説明

WLAN測位システムのアクセスポイントの分類方法及びシステム

【課題】
WLANアクセスポイントの特性推定品質に従ってWLANアクセスポイントを分類する方法およびシステムを提供する。
【解決手段】
WLANアクセスポイントの特性推定品質に従ってWLANアクセスポイントを分類する方法およびシステムを提供する。この分類を使用して基準データベースをスケールし、アクセスポイント特性の期待推定誤差を定量化することができる。WLANアクセスポイントは、WLAN測位システムにおけるユーザの位置、移動速度、および移動方向の推定精度に対するWLANアクセスポイントの影響に基づいて分類される。Wi−Fiアクセスポイントの特性推定品質を割り出す方法は、Wi−Fiアクセスポイントによって送信されるWi−Fi信号のいくつかの受信信号強度(RSS)サンプルをWi−Fi対応スキャン装置で受信し、測定することを含む。そのいくつかのRSSサンプルを測定しているときにWi−Fi対応スキャン装置による総移動距離が推定され、その推定値を用いてWi−Fiアクセスポイントの特性推定品質が推定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には測位システム、より具体的には、WLAN測位システムでWLANアクセスポイントを分類する方法およびシステムに関する。本発明はさらに、WLANアクセスポイントの特性推定品質を計算することと、基準データベースを相応にスケールすることとに関する。
【背景技術】
【0002】
位置判定はナビゲーションシステムや位置情報サービス(LBS)の主要な要素である。近年のWLANアクセスポイントの急増により、WLAN電波はいたるところに広がっている。このためほとんどの場所で、特に市街地では、WLAN電波を検出する可能性が高い。WLANの急増とほとんどの場所でWLAN電波が見つかるという事実とを受けて、屋内・屋外用大都市測位システムにこのWLAN電波を活用しようという考えが生まれた。大都市WLAN測位システムでは、WLANアクセスポイントの位置が基準点として使用され、WLANアクセスポイントの受信信号強度(RSS)が、エンドユーザが随時検出するWLANアクセスポイントから当該ユーザまでの距離の指標として使用される。WLANアクセスポイントからエンドユーザまでの距離を知ることによってエンドユーザの位置を割り出すことができる。受信機受信信号強度を距離に変換するには、具体的な無線チャネルモデルを仮定することに依拠することとなる。理想的には、無線チャネルモデルが正確に分かれば、エンドユーザからWLANアクセスポイントまでの正確な距離を割り出すことができる。
【0003】
これまでいくつかの研究所でWLAN方式の屋外・屋内測位システムの研究が行われてきたが、それらのシステムにはいずれも速度と方位の推定が盛り込まれていなかった。PlaceLab(www.placelab.com、MicrosoftとIntelが後援するプロジェクト)と、カリフォルニア大学サンディエゴ校ActiveCampusプロジェクト(ActiveCampus−モバイル技術による教育社会の持続、技術報告書第CS2002−0714号(ActiveCampus-Sustaining Educational Communities through Mobile Technology,technical report#CS2002-0714))と、MIT学内位置情報システムはこの分野で最も重要な研究努力であり、ダートマス大学の小規模プロジェクト(例えば、M.Kim,JJ.Fielding,and D.Kotz,「ウォードライビングによって判明したアクセスポイント位置使用の危険(Risks of using AP locations discovered through war driving)」等)で評価が行われた。
【0004】
屋内測位に的を絞ったWi−Fi位置情報システム商品ならいくつかある。(例えば、スマート環境に向けて:位置測定のための実現技術、2005年5月、パーベイシブ2005における位置・位置関係認識に関する国際会議(LoCA 2005)議事録(Kavitha Muthukrishnan,Maria Lijding,Paul Havinga,Towards Smart Surroundings:Enabling Techniques and Technologies for Localization,Proceedings of the International Workshop on Location and Context-Awareness (LoCA 2005) at Pervasive 2005,May 2005)、ならびにHazas,M.,Scott,J.,Krumm,J.:位置認識コンピューティング時代の到来、IEEEコンピュータ(Location-Aware Computing Comes of Age.IEEE Computer),37(2):95〜97,Feb 2004 005,Pa005,350〜362ページを参照。)これらのシステムは、企業用地、病院施設、船積み作業場等、管理された環境の中で資産と人を追跡するためのものである。病院の中で緊急用カートの正確な位置を監視することができ、心停止が発生した場合に病院職員がカート探しに時間を浪費せずにすむシステムはその典型例である。これらの使用事例には非常に高い精度が求められ、通常は1〜3メートルの精度が要求される。
