説明

X線回折測定装置

【課題】X線回折測定装置において、高精度で回折環を検出できるようにする。
【解決手段】コントローラCTは、測定対象物にて回折したX線による回折環を記録した回折光受光器28にレーザ光を照射して回折環を測定する。コントローラCTは、レーザ光が照射されている位置の半径値が増加するに従って大きくなる回折X線の減衰量の変化を補正するように、半径値を用いてレーザ光強度を計算して、計算したレーザ光強度のレーザ光を回折光受光器28に照射する。また、コントローラCTは、前記半径値が増加するに従って大きくなる測定対象物にX線を照射した際の回折X線が受光される面積の変化を補正するように、前記半径値を用いてフォーカス制御値を計算して、前記計算したフォーカス制御値に応じて対物レンズによるフォーカス位置を制御して、回折光受光器28に形成されるレーザ光のスポット径を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物にて回折したX線を受光面で受光して、受光面に形成される回折環の形状や回折環ごとの強度を測定し、この形状や強度から測定対象物の残留応力や測定対象物の構成物質の特定の相の割合など、測定対象物の特性を評価するX線回折測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物の残留応力や特定の相の割合をX線回折により測定することはよく行われている。X線回折装置において、装置が小型化できX線の照射時間を短くすることが可能な方法として、下記特許文献1に示された装置がある。この装置は、X線を所定の角度で測定対象物に照射し、測定対象物にて回折したX線(以下、回折X線という)を、感光性を有するイメージングプレートで受光し、イメージングプレートに形成された環状のX線回折像(以下、回折環という)の形状を分析するcosα法により、測定対象物の残留応力を算出している。下記特許文献1では回折環の形状を測定する際における二つの方法が示されている。一つの方法は、He−Neレーザ光などの励起光でイメージングプレート上を走査し、回折環の画像を得る方法であり、他の一つの方法は、X線CCDで回折X線を受光し、X線CCDの各画素が出力する信号から回折環の画像を得る方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−241308号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、発明者が多くの実験により確認した結果、いずれの方法も回折環の半径方向の強度分布の精度が良好でないことが分かった。具体的には、第1の問題は、回折環に対するレーザ光の照射によって得られる受光信号の強度が、半径値が大きい位置ほど小さくなることである。これは、次の(1)(2)の理由によるものと考えられる。
(1)X線の強度は、空気による吸収により、X線の発生原点からの距離が大きくなるほど小さくなる。発生原点のX線の強度をIoとするとともに、空気による吸収係数をμとすると、発生原点から距離Aだけ離れた位置のX線の強度Iは下記数1によって表される。
【数1】

