X線光電子分光装置およびX線光電子分光方法
【課題】測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを短時間に正確に取得することができるX線光電子分光装置およびX線光電子分光方法を提供する。
【解決手段】X線源10から出力されたX線3の照射により測定対象物2で発生した電子4が電子レンズ20およびエネルギー分析器30を経て検出器40に到達したときに検出器40により得られたエネルギースペクトルを、電子レンズ20による電子4の減速が調整されて測定対象物2のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器40により得られたエネルギースペクトルに基づいて補正する。
【解決手段】X線源10から出力されたX線3の照射により測定対象物2で発生した電子4が電子レンズ20およびエネルギー分析器30を経て検出器40に到達したときに検出器40により得られたエネルギースペクトルを、電子レンズ20による電子4の減速が調整されて測定対象物2のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器40により得られたエネルギースペクトルに基づいて補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線光電子分光装置およびX線光電子分光方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線光電子分光(XPS: X-ray PhotoelectronSpectroscopy)技術は、X線を測定対象物に入射させたときに励起されて放出される光電子のエネルギースペクトルを検出することにより、その測定対象物の表面近傍領域の元素組成や元素の結合情報を得ることができる。X線光電子分光技術は、例えば生体分子や有機分子の電子状態を計測することができる。
【0003】
X線光電子分光技術において、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを検出する検出器として、マイクロチャネルプレート(MCP: Micro-Channel Plate)を含む構成のものが用いられる。MCPは、入射した電子等を2次元的に検出してチャネル毎に増倍することができ、所定の位置分解能を有している。
【0004】
しかし、MCPは、各チャネルの電子増倍のゲインが一様であるとは限らない。また、X線光電子分光技術において用いられる場合、MCPは、チャネルによって異なるエネルギーの電子が入射されるので、入射される電子のエネルギーによっても電子増倍のゲインが異なる。さらに、MCPに高電圧が印加される際に生じる電界ムラにより光電子の軌跡が曲げられ、これにより、図16に示されるように、MCPにより検出されるエネルギースペクトルが歪む場合がある。図16は、従来のX線光電子分光技術により得られたABS樹脂のN1sのエネルギースペクトルを示す図である。
【0005】
このようなエネルギースペクトルの歪みの問題を解消するため、特許文献1,2に記載された方法をX線光電子分光技術に適用して、以下の第1〜第3の方法を採用することが考えられる。第1の方法では、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを、測定対象物がない状態で検出されたエネルギースペクトルに基づいて補正する。第2の方法では、検出器により検出されるエネルギー範囲を微少量ずつ異ならせた各条件でエネルギースペクトルを検出して、これらのエネルギースペクトルを平均化処理する。また、第3の方法では、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを、MCPの各チャネルの電子増倍のゲイン特性に基づいて補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−300899号公報
【特許文献2】特開平9−187024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の第1〜第3の方法は以下のような問題点を有している。第1の方法では、測定対象物がない状態でエネルギースペクトルを検出する際に、測定対象物を載置するための基板にX線が照射されて該基板から放出された光電子のエネルギースペクトルが検出されることになる。測定対象物が含有する元素と同じ元素を基板が含有する場合、測定対象物がない状態で検出されたエネルギースペクトルにその元素に関連する信号が現れるので、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを補正することができない。
【0008】
第2の方法では、検出器により検出されるエネルギー範囲を微少量ずつ異ならせた各条件でエネルギースペクトルを検出することから、これらのエネルギースペクトルを取得するのに長時間を要する。また、エネルギー範囲を設定変更するための時間や、エネルギー範囲を設定変更した後に安定動作可能な状態に到達するまでの待機時間も必要である。
【0009】
また、X線光電子分光技術において用いられる場合、MCPのチャネルによって異なるエネルギーの電子が入射され、入射される電子のエネルギーによって電子増倍のゲインが異なるので、第3の方法を採用することはできない。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを短時間に正確に取得することができるX線光電子分光装置およびX線光電子分光方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のX線光電子分光装置は、測定対象物に照射すべきX線を出力するX線源と、X線源から出力されたX線が測定対象物に照射されることにより測定対象物で発生した電子を減速させるとともに収束させる電子レンズと、電子レンズにより収束された電子をエネルギー分散させるエネルギー分析器と、エネルギー分析器を経た電子のエネルギースペクトルを検出する検出器と、検出器により検出されたエネルギースペクトルを処理する処理部と、を備えることを特徴とする。さらに、処理部が、X線源から出力されたX線の照射により測定対象物で発生した電子が電子レンズおよびエネルギー分析器を経て検出器に到達したときに検出器により得られた補正前エネルギースペクトルを、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られた第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のX線光電子分光装置では、処理部が、補正前エネルギースペクトルを、第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られた第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正するのが好適である。
【0013】
本発明のX線光電子分光方法は、測定対象物に照射すべきX線を出力するX線源と、X線源から出力されたX線が測定対象物に照射されることにより測定対象物で発生した電子を減速させるとともに収束させる電子レンズと、電子レンズにより収束された電子をエネルギー分散させるエネルギー分析器と、エネルギー分析器を経た電子のエネルギースペクトルを検出する検出器と、を備えるX線光電子分光装置を用いて、X線源から出力されたX線の照射により測定対象物で発生した電子が電子レンズおよびエネルギー分析器を経て検出器に到達したときに検出器により得られた補正前エネルギースペクトルを、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られた第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正することを特徴とする。
