X線回折測定装置及び残留応力測定方法
【課題】 測定対象物のX線による回折環の形状が不連続の状態で検出されていても、測定対象物の残留応力を精度よく検出できるようにする。
【解決手段】 コントローラCT内に、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群を残留応力に対応させてそれぞれ記憶しておく。コントローラCTは、測定対象物のX線による回折環の形状を検出し、前記記憶されている回折環形状データ群によって表される複数の比較回折環の形状に対する、前記検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算する。そして、コントローラCTは、前記記憶されている残留応力と、前記計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する。
【解決手段】 コントローラCT内に、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群を残留応力に対応させてそれぞれ記憶しておく。コントローラCTは、測定対象物のX線による回折環の形状を検出し、前記記憶されている回折環形状データ群によって表される複数の比較回折環の形状に対する、前記検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算する。そして、コントローラCTは、前記記憶されている残留応力と、前記計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線によりイメージングプレートの表面に形成された回折環に基づいて測定対象物の残留応力を測定するX線回折測定装置及び同装置に適用される残留応力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物の残留応力をX線回折により測定することはよく行われている。X線回折測定装置において、装置が小型化できX線の照射時間を短くすることが可能な装置として、下記特許文献1に示されている装置がある。この装置は、X線を所定の角度で測定対象物に照射し、測定対象物で回折したX線(以下、回折X線という)を、感光性を有するイメージングプレートで受光し、イメージングプレートに形成された環状のX線回折像(以下、回折環という)の形状を測定する。そして、測定した回折環の形状をcosα法により分析して、測定対象物の残留応力を計算するようにしている。
【0003】
この場合、He−Neレーザ光などの励起光でイメージングプレート上を走査し、回折環から輝尽発光により発生する光の強度を光電子管によって増幅して検出し、回折環の画像を得るようにしている。なお、下記特許文献1には、イメージングプレートの代わりにX線CCDで回折X線を受光し、X線CCDの各画素が出力する信号から回折環の形状を得る方法も示されている。しかし、この方法に用いるX線CCDは高額であるので、装置のコストを抑えるためと、イメージングプレートに回折環を形成する方法の方が、レーザ光強度を大きくして、反射光強度に相当する信号強度を大きくすることができ、回折X線が弱くても回折環の画像を精度よく得ることができるために、イメージングプレートに回折環を形成する方法が主に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−241308号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、イメージングプレートに回折環を形成する方法でも、発明者が多くの実験により確認した結果、測定対象物の試料が微量であったりすると、測定対象物が薄い等の理由により回折環が不連続になることが分かった。回折環が不連続である場合、不連続の度合いが小さければ、不連続の箇所を補間することで連続した回折環を作成し、この作成した回折環から残留応力を求めることは可能であるが、不連続の度合いが大きいと、不連続の箇所を補間することで連続した回折環を作成して残留応力を求めても、残留応力を精度よく求めることができない。
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、その目的は、形成された回折環が不連続であっても、残留応力を精度よく求めることができるX線回折測定装置及び同装置に適用される残留応力測定方法を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、後述する実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、この実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、対象とする測定対象物(OB)に向けてX線を出射するX線出射器(13)と、中央にX線を通過させる貫通孔が形成されたテーブル(27)と、テーブルに取付けられて、中央部にてX線を通過させるとともに、測定対象物にて回折したX線の回折光を受光する受光面を有し、回折光の像である回折環を記録するイメージングプレート(28)と、レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、レーザ光をイメージングプレートの受光面に照射するとともに、レーザ光の照射によってイメージングプレートから出射された光を受光して受光強度に応じた受光信号を出力するレーザ検出装置(PUH)と、テーブルを、貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段(24,25)と、テーブルを、イメージングプレートの受光面に平行な方向に、レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段(15,17,18,22)と、移動手段を制御してテーブルを移動し、X線出射器から対象とする測定対象物に向けてX線を照射して、測定対象物で回折したX線によってイメージングプレートに測定対象物による回折環を撮像する回折環撮像手段(CT,S102〜S126)と、回転手段及び移動手段を制御して測定対象物の回折環が記録されたイメージングプレートを回転及び移動させて、レーザ検出装置から出射されるレーザ光のイメージングプレートにおける照射位置をイメージングプレートの中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させながら、レーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力して、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを、レーザ光のイメージングプレートにおける照射位置と関連付けて順次読取り、前記読取った受光強度データに基づいてイメージングプレートに形成された測定対象物の回折環の形状を検出する回折環形状検出手段(CT,S202〜S246,S302〜S320)と、測定対象物と同一材料の比較対象物に対してX線の照射によってイメージングプレートに形成される比較回折環を想定し、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群を残留応力に対応させてそれぞれ記憶した回折環形状データ記憶手段(CT)と、回折環形状データ記憶手段に記憶された回折環形状データ群によって表された複数の比較回折環の形状に対する前記検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算する一致度合い計算手段(CT,S602,S614〜S650)と、回折環形状データ記憶手段に記憶されている残留応力と、一致度合い計算手段によって計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する第1残留応力計算手段(CT,S652)とを備えたことにある。
【0008】
上記のように構成した本発明においては、回折環形状データ記憶手段に、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群が残留応力に対応してそれぞれ記憶されている。そして、一致度合い計算手段が、回折環形状データ群によって表された複数の比較回折環の形状に対する検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算し、第1残留応力計算手段が、記憶されている残留応力と計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する。したがって、回折環撮像手段によりイメージングプレートに撮像されて、回折環形状検出手段により検出された測定対象物の回折環が不連続であっても、残留応力を精度よく求めることができる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、さらに、回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環の形状のみに基づいて測定対象物の残留応力を計算する第2残留応力計算手段(CT,S606,S608)と、回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環の不連続の度合いを評価する不連続評価手段(CT,S502〜S514)と、不連続評価手段によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きいと評価されたとき、第1残留応力計算手段による測定対象物の残留応力の計算を選択し、かつ不連続評価手段によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きくないと評価されたとき、第2残留応力計算手段による測定対象物の残留応力の計算を選択する残留応力計算選択手段(CT,S,S604)とを備えたことにある。
【0010】
これによれば、回折環撮像手段によって測定対象物に撮像されて、回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環は、不連続の度合いが大きくなければ、検出された測定対象物の回折環の形状のみに基づいて測定対象物の残留応力が計算されるので、測定対象物の残留応力をより精度よく求めることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記検出された測定対象物の回折環の形状及び比較回折環の形状は、X線の通過位置を中心とする円座標によって表されており、一致度合い計算手段は、同一周方向位置における検出された測定対象物の回折環の半径値と比較回折環の半径値との差に応じて一致度合いを計算することにある。この場合、一致度合いの計算においては、例えば、比較回折環に対する、検出した回折環の標準偏差、分散、平均偏差などが利用される。
【0012】
これによれば、検出した測定対象物の回折環の形状と、記憶されている比較対象物の回折環の形状の一致の度合いを精度よく求めることができ、測定対象物の残留応力を精度よく求めることができる。
【0013】
さらに、本発明の実施にあたっては、本発明は、X線回折測定装置の発明に限定されることなく、X線回折測定装置に適用される残留応力測定方法の発明としても実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置の全体概略図である。
【図2】図1のX線回折測定装置の本体部分を拡大した拡大図である。
【図3】図1のコントローラによって実行される回折環撮像プログラムを示すフローチャートである。
【図4A】図1のコントローラによって実行される回折環読取りプログラムの前半部分を示すフローチャートである。
【図4B】前記回折環読取りプログラムの後半部分を示すフローチャートである。
【図5】図1のコントローラによって実行される回折環形状検出プログラムを示すフローチャートである。
【図6】図1のコントローラによって実行される回折環消去プログラムを示すフローチャートである。
【図7】図1のコントローラによって実行される不連続度合い評価プログラムを示すフローチャートである。
【図8A】図1のコントローラによって実行される残留応力計算プログラムの前半部分を示すフローチャートである。
【図8B】前記残留応力計算プログラムの後半部分を示すフローチャートである。図3の第2回折環撮像プログラムを詳細に示すフローチャートである。
【図9】イメージングプレートの移動限界位置からの移動距離と、イメージングプレートにおけるレーザ光の照射位置の半径方向距離(半径)との関係を説明するための図である。
【図10】読取りポイントの軌跡を説明する説明図である。
【図11】信号強度のピークを説明するための受光曲線の一例を示すグラフである。
【図12】回折環が不連続である状態を視覚的に示す図である。
【図13】記憶している回折環と検出した回折環との一致の度合いを評価する処理を視覚的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置の構成について図1及び図2を用いて説明する。このX線回折測定装置は、測定対象物OBの残留応力を評価するために、X線を測定対象物OBに照射するとともに、同照射による測定対象物OBからの回折X線により形成される回折環の形状を検出する。このX線回折測定装置は、箱状に形成されたフレームFRを有し、フレームFRの底面の角部から下方へ支持脚11が延設されている。すなわち、フレームFRの底面は、X線回折測定装置の設置面FLよりも上方に位置する。フレームFRの下方には、昇降機12が設けられている。昇降機12は、測定対象物OBを固定するための昇降ステージ12aを有する。昇降ステージ12aは、上下に昇降可能となっている。フレームFRの底面であって、昇降機12の上方に位置する部分には開口部が設けられていて、昇降ステージ12aを上昇させることにより、固定した測定対象物OBをフレームFRの内部へ搬入することができる。
【0016】
フレームFR内の上部には、X線制御回路14によって制御されて、X線を出射するX線出射器13が固定されている。X線出射器13から出射されたX線の光軸と、測定対象物OBの法線とが所定の角度θ(例えば、30度)をなすように、X線出射器13の出射口の向きが設定されている。
【0017】
X線制御回路14は、後述するコントローラCTによって制御され、X線出射器13から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器13に供給する駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器13は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路14は、この冷却装置に供給する駆動信号も制御する。これにより、X線出射器13の温度が一定に保たれる。
【0018】
X線出射器13の下方には、移動ステージ15が設けられている。移動ステージ15は、ステージ送り装置16により、X線出射器13から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に垂直な方向に移動可能となっている。ステージ送り装置16は、移動ステージ15に固定された図示しないナットに螺合するスクリューロッド17と、スクリューロッド17を回転させるフィードモータ18とを備えている。スクリューロッド17は、X線出射器13から出射されたX線の光軸に垂直な方向に延設されている。そして、スクリューロッド17の一端部が、フレームFRに固定されたフィードモータ18の出力軸に連結され、他端部が、フレームFRに固定された軸受部19に回転可能に支持される。また、移動ステージ15は、それぞれフレームFRに固定された、対向する1対の板状のガイド20,20により挟まれていて、スクリューロッド17の軸線方向に沿って移動可能となっている。すなわち、フィードモータ18を正転又は逆転駆動すると、フィードモータ18の回転運動が移動ステージ15の直線運動に変換される。フィードモータ18内には、エンコーダ18aが組み込まれている。エンコーダ18aは、フィードモータ18が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路21及びフィードモータ制御回路22へ出力する。
【0019】
位置検出回路21及びフィードモータ制御回路22は、コントローラCTからの指令により作動開始する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18を駆動して移動ステージ15をフィードモータ18側へ移動させる。位置検出回路21は、エンコーダ18aから出力されるパルス信号が入力されなくなると移動ステージ15が移動限界位置に達したことを表す信号をフィードモータ制御回路22に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21から移動限界位置に達したことを表す信号を入力するとフィードモータ18への駆動信号の出力を停止する。上記の移動限界位置を移動ステージ15の原点位置とする。したがって、位置検出回路21は、移動ステージ15が図1及び図2にて左上方向に移動して移動限界位置に達したとき「0」を表す位置信号を出力し、移動ステージ15が移動限界位置から右下方向へ移動するとき、移動限界位置からの移動距離xを表す信号を位置信号として出力する。
【0020】
フィードモータ制御回路22は、コントローラCTから移動ステージ15の移動先の位置を表す設定値を入力すると、その設定値に応じてフィードモータ18を正転又は逆転駆動する。位置検出回路21は、エンコーダ18aが出力するパルス信号のパルス数をカウントする。そして、位置検出回路21は、カウントしたパルス数を用いて移動ステージ15の現在の位置(移動限界位置からの移動距離x)を計算し、コントローラCT及びフィードモータ制御回路22に出力する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21から入力した移動ステージ15の現在の位置が、コントローラCTから入力した移動先の位置と一致するまでフィードモータ18を駆動する。
【0021】
また、フィードモータ制御回路22は、移動ステージ15の移動速度を表す設定値をコントローラCTから入力する。そして、エンコーダ18aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ15の移動速度を計算し、前記計算した移動ステージ15の移動速度がコントローラCTから入力した移動速度になるようにフィードモータ18を駆動する。
【0022】
一対のガイド20,20の上端は、板状の上壁23によって連結されている。上壁23には、貫通孔23aが設けられていて、貫通孔23aには、X線出射器13の出射口の先端部が挿入されている。なお、X線出射器13の出射口の先端が移動ステージ15に当接しないように、X線出射器13及び移動ステージ15の位置が設定されている。
【0023】
また、移動ステージ15には、スピンドルモータ24が組み付けられている。スピンドルモータ24内には、エンコーダ18aと同様のエンコーダ24aが組み込まれている。すなわち、エンコーダ24aは、スピンドルモータ24が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路25及び回転角度検出回路26へ出力する。さらに、エンコーダ24aは、スピンドルモータ24が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラCT及び回転角度検出回路26へ出力する。
【0024】
スピンドルモータ制御回路25及び回転角度検出回路26は、コントローラCTからの指令により作動開始する。スピンドルモータ制御回路25は、コントローラCTから、スピンドルモータ24の回転速度を表す設定値を入力する。そして、エンコーダ24aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いてスピンドルモータ24の回転速度を計算し、計算した回転速度がコントローラCTから入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ24に供給する。回転角度検出回路26は、エンコーダ24aから出力されたパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値を用いてスピンドルモータ24の回転角度すなわちイメージングプレート28の回転角度θpを計算して、コントローラCTに出力する。そして、回転角度検出回路26は、エンコーダ24aから出力されたインデックス信号を入力すると、カウント値を「0」に設定する。すなわち、インデックス信号を入力した位置が回転角度0度の基準位置である。
【0025】
スピンドルモータ24の出力軸の先端部には、円板状のテーブル27が固定されている。テーブル27の中心軸と、スピンドルモータ24の出力軸の中心軸とは一致している。テーブル27は、下面中央部から下方へ突出した突出部27aを有していて、突出部27aの外周面には、ねじ山が形成されている。突出部27aの中心軸は、スピンドルモータ24の出力軸の中心軸と一致している。テーブル27の下面には、イメージングプレート28が取付けられている。イメージングプレート28は、表面に蛍光体が塗布された円形のプラスチックフィルムである。イメージングプレート28の中心部には、貫通孔28aが設けられていて、この貫通孔28aに突出部27aを通し、突出部27aにナット状の固定具29をねじ込むことにより、イメージングプレート28が、固定具29とテーブル27の間に挟まれて固定される。固定具29は、円筒状の部材で、内周面に、突出部27aのねじ山に対応するねじ山が形成されている。イメージングプレート28は、フィードモータ18によって駆動されて、移動ステージ15、スピンドルモータ24及びテーブル27と共に原点位置から回折環を撮像する回折環撮像位置へ移動する。また、イメージングプレート28は、スピンドルモータ24によって駆動されて回転しながら、フィードモータ18によって駆動されて、移動ステージ15、スピンドルモータ24及びテーブル27と共に撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域内、回折環を消去する回折環消去領域内を移動する。なお、この場合のイメージングプレート28の移動においては、イメージングプレート28の中心軸が、X線出射器13から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内に保たれた状態で、前記X線の光軸に垂直な方向に移動する。
【0026】
また、移動ステージ15、スピンドルモータ24の出力軸、テーブル27、イメージングプレート28及び固定具29には、X線出射器13から出射されたX線を通過させる貫通孔がそれぞれ設けられている。これらの貫通孔の中心軸と、テーブル27の回転軸は一致している。すなわち、これらの貫通孔の中心軸と、X線出射器13から出射されるX線の光軸とが一致するとき、X線が測定対象物OBに照射されるようになっている。このように、X線を測定対象物OBに照射するときのイメージングプレート28の位置が、回折環撮像位置である。
【0027】
フィードモータ18の下方には、測定対象物OBにて反射したX線を受光する複数の受光素子からなる受光センサ31(例えば、X線CCD)が組み付けられている。受光センサ31は、測定対象物OB及びイメージングプレート28からフィードモータ18側に十分離れている。これにより、イメージングプレート28が回折環撮像位置にあるとき、受光センサ31は、測定対象物OBにて反射したX線を直接受光できる。受光センサ31の受光面は、測定対象物OBの上面と平行である。受光センサ31の受光面におけるX線の受光位置は、測定対象物OBの高さに対応している。言い換えれば、イメージングプレート28と測定対象物OBとの距離に対応している。受光センサ31は、それぞれの受光素子が受光した受光信号をセンサ信号取り出し回路32へ出力する。
【0028】
センサ信号取り出し回路32は、コントローラCTからの指令により作動開始し、受光センサ31から入力した受光信号を用いて受光センサ31の受光面における受光信号のピーク位置を算出して受光位置を表す受光位置信号としてコントローラCTへ出力する。
【0029】
また、受光センサ31の下方には、レーザ検出装置PUHが組み付けられている。レーザ検出装置PUHは、回折環を撮像したイメージングプレート28にレーザ光を照射して、イメージングプレート28から入射した光の強度を検出する。レーザ検出装置PUHは、測定対象物OB及び回折環撮像位置にあるイメージングプレート28からフィードモータ18側に十分離れている。すなわち、イメージングプレート28が回折環撮像位置にあるとき、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置PUHによって遮られないようになっている。レーザ検出装置PUHは、レーザ光源33と、コリメートレンズ35、反射鏡36、偏光ビームスプリッタ37、1/4波長板38及び対物レンズ39を備えている。
【0030】
レーザ光源33は、レーザ駆動回路34によって制御されて、イメージングプレート28に照射するレーザ光を出射する。レーザ駆動回路34は、コントローラCTによって制御され、レーザ光源33から所定の強度のレーザ光が出射されるように、駆動信号を制御して供給する。レーザ駆動回路34は、後述するフォトディテクタ51から出力された受光信号を入力して、受光信号の強度が所定の強度になるようにレーザ光源33に出力する駆動信号を制御する。これにより、イメージングプレート28に照射されるレーザ光の強度が一定に維持される。
【0031】
コリメートレンズ35は、レーザ光源33から出射されたレーザ光を平行光に変換する。反射鏡36は、コリメートレンズ35にて平行光に変換されたレーザ光を、偏光ビームスプリッタ37に向けて反射する。偏光ビームスプリッタ37は、反射鏡36から入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。1/4波長板38は、偏光ビームスプリッタ37から入射したレーザ光を直線偏光から円偏光に変換する。対物レンズ39は、1/4波長板38から入射したレーザ光をイメージングプレート28の表面に集光させる。この対物レンズ39から出射されるレーザ光の光軸は、X線出射器13から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に平行な方向、すなわち移動ステージ15の移動方向に対して垂直な方向である。
【0032】
対物レンズ39には、フォーカスアクチュエータ40が組み付けられている。フォーカスアクチュエータ40は、対物レンズ39をレーザ光の光軸方向に移動させるアクチュエータである。なお、対物レンズ39は、フォーカスアクチュエータ40が通電されていないときに、その可動範囲の中心に位置する。
【0033】
