説明

X線トポグラフィー測定装置、および、X線トポグラフィー測定方法

【課題】1μm以下の高空間分解能を有するX線セクショントポグラフィーを達成して、鮮明で均一な多次元のトポグラフ像を生成すること。
【解決手段】所定の集光ビーム形状を有する集光X線ビームを測定用結晶媒体に入射させた状態で、測定用結晶媒体をその集光X線ビームを含む所定の領域内において複数の方向に移動させ、この移動と共に集光X線ビームがその測定用結晶媒体の所定の領域内において回折して得られた回折X線ビームの強度を測定し、測定した強度に基づいて測定用結晶媒体の所定の領域内での移動方向に即した結晶切断面形状に対応するトポグラフ像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線トポグラフィー装置、および、X線トポグラフィー測定方法に関し、より詳細には、セクショントポグラフィーを測定するための装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来例1)
最近の半導体素子はますます微細化の傾向にあり、それに伴って微細加工により発生する局所歪が素子の性能を大きく左右するようになってきた。
【0003】
X線トポグラフィーは、このような歪を評価するために、広く用いられている測定方法である。X線による方法は、X線の透過力が大きいため、数百ミクロンの深部の歪評価が可能であること、および感度が高く10−7といった微小歪までも検出できること等から、ラマン分光等の他の手法より優れている。X線トポグラフィーの中でも、セクショントポグラフィーは試料断面の歪分布を測定できる手法として広く用いられている。その1例として、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
図24は、従来のセクショントポグラフィー装置の構成例を示す。入射X線ビーム64は、スリット63に入射することにより、シート状X線ビーム65に整形されて出射する。この整形されたシート状X線ビーム65は、測定試料61に入射することにより、透過又は回折される。これにより、シート状X線ビーム65のビーム形状の各部から発せられる回折X線66の像がイメージ記録デバイス62に記録され、試料断面の回折X線像が記録される。イメージ記録デバイス62は、トポグラフ像を記録するための写真フィルム、原子核乾板、イメージングプレート、あるいは2次元CCD素子等からなる。
【0005】
この場合、測定試料61の結晶格子面の一つに対して入射X線がブラッグ条件を満たすように、その測定試料61の角度(X線入射角度)を調節する。歪により格子面間隔、あるいは格子面の傾きが変化すると、ブラッグ条件を満たす測定試料61の回転角が変化する。したがって、測定試料61の微小回転により、各ポイントにおいて試料回転角と回折X線強度を求めることによって、断面内での歪の分布を求めることができる。
【0006】
図25は、測定試料61へのシート状X線ビーム65の厚みの影響を説明する図である。シート状X線ビーム65のビームの厚みは、10μm程度が一般的である。このようにシート状X線ビーム65に厚みがあると、図中の点Aから点Bの範囲で回折されたX線が、イメージ記録デバイス62の記録面の1点Cに記録されることになり、鮮明な断面像が得られなくなる。そこで、セクショントポグラフィーでは、入射X線ビーム64を、シート状X線ビーム65のような薄いシート形状断面に整形する必要がある。
【0007】
(従来例2)
次に、従来の画像処理方法について説明する。医療分野でのCT画像計測、衛星写真画像のなどさまざまな画像計測において、不完全なフォーカシング(ピンボケ)や検出素子の分解能の限界に起因する画像劣化(ぼけ)が発生する。元画像と測定画像の1次元データをそれぞれ
x = [x(1), x(2), ・・・・,x(n)]T … (1)
y = [y(1), y(2), ・・・・,y(n)]T … (2)
で表すと、図14で示すぼけ関数で画像が劣化する場合、元画像と測定画像との関係は、
y(i) = 0.06 x(i-2) + 0.5 x(i-1) + x(i) + 0.5 x(i+1) + 0.06 x(i+2) … (3)
となる。したがって、式(3)を行列で表現すると、
【0008】
【数1】

【0009】
となる。すなわち、
Ax = y … (5)
であり、Aをぼけ行列と呼ぶ。画像データが2次元の場合、元画像データと測定画像データをそれぞれ
【0010】
【数2】

【0011】
で表すと、
AX = Y … (7)
となる。式(7)は、画像行列(6)の列ベクトルデータの劣化過程を示している。
【0012】
一般に、列ベクトル行ベクトル双方の劣化過程を表すためには、行列データを1つのベクトルデータに並べ替えて式(5)により劣化過程を表す必要がある。しかしながら、この場合、例えば100×100画素の画像データに対して、ぼけ行列は要素数10000×10000という膨大なものになるといった問題がある。しかし2次元ぼけ関数がガウス関数
【0013】
【数3】

【0014】
のように変数分離可能な場合は、列ベクトルと行ベクトルの劣化過程を独立に表現することが可能で、画像劣化は、
AXB=Y … (9)
と表現できる(非特許文献2参照)。ここで、Bは、行ベクトルデータのぼけ行列である。よって、AとBの逆行列A−1とB−1行列により、
X=A-1YB-1 … (10)
のごとく劣化画像を修復して元画像を得ることが可能である。また、劣化画像の修復に関する問題を解決するために、古くから多くの手法が研究されている。その一つの手法として、チコノフの正則化と呼ばれる方法がある(非特許文献1参照)。この方法では、ある程度の「食い違い」を認めて「不自然さ」との妥協を図る。すなわち、‖Ax−y‖を「食い違い」の尺度、‖x‖を「不自然さ」の尺度とし、‖Ax−y‖+α‖x‖が最小になるようにxを決定する。ここで、例えばxに対して ‖x‖ = x(1) + x(2) + ・・・・+x(n) である。αを大きく設定するほど「不自然さ」を重視することになる。具体的には、x=A−1yの代わりに、
x = (ATA +αI)-1ATy … (11)
を計算することにより画像修復を実行する。
【0015】
以上に述べた画像修復法は、医療分野でのCTスキャン画像の処理、衛星画像の修復など、広い分野で利用されている。
【0016】
【特許文献1】特開平8−124983号公報
【非特許文献1】平岡和幸、堀玄、プログラミングのための線形代数、(2004)オーム社