【0005】
これらのシステムでは、用地における1平方フィート単位の詳しい実地調査を行って無線信号伝播を測定する等、様々な手法を用いて精度を微調整する。また、これらのシステムでアクセスポイントとクライアント無線器がA−GPSの動作と同じように同期情報をやり取りするには、常時ネットワーク接続が必要となる。これらのシステムは屋内での使用事例で信頼性を高めつつあるが、広域展開では効果を発揮しない。都市全体にわたってこの種の詳しい実地調査を行うことは不可能であり、大都市全域で、これらのシステムによって要求される程度まで802.11アクセスポイントとの常時通信チャネルに頼ることはできない。最も重要なこととして、屋外の電波伝播は屋内の電波伝播と根本的に異なることから、これらの屋内測位アルゴリズムは、広域状況ではほとんど役に立たない。屋内WLAN方式測位システムの要求精度で無線チャネルモデルを運用するのは困難であり、これはその方面での研究課題とされている。加えて、WLANに基づくこれまでの測位システムでアクセスポイントを区別するものは皆無であり、現在の方法では全てのWLANアクセスポイントが同じ扱いになる。
【0006】
図1はWi−Fi測位システム(WPS)を示す。この測位システムの測位ソフトウェア[103]は計算装置[101]に存在する。ある特定のカバレッジエリアの中には固定無線アクセスポイント[102]があって、それらは制御/共通チャネルブロードキャスト信号を使って情報をブロードキャストする。クライアント装置は、ブロードキャスト信号を監視するか、プローブリクエストによってその伝送を要求する。それぞれのアクセスポイントは、MACアドレスとして知られる一意なハードウェア識別子を持つ。クライアント測位ソフトウェアはレンジ内の802.11アクセスポイントから信号ビーコンを受信し、信号ビーコンの特性を基に計算装置の地理的位置を計算する。それらの特性は、MACアドレスとして知られる802.11アクセスポイントの一意な識別子と、クライアント装置に達する信号の強度とを含む。クライアントソフトウェアは、観察される802.11アクセスポイントを、アクセスポイントの基準データベース[104]の中にあるアクセスポイントと比較するが、この基準データベースは装置に存在する場合と存在しない場合とがある。基準データベースは、算出された地理的位置を格納するほか、収集システムによって収集された全アクセスポイントの電力プロファイルを格納する。この電力プロファイルは、様々な位置からの信号の電力を表す測定値の集合から作ることができる。クライアントソフトウェアはこれらの既知の位置を基にユーザ装置[101]の相対的位置を計算し、その地理座標を緯度および経度の測定値の形で割り出す。これらの測定値は、フレンドファインダ、ローカル検索ウェブサイト、フリート管理システム、E911サービス等の位置情報アプリケーションへ供給される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、背景技術の問題点を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、WLANアクセスポイントの特性推定品質に従ってWLANアクセスポイントを分類する方法およびシステムを提供する。この分類を用いて基準データベースをスケールし、WLANアクセスポイント特性の期待推定誤差を定量化することができる。本発明の一態様においては、WLAN測位システムにおけるユーザの位置、移動速度、および移動方向の推定精度に対するWLANアクセスポイントの影響に基づいてWLANアクセスポイントが分類される。
【0009】
本発明の別の態様において、測位システムは対象エリア内に複数のWi−Fiアクセスポイントを有する。Wi−Fiアクセスポイントの特性推定品質を割り出す方法は、Wi−Fiアクセスポイントによって送信されるWi−Fi信号のいくつかの受信信号強度(RSS)サンプルをWi−Fi対応スキャン装置で受信しかつ測定することを含む。そのいくつかのRSSサンプルを測定しているときに、Wi−Fi対応スキャン装置による総移動距離が推定される。このWi−Fi対応スキャン装置による総移動距離を用いてWi−Fiアクセスポイントの特性推定品質が推定される。
