説明

X線分析装置

【課題】複数種類の測定データ及び解析データを取得できるX線分析装置において、データの内容とその内容をもたらした解析ソフトウエアとを簡単且つ正確に把握できるようにする。
【解決手段】複数の測定手法を実現できる機能を持ったX線分析装置1であり、この装置は、個々の測定手法を実現して測定データを取得する測定ソフトウエア36と、その測定データに対して所定の解析を行って解析データを取得する解析ソフトウエア37と、測定データ及び解析データの個々に基づいて縮小画像42を作成する縮小画像作成手段2、38と、解析ソフトウエアを指し示すアイコン43を作成する解析アイコン作成手段2、39と、縮小画像42とアイコン43とを互いが対応関係にあることを示しつつ同じ画面9a内に表示する画像表示手段2,9とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の測定手法を実現できる機能を持ったX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、複数の測定手法を実現できる機能を持ったX線分析装置が提案されている。例えば、特許文献1によれば、X線回折測定、X線小角散乱測定、反射率測定、その他X線を用いて行われる各種の測定手法を、1台のX線分析装置によって行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−057989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたX線分析装置のように複数の測定手法を選択して種々の測定を行うことができる装置、いわゆる多機能装置は、種々の測定結果を1台の装置によって求めることができるという格別の効果を得ることができる。
【0005】
しかしながら、得られた測定データ及びその測定データを解析して得られた解析データをディスプレイの画面上でファイル名の形で且つ一覧表の形式で表示したとき、ユーザは測定データ又は解析データがどのような種類のデータなのか、どのようなソフトウエアによって測定されたのか又は解析されたのかを知る術がなく、データを管理及び再利用する上で非常に不便であった。
【0006】
現在、測定データ及び解析データはファイルとして記憶媒体内に記憶されることが多い。そしてこの場合、ファイル名には拡張子が付記されることが多い。一般的には拡張子によってデータの種類を判別できることが多いが、X線分析の分野においては、拡張子が同じデータでも異なる測定手法によって求められたデータが存在する。これは、共通の測定ソフトウエアで異なる手法の測定に対応するためである。例えば、粉末試料の広角測定データと薄膜試料の反射率測定データとは、測定の種類は異なっているが、共通の測定ソフトウエアを使用するため、拡張子は両者ともに共通である。従って、拡張子だけに頼って、データの種類を推定し、さらに解析ソフトウエアを決めるのは、判断を誤るおそれがある。
【0007】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、複数種類の測定データ及び解析データを取得できるX線分析装置において、データの内容とその内容から推定される解析ソフトウエアとを簡単且つ正確に把握できることを可能とすることにより、データの迅速な活用を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るX線分析装置は、複数の測定手法を実現できる機能を持ったX線分析装置において、前記個々の測定手法を実現して測定データを取得する測定ソフトウエアと、当該測定データに対して所定の解析を行って解析データを取得する解析ソフトウエアと、前記測定データ及び前記解析データの個々に基づいて縮小画像を作成する縮小画像作成手段と、前記解析ソフトウエアを指し示すアイコンを作成する解析アイコン作成手段と、前記縮小画像と前記アイコンとを互いが対応関係にあることを示しつつ同じ画面内に表示する画像表示手段とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、複数の測定データ及び解析データがX線分析装置の画像表示用の画面内に画像として表示される場合であっても、ユーザは縮小画像を見ることによりデータの内容を迅速かつ正確に認識でき、さらにアイコンを見ることによりそのデータに関わる解析ソフトウエアを迅速且つ正確に認識できる。このため、本発明は、複数の測定手法を実現できるX線分析装置のデータ管理をする上で非常に有効である。
【0010】
本発明に係るX線分析装置において、前記縮小画像と前記アイコンとが対応関係にあることの表示は、前記縮小画像に隣接して前記アイコンを表示すること、又は前記縮小画像の一部分に前記アイコンの一部分が重なるように表示すること、によって達成できる。これらの表示態様により、両者の対応関係を簡単且つ確実に表現できる。
【0011】
本発明に係るX線分析装置において、前記縮小画像は、前記測定データに基づいて通常サイズの測定結果画像を作成した後にその測定結果画像を縮小表示するのではなく、前記測定データに基づいて直接に作成された画像データによって表示することが好ましい。
【0012】
こうすれば、例えば縮小画像において、縦軸をlog表示としたり、ルート(√)表示としたりすることができるので、X線分析の結果表示にとっては好都合である。X線分析装置の分野では、測定データ等をlogスケールで表示したり、√スケールで表示したりすることがあるので、これに対応した縮小画像表示を行うことで解析ソフトウエアを迅速且つ正確に認識できて好都合である。
【0013】
本発明に係るX線分析装置において、前記解析アイコン作成手段は、ユーザの入力情報に従って前記アイコンを作成することができる。こうすれば、ユーザの方針に沿った解析ソフトウエアを提示することが可能となり、ユーザの好みに沿った解析を行うことができる。
【0014】
本発明に係るX線分析装置において、前記解析アイコン作成手段は、前記測定データのファイルヘッダ部分の記述事項若しくは測定データの拡張子、又は前記解析データのファイルヘッダ部分の記述事項若しくは解析データの拡張子に基づいて、前記解析ソフトウエアを判別することができる。これにより、測定データと解析ソフトウエアとを、又は解析データと解析ソフトウエアとを常に正確に関連付けることができ、安定したデータ管理ができる。