対物レンズ39によって集光されたレーザ光を、イメージングプレート28の表面であって、回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じる。すなわち、回折環を撮像した後、イメージングプレート28にレーザ光を照射すると、イメージングプレート28の蛍光体が回折X線の強度に応じた光であって、レーザ光の波長よりも波長が短い光を発する。イメージングプレート28に照射されて反射したレーザ光の反射光及び蛍光体から発せられた光は、対物レンズ39及び1/4波長板38を通過して、偏光ビームスプリッタ37にて反射する。偏光ビームスプリッタ37の反射方向には、集光レンズ41、シリンドリカルレンズ42及びフォトディテクタ43が設けられている。集光レンズ41は、偏光ビームスプリッタ37から入射した光を、シリンドリカルレンズ42に集光する。シリンドリカルレンズ42は、透過した光に非点収差を生じさせる。フォトディテクタ43は、分割線で区切られた4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子によって構成されており、時計回りに配置された受光領域A,B,C,Dに入射した光の強度に比例した大きさの検出信号を受光信号(a,b,c,d)として、増幅回路44へ出力する。
【0034】
増幅回路44は、フォトディテクタ43から出力された受光信号(a,b,c,d)をそれぞれ同じ増幅率で増幅して受光信号(a’,b’,c’,d’)を生成して、フォーカスエラー信号生成回路45及びSUM信号生成回路48へ出力する。本実施形態においては、非点収差法によるフォーカスサーボ制御を用いる。フォーカスエラー信号生成回路45は、増幅された受光信号(a’,b’,c’,d’)を用いて、演算によりフォーカスエラー信号を生成する。すなわち、フォーカスエラー信号生成回路45は、(a’+c’)−(b’+d’)の演算を行い、この演算結果をフォーカスエラー信号としてフォーカスサーボ回路46へ出力する。フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)は、レーザ光の焦点位置のイメージングプレート28の表面からのずれ量を表している。
【0035】
フォーカスサーボ回路46は、コントローラCTにより制御され、フォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路47に出力する。ドライブ回路47は、このフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ40を駆動して、対物レンズ39をレーザ光の光軸方向に変位させる。この場合、フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)となるようにフォーカスサーボ信号を生成することにより、イメージングプレート28の表面にレーザ光を集光させ続けることができる。
【0036】
SUM信号生成回路48は、受光信号(a’,b’,c’,d’)を合算してSUM信号(a’+b’+c’+d’)を生成し、A/D変換回路49に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート28にて反射したレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート28にて反射したレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、イメージングプレート28に入射した回折X線の強度に相当する。A/D変換回路49は、コントローラCTによって制御され、SUM信号生成回路48からSUM信号を入力し、入力したSUM信号の瞬時値をディジタルデータに変換してコントローラCTに出力する。
【0037】
また、レーザ検出装置PUHは、集光レンズ50及びフォトディテクタ51を備えている。集光レンズ50は、レーザ光源33から出射されたレーザ光の一部であって、偏光ビームスプリッタ37を透過せずに反射したレーザ光をフォトディテクタ51の受光面に集光する。フォトディテクタ51は、受光面に集光された光の強度に応じた受光信号を出力する受光素子である。従って、フォトディテクタ51は、レーザ光源33が出射したレーザ光の強度に対応した受光信号をレーザ駆動回路34へ出力する。
【0038】
また、対物レンズ39に隣接して、LED52が設けられている。LED52は、LED駆動回路53によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート28に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路53は、コントローラCTによって制御され、LED52に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
【0039】
コントローラCTは、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された図4乃至図8Bの各種プログラムを実行する。コントローラCTには、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果などを視覚的に知らせるための表示装置54と、作業者が各種パラメータ、作業指示などを入力するための入力装置55とが接続されている。コントローラCTは、A/D変換回路49から出力されたSUM信号のディジタルデータを処理することによりイメージングプレート28の蛍光体が発した光の強度を検出する。
【0040】
以下に、上記のように構成したX線回折測定装置を用いて、測定対象物OBの残留応力を求める具体的方法について説明する。まず、作業者は、測定対象物OBを昇降機12の昇降ステージ12aに取り付け、昇降ステージ12aを上昇させて、測定対象物OBをフレームFR内にセットする。なお、この場合、測定対象物OBは、例えば鉄材である。作業者が、入力装置55を用いて、測定対象物OBの材質(例えば、鉄)を入力し、残留応力の測定開始を指示する。これにより、コントローラCTは、図3に示す回折環撮像プログラムの実行を開始する。
【0041】
この回折環撮像プログラムは図3のステップS100にて開始され、コントローラCTは、ステップS102にて、スピンドルモータ制御回路25を制御して、イメージングプレート28を低速回転させ、エンコーダ24aからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート28の回転を停止させる。これにより、測定開始時において、イメージングプレート28の回転角度が0度に設定される。次に、コントローラCTは、ステップS104にて位置検出回路21の作動を開始させ、ステップS106にて、フィードモータ制御回路22を制御し、フィードモータ18の作動を開始させるとともに、位置検出回路21との協働によりフィードモータ18の作動を停止させて、イメージングプレート28を回折環撮像位置まで移動させる。
【0042】
次に、コントローラCTは、ステップS108にて、センサ信号取り出し回路32の作動を開始させる。次に、コントローラCTは、ステップS110にて、X線制御回路14を制御してX線出射器13にX線の出射を開始させる。これにより、X線が測定対象物OBに照射され、測定対象物OBの表面にて反射したX線が受光センサ31に受光される。次に、コントローラCTは、ステップS112にて、センサ信号取り出し回路32から受光位置信号を入力し、前記入力した受光位置信号を用いてイメージングプレート28と測定対象物OBとの距離Lを算出する。なお、この算出した距離Lは、後述する処理によって利用されるので、メモリに記憶しておく。そして、コントローラCTは、ステップS114にて、前記算出した距離Lが所定の基準範囲内にあるか否か判定する。距離Lが基準範囲内になければ、「No」と判定して、ステップS116にて、X線制御回路14を制御して測定対象物OBへのX線の照射を停止させる。
【0043】
そして、コントローラCTは、ステップS118にて、表示装置54に、測定対象物OBの高さ方向の位置が不適切である旨を表示するとともに、昇降機12の昇降ステージ12aの高さ調整に関する情報を表示する。すなわち、昇降ステージ12aを、どの程度上昇又は下降させるべきかを表示する。そして、後述のステップS128にて、回折環撮像プログラムの実行を終了する。この場合、作業者は、昇降ステージ12aの高さを調整した後、入力装置55を用いて、再度、測定開始を指示する。上記のステップS110〜S116までの所要時間は僅かなので、イメージングプレート28には回折環が撮像されない。また、受光センサ31が測定対象物OBにて反射したX線を受光しない場合は、ステップS118にて、測定対象物OBの高さ方向の位置が不適切である旨の表示がなされるのみであって、昇降ステージ12aの高さ調整に関する情報は表示されない。この場合、測定対象物OBの位置は、極めて不適切な位置にあると考えられ、昇降ステージ12aの高さ調整の方向を目視で判断できる。前記測定開始の指示により、前述したステップS102〜S114の処理が再度実行され、距離Lが所定の基準範囲内になるまで前記処理が繰り返される。ただし、ステップS102〜S108の処理は、実質的には不要である。
【0044】
一方、ステップS114の判定処理時に、距離Lが所定の基準範囲内である場合には、コントローラCTは、ステップS114にて「Yes」と判定して、ステップS120に処理を進め、センサ信号取り出し回路32の作動を停止させる。そして、コントローラCTは、ステップS122にて時間計測を開始し、ステップS124にて所定の設定時間を経過したか否かを判定する。時間計測開始から所定の設定時間を経過していなければ、ステップS124にて「No」と判定して判定処理を実行し続ける。すなわち、コントローラCTは、時間計測開始から所定の設定時間を経過するまで待機する。そして、時間計測開始から所定の設定時間を経過すると、コントローラCTは、ステップS124にて「Yes」と判定して、ステップS126にてX線制御回路14を制御してX線出射器13によるX線の照射を停止させ、ステップS128にて回折環撮像プログラムの実行を終了する。
【0045】
これにより、この状態では、測定対象物OBによる回折環がイメージングプレート28に撮像されている。
【0046】
前記回折環撮像プログラムの実行後、コントローラCTは、図4A及び図4Bの回折環読取りプログラムの実行を開始する。この場合、コントローラCTは、この回折環読取りプログラムの実行に並行して、図5の回折環形状検出プログラムの実行をも開始する。回折環読取りプログラムの実行は図4AのステップS200にて開始され、コントローラCTは、ステップS202にて回折環基準半径R0を計算する。回折環基準半径R0は、測定対象物OBの残留応力が「0」である場合の回折環の半径である。回折環基準半径R0は、測定対象物OBの材質及びイメージングプレート28から測定対象物OBまでの距離Lに依存する。すなわち、残留応力が「0」であるので、回折角θxは材質(本実施形態では、鉄である)によって決定される。距離Lと回折環基準半径R0とは比例関係にあるので、予め材質ごとに、回折角θxを記憶しておけば、回折環基準半径R0を、R0=L・tan(θx)の演算によって算出できる。この計算された回折環基準半径R0はメモリに記憶される。
【0047】
前記ステップS202の処理後、コントローラCTは、ステップS204にて、フィードモータ制御回路22に、イメージングプレート28を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させることを指示する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21と協働してフィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を読取り開始位置へ移動させる。このイメージングプレート28が読取り開始位置にある状態では、対物レンズ39の中心すなわちレーザ光の照射位置が前記計算した回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ小さい位置に位置する。なお、所定距離αは、撮像した回折環の半径が回折環基準半径R0からずれる可能性のある距離よりもやや大きい距離である。これにより、後述の処理により、回折環の測定が十分に内側から開始されて、回折環が確実に検出される。
【0048】
ここで、移動ステージ15の移動限界位置から図1及び図2の右下方向への移動距離xを表す位置検出回路21からの位置信号と、イメージングプレート28の中心からレーザ光の照射位置(対物レンズ39の中心位置)までの距離(すなわちレーザ光の照射位置の半径r)との関係について説明しておく。移動ステージ15すなわちイメージングプレート28が移動限界位置にある状態においては、図9(A)に示すように、イメージングプレート28の中心から対物レンズ39の中心位置までの距離をRxとする。なお、この場合、対物レンズ39は前記イメージングプレート28の中心位置から図1及び図2にて左上方向にあり、また前記距離Rxは予め測定されてコントローラCTに記憶されている。一方、図9(B)に示すように、イメージングプレート28を移動限界位置から図1及び図2の右下方向へ距離xだけ移動させると、レーザ光の照射位置の半径rは、r=x+Rxで表される。この場合、距離xは、前述のように位置検出回路21から出力される位置信号によって示されるので、今後の処理において、レーザ光の照射位置の半径rは、位置検出回路21から出力される位置信号によって表された距離xに予め記憶されている値Rxを加算することになる。
【0049】
そして、前記のように、イメージングプレート28を読取り開始位置へ移動させる場合には、図9(C)に示すように、レーザ光の照射位置は、回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ内側に位置するので、この場合の半径rは距離R0−αに等しくなるはずである。したがって、イメージングプレート28を駆動限界位置から図1及び図2の右下方向へ移動させる距離xは、x=R0−α−Rxに等しくなる。すなわち、前記ステップS204における読取り開始位置への移動処理においては、位置検出回路21から出力される位置信号により表される距離x(=R0−α−Rx)だけ、テーブル27を図1及び図2の右下方向へ移動させればよい。
【0050】
次に、コントローラCTは、ステップS206にて、スピンドルモータ制御回路25に対して、所定の一定回転速度でイメージングプレート28を回転させることを指示する。スピンドルモータ制御回路25は、エンコーダ24aからのパルス信号を用いて回転速度を計算しながら、前記指示された一定回転速度でイメージングプレート28が回転するようにスピンドルモータ24の回転を制御する。したがって、イメージングプレート28は前記所定の一定回転速度で回転し始める。次に、コントローラCTは、ステップS208にて、レーザ駆動回路34を制御してレーザ光源33によるレーザ光のイメージングプレート28に対する照射を開始させる。
【0051】
次に、コントローラCTは、ステップS210にて、フォーカスサーボ回路46に対して、フォーカスサーボ制御の開始を指示する。これにより、フォーカスサーボ回路46は、増幅回路44及びフォーカスエラー信号生成回路45からのフォーカスエラー信号を用いて、ドライブ回路47を介してフォーカスアクチュエータ40を駆動制御することにより、フォーカスサーボ制御を開始する。その結果、対物レンズ39が、レーザ光の焦点がイメージングプレート28の表面に合うように光軸方向に駆動制御される。ステップS210の処理後、コントローラCTは、ステップS212にて、回転角度検出回路26及びA/D変換回路49の作動を開始させる。これにより、回転角度検出回路26は、スピンドルモータ24(イメージングプレート28)の基準位置からの回転角度θpをコントローラCTに出力し始め、A/D変換回路49は、SUM信号の瞬時値のディジタルデータをコントローラCTに出力し始める。
【0052】
次に、コントローラCTは、ステップS214にて、フィードモータ制御回路22に対して、イメージングプレート28の移動開始及び移動速度を指示する。フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を読取り開始位置から軸受部19側(図1及び図2の右下方向)へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置が、イメージングプレート28において、回折環基準半径R0から所定距離αだけ内側から外側方向に一定速度で相対移動し始める。なお、この状態では、レーザ光の照射位置は、前記ステップS206,S214の処理により、相対的にイメージングプレート28上を螺旋状に回転している。
【0053】
前記ステップS214の処理後、コントローラCTは、ステップS216にて、周方向番号n及び半径方向番号mの値をそれぞれ「1」に初期設定する。周方向番号nは、イメージングプレート28における1回転をN個(所定の大きな値)で等分した周方向位置をそれぞれ表す「1」から最大値Nまで変化する整数である。半径方向番号mは、イメージングプレート28の内側から外側に向かう径方向位置をそれぞれ表し、イメージングプレート28が1回転するごとに「1」から「1」ずつ増加する値である。そして、これらの周方向番号n及び半径方向番号mにより、図10に示すように、イメージングプレート28上を螺旋状に移動する読取りポイントP(n,m)が示される。
【0054】
次に、コントローラCTは、ステップS218にて、回転角度検出回路26がエンコーダ24aからのインデックス信号を入力したか否かを判定する。回転角度検出回路26がインデックス信号を入力していなければ、コントローラCTはステップS218にて「No」と判定して、ステップS218の判定処理を繰り返し実行し続ける。回転角度検出回路26がインデックス信号を入力すると、コントローラCTは、ステップS218にて「Yes」と判定して、ステップS220にて、回転角度検出回路26からイメージングプレート28の現在の回転角度θpを取り込む。そして、コントローラCTは、ステップS222にて、現在の回転角度θpと変数nによって指定される回転角度(n−1)・θo(この場合、n=1であるので「0」)との差の絶対値|θp−(n−1)・θo|が所定の許容値未満であるか否か判定する。この場合、θoは、360度を周方向番号nの最大値Nで除した予め記憶されている所定値である。前記絶対値|θp−(n−1)・θo|が所定の許容値未満でなければ、コントローラCTは、ステップS222にて「No」と判定してステップS220,S222の処理を繰り返し実行する。すなわち、コントローラCTは、現在の回転角度θpが所定の回転角度(n−1)・θoにほぼ一致するまで待機する。そして、現在の回転角度θpが所定の回転角度(n−1)・θoにほぼ一致すると、コントローラCTは、ステップS222にて「Yes」すなわち前記絶対値|θp−(n−1)・θo|が所定の許容値未満であると判定して、ステップS224に進む。
【0055】
ステップS224においては、コントローラCTは、A/D変換回路49からSUM信号を取り込んで、読取りポイントP(n,m)の信号強度S(n,m)としてメモリにそれぞれ記憶する。また、このステップS224においては、位置検出回路21からの位置信号を取り込んで、位置信号によって表される距離xに所定距離Rxを加算して半径rを計算して、読取りポイントP(n,m)の半径r(n,m)として前記信号強度S(n,m)に対応させてメモリに記憶する。これにより、イメージングプレート28の読取りポイントP(n,m)からの輝尽発光の強度すなわち読取りポイントP(n,m)に対するX線回折光の強度を表す信号強度S(n,m)が、読取りポイントP(n,m)の半径を表す半径r(n,m)と共にメモリに記憶される。
【0056】
次に、コントローラCTは、ステップS226にて、前記記憶した信号強度S(n,m)が、所定の基準値以上であるか否か判定する。信号強度S(n,m)が所定の基準値以上であれば、コントローラCTは、ステップS226にて「Yes」と判定して、ステップS230に進む。一方、信号強度S(n,m)が、所定の基準値より小さければ、コントローラCTは、ステップS226にて「No」と判定して、ステップS228にて、前記記憶した信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を消去した後、ステップS230に進む。この信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)の消去は、所定の基準値より小さな信号強度S(n,m)は回折X線強度の回折環半径方向のピーク位置の検出に不要であるからである。
【0057】
ステップS230においては、コントローラCTは、周方向番号nに「1」を加算する。そして、コントローラCTは、ステップS232にて、変数nが1周当たりの読取りポイントP(n,m)の数を表す値Nより大きいか、すなわちイメージングプレート28が1回転したか否かを判定する。この場合、n=2であり、周方向番号nは値N以下であるので、コントローラCTは、ステップS232にて「No」と判定して、ステップS220に戻る。
【0058】
そして、前述したステップS220〜S232の処理を、周方向番号nが値Nよりも大きくなるまで繰り返す。このステップS220〜S232の繰り返し処理により、回転角度0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θoにそれぞれ対応した所定角度θoごとの信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)がメモリに記憶される。ただし、この場合も、ステップS226,S228の処理により、信号強度S(n,m)が所定の基準値より小さければ、メモリに記憶された信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)は消去される。
【0059】
このようなステップS220〜S232の循環処理により、周方向番号nが値Nよりも大きくなると、コントローラCTは、ステップS232にて「Yes」と判定して、ステップS234にて、後述の回折環形状検出プログラムによる終了指令の有無を判定する。未だ終了指令がないときは、コントローラCTは、ステップS234にて「No」と判定し、ステップS236にて半径方向番号mに「1」を加算し(この場合、m=2になる)、ステップS228にて周方向番号nを「1」に戻す。そして、コントローラCTは、前述したステップS218〜S228の処理を実行して、次の半径方向位置の回転角度0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θoに対応した読取りポイントP(n,m)に関する信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)をメモリに記憶する。そして、終了指令の指示があるまで、このようなステップS218〜S228の処理により、「1」ずつ順次大きくなる半径方向番号m(=1,2,3・・)と、各半径方向番号mごとに回転角度0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θoにそれぞれ対応した周方向番号n(=1〜N)とにより指定される読取りポイントP(n,m)に対応する信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)がメモリに順次記憶される。なお、この場合も、信号強度S(n,m)が所定の基準値より小さければ、メモリに記憶された信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)は消去される。
【0060】
そして、前記回折環形状検出プログラムによる終了指令の指示があると、コントローラCTは、ステップS234にて「Yes」と判定し、図4BのステップS240に進む。ここで、この回折環読取りプログラムと並行して実行されている回折環形状検出プログラムについて説明する。
【0061】
回折環形状検出プログラムの実行は図5のステップS300にて開始され、コントローラCTは、ステップS302にて周方向番号nを「1」に初期設定する。なお、この周方向番号nは、回折環読取りプログラムの場合と同様に所定角度θoごとの周方向位置を示すものであるが、回折環読取りプログラムで用いられる周方向番号nとは独立したものである。
【0062】
前記ステップS302の処理後、コントローラCTは、ステップS304にて、詳しくは後述するピーク半径rp(n)が存在するか、すなわちピーク半径rp(n)が検出済みであるかを判定する。この場合、ピーク半径rp(n)においては、検出されたピーク半径の回転角度が周方向番号nによって表される。ピーク半径rp(n)が検出済みであれば、コントローラCTは、ステップS304にて「Yes」と判定して、ステップS306にて周方向番号nに「1」を加算し、ステップS308にて周方向番号nが所定数より大きいか否かを判定する。この場合の所定数も、1周の測定位置数を表す値Nである。周方向番号nが所定数以下であれば、コントローラCTは、ステップS308にて「No」と判定してステップS304に戻る。周方向番号nが所定数より大きければ、コントローラCTはステップS308にて「Yes」と判定して、ステップS310に進む。
【0063】
ステップS310においては、コントローラCTは、対物レンズ39が対向する位置すなわちレーザ光の照射位置が読取り終了位置を越えているか否かを判定する。この読取り終了位置は、図9(D)に示すように、回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ外側に位置する。したがって、このステップS310の判定処理においては、位置検出回路21から出力される位置信号により表される距離xが距離R0+α−Rxを越えているかを判定する。この判定処理は、回折環が不連続である場合には、後述するピーク半径rp(n)の数が所定数Nに達しないからであり、その場合には、レーザ光の照射位置が読取り終了位置を超えた時点で、この回折環形状検出プログラムの実行を終了するためである。レーザ光の照射位置が読取り終了位置を超えていなければ、コントローラCTは、ステップS310にて「No」と判定して、周方向番号nを「1」に戻すためにステップS302に戻る。
【0064】
一方、ピーク半径rp(n)が未検出であれば、コントローラCTは、ステップS304にて「No」と判定して、ステップS312にて前記図4AのステップS224の処理によって記憶した信号強度S(n,m)の数が所定数以上であるか否か判定する。信号強度S(n,m)の数が所定数以上でなければ、コントローラCTは、ステップS312にて「No」と判定して、前述したステップS306〜S310の処理を実行してステップS304又はステップS302に戻る。このステップS312の判定処理は、信号強度S(n,m)の数が少ない場合には後述するピーク検出処理を実行しても無駄であるからである。なお、前記図4AのステップS228の処理によって消去された信号強度S(n,m)は、記憶した信号強度S(n,m)としてカウントされない。
【0065】