【0010】
本発明の別の態様において、Wi−Fiアクセスポイントの特性は、Wi−Fiアクセスポイントの地理的位置とWi−Fiアクセスポイントの電波伝播特性との少なくとも1つを含む。
【0011】
本発明の別の態様において、測位システムは対象エリア内に複数のWi−Fiアクセスポイントを有する。Wi−Fiアクセスポイントの特性推定品質を割り出す方法は、Wi−Fiアクセスポイントによって送信されるWi−Fi信号のいくつかの受信信号強度(RSS)サンプルを受信しかつ測定するWi−Fi対応スキャン装置で受信し、測定することを含む。それぞれのRSSサンプルには、対応するWi−Fi対応スキャン装置の移動速度が関連付けられる。それぞれのRSSサンプルには対応するスキャン期間が関連付けられる。Wi−Fi対応スキャン装置の各移動速度の和に、各RSSサンプルの対応するスキャン期間により重みを付けたものを用いて、信頼度が割り出される。この信頼度を用いて推定品質が割り出される。
【0012】
本発明の別の態様において、測位システムは対象エリア内に複数のWi−Fiアクセスポイントを有する。Wi−Fiアクセスポイントの特性推定品質を割り出す方法は、Wi−Fiアクセスポイントによって送信されるWi−Fi信号のいくつかの受信信号強度(RSS)サンプルをWi−Fi対応スキャン装置で受信し、測定することを含む。各RSSサンプルには、対応するWi−Fi対応スキャン装置の移動速度が関連付けられる。各RSSサンプルには、対応するスキャン期間が関連付けられる。Wi−Fi対応スキャン装置のいくつかのRSSサンプルと移動速度とに、各RSSサンプルに対応するスキャン期間により重みを付けたものを用いて、信頼度が割り出される。この信頼度を用いて推定品質が割り出される。
【0013】
本発明の別の態様において、Wi−Fi対応装置の位置を推定する方法は、Wi−Fi対応装置のレンジ内にあるWi−Fiアクセスポイントを識別することを含む。識別されたWi−Fiアクセスポイントに対応する算出位置と推定品質値とが基準データベースから取得される。この算出位置と推定品質値とを用いてWi−Fi対応装置の位置が推定される。
【0014】
本発明の別の態様において、Wi−Fi対応装置の位置推定に用いる対応するWi−Fiアクセスポイントの算出位置に割り当てられる重みは、Wi−Fiアクセスポイントに対応する少なくとも1つの推定品質値によって決まる。
【0015】
本発明の別の態様において、Wi−Fiアクセスポイントに対応する推定品質値が閾値を下回るなら、Wi−Fi対応装置の位置推定にあたってWi−Fiアクセスポイントに対応する算出位置は使われない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態は、WLAN方式測位システムで各WLANアクセスポイント(AP)の品質指標を定める方法およびシステムを提供する。WLANアクセスポイントの品質指標は、そのWLANアクセスポイントに基づくユーザの位置、移動速度、および移動方向の期待推定誤差の指標として使用できる。ある特定のWLANアクセスポイントに基づく期待推定誤差を定量化することにより、信頼性の高いWLANアクセスポイントに対する重み付けを増やして推定全体の精度を上げられるほか、レンジ内のWLANアクセスポイント集団の品質を検討して、位置、移動速度、および移動方向の最終推定の期待誤差を定量化することができる。
【0017】
本発明の実施形態は、いずれも2005年10月28日に提出された、表題「位置ビーコンデータベース(Location Beacon Database)」の米国特許出願第11/261,848号と、表題「位置ビーコンデータベースを更新するサーバ(Server for Updating Location Beacon Database)」の米国特許出願第11/261,898号と、表題「位置ビーコンデータベースを構築する方法およびシステム(Method and Systems for Building a Location Beacon Database)」の米国特許出願第11/261,987号と、表題「ユーザ装置のレンジ内で検出されるアクセスポイント数に基づいて位置測定アルゴリズムを選択する位置情報サービス(Location-Based Services that Choose Location Algorithms Based on Number of Detected Access Points Within Range of User Device)」の米国特許出願第11/261,988号とを含むがこれらに限定されない、先に提出された出願で開示された手法、システム、および方法を基礎とし、これらの内容はここで参照により全文を援用する。これらの出願では、Wi−Fiアクセスポイントの上質な位置データを収集し、かかるデータを用いて位置情報サービスを利用するWi−Fi対応装置の地理的位置を割り出す具体的方法と、前記位置データを使ってシステムユーザの位置を推定する手法が教示されている。ただしここでの手法は、援用する特許出願で開示されたシステムおよび方法に限定されない。したがって、かかるシステムおよび出願を参照することが役に立つこともあるが、本実施形態または発明を理解するにあたって不可欠とは考えられない。