【0015】
本発明に係るX線分析装置において、前記解析アイコン作成手段は、前記測定データのファイルヘッダ部分に記載された測定手法IDの記述、又は前記解析データのファイルヘッダ部分に記載された解析ソフトウエアIDの記述に基づいて前記解析ソフトウエアを判別することができる。
【0016】
X線分析の分野においては、測定データのファイル同士で拡張子が同じデータであっても、測定手法が異なっているものがある。このような測定データに対して上記のように拡張子に基づいて解析ソフトウエアを判別してアイコンを作成することにすると、ユーザの判断が大まかなものとなってしまうことも考えられる。特に、データ測定者と測定データ解析者が異なる場合はファイル名に測定手段を識別する記号を付す等の余分な作業を強いることも考えられる。これに対し、測定手法IDの記述に基づいて解析ソフトウエアを判別するようにすれば、測定者に負担を掛けることなく正確な判別を行うことができる。
【0017】
本発明に係るX線分析装置において、前記解析アイコン作成手段は、前記測定データのファイルヘッダ部分に記述された測定条件、又は前記解析データのファイルヘッダ部分に記述された測定条件に基づいて、前記解析ソフトウエアを判別することができる。
【0018】
測定条件とは、例えば、測定に使用したゴニオメータの測定軸の種類や、試料へ入射するX線の入射角の走査範囲や、X線検出器の試料に対する走査回転角の範囲等である。この構成によれば、測定データ等に即して解析ソフトウエアを決定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数の測定データ及び解析データがX線分析装置の画像表示用の画面内に画像として表示される場合であっても、ユーザは縮小画像を見ることによりデータの内容を迅速かつ正確に認識できる。さらに、アイコンを見ることによりそのデータに関わる解析ソフトウエアを簡単且つ正確に認識できたり、次回の測定で使用すべきである解析ソフトウエアについてのサジェスチョンを受けることができる。このため、本発明は、複数の測定手法を実現できるX線分析装置のデータ管理をする上で非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るX線分析装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1に示すX線分析装置の主要部であるX線測定系の一例を示す図である。
【図3】図1に示すX線分析装置の主要部であるゴニオメータの走査軸と機能を模式的に示す図である。
【図4】ゴニオメータの1つの機能を達成する際に使用するポーラーネットの一例を示す図である。
【図5】測定データ又は解析データの一例を示す図である。
【図6】本発明に係る縮小画像及びアイコンのそれぞれを例示する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るX線分析装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0022】
図1は、本発明に係るX線分析装置の一実施形態を示している。全体を符号1で示す本実施形態のX線分析装置は、コンピュータの中央演算制御装置であるCPU2と、ROM(Read Only Memory)3と、RAM(Random Access Memory)4と、記憶媒体であるメモリ5とを有している。ROM3とRAM4はコンピュータの内部メモリを構成している。
【0023】
メモリ5は、半導体メモリ、ハードディスク、その他の任意の記憶媒体によって構成されている。メモリ5は、コンピュータの内部に設置されるものでも良く、コンピュータの外部に設置されるものでも良い。また、メモリ5は、1つの単体であっても良く、複数の記憶媒体であっても良い。CPU2は、必要に応じてROM3及びRAM4にアクセスしながらメモリ5に格納されたプログラムに従って所定の機能を実現する。
【0024】
X線分析装置1は、また、X線を用いて複数種類の測定手法を実現する測定機構であるX線測定系8と、画像を表示ずる画像表示手段としてのディスプレイ9と、入力手段としてのキーボード10と、同じく入力手段としてのマウス11とを有している。上記の各要素はデータバス12によって互いに接続している。
【0025】
X線測定系8は、本実施形態では、図2に示すように、測角器であるゴニオメータ15と、ゴニオメータ15の一方の側に設置されたX線発生装置16と、ゴニオメータ15の他方の側に設置されたX線検出器17とを有している。X線発生装置16の内部には、陰極であるフィラメント18と、対陰極であるターゲット19とが設けられている。フィラメント18から放出された電子がターゲット19の表面に衝突する領域がX線焦点Fであり、このX線焦点FからX線が発生する。つまり、X線焦点FがX線源として機能している。
【0026】
本実施形態では、Cu(銅)ターゲットを用いた2KWの封入管をX線発生装置16として用いている。X線焦点Fのサイズは1mm×10mmである。外部へ取り出すX線ビームの断面形状は必要に応じてポイントフォーカス又はラインフォーカスとすることができる。
【0027】
X線検出器17は、位置分解能を持たない0(ゼロ)次元X線検出器でも良く、直線方向に位置分解能を持つ1次元X線検出器でも良く、平面内で位置分解能を持つ2次元X線検出器であっても良い。0次元X線検出器としては、プロポーショナルカウンタやシンチレーションカウンタ等が考えられる。1次元X線検出器としては、PSPC(Position Sensitive Proportional Counter/位置感応型比例計数管)や線状CCD(Charge Coupled Device/電荷結合素子)センサ等が考えられる。2次元X線検出器としては、2次元CCDセンサや、個々のX線受光エレメントが独自にエネルギ分解能を持っている2次元半導体センサ等が考えられる。
【0028】
X線発生装置16とゴニオメータ15との間に入射光学系22が設けられている。ゴニオメータ15とX線検出器17との間に受光光学系23が設けられている。入射光学系22は、モノクロメータ部24と、CBO(Cross Beam Optics)ユニット25と、入射光学ユニット26と、入射スリットボックス27とを有している。
【0029】
