X線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法、装置及びプログラム
【課題】X線反射率法を用いて積層体の層構造を正確に解析することのできる方法、装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】このX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法は、例えば多層膜である試料にX線源からX線を照射する照射工程と、該試料から反射されるX線を検出器で検出する検出工程と、この検出されたX線の前記照射されたX線に対する割合であるX線反射率を測定器で測定する測定工程と、解析器で、前記試料に表面粗さ又は界面粗さがある場合において該試料の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味して、前記測定されたX線反射率を解析する解析工程とを備えている。
【解決手段】このX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法は、例えば多層膜である試料にX線源からX線を照射する照射工程と、該試料から反射されるX線を検出器で検出する検出工程と、この検出されたX線の前記照射されたX線に対する割合であるX線反射率を測定器で測定する測定工程と、解析器で、前記試料に表面粗さ又は界面粗さがある場合において該試料の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味して、前記測定されたX線反射率を解析する解析工程とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線反射率法を用いて、基板上に単層膜、多層膜、密度不均一層などの層構造が形成された積層体の該層構造を解析する方法、装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質のX線に対する屈折率は1よりわずかに小さい値をもち、平坦かつ平滑な物質表面に全反射臨界角よりも浅い角度で入射したX線は物質の外部で光学的な全反射現象を生じる。そして、入射角θが全反射臨界角θc以上の場合には、入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線と、媒体表面から媒体内部に浸透する屈折X線とが生じるが、この鏡面反射X線強度と入射X線強度との比をX線反射率という。
【0003】
また、媒体表面から媒体内部に浸透する屈折X線強度は表面から深さ方向に指数関数的に減衰する。このため、媒体内部で散乱し表面から出射するX線は、表面近傍で散乱されたX線が主となり、表面近傍の情報を反映したものとなっている。
【0004】
X線反射率法では、この特徴を利用して物質の表面や薄膜の深さ方向の内部構造を非破壊的に求めることができる。具体的には、積層体が多層膜の場合、表面或いは多層膜界面で反射したX線の干渉効果により、反射X線の強度が入射角に伴って振動変化する。X線反射率法では、このX線反射率の入射角依存を解析することにより表面多層膜の各層の厚さや密度、表面粗さ(ラフネス)、界面粗さ(ラフネス)を非破壊的に求めることができる。
【0005】
近年では、半導体などの多層膜の解析に、かかるX線反射率法が広く用いられるようになってきている。例えば特許文献1では、X線反射率法を用いたパラメータフィッティングによる薄膜の密度測定法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、積層体からのX線反射率データからフーリエ変換を利用して振動成分を抽出し各層膜厚を求め、その結果と、X線反射率の理論値と測定値のカーブフィッティングとを併用して、界面ラフネスその他の物理量を求める方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3では、基板上に被着した被膜の表面からの反射X線強度の対数値の入射角依存性を表すX線反射曲線を、基板の表面からの反射X線強度の対数値の入射角依存性を表すX線反射曲線で除したデータにより、前記被膜の評価を行う方法が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献4では、シリコン酸化膜のように、基板と酸化膜との密度が近く、両者の屈折率も近い場合に、X線反射率法に基づいてX線反射率強度の振動成分を理論値と測定値のパラメータフィッティングを行い、測定対象の薄膜の膜厚、表面ラフネス、界面ラフネスのパラメータを求める際に、その屈折率の差を拡大するX線波長を選択してフィッティング精度を向上させ、X線反射率の振動成分の検出感度を向上させる方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献5では、基板上に単層または多層の薄膜を形成した材料における該薄膜の物質特性(膜厚、密度、表面および界面の粗さ)をX線反射率曲線から容易に且つ短時間で解析する方法として、マキシマムエントロピ法により得られる最適値を基にして,X線反射率カーブの最小2乗法によるパラメータフィッティングを精密化する方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献6では、X線反射率法を用いた膜構造解析方法に関し、得られた反射X線強度の振動成分をフーリエ変換し、求めた各構成層の膜厚を初期値として用いてX線反射率カーブの最小2乗法フィッティング解析を行い、薄膜試料の膜構造を解析する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献7では、単層膜または多層膜からなる膜試料の構造をX線反射率測定法により解析する膜構造解析方法において、同一の膜試料を分解能およびダイナミックレンジのうちの、少なくともいずれかの条件が異なる測定条件により、測定した複数の測定データを同時に解析することにより膜構造を決定する方法が開示されている。
【0012】
また、特許文献8では、被測定試料に注入された不純物元素の深さ分布を密度の異なる多層膜層に置き換えて、X線反射率を表す解析式に干渉振動曲線をパラメータフィッティングすることにより解析する方法が開示されている。
【0013】
このように、X線反射率法による積層構造の解析法は、X線反射率の測定結果とX線反射率理論計算値とを比較し膜構造を求める解析法であるが、特に、多層膜においては、X線反射率理論計算において、積層膜の密度、膜厚、表面粗さ(ラフネス)、界面粗さ(ラフネス)をパラメータとしたモデルをたて、そのモデルについて理論計算値を求め、測定値とのパラメータフィッティングを行うことによって膜構造のパラメータを決定する方法がとられている。
【0014】
ここで、データ解析に使用されるX線反射率の理論式は、例えば非特許文献1〜4に紹介されているように、Parrattの多層膜モデル(非特許文献5)に、Nevot−Croceのラフネスの式(非特許文献6)を組み合わせた理論式が使われる。また、Nevot−Croceのラフネスの式を詳しく解析して表面ラフネスによる散漫散乱を求めた式がSinha(非特許文献7)によって報告されている。また、Parrattの多層膜モデルを漸化式法ではなく、マトリックス法についてラフネスの式を組み合わせた式がVidal(非特許文献8)によって報告されている。
【0015】
また、Parrattの多層膜モデルにNevot−Croceのラフネスの式を組み合わせたX線反射率の理論式は、特許文献4に(数2)の式(7)、(数8)の式(17)として、特許文献8に(数2)の式(2)、式(3)として、特許文献7が引用している特許文献9の同発明内容を発明者が説明している論文である非特許文献9に式(1)、式(2)、式(7)として、非特許文献2に式(1.69)、式(1.116)、式(3.8)、式(3.15)として、非特許文献3に(2.4)節において、非特許文献4に式(1)−(5)として開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ここで、X線反射率法の基本原理と理論式とを説明する。なお、以下では説明を簡単にするために、入射X線の電場振幅が表面に平行なS偏光の場合を例にとって説明する。X線が進行する媒体としての多層膜の座標軸を図7に示すように定義する。
【0017】
ここで、X線の波数ベクトルの大きさk0は、X線の波長をλとして、
【数1】
で示される。
【0018】
j層の屈折率をnj、j−1層とj層間の界面の平均粗さをσj−1,jとする。またj層からj+1層への入射X線の振幅をEj,波数ベクトルをkj、反射X線の振幅をEj’,透過X線の振幅をEj+1、波数ベクトルをkj+1とする。
【0019】
ここで、試料へ侵入する前の入射X線の波数ベクトルをk0=(k0,x,0,k0,z)とし、入射部分の空間のX線屈折率に関してn0
=1とおくと、媒体中のX線の波数ベクトルの表面に平行な成分は入射X線の波数ベクトルの表面に平行な成分と変わらず、kj,x=k0,xであり、また、媒体中のX線の波数ベクトルの表面に垂直な深さ方向の成分は、
【数2】
で示される。
【0020】
また、多層膜の深さ方向のj層からj+1層に入射するX線のj,j+1界面での反射率を示すフレネル(Fresnel)反射係数rj,j+1は、
【数3】
で示される。
【0021】
また、多層膜の深さ方向のj層からj+1層に入射するX線のj,j+1界面での透過率を示すフレネル(Fresnel)透過係数tj,j+1は、
【数4】
で示される。
【0022】
すると,図7のように、j層からj+1層への振幅EjのX線に加えて、逆にj+1層からj層への振幅Ej+1’のX線が存在するとき、j層のX線の振幅Ej
,Ej’と、j+1層のX線の振幅Ej+1
,Ej+1’との関係は、
【数5】
で示される。ここで、hjはj層の厚さであり、この関係式には、
【数6】
の関係が使われている。
【0023】
最下層である基板層の厚みhNを無限大にとると、そこでのX線の振幅EN’=0であることから、マトリックスから各層でのX線の振幅を、下から順次求め、X線反射率
【数7】
を求めることができる。この方法が、マトリックス法による多層膜層表面からのX線反射率理論計算法であり、例えば、非特許文献2の式(1.76)として、また、非特許文献8の式(5)として示されている。
【0024】
しかし、この式では表面粗さや界面粗さがまったく考慮されていないから、現実的なものとはいえない。そこで、表面粗さや界面粗さがある場合、そのラフネスに対応して、フレネル反射係数rj,j+1、フレネル透過係数tj,j+1が変化すると近似して、粗さのあるフレネル反射係数r’j,j+1、粗さのあるフレネル透過係数t’j,j+1に置き換えた計算がなされる。
【0025】
その理論式が、例えば非特許文献8の式(22)として示されており、その理論式に従った計算プログラムコードが非特許文献2の付録Aとして示されている。また、その計算例が、例えば非特許文献2の図1.13、図1.18などに示されている。
【0026】
粗さのあるフレネル反射係数r’j,j+1、粗さのあるフレネル透過係数t’j,j+1をどのように近似しているかについては後述するが、この理論式において、粗さのあるフレネル透過係数t’j,j+1はX線反射率に関係しないことがわかる。
【0027】
マトリックス法では、X線反射率と各層での反射X線振幅との関係についての見透しが悪いので、各層でのX線反射振幅の漸化式の形で表したParrattの多層膜モデル(非特許文献5)式が使われる。次に、このParrattの漸化式法について説明する。
【0028】
j層からj+1層へ入射するX線の振幅Ejと、j+1層からj層へ出射したX線の振幅Ej’との比をRj,j+1とすると、
【数8】
であり、
【数9】
である。
【0029】
また、最下層において、
【数10】
であり、X線反射率は、
【数11】
で求められる。これらの式がParratの多層膜モデルによるX線反射率の理論式である。この式で、フレネル透過係数t’j,j+1はX線反射率に関係しないことがわかり、表面粗さや界面粗さがある場合、フレネル反射係数rj,j+1を粗さのあるフレネル反射係数r’j,j+1に置き換えて計算をすれば良いことがわかる。
【0030】
粗さのあるフレネル反射係数r’j,j+1の近似方法については、表面や界面での反射率を示すフレネル反射係数が表面粗さや界面粗さによって指数関数的に減衰すると近似して、上記(数3)式で示されるj層とj+1層の界面でのフレネル反射係数rj,j+1に、表面粗さや界面粗さによる減衰項をかけて、
【数12】
とするNevot−Croceのラフネスの式(非特許文献6)が広く一般に使われている。
【0031】
また、Parrattの多層膜モデルにNevot−Croceのラフネスの式を組み合わせたX線反射率の理論式は、特許文献4に(数2)の式(7)、(数8)の式(17)として、特許文献8に(数2)の式(2)、式(3)として、特許文献7が引用している特許文献9の同発明内容を発明者が説明している論文である非特許文献9に式(1)、式(2)、式(7)として、非特許文献2に式(1.69)、式(1.116)、式(3.8)、式(3.15)として、非特許文献3に(2.4)節において、非特許文献4に式(1)−(5)として開示されている。
【0032】
また、この理論式に従った計算プログラムコードが非特許文献2の付録Aとして示されており、また、その計算例が、例えば非特許文献2の図1.13、図1.18などに示されている。
【0033】
すなわち、表面粗さや界面粗さを考慮した場合のフレネル反射係数をr’j,j+1とすると、
【数13】
としている。
【0034】
しかし、このように入射X線が鏡面反射している場合のフレネル反射係数に減衰項をかけることだけによって反射率を下げる計算法では、図8(b)に示すように界面が粗れているモデルを、図8(a)に示すように密度ρeが界面において連続的に変化しているモデルとして計算しているにすぎない(非特許文献2の図1.16)。
【0035】
この計算法では、粗れた界面を、密度が連続的な多数の薄い平坦な膜の多層構造に置き換えて一つの界面としたモデルと区別がつかず、各界面で透過するX線と反射するX線は全て干渉に寄与しているという前提で計算されている。即ち、その連続密度多層構造界面においては鏡面反射方向以外の方向に散乱散逸するX線や屈折透過方向以外の方向に散乱散逸するX線が存在しないモデルとなっており、表面や界面における凹凸によって散漫散乱X線として非干渉成分となるX線の量による、反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味していない。特許文献7が引用している特許文献9の同発明内容を発明者が説明している論文(非特許文献9)においては、多層膜各層内におけるナノ粒子・空孔による密度不均一に伴う散漫散乱を加味しているが、該当多層膜各層の表面・界面が粗さを持つ場合は、非特許文献9で式(1)、式(2)、式(7)として示しているように、表面・界面での凹凸により生じる散漫散乱に伴う、反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味していない。
【0036】
その反射率の漸化式は、
【数14】
である。
【0037】
そこで、本発明者は、図3に示すように、W膜をSi基板上に形成した試料について、W膜表面の平均粗さσ0,1と、W膜とSi基板の界面の平均粗さσ1,2とをそれぞれ以下のように変化させて、従来の計算方法に従って反射率を計算してみることとした。入射X線についてはS偏光とし、波長は0.154nm(CuKα線)とする。入射角をθ、W膜表面の平均粗さをσ0,1、Si基板の界面の平均粗さをσ1,2、W膜の深さを10nmとする。計算結果を図9、図10、図11及び図12に示す。
【0038】
表面と基板のどちらも平坦かつ平滑(理想平面)である場合(σ0,1=σ1,2=0nm)を図9に示す。試料表面で反射したX線と界面で反射したX線とが干渉するため、振動しながら減衰する。この振動の振幅は表面粗さや界面粗さに対応し、粗れているほど(界面がボケているほど)振動振幅は小さくなるから、表面と基板のどちらも平坦かつ平滑(理想平面)である場合(σ0,1=σ1,2=0nm)では、図9に示すように振動振幅は小さくならない。
