説明

X線分析装置及びX線分析方法

【課題】 凹凸がある試料において分析不可能な領域を測定者が判断可能なX線分析装置及びX線分析方法を提供すること。
【解決手段】 試料S上の任意の照射ポイントPに放射線を照射するX線管球11と、試料Sから放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器12と、試料Sに対して照明光を出射して照明する狭域照明機構13A及び広域照明機構13Bと、照明光で照明された試料Sの照明画像を画像データとして取得する狭域観察機構14A及び広域観察機構14Bと、を備え、これら観察機構が、検出時における照射ポイントPとX線検出器12とを結んだ方向と同じ方向に照明時における照明光の光軸が照射ポイントPに向けて設定される狭域斜め照明部19及び広域斜め照明部21を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエネルギー分散型の蛍光X線分析等に好適なX線分析装置及びX線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、X線源から出射されたX線を試料に照射し、試料から放出される特性X線である蛍光X線をX線検出器で検出することで、そのエネルギーからスペクトルを取得し、試料の定性分析又は定量分析を行うものである。この蛍光X線分析は、試料を非破壊で迅速に分析可能なため、工程・品質管理などで広く用いられている。近年では、高精度化・高感度化が図られて微量測定が可能になり、特に材料や複合電子部品などに含まれる有害物質の検出を行う分析手法として普及が期待されている。
【0003】
この蛍光X線分析の分析手法としては、蛍光X線を分光結晶により分光し、X線の波長と強度を測定する波長分散方式や、分光せずに半導体検出素子で検出し、波高分析器でX線のエネルギーと強度とを測定するエネルギー分散方式などがある。
従来、例えば特許文献1には、X線を照射するX線源と試料の分析ポイントを観察する光学顕微鏡を備え、X線源と光学顕微鏡を切り換えることにより、X線源と光学顕微鏡が同一の光軸を有したX線分析装置が開示されている。このX線分析装置では、光学顕微鏡によって試料を光学観察して分析位置を特定したり、形状計測することを、試料ステージ上に試料を載置した状態で可能にしている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−292476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来のX線分析装置では、凹凸のある試料に対してピンポイントで分析を行う場合、図4に示すように、放射線源1から一次側の励起X線(一次X線)や励起電子線等の放射線X0を照射した照射ポイント(すなわち、分析ポイント)PとX線検出器2との間に試料Sの凸部S1が存在すると、照射ポイントPで発生したX線X2が凸部S1によって吸収され、X線検出器2に到達しないという不都合があった。このため、この照射ポイントPの領域では、X線分析を行うことができなかった。また、従来のX線分析装置では、試料ステージ上の試料をその上方から光学顕微鏡等によって観察しているが、X線源と同様の方向からの観察であるため、凹凸等によって分析不可能な領域を特定することが困難であった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、凹凸がある試料において分析不可能な領域を測定者が判断可能なX線分析装置及びX線分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のX線分析装置は、試料上の任意の照射ポイントに放射線を照射する放射線源と、前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、前記試料に対して照明光を出射して照明する照明機構と、前記照明光で照明された前記試料の照明画像を画像データとして取得する観察機構と、を備え、前記照明機構が、前記検出時における前記照射ポイントと前記X線検出器とを結んだ方向と同じ方向に前記照明時における前記照明光の光軸が前記照射ポイントに向けて設定される凹凸用照明部を有していることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のX線分析方法は、放射線源から試料上の任意の照射ポイントに放射線を照射し、X線検出器により前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出方法であって、前記放射線の照射を行う前に、照明機構により前記試料に対して照明光を出射して照明するステップと、観察機構により前記照明光で照明された前記試料の照明画像を画像データとして取得するステップと、を有し、前記照明するステップで、前記照明機構に備えられた凹凸用照明部により、前記検出時における前記照射ポイントと前記X線検出器とを結んだ方向と同じ方向に前記照明時における前記照明光の光軸を前記照射ポイントに向けて設定し、前記照明を行うことを特徴とする。
