説明

X線位置計測装置、X線位置計測装置の位置計測方法、及びX線位置計測装置の位置計測用プログラム

【課題】コストを増大させることなく、高い位置計測精度を実現するX線位置計測装置を提供する。
【解決手段】X線位置計測装置10は、X線放射器10a及びX線カメラ10bを測定対象物で位置計測を行う位置に移動させる第1移動手段と、位置計測を行う位置において、画像表示部における基準位置と第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、位置ずれ量を当該計測位置に対応する補正量として記憶部に記憶する第1測定記憶手段と、X線放射器10a及びX線カメラ10bを位置計測を行う位置に移動させる第2移動手段と、位置計測を行う位置において、上記補正量に基づいて、X線放射器10aの放射中心及びX線カメラ10bの光軸Lを合致させるとともに、測定対象物の位置計測を行う第1位置計測手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線位置計測装置、X線位置計測装置の位置計測方法、及びX線位置計測装置の位置計測用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線放射器及びX線カメラを有するX線位置計測装置を用い、測定対象物である多層プリント基板(積層基板)の表裏面に一対設けられた位置決めマークの形状を測定し、各層の正確な相対位置を把握する位置計測が行われている。このX線放射器は、陽極から陰極に対して電子線を衝突させることでX線を発生させている。
このようなX線位置計測装置では、X線放射器の放射中心とX線カメラとの光軸とが合致していることが一対の位置決めマークの形状を正確に測定するために必要となる。
【0003】
このため、従来のX線放射器及びX線カメラは、コ字状フレームの一対の先端部に、X線放射器及びX線カメラを取り付けて一体化し、X線放射器とX線カメラとの光軸合わせを行った上で、この光軸が合った状態を維持する構成を採用していた(例えば、特許文献1参照)。つまり、この構成では、X線放射器及びX線カメラは、コ字状フレームとともに測定対象物に対して移動することになる。
【0004】
ところが、このような構成を採用すると、コ字状フレームは、多層プリント基板と干渉しないようにする必要があるため、大型の多層プリント基板を扱う場合では大型化し、X線位置計測装置全体も大型化してしまうという事情があった。
【0005】
これに対して、X線放射器とX線カメラとを互いに独立して測定対象物に対して軌道レールに添って移動可能とする構成が採用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−227422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような構成の場合、X線放射器及びX線カメラが軌道レールに添って移動した位置で、X線放射器及びX線カメラが、軌道レールのうねりなどに起因する光軸ずれを生じる可能性がある。
このため、X線放射器及びX線カメラが位置決めのために動いた距離をリニアスケールでFB(フィードバック)をかけるなどの複雑な処理、高精度な送り機構、高強度な機械筐体が必要となり、X線位置計測装置が非常に高価になってしまう。
【0008】
また、X線カメラの測定精度を向上させるため、X線放射器及びX線カメラの光軸方向(上下方向)での位置関係を変更し、画像を拡大し、分解能を高めることが行われる。この場合、例えば×1の拡大倍率でX線放射器とX線カメラの光軸合わせを行うと、X線放射器又はX線カメラが、拡大倍率の拡大に伴って軌道レールに沿って移動する範囲の任意の位置において、X線放射器の放射中心とX線カメラの光軸とが合致した状態を維持する必要がある。よって、この場合にも、高精度な送り機構と高強度な機械筐体が必要となる。
【0009】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、コストを増大させることなく、高い位置計測精度を実現するX線位置計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るX線位置計測装置は、
X線放射器及びX線カメラと、
測定対象物を載置するワーク載置テーブルと、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線放射器を当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第1移動部と、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線カメラを当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第2移動部と、
前記X線放射器から放射され、前記測定対象物を透過したX線が第1X線投影像として投影される画像表示部と、
前記X線放射器及び前記X線カメラの間に介在配置され、前記X線放射器から放射されるX線を前記画像表示部に位置把握の可能な第2X線投影像として投影させるための位置補正用治具と、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラをそれぞれ独立して前記ワーク載置テーブルに対して移動させる制御部と、
少なくとも前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を補正量として記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記測定対象物で位置計測を行う位置に移動させる第1移動手段と、
前記位置計測を行う位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該計測位置に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第1測定記憶手段と、
前記第1移動部及び第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記位置計測を行う位置に移動させる第2移動手段と、
前記位置計測を行う位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第1位置計測手段と、を備える、
ことを特徴とする。
【0011】
前記X線放射器及び前記X線カメラの内の一方を前記ワーク載置テーブルと垂直な方向に移動させることで、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第3移動部をさらに備え、
前記制御部は、前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第1拡大倍率変更手段と、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該拡大倍率に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第2測定記憶手段と、
前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第2拡大倍率変更手段と、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第2位置計測手段と、をさらに備える、
ことが好ましい。
【0012】
前記測定対象物が、位置計測を行う位置に位置決めマークが付されている多層プリント配線板であることが好ましい。
【0013】
本発明の第2の観点に係るX線位置計測装置の位置計測方法は、
X線放射器及びX線カメラと、
測定対象物を載置するワーク載置テーブルと、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線放射器を当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第1移動部と、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線カメラを当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第2移動部と、
前記X線放射器から放射され、前記測定対象物を透過したX線が第1X線投影像として投影される画像表示部と、
前記X線放射器及び前記X線カメラの間に介在配置され、前記X線放射器から放射されるX線を前記画像表示部に位置把握の可能な第2X線投影像として投影させるための位置補正用治具と、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラをそれぞれ独立して前記ワーク載置テーブルに対して移動させる制御部と、
少なくとも前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を補正量として記憶する記憶部と、を備えたX線位置計測装置で使用される位置計測方法であって、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記測定対象物で位置計測を行う位置に移動させる第1移動ステップと、
前記位置計測を行う位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該計位置に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第1測定記憶ステップと、
前記第1移動部及び第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記位置計測を行う位置に移動させる第2移動ステップと、
前記位置計測を行う位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第2位置計測ステップと、を備える、