一方、前記記憶した信号強度S(n,m)の数が所定数以上であるときは、コントローラCTは、ステップS312にて「Yes」と判定して、ステップS314にて、ピークの有無を判定する。すなわち、周方向番号nによって指定される周方向位置の全ての半径r(n,m)及び信号強度S(n,m)を用いて、SUM信号の値のピークの有無を判定する。具体的には、図11に示すように、周方向番号nによって指定される周方向位置の全ての半径r(n,m)を横軸に取り、その半径r(n,m)に対応させて信号強度S(n,m)を縦軸に取った受光曲線において、信号強度S(n,m)にピークが存在するか、すなわち信号強度S(n,m)が増加した後に減少したかを判定するとよい。そして、ピークが存在しなければ、コントローラCTは、ステップS314にて「No」と判定して、前述したステップS306〜S310の処理を実行してステップS304又はステップS302に戻る。
【0066】
このように、ステップS302〜S314を繰り返し実行している間に、並行して実行されている回折環読取りプログラムの処理により、さらに半径r(n,m)及び信号強度S(n,m)が取り込まれてメモリに次々に記憶されていく。このため、ステップS314にてピークが検出されるようになり、検出されると、コントローラCTは、ステップS314にて「Yes」と判定して、ステップS316にて、ピークの半径r(n,m)をピーク半径rp(n)としてメモリに記憶する。次に、コントローラCTは、ステップS318にて、取得したピーク半径rp(n)の数が所定数以上であるか否かを判定する。この場合の所定数も、1周の測定位置数を表す値Nである。そして、取得したピーク半径rp(n)の数が所定数より小さければ、コントローラCTは、ステップS318にて「No」と判定し、前述したステップS306,S308の処理を実行してステップS304又はステップS302に戻る。
【0067】
このようにステップS302〜S318の処理を繰り返すことで、取得したピーク半径rp(n)の数が増えていき所定数に達すると、すなわち周方向の全ての読取りポイントP(n,m)にてピーク半径rp(n)が取得されると、コントローラCTは、ステップS318にて「Yes」と判定し、ステップS320にて回折環形状検出の終了を示す終了指令を出力する。そして、コントローラCTは、ステップS322にて回折環形状検出プログラムの実行を終了する。
【0068】
また、前述のように、回折環が不連続であるために、ピーク半径rp(n)の数が所定数Nに達しない場合でも、レーザ光の照射位置が読取り終了位置を超えると、コントローラCTは、ステップS310にて「Yes」と判定して、ステップS320にて回折環形状検出の終了を示す終了指令を出力して、ステップS322にて回折環形状検出プログラムの実行を終了する。
【0069】
ここで、図4A及び図4Bの回折環読取りプログラムの説明にふたたび戻る。前述のように終了指令が出力されると、コントローラCTは、図4AのステップS234にて「Yes」と判定し、図4BのステップS240にて、フォーカスサーボ回路46に対してフォーカスサーボ制御の停止を指示することにより、フォーカスサーボ制御を停止させる。次に、コントローラCTは、ステップS242にて、レーザ駆動回路34を制御して、レーザ光源33によるレーザ光の照射を停止させる。さらに、コントローラCTは、ステップS244にて、A/D変換回路49及び回転角度検出回路26の作動を停止させ、ステップS246にて、フィードモータ制御回路22を制御してフィードモータ18の作動を停止させることにより、イメージングプレート28の移動を停止させて、ステップS248にて回折環形状検出プログラムの実行を終了する。なお、この状態では、位置検出回路21の作動及びイメージングプレート28の回転は、以前と同様のまま継続されている。
【0070】
次に、コントローラCTは、図6の回折環消去プログラムを実行する。回折環消去プログラムの実行は、ステップS400にて開始され、コントローラCTは、ステップS402にて、フィードモータ制御回路22に、イメージングプレート28を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させることを指示する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21と協働してフィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート28が消去開始位置にある状態では、LED52から出力される可視光の中心が前記計算した回折環基準半径R0よりも所定距離γだけ小さい位置に位置する。具体的には、この位置は、イメージングプレート28が駆動限界位置にある状態において、イメージングプレート28の中心からLEDの可視光の中心までの距離をRy’とすると、位置検出回路21から出力される位置がR0−γ−Ry’になる位置である。なお、所定距離γは、前記所定距離αよりも若干大きく、前記撮像された回折環の半径よりは余裕をもってずれた位置である。これにより、後述の処理により、前記撮像された回折環が確実に消去される。
【0071】
次に、コントローラCTは、ステップS404にて、LED駆動回路53を制御してLED52による可視光のイメージングプレート28に対する照射を開始させる。次に、コントローラCTは、ステップS406にて、フィードモータ制御回路22に対して、イメージングプレート28の移動開始及び移動速度を指示する。フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を消去開始位置から軸受部19側(図1及び図2の右下方向)へ一定速度で移動させる。これにより、LED52による可視光が、イメージングプレート28において、回転しながら、回折環基準半径R0から所定距離γ(γ>α)だけ内側から外側方向に一定速度で移動し始める。
【0072】
前記ステップS406の処理後、コントローラCTは、ステップS408にて位置検出回路21からイメージングプレート28の位置を表す位置信号を入力し、ステップS410にて、イメージングプレート28の現在の位置が消去終了位置を超えているか否かを判定する。この終了位置は、回折環基準半径R0よりも所定距離γだけ大きな位置である。具体的には、位置検出回路21から出力される位置がR0+γ−Ry’になる位置である。そして、イメージングプレート28の現在の位置が消去終了位置を超えるまで、コントローラCTは、ステップS410にて「No」と判定して、ステップS408,S410の処理を繰り返し実行する。これにより、回転するイメージングプレート28に対し、前記回折環基準半径R0から所定距離γだけ内側から所定距離γだけ外側まで、LED52による可視光が照射されるので、前記回折X線によって形成された回折環は内側から徐々に消去されていく。
【0073】
そして、イメージングプレート28の現在の位置が消去終了位置を超えると、コントローラCTは、ステップS410にて「Yes」と判定して、ステップS412にてフィードモータ制御回路22にイメージングプレート28の移動停止を指示し、ステップS414にてLED駆動回路53にLED52による可視光の照射停止を指示する。これにより、フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18の作動を停止させることによりイメージングプレート28の移動を停止させる。LED駆動回路53は、LED52による可視光の照射を停止させる。この状態では、前記撮像された回折環は完全に消去されている。
【0074】
前記ステップS414の処理後、コントローラCTは、ステップS416にて位置検出回路21の作動を停止させ、ステップS418にてスピンドルモータ制御回路25に対してイメージングプレート28の回転停止を指示する。この指示に応答して、スピンドルモータ制御回路25は、スピンドルモータ24の作動を停止させて、イメージングプレート28の回転を停止させる。前記イメージングプレート28の回転停止後、コントローラCTは、ステップS420にて回折環消去プログラムの実行を終了する。
【0075】
次に、コントローラCTは、図7の不連続度合い評価プログラムを実行する。この不連続度合い評価プログラムは、図5の回折環形状検出プログラムによって検出されたピーク半径rp(n)の数が所定数Nにならないとき、ピーク半径rp(n)の不連続の度合いを評価して不連続度合いNCRを計算するものである。回折環の形状は、多数の角度θ(=0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θo)にそれぞれ対応した半径rによって規定される円座標の座標群として検出されるため、視覚的に示すと、図12(A)ように座標点の集合で表される。回折環が不連続ということは、座標点が欠けているということである。なお、所定数Nは、例えば500程度の値である。
【0076】
この不連続度合い評価プログラムの実行は、図7のステップS500にて開始され、コントローラCTは、ステップS502にて、検出されたピーク半径rp(n)の数が所定数Nであるか否かを判定する。検出されたピーク半径rp(n)の数が所定数Nであれば、コントローラCTは、ステップS502にて「Yes」と判定して、ステップS504にて不連続度合いNCRを「0」に設定して、ステップS516にてこの不連続度合い評価プログラムの実行を終了する。
【0077】
一方、検出されたピーク半径rp(n)の数が所定数Nでなければ、コントローラCTは、ステップS502にて「No」と判定し、ステップS506にて、ピーク半径rp(n)が所定のB個(例えば、25〜50個)以上連続して存在しない全ての部分をそれぞれ不連続部分とし、不連続部分ごとに、rp(n)が連続して存在しない数を不連続数として設定する。そして、ステップS508にて、不連続部分が存在したか否かを判定する。前記ステップS506の処理によって不連続部分が検出されなければ、コントローラCTは、ステップS508にて「No」すなわち不連続部分は存在しないと判定して、前述したステップS504の処理によって不連続度合いNCRを「0」に設定して、ステップS516にてこの不連続度合い評価プログラムの実行を終了する。
【0078】
一方、ステップS508にて「Yes」すなわち不連続部分が存在すると判定されると、コントローラCTは、ステップS510にて、前記検出した不連続部分ごとに、不連続部分の両側で、ピーク半径rp(n)が連続して存在する数が所定のC個(例えば、2〜24個)以上になる位置まで、ピーク半径rp(n)が存在しない数を前記不連続数に順次加算する。そして、ステップS512にて、前記加算した不連続数が所定のA個(例えば、30〜180個)以上になる不連続部分が存在するかを判定する。前記加算した不連続数がA個以上になる不連続部分が存在しなければ、コントローラCTは、ステップS512にて「No」と判定して、前述したステップS504の処理によって不連続度合いNCRを「0」に設定して、ステップS516にてこの不連続度合い評価プログラムの実行を終了する。一方、前記加算した不連続数がA個以上になる不連続部分が存在すれば、コントローラCTは、ステップS512にて「Yes」と判定して、ステップS514にて、不連続数がA個以上である不連続部分の不連続数の最大値を抽出し、抽出した最大値を所定数Nで除算して不連続度合いNCRとして設定する。そして、ステップS516にて、この不連続度合い評価プログラムの実行を終了する。
【0079】
この不連続度合い評価プログラムの実行により、図12(B)(a)に示すように、連続して欠けている座標点の数が少ない場合には、補間により座標点を補充できるとして不連続とみなさず、不連続度合いNCRは「0」に設定される。また、図12(B)(b)に示すように、座標点がA個以上連続して欠けている場合には、不連続とみなされて、不連続度合いNCRが「0」以外の値に設定される。さらに、図12(B)(c)に示すように、座標点がB個以上連続して欠けており、かつ隣の欠けている箇所までにある座標点がC個未満であるとき、隣の欠けている座標点の数を加算して、加算した数がA個以上である場合に不連続とみなされて、不連続度合いNCRが「0」以外の値に設定される。
【0080】
次に、コントローラCTは、前記検出されたピーク半径rp(n)を用いて測定対象物OBの残留応力を計算するための図8A及び図8Bの残留応力計算プログラムを実行する。この残留応力計算プログラムの実行は図8AのステップS600にて開始され、コントローラは、ステップS602にて変数m,s,aをそれぞれ「1」に設定する。変数mは、後述するX方向残留応力F(m)及び半径値rm(m,n)を指定するための変数である。変数s,aは、検出した測定対象物OBの回折環の形状に最も近い後述する記憶回折環の形状を検出するために用いられる変数である。
【0081】
前記ステップS602の処理後、コントローラCTは、ステップS604にて、不連続度合いNCRが「0」より大きいか否かを判定する。この場合、前記図7の不連続度合い評価プログラムの実行により、回折環の形状を示す座標が不連続とみなされずに不連続度合いNCRが「0」に設定されていれば、コントローラCTは、ステップS604にて「No」と判定し、ステップS606にて、欠けている座標点(ピーク半径rp(n))を補間により計算する。この場合、欠けていない両側の座標点(ピーク半径rp(n))を用いて、線形補間又は非線形補間により、周方向位置を表す変数nを用いて欠けた座標点(ピーク半径rp(n))を計算するとよい。そして、ステップS608にて、ピーク半径rp(n)(n=1〜N)により表された回折環の形状に基づいて、cosα法により残留応力を計算する。この場合、残留応力として、少なくとも詳しくは後述するX方向残留応力を計算すればよいが、X方向残留応力に加えて、詳しくは後述するY方向残留応力及びせん断残留応力を計算してもよい。このステップS608の処理後、ステップS654にて、この残留応力計算プログラムの実行が終了される。
【0082】
一方、前記図7の不連続度合い評価プログラムの実行により、回折環の形状を示す座標が不連続とみなされて、不連続度合いNCRが正の値に設定されていれば、コントローラCTは、ステップS604にて「Yes」と判定して、ステップS610にて不連続度合いNCRが所定値NCR0よりも大きいか否かを判定する。この場合、所定値NCR0は、例えば、1周分のピーク半径rp(n)(1〜N)の数(例えば、500個)の半分である250個程度以上のピーク半径rp(n)が欠けていることに相当する「0.5」程度の大きな値である。そして、不連続度合いNCRが所定値NCR0よりも大きければ、コントローラCTは、ステップS610にて「Yes」と判定して、ステップS612にて表示装置54に「残留応力の計算不可」を表示する。そして、ステップS654にて、この残留応力計算プログラムの実行が終了される。これは、回折環の形状を表す検出されたピーク半径rp(n)の数があまりにも少ないために、後述する回折環の形状一致を用いた残留応力の計算も不可能であるためである。
【0083】
また、不連続度合いNCRが正の値であり、かつ所定値NCR0以下であれば、コントローラCTは、ステップS604にて「Yes」と判定するとともに、ステップS610にて「No」と判定して、ステップS614〜S652の処理により、本発明に係る回折環の形状一致を用いた残留応力の計算処理を実行する。
【0084】
ここで、前記回折環の形状一致を用いた残留応力を求める方法について理論的に説明しておく。残留応力は本来テンソル量であり、回折環の形状は、主に、X方向残留応力、Y方向残留応力及びせん断残留応力により定まる。X方向残留応力とは、測定対象物OBを配置する向きによって定まるもので、測定対象物OBの平面と、測定対象物OBの法線方向と照射X線が成す平面との交線方向(以下、X方向という)の残留応力である。Y方向残留応力とは、測定対象物OBの平面内において、前記X方向に直交する方向の残留応力である。また、X方向残留応力及びY方向残留応力が、圧縮応力又は引張り応力のように力が加わる方向に発生する応力であれば、せん断残留応力とは、前記X方向残留応力及びY方向残留応力である圧縮応力又は引張り応力により結晶状態が変化したときに付随して発生する応力である。しかし、回折環の形状に大きな影響を及ぼすのはX方向残留応力であり、X方向残留応力を定めれば、回折環の形状をほぼ特定できる。そして、X方向残留応力のみを考慮するのであれば、残留応力をスカラー量として扱うこともできる。
【0085】
前記のように、X方向残留応力は、測定対象物OBのX方向に作用している圧縮残留応力又は引張り残留応力であり、圧縮残留応力又は引張り残留応力が存在すると、X方向残留応力のみによって形成されるX線の回折環は真円から形状を変化させるとともに、変化した形状の重心位置は前記真円の中心位置から移動する。そして、圧縮残留応力及び引張り残留応力がそれぞれ大きくなるに従って、真円から楕円への形状変形度合いが大きく、すなわち短軸方向の長さに対する長軸方向の長さが長くなるとともに、重心位置の移動量(すなわち真円である中心からの楕円の重心の移動量)も大きくなる。この場合の楕円の長軸の方向はX方向である。また、この場合、重心の移動は、圧縮残留応力による場合と引張残留応力による場合とで共に同じX方向であるが、圧縮残留応力による場合と引張残留応力による場合とではX方向において互いに反対方向となる。したがって、引張り残留応力及び圧縮残留応力を正負で表すとともに、それらの大きさを絶対値で表すことにより、X方向残留応力をその方向を含めて負の小さな値から正の大きな値に変化するスカラー量で表すことができる。そして、この負の小さな値から正の大きな値に変化するX方向残留応力(圧縮残留応力及び引張り残留応力)に対応させて、前記X方向残留応力に特定される位置も含めた回折環の形状を表すデータを予め用意しておくことにする。この回折環の形状は、X方向残留応力に応じてcosα法の基本式に基づいて計算される。
【0086】
なお、X方向残留応力(圧縮残留応力及び引張り残留応力)であっても、その大きさを極めて大きくしていくと、楕円が歪み始めるとともに、重心位置の移動も前記真円の中心に向かって移動し始める。このような極めて大きなX方向残留応力の測定は、本件の範囲外であり、前記X方向残留応力に特定される回折環の形状を表すデータも用意されていない。
【0087】
一方、前述した図4A及び図4Bの回折環読取りプログラム及び図5の回折環形状検出プログラムの実行によって検出された測定対象物OBによる検出回折環の形状(所定角度θoごとのピーク半径rp(n)で与えられる形状)も、主に、X方向残留応力、Y方向残留応力及びせん断残留応力により定まる。しかし、前述のように、回折環の形状に大きな影響を及ぼすのはX方向残留応力であるので、検出回折環の形状と前記予め準備した種々のX方向残留応力ごとの回折環の形状が完全に一致することはないが、X方向残留応力が等しいときには、前記両回折環の形状の一致度合いが最も高くなる。この点に関しては、発明者らは種々の実験により確認を得ている。したがって、前記予め準備した種々のX方向残留応力ごとの回折環の形状のうちで、測定対象物OBによる検出回折環の形状に最も近い回折環の形状を探出し、探出した回折環の形状に対応したX方向残留応力を測定対象物OBのX方向残留応力として決定すれば、検出した測定対象物OBによる検出回折環の不連続の度合いが大きくても、測定対象物OBのX方向残留応力を測定することができる。
【0088】
このため、本実施形態においては、コントローラCTの大容量記憶装置には、下記表1に示すように、変数m(=1〜M)により指定されるX方向残留応力F(m)と、X方向残留応力F(m)にそれぞれ対応して所定角度θoごとの半径値rm(m,n)(m=1〜M,n=1〜N)すなわち回折環の形状データが記憶されている。これらのX方向残留応力F(m)及び半径値rm(m,n)(m=1〜M,n=1〜N)は、測定対象物OBと同一材料で形成されている対象物に関するものである。
【表1】
【0089】
前記表1における所定値Mは、例えば200〜400程度の値である。所定値Nは、前述した所定角度θoごとの周方向位置の最大値に等しい値であり、例えば500程度の値である。そして、X方向残留応力F(m)は、測定対象物OBにおいて引張り残留応力及び圧縮残留応力を正負で表すとともに、それらの大きさを絶対値で表したX方向残留応力であって、圧縮残留応力及び引張り残留応力を含めて負の小さな値から正の大きな値に順次変化する値である。また、X方向残留応力F(m)は、小さい順すなわち絶対値の大きな負の値から絶対値の大きな正の値に対して、変数mが1からMに順に割当てられている。さらに、前記所定角度θoごとの半径値rm(m,1),rm(m,2)・・rm(m,N)は前記検出したピーク半径rp(1),rp(2)・・rp(N)にそれぞれ対応しており、すなわち半径値rm(m,1),rm(m,2)・・rm(m,N)の角度は、前記検出したピーク半径rp(1),rp(2)・・rp(N)の各回転角度(n−1)・θo(n=1〜N)にそれぞれ等しい。なお、この半径値rm(m,1),rm(m,2)・・rm(m,N)は、イメージングプレート28から測定対象物OBのX線照射点までの距離Loを定めることにより、X方向残留応力F(m)ごとにcosα法の基本式に基づいて予め計算された値である。
【0090】
ふたたび、図8Aの説明に戻ると、前述のようなステップS610の「No」との判定処理後のステップS614においては、コントローラCTは、変数mによって指定される記憶回折環の形状データである全ての半径値rm(m,n)(n=1〜N)を記憶装置から読出す。そして、コントローラCTは、ステップS616にて、変数mによって指定される記憶回折環の形状すなわち半径値rm(m,n)(n=1〜N)を平均値としたときの、検出回折環の形状すなわちピーク半径rp(n)の(n=1〜N)の標準偏差Dev(m)を計算する。具体的には、下記数1に示すように、1〜Nにわたって変化する変数nでrp(n)が存在しているnのそれぞれに対して、ピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)との差の2乗値を全て加算し、加算結果をピーク半径rp(n)の数Ne(不連続であるためNよりも小さい)で除算して、除算結果の平方根を標準偏差Dev(m)として計算する。
【数1】
【0091】
図13(A)は、この標準偏差Dev(m)の計算に用いられる記憶回折環及び検出回折環の一例を示している。なお、図13(A)においては、実線により記憶回折環が示され、点線により検出回折環が示されている。この場合、両回折環は、共に、原点(イメージングプレート28の回転軸すなわちX線照射位置)を中心とする真円から大きく形状と位置が変化しているわけではないので、周方向位置(すなわち変数n)が同じであるピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)との差を前記標準偏差Dev(m)の計算に利用することができる。そして、図13(B)は、ピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)との差の絶対値|rp(n)−rm(m,n)|が変数nに応じて変化する一例を示している。この標準偏差Dev(m)は、検出回折環と記憶回折環との形状の一致度の判定に利用されるもので、標準偏差Dev(m)が小さくなるに従って両回折環の形状の一致度が高いことを示す。
【0092】
なお、イメージングプレート28から測定対象物OBにおけるX線照射点までの距離L(図3のステップS112で検出)が、コントローラCTに記憶されている残留応力に対応させた回折環の半径値rm(m,n)の計算に用いた距離Loと一致していれば、ピーク半径rp(n)又は半径値rm(m,n)を前述のようにそのまま用いることができる。しかし、両距離L,Loに差がある場合には、ピーク半径rp(n)を下記数2に従ってピーク半径補正値rp’(n)に補正し、前記ピーク半径rp(n)に代えてピーク半径補正値rp’(n)を用いて標準偏差Dev(m)を求める。また、ピーク半径rp(n)に代えて、記憶されている半径値rm(m,n)を下記数3に従って半径補正値rm’(m,n)に補正し、前記半径値rm(m,n)に代えて半径補正値rm’(m,n)を用いて標準偏差Dev(m)を求めてもよい。
【数2】
【数3】
【0093】
前記ステップS616の処理後、コントローラCTは、ステップS618にて、変数mが「1」であるかを判定する。この場合、初期の状態で、変数mが「1」であれば、コントローラCTは、ステップS618にて「Yes」と判定し、ステップS622にて値m+Aが所定値M(変数mの最大値)よりも大きいか否かを判定する。値Aは、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度の判定処理において、演算処理を速めるために、初期において、検出回折環の形状を、全ての記憶回折環ではなく、所定数おきの記憶回折環の形状と比較するためのもので、例えば20〜40程度の値である。そして、初期においては、値m+Aは所定値Mよりも小さいので、コントローラCTは、ステップS622にて「No」と判定し、ステップS624にて変数mに値Aを加算して、前述したステップS614,S616の処理の実行により、値Aの加算後の変数mに関する標準偏差Dev(m)を計算する。
【0094】
そして、ステップS618の前述した判定処理を実行するが、この場合、変数mは「1」でないので、コントローラCTは、ステップS618にて「No」と判定して、ステップS620にて前回計算した標準偏差Dev(m−A)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−A)−Dev(m))が所定の負の値−D1以下であるか否かを判定する。この値−D1は、標準偏差Dev(m)の最小値を検出する為の所定値であり、絶対値の小さな負の値である。この場合、図14(C)の曲線の左側部分で示すように、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が徐々に高くなり、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−A)に比べて小さくなっている状態では、前記減算値(Dev(m−A)−Dev(m))は正の値であるので、コントローラCTは、ステップS620にて「No」と判定して、ステップS622,S624,S614〜S620の循環処理を繰返す。
【0095】
このステップS622,S624,S614〜S620の循環処理中、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−A)に比べて大きくなると、コントローラCTは、ステップS620にて「Yes」と判定して、ステップS626以降に進む。この状態は、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が最も高くなって標準偏差Dev(m)が最小値を通り過ぎた状態(図13(C)の曲線が左から右に上昇し始めた状態)である。なお、前記ステップS622,S624,S614〜S620の循環処理中、値m+Aが所定値Mよりも大きくなった場合には、すなわち標準偏差Dev(m)の最小値が存在しなかった場合には、コントローラCTは、ステップS622にて「Yes」と判定し、前述したステップS612の処理により、表示装置54に「残留応力の計算不可」を表示して、ステップS654にてこの残留応力計算プログラムの実行を終了する。この場合は、測定対象物OBのX方向残留応力が記憶されているX方向残留応力F(m)の範囲外であるか、装置に何らかの異常が発生している場合である。