【0009】
これらのX線分析装置及びX線分析方法では、照明機構が、検出時における照射ポイントとX線検出器とを結んだ方向と同じ方向に照明時における照明光の光軸が前記照射ポイントに向けて設定される凹凸用照明部を有しているので、凹凸用照明部からの照明により試料の凹凸に対応した影部を発生させ、分析不可領域として明示させることができる。すなわち、この影部は、検出時に照射ポイントで発生したX線が凹凸によりX線検出器に到達できない分析不可領域とほぼ等しく、その影部を可視光像として測定者に提供することで、分析不可領域を容易に明示することができる。また、試料の凹凸によってX線の検出が不適切な場合、X線の信号量が低下することによる不適切な測定結果となることを、分析不可領域の明示によって測定者が容易に判断することが可能になり、間違った判定を防ぐことができる。
【0010】
また、本発明のX線分析装置は、前記観察機構が、前記凹凸用照明部の照明光で照明された前記試料の照明画像を凹凸用画像として記録し、前記凹凸用照明部からの前記照明光で生じた影部を前記凹凸用画像から画像処理により分析不可領域として特定すると共にその位置を分析不可領域情報として出力する影部明示処理部を備えていることを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、影部明示処理部が、凹凸用画像から照明光で生じた影部を画像処理により分析不可領域として特定すると共にその位置を分析不可領域情報として出力することで、影部を画像処理によって画像認識して自動的に特定し、明示することができる。また、出力された分析不可領域情報に基づいて種々の分析処理や分析操作を可能にすることができる。
【0011】
さらに、本発明のX線分析装置は、前記照明機構が、前記検出時における前記放射線の照射方向と同じ方向に前記照明時における前記照明光の光軸が前記照射ポイントに向けて設定される基準用照明部を有し、前記観察機構が、前記基準用照明部の照明光で照明された前記試料の照明画像を基準画像として記録し、前記影部明示処理部が、前記凹凸用画像と前記基準画像とを比較した画像処理により前記分析不可領域を特定することを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、影部明示処理部が、互いに異なる方向からの照明である凹凸用照明部による凹凸用画像と基準用照明部による基準画像とを比較した差分処理等の画像処理により分析不可領域を特定するので、より正確に分析不可領域を特定することができる。
【0012】
また、本発明のX線分析装置は、前記照射ポイントを前記分析不可領域に設定した際に、前記警告機構を備えていることを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、分析不可領域に照射ポイントを設定して測定しようとすると、警告機構が、分析不可領域情報に基づいて警告表示又は警告音発生を行うので、測定者は分析不可領域の無駄な分析作業を行わずに済み、効率的に分析作業を行うことを可能にする。また、警告表示又は警告音発生があった分析不可領域については、試料の向き等を変更して再度セットしてから再測定を行う対応を取ることも可能になる。
【0013】
また、本発明のX線分析装置は、前記試料と前記凹凸用照明との位置を相対的に移動可能な移動機構と、前記照射ポイントを前記分析不可領域に設定した際に、前記分析不可領域情報に基づいて前記移動機構を制御し、前記試料に対する前記X線検出器の検出方向を前記照射ポイントが前記影部とならない方向に変更する検出方向制御部と、を備えていることを特徴とする。すなわち、このX線分析装置では、検出方向制御部が分析不可領域情報に基づいて移動機構を制御し、照射ポイントが影部とならない方向に試料とX線検出器との位置関係を相対的に変更するので、影部であったポイントも試料とX線検出器との位置関係の変更によって自動的に測定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法によれば、照明機構が、検出時における照射ポイントとX線検出器とを結んだ方向と同じ方向に照明時における照明光の光軸が照射ポイントに向けて設定される凹凸用照明部を有しているので、凹凸用照明部からの照明により試料の凹凸に対応した影部を発生させ、分析不可領域として明示させることができる。したがって、測定者が分析不可領域を容易に判断可能であり、分析結果の信頼性を高めることができると共に分析のやり直し等を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態のX線分析装置は、例えばエネルギー分散型の蛍光X線分析装置であって、図1に示すように、試料Sを載置すると共に移動可能な試料ステージ10と、試料S上の任意の照射ポイントPに1次X線(放射線)X1を照射するX線管球(放射線源)11と、試料Sから放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器12と、試料Sに対して照明光を出射して照明する狭域照明機構13A及び広域照明機構13Bと、照明光で照明された試料Sの照明画像を画像データとして取得する狭域観察機構14A及び広域観察機構14Bと、X線検出器12に接続され上記信号を分析する分析器15と、分析器15に接続された解析処理装置16と、上記各構成に接続されこれらの制御を行う制御部Cと、を備えている。
