説明

WC基超硬合金の複炭化物相の面積率の測定方法

【課題】WC基超硬合金に存在するVとWとCrを含む複炭化物相の面積率の測定方法を提供する。
【解決手段】WC基超硬合金の複炭化物相の面積率を測定する方法であって、第1の手段はWC基超硬合金の鏡面仕上げ面を作成する手段、第2の手段はEPMAのマッピング機能により複炭化物相のラインプロファイルを採取する手段、第3の手段はTEMにより複炭化物相の形態とその寸法値を測定する手段、第4の手段は該ラインプロファイルと該寸法値より、複炭化物相のラインプロファイルの閾値を設定する手段、第5の手段は、複数の画像を閾値により2値化し、画像処理することにより複炭化物相の面積率を演算によって求める手段であり、該第1から該第5の手段を有する事を特徴とするWC基超硬合金の複炭化物相の面積率の測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、WC基超硬合金の複炭化物相の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
VとWとCrの析出複合炭化物を含有する微粒超硬合金の例が特許文献1に開示されている。また、X線マイクロアナライザーのマッピング機能を用いて特定元素の偏析部を評価する技術が、特許文献2に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−162080号公報
【特許文献2】特開2003−201560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は第1硬質分散相の面積率が67〜94面積%、第2硬質分散相の面積率が0.01〜0.5面積%、残部Co及び/又はNiを含む金属結合相からなる組織を示し、該第1硬質分散相はWCをVとWとCrの析出複合炭化物の薄層で全面被覆及び/又は部分被覆してなる被覆WCからなる強靭性微粒超硬合金を開示している。しかし、析出複合炭化物の面積率の測定方法に関する詳細な記載はない。また、特許文献2はAlとTiからなり、Al偏析部、Ti偏析部に特徴を有するスパッタリングターゲット及びその製造方法を開示したもので、ここに示された金属元素の偏析部を評価する技術だけでは、超硬合金に見られるような析出複合炭化物の解析を行うことはできない。
本発明が解決しようとする課題は、WC基超硬合金に存在するVとWとCrを含む複炭化物相の面積率の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、WCを主体とした炭化物相、Coを主体とした結合相、V、W、Crを含む複炭化物相を有するWC基超硬合金を試料に用いて、該複炭化物相の面積率を測定する方法であって、
第1の手段は、該WC基超硬合金の破面を研磨加工して鏡面仕上げ面を作成する手段、
第2の手段は、波長分散型X線プローブマイクロアナライザーのマッピング機能により該鏡面仕上げ面の該複炭化物相のラインプロファイルを採取する手段、
第3の手段は、透過電子顕微鏡観察により該複炭化物相の形態とその寸法値を測定する手段、
第4の手段は、該第2の手段で採取したラインプロファイルと該第3の手段で測定した寸法値より、該複炭化物相のラインプロファイルのカウント数である閾値を設定する手段、
第5の手段は、該第3の画像手段により得られた複数の画像を該第4の手段で設定した閾値により2値化し、画像処理することにより該複炭化物相の面積率を演算によって求める手段、であり、
該第1から該第5の手段を有する事を特徴とするWC基超硬合金の複炭化物相の面積率の測定方法である。本構成を採用することによって、WC基超硬合金に存在するVとWとCrを含む複炭化物相の面積率の測定方法を提供することが可能となる。
【0006】
本願発明におけるWC基超硬合金の複炭化物相の面積率の測定方法において、該面積率は倍率2000倍の観察により、30μm×30μmを1視野としたとき、全視野数が20視野以上の画像より求めた平均値であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によってWC基超硬合金に存在するVとWとCrを含む複炭化物相の面積率の測定方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願発明のWC基超硬合金のVとWとCrを含む複炭化物相の面積率の測定方法では面積率を正確に測定することが可能である。更にこれに類する複炭化物相等の面積率も測定が出来る。例えば(VCr)C相、TaC相、(TaV)C相その他の炭化物、炭窒化物などの微量含まれる相の面積率の測定、TiC基サーメットの微量炭化物相、炭窒化物相の面積率の測定にも適用できる。