ことを特徴とする。
【0014】
前記X線位置計測装置は、前記X線放射器及び前記X線カメラの内の一方を前記ワーク載置テーブルと垂直な方向に移動させることで、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第3移動部をさらに備え、
前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第1拡大倍率変更ステップと、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該拡大倍率に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第2測定記憶ステップと、
前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第2拡大倍率変更ステップと、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第2位置計測ステップと、をさらに備える、
ことが好ましい。
【0015】
本発明の第3の観点に係るX線位置計測装置の位置計測用プログラムは、
X線放射器及びX線カメラと、
測定対象物を載置するワーク載置テーブルと、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線放射器を当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第1移動部と、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線カメラを当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第2移動部と、
前記X線放射器から放射され、前記測定対象物を透過したX線が第1X線投影像として投影される画像表示部と、
前記X線放射器及び前記X線カメラの間に介在配置され、前記X線放射器から放射されるX線を前記画像表示部に位置把握の可能な第2X線投影像として投影させるための位置補正用治具と、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラをそれぞれ独立して前記ワーク載置テーブルに対して移動させる制御部と、
少なくとも前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を補正量として記憶する記憶部と、を備えたX線位置計測装置の前記制御部に設けられるコンピュータを、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記測定対象物で位置計測を行う位置に移動させる第1移動手段、
前記位置計測を行う位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該計測位置に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第1測定記憶手段、
前記第1移動部及び第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記位置計測を行う位置に移動させる第2移動手段、
前記位置計測を行う位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第2位置計測手段、として機能させる、
ことを特徴とする。
【0016】
前記X線位置計測装置は、前記X線放射器及び前記X線カメラの内の一方を前記ワーク載置テーブルと垂直な方向に移動させることで、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第3移動部をさらに備え、
前記コンピュータを、前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第1拡大倍率変更手段、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該拡大倍率に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第2測定記憶手段、
前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第2拡大倍率変更手段、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第2位置計測手段、としてさらに機能させる、
ことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コストを増大させることなく、高い位置計測精度を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るX線位置計測装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るX線位置計測装置のハードウェア構成を説明するための機能ブロック図である。
【図3】(a)は、本発明の実施形態に係るX線位置計測装置を図1の−Y方向からみた模式側面図であり、(b)は、同X線位置計測装置で使用する位置補正用治具の平面図(i)、及び、位置補正用治具の組立状態を示す平面図(ii)である。
【図4】本発明の実施形態に係るX線位置計測装置の模式平面図である。
【図5】多層プリント配線板上の位置決めマークの座標位置を示す模式平面図である。
【図6】X線放射器の放射中心、X線カメラの光軸、及び位置補正用治具の微小孔の中心位置が合致した状態を示す模式図である。
【図7】X線放射器及びX線カメラのX方向移動時にX線放射器の放射中心とX線カメラの光軸が位置ずれを生じた状態を示す模式図である。
【図8】X線放射器の放射中心とX線カメラの光軸とが合致し、X線カメラの光軸と位置補正用治具の微小孔の中心位置とが合致していない状態を示す模式図である。
【図9】X線放射器の放射中心、X線カメラの光軸、及び位置補正用治具の微小孔の中心位置が合致している状態を示す模式図である。
【図10】X線カメラの光軸と位置補正用治具の微小孔の中心位置とが合致し、X線カメラの光軸とX線放射器の放射中心とが合致していない状態を示す模式図である。
【図11】X線カメラの拡大倍率変更(Z方向移動)時にX線放射器の放射中心とX線カメラの光軸が位置ずれを生じた状態を示す模式図である。
【図12】(a)は、X線位置計測装置を用いて多層プリント配線板の位置計測を行っている状態を示す模式図であり、(b)は、画像表示部に表示された位置決めマークを示す模式平面図である。
【図13】X線放射器及びX線カメラのX方向移動時のX線位置計測装置の位置計測処理を示すフローチャートである。
【図14】X線カメラの拡大倍率変更時のX線位置計測装置の位置計測処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るX線位置計測装置を図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態に係るX線位置計測装置は、測定対象物である多層プリント基板(積層基板)の表裏面に一対設けられた位置決めマークの形状を測定し、各プリント基板の正確な相対位置を把握する位置計測処理を行うものである。
【0021】
図1、図2、図3(a)、図4に示すように、X線位置計測装置10は、X線放射器10a及びX線カメラ10bと、多層プリント基板(図1では図示せず)を載置する矩形枠状のワーク載置テーブル10cとを備えている。
【0022】
X線位置計測装置10は、床やテーブル上に設置される平面視方形状の基台10dと、この基台10dのY方向中央部から上方(+Z方向)に立設された矩形平板状の立設プレート10eとをさらに備えている。この基台10dの各辺は、それぞれ、左右方向(±X方向)、前後方向(±Y方向)、上下方向(±Z方向)に沿っており、立設プレート10eは、左右方向に延びている。ワーク載置テーブル10cは、基台10dの上面と平行に配置されている。X線放射器10a及びX線カメラ10bは、ワーク載置テーブル10cの開口内に所定距離を隔てて上下方向に対向するように配置されている。X線放射器10aから放射され、多層プリント基板を透過したX線は、X線カメラ10bの受光面でX線投影像として捕捉される。
【0023】
X線カメラ10bは、断面L字状のZ方向移動体15によって支持され、このZ方向移動体15は、一対の第1軌道レール51を介して矩形状の第1X方向移動体13に対して上下方向に移動可能に支持されている。
そして、Z方向移動体15は、第1X方向移動体13に配置されたZモータ(第3移動部)43によって、一対の第1軌道レール51で案内されながら第1X方向移動体13に対してワーク載置テーブル面(多層プリント基板の表面)と垂直な方向(上下方向)に移動可能とされている。この一対の第1軌道レール51は、第1X方向移動体13の+Y側の側面の略中央部にZ方向に延びるように配置されている。
このように、X線カメラ10bがX線放射器10aに対してワーク載置テーブルと垂直な方向に移動することで、X線カメラ10bの受光面に投影される、測定対象物を透過したX線投影像を拡大及び縮小させ、その拡大倍率を変更することが可能となる。
【0024】
即ち、X線放射器10aとX線カメラ10bとの離間距離を大きくすると、画像表示部45における画像が拡大され、分解能が向上する。例えば図12(a)に示すように、X線放射器10aの+Z側端面から、測定対象物である多層プリント基板70(銅箔74)の+Z側端面までの距離をLd1とし、当該多層プリント基板70(銅箔74)の+Z側端面からX線カメラ10bの受光面100の−Z側端面までの距離をLd2とすると、Ld1を一定としたまま、Ld2を拡大していくと、X線カメラ10bの受光面100上に投影される多層プリント基板70の位置決めマーク70mの画像は受光面100の一部にのみ投影された状態から、受光面100の全面に投影されるように拡大されていく。このように受光面100上に投影される多層プリント基板70の位置決めマーク70mの画像の大きさが拡大されるに従って画像の分解能が向上する。