【非特許文献2】B.B.Kima,S.W.Zucker:Analytic inverse of discrete Gaussian blur,OPTICA ENGINEERING, Vol.32,No.1,pp.166−176(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1に関連する上記従来例1の課題について説明する。従来のX線セクショントポグラフィーの課題の1つには、シート状入射ビームの形成に関するものがある。図24で示したように、X線セクショントポグラフィーで鮮明な画像を得るためには、入射X線ビーム64を薄いシート状のシート状X線ビーム65に整形する必要がある。しかし、一般的に、入射X線ビームの厚みは10μm程度が限界である。その理由の一つは、機械加工により10μm以下のスリットを製作するのが困難なためである。
【0018】
X線は物質に対する透過率が高く、例えばセクショントポグラフィーでよく用いられるE=17.5keV付近のX線エネルギー領域において、厚み100μmの銅板のX線透過率は約1%である。このエネルギー領域の銅製スリットの板厚は、100μm以上でなければならない。従って、10μm以下のスリットでは、アスペクト比(厚みと開口幅の比)が10以上となり、均等な隙間を有するスリットを製作するのが困難になる。
【0019】
このように従来のX線セクショントポグラフィーでは、入射X線ビーム64の厚みを10μm以下にすることができないため、図25に示したとおり、得られる空間分解能がこのビームサイズの影響を受けて、1μm以下の空間分解能を達成することができない。
【0020】
次に、非特許文献1,2に関連する上記従来例2の課題について説明する。非特許文献2に関連した問題点として、逆行列A−1,B−1の計算である。一般に、ぼけ行列は、その行列式(例えばdet[A])の値が非常に小さい。det[A]=0は不定の条件であり逆行列が存在しないことからわかるように、det[A]が0に近いと安定した逆行列計算が困難である。
【0021】
このような場合には、データに含まれる僅かなノイズが原因で修復画像が大きく乱れ、元画像と似ても似つかないものとなることがある。det[A]の値が小さくなる理由は式(4)からわかるように、隣り合う行、あるいは列が似かよった数値列で構成されているためである(同一列、または同一行が含まれるとdet[A]=0)。このことはぼけ関数に多くの画素が含まれるほど、すなわち、ぼけの大きな画像を修復する場合ほど顕著である。
【0022】
このように、ぼけ行列の逆行列計算が困難なことが劣化画像修復の大きな課題である。
【0023】
そこで、本発明の目的は、1μm以下の高空間分解能を有するX線セクショントポグラフィーを達成して、鮮明で均一な多次元のトポグラフ像を生成することが可能な、X線トポグラフィー測定装置、および、X線トポグラフィー測定方法を提供することにある。
【0024】
また、本発明の他の目的は、劣化画像に対する画像修復処理を精度良く行うことにより、高解像度なトポグラフ像を生成することが可能な、X線トポグラフィー測定装置、および、X線トポグラフィー測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、X線トポグラフィー測定装置であって、X線ビームを発生するビーム発生手段と、前記発生したX線ビームを所定の集光ビーム形状に集光し、該所定の集光ビーム形状に集光された集光X線ビームを測定用結晶媒体に入射させるビーム集光手段と、前記測定用結晶媒体を、前記集光X線ビームを含む所定の領域内において複数の方向に移動させる媒体移動制御手段と、前記集光X線ビームが前記測定用結晶媒体の前記所定の領域内において回折して得られた所定の焦点形状をもつ回折X線ビームの強度を測定し、該測定した強度に基づいて前記測定用結晶媒体の前記所定の領域内での移動方向に即した結晶切断面形状に対応する多次元のトポグラフ像を生成する像作成手段とを具えたことを特徴とする。
【0026】
前記ビーム集光手段は、前記発生したX線ビームを、直線状の焦点領域を有する所定の集光X線ビームに集光する直線領域集光手段としてもよい。
【0027】
前記直線領域集光手段は、1次元フレネルゾーンプレートとしてもよい。
【0028】
前記ビーム集光手段は、前記発生したX線ビームを、点状の焦点領域を有する所定の集光X線ビームに集光する点領域集光手段としてもよい。
【0029】
前記点領域集光手段は、2次元フレネルゾーンプレートとしてもよい。
【0030】
前記点領域集光手段は、楕円ミラーとしてもよい。
【0031】
前記媒体移動制御手段は、前記測定用結晶媒体を、前記集光X線ビームを含む平面内の第1の方向と、該集光X線ビームに直交する第2の方向とに移動させてもよい。
【0032】
前記像作成手段は、前記回折X線ビームの1点の強度を測定する回折強度測定手段を含んでもよい。
【0033】
前記像作成手段は、くさび状隙間を有するスリットを含んでもよい。
【0034】
前記像作成手段は、前記回折X線ビームの強度を測定して生成された前記トポグラフ像に対して、所定のぼけ画像修復処理を行う画像処理手段をさらに具えてもよい。
【0035】
前記画像処理手段は、前記回折X線像のX線強度信号から、所定の測定画像行列を生成する手段と、前記測定画像行列と、前記くさび状隙間を有するスリットの透過率曲線で決定されるぼけ行列とに基づいて、測定画像のぼけ修復処理を実行して修復画像行列を生成する手段とを含んでもよい。
【0036】
本発明は、X線トポグラフィー測定方法であって、発生したX線ビームをビーム集光手段により所定の集光ビーム形状に集光し、該所定の集光ビーム形状に集光された集光X線ビームを測定用結晶媒体に入射させる工程と、前記測定用結晶媒体を、前記集光X線ビームを含む所定の領域内において複数の方向に移動させる工程と、前記集光X線ビームが前記測定用結晶媒体の前記所定の領域内において回折して得られた所定の焦点形状をもつ回折X線ビームの強度を測定する工程と、前記測定した強度に基づいて前記測定用結晶媒体の前記所定の領域内での移動方向に即した結晶切断面形状に対応する多次元のトポグラフ像を生成する工程とを具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、所定の集光ビーム形状を有する集光X線ビームを測定用結晶媒体に入射させた状態で、測定用結晶媒体をその集光X線ビームを含む所定の領域内において複数の方向に移動させ、この移動と共に集光X線ビームがその測定用結晶媒体の所定の領域内において回折して得られた回折X線ビームの強度を測定し、測定した強度に基づいて測定用結晶媒体の所定の領域内での移動方向に即した結晶切断面形状に対応するトポグラフ像を生成するようにしたので、1μm以下の空間分解能を有するX線セクショントポグラフィーを得ることが可能となり、これにより、従来のX線セクショントポグラフィーにおける入射ビームの厚みに起因する像のボケの問題を解消して、鮮明で均一な多次元のトポグラフ像を生成することができる。