モノクロメータ部24には、モノクロメータを装着でき、さらにそれを取り外すことができる。モノクロメータの無い単なる空間とすることができる。モノクロメータとしては、2結晶モノクロメータGe(220)×2と、2結晶モノクロメータGe(400)×2と、4結晶モノクロメータGe(220)×4と、4結晶モノクロメータGe(440)×4とが選択的に用いられる。
【0030】
CBOユニット25には、集中法用スリット(BB)、平行ビーム用スリット(PB)、小角散乱測定用スリット(SA)、微小部測定用スリット(MA)の各スリットを装着でき、さらには取り外すことができる。また、スリットの無い単なる空間とすることができる。
【0031】
入射光学ユニット26には、必要なスリットを装着でき、さらにはそれを取り外すことができる。スリットの無い単なる空間とすることもできる。スリットとしては、数種類のソーラスリット及びインプレーンPSC(Parallel Slit Collimator)が選択的に用いられる。
【0032】
入射スリットボックス27には、スリットを装着でき、さらにはそれを取り外すことができる。スリットの無い単なる空間とすることができる。スリットとしては、例えば0.5mm〜15mmまでの範囲に入る数種類、例えば5種類の長手制限スリットが考えられる。
【0033】
受光光学系23は、第1受光スリットボックス30と、第1受光光学ユニット31と、第2受光スリットボックス32と、第2受光光学ユニット33と、アッテネータ部34とを有している。第1受光スリットボックス30には、適宜のフィルタ(本実施形態の場合はCuKβフィルタ)が装着でき、さらにはそれを取り外すことができる。フィルタの無い単なる空間とすることができる。
【0034】
第1受光光学ユニット31には、適宜のアナライザを装着でき、さらにはそれを取り外すことができる。アナライザの無い単なる空間とすることもできる。アナライザとしては、2結晶アナライザGe(220)×2と、2結晶アナライザGe(400)×2とが選択的に用いられる。また、アナライザとして、角度の異なった数種類のPSA(Parallel Slit Analyzer)が選択的に用いられる。PSAの角度としては、例えば、1.0度、0.5度が用いられる。
【0035】
第2受光スリットボックス32には、ソーラスリットとインプレーンPSA(Parallel Slit Analyzer)とが選択的に装着でき、さらにはそれを取り外すことができる。スリット等が無い単なる空間とすることができる。ソーラスリットとしては、例えば、Soller slit 5.0 deg 及び Soller slit 2.5 deg を用いる。インプレーンPSAとしては、例えば、In-plane PSA 1.0 deg,In-plane PSA 0.5 deg を用いる。
【0036】
第2受光光学ユニット33には、モノクロメータスリットが装着でき、さらにはそれを取り外すことができる。スリットの無い単なる空間とすることができる。
【0037】
アッテネータ部34には、カウンタモノクロメータが装着でき、さらにはそれを取り外すことができる。カウンタモノクロメータが無い単なる空間とすることもできる。カウンタモノクロメータとしては、湾曲形状モノクロメータや平面形状モノクロメータを用いる。
【0038】
ゴニオメータ15は、図3に示す複数の走査軸を使って、複数の測定手法を実現できる。図3において、図示しない試料支持装置又は試料支持台によって試料Sが所定位置に置かれている。試料支持装置又は試料支持台はゴニオメータ15の構成要素である。本実施形態では試料Sが水平面内に置かれるものとする。なお、試料Sは垂直面内に置かれることもある。
【0039】
なお、本明細書において、θ軸線のように「軸線」と言った場合は仮想線のような線そのものを言うものとし、θ軸のように「軸」といった場合は、各種の部品を上記の「軸線」を中心として回転可能に支持したり、「軸線」に沿って移動可能に支持したりする支持系を言うものとする。
【0040】
1.Out-of-plane測定
図3において、試料Sが置かれる位置の一方の側にX線源Fが設けられる。X線源Fは、例えばフィラメント等といった陰極に対向して配置された対陰極(ターゲット)の表面に形成されるX線焦点である。具体的には、陰極から発生した電子が対陰極の表面に衝突する領域がX線焦点であり、このX線焦点からX線が放出される。本実施形態では、このX線焦点がX線源Fである。
【0041】
X線焦点Fからは3次元の全方位に向けてX線が放出されるが、そのうちの一部の角度領域のものが外部に取り出されて入射X線R1として試料Sに照射される。試料S内の結晶格子面が入射X線R1に対してブラッグの回折条件を満足すると、試料Sから回折X線R2が発生する。本実施形態では、この回折X線R2をX線検出器17によって検出する。なお、図3に示すX線光学系を含む空間内の面であって入射X線R1の中心線と回折X線R2の中心線とを含む面は、同空間内の面であってX線焦点FとX線検出器17とを含む面と一致しなければならない。
【0042】
本実施形態では、所定の測定位置に置かれた試料Sの表面を通り、該試料表面に対して平行になるようにθ軸線が設定されている。θ軸線は位置不動に設定されている。また、θ軸線は上記の2つの仮想平面と垂直の関係を持っている。θ軸線を中心として試料SをX線源Fに対して回転移動させることにより、試料Sに対するX線R1の入射角θを変化させることができる。また、θ軸線を中心としてX線源Fを試料Sに対して回転移動させることにより、入射角θを変化させることもできる。このようなX線源F又は試料Sのθ軸線を中心とした回転移動を試料Sのθ回転ということにする。
【0043】
X線が入射角θで試料Sに入射したときに回折X線R2が発生したとすると、回折X線R2の入射X線R1に対する角度2θ(以下、この角度2θを回折角という)はθの2倍になる。X線検出器17は、回折角2θで発生する回折X線R2を検出できるように、X線入射角θの2倍の角度を維持するようにθ軸線を中心として回転移動する。このX線検出器17のθ軸線を中心とした回転移動をX線検出器17の2θ回転ということにする。
【0044】
以上のようにX線源F又は試料Sをθ軸線を中心としてθ回転させ、それに同期してX線検出器17をθ軸線を中心として2θ回転させることは、2θ/θスキャンと呼ばれている。なお、ここで、「A/B(A,Bはそれぞれ何等かの動作軸を示す)」の表記は、Aの動きとBの動きとがカップリング、すなわち連動していることを表現している。