なお、図12(a)に示す多層プリント基板70は、上方から銅箔74、プリプレグ71、銅箔75、プリプレグ72、銅箔76、プリプレグ73、銅箔77が積層されたものであり、銅箔75、銅箔76に、それぞれ、位置計測用のマークとして、大径の円マーク70a、小径の円マーク70bが配置(印刷)されている。
【0025】
第1X方向移動体13は、一対の第2軌道レール52を介して立設プレート10eに対してX方向に移動可能とされている。この一対の第2軌道レール52は、立設プレート10eの+Y側の側面の上下周縁部にX方向に延びるように配置されている。
そして、第1X方向移動体13は、立設プレート10eに配置された第1Xモータ(第1移動部)11によって、第2軌道レール52で案内されながら立設プレート10eに沿ってX方向に移動可能とされている。
さらに、X線カメラ10bは、Z方向移動体15上に配置された第3Xモータ31及び第3Yモータ32によって、Z方向移動体15に対してX方向及びY方向に微小な範囲で移動可能とされている。
【0026】
X線放射器10aは、矩形平板状の第2X方向移動体14上に載置され、この第2X方向移動体14は、X方向に延びる一対の第3軌道レール53を介して基台10dに対してX方向に移動可能とされている。
そして、第2X方向移動体14(X線放射器10a)は、基台10dに配置された第2Xモータ(第2移動部)21によって、第3軌道レール53で案内されながら基台10dに対してX方向に移動可能とされている。一対の第3軌道レール53及び第2Xモータ21は、基台10dの中央部にX方向に延びるように形成された溝部10fの底面に配置されている(図1参照)。
さらに、X線放射器10aは、第2X方向移動体14上に配置された第2Yモータ22によって、第2X方向移動体14に対してY方向に微小な範囲で移動可能とされている。
【0027】
以上のように、第1Xモータ11及び第2Xモータ21によって、X線放射器10a及びX線カメラ10bが、ワーク載置テーブル10c上の多層プリント基板に対して、それぞれ独立して当該ワーク載置テーブル面に沿って移動可能となっている。
【0028】
ワーク載置テーブル10cは、一対の第3軌道レール54を介して基台10dに対してY方向に移動可能とされている。この第3軌道レール54は、基台10dの左右周縁部にY方向に延びるように配置されている(図4参照)。
そして、ワーク載置テーブル10cは、基台10d上に配置された第4Yモータ42によって、第3軌道レール54で案内されながら基台10dに対してY方向に移動可能とされている。このように、ワーク載置テーブル10cは、X線放射器10a及びX線カメラ10bとは独立してY方向に移動可能となっている。このため、X線放射器10a及びX線カメラ10bが、基台10dに対する所定位置に固定されている状態で、測定対象物である多層プリント基板70に対してY方向に移動可能になっている。
【0029】
図1に示すように、X線位置計測装置10では、X線カメラ10bは、ワーク載置テーブル10c(多層プリント基板70)よりも上方に配置されている。これは、ワーク載置テーブル10cの下方には、X線カメラ10bを測定対象物である多層プリント基板70から離間させるための十分なスペースがないためである。図1及び図3(a)に示すように、X線カメラ10bをワーク載置テーブル10c(多層プリント基板70)よりも上方に配置することで、X線カメラ10bをX線放射器10aからより遠くに配置することが可能となり、X線投影像の拡大倍率のさらなる増加が実現される。
【0030】
本実施形態では、X線カメラ10bをX線放射器10aに対してワーク載置テーブル10cと垂直な方向に移動させることで、第1X線投影像101又は第2X線投影像102を拡大及び縮小させ、その拡大倍率を変更する。そして、高い測定精度が要求される場合には画像を拡大して分解能を上げる。それと逆に、拡大倍率を下げて広い範囲を投影することで測定対象物における所定の測定位置の特定を容易としている。
【0031】
第1X線投影像101又は第2X線投影像102を拡大する場合、図12(a)に示す距離Ld2を一定とした状態で距離Ld1を小さくする方法が考えられる。しかしながら、距離Ld1を小さくし過ぎると、多層プリント基板70と接触して傷がつくなど、製品の品質が悪化する。また、距離Ld1を小さくする場合にも、X線カメラ10bの受光面100の周辺の構造物が障害となるため、限界がある。
【0032】
第1X線投影像101又は第2X線投影像102を拡大する他の方法としては、距離Ld1を一定とした状態で距離Ld2を大きくする方法も考えられる。この場合は、距離Ld1を小さくするよりも制約が少ないため、X線位置計測装置10のサイズ拡大が許される限りにおいて、第1X線投影像101又は第2X線投影像102を簡単に拡大することができる。そこで、本実施形態では、X線カメラ10bと多層プリント基板70との距離Ld2を大きくすることで、画像を拡大する方法を採用している。
【0033】
図2に示すように、X線位置計測装置10は、CPU(Central Processing Unit)を有するコントローラ(制御部)81、画像表示部45、X線放射器駆動部46、記憶部47、入力部48、を備えている。これら画像表示部45、X線放射器駆動部46、記憶部47、入力部48は、それぞれ、コントローラ81に接続されている。
【0034】
また、コントローラ81には、上述したX線位置計測装置10の各構成要素を駆動するためのサーボモータ群44、即ち、上述した第1Xモータ11、第2Xモータ21、Zモータ43、第2Yモータ22、第3Xモータ31、第3Yモータ32、第4Yモータ42(図1参照)が接続されている。
【0035】
画像表示部45は、X線カメラ10bに接続され、X線カメラ10bの受光面に投影されたX線投影像が、画像表示部45の表示画面において、多層プリント基板を透過したX線による第1X線投影像や、位置把握の可能な第2X線投影像として投影される。この第2X線投影像は、ワーク載置テーブル10c上に多層プリント基板が載置されていない状態で、後述する位置補正用治具61(図3(b)参照)によって得られるものである。
【0036】
そして、コントローラ81では、画像表示部45の表示画面に表示される第1X線投影像及び第2X線投影像が画像処理されるようになっている。この画像処理では、コントローラ81によって、第1X線投影像に基づいて、測定対象物である多層プリント基板70の位置計測が行われ、第2X線投影像に基づいて、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとの位置ずれ量の測定が行われる。
【0037】
上述したように、X線位置計測装置10は、X線放射器10aとX線カメラ10bとの離間距離を調整することでX線カメラ10bの受光面に投影されたX線投影像を拡大して画像表示部45の表示画面に表示することができる。X線投影像を拡大した状態で位置計測を行うと画像の1ピクセルあたりの分解能が高くなるので、より高精度に位置計測が行われるようになる。このため、位置計測は、できる限りX線投影像の拡大倍率を上昇させた状態で行うことが好ましいが、位置計測操作の煩雑さと、必要とする位置計測精度とを考慮し、適正な拡大倍率を選ぶことが望ましい。
【0038】
X線放射器駆動部46は、X線放射器10aに接続され、入力部48からの入力情報に基づいてX線放射器10aからX線を放射させたり、その放射を停止させるものである。
記憶部47は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、半導体メモリ等の不揮発性メモリを含む。記憶部47には、コントローラ81が実行するプログラム、プログラムの実行に必要な各種パラメータ、上記サーボモータ群44を駆動し、X線放射器10a及びX線カメラ10bを移動させるための各種情報が格納される。
【0039】
入力部48は、電源スイッチやX線位置計測装置10に対する指令を入力するための操作パネルなどを含んで構成され、ユーザからの入力を受け付ける。ユーザからの指示は、この入力部48を介して入力され、コントローラ81に通知される。
【0040】
図3(a)に示すように、本実施形態のX線位置計測装置10は、X線放射器10aとX線カメラ10bとの間に介在し、X線放射器10aから放射されるX線を画像表示部45にて位置把握の可能な第2X線投影像として投影させるための位置補正用治具61を備えている。
【0041】
位置補正用治具61は、図3(b)に示すように、矩形平板状の固定用プレート62と、この固定用プレート62に設けられた保持用開口64に着脱可能に保持され、中央部に微小孔65を有する円盤治具63とからなる。
【0042】
図3(a)に示すように、固定用プレート62は、X線カメラ10bの下方側で、Z軸方向におけるX線カメラ10bとの相対位置が決定された状態で第1X方向移動体13の所定位置にボルト及びナットで固定される。このように、位置補正用治具61は、第1X方向移動体13とともに移動する。
【0043】
円盤治具63は、X線放射器10aからのX線を遮蔽するように、鉛などの金属から形成されている。円盤治具63を固定用プレート62の保持用開口64に嵌め込んだ状態で、X線カメラ10bの光軸Lが円盤治具63の微小孔65の中心位置を通るように設計されている。
【0044】
固定用プレート62に円盤治具63が保持されているときには、X線放射器10aから放射され、円盤治具63の微小孔65を通過したX線は、画像表示部45の表示画面に第2X線投影像102(図6参照)として投影される(図3(a)参照)。詳しくは後述するが、X線放射器10aの放射中心及びX線カメラ10bの光軸LがX線位置計測装置10の機械原点に位置決めされている状態で、画像表示部45に投影される第2X線投影像の中心点O´が、画像表示部45の表示画面に設けた基準位置(中心位置)O(図6、図8参照)に一致するように、位置補正用治具61と、X線放射器10a及びX線カメラ10bとの相対位置を調整する。