【0038】
また、本発明によれば、くさび状隙間を有するスリットは鋭い透過率曲線を有するので、該スリットを経由して生成されるトポグラフ画像の解像度を向上させることができる。
【0039】
さらに、本発明によれば、回折X線像のX線強度信号から、所定の測定画像行列を生成して、測定画像行列と、くさび状隙間を有するスリットの透過率曲線で決定されるぼけ行列とに基づいて、測定画像のぼけ修復処理を実行して修復画像行列を生成するようにしたので、該スリットのぼけ行列に対して、その逆行列を解析的に容易に求めることができ、これにより、ノイズののったもともと不正確な測定画像に対して画像修復を厳密に効果的に行って、一段と高解像度なトポグラフ像を生成することができる。
【0040】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0041】
[第1の例]
本発明の第1の実施形態を、図1〜図7に基づいて説明する。
【0042】
図1は、本発明に係るX線トポグラフィー測定装置100の構成例を示す。
【0043】
本装置100は、入射用のX線ビーム1を発生するX線発生源20と、X線ビーム1を直線領域P(e−fを結ぶX方向の領域)に集光した集光X線ビーム6を作成するX線集光手段3と、そのX線ビーム1の集光された直線領域P(すなわち、焦線4)の近傍において集光X線ビーム6を透過させる測定媒体5と、測定媒体5を、集光X線ビーム6を含む平面(Y−Z平面)内の第1の方向と集光X線ビーム6に直交する第2の方向(X方向)とに移動させる移動手段と、測定媒体5内におけるラウエ回折により散乱される回折X線像13の1点の強度を測定し、測定媒体5の結晶断面のトポグラフ像を作成する像作成手段8,9,10とによって構成される。
【0044】
以下の例では、像作成手段8は横スリット8であり、像作成手段9は縦スリット9であり、像作成手段10はシンチレーションカウンタ10である。
【0045】
図3は、X線トポグラフィー測定装置100を用いたX線トポグラフィーの測定方法を示す。
【0046】
ステップS1では、発生したX線ビーム1をビーム集光手段3により所定の集光ビーム形状(直線領域P(又は、後述する第2の例では点領域Q)のビーム形状)に集光し、該所定の集光ビーム形状に集光された集光X線ビーム6を測定媒体5に入射させる。
【0047】
ステップS2では、測定媒体5を、集光X線ビーム6を含む所定の領域内において複数の方向に移動させる。例えば、測定媒体5を、例えばパルスモータにより駆動する光学ステージ等の移動手段を用いて、集光X線ビーム6を含む平面(Y−Z平面)内の第1の方向と、集光X線ビーム6に直交する第2の方向(X方向)とに移動させる。
【0048】
ステップS3では、集光X線ビーム6が測定媒体5の上記所定の領域内において回折して得られた回折X線像13の1点の強度を、像作成手段8,9によって測定する。ステップS4では、測定した強度に基づいて、測定媒体5の所定の領域内での移動方向に即した結晶切断面形状に対応するトポグラフ像を像作成手段10によって作成する。
【0049】
(具体例)
以下、X線トポグラフィー測定装置100を、具体例を挙げて説明する。
【0050】
X線発生源20として、放射光施設において発生する放射光X線を利用するものとするが、これに限るものではなく、他の発生方法を用いてもよい。
【0051】
X線発生源20から発生したX線をモノクロメータで単色化することにより、X線ビーム1として用いる。
【0052】
X線ビーム1は、軌跡a−b−c−dで示す矩形断面2を有する。ビームサイズはab=200μm、ad=500μmである。本例において、フォトンエネルギーはE=15keVである。
【0053】
直線フォーカスのためのX線集光手段3として、X線ビーム1の断面2を一方向にのみ縮小して、軌跡e−fで示す焦線4上に集光するための1次元フレネルゾーンプレート(以下、1Dゾーンプレート)3を用いる。
【0054】
1Dゾーンプレート3は、SiN層(厚み2μm)の上に形成したTa膜(厚み2μm)にゾーンプレートのパターンを電子線描画したものである。
【0055】
1Dゾーンプレート3のサイズは、X線ビーム1の断面2とほぼ同一で、最外部パターンの線幅Δrは0.2μm、焦点距離fは500mmである。
【0056】
1Dゾーンプレート3は、シリンドリカルレンズと同等の機能を有する。X線ビーム1が、この1Dゾーンプレート3を通過すると、集光X線ビーム6となって伝播し、測定試料5の直前に置いたゼロ次光除去用スリット(後述する図2参照)を通って、直線領域Pとしての焦線4上にラインフォーカスされる。なお、ゼロ次光除去用スリットの配置および機能については、図2で詳述する。
【0057】
測定媒体としての測定結晶5には、Si(100)ウエハを用いる。測定結晶5は、その内部に焦線4が位置するように配置する。
【0058】
図2は、そのX線トポグラフィー測定装置100を、Y−Z平面に直交するX方向(A矢印方向)から見た図である。ゾーンプレートを理想レンズと仮定した場合の集光サイズは、光源の大きさS、光源からゾーンプレートまでの距離L、および焦点距離fによりW=S×f/Lで表される。本例の場合、縦方向(図1のY方向)の光源サイズSy=5μm、L=50m、f=0.5mであるから、縦方向(Y方向)の集光サイズはWy=Sy×f/L=0.05μmとなる。
【0059】
一方、ゾーンプレートのレンズとしての分解能はδ=1.22Δr=0.24μmであり、δ>Wyであるため、本例のラインフォーカスされた集光X線ビーム6の集光ビームサイズは、事実上ゾーンプレートの分解能で決まり、0.2〜0.3μmとなる。
【0060】
図4は、測定結晶5に入射する集光X線ビーム6の形状を示す。
【0061】
集光X線ビーム6のサイズは、試料である測定結晶5内で厳密には一定ではないが、以下に示す視点を固定して、測定結晶5を2次元的に移動する方法で均一なトポグラフ像を得ることができる。これにより、距離A’B’よって発生するボケを1μm以下とすることができる。