【0014】
また、本発明のX線光電子分光方法は、補正前エネルギースペクトルを、第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られた第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正するのが好適である。
【0015】
ここでフェルミ準位とは、図17に示される光電子スペクトルにおいて、束縛エネルギーがゼロの点で示される準位であり、フェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯とは、図17において束縛エネルギーがマイナス、すなわちゼロ点より右側にある禁止帯のことである。
【0016】
フェルミ準位より高束縛エネルギー側の禁止帯では、試料中で発生した光電子が表面から脱出するまでの間に、他の原子によって非弾性散乱を受けエネルギーを失うバックグラウンドが光電子スペクトルに生じる。その結果、フェルミ準位よりも高束縛エネルギー側では、禁止帯領域であってもバックグラウンドとして試料由来の信号を検出してしまうという問題がある。この問題を回避するため、本発明では試料に依存しないフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯のエネルギースペクトル(第1補正用エネルギースペクトル)を使用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを短時間に正確に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のX線光電子分光装置1の構成図である。
【図2】第1実施形態のX線光電子分光装置1の検出器40により検出される像およびエネルギースペクトルの一例を示す図である。
【図3】禁止帯に相当する束縛エネルギーの各値で測定して得られたエネルギースペクトルを示す図である。
【図4】第1補正用エネルギースペクトルを示す図である。
【図5】背景技術欄で挙げた第2の方法により得られるエネルギースペクトル(走査XPS)、補正前エネルギースペクトル(非走査XPS_補正前)、および、第1実施形態による補正後エネルギースペクトル(非走査XPS_補正後)、それぞれを示す図である。
【図6】第1実施形態のX線光電子分光装置1を用いて測定したAu板のAu4fのエネルギースペクトルを示す図である。
【図7】第2実施形態のX線光電子分光装置2の構成図である。
【図8】補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。
【図9】背景技術欄で挙げた第2の方法により得られるエネルギースペクトルを示す図である。
【図10】各禁止帯で測定されて規格化された第2補正用エネルギースペクトルを示す図である。
【図11】測定エネルギーと各ピクセルの強度との間の関係を示すグラフである。
【図12】a(x),b(x) それぞれを示すグラフである。
【図13】図12に示されるa(x),b(x)を用いた(2)式に従って、図8に示されたエネルギースペクトルを第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。
【図14】a'(x),b'(x) それぞれを示すグラフである。
【図15】図14に示されるa'(x),b'(x)を用いた上記(2)式に従って、図8に示されたエネルギースペクトルを第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。
【図16】従来のX線光電子分光技術により得られたABS樹脂のN1sのエネルギースペクトルを示す図である。
【図17】フェルミ準位を説明するための光電子スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のX線光電子分光装置1の構成図である。X線光電子分光装置1は、X線を測定対象物2に入射させたときに励起されて放出される光電子のエネルギースペクトルを検出するものであって、X線源10,電子レンズ20,エネルギー分析器30,検出器40および処理部50を備える。
【0021】
X線源10は、測定対象物2に照射すべきX線3を出力する。X線源10は、測定対象物2にX線3を照射することで、測定対象物2の表面近傍領域に存在する元素の内殻電子を励起し、この電子を光電子4として放出させる。X線源10は、X線3として例えばMgKα(1253.6eV)やAlKα(1486.6eV)を出力する。X線源10として例えばツインアノードX線源(VG社製XR3E3)が用いられる。
【0022】
電子レンズ20は、X線源10から出力されたX線3が測定対象物2に照射されることにより測定対象物2で励起されて発生した電子4を入力し、この電子4を減速させるとともに収束させる。
【0023】
エネルギー分析器30は、電子レンズ20により収束された電子4をエネルギー分散させる。エネルギー分析器30は、同心半球型のものであって、電子レンズ20により収束された電子4のうちスリット31を通過した電子4の飛行行路を電場により曲げて、その電子4をスリット32から検出器40へ出力する。エネルギー分析器30として例えばVG社製CLAM4(半径150mm、分解能800meV)が用いられる。
【0024】
検出器40は、エネルギー分析器30を経た電子4のエネルギースペクトルを検出する。検出器40は、MCP41,蛍光スクリーン42およびCCD43を含む。MCP41は、入射した電子を2次元的に検出してチャネル毎に増倍し、その増倍した電子を蛍光スクリーン42へ出力する。蛍光スクリーン42は、MCP41によりチャネル毎に増倍されて出力された電子を入力し、単位時間当たりに到達した電子の個数に応じた輝度の可視光を発生する。CCD43は、蛍光スクリーン42における可視光像を撮像する。蛍光スクリーン42とCCD43の撮像面との間に、複数の光ファイバが束ねられたファイバオプティカルプレートが設けられているのが好適である。CCD43として例えば浜松ホトニクス社製C4880が用いられる。
【0025】
なお、X線3および電子4それぞれが伝搬する空間は真空に維持される。処理部50は、検出器40により検出されたエネルギースペクトルを処理する。その処理内容については後述する。
【0026】
このように構成されるX線光電子分光装置1において、X線源10から出力されたX線3が測定対象物2に照射されると、その測定対象物2の表面近傍領域に存在する元素の内殻電子が励起されて光電子4として放出される。この電子4は、電子レンズ20により減速され収束される。電子レンズ20により収束された電子4のうちスリット31を通過した電子はエネルギー分析器30によりエネルギー分散され、エネルギー分散された電子のうちスリット32を通過した電子はMCP41に到達する。MCP41に入射した電子はMCP41のチャネル毎に増倍され、その増倍された電子が蛍光スクリーン42に入射して可視光像が得られ、その可視光像がCCD43により撮像される。
【0027】
電子レンズ20による電子の減速が調整されることにより、スリット31を通過してエネルギー分析器30に入力される電子のエネルギー帯域が設定される。また、エネルギー分析器30のパスエネルギーが調整されることにより、エネルギー分析器30における電子の減速率が設定され、エネルギー分析器30からスリット32を通過してMCP41に入射する電子のエネルギー幅が設定される。
【0028】
図2は、第1実施形態のX線光電子分光装置1の検出器40により検出される像およびエネルギースペクトルの一例を示す図である。同図の左右方向は電子エネルギー軸に相当する。検出器40のCCD43による撮像で得られる画像が同図の下部分に示されている。また、この像を縦方向に積算して得られるエネルギースペクトルが同図の上部分に示されている。処理部50は、このようにCCD43による撮像で得られた画像からエネルギースペクトルを求める。