【0045】
一方、固定用プレート62に円盤治具63が保持されていないときには、X線放射器10aから放射されたX線は、固定用プレート62の保持用開口64を通過し、画像表示部45の表示画面に第1X線投影像101(図12(b)参照)として投影される。
【0046】
X線放射器10a及びX線カメラ10bによって、多層プリント基板70に設けられた位置決めマーク70mの位置計測を行う場合には、図4及び図5を参照して、特定の位置決めマーク70mの座標位置上にX線放射器10a及びX線カメラ10bを移動させる。ここでは、位置決めマーク70mは、多層プリント基板70の各辺に沿って、複数個設けられている。具体的には、位置決めマーク70mは、多層プリント基板70上に設けた図5に示すXY座標において、(2、1)〜(n−1、1);(m、2)〜(n−1、m);(2、1)〜(m−1、1);(n、2)〜(n、m−1)の各座標位置に設けられている。また、多層プリント基板70において、その原点位置は、(1、1)の座標位置に設けられている。
【0047】
多層プリント基板70に設けられた位置決めマーク70mの位置計測を行う場合、X線放射器10a、X線カメラ10bが、それぞれ、第2X方向移動体14、第1X方向移動体13を介して、第3軌道レール53、第2軌道レール52に沿って移動する(図1参照)。そして、図7に示すように、移動先の座標位置で、第3軌道レール53、第2軌道レール52のうねりなどに起因して、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lの位置ずれを生じてしまう。さらに、X線位置計測装置10の送り精度、工作精度、組立誤差等によって、X線放射器10a及びX線カメラ10bをX方向に同距離だけ移動させても、停止位置がずれる場合がある。その結果、図7に示すように、第2X線投影像102が画像表示部45の表示画面の中心位置Oから位置ずれを生じた状態となり、正確な位置計測を行うことができなくなる。
【0048】
以下、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸L及び第2X線投影像102の位置関係と位置計測精度の関係について説明する。図8に示す状態では、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとが合致しているが、位置補正用治具61の微小孔65の中心位置は+X方向に位置ずれを生じて合致していない。そのため、画像表示部45には微小孔65が第2X線投影像102として画像表示部45の中心位置Oから+X方向にずれた状態で表示されている。図8に示すように、X線は投影領域が次第に拡大するように放射されるので、測定対象物は、X線放射器10aからの距離が同じでも、X線放射器10aの放射中心からの離間距離に応じて、画像表示部45に第2X線投影像102として投影されるときに拡大率が異なるようになる。
【0049】
具体的には、図8に示すように、画像表示部45に第2X線投影像102として投影された、位置補正用治具61の微小孔65の−X側の端点から微小孔65の中心位置に対応する第2X線投影像102の中心点O´までの距離をLa、第2X線投影像102の中心点O´から微小孔65の+X側の端点までの距離をLbとすると、La<Lbとなる。即ち、真円状の微小孔65が画像表示部45に第2X線投影像102として投影された結果、僅かに歪んだ形状で投影されることになる。このように歪んだ形状で投影された第2X線投影像102の中心点を計測すると、第2X線投影像102の真の中心点O´から位置ずれを生じた中心点O´´を真の中心点O´と誤って検出してしまうことになる。
【0050】
これに対して、図9に示すように、X線放射器10aの放射中心、X線カメラ10bの光軸L、及び位置補正用治具61の微小孔65の中心位置とが合致している場合は、微小孔65はその形状が歪むことなく画像表示部45に投影され、La=Lbとなる。このため、第2X線投影像102から、微小孔65の中心位置を正確に計測することができる。
【0051】
つまり、高精度な位置計測を行う場合には、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとが合致しているだけでなく、さらに微小孔65の中心位置も合致していることが望ましい。ただし、X線放射器10aの放射中心、X線カメラ10bの光軸L、及び位置補正用治具61の微小孔65の中心位置は、厳密に合致していなくともよく、要求される位置計測精度に応じた範囲で合致していればよい。
【0052】
本実施形態のように、多層プリント基板70に設けられた位置決めマーク70mの位置計測を行う場合にも、上述したように、X線放射器10aの放射中心、X線カメラ10bの光軸L、及び位置決めマーク70mの中心点が合致している状態で位置計測を行うことが望ましい。
【0053】
具体的には、次のように位置計測を行う。例えば図5に示すXY座標において、(2、1)の位置にある位置決めマーク70mの位置計測を行うべく、X線放射器10aとX線カメラ10bとを移動させた場合では、多層プリント基板70に位置決めマーク70mを印刷するときに生じた位置ずれや、多層プリント基板70自体が雰囲気の温度や湿度によって伸縮をするため、必ずしもX線カメラ10bの光軸Lと、(2、1)の座標位置にある位置決めマーク70mの中心点とが合致しない。
【0054】
このような状態で位置計測を行うと、上述したように正しく位置計測を行うことができないため、一旦、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとの位置ずれ量を計測し、その後、当該位置ずれ量がキャンセルされるように、X線カメラ10bとX線放射器10aとをその位置ずれ量に応じた距離だけ移動させ、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸L及び位置決めマーク70mの中心点とを位置計測の精度に要求される範囲内で合致させるようにする。
【0055】
そうすると、高精度に位置決めマーク70mの位置計測を行うことが可能となる。すなわち微小孔65が画像表示部45に第2X線投影像102として投影された際の歪み量が十分に小さい状態で位置計測が実行可能になる。このように本実施形態では一旦X線カメラ10bと位置決めマーク70mとの位置決めを行った後、1度だけ位置ずれ量をキャンセルするための操作を行う。これに限られず、さらに高精度に位置決めをしたい場合は、必要な精度が得られるまで、位置ずれをキャンセルするための操作を繰り返せばよい。
【0056】
本実施形態では、X線位置計測装置10のコントローラ81は、位置決めマーク70mに対する、X線カメラ10b及びX線放射器10aの相対位置を位置決めする際の第1Xモータ11、第2Xモータ21、第4Yモータ42の移動パルスを記憶している。そして、コントローラ81は、この移動パルスの記憶値に基づいて、X線位置計測装置10の機械原点に対する位置決めマーク70mの相対位置を把握することができる。
【0057】
ところで、上述したように本実施形態では、測定対象物の位置計測の際に、X線放射器10a及びX線カメラ10bをそれぞれ独立してX方向に移動させるため、移動先でX線放射器10a及びX線カメラ10bの停止位置が互いに位置ずれする現象が潜在的に生じる。このような位置ずれを生じ、X線放射器10aの放射中心及びX線カメラ10bの光軸Lとが合致していないと、次のような結果を招く。
【0058】
即ち、図10に、X線カメラ10bの光軸Lと微小孔65の中心位置とが合致しているが、X線カメラ10bの光軸LとX線放射器10aの放射中心とは合致していない状態を示す。図10に示すように、X線は投影領域が次第に拡大するように放射されるので、微小孔65の中心位置とX線カメラ10bの光軸Lとは合致しているにもかかわらず、投影部45に第2X線投影像102として投影された状態では、第2X線投影像102は、+X方向に位置ずれを生じた状態で投影されている。また、図8に示す場合と同様に画像表示部45に第2X線投影像102として投影された微小孔65の−X側の端点から第2X線投影像102の中心点O´までの距離をLa、第2X線投影像102の中心点O´から微小孔65の+X側の端点までの距離をLbとすると、La<Lbとなる。即ち、真円状の微小孔65が画像表示部45に第2X線投影像102として投影された結果、僅かに歪んだ形状となっている。
【0059】
このように歪んだ形状で投影された第2X線投影像102の中心点を計測すると、第2X線投影像102の真の中心点O´から位置ずれを生じた中心点O´´を真の中心点O´と誤って検出してしまうことになる。このような状態で、第2X線投影像102の歪みを矯正するため、第2X線投影像102の中心点O´´と、X線カメラ10bの光軸Lとが合致するように、位置補正用治具61(微小孔65)を移動させてしまうと、X線カメラ10bの光軸Lと、微小孔65の中心位置が合致していた状態から、却って位置ずれを生じ、位置測定の精度が悪化してしまう。
【0060】
そこで、本実施形態のX線位置計測装置10では、予め、X線放射器10a及びX線カメラ10bのX方向移動時における、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとの、XY平面上での位置ずれ量を測定し、補正量として記憶しておく。そして、実際に多層プリント基板の位置計測を行う場合に、その補正量を用いて、多層プリント基板70において位置計測を行う位置(位置決めマーク70mの位置)、X線放射器10aの放射中心及びX線カメラ10bの光軸Lの相対位置を補正する。
【0061】
