説明

X線式厚さ測定装置

【課題】 X線管の第1グリッド電圧の制御代を正規化し、VI特性の器差を抑えると共に、寿命予測を標準化することを可能としたX線式厚さ測定装置を実現する。
【解決手段】 第1グリッド及び第2グリッドを有し、前記第1グリッド電圧により管電流が制御されるX線管から放出されるX線をシート部材に照射し、その透過減衰量に基づき前記シート部材の厚さを測定するX線式厚さ測定装置において、
前記第2グリッドに接続される可変電圧源を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1グリッド及び第2グリッドを有し、前記第1グリッド電圧により管電流が制御されるX線管から放出される放射線をシート部材に照射し、その透過減衰量に基づき前記シート部材の厚さ(坪量)を測定するX線式厚さ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は、厚さ(坪量)計の測定原理図である。坪量計は、放射線(β線)の透過吸収を利用した検出器である。この検出手法は、β線の質量吸収係数が、どのような物質に対してもほぼ一定の吸収係数を示すことから、シート部材一般(プラスチックフィルム、シート等)の面積重量を測定するのに適する。
【0003】
シート部材1の下部より、X線管2から放出される所定線量の放射線X1を照射し、このシート部材1を透過した放射線X2を電離箱3で測定する。電離箱3の測定値をR、被測定物がないときの電離箱3の測定値をR0とすると、R=R0・exp(-μρt)で表記される。ここで、tはシート部材1の厚さ〔m〕、ρは密度〔g/m〕、μは質量吸収係数(m/g)である。
【0004】
従って、μが既知であれば、透過放射線量を測定することにより、坪量tρ(g/m)が求められ、これより厚さtを測定することができる。シート部材1を所定速度でP方向に移動させ、坪量計のユニットをPと直交方向に走査することにより、シート部材1の厚さプロファイルデータを生成することができる。
【0005】
図6は、シート部材1の厚さtと透過放射線量Rの関係を示す特性図である。厚さt1,t2,t3が既知のシート部材に対する透過放射線量R1,R2,R3の交点C1,C2,C3を含む近似特性曲線Fを生成し、この特性曲線に基づいて未知の厚さtを測定する。
【0006】
図7は、従来のX線式厚さ測定装置の構成例を示す機能ブロック図である。図5の厚さ(坪量)計の測定原理図で説明した要素と同一構成要素は、同一符号で示す。X線管2は一般的な3極管構成であり、ヒータ21、カソード22、ターゲット23、管電流を制御する第1グリッド24、熱電子収束用の第2グリッド25を備えている。
【0007】
ヒータ21は、固定電圧源4に接続され、カソード22を加熱する。ターゲット23は高電圧源5に接続され、カソード22から放出されターゲット23に衝突する熱電子により、ターゲット23を透過して放射線X1が放出される。第2グリッド25には、固定電圧源6が接続されている。
【0008】
ターゲット23からカソード22に向けて流れる管電流Ixは、カソード22と基準電位間に接続された管電流検出抵抗7を流れて検出電圧Vxに変換され、バッファ8を介して比較器9に入力される。
【0009】
比較器9は、管電流Ixの検出電圧Vxと管電流設定電圧Viを比較し、偏差に基づいて第1グリッド24に第1グリッド電圧Vg1を供給する可変電圧源10をフィードバック制御する。このフィードバックループにより、管電流Ixが管電流設定電圧Viで決まる所定値に制御される。
【0010】
このように、第1グリッド電圧Vg1の操作により管電流Ixを定値制御し、X線管2から放出される放射線量X1を制御する手法は、特許文献1に開示されているように周知技術である。
【0011】
図8は、バラツキを持つX線管の寿命カーブである。標準寿命カーブを実線Fで示す。管電流を所定値に維持する第1グリッド電圧Vg1は、X線管の使用開始時T0の標準初期値より所定カーブで低下し、時間T1で制御代がゼロとなった時点で制御不能となり、寿命が尽きるVI特性を呈する。
【0012】
プラントにおけるプロセス制御システムにセンサとして使用されるX線式厚さ測定装置では、故障停止によるプラントへの波及が大きいので、X線管の寿命が尽きる所定時間前に交換メンテナンスをする必要がある。
【特許文献1】特開平5−188018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図8に示すように、X線管は個々にVI特性のバラツキにより寿命カーブにバラツキを有し、標準寿命カーブFに対してF´からF″の幅で所定の器差を持つ。従って、寿命はT1´からT1″のバラツキを持つ。また、VI特性のバラツキは測定精度に影響する。
【0014】