【0096】
前述のように、標準偏差Dev(m)が最小値を通り過ぎて、ステップS620における「Yes」と判定後のステップS626においては、コントローラCTは、前記ステップS616の処理によって今まで計算したて全ての標準偏差Dev(m)(m=1,1+A,1+2・A・・)うちで最小である標準偏差Dev(m)を指定する変数mを、変数mとして新たに設定する。次に、コントローラCTは、ステップS628にて、前記新たに設定された変数mが「1」であるか否かを判定する。この場合、新たな変数mが「1」であれば、コントローラCTは、ステップS628にて「Yes」と判定し、前述したステップS612の処理により、表示装置54に「残留応力の計算不可」を表示して、ステップS654にてこの残留応力計算プログラムの実行を終了する。この場合も、測定対象物OBのX方向残留応力が記憶されているX方向残留応力F(m)の範囲外であるか、装置に何らかの異常が発生している場合である。
【0097】
一方、標準偏差Dev(m)の最小値が適正に検出されていて、変数mが「1」でなければ、コントローラCTは、ステップS628にて「No」と判定し、図8BのステップS630に進む。なお、この状態では、検出回折環の形状がいずれの記憶回折環の形状に一致するかがおおよそ分かっている。ステップS630においては、コントローラCTは、変数mに値s・aを加算する。この場合、変数s,aは前述したステップS602の処理よってそれぞれ「1」に設定された状態であるので、変数mには「1」が加算されたことになる。そして、前述したステップS614,S616と同様なステップS632,S634の処理により、変数mによって指定される記憶回折環の形状すなわち半径値rm(m,n)(n=1〜N)を平均値としたときの、検出回折環の形状すなわちピーク半径rp(n)の(n=1〜N)の標準偏差Dev(m)を計算する。
【0098】
次に、コントローラCTは、ステップS636にて、標準偏差Dev(m−s)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」より大きいか否かを判定する。この場合、変数sは「1」であるので、標準偏差Dev(m−s)は前回計算した標準偏差Dev(m−1)であり、ステップS636の判定処理により、現在の変数mによって指定される標準偏差Dev(m)が前回の標準偏差Dev(m−1)よりも減少しているか否かが判定される。いま、図13(C)の曲線の左側部分のように、標準偏差Dev(m)が減少傾向にあれば、コントローラCTは、ステップS636にて「Yes」と判定し、ステップS638に変数mに値sを加算する。この場合も、値sは「1」に設定されたままであるので、変数mは「1」だけ増加する。
【0099】
次に、コントローラCTは、前述したステップS614,S616と同様なステップS640,S642の処理により、変数mによって指定される記憶回折環の形状すなわち半径値rm(m,n)(n=1〜N)を平均値としたときの、検出回折環の形状すなわちピーク半径rp(n)の(n=1〜N)の標準偏差Dev(m)を計算する。そして、コントローラCTは、ステップS644にて、標準偏差Dev(m−s)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が所定の負の値−D2以下であるか否かを判定する。この場合にも、変数sは「1」であるので、ステップS644の判定処理も前述したステップS620の判定処理と同じである。また、この値−D2は、前述した値−D1と同種の最小値を検出する為の所定値であるが、後述する標準偏差Dev(m)とX方向残留応力F(m)との関係曲線を求めるために、最小値を通過した後に数個の標準偏差Dev(m)を必要とするので、前述した値−D1よりは少し小さな負の値(絶対値の大きな負の値)である。そして、この場合も、図14(C)の曲線の左側部分で示すように、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が徐々に高くなり、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−1)に比べて小さくなっている状態では、前記減算値(Dev(m−1)−Dev(m))は正の値であるので、コントローラCTは、ステップS644にて「No」と判定して、ステップS638〜S644の循環処理を繰返す。この場合、前述した場合と異なるのは、変数mが「1」ずつ増加される点である。
【0100】
このステップS638〜S644の循環処理中、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−s)(すなわちDev(m−1))に比べて所定値ΔD2以上大きくなると、コントローラCTは、ステップS644にて「Yes」と判定して、ステップS652に進む。この状態は、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が最も高くなって標準偏差Dev(m)が最小値を通り過ぎた状態(図13(C)の曲線が左側から右側方向に上昇し始めた状態)である。
【0101】
一方、前記ステップS636の判定処理時に、標準偏差Dev(m−s)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」より小さければ、コントローラCTは、ステップS636にて「No」と判定して、ステップS646に進む。この場合も、変数sは未だ「1」であるので、標準偏差Dev(m−s)は前回計算した標準偏差Dev(m−1)であり、この状態は、現在の変数mによって指定される標準偏差Dev(m)が前回の標準偏差Dev(m−1)よりも増加していることを表している。すなわち、この状態では、図13(C)の曲線の右側部分のように、標準偏差Dev(m)が増加傾向にある。
【0102】
ステップS646においては、変数aが「2」であるかが判定される。この場合、変数aは未だ前述したステップS602の処理によって「1」に設定されたままである。したがって、コントローラCTは、ステップS646にて「No」と判定し、ステップS648にて変数sを「−1」に設定し、ステップS650にて変数aを「2」に設定する。そして、コントローラCTは、前述したステップS630〜S636の処理を実行する。しかし、この場合、変数sは「−1」に変更され、かつ変数aは「2」に変更されているので、ステップS630の処理によって変数mは前回よりも「2」だけ小さくなり、ステップS632,S634の処理によって前回よりも「2」だけ小さな変数mによって指定される半径値rm(m,n)に関する標準偏差Dev(m)が計算されることになる。
【0103】
そして、ステップS636にて、標準偏差Dev(m−s)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」より大きいか否かがふたたび判定される。しかし、この場合には、前記ステップS636の判定結果とは無関係にステップS638以降に進められる。すなわち、前記減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」より大きければ、コントローラCTは、ステップS636にて「Yes」と判定してステップS638に進む。一方、前記減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」以下であれば、ステップS636にて「No」と判定されてステップS646に進められるが、変数aは「2」に設定されているので、ステップS646にて「Yes」と判定されてステップS638に進められる。
【0104】
このようにして、この場合も、前述したステップS638〜S644の処理が実行される。ただし、この場合には、変数sは「−1」に設定されているので、ステップS638〜S642の処理により、変数mを「1」ずつ減少させながら、すなわち図13(C)において右側から左側に向けて、標準偏差Dev(m)が計算される。そして、ステップS644の処理により、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−s)(すなわちDev(m+1))に比べて所定値ΔD2以上大きくなると、コントローラCTは、ステップS644にて「Yes」と判定して、ステップS652に進む。この状態は、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が最も高くなって標準偏差Dev(m)が最小値を通り過ぎた状態(図13(C)の曲線が右側方向から左側方向に上昇し始めた状態)である。
【0105】
ステップS652においては、コントローラCTは、ステップS634,S642の処理によって計算された標準偏差Dev(m)と、前記標準偏差Dev(m)の計算に用いられた変数mによって指定されるX方向残留応力F(m)とを用いて、X方向残留応力F(m)と標準偏差Dev(m)の連続した関係曲線を求める(図13(C)参照)。そして、この連続した関係曲線から、標準偏差Devが最小となるX方向残留応力Fを計算して、計算したX方向残留応力Fを測定対象物OBのX方向残留応力とする。前記ステップS652の処理後、コントローラCTは、ステップS654にて残留応力計算プログラムの実行を終了する。
【0106】
上記動作説明からも理解できるように、上記実施形態においては、コントローラCT内に、X方向残留応力F(m)(m=1〜M)の変化に応じて変化する複数の比較対象となる回折環の半径値rm(m,n)(m=1〜M,n=1〜N)がX方向残留応力F(m)(m=1〜M)に対応してそれぞれ記憶されている。そして、図8A及び図8BのステップS602,S614〜S650の処理により、半径値rm(m,n)(m=1〜M,n=1〜N)に対する測定対象物OBの検出された回折環のピーク半径rp(n)(n=1〜N)の一致度合いを表す標準偏差Dev(m)がそれぞれ計算される。この標準偏差Dev(m)の計算においては、標準偏差Dev(m)は、検出回折環と記憶回折環の一致度合いが高いことを表す最小値に向かって計算されるとともに、最小値を通過して前記一致度合いが多少低くなる状態まで計算される。そして、図8BのステップS652の処理により、前記記憶されているX方向残留応力F(m)(m=1〜M)と計算された標準偏差Dev(m)との関係に基づいて、標準偏差Devが最小となる、すなわち前記検出された測定対象物OBの回折環の形状に最も近い形状の記憶回折環に対応したX方向残留応力F(m)が、測定対象物OBの残留応力として計算される。したがって、ステップS102〜S126の処理によりイメージングプレート28に撮像され、かつステップS202〜S246,S302〜S320の処理により検出された測定対象物OBの回折環すなわちピーク半径rp(n)が不連続であっても、測定対象物OBの残留応力を精度よく求めることができる。
【0107】
また、上記実施形態においては、ステップS502〜S514の処理により、形状が検出された測定対象物OBの回折環のピーク半径rp(n)の不連続の度合いが評価される。そして、測定対象物OBの回折環すなわちピーク半径rp(n)の不連続の度合いが大きいと評価されると、ステップS604の判定処理にしたがって、前記記憶されたX方向残留応力F(m)及び回折環の半径値rm(m,n)を用いて測定対象物OBのX方向残留応力が計算される。また、測定対象物OBの回折環すなわちピーク半径rp(n)の不連続の度合いが大きくないと評価されると、ステップS604の判定処理にしたがって、ステップS606,S608の処理により、検出された測定対象物OBの回折環の形状のみに基づいて測定対象物OBのX方向残留応力が計算される。そして、この場合には、ステップS606の補間処理により、不足しているピーク半径rp(n)が補充される。その結果、測定対象物OBのX方向残留応力をより精度よく求めることができる。
【0108】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0109】
上記実施形態においては、回折環の形状は、主に、X方向残留応力、Y方向残留応力及びせん断残留応力によって決まるために、撮像した回折環の形状と記憶してある回折環の形状(X方向残留応力のみによる回折環の形状)とが完全に一致することはないが、X方向残留応力が等しいときには、標準偏差Dev(m)が最も小さくなることを利用して、撮像した回折環と記憶してある回折環との形状の一致度に基づいてX方向残留応力を求めるようにした。しかし、これに代えて、撮像した回折環の形状を、Y方向残留応力とせん断残留応力が「0」である場合の形状、すなわち楕円形状になるように補正し、補正した回折環と記憶してある回折環との形状の一致度に基づいてX方向残留応力を求めるようにしてもよい。これによれば、X方向残留応力が等しいときには、補正した回折環の形状は記憶してある回折環の形状とほぼ一致し、標準偏差Dev(m)を「0」に極めて近づけることができる。
【0110】
また、上記実施形態では撮像した回折環の形状と記憶してある回折環の形状との一致度を、標準偏差Dev(m)を用いて判定するようにした。しかし、この標準偏差Dev(m)に代えて、下記数2に示すように、1〜Nにわたって変化する変数nでrp(n)が存在しているnのそれぞれに対して、ピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)の差の2乗値を全て加算し、加算結果をピーク半径rp(n)の数Neで除算した分散を用いるようにしてもよい。
【数4】
【0111】
また、下記数3に示すように、1〜Nにわたって変化する変数nでrp(n)が存在しているnのそれぞれに対して、ピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)の差の絶対値を全て加算し、加算結果をピーク半径rp(n)の数Neで除算した平均偏差を用いるようにしてもよい。
【数5】
【0112】
また、上記実施形態では、回折環の不連続の度合いを評価し、この度合いにより残留応力の計算方法に通常の計算方法(cosα方法)を採用するか、記憶したX方向残留応力ごとの半径値rm(m,n)を用いた方法を採用するかを選択するようにした。しかし、測定対象物OBの回折環が不連続になることが分かっている場合には、回折環の不連続の度合いの評価を行うことなく、前記記憶したX方向残留応力ごとの半径値rm(m,n)を用いた方法でX方向残留応力を求めるようにしてもよい。
【0113】
また、上記実施形態においては、イメージングプレート28の回転角度が所定の回転角度になるごとに、信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を記憶するようにした。しかし、これに代えて、所定の時間間隔で、イメージングプレート28の回転角度θ(n,m)、信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を取得して記憶してもよい。
【0114】
また、上記実施形態においては、受光センサ31によって受光した反射光の受光位置を用いて、測定対象物OBの高さ方向の位置が、所定の範囲内にあるか否かを判定し、所定の範囲内になければ、作業者が昇降ステージ12aの高さを調整するようにした。しかし、受光センサ31の受光位置が表す測定対象物OBの高さ方向の位置が所定の範囲内にあるように、昇降ステージ12aの高さが自動的に調整されるように構成してもよい。これによれば、作業者がセットした測定対象物OBの高さ方向の位置が、受光センサ31が反射光を受光できる範囲にありさえすれば、作業者が昇降ステージ12aの高さを調整する必要が無いので、作業効率を向上させることができる。なお、例えば上記従来のX線検出装置のように、イメージングプレート28と測定対象物OBとの距離が常に一定になるように構成されていれば、受光センサ31は不要である。
【0115】
また、上記実施形態においては、受光センサ31の受光位置を用いて、撮像した回折環の半径が回折環基準半径R0からずれる可能性のある領域を想定して、読取り開始位置を決定するようにした。しかし、回折環基準半径R0を用いることなく、常に一定の領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート28の全領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。また、LED53による可視光の照射についても同様に、常に一定の領域にLED53から発せられた可視光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート28の全領域にLED53からの可視光を照射するようにしてもよい。ただし、この場合、上記実施形態よりも測定時間が長くなる。
【0116】
また、上記実施形態においては、レーザ検出装置PUHは、フォーカスサーボ制御されるようにしたが、イメージングプレート28を回転させた際のイメージングプレート28の受光面と対物レンズ39との距離の変動が微小であれば、フォーカスサーボ制御は不要である。
【0117】
また、上記実施形態においては、イメージングプレート28に照射されるレーザ光は、一定強度のレーザ光としたが、これに代えて、予め設定されたハイレベルの強度と、予め設定されたローレベルの強度が繰り返されるパルス状のレーザ光とし、ハイレベルの強度になるタイミングでSUM信号の瞬時値を取得するようにしてもよい。この場合、イメージングプレート28のSUM信号の瞬時値を取得するポイントに瞬間的にハイレベルの強度のレーザ光を照射する。すなわち、SUM信号の瞬時値を取得するポイントにレーザ光が向かう状態では、レーザ光の強度はローレベルであり、輝尽発光により発生する光はほとんど無い。そして、SUM信号の瞬時値を取得するポイントに近づいたとき、レーザ光の強度がハイレベルになって輝尽発光による光が発生する。常にハイレベルの強度のレーザ光を照射した場合は、輝尽発光による光が生じ続けることで光の強度が減少するが、上記のように構成すれば、輝尽発光によって大きな強度の光が発生したタイミングで、SUM信号の瞬時値を取得することができる。
【符号の説明】
【0118】
13…X線出射器、15…移動ステージ、18…フィードモータ、21…位置検出回路、24…スピンドルモータ、26…回転角度検出回路、27…テーブル、28…イメージングプレート、31…受光センサ、33…レーザ光源、34…レーザ駆動回路、39…対物レンズ、43…フォトディテクタ、44…増幅回路、48…SUM信号生成回路、49…A/D変換回路、52…LED、54…表示装置、55…入力装置、CT…コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線によりイメージングプレートの表面に形成された回折環に基づいて測定対象物の残留応力を測定するX線回折測定装置及び同装置に適用される残留応力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物の残留応力をX線回折により測定することはよく行われている。X線回折測定装置において、装置が小型化できX線の照射時間を短くすることが可能な装置として、下記特許文献1に示されている装置がある。この装置は、X線を所定の角度で測定対象物に照射し、測定対象物で回折したX線(以下、回折X線という)を、感光性を有するイメージングプレートで受光し、イメージングプレートに形成された環状のX線回折像(以下、回折環という)の形状を測定する。そして、測定した回折環の形状をcosα法により分析して、測定対象物の残留応力を計算するようにしている。
【0003】
この場合、He−Neレーザ光などの励起光でイメージングプレート上を走査し、回折環から輝尽発光により発生する光の強度を光電子管によって増幅して検出し、回折環の画像を得るようにしている。なお、下記特許文献1には、イメージングプレートの代わりにX線CCDで回折X線を受光し、X線CCDの各画素が出力する信号から回折環の形状を得る方法も示されている。しかし、この方法に用いるX線CCDは高額であるので、装置のコストを抑えるためと、イメージングプレートに回折環を形成する方法の方が、レーザ光強度を大きくして、反射光強度に相当する信号強度を大きくすることができ、回折X線が弱くても回折環の画像を精度よく得ることができるために、イメージングプレートに回折環を形成する方法が主に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−241308号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、イメージングプレートに回折環を形成する方法でも、発明者が多くの実験により確認した結果、測定対象物の試料が微量であったりすると、測定対象物が薄い等の理由により回折環が不連続になることが分かった。回折環が不連続である場合、不連続の度合いが小さければ、不連続の箇所を補間することで連続した回折環を作成し、この作成した回折環から残留応力を求めることは可能であるが、不連続の度合いが大きいと、不連続の箇所を補間することで連続した回折環を作成して残留応力を求めても、残留応力を精度よく求めることができない。
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、その目的は、形成された回折環が不連続であっても、残留応力を精度よく求めることができるX線回折測定装置及び同装置に適用される残留応力測定方法を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、後述する実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、この実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、対象とする測定対象物(OB)に向けてX線を出射するX線出射器(13)と、中央にX線を通過させる貫通孔が形成されたテーブル(27)と、テーブルに取付けられて、中央部にてX線を通過させるとともに、測定対象物にて回折したX線の回折光を受光する受光面を有し、回折光の像である回折環を記録するイメージングプレート(28)と、レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、レーザ光をイメージングプレートの受光面に照射するとともに、レーザ光の照射によってイメージングプレートから出射された光を受光して受光強度に応じた受光信号を出力するレーザ検出装置(PUH)と、テーブルを、貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段(24,25)と、テーブルを、イメージングプレートの受光面に平行な方向に、レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段(15,17,18,22)と、移動手段を制御してテーブルを移動し、X線出射器から対象とする測定対象物に向けてX線を照射して、測定対象物で回折したX線によってイメージングプレートに測定対象物による回折環を撮像する回折環撮像手段(CT,S102〜S126)と、回転手段及び移動手段を制御して測定対象物の回折環が記録されたイメージングプレートを回転及び移動させて、レーザ検出装置から出射されるレーザ光のイメージングプレートにおける照射位置をイメージングプレートの中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させながら、レーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力して、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを、レーザ光のイメージングプレートにおける照射位置と関連付けて順次読取り、前記読取った受光強度データに基づいてイメージングプレートに形成された測定対象物の回折環の形状を検出する回折環形状検出手段(CT,S202〜S246,S302〜S320)と、測定対象物と同一材料の比較対象物に対してX線の照射によってイメージングプレートに形成される比較回折環を想定し、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群を残留応力に対応させてそれぞれ記憶した回折環形状データ記憶手段(CT)と、回折環形状データ記憶手段に記憶された回折環形状データ群によって表された複数の比較回折環の形状に対する前記検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算する一致度合い計算手段(CT,S602,S614〜S650)と、回折環形状データ記憶手段に記憶されている残留応力と、一致度合い計算手段によって計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する第1残留応力計算手段(CT,S652)とを備えたことにある。
【0008】
上記のように構成した本発明においては、回折環形状データ記憶手段に、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群が残留応力に対応してそれぞれ記憶されている。そして、一致度合い計算手段が、回折環形状データ群によって表された複数の比較回折環の形状に対する検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算し、第1残留応力計算手段が、記憶されている残留応力と計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する。したがって、回折環撮像手段によりイメージングプレートに撮像されて、回折環形状検出手段により検出された測定対象物の回折環が不連続であっても、残留応力を精度よく求めることができる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、さらに、回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環の形状のみに基づいて測定対象物の残留応力を計算する第2残留応力計算手段(CT,S606,S608)と、回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環の不連続の度合いを評価する不連続評価手段(CT,S502〜S514)と、不連続評価手段によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きいと評価されたとき、第1残留応力計算手段による測定対象物の残留応力の計算を選択し、かつ不連続評価手段によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きくないと評価されたとき、第2残留応力計算手段による測定対象物の残留応力の計算を選択する残留応力計算選択手段(CT,S,S604)とを備えたことにある。
【0010】