以下、その一例について、図13のフローチャートを参照しながら説明する。ここでの位置計測処理は、記憶部47に格納されたプログラムによってコントローラ81が実行する。
【0062】
<X線放射器10a及びX線カメラ10bのX方向移動時の補正量の取得>
X線位置計測装置10を用いて実際に多層プリント基板の位置計測を行う前に、X線放射器10a及びX線カメラ10bのX方向移動時の補正量を取得する。ここでは、ワーク載置テーブル10c上に多層プリント基板が載置されていない状態とする。また、X線カメラ10bの拡大倍率は、所定の倍率(ここでは、×1)で一定としておく。この補正量の取得は、1枚の多層プリント基板の位置計測を行う都度に行うことが好ましい。しかしこれに限られず、複数枚の多層プリント基板の位置計測を行う都度に行っても良い。また、位置計測を行う多層プリント基板の枚数とは無関係に、時期を決めておいて行うことも可能である。
【0063】
最初に、図5に示す多層プリント基板70の原点位置(1、1)において、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lの位置合わせを行う。ここでは、多層プリント基板70の原点位置(1、1)とX線位置計測装置10の機械原点とが同一の座標位置にあるものとする。また、このとき、第1X方向移動体13に取り付けられた位置補正用治具61から、円盤治具63を取り外しておく。
【0064】
次に、図3(b)に示す位置補正用治具61と同じ構成の光軸合わせ用治具(図示せず)を用い、その固定用プレートをワーク載置テーブル10cの所定位置に固定する。ここで「所定の位置」とは、X線位置計測装置10に電源が投入され、上述した第1Xモータ11、第2Xモータ21、第2Yモータ22、第3Xモータ31、第3Yモータ32、第4Yモータ42による、X線位置計測装置10の機械原点への位置決め(リセット操作)が完了した状態で、固定用プレートをワーク載置テーブル10c(図3(a)参照)の所定位置に固定したときに、当該固定プレートに取り付けられた円盤治具63の微小孔65の中心位置(孔の中心座標)と、図5に示す原点位置(1、1)とが合致する位置である。
【0065】
そして、図6を参照して、画像表示部45の表示画面に投影された、ワーク載置テーブル10cの所定位置に固定した光軸合わせ用治具の微小孔65による第2X線投影像102が、画像表示部45の表示画面の基準位置(中心位置)Oに位置するように、第1Xモータ11、第2Xモータ21、第2Yモータ22、第3Xモータ31、第3Yモータ32(図1参照)を用い、X線放射器10aとX線カメラ10bとの相対位置を変更する。そして、この操作により、X線放射器10aの放射中心、X線カメラ10bの光軸L、及び多層プリント基板70の原点位置(機械原点)とを合致させる。
【0066】
次に、ワーク載置テーブル10cの所定位置に固定した上記固定用プレートを取り外すとともに、第1X方向移動体13に取り付けられた位置補正用治具61に円盤治具63を取り付ける(図3(a)、図3(b)参照)。
【0067】
そして、コントローラ81は、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとを合致させた図5に示す原点位置(機械原点)において、そのときの第2X線投影像102を用いて、位置補正用治具61の微小孔65の中心位置(第2X線投影像102の中心点O´)のXY座標を測定する。そして、コントローラ81は、記憶部47にそのXY座標を記憶する(ステップS1)。この操作によって、図5に示す多層プリント基板70の原点位置(機械原点)と、第1X方向移動体13に取り付けられた円盤治具63の微小孔65の中心位置とが関連付けられる。さらに、第1X方向移動体13に取り付けられた位置補正用治具61の微小孔65の中心位置と、X線カメラ10bの光軸Lとが合致するように予め位置合わせをしておく。
【0068】
この位置合わせは、例えば、次のようにして行う。即ち、まず、サーボモータ群44の動作により、第2X線投影像102の中心点O´と画像表示部45の表示画面の中心位置Oとを一致させ、X線放射器10aの放射中心及びX線カメラ10bの光軸Lと、ワーク載置テーブル10cの所定位置に固定した光軸合わせ用治具61の微小孔65の中心位置とを合致させる。その後、ワーク載置テーブル10cの所定位置に固定した固定用プレートの保持用開口64と、第1X方向移動体13に取り付けられた位置補正用治具61の保持用開口64とに、両開口64、64と同径のピン状の治具を垂直に挿通させる。これにより、両開口64、64のXY座標上での位置合わせが行なわれ、ワーク載置テーブル10cの所定位置に固定した光軸合わせ用治具の位置と、第1X方向移動体13に取り付けられた位置補正用治具61の位置とが合致する。
【0069】
なお、上述した方法によって、第1X方向移動体13に取り付けられた位置補正用治具61の微小孔65の中心位置と、X線カメラ10bの光軸Lとが合致するように予め位置合わせをしても、部品精度に起因する位置ずれ、例えば、嵌め合い公差程度の位置ずれが生ずる可能性がある。しかし、このような場合であっても、要求される精度を満足できる程度の位置ずれ量であれば、そのときの位置ずれ量を記憶部47に記憶しておき、この位置ずれ量を補正値に加算して位置計測操作を行えばよい。なお、本実施形態では、第1X方向移動体13に取り付けられた位置補正用治具61の微小孔65の中心位置と、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとは合致しており、位置ずれがないものとする。
【0070】
次に、コントローラ81は、第1Xモータ11、第2Xモータ12、第4Yモータ42を制御し、X線放射器10a及びX線カメラ10bを多層プリント基板70の位置決めマーク70mの各座標位置に順次移動させる(ステップS2)。
具体的には、X線放射器10a及びX線カメラ10bを、図5に示すXY座標において、(2、1)〜(n−1、1);(m、2)〜(n−1、m);(2、1)〜(m−1、1);(n、2)〜(n、m−1)の各座標位置に設けた位置決めマーク70mに順次移動させる。具体的には、X方向についてはX線放射器10a及びX線カメラ10bを、第1Xモータ11、第2Xモータ12を用いて移動させ、Y方向については、多層プリント基板70が載置されているワーク載置テーブル10cを、第4Xモータ42を用いて移動させる。
【0071】
次に、コントローラ81は、図7を参照して、全ての位置決めマーク70mの各座標位置において、第2X線投影像102が投影された画像表示部45の画像データを用い、第2X線投影像102の中心点O´のXY座標と、X線カメラ10bの光軸Lとの位置ずれ量(ΔX1、ΔY1)を測定するとともに、この位置ずれ量(ΔX1、ΔY1)を記憶部47に補正量として記憶する(ステップS3)。
具体的には、図7を参照して、記憶部47に記憶した、図5に示す原点位置(機械原点)における位置補正用治具61の微小孔65の中心位置(第2X線投影像102の中心点O´)のXY座標を画像表示部45の表示画面の中心位置Oとする。そして、この中心位置Oと、X線放射器10a及びX線カメラ10bがX方向に移動した先の座標位置での画像表示部45の表示画面における第2X線投影像102の中心点O´(微小孔65の中心位置)のXY座標とを比較して、補正量としての位置ずれ量(ΔX1、ΔY1)を測定する。そして、コントローラ81は、X線カメラ10bの拡大倍率(X線カメラ10bのZ方向位置)、位置決めマーク70mの各座標位置に対応づけて、その座標位置における補正量を記憶部47に順次記憶する。全ての位置決めマーク70mの各座標位置における補正量を記憶した後、位置補正用治具61から円盤治具63を取り外す。
【0072】
この後、X線位置計測装置10を用いて実際に多層プリント基板の位置計測を行うべく、ワーク載置テーブル10c上に多層プリント基板を載置固定する(図3(a)参照)。ここでは、多層プリント基板の位置決めマーク70mが、図5に示すXY座標において、(2、1)〜(n−1、1);(m、2)〜(n−1、m);(2、1)〜(m−1、1);(n、2)〜(n、m−1)の各座標位置に一致するように位置決めをした状態でワーク載置テーブル10c上に多層プリント基板を載置固定する。
【0073】
<多層プリント基板の位置計測>
次に、コントローラ81は、多層プリント基板の各位置決めマーク70mで位置計測を行うため、第1Xモータ11、第2Xモータ21、第4Yモータ42を制御し、X線放射器10a及びX線カメラ10bを上述した位置決めマーク70mの各座標位置に移動させる(ステップS4)。
【0074】
そして、コントローラ81は、X線放射器10a及びX線カメラ10bが移動した各座標位置において、X線カメラ10bの拡大倍率(X線カメラ10bのZ方向位置、ここでは×1)、位置決めマーク70mの当該座標位置に対応づけられて記憶部47に記憶された補正量(ΔX1、ΔY1)を用い、位置決めマーク70mの各座標位置ごとに、第2Xモータ21、第2Yモータ22(図1、図3(a)参照)を制御する。そして、コントローラ81は、その補正量がキャンセルされるように、X線放射器10aを第2Xモータ21、第2Yモータ22でXY方向にΔX1、ΔY1相当分移動させ、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとを合致させる(ステップS5)。ここでは、先の調整によって、X線カメラ10bの光軸Lと微小孔65の中心位置とは既に合致しているので、第2Xモータ21、第2Yモータ22でX線放射器10aを移動させ、当該X線放射器10aの放射中心と微小孔65の中心位置とを合致させるようにすればよい。
【0075】
そうすると、位置決めマーク70mの各位置座標に基づいて、X線放射器10aと、X線カメラ10bとをX方向にほぼ同じ距離だけ独立して移動させても、図6及び図12(a)に示すように、多層プリント基板の位置決めマーク70mの各座標位置において、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとが合致した状態で正確に位置計測が行われる。