【0045】
試料Sへの入射X線R1の中心線及び試料Sからの回折X線R2の中心線を含む面は、一般に、赤道面又はアウト・オブ・プレーン(Out-of-plane)と呼ばれている。この面上でX線源Fをθ回転させ、同時にX線検出器17を2θ回転させてデータを取得する測定手法がOut-of-plane 測定と呼ばれている。本実施形態においてX線源F及びX線検出器17を2θ/θスキャンさせて行う測定もOut-of-plane 測定の一形態である。
【0046】
2.In-plane測定
図3において、所定の試料位置に置かれた試料Sを垂直に貫通し、位置不動のθ軸線に直交する2θχ軸線が設定されている。θ軸線が水平線であれば2θχ軸線は垂直軸線であり、θ軸線が垂直軸線であれば2θχ軸線は水平軸線である。また、所定の試料位置に置かれた試料Sの表面に直交する軸線であるφ軸線が設定されている。図3では、φ軸線と2θχ軸線が重なっていて1つの線を形成しているが、2θχ軸線が位置不動の線である一方、φ軸線は試料Sが揺動又は傾斜移動するときにはその試料Sの移動に応じて移動する軸線である。
【0047】
試料Sへの入射X線R1の中心線及び試料Sからの回折X線R2の中心線を含む赤道面に直角で試料Sの表面を含む平面上にあって2θχ軸線に直交する方向は、一般に、インプレーン(In-plane)方向と呼ばれている。本実施形態では、X線検出器17を2θχ軸線を中心として回転移動させる駆動系が設けられている。この駆動系によってX線検出器17を2θχ軸線を中心として回転移動させれば、X線検出器17は上記のインプレーン方向へ移動させることができる。このようなX線検出器17のインプレーン方向での移動は2θχスキャンと呼ばれている。
【0048】
また本実施形態では、試料Sをそれ自身に直交するφ軸線を中心として回転移動させる駆動系が設けられている。試料Sをφ軸線を中心として回転移動させることは、一般に、φスキャンと呼ばれており、このφスキャンによる試料Sの平面内での回転は、一般に、試料Sの面内回転と呼ばれている。
【0049】
試料Sをφスキャンさせることと、X線検出器17を2θχスキャンさせることを組み合わせることにより、試料Sに関する有用な回折線データを得ることができる。このような測定手法は、一般に、In-plane 測定と呼ばれている。
【0050】
3.ロッキングカーブ測定(ωスキャン)
ロッキングカーブとは、単色性及び平行性の高いX線ビームを試料結晶に入射し、試料に対するX線の入射角を、ブラッグの回折条件を満たす角度の近傍において、一定の低速度でゆっくりと回転させたときに測定される回折強度曲線である。通常この曲線は、横軸にX線入射角度をとり、縦軸にX線強度をとったグラフ上に描かれる。
【0051】
上述したOut-of-plane測定の場合、図3において、X線源Fから試料Sへ入射するX線R1の角度θ(すなわちX線入射角θ)は、回折X線R2の入射X線R1に対する角度2θとの関係において1対2の関係であり、さらに、X線源FとX線検出器17とが試料Sの垂直面に対して対称の位置にある場合に用いられる。
【0052】
一方、X線入射角θが回折X線R2の入射X線R1に対する角度2θとの関係において1対2の関係であるが、試料Sの垂直面に対してX線源FとX線検出器17とが対称の位置に無い場合は、入射X線R1が試料表面と成す角度を「角度ω」と呼んでいる。本実施形態では、X線源Fから試料Sへ入射するX線R1の試料表面に対する角度と回折X線R2の試料表面に対する角度が対象の関係に無い場合は、θ軸線をω軸線と言い、θ軸をω軸と言い、θスキャンをωスキャンということにする。
【0053】
X線源F及びX線検出器17のそれぞれの位置を、試料結晶のブラッグの回折条件を満たす角度に固定しておいて、上記のように試料Sをω軸線を中心としてωスキャンすることにより、山状又はピーク状の回折線強度図形、すなわちロッキングカーブを得ることができる。このようにして行われる測定手法はωスキャンによるロッキングカーブ測定と呼ばれている。
【0054】
4.ロッキングカーブ測定(φスキャン)
図3において、X線源F及びX線検出器17のそれぞれの位置を、試料結晶のブラッグの回折条件を満たす角度に固定しておいて、試料Sをφ軸線を中心としてφスキャンすることにより、山状又はピーク状の回折線強度図形、すなわちロッキングカーブを得ることができる。このようにして行われる測定手法はφスキャンによるロッキングカーブ測定と呼ばれている。
【0055】
5.高分解能ロッキングカーブ測定(2θ/ωスキャン)
図3において、試料Sの表面に対して角度αの傾きをもつ結晶面のロッキングカーブを得る測定手法として、試料結晶のブラッグの回折条件を満たす角度θに角度αを加算してこれをX線入射角ωとし、同時に、角度2θに角度αを減算した関係でX線検出器17の位置を設定した状態で、試料Sを2θ/ωスキャンする方法がある。これにより、山状又はピーク状の回折線強度図形、すなわちロッキングカーブを高分解能で得ることができる。
【0056】
6.高分解能In-plane測定
図3において、入射X線R1を試料S表面に対して全反射臨界角度の近傍の角度で照射し、試料Sの表面に平行な法線をもつ試料結晶のブラッグの回折条件を満たす角度で試料Sを2θχ/φスキャンさせれば、高分解能のIn-plane測定を行うことができる。
【0057】
7.薄膜法測定
図3において、試料Sに対するX線入射角ωを数度以下(例えば、3度以下)の低い角度に固定しておいて、X線検出器17を2θスキャンさせて回折X線を測定することにより、基板上に形成された薄膜から発生する回折X線を測定することができる。このようにして行われる測定手法は薄膜法測定と呼ばれている。
【0058】
8.極点測定
一般に、結晶を中心とする球(いわゆる投影球)と、結晶の格子面の法線との交点を極という。そして、この投影球を平面座標である図4に示すポーラーネット(Polar Net)上にステレオ投影、すなわち平射投影することによってそのポーラーネット上に得られる図形が極点図である。この極点図は極図形と呼ばれることもある。この極図形を用いれば、多結晶の配向状態、すなわち多結晶中の結晶方位を適切に表示できる。図4に示すポーラーネットは、半径方向に角度α(°)をとり、円周方向に角度β(°)をとった極座標である。
【0059】