本願発明の面積率の測定方法は、WCを主体とした炭化物相、Coを主体とした結合相、V、W、Crを含む複炭化物相を有するWC基超硬合金を用いて、その研磨面を撮像し、その画像からWC基超硬合金に存在するVとWとCrを含む複炭化物相の面積率を測定する方法であって、下記の第1から第5の手段を有する。
第1の手段は、該WC基超硬合金の破面を研磨加工して鏡面仕上げ面を作成する手段である。研磨加工時の傷をできる限り少なくするように、鏡面仕上げ面とする。
第2の手段は、EPMAのマッピング機能を用いて該鏡面仕上げ面にあるVとWとCrを含む複炭化物相を特定することができ、そのラインプロファイルを採取する手段である。この時の観察倍率は2000〜3000倍が好ましい。
第3の手段は、透過電子顕微鏡(以下、TEMと記す。)観察により該複炭化物相の形態とその寸法値を測定する手段である。この時の観察試料は、EPMAで特定した複炭化物相を、電界放射型走査顕微鏡(以下、FE−SEMと記す。)にて場所を確認後、試料中から集束イオンビーム(以下、FIBと記す。)加工により切り出して作成することが好ましい。
第4の手段は、該第2の手段で採取したラインプロファイルと該第3の手段で測定した寸法値とを照合し、該複炭化物相に相当するラインプロファイルのカウント数である閾値を設定する手段である。更に別の複炭化物相にて第2から第4の手段を繰り返し、閾値にばらつきのないことを確認し、それらの平均値として閾値を設定することが好ましい。EPMAマッピングを無作為に多数視野実施する。観察倍率を2000倍に設定し、30μm×30μmを1視野としてマッピングし、130μm横へ移動後次のマッピングをするという方法により無作為に100μm離れた視野をマッピングする。これを4回繰り返し、合計5視野のマッピングを行い、続いて最初の視野に戻り、そこから下へ130μm移動し、上記と同じ方法にて5視野のマッピングを行う。これらを連続しておこなうことにより無作為に選んだ複数視野のマッピング像を得る。視野数は20視野以上実施することが好ましい。
第5の手段は、該第3の画像手段により得られた複数の画像を該第4の手段で設定した閾値により2値化し、画像処理することにより複炭化物相の面積率を演算によって求める手段、である。面積率は複数の画像から求め、平均値を用いることが好ましい。
【0009】
本願発明の測定方法に使用するWC基超硬合金の試料は、VとWとCrを含む複炭化物相(VxWyCrz)Cを有し、但し該複炭化物相の金属成分は重量%で、20≦X≦70、20≦Y≦70、1≦Z≦30、X+Y+Z=100であることが好ましい。上記の組成範囲であることによって、より正確に解析を行うことができるため、好ましい。更に、上記組成の複炭化物相を得るためには、WCの平均粒径が0.8μm以下、Co含有量が重量%で、4〜11%、Cr含有量が0.3〜1.0%、V含有量が0.2〜0.5%、残部がWC及び不可避不純物からなるWC基超硬合金であってもよい。この時、複炭化物相の面積率は0.5%以下となるが、本願発明は小さい面積率であっても、これを正確に測定することが可能であり、本発明の有効性が発揮される。
以下、本発明を実施例により説明する。実施例では本発明の一部の例を示すものであり、本発明は実施例により制約されるものではない。
【実施例】
【0010】
原料粉末として、平均粒径約0.4μmのWC粉末、同約1〜2μmのCo、VC、VN、Cr、CrN各原料粉末を用いて所定の組成に配合した。粉末は成形バインダーを含んだアルコール中アトライターで12時間混合し、スプレードライヤーで造粒乾燥した。得られた造粒粉末を押出し成形して圧粉体とした。この圧粉体を10Paの真空雰囲気中において1400〜1450℃で焼結し、焼結体を作製した。本願発明で示した方法にてVとWとCrを含む複炭化物相の組成、寸法及び面積率を求めた。それらの測定結果を、配合組成と併せて表1に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