【0076】
具体的には、図12(b)に示すように、多層プリント基板70に付された円マーク70bと、銅箔2に付された円マーク70aとが画像表示部45に投影されてなる第1X線投影像101の位置計測が、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとが合致した状態で行われる。この結果、多層プリント基板70の位置計測が正確に行なわれるようになる。
【0077】
上述の位置計測操作の結果、コントローラ81は、多層プリント基板70の全ての位置決めマーク70mについて位置計測を終えると、処理を終了する。
【0078】
また、上述したように、X線位置計測装置10では、X線カメラ10bをX線放射器10aに対して上下方向に移動させることで拡大倍率を調整することができる。図6に示すように、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとを合致させた状態から、X線カメラ10bを第1軌道レール51に沿って上方向に移動させると、X線カメラ10bの光軸中心は、設計上、この初期の光軸Lに沿って移動する。しかしながら、図11に示すように、実際には第1軌道レール51(図3(a)参照)のうねりなどの様々な要因によってX線カメラ10bの光軸中心は、当該初期の光軸Lから外れてしまう。その結果、図11に示すように、第2X線投影像102の中心点O´が画像表示部45の表示画面の中心位置Oから位置ずれを生じた状態となり、正確な位置計測を行うことができなくなる。
【0079】
そこで、本実施形態のX線位置計測装置10では、予め、X線カメラ10bの拡大倍率の変更時における、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとの位置ずれ量を測定し、補正量として記憶しておく。そして、実際にX線カメラ10bの拡大倍率を変更する場合に、その補正量を用いてX線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lの位置を補正する。
【0080】
以下、その一例について、図14のフローチャートを参照しながら説明する。ここでの位置計測処理は、記憶部47に格納されたプログラムによってコントローラ81が実行する。
【0081】
<X線カメラ10bの拡大倍率変更(Z方向移動)時の補正量の取得>
X線位置計測装置10を用いて実際にX線カメラ10bの拡大倍率の変更を行う前に、X線カメラ10bの拡大倍率変更時の補正量を取得する。ここでは、ワーク載置テーブル10c上に多層プリント基板が載置されていない状態とする。また、X線カメラ10bの初期の拡大倍率は、所定の倍率(ここでは、×1)としておく。この補正量の取得は、1枚の多層プリント基板の位置計測を行う都度に行うことが好ましい。しかしこれに限られず、複数枚の多層プリント基板の位置計測を行う都度に行っても良い。また、位置計測を行う多層プリント基板の枚数とは無関係に、時期を決めておいて行うことも可能である。
【0082】
ここでは、上述したX線放射器10aの放射中心及びX線カメラ10bの光軸Lと、機械原点との位置合わせが既に完了しているものとする。
次に、固定用プレート62を用いて、位置補正用治具61を、X線カメラ10bの下方側で第1X方向移動体13の所定位置に固定しておく(図3(a)、図3(b)参照)。
【0083】
そして、コントローラ81は、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとを合致させた図5に示す原点位置(機械原点)において、そのときの第2X線投影像102を用いて、位置補正用治具61の微小孔65の中心位置(第2X線投影像102の中心点O´)のXY座標を測定する。そして、コントローラ81は、記憶部47にそのXY座標を記憶する(ステップS11)。上述したように、第1X方向移動体13に取り付けられた位置補正用治具61の微小孔65の中心位置と、X線カメラ10bの光軸Lとは、部品精度に起因する位置ずれ、例えば、嵌め合い公差程度の位置ずれが生ずる可能性がある。しかし、このような場合であっても、要求される精度を満足できる程度の位置ずれ量であれば、そのときの位置ずれ量を記憶部47に記憶しておき、この位置ずれ量を補正量に加算して位置計測操作を行えばよい。なお、本実施形態では、第1X方向移動体13に取り付けられた位置補正用治具61の微小孔65の中心位置と、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとは合致しており、位置ずれがないものとする。
【0084】
次に、コントローラ81は、Zモータ43を制御し、X線カメラ10bをZ方向に沿って移動させ、X線カメラ10bの拡大倍率を所定倍率(例えば、×2、×4、×6)に順次変更する(ステップS12)。
【0085】
次に、コントローラ81は、図11を参照して、各拡大倍率に対応するX線カメラ10bのZ方向位置において、第2X線投影像102が投影された画像表示部45の画像データを用い、第2X線投影像102の中心点O´のXY座標と、X線カメラ10bの光軸Lとの位置ずれ量(ΔX2、ΔY2)を測定するとともに、この位置ずれ量(ΔX2、ΔY2)を記憶部47に補正量として記憶する(ステップS13)。
具体的には、図11を参照して、記憶部47に記憶した、図5に示す原点位置(機械原点)における位置補正用治具61の微小孔65の中心位置(第2X線投影像102の中心点O´)のXY座標を画像表示部45の表示画面の中心位置Oとする。そして、この中心位置Oと、X線カメラ10bがZ方向に移動した先の座標位置での画像表示部45の表示画面における第2X線投影像102の中心点O´(微小孔65の中心位置)のXY座標とを比較して、補正量としての位置ずれ量(ΔX2、ΔY2)を測定する。そして、コントローラ81は、X線カメラ10bの拡大倍率(X線カメラ10bのZ方向位置)に対応づけて、そのZ方向位置における補正量を記憶部47に順次記憶する。全ての拡大倍率における補正量を記憶した後、位置補正用治具61から円盤治具63を取り外す。
【0086】
この後、X線位置計測装置10を用いて実際に多層プリント基板の位置計測を行うべく、ワーク載置テーブル10c上に多層プリント基板を載置固定する(図3(a)参照)。ここでは、多層プリント基板の位置決めマーク70mが、図5に示すXY座標において、(2、1)〜(n−1、1);(m、2)〜(n−1、m);(2、1)〜(m−1、1);(n、2)〜(n、m−1)の各座標位置に一致するように位置決めをした状態でワーク載置テーブル10c上に多層プリント基板を載置固定する。
【0087】
<多層プリント基板の位置計測>
次に、コントローラ81は、多層プリント基板の所定の位置決めマーク70mで位置計測を行うため、第1Xモータ11、第2Xモータ21、第4Yモータ42を制御し、X線放射器10a及びX線カメラ10bを上述した位置決めマーク70mのいずれかの座標位置に移動させる(ステップS14)。
【0088】
そして、コントローラ81は、X線カメラ10bの拡大倍率(ここでは初期の拡大倍率×1である)、位置決めマーク70mの座標位置に対応づけられて記憶部47に記憶された補正量(ΔX1、ΔY1)を用い、第2Xモータ21、第2Yモータ22(図1、図3(a)参照)を制御する。そして、コントローラ81は、その補正量がキャンセルされるように、X線放射器10aを第2Xモータ21、第2Yモータ22でXY方向にΔX1、ΔY1相当分移動させ、微小孔65の中心位置(画像表示部45の表示画面の中心位置O)、X線放射器10aの放射中心及びX線カメラ10bの光軸Lを合致させる(ステップS15)。ここでは、先の調整によって、X線カメラ10bの光軸Lと微小孔65の中心位置とは既に合致しているので、第2Xモータ21、第2Yモータ22でX線放射器10aを移動させ、当該X線放射器10aの放射中心と微小孔65の中心位置とを合致させるようにすればよい。
【0089】
さらに、コントローラ81は、X線放射器10a及びX線カメラ10bが移動した所定の座標位置において、Zモータ43を制御し、X線カメラ10bの拡大倍率の設定を行う(ステップS16)。
【0090】
そして、コントローラ81は、X線カメラ10bが倍率変更に伴って移動したZ方向位置において、記憶部47に、X線カメラ10bの当該拡大倍率(X線カメラ10bのZ方向位置)に対応づけられて記憶された補正量(ΔX2、ΔY2)を用い、第3Xモータ31、第3Yモータ32(図1、図4参照)を制御する。そして、コントローラ81は、その補正量がキャンセルされるように、X線カメラ10bを第3Xモータ31、第3Yモータ32でXY方向にΔX2、ΔY2相当分移動させ、微小孔65の中心位置、X線放射器10aの放射中心及びX線カメラ10bの光軸Lを合致させる(ステップS17)。ここでは、先の調整によって、X線放射器10aの放射中心と微小孔65の中心位置とは既に合致しているので、第3Xモータ31、第3Yモータ32でX線カメラ10bを移動させ、当該X線カメラ10bの光軸L及び微小孔65の中心位置とを合致させるようにすればよい。
【0091】
そうすると、図6、図12(a)及び図12(b)に示すように、X線カメラ10bの各拡大倍率において、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとが合致した状態で正確に位置計測が行われる。
【0092】
上述の位置計測操作の結果、コントローラ81は、多層プリント基板70の所定の位置決めマーク70mについてX線カメラ10bの所定の拡大倍率での位置計測を終えると、処理を終了する。
【0093】