【0029】
特に、本実施形態のX線光電子分光装置1では、処理部50は、X線源10から出力されたX線の照射により測定対象物2で発生した電子が電子レンズ20およびエネルギー分析器30を経て検出器40に到達したときに検出器40により得られたエネルギースペクトル(補正前エネルギースペクトル)を、電子レンズ20による電子の減速が調整されて測定対象物2の禁止帯に相当する帯域のものとして検出器40により得られたエネルギースペクトル(第1補正用エネルギースペクトル)に基づいて補正する。このような補正処理により、処理部50は、測定対象物2から放出された光電子のエネルギースペクトルを正確に取得することができる。
【0030】
以下では、ABS樹脂を測定する具体例において、第1実施形態のX線光電子分光装置における第1補正用エネルギースペクトルを用いた補正方法について説明するとともに、第1実施形態のX線光電子分光方法について説明する。禁止帯には測定対象物の電子状態が存在しないので、エネルギー分析器30を通過する光電子は存在しない筈である。電子レンズ20による電子の減速が調整されて測定対象物2の禁止帯に相当する帯域のものとして検出器40により得られるエネルギースペクトルは、測定対象物2に由来するものではなく、浮遊電子のみによるものと考えられる。浮遊電子のエネルギー分布は均一であるので、このエネルギースペクトルは、測定対象物2によらず、検出器40における電場ムラやMCP42のゲインのバラツキを表す。そこで、このエネルギースペクトルは第1補正用エネルギースペクトルとして用いられ得る。
【0031】
図3は、禁止帯に相当する束縛エネルギーの各値で測定して得られたエネルギースペクトルを示す図である。ここでは、電子レンズによる電子の減速が調整されて束縛エネルギー(B.E.)が −30eV,−50eV,−70eV の各値に相当する帯域で100秒間に亘って測定されエネルギースペクトルが求められた。これら3つのエネルギースペクトルの間には大きな相違は認められなかった。以上の結果から、束縛エネルギーが−50eV とされて2000秒間(10秒×200回)に亘って測定されて求められたエネルギースペクトルが第1補正用エネルギースペクトルとされた。図4は、第1補正用エネルギースペクトルを示す図である。
【0032】
一方、測定対象物2としてのABS樹脂のN1sを測定しようとする場合、束縛エネルギーが406eVとされ、また、エネルギー分析器30のパスエネルギーが150eVとされて、500秒間(10秒×50回)に亘って測定され、補正前エネルギースペクトルが取得された。この補正前エネルギースペクトルは、X線源10から出力されたX線の照射により測定対象物2としてのABS樹脂で発生した電子が電子レンズ20およびエネルギー分析器30を経て検出器40に到達したときに検出器40により得られたものである。
【0033】
そして、処理部50により、補正前エネルギースペクトルが第1補正用エネルギースペクトルで除算されて、補正後エネルギースペクトルが得られた。図5は、背景技術欄で挙げた第2の方法により得られるエネルギースペクトル(走査XPS)、補正前エネルギースペクトル(非走査XPS_補正前)、および、第1実施形態による補正後エネルギースペクトル(非走査XPS_補正後)、それぞれを示す図である。
【0034】
この図から判るように、補正前エネルギースペクトルは、走査XPSスペクトルと比べると構造に大きな違いがある。一方、本実施形態による補正後エネルギースペクトルは、走査XPSスペクトルと比べると構造がよい一致を示す。また、本実施形態による補正後エネルギースペクトルでは、束縛エネルギー(B.E.)405.5eV付近に、走査XPSスペクトルには認められない肩構造が認められる。
【0035】
したがって、検出器により検出されるエネルギー範囲を微少量ずつ異ならせた各条件でエネルギースペクトルを検出して平均化処理をする第2の方法(走査XPS)に対し、第1補正用エネルギースペクトルを用いて補正を行う本実施形態では、検出されるエネルギー範囲について非走査でエネルギースペクトルを取得することができるので、その取得を短時間で行うことができる。また、本実施形態では、エネルギースペクトルの細かい構造をも見ることができる。
【0036】
また、非走査でエネルギースペクトルを取得することができる本実施形態は、時間分解XPS測定の際にも利点を有する。従来の時間分解XPS測定は、例えば測定対象物へのレーザ光照射時を起点とする可逆的反応に対する測定のみが行われてきた。これに対して、本実施形態のX線光電子分光装置1またはX線光電子分光方法を用いて非走査で時間分解XPS測定を行うことにより、測定時間の短縮が可能であるだけでなく、不可逆的反応に対する測定も可能である。
【0037】
図6は、第1実施形態のX線光電子分光装置1を用いて測定したAu板のAu4fのエネルギースペクトルを示す図である。ここでは、3秒間に亘って測定が行われた。この図から、ピーク強度が強い測定対象物に対しては秒オーダー又はサブ秒オーダーの時間分解XPS測定が可能であることが確認された。今後、より高強度のX線源が開発されればマイクロ秒オーダーまたはナノ秒オーダーの不可逆反応時間分解XPS測定も可能になると期待される。
【0038】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態のX線光電子分光装置2の構成図である。X線光電子分光装置2は、X線を測定対象物2に入射させたときに励起されて放出される光電子のエネルギースペクトルを検出するものであって、X線源10,電子レンズ20,エネルギー分析器30,検出器40および処理部60を備える。
【0039】
図1に示された第1実施形態のX線光電子分光装置1の構成と比較すると、この図7に示されるX線光電子分光装置2は、処理部50に替えて処理部60を備える点で相違する。処理部60は、検出器40により得られた画像からエネルギースペクトルを求め、このエネルギースペクトルを処理する。
【0040】
本実施形態のX線光電子分光装置2では、処理部60は、第1実施形態の場合と同様に補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後、さらに、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られたエネルギースペクトル(第2補正用エネルギースペクトル)に基づいて補正する。このような補正処理により、処理部60は、測定対象物2から放出された光電子のエネルギースペクトルを更に正確に取得することができる。
【0041】
以下では、Ag/Si、Ag/Si+NaBr および Ag/Si+NaBr+Na2S2O3それぞれを測定する具体例について、第2実施形態のX線光電子分光装置における第1補正用エネルギースペクトルおよび第2補正用エネルギースペクトルを用いた補正方法について説明するとともに、第2実施形態のX線光電子分光方法について説明する。
【0042】
図8は、補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。図9は、背景技術欄で挙げた第2の方法(走査XPS)により得られるエネルギースペクトルを示す図である。図9は、文献「Y. Maruyama, M. Futamata, Chem. Phys. Lett. 448(2007) 93」に示されているものである。
【0043】
Ag/Si、Ag/Si+NaBr および Ag/Si+NaBr+Na2S2O3それぞれは、X線照射に伴い発生する光電子が少なく信号が弱い。補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトル(図8)では、束縛エネルギー70eV〜72eV付近におけるAg/Siおよび Ag/Si+NaBr+Na2S2O3 それぞれのスペクトル構造、ならびに、束縛エネルギー68eV〜72eV付近におけるAg/Si+NaBrのスペクトル構造は、走査XPSにより得られるエネルギースペクトル(図9)と比較すると異なっている。