これによれば、回折環撮像手段によって測定対象物に撮像されて、回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環は、不連続の度合いが大きくなければ、検出された測定対象物の回折環の形状のみに基づいて測定対象物の残留応力が計算されるので、測定対象物の残留応力をより精度よく求めることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記検出された測定対象物の回折環の形状及び比較回折環の形状は、X線の通過位置を中心とする円座標によって表されており、一致度合い計算手段は、同一周方向位置における検出された測定対象物の回折環の半径値と比較回折環の半径値との差に応じて一致度合いを計算することにある。この場合、一致度合いの計算においては、例えば、比較回折環に対する、検出した回折環の標準偏差、分散、平均偏差などが利用される。
【0012】
これによれば、検出した測定対象物の回折環の形状と、記憶されている比較対象物の回折環の形状の一致の度合いを精度よく求めることができ、測定対象物の残留応力を精度よく求めることができる。
【0013】
さらに、本発明の実施にあたっては、本発明は、X線回折測定装置の発明に限定されることなく、X線回折測定装置に適用される残留応力測定方法の発明としても実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置の全体概略図である。
【図2】図1のX線回折測定装置の本体部分を拡大した拡大図である。
【図3】図1のコントローラによって実行される回折環撮像プログラムを示すフローチャートである。
【図4A】図1のコントローラによって実行される回折環読取りプログラムの前半部分を示すフローチャートである。
【図4B】前記回折環読取りプログラムの後半部分を示すフローチャートである。
【図5】図1のコントローラによって実行される回折環形状検出プログラムを示すフローチャートである。
【図6】図1のコントローラによって実行される回折環消去プログラムを示すフローチャートである。
【図7】図1のコントローラによって実行される不連続度合い評価プログラムを示すフローチャートである。
【図8A】図1のコントローラによって実行される残留応力計算プログラムの前半部分を示すフローチャートである。
【図8B】前記残留応力計算プログラムの後半部分を示すフローチャートである。図3の第2回折環撮像プログラムを詳細に示すフローチャートである。
【図9】イメージングプレートの移動限界位置からの移動距離と、イメージングプレートにおけるレーザ光の照射位置の半径方向距離(半径)との関係を説明するための図である。
【図10】読取りポイントの軌跡を説明する説明図である。
【図11】信号強度のピークを説明するための受光曲線の一例を示すグラフである。
【図12】回折環が不連続である状態を視覚的に示す図である。
【図13】記憶している回折環と検出した回折環との一致の度合いを評価する処理を視覚的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置の構成について図1及び図2を用いて説明する。このX線回折測定装置は、測定対象物OBの残留応力を評価するために、X線を測定対象物OBに照射するとともに、同照射による測定対象物OBからの回折X線により形成される回折環の形状を検出する。このX線回折測定装置は、箱状に形成されたフレームFRを有し、フレームFRの底面の角部から下方へ支持脚11が延設されている。すなわち、フレームFRの底面は、X線回折測定装置の設置面FLよりも上方に位置する。フレームFRの下方には、昇降機12が設けられている。昇降機12は、測定対象物OBを固定するための昇降ステージ12aを有する。昇降ステージ12aは、上下に昇降可能となっている。フレームFRの底面であって、昇降機12の上方に位置する部分には開口部が設けられていて、昇降ステージ12aを上昇させることにより、固定した測定対象物OBをフレームFRの内部へ搬入することができる。
【0016】
フレームFR内の上部には、X線制御回路14によって制御されて、X線を出射するX線出射器13が固定されている。X線出射器13から出射されたX線の光軸と、測定対象物OBの法線とが所定の角度θ(例えば、30度)をなすように、X線出射器13の出射口の向きが設定されている。
【0017】
X線制御回路14は、後述するコントローラCTによって制御され、X線出射器13から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器13に供給する駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器13は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路14は、この冷却装置に供給する駆動信号も制御する。これにより、X線出射器13の温度が一定に保たれる。
【0018】
X線出射器13の下方には、移動ステージ15が設けられている。移動ステージ15は、ステージ送り装置16により、X線出射器13から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に垂直な方向に移動可能となっている。ステージ送り装置16は、移動ステージ15に固定された図示しないナットに螺合するスクリューロッド17と、スクリューロッド17を回転させるフィードモータ18とを備えている。スクリューロッド17は、X線出射器13から出射されたX線の光軸に垂直な方向に延設されている。そして、スクリューロッド17の一端部が、フレームFRに固定されたフィードモータ18の出力軸に連結され、他端部が、フレームFRに固定された軸受部19に回転可能に支持される。また、移動ステージ15は、それぞれフレームFRに固定された、対向する1対の板状のガイド20,20により挟まれていて、スクリューロッド17の軸線方向に沿って移動可能となっている。すなわち、フィードモータ18を正転又は逆転駆動すると、フィードモータ18の回転運動が移動ステージ15の直線運動に変換される。フィードモータ18内には、エンコーダ18aが組み込まれている。エンコーダ18aは、フィードモータ18が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路21及びフィードモータ制御回路22へ出力する。
【0019】
位置検出回路21及びフィードモータ制御回路22は、コントローラCTからの指令により作動開始する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18を駆動して移動ステージ15をフィードモータ18側へ移動させる。位置検出回路21は、エンコーダ18aから出力されるパルス信号が入力されなくなると移動ステージ15が移動限界位置に達したことを表す信号をフィードモータ制御回路22に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21から移動限界位置に達したことを表す信号を入力するとフィードモータ18への駆動信号の出力を停止する。上記の移動限界位置を移動ステージ15の原点位置とする。したがって、位置検出回路21は、移動ステージ15が図1及び図2にて左上方向に移動して移動限界位置に達したとき「0」を表す位置信号を出力し、移動ステージ15が移動限界位置から右下方向へ移動するとき、移動限界位置からの移動距離xを表す信号を位置信号として出力する。
【0020】
フィードモータ制御回路22は、コントローラCTから移動ステージ15の移動先の位置を表す設定値を入力すると、その設定値に応じてフィードモータ18を正転又は逆転駆動する。位置検出回路21は、エンコーダ18aが出力するパルス信号のパルス数をカウントする。そして、位置検出回路21は、カウントしたパルス数を用いて移動ステージ15の現在の位置(移動限界位置からの移動距離x)を計算し、コントローラCT及びフィードモータ制御回路22に出力する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21から入力した移動ステージ15の現在の位置が、コントローラCTから入力した移動先の位置と一致するまでフィードモータ18を駆動する。
【0021】
また、フィードモータ制御回路22は、移動ステージ15の移動速度を表す設定値をコントローラCTから入力する。そして、エンコーダ18aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ15の移動速度を計算し、前記計算した移動ステージ15の移動速度がコントローラCTから入力した移動速度になるようにフィードモータ18を駆動する。
【0022】
一対のガイド20,20の上端は、板状の上壁23によって連結されている。上壁23には、貫通孔23aが設けられていて、貫通孔23aには、X線出射器13の出射口の先端部が挿入されている。なお、X線出射器13の出射口の先端が移動ステージ15に当接しないように、X線出射器13及び移動ステージ15の位置が設定されている。
【0023】
また、移動ステージ15には、スピンドルモータ24が組み付けられている。スピンドルモータ24内には、エンコーダ18aと同様のエンコーダ24aが組み込まれている。すなわち、エンコーダ24aは、スピンドルモータ24が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路25及び回転角度検出回路26へ出力する。さらに、エンコーダ24aは、スピンドルモータ24が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラCT及び回転角度検出回路26へ出力する。
【0024】
スピンドルモータ制御回路25及び回転角度検出回路26は、コントローラCTからの指令により作動開始する。スピンドルモータ制御回路25は、コントローラCTから、スピンドルモータ24の回転速度を表す設定値を入力する。そして、エンコーダ24aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いてスピンドルモータ24の回転速度を計算し、計算した回転速度がコントローラCTから入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ24に供給する。回転角度検出回路26は、エンコーダ24aから出力されたパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値を用いてスピンドルモータ24の回転角度すなわちイメージングプレート28の回転角度θpを計算して、コントローラCTに出力する。そして、回転角度検出回路26は、エンコーダ24aから出力されたインデックス信号を入力すると、カウント値を「0」に設定する。すなわち、インデックス信号を入力した位置が回転角度0度の基準位置である。
【0025】
スピンドルモータ24の出力軸の先端部には、円板状のテーブル27が固定されている。テーブル27の中心軸と、スピンドルモータ24の出力軸の中心軸とは一致している。テーブル27は、下面中央部から下方へ突出した突出部27aを有していて、突出部27aの外周面には、ねじ山が形成されている。突出部27aの中心軸は、スピンドルモータ24の出力軸の中心軸と一致している。テーブル27の下面には、イメージングプレート28が取付けられている。イメージングプレート28は、表面に蛍光体が塗布された円形のプラスチックフィルムである。イメージングプレート28の中心部には、貫通孔28aが設けられていて、この貫通孔28aに突出部27aを通し、突出部27aにナット状の固定具29をねじ込むことにより、イメージングプレート28が、固定具29とテーブル27の間に挟まれて固定される。固定具29は、円筒状の部材で、内周面に、突出部27aのねじ山に対応するねじ山が形成されている。イメージングプレート28は、フィードモータ18によって駆動されて、移動ステージ15、スピンドルモータ24及びテーブル27と共に原点位置から回折環を撮像する回折環撮像位置へ移動する。また、イメージングプレート28は、スピンドルモータ24によって駆動されて回転しながら、フィードモータ18によって駆動されて、移動ステージ15、スピンドルモータ24及びテーブル27と共に撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域内、回折環を消去する回折環消去領域内を移動する。なお、この場合のイメージングプレート28の移動においては、イメージングプレート28の中心軸が、X線出射器13から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内に保たれた状態で、前記X線の光軸に垂直な方向に移動する。
【0026】
また、移動ステージ15、スピンドルモータ24の出力軸、テーブル27、イメージングプレート28及び固定具29には、X線出射器13から出射されたX線を通過させる貫通孔がそれぞれ設けられている。これらの貫通孔の中心軸と、テーブル27の回転軸は一致している。すなわち、これらの貫通孔の中心軸と、X線出射器13から出射されるX線の光軸とが一致するとき、X線が測定対象物OBに照射されるようになっている。このように、X線を測定対象物OBに照射するときのイメージングプレート28の位置が、回折環撮像位置である。
【0027】
フィードモータ18の下方には、測定対象物OBにて反射したX線を受光する複数の受光素子からなる受光センサ31(例えば、X線CCD)が組み付けられている。受光センサ31は、測定対象物OB及びイメージングプレート28からフィードモータ18側に十分離れている。これにより、イメージングプレート28が回折環撮像位置にあるとき、受光センサ31は、測定対象物OBにて反射したX線を直接受光できる。受光センサ31の受光面は、測定対象物OBの上面と平行である。受光センサ31の受光面におけるX線の受光位置は、測定対象物OBの高さに対応している。言い換えれば、イメージングプレート28と測定対象物OBとの距離に対応している。受光センサ31は、それぞれの受光素子が受光した受光信号をセンサ信号取り出し回路32へ出力する。
【0028】
センサ信号取り出し回路32は、コントローラCTからの指令により作動開始し、受光センサ31から入力した受光信号を用いて受光センサ31の受光面における受光信号のピーク位置を算出して受光位置を表す受光位置信号としてコントローラCTへ出力する。
【0029】
また、受光センサ31の下方には、レーザ検出装置PUHが組み付けられている。レーザ検出装置PUHは、回折環を撮像したイメージングプレート28にレーザ光を照射して、イメージングプレート28から入射した光の強度を検出する。レーザ検出装置PUHは、測定対象物OB及び回折環撮像位置にあるイメージングプレート28からフィードモータ18側に十分離れている。すなわち、イメージングプレート28が回折環撮像位置にあるとき、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置PUHによって遮られないようになっている。レーザ検出装置PUHは、レーザ光源33と、コリメートレンズ35、反射鏡36、偏光ビームスプリッタ37、1/4波長板38及び対物レンズ39を備えている。
【0030】
レーザ光源33は、レーザ駆動回路34によって制御されて、イメージングプレート28に照射するレーザ光を出射する。レーザ駆動回路34は、コントローラCTによって制御され、レーザ光源33から所定の強度のレーザ光が出射されるように、駆動信号を制御して供給する。レーザ駆動回路34は、後述するフォトディテクタ51から出力された受光信号を入力して、受光信号の強度が所定の強度になるようにレーザ光源33に出力する駆動信号を制御する。これにより、イメージングプレート28に照射されるレーザ光の強度が一定に維持される。
【0031】
コリメートレンズ35は、レーザ光源33から出射されたレーザ光を平行光に変換する。反射鏡36は、コリメートレンズ35にて平行光に変換されたレーザ光を、偏光ビームスプリッタ37に向けて反射する。偏光ビームスプリッタ37は、反射鏡36から入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。1/4波長板38は、偏光ビームスプリッタ37から入射したレーザ光を直線偏光から円偏光に変換する。対物レンズ39は、1/4波長板38から入射したレーザ光をイメージングプレート28の表面に集光させる。この対物レンズ39から出射されるレーザ光の光軸は、X線出射器13から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に平行な方向、すなわち移動ステージ15の移動方向に対して垂直な方向である。
【0032】
対物レンズ39には、フォーカスアクチュエータ40が組み付けられている。フォーカスアクチュエータ40は、対物レンズ39をレーザ光の光軸方向に移動させるアクチュエータである。なお、対物レンズ39は、フォーカスアクチュエータ40が通電されていないときに、その可動範囲の中心に位置する。
【0033】
対物レンズ39によって集光されたレーザ光を、イメージングプレート28の表面であって、回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じる。すなわち、回折環を撮像した後、イメージングプレート28にレーザ光を照射すると、イメージングプレート28の蛍光体が回折X線の強度に応じた光であって、レーザ光の波長よりも波長が短い光を発する。イメージングプレート28に照射されて反射したレーザ光の反射光及び蛍光体から発せられた光は、対物レンズ39及び1/4波長板38を通過して、偏光ビームスプリッタ37にて反射する。偏光ビームスプリッタ37の反射方向には、集光レンズ41、シリンドリカルレンズ42及びフォトディテクタ43が設けられている。集光レンズ41は、偏光ビームスプリッタ37から入射した光を、シリンドリカルレンズ42に集光する。シリンドリカルレンズ42は、透過した光に非点収差を生じさせる。フォトディテクタ43は、分割線で区切られた4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子によって構成されており、時計回りに配置された受光領域A,B,C,Dに入射した光の強度に比例した大きさの検出信号を受光信号(a,b,c,d)として、増幅回路44へ出力する。
【0034】
増幅回路44は、フォトディテクタ43から出力された受光信号(a,b,c,d)をそれぞれ同じ増幅率で増幅して受光信号(a’,b’,c’,d’)を生成して、フォーカスエラー信号生成回路45及びSUM信号生成回路48へ出力する。本実施形態においては、非点収差法によるフォーカスサーボ制御を用いる。フォーカスエラー信号生成回路45は、増幅された受光信号(a’,b’,c’,d’)を用いて、演算によりフォーカスエラー信号を生成する。すなわち、フォーカスエラー信号生成回路45は、(a’+c’)−(b’+d’)の演算を行い、この演算結果をフォーカスエラー信号としてフォーカスサーボ回路46へ出力する。フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)は、レーザ光の焦点位置のイメージングプレート28の表面からのずれ量を表している。
【0035】
フォーカスサーボ回路46は、コントローラCTにより制御され、フォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路47に出力する。ドライブ回路47は、このフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ40を駆動して、対物レンズ39をレーザ光の光軸方向に変位させる。この場合、フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)となるようにフォーカスサーボ信号を生成することにより、イメージングプレート28の表面にレーザ光を集光させ続けることができる。
【0036】
SUM信号生成回路48は、受光信号(a’,b’,c’,d’)を合算してSUM信号(a’+b’+c’+d’)を生成し、A/D変換回路49に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート28にて反射したレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート28にて反射したレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、イメージングプレート28に入射した回折X線の強度に相当する。A/D変換回路49は、コントローラCTによって制御され、SUM信号生成回路48からSUM信号を入力し、入力したSUM信号の瞬時値をディジタルデータに変換してコントローラCTに出力する。
【0037】
また、レーザ検出装置PUHは、集光レンズ50及びフォトディテクタ51を備えている。集光レンズ50は、レーザ光源33から出射されたレーザ光の一部であって、偏光ビームスプリッタ37を透過せずに反射したレーザ光をフォトディテクタ51の受光面に集光する。フォトディテクタ51は、受光面に集光された光の強度に応じた受光信号を出力する受光素子である。従って、フォトディテクタ51は、レーザ光源33が出射したレーザ光の強度に対応した受光信号をレーザ駆動回路34へ出力する。
【0038】
また、対物レンズ39に隣接して、LED52が設けられている。LED52は、LED駆動回路53によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート28に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路53は、コントローラCTによって制御され、LED52に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
【0039】
コントローラCTは、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された図4乃至図8Bの各種プログラムを実行する。コントローラCTには、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果などを視覚的に知らせるための表示装置54と、作業者が各種パラメータ、作業指示などを入力するための入力装置55とが接続されている。コントローラCTは、A/D変換回路49から出力されたSUM信号のディジタルデータを処理することによりイメージングプレート28の蛍光体が発した光の強度を検出する。
【0040】
以下に、上記のように構成したX線回折測定装置を用いて、測定対象物OBの残留応力を求める具体的方法について説明する。まず、作業者は、測定対象物OBを昇降機12の昇降ステージ12aに取り付け、昇降ステージ12aを上昇させて、測定対象物OBをフレームFR内にセットする。なお、この場合、測定対象物OBは、例えば鉄材である。作業者が、入力装置55を用いて、測定対象物OBの材質(例えば、鉄)を入力し、残留応力の測定開始を指示する。これにより、コントローラCTは、図3に示す回折環撮像プログラムの実行を開始する。
【0041】
この回折環撮像プログラムは図3のステップS100にて開始され、コントローラCTは、ステップS102にて、スピンドルモータ制御回路25を制御して、イメージングプレート28を低速回転させ、エンコーダ24aからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート28の回転を停止させる。これにより、測定開始時において、イメージングプレート28の回転角度が0度に設定される。次に、コントローラCTは、ステップS104にて位置検出回路21の作動を開始させ、ステップS106にて、フィードモータ制御回路22を制御し、フィードモータ18の作動を開始させるとともに、位置検出回路21との協働によりフィードモータ18の作動を停止させて、イメージングプレート28を回折環撮像位置まで移動させる。
【0042】
次に、コントローラCTは、ステップS108にて、センサ信号取り出し回路32の作動を開始させる。次に、コントローラCTは、ステップS110にて、X線制御回路14を制御してX線出射器13にX線の出射を開始させる。これにより、X線が測定対象物OBに照射され、測定対象物OBの表面にて反射したX線が受光センサ31に受光される。次に、コントローラCTは、ステップS112にて、センサ信号取り出し回路32から受光位置信号を入力し、前記入力した受光位置信号を用いてイメージングプレート28と測定対象物OBとの距離Lを算出する。なお、この算出した距離Lは、後述する処理によって利用されるので、メモリに記憶しておく。そして、コントローラCTは、ステップS114にて、前記算出した距離Lが所定の基準範囲内にあるか否か判定する。距離Lが基準範囲内になければ、「No」と判定して、ステップS116にて、X線制御回路14を制御して測定対象物OBへのX線の照射を停止させる。
【0043】
そして、コントローラCTは、ステップS118にて、表示装置54に、測定対象物OBの高さ方向の位置が不適切である旨を表示するとともに、昇降機12の昇降ステージ12aの高さ調整に関する情報を表示する。すなわち、昇降ステージ12aを、どの程度上昇又は下降させるべきかを表示する。そして、後述のステップS128にて、回折環撮像プログラムの実行を終了する。この場合、作業者は、昇降ステージ12aの高さを調整した後、入力装置55を用いて、再度、測定開始を指示する。上記のステップS110〜S116までの所要時間は僅かなので、イメージングプレート28には回折環が撮像されない。また、受光センサ31が測定対象物OBにて反射したX線を受光しない場合は、ステップS118にて、測定対象物OBの高さ方向の位置が不適切である旨の表示がなされるのみであって、昇降ステージ12aの高さ調整に関する情報は表示されない。この場合、測定対象物OBの位置は、極めて不適切な位置にあると考えられ、昇降ステージ12aの高さ調整の方向を目視で判断できる。前記測定開始の指示により、前述したステップS102〜S114の処理が再度実行され、距離Lが所定の基準範囲内になるまで前記処理が繰り返される。ただし、ステップS102〜S108の処理は、実質的には不要である。
【0044】
一方、ステップS114の判定処理時に、距離Lが所定の基準範囲内である場合には、コントローラCTは、ステップS114にて「Yes」と判定して、ステップS120に処理を進め、センサ信号取り出し回路32の作動を停止させる。そして、コントローラCTは、ステップS122にて時間計測を開始し、ステップS124にて所定の設定時間を経過したか否かを判定する。時間計測開始から所定の設定時間を経過していなければ、ステップS124にて「No」と判定して判定処理を実行し続ける。すなわち、コントローラCTは、時間計測開始から所定の設定時間を経過するまで待機する。そして、時間計測開始から所定の設定時間を経過すると、コントローラCTは、ステップS124にて「Yes」と判定して、ステップS126にてX線制御回路14を制御してX線出射器13によるX線の照射を停止させ、ステップS128にて回折環撮像プログラムの実行を終了する。
【0045】
これにより、この状態では、測定対象物OBによる回折環がイメージングプレート28に撮像されている。
【0046】
