説明

X線分析装置

【課題】前置増幅部前段の性能特性の変動による影響が抑制されたX線分析装置を提供する。
【解決手段】標準サンプルから放出された蛍光X線を検出する半導体X線検出素子、及び半導体X線検出素子の出力信号を受信する初段FET回路を含む前置増幅部前段と、前置増幅部前段を冷却する冷却装置と、前置増幅部前段から出力される検出信号を分析する信号分析装置と、検出信号を分析して得られる前置増幅部前段の性能特性を示す性能値、及び前置増幅部前段の温度をリアルタイムで監視し、冷却装置を制御して性能値が規定値を満たすように前置増幅部前段の温度を調整させる制御装置とを備え、前置増幅部前段が調整された温度において、測定対象物から放出された蛍光X線を分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体X線検出装置を有するX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質から放出される物質固有のX線を分析するエネルギー分散型のX線分析装置は、半導体X線検出素子や半導体X線検出素子からの電気的な出力信号を増幅する初段FET回路などを含む半導体X線検出装置を有する。
【0003】
半導体X線検出素子や初段FET回路は、温度が低いほど良い性能が得られるのが一般的である。例えば、−20℃〜−160℃付近の範囲で半導体X線検出素子や初段FET回路が使用される。この範囲においてはドナーの凍結が起こらないため、初段FET回路の雑音量は温度が低いほど小さい。
【0004】
冷却方法には、液体窒素、多段サーモモジュール、冷凍機などが採用可能である。液体窒素を用いた場合には、半導体X線検出素子を液体窒素温度まで冷却できる。しかし、液体窒素の使用は作業上の危険が伴うため、近年は多段サーモモジュールや冷凍機による冷却手段が主流になりつつある。その背景には、半導体X線検出素子(特にSiを用いた素子)に関して、Siのインゴットの特性が向上したことにより、液体窒素温度まで冷却せずとも良い特性が得られるようになったことが挙げられる。
【0005】
例えば、半導体X線検出素子及び初段FET回路(以下において、これらを「前置増幅部前段」という。)がコールドフィンガーによって支持及び冷却され、コールドフィンガーが多段サーモモジュールや冷凍機などの冷却装置によって冷却される(例えば特許文献1参照。)。このとき、前置増幅部前段付近のコールドフィンガーの温度をモニタし、モニタされた温度に基づいて冷却装置を制御することによって、前置増幅部前段が所望の温度に冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−186403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体X線検出装置の内部は真空断熱され、冷却時にガスが前置増幅部前段に吸着して特性が変動することを防いでいる。しかしながら、真空断熱しても、半導体X線検出装置内部の素材や内壁からの脱ガスにより真空度が劣化する。このため、脱ガスが前置増幅部前段に吸着し、性能特性の変動が生じる。
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明は、前置増幅部前段の性能特性の変動による影響が抑制されたX線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、(イ)標準サンプルから放出された蛍光X線を検出する半導体X線検出素子、及び半導体X線検出素子の出力信号を受信する初段FET回路を含む前置増幅部前段と、(ロ)前置増幅部前段を冷却する冷却装置と、(ハ)前置増幅部前段から出力される検出信号を分析する信号分析装置と、(ニ)検出信号を分析して得られる前置増幅部前段の性能特性を示す性能値、及び前置増幅部前段の温度をリアルタイムで監視し、冷却装置を制御して性能値が規定値を満たすように前置増幅部前段の温度を調整させる制御装置とを備え、前置増幅部前段が調整された温度において、測定対象物から放出された蛍光X線を分析するX線分析装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前置増幅部前段の性能特性の変動による影響が抑制されたX線分析装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るX線分析装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係るX線分析装置に使用される、試料搭載用のホルダの構造を示す模式図である。
【図3】設定温度と前置増幅部前段の分解能との関係を示すグラフである。
【図4】発生エネルギーとカウント数との関係を示すグラフである。
【図5】温度と前置増幅部前段のゲインの変動量との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態に係るX線分析装置を用いた分析方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態に係るX線分析装置による測定対象物の測定状態を示す模式図である。