上記の極図形は、例えば、次のようにして測定できる。すなわち、図3において試料結晶のブラッグの回折条件を満たす角度に、試料Sに対するX線R1の入射角θと回折X線R2の入射X線R1に対する角度2θを固定する。そして、所定の試料位置に置かれた試料Sの表面を通りθ軸線及び2θχ軸線の両方に直交する軸線であるχ軸線を中心とした試料Sの角度(いわゆる、あおり角)χと、φ軸線を中心とした試料Sの面内角φを変化させながら、あおり角χ及び面内角φで特定される個々の試料位置における回折X線の強度Iを測定する。これにより、(χ、φ、I)によって特定される極点データが測定される。
【0060】
次に、所定の変換式を用いてχ値をα値に変換し、さらに所定の変換式を用いてφ値をβ値に変換して(α、β、I)の極点データを求める。そして、求めた(α、β、I)を図4のポーラーネット上にプロットすることにより、極点図を得ることができる。このようにして行われる極点測定が一般に広く行われている方法である。
【0061】
極点測定は上記のような極点測定に限られず、例えば特開2001−056304号公報によれば、既述のIn-plane測定によって求められたデータを補正することにより、極点図を得ることが開示されている。このようにして行われる極点測定はIn-plane 極点測定と呼ばれている。
【0062】
9.逆格子マップ測定(ωステップ,2θ/ωスキャン)
逆格子マップは、逆格子空間における試料結晶面からの回折X線の強度分布を示す図である。逆格子空間は、周知の通り、逆格子ベクトルによって構成される空間のことであり、実空間の周期性が反映されるものである。逆格子ベクトルは、周知の通り、結晶の実空間における基本ベクトルに対して所定の関係で定義づけられるベクトルである。一般には、逆格子ベクトルの先端に逆格子点が存在し、複数の逆格子点が逆格子空間内に規則性をもって配列することになる。
【0063】
この逆格子マップを作成してこれを観察すれば、例えば結晶の格子定数の揺らぎや格子面のモザイク度、等を知ることができる。
【0064】
本実施形態では、注目している逆格子点の測定において、ブラッグの回折条件を満たす角度(2θ、ω)に試料Sを移動し、さらに試料Sのω角度を1ステップΔω分づつ加算又は減算した位置に移動させながら、個々のω位置において2θ/ωスキャンを実行する。Δωの移動ステップ数を累積して2θ/ωスキャンを繰り返し実行し、複数のデータを測定することで、横軸にΔωをとり、縦軸に2θ/ωをとった座標上に強度分布マップ、すなわち逆格子マップを得ることができる。
【0065】
10.逆格子マップ測定(φステップ,2θ/ωスキャン)
上述したIn-plane 測定では、試料Sをφスキャンさせ、X線検出器17を2θχスキャンさせることの連動によってIn-plane 測定を実現した。また、上記の項目No.9のωステップに基づく逆格子マップ測定では、2θ/ωスキャンによって逆格子マップ測定を実現した。ここで、項目No.9のωステップに基づく逆格子マップ測定において、2θ軸を2θχ軸に置き換え、ω軸をφ軸に置き換えて2θχ/φスキャンを行うことにより、In-plane方向における逆格子マップ測定、すなわちφステップに基づいた逆格子マップ測定を実行することができる。
【0066】
11.広域逆格子マップ測定
図3において、試料Sをステップ的にΔχ移動させ、2θ/ωスキャンを実行する。Δχの移動ステップ数を累積して2θ/ωスキャンを繰り返し実行し、複数のデータを測定することで、横軸にΔχをとり、縦軸に2θ/ωをとった座標上に強度分布マップを得ることができる。
【0067】
項目No.9のωステップに基づく逆格子マップ測定においては、ω軸を移動させながら回折X線強度を測定して逆格子マップを求めた。この方法ではω軸の移動に関して制限があるため、測定範囲が制限されていた。これに対し、本測定のようにχ軸の移動を利用するようにすれば、移動量に制限ないため、広域の逆格子マップ測定を行うことができる。すなわち、広い範囲の逆格子空間を測定対象とすることができる。
【0068】
12.反射率測定
X線に対する物質の屈折率は“1”よりわずかに小さく、極めて浅い角度で物質にX線が入射すれば、全反射が起こる。X線反射率は、全反射が起こる角度位置の近傍(すなわち全反射近傍)のX線反射強度を測定することによって求めることができる。全反射近傍での物質に対するX線の侵入深さは、表面から10〜100nm程度と極めて浅く、物質の表面近傍の構造評価や、薄膜の構造評価、等にX線反射率測定が有効である。
【0069】
反射率測定においては、試料SへのX線入射角度θの範囲を、例えばθ=0.05°〜4°程度の微小角度の領域に設定し、2θ/θスキャンにてその反射X線をX線検出器によって検出する。この反射率測定装置において、厳密に単色化されたX線によって試料Sを照射し、さらに、試料Sから出たX線から所定の角度分解能を満たすX線だけを選択してX線検出器へ供給するようにすれば、信頼性の高い反射率データを得ることができる。
【0070】
本実施形態では、2θ/θスキャン、すなわち2θスキャンとθスキャンとを連動して実行することにより、反射率測定が行われる。
【0071】
13.小角散乱測定
物質によっては、それにX線を照射したときに入射X線の光軸を中心とする小角度領域、例えば2θ=0°〜5°程度の角度領域において散乱X線が発生することがある。例えば、物質中に10〜1000Å程度の微細な粒子や、これに相当する大きさの密度の不均一な領域が存在すると、入射X線方向に散漫な散乱、いわゆる中心散乱が生じる。この中心散乱は粒子の内部構造には無関係で粒子が小さい程、散乱の裾が広がる。本実施形態では、X線検出器17を2θスキャンさせることにより、小角散乱測定を行うことができる。X線検出器17を試料SのX線照射面側に配置すれば反射小角散乱測定を行うことができ、試料Sを入射X線が透過するように垂直に配置し、X線検出器17を試料SのX線照射面と反対側に配置すれば透過小角散乱測定を行うことができる。
【0072】
(演算制御系)
図1において、メモリ5の中に、各種のプログラムソフト、ファイル等がそれぞれにとって必要な容量の領域内に記憶されている。図では、便宜的に1つのメモリ内に各種のソフト、ファイル等を描いているが、実際には、必要に応じて複数の記憶媒体に分けてそれらのプログラムソフトが記憶されることもある。
【0073】
