説明

W/O/W型エマルジョン組成物

【課題】有用物質を高い封入率で安定に内水相に封入可能であって、しかも、安全性が高いW/O/W型エマルジョン組成物を提供する。
【解決手段】内水相、油相及び外水相からなるW/O/W型複合エマルジョン組成物であって、内水相に、イオン性生理活性物質と、該イオン性生理活性物質に対する2価以上の多価カウンターイオンを生じる分子量1000以下の生理的に許容できる化合物が含まれることを特徴とする、W/O/W型複合エマルジョン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、W/O/W型エマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液体のマイクロカプセルであるW/O/W型エマルションは、水相を外相としてこれに油中水型(W/O)液滴を分散させたエマルションである。
【0003】
W/O/W型エマルションは、そのW/O液滴内部に有用な物質を封入することによって、食品、医薬品、化粧品等をはじめ、様々な用途に応用することができる。また、W/O/W型エマルションは、製造プロセスの中間体としての利用も可能である。これらの用途において、W/O/W型エマルションとしてのメリットを十分に発揮させるためには、W/O液滴内部の有用物質の漏洩が効果的に抑制されていることや、有用物質の放出速度を制御できること等が重要となる。
【0004】
W/O/W型エマルジョンにおける有用物質の封入率は、溶解している有用物質の内水相と外水相の濃度平衡に大きく依存する。通常は、内水相における有用物質の濃度が高くなると、外水相においても有用物質の濃度が高くなるために、内水相における封入率を高く維持することは困難であり、W/O液滴内部に封入した有用物質が、W/O/Wエマルションの製造中又は保存中に外水相に多量に漏洩するという問題が生じる。
【0005】
この様な問題を改善する方法として、イオン性薬物および該薬物とコンプレックスを形成する水溶性高分子を内水相に配合してエマルジョンを製造する方法が報告されている(下記特許文献1参照)。
【0006】
この方法では、イオン性薬剤とコンプレックスを形成するために、内水相に水溶性高分子を配合しているが、水溶性高分子を配合したW/O/W型エマルジョンは、注射剤としての使用が困難である。これは、水溶性高分子は、注射剤の粘性を上昇させるためにW/O液滴の乳化を困難とすることに加えて、高分子化合物であることから、ビークル内にリークすることなく残存し,長期間に体内に残存する可能性を有していることによるものである。よって、特許文献1に記載されているW/O/W型エマルジョンは、外用剤としての使用を意図したものといえる。
【0007】
従って、W/O/W型エマルジョンについて、注射剤として有効に使用でき、しかもW/O液滴内部に含有させた有用物質が外水相に漏洩することを効果的にまたより安全に抑制することを可能とするためには、さらなる改良が必要とされている。
【特許文献1】特開2005−97292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、有用物質を高い封入率で安定に内水相に封入可能であって、しかも、安全性が高いW/O/W型エマルジョン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、内水相に封入する有用物質としてイオン性の生理活性物質を用いる場合に、内水相中に更に分子量1000以下の多価のカウンターイオンを生じる化合物を配合することにより、該生理活性物質とカウンターイオンとの間で水溶性複合体が形成され、内水相への高い封入率を確保することができることを見出した。そして、得られたW/O/W型エマルジョン組成物は、有用物質の内水相への封入率が高く、しかも安全性に優れたものであり、注射剤としても有用性の高いものであることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のW/O/W型エマルジョン組成物を提供するものである。
1. 内水相、油相及び外水相からなるW/O/W型複合エマルジョン組成物であって、内水相に、イオン性生理活性物質と、該イオン性生理活性物質に対する2価以上の多価カウンターイオンを生じる分子量1000以下の生理的に許容できる化合物が含まれることを特徴とする、W/O/W型複合エマルジョン組成物。
2. イオン性生理活性物質が、分子量1000以下のアニオン性又はカチオン性の生理活性物質である上記項1に記載のW/O/W型複合エマルジョン組成物。
3. イオン性生理活性物質が、塩酸イダルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ビラルビシン、塩酸ブピバカイン、塩酸リドカイン、トブラマイシン、硫酸アルベカシン、塩酸アミトリプチリン、塩酸イミプラミン、塩酸クロミプラミン、塩酸カルテオロール、塩酸エピナスチン、塩酸ジルチアゼム、塩酸インデノロール、塩酸フロプラノロール、塩酸メトプロロール、塩酸メキシレチン、塩酸ドパミン、塩酸ヒドララジン、塩酸プロカテロール、塩酸アザセトロン、塩酸グラニセトロン、塩酸オキシブチニン、塩酸プロピベリン又は塩酸チクロピジンからなるカチオン性化合物であり、
2価以上の多価カウンターイオンを生じる分子量1000以下の生理的に許容できる化合物が、2価以上の多価アニオンを生じるアニオン性化合物である、