【0039】
また、図10、図11に示すように、表面と基板のどちらも同じだけ粗れている場合(σ0,1=σ1,2=0.3nm,σ0,1=σ1,2=0.5nm)は、粗さが大きくなると入射角が大きくなるにつれての反射率の減少は大きくなるが、試料表面で反射したX線と界面で反射したX線の干渉による振動の振幅は小さくならず、あたかも表面と基板界面のどちらも理想平面であるかのように干渉し振動している。これは、従来の計算方法が、フレネル反射係数に減衰項をかけて反射率を下げているものの干渉に寄与する透過波と反射波の合計は変わらないとする計算法であるためである。表面と基板がどちらも粗れている場合、鏡面反射方向での多重反射による干渉は弱くなってもっと振動の振幅が小さい滑らかなグラフになるはずである。
【0040】
また、図12に示すように、表面だけ粗れている場合(σ0,1=0.5nm,σ1,2=0nm)は、入射角が1度から1.5度にかけて極めて大きな振幅の振動をしている。この振幅は、表面と基板のどちらも平坦かつ平滑(理想平面)である場合(σ0,1=,σ1,2=0nm)の振動振幅よりも大きい。表面粗さが大きくなると、試料表面で反射したX線と界面で反射したX線の干渉による振動の振幅は小さくなるはずであるが、あたかも粗れた表面が基板界面と干渉ミラーの如く作用しているかの振動をしている。これは、従来の計算方法が、フレネル反射係数に減衰項をかけて反射率を下げているものの干渉に寄与する透過波と反射波の合計は変わらないとする計算法であるため、粗れた表面での反射波の減少に対応して透過波が増加する計算となって、ある特定の角度でその干渉効果が強くなっていることを示している。表面が粗れている場合のほうが平坦かつ平滑(理想平面)の場合よりも多重反射による干渉が強くなる計算結果は現実的ではなく、もっと振動の振幅が小さい滑らかなグラフになるはずであると考えられる。
【0041】
したがって、従来方法は、いずれもラフネスを正確に検出しているとはいえない。
【0042】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、X線反射率法を用いて積層体の層構造を正確に解析することのできる方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0043】
従来の計算法では、多層膜でのX線反射率は、粗さを考慮する際に、表面又は界面でのフレネル反射係数に減衰項をかける事によって計算してきた。この計算方法で求めた反射率は粗さのない表面又は界面を考えた場合の反射率に減衰項をかけて値を小さくしたものであり、表面又は界面での凹凸に対応したものではない。実際に粗さのある表面又は界面では、該表面又は界面において、該表面又は界面の凹凸により散漫散乱として非干渉成分となるX線成分が生じ、反射X線と透過X線との干渉成分の減少が起こっているために、鏡面反射方向の反射波強度の入射角に伴う振動振幅が、表面又は界面での凹凸の大きさに対応して小さくなる。本発明は、かかる点に着目してなされたものである。
【0044】
すなわち、本発明に係るX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法は、基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射する照射工程と、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出する検出工程と、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定器で測定する測定工程と、前記測定されたX線反射率を解析器で解析する解析工程とを備えたX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法であって、前記解析工程は、前記解析器で、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析するものであることを特徴とするものである。なお、前記積層体には、基板上に単層膜、多層膜、密度不均一層などの層構造が形成されたものを含む(以下、同様)。
【0045】
本発明によれば、前記解析器で、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面での凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少が加味されてX線反射率が解析されるので、鏡面反射方向の反射波強度の入射角に伴う振動振幅が表面又は界面での凹凸の大きさに対応して小さくなる解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0046】
請求項2記載の発明のように、前記積層体の内部が表面から深さ方向に密度不均一であるとすることが好ましい。
【0047】
請求項2記載の発明によれば、前記積層体の内部が表面から深さ方向に密度不均一であるとするので、かかる密度不均一層のある積層体の層構造をより正確に解析することができるようになる。
【0048】
ところで、従来の計算方法では、フレネル反射係数に減衰項をかけて反射率を下げているものの干渉に寄与する透過波と反射波との合計は変わらないとする計算法であるため、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがあり散漫散乱の強度が増大したときに,積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大することとなるが、これは実際にはありえない現象である。そこで、請求項3記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面での反射率を示すフレネル反射係数と、該積層体の表面又は界面での透過率を示すフレネル透過係数との和が、該積層体の粗さがある表面又は界面において、1よりも減少することを加味することが好ましい。
【0049】
請求項3記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面での反射率を示すフレネル反射係数と、該積層体の表面又は界面での透過率を示すフレネル透過係数との和が、該積層体の粗さがある表面又は界面において、1よりも減少することを加味するので、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがあり散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0050】
請求項4記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、該積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味することが好ましい。
【0051】
請求項4記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、該積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0052】
請求項5記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の粗さがある表面又は界面を透過するX線強度において、該積層体の表面又は界面で反射するX線強度の表面粗さ又は界面粗さによる減少に伴う増大がないことを加味することが好ましい。
【0053】
請求項5記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の粗さがある表面又は界面を透過するX線強度において、該積層体の表面又は界面で反射するX線強度の表面粗さ又は界面粗さによる減少に伴う増大がないことを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0054】
請求項6記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度が、該積層体の粗さがある表面又は界面で表面粗さ又は界面粗さにより減少することを加味することが好ましい。
【0055】
請求項6記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度が、該積層体の粗さがある表面又は界面で表面粗さ又は界面粗さにより減少することを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0056】
請求項7記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、前記散漫散乱の強度変化に対応して、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味することが好ましい。
【0057】
請求項7記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、前記散漫散乱の強度変化に対応して、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0058】
請求項8記載の発明のように、前記測定工程は、前記測定器で、X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行い、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも,前記測定された散漫散乱X線の強度変化に対応して減少することを加味することが好ましい。
【0059】
請求項8記載の発明によれば、前記測定工程は、前記測定器で、X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行い、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも,前記測定された散漫散乱X線の強度変化に対応して減少することを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0060】
請求項9記載の発明のように、評価器で、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明における解析工程でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価工程をさらに備えることが好ましい。
【0061】
請求項9記載の発明によれば、評価器で、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明における解析工程でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価工程をさらに備えたので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の物性を正確に評価することができるようになる。
【0062】
請求項10記載の発明のように、評価器で、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さをパラメータとしたX線反射率解析式をたて,前記X線反射率の入射角依存性の測定値に,該X線反射率解析式のX線反射率理論値が一致するように、最小2乗法又はマキシマムエントロピメソッドによるフィッティング手法により,前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めることが好ましい。
【0063】
請求項10記載の発明によれば、評価器で、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さをパラメータとしたX線反射率解析式がたてられ、前記X線反射率の入射角依存性の測定値に、該X線反射率解析式のX線反射率理論値が一致するように、最小2乗法又はマキシマムエントロピメソッドによるフィッティング手法により、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つが求められるので、かかる測定値と理論値とのフィッティングが良好に行われることにより、積層体の物性をより正確に評価することができるようになる。
【0064】
請求項11記載の発明に係るX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置は、基板上に層構造が形成された積層体にX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射するX線源と、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出する検出器と、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する測定器と、前記測定されたX線反射率を解析する解析器とを備えたX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置であって、前記解析器は、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析するものであることを特徴とするものである。
【0065】
請求項11記載の発明によれば、前記本発明(方法)と同様の作用効果を奏する。
【0066】
請求項12記載の発明のように、請求項11記載の発明における解析器でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価器をさらに備えることが好ましい。
【0067】
請求項12記載の発明によれば、請求項9記載の発明と同様の作用効果を奏する。
【0068】
請求項13記載の発明に係る線反射率法を用いた積層体の層構造解析プログラムは、基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射し、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出したときに、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する第一の機能と、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析する第二の機能とをコンピュータに実現させることを特徴とするものである。
【0069】
請求項13記載の発明によれば、基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射し、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出したときに、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する第一の機能と、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析する第二の機能とがコンピュータによって実現されるので、鏡面反射方向の反射波の振幅が小さくなるような解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0070】
請求項14記載の発明のように、請求項13記載の発明における第二の機能でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める第三の機能をコンピュータにさらに実現させることが好ましい。
【0071】
請求項14記載の発明によれば、請求項13記載の発明における第二の機能でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める第三の機能がコンピュータによってさらに実現されるので、鏡面反射方向の反射波の振幅が小さくなるような解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【発明の効果】