具体的には、メモリ5内には、測定ソフトウエア36、解析ソフトウエア37、縮小画像作成プログラム38、アイコン作成プログラム39、測定データファイル40、及び解析データファイル41が、それぞれ、所定の領域内に記憶されている。
【0074】
測定データファイル40は、各種の測定ソフトウエアによって実行された各種の測定によって取得された測定データを記憶するための領域である。測定データは、測定によって得られた生(なま)のデータである。解析データファイル41は、各種の解析ソフトウエアによって実行された各種の解析によって取得された解析データを記憶するための領域である。
【0075】
測定ソフトウエア36は、図2に示したX線測定系8を用いて、Out-of-plane 測定、In-plane 測定、ロッキングカーブ測定、薄膜法測定、極点測定、逆格子マップ測定、反射率測定、小角散乱測定、その他必要に応じて用いられる各種の測定手法を実現するためのソフトウエアである。
【0076】
解析データは、測定データに対して何らかの解析、すなわち加工が加えられたデータである。解析としては、例えば、バックグラウンドの補正処理、ピーク補正処理、スムージング処理、ピークサーチ処理、データベースと比較して行う定性分析処理、量的な分析である定量分析処理、等がある。
【0077】
(解析ソフトウエア)
解析ソフトウエア37は、各種の測定手法によって求められた測定データに対して解析を行うためにCPU2によって所定の機能を実現させるプログラムソフトである。具体的には、例えば下表1に示すような解析ソフトウエアである。
【0078】
[表1]


【0079】
表1に挙げられた解析ソフトウエア37は、反射率測定及びロッキングカーブ測定によって求められた測定データに対して解析を行うソフトウエアである「Global Fit」や、逆格子マップ測定によって求められた測定データに対して解析を行うソフトウエアである「3D Explore」や、広角測定によって求められた測定データに対して解析を行うソフトウエアである「PDXL」や、小角散乱測定によって求められた測定データに対して解析を行うソフトウエアである「NANO Solver」、等である。
【0080】
各測定手法には、プログラムソフト上のIDが付されている。具体的には、反射率測定、ロッキングカーブ測定、逆格子マップ測定、広角測定、そして小角散乱測定のそれぞれについて、「MEAS_KHP2_00055」、「MEAS_KHP2_00056」、「MEAS_KHP2_00058」、「MEAS_KHP2_00062」、「MEAS_KHP2_00063」のそれぞれのIDが付されている。
【0081】
なお、上記の例は測定手法及び解析ソフトウエアの一例であり、実際には、必要に応じてさらに多種類の測定手法を実現する解析ソフトウエアを採用することができる。また、表2では測定手法に対してIDを付与する例を示したが、測定手法に代えて解析ソフトウエアに対してIDを付与しても良い。
【0082】
(縮小画像作成プログラム)
縮小画像作成プログラム38は、上述した各種の測定手法によって取得された測定データ及び上記の各種の解析プログラムによって取得された解析データに関して、通常サイズよりも小さいサイズであって一覧表形式で表示するのに適したサイズの画像を作成するためのプログラムソフトウエアである。もちろん、通常サイズの画像を作成するためのプログラムソフトウエアも任意の記憶媒体内に設けられるのであるが、図1ではその図示を省略している。
【0083】
上記の通常サイズとは、図1のディスプレイ9の画面サイズとほぼ同じサイズの場合もあるし、ディスプレイ9の画面内に適宜の大きさの画像枠(すなわちウィンドウ)が表示される場合のその画像枠とほぼ同じサイズの場合もある。縮小画像は、そのような通常の画面サイズの中に複数の縮小サイズの画像を所定の配列、例えば行列状、ランダム状に一覧表示する際の個々の画像のことである。
【0084】
一般に、粉末試料に対する広角測定によって得られた測定データ又は解析データをグラフによって画像表示すれば、図5(a)に示すような画像が得られる。ここに示すグラフは、縦軸にX線強度(I)をとり、横軸に回折角(2θ)をとったグラフである。広角測定であるので、2θの角度範囲は広くとられている。
【0085】
図5(b)は、薄膜試料に対する反射率測定によって得られた測定データ又は解析データをグラフによって画像表示した場合の例である。ここに示すグラフも、縦軸にX線強度(I)をとり、横軸に回折角(2θ)をとったグラフである。反射率測定であるので、回折角2θの角度範囲は上記の広角測定に比べて低角度側の狭い角度範囲となっている。
【0086】
本実施形態のX線分析装置1は、ディスプレイ9の表示画面9a内に、例えば図6に示すような測定データ及び解析データの一覧表示を行うことができるようになっている。もちろん、この一覧表示を行うためのソフトウエアも必要となるが、図1ではそのソフトウエアの図示を省略している。
【0087】
図6の一覧表示は、縮小画像42とアイコン43(後述する)とから成る結合画像44の複数個を縦横の行列状態に並べて表示することによって構成されている。図1の縮小画像作成プログラム38は、上記の結合画像44の縮小画像42を作成するためのソフトウエアである。縮小画像作成プログラム38は、例えば次のような2つの手法により、図5(a)や図5(b)に示した通常サイズの測定結果表示の基礎となっている測定データ又は解析データに基づいて最少画像42を作成する。
【0088】
まず第1の手法は、図5(a)や図5(b)に示した通常サイズの測定結果表示を所定の縮小アルゴリズムを利用して縮小処理する手法である。第2の手法は、所定の縮小画像作成アルゴリズムを利用して、図5(a)や図5(b)に示した通常サイズの測定結果表示の基礎となっている測定データ又は解析データから縮小画像に対応した新たな画像データを作ることである。
【0089】
本発明の実施にあたっては、上記の第1の手法及び第2の手法のいずれを採用しても良いが、特にX線分析装置に適用する場合を考慮すると、第2の手法が望ましいと考えられる。何故ならば、X線分析装置における測定データ等の観察に際しては、図5(a)等のようなグラフによる観察の際に、縦軸をlog表示にしたり、ルート(√)表示にした方が分析を行い易い場合があり、その要求に応えるためには、第2の手法(すなわち縮小画像のための画像データを生成する手法)が好適だからである。
【0090】