【0018】
WLAN測位システムでは、公共・私有WLANアクセスポイントの位置を基準にしてユーザの位置が計算されるため、アクセスポイント(AP)の関連パラメータ、例えばアクセスポイントの地理的位置におけるいかなる不正確さも、ユーザの位置推定精度に直接影響する。本発明の態様は、WLANアクセスポイントの品質を分類または定量化する体系的な方法を含む。また、本発明の態様を使用して、WLANアクセスポイントの基準データベースをスケールすることもできる。実施形態は、ある特定のWLANアクセスポイントを使った計算結果の期待誤差を定量化するのに使用できる。そして、WLANアクセスポイントをそれぞれの精度レベルに基づいて分類できる。例えばWLAN特性の精度レベル情報を推定式に使用すれば、品質が比較的高いアクセスポイントだけを使用することにより、あるいはアクセスポイントをそれぞれの品質に基づいて重み付けすることにより、推定精度を上げることができる。
【0019】
WLANアクセスポイントの特性、例えばその地理的位置や電波伝播特性は、Wi−Fi対応スキャン装置を使って該当位置で発生する受信信号強度(RSS)サンプルを収集することによって推定できる。例えば上で援用した出願で開示された手法を用いることができる。
【0020】
ある特定のWLANアクセスポイントのRSSサンプルを収集するときにスキャン装置によって収集される総サンプル数を使用して、そのアクセスポイントの期待推定誤差を計算できる。サンプルには、RSSサンプルを収集するときのスキャン装置の速度に従って重みを付ける。RSSサンプル収集時のスキャン装置の速度に従って重みを付けたRSSサンプルの数は、アクセスポイントのカバレッジエリアに対するサンプル数の比として代用できる。
【0021】
図2は、RSSサンプル[202]が比較的少ないため特徴付けの品質が比較的低いWLANアクセスポイント[201]の一例を示す。対照的に、図3はRSSサンプル[302]が比較的多いため特徴付けの品質が比較的高いWLANアクセスポイント[301]の一例を示しており、この場合、WLANアクセスポイント特性の推定精度は比較的高くなる。
【0022】
図4は、RSSサンプルを収集する間にスキャン装置の総移動距離に対してスキャン装置の速度が与える影響を示すものであり、2つのWLANアクセスポイント[401]および[403]と同数のRSSサンプル[402]および[404]とが提示されている。WLANアクセスポイント[403]のRSSサンプル[404]を収集するときのスキャン装置は、WLANアクセスポイント[401]のRSSサンプル[402]を収集するときより速く移動していた。RSSサンプル[402]とRSSサンプル[404]の収集にかかった時間は同じだが、RSSサンプル[404]の総距離はRSSサンプル[402]を上回っている。したがってWLANアクセスポイント[401]に比べて、RSSサンプル[404]はWLANアクセスポイント[403]の特性、例えば電力プロファイルの指標として優れている。
【0023】
本発明の別の実施形態においては、WLANアクセスポイントの特性推定品質を定量化する。WLANアクセスポイントの地理的位置と電波伝播特性は、これのカバレッジエリアにあるRSSサンプルに基づいて推定される。WLANアクセスポイントの特性推定に用いるRSSサンプルの数は推定精度に直接影響する。WLANアクセスポイントのRSSサンプルが比較的少ないと、WLANアクセスポイントの地理的位置推定と電波伝播特性推定の誤差は比較的大きくなる。このため、RSSサンプルが比較的少ないWLANアクセスポイントの信頼性は、WLAN方式測位システムで用いられる場合、比較的低いとみなすことができる。他方、RSSサンプルが比較的多いWLANアクセスポイントは、信頼性が比較的高いWLANアクセスポイントとみなすことができる。例示的実施形態においては、RSSサンプル数を用いて、WLANアクセスポイントに基づく位置推定の期待精度を定量化できる。位置推定の期待精度はWLANアクセスポイントによって異なることから、WLANアクセスポイントに基づく推定も期待誤差に従って重み付けできる。
【0024】