上記項2に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
4. 2価以上の多価アニオンを生じるアニオン性化合物が、硫酸、リン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、無水ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、グリチルリチン酸及びホウ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である上記項2に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
5. 2価以上の多価アニオンを生じるアニオン性化合物が、無水ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム,テトラポリリン酸ナトリウム,ジエチレントリアミン五酢酸、エデト酸カルシウム二ナトリウム及びエデト酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である上記項2に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
6. イオン性生理活性物質が、スルベニシリンナトリウム、クロモグリク酸ナトリウム、ブロムフェナックナトリウム、ジクロフェナックナトリウム、カプトプリル、フルバスタチンナトリウム、ベミロラストカリウム又はアスコルビン酸からなるアニオン性化合物であり、
2価以上の多価カウンターイオンを生じる分子量1000以下の生理的に許容できる化合物が、2価以上の多価カチオンを生じるカチオン性化合物である、
上記項2に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
7. 2価以上の多価カチオンを生じるカチオン性化合物が、2価の金属イオンを生じる金属化合物である上記項6に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
8. イオン性生理活性物質がアントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質であり、2価以上の多価カチオンを生じるカチオン性化合物が無水ピロリン酸ナトリウムである上記項1に記載のW/O/W型複合エマルジョン組成物。
【0011】
以下、本発明のW/O/W型エマルジョン組成物について具体的に説明する。
【0012】
内水相
本発明のW/O/W型エマルジョン組成物では、内水相に封入する薬物として、イオン性の生理活性物質を用いる。
【0013】
生理活性物質の種類については特に限定的ではなく、W/O/W型エマルジョン組成物の使用目的に応じて、適宜選択することができる。生理活性物質のイオン性についても特に限定はなく、カチオン性生理活性物質及びアニオン性生理活性物質のいずれでもよい。
【0014】
特に、本発明のW/O/W型エマルジョン組成物は、従来は内水相からの漏洩を抑制することが困難とされていた分子量1000以下のイオン性生理活性物質を封入する場合にも、効果的に漏洩を抑制する点で有用性の高いものである。
【0015】
本発明において有効に使用できるカチオン性の生理活性物質の具体例としては、塩酸イダルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ビラルビシン、塩酸ブピバカイン、塩酸リドカイン、トブラマイシン、硫酸アルベカシン、塩酸アミトリプチリン、塩酸イミプラミン、塩酸クロミプラミン、塩酸カルテオロール、塩酸エピナスチン、塩酸ジルチアゼム、塩酸インデノロール、塩酸フロプラノロール、塩酸メトプロロール、塩酸メキシレチン、塩酸ドパミン、塩酸ヒドララジン、塩酸プロカテロール、塩酸アザセトロン、塩酸グラニセトロン、塩酸オキシブチニン、塩酸プロピベリン、塩酸チクロピジン等を挙げることができる。また、アニオン性の生理活性物質の具体例としては、ルベニシリンナトリウム、クロモグリク酸ナトリウム、ブロムフェナックナトリウム、ジクロフェナックナトリウム、カプトプリル、フルバスタチンナトリウム、ベミロラストカリウム、アスコルビン酸等を挙げることができる。これらの中でも、アントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質は、後述する複合体形成成分と共に形成される複合体が、低温ではゲル状となるため、内水相からのリークが物理的に抑制される点で特に好ましい。この様なアントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質の具体例としては、塩酸イダルビシン,塩酸エピルビシン,塩酸ダウノルビシン,塩酸ドキソルビシン,塩酸ビラルビシンなどを挙げることができる。
【0016】
イオン性生理活性物質の配合量は特に限定的ではないが、内水相における濃度として、0.05〜10w/v%程度とすることが好ましく、1〜3w/v%程度とすることがより好ましい。尚、「w/v%」とは、溶液100ml中のイオン性の生理活性物質の重量(g)を意味する。
【0017】