【0017】
上記X線管球11は、管球内のフィラメント(陽極)から発生した熱電子がフィラメント(陽極)とターゲット(陰極)との間に印加された電圧により加速されターゲットのW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)などに衝突して発生したX線を1次X線X1としてベリリウム箔などの窓から出射するものである。
【0018】
上記X線検出器12は、X線の入射窓に設置されている半導体検出素子(例えば、pin構造ダイオードであるSi(シリコン)素子)(図示略)を備え、X線光子1個が入射すると、このX線光子1個に対応する電流パルスが発生するものである。この電流パルスの瞬間的な電流値が、入射した特性X線のエネルギーに比例している。また、X線検出器12は、半導体検出素子で発生した電流パルスを電圧パルスに変換、増幅し、信号として出力するように設定されている。
【0019】
上記分析器15は、上記信号から電圧パルスの波高を得てエネルギースペクトルを生成する波高分析器(マルチチャンネルパルスハイトアナライザー)である。
上記解析処理装置16は、CPU等で構成されたコンピュータであり、分析器15から送られるエネルギースペクトルをディスプレイ16aに表示する。なお、解析処理装置16内の処理回路に上記制御部Cを設けても構わない。また、ディスプレイ16aは、制御部Cからの制御に応じて種々の情報を表示可能である。
【0020】
これら試料ステージ10、X線管球11、X線検出器12、狭域照明機構13A、広域照明機構13B、狭域観察機構14A及び広域観察機構14Bは、減圧可能な試料室17に収納され、X線が大気中の雰囲気に吸収されないように測定時には、試料室17内が減圧されるようになっている。
【0021】
上記狭域観察機構14Aは、X線管球11及びX線検出器12の設置箇所近傍に設けられ、試料Sの狭い領域における光学像を複数のミラー13aを介して観察し、画像データとして取得するための狭域用対物レンズ(図示略)と狭域用CCD(図示略)とを備えている。
上記広域観察機構14Bは、狭域観察機構14Aに隣接して設けられ、試料Sの広い領域における光学像を観察し、画像データとして取得するための広域用対物レンズ(図示略)と広域用CCD(図示略)とを備えている。
【0022】
上記狭域照明機構13Aは、上記狭域観察機構14Aによる観察の際に試料Sの狭い領域を照明するものであり、上記広域照明機構13Bは、上記広域観察機構14Bによる観察の際に試料Sの広い領域を照明するものである。
上記狭域照明機構13Aは、検出時における1次X線X1の照射方向と同じ方向に照明時における照明光の光軸が複数のミラー13aを介して設定される同軸照明部(基準用照明部)18と、検出時における照射ポイントPとX線検出器12とを結んだ方向と同じ方向に照明時における照明光の光軸が照射ポイントPに向けて設定される狭域斜め照明部(凹凸用照明部)19と、を有している。
【0023】
なお、狭域照明機構13Aには、狭域観察機構14Aと同軸に同軸照明部18の照明光を試料Sに照明するために、同軸照明部18からの照明光を試料Sの垂直上方から照明させるための光学系として複数のミラー13aを備えている。また、X線管球11直下のミラー13aは、検出時には1次X線X1が通過できるように退避位置へ自動的に移動可能になっている。
上記狭域斜め照明部19は、X線検出器12の両側に並んで同方向に向けて一対設置されて照明光の光軸をX線検出器12の検出方向と実質的に同一に設定され、照射ポイントP及びその周囲の比較的狭い範囲を照明する装置である。
【0024】
上記広域照明機構13Bは、検出時における1次X線X1の照射方向と同じ方向に照明時における照明光の光軸が照射ポイントPに向けて設定されるリング照明部(基準用照明部)20と、検出時における照射ポイントPとX線検出器12とを結んだ方向と同じ方向に照明時における照明光の光軸が照射ポイントPに向けて設定される広域斜め照明部(凹凸用照明部)21と、を有している。
【0025】
なお、上記リング照明部20は、照明光を試料Sの垂直上方から照明するために広域観察機構14Bの下部に設置されている。
上記広域斜め照明部21は、平面上にLEDを複数並べて広範囲に照明可能とされた照明装置である。この広域斜め照明部21の照明方向(照明光の光軸)は、X線検出器12の検出方向と平行な関係に設定されている。すなわち、試料S表面に対してX線検出器12の検出方向が45度であった場合、広域斜め照明部21の照明方向もX線検出器12の検出方向と平行で試料S表面に対して45度に設定されている。したがって、広域斜め照明部21は、検出時における照射ポイントPとX線検出器12とを結んだ方向と同じ方向に照明時における照明光の光軸が照射ポイントPに向けて設定される。