したがって、図20に示すように、回折環の半径が大きくなるほど、回折X線の発生原点(測定対象物へのX線の照射位置)Oからイメージングプレート28までの距離は大きくなるので(d1<d2<d3)、回折X線の強度が小さくなる。
【0005】
(2)回折環に対するレーザ光の照射によって得られる受光信号の単位面積当たりの強度が、半径値が大きい位置ほど小さくなる。すなわち、回折X線は進行方向に広がるので、回折環の半径が大きくなるほど、回折X線の発生原点Oからイメージングプレート28までの距離は大きくなり、単位面積当たりの回折X線の強度は小さくなる。さらに、回折環の半径が大きくなるほど、回折X線がイメージングプレート28に照射される方向に垂直な平面と、イメージングプレートの平面とのなす角度は大きくなるので(θ1<θ2<θ3)、回折X線は半径方向に延びて単位面積当たりの回折X線の強度がさらに小さくなる。
【0006】
そして、このように半径が大きくなる位置ほど、レーザ光の照射による受光信号の強度が小さくなることにより、回折環を形成した回折X線の強度の本来の値からのずれが大きくなる。特に、複数の回折環が記録されている場合、内側の回折環からの受光信号の強度に比べて、外側の回折環からの受光信号の強度が小さく測定されるので、複数の回折環をそれぞれ形成した回折X線間の強度の比較が難しくなる。また、1つの回線環に関しても、半径が大きくなる位置ほど受光信号の強度が小さくなるので、図21に誇張して実線で示すように、半径が小さい側に受光信号すなわち回折X線のピークが寄る形状となり、点線で示す理想の強度分布曲線を得ることができない。その結果、従来技術においては、測定対象物の残留応力、測定対象物の構成物質における特定の相の割合などを精度よく測定することができない。
【0007】
さらに、第2の問題は、前記(2)のように、半径が大きくなる位置ほど回折X線による回折環が半径方向に広がって間延びして形成されていて、受光信号の強度分布が半径方向に対称でないために、一定の速度でレーザ光を半径方向に移動させながら回折環に照射した場合、回折環を精度よく測定できないことである。特に、複数の回折環が記録されている場合、内側の回折環の半径方向幅に比べて、外側の回折環の半径方向幅が大きく形成されるので、回折環の半径方向幅の比較が難しくなる。また、1つの回線環に関しても、回折環が半径方向に対称に形成されていないので、受光信号の半径方向の分布がピークを挟んで対称にならず、回折環の形状の測定も良好でなくなる。その結果、従来技術においては、測定対象物の残留応力、測定対象物の構成物質における特定の相の割合などを精度よく測定することができない。
【0008】
本発明は上記第1及び第2の問題を解決するためになされたもので、その目的は、測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線を受光面で受光し、回折X線により受光面に形成される回折環の形状や回折環ごとの強度を測定し、この形状や強度から測定対象物の残留応力や測定対象物の構成物質における特定の相の割合など、測定対象物を評価するX線回折装置において、イメージングプレートの形状、設置位置を変えることなく、回折環の半径方向の強度分布が回折X線の発生原点から同一半径にある球面で回折X線を受光した場合である、本来の回折環の強度分布曲線になるようにし、高精度で測定対象物の残留応力が測定でき、また高精度で測定対象物の構成物質における特定の相の割合を測定することができるX線回折測定装置を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、後述する実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、この実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、測定対象物に向けてX線を出射するX線出射器(13)と、中央にX線を通過させる貫通孔が形成されたテーブル(27)と、テーブルに固定されていて、測定対象物にて回折したX線の回折光を受光する受光面を有し、回折光の像である回折環を記録する回折光受光器(28)と、レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、レーザ光を回折光受光器の受光面に照射するとともに、レーザ光の照射によって回折光受光器から出射された光を受光して受光強度を表す受光信号を出力するレーザ検出装置(PUH)と、テーブルを、貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段(24,25)と、テーブルを、回折光受光器の受光面に平行な方向に、レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段(15,17,18,22)と、移動手段によるテーブルの移動位置を検出する位置検出回路(21)と、回転手段及び移動手段を制御して回折環が記録された回折光受光器を回転及び移動させて、レーザ検出装置から出射されるレーザ光の回折光受光器における照射位置を回折光受光器の中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させる照射位置制御手段(CT,S208,S216)と、照射位置制御手段により回折光受光器におけるレーザ光の照射位置を回折光受光器の中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させている状態で、複数の位置でレーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力し、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを複数の位置にそれぞれ対応させて順次記憶するとともに、位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置に基づいて回折光受光器の中心から複数の位置までの距離をそれぞれ計算して前記計算した距離を表すデータを半径値データとして複数の位置にそれぞれ対応させて順次記憶するデータ読取り手段(CT,S222,S224,S228)とを備え、X線出射器から測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線によって回折光受光器に記録された回折環を測定するX線回折測定装置において、位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置を用いて、回折光受光器の中心からレーザ光の照射位置までの距離が大きくなるに従って、レーザ光源から出射されるレーザ光の強度が大きくなるようにレーザ光源を制御し、X線出射器から測定対象物にX線を照射して回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の減衰量の変化を補償するレーザ光強度制御手段(CT,S302,S304,34)と、位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置を用いて、回折光受光器の中心からレーザ光の照射位置までの距離が大きくなるに従って、回折光受光器に形成されるレーザ光のスポット径が大きくなるように、レーザ光のフォーカス位置の変更によりレーザ光のスポット径を制御し、X線出射器から測定対象物にX線を照射して回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の受光面積の変化を補償するレーザ光スポット制御手段(CT,S302,S306,40,47,49)とを設けたことにある。
【0010】
前記第1の発明においては、レーザ光強度制御手段の作用により、回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の減衰量の変化が補償されるとともに、光スポット制御手段の作用により、回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の受光面積の変化が補償される。これにより、空気による回折X線の吸収及び回折X線の広がりにより、回折光受光器で半径が大きくなる位置ほどレーザ光の照射による受光信号の強度が小さくなることが補償されるので、回折X線の半径方向の強度の分布が是正されて回折環の測定精度が良好となり、測定対象物の残留応力、測定対象物の構成物質における特定の相の割合などを精度よく測定することができるようになる。
【0011】
また、第2の発明は、前記第1の発明におけるレーザ光強度制御手段及び光スポット制御手段に代えて、位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置を用いて、回折光受光器の中心からレーザ光の照射位置までの距離が大きくなるに従って、レーザ光源から出射されるレーザ光の強度が大きくなるようにレーザ光源を制御し、X線出射器から測定対象物にX線を照射して回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の減衰量の変化を補償するとともに、X線出射器から測定対象物にX線を照射して回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の受光面積の変化を補償するレーザ光強度制御手段(CT,S302,S304,34)を設けたことにある。
【0012】
前記第2の発明においては、レーザ光強度制御手段の作用により、回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の減衰量の変化及び回折X線の受光面積の変化が補償される。その結果、第2の発明によっても、空気による回折X線の吸収及び回折X線の広がりにより、回折光受光器で半径が大きくなる位置ほどレーザ光の照射による受光信号の強度が小さくなることが補償されるので、回折X線の半径方向の強度の分布が是正されて回折環の測定精度が良好となり、測定対象物の残留応力、測定対象物の構成物質における特定の相の割合などを精度よく測定することができるようになる。
【0013】
また、第3の発明は、前記第1又は第2の発明において、さらに、位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置を用いて、回折光受光器の中心からレーザ光の照射位置までの距離が大きくなるに従って、回折光受光器に照射されるレーザ光の半径方向の移動速度が速くなるように、移動手段のテーブルの移動速度の変更によりレーザ光の半径方向の移動速度を制御し、X線出射器から測定対象物にX線を照射して回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の回折光受光器の半径方向の距離の変化を補償する半径方向移動速度制御手段(CT,S302,S308)を設けたことにある。
【0014】
前記第3の発明においては、半径方向移動速度制御手段の作用により、回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の回折光受光器の半径方向の距離の変化が補償される。その結果、第3の発明によれば、回折環の半径が大きくなって回折X線の半径方向における強度分布曲線の横軸が間延びすることが修正されるとともに、受光信号の強度分布が修正されて、回折環の半径によらずに、回折環の測定精度が良好となり、測定対象物の残留応力、測定対象物の構成物質における特定の相の割合などを精度よく測定することができるようになる。
【0015】
また、第4の発明は、前記第3の発明における半径方向移動速度制御手段に代えて、半径値データを変換する半径値データ変換手段であって、回折X線の発生原点を中心として前記記憶された半径値データにより表された距離のうちで最小の距離を表す位置までの距離を半径とする球を想定し、複数の位置に対応した半径値データによって表された距離と前記最小の距離との差である各半径方向距離を、前記最小の距離を表す位置からの前記想定した球の球面上の距離に変換するとともに、前記変換した距離に前記最小の距離を加算した距離を半径値データとする半径値データ変換手段(CT,S602)を設けたことにある。
【0016】
前記第4の発明においては、半径値データ変換手段の半径値データの変換により、受光強度データを記憶した複数の位置が実質的に1つの球面上の位置となり、回折X線の出射方向による回折X線の回折光受光器の半径方向における広がりの変化が補償されるので、この場合も、回折環の半径が大きくなって回折X線の強度分布曲線の横軸が間延びすることが修正されるとともに、受光信号の強度分布が修正されて、回折環の半径によらずに、回折環の測定精度が良好となり、精度よく測定対象物の残留応力及び測定対象物の構成物質における特定の相の割合を測定することができるようになる。
【0017】
また、第5の発明は、前記第1の発明におけるレーザ光強度制御手段及び光スポット制御手段に代えて、又は前記第2の発明のレーザ光強度制御手段に代えて、X線出射器から測定対象物にX線を照射して回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の減衰量の変化を補償するとともに、X線出射器から測定対象物にX線を照射して回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の受光面積の変化を補償するために、データ読取り手段によって記憶された受光強度データを、前記受光強度データに対応する前記半径値データにより表された距離に応じて変更する受光強度データ変更手段(CT,S601)を設けたことにある。
【0018】
前記第5の発明においては、受光強度データ変更の作用により、回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の減衰量の変化及び回折X線の受光面積の変化が補償される。その結果、第5の発明によっても、空気による回折X線の吸収及び回折X線の広がりにより、半径が大きくなる位置ほどレーザ光の照射による受光信号の強度が小さくなることが補償されるので、回折X線の半径方向の強度の分布が修正されて回折環の測定精度が良好となり、測定対象物の残留応力、測定対象物の構成物質における特定の相の割合などを精度よく測定することができるようになる。
【0019】
また、第6の発明は、前記第5の発明において、半径値データを変換する半径値データ変換手段であって、回折X線の発生原点を中心として前記記憶された半径値データにより表された距離のうちで最小の距離を表す位置までの距離を半径とする球を想定し、複数の位置に対応した半径値データによって表された距離と前記最小の距離との差である各半径方向距離を、前記最小の距離を表す位置からの前記想定した球の球面上の距離に変換するとともに、前記変換した距離に前記最小の距離を加算した距離を半径値データとする半径値データ変更手段(CT,S602)を設けたことにある。
【0020】
前記第6の発明においては、前記第4の発明と同様に、半径値データ変換手段の半径値データの変換により、回折環の半径が大きくなって回折X線の強度分布曲線の横軸が間延びすることが修正されるとともに、受光信号の強度分布が修正されるので、回折環の半径によらずに、回折環の測定精度が良好となり、精度よく測定対象物の残留応力及び測定対象物の構成物質における特定の相の割合を測定することができるようになる。
【0021】
さらに、本発明の実施にあたっては、本発明は、X線回折測定装置の発明に限定されることなく、X線回折測定方法の発明としても実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置の全体概略図である。
【図2】図1のX線回折測定装置の本体部分を拡大した拡大図である。
【図3】イメージングプレートから測定対象物までの距離と、受光センサにおける受光位置との関係を説明するための説明図である。
【図4】図1のコントローラによって実行される回折環撮像プログラムを示すフローチャートである。
【図5A】図1のコントローラによって実行される回折環読取りプログラムの前半部分を示すフローチャートである。
【図5B】前記回折環読取りプログラムの後半部分を示すフローチャートである。
【図6】図1のコントローラによって実行される制御パラメータ設定プログラムを示すフローチャートである。
【図7】図1のコントローラによって実行されるピーク検出プログラムを示すフローチャートである。
【図8】図1のコントローラによって実行される回折環消去プログラムを示すフローチャートである。
【図9】イメージングプレートに撮像された回折環を説明する説明図である。
【図10】イメージングプレートの移動限界位置からの移動距離と、イメージングプレートにおけるレーザ光の照射位置の半径方向距離(半径値)との関係を説明するための図である。
【図11】読取りポイントの軌跡を説明する説明図である。
【図12】信号強度のピークを説明するために、受光曲線の一例を示したグラフである。
【図13】半径位置に対する信号強度の変化を示すグラフである。
【図14】レーザ光強度の設定において、回折X線の原点からの距離の変化を説明するための説明図である。
【図15】X線の吸収係数を求めるために測定対象物までの距離を変更して回折環を作成することを説明するための説明図である。
【図16】フォーカスオフセット電圧の設定において、回折X線の原点の微小角度Δθに対するスポットの直径に相当する長さを説明するための説明図である。
【図17】フォーカスオフセット電圧とレーザスポットの面積との関係を説明するための説明図である。
【図18】変形例に係るデータ補正プログラムを示すフローチャートである。
【図19】半径データが示す距離を同一半径の球面上での距離に補正することを説明するための説明図である。
【図20】従来技術において、回折環の半径方向の強度分布が半径方向に対称にならない理由を説明するための説明図である。
【図21】従来技術において、回折環の半径方向の強度分布が半径方向に対称にならないことを誇張して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置の構成について図1乃至図3を用いて説明する。このX線回折測定装置は、測定対象物OBの特性を評価するために、X線を測定対象物OBに照射するとともに、同照射による測定対象物OBからの回折X線により形成される回折環の形状及び回折環ごとの回折X線の強度を読み取る。このX線回折測定装置は、箱状に形成されたフレームFRを有し、フレームFRの底面の角部から下方へ支持脚11が延設されている。すなわち、フレームFRの底面は、X線回折測定装置の設置面FLよりも上方に位置する。フレームFRの下方には、昇降機12が設けられている。昇降機12は、測定対象物OBを固定するための昇降ステージ12aを有する。昇降ステージ12aは、上下に昇降可能となっている。フレームFRの底面であって、昇降機12の上方に位置する部分には開口部が設けられていて、昇降ステージ12aを上昇させることにより、固定した測定対象物OBをフレームFRの内部へ搬入することができる。
【0024】
フレームFR内の上部には、X線制御回路14によって制御されて、X線を出射するX線出射器13が固定されている。X線出射器13から出射されたX線の光軸と、測定対象物OBの法線とが所定の角度θ(例えば、30°)をなすように、X線出射器13の出射口の向きが設定されている。
【0025】
X線制御回路14は、後述するコントローラCTによって制御され、X線出射器13から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器13に供給する駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器13は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路14は、この冷却装置に供給する駆動信号も制御する。これにより、X線出射器13の温度が一定に保たれる。
【0026】
X線出射器13の下方には、移動ステージ15が設けられている。移動ステージ15は、ステージ送り装置16により、X線出射器13から出射されたX線の光軸に垂直な方向に移動可能となっている。ステージ送り装置16は、移動ステージ15に固定された図示しないナットに螺合するスクリューロッド17と、スクリューロッド17を回転させるフィードモータ18とを備えている。スクリューロッド17は、X線出射器13から出射されたX線の光軸に垂直な方向に延設されている。そして、スクリューロッド17の一端部が、フレームFRに固定されたフィードモータ18の出力軸に連結され、他端部が、フレームFRに固定された軸受部19に回転可能に支持される。また、移動ステージ15は、それぞれフレームFRに固定された、対向する1対の板状のガイド20,20により挟まれていて、スクリューロッド17の軸線方向に沿って移動可能となっている。すなわち、フィードモータ18を正転又は逆転駆動すると、フィードモータ18の回転運動が移動ステージ15の直線運動に変換される。フィードモータ18内には、エンコーダ18aが組み込まれている。エンコーダ18aは、フィードモータ18が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路21及びフィードモータ制御回路22へ出力する。
【0027】
位置検出回路21及びフィードモータ制御回路22は、コントローラCTからの指令により作動開始する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18を駆動して移動ステージ15をフィードモータ18側へ移動させる。位置検出回路21は、エンコーダ18aから出力されるパルス信号が入力されなくなると移動ステージ15が移動限界位置に達したことを表す信号をフィードモータ制御回路22に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21から移動限界位置に達したことを表す信号を入力するとフィードモータ18への駆動信号の出力を停止する。上記の移動限界位置を移動ステージ15の原点位置とする。したがって、位置検出回路21は、移動ステージ15が図1及び図2にて左上方向に移動して移動限界位置に達したとき「0」を表す位置信号を出力し、移動ステージ15が移動限界位置から右下方向へ移動するとき、移動限界位置からの移動距離xを表す信号を位置信号として出力する。
【0028】
フィードモータ制御回路22は、コントローラCTから移動ステージ15の移動先の位置を表す設定値を入力すると、その設定値に応じてフィードモータ18を正転又は逆転駆動する。位置検出回路21は、エンコーダ18aが出力するパルス信号のパルス数をカウントする。そして、位置検出回路21は、カウントしたパルス数を用いて移動ステージ15の現在の位置(移動限界位置からの移動距離x)を計算し、コントローラCT及びフィードモータ制御回路22に出力する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21から入力した移動ステージ15の現在の位置が、コントローラCTから入力した移動先の位置と一致するまでフィードモータ18を駆動する。
【0029】
また、フィードモータ制御回路22は、移動ステージ15の移動速度を表す設定値をコントローラCTから入力する。そして、エンコーダ18aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ15の移動速度を計算し、前記計算した移動ステージ15の移動速度がコントローラCTから入力した移動速度になるようにフィードモータ18を駆動する。
【0030】
一対のガイド20,20の上端は、板状の上壁23によって連結されている。上壁23には、貫通孔23aが設けられていて、貫通孔23aには、X線出射器13の出射口の先端部が挿入されている。なお、X線出射器13の出射口の先端が移動ステージ15に当接しないように、X線出射器13及び移動ステージ15の位置が設定されている。
【0031】
また、移動ステージ15には、スピンドルモータ24が組み付けられている。スピンドルモータ24内には、エンコーダ18aと同様のエンコーダ24aが組み込まれている。すなわち、エンコーダ24aは、スピンドルモータ24が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路25及び回転角度検出回路26へ出力する。さらに、エンコーダ24aは、スピンドルモータ24が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラCT及び回転角度検出回路26へ出力する。
【0032】
スピンドルモータ制御回路25及び回転角度検出回路26は、コントローラCTからの指令により作動開始する。スピンドルモータ制御回路25は、コントローラCTから、スピンドルモータ24の回転速度を表す設定値を入力する。そして、エンコーダ24aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いてスピンドルモータ24の回転速度を計算し、計算した回転速度がコントローラCTから入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ24に供給する。回転角度検出回路26は、エンコーダ24aから出力されたパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値を用いてスピンドルモータ24の回転角度すなわちイメージングプレート28の回転角度θpを計算して、コントローラCTに出力する。そして、回転角度検出回路26は、エンコーダ24aから出力されたインデックス信号を入力すると、カウント値を「0」に設定する。すなわち、インデックス信号を入力した位置が回転角度0°の位置である。
【0033】
スピンドルモータ24の出力軸24bの先端部には、円板状のテーブル27が固定されている。テーブル27の中心軸と、スピンドルモータ24の出力軸24bの中心軸とは一致している。テーブル27は、下面中央部から下方へ突出した突出部27aを有していて、突出部27aの外周面には、ねじ山が形成されている。突出部27aの中心軸は、スピンドルモータ24の出力軸24bの中心軸と一致している。テーブル27の下面には、イメージングプレート28が組み付けられている。イメージングプレート28は、表面に蛍光体が塗布された円形のプラスチックフィルムである。イメージングプレート28の中心部には、貫通孔28aが設けられていて、この貫通孔28aに突出部27aを通し、突出部27aにナット状の固定具29をねじ込むことにより、イメージングプレート28が、固定具29とテーブル27の間に挟まれて固定される。固定具29は、円筒状の部材で、内周面に、突出部27aのねじ山に対応するねじ山が形成されている。イメージングプレート28は、フィードモータ18によって駆動されて、移動ステージ15、スピンドルモータ24及びテーブル27と共に原点位置から回折環を撮像する回折環撮像位置へ移動する。また、イメージングプレート28は、スピンドルモータ24によって駆動されて回転しながら、フィードモータ18によって駆動されて、移動ステージ15、スピンドルモータ24及びテーブル27と共に撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域内、及び回折環を消去する回折環消去領域内にも移動する。
【0034】
また、移動ステージ15、スピンドルモータ24の出力軸24b、テーブル27及び固定具29には、X線出射器13から出射されたX線を通過させる貫通孔がそれぞれ設けられている。これらの貫通孔の中心軸と、テーブル27の回転軸は一致している。すなわち、これらの貫通孔の中心軸と、X線出射器13から出射されるX線の光軸とが一致するとき、X線が測定対象物OBに照射される。このように、X線を測定対象物OBに照射するときのイメージングプレート28の位置が、回折環撮像位置である。
【0035】
フィードモータ18の下方には、測定対象物OBにて反射したX線を受光する複数の受光素子からなる受光センサ31(例えば、X線CCD)が組み付けられている。受光センサ31は、測定対象物OB及びイメージングプレート28からフィードモータ18側に十分離れている。これにより、イメージングプレート28が回折環撮像位置にあるとき、受光センサ31は、測定対象物OBにて反射したX線を直接受光できる。受光センサ31の受光面は、測定対象物OBの上面と平行である。受光センサ31の受光面におけるX線の受光位置は、図3に示すように、測定対象物OBの高さに対応している。言い換えれば、イメージングプレート28と測定対象物OBとの距離Lに対応している。受光センサ31は、それぞれの受光素子が受光した受光信号をセンサ信号取り出し回路32へ出力する。
【0036】
センサ信号取り出し回路32は、コントローラCTからの指令により作動開始し、受光センサ31から入力した受光信号を用いて受光センサ31の受光面における受光信号のピーク位置を算出して受光位置を表す受光位置信号としてコントローラCTへ出力する。
【0037】
また、受光センサ31の下方には、レーザ検出装置PUHが組み付けられている。レーザ検出装置PUHは、回折環を撮像したイメージングプレート28にレーザ光を照射して、イメージングプレート28から入射した光の強度を検出する。レーザ検出装置PUHは、測定対象物OB及びイメージングプレート28からフィードモータ18側に十分離れている。すなわち、イメージングプレート28が回折環撮像位置にあるとき、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置PUHによって遮られないようになっている。レーザ検出装置PUHは、レーザ光源33と、コリメーティングレンズ35、反射鏡36、偏光ビームスプリッタ37、1/4波長板38及び対物レンズ39を備えている。
【0038】
レーザ光源33は、レーザ駆動回路34によって制御されて、イメージングプレート28に照射するレーザ光を出射する。
【0039】
レーザ駆動回路34は、コントローラCTによって制御され、レーザ光源33から所定の強度のレーザ光が出射されるように、駆動信号を制御して供給する。レーザ駆動回路34は、後述するフォトディテクタ54から出力された受光信号を入力して、受光信号の強度が所定の強度になるようにレーザ光源33に出力する駆動信号を制御する。これにより、イメージングプレート28に照射されるレーザ光の強度が一定に維持される。また、レーザ駆動回路34は、コントローラCTによるハイレベルの出力の指示により、ローレベルの直流信号にコントローラCTにより設定されたパルスレベルのパルスを加算した出力信号を所定の短時間だけ出力し、その後に出力信号をローレベルの直流信号に戻す。
【0040】
コリメーティングレンズ35は、レーザ光源33から出射されたレーザ光を平行光に変換する。反射鏡36は、コリメーティングレンズ35にて平行光に変換されたレーザ光を、偏光ビームスプリッタ37に向けて反射する。偏光ビームスプリッタ37は、反射鏡36から入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。1/4波長板38は、偏光ビームスプリッタ37から入射したレーザ光を直線偏光から円偏光に変換する。対物レンズ39は、1/4波長板38から入射したレーザ光をイメージングプレート28の表面に集光させる。
【0041】
対物レンズ39には、フォーカスアクチュエータ40が組み付けられている。フォーカスアクチュエータ40は、対物レンズ39をレーザ光の光軸方向に移動させるアクチュエータである。なお、対物レンズ39は、フォーカスアクチュエータ40が通電されていないときに、その可動範囲の中心に位置する。
【0042】
対物レンズ39によって集光されたレーザ光を、イメージングプレート28の表面であって、回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じる。すなわち、回折環を撮像した後、イメージングプレート28にレーザ光を照射すると、イメージングプレート28の蛍光体が回折X線の強度に応じた光であって、レーザ光の波長よりも波長が短い光を発する。イメージングプレート28に照射されて反射したレーザ光の反射光及び蛍光体から発せられた光は、対物レンズ39及び1/4波長板38を通過して、偏光ビームスプリッタ37にて反射する。偏光ビームスプリッタ37の反射方向には、集光レンズ41、シリンドリカルレンズ42及びフォトディテクタ43が設けられている。集光レンズ41は、偏光ビームスプリッタ37から入射した光を、シリンドリカルレンズ42に集光する。シリンドリカルレンズ42は、透過した光に非点収差を生じさせる。フォトディテクタ43は、分割線で区切られた4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子によって構成されており、時計回りに配置された受光領域A,B,C,Dに入射した光の強度に比例した大きさの検出信号を受光信号(a,b,c,d)として、増幅回路44へ出力する。
【0043】
増幅回路44は、フォトディテクタ43から出力された受光信号(a,b,c,d)をそれぞれ同じ増幅率で増幅して受光信号(a’,b’,c’,d’)を生成して、フォーカスエラー信号生成回路45及びSUM信号生成回路51へ出力する。増幅回路44の増幅率は、適切な値に固定設定される。
【0044】
本実施形態においては、非点収差法によるフォーカスサーボ制御を用いる。フォーカスエラー信号生成回路45は、増幅された受光信号(a’,b’,c’,d’)を用いて、演算によりフォーカスエラー信号を生成する。すなわち、フォーカスエラー信号生成回路45は、(a’+c’)−(b’+d’)の演算を行い、この演算結果をフォーカスエラー信号としてフォーカスサーボ回路46へ出力する。フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)は、レーザ光の焦点位置のイメージングプレート28の表面からのずれ量を表している。
【0045】
フォーカスサーボ回路46は、コントローラCTにより制御され、フォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成して加算器47を介してドライブ回路48に出力する。加算器47には、フォーカスオフセット電圧発生回路49が接続されている。フォーカスオフセット電圧発生回路49は、コントローラCTにより制御されて、コントローラCTによって指示されたフォーカスオフセット電圧を加算器47に出力する。加算器47は、フォーカスサーボ回路46からのフォーカスサーボ信号に、このフォーカスオフセット電圧を加算してドライブ回路48に出力する。ドライブ回路48は、このフォーカスサーボ信号にフォーカスオフセット電圧を加算した信号に応じてフォーカスアクチュエータ40を駆動して、対物レンズ39をレーザ光の光軸方向に変位させる。
【0046】
この場合、フォーカスオフセット電圧が「0」であれば、フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)となるようにフォーカスサーボ信号を生成することにより、イメージングプレート28の表面と、レーザ光の焦点を一致させ続けることができる。また、フォーカスオフセット電圧の加算により、レーザ光の焦点がイメージングプレート28の表面からフォーカスオフセット電圧分だけずれた位置になり、イメージングプレート28上におけるレーザ光のスポット面積が大きくなる。よって、フォーカスオフセット電圧を変化させることで、レーザ光のスポット面積を変化させることができる。なお、光ヘッドPUHにおける光学素子の組付けが理想通り行われていれば、フォーカスオフセット電圧とレーザ光のスポット面積の関係は対物レンズ39の開口数と対物レンズ39に入射する前のレーザ光の断面径から理論的に計算することができるが、実際には光ヘッドPUHの光学素子の組付けには理想からのずれがあるため、フォーカスオフセット電圧とレーザ光のスポット面積との関係は実際に測定して取得した方がよい。この方法については、詳しく後述する。
【0047】
SUM信号生成回路51は、受光信号(a’,b’,c’,d’)を合算してSUM信号(a’+b’+c’+d’)を生成し、A/D変換回路52に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート28にて反射したレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート28にて反射したレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、イメージングプレート28に入射した回折X線の強度に相当する。
【0048】
A/D変換回路52は、コントローラCTによって制御され、SUM信号生成回路51からSUM信号を入力し、入力したSUM信号の瞬時値をディジタルデータに変換してコントローラCTに出力する。
【0049】
また、レーザ検出装置PUHは、集光レンズ53及びフォトディテクタ54を備えている。集光レンズ53は、レーザ光源33から出射されたレーザ光の一部であって、偏光ビームスプリッタ37を透過せずに反射したレーザ光をフォトディテクタ54の受光面に集光する。フォトディテクタ54は、受光面に集光された光の強度に応じた受光信号を出力する受光素子である。従って、フォトディテクタ54は、レーザ光源33が出射したレーザ光の強度に対応した受光信号をレーザ駆動回路34へ出力する。
【0050】
また、対物レンズ39に隣接して、LED55が設けられている。LED55は、LED駆動回路56によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート28に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路56は、コントローラCTによって制御され、LED55に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
【0051】
コントローラCTは、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された図4に示す回折環撮像プログラム、図5A及び図5Bに示す回折環読取りプログラム、図6に示す制御パラメータ設定プログラム、図7に示すピーク検出プログラム、並びに図8の回折環消去プログラムを実行する。コントローラCTには、作業者が各種パラメータ、作業指示などを入力するための入力装置58と、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果などを視覚的に知らせるための表示装置57とが接続されている。コントローラCTは、A/D変換回路52から出力されたSUM信号のディジタルデータを処理することによりイメージングプレート28の蛍光体が発した光の強度を検出する。
【0052】
次に、上記のように構成したX線回折測定装置を用いて、測定対象物OBの回折X線による回折環の形状及び回折環ごとの回折X線の強度を測定する手順について説明する。まず、作業者は、測定対象物OBを昇降機12の昇降ステージ12aに取り付け、昇降ステージ12aを上昇させて、測定対象物OBをフレームFR内にセットする。そして、作業者が、入力装置58を用いて測定対象物OBの材質(例えば、本実施形態の場合には鉄)を入力し、測定開始を指示すると、コントローラCTは、回折環撮像プログラムを実行する。また、鉄のように複数の結晶構造(フェライト及びオーステナイト)を含む場合には、複数の結晶構造の比率を測定するか否かも入力装置58を用いて入力する。なお、本実施形態においては、この比率の測定を行うことも入力する。
【0053】
コントローラCTは、図4に示すように、ステップS100にて、回折環撮像プログラムの実行を開始すると、ステップS102にて、スピンドルモータ制御回路25に対して、イメージングプレート28を低速回転させ、エンコーダ24aからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート28の回転を停止させる。これにより、測定開始時において、イメージングプレート28の回転角度が0°に設定される。なお、回折環撮像プログラムにおける以降の処理においては、イメージングプレート28を回転させない。次に、コントローラCTは、ステップS104にて、フィードモータ制御回路22を制御することにより、フィードモータ18を作動させて、位置検出回路21との協働によりイメージングプレート28を回折環撮像位置へ移動させる。
【0054】
次に、コントローラCTは、ステップS106にて、センサ信号取り出し回路32の作動を開始させる。次に、コントローラCTは、ステップS108にて、X線制御回路14を制御してX線の出射を開始させる。これにより、X線が測定対象物OBに照射され、測定対象物OBの表面にて反射したX線が受光センサ31に受光される。次に、コントローラCTは、ステップS110にて、センサ信号取り出し回路32から受光位置信号を入力し、前記入力した受光位置信号を用いてイメージングプレート28と測定対象物OBとの距離Lを算出する。なお、この距離Lは、後述する処理のためにメモリに記憶される。そして、コントローラCTは、ステップS112にて、前記算出した距離Lが所定の基準範囲内にあるか否か判定する。距離Lが基準範囲外であれば、「No」と判定して、ステップS114にて、X線制御回路14を制御して測定対象物OBへのX線の照射を停止させる。
【0055】
そして、コントローラCTは、ステップS116にて、表示装置57に、測定対象物OBの高さ方向の位置が不適切である旨を表示するとともに、昇降機12の昇降ステージ12aの高さ調整に関する情報を表示する。すなわち、昇降ステージ12aを、どの程度上昇又は下降させるべきかを表示する。そして、後述のステップS126にて、回折環撮像プログラムを終了する。この場合、作業者は、昇降ステージ12aの高さを調整した後、入力装置58を用いて、再度、測定開始を指示する。上記のステップS108〜S114までの所要時間は僅かなので、イメージングプレート28には回折環が撮像されない。また、受光センサ31が測定対象物OBにて反射したX線を受光しない場合は、ステップS116にて、測定対象物OBの高さ方向の位置が不適切である旨の表示がなされるのみであって、昇降ステージ12aの高さ調整に関する情報は表示されない。この場合、測定対象物OBの位置は、極めて不適切な位置にあると考えられ、昇降ステージ12aの高さ調整の方向を目視で判断できる。
【0056】
一方、ステップS112の判定処理時に、距離Lが所定の基準範囲内である場合には、コントローラCTは、ステップS112にて「Yes」と判定して、ステップS118に処理を進め、センサ信号取り出し回路32の作動を停止させる。そして、コントローラCTは、ステップS120にて時間計測を開始し、ステップS122にて所定の設定時間を経過したか否かを判定する。時間計測開始から所定の設定時間を経過していなければ、ステップS122にて「No」と判定して判定処理を実行し続ける。すなわち、コントローラCTは、時間計測開始から所定の設定時間を経過するまで待機する。そして、時間計測開始から所定の設定時間を経過すると、コントローラCTは、ステップS122にて「Yes」と判定して、ステップS124にてX線制御回路14を制御してX線出射器13によるX線の照射を停止させ、ステップS126にて回折環撮像プログラムの実行を終了する。
【0057】
これにより、イメージングプレート28には回折環が撮像される。図9はこのイメージングプレート28に撮像された回折環を示しており、本実施形態のように測定物質が鉄である場合には、内側にフェライトによる回折環が形成され、外側にオーステナイトによる回折環が形成される。なお、フェライトによる回折X線の強度はオーステナイトによる回折X線の強度に比べて大きく、イメージングプレート28上には、フェライトによる回折環がオーステナイトによる回折環に比べて幅広かつ顕著に撮像される。
【0058】
次に、コントローラCTは、図5A及び図5Bの回折環読取りプログラムを実行するとともに、このプログラムに並行して図6の制御パラメータ設定プログラム及び図7のピーク検出プログラムを実行する。回折環読取りプログラムは、イメージングプレート28上にレーザ光を照射して、イメージングプレート28上に撮像された回折環を読み取るプログラムである。また、制御パラメータ設定プログラムは、レーザ光の照射位置の半径値rに応じて、レーザ強度Pw、フォーカスオフセット電圧Fo及びレーザ光の半径方向移動速度Frを制御して、図20に半径Lの点線で示す球面で回折X線を受光した状態と同様な状態の回折環を測定できるようにするプログラムである。また、ピーク検出プログラムは、前記SUM信号強度の回折環の半径方向のピーク位置を検出するプログラムである。
【0059】
回折環読取りプログラムの実行は図5AのステップS200にて開始され、コントローラCTは、ステップS202にて、回折環基準半径Rを算出する。回折環基準半径Rは、測定対象物OBの残留応力が「0」である場合の回折環の半径である。回折環基準半径Rは、測定対象物OBの材質及びイメージングプレート28から測定対象物OBまでの距離Lに依存する。すなわち、残留応力が「0」であるので、回折角θaは材質によって決定される。距離Lと回折環基準半径Rとは比例関係にあるので、予め材質ごとに、回折角θaを記憶しておけば、回折環基準半径Rを、R=L・tan(θa)の演算によって算出できる。なお、測定対象物OBの回折角θaが不明である場合には、その測定対象物OBの粉末を測定対象物OBに一様に付着させ、上記の回折環撮像プログラムを実行して、回折環を撮像すればよい。そして、このときの回折環の半径Rと距離Lからなる上記式を用いて回折角θaを求めればよい。
【0060】
本実施形態の場合には、フェライト及びオーステナイトの2種類の結晶構造を含む鉄を測定対象物OBとしているので、回折角度はフェライト及びオーステナイト用の2種類の回折角度が予め記憶されているか、入力装置58を用いて入力するとよい。したがって、回折環基準半径Rとして前述したフェライト及びオーステナイトによる2つの回折環の回折環基準半径R1,R2が計算される。
【0061】
前記ステップS202の処理後、コントローラCTは、ステップS204にて、位置検出回路21の作動を開始させる。そして、ステップS206にて、フィードモータ制御回路22に、イメージングプレート28を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させることを指示する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21と協働してフィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を読取り開始位置へ移動させる。このイメージングプレート28が読取り開始位置にある状態では、対物レンズ39の中心すなわちレーザ光の照射位置が前記計算したフェライトの回折環基準半径R1よりも所定距離αだけ小さい位置に位置する。なお、所定距離αは、撮像したフェライトによる回折環の半径が回折環基準半径R1からずれる可能性のある距離よりもやや大きい距離である。これにより、後述の処理により、フェライトによる回折環の測定が十分に内側から開始されて、フェライトによる回折環が確実に検出される。
【0062】
ここで、移動ステージ15の移動限界位置から図1〜3の右下方向への移動距離xを表す位置検出回路21からの位置信号と、イメージングプレート28の中心からレーザ光の照射位置(対物レンズ39の中心位置)までの距離(すわちレーザ光の照射位置の半径値r)との関係について説明しておく。移動ステージ15すなわちイメージングプレート28が移動限界位置にある状態において、図10(A)に示すように、イメージングプレート28の中心から対物レンズ39の中心位置までの距離をR0とする。なお、この場合、対物レンズ39は前記イメージングプレート28の中心位置から図1〜3にて左上方向にあり、また前記距離R0は予め測定されてコントローラCTに記憶されている。一方、図10(B)に示すように、イメージングプレート28を移動限界位置から図1〜3の右下方向へ距離xだけ移動させると、レーザ光の照射位置の半径値rは、r=x+R0で表される。この場合、距離xは、前述のように位置検出回路21から出力される位置信号によって示されるので、今後の処理において、レーザ光の照射位置の半径値rは、位置検出回路21から出力される位置信号によって表された距離xに予め記憶されている値R0を加算することになる。
【0063】
そして、前記のように、イメージングプレート28を読取り開始位置へ移動させる場合には、図10(C)に示すように、レーザ光の照射位置は、回折環基準半径R1よりも所定距離αだけ内側に位置するので、この場合の半径値rは距離R1−αに等しくなるはずである。したがって、イメージングプレート28を駆動限界位置から図1〜3の右下方向へ移動させる距離xは、x=R1−α−R0に等しくなる。すなわち、前記ステップS208における読取り開始位置への移動処理においては、位置検出回路21から出力される位置信号により表される距離x(=R1−α−R0)だけ、テーブル27を図1〜3の右下方向へ移動させればよい。
【0064】
次に、コントローラCTは、ステップS208にて、スピンドルモータ制御回路25に対して、所定の一定回転速度でイメージングプレート28を回転させることを指示する。スピンドルモータ制御回路25は、エンコーダ24aからのパルス信号を用いて回転速度を計算しながら、前記指示された一定回転速度でイメージングプレート28が回転するようにスピンドルモータ24の回転を制御する。したがって、イメージングプレート28は前記所定の一定回転速度で回転し始める。次に、コントローラCTは、ステップS210にて、レーザ駆動回路34を制御してレーザ光源33によるレーザ光のイメージングプレート28に対する照射を開始させる。この場合、コントローラCTは、レーザ光の強度が低レベルになるように、レーザ駆動回路34が低レベルの直流駆動信号でレーザ光源33を駆動するようにレーザ駆動回路34を制御する。したがって、この状態では、イメージングプレート28には、低レベルの強度でレーザ光が照射されることになる。
【0065】
次に、コントローラCTは、ステップS212にて、フォーカスサーボ回路46に対して、フォーカスサーボ制御の開始を指示する。これにより、フォーカスサーボ回路46は、増幅回路44及びフォーカスエラー信号生成回路45からのフォーカスエラー信号に応じてフォーカスサーボ信号を生成して加算器47に出力し始める。加算器47は、このフォーカスサーボ信号にフォーカスオフセット電圧発生回路49からのフォーカスオフセット電圧Foを加算して、加算した信号をドライブ回路48に供給する。ドライブ回路48は、この供給された加算信号に応じてフォーカスアクチュエータ40を駆動制御することにより、フォーカスサーボ制御を開始する。なお、最初はフォーカスオフセット電圧発生回路49から供給されるフォーカスオフセット電圧Foは「0」であり、対物レンズ39は、レーザ光の焦点がイメージングプレート28の表面に合うように光軸方向に駆動制御される。ステップS212の処理後、コントローラCTは、ステップS214にて、回転角度検出回路26及びA/D変換回路52の作動を開始させる。これにより、回転角度検出回路26は、スピンドルモータ24(イメージングプレート28)の基準位置からの回転角度θpをコントローラCTに出力し始め、A/D変換回路52は、SUM信号の瞬時値のディジタルデータをコントローラCTに出力し始める。
【0066】
次に、コントローラCTは、ステップS218にて、フィードモータ制御回路22に対して、イメージングプレート28の移動開始及び移動速度を指示する。フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を読取り開始位置から軸受部19側(図1,2の右下方向)へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置が、イメージングプレート28において、フェライトの回折環基準半径R1から所定距離αだけ内側から外側方向に一定速度で相対移動し始める。なお、この状態では、レーザ光の照射位置は、前記ステップS208,S216の処理により、相対的にイメージングプレート28上を螺旋状に回転する。
【0067】
前記ステップS216の処理後、コントローラCTは、ステップS218にて、周方向番号n及び半径方向番号mの値をそれぞれ「1」に初期設定する。図11に示すように、周方向番号nは、イメージングプレート28の周方向の測定位置(読取りポイントP(n,m))を指定する変数であり、イメージングプレート28が基準回転位置から所定角度θずつ回転するごとに「1」ずつ増加し、イメージングプレート28の1回転の間に1〜Nにわたって変化する。したがって、値Nと所定角度θの関係は、2π=N・θの関係にある。半径方向番号mは、イメージングプレート28の半径方向の読取りポイントP(n,m)を指定する変数であり、イメージングプレート28が1回転するごとに「1」ずつ増加する。なお、読取りポイントP(1,1)は、前述したフェライトの回折環基準半径R1よりも所定距離αだけ小さい位置に対応している。
【0068】
前記ステップS218の初期設定後、コントローラCTは、ステップS220にて、回転角度検出回路26がエンコーダ24aからのインデックス信号を入力したか否かを判定する。回転角度検出回路26がインデックス信号を入力していなければ、コントローラCTはステップS220にて「No」と判定して、ステップS220の判定処理を繰り返し実行し続ける。回転角度検出回路26がインデックス信号を入力すると、コントローラCTは、ステップS220にて「Yes」と判定して、ステップS222にて、回転角度検出回路26からイメージングプレート28の現在の回転角度θpを取り込む。そして、コントローラCTは、ステップS226にて、現在の回転角度θpと変数nによって指定される所定の回転角度θ(n)(この場合、n=1であるのでθ(1))との差の絶対値|θp−θ(n)|が所定の許容値未満であるか否か判定する。所定の回転角度θ(1)〜θ(N)は予めコントローラCTに記憶されているもので、0度から所定角度θずつ増加する角度である。
【0069】
前記絶対値|θp−θL(n)|が所定の許容値未満でなければ、コントローラCTは、ステップS224にて「No」と判定してステップS222,S224の処理を繰り返し実行する。すなわち、コントローラCTは、現在の回転角度θpが所定の回転角度θ(n)にほぼ一致するまで待機する。そして、現在の回転角度θpが所定の回転角度θ(n)にほぼ一致すると、コントローラCTは、ステップS224にて「Yes」すなわち前記絶対値|θp−θ(n)|が所定の許容値未満であると判定して、ステップS226に進む。
【0070】
ステップS226においては、コントローラCTは、レーザ駆動回路34に対して、ハイレベルパルスの出力を指示する。この指示に応答して、レーザ駆動回路34は、前記ステップS210による低レベルの直流駆動信号にハイレベルのパルスを重畳したパルス信号でレーザ光源33を駆動制御する。この場合のパルス信号は、予め決められた所定幅を有する。これにより、レーザ光源33からハイレベルのパルス状のレーザ光が、イメージングプレート28の読取りポイントP(n,m) (この場合、n=1、m=1であるのでP(1,1))で指定される位置に照射される。このハイレベルのパルスは、イメージングプレート28の読取りポイントP(n,m)から輝尽発光が充分に得られる程度の強度のレーザ光をレーザ光源33に発光させるものである。
【0071】
次に、コントローラCTは、ステップS228にて、前記パルス状のレーザ光の照射中に、A/D変換回路52からSUM信号を取り込んで、読取りポイントP(n,m)の信号強度S(n,m)としてメモリにそれぞれ記憶する。また、このステップS228においては、位置検出回路21からの位置信号を取り込んで、位置信号によって表される距離xに所定距離R0を加算して半径値rを計算して、読取りポイントP(n,m)の半径値r(n,m)として前記信号強度S(n,m)に対応させてメモリに記憶する。これにより、レーザ光源33からハイレベルのパルス状のレーザ光による、イメージングプレート28の読取りポイントP(n,m)からの輝尽発光の強度すなわち読取りポイントP(n,m)に対するX線回折光の強度を表す信号強度S(n,m)が、読取りポイントP(n,m)の半径値を表す半径値r(n,m)と共にメモリに記憶される。
【0072】
次に、コントローラCTは、ステップS230にて、前記記憶した信号強度S(n,m)が、所定の基準値以上であるか否か判定する。信号強度S(n,m)が所定の基準値以上であれば、コントローラCTは、ステップS230にて「Yes」と判定して、ステップS234に進む。一方、信号強度S(n,m)が、所定の基準値より小さければ、コントローラCTは、ステップS230にて「No」と判定して、ステップS232にて、前記記憶した信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)を消去した後、ステップS234に進む。この信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)の消去は、所定の基準値より小さな信号強度S(n,m)は回折環の測定に不要であるからである。
【0073】
ステップS234においては、コントローラCTは、周方向番号nに「1」を加算する。そして、コントローラCTは、ステップS236にて、変数nが1周当たりの読取りポイントP(n,m)の数を表す値Nより大きいか、すなわちイメージングプレート28が1回転したか否かを判定する。この場合、n=2であり、周方向番号nは値N以下であるので、コントローラCTは、ステップS236にて「No」と判定して、ステップS222に戻る。
【0074】
そして、前述したステップS222〜S236の処理を、周方向番号nが値Nよりも大きくなるまで繰り返す。このステップS222〜S236の繰り返し処理により、回転角度θ(1)〜θ(N)にそれぞれ対応した信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)がメモリに記憶される。このようなステップS222〜S236の循環処理により、周方向番号nが値Nよりも大きくなると、コントローラCTは、ステップS236にて「Yes」と判定して、ステップS238にて、後述のピーク検出プログラムによる終了指令の有無を判定する。未だ終了指令がないときは、コントローラCTは、ステップS238にて「No」と判定し、ステップS240にて周方向番号nを「1」に戻すとともに、半径方向番号mに「1」を加算する(この場合、m=2になる)。そして、コントローラCTは、前述したステップS222〜S236の処理を実行して、次の半径方向位置の回転角度θ(1)〜θ(N)に対応した読取りポイントP(n,m)に関する信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)をメモリに記憶する。そして、終了指令の指示があるまで、このようなステップS222〜S240の処理により、「1」ずつ順次大きくなる半径方向番号m(=1,2,3・・)と、各半径方向番号mごとに回転角度θ(1)〜θ(N)に対応した周方向番号n(=1〜N)とにより指定される読取りポイントP(n,m)に対応する信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)がメモリに順次記憶される。なお、この場合も、信号強度S(n,m)が所定の基準値より小さければ、メモリに記憶された信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)は消去される。
【0075】
そして、前記ピーク検出プログラムによる終了指令の指示があると、コントローラCTは、ステップS238にて「Yes」と判定し、図5BのステップS242以降に進む。このステップS242以降の処理について説明する前に、回折環読取りプログラムと並行して実行されている制御パラメータ設定プログラム及びピーク検出プログラムについて説明しておく。
【0076】
制御パラメータ設定プログラムの実行は図6のステップS300にて開始され、コントローラCTは、ステップS302にてイメージングプレート28におけるレーザ光の照射位置の半径値rを取得する。このステップS302の処理においては、コントローラCTは、上記ステップS228の処理と同様に、位置検出回路21からの位置信号を取り込んで、位置信号によって表される距離xに所定距離R0を加算して半径値rを計算する。
【0077】
次に、コントローラCTは、ステップS304にて、レーザ光強度Pwを下記数2の演算の実行により計算して、計算されたレーザ光強度Pwをレーザ駆動回路34に出力する。
【数2】