【図8】本発明のその他の実施形態に係るX線分析装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。
【0013】
又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
本発明の実施形態に係るX線分析装置1は、図1に示すように、励起X線X1を出射するX線管200と、標準サンプル500及び測定対象物600を格納する測定室300と、励起X線X1を照射された標準サンプル500又は測定対象物600から放出された蛍光X線X2が入射する半導体X線検出装置10を備える。標準サンプル500は、測定室300に配置されたホルダ400に搭載されている。ホルダ400の詳細は後述する。また、図1に示すように、X線管200から見てホルダ400の背後に位置するように、測定対象物600が測定室300内に格納されている。
【0015】
半導体X線検出装置10は、励起X線X1を照射された標準サンプル500又は測定対象物600から放出された蛍光X線X2のエネルギーに比例した大きさを示す検出信号STを出力する前置増幅部前段100と、前置増幅部前段100を冷却する冷却装置50と、前置増幅部前段100から出力される検出信号STを分析する信号分析装置30と、前置増幅部前段100の性能値が所定の規定値を満たすように、冷却装置50を制御して前置増幅部前段100の温度を調整させる制御装置40とを備える。即ち、X線分析装置1は、X線管200から出力した励起X線X1を対象物に照射し、対象物から放出された蛍光X線X2を検出、分析するエネルギー分散型蛍光X線分析装置である。前置増幅部前段100は、半導体X線検出素子12及び初段FET回路13からなる。
【0016】
蛍光X線X2が半導体X線検出装置10に入射すると、半導体X線検出素子12によって蛍光X線X2が検出され、半導体X線検出素子12の出力信号を受信した初段FET回路13から蛍光X線X2のエネルギーに比例した大きさを示す検出信号STが出力される。蛍光X線X2は、測定対象物に含まれる元素固有のエネルギーを有する。このため、検出信号STを信号分析装置30によって分析することによって、測定対象物に含まれる元素が特定される。
【0017】
制御装置40は、標準サンプル500から放出された蛍光X線X2を検出、分析するための検出信号STから得られる前置増幅部前段100の性能特性を示す性能値、及び前置増幅部前段100の温度をリアルタイムで監視することにより、性能値が予め設定された規定値を満たすように前置増幅部前段100の温度を調整する。
【0018】
その後、X線分析装置1では、標準サンプル500を用いて調整された温度に設定された前置増幅部前段100によって、測定対象物600から放出された蛍光X線X2を分析する。
【0019】
標準サンプル500は、前置増幅部前段100の性能特性変動補正用に用いられる。このため、標準サンプル500には、X線分析装置1による分析結果が判明しているサンプルが採用される。前置増幅部前段100の性能特性の変動を検査する指標としては、例えば、スペクトル特性から得られる分解能やバックグランドノイズなどが使用される。
【0020】
図2(a)及び図2(b)に、2種類の標準サンプル501、502が搭載可能であり、入射窓410が形成されたホルダ400の例を示す。標準サンプル501、502の材料は、前置増幅部前段100について検査する性能特性に応じて純度の高い(例えば、99.9999%程度)金属などが選択される。例えば、前置増幅部前段100の分解能について検査する場合には、純度の高いマンガン(Mn)材が標準サンプル500として用意される。或いは、バックグランドノイズについて検査する場合には、純度の高いアンチモン(Sb)材が標準サンプル500として用意される。他に、アルミニウム(Al)材やスズ(Sn)材などの標準サンプル500が適宜使用される。
【0021】
なお、図2(a)及び図2(b)に示したホルダ400では、入射窓410を介して、励起X線X1が測定対象物600に照射され、測定対象物600から蛍光X線X2が放出される。したがって、測定対象物600について分析を行う場合には、励起X線X1及び蛍光X線X2が入射窓410を通過するようにホルダ400を移動させる。
【0022】
図2(a)に示したホルダ400はターレットタイプであり、中心を軸にして矢印方向にホルダ400を回転させることにより、標準サンプル501、標準サンプル502、或いは入射窓410のいずれかに励起X線X1を照射させる。これにより、励起X線X1が標準サンプル501、標準サンプル502、測定対象物600のうちの所望の対象物についてX線分析が行われる。例えば、標準サンプル501として分解能検査用のMn材を配置し、標準サンプル502としてバックグランドノイズ検査用のSb材を配置すれば、分解能の検査とバックグランドノイズの検査を連続して行うことができる。
【0023】
図2(b)に示したホルダ400はスライドタイプであり、矢印方向にホルダ400をスライドさせることによって、標準サンプル501、標準サンプル502、測定対象物600のうちの所望の対象物についてX線分析が行われる。
【0024】