【0062】
次に、図2に示すゼロ次光除去用スリット11の機能を、測定結晶5との移動に関連して説明する。
【0063】
1Dゾーンプレート3は、回折素子であるため、理想的に機能しても回折次数±1、±3、±5、・・・の回折光を発生する。
【0064】
また、実際には、回折されない光(0次光)12も存在する。これらの光の中で、目的の集光X線ビーム6は+1次光のみであるため、これ以外の光を除去する目的でゼロ次光除去用スリット11を用いる。ゼロ次光除去用スリット11のサイズは10μmで、測定結晶5の直前10mmの位置にセットした。
【0065】
図1および図2に示す構成において、回折条件はSi(660)反射であり、回折X線像13は2θ=80.5°の方向へ反射される。回折X線像13は、測定結晶5内の斜線で示した断面のセクショントポグラフィーである。
【0066】
セクショントポグラフィーを測定するためには、Y−Z面内(図2参照)の1方向と、X方向(紙面に垂直方向)のパルスモータ駆動のステージによる2次元スキャンで測定する。
【0067】
このセクショントポグラフィーの1点の強度を測定するために、横スリット8と縦スリット9で回折X線像13を切り出し、その強度をシンチレーションカウンタ10で測定しつつ試料位置をスキャンすることによって、トポグラフ像を生成する。
【0068】
図5は、横Vスリット8の構成例を示す。横Vスリット8の谷は、図2のζ方向(紙面
に垂直)である。
【0069】
図6は、そのスリット8の入射X線に対する透過率特性を示す。図中のξは、図2、図5のξ方向に対応している。
【0070】
Vスリット8,9の特徴は、片側面31を閉じたくさび状スリット30として形成され、くさび状隙間の先端位置Rの閉じた片側面31からX線を入射する点にある。X線の透過率は、透過距離の指数関数となるため、このような隙間の透過率曲線は鋭く尖った形状となる。
【0071】
図6は、鉄製のくさびスリット30を開口角3°とした場合の透過率曲線を示す。半値幅(X線強度の透過率が0.5となるビーム幅)は、0.8μmである。この0.8μmのビーム幅内に、このようにくさび状スリット30を横スリット8および縦スリット9として構成することにより、1μm以下の空間分解能によるトポグラフ像の測定が可能となる。X線回折像13を、くさび形隙間の閉じた片側面31から入射する理由は、多重反射を防ぐためである。
【0072】
縦Vスリット9は横Vスリットと直交しており、図5、図6のξをζと置き換えたものが、それぞれ縦Vスリット9の構成例と透過率特性となる。
【0073】
上述した例におけるラインフォーカス方式では、図1のY方向にのみX線ビーム1を集光するため、X方向については平行ビームのままである。
【0074】
従って、本例では、回折X線像13の発散角が小さく、生成されるトポグラフ像の解像度が高く得られるという利点がある。
【0075】
また、本例によるX線トポグラフィー装置100では、入射するX線ビーム1を直線領域Pに集光し、この集光X線ビーム6を測定結晶5に透過させる。集光X線ビーム6のビームサイズは1μm以下とすることが可能なため、従来のX線セクショントポグラフィーに見られる像のボケを最小限に抑えることができる。
【0076】
しかし、X線ビーム1が焦線4近傍の微小領域に集中するため、通常のセクショントポグラフィーのように写真フィルム等で回折像を記録すると、焦線4付近のみが明るく写って均一な断面像が得られない。
【0077】
そこで、本例では、図7に示すように、くさび状スリット30からなる横スリット8、縦スリット9を用いて、回折X線像13の焦線4付近で回折された部分の強度を測定するような配置とする。
【0078】
さらに、例えばパルスモータにより駆動する光学ステージ等の移動手段によって、測定結晶5の位置を所定の領域内(集光X線ビーム6を含む平面(Y−Z平面)内の第1の方向と、集光X線ビーム6に直交する第2の方向(X方向))において変化させる。
【0079】
これにより、測定結晶5の切断面形状の所定の位置に対応した回折X線強度を測定することができるため、鮮明で均一な多次元のトポグラフ像を生成することができる。
【0080】
[第2の例]
本発明の第2の実施の形態を、図8〜図10に基づいて説明する。
【0081】
なお、前述した第1の例と同一部分については、その説明を省略し、同一符号を付す。
【0082】
図8は、本発明に係るX線トポグラフィー測定装置200の構成例を示す。
【0083】
本装置200は、入射用のX線ビーム31を発生するX線発生源20(図1参照)と、X線ビーム31を点領域Q(すなわち、焦点34)に集光した集光X線ビーム6を作成するX線集光手段33と、そのX線ビーム31の集光された点領域Qの近傍において集光X線ビーム6を透過させる測定媒体50と、測定媒体50を、集光X線ビーム6を含む平面(Y−Z平面)内の第1の方向と集光X線ビーム6に直交する第2の方向(X方向)とに移動させる移動手段と、測定媒体50内におけるラウエ回折により散乱される回折X線像13の1点の強度を測定し、測定媒体50の結晶断面形状に対応したトポグラフ像を作成する像作成手段8,9,10とによって構成される。
【0084】
(具体例)
以下、X線トポグラフィー測定装置200を、具体例を挙げて説明する。本例では、X線ビーム31を、点領域Qとしての焦点34に集光する点フォーカスの例である。
【0085】
フォトンエネルギーは、E=15keVである。
【0086】
点フォーカスのためのX線集光手段33として、2次元フレネルゾーンプレート33(以下2Dゾーンプレート33は、SiN層(厚み2μm)の上に形成したTa膜(厚み2μm)に同心円のゾーンプレートパターンが電子線描画されている。最外周パターン線幅は0.2μm、焦点距離は500mmである。
【0087】
X線ビーム31は、2Dゾーンプレート33を通過すると、集光X線ビーム36となって伝播し、ゼロ次光除去用ピンホール(図9で説明)を通って、焦点34上にフォーカスされる。
【0088】
本例における縦方向(Y方向)の集光サイズは、図1、図2と同様で、0.2μmである。
【0089】
一方、光源の横方向のサイズはSx=300μmと大きいため、Wx=Sx×f/L=3μm、となる。この場合、Wx>δであるため、横方向(X方向)の集光サイズはWx=3μmである。
【0090】