X線管のVI特性の器差を抑えることは構造的に難しいために、従来は第1グリッド電圧Vg1の制御開始電圧をX線管毎にシフトさせて器差を相殺する手法をとっていた。
【0015】
このため、第1グリッドの制御開始電圧が個体によって異なってしまう、このことは、第1グリッド電圧Vg1の制御代が個体により異なることに繋がり、寿命に器差を生み出す結果となり、寿命の標準化管理を妨げている。
【0016】
従って、X線管の交換メンテナンス時期は個々に異なることになり、メンテナンスが極めて煩雑となる。このため、安全マージンを取って所定使用時間で一斉に交換するメンテナンスを実行しており、まだ使用可能なX線管も交換する資源の無駄使いが生じている。
【0017】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、X線管の第1グリッド電圧の制御代を正規化し、VI特性の器差を抑えると共に、寿命予測を標準化することを可能としたX線式厚さ測定装置の実現を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)第1グリッド及び第2グリッドを有し、前記第1グリッド電圧により管電流が制御されるX線管から放出され放射X線をシート部材に照射し、その透過減衰量に基づき前記シート部材の厚さを測定するX線式厚さ測定装置において、
前記第2グリッドに接続される可変電圧源を備えることを特徴とするX線式厚さ測定装置。
【0019】
(2)前記管電流を所定値に維持した状態で、前記第1グリッド電圧が標準初期値となるように前記可変電圧源の電圧を設定することを特徴とする(1)に記載のX線式厚さ測定装置。
【0020】
(3)前記第1グリッド電圧を標準初期値に維持した状態で、前記X線管から放出される放射線量が標準値となるように前記可変電圧源の電圧を自動設定する、第2グリッド電圧設定手段を備えることを特徴とする(1)に記載のX線式厚さ測定装置。
【0021】
(4)前記第1グリッド電圧を標準初期値に維持した状態で、前記X線管から放出される放射線量が標準値となるように、前記可変電圧源の電圧を手動設定することを特徴とする(1)に記載のX線式厚さ測定装置。
【0022】
(5)前記第1グリッド電圧の利用中の時間遷移に基づいて、前記X線管の寿命予測を標準化することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のX線式厚さ測定装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明の構成によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)第2グリッドを可変電圧源に接続し、この電圧設定により、所定管電流時の第1グリッドの制御開始電圧を標準初期値にセットすることで、X線管の第1グリッド電圧Vg1の制御代を正規化してVI特性の器差を抑えることができる。
【0024】
(2)第1グリッド電圧の時間遷移に基づいて、X線管の寿命予測を標準化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は、本発明を適用したX線式厚さ測定装置の一実施形態を示す機能ブロック図である。図7で説明した従来装置と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0026】
従来構成に対する本発明の特徴部は、第2グリッド25に接続された可変電圧源100を設けた構成にある。第2グリッド25は、熱電子収束機能を備えるものであり、固定電圧源に接続されている。本発明は、この電圧の設定によりX線管のVI特性を所定範囲で調整可能な点に着目している。
【0027】
図1の実施形態は、最もシンプルな調整手法を示しており、オペレータ200による手動操作により可変電圧源100の電圧を設定する。可変電圧源100の電圧設定に先立ち、管電流Ixが所定の標準値となるように管電流設定電圧Viをセットする。この状態での第1グリッド電圧Vg1は、X線管によりバラツキを持つ。
【0028】
オペレータ200は、適当な電圧測定手段で第1グリッド電圧Vg1をチェックしながら、この電圧Vg1が標準制御開始電圧になるように可変電圧源100手動操作で設定する簡単な操作で調整作業を終了する。
【0029】
図2は、本発明による器差調整の概念を示すX線管の寿命特性図である。標準寿命カーブFに対してバラツキを有する寿命カーブF´、F″を持つX線管の第2グリッド電圧Vg2の設定を調整することにより、第1グリッド電圧Vg1の制御開始電圧を標準初期値に合わせる。
【0030】
これにより、F´、F″のVI特性を標準特性のFに合わせることができ、X線管の第1グリッド電圧Vg1の制御代を正規化してVI特性の器差を抑え、寿命予測の標準化が可能となる。
【0031】