次に、半導体X線検出装置10の詳細について説明する。図1に示すように、半導体X線検出装置10は、半導体X線検出素子12及び初段FET回路13からなる前置増幅部前段100と、前置増幅部前段100を支持及び冷却するコールドフィンガー14と、前置増幅部前段100及びコールドフィンガー14を格納し、内部の前置増幅部前段100などを外部から真空断熱する真空容器11とを有する。
【0025】
X線検出時に、真空容器11の内部は真空状態に維持される。蛍光X線X2は、真空容器11に配置された入射窓を透過して、半導体X線検出素子12に入射する。入射窓は、例えばベリリウム(Be)からなる。
【0026】
半導体X線検出素子12は、例えばシリコン(Si)単結晶にリチウム(Li)を拡散させて形成したP−I−N接合を有する半導体素子である。蛍光X線X2が半導体X線検出素子12に入射すると、I層に入射した蛍光X線X2により半導体X線検出素子12内に電子と正孔が生じ、外部に電流パルスとして検出される。半導体X線検出素子12から出力される電気的な出力信号は、初段FET回路13の電界効果トランジスタ(FET)によって増幅される。
【0027】
コールドフィンガー14は例えば筒形状であり、半導体X線検出素子12及び初段FET回路13はコールドフィンガー14の内部に格納される。コールドフィンガー14の前置増幅部前段100付近に温度センサ17が取り付けられており、温度センサ17により測定されたコールドフィンガー14の温度TCは、信号ケーブル19及び真空端子18を介して、制御装置40に伝達される。温度センサ17には、白金抵抗体、サーミスタ又は熱電対などを採用可能である。
【0028】
上記のように、制御装置40は、温度センサ17によって、コールドフィンガー14の前置増幅部前段100付近の温度を前置増幅部前段100の温度として監視できる。
【0029】
また、図1に示すように、冷却装置50は、冷凍機51、冷凍機51を駆動する冷凍機駆動装置52、コールドヘッド53、及び熱伝導線54を有する。冷凍機駆動装置52は、駆動出力SDを調整することによって冷凍機51の冷却能力を制御する。真空容器11の外側で冷凍機51に接続され、一部が真空容器11内に配置されたコールドヘッド53によって、コールドフィンガー14が冷却される。コールドフィンガー14とコールドヘッド53とは熱伝導線54によって連結される。つまり、冷却装置50は、コールドフィンガー14を冷却することによって、前置増幅部前段100を冷却する。
【0030】
なお、冷却時に前置増幅部前段100に内部ガスが吸着して生じる特性変動を抑制するために、真空容器11内部には活性炭20が配置されている。活性炭20は、温度が低いほど吸着効率が高く、効果的に働く。このため、図1に示した例ではコールドヘッド53に活性炭20が装着され、冷凍機51によって活性炭20が冷却される。
【0031】
前置増幅部前段100から出力された検出信号STは、信号ケーブル19及び真空端子18を介して、信号分析装置30に伝達される。検出信号STを信号分析装置30によって分析した結果は、制御装置40に伝達される。
【0032】
制御装置40は、信号分析装置30の分析結果を用いて、前置増幅部前段100の性能特性を示す性能値が予め設定された規定値を満足するか否かを判断する。そして、性能値が規定値を満足しない場合には、冷却装置50を制御して前置増幅部前段100の温度を調整させる。具体的には、温度センサ17によってモニタする前置増幅部前段100の温度が前置増幅部前段100の性能値が規定値を満足する温度になるように、制御信号SCによって冷凍機駆動装置52を制御して冷凍機51の冷却能力を調整する。性能値の規定値は、X線分析装置1によって信頼性の高い分析結果が得られる値に設定される。このため、X線分析装置1によれば、安定性が高く、再現性のよい分析結果を得ることができる。
【0033】
図3に、設定温度と前置増幅部前段100の分解能との関係の例を示す。分解能の定義は、MnのKα線の半減値とした。材料の異なる素子A、Bのいずれの場合においても、設定温度を低くすることによって分解能が向上する。分解能の規定値は、例えば155eVとする。
【0034】
図4に設定温度とバックグランドノイズとの関係の例を示す。図4は、Sb材を試料として用いたX線分析結果であり、横軸がエネルギー、縦軸がカウント数である。図4において、特性T1が設定温度が−90℃でのスペクトル特性であり、特性T2が設定温度が−110℃でのスペクトル特性である。図4に示すように、設定温度を低くすることによってバックグランドノイズは減少する。Sb材を試料としたバックグランドノイズ測定では、例えば測定時間を300秒とし、Sbのピークが存在しない領域(例えば、10KeV〜15Kev)の総和をバックグランドノイズとする。バックグランドノイズの規定値は、例えば250カウント・KeV(50カウント×5KeV)とする。
【0035】
上記のように、前置増幅部前段100の温度を下げることによって、分解能やバックグランドノイズなどの性能特性は向上する。
【0036】
また、冷却装置50による冷却能力が増すことにより、活性炭20がより効果的に働き、真空容器11内に発生する内部ガスを吸着する。これにより、前置増幅部前段100への内部ガス吸着量が減少し、前置増幅部前段100の特性変動が抑制される。
【0037】