測定結晶50とX線ビーム31との関係は、前述した図4と同様であり、本例においても距離A’B’よって発生するボケを1μm以下とすることができる。
【0091】
測定結晶50としては、Si(100)ウエハを用いる。測定結晶50は、その内部に焦点34が位置するように配置する。回折条件は、Si(660)反射であり、回折X線像43は2θ =80.5°の方向へ反射される。
【0092】
図9は、そのX線トポグラフィー測定装置200を、Y−Z平面に直交するX方向(A矢印方向)から見た図である。
【0093】
41は、φ10μmのゼロ次光除去用ピンホールである。
【0094】
本例でも、横スリット8および縦スリット9を、くさび状スリット30の構造として形成することにより、回折X線像43の1点の強度を測定し、Y−Z面内(図9参照)の1方向と、X方向(紙面に垂直方向)との2次元スキャンによってトポグラフ像を生成する。
【0095】
本例では、X線ビーム31を点フォーカスするため、試料結晶内におけるX線強度を大きくすることが可能である。
【0096】
従って、前述した第1の例に比べて、トポグラフ像の測定に要する時間を一段と短縮することができる利点がある。
【0097】
また、本例によるX線トポグラフィー装置200では、入射するX線ビーム1を点領域Qに集光し、この集光X線ビーム6を測定結晶5に透過させる。集光X線ビーム6のビームサイズは1μm以下とすることが可能なため、従来のX線セクショントポグラフィーに見られる像のボケを最小限に抑えることができる。
【0098】
しかし、X線ビーム1が焦点34近傍の微小領域に集中するため、通常のセクショントポグラフィーのように写真フィルム等で回折像を記録すると、焦点34付近のみが明るく写って均一な断面像が得られない。
【0099】
そこで、本例では、図10に示すように、くさび状スリット30からなる横スリット8、縦スリット9を用いて、回折X線像13の焦点34付近で回折された部分の強度を測定するような配置とする。
【0100】
さらに、例えばパルスモータにより駆動する光学ステージ等の移動手段によって、測定結晶5の位置を所定の領域内(集光X線ビーム6を含む平面(Y−Z平面)内の第1の方向と、集光X線ビーム6に直交する第2の方向(X方向))において変化させる。
【0101】
これにより、測定結晶5の切断面形状の所定の位置に対応した回折X線強度を測定することができるため、鮮明で均一な多次元のトポグラフ像を生成することができる。
【0102】
以上の例では、X線ビーム1の集光手段としてフレネルゾーンプレートを用いて説明したが、これに限るものではなく、例えば円筒鏡のような反射型の集光手段を用いることも可能である。また、トポグラフ像の強度を測定する目的で、上記例に用いたくさびスリット以外に、通常の突合せ板型のスリット、あるいはピンホールを用いることも可能である。
【0103】
[第3の例]
本発明の第3の実施形態を、図11〜図14に基づいて説明する。なお、前述した各例と同一部分については、その説明を省略し、同一符号を付す。
【0104】
本例では、像作成手段8,9としてのくさび状隙間を有するスリット(以下、Vスリット8,9という)のぼけ関数が画像修復に極めて適していることに着目し、Vスリット8,9により再構成されたトポグラフィー画像に対して、ぼけ画像修復処理を適用する。
【0105】
図11は、本発明に係るX線トポグラフィー測定装置100の構成例を示す。
【0106】
図12は、X線トポグラフィー測定装置100を、Y−Z平面に直交するY方向(X矢印方向)図1とは異なる方向から見た構成図を示す。
【0107】
本例は、前述した図1に示した第1の例の変形例であり、像作成手段8,9,10の後段に、像作成手段90をさらに設けた場合の例である。
【0108】
像作成手段90は、Vスリット8,9を通過することにより生成されたトポグラフ像に対して、所定のぼけ画像修復処理を行う画像処理手段(以下、画像処理部90という)からなる。
【0109】
この画像処理部90は、回折X線像のX線強度信号から、所定の測定画像行列を生成する第1の処理部91と、測定画像行列と、くさび状隙間を有するスリットの透過率曲線で決定されるぼけ行列とに基づいて、測定画像のぼけ修復処理を実行して修復画像行列を生成する第2の処理部92とからなる。
【0110】
X線トポグラフィー測定装置100を用いたX線トポグラフィーの測定方法は、前述した図3と同様に行うことができる。
【0111】
すなわち、図3において、ステップS1〜ステップS2を同様に処理する。その後、ステップS3では、集光X線ビーム6が測定媒体5の上記所定の領域内において回折して得られた回折X線像13の1点の強度を、像作成手段8,9,10,90によって測定する。ステップS4では、測定した強度に基づいて、測定媒体5の所定の領域内での移動方向に即した結晶切断面形状に対応するトポグラフ像を像作成手段90によって作成する。
【0112】
(画像処理)
画像処理部90の機能について説明する。
【0113】
図13は、画像処理部90の機能を示したものである。
【0114】
第1の処理部91は、パルスモータ(図示せず)により駆動される試料の位置座標(Xs,Ys,Zs)と、シンチレーションカウンタ10からのX線強度信号から測定画像行列Yを生成する部分である。
【0115】
第2の処理部92は、前述した式(10)により、ぼけ修復処理を実行し、修復画像行列Xを生成する部分である。
【0116】
図14は、図6の透過率曲線に対応してシンチレーションカウンタ10から得られた、画素位置に対するX線強度信号の波形を示す。
【0117】
以下、第2の処理部92の機能を詳細に説明する。ξを図5のξ方向の距離にとると、横Vスリット8の透過率曲線は、
【0118】
【数4】

【0119】
で表される。ここで、Tは横スリットの透過率、μはX線吸収率、δはVスリットの開口角である。
【0120】
また、図5の紙面に垂直方向の距離をζとすると、縦Vスリット9の透過率曲線は、
【0121】
【数5】

【0122】
となる。したがって、ぼけ関数Tは、
【0123】
【数6】

【0124】
となる。
【0125】
すなわち、ぼけ関数Tは、変数分離型となって、前述した式(10)による画像修復が可能である。
【0126】
次に、Tに関して、
【0127】
【数7】

【0128】
とおく。
【0129】
ここで、ξは隣接画素間の距離、具体的には、パルスモータによる試料移動の1ステップ距離である。Vスリット8,9のぼけ行列をbで表すと、
【0130】
【数8】

【0131】