【0026】
上記狭域観察機構14A及び広域観察機構14Bは、同軸照明部18及びリング照明部20の照明光で照明された試料Sの照明画像を狭域用CCD及び広域用CCDによって基準画像として撮像し、その画像データを制御部Cへ送り記録させると共に、狭域斜め照明部19及び広域斜め照明部21の照明光で照明された試料Sの照明画像を凹凸用画像として撮像し、その画像データを制御部Cへ送り記録させる機能を備えている。
【0027】
また、上記試料ステージ10は、試料Sを固定した状態でステッピングモータ(図示略)等により水平移動可能なXYステージ部10aと、試料Sを回転させて照射ポイントPに対する狭域斜め照明部19及び広域斜め照明部21の照明方向を相対的に移動可能な回転ステージ部(移動機構)10bと、を備えている。
【0028】
上記制御部Cは、狭域斜め照明部19及び広域斜め照明部21からの照明光で生じた影部を凹凸用画像から画像処理により分析不可領域として特定すると共にその位置を分析不可領域情報として出力する影部明示処理部22と、照射ポイントPを分析不可領域に設定した際に、分析不可領域情報に基づいて警告表示又は警告音発生を行う警告機構23と、照射ポイントPを分析不可領域に設定した際に、自動設定の場合、分析不可領域情報に基づいて試料ステージ10を制御し、試料Sに対するX線検出器12の方向を照射ポイントPが影部とならない方向に変更する検出方向制御部24と、を備えている。
上記影部明示処理部22は、凹凸用画像と基準画像とを比較した画像処理により分析不可領域を特定する機能を有している。
【0029】
次に、本実施形態のX線分析装置を用いたX線分析方法について、図1から図3を参照して説明する。
【0030】
まず、試料ステージ10上に試料Sをセットし、試料室17内を所定の減圧状態とする。次に、広域観察を行うために、試料ステージ10を駆動して試料Sを広域観察機構14Bの直下に移動させる。この状態で、リング照明部20によって試料Sをその垂直上方から照明すると共に、照明された試料像を広域観察機構14Bによって広域の基準画像データとして取得する。この広域の基準画像データは、制御部Cに送られて記録されると共にディスプレイ16aに表示される。
【0031】
次に、図2に示すように、リング照明部20に代えて広域斜め照明部21によって試料Sをその斜め方向上方から照明すると共に、照明された試料像を広域観察機構14Bによって広域の凹凸用画像データとして取得する。この広域の凹凸用画像データは、制御部Cに送られて記録されると共にディスプレイ16aに表示される。なお、凹凸用画像データは、基準画像データと共にディスプレイ16aに交互に表示、並べて表示又は重ねて表示される。
【0032】
さらに、制御部Cの影部明示処理部22は、取得した基準画像データと凹凸用画像データとを比較した差分処理等の画像処理を行うことにより、図3に示すように、広域斜め照明部21の照明によって生じた影部S2を画像認識して分析不可領域として特定する。さらに、影部明示処理部22は、分析不可領域の位置を分析不可領域情報として記録すると共にディスプレイ16aに出力し、ディスプレイ16aによって測定者が容易に認識できるように明示する。
【0033】
次に、分析を行うため、測定者が照射ポイントPを入力し、指定する。この際、指定した照射ポイントPが上記特定した分析不可領域内であった場合、手動設定においては、警告機構23は分析不可領域情報に基づいて警告灯の点滅(警告表示)又はアラーム音の発生(警告音発生)を行う。これにより測定者は、分析不可領域から照射ポイントPを外して分析可能な別のポイントの測定を行うことができる。分析不可領域以外の照射ポイントPが指定されると、制御部Cは、測定者の操作に従って試料ステージ10を駆動して試料Sの照射ポイントPをX線管球11の直下に移動させる。すなわち、分析不可領域以外の領域に照射ポイントPを合わせ、X線管球11から1次X線X1を試料Sに照射することにより、発生した特性X線及び散乱X線をX線検出器12で検出することができる。
【0034】
なお、測定者は、分析不可領域以外の全てのポイントの測定が終了した後、手動で回転ステージ部10bを駆動して試料Sを例えば180度回転させ、X線検出器12による検出方向を変更し、方向変更前に分析不可領域であった領域に照射ポイントPを設定して再測定を行うことができる。この際、X線検出器12の検出方向が回転ステージ部10bによる回転によって変更されているので、照射ポイントPで発生した特性X線及び散乱X線が凸部S1に妨げることなく、X線検出器12に入射される。
【0035】