しかし、前置増幅部前段100の温度を低下させることによって、スペクトル特性のエネルギー位置が変動する。図5に、温度とピーク位置変動量との関係の例を示す。図5は、Sn材を試料に用いた場合のKβ線のピーク位置である。図5から、温度によってゲインが変動することが分かる。
【0038】
したがって、前置増幅部前段100の温度を下げた場合には、X線分析装置1においてエネルギー位置の変動を校正し、スペクトル特性のピーク値を適正位置に合わせる必要がある。
【0039】
以下に、図6を参照して、X線分析装置1によるX線分析方法を説明する。ここでは、指標として分解能とバックグランドノイズを使用する場合を例示的に説明する。
【0040】
ステップS1において、冷却装置50によってコールドフィンガー14の温度を初期設定温度に設定する。初期設定温度は、冷凍機51の冷却性能に対して余裕のある値である。初期設定温度は、冷凍機51の最大冷却性能の70%〜80%程度に設定することが好ましい。例えば、冷凍機51にスターリング型冷凍機を使用する場合、この冷凍機51の最低到達温度は−130℃程度であるため、初期設定温度は−90℃〜−100℃付近に設定する。制御装置40は、温度センサ17によって測定された温度をモニタしながら、冷却装置50を制御してコールドフィンガー14の温度を初期設定温度に設定する。
【0041】
ステップS2において、X線分析装置1によって標準サンプル500のX線解析が行われ、分解能が測定される。例えば、標準サンプル500にMn材を使用し、前置増幅部前段100から出力される検出信号STを用いて、信号分析装置30がMnのKα線の半減値を算出する。そして、ステップS3において、制御装置40が、測定された分解能が規定値を満足するか否かを判断する。分解能が規定値を満足する場合には、処理はステップS6に進む。分解能が規定値を満足しない場合には、処理はステップS4に進む。
【0042】
ステップS4において、制御装置40が冷却装置50を制御して、コールドフィンガー14の温度を下げて、設定温度を再設定する。これにより、前置増幅部前段100の温度が下がるため、ステップS5において、設定温度の変化量に応じて信号分析装置30がエネルギー位置の変動を校正する。その後、ステップS2に戻り、分解能が再度測定される。
【0043】
分解能が規定値を満足する場合には、ステップS6において、X線分析装置1によって標準サンプル500のX線解析が行われ、スペクトル特性を用いてバックグランドノイズが測定される。例えば、標準サンプル500にSb材を使用し、信号分析装置30がSbのピークが存在しない領域のカウント値の総和をバックグランドノイズとして測定する。そして、ステップS7において、制御装置40が、測定されたバックグランドノイズが規定値を満足するか否かを判断する。バックグランドノイズが規定値を満足する場合には、処理はステップS10に進む。バックグランドノイズが規定値を満足しない場合には、処理はステップS8に進む。
【0044】
ステップS8において、制御装置40が冷却装置50を制御して、コールドフィンガー14の温度を下げて、設定温度を再設定する。これにより、前置増幅部前段100の温度が下がるため、ステップS9において、設定温度の変化量に応じて信号分析装置30がエネルギー位置の変動を校正する。その後、ステップS6に戻り、バックグランドノイズが再度測定される。
【0045】
バックグランドノイズが規定値を満足する場合には、ステップS10において、励起X線X1を照射する対象を、標準サンプル500から測定対象物600に自動的に交換する。例えば、図2(a)や図2(b)に示したホルダ400が制御装置40によって操作され、ホルダ400の入射窓410を介して励起X線X1が測定対象物600に照射されるようにする。そして、ステップS11において、測定対象物600の分析が実行される。このとき、図7に示すように、励起X線X1が照射された測定対象物600から放出された蛍光X線X2が、半導体X線検出装置10の半導体X線検出素子12に入射する。
【0046】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係るX線分析装置1では、前置増幅部前段100の性能特性を示す性能値を監視し、性能値が規定値を満たすように前置増幅部前段100の温度が調整される。このため、X線分析装置1によれば、信頼性の高い分析結果を得るために必要な性能特性が確保される。その結果、装置内部の素材や内壁からの脱ガス等に起因する前置増幅部前段100の性能特性の変動による影響が抑制され、高安定性、高再現性のある解析を実現できる。
【0047】
なお、設定温度の変化量は任意に設定することができ、例えば5℃ずつ、或いは10℃ずつ、コールドフィンガー14の設定温度を低下させる。冷却能力に余裕を持たせて冷凍機51を稼動させるためには、設定温度の変化量は小さい方が好ましい。一方、設定温度を早く決定するためには、設定温度の変化量が大きい方がよい。
【0048】
前置増幅部前段100を冷却することによって、分解能やバックグランドノイズなどの性能特性は向上し、活性炭20は働きがよくなる。つまり、真空度の向上や前置増幅部前段100の性能向上のためには、コールドフィンガー14をできるだけ冷却することが好ましい。しかし、冷凍機51をフル稼働させると冷却性能は低下する一方であり、冷凍機51の寿命が短くなる。