以上説明したように、本実施形態のX線位置計測装置10によれば、X線放射器10a及びX線カメラ10bがそれぞれ独立してXY座標(多層プリント基板の表面)に沿って移動する場合に、位置補正用治具61を備えることで、X線放射器10a及びX線カメラ10bが移動した先での互いの相対的な位置を把握することが可能となる。そして、位置計測の際に、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとが合致するように、X線カメラ10bの位置を適正に補正することができるようになる。そのため、従来のようにコ字状フレームでX線カメラ10b及びX線放射器10aを保持して位置精度を確保する構成が不要となり、X線位置計測装置全体の小型化が実現できる。また、X線放射器10a及びX線カメラ10bがそれぞれ独立してXY座標に沿って移動する場合には、位置精度の確保のために高精度なXY送り機構や高剛性な機械筐体などが必要となるが、そのような構成を備えなくても高精度な位置計測が可能となる。したがって、本実施形態のX線位置計測装置10によれば、高精度な位置計測が可能でありながら、小型で低価格なX線位置計測装置を実現することが可能となる。
【0094】
また、本実施形態のX線位置計測装置10によれば、互いの相対的な位置関係がZ方向に変更可能に設けられたX線カメラ10bとX線放射器10aを、Z方向に相対的に移動させ、その結果を位置補正用治具61によって測定し、移動前後において互いの中心位置の座標がXY方向にずれていないか確認することが可能となる。そのため高精度なZ方向(上下方向)の送り機構や、高剛性な筐体などを備えていなくても高精度な位置計測が可能となる。さらに、X線放射器10a及びX線カメラ10bがXY座標に沿って移動可能とされている場合には、XY座標上の任意の座標位置で、Z方向に沿って、X線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとの位置ずれ量を測定、記憶するとともに、補正に使用することが可能となるので、高精度な位置計測が実現できる。
【0095】
また、本実施形態のX線位置計測装置10によれば、位置計測操作の間に発生する熱によってX線位置計測装置10の各部が熱膨張することによるX線放射器10aの放射中心とX線カメラ10bの光軸Lとの位置ずれが発生しても、その位置ずれを適切に補正することで、測定精度が悪化することを防止できるようになる。
【0096】
例えば、X線管には、位置計測操作の間に陰極と陽極との間に高電圧が印加され、フィラメントから放出された熱電子がターゲットの焦点に衝突することによりX線が発生すると共に、ターゲットに熱が発生する。この熱により、陽極の各部が熱膨張し、その結果ターゲットがX線管軸方向に沿って陰極側(例えば本実施形態における−X方向)へ移動する。この陽極の熱膨張に起因するターゲットの移動の結果、焦点の位置も同量だけ−X方向に変位することになる。
【0097】
このように焦点の位置が位置ずれを生じてしまうと、X線放射器10aの放射中心が位置ずれを生じ、X線カメラ10bの光軸Lと合致しなくなり、上述したように位置計測精度が悪化する。
【0098】
しかしながら、本実施形態のX線位置計測装置10によれば、位置補正用治具61を備えることで、X線放射器10aの陰極の熱変位に由来する、X線放射器の放射中心とX線カメラの光軸Lとの位置ずれ量を検出し、適切に補正することもできるようになる。
【0099】
例えば、全ての位置決めマーク70mの各座標位置における補正量を測定した後の所定のタイミングで、いずれかの位置決めマーク70mの位置補正用治具61を用いて第2X線投影像102の位置計測を行い、このときに得られた補正量と、記憶部47に記憶してある補正量とを比較して、両補正量の差異の有無を検出する。そして両補正量に差異があった場合には、全ての位置決めマーク70mの各座標位置における補正量を測定し直して、その後に得られた補正量を記憶部47に補正量として記憶する。そして、以後の位置計測操作には、その後に得られた補正量を用いてX線放射器10aとX線カメラ10bの光軸Lとの位置合わせを行う。
【0100】
本実施形態によれば、上述したように位置計測処理を行うので、X線放射器10aが熱変位を起こしたとしても、測定精度を確保することができる。そのため、X線放射器10aの熱変位を抑えるための様々な対策を行う必要がなくなる。したがって、X線位置計測装置10によって高精度な位置計測が可能になるとともに、そのコストを抑えることができる。
【0101】
なお、上記実施形態では、測定対象物を7層構造の多層プリント基板70とした。しかしこれに限られず、測定対象物は、6層以下又は8層以上の多層プリント基板であってもよいし、その他のワークであってもよい。
【0102】
上記実施形態では、位置補正用治具61は、X線カメラ10bとの相対位置が決定された状態でX線放射器10a及びX線カメラ10bとの間に介在配置した。しかしこれに限られず、X線放射器10aとの相対位置が決定された状態で介在配置してもよい。
【0103】
上記実施形態では、X線カメラ10bをワーク載置テーブル10cと垂直な方向にX線放射器10aに対して移動させることで、このX線カメラ10bの拡大倍率を変更した。しかしこれに限られず、X線放射器10aをX線カメラ10bに対して移動させることでX線カメラ10bの拡大倍率を変更する構成とすることも可能である。
【0104】
上記実施形態では、位置補正用治具61は、矩形平板状の固定用プレート62と、この固定用プレート62に設けられた保持用開口64に着脱可能に保持され、中央部に微小孔65を有する円盤治具63とから構成した(図3(b)参照)。しかしこれに限られず、円盤治具63に代えて、固定用プレート62の所定位置に設けた支点に対して回動し、幅方向中央部に微小孔65を有するプレート体としてもよい。このプレート体では、位置決めマーク70mの位置計測を行う場合には位置計測に支障をきたさないようにX線カメラ10bの下方から退避し、第2X線投影像102の位置計測を行う場合にはX線カメラ10bの下方であって位置計測が可能な所定位置に位置決めされるようになる。
【0105】
上記実施形態では、位置決めマーク70mの座標位置ごと、又は、X線カメラ10bの拡大倍率ごとに、予め取得した補正量を用いてX線放射器10a及びX線カメラ10bを移動する位置を修正した。しかしこれに限られず、当該補正量に基づいて、位置計測の結果得られたデータそのものを修正することも可能である。
【0106】
上記実施形態では、X線位置計測装置10による位置計測は、全ての位置決めマーク70mにおいて、X線カメラ10bの拡大倍率を一定とするか、又は、所定の位置決めマーク70mにおいて、X線カメラ10bの拡大倍率を変更して行った。しかしこれに限られず、位置決めマーク70mの座標位置ごとに、X線カメラ10bの拡大倍率を複数段階で変更し、その複数段階の拡大倍率とともに、位置決めマーク70mの座標位置、及び、位置ずれ量の測定値を補正量として記憶する。そして、位置決めマーク70mの座標位置ごとに拡大倍率を変更しながら、その補正量を使用してX線放射器10aの放射中心及びX線カメラ10bの光軸Lを合致させ、位置計測を行うことも可能である。
【0107】
上記実施形態では、X線位置計測装置10による位置計測にあたり、記憶部47に格納した位置計測用プログラムをコンピュータであるCPUを有するコントローラ81が実行した。しかしこれに限られず、運搬可能な記録媒体に記録した位置計測用プログラムをコントローラ81が実行することもできるし、インターネット経由で伝送される位置計測用プログラムをコントローラ81が実行することも可能である。
【0108】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0109】
10 X線位置計測装置
10a X線放射器
10b X線カメラ
10c ワーク載置テーブル
10d 基台
10e 立設プレート
10f 溝部
11 第1Xモータ
13 第1X方向移動体
14 第2X方向移動体
15 Z方向移動体
21 第2Xモータ
22 第2Yモータ
31 第3Xモータ
32 第3Yモータ
42 第4Yモータ
43 Zモータ
44 サーボモータ群
45 画像表示部
46 X線放射器駆動部
47 記憶部
48 入力部
51 第1軌道レール
52 第2軌道レール
53 第3軌道レール
54 第4軌道レール
61 位置補正用治具
62 固定用プレート
63 円盤治具
64 保持用開口
65 微小孔
70 多層プリント基板
70m 位置決めマーク
70a 大径の円マーク
70b 小径の円マーク
71 表側プリント基板
72 裏側プリント基板
81 マイクロコンピュータ
100 受光面
101 第1X線投影像
102 第2X線投影像
L 光軸
O 画像表示部45の表示画面の中心位置
O´ 第2X線投影像の真の中心点
O´´ 第2X線投影像の見かけの中心点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線放射器及びX線カメラと、
測定対象物を載置するワーク載置テーブルと、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線放射器を当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第1移動部と、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線カメラを当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第2移動部と、
前記X線放射器から放射され、前記測定対象物を透過したX線が第1X線投影像として投影される画像表示部と、
前記X線放射器及び前記X線カメラの間に介在配置され、前記X線放射器から放射されるX線を前記画像表示部に位置把握の可能な第2X線投影像として投影させるための位置補正用治具と、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラをそれぞれ独立して前記ワーク載置テーブルに対して移動させる制御部と、