本発明では、上記したイオン性生理活性物質の水溶性複合体を形成するために、内水相には、イオン性生理活性物質のカウンターイオンとして2価以上の多価イオンを生じる、分子量1000以下の生理的に許容されるイオン性化合物(以下、「複合体形成成分」ということがある)を配合する。即ち、カチオン性の生理活性物質を用いる場合には、2価以上の多価アニオンを生じるアニオン性化合物を複合体形成成分として配合し、アニオン性の生理活性物質を用いる場合には、2価以上の多価カチオンを生じるカチオン性化合物を複合体形成成分として配合する。
【0018】
この様な複合体形成成分を用いる場合には、2価以上の多価イオンを生じることによって、形成される複合体が3分子以上を含むものとなり、分子量が増大して内水相からのリークが抑制され、封入率が向上する。また、分子量が1000以下であることによって、内水相から外水相への透過が容易であり、イオン性生理活性物質との複合体の形成に利用されていない複合体形成成分の内水相中での濃度を低減できる。
【0019】
上記した2価以上の多価イオンを生じる、分子量1000以下のイオン性化合物を内水相に配合することによって、イオン性生理活性物質との間で水溶性複合体が形成される。形成される水溶性複合体は、内水相において安定に存在でき、外水相への漏洩が抑制されて、高い封入率が確保される。
【0020】
上記した条件を満足するアニオン性の複合体形成成分としては、硫酸、リン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、無水ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、グリチルリチン酸、ホウ酸等を例示できる。
【0021】
カチオン性の複合体形成成分としては、カルシウム,マグネシウム等の2価の金属イオンを形成する化合物を用いることが好ましい。この様な化合物としては、塩化カルシウム,塩化マグネシム,硫酸カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム等を例示できる。
【0022】
上記した複合体形成成分は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0023】
これらの中でも特に、無水ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム,テトラポリリン酸ナトリウム,ジエチレントリアミン五酢酸、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸ナトリウム等は、注射剤における添加剤として使用実績がある化合物であり、これらの複合体形成成分を用いて得られる本発明のW/O/W型エマルジョン組成物は、特に、注射用途への適用が好適と考えられる。
【0024】
該複合体形成成分の内で、特に、イオン性生理活性物質としてアントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質を用い、複合体形成成分として無水ピロリン酸ナトリウムを用いる場合には、水溶性複合体を形成できることに加えて、形成された複合体は、室温ではゾル状であり、5℃程度以下の冷蔵状態ではゲル状となる。このため、室温で製造したエマルジョン組成物を冷蔵状態で保存することによって、経時的なアントラサイクリン系抗生物質の封入率の低下を防止できる。
【0025】
上記した複合体形成成分の配合量は特に限定的ではないが、内水相中の濃度として、0.1〜5w/v%程度とすることが好ましく、0.5〜1.5w/v%程度とすることがより好ましい。また、イオン性生理活性物質と複合体形成成分の割合については、イオン性生理活性物質1モルに対して、複合体形成成分を0.5〜2モル程度用いることが好ましい。
【0026】
本発明のW/O/W型エマルション組成物の内水相のpHについては、特に限定的ではないが、カチオン性の生理活性物質を用いる場合には、その物質のpKa以下のpHとすることが好ましく、アニオン性の生理活性物質を用いる場合には、その物質のpKa以上のpHとすることが好ましい。
【0027】
油相
本発明のW/O/W型エマルション組成物では、油相の油性成分としては、従来からエマルジョン製造に用いられている各種の天然又は合成の油を用いることができる。例えば、鉱油、植物油、動物油、精油、合成油、これらのエステル等を用いることができる。特に、大豆油、綿実油、菜種油、胡麻油、コーン油、落花生油、サフラワー油,ケシ油などの植物油が好ましい。例えば、商標名:ココナード(花王製)、商標名:ODO(日清製油製)、商標名:ミグリオール(ミツバ貿易製),商標名:パナセート(日本油脂製)などで市販されている中鎖トリグリセリドを用いることができる。特に、商標名:リピオドール(ゲルベ社)等で市販されているヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル等を好適に用いることができる。
【0028】
尚、油性成分は、血管内皮や、腫瘍組織、炎症組織などに沈着又は集積しやすい性質があり、DDS(ドラッグデリバリーシステム)効果やキャリヤー効果を期待する場合には、その目的に応じて、油性成分を適宜選定する必要がある。また、一種単独又は二種以上混合して用いることができる
油相に添加する界面活性剤としては、公知の親油性界面活性剤を用いることができる。特に、HLB6以下の親油性界面活性剤を用いることが好ましく、安定的に内水相の割合を増やすために有効である。HLB6以下の親油性界面活性剤としては、例えば、下記化学式:
【0029】
【化1】