なお、図6において、各結合画像44の下方位置に付された符号は、測定データ又は解析データのファイル名を示している。図示の例では、全てのファイルの拡張子が「.ras」で共通になっているが、測定手法や解析手法が異なれば、異なった拡張子が付されることはもちろんである。
【0091】
(アイコン作成プログラム)
図1のアイコン作成プログラム39は、図6の結合画像44のアイコン43を作成するためのソフトウエアである。アイコン43は、縮小画像42が指し示している測定データ又は解析データがどの解析ソフトウエアに対応しているかを指し示す標識である。より具体的には、このアイコン43は、対応する縮小画像42の基礎であるデータがどのような解析ソフトウエアによって求められたものであるかという情報や、縮小画像42の基礎であるデータを次回取り扱う際にはどのような解析ソフトウエアを用いるべきかというサジェスチョン(示唆)の情報、等をユーザに与えることができる。
【0092】
アイコン43の絵柄は、解析ソフトウエアの個々に対応して予め決められている。解析ソフトウエアが異なれば、アイコン43の絵柄が異なるように取り決める。本実施形態で、アイコン43は、測定データや解析データのファイルのヘッダ部の記述に基づいて決定したり、測定データのファイル名の拡張子で決めたりする。
【0093】
ファイルのヘッダ部の記述に基づいてアイコン43の種類を決定する手法としては、例えば、上記の表1において各解析ソフトウエアに割り当てられているID番号を予めヘッダ部に記述しておいてそのID番号を読み取って解析ソフトウエアを判別することや、測定データや解析データを取得する際の条件(例えば、回折線検出角2θの測定範囲、試料へのX線入射角の範囲、使用する光学部品の種類、等)を読み取って解析ソフトウエアを判別すること、等といった手法が考えられる。
【0094】
例えば、次の表2に示すように、ファイル(この表の場合はRAS形式のデータファイル)のヘッダ部の所定の行(表2では第9行目)に記述されたID番号を読み取ることができる。表2ではID番号として測定手法のID番号を採用しているが、これに代えて、解析ソフトウエアにID番号を付与するものとして、その解析ソフトウエアのID番号をヘッダ部における情報として採用することも可能である。
【0095】
[表2]
(1行目)*FILE_COMMENT“ ”
(2行目)*FILE_MD5“ ”
(3行目)*FILE_MEMO“ ”
(4行目)*FILE_OPERATOR“morikawa”
(5行目)*FILE_SAMPLE“ ”
(6行目)*FILE_TYPE“RAS_RAW”
(7行目)*FILE_USERGROUP“システムマネージャ”
(8行目)*FILE_VERSION“1.0000000000”
(9行目)*FILE_PART_ID“MEAS_KHP2_00055”
(10行目)*HW_ATTACHMENT_ID“ATT0021”
(11行目)*HW_ATTACHMENT_NAME“XY-20mm|XY-20mm”
【0096】
さらに具体的には、縮小画像42に対するアイコン43の種類(絵柄)は次のようにして決めることができる。
(1)ユーザがキーボード、マウス等といった入力装置を通して行うことができる。こうすれば、ユーザの測定方針に沿ったアイコン表示を行うことができる。また、次回の解析処理時に対するサジェスチョン機能をユーザの希望に沿って自由に決めることができる。
【0097】
(2)ファイルのヘッダ部又はファイルのその他の部分に記述された測定条件又は解析条件に基づいてコンピュータが決めることができる。こうすれば、人為的なミスを回避できる。
【0098】
(3)ファイルの拡張子に基づいてコンピュータが決めることができる。なお、X線分析装置においては拡張子が同じでも測定内容が異なることが生じ得るので、この場合にはヘッダ部の情報を参照する、等の措置を採ることが望ましい。
【0099】
(4)或る測定データ又は解析データに対してユーザが前回とは異なった解析ソフトウエアを使用した場合は、アイコン43をその使用した解析ソフトウエアに対応するものに切り替えることができる。こうすれば、ユーザの方針に沿った解析を行うことが可能となる。
【0100】
(X線分析装置の動作)
本実施形態に係るX線分析装置は以上のように構成されており、以下のように動作する。ユーザは、まず、図1及び図2のX線測定系8の所定位置に測定対象である試料Sをセットする。
【0101】
次に、ユーザはキーボード10及び/又はマウス11を通して所望の測定手法、例えば、集中法広角測定、反射率測定、ロッキングカーブ測定、その他の測定手法をCPU2に指示する。CPU2は指示された測定手法に対応した測定ソフトウエア36を実行することにより、X線測定系8に用意された複数の測定手法から指示に対応した1つの手法を実行する。
【0102】
その測定により、X線測定系8から測定データが出力され、そのデータはメモリ5内の測定データファイル40内に記憶される。ユーザが測定データを観察したい場合は、図1のキーボード10及び/又はマウス11を通してその旨を入力する。すると、CPU2は縮小画像作成プログラム38及びアイコン作成プログラム39を起動して、図6の縮小画像42及びアイコン43のそれぞれの画像データを生成し、さらにそれらをディスプレイ9の画面9a上に結合画像44として表示する。測定データ及び解析データが複数、存在する場合には、画面9a内に複数の結合画像44が一覧表の形式で表示される。
【0103】
ユーザは、縮小画像42を見ることにより、自分が見たいと思っているデータを即座に正確に認識できる。このとき、縮小画像42の下方位置に付記されたファイル名を確認することにより、さらに一層迅速で正確な判別を行うことができる。そしてユーザは、所望の縮小画像42に隣接又は一部重なって表示されているアイコン43を見ること、すなわち互いに対応関係にあることが表現されている縮小画像42及びアイコン43を見ることにより、どの解析ソフトウエアを利用して測定データを見れば良いかを迅速且つ正確に認識できる。
【0104】
こうして所望のデータを認識した後、ユーザがそのデータの縮小画像42を選択、例えばマウスによりクリックをすれば、CPU2は対応して表示されていたアイコン43が指標する解析ソフトウエアを起動して当該測定データを画像表示する。ユーザは、その解析ソフトウエアを使って所定の解析、例えば、バックグラウンドの補正処理、ピーク補正処理、スムージング処理、ピークサーチ処理、定性分析処理、定量分析処理、結晶構造解析、等を行うことができる。また、ユーザは画像表示されていたアイコン43とは別の解析ソフトウエアを意図的に使って解析を行うことも可能である。