前記回折環撮像プログラムの実行後、コントローラCTは、図4A及び図4Bの回折環読取りプログラムの実行を開始する。この場合、コントローラCTは、この回折環読取りプログラムの実行に並行して、図5の回折環形状検出プログラムの実行をも開始する。回折環読取りプログラムの実行は図4AのステップS200にて開始され、コントローラCTは、ステップS202にて回折環基準半径R0を計算する。回折環基準半径R0は、測定対象物OBの残留応力が「0」である場合の回折環の半径である。回折環基準半径R0は、測定対象物OBの材質及びイメージングプレート28から測定対象物OBまでの距離Lに依存する。すなわち、残留応力が「0」であるので、回折角θxは材質(本実施形態では、鉄である)によって決定される。距離Lと回折環基準半径R0とは比例関係にあるので、予め材質ごとに、回折角θxを記憶しておけば、回折環基準半径R0を、R0=L・tan(θx)の演算によって算出できる。この計算された回折環基準半径R0はメモリに記憶される。
【0047】
前記ステップS202の処理後、コントローラCTは、ステップS204にて、フィードモータ制御回路22に、イメージングプレート28を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させることを指示する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21と協働してフィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を読取り開始位置へ移動させる。このイメージングプレート28が読取り開始位置にある状態では、対物レンズ39の中心すなわちレーザ光の照射位置が前記計算した回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ小さい位置に位置する。なお、所定距離αは、撮像した回折環の半径が回折環基準半径R0からずれる可能性のある距離よりもやや大きい距離である。これにより、後述の処理により、回折環の測定が十分に内側から開始されて、回折環が確実に検出される。
【0048】
ここで、移動ステージ15の移動限界位置から図1及び図2の右下方向への移動距離xを表す位置検出回路21からの位置信号と、イメージングプレート28の中心からレーザ光の照射位置(対物レンズ39の中心位置)までの距離(すなわちレーザ光の照射位置の半径r)との関係について説明しておく。移動ステージ15すなわちイメージングプレート28が移動限界位置にある状態においては、図9(A)に示すように、イメージングプレート28の中心から対物レンズ39の中心位置までの距離をRxとする。なお、この場合、対物レンズ39は前記イメージングプレート28の中心位置から図1及び図2にて左上方向にあり、また前記距離Rxは予め測定されてコントローラCTに記憶されている。一方、図9(B)に示すように、イメージングプレート28を移動限界位置から図1及び図2の右下方向へ距離xだけ移動させると、レーザ光の照射位置の半径rは、r=x+Rxで表される。この場合、距離xは、前述のように位置検出回路21から出力される位置信号によって示されるので、今後の処理において、レーザ光の照射位置の半径rは、位置検出回路21から出力される位置信号によって表された距離xに予め記憶されている値Rxを加算することになる。
【0049】
そして、前記のように、イメージングプレート28を読取り開始位置へ移動させる場合には、図9(C)に示すように、レーザ光の照射位置は、回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ内側に位置するので、この場合の半径rは距離R0−αに等しくなるはずである。したがって、イメージングプレート28を駆動限界位置から図1及び図2の右下方向へ移動させる距離xは、x=R0−α−Rxに等しくなる。すなわち、前記ステップS204における読取り開始位置への移動処理においては、位置検出回路21から出力される位置信号により表される距離x(=R0−α−Rx)だけ、テーブル27を図1及び図2の右下方向へ移動させればよい。
【0050】
次に、コントローラCTは、ステップS206にて、スピンドルモータ制御回路25に対して、所定の一定回転速度でイメージングプレート28を回転させることを指示する。スピンドルモータ制御回路25は、エンコーダ24aからのパルス信号を用いて回転速度を計算しながら、前記指示された一定回転速度でイメージングプレート28が回転するようにスピンドルモータ24の回転を制御する。したがって、イメージングプレート28は前記所定の一定回転速度で回転し始める。次に、コントローラCTは、ステップS208にて、レーザ駆動回路34を制御してレーザ光源33によるレーザ光のイメージングプレート28に対する照射を開始させる。
【0051】
次に、コントローラCTは、ステップS210にて、フォーカスサーボ回路46に対して、フォーカスサーボ制御の開始を指示する。これにより、フォーカスサーボ回路46は、増幅回路44及びフォーカスエラー信号生成回路45からのフォーカスエラー信号を用いて、ドライブ回路47を介してフォーカスアクチュエータ40を駆動制御することにより、フォーカスサーボ制御を開始する。その結果、対物レンズ39が、レーザ光の焦点がイメージングプレート28の表面に合うように光軸方向に駆動制御される。ステップS210の処理後、コントローラCTは、ステップS212にて、回転角度検出回路26及びA/D変換回路49の作動を開始させる。これにより、回転角度検出回路26は、スピンドルモータ24(イメージングプレート28)の基準位置からの回転角度θpをコントローラCTに出力し始め、A/D変換回路49は、SUM信号の瞬時値のディジタルデータをコントローラCTに出力し始める。
【0052】
次に、コントローラCTは、ステップS214にて、フィードモータ制御回路22に対して、イメージングプレート28の移動開始及び移動速度を指示する。フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を読取り開始位置から軸受部19側(図1及び図2の右下方向)へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置が、イメージングプレート28において、回折環基準半径R0から所定距離αだけ内側から外側方向に一定速度で相対移動し始める。なお、この状態では、レーザ光の照射位置は、前記ステップS206,S214の処理により、相対的にイメージングプレート28上を螺旋状に回転している。
【0053】
前記ステップS214の処理後、コントローラCTは、ステップS216にて、周方向番号n及び半径方向番号mの値をそれぞれ「1」に初期設定する。周方向番号nは、イメージングプレート28における1回転をN個(所定の大きな値)で等分した周方向位置をそれぞれ表す「1」から最大値Nまで変化する整数である。半径方向番号mは、イメージングプレート28の内側から外側に向かう径方向位置をそれぞれ表し、イメージングプレート28が1回転するごとに「1」から「1」ずつ増加する値である。そして、これらの周方向番号n及び半径方向番号mにより、図10に示すように、イメージングプレート28上を螺旋状に移動する読取りポイントP(n,m)が示される。
【0054】
次に、コントローラCTは、ステップS218にて、回転角度検出回路26がエンコーダ24aからのインデックス信号を入力したか否かを判定する。回転角度検出回路26がインデックス信号を入力していなければ、コントローラCTはステップS218にて「No」と判定して、ステップS218の判定処理を繰り返し実行し続ける。回転角度検出回路26がインデックス信号を入力すると、コントローラCTは、ステップS218にて「Yes」と判定して、ステップS220にて、回転角度検出回路26からイメージングプレート28の現在の回転角度θpを取り込む。そして、コントローラCTは、ステップS222にて、現在の回転角度θpと変数nによって指定される回転角度(n−1)・θo(この場合、n=1であるので「0」)との差の絶対値|θp−(n−1)・θo|が所定の許容値未満であるか否か判定する。この場合、θoは、360度を周方向番号nの最大値Nで除した予め記憶されている所定値である。前記絶対値|θp−(n−1)・θo|が所定の許容値未満でなければ、コントローラCTは、ステップS222にて「No」と判定してステップS220,S222の処理を繰り返し実行する。すなわち、コントローラCTは、現在の回転角度θpが所定の回転角度(n−1)・θoにほぼ一致するまで待機する。そして、現在の回転角度θpが所定の回転角度(n−1)・θoにほぼ一致すると、コントローラCTは、ステップS222にて「Yes」すなわち前記絶対値|θp−(n−1)・θo|が所定の許容値未満であると判定して、ステップS224に進む。
【0055】
ステップS224においては、コントローラCTは、A/D変換回路49からSUM信号を取り込んで、読取りポイントP(n,m)の信号強度S(n,m)としてメモリにそれぞれ記憶する。また、このステップS224においては、位置検出回路21からの位置信号を取り込んで、位置信号によって表される距離xに所定距離Rxを加算して半径rを計算して、読取りポイントP(n,m)の半径r(n,m)として前記信号強度S(n,m)に対応させてメモリに記憶する。これにより、イメージングプレート28の読取りポイントP(n,m)からの輝尽発光の強度すなわち読取りポイントP(n,m)に対するX線回折光の強度を表す信号強度S(n,m)が、読取りポイントP(n,m)の半径を表す半径r(n,m)と共にメモリに記憶される。
【0056】
次に、コントローラCTは、ステップS226にて、前記記憶した信号強度S(n,m)が、所定の基準値以上であるか否か判定する。信号強度S(n,m)が所定の基準値以上であれば、コントローラCTは、ステップS226にて「Yes」と判定して、ステップS230に進む。一方、信号強度S(n,m)が、所定の基準値より小さければ、コントローラCTは、ステップS226にて「No」と判定して、ステップS228にて、前記記憶した信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を消去した後、ステップS230に進む。この信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)の消去は、所定の基準値より小さな信号強度S(n,m)は回折X線強度の回折環半径方向のピーク位置の検出に不要であるからである。
【0057】
ステップS230においては、コントローラCTは、周方向番号nに「1」を加算する。そして、コントローラCTは、ステップS232にて、変数nが1周当たりの読取りポイントP(n,m)の数を表す値Nより大きいか、すなわちイメージングプレート28が1回転したか否かを判定する。この場合、n=2であり、周方向番号nは値N以下であるので、コントローラCTは、ステップS232にて「No」と判定して、ステップS220に戻る。
【0058】
そして、前述したステップS220〜S232の処理を、周方向番号nが値Nよりも大きくなるまで繰り返す。このステップS220〜S232の繰り返し処理により、回転角度0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θoにそれぞれ対応した所定角度θoごとの信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)がメモリに記憶される。ただし、この場合も、ステップS226,S228の処理により、信号強度S(n,m)が所定の基準値より小さければ、メモリに記憶された信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)は消去される。
【0059】
このようなステップS220〜S232の循環処理により、周方向番号nが値Nよりも大きくなると、コントローラCTは、ステップS232にて「Yes」と判定して、ステップS234にて、後述の回折環形状検出プログラムによる終了指令の有無を判定する。未だ終了指令がないときは、コントローラCTは、ステップS234にて「No」と判定し、ステップS236にて半径方向番号mに「1」を加算し(この場合、m=2になる)、ステップS228にて周方向番号nを「1」に戻す。そして、コントローラCTは、前述したステップS218〜S228の処理を実行して、次の半径方向位置の回転角度0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θoに対応した読取りポイントP(n,m)に関する信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)をメモリに記憶する。そして、終了指令の指示があるまで、このようなステップS218〜S228の処理により、「1」ずつ順次大きくなる半径方向番号m(=1,2,3・・)と、各半径方向番号mごとに回転角度0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θoにそれぞれ対応した周方向番号n(=1〜N)とにより指定される読取りポイントP(n,m)に対応する信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)がメモリに順次記憶される。なお、この場合も、信号強度S(n,m)が所定の基準値より小さければ、メモリに記憶された信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)は消去される。
【0060】
そして、前記回折環形状検出プログラムによる終了指令の指示があると、コントローラCTは、ステップS234にて「Yes」と判定し、図4BのステップS240に進む。ここで、この回折環読取りプログラムと並行して実行されている回折環形状検出プログラムについて説明する。
【0061】
回折環形状検出プログラムの実行は図5のステップS300にて開始され、コントローラCTは、ステップS302にて周方向番号nを「1」に初期設定する。なお、この周方向番号nは、回折環読取りプログラムの場合と同様に所定角度θoごとの周方向位置を示すものであるが、回折環読取りプログラムで用いられる周方向番号nとは独立したものである。
【0062】
前記ステップS302の処理後、コントローラCTは、ステップS304にて、詳しくは後述するピーク半径rp(n)が存在するか、すなわちピーク半径rp(n)が検出済みであるかを判定する。この場合、ピーク半径rp(n)においては、検出されたピーク半径の回転角度が周方向番号nによって表される。ピーク半径rp(n)が検出済みであれば、コントローラCTは、ステップS304にて「Yes」と判定して、ステップS306にて周方向番号nに「1」を加算し、ステップS308にて周方向番号nが所定数より大きいか否かを判定する。この場合の所定数も、1周の測定位置数を表す値Nである。周方向番号nが所定数以下であれば、コントローラCTは、ステップS308にて「No」と判定してステップS304に戻る。周方向番号nが所定数より大きければ、コントローラCTはステップS308にて「Yes」と判定して、ステップS310に進む。
【0063】
ステップS310においては、コントローラCTは、対物レンズ39が対向する位置すなわちレーザ光の照射位置が読取り終了位置を越えているか否かを判定する。この読取り終了位置は、図9(D)に示すように、回折環基準半径R0よりも所定距離αだけ外側に位置する。したがって、このステップS310の判定処理においては、位置検出回路21から出力される位置信号により表される距離xが距離R0+α−Rxを越えているかを判定する。この判定処理は、回折環が不連続である場合には、後述するピーク半径rp(n)の数が所定数Nに達しないからであり、その場合には、レーザ光の照射位置が読取り終了位置を超えた時点で、この回折環形状検出プログラムの実行を終了するためである。レーザ光の照射位置が読取り終了位置を超えていなければ、コントローラCTは、ステップS310にて「No」と判定して、周方向番号nを「1」に戻すためにステップS302に戻る。
【0064】
一方、ピーク半径rp(n)が未検出であれば、コントローラCTは、ステップS304にて「No」と判定して、ステップS312にて前記図4AのステップS224の処理によって記憶した信号強度S(n,m)の数が所定数以上であるか否か判定する。信号強度S(n,m)の数が所定数以上でなければ、コントローラCTは、ステップS312にて「No」と判定して、前述したステップS306〜S310の処理を実行してステップS304又はステップS302に戻る。このステップS312の判定処理は、信号強度S(n,m)の数が少ない場合には後述するピーク検出処理を実行しても無駄であるからである。なお、前記図4AのステップS228の処理によって消去された信号強度S(n,m)は、記憶した信号強度S(n,m)としてカウントされない。
【0065】
一方、前記記憶した信号強度S(n,m)の数が所定数以上であるときは、コントローラCTは、ステップS312にて「Yes」と判定して、ステップS314にて、ピークの有無を判定する。すなわち、周方向番号nによって指定される周方向位置の全ての半径r(n,m)及び信号強度S(n,m)を用いて、SUM信号の値のピークの有無を判定する。具体的には、図11に示すように、周方向番号nによって指定される周方向位置の全ての半径r(n,m)を横軸に取り、その半径r(n,m)に対応させて信号強度S(n,m)を縦軸に取った受光曲線において、信号強度S(n,m)にピークが存在するか、すなわち信号強度S(n,m)が増加した後に減少したかを判定するとよい。そして、ピークが存在しなければ、コントローラCTは、ステップS314にて「No」と判定して、前述したステップS306〜S310の処理を実行してステップS304又はステップS302に戻る。
【0066】
このように、ステップS302〜S314を繰り返し実行している間に、並行して実行されている回折環読取りプログラムの処理により、さらに半径r(n,m)及び信号強度S(n,m)が取り込まれてメモリに次々に記憶されていく。このため、ステップS314にてピークが検出されるようになり、検出されると、コントローラCTは、ステップS314にて「Yes」と判定して、ステップS316にて、ピークの半径r(n,m)をピーク半径rp(n)としてメモリに記憶する。次に、コントローラCTは、ステップS318にて、取得したピーク半径rp(n)の数が所定数以上であるか否かを判定する。この場合の所定数も、1周の測定位置数を表す値Nである。そして、取得したピーク半径rp(n)の数が所定数より小さければ、コントローラCTは、ステップS318にて「No」と判定し、前述したステップS306,S308の処理を実行してステップS304又はステップS302に戻る。
【0067】
このようにステップS302〜S318の処理を繰り返すことで、取得したピーク半径rp(n)の数が増えていき所定数に達すると、すなわち周方向の全ての読取りポイントP(n,m)にてピーク半径rp(n)が取得されると、コントローラCTは、ステップS318にて「Yes」と判定し、ステップS320にて回折環形状検出の終了を示す終了指令を出力する。そして、コントローラCTは、ステップS322にて回折環形状検出プログラムの実行を終了する。
【0068】
また、前述のように、回折環が不連続であるために、ピーク半径rp(n)の数が所定数Nに達しない場合でも、レーザ光の照射位置が読取り終了位置を超えると、コントローラCTは、ステップS310にて「Yes」と判定して、ステップS320にて回折環形状検出の終了を示す終了指令を出力して、ステップS322にて回折環形状検出プログラムの実行を終了する。
【0069】
ここで、図4A及び図4Bの回折環読取りプログラムの説明にふたたび戻る。前述のように終了指令が出力されると、コントローラCTは、図4AのステップS234にて「Yes」と判定し、図4BのステップS240にて、フォーカスサーボ回路46に対してフォーカスサーボ制御の停止を指示することにより、フォーカスサーボ制御を停止させる。次に、コントローラCTは、ステップS242にて、レーザ駆動回路34を制御して、レーザ光源33によるレーザ光の照射を停止させる。さらに、コントローラCTは、ステップS244にて、A/D変換回路49及び回転角度検出回路26の作動を停止させ、ステップS246にて、フィードモータ制御回路22を制御してフィードモータ18の作動を停止させることにより、イメージングプレート28の移動を停止させて、ステップS248にて回折環形状検出プログラムの実行を終了する。なお、この状態では、位置検出回路21の作動及びイメージングプレート28の回転は、以前と同様のまま継続されている。
【0070】
次に、コントローラCTは、図6の回折環消去プログラムを実行する。回折環消去プログラムの実行は、ステップS400にて開始され、コントローラCTは、ステップS402にて、フィードモータ制御回路22に、イメージングプレート28を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させることを指示する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21と協働してフィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート28が消去開始位置にある状態では、LED52から出力される可視光の中心が前記計算した回折環基準半径R0よりも所定距離γだけ小さい位置に位置する。具体的には、この位置は、イメージングプレート28が駆動限界位置にある状態において、イメージングプレート28の中心からLEDの可視光の中心までの距離をRy’とすると、位置検出回路21から出力される位置がR0−γ−Ry’になる位置である。なお、所定距離γは、前記所定距離αよりも若干大きく、前記撮像された回折環の半径よりは余裕をもってずれた位置である。これにより、後述の処理により、前記撮像された回折環が確実に消去される。
【0071】
次に、コントローラCTは、ステップS404にて、LED駆動回路53を制御してLED52による可視光のイメージングプレート28に対する照射を開始させる。次に、コントローラCTは、ステップS406にて、フィードモータ制御回路22に対して、イメージングプレート28の移動開始及び移動速度を指示する。フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を消去開始位置から軸受部19側(図1及び図2の右下方向)へ一定速度で移動させる。これにより、LED52による可視光が、イメージングプレート28において、回転しながら、回折環基準半径R0から所定距離γ(γ>α)だけ内側から外側方向に一定速度で移動し始める。
【0072】
前記ステップS406の処理後、コントローラCTは、ステップS408にて位置検出回路21からイメージングプレート28の位置を表す位置信号を入力し、ステップS410にて、イメージングプレート28の現在の位置が消去終了位置を超えているか否かを判定する。この終了位置は、回折環基準半径R0よりも所定距離γだけ大きな位置である。具体的には、位置検出回路21から出力される位置がR0+γ−Ry’になる位置である。そして、イメージングプレート28の現在の位置が消去終了位置を超えるまで、コントローラCTは、ステップS410にて「No」と判定して、ステップS408,S410の処理を繰り返し実行する。これにより、回転するイメージングプレート28に対し、前記回折環基準半径R0から所定距離γだけ内側から所定距離γだけ外側まで、LED52による可視光が照射されるので、前記回折X線によって形成された回折環は内側から徐々に消去されていく。
【0073】
そして、イメージングプレート28の現在の位置が消去終了位置を超えると、コントローラCTは、ステップS410にて「Yes」と判定して、ステップS412にてフィードモータ制御回路22にイメージングプレート28の移動停止を指示し、ステップS414にてLED駆動回路53にLED52による可視光の照射停止を指示する。これにより、フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18の作動を停止させることによりイメージングプレート28の移動を停止させる。LED駆動回路53は、LED52による可視光の照射を停止させる。この状態では、前記撮像された回折環は完全に消去されている。
【0074】
前記ステップS414の処理後、コントローラCTは、ステップS416にて位置検出回路21の作動を停止させ、ステップS418にてスピンドルモータ制御回路25に対してイメージングプレート28の回転停止を指示する。この指示に応答して、スピンドルモータ制御回路25は、スピンドルモータ24の作動を停止させて、イメージングプレート28の回転を停止させる。前記イメージングプレート28の回転停止後、コントローラCTは、ステップS420にて回折環消去プログラムの実行を終了する。
【0075】
次に、コントローラCTは、図7の不連続度合い評価プログラムを実行する。この不連続度合い評価プログラムは、図5の回折環形状検出プログラムによって検出されたピーク半径rp(n)の数が所定数Nにならないとき、ピーク半径rp(n)の不連続の度合いを評価して不連続度合いNCRを計算するものである。回折環の形状は、多数の角度θ(=0,θo,2・θo・・・(N−1) ・θo)にそれぞれ対応した半径rによって規定される円座標の座標群として検出されるため、視覚的に示すと、図12(A)ように座標点の集合で表される。回折環が不連続ということは、座標点が欠けているということである。なお、所定数Nは、例えば500程度の値である。
【0076】
この不連続度合い評価プログラムの実行は、図7のステップS500にて開始され、コントローラCTは、ステップS502にて、検出されたピーク半径rp(n)の数が所定数Nであるか否かを判定する。検出されたピーク半径rp(n)の数が所定数Nであれば、コントローラCTは、ステップS502にて「Yes」と判定して、ステップS504にて不連続度合いNCRを「0」に設定して、ステップS516にてこの不連続度合い評価プログラムの実行を終了する。
【0077】
一方、検出されたピーク半径rp(n)の数が所定数Nでなければ、コントローラCTは、ステップS502にて「No」と判定し、ステップS506にて、ピーク半径rp(n)が所定のB個(例えば、25〜50個)以上連続して存在しない全ての部分をそれぞれ不連続部分とし、不連続部分ごとに、rp(n)が連続して存在しない数を不連続数として設定する。そして、ステップS508にて、不連続部分が存在したか否かを判定する。前記ステップS506の処理によって不連続部分が検出されなければ、コントローラCTは、ステップS508にて「No」すなわち不連続部分は存在しないと判定して、前述したステップS504の処理によって不連続度合いNCRを「0」に設定して、ステップS516にてこの不連続度合い評価プログラムの実行を終了する。
【0078】