【0030】
(式中、Rは水素原子又は下記基
【0031】
【化2】

【0032】
である。)で表されるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルpolyglyceryl-condensed-ricinoleate :PGCR)を好適に用いることができる。この様な親油性界面活性剤の具体例としては、商標名:SYグリスターCR-310、商標名:SYグリスターCR-500(いずれも阪本薬品製)、商標名:ポエムPR-100、商標名:ポエムPR-300(いずれも理研ビタミン製)、)商標名:HexaglynPR-15、商標名:DecaglynPR-20(いずれも日光ケミカル製)、商標名:サンソフト818DG、商標名:サンソフト818H、商標名:サンソフト818R(いずれも太陽化学製)などとして市販されているものを挙げることができる。
【0033】
親油性界面活性剤の使用量については、十分な乳化効果が得られる限り特に限定されないが、油性成分1容量に対して、0.01〜0.3容量程度とすればよく、0.05〜0.15容量程度とすることが好ましい。
【0034】
外水相
外水相には、親水性界面活性剤を配合する。親水性界面活性剤としては公知のものを使用できるが、特に、HLB10以上の親水性界面活性剤が好ましい。親水性界面活性剤の具体例としてはポリソルベート80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)(商標名:ニッコールTO-10M(日光ケミカルズ)、商標名:NOFABLE ESO−9920(日本油脂)、商標名:レオドールTW-0120(花王)、商標名:オイムルギンSMO20(ヘンケルジャパン)、商標名:ニューカルゲンD−945(竹本油脂)、商標名:アデカエストールT-82(旭電化工業)等);HCO-60(ポリオキシエチレン硬化ひまし油)(商標名:ニッコールHCO-60(日光ケミカルズ)、商標名:ユニオッックスHC-60(日本油脂)、商標名:エマノーンCH60(花王)、商標名:クレモフォール(ビーエーエスエフジャパン)、商標名:オイムルギンHRE60(ヘンケルジャパン)、商標名:エマレックスHC-60(日本エマルジョン)等)などを挙げることができる。
【0035】
親水性界面活性剤の添加量については、十分な乳化効果が得られる限り特に限定されないが、通常、外水相中の濃度として、0.1〜5w/v%程度とすることが好ましく、
0.5〜2w/v%程度とすることがより好ましい。また、一種単独又は二種以上混合して用いることができる
【0036】
その他の添加成分
本発明のW/O/W型エマルション組成物には、更に、必要に応じて、この種のエマルジョン組成物中に配合できることの知られている各種の添加剤の適当量を配合することができる。この様な添加剤としては、例えば、酸化防止剤、抗菌剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤などを挙げることができる。酸化防止剤の具体例としては、メタ重亜硫酸ナトリウム(抗菌剤としても作用する)、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、チオ硫酸ナトリウムなどを挙げることができる。抗菌剤としては、例えばカプリル酸ナトリウム、安息香酸メチル、メタ重亜硫酸ナトリウム(酸化防止剤としても作用する)、エデト酸ナトリウムなどが挙げられる。pH調整剤としては、塩酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、水酸化ナトリウムなどを使用できる。等張化剤としてはグリセリン;ブドウ糖、果糖、マルトースなどの糖類;ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類などを使用できる。これらの内、油溶性材料は、油相を構成する油性成分などに予め混合して利用することができる。水溶性材料は、内水相又は外水相の調製に用いられる水(注射用水等)に予め混合するか、または得られるエマルジョン組成物に添加してその水相中に溶解させることができる。これらの添加剤の配合量は、当業者にとり自明であり、従来知られているそれらの配合量と特に異ならない。
【0037】
W/O/W型エマルジョン組成物の製造方法
以下、本発明のW/O/W型エマルション組成物の製造方法の一例を示す。
【0038】
まず、油性成分と親油性界面活性剤などの油相成分を容器に入れ、これを例えば高速撹拌乳化機にセットし、攪拌しながら50〜90℃程度で加熱溶解させ均一にする。次に、内水相に配合する生理活性物質、複合体形成成分、及びその他の添加物を溶解させた水相を油相成分を入れた容器に徐々に添加する。
【0039】
次いで、50〜90℃程度の温度範囲に維持しながら攪拌乳化して、W/O型エマルジョンを調製する。このW/O型エマルションでは、内水相と油相の比率は、容積比として、内水相:油相=1:0.5〜50程度とすることが好ましく、内水相:油相=1:1.5〜20程度とすることがより好ましい。該W/O型エマルションは、例えば、0.5〜10μm程度の平均水相粒子径を有するように製造することが望ましい。