【0072】
本発明によれば、前記解析器で、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少が加味されてX線反射率が解析されるので、鏡面反射方向の反射波強度の入射角に伴う振動振幅が表面又は界面での凹凸の大きさに対応して小さくなる解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】X線反射率法を用いた積層体の層構造解析の計算手順を示すフローチャートである。
【図3】試料の断面構造を模式的に示すモデル図である。
【図4】本装置による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.3nm)を示すグラフである。
【図5】本装置による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.5nm)を示すグラフである。
【図6】本装置による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=0.5nm、σ1,2=0nm)を示すグラフである。
【図7】反射率を計算するための多層膜の概念図である。
【図8】試料の断面構造を模式的に示すモデル図であって、(a)は密度が連続的に変化しているモデル図、(b)は界面が粗れているモデル図である。
【図9】従来方法による解析結果(表面と基板のどちらも平坦かつ平滑である場合:σ0,1=σ1,2=0nm)を示すグラフである。
【図10】従来方法による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.3nm)を示すグラフである。
【図11】従来方法による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.5nm)を示すグラフである。
【図12】従来方法による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=5nm、σ1,2=0nm)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下、本発明の特徴を図に沿って具体的に説明する。なお、以下の説明は本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は本願発明に含まれるものである。
【0075】
図1は本発明の一実施形態に係るX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置(以下、「本装置」という。)10の全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、本装置10は、積層体である試料1を所定のピッチ角度で回転可能に載置するゴニオメータ2と、ゴニオメータ2上に載置した試料1に照射するX線を発生するX線源3と、このX線源から照射されたX線を分光して試料1への入射X線(Xi)とするモノクロメータ4と、試料1からの反射X線(Xr)を検出する検出器5と、コンピュータ8とを備えている。これらのゴニオメータ2、X線源3、モノクロメータ4、検出器5及びコンピュータ8のハードウエア自体は、いずれも市販のものを使用することができる。なお、検出器5は、ゴニオメータ2の回転に連動して回転することで、X線源3からモノクロメータ4を介して試料1に照射される入射X線の入射角θと、該検出器5の仰角θ’とが等しくなるように動作が設定されており、この動作設定により、検出器5は、試料1から入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出することができるようになっている。
【0076】
例えばコンピュータ8は、各種演算等を実行するCPU(Central processing unit)81aと、各種プログラム等を予め記憶しておくROM(Read−only memory)81bと、各種データ等を一時的に記憶するRAM(Randam−access memory)81cとを備えたパーソナルコンピュータであり、これにキーボードやマウスなどの入力部6と、CRTや液晶などの表示部7とがそれぞれ電気的に接続されている。
【0077】
そして、前記ROM81bに記憶しておいた各種プログラム等を前記CPU81aに読み込んで実行することで、検出データ処理部82と、X線反射率演算部(測定器、解析器に相当する。)83と、物性評価部(評価器に相当する。)84と、X線源制御部85と、ゴニオメータ制御部86と、検出器制御部87とがそれぞれ構築されるようになっている。
【0078】
検出データ処理部82は、検出器5から取り込んだ検出データを用いて反射X線の強度を演算するものである。
【0079】
X線反射率演算部83は、検出データ処理部82で演算された反射X線の強度を用いてX線反射率を計測する計測器としての機能(第一の機能に相当する。)と、試料1に表面粗さ又は界面粗さがある場合にその試料1の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味して、前記演算されたX線反射率を解析する解析器としての機能(第二の機能に相当する。)とを有するものである。このX線反射率の解析工程において散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する手法としては、例えば下記(1)〜(6)などが挙げられる。
【0080】
(1)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面での反射率を示すフレネル反射係数と、試料1の表面又は界面での透過率を示すフレネル透過係数との和が、該表面又は界面において、1よりも減少することを加味する。
【0081】
(2)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面で反射するX線強度と、試料1の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該試料1の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味する。
【0082】
(3)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面を透過するX線強度において、試料1の表面又は界面で反射するX線強度の表面粗さ又は界面粗さによる減少に伴う増大がないことを加味する。
【0083】
(4)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面を透過するX線強度が、試料1の粗さがある表面又は界面で表面粗さ又は界面粗さにより減少することを加味する。
【0084】
(5)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面で反射するX線強度と、試料1の表面又は界面を透過するX線強度との和が、前記散漫散乱の強度変化に対応して、該試料1の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味する。
【0085】
(6)X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行っておき、散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面で反射するX線強度と、試料1の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該試料1の表面又は界面に入射するX線強度よりも,前記測定された散漫散乱X線の強度変化に対応して減少することを加味する。
【0086】
物性評価部84は、X線反射率演算部83で演算されたX線反射率と、ゴニオメータ2の回転角度情報(すなわち、X線の試料1への入射角θである。)に基づいて、試料1の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価器としての機能(第三の機能に相当する。)を有するものである。すなわち、X線反射率とX線の試料1への入射角θとから、後述する図4、図5及び図6に示すように、試料1に表面粗さ又は界面粗さがある場合には、X線の試料1への入射角θが増大するにつれて、X線反射率は振動しながら減衰していくのであるが、そのときの振動振幅の周期から試料1の膜厚が求められ、その減衰の状況から表面粗さ及び界面粗さが求められる。この物性評価部84は、表示部7上に、試料1の物性を評価可能なグラフ表示などを行うだけのものとしてもよく、このグラフ表示などをユーザが視認して、試料1の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めることができる。
【0087】
X線源制御部85は、X線源3でのX線照射タイミングを制御し、ゴニオメータ制御部86は、ゴニオメータ2上に載置された試料1の回転タイミングを制御し、検出器制御部87は、前記動作設定の下に、試料1からの反射X線の検出タイミングを制御するものである。なお、各制御部85〜87は、コンピュータ8の外付けのコントローラとして別途設けることとしてもよい。
【0088】
引き続いて、本発明の特徴をなす表面又は界面の凹凸による散漫散乱に伴う表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味したX線反射率法について詳述する。散漫散乱による干渉成分の減少を加味する手法としては、前記(4)を例にとって説明する。
【0089】
従来の計算法では、多層膜でのX線反射率は、粗さを考慮する際に、各界面でのフレネル反射係数に減衰項をかけることによって計算してきた。この計算方法で求めた反射率は粗さのない界面を考えた場合の反射率に減衰項をかけて値を小さくしたものである。実際に粗さのある界面では、散漫散乱が起こっているために、鏡面反射方向の反射波の振幅が小さくなる。ここで、散漫散乱とは、表面粗さ又は界面粗さがある場合において、表面や界面における凹凸によって、鏡面反射スポットまわりに現れる微弱なX線をいう。この散漫散乱が起こっているということは、鏡面反射方向以外の方向に散乱散逸したX線や屈折透過方向以外の方向に散乱散逸したX線、即ち散漫散乱X線となり、非干渉成分となるX線の量による、干渉に寄与する反射X線の減少と、干渉に寄与する透過X線の強度変化をも考慮することが考えられる。以下、かかる点を考慮して、反射率の理論式を再検討する。
【0090】
前記した反射率のマトリックス漸化式である
【数15】
前述したように、この関係式には、
【数16】
の関係が隠されている。この式は見てのとおり、反射波と屈折波のエネルギが入射波に一致する結果である。
【0091】
表面粗さや界面粗さがあり、散漫散乱が起こっている場合、上式を、鏡面反射X線強度に寄与する可干渉なX線成分のみについて示す式とすると、この値は1より小さくなる。すなわち、
【数17】
である。そこで、これを正確に記載した理論式に戻って、反射率の理論式を再検討する。
【0092】
これを入れて、反射率のマトリックス漸化式を書くと、
【数18】
であり、反射率の漸化式は、
【数19】
となる。
【0093】
この正確に記載した理論式において、粗さのある界面でフレネル反射係数を
【数20】
とすると、従来の方法では、前記(数19)式中で考慮すべき括弧( )内の係数を1として保存しているために、フレネル反射係数
r’ の減少を補うためにフレネル透過係数t’
が逆に増えている計算となっていることがわかる。実際には、界面が粗れていることにより散漫散乱が起こり、干渉に寄与する量はどちらも減少するはずである。そこで、反射係数とともに透過係数についても考慮する必要がある。
【0094】
粗さのある界面でのフレネル透過係数については、界面粗さが表面に平行な方向についての粗さ相関距離に対して変化する。例えば,Nevot−Croce(非特許文献6)やVidal(非特許文献8)では、界面の凹凸分布の空間周波数が高いとき、粗さのある界面でのフレネル透過係数が、
【数21】
で示されることを報告している。すなわち、これは、粗さのある界面でのフレネル透過係数が平滑な界面でのフレネル透過係数よりも大きくなることを示しており、界面の凹凸分布の空間周波数が高いときは、界面が均一に密度変化をしている場合に近い透過をすることを示している。
【0095】
しかし、この場合でも(r’j,j+12+t’j,j+1t’j+1,j)の項は1よりも小さい。また、de Boer(非特許文献10)は、界面の凹凸分布の空間周波数が小さいとき、すなわち、ゆるやかな粗さのある界面でのフレネル透過係数が、
【数22】
で示されることを報告している。すなわち、界面の凸凹の表面に平行な方向の分布が大きくなるとフレネル透過係数が小さくなることを示している。
【0096】
また、Sinha(非特許文献7)は、動力学的な一次近似まで含めたDWBA計算により減衰因子
【数23】
が得られることを示している。
【0097】
そこで、一般に、反射率の漸化式
【数24】
において、表面粗さや界面粗さがある時のフレネル反射係数r’j,j+1、フレネル透過係数t’j,j+1と,滑らかな表面界面におけるフレネル反射係数rj,j+1、フレネル透過係数tj,j+1との関係を、
【数25】
のように置く。ここで、Γは粗さがある時のフレネル反射係数の減衰因子であり、Tは粗さがある時のフレネル透過係数の変化因子である。また、Cj,j+1は、界面粗さの表面に平行な方向の相関関数であり界面の凹凸構造の分布を示す関数である。
【0098】
関数ΓとTは、凹凸のある表面界面において、X線が可干渉な反射や透過をする割合を示す関数という物理的な意味を持つ。このように一般性のあるX線反射率の関数モデルによってX線反射率の測定結果を解析することで、表面粗さや界面粗さの大きさだけでなく、表面界面の凹凸構造の分布をも正確に求めることができる。
【0099】
例えば、透過X線も表面界面の凹凸によって反射X線と同様の減衰があるとしたモデルを考え、散漫散乱に伴う表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味すること、すなわち、反射フレネル反射係数の減衰因子とフレネル透過係数の変化因子とに、Sinha(非特許文献7)が導いた減衰因子を採用すればどのような結果になるかを調べるために、
【数26】
と置くことで(数19)に従い、本装置10を用いて二層膜について計算をしてみる。なお、この計算を通じて、本発明のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法の各工程が具現化される。
【0100】
図2は本装置10によるX線反射率を用いた積層体の層構造解析の計算手順を示すフローチャート、図3は試料1の断面構造を示す模式図、図4は本装置10による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.3nm)を示すグラフ、図5は本装置10による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.5nm)を示すグラフ、図6は本装置10による解析結果(表面のみ粗れている場合:σ0,1=0.5nm、σ1,2=0nm)を示すグラフである。
【0101】
図3に示すような多層構造における、W膜表面の平均粗さとW膜とSi基板の界面の平均粗さをそれぞれ同じだけ変化させて反射率を計算する。入射X線についてはS偏光とし、波長は0.154nm(CuKα線)とする。入射角をθ、W膜表面の平均粗さをσ0,1、Si基板の界面の平均粗さをσ1,2、W膜の深さを10nmとする。
【0102】
図2において、本装置10の例えば入力部6からの指示により電源を投入すると、コンピュータ8は、ROM81bに予め記憶しておいた各種プログラム(X線反射率法を用いた積層体の層構造解析プログラムを含む。)をCPU81aに読み込んで、各部82〜87を実行可能とする初期設定が行われる。これにより、X線源制御部85は、X線源3でのX線照射タイミングを制御する。そして、X線源3から発生するX線をモノクロメータ4で分光して試料1への入射X線とする(ステップS1:照射工程に相当する)。