一方、ステップS508にて「Yes」すなわち不連続部分が存在すると判定されると、コントローラCTは、ステップS510にて、前記検出した不連続部分ごとに、不連続部分の両側で、ピーク半径rp(n)が連続して存在する数が所定のC個(例えば、2〜24個)以上になる位置まで、ピーク半径rp(n)が存在しない数を前記不連続数に順次加算する。そして、ステップS512にて、前記加算した不連続数が所定のA個(例えば、30〜180個)以上になる不連続部分が存在するかを判定する。前記加算した不連続数がA個以上になる不連続部分が存在しなければ、コントローラCTは、ステップS512にて「No」と判定して、前述したステップS504の処理によって不連続度合いNCRを「0」に設定して、ステップS516にてこの不連続度合い評価プログラムの実行を終了する。一方、前記加算した不連続数がA個以上になる不連続部分が存在すれば、コントローラCTは、ステップS512にて「Yes」と判定して、ステップS514にて、不連続数がA個以上である不連続部分の不連続数の最大値を抽出し、抽出した最大値を所定数Nで除算して不連続度合いNCRとして設定する。そして、ステップS516にて、この不連続度合い評価プログラムの実行を終了する。
【0079】
この不連続度合い評価プログラムの実行により、図12(B)(a)に示すように、連続して欠けている座標点の数が少ない場合には、補間により座標点を補充できるとして不連続とみなさず、不連続度合いNCRは「0」に設定される。また、図12(B)(b)に示すように、座標点がA個以上連続して欠けている場合には、不連続とみなされて、不連続度合いNCRが「0」以外の値に設定される。さらに、図12(B)(c)に示すように、座標点がB個以上連続して欠けており、かつ隣の欠けている箇所までにある座標点がC個未満であるとき、隣の欠けている座標点の数を加算して、加算した数がA個以上である場合に不連続とみなされて、不連続度合いNCRが「0」以外の値に設定される。
【0080】
次に、コントローラCTは、前記検出されたピーク半径rp(n)を用いて測定対象物OBの残留応力を計算するための図8A及び図8Bの残留応力計算プログラムを実行する。この残留応力計算プログラムの実行は図8AのステップS600にて開始され、コントローラは、ステップS602にて変数m,s,aをそれぞれ「1」に設定する。変数mは、後述するX方向残留応力F(m)及び半径値rm(m,n)を指定するための変数である。変数s,aは、検出した測定対象物OBの回折環の形状に最も近い後述する記憶回折環の形状を検出するために用いられる変数である。
【0081】
前記ステップS602の処理後、コントローラCTは、ステップS604にて、不連続度合いNCRが「0」より大きいか否かを判定する。この場合、前記図7の不連続度合い評価プログラムの実行により、回折環の形状を示す座標が不連続とみなされずに不連続度合いNCRが「0」に設定されていれば、コントローラCTは、ステップS604にて「No」と判定し、ステップS606にて、欠けている座標点(ピーク半径rp(n))を補間により計算する。この場合、欠けていない両側の座標点(ピーク半径rp(n))を用いて、線形補間又は非線形補間により、周方向位置を表す変数nを用いて欠けた座標点(ピーク半径rp(n))を計算するとよい。そして、ステップS608にて、ピーク半径rp(n)(n=1〜N)により表された回折環の形状に基づいて、cosα法により残留応力を計算する。この場合、残留応力として、少なくとも詳しくは後述するX方向残留応力を計算すればよいが、X方向残留応力に加えて、詳しくは後述するY方向残留応力及びせん断残留応力を計算してもよい。このステップS608の処理後、ステップS654にて、この残留応力計算プログラムの実行が終了される。
【0082】
一方、前記図7の不連続度合い評価プログラムの実行により、回折環の形状を示す座標が不連続とみなされて、不連続度合いNCRが正の値に設定されていれば、コントローラCTは、ステップS604にて「Yes」と判定して、ステップS610にて不連続度合いNCRが所定値NCR0よりも大きいか否かを判定する。この場合、所定値NCR0は、例えば、1周分のピーク半径rp(n)(1〜N)の数(例えば、500個)の半分である250個程度以上のピーク半径rp(n)が欠けていることに相当する「0.5」程度の大きな値である。そして、不連続度合いNCRが所定値NCR0よりも大きければ、コントローラCTは、ステップS610にて「Yes」と判定して、ステップS612にて表示装置54に「残留応力の計算不可」を表示する。そして、ステップS654にて、この残留応力計算プログラムの実行が終了される。これは、回折環の形状を表す検出されたピーク半径rp(n)の数があまりにも少ないために、後述する回折環の形状一致を用いた残留応力の計算も不可能であるためである。
【0083】
また、不連続度合いNCRが正の値であり、かつ所定値NCR0以下であれば、コントローラCTは、ステップS604にて「Yes」と判定するとともに、ステップS610にて「No」と判定して、ステップS614〜S652の処理により、本発明に係る回折環の形状一致を用いた残留応力の計算処理を実行する。
【0084】
ここで、前記回折環の形状一致を用いた残留応力を求める方法について理論的に説明しておく。残留応力は本来テンソル量であり、回折環の形状は、主に、X方向残留応力、Y方向残留応力及びせん断残留応力により定まる。X方向残留応力とは、測定対象物OBを配置する向きによって定まるもので、測定対象物OBの平面と、測定対象物OBの法線方向と照射X線が成す平面との交線方向(以下、X方向という)の残留応力である。Y方向残留応力とは、測定対象物OBの平面内において、前記X方向に直交する方向の残留応力である。また、X方向残留応力及びY方向残留応力が、圧縮応力又は引張り応力のように力が加わる方向に発生する応力であれば、せん断残留応力とは、前記X方向残留応力及びY方向残留応力である圧縮応力又は引張り応力により結晶状態が変化したときに付随して発生する応力である。しかし、回折環の形状に大きな影響を及ぼすのはX方向残留応力であり、X方向残留応力を定めれば、回折環の形状をほぼ特定できる。そして、X方向残留応力のみを考慮するのであれば、残留応力をスカラー量として扱うこともできる。
【0085】
前記のように、X方向残留応力は、測定対象物OBのX方向に作用している圧縮残留応力又は引張り残留応力であり、圧縮残留応力又は引張り残留応力が存在すると、X方向残留応力のみによって形成されるX線の回折環は真円から形状を変化させるとともに、変化した形状の重心位置は前記真円の中心位置から移動する。そして、圧縮残留応力及び引張り残留応力がそれぞれ大きくなるに従って、真円から楕円への形状変形度合いが大きく、すなわち短軸方向の長さに対する長軸方向の長さが長くなるとともに、重心位置の移動量(すなわち真円である中心からの楕円の重心の移動量)も大きくなる。この場合の楕円の長軸の方向はX方向である。また、この場合、重心の移動は、圧縮残留応力による場合と引張残留応力による場合とで共に同じX方向であるが、圧縮残留応力による場合と引張残留応力による場合とではX方向において互いに反対方向となる。したがって、引張り残留応力及び圧縮残留応力を正負で表すとともに、それらの大きさを絶対値で表すことにより、X方向残留応力をその方向を含めて負の小さな値から正の大きな値に変化するスカラー量で表すことができる。そして、この負の小さな値から正の大きな値に変化するX方向残留応力(圧縮残留応力及び引張り残留応力)に対応させて、前記X方向残留応力に特定される位置も含めた回折環の形状を表すデータを予め用意しておくことにする。この回折環の形状は、X方向残留応力に応じてcosα法の基本式に基づいて計算される。
【0086】
なお、X方向残留応力(圧縮残留応力及び引張り残留応力)であっても、その大きさを極めて大きくしていくと、楕円が歪み始めるとともに、重心位置の移動も前記真円の中心に向かって移動し始める。このような極めて大きなX方向残留応力の測定は、本件の範囲外であり、前記X方向残留応力に特定される回折環の形状を表すデータも用意されていない。
【0087】
一方、前述した図4A及び図4Bの回折環読取りプログラム及び図5の回折環形状検出プログラムの実行によって検出された測定対象物OBによる検出回折環の形状(所定角度θoごとのピーク半径rp(n)で与えられる形状)も、主に、X方向残留応力、Y方向残留応力及びせん断残留応力により定まる。しかし、前述のように、回折環の形状に大きな影響を及ぼすのはX方向残留応力であるので、検出回折環の形状と前記予め準備した種々のX方向残留応力ごとの回折環の形状が完全に一致することはないが、X方向残留応力が等しいときには、前記両回折環の形状の一致度合いが最も高くなる。この点に関しては、発明者らは種々の実験により確認を得ている。したがって、前記予め準備した種々のX方向残留応力ごとの回折環の形状のうちで、測定対象物OBによる検出回折環の形状に最も近い回折環の形状を探出し、探出した回折環の形状に対応したX方向残留応力を測定対象物OBのX方向残留応力として決定すれば、検出した測定対象物OBによる検出回折環の不連続の度合いが大きくても、測定対象物OBのX方向残留応力を測定することができる。
【0088】
このため、本実施形態においては、コントローラCTの大容量記憶装置には、下記表1に示すように、変数m(=1〜M)により指定されるX方向残留応力F(m)と、X方向残留応力F(m)にそれぞれ対応して所定角度θoごとの半径値rm(m,n)(m=1〜M,n=1〜N)すなわち回折環の形状データが記憶されている。これらのX方向残留応力F(m)及び半径値rm(m,n)(m=1〜M,n=1〜N)は、測定対象物OBと同一材料で形成されている対象物に関するものである。
【表1】
【0089】
前記表1における所定値Mは、例えば200〜400程度の値である。所定値Nは、前述した所定角度θoごとの周方向位置の最大値に等しい値であり、例えば500程度の値である。そして、X方向残留応力F(m)は、測定対象物OBにおいて引張り残留応力及び圧縮残留応力を正負で表すとともに、それらの大きさを絶対値で表したX方向残留応力であって、圧縮残留応力及び引張り残留応力を含めて負の小さな値から正の大きな値に順次変化する値である。また、X方向残留応力F(m)は、小さい順すなわち絶対値の大きな負の値から絶対値の大きな正の値に対して、変数mが1からMに順に割当てられている。さらに、前記所定角度θoごとの半径値rm(m,1),rm(m,2)・・rm(m,N)は前記検出したピーク半径rp(1),rp(2)・・rp(N)にそれぞれ対応しており、すなわち半径値rm(m,1),rm(m,2)・・rm(m,N)の角度は、前記検出したピーク半径rp(1),rp(2)・・rp(N)の各回転角度(n−1)・θo(n=1〜N)にそれぞれ等しい。なお、この半径値rm(m,1),rm(m,2)・・rm(m,N)は、イメージングプレート28から測定対象物OBのX線照射点までの距離Loを定めることにより、X方向残留応力F(m)ごとにcosα法の基本式に基づいて予め計算された値である。
【0090】
ふたたび、図8Aの説明に戻ると、前述のようなステップS610の「No」との判定処理後のステップS614においては、コントローラCTは、変数mによって指定される記憶回折環の形状データである全ての半径値rm(m,n)(n=1〜N)を記憶装置から読出す。そして、コントローラCTは、ステップS616にて、変数mによって指定される記憶回折環の形状すなわち半径値rm(m,n)(n=1〜N)を平均値としたときの、検出回折環の形状すなわちピーク半径rp(n)の(n=1〜N)の標準偏差Dev(m)を計算する。具体的には、下記数1に示すように、1〜Nにわたって変化する変数nでrp(n)が存在しているnのそれぞれに対して、ピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)との差の2乗値を全て加算し、加算結果をピーク半径rp(n)の数Ne(不連続であるためNよりも小さい)で除算して、除算結果の平方根を標準偏差Dev(m)として計算する。
【数1】
【0091】
図13(A)は、この標準偏差Dev(m)の計算に用いられる記憶回折環及び検出回折環の一例を示している。なお、図13(A)においては、実線により記憶回折環が示され、点線により検出回折環が示されている。この場合、両回折環は、共に、原点(イメージングプレート28の回転軸すなわちX線照射位置)を中心とする真円から大きく形状と位置が変化しているわけではないので、周方向位置(すなわち変数n)が同じであるピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)との差を前記標準偏差Dev(m)の計算に利用することができる。そして、図13(B)は、ピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)との差の絶対値|rp(n)−rm(m,n)|が変数nに応じて変化する一例を示している。この標準偏差Dev(m)は、検出回折環と記憶回折環との形状の一致度の判定に利用されるもので、標準偏差Dev(m)が小さくなるに従って両回折環の形状の一致度が高いことを示す。
【0092】
なお、イメージングプレート28から測定対象物OBにおけるX線照射点までの距離L(図3のステップS112で検出)が、コントローラCTに記憶されている残留応力に対応させた回折環の半径値rm(m,n)の計算に用いた距離Loと一致していれば、ピーク半径rp(n)又は半径値rm(m,n)を前述のようにそのまま用いることができる。しかし、両距離L,Loに差がある場合には、ピーク半径rp(n)を下記数2に従ってピーク半径補正値rp’(n)に補正し、前記ピーク半径rp(n)に代えてピーク半径補正値rp’(n)を用いて標準偏差Dev(m)を求める。また、ピーク半径rp(n)に代えて、記憶されている半径値rm(m,n)を下記数3に従って半径補正値rm’(m,n)に補正し、前記半径値rm(m,n)に代えて半径補正値rm’(m,n)を用いて標準偏差Dev(m)を求めてもよい。
【数2】
【数3】
【0093】
前記ステップS616の処理後、コントローラCTは、ステップS618にて、変数mが「1」であるかを判定する。この場合、初期の状態で、変数mが「1」であれば、コントローラCTは、ステップS618にて「Yes」と判定し、ステップS622にて値m+Aが所定値M(変数mの最大値)よりも大きいか否かを判定する。値Aは、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度の判定処理において、演算処理を速めるために、初期において、検出回折環の形状を、全ての記憶回折環ではなく、所定数おきの記憶回折環の形状と比較するためのもので、例えば20〜40程度の値である。そして、初期においては、値m+Aは所定値Mよりも小さいので、コントローラCTは、ステップS622にて「No」と判定し、ステップS624にて変数mに値Aを加算して、前述したステップS614,S616の処理の実行により、値Aの加算後の変数mに関する標準偏差Dev(m)を計算する。
【0094】
そして、ステップS618の前述した判定処理を実行するが、この場合、変数mは「1」でないので、コントローラCTは、ステップS618にて「No」と判定して、ステップS620にて前回計算した標準偏差Dev(m−A)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−A)−Dev(m))が所定の負の値−D1以下であるか否かを判定する。この値−D1は、標準偏差Dev(m)の最小値を検出する為の所定値であり、絶対値の小さな負の値である。この場合、図14(C)の曲線の左側部分で示すように、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が徐々に高くなり、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−A)に比べて小さくなっている状態では、前記減算値(Dev(m−A)−Dev(m))は正の値であるので、コントローラCTは、ステップS620にて「No」と判定して、ステップS622,S624,S614〜S620の循環処理を繰返す。
【0095】
このステップS622,S624,S614〜S620の循環処理中、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−A)に比べて大きくなると、コントローラCTは、ステップS620にて「Yes」と判定して、ステップS626以降に進む。この状態は、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が最も高くなって標準偏差Dev(m)が最小値を通り過ぎた状態(図13(C)の曲線が左から右に上昇し始めた状態)である。なお、前記ステップS622,S624,S614〜S620の循環処理中、値m+Aが所定値Mよりも大きくなった場合には、すなわち標準偏差Dev(m)の最小値が存在しなかった場合には、コントローラCTは、ステップS622にて「Yes」と判定し、前述したステップS612の処理により、表示装置54に「残留応力の計算不可」を表示して、ステップS654にてこの残留応力計算プログラムの実行を終了する。この場合は、測定対象物OBのX方向残留応力が記憶されているX方向残留応力F(m)の範囲外であるか、装置に何らかの異常が発生している場合である。
【0096】
前述のように、標準偏差Dev(m)が最小値を通り過ぎて、ステップS620における「Yes」と判定後のステップS626においては、コントローラCTは、前記ステップS616の処理によって今まで計算したて全ての標準偏差Dev(m)(m=1,1+A,1+2・A・・)うちで最小である標準偏差Dev(m)を指定する変数mを、変数mとして新たに設定する。次に、コントローラCTは、ステップS628にて、前記新たに設定された変数mが「1」であるか否かを判定する。この場合、新たな変数mが「1」であれば、コントローラCTは、ステップS628にて「Yes」と判定し、前述したステップS612の処理により、表示装置54に「残留応力の計算不可」を表示して、ステップS654にてこの残留応力計算プログラムの実行を終了する。この場合も、測定対象物OBのX方向残留応力が記憶されているX方向残留応力F(m)の範囲外であるか、装置に何らかの異常が発生している場合である。
【0097】
一方、標準偏差Dev(m)の最小値が適正に検出されていて、変数mが「1」でなければ、コントローラCTは、ステップS628にて「No」と判定し、図8BのステップS630に進む。なお、この状態では、検出回折環の形状がいずれの記憶回折環の形状に一致するかがおおよそ分かっている。ステップS630においては、コントローラCTは、変数mに値s・aを加算する。この場合、変数s,aは前述したステップS602の処理よってそれぞれ「1」に設定された状態であるので、変数mには「1」が加算されたことになる。そして、前述したステップS614,S616と同様なステップS632,S634の処理により、変数mによって指定される記憶回折環の形状すなわち半径値rm(m,n)(n=1〜N)を平均値としたときの、検出回折環の形状すなわちピーク半径rp(n)の(n=1〜N)の標準偏差Dev(m)を計算する。
【0098】
次に、コントローラCTは、ステップS636にて、標準偏差Dev(m−s)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」より大きいか否かを判定する。この場合、変数sは「1」であるので、標準偏差Dev(m−s)は前回計算した標準偏差Dev(m−1)であり、ステップS636の判定処理により、現在の変数mによって指定される標準偏差Dev(m)が前回の標準偏差Dev(m−1)よりも減少しているか否かが判定される。いま、図13(C)の曲線の左側部分のように、標準偏差Dev(m)が減少傾向にあれば、コントローラCTは、ステップS636にて「Yes」と判定し、ステップS638に変数mに値sを加算する。この場合も、値sは「1」に設定されたままであるので、変数mは「1」だけ増加する。
【0099】
次に、コントローラCTは、前述したステップS614,S616と同様なステップS640,S642の処理により、変数mによって指定される記憶回折環の形状すなわち半径値rm(m,n)(n=1〜N)を平均値としたときの、検出回折環の形状すなわちピーク半径rp(n)の(n=1〜N)の標準偏差Dev(m)を計算する。そして、コントローラCTは、ステップS644にて、標準偏差Dev(m−s)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が所定の負の値−D2以下であるか否かを判定する。この場合にも、変数sは「1」であるので、ステップS644の判定処理も前述したステップS620の判定処理と同じである。また、この値−D2は、前述した値−D1と同種の最小値を検出する為の所定値であるが、後述する標準偏差Dev(m)とX方向残留応力F(m)との関係曲線を求めるために、最小値を通過した後に数個の標準偏差Dev(m)を必要とするので、前述した値−D1よりは少し小さな負の値(絶対値の大きな負の値)である。そして、この場合も、図14(C)の曲線の左側部分で示すように、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が徐々に高くなり、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−1)に比べて小さくなっている状態では、前記減算値(Dev(m−1)−Dev(m))は正の値であるので、コントローラCTは、ステップS644にて「No」と判定して、ステップS638〜S644の循環処理を繰返す。この場合、前述した場合と異なるのは、変数mが「1」ずつ増加される点である。
【0100】
このステップS638〜S644の循環処理中、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−s)(すなわちDev(m−1))に比べて所定値ΔD2以上大きくなると、コントローラCTは、ステップS644にて「Yes」と判定して、ステップS652に進む。この状態は、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が最も高くなって標準偏差Dev(m)が最小値を通り過ぎた状態(図13(C)の曲線が左側から右側方向に上昇し始めた状態)である。
【0101】
一方、前記ステップS636の判定処理時に、標準偏差Dev(m−s)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」より小さければ、コントローラCTは、ステップS636にて「No」と判定して、ステップS646に進む。この場合も、変数sは未だ「1」であるので、標準偏差Dev(m−s)は前回計算した標準偏差Dev(m−1)であり、この状態は、現在の変数mによって指定される標準偏差Dev(m)が前回の標準偏差Dev(m−1)よりも増加していることを表している。すなわち、この状態では、図13(C)の曲線の右側部分のように、標準偏差Dev(m)が増加傾向にある。
【0102】
ステップS646においては、変数aが「2」であるかが判定される。この場合、変数aは未だ前述したステップS602の処理によって「1」に設定されたままである。したがって、コントローラCTは、ステップS646にて「No」と判定し、ステップS648にて変数sを「−1」に設定し、ステップS650にて変数aを「2」に設定する。そして、コントローラCTは、前述したステップS630〜S636の処理を実行する。しかし、この場合、変数sは「−1」に変更され、かつ変数aは「2」に変更されているので、ステップS630の処理によって変数mは前回よりも「2」だけ小さくなり、ステップS632,S634の処理によって前回よりも「2」だけ小さな変数mによって指定される半径値rm(m,n)に関する標準偏差Dev(m)が計算されることになる。
【0103】
そして、ステップS636にて、標準偏差Dev(m−s)から今回計算した標準偏差Dev(m)を減算した減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」より大きいか否かがふたたび判定される。しかし、この場合には、前記ステップS636の判定結果とは無関係にステップS638以降に進められる。すなわち、前記減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」より大きければ、コントローラCTは、ステップS636にて「Yes」と判定してステップS638に進む。一方、前記減算値(Dev(m−s)−Dev(m))が「0」以下であれば、ステップS636にて「No」と判定されてステップS646に進められるが、変数aは「2」に設定されているので、ステップS646にて「Yes」と判定されてステップS638に進められる。
【0104】
このようにして、この場合も、前述したステップS638〜S644の処理が実行される。ただし、この場合には、変数sは「−1」に設定されているので、ステップS638〜S642の処理により、変数mを「1」ずつ減少させながら、すなわち図13(C)において右側から左側に向けて、標準偏差Dev(m)が計算される。そして、ステップS644の処理により、今回計算した標準偏差Dev(m)が前回計算した標準偏差Dev(m−s)(すなわちDev(m+1))に比べて所定値ΔD2以上大きくなると、コントローラCTは、ステップS644にて「Yes」と判定して、ステップS652に進む。この状態は、検出回折環と記憶回折環の形状の一致度が最も高くなって標準偏差Dev(m)が最小値を通り過ぎた状態(図13(C)の曲線が右側方向から左側方向に上昇し始めた状態)である。
【0105】
ステップS652においては、コントローラCTは、ステップS634,S642の処理によって計算された標準偏差Dev(m)と、前記標準偏差Dev(m)の計算に用いられた変数mによって指定されるX方向残留応力F(m)とを用いて、X方向残留応力F(m)と標準偏差Dev(m)の連続した関係曲線を求める(図13(C)参照)。そして、この連続した関係曲線から、標準偏差Devが最小となるX方向残留応力Fを計算して、計算したX方向残留応力Fを測定対象物OBのX方向残留応力とする。前記ステップS652の処理後、コントローラCTは、ステップS654にて残留応力計算プログラムの実行を終了する。
【0106】
上記動作説明からも理解できるように、上記実施形態においては、コントローラCT内に、X方向残留応力F(m)(m=1〜M)の変化に応じて変化する複数の比較対象となる回折環の半径値rm(m,n)(m=1〜M,n=1〜N)がX方向残留応力F(m)(m=1〜M)に対応してそれぞれ記憶されている。そして、図8A及び図8BのステップS602,S614〜S650の処理により、半径値rm(m,n)(m=1〜M,n=1〜N)に対する測定対象物OBの検出された回折環のピーク半径rp(n)(n=1〜N)の一致度合いを表す標準偏差Dev(m)がそれぞれ計算される。この標準偏差Dev(m)の計算においては、標準偏差Dev(m)は、検出回折環と記憶回折環の一致度合いが高いことを表す最小値に向かって計算されるとともに、最小値を通過して前記一致度合いが多少低くなる状態まで計算される。そして、図8BのステップS652の処理により、前記記憶されているX方向残留応力F(m)(m=1〜M)と計算された標準偏差Dev(m)との関係に基づいて、標準偏差Devが最小となる、すなわち前記検出された測定対象物OBの回折環の形状に最も近い形状の記憶回折環に対応したX方向残留応力F(m)が、測定対象物OBの残留応力として計算される。したがって、ステップS102〜S126の処理によりイメージングプレート28に撮像され、かつステップS202〜S246,S302〜S320の処理により検出された測定対象物OBの回折環すなわちピーク半径rp(n)が不連続であっても、測定対象物OBの残留応力を精度よく求めることができる。