レーザ光強度を変化させる理由は、回折X線の発生原点からの距離がイメージングプレート28のレーザ光照射位置により変化し、距離が長くなるほど回折X線の減衰が大きくなっていることを補正するためである。すなわち、回折X線の発生原点からの距離が大きくなって減衰が大きくなるほど、レーザ光強度Pwを大きくして、レーザ光照射位置とは無関係に、輝尽発光の強度を常に一定に保つためである。そして、前記数2中の各パラメータは次の通りである。Pwoは、レーザ光照射開始位置でのレーザ光強度を示し、予め決められた値である。r0は、レーザ光照射開始時のレーザ光の照射位置の半径値(最小半径)であり、上記図5AのステップS206でフィードモータ制御回路22に指示した読取り開始位置R1−αに等しい。rは、レーザ光照射位置の半径値であり、前記ステップS302にて取得した半径値rである。Lは、回折X線の発生原点(測定対象物OBへのX線の照射位置)からイメージングプレート28までの距離であり、図4のステップS110にて計算して記憶しておいた値である。μは、空気のX線吸収係数であり、予め後述する測定により求めて記憶しておいた値である。
【0078】
前記数2について、図14を用いて説明しておく。レーザ光照射開始時のレーザ光の照射位置(最小半径位置)での回折X線の発生原点からレーザ光の照射位置までの距離は、(ro2+L21/2である。回折X線の発生原点から発生されるX線が平行光であると仮定すると、前記最小半径位置のX線の強度は下記数3で表される。同様に、現在のレーザ光の照射位置におけるX線の強度は、下記数4で表される。そして、これらの比は下記数5で表される。なお、値Ioは、発生原点における回折X線の強度である。
【数3】