【0040】
次いで、得られたW/O型エマルションを、水性界面活性剤を含有する外水相に分散させることによって、本発明のW/O/W型エマルション組成物を得ることができる。
【0041】
W/O型エマルションの外水相への分散方法としては、特に限定はなく常法に従えばよい。例えば、高圧ホモジナイザー法、高速攪拌法、超音波乳化法、膜乳化法などがあげられる。また、このW/O/W型エマルション組成物を調製する際には、必要に応じて熱を加えることができる。W/O/W型複合エマルションにおけるW/O型エマルションと外水相の比率は、容積比として、W/O型エマルション:外水相=1:0.3〜30程度とすることが好ましく、W/O型エマルション:外水相=1:0.5〜5程度とすることがより好ましい。
【0042】
上記した方法で得られる本発明のW/O/W型エマルション組成物は、例えば、液剤、乳液、クリームなどの剤形にすることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明のW/O/W型エマルジョン組成物は、生理活性物質を薬剤成分として用い、これを生体適合性のある安全性の高い化合物との水溶性複合体として内水相に封入したものである。該組成物は、薬剤成分の内水相への封入率が高く、高い封入率を長期間維持可能であって、安全性の高いW/O/W型エマルジョンとして非常に有用性の高い液剤である。
また、該組成物は、当該化合物の添加量を変えることで薬剤成分の放出時間を制御することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0045】
実施例1-13
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸エピルビシンを用い、複合体形成成分として下記表1に示す各化合物を用いて、0.1w/v%の塩酸エピルビシン、1w/v%の複合体形成成分、4.75w/v%のブドウ糖及び0.014Mのクエン酸を溶解した注射水からなる内水相用の水溶液を調製した。
【0046】
親油性界面活性剤であるポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGCR)を油性成分であるヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル(商標名:リピオドール(ゲルベ社))に溶解させてPGCR濃度10w/v%の油相5.5mLを調製し、これに上記した内水相用の水溶液1mLを投入して、ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)を用いて窒素気流下で50℃の加温下に,25000回転/分で10分間攪拌を行い、乳化物を調製した。
【0047】
一方、1w/v%の親水性界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ひまし油HCO-60)と5w/v%のブドウ糖を溶解した水溶液からなる外水相用の水溶液7.5mL中に、上記した乳化物6.5mLを親水性の多孔質ガラス膜(SPGテクノ製、平均孔径20μm)を介して押し出し、W/O/W型エマルジョン組成物を得た。当該エマルションの平均粒子径を測定した結果、60μmであった。このエマルションは冷蔵保存で6か月間安定であった。
【0048】
水相リーク比の測定
上記した方法で得られた各エマルジョン組成物をよく振り混ぜた後,その一定量をとり,500gで5分間遠心分離を行って水相と油相に分離させ、全体の容量と水相の容量を測定した。その後、水相における薬物濃度を、HPLCより測定して、下式により水相へのリーク率を求めた。
【0049】
水相へのリーク率(%)=水相濃度×水相容量/(全体容量×全体の濃度(1%))×100
比較例として複合体形成成分無添加時の水相へのリーク率を求め、この値に対する複合体形成成分添加時の水相へのリーク率の比(%)を水相リーク比(%)として表に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例14-20
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸ドキソルビシンを用い、複合体形成成分として下記表2に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0052】
水相リーク比の測定
実施例1-13の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例21
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸ブピバカインを用い、複合体形成成分として下記表3に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0055】
水相リーク比の測定
実施例1-13の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。薬物濃度は吸光度より求めた。
【0056】
【表3】