【0107】
また、上記実施形態においては、ステップS502〜S514の処理により、形状が検出された測定対象物OBの回折環のピーク半径rp(n)の不連続の度合いが評価される。そして、測定対象物OBの回折環すなわちピーク半径rp(n)の不連続の度合いが大きいと評価されると、ステップS604の判定処理にしたがって、前記記憶されたX方向残留応力F(m)及び回折環の半径値rm(m,n)を用いて測定対象物OBのX方向残留応力が計算される。また、測定対象物OBの回折環すなわちピーク半径rp(n)の不連続の度合いが大きくないと評価されると、ステップS604の判定処理にしたがって、ステップS606,S608の処理により、検出された測定対象物OBの回折環の形状のみに基づいて測定対象物OBのX方向残留応力が計算される。そして、この場合には、ステップS606の補間処理により、不足しているピーク半径rp(n)が補充される。その結果、測定対象物OBのX方向残留応力をより精度よく求めることができる。
【0108】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0109】
上記実施形態においては、回折環の形状は、主に、X方向残留応力、Y方向残留応力及びせん断残留応力によって決まるために、撮像した回折環の形状と記憶してある回折環の形状(X方向残留応力のみによる回折環の形状)とが完全に一致することはないが、X方向残留応力が等しいときには、標準偏差Dev(m)が最も小さくなることを利用して、撮像した回折環と記憶してある回折環との形状の一致度に基づいてX方向残留応力を求めるようにした。しかし、これに代えて、撮像した回折環の形状を、Y方向残留応力とせん断残留応力が「0」である場合の形状、すなわち楕円形状になるように補正し、補正した回折環と記憶してある回折環との形状の一致度に基づいてX方向残留応力を求めるようにしてもよい。これによれば、X方向残留応力が等しいときには、補正した回折環の形状は記憶してある回折環の形状とほぼ一致し、標準偏差Dev(m)を「0」に極めて近づけることができる。
【0110】
また、上記実施形態では撮像した回折環の形状と記憶してある回折環の形状との一致度を、標準偏差Dev(m)を用いて判定するようにした。しかし、この標準偏差Dev(m)に代えて、下記数2に示すように、1〜Nにわたって変化する変数nでrp(n)が存在しているnのそれぞれに対して、ピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)の差の2乗値を全て加算し、加算結果をピーク半径rp(n)の数Neで除算した分散を用いるようにしてもよい。
【数4】
【0111】
また、下記数3に示すように、1〜Nにわたって変化する変数nでrp(n)が存在しているnのそれぞれに対して、ピーク半径rp(n)と半径値rm(m,n)の差の絶対値を全て加算し、加算結果をピーク半径rp(n)の数Neで除算した平均偏差を用いるようにしてもよい。
【数5】
【0112】
また、上記実施形態では、回折環の不連続の度合いを評価し、この度合いにより残留応力の計算方法に通常の計算方法(cosα方法)を採用するか、記憶したX方向残留応力ごとの半径値rm(m,n)を用いた方法を採用するかを選択するようにした。しかし、測定対象物OBの回折環が不連続になることが分かっている場合には、回折環の不連続の度合いの評価を行うことなく、前記記憶したX方向残留応力ごとの半径値rm(m,n)を用いた方法でX方向残留応力を求めるようにしてもよい。
【0113】
また、上記実施形態においては、イメージングプレート28の回転角度が所定の回転角度になるごとに、信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を記憶するようにした。しかし、これに代えて、所定の時間間隔で、イメージングプレート28の回転角度θ(n,m)、信号強度S(n,m)及び半径r(n,m)を取得して記憶してもよい。
【0114】
また、上記実施形態においては、受光センサ31によって受光した反射光の受光位置を用いて、測定対象物OBの高さ方向の位置が、所定の範囲内にあるか否かを判定し、所定の範囲内になければ、作業者が昇降ステージ12aの高さを調整するようにした。しかし、受光センサ31の受光位置が表す測定対象物OBの高さ方向の位置が所定の範囲内にあるように、昇降ステージ12aの高さが自動的に調整されるように構成してもよい。これによれば、作業者がセットした測定対象物OBの高さ方向の位置が、受光センサ31が反射光を受光できる範囲にありさえすれば、作業者が昇降ステージ12aの高さを調整する必要が無いので、作業効率を向上させることができる。なお、例えば上記従来のX線検出装置のように、イメージングプレート28と測定対象物OBとの距離が常に一定になるように構成されていれば、受光センサ31は不要である。
【0115】
また、上記実施形態においては、受光センサ31の受光位置を用いて、撮像した回折環の半径が回折環基準半径R0からずれる可能性のある領域を想定して、読取り開始位置を決定するようにした。しかし、回折環基準半径R0を用いることなく、常に一定の領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート28の全領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。また、LED53による可視光の照射についても同様に、常に一定の領域にLED53から発せられた可視光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート28の全領域にLED53からの可視光を照射するようにしてもよい。ただし、この場合、上記実施形態よりも測定時間が長くなる。
【0116】
また、上記実施形態においては、レーザ検出装置PUHは、フォーカスサーボ制御されるようにしたが、イメージングプレート28を回転させた際のイメージングプレート28の受光面と対物レンズ39との距離の変動が微小であれば、フォーカスサーボ制御は不要である。
【0117】
また、上記実施形態においては、イメージングプレート28に照射されるレーザ光は、一定強度のレーザ光としたが、これに代えて、予め設定されたハイレベルの強度と、予め設定されたローレベルの強度が繰り返されるパルス状のレーザ光とし、ハイレベルの強度になるタイミングでSUM信号の瞬時値を取得するようにしてもよい。この場合、イメージングプレート28のSUM信号の瞬時値を取得するポイントに瞬間的にハイレベルの強度のレーザ光を照射する。すなわち、SUM信号の瞬時値を取得するポイントにレーザ光が向かう状態では、レーザ光の強度はローレベルであり、輝尽発光により発生する光はほとんど無い。そして、SUM信号の瞬時値を取得するポイントに近づいたとき、レーザ光の強度がハイレベルになって輝尽発光による光が発生する。常にハイレベルの強度のレーザ光を照射した場合は、輝尽発光による光が生じ続けることで光の強度が減少するが、上記のように構成すれば、輝尽発光によって大きな強度の光が発生したタイミングで、SUM信号の瞬時値を取得することができる。
【符号の説明】
【0118】
13…X線出射器、15…移動ステージ、18…フィードモータ、21…位置検出回路、24…スピンドルモータ、26…回転角度検出回路、27…テーブル、28…イメージングプレート、31…受光センサ、33…レーザ光源、34…レーザ駆動回路、39…対物レンズ、43…フォトディテクタ、44…増幅回路、48…SUM信号生成回路、49…A/D変換回路、52…LED、54…表示装置、55…入力装置、CT…コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射器と、
中央に前記X線を通過させる貫通孔が形成されたテーブルと、
前記テーブルに取付けられて、中央部にて前記X線を通過させるとともに、前記測定対象物にて回折した前記X線の回折光を受光する受光面を有し、前記回折光の像である回折環を記録するイメージングプレートと、
レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、前記レーザ光を前記イメージングプレートの受光面に照射するとともに、前記レーザ光の照射によって前記イメージングプレートから出射された光を受光して受光強度に応じた受光信号を出力するレーザ検出装置と、
前記テーブルを、前記貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段と、
前記テーブルを、前記イメージングプレートの受光面に平行な方向に、前記レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記移動手段を制御して前記テーブルを移動し、前記X線出射器から対象とする測定対象物に向けてX線を照射して、前記測定対象物で回折したX線によって前記イメージングプレートに測定対象物による回折環を撮像する回折環撮像手段と、
前記回転手段及び移動手段を制御して前記測定対象物の回折環が記録された前記イメージングプレートを回転及び移動させて、前記レーザ検出装置から出射されるレーザ光の前記イメージングプレートにおける照射位置を前記イメージングプレートの中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させながら、前記レーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力して、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを、レーザ光のイメージングプレートにおける照射位置と関連付けて順次読取り、前記読取った受光強度データに基づいて前記イメージングプレートに形成された測定対象物の回折環の形状を検出する回折環形状検出手段と、
前記測定対象物と同一材料の比較対象物に対してX線の照射によって前記イメージングプレートに形成される比較回折環を想定し、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群を残留応力に対応させてそれぞれ記憶した回折環形状データ記憶手段と、
前記回折環形状データ記憶手段に記憶された回折環形状データ群によって表された複数の比較回折環の形状に対する前記検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算する一致度合い計算手段と、
前記回折環形状データ記憶手段に記憶されている残留応力と、前記一致度合い計算手段によって計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する第1残留応力計算手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線回折測定装置において、さらに、
前記回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環の形状のみに基づいて測定対象物の残留応力を計算する第2残留応力計算手段と、
前記回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環の不連続の度合いを評価する不連続評価手段と、
前記不連続評価手段によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きいと評価されたとき、前記第1残留応力計算手段による測定対象物の残留応力の計算を選択し、かつ前記不連続評価手段によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きくないと評価されたとき、前記第2残留応力計算手段による測定対象物の残留応力の計算を選択する残留応力計算選択手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線回折測定装置において、
前記検出された測定対象物の回折環の形状及び前記比較回折環の形状は、前記X線の通過位置を中心とする円座標によって表されており、
前記一致度合い計算手段は、同一周方向位置における前記検出された測定対象物の回折環の半径値と前記比較回折環の半径値との差に応じて前記一致度合いを計算することを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項4】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射器と、
中央に前記X線を通過させる貫通孔が形成されたテーブルと、
前記テーブルに取付けられて、中央部にて前記X線を通過させるとともに、前記測定対象物にて回折した前記X線の回折光を受光する受光面を有し、前記回折光の像である回折環を記録するイメージングプレートと、
レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、前記レーザ光を前記イメージングプレートの受光面に照射するとともに、前記レーザ光の照射によって前記イメージングプレートから出射された光を受光して受光強度に応じた受光信号を出力するレーザ検出装置と、
前記テーブルを、前記貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段と、
前記テーブルを、前記イメージングプレートの受光面に平行な方向に、前記レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段とを備えたX線回折測定装置に適用され、
前記測定対象物と同一材料の比較対象物に対してX線の照射によって前記イメージングプレートに形成される比較回折環を想定し、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群を残留応力に対応させてそれぞれ記憶しておき、
前記移動手段を制御して前記テーブルを移動し、前記X線出射器から対象とする測定対象物に向けてX線を照射して、前記測定対象物で回折したX線によって前記イメージングプレートに測定対象物による回折環を撮像する回折環撮像工程と、
前記回転手段及び移動手段を制御して前記測定対象物の回折環が記録された前記イメージングプレートを回転及び移動させて、前記レーザ検出装置から出射されるレーザ光の前記イメージングプレートにおける照射位置を前記イメージングプレートの中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させながら、前記レーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力して、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを、レーザ光のイメージングプレートにおける照射位置と関連付けて順次読取り、前記読取った受光強度データに基づいて前記イメージングプレートに形成された測定対象物の回折環の形状を検出する回折環形状検出工程と、
前記記憶された回折環形状データ群によって表された複数の比較回折環の形状に対する前記検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算する一致度合い計算工程と、
前記記憶されている残留応力と、前記一致度合い計算工程によって計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する第1残留応力計算工程とを含むことを特徴とする残留応力測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の残留応力測定方法において、さらに、
前記回折環形状検出工程によって検出された測定対象物の回折環の形状のみに基づいて測定対象物の残留応力を計算する第2残留応力計算工程と、
前記回折環形状検出工程によって検出された測定対象物の回折環の不連続の度合いを評価する不連続評価工程と、
前記不連続評価工程によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きいと評価されたとき、前記第1残留応力計算工程による測定対象物の残留応力の計算を選択し、かつ前記不連続評価工程によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きくないと評価されたとき、前記第2残留応力計算工程による測定対象物の残留応力の計算を選択する残留応力計算選択工程とを含むことを特徴とする残留応力測定方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の残留応力測定方法において、
前記検出された測定対象物の回折環の形状及び前記比較回折環の形状は、前記X線の通過位置を中心とする円座標によって表されており、
前記一致度合い計算工程は、同一周方向位置における前記検出された測定対象物の回折環の半径値と前記比較回折環の半径値との差に応じて前記一致度合いを計算することを特徴とする残留応力測定方法。
【請求項1】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射器と、
中央に前記X線を通過させる貫通孔が形成されたテーブルと、
前記テーブルに取付けられて、中央部にて前記X線を通過させるとともに、前記測定対象物にて回折した前記X線の回折光を受光する受光面を有し、前記回折光の像である回折環を記録するイメージングプレートと、
レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、前記レーザ光を前記イメージングプレートの受光面に照射するとともに、前記レーザ光の照射によって前記イメージングプレートから出射された光を受光して受光強度に応じた受光信号を出力するレーザ検出装置と、
前記テーブルを、前記貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段と、
前記テーブルを、前記イメージングプレートの受光面に平行な方向に、前記レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記移動手段を制御して前記テーブルを移動し、前記X線出射器から対象とする測定対象物に向けてX線を照射して、前記測定対象物で回折したX線によって前記イメージングプレートに測定対象物による回折環を撮像する回折環撮像手段と、
前記回転手段及び移動手段を制御して前記測定対象物の回折環が記録された前記イメージングプレートを回転及び移動させて、前記レーザ検出装置から出射されるレーザ光の前記イメージングプレートにおける照射位置を前記イメージングプレートの中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させながら、前記レーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力して、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを、レーザ光のイメージングプレートにおける照射位置と関連付けて順次読取り、前記読取った受光強度データに基づいて前記イメージングプレートに形成された測定対象物の回折環の形状を検出する回折環形状検出手段と、
前記測定対象物と同一材料の比較対象物に対してX線の照射によって前記イメージングプレートに形成される比較回折環を想定し、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群を残留応力に対応させてそれぞれ記憶した回折環形状データ記憶手段と、
前記回折環形状データ記憶手段に記憶された回折環形状データ群によって表された複数の比較回折環の形状に対する前記検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算する一致度合い計算手段と、
前記回折環形状データ記憶手段に記憶されている残留応力と、前記一致度合い計算手段によって計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する第1残留応力計算手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線回折測定装置において、さらに、
前記回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環の形状のみに基づいて測定対象物の残留応力を計算する第2残留応力計算手段と、
前記回折環形状検出手段によって検出された測定対象物の回折環の不連続の度合いを評価する不連続評価手段と、
前記不連続評価手段によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きいと評価されたとき、前記第1残留応力計算手段による測定対象物の残留応力の計算を選択し、かつ前記不連続評価手段によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きくないと評価されたとき、前記第2残留応力計算手段による測定対象物の残留応力の計算を選択する残留応力計算選択手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線回折測定装置において、
前記検出された測定対象物の回折環の形状及び前記比較回折環の形状は、前記X線の通過位置を中心とする円座標によって表されており、
前記一致度合い計算手段は、同一周方向位置における前記検出された測定対象物の回折環の半径値と前記比較回折環の半径値との差に応じて前記一致度合いを計算することを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項4】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射器と、
中央に前記X線を通過させる貫通孔が形成されたテーブルと、
前記テーブルに取付けられて、中央部にて前記X線を通過させるとともに、前記測定対象物にて回折した前記X線の回折光を受光する受光面を有し、前記回折光の像である回折環を記録するイメージングプレートと、
レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、前記レーザ光を前記イメージングプレートの受光面に照射するとともに、前記レーザ光の照射によって前記イメージングプレートから出射された光を受光して受光強度に応じた受光信号を出力するレーザ検出装置と、
前記テーブルを、前記貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段と、
前記テーブルを、前記イメージングプレートの受光面に平行な方向に、前記レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段とを備えたX線回折測定装置に適用され、
前記測定対象物と同一材料の比較対象物に対してX線の照射によって前記イメージングプレートに形成される比較回折環を想定し、残留応力の変化に応じて変化する複数の比較回折環の形状を表す回折環形状データ群を残留応力に対応させてそれぞれ記憶しておき、
前記移動手段を制御して前記テーブルを移動し、前記X線出射器から対象とする測定対象物に向けてX線を照射して、前記測定対象物で回折したX線によって前記イメージングプレートに測定対象物による回折環を撮像する回折環撮像工程と、
前記回転手段及び移動手段を制御して前記測定対象物の回折環が記録された前記イメージングプレートを回転及び移動させて、前記レーザ検出装置から出射されるレーザ光の前記イメージングプレートにおける照射位置を前記イメージングプレートの中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させながら、前記レーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力して、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを、レーザ光のイメージングプレートにおける照射位置と関連付けて順次読取り、前記読取った受光強度データに基づいて前記イメージングプレートに形成された測定対象物の回折環の形状を検出する回折環形状検出工程と、
前記記憶された回折環形状データ群によって表された複数の比較回折環の形状に対する前記検出された測定対象物の回折環の形状の一致度合いをそれぞれ計算する一致度合い計算工程と、
前記記憶されている残留応力と、前記一致度合い計算工程によって計算された一致度合いとの関係に基づいて、前記検出された測定対象物の回折環の形状に最も近い形状の比較回折環に対応した残留応力を測定対象物の残留応力として計算する第1残留応力計算工程とを含むことを特徴とする残留応力測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の残留応力測定方法において、さらに、
前記回折環形状検出工程によって検出された測定対象物の回折環の形状のみに基づいて測定対象物の残留応力を計算する第2残留応力計算工程と、
前記回折環形状検出工程によって検出された測定対象物の回折環の不連続の度合いを評価する不連続評価工程と、
前記不連続評価工程によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きいと評価されたとき、前記第1残留応力計算工程による測定対象物の残留応力の計算を選択し、かつ前記不連続評価工程によって測定対象物の回折環の不連続の度合いが大きくないと評価されたとき、前記第2残留応力計算工程による測定対象物の残留応力の計算を選択する残留応力計算選択工程とを含むことを特徴とする残留応力測定方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の残留応力測定方法において、
前記検出された測定対象物の回折環の形状及び前記比較回折環の形状は、前記X線の通過位置を中心とする円座標によって表されており、
前記一致度合い計算工程は、同一周方向位置における前記検出された測定対象物の回折環の半径値と前記比較回折環の半径値との差に応じて前記一致度合いを計算することを特徴とする残留応力測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−113734(P2013−113734A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260616(P2011−260616)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000112004)パルステック工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000112004)パルステック工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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