スキャン装置の速度はスキャンの過程で一定ではない。スキャン装置はしばらく停止することもあれば、幹線道路沿いに高速で移動することもある。その結果、図4との関係で上述したように同数のRSSサンプルであっても、網羅する地理領域は異なることがある。一定数のRSSサンプルが網羅する地理領域は、スキャン期間にスキャン装置速度を掛けたものになる。したがって、スキャン期間が一定であると仮定した場合は、スキャン時のスキャン装置速度に従って絶対サンプル数の値に重みを付ける。RSSサンプルを採取するときのスキャン装置の速度は、例えばGPSから収集でき、あるいは時間の経過に沿ったGPS位置から導き出すことができる。GPS速度推定は、GPS受信信号測定のドップラー周波数に基づくため非常に正確だが、時間の経過に沿ったGPS位置に基づく速度計算は大まかな速度推定である。
【0025】
スキャン時のスキャン装置速度の推定が分かっていて、スキャンされる総RSSサンプルの総数をNで表すなら、CFnで表す信頼度は次のとおり計算される。
【数4】

【0026】
式中Viはスキャン装置の速度であり、TiはRSSサンプルiを採取するときのスキャン期間であり、0<i<Nである。スキャン期間はほぼ常に一定の値である。一定である場合のスキャン期間の値はT0で表される。関数f(Vi Ti)は非線形関数であり、通常は次のとおりである。スキャン装置が動いているときに採取されるRSSサンプルの場合は、ViTiをサンプルの重みとみなす。スキャン装置が静止しているときに採取されるRSSサンプルの場合は、位置が同じで電力測定値が同じである全測定値を一度検討する。例えば、スキャン装置が一定の期間Tpにわたって動いていないときにRSS電力サンプルを収集し、期間Tpの全体にわたってアクセスポイントからの電力測定値が同じだったなら、期間TpにわたるこのアクセスポイントからのただひとつのRSSサンプルを検討する。最後に、スキャン装置が静止しているときに採取されたRSSサンプルを補正係数Kで検討する。補正係数Kは、スキャン装置のゼロ速度a0からの平均加速度に基づいて計算できる。したがってK=a0T20である。
【0027】
位置が同じで電力測定値が同じであるRSSサンプル(スキャン装置が静止しているときに採取したサンプル)を排除した後にはN個のサンプルが残る。総サンプル数Nのうち、スキャン装置が静止しているときにN1個のRSSサンプルが採取され、スキャン装置が動いているときにN2個のRSSサンプルが採取されるなら、信頼度を次のとおりに書くことができる。
【数5】

【0028】
以下は、スキャン期間を1秒に設定した場合のこの形式を有する信頼度計算の一例である。
【数6】

【0029】
上のとおりに計算したCFnの値は、WLANアクセスポイント特性推定の信頼性の指標となる。CFn値は次のとおりに解釈する。上述したとおり、比較的少数のRSSサンプルは推定の信頼性が殆どないことを意味する。つまり、信頼できる推定のためには、1つか2つのサンプルでは十分でない。RSSサンプル数の増加は精度に指数関数的効果をもたらす。換言すると、少数のサンプルにおける1つのRSSサンプルの違いは多数のサンプルにおける1つのRSSサンプルより精度に大きく影響する。他方、比較的多数のRSSサンプルに基づく推定の品質は高い。RSSサンプル数をさらに増やしても、WLANアクセスポイントの特性、例えば地理的位置や電波伝播特性の推定精度に顕著な影響は現れない。したがって、WLANアクセスポイントの信頼度計算の一部として2つの閾値がある。CFminは、信頼性が比較的高いWLANアクセスポイント特性推定を割り出すにあたって必要となる平均最小サンプル数である。RSSサンプル数がこの閾値を下回る場合の推定は信頼できないとみなされる。CFmaxは、それ以上RSSサンプルを追加しても推定精度に大きく影響しない閾値である。
【0030】
WLANアクセスポイント特性の信頼性尺度Rと信頼度CFnとの関係は対数であることから、信頼性は次のとおりに計算する。
【数7】

【0031】
最高信頼度は1に設定でき、最低信頼度は非常に小さい数字に設定できる。以下はその例である。
Rmin=0.001
Rmax=1
【0032】
CFminとCFmaxの値は実験的に割り出すことができる。一般的な大都市WLAN方式測位システムで有用な値は次のとおりである。
CFmin=36
CFmax=68
【0033】
本発明の実施形態によると、基準データベース[104]はWLANアクセスポイントの分類か、アクセスポイントパラメータ期待誤差の定量化か、関連WLANアクセスポイントデータの品質に従ってスケールできる。例えば、分類や品質尺度が所望の閾値を下回るWLANアクセスポイントは基準データベース[104]から排除できる。こうすれば、ユーザの位置、移動速度、または移動方向を割り出すにあたって、ユーザ装置[101]では、パラメータ推定品質が比較的高いアクセスポイントだけが確実に使用される。別の実施形態では、全てのWLANアクセスポイントを基準データベース[104]に含むことができるが、測位ソフトウェア[103]は、分類や品質尺度が所望の閾値を下回るアクセスポイントを用いなくてもよい。