【数4】

【数5】

そして、この割合でX線の強度が下がった場合、同じ強度の輝尽発光をさせるためには、レーザ光強度Pwを前記数5の逆数の割合だけ上げる必要があり、レーザ光強度Pwは前記数2のようになる。
【0079】
これを視覚的に示すと、図14に示すように、回折X線の発生原点からの距離がレーザ光の照射開始位置から{(r2+L21/2−(ro2+L21/2}分長くなるので、その長くなった分だけ低下するX線強度を、レーザ光強度Pwを大きくすることで補正する。これにより、輝尽発光の強度(レーザ照射して取得する受光信号の強度)を、レーザ光の照射開始位置における回折X線の発生原点からの距離(図示点線部分の球面の位置)でX線を受光した場合の強度と同じになるようにするものである。
【0080】
次に、空気のX線吸収係数μを測定により求める方法の一例について説明しておく。測定対象物OBに鉄粉を糊塗して、通常のX線回折の方法で、図15に示すように、回折X線の発生原点(測定対象物OBへのX線の照射位置)からイメージングプレート28までの距離をL1にして回折環を形成し、回折環の半径方向にピークとなる強度と半径位置を複数の周方向位置で検出して、ピークとなる強度と半径を平均する。平均化されたピークとなる強度及び半径をそれぞれS1、r1とする。次に、LED光をイメージングプレート28に照射して回折環を消し、回折X線の発生原点からイメージングプレート28までの距離をL2とし、前記場合と同じ条件すなわちX線の照射強度及び照射時間を同じにして回折環を形成する。そして、フォーカスオフセット電圧(イメージングプレート28上でのレーザ光の断面積すなわちスポット径に相当)以外は同じ条件すなわちレーザ光強度及び検出信号の増幅率を同じにして、回折環の半径方向にピークとなる強度と半径位置を複数の周方向位置で検出して、ピークとなる強度と半径を平均する。平均化されたピークとなる強度及び半径をそれぞれS2、r2とする。なお、フォーカスオフセット電圧の変更に関しては、後述するフォーカスオフセット電圧Foの設定において説明する。
【0081】
値S2/S1は、回折X線の発生原点からX線が平行光で発生すると仮定した場合のX線の強度の比であり、前記数5から下記数6が成立する。
【数6】

前記数6中のX線吸収係数μ以外は計測値であるので、X線吸収係数μは下記数7により求めることができる。
【数7】

【0082】
ふたたび、図6の制御パラメータ設定プログラムの説明に戻ると、コントローラCTは、前記ステップS304にて前記計算したレーザ光強度Pwをレーザ駆動回路34に出力する。これに応答して、レーザ駆動回路34は、コントローラCTからハイレベルの出力の指示がされた際のレーザ光源33から出射されるレーザ光の強度が出力されたレーザ光強度Pwに応じた強度になるように回路内に設定する。したがって、X線が平行光であるという条件下で、レーザ光照射位置が変化しても、輝尽発光の強度(レーザ照射して取得する受光信号の強度)を、レーザ光の照射開始位置における回折X線の発生原点からの距離(図14の点線部分の球面の位置)でX線を受光した場合の強度と同じになる。
【0083】
前記ステップS304の処理後、コントローラCTは、ステップS306にて、フォーカスオフセット電圧Foを下記数8,9の演算の実行により計算して、計算されたフォーカスオフセット電圧Foの発生をフォーカスオフセット電圧発生回路49に指示する。この場合、数8の「f」は関数を示し、予めメモリに記憶された後述する関数テーブルを用いて、数9により計算された値に応じてフォーカスオフセット電圧Foを計算する。
【数8】