となる。そして都合のよいことに、この形の行列の逆行列は、
【0132】
【数9】

【0133】
となる。
【0134】
本例において、横Vスリット8および縦Vスリット9の開口角δは、等しい。
【0135】
また、ξ方向およびζ方向の試料移動のステップを等しくとったので、A=Bである。したがって、
X = A−1Y A−1 … (18)
により、画像修復処理を行う。
【0136】
本例における画像修復処理の計算では、従来技術において最大の課題であった逆行列計算が不要である。
【0137】
式(16)、式(17)の関係は、周知の内容であるが、本例では、Vスリット8,9がこの関係を物理的に実現する手段であることに着目した。
【0138】
Vスリット8,9の特長は、まず透過率曲線が図6のごとく鋭いピークを有する(式(16)の対角要素が大きく単位行列に近い)ことから、測定画像Y自体が高い解像度を有することである。
【0139】
以上より、Vスリット8,9のぼけ修復処理に適していることから、高解像度な修復画像Xを得ることが可能となる。
【0140】
[第4の例]
本発明の第4の実施形態を、図15および図16に基づいて説明する。なお、前述した各例と同一部分については、その説明を省略し、同一符号を付す。
【0141】
図14は、本発明に係るX線トポグラフィー測定装置100の構成例を示す。
【0142】
図15は、X線トポグラフィー測定装置100を、Y−Z平面に直交するX方向(A矢印方向)から見た構成図を示す。
【0143】
本例は、前述した図8に示した第2の例の変形例であり、像作成手段8,9,10の後段に、像作成手段90をさらに設けた場合の例である。
【0144】
像作成手段90は、前述した第3の例と同様に、第1の処理部91と第2の処理部92とを有する画像処理部90として構成される。
【0145】
本例においても、前述した第3の例と同様に処理することにより、Vスリット8,9は鋭い透過率曲線を有するので、該Vスリット8,9を経由して生成されるトポグラフ画像を、高解像度のものとすることができる。
【0146】
また、第1の処理部91により、回折X線像のX線強度信号から、所定の測定画像行列Yを生成し、第2の処理部92により、測定画像行列Yと、Vスリット8,9の透過率曲線で決定されるぼけ行列A,Bとに基づいて、測定画像のぼけ修復処理を実行して修復画像行列Xを生成するようにしたので、Vスリット8,9のぼけ行列A,Bに対しては、その逆行列A−1,B−1が解析的に容易に求めることができる。
【0147】
これにより、ノイズののったもともと不正確な測定画像に対しても、画像修復を厳密に効果的に行うことができ、一段と高解像度なトポグラフ像を生成することができる。
【0148】
[第5の例]
本発明の第5の実施形態を、図17〜図23に基づいて説明する。なお、前述した各例と同一部分については、その説明を省略し、同一符号を付す。
【0149】
図17は、本発明に係るX線トポグラフィー測定装置300の構成例を示す。
【0150】
図18は、X線トポグラフィー測定装置300を、Y−Z平面に直交するX方向(A矢印方向)から見た構成図を示す。
【0151】
本例は、前述した図8,9に示した第2の例、および図15,16に示した第4の例の変形例である。
【0152】
X線集光手段として、2Dゾーンプレートの代わりに、楕円ミラー93を用いる。
【0153】
像作成手段としての横Vスリット8とシンチレーションカウンタ10の後段に、画像処理を行うための像作成手段90をさらに設けた。
【0154】
X線トポグラフィー測定装置300を用いたX線トポグラフィーの測定方法は、前述した図3と同様に行うことができる。
【0155】
すなわち、図3において、ステップS1〜ステップS2を同様に処理する。その後、ステップS3では、集光X線ビーム6が測定媒体5の上記所定の領域内において回折して得られた回折X線像13の1点の強度を、像作成手段8,10,90によって測定する。ステップS4では、測定した強度に基づいて、測定媒体50の所定の領域内での移動方向に即した結晶切断面形状に対応するトポグラフ像を像作成手段90によって作成する。
【0156】
(具体例)
以下、X線トポグラフィー測定装置300を、具体例を挙げて説明する。
【0157】
矩形断面a−b−c−dを有するX線ビーム31を得る手段は、前述した第1の例〜第4の例と同様である。
【0158】
X線ビーム31のサイズはab=200μm、cd=200μm、フォトンエネルギーは、E=15keVである。
【0159】
点フォーカスのためのX線集光手段93として、シリコンに白金Ptをコートした楕円面ミラーを用い、この楕円ミラー93にX線ビーム31を全反射臨界角以下の低視斜角で入射させ、反射させることによりX線ビーム31を点領域Q(すなわち、焦点34)に集光した。
【0160】
楕円ミラー93の焦点距離は500mmである。集光サイズはWx、Wyとも1〜2μmであった。
【0161】
本例では、WxがX方向とY方向に要求される分解能を十分満たすため、Vスリットとして、Z方向の分解能を上げるための横Vスリット8のみを用いた。
【0162】
本例で用いた試料(測定媒体50)は4H−SiC基板上にSiCエピ層を形成し、p−nダイオードを形成したものである(後述)。
【0163】
図18は、X線トポグラフィー測定装置300を、Y−Z平面に直交するX方向(A矢印方向)から見た図である。
【0164】
楕円ミラー93は断面図で示したように反射面が楕円体形状を有し、入射X線ビーム31が反射して焦点Q(34)に収束する。楕円ミラー93による集光では,図9,16におけるゼロ次光除去用ピンホール41は不要である。
【0165】
回折X線43の一部が横Vスリット8を経由してシンチレーションカウンタ10に達してその強度が測定される。
【0166】
測定媒体50の位置をスキャンしてトポグラフ像を得る仕組みは、前述した第1の例〜第4の例と同様である。ただし、本実施例では新たに図18に示した座標軸X−Y’−Z’を定義し、この座標軸に平行に測定媒体50をスキャンした。
【0167】
すなわち、図3のステップS2において,第1の方向はZ’方向でスキャンのキザミは0.5μm、第2の方向はX方向でスキャンのキザミは1μmある。ここで、新座標軸のY’は測定媒体50の表面に平行、Z’は垂直な座標軸である。
【0168】
図19は、測定用媒体50の断面構造を示す。
【0169】
この試料は4H−SiC基板500のSi面側にSiCエピ層501を成長させ、表面付近にp−nダイオードを形成したものである。図の503はn層,504はp層である。