【0103】
ゴニオメータ制御部86は、ゴニオメータ2上に載置された試料1を所定角度ピッチで回転させる。そして、X線の試料1への入射角度を変化させるとともに、その回転角度情報をRAM81cに記憶させる。
【0104】
検出器制御部87は、検出器5による試料1からの反射X線の検出タイミングを制御する。検出器5からの検出データがコンピュータ8に取り込まれる(ステップS2:検出工程に相当する)。
【0105】
検出データ処理部82は、検出器5からの検出データに基づいて反射X線の強度を演算してRAM81cに記憶する(ステップS3:検出工程に相当する)。
【0106】
X線反射率演算部83は、検出データ処理部82で演算された反射X線の強度を用いて、前記したような散漫散乱による干渉成分の減少を加味したX線反射率を演算する(ステップS4:測定工程、解析工程に相当する)。
【0107】
物性評価部84は、X線反射率演算部83で演算されたX線反射率と、RAM81cに記憶されたゴニオメータ2の回転角度情報(X線の試料1への入射角θ)とを用いて、試料1の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めるが、ここでは理解しやすいように、X線反射率と、X線の試料1への入射角θとの関係を表示部7にグラフ表示しており、このグラフ表示をユーザが視認することで、試料1の物性を評価可能とする(ステップS5:評価工程に相当する)。計算結果を図4、図5及び図6に示す。
【0108】
これらの図4、図5及び図6において、実線は今回の計算結果、点線は従来の計算結果である。図4、図5の実線のグラフは破線のグラフに比べて、干渉による振動の振幅が小さくなっている。表面と界面がどちらも粗れているということは、両方とも滑らかな場合より散漫散乱波の強度が強くなり、鏡面反射方向での多重散乱による干渉は弱くなって振動の振幅が小さい、滑らかなグラフになるはずであるから、従来の計算結果とは異なり、今回の計算結果は実験値をよく表していると考えられる。
【0109】
図6の実線のグラフは破線のグラフに比べて、従来の計算結果で見られた、入射角θが1度から1.5度付近の異常な大きさの振幅の振動がなくなり、干渉による振動の振幅が小さくなっている。この振幅は、表面と基板のどちらも平坦かつ平滑(理想平面)である場合(σ0,1=σ1,2=0nm)の振動振幅よりも小さくなっている。表面粗さが大きくなると試料表面で反射したX線と界面で反射したX線の干渉による振動の振幅は小さくなるはずであるから、今回の計算結果は実験値をよく表していると考えられる。
【0110】
以上説明したように、本実施形態によれば、基板上に層構造が形成された積層体の一例である試料1にX線源3からX線が該試料1の表面に対して入射角θで照射され、試料1から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線が検出器5で検出され、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率がX線反射率演算部83で測定され、同じくX線反射率演算部83で、前記試料1に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該試料1の表面又は界面において表面又は界面の凹凸による散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少が加味されて、前記測定されたX線反射率が解析されるので、鏡面反射方向の反射波強度の入射角に伴う振動振幅が表面又は界面での凹凸の大きさに対応して小さくなる解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0111】
本実施形態では、さらに、物性評価部84で、前記X線反射率の解析結果に基づいて、試料1の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めるので、散漫散乱の強度が増大したときに、試料1から反射するX線や試料1を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、試料1の物性を正確に評価することができるようになる。
【0112】
なお、上記実施形態では、積層体の一例である試料1として、図3に示すように、Si基板上にW膜が形成された二層構造を例示したが、それ以外の基板上に単層膜又は多層膜、密度不均一層などが形成された積層体についても同様に適用できる。また、不純物を注入した平坦な基板についても表面粗さがある場合に、表面の凹凸による散漫散乱に伴う表面での反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味することで同様に適用できる。
【0113】
また、上記実施形態では、散漫散乱による干渉成分の減少を加味する手法(1)〜(6)のうちの、主として(4)について説明したが、その他についても同様に適用できる。ただし、手法(6)では、X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行うこととしているが、X線反射率測定と同時に、散漫散乱X線の強度の測定をも行うことが好ましい。散漫散乱X線の強度の測定結果は,界面粗さの表面に平行な方向の相関関数Cj,j+1の決定精度を向上させる。
【0114】
また、上記実施形態では、検出データ処理部82、測定器と解析器とに相当するX線反射率演算部83、評価器に相当する物性評価部84のいずれについても、コンピュータ8のROM81bに予め記憶され、CPU81に読み込まれて実行される各種プログラム(ソフトウエア)の1つとして例示されているが、それらの全部又は一部をハードウエアで構成することとしてもよいのはもちろんである。
【0115】
また、上記実施形態では、本発明の各機能を発揮するためのプログラムが、コンピュータ8のROM81bに予め記憶されている場合を例示したが、このプログラムは、CDなどの外部メディアを用いて、コンピュータ8に簡単にインストールすることができる。これにより、既存の装置を用いて、本発明方法を実行することができるようになるので、非常に便利である。
【符号の説明】
【0116】
10 X線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置
1 試料(積層体の一例である。)
2 ゴニオメータ
3 X線源
4 モノクロメータ
5 検出器
6 入力部
7 表示部
8 コンピュータ
82 検出データ処理部
83 X線反射率演算部(測定器、解析器に相当する。)
84 物性評価部(評価器に相当する。)
85 X線源制御部
86 ゴニオメータ制御部
87 検出器制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【特許文献1】特開平3−146846号公報
【特許文献2】特開平6−221841号公報
【特許文献3】特開平8−254509号公報
【特許文献4】特開平11−6804号公報
【特許文献5】特開平11−258185号公報
【特許文献6】特開2000−35408号公報
【特許文献7】特開2005−114475号公報
【特許文献8】特開2007−51955号公報
【特許文献9】特開2001−349849号公報
【非特許文献】
【0118】
【非特許文献1】桜井健次;X線反射率法の応用について,応用物理,第78巻,第3号(2009)pp.224−230
【非特許文献2】桜井健次;X線反射率法入門(講談社,2009)
【非特許文献3】パベル・カリモフら;多層膜X線反射率シミュレーションプログラム,The Rigaku−Denki Journal 33(1)(2002)pp.20−24
【非特許文献4】小島勇夫;X線反射率法による薄膜の精密構造評価,The Rigaku−Denki Journal 30(2)(1999)pp.4−13
【非特許文献5】L.G.Parratt;Surface Studies of Solids by Total Reflection of X−Rays,Phys.Rev.95(1954)pp.359−369
【非特許文献6】L.Nevot et P.Croce;Caracterisation des surfaces par reflexion rasante de rayons X.Application a l’etude du polissage de quelques verres silicates,Rev.Phys.Appl.(Paris)15,761−779(1980)
【非特許文献7】S.K.Sinha,etc.;X−ray and neutron scattering from rough surfaces,Phys.Rev.B Vol.38,No.4(1988)pp.2297−2311
【非特許文献8】B.Vidal and P.Vincent;Metallic multilayers for X rays using classical thin−film theory,Applied Optics,Vol.23,Issue 11(1984)pp.1794−1801
【非特許文献9】表和彦,伊藤義泰;反射X線小角散乱法による薄膜中のナノ粒子・空孔サイズ測定,X線分析の進歩,33(2002)pp.185−195
【非特許文献10】D.K.G.de Boer;X−ray reflection and transmission by rough surfaces,Phys.Rev.B51(1995)pp.5297−5305
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線反射率法を用いて、基板上に単層膜、多層膜、密度不均一層などの層構造が形成された積層体の該層構造を解析する方法、装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質のX線に対する屈折率は1よりわずかに小さい値をもち、平坦かつ平滑な物質表面に全反射臨界角よりも浅い角度で入射したX線は物質の外部で光学的な全反射現象を生じる。そして、入射角θが全反射臨界角θc以上の場合には、入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線と、媒体表面から媒体内部に浸透する屈折X線とが生じるが、この鏡面反射X線強度と入射X線強度との比をX線反射率という。
【0003】
また、媒体表面から媒体内部に浸透する屈折X線強度は表面から深さ方向に指数関数的に減衰する。このため、媒体内部で散乱し表面から出射するX線は、表面近傍で散乱されたX線が主となり、表面近傍の情報を反映したものとなっている。
【0004】
X線反射率法では、この特徴を利用して物質の表面や薄膜の深さ方向の内部構造を非破壊的に求めることができる。具体的には、積層体が多層膜の場合、表面或いは多層膜界面で反射したX線の干渉効果により、反射X線の強度が入射角に伴って振動変化する。X線反射率法では、このX線反射率の入射角依存を解析することにより表面多層膜の各層の厚さや密度、表面粗さ(ラフネス)、界面粗さ(ラフネス)を非破壊的に求めることができる。
【0005】
近年では、半導体などの多層膜の解析に、かかるX線反射率法が広く用いられるようになってきている。例えば特許文献1では、X線反射率法を用いたパラメータフィッティングによる薄膜の密度測定法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、積層体からのX線反射率データからフーリエ変換を利用して振動成分を抽出し各層膜厚を求め、その結果と、X線反射率の理論値と測定値のカーブフィッティングとを併用して、界面ラフネスその他の物理量を求める方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3では、基板上に被着した被膜の表面からの反射X線強度の対数値の入射角依存性を表すX線反射曲線を、基板の表面からの反射X線強度の対数値の入射角依存性を表すX線反射曲線で除したデータにより、前記被膜の評価を行う方法が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献4では、シリコン酸化膜のように、基板と酸化膜との密度が近く、両者の屈折率も近い場合に、X線反射率法に基づいてX線反射率強度の振動成分を理論値と測定値のパラメータフィッティングを行い、測定対象の薄膜の膜厚、表面ラフネス、界面ラフネスのパラメータを求める際に、その屈折率の差を拡大するX線波長を選択してフィッティング精度を向上させ、X線反射率の振動成分の検出感度を向上させる方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献5では、基板上に単層または多層の薄膜を形成した材料における該薄膜の物質特性(膜厚、密度、表面および界面の粗さ)をX線反射率曲線から容易に且つ短時間で解析する方法として、マキシマムエントロピ法により得られる最適値を基にして,X線反射率カーブの最小2乗法によるパラメータフィッティングを精密化する方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献6では、X線反射率法を用いた膜構造解析方法に関し、得られた反射X線強度の振動成分をフーリエ変換し、求めた各構成層の膜厚を初期値として用いてX線反射率カーブの最小2乗法フィッティング解析を行い、薄膜試料の膜構造を解析する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献7では、単層膜または多層膜からなる膜試料の構造をX線反射率測定法により解析する膜構造解析方法において、同一の膜試料を分解能およびダイナミックレンジのうちの、少なくともいずれかの条件が異なる測定条件により、測定した複数の測定データを同時に解析することにより膜構造を決定する方法が開示されている。
【0012】
また、特許文献8では、被測定試料に注入された不純物元素の深さ分布を密度の異なる多層膜層に置き換えて、X線反射率を表す解析式に干渉振動曲線をパラメータフィッティングすることにより解析する方法が開示されている。
【0013】
このように、X線反射率法による積層構造の解析法は、X線反射率の測定結果とX線反射率理論計算値とを比較し膜構造を求める解析法であるが、特に、多層膜においては、X線反射率理論計算において、積層膜の密度、膜厚、表面粗さ(ラフネス)、界面粗さ(ラフネス)をパラメータとしたモデルをたて、そのモデルについて理論計算値を求め、測定値とのパラメータフィッティングを行うことによって膜構造のパラメータを決定する方法がとられている。
【0014】
ここで、データ解析に使用されるX線反射率の理論式は、例えば非特許文献1〜4に紹介されているように、Parrattの多層膜モデル(非特許文献5)に、Nevot−Croceのラフネスの式(非特許文献6)を組み合わせた理論式が使われる。また、Nevot−Croceのラフネスの式を詳しく解析して表面ラフネスによる散漫散乱を求めた式がSinha(非特許文献7)によって報告されている。また、Parrattの多層膜モデルを漸化式法ではなく、マトリックス法についてラフネスの式を組み合わせた式がVidal(非特許文献8)によって報告されている。
【0015】
また、Parrattの多層膜モデルにNevot−Croceのラフネスの式を組み合わせたX線反射率の理論式は、特許文献4に(数2)の式(7)、(数8)の式(17)として、特許文献8に(数2)の式(2)、式(3)として、特許文献7が引用している特許文献9の同発明内容を発明者が説明している論文である非特許文献9に式(1)、式(2)、式(7)として、非特許文献2に式(1.69)、式(1.116)、式(3.8)、式(3.15)として、非特許文献3に(2.4)節において、非特許文献4に式(1)−(5)として開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ここで、X線反射率法の基本原理と理論式とを説明する。なお、以下では説明を簡単にするために、入射X線の電場振幅が表面に平行なS偏光の場合を例にとって説明する。X線が進行する媒体としての多層膜の座標軸を図7に示すように定義する。