【数9】

【0084】
フォーカスオフセット電圧Foを変化させる理由は、図16に示すように、回折X線の発生原点からの距離がイメージングプレート28のレーザ光照射位置により変化し、距離が長くなるほど回折X線の発生原点における微小角度Δθの範囲内で発生した回折X線のイメージングプレート28で受光される面積が大きくなるために、前記面積が大きくなるほどフォーカスオフセット電圧Foを変化させてレーザスポット径を大きくし、輝尽発光の強度を同じにするためである。また、イメージングプレート28において微小角度Δθの範囲内で発生した回折X線が受光される半径方向の長さに関しては、これに加え、回折X線の発生原点からレーザ光照射位置の方向とイメージングプレート28とがなす角度がレーザ光照射位置により変化し、この角度が小さくなるに従って前記半径方向の長さが長くなり、これによっても、微小角度Δθの範囲内で発生した回折X線がイメージングプレート28で受光される面積が大きくなるために、前記面積が大きくなるほどフォーカスオフセット電圧Foを変化させてレーザスポット径を大きくし、輝尽発光の強度を同じにするためである。
【0085】
そして、前記数8,9中の各パラメータは次の通りである。As0はレーザ光照射開始位置でのスポット面積を表し、Asはレーザ光照射位置のスポット面積を表す。r0は、前述のように、レーザ光照射開始時のレーザ光の照射位置の半径値(最小半径)であり、上記図5AのステップS206でフィードモータ制御回路22に指示した読取り開始位置R1−αに等しい。rも、前述のように、レーザ光照射位置の半径値であり、前記ステップS302にて取得した半径値rである。Lも、前述のように、回折X線の発生原点(測定対象物OBへのX線の照射位置)からイメージングプレート28までの距離であり、図4のステップS110にて計算して記憶しておいた値である。
【0086】
前記数8,9について、図16を用いて説明しておく。回折X線の発生原点からレーザ光照射開始位置(最小半径位置)までの距離は、(ro2+L21/2である。このとき、回折X線の発生原点における微小角度Δθに対するレーザ光照射開始位置におけるスポットの直径に相当する長さを、W0とする。そして、回折X線の発生原点からレーザ光照射位置までの距離は、(r2+L21/2である。このとき、回折X線の発生原点における微小角度Δθに対する現在のレーザ光照射位置におけるスポットの直径に相当する長さを、Wとする。W0とWの比は、(ro2+L21/2と(r2+L21/2との比に等しいから、WはW0を用いて下記数10のように表される。なお、これらのW,W0は、イメージングプレート28の半径方向及び周方向の両者の長さを示している。
【数10】

【0087】
そして、半径方向においては、イメージングプレート28の表面に平行な微小角度Δθに対する長さWIは、イメージングプレート28の表面と回折X線方向に垂直な平面がなす角度をθとすると、下記数11のようになる。
【数11】

θは、X線照射方向と回折X線の発生原点からレーザ光照射位置までの方向がなす角度に等しいので、長さWIは下記数12のようになる。
【数12】

前記数10を前記数12に代入すると、長さWIは下記数13で表される。
【数13】

【0088】
また、レーザ光照射開始位置におけるイメージングプレート28の表面に平行な微小角度Δθに対する長さW0Iは、イメージングプレート28の表面と回折X線方向に垂直な平面がなす角度をθ0とすると、下記数14のようになる。
【数14】

θ0は、X線照射方向と回折X線の発生原点からレーザ光照射開始位置までの方向がなす角度θ0に等しいので、長さW0Iは下記数15のようになる。
【数15】

WIとW0Iとの比WI/W0Iは、前記数13及び図15から下記数16のように表される。なお、この数16の比WI/W0Iは、微小角度Δθに対するイメージングプレート28の半径方向の長さに関する比である。
【数16】

【0089】
一方、円周方向(紙面垂直方向)においては、回折X線の発生原点からレーザ光照射位置の方向はイメージングプレート28に対して垂直であるので、微小角度Δθに対する長さW,W0は前記半径方向の場合の長さWI,WOIのように変化することはなく、W,W0の比W/W0は前記数10に基づき下記数17のようになる。なお、この数17の比W/W0は、微小角度Δθに対するイメージングプレート28の周方向の長さに関する比である。
【数17】

【0090】
前述のように、前記数16及び数17は、半径方向及び円周方向における長さの比であるので、回折X線の発生原点において全方角を微小角度Δθで囲まれた箇所のイメージングプレート28における面積を、レーザ光照射開始位置の場合ではA0とし、変化するレーザ光照射位置ではAとすると、面積比は、前記数16及び数17を乗算した式となり、下記数18で表される。
【数18】

これは、変化するレーザ光照射位置におけるスポット面積Asのレーザ光照射開始位置におけるスポット面積As0に対する比を下記数19のようにすれば、スポット面積に対する微小角度Δθで囲まれた領域は、イメージングプレート28の任意の位置でも同等となることを意味する。
【数19】

【0091】
そして、フォーカスオフセット電圧を上げていくことにより、図17(A)に示すように、対物レンズ39が上方に変位して、スポット面積は破線で示すように増加していくので、フォーカスオフセット電圧が「0」のときのスポット面積をAs0とすると、As/As0には図17(B)に示すようにFo=f(As/As0)なる関数が成立する。よって、レーザ光照射開始位置におけるフォーカスオフセット電圧Foを「0」にし、Fo=f(As/As0)の関数テーブルを予め用意しておけば、現在のレーザ光照射位置におけるオフセット電圧Foは、前記数19と前記関数テーブルを用いて求めることができる。
【0092】
なお、前記空気のX線吸収係数μを求める際のフォーカスオフセット電圧の制御は、回折X線の発生原点からイメージングプレート28までの距離がL1とL2の場合があるので、次のように行う。回折X線の発生原点からイメージングプレート28までの距離がL1のときの回折環が形成される半径位置(レーザ照射による受光信号の強度がピークとなる半径位置)をr1とし、回折X線の発生原点からイメージングプレート28までの距離がL2のときの回折環が形成される半径位置をrとすると、微小角度Δθに対する長さの比W2/W1は、円周方向、半径方向とも、上記数17の式と同等の下記数20で表される。
【数20】

【0093】
半径方向も上記数17になるのは、イメージングプレート28の表面と回折X線方向に垂直な平面がなす角度は、距離がL1とL2によらず同じ値であるためである。そして、微小角度Δθで囲まれた箇所のイメージングプレート28における距離L1とL2の場合の面積比A2/A1は、上記数20の右辺を2乗した式になり、下記数21のようになる。
【数21】

【0094】
よって、回折X線の発生原点からイメージングプレート28までの距離がL1のときはフォーカスオフセット電圧を「0」にして回折環の半径方向にピークとなる強度S1及び半径r1を求め、回折X線の発生原点からイメージングプレート28までの距離がL2のときは、上記数21の右辺をAs/As0にして、上記数8によりフォーカスオフセット電圧Foを制御すればよい。
【0095】
さらに、Fo=f(As/As0)の関数テーブルは次のようにして用意すればよい。測定対象物OBに鉄粉を糊塗して、通常のX線回折の方法でイメージングプレート28に回折環を形成し、イメージングプレート28を回転させるとともに半径方向に移動させながら、レーザ光の照射により回折環から輝尽発光の強度を表す測定信号を取得する。このとき、イメージングプレート28が基準回転角から所定角度ずつ変化するごとに、フォーカスオフセット電圧Foを「0」から所定の大きさずつ変化させて測定信号を得る。そして、この測定信号がピークとなるイメージングプレート28の半径位置、すなわち回折環の半径方向中心位置を検出する。そして、検出した半径位置において、異なるフォーカスオフセット電圧Foごとの測定信号を取出す。この場合、ピークである半径位置における回折X線の強度は同じであるので、測定信号の強度(輝尽発光の強度)の違いは、スポット面積の違いであり、フォーカスオフセット電圧Foが「0」のときのピーク強度をS0とすると、スポット面積の比As/As0は信号強度の比S/S0と同じとみなせる。よって、信号強度の比S/S0とフォーカスオフセット電圧Foとの関数テーブルF0=f(S/S0)を求めることで、スポット面積の比As/As0の関数であるフォーカスオフセット電圧Foを表す関数テーブルFo=f(As/As0)を求めることができる。なお、このとき、信号強度S,S0は、回折X線が存在しない箇所の信号強度(輝尽発光がないときの信号強度、すなわち反射光のみによる信号強度)を減算した強度とする。
【0096】
ふたたび、図6の制御パラメータ設定プログラムの説明に戻ると、コントローラCTは、前記ステップS306にて前記計算したフォーカスオフセット電圧Foの出力をフォーカスオフセット電圧発生回路49に指示する。これに応答して、フォーカスオフセット電圧発生回路49は、前記フォーカスオフセット電圧Foを加算器47に出力する。加算器47は、フォーカスサーボ回路46からのフォーカスサーボ信号に前記フォーカスオフセット電圧Foを加算して、ドライブ回路48に出力する。ドライブ回路48は、フォーカスアクチュエータ40を加算器47からの信号に応じて制御する。したがって、対物レンズ39は、フォーカスオフセット電圧Foによってオフセットされた位置にて対物レンズ39をフォーカスサーボ制御する。その結果、レーザ光の照射位置が変化しても、対物レンズ39によるレーザ光のスポットの面積が、レーザ光の照射位置がイメージングプレート28の半径方向外側にいくに従って大きくなり、回折X線の発生原点における微小角度Δθの範囲内で発生した回折X線のイメージングプレート28で受光される面積が変化しても、輝尽発光の強度を常に同じにすることができる。
【0097】
前記ステップS308の処理後、コントローラCTは、ステップS310にて、半径方向移動速度Frを下記数22の演算の実行により計算して、計算された半径方向移動速度Frをフィードモータ制御回路22に出力する。
【数22】

【0098】
半径方向移動速度Frを変化させる理由は、回折X線の発生原点における半径方向の角度変化Δθに相当するイメージングプレート28の表面での半径方向の距離Dは、レーザ光照射位置により変化、すなわち半径が大きくなるほど前記角度変化Δθに対する距離Dが大きくなる。したがって、この距離Dが大きくなるほど半径方向移動速度Frを大きくすることにより、レーザ光の照射位置が変化しても、一定時間における角度変化Δθに相当するイメージングプレート28の表面での半径方向の距離Dをレーザ光が移動する時間を一定にするためである。
【0099】
そして、前記数22中の各パラメータは次の通りである。Fr0はレーザ光照射開始位置での移動速度を表すもので、予め設定されている値である。r0は、前述のように、レーザ光照射開始時のレーザ光の照射位置の半径値(最小半径)であり、上記図5AのステップS206でフィードモータ制御回路22に指示した読取り開始位置R1−αに等しい。rも、前述のように、現在のレーザ光照射位置の半径値であり、前記ステップS302にて取得した半径値rである。Lも、前述のように、回折X線の発生原点(測定対象物OBへのX線の照射位置)からイメージングプレート28までの距離であり、図4のステップS110にて計算して記憶しておいた値である。
【0100】
前記数22について、説明しておく。回折X線の発生原点における半径方向の角度変化Δθに相当するイメージングプレート28の表面での距離Dは、前述した図16における長さWI,WI0を距離D,D0とおけば、同様に考えることができる。したがって、前記数16をそのまま用いることができ、距離D,D0の関係は下記数23のようになる。
【数23】

【0101】
半径方向移動速度Frは一定時間に移動する距離であり、イメージングプレート28は一定の回転速度で回転しているので、1回転に要する時間はレーザ光照射位置によらず同じである。よって、D/D0=Fr/Fr0であり、下記数24,25が成立する。
【数24】