【0034】
本発明の一実施形態によると、基準データベース[104]をスケールする別の例、は測位システムのWLANアクセスポイントごとに信頼度因子を求めることを含み、それを基準データベース[104]に記録する。WLAN方式測位システムでは、ユーザが基準データベース[104]にアクセスし、レンジ内のWLANアクセスポイントを使用して、自身の位置と、移動速度と、移動方向とを推定する。ユーザのレンジ内にあるWLANアクセスポイントの推定結果に重みを付けるには、基準データベース[104]の中にあるWLANアクセスポイントの信頼度因子を使用する。信頼度因子の使用は、ユーザの属性、例えば位置、移動速度、および移動方向を推定するのに用いられる測位アルゴリズムとは無関係である。最も一般的な形の推定を、レンジ内のWLANアクセスポイントAPNにわたる関数fに対する演算O(f(AP1),...,f(APN))として記述できるなら、その推定に信頼度因子Oを次のように適用する。
O(R1f(AP1),...,RNf(APN))
【0035】
式中Nは、ユーザのレンジ内にある総アクセスポイント数である。
【0036】
信頼度因子または品質指標が異なるWLANアクセスポイントを様々な方法で組み合わせることができる。例えば全てのWLANアクセスポイントを使ってユーザの位置を推定し、それぞれのWLANアクセスポイントには信頼度因子に従って重みを付ける。一例として、各WLANアクセスポイントの推定結果に信頼度を掛け、全ての結果をまとめて最終的な推定結果を得る。別例では、質が比較的高いWLANアクセスポイントだけを使用する。この場合は、WLANアクセスポイントをそれぞれの信頼度に基づいて分類する。この方法では、レンジ内の全てのWLANアクセスポイントを検出した後に、信頼度が最高クラスのWLANアクセスポイントを用いて推定プロセスを開始する。最高クラスのWLANアクセスポイント数に基づき、下位クラスのWLANアクセスポイントを含めるか、それとも除外するかの決定を下す。これらの2つの例示的方法のどちらを使うかは使用事例次第であり、下位クラスのWLANアクセスポイントを含めるか除外するかの決定も使用事例次第である。
【0037】
CFn計算に加えることができるもう1つの次元は、RSSサンプル位置の精度である。RSSサンプルの位置は、例えばスキャン装置に取り付けられたGPSによって割り出すことができる。GPSは期待位置誤差(PE)指標を報告する。このGPS位置推定の期待位置誤差もRSSサンプルの重みを付けることもできる。期待PE値が小さいRSSサンプルには高い重みが与えられる。
【0038】
本発明の範囲は上述した実施形態に限定されず、むしろ添付の請求項によって定められ、これまで説明した内容に対する改変と改良がこれらの請求項に含まれることは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】Wi−Fi測位システムの特定の実施形態を示す。
【図2】RSSサンプルが比較的少ないアクセスポイントの一例を示す。
【図3】RSSサンプルが比較的多いアクセスポイントの一例を示す。
【図4】WLANアクセスポイント特性の推定品質に対するWi−Fi対応スキャン装置の総移動距離の影響の一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象エリア内に複数のWi−Fiアクセスポイントを有する測位システムにおいて、前記Wi−Fiアクセスポイントの各々は推定特性を有し、
前記複数の前記Wi−Fiアクセスポイントの少なくとも1つを、前記Wi−Fiアクセスポイントの前記特性の推定品質に従って分類することを備える、方法。
【請求項2】
前記Wi−Fiアクセスポイントの前記分類を基準データベースに蓄積することをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Wi−Fiアクセスポイントの前記推定特性の少なくとも1つの期待誤差を定量化するため前記分類を使用することをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Wi−Fiアクセスポイントの前記推定特性の少なくとも1つと前記Wi−Fiアクセスポイントの前記分類とを用いてWi−Fi対応装置の状態を推定することをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記Wi−Fi対応装置の前記状態は、位置と、移動速度と、移動方向との少なくとも1つである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