【0044】
この相違の原因は以下のように考えられる。すなわち、フェルミ準位より低束縛エネルギー側にある禁止帯で検出される信号は一定のエネルギーを有する電子である。したがって、このときに検出器40により得られる情報は、検出器40の感度ムラや高電圧印加時の電界ムラである。これに対して、実際にXPS測定を行うときの光電子のエネルギーは一定ではなく、検出器40のMCP41への光電子の入射位置によって該光電子のエネルギーは異なっている。
【0045】
したがって、実際の測定により得られる補正前エネルギースペクトルは、第1補正用エネルギースペクトルに基づく補正のみでは補正できない電子増倍ゲインのムラの情報を含んでいる。このことから、図8と図9との間でスペクトル構造が相違すると考えられる。そこで、第2実施形態では、補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に更に第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する。
【0046】
第2補正用エネルギースペクトルは以下のようにして求められた。ここでは、測定対象物2としてAuを用いた。この測定対象物2のフェルミ準位より高束縛エネルギー側にある禁止帯として、Au,C,Oの各エネルギー準位が存在しない160eV,200eV,400eV,700eVおよび900eVそれぞれで測定した。これらの帯域は禁止帯ではあるが、検出器40により検出される光電子は、非弾性散乱を繰り返すことでエネルギーを失った二次光電子成分であるバックグラウンド信号を有している。そこで、測定対象物2から放出される光電子の量を一定にするために、スペクトル面積で規格化された第2補正用エネルギースペクトルが求められた。
【0047】
図10は、各禁止帯で測定されて規格化された第2補正用エネルギースペクトルを示す図である。同図によると、測定エネルギーが高くなるに従って低ピクセル側の強度が小さくなる一方で高ピクセル側の強度が大きくなる傾向が認められる。図11は、測定エネルギーと各ピクセルの強度との間の関係を示すグラフである。同図では、多数のピクセルのうちから9個のピクセルについて、測定エネルギーとピクセル強度との間の関係が示されている。同図によると、各ピクセルの強度は測定エネルギーの一次関数で近似され得ることが判る。
【0048】
真のエネルギースペクトルをS(x)とし、補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正して得られたエネルギースペクトルをS'(x)とする。これらの間には下記(1)式が成り立つ。xはピクセルの位置を表す変数である。Eは測定エネルギーである。a(x),b(x) それぞれは、各ピクセルにおける線形近似により得られる。この(1)式から下記(2)式が得られる。
S'(x)={a(x)E+b(x)}S(x) …(1)
S(x)=S'(x)/{a(x)E+b(x)} …(2)
【0049】
図12は、a(x),b(x) それぞれを示すグラフである。図13は、図12に示されるa(x),b(x)を用いた上記(2)式に従って、図8に示されたエネルギースペクトルを第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。図8に示されたエネルギースペクトルと比べると、図13に示されたエネルギースペクトルは、図9に示された背景技術の第2の方法により得られるエネルギースペクトルに近い。
【0050】
しかし、図10,図12および図13それぞれにおいて認められるように、これらの図に示されるスペクトルに正弦波のようなノイズが重畳されている。そこで、このノイズを低減するために、a(x)についてスムージングを行ってa'(x)を求めるとともに、b(x)についてスムージングを行ってb'(x)を求めた。
【0051】
図14は、a'(x),b'(x) それぞれを示すグラフである。図15は、図14に示されるa'(x),b'(x)を用いた上記(2)式に従って、図8に示されたエネルギースペクトルを第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。図13に示されたエネルギースペクトルと比べると、図15に示されたエネルギースペクトルは、図9に示された背景技術の第2の方法により得られるエネルギースペクトルに更に近い。
【符号の説明】
【0052】
1,2…X線光電子分光装置、2…測定対象物、10…X線源、20…電子レンズ、30…エネルギー分析器、40…検出器、41…MCP、42…蛍光スクリーン、43…CCD、50,60…処理部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線光電子分光装置およびX線光電子分光方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線光電子分光(XPS: X-ray PhotoelectronSpectroscopy)技術は、X線を測定対象物に入射させたときに励起されて放出される光電子のエネルギースペクトルを検出することにより、その測定対象物の表面近傍領域の元素組成や元素の結合情報を得ることができる。X線光電子分光技術は、例えば生体分子や有機分子の電子状態を計測することができる。
【0003】
X線光電子分光技術において、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを検出する検出器として、マイクロチャネルプレート(MCP: Micro-Channel Plate)を含む構成のものが用いられる。MCPは、入射した電子等を2次元的に検出してチャネル毎に増倍することができ、所定の位置分解能を有している。
【0004】
しかし、MCPは、各チャネルの電子増倍のゲインが一様であるとは限らない。また、X線光電子分光技術において用いられる場合、MCPは、チャネルによって異なるエネルギーの電子が入射されるので、入射される電子のエネルギーによっても電子増倍のゲインが異なる。さらに、MCPに高電圧が印加される際に生じる電界ムラにより光電子の軌跡が曲げられ、これにより、図16に示されるように、MCPにより検出されるエネルギースペクトルが歪む場合がある。図16は、従来のX線光電子分光技術により得られたABS樹脂のN1sのエネルギースペクトルを示す図である。
【0005】
このようなエネルギースペクトルの歪みの問題を解消するため、特許文献1,2に記載された方法をX線光電子分光技術に適用して、以下の第1〜第3の方法を採用することが考えられる。第1の方法では、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを、測定対象物がない状態で検出されたエネルギースペクトルに基づいて補正する。第2の方法では、検出器により検出されるエネルギー範囲を微少量ずつ異ならせた各条件でエネルギースペクトルを検出して、これらのエネルギースペクトルを平均化処理する。また、第3の方法では、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを、MCPの各チャネルの電子増倍のゲイン特性に基づいて補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−300899号公報
【特許文献2】特開平9−187024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の第1〜第3の方法は以下のような問題点を有している。第1の方法では、測定対象物がない状態でエネルギースペクトルを検出する際に、測定対象物を載置するための基板にX線が照射されて該基板から放出された光電子のエネルギースペクトルが検出されることになる。測定対象物が含有する元素と同じ元素を基板が含有する場合、測定対象物がない状態で検出されたエネルギースペクトルにその元素に関連する信号が現れるので、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを補正することができない。