一方、自動設定の場合、指定した照射ポイントPが上記特定した分析不可領域内であったとき、制御部Cの検出方向制御部24は、分析不可領域情報に基づいて試料ステージ10を自動的に制御し、試料Sに対するX線検出器12の検出方向を照射ポイントPが影部とならない方向に変更する。例えば、検出方向制御部24によって回転ステージ部10bを駆動して試料Sを180度回転させて向きを変更し、方向変更前に分析不可領域であった領域に照射ポイントPを設定して自動的に測定を行う。この際、手動設定の際と同様に、X線検出器12の検出方向が回転ステージ部10bによる回転によって変更されているので、照射ポイントPで発生した特性X線及び散乱X線が凸部S1に妨げることなく、X線検出器12に入射される。なお、自動設定の場合でも、上記警告機構23による警告を行うように設定しても構わない。
【0036】
なお、狭域観察を行う場合、試料ステージ10を駆動して試料SをX線管球11の直下に移動させる。この状態で、同軸照明部18及びミラー13aによって試料Sをその垂直上方から照明すると共に、照明された試料像を狭域観察機構14Aによって狭域の基準画像データとして取得する。この狭域の基準画像データは、制御部Cに送られて記録されると共にディスプレイ16aに表示される。
【0037】
次に、同軸照明部18に代えて狭域斜め照明部19によって試料Sをその斜め方向上方から照明すると共に、照明された試料像を狭域観察機構14Aによって狭域の凹凸用画像データとして取得する。この狭域の凹凸用画像データは、制御部Cに送られて記録されると共にディスプレイ16aに表示される。さらに、制御部Cの影部明示処理部22は、取得した基準画像データと凹凸用画像データとを比較した差分処理等の画像処理を行うことにより、狭域斜め照明部19の照明によって生じた影部S2を画像認識して分析不可領域として特定する。さらに、影部明示処理部22は、分析不可領域の位置を分析不可領域情報として記録すると共にディスプレイ16aに出力し、ディスプレイ16aに測定者が容易に認識できるように明示する。この後、上記手動設定及び自動設定に基づいて上記広域観察の場合と同様に分析が行われる。
【0038】
このように、本実施形態では、狭域照明機構13A及び広域照明機構13Bが、検出時における照射ポイントPとX線検出器12とを結んだ方向と同じ方向に照明時における照明光の光軸が照射ポイントPに向けて設定される狭域斜め照明部19及び広域斜め照明部21を有しているので、狭域斜め照明部19及び広域斜め照明部21からの照明により試料Sの凹凸に対応した影部S2を発生させ、分析不可領域として明示させることができる。すなわち、この影部S2は、検出時に照射ポイントPで発生したX線が凹凸によりX線検出器12に到達できない分析不可領域とほぼ等しく、その影部S2を可視光像として測定者に提供することで、分析不可領域を容易に明示することができる。
【0039】
また、試料Sの凹凸によってX線の検出が不適切な場合、X線の信号量が低下することによる不適切な測定結果となることを、分析不可領域の明示によって測定者が容易に判断することが可能になり、間違った判定を防ぐことができる。例えば、有害物質の混入がある場合等に、その判断が容易となる。
【0040】
また、影部明示処理部22が、凹凸用画像から照明光で生じた影部S2を画像処理により分析不可領域として特定すると共にその位置を分析不可領域情報として出力することで、影部S2を画像処理によって画像認識して自動的に特定し、明示することができる。また、出力された分析不可領域情報に基づいて種々の分析処理や分析操作を可能にすることができる。特に、影部明示処理部22が、互いに異なる方向からの照明である狭域斜め照明部19及び広域斜め照明部21による凹凸用画像と同軸照明部18及びリング照明部20による基準画像とを比較した差分処理等の画像処理により分析不可領域を特定するので、より正確に分析不可領域を特定することができる。
【0041】
また、手動設定の場合、分析不可領域に照射ポイントPを設定して測定しようとすると、警告機構23が、分析不可領域情報に基づいて警告表示又は警告音発生を行うので、測定者は分析不可領域の無駄な分析作業を行わずに済み、効率的に分析作業を行うことを可能にする。また、警告表示又は警告音発生があった分析不可領域については、試料Sの向きを変更して再度セットしてから再測定を行う対応を取ることも可能になる。
また、自動設定の場合、検出方向制御部24が分析不可領域情報に基づいて試料ステージ10を制御し、照射ポイントPが影部S2とならない方向に試料SとX線検出器12との位置関係を変更するので、影部S2であったポイントも試料SとX線検出器12との位置関係の変更によって自動的に測定することができる。
【0042】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態は、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置であるが、本発明を、他の分析方式、例えば波長分散型の蛍光X線分析装置や照射する放射線として電子線を使用するSEM−EDS分析装置に適用しても構わない。