【0049】
これに対し、X線分析装置1では、冷最大冷却性能に対して余裕を持った冷却温度に初期設定温度を設定する。そして、前置増幅部前段100の性能特性を監視して、性能値が規格値を満足するように徐々に設定温度を低下させる。このため、前置増幅部前段100が所望の性能を発揮できる限度の温度になるように、冷凍機51の冷却能力が最適化される。したがって、冷凍機51をフル稼働させる必要はない。
【0050】
上記のように、X線分析装置1では、前置増幅部前段100の性能と冷凍機51の冷却能力とが最適化されるため、冷凍機51の出力に余裕が生じる。最大冷却性能に対して余裕を持って冷凍機51を稼動させることにより、冷却性能の低下を招かず、冷凍機51の寿命を延ばすことができる。
【0051】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0052】
既に述べた実施形態の説明においては、前置増幅部前段100の性能特性として分解能とバックグランドノイズを用いる例を示したが、これら以外の性能特性を用いて前置増幅部前段100の温度を調整してもよい。
【0053】
X線管200−測定対象物600−半導体X線検出装置10の経路でX線の光軸が最適化されている。このため、測定対象物600と標準サンプル500の位置の違いに起因して、X線管200−標準サンプル500−半導体X線検出装置10の経路で光軸ずれが生じる場合がある。この光軸ずれを補正するために、図8に示すように標準サンプル500の励起X線X1が入射する面に傾斜を持たせ、これによって光軸補正を行うことも可能である。図8において破線で示したX線X20は測定対象物600からの蛍光X線であり、標準サンプル500からの蛍光X線X2と測定対象物600からの蛍光X線との半導体X線検出装置10への入射位置を一致させることができる。
【0054】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0055】
1…X線分析装置
10…半導体X線検出装置
11…真空容器
12…半導体X線検出素子
13…初段FET回路
14…コールドフィンガー
17…温度センサ
18…真空端子
19…信号ケーブル
20…活性炭
30…信号分析装置
40…制御装置
50…冷却装置
51…冷凍機
52…冷凍機駆動装置
53…コールドヘッド
54…熱伝導線
100…前置増幅部前段
200…X線管
300…測定室
400…ホルダ
410…入射窓
500…標準サンプル
600…測定対象物
X1…励起X線
X2…蛍光X線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準サンプルから放出された蛍光X線を検出する半導体X線検出素子、及び前記半導体X線検出素子の出力信号を受信する初段FET回路を含む前置増幅部前段と、
前記前置増幅部前段を冷却する冷却装置と、
前記前置増幅部前段から出力される検出信号を分析する信号分析装置と、
前記検出信号を分析して得られる前記前置増幅部前段の性能特性を示す性能値、及び前記前置増幅部前段の温度をリアルタイムで監視し、前記冷却装置を制御して前記性能値が規定値を満たすように前記前置増幅部前段の温度を調整させる制御装置と
を備え、前記前置増幅部前段が前記調整された温度において、測定対象物から放出された蛍光X線を分析することを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
前記性能特性が、分解能及びバックグランドノイズの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記前置増幅部前段を支持及び冷却するコールドフィンガーを更に備え、
前記冷却装置が前記コールドフィンガーを冷却し、
前記制御装置が、前記前置増幅部前段の温度として前記コールドフィンガーの前記前置増幅部前段付近の温度を監視する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記励起X線を出射するX線管と、
前記標準サンプル及び前記測定対象物を格納する測定室と
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記前置増幅部前段の温度を調整した後、前記測定室において前記励起X線が照射される対象を前記標準サンプルから前記測定対象物に自動的に交換することを特徴とする請求項4に記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記前置増幅部前段を格納した内部を真空断熱する真空容器と、
前記真空容器の内部に配置された活性炭と
を備え、前記活性炭が前記冷却装置によって冷却されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53893(P2013−53893A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191376(P2011−191376)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】