少なくとも前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を補正量として記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記測定対象物で位置計測を行う位置に移動させる第1移動手段と、
前記位置計測を行う位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該計測位置に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第1測定記憶手段と、
前記第1移動部及び第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記位置計測を行う位置に移動させる第2移動手段と、
前記位置計測を行う位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第1位置計測手段と、を備える、
ことを特徴とするX線位置計測装置。
【請求項2】
前記X線放射器及び前記X線カメラの内の一方を前記ワーク載置テーブルと垂直な方向に移動させることで、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第3移動部をさらに備え、
前記制御部は、前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第1拡大倍率変更手段と、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該拡大倍率に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第2測定記憶手段と、
前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第2拡大倍率変更手段と、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第2位置計測手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のX線位置計測装置。
【請求項3】
前記測定対象物が、位置計測を行う位置に位置決めマークが付されている多層プリント配線板であることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線位置計測装置。
【請求項4】
X線放射器及びX線カメラと、
測定対象物を載置するワーク載置テーブルと、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線放射器を当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第1移動部と、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線カメラを当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第2移動部と、
前記X線放射器から放射され、前記測定対象物を透過したX線が第1X線投影像として投影される画像表示部と、
前記X線放射器及び前記X線カメラの間に介在配置され、前記X線放射器から放射されるX線を前記画像表示部に位置把握の可能な第2X線投影像として投影させるための位置補正用治具と、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラをそれぞれ独立して前記ワーク載置テーブルに対して移動させる制御部と、
少なくとも前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を補正量として記憶する記憶部と、を備えたX線位置計測装置で使用される位置計測方法であって、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記測定対象物で位置計測を行う位置に移動させる第1移動ステップと、
前記位置計測を行う位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該計位置に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第1測定記憶ステップと、
前記第1移動部及び第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記位置計測を行う位置に移動させる第2移動ステップと、
前記位置計測を行う位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第1位置計測ステップと、を備える、
ことを特徴とするX線位置計測装置の位置計測方法。
【請求項5】
前記X線位置計測装置は、前記X線放射器及び前記X線カメラの内の一方を前記ワーク載置テーブルと垂直な方向に移動させることで、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第3移動部をさらに備え、
前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第1拡大倍率変更ステップと、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該拡大倍率に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第2測定記憶ステップと、
前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第2拡大倍率変更ステップと、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第2位置計測ステップと、をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載のX線位置計測装置の位置計測方法。
【請求項6】
X線放射器及びX線カメラと、
測定対象物を載置するワーク載置テーブルと、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線放射器を当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第1移動部と、
前記ワーク載置テーブル上の測定対象物に対して、前記X線カメラを当該ワーク載置テーブル面に沿って移動させる第2移動部と、
前記X線放射器から放射され、前記測定対象物を透過したX線が第1X線投影像として投影される画像表示部と、
前記X線放射器及び前記X線カメラの間に介在配置され、前記X線放射器から放射されるX線を前記画像表示部に位置把握の可能な第2X線投影像として投影させるための位置補正用治具と、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラをそれぞれ独立して前記ワーク載置テーブルに対して移動させる制御部と、
少なくとも前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を補正量として記憶する記憶部と、を備えたX線位置計測装置の前記制御部に設けられるコンピュータを、
前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記測定対象物で位置計測を行う位置に移動させる第1移動手段、
前記位置計測を行う位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該計測位置に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第1測定記憶手段、
前記第1移動部及び第2移動部を制御し、前記X線放射器及び前記X線カメラを前記位置計測を行う位置に移動させる第2移動手段、
前記位置計測を行う位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第1位置計測手段、として機能させる、
ことを特徴とするX線位置計測装置の位置計測用プログラム。
【請求項7】
前記X線位置計測装置は、前記X線放射器及び前記X線カメラの内の一方を前記ワーク載置テーブルと垂直な方向に移動させることで、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第3移動部をさらに備え、
前記コンピュータを、前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第1拡大倍率変更手段、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記画像表示部における基準位置と前記第2X線投影像の位置との位置ずれ量を測定するとともに、前記位置ずれ量を当該拡大倍率に対応する補正量として前記記憶部に記憶する第2測定記憶手段、
前記第3移動部を制御し、前記X線カメラの拡大倍率を変更する第2拡大倍率変更手段、
所定の拡大倍率が実現される前記X線カメラの位置において、前記補正量に基づいて前記第1移動部及び前記第2移動部を制御し、前記X線放射器の放射中心及び前記X線カメラの光軸を合致させるとともに、前記測定対象物の位置計測を行う第2位置計測手段、としてさらに機能させる、ことを特徴とする請求項6に記載のX線位置計測装置の位置計測用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−88170(P2012−88170A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234971(P2010−234971)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】