【0105】
こうして解析が行われると、例えば表2に示した解析データのヘッド部において解析ソフトウエアについてのID情報が、今行われた解析のものに書き換えられる。このため、当該解析処理が終了した後、処理後の測定又は解析のデータを図6のように画面表示すれば、表示されるアイコン43は直前に使用された解析ソフトウエアを指標している。
【0106】
また、アイコン3は、ユーザが意図的に変更することも可能であり、この場合にはそのユーザに特有の解析を行うことが可能となる。この場合でも、ユーザはアイコン43を通して解析ソフトウエアの変更を迅速且つ正確に把握できるので、効率的な解析を行うことができる。
【0107】
以上の実施形態では、本発明の解析ソフトウエアとして、GlobalFit、3D Explore、PDXL、NANO Solver の各ソフトウエアを例示している。また、縮小画像作成手段として、CPU2と縮小画像作成プログラム38との組合せを例示している、また、解析アイコン作成手段として、CPU2とアイコン作成プログラム39との組合せを例示している。また、画像表示手段として、CPU2と図示しない画像データ生成ソフトとディスプレイ9との組合せを例示している。
【0108】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、図6に示した一覧表示は一例であり、これ以外の任意の配列の一覧表示ができることはもちろんである。また、表示される結合画像44の数はメモリ内に記憶されているデータの数に応じて種々に変化する。
【0109】
また、表1に挙げた測定種別、解析ソフトウエアの名称の具体例、及び測定手法のID等は一例であり、これ以外の任意のものを利用できることはもちろんである。
【0110】
また、表2に示したファイルのヘッダ部も一例であり、これ以外の記述形態とすることができることはもちろんである。
【符号の説明】
【0111】
1.X線分析装置、 2.CPU(演算制御手段)、 3.ROM、 4.RAM、 5.メモリ、 8.X線測定系、 9.ディスプレイ(画像表示手段)、 9a.表示画面、 10.キーボード(入力手段)、 11.マウス(入力手段)、 12.データバス、 15.ゴニオメータ(測角器)、 16.X線発生装置、 17.X線検出器、 18.フィラメント、 19.ターゲット、 22.入射光学系、 23.受光光学系、 24.モノクロメータ部、 25.CBOユニット、 26.入射光学ユニット、 27.入射スリットボックス、 30.第1受光スリットボックス、 31.第1受光光学ユニット、 32.第2受光スリットボックス、 33.第2受光光学ユニット、 34.アッテネータ部、 36.測定ソフトウエア、 37.解析ソフトウエア領域、 38.縮小画像作成プログラム、 39.アイコン作成プログラム、 40.測定データファイル、 41.解析データファイル、 42.縮小画像、 43.アイコン、 44.結合画像、 F.X線焦点(X線源)、 R1.入射X線、 R2.回折X線、 S.試料、 θ.X線入射角、 2θ.回折角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測定手法を実現できる機能を持ったX線分析装置において、
前記個々の測定手法を実現して測定データを取得する測定ソフトウエアと、
前記測定データに対して所定の解析を行って解析データを取得する解析ソフトウエアと、
前記測定データ及び前記解析データの個々に基づいて縮小画像を作成する縮小画像作成手段と、
前記解析ソフトウエアを指し示すアイコンを作成する解析アイコン作成手段と、
前記縮小画像と前記アイコンとを互いが対応関係にあることを示しつつ同じ画面内に表示する画像表示手段と
を有することを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
前記縮小画像と前記アイコンとが対応関係にあることの表示は、
前記縮小画像に隣接して前記アイコンを表示すること、又は
前記縮小画像の一部分に前記アイコンの一部分が重なるように表示すること、
であることを特徴とする請求項1記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記縮小画像は、前記測定データに基づいて直接に作成された画像データによって表示されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記解析アイコン作成手段は、ユーザの入力情報に従って前記アイコンを作成することを特徴とする請求項1から請求項3の少なくとも1つに記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記解析アイコン作成手段は、前記測定データのファイルヘッダ部分の記述事項若しくは測定データの拡張子、又は前記解析データのファイルヘッダ部分の記述事項若しくは解析データの拡張子に基づいて、前記解析ソフトウエアを判別することを特徴とする請求項1から請求項4の少なくとも1つに記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記解析アイコン作成手段は、前記測定データのファイルヘッダ部分に記載された測定手法IDの記述、又は前記解析データのファイルヘッダ部分に記載された解析ソフトウエアIDの記述に基づいて前記解析ソフトウエアを判別することを特徴とする請求項5記載のX線分析装置。
【請求項7】
前記解析アイコン作成手段は、前記測定データのファイルヘッダ部分に記述された測定条件、又は前記解析データのファイルヘッダ部分に記述された測定条件に基づいて、前記解析ソフトウエアを判別することを特徴とする請求項5記載のX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−108940(P2013−108940A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256218(P2011−256218)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】