焼結体のWCの平均粒径は、本願発明の第1の手段によって焼結素材の断面を鏡面研磨した後、村上試薬で0.5分、王水で0.5分間エッチングすることにより結晶粒界を明確にした後、走査電子顕微鏡(日立製作所製、S−4200、以下、SEMと記す。)によって倍率10k倍で撮影した画像を拡大コピーし、これを画像解析ソフトにより解析することにより算出した。上記方法により測定したWC平均粒径はいずれも0.3〜0.4μmであった。図1は本発明例1について、第2の手段であるEPMAの元素マッピング機能によるミクロ組織である。EPMAの測定条件は対象元素をVとし、加速電圧:25kV、ビーム径:1μm、スキャン方法:ステップスキャン、ステップサイズ:x:0.2μm、y:0.2μm、サンプリングタイム:10ms、データポイント:150×150、分析エリア:30μm×30μm、マッピング:各点におけるカウント数の積算値を色分け表示した。次に第3の手段によって、同一視野内の複炭化物相の形態をTEM観察により観察し、その寸法値を測定した。更に第4の手段によって閾値を設定した。同一視野内の30μm×30μmのEPMAの元素マッピング機能によるミクロ組織より、WC平均粒径とほぼ同じ大きさの複炭化物相を通るラインを設定した。次に、図1のラインプロファイルにおいて、縦軸の目盛27付近の横軸に平行な細い実線で表示したラインを設定し、ライン上の各点におけるカウント数の積算値を求めた。図1のEPMAのラインプロファィルでは、複炭化物相の存在する箇所に縦軸のカウント数が略66程度と大きな値を示す所と、バックグラウンドの極大点で、縦軸のカウント数が20から28のノイズと同程度のものとがあった。先に第3の手段で求めた寸法値を、図1のラインプロファィルのデータと照合した。ここで、複炭化物相の寸法値が0.6μmの場合には、EPMAのステップサイズの測定条件より、3ステップ分のピーク幅を有する事となる。そこで3ステップ分のピーク幅の縦軸のカウント数を閾値として求めた。その結果を図1内に、縦軸の目盛40付近の横軸に平行な太い実線で表示した。最後に第5の手段によって、第3の画像手段により得られた複数の画像を第4の手段で設定した閾値により2値化し、画像処理することにより複炭化物相の面積率を演算によって求めた。その結果を表1に併記した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明例1のEPMAによる測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCを主体とした炭化物相、Coを主体とした結合相、V、W、Crを含む複炭化物相を有するWC基超硬合金を試料に用いて、該複炭化物相の面積率を測定する方法であって、
第1の手段は、該WC基超硬合金の破面を研磨加工して鏡面仕上げ面を作成する手段、
第2の手段は、波長分散型X線プローブマイクロアナライザーのマッピング機能により該鏡面仕上げ面の該複炭化物相のラインプロファイルを採取する手段、
第3の手段は、透過電子顕微鏡観察により該複炭化物相の形態とその寸法値を測定する手段、
第4の手段は、該第2の手段で採取したラインプロファイルと該第3の手段で測定した寸法値より、該複炭化物相のラインプロファイルのカウント数である閾値を設定する手段、
第5の手段は、該第3の画像手段により得られた複数の画像を該第4の手段で設定した閾値により2値化し、画像処理することにより該複炭化物相の面積率を演算によって求める手段、であり、
該第1から該第5の手段を有する事を特徴とするWC基超硬合金の複炭化物相の面積率の測定方法。
【請求項2】
請求項1記載のWC基超硬合金の複炭化物相の面積率の測定方法において、該面積率は倍率2000倍の観察により、30μm×30μmを1視野としたとき、全視野数が20視野以上の画像より求めた平均値であることを特徴とするWC基超硬合金の複炭化物相の面積率の測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−93224(P2007−93224A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279038(P2005−279038)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】