【0017】
ここで、X線の波数ベクトルの大きさk0は、X線の波長をλとして、
【数1】
で示される。
【0018】
j層の屈折率をnj、j−1層とj層間の界面の平均粗さをσj−1,jとする。またj層からj+1層への入射X線の振幅をEj,波数ベクトルをkj、反射X線の振幅をEj’,透過X線の振幅をEj+1、波数ベクトルをkj+1とする。
【0019】
ここで、試料へ侵入する前の入射X線の波数ベクトルをk0=(k0,x,0,k0,z)とし、入射部分の空間のX線屈折率に関してn0
=1とおくと、媒体中のX線の波数ベクトルの表面に平行な成分は入射X線の波数ベクトルの表面に平行な成分と変わらず、kj,x=k0,xであり、また、媒体中のX線の波数ベクトルの表面に垂直な深さ方向の成分は、
【数2】
で示される。
【0020】
また、多層膜の深さ方向のj層からj+1層に入射するX線のj,j+1界面での反射率を示すフレネル(Fresnel)反射係数rj,j+1は、
【数3】
で示される。
【0021】
また、多層膜の深さ方向のj層からj+1層に入射するX線のj,j+1界面での透過率を示すフレネル(Fresnel)透過係数tj,j+1は、
【数4】
で示される。
【0022】
すると,図7のように、j層からj+1層への振幅EjのX線に加えて、逆にj+1層からj層への振幅Ej+1’のX線が存在するとき、j層のX線の振幅Ej
,Ej’と、j+1層のX線の振幅Ej+1
,Ej+1’との関係は、
【数5】
で示される。ここで、hjはj層の厚さであり、この関係式には、
【数6】
の関係が使われている。
【0023】
最下層である基板層の厚みhNを無限大にとると、そこでのX線の振幅EN’=0であることから、マトリックスから各層でのX線の振幅を、下から順次求め、X線反射率
【数7】
を求めることができる。この方法が、マトリックス法による多層膜層表面からのX線反射率理論計算法であり、例えば、非特許文献2の式(1.76)として、また、非特許文献8の式(5)として示されている。
【0024】
しかし、この式では表面粗さや界面粗さがまったく考慮されていないから、現実的なものとはいえない。そこで、表面粗さや界面粗さがある場合、そのラフネスに対応して、フレネル反射係数rj,j+1、フレネル透過係数tj,j+1が変化すると近似して、粗さのあるフレネル反射係数r’j,j+1、粗さのあるフレネル透過係数t’j,j+1に置き換えた計算がなされる。
【0025】
その理論式が、例えば非特許文献8の式(22)として示されており、その理論式に従った計算プログラムコードが非特許文献2の付録Aとして示されている。また、その計算例が、例えば非特許文献2の図1.13、図1.18などに示されている。
【0026】
粗さのあるフレネル反射係数r’j,j+1、粗さのあるフレネル透過係数t’j,j+1をどのように近似しているかについては後述するが、この理論式において、粗さのあるフレネル透過係数t’j,j+1はX線反射率に関係しないことがわかる。
【0027】
マトリックス法では、X線反射率と各層での反射X線振幅との関係についての見透しが悪いので、各層でのX線反射振幅の漸化式の形で表したParrattの多層膜モデル(非特許文献5)式が使われる。次に、このParrattの漸化式法について説明する。
【0028】
j層からj+1層へ入射するX線の振幅Ejと、j+1層からj層へ出射したX線の振幅Ej’との比をRj,j+1とすると、
【数8】
であり、
【数9】
である。
【0029】
また、最下層において、
【数10】
であり、X線反射率は、
【数11】
で求められる。これらの式がParratの多層膜モデルによるX線反射率の理論式である。この式で、フレネル透過係数t’j,j+1はX線反射率に関係しないことがわかり、表面粗さや界面粗さがある場合、フレネル反射係数rj,j+1を粗さのあるフレネル反射係数r’j,j+1に置き換えて計算をすれば良いことがわかる。
【0030】
粗さのあるフレネル反射係数r’j,j+1の近似方法については、表面や界面での反射率を示すフレネル反射係数が表面粗さや界面粗さによって指数関数的に減衰すると近似して、上記(数3)式で示されるj層とj+1層の界面でのフレネル反射係数rj,j+1に、表面粗さや界面粗さによる減衰項をかけて、
【数12】
とするNevot−Croceのラフネスの式(非特許文献6)が広く一般に使われている。
【0031】
また、Parrattの多層膜モデルにNevot−Croceのラフネスの式を組み合わせたX線反射率の理論式は、特許文献4に(数2)の式(7)、(数8)の式(17)として、特許文献8に(数2)の式(2)、式(3)として、特許文献7が引用している特許文献9の同発明内容を発明者が説明している論文である非特許文献9に式(1)、式(2)、式(7)として、非特許文献2に式(1.69)、式(1.116)、式(3.8)、式(3.15)として、非特許文献3に(2.4)節において、非特許文献4に式(1)−(5)として開示されている。
【0032】
また、この理論式に従った計算プログラムコードが非特許文献2の付録Aとして示されており、また、その計算例が、例えば非特許文献2の図1.13、図1.18などに示されている。
【0033】
すなわち、表面粗さや界面粗さを考慮した場合のフレネル反射係数をr’j,j+1とすると、
【数13】
としている。
【0034】
しかし、このように入射X線が鏡面反射している場合のフレネル反射係数に減衰項をかけることだけによって反射率を下げる計算法では、図8(b)に示すように界面が粗れているモデルを、図8(a)に示すように密度ρeが界面において連続的に変化しているモデルとして計算しているにすぎない(非特許文献2の図1.16)。
【0035】
この計算法では、粗れた界面を、密度が連続的な多数の薄い平坦な膜の多層構造に置き換えて一つの界面としたモデルと区別がつかず、各界面で透過するX線と反射するX線は全て干渉に寄与しているという前提で計算されている。即ち、その連続密度多層構造界面においては鏡面反射方向以外の方向に散乱散逸するX線や屈折透過方向以外の方向に散乱散逸するX線が存在しないモデルとなっており、表面や界面における凹凸によって散漫散乱X線として非干渉成分となるX線の量による、反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味していない。特許文献7が引用している特許文献9の同発明内容を発明者が説明している論文(非特許文献9)においては、多層膜各層内におけるナノ粒子・空孔による密度不均一に伴う散漫散乱を加味しているが、該当多層膜各層の表面・界面が粗さを持つ場合は、非特許文献9で式(1)、式(2)、式(7)として示しているように、表面・界面での凹凸により生じる散漫散乱に伴う、反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味していない。
【0036】
その反射率の漸化式は、
【数14】
である。
【0037】
そこで、本発明者は、図3に示すように、W膜をSi基板上に形成した試料について、W膜表面の平均粗さσ0,1と、W膜とSi基板の界面の平均粗さσ1,2とをそれぞれ以下のように変化させて、従来の計算方法に従って反射率を計算してみることとした。入射X線についてはS偏光とし、波長は0.154nm(CuKα線)とする。入射角をθ、W膜表面の平均粗さをσ0,1、Si基板の界面の平均粗さをσ1,2、W膜の深さを10nmとする。計算結果を図9、図10、図11及び図12に示す。
【0038】
表面と基板のどちらも平坦かつ平滑(理想平面)である場合(σ0,1=σ1,2=0nm)を図9に示す。試料表面で反射したX線と界面で反射したX線とが干渉するため、振動しながら減衰する。この振動の振幅は表面粗さや界面粗さに対応し、粗れているほど(界面がボケているほど)振動振幅は小さくなるから、表面と基板のどちらも平坦かつ平滑(理想平面)である場合(σ0,1=σ1,2=0nm)では、図9に示すように振動振幅は小さくならない。
【0039】
また、図10、図11に示すように、表面と基板のどちらも同じだけ粗れている場合(σ0,1=σ1,2=0.3nm,σ0,1=σ1,2=0.5nm)は、粗さが大きくなると入射角が大きくなるにつれての反射率の減少は大きくなるが、試料表面で反射したX線と界面で反射したX線の干渉による振動の振幅は小さくならず、あたかも表面と基板界面のどちらも理想平面であるかのように干渉し振動している。これは、従来の計算方法が、フレネル反射係数に減衰項をかけて反射率を下げているものの干渉に寄与する透過波と反射波の合計は変わらないとする計算法であるためである。表面と基板がどちらも粗れている場合、鏡面反射方向での多重反射による干渉は弱くなってもっと振動の振幅が小さい滑らかなグラフになるはずである。
【0040】
また、図12に示すように、表面だけ粗れている場合(σ0,1=0.5nm,σ1,2=0nm)は、入射角が1度から1.5度にかけて極めて大きな振幅の振動をしている。この振幅は、表面と基板のどちらも平坦かつ平滑(理想平面)である場合(σ0,1=,σ1,2=0nm)の振動振幅よりも大きい。表面粗さが大きくなると、試料表面で反射したX線と界面で反射したX線の干渉による振動の振幅は小さくなるはずであるが、あたかも粗れた表面が基板界面と干渉ミラーの如く作用しているかの振動をしている。これは、従来の計算方法が、フレネル反射係数に減衰項をかけて反射率を下げているものの干渉に寄与する透過波と反射波の合計は変わらないとする計算法であるため、粗れた表面での反射波の減少に対応して透過波が増加する計算となって、ある特定の角度でその干渉効果が強くなっていることを示している。表面が粗れている場合のほうが平坦かつ平滑(理想平面)の場合よりも多重反射による干渉が強くなる計算結果は現実的ではなく、もっと振動の振幅が小さい滑らかなグラフになるはずであると考えられる。
【0041】
したがって、従来方法は、いずれもラフネスを正確に検出しているとはいえない。
【0042】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、X線反射率法を用いて積層体の層構造を正確に解析することのできる方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0043】
従来の計算法では、多層膜でのX線反射率は、粗さを考慮する際に、表面又は界面でのフレネル反射係数に減衰項をかける事によって計算してきた。この計算方法で求めた反射率は粗さのない表面又は界面を考えた場合の反射率に減衰項をかけて値を小さくしたものであり、表面又は界面での凹凸に対応したものではない。実際に粗さのある表面又は界面では、該表面又は界面において、該表面又は界面の凹凸により散漫散乱として非干渉成分となるX線成分が生じ、反射X線と透過X線との干渉成分の減少が起こっているために、鏡面反射方向の反射波強度の入射角に伴う振動振幅が、表面又は界面での凹凸の大きさに対応して小さくなる。本発明は、かかる点に着目してなされたものである。
【0044】
すなわち、本発明に係るX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法は、基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射する照射工程と、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出する検出工程と、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定器で測定する測定工程と、前記測定されたX線反射率を解析器で解析する解析工程とを備えたX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法であって、前記解析工程は、前記解析器で、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析するものであることを特徴とするものである。なお、前記積層体には、基板上に単層膜、多層膜、密度不均一層などの層構造が形成されたものを含む(以下、同様)。
【0045】
本発明によれば、前記解析器で、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面での凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少が加味されてX線反射率が解析されるので、鏡面反射方向の反射波強度の入射角に伴う振動振幅が表面又は界面での凹凸の大きさに対応して小さくなる解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0046】
請求項2記載の発明のように、前記積層体の内部が表面から深さ方向に密度不均一であるとすることが好ましい。
【0047】
請求項2記載の発明によれば、前記積層体の内部が表面から深さ方向に密度不均一であるとするので、かかる密度不均一層のある積層体の層構造をより正確に解析することができるようになる。
【0048】
ところで、従来の計算方法では、フレネル反射係数に減衰項をかけて反射率を下げているものの干渉に寄与する透過波と反射波との合計は変わらないとする計算法であるため、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがあり散漫散乱の強度が増大したときに,積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大することとなるが、これは実際にはありえない現象である。そこで、請求項3記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面での反射率を示すフレネル反射係数と、該積層体の表面又は界面での透過率を示すフレネル透過係数との和が、該積層体の粗さがある表面又は界面において、1よりも減少することを加味することが好ましい。
【0049】
請求項3記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面での反射率を示すフレネル反射係数と、該積層体の表面又は界面での透過率を示すフレネル透過係数との和が、該積層体の粗さがある表面又は界面において、1よりも減少することを加味するので、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがあり散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0050】
請求項4記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、該積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味することが好ましい。
【0051】
請求項4記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、該積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0052】
請求項5記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の粗さがある表面又は界面を透過するX線強度において、該積層体の表面又は界面で反射するX線強度の表面粗さ又は界面粗さによる減少に伴う増大がないことを加味することが好ましい。
【0053】
請求項5記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の粗さがある表面又は界面を透過するX線強度において、該積層体の表面又は界面で反射するX線強度の表面粗さ又は界面粗さによる減少に伴う増大がないことを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0054】