【数25】

【0102】
ふたたび、図6の制御パラメータ設定プログラムの説明に戻ると、コントローラCTは、前記ステップS308にて前記計算した半径方向移動速度Frをフィードモータ制御回路22に供給する。これに応答して、フィードモータ制御回路22は、フィーダモータ18によるイメージングプレート28の半径方向の移動速度を前記供給された半径方向移動速度Frになるように制御する。すなわち、レーザ光照射位置の半径方向の移動速度を半径方向移動速度Frになるように制御する。その結果、レーザ光の照射位置が変化しても、一定時間における角度変化Δθに相当するイメージングプレート28の表面での半径方向の距離Dをレーザ光が移動する時間が一定に保たれる。
【0103】
前記ステップS310の処理後、コントローラCTは、ステップS310にて、レーザ照射の停止指示があったか否かを判定する。レーザ照射の停止は、後述するように、回折環の測定終了時に指示されるので、この場合、コントローラCTは、ステップS310にて「No」と判定して、ステップS302〜S310の処理が繰返し実行され続ける。このステップS302〜S310の処理により、レーザ光の照射位置が変化しても、輝尽発光の強度(レーザ照射して取得する受光信号の強度)が常に同じに保たれ、かつ一定時間における角度変化Δθに相当するイメージングプレート28の表面での半径方向の距離Dをレーザ光が移動する時間が一定に保たれる。なお、レーザ照射の停止指示があった場合には、コントローラCTは、ステップS310にて「Yes」と判定して、ステップS312にてこの制御パラメータ設定プログラムの実行を終了する。
【0104】
次に、前記回折環読取りプログラム及び制御パラメータ設定プログラムと並行して実行されるピーク検出プログラムについて説明する。ピーク検出プログラムの実行は図7のステップS400にて開始され、コントローラCTは、ステップS402にて変数tを「1」に初期設定する。この変数tは、後述するステップS404〜418からなる実質的なピーク検出処理を2回連続して行わせるための変数であり、ピーク検出処理の回数を表す。次に、コントローラCTは、ステップS404にて、周方向番号nを「1」に初期設定する。なお、この周方向番号nは、回折環読取りプログラムの場合と同様に所定角度θごとの周方向位置を示すものであるが、回折環読取りプログラムに用いられる周方向番号nとは独立したものである。
【0105】
前記ステップS404の処理後、コントローラCTは、ステップS406にて、詳しくは後述するピーク半径rp(t,n)が存在するか、すなわちピーク半径rp(t,n)が検出済みであるかを判定する。この場合、ピーク半径rp(t,n)においては、変数tによって1回目のピーク検出か2回目のピーク検出かが表され、変数nによって検出されたピーク半径の回転角度θ(n)が表される。ピーク半径rp(t,n)が検出済みであれば、コントローラCTは、ステップS406にて「Yes」と判定して、ステップS408にて周方向番号nに「1」を加算し、ステップS410にて周方向番号nが所定数Nより大きいか否かを判定する。周方向番号nが所定数N以下であれば、コントローラCTは、ステップS410にて「No」と判定してステップS406に戻る。周方向番号nが所定数より大きければ、コントローラCTはステップS410にて「Yes」と判定して、周方向番号nを「1」に戻すためにステップS404に戻る。
【0106】
一方、ピーク半径rp(t,n)が未検出であれば、コントローラCTは、ステップS406にて「No」と判定して、ステップS412にて前記図5AのステップS228の処理によって記憶した信号強度S(n,m)の数が所定数以上であるか否か判定する。信号強度S(n,m)の数が所定数以上でなければ、コントローラCTは、ステップS412にて「No」と判定して、前述したステップS408,S410の処理を実行してステップS406又はステップS404に戻る。このステップS412の判定処理は、信号強度S(n,m)の数が少ない場合には後述するピーク検出処理を実行しても無駄であるからである。なお、前記図5AのステップS232の処理によって消去された信号強度S(n,m)は、記憶した信号強度S(n,m)としてカウントされない。
【0107】
一方、前記記憶した信号強度S(n,m)の数が所定数以上であるときは、コントローラCTは、ステップS412にて「Yes」と判定して、ステップS414にて、ピークの有無を判定する。すなわち、周方向番号nによって指定される周方向位置の全ての半径値r(n,m)及び信号強度S(n,m)を用いて、SUM信号の値のピークの有無を判定する。具体的には、図12に示すように、周方向番号nによって指定される周方向位置の全ての半径値r(n,m)を横軸に取り、その半径値r(n,m)に対応させて信号強度S(n,m)を縦軸に取った受光曲線において、信号強度S(n,m)にピークが存在するか、すなわち信号強度S(n,m)が増加した後に減少したかを判定するとよい。そして、ピークが存在しなければ、コントローラCTは、ステップS414にて「No」と判定して、前述したステップS408,S410の処理を実行してステップS406又はステップS404に戻る。
【0108】
このように、ステップS404〜S414を繰り返し実行している間に、並行して実行されている回折環読取りプログラムの処理により、さらに半径値r(n,m)及び信号強度S(n,m)が取り込まれてメモリに次々に記憶されていく。このため、ステップS414にてピークが検出されるようになり、検出されると、コントローラCTは、ステップS414にて「Yes」と判定して、ステップS416にて、ピークの半径値r(n,m)をピーク半径rp(t,n)としてメモリに記憶する。次に、コントローラCTは、ステップS418にて、取得したピーク半径rp(t,n)の数が所定数N以上であるか否かを判定する。そして、取得したピーク半径rp(t,n)の数が所定数より小さければ、コントローラCTは、ステップS418にて「No」と判定し、前述したステップS408,S410の処理を実行してステップS406又はステップS404に戻る。
【0109】
このようにステップS404〜S418を繰り返すことで、取得したピーク半径rp(t,n)の数が増えていき所定数Nに達すると、すなわち周方向の全ての読取りポイントP(n,m)にてピーク半径rp(t,n)が取得されると、コントローラCTは、ステップS418にて「Yes」と判定し、ステップS420にて比率測定有りか否かを判定する。ここで、比率測定とは、詳しくは後述する、フェライトの回折積分強度とオーステナイトの回折積分強度との比率の測定を意味する。この場合、比率測定無しならば、コントローラCTは、ステップS420にて「No」と判定して、ステップS424にてピーク検出の終了を示す終了指令を出力する。
【0110】
本実施形態の場合、鉄に関する回折環の測定であり、かつフェライトとオーステナイトの比率の測定を含むので、コントローラCTは、ステップS420にて「Yes」と判定して、ステップS422に進む。ステップS422においては、コントローラCTは、位置検出回路21からテーブル27(すなわちイメージングプレート28)の位置を入力して、この入力した位置を用いてイメージングプレート28が読取り終了位置を超えているかを判定する。このイメージングプレート28の読取り終了位置とは、対物レンズ39の中心位置すなわちレーザ光の照射位置が回折環基準半径から前記所定距離αだけ外側にある状態である。具体的には、この場合の測定対象はフェライトの回折環であるので、対物レンズ39の中心位置が前記計算したフェライトの回折環基準半径R1よりも所定距離αだけ外側に位置している状態である。そして、イメージングプレート28が読取り終了位置を超えていなければ、ステップS422にて「No」と判定し続けて、ステップS422の判定処理を繰り返し実行する。
【0111】
したがって、この状態では、次のステップS424の処理による終了指令が出力されない。そのため、コントローラCTは、前述した図5AのステップS238にて「No」と判定して、ステップS240の処理によって周方向番号nを「1」に戻すとともに半径方向番号mを「1」ずつ増加させながら、ステップS220〜S240の循環処理により、信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)をさらに蓄積記憶していく。なお、この場合も、ステップS230,S232の処理により、信号強度S(n,m)が基準値より小さければ、信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)は消去される。このように1周分のピーク半径rp(t,n)が検出された後も信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)を蓄積記憶する理由は、回折環(この場合、フェライトの回折環)に関する回折積分強度を計算するために、図13に示すように半径方向に分布する回折環の信号強度Sを取得するためである。
【0112】
そして、イメージングプレート28が読取り終了位置を超えると、コントローラCTは、図7のステップS422にて「Yes」と判定して、ステップS424にてピーク検出の終了を示す終了指令を出力する。この終了指令の出力後、コントローラCTは、ステップS426にてレーザ照射の停止が指示されたか否かを判定する。なお、このステップS426の判定処理は、前記終了指令後における所定の短時間内にレーザ照射の停止が指示されたかを判定するもので、短時間内にレーザ照射の停止の指示がなされない場合には、「No」と判定される。言い換えれば、ステップS426の判定処理は、前記ステップS424の終了指令の直後に行われるのではなく、所定の短時間だけ待って、その短時間内にレーザ照射停止の指示があったかを判定するものである。このレーザ照射の停止の指示は、詳しくは後述する、回折環読取りプログラムの図5BのステップS258にて出力されるものであり、この場合、レーザ照射の停止の指示は短時間内に出力されることはない。したがって、この場合、コントローラCTは、ステップS426にて「No」と判定し、ステップS428にて変数tに「1」を加算してステップS404に戻る。したがって、このピーク検出プログラムにおいては、コントローラCTは、ステップS404〜S418からなる2回目のピーク検出処理及びステップS420,S422の測定終了判定処理を実行し始める。
【0113】
前記ステップS424の終了指令の出力により、コントローラCTは、図5AのステップS238にて「Yes」と判定し、図5BのステップS242に進む。ステップS242においては、コントローラCTは、前記ステップS228の処理によって蓄積記憶した全ての信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)を測定済みの回折環の信号強度St(n,m)及び半径値rt(n,m)として保存する。なお、この場合の保存される信号強度St(n,m)及び半径値rt(n,m)において、変数nは周方向番号nに対応し、変数mは半径方向番号mに対応する。そして、最初の信号強度St(n,m)及び半径値rt(n,m)(例えば、S1(n,m)及び半径値r1(n,m))はフェライトの回折環に関するデータである。
【0114】
次に、コントローラCTは、ステップS244にて全ての回折環の読取りが終了したかを判定する。この場合、1つの回折環(フェライトの回折環)の読取りが終了しただけで、他の回折環(オーステナイトの回折環)が残っているので、コントローラCTは、ステップS244にて「No」と判定し、ステップS246以降の処理を実行する。ステップS246においては、コントローラCTは、既に保存した全ての信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)をクリアする。
【0115】
次に、コントローラCTは、ステップS248にてフィードモータ制御回路22にイメージングプレート28の移動停止を指示する。これに応答して、フィードモータ制御回路22はフィードモータ18の作動を停止させて、イメージングプレート28の移動を停止させる。前記ステップS248の処理後、コントローラCTは、ステップS250にてフォーカスサーボ回路46にフォーカスサーボ制御の停止を指示する。これに応答して、フォーカスサーボ回路46は、フォーカスサーボ信号の出力を停止して、対物レンズ39のフォーカスサーボ制御を停止する。
【0116】
次に、コントローラCTは、ステップS252にて、フィードモータ制御回路22にイメージングプレート28を次の読取り開始位置へ移動することを指示する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21と協働してフィードモータ18を制御して、イメージングプレート28を次の読取り開始位置まで移動する。このイメージングプレート28の次の読取り開始位置とは、対物レンズ39の中心位置が次の回折環基準半径R2(本実施形態ではオーステナイトの回折基準半径R2)から所定距離αだけ内側にある位置である。前記ステップS252の処理後、コントローラCTは、前記ステップS212と同様なステップS254の処理により、フォーカスサーボ制御を開始させる。
【0117】
このステップS254のフォーカスサーボ制御の開始後、コントローラCTは、図5AのステップS216に戻り、前述のように、イメージングプレート28を図1及び図2の右下方向に一定速度で移動させ始める。これにより、レーザ光がイメージングプレート28上にフォーカスサーボ制御された状態で、レーザ光の照射位置が、イメージングプレート28において、回転しながら、オーステナイトの回折環基準半径R2から所定距離αだけ内側から外側方向に一定速度で移動し始める。そして、前述したフェライトの回折環の場合と同様に、ステップS218による周方向番号n及び半径方向番号mの「1」への初期設定後、ピーク検出プログラムの実行によって終了指令が出力されるまで、ステップS220〜S240の循環処理により、「1」ずつ順次大きくなる半径方向番号m(=1,2,3・・)と、各半径方向番号mごとに回転角度θ(1)〜θ(N)に対応した周方向番号n(=1〜N)とにより指定される読取りポイントP(n,m)に対応する信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)がメモリに順次記憶される。なお、この場合も、信号強度S(n,m)が、所定の基準値より小さければ、メモリに記憶された信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)は消去される。
【0118】
この状態では、前述したように、コントローラCTは、図6の制御パラメータ設定プログラムも並行して実行しているとともに、図7のピーク検出プログラムのステップS404〜S418からなる2回目のピーク検出処理及びステップS420,S422の測定終了判定処理を並行して実行している。なお、この場合の、ステップS422による測定終了判定処理は、2つ目の回折環(本実施形態ではオーステナイトの回折環)に関する判定処理であり、読取り終了位置は、レーザ照射位置(すなわち測定位置)がオーステナイトの回折環基準半径R2よりも所定距離αだけ外側に移動した位置である。
【0119】
そして、ピークが検出され、かつレーザ光の照射位置が読取り終了位置を超えると、コントローラCTは、ステップS422にて「Yes」と判定して、ステップS424にて終了指令を出力する。この終了指令の出力後、コントローラCTは前記場合と同様に、ステップS426にてレーザ照射停止が指示されたか否かを判定するが、この場合には、後述する図5BのステップS258の処理によってレーザ照射停止の指示が前記所定の短時間内に出力されるので、その時点で、ステップS426にて「Yes」と判定して、ステップS430にてピーク検出プログラムの実行を終了する。
【0120】
ふたたび、図5A及び図5Bの回折環読取りプログラムの説明に戻ると、前記ピーク検出プログラムによる終了指令の指示があって、コントローラCTが、ステップS238にて「Yes」と判定して、ステップS242に進むと、ステップS242においては、前記ステップS228の処理によりって蓄積記憶した全ての信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)を測定済みの回折環の信号強度St(n,m)及び半径値rt(n,m)として保存する。なお、この場合の保存される信号強度St(n,m)及び半径値rt(n,m)は、オーステナイトの回折環に関する信号強度S2(n,m)及び半径値r2(n,m)である。
【0121】
次に、コントローラCTは、前述のように、ステップS244にて全ての回折環の読取りが終了したかを判定する。この場合、2つ目の回折環の測定が終了したので、すなわち本実施形態におけるオーステナイトの回折環の測定が終了したので、コントローラCTは、ステップS244にて「Yes」と判定し、ステップS256以降の処理を実行する。
【0122】
そして、コントローラCTは、コントローラCTは、ステップS256にて、フォーカスサーボ回路46に対してフォーカスサーボ制御の停止を指示することにより、フォーカスサーボ制御を停止させる。次に、コントローラCTは、ステップS258にて、レーザ照射停止の指示を出力して、レーザ駆動回路34によるレーザ光源33によるレーザ光の照射を停止させる。このレーザ照射停止の指示の出力により、前述のように図7のピーク検出プログラムの実行が終了されると同時に、図6の制御パラメータ設定プログラムの実行も終了される。さらに、コントローラCTは、ステップS260にて、A/D変換回路52及び回転角度検出回路26の作動を停止させ、ステップS262にて、フィードモータ制御回路22を制御してフィードモータ18の作動を停止させることにより、イメージングプレート28を停止させて、ステップS264にて回折環読取りプログラムの最実行を終了する。なお、位置検出回路21の作動及びイメージングプレート28の回転は、以前と同様のまま継続されている。
【0123】
なお、上記説明では、複数の結晶構造(本実施形態ではフェライトとオーステナイト)の比率の測定を行うことを入力したので、図7のピーク検出プログラムのステップS406〜S418からなる1周分のピーク半径rp(t,n)の検出後も、ステップS420にて「Yes」との判定のもとに、ステップS422にてレーザ光の照射位置(測定位置)が読取り終了位置を超えたか否かを判定するようにした。しかし、複数の結晶構造の比率の測定が不要であって、前記比率を測定することを入力しなければ、コントローラCTは、ステップS420にて「No」と判定して、1周分のピーク半径rp(t,n)の検出直後に、ステップS424に進む。
【0124】
前記回折環読取りプログラムの実行が終了すると、コントローラCTは、イメージングプレート28に撮像された回折環を消去する図8の回折環消去プログラムを実行する。回折環消去プログラムの実行はステップS500にて開始され、コントローラCTは、ステップS502にて、フィードモータ制御回路22に、イメージングプレート28を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させることを指示する。フィードモータ制御回路22は、位置検出回路21と協働してフィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート28が消去開始位置にある状態では、LED55から出力される可視光の中心が前記計算したフェライトの回折環基準半径R1よりも所定距離γだけ小さい位置に位置する。具体的には、この位置は、イメージングプレート28が駆動限界位置にある状態において、イメージングプレート28の中心からLEDの可視光の中心までの距離をR0’とすると、位置検出回路21から出力される位置がR1−γ−R0’になる位置である。なお、所定距離γは、前記所定距離αよりも若干大きく、フェライトによって撮像された回折環の半径よりは余裕をもってずれた位置である。これにより、後述の処理により、フェライトによって撮像された回折環が確実に消去される。
【0125】
次に、コントローラCTは、ステップS504にて、LED駆動回路56を制御してLED55による可視光のイメージングプレート28に対する照射を開始させる。次に、コントローラCTは、ステップS506にて、フィードモータ制御回路22に対して、イメージングプレート28の移動開始及び移動速度を指示する。フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18を駆動制御して、イメージングプレート28を消去開始位置から軸受部19側(図1,2の右下方向)へ一定速度で移動させる。これにより、LED55による可視光が、イメージングプレート28において、回転しながら、フェライトの回折環基準半径R1から所定距離γ(γ>α)だけ内側から外側方向に一定速度で移動し始める。
【0126】
前記ステップS506の処理後、コントローラCTは、ステップS508にて位置検出回路21からイメージングプレート28の位置を表す位置信号を入力し、ステップS510にて、イメージングプレート28の現在の位置が消去終了位置を超えているか否かを判定する。この終了位置は、フェライトの回折環基準半径R1よりも所定距離γだけ大きな位置である。具体的には、位置検出回路21から出力される位置がR1+γ−R0’になる位置である。そして、イメージングプレート28の現在の位置が消去終了位置を超えるまで、コントローラCTは、ステップS510にて「No」と判定して、ステップS508,S510の処理を繰り返し実行する。これにより、回転するイメージングプレート28に対し、前記回折環基準半径R1から所定距離γだけ内側から所定距離γだけ外側まで、LED55による可視光が照射されるので、フェライトによる回折X線によって形成された回折環は内側から徐々に消去されていく。
【0127】
そして、イメージングプレート28の現在の位置が消去終了位置を超えると、コントローラCTは、ステップS510にて「Yes」と判定して、ステップS512にてフィードモータ制御回路22にイメージングプレート28の移動停止を指示し、ステップS514にてLED駆動回路56にLED55による可視光の照射停止を指示する。これにより、フィードモータ制御回路22は、フィードモータ18の作動を停止させることによりイメージングプレート28の移動を停止させる。LED駆動回路56は、LED55による可視光の照射を停止させる。この状態では、フェライトによって撮像された回折環は完全に消去されている。
【0128】
前記ステップS514の処理後、コントローラCTは、ステップS516にて次の消去位置、すなわちさらに消去する回折環が存在するか否かを判定する。この場合、本実施形態では、イメージングプレート28にはフェライトによる回折環とオーステナイトによる回折環が存在するので、コントローラCTは、ステップS516にて「Yes」と判定して、ステップS502に戻る。そして、前述したステップS502〜S510の処理により、オーステナイトによって撮像された回折環が消去される。なお、この場合のステップS502の消去開始位置はオーステナイトの回折環基準半径R2から所定距離γだけ内側位置であり、ステップS510の消去終了位置はオーステナイトの回折環基準半径R2から所定距離γだけ外側位置である。具体的には、消去開始位置は位置検出回路21から出力される位置がR2−γ−R0’になる位置であり、消去終了位置は位置検出回路21から出力される位置がR2+γ−R0’になる位置である。その後、ステップS512,S514の処理により、イメージングプレート28の移動が停止するとともに、LED55による可視光の照射も停止する。
【0129】
前記ステップS514の処理後、コントローラCTは、ステップS516にて、ふたたび次の消去位置の存在を判定するが、この場合、オーステナイトによる回折X線によって形成された回折環が消去されているので、同ステップS516にて「No」すなわち次の消去位置は存在しないと判定して、ステップS518に進む。ステップS518においては、コントローラCTは、位置検出回路21の作動を停止させる。次に、コントローラCTは、ステップS520にて、スピンドルモータ制御回路25に対してイメージングプレート28の回転停止を指示する。この指示に応答して、スピンドルモータ制御回路25は、スピンドルモータ24の作動を停止させて、イメージングプレート28の回転を停止させる。前記イメージングプレート28の回転停止後、コントローラCTは、ステップS522にて回折環消去プログラムの実行を終了する。
【0130】
前記回折環消去プログラムの実行を終了すると、コントローラCTは、図示しないプログラムの実行により、フェライトの回折環のピーク半径rp(1,n)及びオーステナイトの回折環のピーク半径rp(2,n)を用いて、cosα法により、残留応力を算出して表示装置57に表示する。また、残留応力の計算では、フェライトの回折環のピーク半径rp(1,n)及びオーステナイトの回折環のピーク半径rp(2,n)のうちのいずれか一方のピーク半径を用いるのみでもよい。また、コントローラCTは、ピーク半径rp(1,n),rp(2,n)を用いて、フェライト及びオーステナイトの回折環の画像データを作成して、フェライト及びオーステナイトの回折環を表示装置57に表示する。これにより、回折環の真円からのずれ具合から測定対象物OB(鉄)の残留応力を認識できる。
【0131】
また、コントローラCTは、フェライトに関する全ての強度信号S1(n,m)から全ての強度信号S1(n,m)の中の最小値(すなわち、回折環が形成されていない箇所の信号強度)を減算した値を合計して、合計値を測定時における周方向番号nの最大値Nで除算して、フェライトの回折環に関する回折積分強度(図13の半径R1近傍の斜線領域の面積に対応)を計算する。また、オーステナイトに関する全ての強度信号S2(n,m)から全ての強度信号S2(n,m)の中の最小値(すなわち、回折環が形成されていない箇所の信号強度)を減算した値を合計して、合計値を測定時における周方向番号nの最大値Nで除算して、オーステナイトの回折環に関する回折積分強度(図13の半径R2近傍の斜線領域の面積に対応)を計算する。そして、フェライトの回折積分強度と、オーステナイトの回折積分強度との比により、鉄の中に含まれるフェライトとオーステナイトとの比率を取得する。この場合も、この比率と共に図13に示すようなフェライト及びオーステナイトの信号強度の分布を表示装置57に表示するようにするとよい。これらの残留応力及び比率により、鉄の特性を評価することができる。
【0132】
上記のように動作するX線回折測定装置においては、図5A及び図5Bの回折環読取りプログラム及び図7のピーク検出プログラムの実行により、イメージングプレート28に記録された回折X線の像である回折環がそれぞれ検出される。また、回折環読取りプログラムの実行中においては、この回折環読取りプログラムの実行と並行して、図6の制御パラメータ設定プログラムが実行される。そして、この制御パラメータ設定プログラムにおいては、ステップS304の処理により、レーザ光源33からハイレベル出力の指示がされた際に出射されるレーザ光の強度が前記数2の演算によって計算されたレーザ光強度Pwに設定される。これにより、X線が平行光であるという条件下で、レーザ光照射位置が変化しても、輝尽発光の強度(レーザ照射して取得する受光信号の強度)を、レーザ光の照射開始位置における回折X線の発生原点からの距離(図14の点線部分の球面の位置)でX線を受光した場合の強度と同じにすることができる。
【0133】
また、上記実施形態によれば、図6の制御パラメータ設定プログラムのステップS306の処理により、フォーカスアクチュエータ40によるレーザ光のフォーカス位置が、前記数8,9の演算によって計算されたフォーカスオフセット電圧Foに応じてオフセットされる。これにより、レーザ光の照射位置が変化して、回折X線の発生原点における微小角度Δθの範囲内で発生した回折X線のイメージングプレート28で受光される面積が変化しても、輝尽発光の強度を常に同じにすることができる。
【0134】
さらに、上記実施形態によれば、図6の制御パラメータ設定プログラムのステップS308の処理により、レーザ光の照射位置が変化しても、一定時間における角度変化Δθに相当するイメージングプレート28の表面での半径方向の距離Dをレーザ光が移動する時間が一定に保たれる。そして、このようなレーザ照射位置による、レーザ光強度、フォーカスオフセット電圧及び半径方向移動速度の制御により、イメージングプレート28には最適なレーザ光が照射されるとともに、最適なレーザ光照射位置の移動が行われるので、レーザ光照射による良好な受光信号とその分布が得られ、ひいては前記回折環の測定も良好に行われるようになる。
【0135】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0136】
上記実施形態では、レーザ光の照射位置により、レーザ光強度Pw、フォーカスオフセット電圧Fo及び半径方向移動速度Frを変化させることにより、回折環の半径方向のレーザ光の強度分布曲線を、回折X線の発生原点から同一半径にある球面で回折X線を受光した場合と同じである、本来の強度分布曲線になるようにした。しかし、これに代えて、フォーカスオフセット電圧Foを変更せずに、レーザ光強度Pw及び半径方向移動速度Frの2つを変更するようにしてもよい。この場合、図6の制御パラメータ設定プログラムのステップS306の処理を省略して、ステップS304にて、レーザ光強度Pwを下記数26の演算の実行により計算して、計算されたレーザ光強度Pwをレーザ駆動回路34に出力する。
【数26】