対象エリア内に複数のWi−Fiアクセスポイントを有する測位システムにおいて、Wi−Fiアクセスポイントの特性推定品質を割り出す方法であって、
Wi−Fi対応スキャン装置が、前記Wi−Fiアクセスポイントによって送信されるWi−Fi信号のいくつかの受信信号強度(RSS)サンプルを受信しかつ測定することと、
前記いくつかのRSSサンプルの測定中に前記Wi−Fi対応スキャン装置が移動した総距離を推定することと、
前記Wi−Fiアクセスポイントの前記特性推定品質を計算するために前記推定総移動距離を使用することと、
を備える、方法。
【請求項7】
前記特性は、前記Wi−Fiアクセスポイントの地理的位置と前記Wi−Fiアクセスポイントの電波伝播特性との少なくとも1つである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記Wi−Fi対応スキャン装置の対応する移動速度を各RSSサンプルと関連付けることと、
対応するスキャン期間を各RSSサンプルと関連付けることと、
前記Wi−Fi対応スキャン装置の前記移動速度の和に、各RSSサンプルの対応するスキャン期間によって重みを付けたものを用いて、信頼度CFnを割り出すことと、
【数1】

に従って前記推定品質Rを割り出すことと、
をさらに備え、式中
Rmaxは最高推定品質であり、
Rminは最低推定品質であり、
CFmaxは最高信頼度であり、
CFminは最低信頼度である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
CFmaxは約68であり、
CFminは約36である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記Wi−Fi対応スキャン装置の対応する移動速度を各RSSサンプルと関連付けることと、
対応するスキャン期間を各RSSサンプルと関連付けることと、
【数2】

(式中
Kは補正係数であり、
N1は前記Wi−Fi対応スキャン装置が静止しているときに採取される前記RSSサンプルの部分集合であり、
N2は前記Wi−Fi対応スキャン装置が動いているときに採取される前記RSSサンプルの部分集合であり、
ViはRSSサンプルiに対応する前記Wi−Fi対応スキャン装置の前記移動速度の1つであり、
TiはRSSサンプルiに対応する前記スキャン期間のいずれか1つである)
に従って信頼度CFnを割り出すことと、
【数3】

(式中
Rmaxは最高推定品質であり、
Rminは最低推定品質であり、
CFmaxは最高信頼度であり、
CFminは最低信頼度である)
に従って前記推定品質Rを割り出すことと、
をさらに備える、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
CFmaxは約68であり、
CFminは約36であり、
Kは約2であり、
Tiは約1秒である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
Wi−Fi対応装置の位置を推定する方法であって、
前記Wi−Fi対応装置のレンジ内でWi−Fiアクセスポイントを識別することと、
前記識別されたWi−Fiアクセスポイントに対応する算出位置と推定品質値とを基準データベースから取得することと、
前記算出位置と推定品質値とを用いて前記Wi−Fi対応装置の前記位置を推定することと、
を備える、方法。
【請求項13】
前記Wi−Fiアクセスポイントの少なくとも1つに対応する前記推定品質値の少なくとも1つは、前記Wi−Fi対応装置の前記位置の推定に用いる前記対応するWi−Fiアクセスポイントの前記算出位置に割り当てられる重みを決定する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記Wi−Fiアクセスポイントの少なくとも1つに対応する前記算出位置の少なくとも1つは、前記Wi−Fiアクセスポイントに対応する前記品質推定値が閾値を下回る場合に前記Wi−Fi対応装置の位置推定で使われない、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−536809(P2009−536809A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510098(P2009−510098)
【出願日】平成19年5月4日(2007.5.4)
【国際出願番号】PCT/US2007/068251
【国際公開番号】WO2007/133968
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(507135744)スカイフック ワイヤレス,インク. (12)
【Fターム(参考)】