請求項6記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度が、該積層体の粗さがある表面又は界面で表面粗さ又は界面粗さにより減少することを加味することが好ましい。
【0055】
請求項6記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度が、該積層体の粗さがある表面又は界面で表面粗さ又は界面粗さにより減少することを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0056】
請求項7記載の発明のように、前記解析工程は、前記解析器で、前記散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、前記散漫散乱の強度変化に対応して、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味することが好ましい。
【0057】
請求項7記載の発明によれば、前記解析工程は、前記解析器で、前記散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、前記散漫散乱の強度変化に対応して、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0058】
請求項8記載の発明のように、前記測定工程は、前記測定器で、X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行い、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも,前記測定された散漫散乱X線の強度変化に対応して減少することを加味することが好ましい。
【0059】
請求項8記載の発明によれば、前記測定工程は、前記測定器で、X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行い、前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも,前記測定された散漫散乱X線の強度変化に対応して減少することを加味するので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0060】
請求項9記載の発明のように、評価器で、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明における解析工程でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価工程をさらに備えることが好ましい。
【0061】
請求項9記載の発明によれば、評価器で、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明における解析工程でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価工程をさらに備えたので、散漫散乱の強度が増大したときに、積層体から反射するX線や積層体を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、積層体の物性を正確に評価することができるようになる。
【0062】
請求項10記載の発明のように、評価器で、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さをパラメータとしたX線反射率解析式をたて,前記X線反射率の入射角依存性の測定値に,該X線反射率解析式のX線反射率理論値が一致するように、最小2乗法又はマキシマムエントロピメソッドによるフィッティング手法により,前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めることが好ましい。
【0063】
請求項10記載の発明によれば、評価器で、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さをパラメータとしたX線反射率解析式がたてられ、前記X線反射率の入射角依存性の測定値に、該X線反射率解析式のX線反射率理論値が一致するように、最小2乗法又はマキシマムエントロピメソッドによるフィッティング手法により、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つが求められるので、かかる測定値と理論値とのフィッティングが良好に行われることにより、積層体の物性をより正確に評価することができるようになる。
【0064】
請求項11記載の発明に係るX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置は、基板上に層構造が形成された積層体にX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射するX線源と、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出する検出器と、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する測定器と、前記測定されたX線反射率を解析する解析器とを備えたX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置であって、前記解析器は、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析するものであることを特徴とするものである。
【0065】
請求項11記載の発明によれば、前記本発明(方法)と同様の作用効果を奏する。
【0066】
請求項12記載の発明のように、請求項11記載の発明における解析器でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価器をさらに備えることが好ましい。
【0067】
請求項12記載の発明によれば、請求項9記載の発明と同様の作用効果を奏する。
【0068】
請求項13記載の発明に係る線反射率法を用いた積層体の層構造解析プログラムは、基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射し、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出したときに、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する第一の機能と、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析する第二の機能とをコンピュータに実現させることを特徴とするものである。
【0069】
請求項13記載の発明によれば、基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射し、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出したときに、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する第一の機能と、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析する第二の機能とがコンピュータによって実現されるので、鏡面反射方向の反射波の振幅が小さくなるような解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0070】
請求項14記載の発明のように、請求項13記載の発明における第二の機能でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める第三の機能をコンピュータにさらに実現させることが好ましい。
【0071】
請求項14記載の発明によれば、請求項13記載の発明における第二の機能でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める第三の機能がコンピュータによってさらに実現されるので、鏡面反射方向の反射波の振幅が小さくなるような解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【発明の効果】
【0072】
本発明によれば、前記解析器で、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少が加味されてX線反射率が解析されるので、鏡面反射方向の反射波強度の入射角に伴う振動振幅が表面又は界面での凹凸の大きさに対応して小さくなる解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】X線反射率法を用いた積層体の層構造解析の計算手順を示すフローチャートである。
【図3】試料の断面構造を模式的に示すモデル図である。
【図4】本装置による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.3nm)を示すグラフである。
【図5】本装置による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.5nm)を示すグラフである。
【図6】本装置による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=0.5nm、σ1,2=0nm)を示すグラフである。
【図7】反射率を計算するための多層膜の概念図である。
【図8】試料の断面構造を模式的に示すモデル図であって、(a)は密度が連続的に変化しているモデル図、(b)は界面が粗れているモデル図である。
【図9】従来方法による解析結果(表面と基板のどちらも平坦かつ平滑である場合:σ0,1=σ1,2=0nm)を示すグラフである。
【図10】従来方法による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.3nm)を示すグラフである。
【図11】従来方法による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.5nm)を示すグラフである。
【図12】従来方法による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=5nm、σ1,2=0nm)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下、本発明の特徴を図に沿って具体的に説明する。なお、以下の説明は本願発明の理解を容易にするためのものであり、これに制限されるものではない。すなわち、本願発明の技術思想に基づく変形、実施態様、他の例は本願発明に含まれるものである。
【0075】
図1は本発明の一実施形態に係るX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置(以下、「本装置」という。)10の全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、本装置10は、積層体である試料1を所定のピッチ角度で回転可能に載置するゴニオメータ2と、ゴニオメータ2上に載置した試料1に照射するX線を発生するX線源3と、このX線源から照射されたX線を分光して試料1への入射X線(Xi)とするモノクロメータ4と、試料1からの反射X線(Xr)を検出する検出器5と、コンピュータ8とを備えている。これらのゴニオメータ2、X線源3、モノクロメータ4、検出器5及びコンピュータ8のハードウエア自体は、いずれも市販のものを使用することができる。なお、検出器5は、ゴニオメータ2の回転に連動して回転することで、X線源3からモノクロメータ4を介して試料1に照射される入射X線の入射角θと、該検出器5の仰角θ’とが等しくなるように動作が設定されており、この動作設定により、検出器5は、試料1から入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出することができるようになっている。
【0076】
例えばコンピュータ8は、各種演算等を実行するCPU(Central processing unit)81aと、各種プログラム等を予め記憶しておくROM(Read−only memory)81bと、各種データ等を一時的に記憶するRAM(Randam−access memory)81cとを備えたパーソナルコンピュータであり、これにキーボードやマウスなどの入力部6と、CRTや液晶などの表示部7とがそれぞれ電気的に接続されている。
【0077】
そして、前記ROM81bに記憶しておいた各種プログラム等を前記CPU81aに読み込んで実行することで、検出データ処理部82と、X線反射率演算部(測定器、解析器に相当する。)83と、物性評価部(評価器に相当する。)84と、X線源制御部85と、ゴニオメータ制御部86と、検出器制御部87とがそれぞれ構築されるようになっている。
【0078】
検出データ処理部82は、検出器5から取り込んだ検出データを用いて反射X線の強度を演算するものである。
【0079】
X線反射率演算部83は、検出データ処理部82で演算された反射X線の強度を用いてX線反射率を計測する計測器としての機能(第一の機能に相当する。)と、試料1に表面粗さ又は界面粗さがある場合にその試料1の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味して、前記演算されたX線反射率を解析する解析器としての機能(第二の機能に相当する。)とを有するものである。このX線反射率の解析工程において散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する手法としては、例えば下記(1)〜(6)などが挙げられる。
【0080】
(1)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面での反射率を示すフレネル反射係数と、試料1の表面又は界面での透過率を示すフレネル透過係数との和が、該表面又は界面において、1よりも減少することを加味する。
【0081】
(2)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面で反射するX線強度と、試料1の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該試料1の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味する。
【0082】
(3)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面を透過するX線強度において、試料1の表面又は界面で反射するX線強度の表面粗さ又は界面粗さによる減少に伴う増大がないことを加味する。
【0083】
(4)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面を透過するX線強度が、試料1の粗さがある表面又は界面で表面粗さ又は界面粗さにより減少することを加味する。
【0084】
(5)散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面で反射するX線強度と、試料1の表面又は界面を透過するX線強度との和が、前記散漫散乱の強度変化に対応して、該試料1の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味する。
【0085】
(6)X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行っておき、散漫散乱に伴う干渉成分の減少を加味する際に、試料1の表面又は界面で反射するX線強度と、試料1の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該試料1の表面又は界面に入射するX線強度よりも,前記測定された散漫散乱X線の強度変化に対応して減少することを加味する。
【0086】