【0057】
実施例22
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸アミトリプチリンを用い、複合体形成成分として下記表4に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0058】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0059】
【表4】

【0060】
実施例23-33
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸イミプラミンを用い、複合体形成成分として下記表5に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0061】
複合体形成成分の添加濃度は10%とした。
【0062】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0063】
【表5】

【0064】
実施例34-38
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸クロミプラミンを用い、複合体形成成分として下記表6に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0065】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0066】
【表6】

【0067】
実施例39-41
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸ジルチアゼムを用い、複合体形成成分として下記表7に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0068】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0069】
【表7】

【0070】
実施例42-52
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸フロプラノロールを用い、複合体形成成分として下記表8に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0071】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0072】
【表8】

【0073】
実施例53-58
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸メキシレチンを用い、複合体形成成分として下記表9に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0074】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0075】
【表9】

【0076】
実施例59-68
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸ヒドララジンを用い、複合体形成成分として下記表10に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0077】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0078】
【表10】

【0079】
実施例69-70
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分として塩酸チクロピジンを用い、複合体形成成分として下記表11に示す各化合物を用いて、実施例1-13の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0080】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0081】
【表11】

【0082】
実施例71-73
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分としてクロモグリク酸ナトリウムを用い、複合体形成成分として下記表12に示す各化合物を用いて、0.1w/v%のクロモグリク酸ナトリウム、10w/v%の複合体形成成分、0.9%塩化ナトリウムを溶解した注射水からなる内水相用の水溶液を調製した。
【0083】
親油性界面活性剤であるポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGCR)を油性成分であるヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル(商標名:リピオドール(ゲルベ社))に溶解させてPGCR濃度10w/v%の油相5.5mLを調製し、これに上記した内水相用の水溶液1mLを投入して、ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)を用いて窒素気流下で50℃の加温下に,25000回転/分で10分間攪拌を行い、乳化物を調製した。
【0084】
一方、1w/v%の親水性界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ひまし油HCO-60)と5w/v%のブドウ糖を溶解した水溶液からなる外水相用の水溶液7.5mL中に、上記した乳化物6.5mLを親水性の多孔質ガラス膜(SPGテクノ製、平均孔径20μm)を介して押し出し、平均粒子径約60μmのW/O/W型エマルジョン組成物を得た。
【0085】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0086】
【表12】