【0008】
第2の方法では、検出器により検出されるエネルギー範囲を微少量ずつ異ならせた各条件でエネルギースペクトルを検出することから、これらのエネルギースペクトルを取得するのに長時間を要する。また、エネルギー範囲を設定変更するための時間や、エネルギー範囲を設定変更した後に安定動作可能な状態に到達するまでの待機時間も必要である。
【0009】
また、X線光電子分光技術において用いられる場合、MCPのチャネルによって異なるエネルギーの電子が入射され、入射される電子のエネルギーによって電子増倍のゲインが異なるので、第3の方法を採用することはできない。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを短時間に正確に取得することができるX線光電子分光装置およびX線光電子分光方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のX線光電子分光装置は、測定対象物に照射すべきX線を出力するX線源と、X線源から出力されたX線が測定対象物に照射されることにより測定対象物で発生した電子を減速させるとともに収束させる電子レンズと、電子レンズにより収束された電子をエネルギー分散させるエネルギー分析器と、エネルギー分析器を経た電子のエネルギースペクトルを検出する検出器と、検出器により検出されたエネルギースペクトルを処理する処理部と、を備えることを特徴とする。さらに、処理部が、X線源から出力されたX線の照射により測定対象物で発生した電子が電子レンズおよびエネルギー分析器を経て検出器に到達したときに検出器により得られた補正前エネルギースペクトルを、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られた第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のX線光電子分光装置では、処理部が、補正前エネルギースペクトルを、第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られた第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正するのが好適である。
【0013】
本発明のX線光電子分光方法は、測定対象物に照射すべきX線を出力するX線源と、X線源から出力されたX線が測定対象物に照射されることにより測定対象物で発生した電子を減速させるとともに収束させる電子レンズと、電子レンズにより収束された電子をエネルギー分散させるエネルギー分析器と、エネルギー分析器を経た電子のエネルギースペクトルを検出する検出器と、を備えるX線光電子分光装置を用いて、X線源から出力されたX線の照射により測定対象物で発生した電子が電子レンズおよびエネルギー分析器を経て検出器に到達したときに検出器により得られた補正前エネルギースペクトルを、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られた第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正することを特徴とする。
【0014】
また、本発明のX線光電子分光方法は、補正前エネルギースペクトルを、第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られた第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正するのが好適である。
【0015】
ここでフェルミ準位とは、図17に示される光電子スペクトルにおいて、束縛エネルギーがゼロの点で示される準位であり、フェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯とは、図17において束縛エネルギーがマイナス、すなわちゼロ点より右側にある禁止帯のことである。
【0016】
フェルミ準位より高束縛エネルギー側の禁止帯では、試料中で発生した光電子が表面から脱出するまでの間に、他の原子によって非弾性散乱を受けエネルギーを失うバックグラウンドが光電子スペクトルに生じる。その結果、フェルミ準位よりも高束縛エネルギー側では、禁止帯領域であってもバックグラウンドとして試料由来の信号を検出してしまうという問題がある。この問題を回避するため、本発明では試料に依存しないフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯のエネルギースペクトル(第1補正用エネルギースペクトル)を使用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、測定対象物から放出された光電子のエネルギースペクトルを短時間に正確に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のX線光電子分光装置1の構成図である。
【図2】第1実施形態のX線光電子分光装置1の検出器40により検出される像およびエネルギースペクトルの一例を示す図である。
【図3】禁止帯に相当する束縛エネルギーの各値で測定して得られたエネルギースペクトルを示す図である。
【図4】第1補正用エネルギースペクトルを示す図である。
【図5】背景技術欄で挙げた第2の方法により得られるエネルギースペクトル(走査XPS)、補正前エネルギースペクトル(非走査XPS_補正前)、および、第1実施形態による補正後エネルギースペクトル(非走査XPS_補正後)、それぞれを示す図である。
【図6】第1実施形態のX線光電子分光装置1を用いて測定したAu板のAu4fのエネルギースペクトルを示す図である。
【図7】第2実施形態のX線光電子分光装置2の構成図である。
【図8】補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。
【図9】背景技術欄で挙げた第2の方法により得られるエネルギースペクトルを示す図である。
【図10】各禁止帯で測定されて規格化された第2補正用エネルギースペクトルを示す図である。
【図11】測定エネルギーと各ピクセルの強度との間の関係を示すグラフである。
【図12】a(x),b(x) それぞれを示すグラフである。
【図13】図12に示されるa(x),b(x)を用いた(2)式に従って、図8に示されたエネルギースペクトルを第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。
【図14】a'(x),b'(x) それぞれを示すグラフである。
【図15】図14に示されるa'(x),b'(x)を用いた上記(2)式に従って、図8に示されたエネルギースペクトルを第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。
【図16】従来のX線光電子分光技術により得られたABS樹脂のN1sのエネルギースペクトルを示す図である。
【図17】フェルミ準位を説明するための光電子スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のX線光電子分光装置1の構成図である。X線光電子分光装置1は、X線を測定対象物2に入射させたときに励起されて放出される光電子のエネルギースペクトルを検出するものであって、X線源10,電子レンズ20,エネルギー分析器30,検出器40および処理部50を備える。
【0021】