【0170】
エピ層の厚みは約6.7μm、p−n界面は表面から約1.4μmの位置にある。六方晶のc軸は<11−20>方向に8°(off角)傾いている。
【0171】
SiCは次世代半導体材料として最も有望な材料の一つであるが、その実用化の最大の課題は結晶欠陥の低減である。本実施例では結晶欠陥の一種であるらせん転位の連続性を評価する目的で本発明を適用した。
【0172】
図20は、らせん転位のX−Z’断面のトポグラフ像を等高線図として表したものである。
【0173】
このトポグラフ像は画像処理部90を用いることなく得たものである。らせん転位中心部は結晶歪みは、きわめて大きいため、回折条件が満たされず、このような回折光強度の空洞が観測される。
【0174】
空洞の傾きはoff(8°)によく一致している。この結果はらせん転位が基板からエピ層まで連続していることを示している。
【0175】
図21は、図20のX=18μmにおけるラインプロファイルとその差分曲線である。測定媒体表面における差分曲線のピーク幅が空間分解能を表していて、図21では約2.2μmである。
【0176】
この空間分解能はらせん転位評価には十分であるが、デバイス構造、特に積層構造との関係を評価するためには空間分解能をさらに改善する必要がある。
【0177】
そこで、デバイスの積層構造とトポグラフ像との対応を評価するため、画像処理部90によりZ’方向の画像処理を行った。
【0178】
具体的には、図21の差分曲線を図6の透過率曲線でフィットすることによりb=0.66と推定し、式17により求めたA−1を用いて、
X = A−1Y … (19)
により元画像行列Yから修復画像行列Xを計算した。
【0179】
図22は、画像修復の結果を示す。
【0180】
元画像と比較すると修復画像は測定媒体表面の鮮明度が大幅に改善されたことがわかる。さらにp/n界面とエピ/基板界面が識別できるようになり、積層構造と歪みとの関係を評価することが可能になった。
【0181】
図23は、修復画像のラインプロファイルと差分曲線である。
【0182】
差分曲線ピークの幅は約0.5μmであり、元画像の2.2μmが大幅に改善されたことがわかる。
【0183】
このように本発明によるX線トポグラフィー装置は、画像修復手段90を追加することにより、空間分解能を大幅に改善することが可能となる。
【0184】
これにより、ノイズののったもともと不正確な測定画像に対しても、画像修復を厳密に効果的に行うことができ、一段と高解像度なトポグラフ像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】本発明の第1の実施の形態である、X線トポグラフィー測定装置の構成例を示す構成図である。
【図2】X線トポグラフィー測定装置を、図1とは異なる方向から見た構成図である。
【図3】X線トポグラフィー測定方法を示すフローチャートである。
【図4】測定結晶に入射する集光X線ビームの形状を示す説明図である。
【図5】くさび状のスリットを示す構成図である。
【図6】スリットの入射X線に対する透過率特性を示す特性図である。
【図7】回折X線像の強度を測定するスリットの配置例を示す構成図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態である、X線トポグラフィー測定装置の構成例を示す構成図である。
【図9】X線トポグラフィー測定装置を、図8とは異なる方向から見た構成図である。
【図10】回折X線像の強度を測定するスリットの配置例を示す構成図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態である、X線トポグラフィー測定装置の構成例を示す構成図である。
【図12】X線トポグラフィー測定装置を、図11とは異なる方向から見た構成図である。
【図13】画像処理部の機能を説明するブロック図である。
【図14】図6の透過率曲線に対応してシンチレーションカウンタから得られた、画素位置に対するX線強度信号の波形を示す説明図である。
【図15】本発明の第4の実施の形態である、X線トポグラフィー測定装置の構成例を示す構成図である。
【図16】X線トポグラフィー測定装置を、図15とは異なる方向から見た構成図である。
【図17】本発明の第5の実施の形態である、X線トポグラフィー測定装置の構成例を示す構成図である。
【図18】X線トポグラフィー測定装置を、図17とは異なる方向から見た構成図である。
【図19】測定用媒体の断面構造を示す断面図である。
【図20】らせん転位のX−Z’断面のトポグラフ像を等高線図として表した説明図である。
【図21】図20のX=18におけるラインプロファイルとその差分曲線を示す説明図である。
【図22】画像修復の結果を示す説明図である。
【図23】修復画像のラインプロファイルと差分曲線を示す説明図である。
【図24】従来のセクショントポグラフィー装置の例を示す構成図である。
【図25】測定試料への入射X線ビームの厚みの影響を示す説明図である。
【符号の説明】
【0186】
1 X線ビーム
3 X線集光手段(1次元フレネルゾーンプレート)
4 焦線(直線領域P)
5 測定媒体(測定結晶)
6 集光X線ビーム
8,9 像作成手段(横スリット、縦スリット)
10 像作成手段(シンチレーションカウンタ)
13 回折X線像
20 X線発生源
30 くさび状スリット
31 X線ビーム
33 X線集光手段(2次元フレネルゾーンプレート)
34 焦点(点領域Q)
35 測定媒体(測定結晶)
36 集光X線ビーム
43 回折X線像
50 測定媒体(試料)
64 入射X線ビーム
65 シート状X線ビーム
90 像作成手段(画像処理部)
91 像作成手段(第1の処理部)
92 像作成手段(第2の処理)
93 X線集光手段(楕円ミラー)
100,200,300 X線トポグラフィー測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線トポグラフィー測定装置であって、
X線ビームを発生するビーム発生手段と、
前記発生したX線ビームを所定の集光ビーム形状に集光し、該所定の集光ビーム形状に集光された集光X線ビームを測定用結晶媒体に入射させるビーム集光手段と、
前記測定用結晶媒体を、前記集光X線ビームを含む所定の領域内において複数の方向に移動させる媒体移動制御手段と、