図3は、本発明を適用したX線式厚さ測定装置の他の実施形態の要部構成を示す機能ブロック図である。図1の実施形態では、管電流を所定値に制御することでX線管から放出される放射線も所定値に制御されていることを前提としている。
【0032】
図3の実施形態では、第1グリッド電圧Vg1を標準初期値に維持した状態で、X線管2から放出される放射線量X1を電離箱300で測定し、その測定値Rが標準値となるように可変電圧源100の電圧を自動設定する、第2グリッド電圧設定手段400を備える。
【0033】
第2グリッド電圧設定手段400は、電離箱300の測定値Rを電圧値Vrに変換するR/V変換器401、電圧値Vrと標準放射線量設定値Vsを比較し、その偏差に基づいて可変電圧源100の電圧をフィードバック制御する比較器402よりなる。
【0034】
図4は、本発明を適用したX線式厚さ測定装置の更に他の実施形態の要部構成を示す機能ブロック図である。この実施形態では、第1グリッド電圧Vg1を標準初期値に維持した状態で、X線管2から放出される放射線量X1を電離箱300で測定し、R/V変換器401の電圧値Vrを表示手段403で表示する。
【0035】
表示された電圧値Vrをオペレータ200が監視し、この電圧値Vrが標準値Vsとなるように第2グリッド電圧Vg2を与える可変電圧源5の電圧を手動操作により設定する。
【0036】
本発明が適用されるX線管の形態は、第2グリッドを備えるX線管であれば、透過型、反射型、開放型、密閉型の何れの形態であっても構わない。また、放射線の放出形態は、ターゲットを透過して放射線を発生するX線管、及びターゲットから反射して放射線を発生するX線管の何れでも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を適用したX線式厚さ測定装置の一実施形態を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明による器差調整の概念を示すX線管の寿命カーブである。
【図3】本発明を適用したX線式厚さ測定装置の他の実施形態の要部構成を示す機能ブロック図である。
【図4】本発明を適用したX線式厚さ測定装置の更に他の実施形態の要部構成を示す機能ブロック図である。
【図5】厚さ(坪量)計の測定原理図である。
【図6】シート部材の厚さと透過放射線量の関係を示す特性図である。
【図7】従来のX線式厚さ測定装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【図8】バラツキを持つX線管の寿命カーブである。
【符号の説明】
【0038】
1 シート部材
2 X線管
21 ヒータ
22 カソード
23 ターゲット
24 第1グリッド
25 第2グリッド
3 電離箱
4 ヒータ電源
5 ターゲット電源
7 管電流検出抵抗
8 バッファ
9 比較器
10 可変電圧源
100 可変電圧源
200 オペレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1グリッド及び第2グリッドを有し、前記第1グリッド電圧により管電流が制御されるX線管から放出される放射線をシート部材に照射し、その透過減衰量に基づき前記シート部材の厚さを測定するX線式厚さ測定装置において、
前記第2グリッドに接続される可変電圧源を備えることを特徴とするX線式厚さ測定装置。
【請求項2】
前記管電流を所定値に維持した状態で、前記第1グリッド電圧が標準初期値となるように前記可変電圧源の電圧を設定することを特徴とする請求項1に記載のX線式厚さ測定装置。
【請求項3】
前記第1グリッド電圧を標準初期値に維持した状態で、前記X線管から放出される放射線量が標準値となるように前記可変電圧源の電圧を自動設定する、第2グリッド電圧設定手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のX線式厚さ測定装置。
【請求項4】
前記第1グリッド電圧を標準初期値に維持した状態で、前記X線管から放出される放射線量が標準値となるように、前記可変電圧源の電圧を手動設定することを特徴とする請求項1に記載のX線式厚さ測定装置。
【請求項5】
前記第1グリッド電圧の利用中の時間遷移に基づいて、前記X線管の寿命予測を標準化することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のX線式厚さ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−43991(P2010−43991A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209030(P2008−209030)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】