非存在下で、TZMbl細胞(5×103個/ウェル)を96穴プレートで培養し、感染性分子クローンpNL432株ウイルスのウイルスストックで感染させた。ウイルスストックの力価はTZMblで予め測定しておき、この実験条件下でのルシフェラーゼ活性が約2×106相対発光量(Relative Light Unit:RLU)となるように調整した。2日後、回収した細胞を溶解緩衝液(PicaGene ReporterLysis Buffer、東洋ビーネット)に溶解させ、ルシフェラーゼの発現をPicaGene luciferase assay system(東洋ビーネット)及びマルチモードマイクロプレートリーダー(ベルトールドジャパン)を用いて定量化した。なお、逆転写酵素阻害剤である9−[2−(ホスホノメトキシ)プロピル]アデニン(PMPA)をポジティブコントロールとし、ジメチルスルフォキシド(DMSO)をネガティブコントロールとした。
図2Cに示すとおり、HemF−001の用量依存的にルシフェラーゼ活性が低下したことから、ヘマトキシリン同様にHemF−001は、HIV−1複製を用量依存的に阻害した。
【0029】
<Vprタンパク質検出実験>
HIV−1に感染したHeLa細胞において、HemF−001を用いてVprタンパク質を検出できるかを検証した。
HeLa細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)(Sigma)、ペニシリン(100U/mL)及びストレプトマイシン(100μg/mL)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で増殖させた。HeLa細胞へのウイルス感染は、FuGENE HD transfection reagent(Roche)を用い取扱説明書に従って行った。
【0030】
(1)まず、HemF−001のHeLa細胞における挙動を明らかにするため、共焦点レーザー走査顕微鏡で経時的に観察した。
共焦点レーザー走査顕微鏡(FV 1000、オリンパス)を用いて経時的共焦点蛍光イメージングを行った。カバースリップ上のHeLa細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)(Sigma)、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)及びHemF−001(10μM)を含むDMEM培地中で、37℃で2時間インキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄した後、HemF−001を含まないDMEM培地で0、12又は24時間培養し、再度PBSで洗浄した後、PBS/4%ホルムアルデヒドで15分間固定した。細胞を3回洗浄しスライドガラスを乗せて共焦点イメージングを行った(励起波長:488nm)。
図3に示すとおり、Vprタンパク質が存在しない場合は、HemF−001の大部分は細胞質及び核膜に局在し、ある程度の量は核に存在した。
【0031】
(2)次に、HemF−001が、生きている細胞において蛍光プローブとして機能し、Vprタンパク質を検出できるか検証した。
前述の通りVprタンパク質と波長584nmで励起するmRFPとFlagタグとの融合タンパク質発現プラスミドを構築し、HemF−001を用いてmRFP-FVprの細胞内局在の検出を試みた。
既に報告したとおり、トランスフェクション後24時間に細胞で発現したVprタンパク質の大部分は、核に局在する(Journal of Virology, (2000) 74, 7179-7186)。そこで、トランスフェクション後24時間経過後に、細胞の核に存在するVprタンパク質と添加したHemF−001が相互作用する様子(図4A参照)を共焦点レーザー走査顕微鏡で観察した。
HeLa細胞をpCS2+-mRFP-FVpr又はpCS2+-mRFPでトランスフェクションし、トランスフェクション後24時間経過後、HemF−001(10μM)存在下で30分間インキュベートした。細胞を3回洗浄し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察した(励起波長はHemF−001:488nm、mRFP:584nm)。
結果を図4Bに示す。コントロールの細胞ではHemF−001の大部分は細胞質及び核膜に局在したのに対し、mRFP-FVprを発現した細胞ではHemF−001は顕著に核に局在した。すなわち、核に存在するmRFP-FVprにHemF−001が結合し、mRFP-FVprを発現した細胞では蛍光イメージングにより核が特異的に検出された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、Vprタンパク質を検出する方法及び検出用試薬が提供され、また、HIVの感染を診断する方法及び診断用試薬を提供される。本発明によりVprタンパク質を低分子プローブで検出することができ、HIVの感染過程をin vitro又はin vivoで可視的・動的(経時的)に解析する蛍光イメージングが可能となる。さらに本発明はHIV感染の診断へ応用することもできるので、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物を細胞に添加する工程、及び
蛍光を検出する工程、
を含むVprタンパク質の検出方法。
【化1】

【請求項2】
前記蛍光色素がフルオレセインである、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記蛍光色素が、式(I)で表される化合物の4位の水酸基の酸素原子を介して結合した、請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物が、下記式(II)で表される化合物である、請求項1〜3の何れか一項に記載の検出方法。
【化2】

【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の検出方法を使用する、HIV感染の診断方法。
【請求項6】
下記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物を含有する、Vprタンパク質の検出用試薬。
【化3】

【請求項7】
前記蛍光色素がフルオレセインである、請求項6に記載の検出用試薬。
【請求項8】
前記蛍光色素が、式(I)で表される化合物の4位の水酸基の酸素原子を介して結合した、請求項6又は7に記載の検出用試薬。
【請求項9】
前記式(I)で表される化合物に蛍光色素が結合した化合物が、下記式(II)で表される化合物である、請求項6〜8の何れか一項に記載の検出用試薬。
【化4】

【請求項10】
請求項6〜9の何れか一項に記載の検出用試薬を含有する、HIV感染の診断用試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−13117(P2011−13117A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158179(P2009−158179)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り Biochemical and Biophysical Research Communications 380(2009) 掲載日 2009年2月4日 掲載アドレス http://www.sciencedirect.com/science/journal/0006291X
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人 医薬基盤研究所基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】