X線源10は、測定対象物2に照射すべきX線3を出力する。X線源10は、測定対象物2にX線3を照射することで、測定対象物2の表面近傍領域に存在する元素の内殻電子を励起し、この電子を光電子4として放出させる。X線源10は、X線3として例えばMgKα(1253.6eV)やAlKα(1486.6eV)を出力する。X線源10として例えばツインアノードX線源(VG社製XR3E3)が用いられる。
【0022】
電子レンズ20は、X線源10から出力されたX線3が測定対象物2に照射されることにより測定対象物2で励起されて発生した電子4を入力し、この電子4を減速させるとともに収束させる。
【0023】
エネルギー分析器30は、電子レンズ20により収束された電子4をエネルギー分散させる。エネルギー分析器30は、同心半球型のものであって、電子レンズ20により収束された電子4のうちスリット31を通過した電子4の飛行行路を電場により曲げて、その電子4をスリット32から検出器40へ出力する。エネルギー分析器30として例えばVG社製CLAM4(半径150mm、分解能800meV)が用いられる。
【0024】
検出器40は、エネルギー分析器30を経た電子4のエネルギースペクトルを検出する。検出器40は、MCP41,蛍光スクリーン42およびCCD43を含む。MCP41は、入射した電子を2次元的に検出してチャネル毎に増倍し、その増倍した電子を蛍光スクリーン42へ出力する。蛍光スクリーン42は、MCP41によりチャネル毎に増倍されて出力された電子を入力し、単位時間当たりに到達した電子の個数に応じた輝度の可視光を発生する。CCD43は、蛍光スクリーン42における可視光像を撮像する。蛍光スクリーン42とCCD43の撮像面との間に、複数の光ファイバが束ねられたファイバオプティカルプレートが設けられているのが好適である。CCD43として例えば浜松ホトニクス社製C4880が用いられる。
【0025】
なお、X線3および電子4それぞれが伝搬する空間は真空に維持される。処理部50は、検出器40により検出されたエネルギースペクトルを処理する。その処理内容については後述する。
【0026】
このように構成されるX線光電子分光装置1において、X線源10から出力されたX線3が測定対象物2に照射されると、その測定対象物2の表面近傍領域に存在する元素の内殻電子が励起されて光電子4として放出される。この電子4は、電子レンズ20により減速され収束される。電子レンズ20により収束された電子4のうちスリット31を通過した電子はエネルギー分析器30によりエネルギー分散され、エネルギー分散された電子のうちスリット32を通過した電子はMCP41に到達する。MCP41に入射した電子はMCP41のチャネル毎に増倍され、その増倍された電子が蛍光スクリーン42に入射して可視光像が得られ、その可視光像がCCD43により撮像される。
【0027】
電子レンズ20による電子の減速が調整されることにより、スリット31を通過してエネルギー分析器30に入力される電子のエネルギー帯域が設定される。また、エネルギー分析器30のパスエネルギーが調整されることにより、エネルギー分析器30における電子の減速率が設定され、エネルギー分析器30からスリット32を通過してMCP41に入射する電子のエネルギー幅が設定される。
【0028】
図2は、第1実施形態のX線光電子分光装置1の検出器40により検出される像およびエネルギースペクトルの一例を示す図である。同図の左右方向は電子エネルギー軸に相当する。検出器40のCCD43による撮像で得られる画像が同図の下部分に示されている。また、この像を縦方向に積算して得られるエネルギースペクトルが同図の上部分に示されている。処理部50は、このようにCCD43による撮像で得られた画像からエネルギースペクトルを求める。
【0029】
特に、本実施形態のX線光電子分光装置1では、処理部50は、X線源10から出力されたX線の照射により測定対象物2で発生した電子が電子レンズ20およびエネルギー分析器30を経て検出器40に到達したときに検出器40により得られたエネルギースペクトル(補正前エネルギースペクトル)を、電子レンズ20による電子の減速が調整されて測定対象物2の禁止帯に相当する帯域のものとして検出器40により得られたエネルギースペクトル(第1補正用エネルギースペクトル)に基づいて補正する。このような補正処理により、処理部50は、測定対象物2から放出された光電子のエネルギースペクトルを正確に取得することができる。
【0030】
以下では、ABS樹脂を測定する具体例において、第1実施形態のX線光電子分光装置における第1補正用エネルギースペクトルを用いた補正方法について説明するとともに、第1実施形態のX線光電子分光方法について説明する。禁止帯には測定対象物の電子状態が存在しないので、エネルギー分析器30を通過する光電子は存在しない筈である。電子レンズ20による電子の減速が調整されて測定対象物2の禁止帯に相当する帯域のものとして検出器40により得られるエネルギースペクトルは、測定対象物2に由来するものではなく、浮遊電子のみによるものと考えられる。浮遊電子のエネルギー分布は均一であるので、このエネルギースペクトルは、測定対象物2によらず、検出器40における電場ムラやMCP42のゲインのバラツキを表す。そこで、このエネルギースペクトルは第1補正用エネルギースペクトルとして用いられ得る。
【0031】
図3は、禁止帯に相当する束縛エネルギーの各値で測定して得られたエネルギースペクトルを示す図である。ここでは、電子レンズによる電子の減速が調整されて束縛エネルギー(B.E.)が −30eV,−50eV,−70eV の各値に相当する帯域で100秒間に亘って測定されエネルギースペクトルが求められた。これら3つのエネルギースペクトルの間には大きな相違は認められなかった。以上の結果から、束縛エネルギーが−50eV とされて2000秒間(10秒×200回)に亘って測定されて求められたエネルギースペクトルが第1補正用エネルギースペクトルとされた。図4は、第1補正用エネルギースペクトルを示す図である。
【0032】
一方、測定対象物2としてのABS樹脂のN1sを測定しようとする場合、束縛エネルギーが406eVとされ、また、エネルギー分析器30のパスエネルギーが150eVとされて、500秒間(10秒×50回)に亘って測定され、補正前エネルギースペクトルが取得された。この補正前エネルギースペクトルは、X線源10から出力されたX線の照射により測定対象物2としてのABS樹脂で発生した電子が電子レンズ20およびエネルギー分析器30を経て検出器40に到達したときに検出器40により得られたものである。
【0033】
そして、処理部50により、補正前エネルギースペクトルが第1補正用エネルギースペクトルで除算されて、補正後エネルギースペクトルが得られた。図5は、背景技術欄で挙げた第2の方法により得られるエネルギースペクトル(走査XPS)、補正前エネルギースペクトル(非走査XPS_補正前)、および、第1実施形態による補正後エネルギースペクトル(非走査XPS_補正後)、それぞれを示す図である。
【0034】
この図から判るように、補正前エネルギースペクトルは、走査XPSスペクトルと比べると構造に大きな違いがある。一方、本実施形態による補正後エネルギースペクトルは、走査XPSスペクトルと比べると構造がよい一致を示す。また、本実施形態による補正後エネルギースペクトルでは、束縛エネルギー(B.E.)405.5eV付近に、走査XPSスペクトルには認められない肩構造が認められる。
【0035】
したがって、検出器により検出されるエネルギー範囲を微少量ずつ異ならせた各条件でエネルギースペクトルを検出して平均化処理をする第2の方法(走査XPS)に対し、第1補正用エネルギースペクトルを用いて補正を行う本実施形態では、検出されるエネルギー範囲について非走査でエネルギースペクトルを取得することができるので、その取得を短時間で行うことができる。また、本実施形態では、エネルギースペクトルの細かい構造をも見ることができる。
【0036】