この場合も、上記実施形態と同様に、rはレーザ光照射位置の半径値であり、Pwoは、レーザ光照射開始位置でのレーザ光強度を示し、予め決められた値である。r0は読取り開始位置R1−αに等しく、Lは回折X線の発生原点からイメージングプレート28までの距離であり、μは空気のX線吸収係数である。
【0137】
この数26は、上記実施形態のレーザ光強度Pwを計算するための数2の右辺に、上記実施形態のフォーカスオフセット電圧Foを計算するための数9(レーザ光照射開始位置でのスポット面積に対するレーザ光照射位置でのスポット面積の比)の逆数を乗じた数式である。すなわち、この数26は、回折X線の発生原点からの距離が大きくなることで回折X線の強度が低くなる分だけレーザ光強度を上げ、さらに回折X線の発生原点において全方角を微小角度Δθで囲まれた箇所のイメージングプレート28における面積が大きくなって、単位面積当たりの回折X線の強度が低くなる分だけレーザ光強度を上げる数式である。単位面積当たりの回折X線の強度の比は、回折X線の強度が一定であれば、面積の比の逆数になるので、上記数9のフォーカスオフセット電圧Foを求めるためのレーザ光照射開始位置でのスポット面積に対するレーザ光照射位置でのスポット面積の比の逆数を乗算すればよい。
【0138】
また、半径方向移動速度Frに関しては、上記実施形態のステップS308の制御と同じである。その結果、この変形例によっても、回折環の半径方向のレーザ光の強度分布曲線を、回折X線の発生原点から同一半径にある球面で回折X線を受光した場合と同じである、本来の強度分布曲線にすることができる。したがって、回折環が精度よく検出できる。また、この変形例においては、フォーカスオフセット電圧の制御が省略されるので、上記実施形態の加算器47及びフォーカスオフセット電圧発生回路49も不要となる。
【0139】
さらに、上記実施形態のフォーカスオフセット電圧Fo、レーザ光強度Pw及び半径方向移動速度Frを変更することなく一定に保ったまま、上記実施形態で取得された回折X線の強度分布を表すデータとしての信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)を補正するようにしてもよい。すなわち、上記実施形態の図6の制御パラメータ設定プログラムをなくして、図5A及び図5Bの回折環読取りプログラムの実行により取得した信号強度S(n,m)及び半径値r(n,m)を図18のデータ補正プログラムの実行によって補正するようにしてもよい。
【0140】
すなわち、コントローラCTは、図8の回折環消去プログラムの実行後、図18のステップS600にてデータ補正プログラムの実行を開始し、ステップS601にて下記数27の演算を実行することにより、取得した信号強度S(n,m)を補正して補正信号強度S’(n,m)を計算する。なお、この取得した信号強度S(n,m)とは、図5A及び図5Bの回折環読取りプログラムのステップS242の処理によってメモリに保存されている信号強度St(n,m)(t=1,2)から回折X線が存在しない箇所の信号強度(輝尽発光がない箇所の信号強度、すなわち反射光のみによる信号強度)を減算した値である。より具体的には、図13の信号強度値からハッチングを付与してない部分の信号強度を減算した値である。
【数27】

前記数27中、r0は、半径値r(n,m)(半径値r1(n,m),r2(n,m))中の最も小さなデータ値(回折環が複数ある場合には、半径値r(n,m)(半径値r1(n,m),r2(n,m))中の最も小さなデータ値)である。Lは、上記実施形態と同様に、回折X線の発生原点(測定対象物OBへのX線の照射位置)からイメージングプレート28までの距離である。μは、空気のX線吸収係数である。
【0141】
前記数27は、前記変形例の数26におけるレーザ光強度Pw及びレーザ光照射開始位置でのレーザ光強度Pwoを、補正した信号強度S’(n,m)及び測定によって取得した信号強度S(n,m)にそれぞれ変更したものである。すなわち、この数27は、レーザ光強度と信号強度がほぼ比例関係にあることに基づくもので、これにより、前記変形例と同様に、回折X線の発生原点からの距離が大きくなることで回折X線の強度が低くなる分だけ信号強度が上がり、さらに回折X線の発生原点において全方角を微小角度Δθで囲まれた箇所のイメージングプレート28における面積が大きくなって、単位面積当たりの回折X線の強度が低くなる分だけ信号強度が上がる。
【0142】
前記ステップS601の処理後、コントローラCTは、ステップS602にて下記数28の演算を実行することにより、取得した半径値r(n,m)を補正して補正半径値r’(n,m)を計算して、ステップS603にてデータ補正プログラムの実行を終了する。なお、前記半径値r(n,m)は、前記ステップS242の処理によってメモリに保存されている半径値rt(n,m)(t=1,2)である。
【数28】