【0087】
実施例74-75
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分としてジクロフェナックナトリウムを用い、複合体形成成分として下記表13に示す各化合物を用いて、実施例71-73の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。複合体形成成分添加濃度は1%w/v%とした。
【0088】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0089】
【表13】

【0090】
実施例76-78
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分としてカプトプリルを用い、複合体形成成分として下記表14に示す各化合物を用いて、実施例71-73の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。複合体形成成分添加濃度は1%w/v%とした。
【0091】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0092】
【表14】

【0093】
実施例79-82
W/O/W型エマルジョン組成物の調製
薬剤成分としてアスコルビン酸を用い、複合体形成成分として下記表15に示す各化合物を用いて、実施例71-73の調製法に従い、W/O/W型エマルジョン組成物を調製した。
【0094】
水相リーク比の測定
実施例21の方法に従い、水相リーク比(%)を求めた。
【0095】
【表15】

【0096】
以上の結果から明らかなように、本発明のW/O/W型エマルジョン組成物は、薬剤成分の封入率が高く、しかも安定性も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内水相、油相及び外水相からなるW/O/W型複合エマルジョン組成物であって、内水相に、イオン性生理活性物質と、該イオン性生理活性物質に対する2価以上の多価カウンターイオンを生じる分子量1000以下の生理的に許容できる化合物が含まれることを特徴とする、W/O/W型複合エマルジョン組成物。
【請求項2】
イオン性生理活性物質が、分子量1000以下のアニオン性又はカチオン性の生理活性物質である請求項1に記載のW/O/W型複合エマルジョン組成物。
【請求項3】
イオン性生理活性物質が、塩酸イダルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ビラルビシン、塩酸ブピバカイン、塩酸リドカイン、トブラマイシン、硫酸アルベカシン、塩酸アミトリプチリン、塩酸イミプラミン、塩酸クロミプラミン、塩酸カルテオロール、塩酸エピナスチン、塩酸ジルチアゼム、塩酸インデノロール、塩酸フロプラノロール、塩酸メトプロロール、塩酸メキシレチン、塩酸ドパミン、塩酸ヒドララジン、塩酸プロカテロール、塩酸アザセトロン、塩酸グラニセトロン、塩酸オキシブチニン、塩酸プロピベリン又は塩酸チクロピジンからなるカチオン性化合物であり、
2価以上の多価カウンターイオンを生じる分子量1000以下の生理的に許容できる化合物が、2価以上の多価アニオンを生じるアニオン性化合物である、
請求項2に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
【請求項4】
2価以上の多価アニオンを生じるアニオン性化合物が、硫酸、リン酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、無水ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、グリチルリチン酸及びホウ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項2に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
【請求項5】
2価以上の多価アニオンを生じるアニオン性化合物が、無水ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム,テトラポリリン酸ナトリウム,ジエチレントリアミン五酢酸、エデト酸カルシウム二ナトリウム及びエデト酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項2に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
【請求項6】
イオン性生理活性物質が、スルベニシリンナトリウム、クロモグリク酸ナトリウム、ブロムフェナックナトリウム、ジクロフェナックナトリウム、カプトプリル、フルバスタチンナトリウム、ベミロラストカリウム又はアスコルビン酸からなるアニオン性化合物であり、
2価以上の多価カウンターイオンを生じる分子量1000以下の生理的に許容できる化合物が、2価以上の多価カチオンを生じるカチオン性化合物である、
請求項2に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
【請求項7】
2価以上の多価カチオンを生じるカチオン性化合物が、2価の金属イオンを生じる金属化合物である請求項6に記載のW/O/W型エマルジョン組成物。
【請求項8】
イオン性生理活性物質がアントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質であり、2価以上の多価カチオンを生じるカチオン性化合物が無水ピロリン酸ナトリウムである請求項1に記載のW/O/W型複合エマルジョン組成物。

【公開番号】特開2008−106020(P2008−106020A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292426(P2006−292426)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度地域新生コンソーシアム研究開発事業、九州経済産業局、「ナノテクノロジーを応用した肝臓がん治療用DDS乳化製剤の開発」に係る委託研究、産業活性再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】