また、非走査でエネルギースペクトルを取得することができる本実施形態は、時間分解XPS測定の際にも利点を有する。従来の時間分解XPS測定は、例えば測定対象物へのレーザ光照射時を起点とする可逆的反応に対する測定のみが行われてきた。これに対して、本実施形態のX線光電子分光装置1またはX線光電子分光方法を用いて非走査で時間分解XPS測定を行うことにより、測定時間の短縮が可能であるだけでなく、不可逆的反応に対する測定も可能である。
【0037】
図6は、第1実施形態のX線光電子分光装置1を用いて測定したAu板のAu4fのエネルギースペクトルを示す図である。ここでは、3秒間に亘って測定が行われた。この図から、ピーク強度が強い測定対象物に対しては秒オーダー又はサブ秒オーダーの時間分解XPS測定が可能であることが確認された。今後、より高強度のX線源が開発されればマイクロ秒オーダーまたはナノ秒オーダーの不可逆反応時間分解XPS測定も可能になると期待される。
【0038】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態のX線光電子分光装置2の構成図である。X線光電子分光装置2は、X線を測定対象物2に入射させたときに励起されて放出される光電子のエネルギースペクトルを検出するものであって、X線源10,電子レンズ20,エネルギー分析器30,検出器40および処理部60を備える。
【0039】
図1に示された第1実施形態のX線光電子分光装置1の構成と比較すると、この図7に示されるX線光電子分光装置2は、処理部50に替えて処理部60を備える点で相違する。処理部60は、検出器40により得られた画像からエネルギースペクトルを求め、このエネルギースペクトルを処理する。
【0040】
本実施形態のX線光電子分光装置2では、処理部60は、第1実施形態の場合と同様に補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後、さらに、電子レンズによる電子の減速が調整されて測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして検出器により得られたエネルギースペクトル(第2補正用エネルギースペクトル)に基づいて補正する。このような補正処理により、処理部60は、測定対象物2から放出された光電子のエネルギースペクトルを更に正確に取得することができる。
【0041】
以下では、Ag/Si、Ag/Si+NaBr および Ag/Si+NaBr+Na2S2O3それぞれを測定する具体例について、第2実施形態のX線光電子分光装置における第1補正用エネルギースペクトルおよび第2補正用エネルギースペクトルを用いた補正方法について説明するとともに、第2実施形態のX線光電子分光方法について説明する。
【0042】
図8は、補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。図9は、背景技術欄で挙げた第2の方法(走査XPS)により得られるエネルギースペクトルを示す図である。図9は、文献「Y. Maruyama, M. Futamata, Chem. Phys. Lett. 448(2007) 93」に示されているものである。
【0043】
Ag/Si、Ag/Si+NaBr および Ag/Si+NaBr+Na2S2O3それぞれは、X線照射に伴い発生する光電子が少なく信号が弱い。補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトル(図8)では、束縛エネルギー70eV〜72eV付近におけるAg/Siおよび Ag/Si+NaBr+Na2S2O3 それぞれのスペクトル構造、ならびに、束縛エネルギー68eV〜72eV付近におけるAg/Si+NaBrのスペクトル構造は、走査XPSにより得られるエネルギースペクトル(図9)と比較すると異なっている。
【0044】
この相違の原因は以下のように考えられる。すなわち、フェルミ準位より低束縛エネルギー側にある禁止帯で検出される信号は一定のエネルギーを有する電子である。したがって、このときに検出器40により得られる情報は、検出器40の感度ムラや高電圧印加時の電界ムラである。これに対して、実際にXPS測定を行うときの光電子のエネルギーは一定ではなく、検出器40のMCP41への光電子の入射位置によって該光電子のエネルギーは異なっている。
【0045】
したがって、実際の測定により得られる補正前エネルギースペクトルは、第1補正用エネルギースペクトルに基づく補正のみでは補正できない電子増倍ゲインのムラの情報を含んでいる。このことから、図8と図9との間でスペクトル構造が相違すると考えられる。そこで、第2実施形態では、補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に更に第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する。
【0046】
第2補正用エネルギースペクトルは以下のようにして求められた。ここでは、測定対象物2としてAuを用いた。この測定対象物2のフェルミ準位より高束縛エネルギー側にある禁止帯として、Au,C,Oの各エネルギー準位が存在しない160eV,200eV,400eV,700eVおよび900eVそれぞれで測定した。これらの帯域は禁止帯ではあるが、検出器40により検出される光電子は、非弾性散乱を繰り返すことでエネルギーを失った二次光電子成分であるバックグラウンド信号を有している。そこで、測定対象物2から放出される光電子の量を一定にするために、スペクトル面積で規格化された第2補正用エネルギースペクトルが求められた。
【0047】
図10は、各禁止帯で測定されて規格化された第2補正用エネルギースペクトルを示す図である。同図によると、測定エネルギーが高くなるに従って低ピクセル側の強度が小さくなる一方で高ピクセル側の強度が大きくなる傾向が認められる。図11は、測定エネルギーと各ピクセルの強度との間の関係を示すグラフである。同図では、多数のピクセルのうちから9個のピクセルについて、測定エネルギーとピクセル強度との間の関係が示されている。同図によると、各ピクセルの強度は測定エネルギーの一次関数で近似され得ることが判る。
【0048】
真のエネルギースペクトルをS(x)とし、補正前エネルギースペクトルを第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正して得られたエネルギースペクトルをS'(x)とする。これらの間には下記(1)式が成り立つ。xはピクセルの位置を表す変数である。Eは測定エネルギーである。a(x),b(x) それぞれは、各ピクセルにおける線形近似により得られる。この(1)式から下記(2)式が得られる。
S'(x)={a(x)E+b(x)}S(x) …(1)
S(x)=S'(x)/{a(x)E+b(x)} …(2)
【0049】
図12は、a(x),b(x) それぞれを示すグラフである。図13は、図12に示されるa(x),b(x)を用いた上記(2)式に従って、図8に示されたエネルギースペクトルを第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。図8に示されたエネルギースペクトルと比べると、図13に示されたエネルギースペクトルは、図9に示された背景技術の第2の方法により得られるエネルギースペクトルに近い。
【0050】
しかし、図10,図12および図13それぞれにおいて認められるように、これらの図に示されるスペクトルに正弦波のようなノイズが重畳されている。そこで、このノイズを低減するために、a(x)についてスムージングを行ってa'(x)を求めるとともに、b(x)についてスムージングを行ってb'(x)を求めた。
【0051】