前記数28中、r0は、前記ステップS601の処理に用いた半径値r(n,m)(半径値r1(n,m),r2(n,m))中の最も小さなデータ値である。Lも、前記ステップS601の処理に用いた、回折X線の発生原点(測定対象物OBへのX線の照射位置)からイメージングプレート28までの距離である。この数28は、図19に示すように、イメージングプレート28上の半径方向の距離(r(n,m)−ro)を、回折X線の発生原点から半径(ro2+L21/2の球面上での距離に変換して最小半径値roを加算した距離を求めることに相当する。
【0143】
前記数28について説明する。イメージングプレート28から測定対象物OBまでの距離をLとし、X線照射方向と回折X線の発生原点からレーザ光照射開始位置までの方向がなす角度をθ0とすれば、下記数29が成立する。
【数29】

また、X線照射方向と回折X線の発生原点からレーザ光照射位置までの方向がなす角度をθとすれば、下記数30が成立する。
【数30】

【0144】
一方、角度(θ−θ0)に対する半径(ro2+L21/2の球面上での距離(r’(n,m)−ro)は、下記数31のように表される。
【数31】

前記数31は、下記数32のように変形される。
【数32】

そして、前記数32に、数29及び数30によって表される角度θ0,θを代入すれば、上記数28が導かれる。
【0145】
この数28を用いた半径値r(n,m)の補正は、イメージングプレート28上の半径方向の距離(r(n,m)−ro)を、回折X線の発生原点から半径(ro2+L21/2の球面上での距離に変換する補正である。したがって、この変形例によっても、回折環の半径方向のレーザ光の強度分布曲線を、回折X線の発生原点から同一半径にある球面で回折X線を受光した場合と同じである、本来の強度分布曲線にすることができる。したがって、回折環が精度よく検出できる。
【0146】
この変形例におけるステップS601の信号強度S(n,m)の補正は、上記実施形態の数2,8,9の演算によるレーザ光強度Pwの変更及びフォーカスオフセット電圧Voの設定制御に対応するとともに、上記変形例の数26の演算によるレーザ光強度Pwの変更に対応する。また、ステップS602の半径値r(n,m)の補正は、上記実施形態及び変形例の数22の演算による半径方向移動速度Frの設定制御に対応する。したがって、前記ステップS601,S602の両処理の一方のみを上記実施形態及び変形例の対応処理に代えて用いるようにしてもよい。特に、ステップS602の半径値r(n,m)の補正を、上記実施形態及び変形例の数22の演算による半径方向移動速度Frの設定制御に代えて利用しても、大きな誤差は生じない。
【0147】
さらに、上記実施形態及び変形例において、フェライトの回折積分強度とオーステナイトの回折積分強度との比率の測定を必要とする場合には、前記半径方向移動速度Frの制御は有効であるが、比率測定無しで、回折環のピーク位置のみを検出して回折環の形状を評価する場合には、前記半径方向移動速度Frの制御は必ずしも行う必要はない。
【0148】
また、上記実施形態では、フォーカスオフセット電圧Foをフォーカスサーボ信号に加算し、フォーカスオフセット電圧Foを変化させることでレーザ光のスポット面積を変化させた。しかし、イメージングプレート28の表面のレーザ光の光軸方向への変動が充分に小さければ、フォーカスサーボ機能を設けずに、対物レンズ39の位置、コリメーティングレンズ35の位置又は光ヘッドPUHの位置をレーザ光の光軸方向に変化させて、レーザ光のスポット面積を変化させるようにしてもよい。この場合、フォーカスオフセット電圧Foに代えて、対物レンズ39の位置、コリメーティングレンズ35の位置又は光ヘッドPUHの位置と、レーザ光のスポット面積との関係を上記実施形態と同様の方法により求めておけばよい。
【0149】
また、上記実施形態においては、受光センサ31によって受光した反射光の受光位置を用いて、測定対象物OBの高さ方向の位置が、所定の範囲内にあるか否かを判定し、所定の範囲内になければ、作業者が昇降ステージ12aの高さを調整するようにした。しかし、受光センサ31の受光位置が表す測定対象物OBの高さ方向の位置が所定の範囲内にあるように、昇降ステージ12aの高さが自動的に調整されるように構成してもよい。これによれば、作業者がセットした測定対象物OBの高さ方向の位置が、受光センサ31が反射光を受光できる範囲にありさえすれば、作業者が昇降ステージ12aの高さを調整する必要が無いので、作業効率を向上させることができる。なお、例えば上記従来のX線検出装置のように、イメージングプレート28と測定対象物OBとの距離が常に一定になるように構成されていれば、受光センサ31は不要である。
【0150】
また、上記実施形態においては、受光センサ31の受光位置を用いて、回折環基準半径Rを算出し、撮像した回折環の半径が回折環基準半径Rからずれる可能性のある領域を想定して、読取り開始位置を決定するようにした。しかし、回折環基準半径Rを算出することなく、常に一定の領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート28の全領域にレーザ光を照射するようにしてもよい。また、LED53による可視光の照射についても同様に、常に一定の領域にLED53から発せられた可視光を照射するようにしてもよい。例えば、イメージングプレート28の全領域にLED53からの可視光を照射するようにしてもよい。ただし、この場合、上記実施形態よりも測定時間が長くなる。
【符号の説明】
【0151】
12…昇降機、13…X線出射器、15…移動ステージ、18…フィードモータ、21…位置検出回路、22…フィードモータ制御回路、24…スピンドルモータ、25…スピンドルモータ制御回路、26…回転角度検出回路、27…テーブル、28…イメージングプレート、31…受光センサ、33…レーザ光源、34…レーザ駆動回路、39…対物レンズ、40…フォーカスアクチュエータ、43…フォトディテクタ、45…フォーカスエラー信号生成回路、46…フォーカスサーボ回路、47…加算器、49…フォーカスオフセット電圧発生回路、51…SUM信号生成回路、57…表示装置、58…入力装置、CT…コントローラ、PUH…光ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に向けてX線を出射するX線出射器と、
中央に前記X線を通過させる貫通孔が形成されたテーブルと、
前記テーブルに固定されていて、前記測定対象物にて回折した前記X線の回折光を受光する受光面を有し、前記回折光の像である回折環を記録する回折光受光器と、
レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、前記レーザ光を前記回折光受光器の受光面に照射するとともに、前記レーザ光の照射によって前記回折光受光器から出射された光を受光して受光強度を表す受光信号を出力するレーザ検出装置と、
前記テーブルを、前記貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段と、
前記テーブルを、前記回折光受光器の受光面に平行な方向に、前記レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記移動手段によるテーブルの移動位置を検出する位置検出回路と、
前記回転手段及び前記移動手段を制御して前記回折環が記録された前記回折光受光器を回転及び移動させて、前記レーザ検出装置から出射されるレーザ光の前記回折光受光器における照射位置を前記回折光受光器の中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させる照射位置制御手段と、
前記照射位置制御手段により前記回折光受光器におけるレーザ光の照射位置を前記回折光受光器の中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させている状態で、複数の位置で前記レーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力し、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを前記複数の位置にそれぞれ対応させて順次記憶するとともに、前記位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置に基づいて前記回折光受光器の中心から前記複数の位置までの距離をそれぞれ計算して前記計算した距離を表すデータを半径値データとして前記複数の位置にそれぞれ対応させて順次記憶するデータ読取り手段とを備え、
前記X線出射器から測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線によって前記回折光受光器に記録された回折環を測定するX線回折測定装置において、
前記位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置を用いて、前記回折光受光器の中心から前記レーザ光の照射位置までの距離が大きくなるに従って、前記レーザ光源から出射されるレーザ光の強度が大きくなるように前記レーザ光源を制御し、前記X線出射器から測定対象物にX線を照射して前記回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の減衰量の変化を補償するレーザ光強度制御手段と、
前記位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置を用いて、前記回折光受光器の中心から前記レーザ光の照射位置までの距離が大きくなるに従って、前記回折光受光器に形成されるレーザ光のスポット径が大きくなるように、前記レーザ光のフォーカス位置の変更により前記レーザ光のスポット径を制御し、前記X線出射器から測定対象物にX線を照射して前記回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の受光面積の変化を補償するレーザ光スポット制御手段と
を設けたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項2】
測定対象物に向けてX線を出射するX線出射器と、
中央に前記X線を通過させる貫通孔が形成されたテーブルと、
前記テーブルに固定されていて、前記測定対象物にて回折した前記X線の回折光を受光する受光面を有し、前記回折光の像である回折環を記録する回折光受光器と、
レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、前記レーザ光を前記回折光受光器の受光面に照射するとともに、前記レーザ光の照射によって前記回折光受光器から出射された光を受光して受光強度を表す受光信号を出力するレーザ検出装置と、
前記テーブルを、前記貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段と、
前記テーブルを、前記回折光受光器の受光面に平行な方向に、前記レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記移動手段によるテーブルの移動位置を検出する位置検出回路と、
前記回転手段及び前記移動手段を制御して前記回折環が記録された前記回折光受光器を回転及び移動させて、前記レーザ検出装置から出射されるレーザ光の前記回折光受光器における照射位置を前記回折光受光器の中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させる照射位置制御手段と、
前記照射位置制御手段により前記回折光受光器におけるレーザ光の照射位置を前記回折光受光器の中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させている状態で、複数の位置で前記レーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力し、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを前記複数の位置にそれぞれ対応させて順次記憶するとともに、前記位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置に基づいて前記回折光受光器の中心から前記複数の位置までの距離をそれぞれ計算して前記計算した距離を表すデータを半径値データとして前記複数の位置にそれぞれ対応させて順次記憶するデータ読取り手段とを備え、
前記X線出射器から測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線によって前記回折光受光器に記録された回折環を測定するX線回折測定装置において、
前記位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置を用いて、前記回折光受光器の中心から前記レーザ光の照射位置までの距離が大きくなるに従って、前記レーザ光源から出射されるレーザ光の強度が大きくなるように前記レーザ光源を制御し、前記X線出射器から測定対象物にX線を照射して前記回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の減衰量の変化を補償するとともに、前記X線出射器から測定対象物にX線を照射して前記回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の受光面積の変化を補償するレーザ光強度制御手段
を設けたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線回折測定装置において、さらに、
前記位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置を用いて、前記回折光受光器の中心から前記レーザ光の照射位置までの距離が大きくなるに従って、前記回折光受光器に照射されるレーザ光の半径方向の移動速度が速くなるように、前記移動手段のテーブルの移動速度の変更により前記レーザ光の半径方向の移動速度を制御し、前記X線出射器から測定対象物にX線を照射して前記回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の前記回折光受光器の半径方向の距離の変化を補償する半径方向移動速度制御手段
を設けたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のX線回折測定装置において、
前記半径値データを変換する半径値データ変換手段であって、回折X線の発生原点を中心として前記記憶された半径値データにより表された距離のうちで最小の距離を表す位置までの距離を半径とする球を想定し、前記複数の位置に対応した半径値データによって表された距離と前記最小の距離との差である各半径方向距離を、前記最小の距離を表す位置からの前記想定した球の球面上の距離に変換するとともに、前記変換した距離に前記最小の距離を加算した距離を半径値データとする半径値データ変換手段を
設けたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項5】
測定対象物に向けてX線を出射するX線出射器と、
中央に前記X線を通過させる貫通孔が形成されたテーブルと、
前記テーブルに固定されていて、前記測定対象物にて回折した前記X線の回折光を受光する受光面を有し、前記回折光の像である回折環を記録する回折光受光器と、
レーザ光を出射するレーザ光源及びレーザ光を受光するフォトディテクタを有し、前記レーザ光を前記回折光受光器の受光面に照射するとともに、前記レーザ光の照射によって前記回折光受光器から出射された光を受光して受光強度を表す受光信号を出力するレーザ検出装置と、
前記テーブルを、前記貫通孔の中心軸回りに回転させる回転手段と、
前記テーブルを、前記回折光受光器の受光面に平行な方向に、前記レーザ検出装置に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記移動手段によるテーブルの移動位置を検出する位置検出回路と、
前記回転手段及び前記移動手段を制御して前記回折環が記録された前記回折光受光器を回転及び移動させて、前記レーザ検出装置から出射されるレーザ光の前記回折光受光器における照射位置を前記回折光受光器の中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させる照射位置制御手段と、
前記照射位置制御手段により前記回折光受光器におけるレーザ光の照射位置を前記回折光受光器の中心周りに回転させるとともに半径方向に変化させている状態で、複数の位置で前記レーザ検出装置から出力される受光信号をそれぞれ入力し、前記入力した受光信号によって表された受光強度を表す受光強度データを前記複数の位置にそれぞれ対応させて順次記憶するとともに、前記位置検出回路によって検出されたテーブルの移動位置に基づいて前記回折光受光器の中心から前記複数の位置までの距離をそれぞれ計算して前記計算した距離を表すデータを半径値データとして前記複数の位置にそれぞれ対応させて順次記憶するデータ読取り手段とを備え、
前記X線出射器から測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線によって前記回折光受光器に記録された回折環を測定するX線回折測定装置において、
前記X線出射器から測定対象物にX線を照射して前記回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の減衰量の変化を補償するとともに、前記X線出射器から測定対象物にX線を照射して前記回折光受光器で回折X線を受光した際の受光位置による回折X線の受光面積の変化を補償するために、前記データ読取り手段によって記憶された受光強度データを、前記受光強度データに対応する前記半径値データにより表された距離に応じて変更する受光強度データ変更手段
を設けたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載のX線回折測定装置において、さらに、
前記半径値データを変換する半径値データ変換手段であって、回折X線の発生原点を中心として前記記憶された半径値データにより表された距離のうちで最小の距離を表す位置までの距離を半径とする球を想定し、前記複数の位置に対応した半径値データによって表された距離と前記最小の距離との差である各半径方向距離を、前記最小の距離を表す位置からの前記想定した球の球面上の距離に変換するとともに、前記変換した距離に前記最小の距離を加算した距離を半径値データとする半径値データ変更手段を
設けたことを特徴とするX線回折測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−15414(P2013−15414A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148545(P2011−148545)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000112004)パルステック工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】