前記集光X線ビームが前記測定用結晶媒体の前記所定の領域内において回折して得られた所定の焦点形状をもつ回折X線ビームの強度を測定し、該測定した強度に基づいて前記測定用結晶媒体の前記所定の領域内での移動方向に即した結晶切断面形状に対応する多次元のトポグラフ像を生成する像作成手段と
を具えたことを特徴とするX線トポグラフィー測定装置。
【請求項2】
前記ビーム集光手段は、前記発生したX線ビームを、直線状の焦点領域を有する所定の集光X線ビームに集光する直線領域集光手段からなることを特徴とする請求項1記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項3】
前記直線領域集光手段は、1次元フレネルゾーンプレートからなることを特徴とする請求項2記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項4】
前記ビーム集光手段は、前記発生したX線ビームを、点状の焦点領域を有する所定の集光X線ビームに集光する点領域集光手段からなることを特徴とする請求項1記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項5】
前記点領域集光手段は、2次元フレネルゾーンプレートからなることを特徴とする請求項4記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項6】
前記点領域集光手段は、楕円ミラーからなることを特徴とする請求項4記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項7】
前記媒体移動制御手段は、前記測定用結晶媒体を、前記集光X線ビームを含む平面内の第1の方向と、該集光X線ビームに直交する第2の方向とに移動させることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項8】
前記像作成手段は、前記回折X線ビームの1点の強度を測定する回折強度測定手段を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項9】
前記像作成手段は、くさび状隙間を有するスリットを含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項10】
前記像作成手段は、
前記回折X線ビームの強度を測定して生成された前記トポグラフ像に対して、所定のぼけ画像修復処理を行う画像処理手段をさらに具えたことを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項11】
前記画像処理手段は、
前記回折X線像のX線強度信号から、所定の測定画像行列を生成する手段と、
前記測定画像行列と、前記くさび状隙間を有するスリットの透過率曲線で決定されるぼけ行列とに基づいて、測定画像のぼけ修復処理を実行して修復画像行列を生成する手段と
を含むことを特徴とする請求項10記載のX線トポグラフィー測定装置。
【請求項12】
X線トポグラフィー測定方法であって、
発生したX線ビームをビーム集光手段により所定の集光ビーム形状に集光し、該所定の集光ビーム形状に集光された集光X線ビームを測定用結晶媒体に入射させる工程と、
前記測定用結晶媒体を、前記集光X線ビームを含む所定の領域内において複数の方向に移動させる工程と、
前記集光X線ビームが前記測定用結晶媒体の前記所定の領域内において回折して得られた所定の焦点形状をもつ回折X線ビームの強度を測定する工程と、
前記測定した強度に基づいて前記測定用結晶媒体の前記所定の領域内での移動方向に即した結晶切断面形状に対応する多次元のトポグラフ像を生成する工程と
を具えたことを特徴とするX線トポグラフィー測定方法。
【請求項13】
前記発生したX線ビームを、直線状の焦点領域を有する所定の集光X線ビームに集光することを特徴とする請求項12記載のX線トポグラフィー測定方法。
【請求項14】
前記発生したX線ビームを、1次元フレネルゾーンプレートに導くことにより、前記直線領域の集光ビーム形状の集光X線ビームに集光することを特徴とする請求項13記載のX線トポグラフィー測定方法。
【請求項15】
前記発生したX線ビームを、点状の焦点領域を有する所定の集光X線ビームに集光することを特徴とする請求項12記載のX線トポグラフィー測定方法。
【請求項16】
前記X線ビームを、2次元フレネルゾーンプレートに導くことにより、前記点領域の集光ビーム形状の集光X線ビームに集光することを特徴とする請求項15記載のX線トポグラフィー測定方法。
【請求項17】
前記X線ビームを、楕円ミラーに導くことにより、前記点領域の集光ビーム形状の集光X線ビームに集光することを特徴とする請求項15記載のX線トポグラフィー測定方法。
【請求項18】
前記測定用結晶媒体を、前記集光X線ビームを含む平面内の第1の方向と、該集光X線ビームに直交する第2の方向とに移動させることを特徴とする請求項12ないし17のいずれかに記載のX線トポグラフィー測定方法。
【請求項19】
前記測定する工程は、前記回折X線像の1点の強度を測定することを特徴とする請求項12ないし18のいずれかに記載のX線トポグラフィー測定方法。
【請求項20】
前記測定する工程は、前記回折X線像がくさび状隙間を有するスリットを通過することによって該回折X線ビームの1点の強度を測定することを特徴とする請求項12ないし19のいずれかに記載のX線トポグラフィー測定方法。
【請求項21】
前記トポグラフ像を生成する工程は、前記回折X線ビームの強度を測定して生成された前記トポグラフ像に対して、所定のぼけ画像修復処理を行う画像処理工程をさらに具えたことを特徴とする請求項12ないし20のいずれかに記載のX線トポグラフィー測定方法。
【請求項22】
前記画像処理工程は、
前記回折X線ビームのX線強度信号から、所定の測定画像行列を生成する工程と、
前記測定画像行列と、前記くさび状隙間を有するスリットの透過率曲線で決定されるぼけ行列とに基づいて、測定画像のぼけ修復処理を実行して修復画像行列を生成する工程と
を含むことを特徴とする請求項21記載のX線トポグラフィー測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2007−240510(P2007−240510A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111094(P2006−111094)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】