図14は、a'(x),b'(x) それぞれを示すグラフである。図15は、図14に示されるa'(x),b'(x)を用いた上記(2)式に従って、図8に示されたエネルギースペクトルを第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後のエネルギースペクトルを示す図である。図13に示されたエネルギースペクトルと比べると、図15に示されたエネルギースペクトルは、図9に示された背景技術の第2の方法により得られるエネルギースペクトルに更に近い。
【符号の説明】
【0052】
1,2…X線光電子分光装置、2…測定対象物、10…X線源、20…電子レンズ、30…エネルギー分析器、40…検出器、41…MCP、42…蛍光スクリーン、43…CCD、50,60…処理部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に照射すべきX線を出力するX線源と、前記X線源から出力されたX線が前記測定対象物に照射されることにより前記測定対象物で発生した電子を減速させるとともに収束させる電子レンズと、前記電子レンズにより収束された電子をエネルギー分散させるエネルギー分析器と、前記エネルギー分析器を経た電子のエネルギースペクトルを検出する検出器と、前記検出器により検出されたエネルギースペクトルを処理する処理部と、を備え、
前記処理部が、前記X線源から出力されたX線の照射により前記測定対象物で発生した電子が前記電子レンズおよび前記エネルギー分析器を経て前記検出器に到達したときに前記検出器により得られた補正前エネルギースペクトルを、前記電子レンズによる電子の減速が調整されて前記測定対象物のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして前記検出器により得られた第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する、
ことを特徴とするX線光電子分光装置。
【請求項2】
前記処理部が、前記補正前エネルギースペクトルを、前記第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に、前記電子レンズによる電子の減速が調整されて前記測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして前記検出器により得られた第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線光電子分光装置。
【請求項3】
測定対象物に照射すべきX線を出力するX線源と、前記X線源から出力されたX線が前記測定対象物に照射されることにより前記測定対象物で発生した電子を減速させるとともに収束させる電子レンズと、前記電子レンズにより収束された電子をエネルギー分散させるエネルギー分析器と、前記エネルギー分析器を経た電子のエネルギースペクトルを検出する検出器と、を備えるX線光電子分光装置を用いて、
前記X線源から出力されたX線の照射により前記測定対象物で発生した電子が前記電子レンズおよび前記エネルギー分析器を経て前記検出器に到達したときに前記検出器により得られた補正前エネルギースペクトルを、前記電子レンズによる電子の減速が調整されて前記測定対象物のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして前記検出器により得られた第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する、
ことを特徴とするX線光電子分光方法。
【請求項4】
前記補正前エネルギースペクトルを、前記第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に、前記電子レンズによる電子の減速が調整されて前記測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして前記検出器により得られた第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する、
ことを特徴とする請求項3に記載のX線光電子分光方法。
【請求項1】
測定対象物に照射すべきX線を出力するX線源と、前記X線源から出力されたX線が前記測定対象物に照射されることにより前記測定対象物で発生した電子を減速させるとともに収束させる電子レンズと、前記電子レンズにより収束された電子をエネルギー分散させるエネルギー分析器と、前記エネルギー分析器を経た電子のエネルギースペクトルを検出する検出器と、前記検出器により検出されたエネルギースペクトルを処理する処理部と、を備え、
前記処理部が、前記X線源から出力されたX線の照射により前記測定対象物で発生した電子が前記電子レンズおよび前記エネルギー分析器を経て前記検出器に到達したときに前記検出器により得られた補正前エネルギースペクトルを、前記電子レンズによる電子の減速が調整されて前記測定対象物のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして前記検出器により得られた第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する、
ことを特徴とするX線光電子分光装置。
【請求項2】
前記処理部が、前記補正前エネルギースペクトルを、前記第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に、前記電子レンズによる電子の減速が調整されて前記測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして前記検出器により得られた第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線光電子分光装置。
【請求項3】
測定対象物に照射すべきX線を出力するX線源と、前記X線源から出力されたX線が前記測定対象物に照射されることにより前記測定対象物で発生した電子を減速させるとともに収束させる電子レンズと、前記電子レンズにより収束された電子をエネルギー分散させるエネルギー分析器と、前記エネルギー分析器を経た電子のエネルギースペクトルを検出する検出器と、を備えるX線光電子分光装置を用いて、
前記X線源から出力されたX線の照射により前記測定対象物で発生した電子が前記電子レンズおよび前記エネルギー分析器を経て前記検出器に到達したときに前記検出器により得られた補正前エネルギースペクトルを、前記電子レンズによる電子の減速が調整されて前記測定対象物のフェルミ準位よりも低束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして前記検出器により得られた第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する、
ことを特徴とするX線光電子分光方法。
【請求項4】
前記補正前エネルギースペクトルを、前記第1補正用エネルギースペクトルに基づいて補正した後に、前記電子レンズによる電子の減速が調整されて前記測定対象物のフェルミ準位よりも高束縛エネルギー側にある禁止帯に相当する帯域のものとして前記検出器により得られた第2補正用エネルギースペクトルに基づいて補正する、
ことを特徴とする請求項3に記載のX線光電子分光方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図10】
【図12】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図10】
【図12】
【図14】
【公開番号】特開2011−247870(P2011−247870A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274407(P2010−274407)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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