また、上記実施形態では、試料室内を減圧雰囲気にして分析を行っているが、真空(減圧)雰囲気でない状態で分析を行っても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の一実施形態に示す概略的な全体構成図である。
【図2】本実施形態において、広域斜め照明部の照明によって生じた影部を示す説明図である。
【図3】本実施形態において、広域斜め照明部の照明によって取得した凹凸用画像の例を示す概念図である。
【図4】本発明に係るX線分析装置及びX線分析方法の従来例において、照射ポイントで発生したX線が試料の凸部によって吸収されX線検出器に到達しない場合を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10…試料ステージ(移動機構)、11…X線管球(放射線源)、12…X線検出器、13A…狭域照明機構、13B…広域照明機構、14A…狭域観察機構、14B…広域観察機構、15…分析器、18…同軸照明部(基準用照明部)、19…狭域斜め照明部(凹凸用照明部)、20…リング照明部(基準用照明部)、21…広域斜め照明部(凹凸用照明部)、22…影部明示処理部、23…警告機構、24…検出方向制御部、C…制御部、P…照射ポイント、S…試料、S1…凸部、S2…影部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の任意の照射ポイントに放射線を照射する放射線源と、
前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出器と、
前記試料に対して照明光を出射して照明する照明機構と、
前記照明光で照明された前記試料の照明画像を画像データとして取得する観察機構と、を備え、
前記照明機構が、前記検出時における前記照射ポイントと前記X線検出器とを結んだ方向と同じ方向に前記照明時における前記照明光の光軸が前記照射ポイントに向けて設定される凹凸用照明部を有していることを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線分析装置において、
前記観察機構が、前記凹凸用照明部の照明光で照明された前記試料の照明画像を凹凸用画像として記録し、
前記凹凸用照明部からの前記照明光で生じた影部を前記凹凸用画像から画像処理により分析不可領域として特定すると共にその位置を分析不可領域情報として出力する影部明示処理部を備えていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線分析装置において、
前記照明機構が、前記検出時における前記放射線の照射方向と同じ方向に前記照明時における前記照明光の光軸が前記照射ポイントに向けて設定される基準用照明部を有し、
前記観察機構が、前記基準用照明部の照明光で照明された前記試料の照明画像を基準画像として記録し、
前記影部明示処理部が、前記凹凸用画像と前記基準画像とを比較した画像処理により前記分析不可領域を特定することを特徴とするX線分析装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のX線分析装置において、
前記照射ポイントを前記分析不可領域に設定した際に、前記分析不可領域情報に基づいて警告表示又は警告音発生を行う警告機構を備えていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載のX線分析装置において、
前記試料と前記凹凸用照明との位置を相対的に移動可能な移動機構と、
前記照射ポイントを前記分析不可領域に設定した際に、前記分析不可領域情報に基づいて前記移動機構を制御し、前記試料に対する前記X線検出器の検出方向を前記照射ポイントが前記影部とならない方向に変更する検出方向制御部と、を備えていることを特徴とするX線分析装置。
【請求項6】
放射線源から試料上の任意の照射ポイントに放射線を照射し、X線検出器により前記試料から放出される特性X線及び散乱X線を検出し該特性X線及び散乱X線のエネルギー情報を含む信号を出力するX線検出方法であって、
前記放射線の照射を行う前に、照明機構により前記試料に対して照明光を出射して照明するステップと、
観察機構により前記照明光で照明された前記試料の照明画像を画像データとして取得するステップと、を有し、
前記照明するステップで、前記照明機構に備えられた凹凸用照明部により、前記検出時における前記照射ポイントと前記X線検出器とを結んだ方向と同じ方向に前記照明時における前記照明光の光軸を前記照射ポイントに向けて設定し、前記照明を行うことを特徴とするX線分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−198404(P2009−198404A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42242(P2008−42242)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】