物性評価部84は、X線反射率演算部83で演算されたX線反射率と、ゴニオメータ2の回転角度情報(すなわち、X線の試料1への入射角θである。)に基づいて、試料1の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価器としての機能(第三の機能に相当する。)を有するものである。すなわち、X線反射率とX線の試料1への入射角θとから、後述する図4、図5及び図6に示すように、試料1に表面粗さ又は界面粗さがある場合には、X線の試料1への入射角θが増大するにつれて、X線反射率は振動しながら減衰していくのであるが、そのときの振動振幅の周期から試料1の膜厚が求められ、その減衰の状況から表面粗さ及び界面粗さが求められる。この物性評価部84は、表示部7上に、試料1の物性を評価可能なグラフ表示などを行うだけのものとしてもよく、このグラフ表示などをユーザが視認して、試料1の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めることができる。
【0087】
X線源制御部85は、X線源3でのX線照射タイミングを制御し、ゴニオメータ制御部86は、ゴニオメータ2上に載置された試料1の回転タイミングを制御し、検出器制御部87は、前記動作設定の下に、試料1からの反射X線の検出タイミングを制御するものである。なお、各制御部85〜87は、コンピュータ8の外付けのコントローラとして別途設けることとしてもよい。
【0088】
引き続いて、本発明の特徴をなす表面又は界面の凹凸による散漫散乱に伴う表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味したX線反射率法について詳述する。散漫散乱による干渉成分の減少を加味する手法としては、前記(4)を例にとって説明する。
【0089】
従来の計算法では、多層膜でのX線反射率は、粗さを考慮する際に、各界面でのフレネル反射係数に減衰項をかけることによって計算してきた。この計算方法で求めた反射率は粗さのない界面を考えた場合の反射率に減衰項をかけて値を小さくしたものである。実際に粗さのある界面では、散漫散乱が起こっているために、鏡面反射方向の反射波の振幅が小さくなる。ここで、散漫散乱とは、表面粗さ又は界面粗さがある場合において、表面や界面における凹凸によって、鏡面反射スポットまわりに現れる微弱なX線をいう。この散漫散乱が起こっているということは、鏡面反射方向以外の方向に散乱散逸したX線や屈折透過方向以外の方向に散乱散逸したX線、即ち散漫散乱X線となり、非干渉成分となるX線の量による、干渉に寄与する反射X線の減少と、干渉に寄与する透過X線の強度変化をも考慮することが考えられる。以下、かかる点を考慮して、反射率の理論式を再検討する。
【0090】
前記した反射率のマトリックス漸化式である
【数15】
前述したように、この関係式には、
【数16】
の関係が隠されている。この式は見てのとおり、反射波と屈折波のエネルギが入射波に一致する結果である。
【0091】
表面粗さや界面粗さがあり、散漫散乱が起こっている場合、上式を、鏡面反射X線強度に寄与する可干渉なX線成分のみについて示す式とすると、この値は1より小さくなる。すなわち、
【数17】
である。そこで、これを正確に記載した理論式に戻って、反射率の理論式を再検討する。
【0092】
これを入れて、反射率のマトリックス漸化式を書くと、
【数18】
であり、反射率の漸化式は、
【数19】
となる。
【0093】
この正確に記載した理論式において、粗さのある界面でフレネル反射係数を
【数20】
とすると、従来の方法では、前記(数19)式中で考慮すべき括弧( )内の係数を1として保存しているために、フレネル反射係数
r’ の減少を補うためにフレネル透過係数t’
が逆に増えている計算となっていることがわかる。実際には、界面が粗れていることにより散漫散乱が起こり、干渉に寄与する量はどちらも減少するはずである。そこで、反射係数とともに透過係数についても考慮する必要がある。
【0094】
粗さのある界面でのフレネル透過係数については、界面粗さが表面に平行な方向についての粗さ相関距離に対して変化する。例えば,Nevot−Croce(非特許文献6)やVidal(非特許文献8)では、界面の凹凸分布の空間周波数が高いとき、粗さのある界面でのフレネル透過係数が、
【数21】
で示されることを報告している。すなわち、これは、粗さのある界面でのフレネル透過係数が平滑な界面でのフレネル透過係数よりも大きくなることを示しており、界面の凹凸分布の空間周波数が高いときは、界面が均一に密度変化をしている場合に近い透過をすることを示している。
【0095】
しかし、この場合でも(r’j,j+12+t’j,j+1t’j+1,j)の項は1よりも小さい。また、de Boer(非特許文献10)は、界面の凹凸分布の空間周波数が小さいとき、すなわち、ゆるやかな粗さのある界面でのフレネル透過係数が、
【数22】
で示されることを報告している。すなわち、界面の凸凹の表面に平行な方向の分布が大きくなるとフレネル透過係数が小さくなることを示している。
【0096】
また、Sinha(非特許文献7)は、動力学的な一次近似まで含めたDWBA計算により減衰因子
【数23】
が得られることを示している。
【0097】
そこで、一般に、反射率の漸化式
【数24】
において、表面粗さや界面粗さがある時のフレネル反射係数r’j,j+1、フレネル透過係数t’j,j+1と,滑らかな表面界面におけるフレネル反射係数rj,j+1、フレネル透過係数tj,j+1との関係を、
【数25】
のように置く。ここで、Γは粗さがある時のフレネル反射係数の減衰因子であり、Tは粗さがある時のフレネル透過係数の変化因子である。また、Cj,j+1は、界面粗さの表面に平行な方向の相関関数であり界面の凹凸構造の分布を示す関数である。
【0098】
関数ΓとTは、凹凸のある表面界面において、X線が可干渉な反射や透過をする割合を示す関数という物理的な意味を持つ。このように一般性のあるX線反射率の関数モデルによってX線反射率の測定結果を解析することで、表面粗さや界面粗さの大きさだけでなく、表面界面の凹凸構造の分布をも正確に求めることができる。
【0099】
例えば、透過X線も表面界面の凹凸によって反射X線と同様の減衰があるとしたモデルを考え、散漫散乱に伴う表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味すること、すなわち、反射フレネル反射係数の減衰因子とフレネル透過係数の変化因子とに、Sinha(非特許文献7)が導いた減衰因子を採用すればどのような結果になるかを調べるために、
【数26】
と置くことで(数19)に従い、本装置10を用いて二層膜について計算をしてみる。なお、この計算を通じて、本発明のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法の各工程が具現化される。
【0100】
図2は本装置10によるX線反射率を用いた積層体の層構造解析の計算手順を示すフローチャート、図3は試料1の断面構造を示す模式図、図4は本装置10による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.3nm)を示すグラフ、図5は本装置10による解析結果(表面と基板のどちらも粗れている場合:σ0,1=σ1,2=0.5nm)を示すグラフ、図6は本装置10による解析結果(表面のみ粗れている場合:σ0,1=0.5nm、σ1,2=0nm)を示すグラフである。
【0101】
図3に示すような多層構造における、W膜表面の平均粗さとW膜とSi基板の界面の平均粗さをそれぞれ同じだけ変化させて反射率を計算する。入射X線についてはS偏光とし、波長は0.154nm(CuKα線)とする。入射角をθ、W膜表面の平均粗さをσ0,1、Si基板の界面の平均粗さをσ1,2、W膜の深さを10nmとする。
【0102】
図2において、本装置10の例えば入力部6からの指示により電源を投入すると、コンピュータ8は、ROM81bに予め記憶しておいた各種プログラム(X線反射率法を用いた積層体の層構造解析プログラムを含む。)をCPU81aに読み込んで、各部82〜87を実行可能とする初期設定が行われる。これにより、X線源制御部85は、X線源3でのX線照射タイミングを制御する。そして、X線源3から発生するX線をモノクロメータ4で分光して試料1への入射X線とする(ステップS1:照射工程に相当する)。
【0103】
ゴニオメータ制御部86は、ゴニオメータ2上に載置された試料1を所定角度ピッチで回転させる。そして、X線の試料1への入射角度を変化させるとともに、その回転角度情報をRAM81cに記憶させる。
【0104】
検出器制御部87は、検出器5による試料1からの反射X線の検出タイミングを制御する。検出器5からの検出データがコンピュータ8に取り込まれる(ステップS2:検出工程に相当する)。
【0105】
検出データ処理部82は、検出器5からの検出データに基づいて反射X線の強度を演算してRAM81cに記憶する(ステップS3:検出工程に相当する)。
【0106】
X線反射率演算部83は、検出データ処理部82で演算された反射X線の強度を用いて、前記したような散漫散乱による干渉成分の減少を加味したX線反射率を演算する(ステップS4:測定工程、解析工程に相当する)。
【0107】
物性評価部84は、X線反射率演算部83で演算されたX線反射率と、RAM81cに記憶されたゴニオメータ2の回転角度情報(X線の試料1への入射角θ)とを用いて、試料1の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めるが、ここでは理解しやすいように、X線反射率と、X線の試料1への入射角θとの関係を表示部7にグラフ表示しており、このグラフ表示をユーザが視認することで、試料1の物性を評価可能とする(ステップS5:評価工程に相当する)。計算結果を図4、図5及び図6に示す。
【0108】
これらの図4、図5及び図6において、実線は今回の計算結果、点線は従来の計算結果である。図4、図5の実線のグラフは破線のグラフに比べて、干渉による振動の振幅が小さくなっている。表面と界面がどちらも粗れているということは、両方とも滑らかな場合より散漫散乱波の強度が強くなり、鏡面反射方向での多重散乱による干渉は弱くなって振動の振幅が小さい、滑らかなグラフになるはずであるから、従来の計算結果とは異なり、今回の計算結果は実験値をよく表していると考えられる。
【0109】
図6の実線のグラフは破線のグラフに比べて、従来の計算結果で見られた、入射角θが1度から1.5度付近の異常な大きさの振幅の振動がなくなり、干渉による振動の振幅が小さくなっている。この振幅は、表面と基板のどちらも平坦かつ平滑(理想平面)である場合(σ0,1=σ1,2=0nm)の振動振幅よりも小さくなっている。表面粗さが大きくなると試料表面で反射したX線と界面で反射したX線の干渉による振動の振幅は小さくなるはずであるから、今回の計算結果は実験値をよく表していると考えられる。
【0110】
以上説明したように、本実施形態によれば、基板上に層構造が形成された積層体の一例である試料1にX線源3からX線が該試料1の表面に対して入射角θで照射され、試料1から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線が検出器5で検出され、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率がX線反射率演算部83で測定され、同じくX線反射率演算部83で、前記試料1に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該試料1の表面又は界面において表面又は界面の凹凸による散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少が加味されて、前記測定されたX線反射率が解析されるので、鏡面反射方向の反射波強度の入射角に伴う振動振幅が表面又は界面での凹凸の大きさに対応して小さくなる解析結果が得られる。これにより、積層体の層構造を正確に解析することができるようになる。
【0111】
本実施形態では、さらに、物性評価部84で、前記X線反射率の解析結果に基づいて、試料1の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めるので、散漫散乱の強度が増大したときに、試料1から反射するX線や試料1を透過するX線の強度を含めたX線の強度全体の合計が増大するといった、実際にはありえない現象を確実に除外して、試料1の物性を正確に評価することができるようになる。
【0112】
なお、上記実施形態では、積層体の一例である試料1として、図3に示すように、Si基板上にW膜が形成された二層構造を例示したが、それ以外の基板上に単層膜又は多層膜、密度不均一層などが形成された積層体についても同様に適用できる。また、不純物を注入した平坦な基板についても表面粗さがある場合に、表面の凹凸による散漫散乱に伴う表面での反射X線と透過X線の干渉成分の減少を加味することで同様に適用できる。
【0113】
また、上記実施形態では、散漫散乱による干渉成分の減少を加味する手法(1)〜(6)のうちの、主として(4)について説明したが、その他についても同様に適用できる。ただし、手法(6)では、X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行うこととしているが、X線反射率測定と同時に、散漫散乱X線の強度の測定をも行うことが好ましい。散漫散乱X線の強度の測定結果は,界面粗さの表面に平行な方向の相関関数Cj,j+1の決定精度を向上させる。
【0114】
また、上記実施形態では、検出データ処理部82、測定器と解析器とに相当するX線反射率演算部83、評価器に相当する物性評価部84のいずれについても、コンピュータ8のROM81bに予め記憶され、CPU81に読み込まれて実行される各種プログラム(ソフトウエア)の1つとして例示されているが、それらの全部又は一部をハードウエアで構成することとしてもよいのはもちろんである。
【0115】
また、上記実施形態では、本発明の各機能を発揮するためのプログラムが、コンピュータ8のROM81bに予め記憶されている場合を例示したが、このプログラムは、CDなどの外部メディアを用いて、コンピュータ8に簡単にインストールすることができる。これにより、既存の装置を用いて、本発明方法を実行することができるようになるので、非常に便利である。
【符号の説明】
【0116】
10 X線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置
1 試料(積層体の一例である。)
2 ゴニオメータ
3 X線源
4 モノクロメータ
5 検出器
6 入力部
7 表示部
8 コンピュータ
82 検出データ処理部
83 X線反射率演算部(測定器、解析器に相当する。)
84 物性評価部(評価器に相当する。)
85 X線源制御部
86 ゴニオメータ制御部
87 検出器制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【特許文献1】特開平3−146846号公報
【特許文献2】特開平6−221841号公報
【特許文献3】特開平8−254509号公報
【特許文献4】特開平11−6804号公報
【特許文献5】特開平11−258185号公報
【特許文献6】特開2000−35408号公報
【特許文献7】特開2005−114475号公報
【特許文献8】特開2007−51955号公報
【特許文献9】特開2001−349849号公報
【非特許文献】
【0118】
【非特許文献1】桜井健次;X線反射率法の応用について,応用物理,第78巻,第3号(2009)pp.224−230
【非特許文献2】桜井健次;X線反射率法入門(講談社,2009)
【非特許文献3】パベル・カリモフら;多層膜X線反射率シミュレーションプログラム,The Rigaku−Denki Journal 33(1)(2002)pp.20−24
【非特許文献4】小島勇夫;X線反射率法による薄膜の精密構造評価,The Rigaku−Denki Journal 30(2)(1999)pp.4−13
【非特許文献5】L.G.Parratt;Surface Studies of Solids by Total Reflection of X−Rays,Phys.Rev.95(1954)pp.359−369
【非特許文献6】L.Nevot et P.Croce;Caracterisation des surfaces par reflexion rasante de rayons X.Application a l’etude du polissage de quelques verres silicates,Rev.Phys.Appl.(Paris)15,761−779(1980)
【非特許文献7】S.K.Sinha,etc.;X−ray and neutron scattering from rough surfaces,Phys.Rev.B Vol.38,No.4(1988)pp.2297−2311
【非特許文献8】B.Vidal and P.Vincent;Metallic multilayers for X rays using classical thin−film theory,Applied Optics,Vol.23,Issue 11(1984)pp.1794−1801
【非特許文献9】表和彦,伊藤義泰;反射X線小角散乱法による薄膜中のナノ粒子・空孔サイズ測定,X線分析の進歩,33(2002)pp.185−195
【非特許文献10】D.K.G.de Boer;X−ray reflection and transmission by rough surfaces,Phys.Rev.B51(1995)pp.5297−5305
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射する照射工程と、
該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出する検出工程と、
この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定器で測定する測定工程と、
前記測定されたX線反射率を解析器で解析する解析工程とを備えたX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法であって、
前記解析工程は、前記解析器で、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析するものであることを特徴とするX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項2】
前記積層体の内部が表面から深さ方向に密度不均一であるとすることを特徴とする請求項1記載のX線反射率法を用いた測定対象の層構造解析方法。
【請求項3】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面での反射率を示すフレネル反射係数と、該積層体の表面又は界面での透過率を示すフレネル透過係数との和が、該積層体の粗さがある表面又は界面において、1よりも減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項4】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、該積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項5】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の粗さがある表面又は界面を透過するX線強度において、該積層体の表面又は界面で反射するX線強度の表面粗さ又は界面粗さによる減少に伴う増大がないことを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項6】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度が、該積層体の粗さがある表面又は界面で表面粗さ又は界面粗さにより減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項7】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、前記散漫散乱の強度変化に対応して、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項8】
前記測定工程は、前記測定器で、X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行い、
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも,前記測定された散漫散乱X線の強度変化に対応して減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項9】
評価器で、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明における解析工程でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価工程をさらに備えたことを特徴とするX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項10】
評価器で、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さをパラメータとしたX線反射率解析式をたて、前記X線反射率の入射角依存性の測定値に、該X線反射率解析式のX線反射率理論値が一致するように、最小2乗法又はマキシマムエントロピメソッドによるフィッティング手法により,前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めることを特徴とする請求項9記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項11】
基板上に層構造が形成された積層体にX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射するX線源と、
該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出する検出器と、
この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する測定器と、
前記測定されたX線反射率を解析する解析器とを備えたX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置であって、
前記解析器は、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析するものであることを特徴とするX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置。
【請求項12】
請求項11記載の発明における解析器でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価器をさらに備えたことを特徴とするX線反射率法を用いた測定対象の構造解析装置。
【請求項13】
基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射し、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出したときに、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する第一の機能と、
前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析する第二の機能とをコンピュータに実現させることを特徴とするX線反射率法を用いた積層体の層構造解析プログラム。
【請求項14】
請求項13記載の発明における第二の機能でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める第三の機能をコンピュータにさらに実現させることを特徴とするX線反射率法を用いた測定対象の構造解析プログラム。
【請求項1】
基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射する照射工程と、
該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出する検出工程と、
この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定器で測定する測定工程と、
前記測定されたX線反射率を解析器で解析する解析工程とを備えたX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法であって、
前記解析工程は、前記解析器で、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析するものであることを特徴とするX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項2】
前記積層体の内部が表面から深さ方向に密度不均一であるとすることを特徴とする請求項1記載のX線反射率法を用いた測定対象の層構造解析方法。
【請求項3】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面での反射率を示すフレネル反射係数と、該積層体の表面又は界面での透過率を示すフレネル透過係数との和が、該積層体の粗さがある表面又は界面において、1よりも減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項4】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、該積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項5】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の粗さがある表面又は界面を透過するX線強度において、該積層体の表面又は界面で反射するX線強度の表面粗さ又は界面粗さによる減少に伴う増大がないことを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項6】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度が、該積層体の粗さがある表面又は界面で表面粗さ又は界面粗さにより減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項7】
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、前記散漫散乱の強度変化に対応して、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項8】
前記測定工程は、前記測定器で、X線反射率の測定を行うとともに、散漫散乱X線の強度の測定をも行い、
前記解析工程は、前記解析器で、前記干渉成分の減少を加味する際に、前記積層体の表面又は界面で反射するX線強度と、前記積層体の表面又は界面を透過するX線強度との和が、該積層体の表面又は界面に入射するX線強度よりも,前記測定された散漫散乱X線の強度変化に対応して減少することを加味することを特徴とする請求項1又は2記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項9】
評価器で、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明における解析工程でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価工程をさらに備えたことを特徴とするX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項10】
評価器で、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さをパラメータとしたX線反射率解析式をたて、前記X線反射率の入射角依存性の測定値に、該X線反射率解析式のX線反射率理論値が一致するように、最小2乗法又はマキシマムエントロピメソッドによるフィッティング手法により,前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求めることを特徴とする請求項9記載のX線反射率法を用いた積層体の層構造解析方法。
【請求項11】
基板上に層構造が形成された積層体にX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射するX線源と、
該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出する検出器と、
この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する測定器と、
前記測定されたX線反射率を解析する解析器とを備えたX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置であって、
前記解析器は、前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析するものであることを特徴とするX線反射率法を用いた積層体の層構造解析装置。
【請求項12】
請求項11記載の発明における解析器でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める評価器をさらに備えたことを特徴とするX線反射率法を用いた測定対象の構造解析装置。
【請求項13】
基板上に層構造が形成された積層体にX線源からX線を該積層体の表面に対して入射角θで照射し、該積層体から前記照射されたX線である入射X線に対して散乱角2θで反射される鏡面反射X線を検出器で検出したときに、この検出された鏡面反射X線の強度の前記入射X線の強度に対する割合であるX線反射率を測定する第一の機能と、
前記積層体に表面粗さ又は界面粗さがある場合に該積層体の表面又は界面において該表面又は界面の凹凸により鏡面反射方向以外の方向にX線が散乱する、散漫散乱に伴う該表面又は界面での反射X線と透過X線との干渉成分の減少を加味してX線反射率を解析する第二の機能とをコンピュータに実現させることを特徴とするX線反射率法を用いた積層体の層構造解析プログラム。
【請求項14】
請求項13記載の発明における第二の機能でのX線反射率の解析結果に基づいて、前記積層体の層の膜厚、表面粗さ及び界面粗さのうちの少なくとも1つを求める第三の機能をコンピュータにさらに実現させることを特徴とするX線反射率法を用いた測定対象の構造解析プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図8】
【公開番号】特開2010−266381(P2010−266381A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119317(P2009−119317)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「平成20年度卒業研究 概要集」における「界面粗さを持つ多層膜からのX線反射率計算に関する研究」の講演予稿集と、「界面粗さを持つ多層膜からのX線反射率計算に関する研究」パワーポイントファイルに発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「平成20年度卒業研究 概要集」における「界面粗さを持つ多層膜からのX線反射率計算に関する研究」の講演予稿集と、「界面粗さを持つ多層膜からのX線反射率計算に関する研究」パワーポイントファイルに発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
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